説明

摩擦点接合方法

【課題】 異種金属でなる金属板材どうしを摩擦点接合法にて接合するに際して、比較的簡単な構成で、融点が低い方の金属板材への回転工具の押し込み深さを確保し、且つ、当該金属板材に貫通孔があけられしまうことを防止できるようにする。
【解決手段】 先端にピン部13を有する回転工具10を用いて異種金属板どうしを摩擦点接合するに際して、鋼板Sを受承する受承面21にピン部13の先端よりも外径寸法が大きい凹部22を備えた受け具20でアルミニウム合金板を重ね合わせた鋼板を受けると共に、回転工具を回転させながらアルミニウム合金板側から押し込むことにより、鋼板の前記凹部に対応する部分を当該凹部側に変位させた状態で、発生した摩擦熱でアルミニウム合金板を軟化せしめて塑性流動させ、鋼板とアルミニウム合金板とを接合することで、押し込まれたピン部に対応した凹部Scが鋼板に形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異種金属でなる金属板材どうしの点接合に適用し得る摩擦点接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2枚の金属板材を点接合する方法として、アルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)或いはその合金等の軽金属を対象に、重ね合わせた2枚の金属板材の一方側からピン部を有する回転工具を回転させながら押し込み、この回転工具の押し込みによって発生した摩擦熱で金属板材を軟化せしめ塑性流動させることにより、両金属板材どうしを接合する摩擦点接合方法が知られている。
【0003】
また、かかる摩擦点接合法を適用して、鋼板とアルミニウム合金板などの異種金属板どうしを接合する方法も公知である(例えば特許文献1参照)。
このような異種金属板どうしを摩擦点接合で接合する場合、融点が低い方の金属板(前記の例ではアルミニウム合金板)側から回転工具が押し込まれるが、前記特許文献1では、より高い接合強度を得るために、ピン部の先端が両金属板の接合界面付近に至るまで回転工具を押し込んだ状態で接合を行うことが提案されている。
【0004】
尚、異種金属板どうしを接合する場合、両金属間の電位差による腐食の発生を防止することを主目的として、電位が低いほうの金属板の表面に防食層を形成することが一般に行われている。例えば、前述のアルミニウム合金板と鋼板の組み合わせの場合には、鋼板の表面に防食性の金属メッキ等が施される。しかしながら、このような防食層が介在した状態で前述の摩擦点接合を行った場合、両金属板の母相どうしが直接に接触することが妨げられる関係上、軟化・塑性流動による両者間の確実な固相接合が阻害され、高い接合強度を得ることが難しいという問題が生じる。
【0005】
かかる問題に関連して、本願出願人は、特願2003−274983号において、回転工具の押し込みによる加圧力と摩擦熱および塑性流動により、防食層を両金属板の接合面の周囲に押し出すことで、両金属板の母相どうしを直接に接触させ、両者どうしを固相接合させて高い接合強度を得るようにした接合方法を提案した。
【特許文献1】特開2003−170280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述のように、より高い接合強度を得るためには、ピン部の先端が両金属板の接合部の界面近くに至るまで回転工具を押し込むことが好ましいのであるが、ピン部の先端が受け具側の融点が高い方の金属板の表面にまで達し、押し込み側の融点が低い方の金属板に貫通孔があいてしまうと、その貫通孔部分に水など溜まり易いこともあり、その部分から腐食が生じるという問題がある。特に、回転工具が押し込まれる融点が低い方の金属板の板厚が薄い場合には、回転工具の最大押し込み深さを受け具側の融点が高い方の金属板の表面近傍で制御することは、実際上難しい。このため、押し込み深さが不足して所要の接合強度が得られないか、或いは、押し込み深さが過剰となって押し込み側の融点が低い方の金属板に貫通孔があいてしまい、耐食性が損なわれる場合が生じるという問題があった。
【0007】
この発明は、かかる技術的課題に鑑みてなされたもので、異種金属でなる金属板材どうしを摩擦点接合法にて接合するに際して、比較的簡単な構成で、融点が低い方の金属板材への回転工具の押し込み深さを確保し、且つ、当該金属板材に貫通孔があけられしまうことを防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本願請求項1の発明(第1の発明)に係る摩擦点接合方法は、融点が比較的高い第1金属板材と融点が比較的低い第2金属板材とを重ね合わせ、先端にピン部を有する回転工具を回転させながら前記第2金属板材側から押し込み、この回転工具の押し込みによって発生した摩擦熱で前記第2金属板材を軟化せしめて塑性流動させることにより、前記第1金属板材と第2金属板材とを接合する摩擦点接合方法において、前記第1金属板材を受承する受承部に、前記ピン部先端よりも外径寸法が大きい変形許容部を備えた受け具を用意するステップと、前記受け具で前記第2金属板材と重ね合わせた前記第1金属板材を受けると共に、前記ピン部を有する回転工具を回転させながら前記第2金属板材側から押し込むステップと、を備え、前記ピン部の押し込みにより、前記第1金属板材の前記変形許容部に対応する部分を当該変形許容部側に変位させた状態で、発生した摩擦熱で前記第2金属板材を軟化せしめて塑性流動させ、前記第1金属板材と第2金属板材とを接合することで、前記押し込まれたピン部に対応した凹部が前記第1金属板に形成される、ことを特徴としたものである。
【0009】
また、本願請求項2の発明(第2の発明)は、前記第1の発明において、前記変形許容部が、前記ピン部先端の外径寸法よりもサイズが大きい凹部であることを特徴としたものである。
【0010】
本願請求項3の発明(第3の発明)に係る摩擦点接合方法は、融点が比較的高い第1金属板材と融点が比較的低い第2金属板材とを重ね合わせ、先端にピン部を有する回転工具を回転させながら前記第2金属板材側から押し込み、この回転工具の押し込みによって発生した摩擦熱で前記第2金属板材を軟化せしめて塑性流動させることにより、前記第1金属板材と第2金属板材とを接合する摩擦点接合方法において、前記第1金属板材の前記ピン部の押し込み位置に対応した部位に凹部を形成するステップと、前記第2金属板材と重ね合わせた前記第1金属板材を受け具で受けると共に、前記ピン部を有する回転工具を回転させながら前記第2金属板材側から前記第1金属板材の凹部に向けて押し込むステップと、を備え、前記ピン部の押し込みにより、前記第1金属板材の前記凹部に前記第2金属板材の材料を充填し、発生した摩擦熱で前記第2金属板材を軟化せしめて塑性流動させ、前記第1金属板材と第2金属板材とを接合する、ことを特徴としたものである。
【0011】
また、本願請求項4の発明(第4の発明)は、前記第3の発明において、前記受け具は、前記第1金属板材の前記凹部より外側の接合部分に対応する部分を受承する受承部を備えていることを特徴としたものである。
【0012】
更に、本願請求項5の発明(第5の発明)は、前記第1又は第3の発明において、前記第1金属板材が鋼板であり、前記第2金属板材がアルミニウム合金板であることを特徴としたものである。
【0013】
また更に、本願請求項6の発明(第6の発明)は、前記第5の発明において、前記鋼板の表面には、防食メッキ層が形成されていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本願の第1の発明によれば、融点が高い方の第1金属板材を受ける受け具の第1金属板材を受承する受承部に、前記ピン部先端よりも外径寸法が大きい変形許容部が備えられており、回転工具を回転させながら融点が低い方の第2金属板材側から押し込んだ際には、回転工具のピン部の押し込みにより、第1金属板材の変形許容部に対応する部分は当該変形許容部側に変位させられる。その状態で、回転工具の押し込みにより発生した摩擦熱で第2金属板材が軟化し塑性流動させられることで、第1金属板材と第2金属板材とが接合される。このとき、第1金属板材には押し込まれたピン部に対応した凹部が形成される。
このように、第1金属板材は、押し込まれる回転工具のピン部に対応する部分が受け具の変形許容部で変位するので、前記ピン部の押し込み位置や深さが多少変動しても、当該ピン部が第2金属板材を貫通して第1金属板材の表面に接触することを、比較的容易に防止できる。つまり、第1金属板材を受ける受け具の受承部に変形許容部を設けるだけの比較的簡単な構成で、第2金属板材への回転工具の押し込み深さを確保し、且つ、当該第2金属板材に貫通孔があけられてしまうことを防止し、貫通孔の形成によって第1金属板材に腐食が生じやすくなることを防止できる。
【0015】
また、本願の第2の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記変形許容部が前記ピン部先端の外径寸法よりも開口サイズが大きい凹部であるので、第1金属板材の変形許容部に対応する部分をより確実に当該変形許容部側に変位させることができる。また、受け具の受承部に容易に変形許容部を設けることができる。
【0016】
本願の第3の発明によれば、融点が高い方の第1金属板材のピン部の押し込み位置に対応した部位に凹部が形成されており、前記ピン部を有する回転工具を回転させながら融点が低い方の第2金属板材側から前記第1金属板材の凹部に向けて押し込むことで、第1金属板材の前記凹部に第2金属板材の材料が充填され、回転工具の押し込みにより発生した摩擦熱で第2金属板材が軟化し塑性流動させられることで、第1金属板材と第2金属板材とが接合される。
このように、第2金属板材の材料は、第1金属板材のピン部の押し込み位置に対応した部位に形成された前記凹部に充填されるので、前記ピン部の押し込み位置や深さが多少変動しても、当該ピン部が第2金属板材を貫通して第1金属板材の表面に接触することを、比較的容易に防止できる。つまり、第1金属板材に凹部を設けるだけの比較的簡単な構成で、第2金属板材への回転工具の押し込み深さを確保し、且つ、当該第2金属板材に貫通孔があけられてしまうことを防止し、貫通孔の形成によって第1金属板材に腐食が生じやすくなることを防止できる。
【0017】
また、本願の第4の発明によれば、基本的には前記第3の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記受け具は、第1金属板材の前記凹部より外側の接合部分に対応する部分を受承する受承部を備えていることにより、ピン部の押し込み位置に対応した部位に凹部が設けられた前記第1金属板材を、容易かつ確実に受けることができる。
【0018】
更に、本願の第5の発明によれば、具体的には、融点が高い方の第1金属板材が鋼板で、融点が低い方の第2金属板材がアルミニウム合金板であり、かかる組み合わせの金属板材どうしの摩擦点接合において、基本的には前記第1又は第3の発明と同様の作用効果を奏することができ、両者の電位差による腐食の発生を有効に抑制することができる。
【0019】
また更に、本願の第6の発明によれば、前記鋼板の表面には防食メッキ層が形成されている場合についても、回転工具の押し込みによる加圧力と摩擦熱および塑性流動により、防食メッキ層を両金属板の接合面の周囲に押し出すことで、両金属板の母相どうしを直接に接触させ、両者どうしを固相接合させて所要の接合強度を得ることが可能で、基本的には前記第5の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明方法の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る摩擦点接合に用いられる接合ガンの構成を概略的に示す説明図である。この図に示すように、前記接合ガンGは、接合用の工具として回転工具10と受け具20とを備えている。前記回転工具10は、その回転中心軸が接合ガンGの接合軸Lgと一致するように配設されており、ガン本体1に固定された加圧軸モータ6により前記接合軸Lgに沿って昇降させられ、且つ、回転軸モータ7により接合軸Lgと一致した中心軸回りに回転させられるようになっている。前記回転軸モータ7としては、例えばインダクションモータやサーボモータを好適に用いることができ、また、加圧軸モータ6としては、例えばサーボモータを好適に用いることができる。
【0021】
前記受け具20は、回転工具10に対向して配置されるもので、この配置状態は、ガン本体1の下部に位置する略L字形状のアーム2の先端に受け具20を取り付けることにより保持されている。この受け具20及び前記回転工具10は共に、接合ガンGに対して着脱することができるように取り付けられている。
尚、以上のような接合ガンGは、例えばロボット装置のアーム若しくは手首などに取り付けて、例えば自動車の車体等に用いられるアルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせた状態で点接合する接合工程などで用いることができる。
【0022】
図2は、前記接合ガンGを用いて摩擦点接合法により接合される金属板材の組み合わせを示す断面説明図である。本実施形態では、異種金属でなる金属板材である鋼板Sとアルミニウム合金板Aとが接合される。特に、鋼板Sの接合側の表面には、防食性の金属メッキとして亜鉛メッキが施されている。従って、アルミニウム合金板Aの母相と鋼板Sの母相の間には亜鉛メッキ層Mが介在することになる。尚、前記鋼板S及びアルミニウム合金板Aが、本願請求項に記載した「融点が高い方の第1金属板材」及び「融点が低い方の第2金属板材」にそれぞれ相当している。
本実施形態では、例えば、鋼板Sの板厚を0.7mm,アルミニウム合金板Aの板厚を1.2mmとし、また、鋼板S表面の亜鉛メッキ(メッキ層M)の片面目付量を30〜60g/mとした。
【0023】
図3は、前記接合ガンGに取り付けられた回転工具10及び受け具20の要部を拡大して、前記金属板材の組み合わせと共に示した部分断面説明図である。
回転工具10は、略円柱状の本体部11と、該本体部11の先端部における中心から突出する円柱状のピン部13とを備えている。このピン部13の回転中心軸は本体部11の回転中心軸と一致しており、両中心軸は接合ガンGの接合軸Lgと一致するものである。つまり、前記ピン部13は、回転工具10のセンタリング機能を有しているといえる。
【0024】
また、本体部11の先端面には、径方向における内方に向かって深くなる凹部12が形成されている。本体部11の先端側にこのような凹部12を設けたことにより、回転工具10を金属板材に押し込んだ際に、回転工具10の回転による摩擦熱で軟化し塑性流動する金属板材の材料が外周側に流動して逃げることを抑制し、回転工具10の加圧力を金属板材に対してより有効に作用させることができる。
【0025】
本実施形態では、受け具20の鋼板Sを受承する受承面21(つまり、上端面)が平坦ではなく、この受承面21に、回転工具10のピン部13の先端よりも外径寸法が大きい変形許容部22が設けられている。この変形許容部22は、回転工具10が押し込まれた際に鋼板Sの受承面21側への変位若しくは変形を許容するもので、受承面21のピン部13に対向する部位に設けられており、具体的には、受承面21に開口する凹部22として形成されている。この凹部22の開口サイズは、より好ましくは、ピン部13の先端の外径寸法よりも大きく設定されている。
【0026】
このような変形許容部が設けられていない従来方法では、例えば図12〜図14に示すように、受け具60の受承面61は平坦であり、この平坦な受承面61で鋼板S及びアルミニウム合金板Aを順に受承した状態で、回転工具10を回転させながらアルミニウム合金板A側から押し込むことによって摩擦点接合を行うのであるが、このとき、より高い接合強度を得るために、ピン部13の先端が両金属板A,Sの接合部の界面近くに至るまで回転工具を押し込もうとした場合、ピン部13の先端が受け具60側の鋼板Sの表面にまで達し(図13参照)、押し込み側のアルミニウム合金板Aに鋼板Sの母相にまで至る貫通孔Ahがあいてしまうことがある。このような貫通孔Ahが形成されると、その孔Ahに水など溜まり易いこともあり、その部分Ahから腐食が生じるという問題がある。
【0027】
特に、回転工具10が押し込まれるアルミニウム合金板Aの板厚が薄い場合(例えば、1mm程度以下の場合)には、回転工具10の最大押し込み深さを受け具60側の鋼板Sの表面近傍で制御することは、実際上難しい。このため、ピン部13の押し込み深さが不足して所要の接合強度が得られないか、或いは、押し込み深さが過剰となって押し込み側の融点が低い方のアルミニウム合金板S及び亜鉛メッキ層Mに貫通孔Ahがあいてしまい、耐食性が損なわれる場合が生じることになる。
【0028】
本実施形態では、前述のように、受け具20の受承面21に変形許容部としての凹部22を設けたことにより、回転工具10の押し込み深さを確保し、且つ、これが押し込まれる側のアルミニウム合金板Aに貫通孔があけられしまうことを回避するようにしている。
【0029】
以下、本実施形態における摩擦点接合について説明する。
図4〜図8は、図3の状態から引き続いて行われる一連の接合工程を示す部分断面説明図である。
まず、図3に示された状態から、図4に示すように、受け具20の受承面21で鋼板S及びアルミニウム合金板Aを順に受承させるとともに、回転工具10を回転させながらアルミニウム合金板A側に(つまり、加圧方向に)前進させる。図4に示すように、回転工具10のピン部13がアルミニウム合金板Aの表面に当接し、その押し込みが開始されることにより、ピン部13の先端を中心にした一定範囲の領域Nが、ピン部13の回転による摩擦熱の作用で軟化し始める。この状態では、受け具20の凹部22側への鋼板Sの変位はまだ生じていない。
【0030】
図4の状態から回転工具10がアルミニウム合金板A内への押し込みが始まると、図5に示すように、本体部11の先端の外周部でアルミニウム合金板Aが表面側から剪断され、また、摩擦熱の作用による軟化の領域N(図4参照)が更に広がるとともに温度も上昇し、亜鉛メッキ層Mの拡散が始まり、また、摩擦熱で軟化したアルミニウム合金板Aの材料が塑性流動し始める。更に、ピン部13の押し込みにより、鋼板Sの受け具20の前記凹部22に対応する部分が当該凹部22側に変位若しくは変形し始める。
【0031】
このように、鋼板Sは、押し込まれる回転工具10のピン部13に対応する部分が、受け具20の凹部22で変位若しくは変形するので、ピン部13の押し込み位置や深さが多少変動しても、当該ピン部13がアルミニウム合金板Aを貫通して鋼板Sの表面に接触することを、比較的容易に防止できる。
【0032】
尚、アルミニウム合金板Aの表面には、通常雰囲気下で生成されるアルミニウム酸化物(Al)の被膜が一般に形成されるが、このアルミニウム酸化被膜Alは、比較的脆いので、アルミニウム合金板Aの材料の塑性流動によって比較的容易に細かく破壊され、アルミニウム合金板Sの表面には、新生面(酸化被膜に覆われずアルミニウム合金自体からなる面)が表れる。従って、このアルミニウム酸化被膜Alが接合面に存在して接合強度に悪影響を及ぼすことはまずない。
【0033】
図5の状態から回転工具10が更に押し込まれると、鋼板Sの表面の亜鉛メッキ層Mは、その一部はアルミニウム合金板A側に取り込まれるものの、その大部分は、図6において符号Mjで示すように、回転工具10の押し込みによる加圧力と摩擦熱および塑性流動により、両金属板A,Sの接合面の周囲に押し出される。これにより、両金属板A,Sの母相どうしが直接に接触し、両者どうしが固相接合されて所要の接合強度を得ることができるようになる。
【0034】
また、亜鉛メッキ層Mの接合面周囲に押し出された部分Mjの直ぐ内側の領域、つまり、回転工具10の本体部11の外周部に略対応する領域には、図7に示されるように、亜鉛メッキ層Mが若干残存して、亜鉛−アルミニウム−鉄化合物の金属間化合物Mcが生成される場合があるが、アルミニウム合金板Aと鋼板Sとは、前記金属間化合物Mcを介して接合される。つまり、かかる金属間化合物Mcも、アルミニウム合金板Aと鋼板Sの固相接合に寄与するものである。尚、このような金属メッキ層を介した状態下での固相接合の態様は、前述の特願2003−274983号で開示されたものと同様である。
【0035】
このように、上記接合方法においては、回転工具10の押し込みによってアルミニウム合金板Aの酸化被膜Alが破壊されてアルミニウム合金の新生面が形成され、その直後に(極めて短時間内に)、回転工具10の押し込みに基づく加圧力,摩擦熱および塑性流動によって亜鉛メッキ層Mが接合面から周囲に押し出されて、アルミニウム合金板Sと鋼板Sの母相どうしが直接に接触することになる。この状態下で摩擦接合が行われることにより、その接合部に酸化被膜やメッキ層Mを介在させないようにして、両者の直接的な固相接合の状態で接合することができ、その接合強度を高めることができる。
【0036】
この後、設定時間が経過すると、図8に示すように、回転工具10と受け具20とは、両金属板A,Sから離間させられ、次の接合処理まで離間位置で待機するようになっている。
尚、この結果、鋼板Sの接合面には、押し込まれたピン部に対応した凹部Scが形成され、また、その反接合面側(受け具20で受承された側)には、回転工具10のピン部13に対応して受け具20の受承面21に形成された凹部22に対応した凸部Sdが形成されることになる。
【0037】
以上、説明したように、本実施形態によれば、回転工具10を押し込んだ際に、鋼板Sは、押し込まれる回転工具10のピン部13に対応する部分が、受け具20の凹部22で変位若しくは変形するので、ピン部13の押し込み位置や深さが多少変動しても、当該ピン部13がアルミニウム合金板Aを貫通して鋼板Sの表面に接触することを、比較的容易に防止できる。
すなわち、鋼板Sを受ける受け具20の受承面21に変形許容部としての凹部22を設けるだけの比較的簡単な構成で、アルミニウム合金板Sへの回転工具10の所要の押し込み深さを確保し、且つ、当該アルミニウム合金板Sに貫通孔があけられてしまうことを回避し、貫通孔の形成によって鋼板Sに腐食が生じやすくなることを防止できるのである。
【0038】
特に、本実施形態では、融点が高い方の金属板材が鋼板Sで、融点が低い方の金属板材がアルミニウム合金板Aであり、かかる組み合わせの金属板材A,Aどうしの摩擦点接合において、両者A,Sの電位差による腐食の発生を有効に抑制することができる。
【0039】
また、前記変形許容部としての凹部22がピン部13先端の外径寸法よりも開口サイズが大きい凹部22であることにより、鋼板Sの凹部22に対応する部分をより確実に当該凹部22側に変位させることができる。また、受け具20の受承面21に容易に変形許容部を設ける際には、機械加工等の簡単な手段で設けることができる。
【0040】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。尚、以下の説明において、前述の第1の実施形態における場合と、同様の構成を備え同様の作用をなすものについては、同一の符号を付し、それ以上の説明は省略する。
図9は、第2の実施形態に係る摩擦点接合に用いられる鋼板およびそのプレス型を概略的に示す説明図である。この図に示すように、この第2の実施形態では、融点が高い方の鋼板S自体に、回転工具10のピン部13の押し込み位置に対応した部位に凹部Tcが形成されている。また、鋼板Sの反対側の面には、前記凹部Tcに対応した凸部Tdが形成される。このような凹部Tcは、該凹部Tcに対応した凸部31d及び凹所32cをそれぞれ備えた一対のプレス型31及び32を用いてプレス加工をおこなうことにより、容易に形成することができる。
【0041】
図10は、第2の実施形態に係る摩擦点接合法により接合される金属板材の組み合わせを示す断面説明図である。
この図に示すように、鋼板Tは前記プレス加工の後に、凹部Tcを形成した側に亜鉛メッキが施され、この亜鉛メッキ層Mで覆われた側がアルミニウム合金板Aと対面するようにして、両金属板材A,Sが重ね合わされる。つまり、アルミニウム合金板Aと鋼板Tとは、亜鉛メッキ層Mが介在した状態で重ね合わされる。
【0042】
図11は、回転工具及び受け具の要部を拡大して、第2の実施形態に係る前記金属板材の組み合わせと共に示した部分断面説明図である。
この図に示されるように、受け具40の受承面41には、鋼板Tの前記凸部Tdに対応した部位に、該凸部Tdを収容し得る凹所42が形成されている。従って、鋼板Tの前記凹部Tcに対応した凸部Tdより外側の領域は、前記凹所42より外側の受承面41で確実に受承される。この凹所42は、回転工具10のピン部13に対向した部位に設けられている。従って、鋼板Tの凹部Tcは、ピン部13の押し込み位置に対応した箇所に位置することになる。すなわち、受け具40に前記凹所42を設けたことにより、ピン部13の押し込み位置に対応した部位に凹部Tcが設けられた鋼板Tを、容易かつ確実に受けることができる。
【0043】
この図11の状態から、受け具40の受承面41で鋼板T及びアルミニウム合金板Aを順に受承させるとともに、回転工具10を回転させながらアルミニウム合金板A側に(つまり、加圧方向に)前進させて、第1の実施形態における場合と同様の工程で(図4〜図8参照)摩擦点接合が行われる。
このとき、ピン部13を有する回転工具10を回転させながら融点が低い方のアルミニウム合金板S側から鋼板Tの前記凹部Tcに向けて押し込むことにより、鋼板Tの前記凹部Tcにアルミニウム合金板Aの材料が充填され、回転工具10の押し込みにより発生した摩擦熱でアルミニウム合金板Aの材料が軟化し塑性流動させられることで、アルミニウム合金板Aと鋼板Tとが接合される。
【0044】
このように、本実施形態によれば、アルミニウム合金板Aの材料は、鋼板Tのピン部13の押し込み位置に対応した部位に形成された前記凹部Tcに充填されるので、ピン部13の押し込み位置や深さが多少変動しても、当該ピン部13がアルミニウム合金板Aを貫通して鋼板Tの表面に接触することを、比較的容易に防止できる。つまり、鋼板Tに凹部Tcを設けるだけの比較的簡単な構成で、アルミニウム合金板Aへの回転工具10の所要の押し込み深さを確保し、且つ、当該アルミニウム合金板Aに貫通孔があけられてしまうことを回避し、貫通孔の形成によって鋼板Tに腐食が生じやすくなることを防止できる。
【0045】
尚、以上の実施形態は、融点が高い方の金属板材を鋼板とし、融点が低い方の金属板材をアルミニウム合金板としたものであったが、金属板材の組み合わせとしてはかかるものに限定されるものではない。また、融点が高い方の鋼板に施すメッキは亜鉛メッキであったが、かかるメッキに限定されるものではなく、他の種々の金属メッキが適用できる。
また、以上の実施形態では、全体が板状である金属板材どうしを接合する場合についてのものであったが、本発明は、かかる場合に限定されるものではなく、接合されるべき部材は、その接合部が板状であれば足り、必ずしも全体の形状が板状であることを求められるものではない。
【0046】
このように、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更や修正を行うことができるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、異種金属でなる金属板材どうしを摩擦点接合法にて接合するに際して、比較的簡単な構成で、融点が低い方の金属板材への回転工具の押し込み深さを確保し、且つ、当該金属板材に貫通孔があけられしまうことを防止できるようにするものであり、例えば、自動車の車体部材で異種材料の組み合わせのものどうしを接合する場合などに、有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る摩擦点接合に用いられる接合ガンの構成を概略的に示す説明図である。
【図2】前記接合ガンを用いて摩擦点接合法により接合される金属板材の組み合わせを示す断面説明図である。
【図3】前記接合ガンに取り付けられた回転工具及び受け具の要部を拡大して、前記金属板材の組み合わせと共に示した部分断面説明図である。
【図4】前記第1の実施形態に係る摩擦点接合の一連の接合工程の一部を示す部分断面説明図である。
【図5】前記摩擦点接合の一連の接合工程の一部を示す部分断面説明図である。
【図6】前記摩擦点接合の一連の接合工程の一部を示す部分断面説明図である。
【図7】前記摩擦点接合の一連の接合工程の一部を示す部分断面説明図である。
【図8】前記摩擦点接合の一連の接合工程の一部を示す部分断面説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る摩擦点接合に用いられる鋼板およびそのプレス型を概略的に示す説明図である。
【図10】前記第2の実施形態に係る摩擦点接合法により接合される金属板材の組み合わせを示す断面説明図である。
【図11】回転工具及び受け具の要部を拡大して、前記第2の実施形態に係る金属板材の組み合わせと共に示した部分断面説明図である。
【図12】回転工具及び受け具の要部を拡大して、従来例に係る金属板材の組み合わせと共に示した部分断面説明図である。
【図13】前記従来例に係る摩擦点接合の一連の接合工程の一部を示す部分断面説明図である。
【図14】前記従来例に係る摩擦点接合の一連の接合工程の一部を示す部分断面説明図である。
【符号の説明】
【0049】
10 回転工具
13 ピン部
20,40 受け具
21,41 受承面
22 凹部
42 凹所
A アルミニウム合金板
M 亜鉛メッキ層
S,T 鋼板
Tc (鋼板の)凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が比較的高い第1金属板材と融点が比較的低い第2金属板材とを重ね合わせ、先端にピン部を有する回転工具を回転させながら前記第2金属板材側から押し込み、この回転工具の押し込みによって発生した摩擦熱で前記第2金属板材を軟化せしめて塑性流動させることにより、前記第1金属板材と第2金属板材とを接合する摩擦点接合方法において、
前記第1金属板材を受承する受承部に、前記ピン部先端よりも外径寸法が大きい変形許容部を備えた受け具を用意するステップと、
前記受け具で前記第2金属板材と重ね合わせた前記第1金属板材を受けると共に、前記ピン部を有する回転工具を回転させながら前記第2金属板材側から押し込むステップと、を備え、
前記ピン部の押し込みにより、前記第1金属板材の前記変形許容部に対応する部分を当該変形許容部側に変位させた状態で、発生した摩擦熱で前記第2金属板材を軟化せしめて塑性流動させ、前記第1金属板材と第2金属板材とを接合することで、前記押し込まれたピン部に対応した凹部が前記第1金属板に形成される、
ことを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項2】
前記変形許容部が、前記ピン部先端の外径寸法よりもサイズが大きい凹部であることを特徴とする請求項1記載の摩擦点接合方法。
【請求項3】
融点が比較的高い第1金属板材と融点が比較的低い第2金属板材とを重ね合わせ、先端にピン部を有する回転工具を回転させながら前記第2金属板材側から押し込み、この回転工具の押し込みによって発生した摩擦熱で前記第2金属板材を軟化せしめて塑性流動させることにより、前記第1金属板材と第2金属板材とを接合する摩擦点接合方法において、
前記第1金属板材の前記ピン部の押し込み位置に対応した部位に凹部を形成するステップと、
前記第2金属板材と重ね合わせた前記第1金属板材を受け具で受けると共に、前記ピン部を有する回転工具を回転させながら前記第2金属板材側から前記第1金属板材の凹部に向けて押し込むステップと、を備え、
前記ピン部の押し込みにより、前記第1金属板材の前記凹部に前記第2金属板材の材料を充填し、発生した摩擦熱で前記第2金属板材を軟化せしめて塑性流動させ、前記第1金属板材と第2金属板材とを接合する、
ことを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項4】
前記受け具は、前記第1金属板材の前記凹部より外側の接合部分に対応する部分を受承する受承部を備えていることを特徴とする請求項3記載の摩擦点接合方法。
【請求項5】
前記第1金属板材が鋼板であり、前記第2金属板材がアルミニウム合金板であることを特徴とする請求項1又は3に記載の摩擦点接合方法。
【請求項6】
前記鋼板の表面には、防食メッキ層が形成されていることを特徴とする請求項5記載の摩擦点接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate