説明

摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法

【課題】 高い接合速度でも、接合部の空洞欠陥や溝状欠陥の発生防止が可能、浅いアンダーカットの生成が可能、汎用の数値制御加工機を活用して構造と制御装置が簡単で、安価な摩擦攪拌接合装置の構築が可能な摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法の提供を課題とする。
【解決手段】 裏当金3を含む被接合部材の支持テーブル25の支持面25usが、回転ツール7の回転軸7raに対して垂直な面と、回転ツール7の前進方向の前方が下がるような予め決められた所定の傾斜角θをなすように、傾斜・固定自在に設けたこと、さらには、回転ツール7の下方への押圧力F等による裏当金の上面の沈下量が0〜0.1mmの範囲でできるだけ小さくなるように、前記支持テーブル25を高い剛性の支持手段で支持をすることを解決手段とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法に関し、特に接合部上部に塑性流動化(可塑化)固相の量の不足に起因して発生し、接合強度を低下させる溝状欠陥、トンネル状空洞欠陥や、接合部上端面外側のバリ欠陥等の表面欠陥を生じること無く摩擦攪拌接合が可能で、しかも、汎用の数値制御加工機を利用して安価に構築することが可能な摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】特表平9−508073号公報には、下記のような摩擦攪拌接合が開示されている。すなわち、片方の被接合部材100aの突合わせ面106に沿った側断面図である図4に示すように、曲率半径Rの凹面の底面103を有する半径rs の回転円筒体102と、前記凹面の底面103の中心から前記被接合部材100aの厚みt (mm) に略等しい長さだけ下方へ突出した攪拌ピン104とからなる回転ツール101を、矢印rの方向に回転させつつ、前記突合わせ面106に沿って矢印wの方向に前進速度(以後接合速度という)w(mm/min)で前進させながら、被接合部材100aと図示せぬ100bを摩擦攪拌接合する。この際、前記回転円筒体102と攪拌ピン104の中心軸AXを、攪拌ピン104の先端中心点Cbをとおる垂直線Lvに対して、前記回転ツール101の前進方向(矢印w)とは反対側に傾斜角θをなすように傾斜させて、前記回転ツール101を前記中心軸AXと同じ矢印Fで示す方向に押圧力F(N) で押圧しながら、摩擦攪拌接合する方法である。なお、図4R>4のhs (mm)は接合された被接合部材の上面から中に入る回転ツールの肩105の後端の深さ、即ち図6(a)に示すアンダーカットducの深さを示している。なお、上記公報には、回転プローブ101を傾斜させる目的・作用・効果や、前記傾斜角θの決定の仕方や具体的な数値範囲は開示されていない。
【0003】また、上記公報には、図5に示すように、前記所定限度以上の深さhs (mm)のアンダーカットducや図6(b)に示す溝状欠陥dg 等の表面欠陥のない滑らかな表面を有し、かつ、図6(c)に示すトンネル状空洞欠陥dtvのない、健全な接合を得るための、回転ツール101のそれぞれの回転速度における回転ツールに加えられた下向きの押圧圧力F/π・rs2(N/mm2)と実際の接合速度w(mm/min)との間の最適な関係を上限曲線ηmax と下限曲線ηmin とで概略的に開示している。さらに、上記のような最適な「押圧圧力/接合速度」比の実際の値は幾つかの要因、例えば、被接合部材の材料(アルミニウム合金の種類等)、前記回転ツールの肩の形状等に左右されるとしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記図4、図5に示された特表平9−508073号公報に開示の技術について、発明者等の研究によると、回転ツール101の前記傾斜角θと、前記回転ツール101の矢印wで示す前進方向に対する回転ツールの肩105の後端の被接合部材100a、100bの上面からの深さ(回転ツール後端の肩の押込深さ)hsは、接合部上端部の溝状欠陥dg やトンネル状空洞欠陥dtv、接合部表面の外側のバリ欠陥や接合部上端面が母材部表面より窪んで溝状になる所謂アンダーカットducの程度に大きな影響を持つことが分かり、これらの欠陥の発生を防止するための前記傾斜角θと回転ツール後端の肩105の押込深さhs(mm)の適切な決定方法の提供が課題であった。
【0005】また、水平に置かれた被接合部材に対して、前記のような必ずしも一定値に固定できない傾斜角θになるように、回転ツール101の前進方向即ちx軸と垂直な方向即ちz軸を含む面内で、前記回転ツール101をチャックを介して把持・回転駆動する主軸を所定の範囲内で回動可能な構造・制御装置を有する専用の摩擦攪拌接合装置を設けることは、機械的構造や制御装置が複雑で高価なものになり、問題があった。
【0006】また、前記図5に概略的に示される最適な「加圧圧力/接合速度」の実際的な値を決めるに当たっては、前記の回転ツール101の下方への押圧力F(N)、又は押圧力F(N)と加圧ローラによる加圧力P(N)との二つの下方への加圧力と、裏当金部を含む被接合部材の支持テーブルの曲げ剛性との関係によって決まる接合中の前記支持テーブル上面の下方への沈下量(mm)、換言すれば被接合部材の下方への沈下量(mm)と、それに伴う前記回転ツール101の降下量(mm)との間の関係によって決まる、接合中の回転ツールの肩105の被接合部材100a、100bの上面からの実際の押込量hsa(mm)の影響を無視することはできない。
【0007】即ち、実際の摩擦攪拌接合に際しては、前記図5の上限曲線ηmax と下限曲線ηmin とで挟まれた範囲に示すような接合欠陥のない健全な接合部を、できるだけ高い接合速度で得るために、被接合部材の支持テーブルの曲げ剛性の大きさ、言い換えれば、前記の回転ツール101の下方への押圧力F(N) 又は該押圧力F(N) と前記加圧ローラの加圧力F8(N)との和に対する特に裏当金部を主体とする被接合部材の支持テーブルの支持面の許容最大沈下量Sta (mm) を決め、この許容最大沈下量Sta (mm) をクリヤーするための支持テーブルの構築を、前記回転ツール1の肩5の直径、回転ツール1の回転速度、前記接合速度w(mm/min) やそれに対応した前記回転ツールの肩5の押込深さhs(mm) の目標量を考慮しつつ行い、また、そのような条件下で、摩擦攪拌接合を行うことが要求される。即ち、実際の摩擦攪拌接合装置の構築や、それを用いた摩擦攪拌接合方法の実施に際して、上記のような裏当金部を含む支持テーブルの支持面の沈下量St(mm) とそれに関連する要因との観点から何らかの対応策を講じることが必要であった。
【0008】本発明は、上記の従来技術の問題点を解消し、(1)接合強度に影響の大きい接合部上部の溝状欠陥やトンネル状空洞欠陥等の発生がなく、滑らかな表面を有する接合部を、できるだけ高速の接合速度で実現が可能で、(2)汎用の数値制御加工機を活用して、機械的構造や制御装置が簡単で、安価に構築することができる、摩擦攪拌接合装置及びこれを用いた摩擦攪拌接合方法の提供を課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の摩擦攪拌接合装置は、上記の課題を解決するために、第1の手段として、凹面の底面と該底面中心から下方に突出する攪拌ピンを備えた回転ツールと、該回転ツールを回転駆動する回転駆動手段と、前記回転ツールとともに回転する攪拌ピンを裏面を裏当金で支持された被接合部材の突合わせ部の中に押し込み、前記回転ツールを回転軸方向の所定の押圧力で前記被接合部材の上端部に押し付ける押圧手段と、前記回転ツールを前記突合わせ部に沿って移動させる移動駆動手段とからなる摩擦攪拌接合装置、又は、該摩擦攪拌接合装置に前記回転ツールの前進方向側の回転ツール近傍の前記突合わせ部を中心とした両被接合部材端部上面を加圧する加圧ロ−ラを付加した摩擦攪拌接合装置を、前記被接合部材の前記裏当金を含む支持テーブルの支持面が、前記回転ツールの回転軸に対して垂直な面と、回転ツールの前進方向の前方が下がるように予め決められた所定の傾斜角をなすように傾斜・固定自在に設けるように、基本的に構成した。
【0010】上記第1の手段を採用した本発明の摩擦攪拌接合装置においては、第2の手段として、前記回転ツールを、トップビームの長手方向に平行な水平軸即ちX軸と垂直軸即ちZ軸の方向に主軸の移動制御が可能で、前記X軸及びZ軸の両方に直交するY軸方向に移動・固定自在なワーク支持台を備えた汎用の数値制御加工機の主軸ユニットの下端の工具チャックに把持せしめて構成した。
【0011】上記第2の手段を採用した本発明の摩擦攪拌接合装置においては、第3の手段として、前記被接合部材の支持テーブルが、前記汎用の数値制御加工機のワーク支持台に搭載、固定されたものであるよう構成することが好ましい。
【0012】上記第3の手段を採用した本発明の摩擦攪拌接合装置においては、第4の手段として、前記回転ツールの回転軸方向の押圧力と前記加圧ロ−ラによる加圧力の和が、100〜1000kgの範囲にある場合に、前記裏当金部を含む支持テーブルの支持面の沈下量が、前記回転ツールの直下の位置において0〜0.1mmのできるだけ小さな値となるように構成することが望ましい。
【0013】本発明の摩擦攪拌接合方法は、上記の課題を解決するために、第1の手段として、凹面の底面と該底面中心から下方に突出する攪拌ピンを備えた回転ツールの、前記攪拌ピンを回転させながら裏面を裏当金で支持された被接合部材の突合わせ部の中に押し込み、前記回転ツールを回転軸方向の所定の押圧力で前記被接合部材の上端部に押し付け、前記回転ツールを前記突合わせ部に沿って移動させることによって、前記被接合部材を摩擦熱により固相接合する摩擦攪拌接合方法を、もしくは、上記摩擦攪拌接合方法において、さらに、前記回転ツールの前進方向側の回転ツール近傍の前記突合わせ部を中心とした両被接合部材端部上面を加圧ローラにより加圧しながら摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合方法を、前記回転ツールの凹面の底面の下端稜線(以後回転ツ−ルの肩と称する)の直径と接合中の回転ツールの1回転当たりの前進速度(以後、接合速度と称する)とに応じて、前記裏当金を含む被接合部材の支持テーブルの支持面を、前記回転ツールの回転軸に対して垂直な面と、回転ツールの前進方向の前方が下がるように予め決められた所定の傾斜角をなすように傾斜させた状態で摩擦攪拌接合するように構成した。
【0014】上記本発明の摩擦攪拌接合方法は、第2の手段として、前記回転ツールの押圧力と前記加圧ローラよる加圧力の和に起因する裏当金部を含む支持テーブルの支持面の沈下量が、0〜0.1mmのできるだけ小さな値となる条件下で行うことが望ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】請求項1〜請求項3に係る本発明の摩擦攪拌接合装置の実施の形態を、添付の図面を参照しながら、順次以下に説明する。
【0016】請求項1に係る本発明の摩擦攪拌接合装置の第1の実施の形態は、一部拡大正面図である図1(a){(b)のB−B線矢視図}、(a)のA−A線矢視図である(b)に示すように、凹面の底面7bsと該底面中心から下方に突出する攪拌ピン7spを備えた回転ツール7と、該回転ツール7を回転駆動する図示せぬ回転駆動手段と、前記回転ツール7とともに回転する攪拌ピン7spを裏面を裏当金3で支持された被接合部材1a、1bの各々の面板1ap、1bpの突合わせ部2の中に押し込み、前記回転ツール7を回転軸方向の所定の押圧力Fで前記被接合部材1a、1bの各々の面板1ap、1bpの上端部に押し付ける図示せぬ押圧手段と、前記回転ツール7を前記突合わせ部2に沿って移動させる図示せぬ移動駆動手段とからなる摩擦攪拌接合装置FSW−1を、前記被接合部材1a、1b の各々の面板1ap、1bpの前記裏当金3を含む支持テーブルの支持面25usが、前記回転ツール7の回転軸7raに対して垂直な面と、回転ツール7の前進方向(矢印イの方向)の前方が下がるように予め決めらた所定の傾斜角θ(度)をなすように傾斜・固定自在に設けて、基本的に構成される。さらに、具体的に説明すれば、前記裏当金3を含む支持テーブル25の支持面25usが、換言すれば、被接合部材1a、1bの各々の面板1ap、1bpの上面が前記回転ツール7の回転軸7raに対して垂直な面(水平面)HSと、回転ツール7の前進方向(矢印イの方向)の前方が下がるような、回転ツール7の底面7bsの下端部(以後回転ツールの肩と称する)7sの直径に応じて予め決められる所定の傾斜角θをなすように傾動・固定自在に設けられて、基本的に構成されている。
【0017】上記の実施の形態は、さらに以下のような具体的構成を有する。即ち、前記支持テーブル25は水平な下面25bsに対して、裏当金の上面3usを含む被接合部材の支持面25usが、前記回転ツール7の肩7s の直径に対応して変化する傾斜角θの平均的な数値θavをなすように、予め形成されており、その下面25bsのワーク支持台34の上面の長手方向端部からはみ出した前端部と後端部を、基礎FD上面に底部フランジを固定された支柱25spと、該支柱25spの上端に底端のフランジを固定されたスクリュウジャッキ25sjと、該スクリュウジャッキ25sjの上端のフランジの上面に水平回転自在に取り付けられた水平ピン孔を有する連結板25cpを、前記支持テーブル25に固定され水平ピン孔を有する一対の連結部材25tpで挟まれ、前記連結板25cpと前記一対の連結部材25tpのピン孔を貫通する連結ピン25pnとにより、両長手方向端部の裏当金3の直下を含む幅方向の3ヶ所以上を支持されている。
【0018】請求項1に係る本発明の第2の実施の形態の摩擦攪拌接合装置FSW−2は、一部拡大正面図である図2に示すように、上記の第1の実施の形態における摩擦攪拌接合装置FSW−1に前記回転ツール7の前進方向側(矢印イ側)の回転ツール7近傍の前記突合わせ部2を中心とした両被接合部材1a、1bの各々の面板1ap、図示せぬ1bpの端部上面を加圧する加圧ロ−ラ8を付加した点が異なるだけであって、その他の構成は上記の第1の実施の形態の構成と同じである。
【0019】上記のように構成された請求項1に係る本発明の第1と第2の実施の形態においては、長手方向両端部のスクリュウジャッキ25sj、25sjで、前記支持テーブル25の底面25bsの上下方向位置を別個に調整することにより、前記傾斜角θを任意に設定できる。なお、スクリュウジャッキ25sj、25sjとして、バックラッシュの無いもの、又は、ダブルナットと同じような原理でバックラッシュによる降下を防止可能なものの採用が望ましい。仮に多少のバックラッシュがある場合は、バックラッシュによる摩擦攪拌接合中の支持テーブルの降下・沈下を防止するために、スクリュウジャッキ25sj、25sjの各々のスクリュウをを目標位置より少し高い位置まで上昇させておいたのちに、目標位置まで下降させるようにして前記角度θ(度)を調整してもよい。さらに、上記のような傾斜角θの調整の結果、支持テーブル25の下面25bsとワーク支持台34の上面に隙間が生じた場合は、予め準備しておいた平板や長手方向の厚みの異なる傾斜板をこの隙間に挟むことにより、支持テーブル25の撓みを防止すればよい。
【0020】なお、傾斜角θは後述するように、回転ツールの肩の直径や接合速度に対応して、多少の許容幅があるので、必ずしも、上記のようにスクリュウジャッキ等を使用して、連続的に傾斜角θを設定できるようにする必要はなく、使用頻度の高い傾斜角θを含めて、段階的に傾斜角θを変化させた支持テーブル25を数種類用意しておき、必要に応じて、適切な傾斜角θを持つ支持テーブル25を選定使用してもよい。ただし、この場合も、ワーク支持台34から長手方向にはみ出した支持テーブル25の下面25bsは、前述のとおり流体シリンダー等、回転ツール7の回転軸7raの方向の下方への押圧力と加圧ローラ8の加圧力等により降下・沈下量の大きいもので支持することなく、前記図1〜図3に示すような剛性の大きな支持ポスト25spのみか、これとバックラッシュ防止手段を備えたスクリュウジャッキ25sjとの併用により支持することが必要である。
【0021】上記の本発明の実施の形態の作用・効果は、後述する請求項6に係る本発明の摩擦攪拌接合方法の実施の形態の構成と作用の説明とともに行い、ここでは省略する。
【0022】請求項2係る本発明の摩擦攪拌接合装置は、上記の構成に加えて、正面図である図3(a)、(a)のA−A線矢視側面図である図3(b)に示されるように、前記回転プローブ7を、x軸及びz軸方向に主軸ユニット5の移動が可能で、工機NCMUの主軸ユニット5の下端の工具チャック6に把持せしめて、基本的に構成される。
【0023】請求項3に係る本発明の摩擦攪拌接合装置は、上記の構成に加えて、正面図である図3(a)、(a)のA−A線矢視側面図である図3(b)に示されるように、前記の被接合部材の支持テーブル25が、前記汎用の数値制御加工機NCMUのワーク支持台34に搭載・固定されて、基本的に構成されている。
【0024】上記の実施の形態は、さらに以下のような具体的な構成を有する。即ち、汎用の数値制御加工機NCMUは、ボトムビーム43により下部を連結され、トップビーム45によって上部を連結された左右一対のコラム44、44からなるフレーム46の、上記トップビーム45の前面に設けられ、水平方向に延びる上下方向一対のx軸レール42xr、42xrに案内されて、x軸方向に往復移動する横行ユニット42と、該横行ユニット42の前面に上下方向に延びるように設けられた左右一対のz軸レール41zr、41zrに案内されて、上下方向に往復移動する昇降ユニット41と、該昇降ユニット41の側面に設けられ工具(回転ツール7)を回転させる前記主軸ユニット5と、前記x、z両軸に直交するy軸方向に延びる左右一対のy軸レール34yr、34yrに案内されて、y軸方向に進退移動・固定自在な前記ワーク支持台34とを備えて構成される。なお、前記の被接合部材の支持テーブル25が、前記汎用の数値制御加工機NCMUのワーク支持台34に搭載されて支持・固定される構成は、前記請求項1に係る本発明の摩擦攪拌接合装置の実施の形態における構成と同じであるので、重複説明を省略する。
【0025】上記のように構成された本発明の実施の形態によれば、主軸ユニットがx軸とz軸を含む面内で回動可能に形成され、前記回転ツール7の回転軸が前記傾斜角θに調節可能なように構成された専用の自動摩擦攪拌接合装置に比べて、機械構造や制御装置が簡単で、安価な汎用の数値制御加工機を利用して、安価な自動摩擦攪拌接合装置の構築が可能である。即ち、汎用の数値制御加工機の数値制御装置を改造又は交換する必要がなく、また、被接合部材の支持テーブル25と、該支持テーブル25がワーク支持台34の長手方向からはみ出す部分の下面25bsを、前記傾斜角θの調節が可能なように支持する支持ポスト25spとスクリュウジャッキ25sj等からなる剛性の高い支持構造を追加するのみで、あるいは、使用頻度の高い傾斜角θを有する支持テーブル25の他に、傾斜角θが段階的に異なる数種類の支持テーブル25と、該支持テーブル25の下面の一部を支持する剛性の高い支持ポスト25spとを追加するのみでよく、その結果、機械的構造が簡単で、安価な自動摩擦攪拌接合装置を構築するができる。
【0026】請求項4に係る本発明の摩擦攪拌接合装置の実施の形態では、図1において、主軸AXの軸方向に下向きに作用する押圧力F(N) と被接合部材1a、1bの突合わせ部2の上面部の加圧ローラ8による加圧力P8(N)との和が、100〜1000kgf の範囲にある場合に、前記回転プローブ7の直下の位置における裏当金3の上面3us(支持テーブル25の上面25us)の沈下量が0〜0.1mmの範囲のできるだけ小さな値であるように構成される。
【0027】上記の数値限定理由については、後の請求項6に係る本発明の摩擦攪拌接合方法の実施の形態の説明において述べることとする。
【0028】なお、上記のような要件は、図3に示したように、摩擦攪拌接合装置として汎用の数値制御加工機NCMUを用い、そのワーク支持台34をそのまま摩擦攪拌接合装置用の被接合部材支持テーブル25として利用する場合や、前記ワーク支持台34の長さが、摩擦攪拌接合装置用の被接合部材支持テーブル25としては短い場合で、前記ワーク支持台34の上に載置される被接合部材支持テーブル25の下面25bsの長さ方向の一部が前記ワーク支持台の長さ方向両端よりはみ出す場合に、特に考慮が必要な要件である。因みに前記被接合部材支持テーブルの前記加工物支持テーブルよりのはみ出し部を、油圧シリンダー等で支持すると、沈下量が0.3mm以上に達し問題がある。従って、図3に示すように、前記ワーク支持台34よりのはみ出し部をコンクリート製の基礎面又は床面から、剛性の大きな支柱25spか、該支柱25spとバックラッシュ防止手段の付いたスクリュウジャッキ25sj等で、剛的に支持する必要がある。
【0029】次に、請求項5、請求項6に係る本発明の摩擦攪拌接合方法の実施の形態を、前記の図面を含めた添付の図面を参照して、また、具体的な実施例を適宜交えつつ以下に説明する。
【0030】まず、請求項5に係る本発明の摩擦攪拌接合方法の実施の形態として、前記図1の裏当金3を含む被接合部材1a、1bの支持テーブル25の支持面25usが、前記回転ツール7の回転軸7raに対して垂直な面(水平面)HSと、回転ツール7の前進方向(矢印イの方向)の前方が下がるような傾斜角θを、回転ツールの肩7sの直径D7s(mm)と回転ツール1回転当たりの接合速度Vwr(mm/回転) とに応じて予め決める理由について、以下に説明する。
【0031】発明者らの研究によると、前記傾斜角θを0度とした場合には、前記回転ツーの前端部の肩の押込深さと後端部の肩の押込深さとをいずれも、0.2〜0.5mmと深くしても、あたかも船首が水を押し退けて進むように、回転ツールの前進方向の肩から塑性流動化(可塑化)した固相が回転ツールの外側の被接合部材の上面に溢れでてしまい、その結果攪拌ピンを含む回転ツール下端部の接合方向への移動後に、それらが占めていた空間を埋めるべき塑性流動化(可塑化)固相の量に不足が生じ、その結果、接合部上部に溝状欠陥やトンネル状空洞欠陥等の重大な接合部欠陥が発生する。このような重大な接合部欠陥の発生を防止するためには、以下のような点を考慮して、適正な傾斜角θだけ回転ツールを傾けてやればよい。
【0032】(1)回転ツールの肩の直径D7s(mm)が小さいと、傾斜角θ(度)を大きくしても回転ツールの後端の肩の押込み量hs(mm) があまり大きくなることはなく、押込み量過大による接合部上端面両側のバリ欠陥の発生を防止でき、傾斜角θ(度)を大きくすることによって、前記のような接合部上部の溝状欠陥やトンネル状空洞欠陥等の発生を防止しやすい。
(2)回転ツールの肩の直径D7s(mm)が大きいと、傾斜角θ(度)を大きくし過ぎると回転ツールの後端の肩の押込み量hs(mm) が大きくなり、押込み量過大によりバリ欠陥が発生がし易い。そして、回転ツールの肩の直径D7s(mm)が大きいと、回転ツールの肩7sで内部に囲みこまれる塑性流動化(可塑化)固相量が多くなり、傾斜角θ(度)をあまり大きくしなくても攪拌ピンを含む回転ツール下端部の接合方向への移動後の空間充填用の固相量が不足しにくく、溝状欠陥やトンネル状空洞欠陥等が発生しにくい。
(3)接合速度Vwr(mm/回転) が大きいと塑性流動化(可塑化)固相を回転ツールの肩の外側へ排出しようとする接線方向のエネルギーが大きくなり、傾斜角θを相対的に大きくしないと、溝状欠陥やトンネル状空洞欠陥等の発生を防止できない。
(4)接合速度Vwr(mm/回転) が小さいと塑性流動化(可塑化)固相を回転ツールの肩の外側へ排出しようとする接線方向のエネルギーが小さくなり、傾斜角θを相対的に小さくしても、溝状欠陥やトンネル状空洞欠陥等が発生しにくい。
【0033】請求項5に係る本発明の実施の形態として、図2において、主軸AXM の軸方向に下向きに作用する押圧力F(N) と被接合部材1a、1bの突合わせ部2の上面部の加圧ローラ8による加圧力F8(N)との和が、100〜1000kgf の範囲にある場合において、裏当金に厚さ5mmの銅板を、被接合部材として板厚t=5mmの「JIS H 4100」に規定されたアルミニウム合金押出形材5052−34を用い、その他は下記表1に記載した条件で、摩擦攪拌接合実験を行い、裏当金の上面の沈下量が接合ビードの上部の溝状欠陥やトンネル状欠陥の発生に及ぼす影響を調査した。調査結果を下記表1に示した。
【0034】
【表1】


【0035】表1から、何れの摩擦攪拌接合条件においても、裏当金の上面の沈下量が0〜0.1mmの場合には、接合部上部の溝状欠陥やトンネル状欠陥の発生は認められなかったが、沈下量が0.2mmの場合には溝状欠陥やトンネル状欠陥の発生が認められたことが分かる。
【0036】以上、本発明の摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法の実施の形態を示したが、本発明は、上記の実施の形態に限られるものではなく、その構成の要旨を逸脱しない範囲内で、他の実施の形態をも含むものであることは論を待たない。
【0037】
【発明の効果】本発明の摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)回転ツールの回転軸が被接合部材表面と垂直な線となす傾斜角や回転ツールの前進方向後端の肩の押込深さに起因するか、又は、回転ツールの下方への押圧力や加圧ローラの加圧力等による裏当金部を含む被接合部材の指示テーブルの支持面の過大な沈下に起因して、回転ツールの肩の押込量が不足し、接合強度に影響の大きい接合部上部の溝状欠陥やトンネル状空洞欠陥が発生することもなく、また、回転ツールの肩の押込量の過大に起因する所定の限度以上に深いアンダーカット等の発生がなく、滑らかな表面を有する良好な接合部を、できるだけ高い接合速度で実現が可能である。
(2)汎用の数値制御加工機を活用して、機械構造や制御装置が簡単で、安価な自動摩擦攪拌接合装置を、構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 請求項1〜請求項3に係る本発明の第1の実施の形態の一部の構成を示し、(a) は(b)のB−B線矢視拡大正面図、(b)は(a)のA−A線矢視図である。
【図2】 請求項1〜請求項3に係る本発明の第2の実施の形態の一部拡大正面図である。
【図3】 請求項1〜請求項3に係る本発明の実施の形態の構成を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線矢視側面図である。
【図4】 特表平9−508073号公報に開示の技術の、概略の原理的な特徴を示す側断面図である。
【図5】 特表平9−508073号公報に開示の技術の、回転ツールに加えられた下向きの押圧圧力F/π・rs2(N/mm2)と実際の接合速度ω(mm/min)との間の健全な接合を得るための最適な関係を概略的に示すグラフである。
【図6】 接合部上部の欠陥の各々を示す斜視図であって、(a)はアンダーカットducを、(b)は溝状欠陥dg を、(c)はトンネル状空洞欠陥dtvを示す。
【符号の説明】
1a、1b 被接合部材
1ap、1bp 面板
2 突合わせ部
2b 接合部
3 裏当金
3us 裏当金上面
5 主軸ユニット
6 工具チャック
7 回転ツール
7bs 凹面の底面
7sp 攪拌ピン
7s 回転ツールの肩
7ra 回転ツール回転軸
8 加圧ロ−ラ
25 支持テーブル
25sp 支柱
25sj スクリュウジャッキ
25us 支持テーブル支持面
34 ワーク支持台
41 昇降ユニット
42 横行ユニット
43 ボトムビーム
44 コラム
45 トップビーム
46 フレーム
AXM 主軸
F 回転ツール押圧力
F8 ロ−ラ加圧力
HS 水平面
HL 水平線
FD 基礎
NCMU 数値制御加工機
duc アンダーカット
dg 溝状欠陥
dtv トンネル状空洞欠陥
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】 凹面の底面と該底面中心から下方に突出する攪拌ピンを備えた回転ツールと、該回転ツールを回転駆動する回転駆動手段と、前記回転ツールとともに回転する攪拌ピンを裏面を裏当金で支持された被接合部材の突合わせ部の中に押し込み、前記回転ツールを回転軸方向の所定の押圧力で前記被接合部材の上端部に押し付ける押圧手段と、前記回転ツールを前記突合わせ部に沿って移動させる移動駆動手段とからなる摩擦攪拌接合装置、又は、該摩擦攪拌接合装置に前記回転ツールの前進方向側の回転ツール近傍の前記突合わせ部を中心とした両被接合部材端部上面を加圧する加圧ロ−ラを付加した摩擦攪拌接合装置であって、前記被接合部材の前記裏当金を含む支持テーブルの支持面が、前記回転ツールの回転軸に対して垂直な面と、回転ツールの前進方向の前方が下がるように予め決められた所定の傾斜角をなすように傾斜・固定自在に設けられたことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】 前記回転ツールを、トップビームの長手方向に平行な水平軸即ちX軸と垂直軸即ちZ軸の方向に主軸の移動制御が可能で、前記X軸及びZ軸の両方に直交するY軸方向に移動・固定自在なワーク支持台を備えた汎用の数値制御加工機の主軸ユニットの下端の工具チャックに把持せしめたものである請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】 前記被接合部材の支持テーブルが、前記汎用の数値制御加工機のワーク支持台に搭載、固定されたものである請求項2に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】 前記回転ツールの回転軸方向の押圧力と前記加圧ロ−ラによる加圧力の和が、100〜1000kgの範囲にある場合に、前記裏当金部を含む支持テーブルの支持面の沈下量が、前記回転ツールの直下の位置において0〜0.1mmである請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項5】 凹面の底面と該底面中心から下方に突出する攪拌ピンを備えた回転ツールの、前記攪拌ピンを回転させながら裏面を裏当金で支持された被接合部材の突合わせ部の中に押し込み、前記回転ツールを回転軸方向の所定の押圧力で前記被接合部材の上端部に押し付け、前記回転ツールを前記突合わせ部に沿って移動させることによって、前記被接合部材を摩擦熱により固相接合する摩擦攪拌接合方法において、もしくは、上記摩擦攪拌接合方法において、さらに、前記回転ツールの前進方向側の回転ツール近傍の前記突合わせ部を中心とした両被接合部材端部上面を加圧ローラにより加圧しながら摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合方法であって、前記回転ツールの凹面の底面の下端稜線(以後回転ツ−ルの肩と称する)の直径と接合中の回転ツールの1回転当たりの前進速度(以後、接合速度と称する)とに応じて、前記裏当金を含む被接合部材の支持テーブルの支持面を、前記回転ツールの回転軸に対して垂直な面と、回転ツールの前進方向の前方が下がるように予め決められた所定の傾斜角をなすように傾斜させた状態で摩擦攪拌接合することを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】 前記回転ツールの押圧力と前記加圧ローラよる加圧力との和に起因する前記裏当金部を含む支持テーブルの支持面の沈下量が、0〜0.1mmである請求項5に記載の摩擦攪拌接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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