説明

摩擦材の接着方法

【課題】接着工程が全て乾式で行われるため、廃水が発生しないことにより環境にやさしく、しかも過熱蒸気によるプレッシャプレートの予熱による、塗布した粉末状接着剤の流動、皮膜の形成により、接着品質が安定する摩擦材の接着方法を提供する。
【解決手段】摩擦部材のプレッシャプレートに摩擦材を接着させる摩擦材の接着方法において、過熱蒸気によりプレッシャプレート表面の脱脂を行うと共に酸化皮膜を生成する工程と、粉末状接着剤を塗布する工程と、摩擦材を重ねて加熱加圧して接着する工程とを含むことを特徴とする摩擦材の接着方法。前記過熱蒸気によりプレッシャプレート表面の脱脂を行うと共に酸化皮膜を生成する工程は、過熱蒸気雰囲気下に温度250〜800℃、時間15〜60分の範囲で行うこと、及び前記塗布する工程は、プレッシャプレートの表面温度が120〜170℃の範囲で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着工程が全て乾式工程であるため廃水の発生しない、環境にやさしい、接着品質の安定した摩擦材の接着方法に係り、更に詳細には、接着工程での予熱によって粉末状接着剤を流動させ接着層の皮膜を形成させることにより、金属板と多孔質材、例えば摩擦部材(ブレーキパッド)のプレッシャプレート(金属板)と摩擦材(多孔質板)との接着強度の安定した、摩擦材の接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦材とプレッシャプレートの接着に於いて、特許文献1では環境にやさしい接着方法としてプレッシャプレートにリン酸皮膜を施した後、粉末状の熱硬化性樹脂を静電塗布にて付着させ、加熱により予備硬化させることが記載されている。
【特許文献1】特開2000−88021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、リン酸塩処理は湿式で行われるため、濃厚液及び本処理に伴う水洗、湯洗からの廃液が排出され、環境上好ましくない。
また、前処理、それに伴う水洗、湯洗、乾燥、接着剤塗布、塗布後の加熱というプロセスを経るため、設備スペースが大となり、処理時間が長いという課題がある。
【0004】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、接着工程が全て乾式で行われるため、廃水が発生しないことにより環境にやさしく、しかも過熱蒸気によるプレッシャプレートの予熱による、塗布した粉末状接着剤の流動、皮膜の形成により、接着品質が安定する摩擦材の接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成するために下記の構成よりなるものである。
(1)摩擦部材のプレッシャプレートに摩擦材を接着させる摩擦材の接着方法において、
過熱蒸気によりプレッシャプレート表面の脱脂を行うと共に酸化皮膜を生成する工程と、
プレッシャプレートの被塗面に粉末状接着剤を塗布する工程と、
摩擦材を重ねて加熱加圧して接着する工程とを含むことを特徴とする摩擦材の接着方法。
(2)前記過熱蒸気によりプレッシャプレート表面の脱脂を行うと共に酸化皮膜を生成する工程は、過熱蒸気雰囲気下に温度250〜800℃、時間15〜60分の範囲で行うことを特徴とする前記(1)記載の摩擦材の接着方法。
(3)前記粉末状接着剤を塗布する工程は、プレッシャプレートの表面温度が120〜170℃の範囲で行うことを特徴とする前記(1)記載の摩擦材の接着方法。
(4)前記粉末状接着剤として、熱硬化性樹脂接着剤の粉末を用いることを特徴とする前記(1)記載の摩擦材の接着方法。
【0006】
すなわち、本発明の接着方法は、原則的にプレッシャプレートの処理方法が、過熱蒸気による加熱及び粉末状接着剤の塗布という2工程で構成されており、過熱蒸気の予熱を利用して塗布した粉末状接着剤を液化・流動させ、接着層を形成させることを骨子とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接着工程の全てが乾式工程であるため、廃水が発生しないので、環境対応型ラインとなる。その結果、従来の湿式で行うリン酸塩処理工程を行う接着方法に比べて設備スペース、処理時間とも1/2〜1/3となる。
更に、プレッシャプレートの予熱により塗布直後から接着剤が液化、流動し、皮膜を形成するため、塗布時及び塗布後から接着剤加熱に至るまでの粉末状接着剤の脱落、飛散がなく、安定した接着品質が確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
以下の実施形態は車両のブレーキに使用する摩擦部材(ブレーキパッド)の製造に応用したものであって、プレッシャプレートである金属板の表面に多孔質材(多孔質の摩擦材層)を接着するものである。
【0009】
まず、過熱蒸気によりプレッシャプレート表面の脱脂を行うと共に酸化皮膜を生成する。過熱蒸気による処理は、一般的には温度250〜800℃、時間15〜60分が好適な範囲であるが、通常の鉱物系防錆剤の除去及びリン酸鉄皮膜と同等の防錆効果を期待するのであれば、250℃×15分の処理で十分である。
【0010】
過熱蒸気処理を行った後、プレッシャプレートの表面温度が120〜170℃の範囲内にある時点で、粉末状接着剤を粉体静電塗布にてプレッシャプレートに付着させ、過熱蒸気によるプレッシャプレートの予熱を利用して、塗布した粉末状接着剤を液化・流動させ、接着剤層としての皮膜を形成し、その後予備成形品との熱成形、加熱を行い、摩擦材と圧着した摩擦部材(ブレーキパッド)を得る。
【0011】
粉末状接着剤としては熱硬化性樹脂が好適に使用でき、好適な接着剤としてはストレートフェノール樹脂、熱可塑性変性フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤、その他各種の熱硬化性樹脂が挙げられる。
接着剤層(皮膜)厚みはフロー後で10〜100μmであり、摩擦材との十分なアンカー効果確保およびプレッシャプレートと摩擦材との間からの接着剤はみ出しを考慮した場合、より好ましくは20〜50μmである。
【実施例】
【0012】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に、かつ具体的に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0013】
実施例1
プレッシャプレートに温度250℃、時間15分の過熱蒸気処理を行い、脱脂及び一時防錆酸化皮膜生成を実施した。この過熱蒸気処理後、プレッシャプレートの表面温度が120〜170℃の範囲内にある時点で、エポキシ/フェノリック系熱硬化性樹脂からなる粉末状接着剤を、コロナ荷電方式の粉体静電塗布により付着させ、厚さ30μmの接着剤皮膜を生成し、その後に予備成形品との熱成形、加熱を行い摩擦部材(ブレーキパッド)を得た。
【0014】
比較例1
比較例として、プレッシャプレートに化成処理を行い、脱脂、リン酸鉄皮膜生成後、上記実施例1と同様に粉末状接着剤を粉体静電塗布し、130℃×15分で加熱流動させ、厚さ30μmの接着剤皮膜生成後、同様に予備成形品との熱成形、加熱を行い、摩擦部材(ブレーキパッド)を作成した。
【0015】
実施例1及び比較例1に使用した摩擦材の予備成形品の原料の配合割合(質量部)は、下記に示すとおりである。
フェノール樹脂 15
アラミドパルプ 10
無機繊維 15
ケイ酸ジルコニウム 3
有機ダスト 7
硫酸バリウム 45
燐片状黒鉛 5
また、実施例1及び比較例1の処理工程を図1に示す。
上記の実施例1及び比較例1により製造した摩擦部材(ブレーキパッド)の接着性能の評価結果を第1表に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
第1表に示した摩擦部材(ブレーキパッド)のせん断試験結果から、実施例1は従来のとおりの湿式リン酸塩処理を行ってリン酸鉄皮膜を形成した場合と同等の接着強度を有しており、時間的に従来の1/3程度で処理が行え、製造コスト的に有利になることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の摩擦材の接着方法によれば、全ての工程が乾式工程であるため、廃水が発生せず環境対応型ラインとなり、しかも設備スペース、処理時間とも従来の1/2〜1/3となり、更に塗布時及び塗布後から接着剤加熱に至るまでの過程で粉末状接着剤の脱落、飛散がなく、安定した接着品質の摩擦部材(ブレーキパッド)が得られるため、乗用車、産業機械、鉄道車両等に広い用途が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1及び比較例1の摩擦材の主要製造工程を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦部材のプレッシャプレートに摩擦材を接着させる摩擦材の接着方法において、
過熱蒸気によりプレッシャプレート表面の脱脂を行うと共に酸化皮膜を生成する工程と、
プレッシャプレートの被塗面に粉末状接着剤を塗布する工程と、
摩擦材を重ねて加熱加圧して接着する工程とを含むことを特徴とする摩擦材の接着方法。
【請求項2】
前記過熱蒸気によりプレッシャプレート表面の脱脂を行うと共に酸化皮膜を生成する工程は、過熱蒸気雰囲気下に温度250〜800℃、時間15〜60分の範囲で行うことを特徴とする請求項1記載の摩擦材の接着方法。
【請求項3】
前記粉末状接着剤を塗布する工程は、プレッシャプレートの表面温度が120〜170℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1記載の摩擦材の接着方法。
【請求項4】
前記粉末状接着剤として、熱硬化性樹脂接着剤の粉末を用いることを特徴とする請求項1記載の摩擦材の接着方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−84725(P2007−84725A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276512(P2005−276512)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】