説明

摺動部材の製造方法

【課題】アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面と銀皮膜との密着性の向上を図った摺動部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】本体10の外周面11に熱硬化性を有するポリアミドイミド樹脂24を塗布し、このポリアミドイミド樹脂24が硬化する前にテルピネオールに銀粒子23を分散させたスラリーをポリアミドイミド樹脂24上にコーティングし、このコーティングしたスラリーとポリアミドイミド樹脂24に超音波振動を与えた後、スラリー、ポリアミドイミド樹脂24及び本体10を加熱して、ポリアミドイミド樹脂24を硬化させるとともにテルピネオールを除去し、当該ポリアミドイミド樹脂24の表面に銀粒子23同士を融着させて摺動面22を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に銀皮膜を施して摺動面を形成する摺動部材の製造方法に関し、特に、基材と銀皮膜との密着性を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化ガスである二酸化炭素(CO2ガス)の排出削減が世界的な課題となりつつあり、二酸化炭素の排出源である自動車においても二酸化炭素の排出削減が強く要請されている。このため、自動車における摺動部材とその相手材である被摺動部材との間のフリクションの低減が図られており、例えば、内燃機関のピストン(摺動部材)の摺動面に表面処理を施すことによって、燃費の向上、焼き付けの防止、及び、異音の発生の防止が可能となることが判明している。
この種の表面処理の手法として、アルミニウム(アルミニウム合金を含む)基材をエッチング液及び水溶性金属塩(例えば、銀)を含む化成処理液に浸漬して、このエッチング液によりアルミニウム基材の表面に粗面化処理を施すとほぼ同時に、水溶性金属塩を組成する金属がアルミニウム基材の表面に金属皮膜を形成するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−305395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来技術では、アルミニウム基材の表面に、直接、金属皮膜を形成するものであり、アルミニウム基材と金属皮膜との接合力が弱い。このため、この金属皮膜を施したアルミニウム基材を、例えば、内燃機関のピストンなどの過酷な環境下で実際に使用した場合には、アルミニウム基材と金属皮膜との密着性が十分でないことにより、この金属皮膜の剥離が生じてしまうといった問題がある。
一方、アルミニウム基材の表面に銀皮膜を施す手法として、アルミニウム基材を銀シアン化カリウムめっき液に浸漬するとともに、このアルミニウム基材を陰極として通電し、当該基材の表面に銀皮膜を形成する電気めっき法が行われている。しかし、一般的に電気めっきを用いて皮膜を形成する場合、専用の電源装置が必要となり、設備が大掛かりとなることに加え、シアン塩を用いることから廃水処理に多大なコストが発生する。さらに、アルミニウム基材に化成皮膜を形成する場合には、不純物が多く含有されることになり、皮膜の純度が低下し、皮膜の熱伝導性が低下するため、摺動特性の低い膜になってしまうという問題があった。
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面と銀皮膜との密着性の向上を図った摺動部材の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、摺動に最適な純度の高い銀皮膜を簡易な手法で形成するとともに高い密着性を確保し、かつ、製造プロセスから有害物質の使用を排除することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材に銀を成膜して摺動面を形成する摺動部材の製造方法であって、前記基材の表面に熱硬化性を有する樹脂材を塗布し、この樹脂材が硬化する前に極性溶媒に銀粒子を分散させた懸濁溶液を前記樹脂材上にコーティングし、このコーティングした懸濁溶液と前記樹脂材に超音波振動を与え、当該超音波振動が与えられた懸濁溶液、樹脂材及び基材を加熱して、前記樹脂材を硬化させるとともに前記極性溶媒を除去し、当該樹脂材の表面に前記銀粒子同士を融着させて前記摺動面を形成したことを特徴とする。
この構成によれば、銀粒子の融着により形成された銀皮膜と基材とが、樹脂材を硬化させた樹脂層を介して接合されるため、これら基材と銀皮膜との密着応力を向上させることができ、機械的強度に優れた銀皮膜が施された摺動部材を簡単に形成することができる。さらに、硬化する前の液状態にある樹脂材上に銀粒子を分散させた懸濁溶液をコーティングし、このコーティングした懸濁溶液と前記樹脂材とに超音波振動を与えるため、この超音波振動により懸濁溶液と樹脂材との界面で、当該懸濁溶液と樹脂材とを積極的に混合させることができ、当該界面に銀と樹脂とが相互に混合した相互混合層を積極的に形成することができる。このため、この相互混合層により銀皮膜と樹脂層とが密着されるため、当該銀皮膜と樹脂層との接合力を向上させることができる。さらに、液状の樹脂材料の上に銀粒子が分散されたスラリーをコーティングした後に、これらを加熱することにより、樹脂材料を硬化させて樹脂層を形成する工程と、この樹脂層の外周面に銀皮膜層を形成する工程とを、一の工程にて実現することができるため、処理工程及び製造時間の短縮を図ることができる。
【0006】
また、本発明は、上記構成において、前記極性溶媒中に分散させる前記銀粒子の平均粒径を1nm〜80nmの範囲内としたことを特徴とする。銀粒子の平均粒径が大きくなると、これら銀粒子間の隙間が大きくなり、銀粒子を熱融着した際の銀皮膜中に存在する空隙が大きくなる。このため、単位体積当たりの銀皮膜に存在する銀金属の体積の比率(本明細書では、この比率を銀純度という)が小さくなり、銀皮膜の熱伝導度が低下することとなる。本構成では、銀粒子の平均粒径を1nm〜80nmの範囲内としたことにより、最大の平均粒径80nmに設定したとしても、銀皮膜中の銀純度を所定の基準値以上に保つことができ、熱伝導度の高い摺動部材を形成することができる。
【0007】
また、本発明は、上記構成において、前記加熱を行う際の加熱温度を160℃〜240℃の範囲内としたことを特徴とする。例えば、ナノサイズに調整された銀粒子は160℃以上に加熱すると熱融着する。一方、240℃以上に加熱すると、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の比強度(単位重量あたりの強度)が低下する。このため、本構成では、加熱温度を160℃〜240℃の範囲内としたため、基材の比強度を低下させることなく、ナノサイズの銀粒子を熱融着させることができる。
【0008】
また、本発明は、上記構成において、前記樹脂材として、イミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ナイロン系樹脂のいずれかを用いることを特徴とする。
また、本発明は、上記構成において、前記樹脂材に銀粒子を分散させたことを特徴とする。この構成によれば、懸濁溶液、樹脂材及び基材を加熱する際に、懸濁溶液中の銀粒子と樹脂材中の銀粒子とが融着することにより、銀皮膜と樹脂層との接合力をより一層向上させることができる。
【0009】
また、本発明は、上記構成において、前記樹脂材中に分散される前記銀粒子の平均粒径を4μm〜30μmの範囲内としたことを特徴とする。樹脂材(樹脂層)中の銀粒子の平均粒径が4μmよりも小さい場合には、この銀粒子と銀皮膜との接触面積が小さくなるため、樹脂層と銀皮膜との接合力が低下する。一方、樹脂材中の銀粒子の平均粒径が30μmよりも大きい場合には、この銀粒子が樹脂材中に分散しにくくなる。このため、本構成では、樹脂材中の銀粒子の平均粒径を4μm〜30μmの範囲内としたことにより、この樹脂材中の銀粒子と銀皮膜との接合力を向上させることができる。
【0010】
また、本発明は、上記構成において、前記樹脂材を塗布する前に、前記基材の表面の酸化膜の少なくとも一部を除去することを特徴とする。この構成によれば、基材の表面にアルミニウムまたはアルミニウム合金の新生面が形成されるため、この新生面と樹脂材が硬化して形成される樹脂層との密着性が向上する。また、本発明は、上記構成において、前記樹脂材を塗布する前に、前記基材の表面の少なくとも一部に凹凸を形成することを特徴とする。この構成によれば、凹凸を形成することにより、基材の表面と樹脂材との接触面積が増大するとともに、この樹脂材が凹部に侵入して、いわゆるアンカー効果を発揮することにより、当該樹脂材が硬化して形成される樹脂層と基材との密着性を向上することができる。
【0011】
また、本発明は、上記構成において、前記コーティングは、スクリーン印刷法により行うことを特徴とする。この構成によれば、銀粒子を分散させた懸濁溶液を樹脂材上に簡単にコーティングすることができる。また、本発明は、上記構成において、前記摺動部材は、ピストンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銀粒子の融着により形成された銀皮膜と基材とが、樹脂材を硬化させた樹脂層を介して接合されるため、これら基材と銀皮膜との密着応力を向上させることができ、機械的強度に優れた銀皮膜が施された摺動部材を簡単に形成することができる。さらに、硬化する前の液状態にある樹脂材上に銀粒子を分散させた懸濁溶液をコーティングし、このコーティングした懸濁溶液と樹脂材とに超音波振動を与えるため、この超音波振動により懸濁溶液と樹脂材との界面で、当該懸濁溶液と樹脂材とを積極的に混合させることができ、当該界面に銀と樹脂とが相互に混合した相互混合層を積極的に形成することができる。このため、この相互混合層により銀皮膜と樹脂層とが密着されるため、当該銀皮膜と樹脂層との接合力を向上させることができる。さらに、液状の樹脂材料の上に銀粒子が分散されたスラリーをコーティングした後に、これらを加熱することにより、樹脂材料を硬化させて樹脂層を形成する工程と、この樹脂層の外周面に銀皮膜層を形成する工程とを、一の工程にて実現することができるため、処理工程及び製造時間の短縮を図ることができる。
また、本発明によれば、銀粒子の平均粒径を1nm〜80nmの範囲内としたことにより、最大の平均粒径80nmに設定したとしても、銀皮膜中の銀純度を所定の基準値以上に保つことができ、熱伝導度の高い摺動部材を形成することができる。
また、本発明によれば、加熱温度を160℃〜240℃の範囲内としたため、基材の比強度を低下させることなく、ナノサイズの銀粒子を熱融着させることができる。
また、本発明によれば、前記樹脂材に銀粒子を分散させたため、懸濁溶液、樹脂材及び基材を加熱する際に、懸濁溶液中の銀粒子と樹脂材中の銀粒子とが融着することにより、銀皮膜と樹脂層との接合力をより一層向上させることができる。
また、本発明によれば、樹脂材中の銀粒子の平均粒径を4μm〜30μmの範囲内としたことにより、この樹脂材中の銀粒子と銀皮膜との接合力を向上させることができる。
また、本発明によれば、前記樹脂材を塗布する前に、前記基材の表面の酸化膜の少なくとも一部を除去するため、基材の表面にアルミニウムまたはアルミニウム合金の新生面が表れることで、この新生面と樹脂材が硬化して形成される樹脂層との密着性が向上する。
また、本発明によれば、前記樹脂材を塗布する前に、前記基材の表面の少なくとも一部に凹凸を形成するため、この凹凸により基材の表面と樹脂材との接触面積が増大するとともに、この樹脂材が凹部に侵入して、いわゆるアンカー効果を発揮することにより、当該樹脂材が硬化して形成される樹脂層と基材との密着性を向上することができる。
また、本発明は、上記構成において、前記コーティングは、スクリーン印刷法により行うことを特徴とする。この構成によれば、銀粒子を分散させた懸濁溶液を樹脂材上に簡単にコーティングすることができる。
また、本発明は、コーティングは、スクリーン印刷法により行うため、銀粒子を分散させた懸濁溶液を樹脂層上に簡単にコーティングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るピストンの側面図である。
【図2】ピストンの皮膜層を示す側断面図である。
【図3】図3Aは、スラリー中に分散された銀粒子を示す模式図であり、図3Bは、銀粒子同士が融着して形成された銀皮膜層を示す模式図である。
【図4】アルミニウム合金の比強度と加熱温度との関係を示すグラフである。
【図5】銀粒子を含むスラリーの加熱温度の変化に対するスラリー重量および発生熱量の変化を示すグラフである。
【図6】銀粒径と銀純度との関係を示すグラフである。
【図7】樹脂材料の硬化前と硬化後にそれぞれスラリーをコーティングした場合における銀皮膜層の剥離面積率を比較したグラフである。
【図8】ポリアミドイミド樹脂及びスラリーに超音波振動を付与して界面に相互混合層を形成する超音波振動装置の一例である。
【図9】超音波振動を付与せずに形成したピストンと、超音波振動を付与して形成したピストンにおけるせん断剥離強度の結果を比較したグラフである。
【図10】別の実施形態にかかるピストンの皮膜層を示す側断面図である。
【図11】樹脂層内の銀粒子の粒径と銀皮膜層−樹脂層間の接合力との関係を示すグラフである。
【図12】樹脂層内の銀粒子と銀皮膜層とが融着している状態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明にかかる摺動部材としてのピストン1の一実施形態を示す側面図である。図1は皮膜層2の一部を破断して描かれている。図2は、ピストン1の皮膜層2を示す側断面図である。図2は、ピストン1が往復運動するシリンダボア3の一部を合わせて描かれている。
【0015】
ピストン(摺動部材)1は、図1に示すように、アルミニウム合金製の本体(基材)10を備える。この本体10はランド部10Aとスカート部10Bとを備えて略円筒形状に形成され、スカート部10Bにおける本体10の外周面(表面)11に皮膜層2が形成されている。この皮膜層2は、図2に示すように、本体10の外周面11に密着される樹脂層20と、この樹脂層20の外周面(表面)20Aに密着される銀皮膜層21とを備え、この銀皮膜層21と樹脂層20との界面30には、銀皮膜層21の銀と樹脂層20の樹脂材料(樹脂材)とが、相互に物理的に混合された状態で存在する相互混合層26が形成されている。この相互混合層26は、銀と樹脂材料とが化学的に結合するものではなく、樹脂層20の外周面20Aに凹凸を形成し、この凹凸に銀を侵入させることにより、いわゆるアンカー効果を生じさせ、銀皮膜層21と樹脂層20との密着性を向上させるものである。
【0016】
銀皮膜層21は、被摺動部材としての鋳鉄製のシリンダボア3の内壁3Aに対する摺動面22を形成し、この摺動面22は、ピストン1(スカート部10B)が矢印X方向に移動した際に、潤滑油(不図示)を介して、シリンダボア3の内壁3Aにすべり接触(摺動)する。
銀は、一般に、硬度が軟らかく、熱伝導性に優れた金属である。このため、銀皮膜層21をピストン1の摺動面22として形成することにより、この銀皮膜層21が初動時にシリンダボア3の内壁3Aにすべり接触する際に容易に磨滅(初期磨滅)して変形するため、内壁3Aとのフリクションを低減した摺動特性に優れた摺動面22を簡易に実現できる。さらに、銀皮膜層21に伝達された熱を、潤滑油を介して、早期に外部に放出することができ、本体10の冷却効率を高めることができる。なお、この図2は、皮膜層2を模式的に表したものであるため、樹脂層20、銀皮膜層21もしくは相互混合層26の厚み、および、凹部11Aの大きさ(深さ)がそれぞれ相対的な関係を示すものではない。
【0017】
本体10(スカート部10B)の外周面11には、微細な凹部11Aが形成されている。具体的には、凹部11Aは、外周面11に向けて所定の粒径(例えば、10μm)に調整された投射材を圧縮空気等で投射するショットブラスト法により形成される。この凹部11Aは、本体10の外周面11と樹脂層20との接触面積を増大させるためのものである。これにより、本体10の外周面11に樹脂層20(皮膜層2)を形成した際に、この樹脂層20が凹部11Aに侵入して、いわゆるアンカー効果を発揮することにより、本体10と樹脂層20との密着性を向上することができる。
本体10は、アセトン溶液内に浸漬された状態で所定時間(10分間)超音波洗浄が施されて、外周面11に付着した油脂分が除去されたのち、この外周面11に硬化する前の液状の樹脂材料が塗布される。また、本構成では、樹脂材料を塗布する前に、外周面11に形成された酸化膜(酸化アルミニウム(Al23))の少なくとも一部を除去することが望ましい。これによれば、本体10の外周面11にアルミニウム合金の新生面が形成されるため、この新生面と樹脂層20との密着性が向上する。
【0018】
樹脂層20は、耐熱性に優れた熱硬化性の樹脂材料であるポリアミドイミド(PAI:Polyamide Imide)樹脂24で形成され、液状のポリアミドイミド樹脂24を本体10の外周面11に塗布して硬化させることにより樹脂層20が形成される。この樹脂層20は、基材であるピストン1の本体10と摺動面22となる銀皮膜層21とを密着させる中間接合層として機能するものであり、当該樹脂層20の厚みt1は1μm〜20μmに設定される。
本実施形態では、樹脂材料としてポリアミドイミド樹脂を用いているがこれに限るものではなく、熱硬化性を有するものであれば、同じくイミド系樹脂であるポリイミドや、エポキシ系樹脂であるエポキシ、または、ナイロン系樹脂であるナイロン6、ナイロン6,6を用いることもできる。
【0019】
銀皮膜層21は、所定のナノサイズの平均粒径(1nm〜80nm)に調整された銀粒子をそれぞれ融着させて形成される。具体的には、上記した平均粒径の銀粒子を極性溶媒であるテルピネオールに分散させて所定の粘度(例えば10cp)に調整したスラリー(懸濁溶液)を作成し、このスラリーをスクリーン印刷法によって、硬化する前の樹脂材料上にコーティング(塗布)する。本実施形態では、400メッシュのスクリーンを介してスラリーを樹脂材料の外周面上に塗布しているため、硬化する前の樹脂材料上にも簡単にスラリーを所定の厚みに塗布することができる。
そして、このスラリーを樹脂材料上に塗布した状態で、当該スラリー及び樹脂材料に超音波振動を与える。この超音波振動により、スラリーと樹脂材料との界面では、スラリーと樹脂材料とが積極的に混合させるため、当該界面に上記した相互混合層26(図2)が形成される。超音波振動を与える構成については後述する。
超音波振動を与えた後、当該スラリー、樹脂材料および本体10を加熱炉等で加熱することにより、樹脂材料を硬化させて樹脂層20が形成されるとともに、スラリー中のテルピネオールが蒸発し、樹脂層20の外周面20A上で銀粒子同士が融着される。具体的には、図3Aに示すように、スラリー中の銀粒子23は、それぞれ他の銀粒子23と接点23Aで接した状態で存在する。このスラリーを加熱すると、図3Bに示すように、銀粒子23同士が接点23Aにて融着して一体化し、銀皮膜層21が形成される。
【0020】
次に、銀皮膜層21を形成する際の加熱温度条件について説明する。
図4は、アルミニウム合金の比強度と加熱温度との関係を示すグラフである。この図4では、0〜200℃までのアルミニウム合金の比強度(単位重量あたりの強度)を1.0として200℃以上の範囲の変化を示している。アルミニウム合金の強度は、ロックウェル硬さ試験により算出している。
本体10を形成するアルミニウム合金は、加熱温度が上昇すると比強度(単位重量あたりの強度)が低下する傾向にあることが判明している。具体的には、図4に示すように、0〜200℃までの範囲では、比強度が1.0のまま低下することなく推移するが、200℃以上になると次第に低下する傾向にある。一般に、内燃機関のピストンなどの過酷な環境下では、基材となるアルミニウム合金に最低限の強度が要求される。このため、出願人は、アルミニウム合金をピストン等に用いる場合に、当該アルミニウム合金の比強度の下限値を社内基準で定めており、この下限値は、0〜200℃の比強度1.0に対して、0.85に設定されている。これにより、本実施形態では、アルミニウム合金の加熱温度は、比強度の下限値0.85よりも大きな比強度0.9に対応する240℃以下に設定されている。
図5は、銀粒子を含むスラリーの加熱温度の変化に対するスラリー重量および発生熱量の変化を示すグラフである。この図5に示すように、スラリーの発生熱量は、185℃をピークとして160℃〜200℃の間で大きくなっている。これは、この温度帯において、スラリー中の銀粒子が融着(重合)する際の反応熱が生じていることを示し、言い換えれば、この160℃〜200℃の温度に加熱することにより、スラリー中の銀粒子を融着して銀皮膜層21を形成することができる。
また、本実施形態では、樹脂材料としてポリアミドイミド樹脂を用いており、このポリアミドイミド樹脂は、160℃〜200℃の温度に加熱して銀粒子を融着させる時間内に熱硬化が完了する。従って、本構成では、液状の樹脂材料の上に銀粒子が分散されたスラリーをコーティングし、これらを加熱することにより、樹脂材料を硬化させて樹脂層20を形成する工程と、この樹脂層20の外周面20Aに銀皮膜層21を形成(焼成)する工程とを、一の工程にて実現することができるため、処理工程及び製造時間の短縮を図ることができる。
【0021】
一方、スラリーの重量は、加熱温度が80℃程度から減少し、140℃付近で減少度が小さくなるものの、180℃付近で再び減少して200℃付近で略横ばいとなっている。この減少分は、極性溶媒であるテルピネオールの溶媒重量Wであり、加熱温度を200℃とした際にほとんどすべての溶媒が蒸発しているのが望ましい。また、本構成では、スラリーを常温下で樹脂層20上にコーティングするため、この常温下では蒸発しにくいものが望ましい。本実施形態では、極性溶媒としてテルピネオールを用いており、このテルピネオールは、図5に示すように、常温での重量変化は少ないため、コーティング作業工程中にスラリー中の溶媒が蒸発して、スラリーの粘度や濃度が変化することが少ないため、コーティング工程でのむらが小さくなり、安定した品質のコーティングを行うことができる。また、テルピネオールは、200℃に加熱した状態では、ほぼすべて蒸発しているため、銀皮膜層21中の銀の比率を高めることができる。
【0022】
本実施形態では、極性溶媒としてアルコール系溶媒であるテルピネオールを用いているがこれに限るものではなく、同じくアルコール系溶媒であるノナノールやエチレングリコール、水系溶媒であるPGMEA(propyleneglycol monomethyl ether acetate)、または、ケトン系溶媒であるメチルエチルケトンを用いることもできる。この場合、いずれの溶媒を使用しても、常温下ではほとんど蒸発せずに、銀皮膜層21を生成するための加熱温度である160℃〜200℃に加熱した際にほとんどすべて蒸発している特性を備えている。
【0023】
次に、スラリー中の銀粒子の粒径について説明する。
図6は、銀粒径と銀純度との関係を示すグラフである。ここで、銀純度とは、単位体積当たりの銀皮膜層21に存在する銀金属の体積の比率をいう。上述したように、銀皮膜層21は、銀粒子23を加熱して融着させることにより形成している。このため、銀粒子23の平均粒径が大きくなると、図6に示すように、銀粒子23間の空隙が大きくなることにより銀純度が低下する傾向にある。
銀純度が低下すると、これに伴い銀皮膜層21の熱伝導度が低下して摺動性が悪化するため、摺動に適した所定の熱伝導度を確保するためには、所定の閾値(銀純度90%)以上とする必要がある。このため、銀粒子23の平均粒径を1nm〜80nmの範囲内としたことにより、最大の平均粒径80nmに設定したとしても、銀皮膜層21中の銀純度を摺動に適した所定の基準値以上に保つことができ、熱伝導度の高いピストン1を形成することができる。
また、銀皮膜層21は、図2に示すように、この銀皮膜層21の厚みt2が1μm〜20μmの範囲に設定されている。この銀皮膜層21の厚みt2を1μmよりも薄くすることはスクリーン印刷法では困難であるとともに、1μmよりも薄いと、本体10もしくは樹脂層20が露出して摺動面22が平滑に形成されないためである。一方、銀皮膜層21の厚みt2を20μmよりも厚くしても、施工コストが増大するだけで、摺動特性に大きな変化が見られないためである。さらに、銀皮膜層21の厚みt2を上記した範囲では十分に小さなフリクションを実現できることが分かっている。従って、本実施形態では、銀皮膜層21の厚みt2を、1μm〜20μmの範囲内としたため、安価な構成で、銀皮膜層21によるフリクションの小さい摺動面22を備えたピストン1を形成することができる。
【0024】
ところで、本構成では、本体10と銀皮膜層21との間に樹脂層20を設け、この樹脂層20により本体10と銀皮膜層21とを接合することにより、これら本体10と銀皮膜層21との密着性を向上させ、機械的強度に優れた銀皮膜が施されたピストン1を簡単に形成している。この場合、ピストン1はエンジンのシリンダボア3内のような過酷な環境下で使用されるため、銀皮膜層21の密着性がより高いものが望ましく、出願人は本体10と銀皮膜層21との密着性がより向上する製造工程を模索した。
出願人が実験を重ねた結果、他の条件を同一とした場合、(1)硬化させた樹脂層20の外周面20Aにスラリーをコーティングし、このスラリーを加熱して樹脂層20の外周面20Aに銀皮膜層21を形成したものに比べて、(2)液状の樹脂材料の上に銀粒子が分散されたスラリーをコーティングし、これらスラリー及び樹脂材料を加熱したものの方が、銀皮膜層21と樹脂層20との密着強度が高いことが判明した。
【0025】
図7は、樹脂材料の硬化前と硬化後にスラリーをコーティングした場合における銀皮膜層21の剥離面積率を比較したグラフである。剥離面積率とは、銀皮膜された本体10に接着テープを貼り付けた後に、当該テープを本体10から剥がすテープ剥離試験を行い、その際に本体10から剥離されてテープの接着面に付着した銀皮膜の面積と当該テープの接着面の面積との比率をいう。
本実施形態では、銀皮膜層21の剥離面積率は、タンブリング試験後にテープ剥離試験を行い、その際に本体から剥離されてテープの接着面に付着した銀皮膜の面積から求めている。また、タンブリング試験とは、円筒容器内に直径2〜5mmの鋼球を数kg分と、評価用のワーク(ここでは銀皮膜が施された本体10)とを入れた後、円筒容器を50〜100rpmで20〜30min回転させ、鋼球をワークの表面に叩きつけて銀皮膜に意図的にダメージを与える試験である。
この図7によれば、(1)樹脂材料(PAI)が硬化後にスラリーをコーティングした工程で製造された銀皮膜層21の剥離面積率を100%とした場合に、(2)樹脂材料が硬化前にスラリーをコーティングした工程で製造された銀皮膜層21の剥離面積率は5%と、剥離量が95%低下する結果となった。
ポリアミドイミド樹脂は、硬化する前であってもスラリー中のテルピネオールに対して溶解や化学反応することはない。しかし、液状のポリアミドイミド樹脂の上に銀粒子が分散されたスラリーをコーティングすることにより、これらポリアミドイミド樹脂24とスラリーとの界面では、例えば、銀粒子のブラウン運動や、テルピネオールとポリアミドイミド樹脂24との比重差に基づいて、スラリーとポリアミドイミド樹脂24とが相互に混合する相互混合層26(図2)が形成されるものと考えられる。
【0026】
上述のように、液状のポリアミドイミド樹脂上にスラリーをコーティングすることでポリアミドイミド樹脂24とスラリーとの界面に相互混合層26が形成され、この相互混合層26においてポリアミドイミド樹脂24と銀とが複雑に噛み合うことにより、いわゆるアンカー効果が発揮され、銀皮膜層21と樹脂層20との密着性が向上する。
出願人は、ポリアミドイミド樹脂24及びスラリーに外力を付与することで、上記界面にてポリアミドイミド樹脂24とスラリーとをより一層混合すれば、より密着性の高い相互混合層26を早期に安定して形成することができると考え、液状のポリアミドイミド樹脂上にスラリーをコーティングした後に、これらポリアミドイミド樹脂及びスラリーに超音波振動を与える工程に想い到った。
【0027】
図8は、ポリアミドイミド樹脂及びスラリーに超音波振動を付与して界面に相互混合層26を形成する超音波振動装置の一例である。
この超音波振動装置45は、プラスチックまたはガラス等で形成された水槽40と、この水槽40内に配置された超音波発生器42とを備える。水槽40は天板40Aを備え、この水槽40の内部空間41には底板40Bから天板40Aまで水(液体)43で満たされている。天板40Aの上には、液状のポリアミドイミド樹脂24上にスラリー28がコーティングされた本体10が配置される。この場合、本体10の下面は、天板40Aとの接触面となるため、この下面にはポリアミドイミド樹脂24及びスラリー28が塗布されていない。
また、水槽40の底板40Bの上には天板40Aと所定間隔Lを開けて超音波発生器42が載置されている。この超音波発生器42は、所定範囲で周波数を変更して出力可能に構成されており、出力された超音波は、水槽40内の水43、天板40Aを介して、本体10に伝達される。
【0028】
本実施形態では、水槽40内の水温を20℃〜65℃に設定するとともに、超音波発生器42の発信出力を900W、周波数を35kHzとして、本体10に対して3分間、超音波を与えた。
この本体10に与えられた超音波振動は、本体10からポリアミドイミド樹脂24、スラリー28へと伝達されることにより、これらポリアミドイミド樹脂24とスラリー28との界面30では、伝達された超音波振動により、ポリアミドイミド樹脂24、スラリー28が移動して相互に混合される相互混合層26(図2)が形成される。
【0029】
図9は、超音波振動を付与せずに形成したピストンと、超音波振動を付与して形成したピストンにおけるせん断剥離強度の結果を比較したグラフである。
せん断剥離強度は、SAICAS(Surface And Interfacial Cutting Analysis System)試験機により、皮膜と基材との密着強度を数値化したものである。
この図9によると、超音波振動を与えていないものでは、0.03N/mであったせん断剥離強度の値が、超音波振動を与えることにより、0.22N/mとなり、超音波振動を付えないものの約7倍の値となっている。
これは、ポリアミドイミド樹脂24及びスラリー28に超音波振動を与えることにより、このポリアミドイミド樹脂24とスラリー28との界面30において、これらポリアミドイミド樹脂24及びスラリー28が積極的に混ざり合うため、超音波振動を与えていないものよりも厚みの厚い相互混合層26(図2)が形成されたからと想定される。
さらに、本実施形態では、超音波振動は、本体10を介して、ポリアミドイミド樹脂24、スラリー28へ伝達されるため、これらポリアミドイミド樹脂24とスラリー28との界面30には略均等な振動を与えることができる。このため、界面30で形成される相互混合層26を略均等な厚みに調整することが可能となり、従って、銀皮膜層21と樹脂層20との接合強度が略均一なピストン1を形成することができる。
【0030】
次に、別の実施形態について説明する。
図10は、別の実施形態にかかるピストン1の皮膜層2を示す側断面図である。この実施形態では、樹脂層20は、ポリアミドイミド樹脂24内に所定の平均粒径(4μm〜30μm)に調整された銀粒子25を混合したものとして構成され、その他の構成については、上述のものと同じであるため、同一の構成のものには同一の符号を付して説明を省略する。本構成では、銀粒子25の平均粒径の最大値は、樹脂層20の厚みt1よりも大きく設定されており、図10に示すように、銀粒子25は、樹脂層20の外周面20Aから突出する。このため、銀皮膜層21の形成過程で、銀粒子25は、銀皮膜層21と融着して当該銀皮膜層21と樹脂層20との密着性をより一層高める機能を有する。
図11は、樹脂層20内の銀粒子25の粒径と銀皮膜層21−樹脂層20間の接合力との関係を示すグラフである。図12は、相互混合層26において樹脂層20内の銀粒子25と銀皮膜層21とが融着している状態を示す断面模式図である。
この銀皮膜層21と樹脂層20との接合力は、スクラッチ試験という方法を用い、触芯を一定荷重で皮膜へ押し付け、この皮膜を触芯が貫通した状態で、触芯先端からを垂直方向へ触芯を動かした際の触芯変位量から、剥離が発生した力を測定して接合強度を測定している。
上述したように、銀皮膜層21と樹脂層20とは、この樹脂層20中の銀粒子25が銀皮膜層21を形成する際にスラリー中の銀粒子23と融着することにより密着している。具体的には、図12に示すように、樹脂層20の外周面20Aに露出した銀粒子25が露出面25Aにて銀皮膜層21(銀皮膜層21を形成する銀粒子23)と融着することにより、銀皮膜層21と樹脂層20とが密着している。ここで、本実施形態では、樹脂層20が含有する銀粒子25の平均粒径は、4μm〜30μmの範囲内に設定されている。樹脂層20中の銀粒子25の平均粒径が4μmよりも小さい場合には、この銀粒子25と銀皮膜層21を形成する銀粒子23との接触面積が小さくなるため、図11に示すように、樹脂層20と銀皮膜層21との接合力が低下する。一方、樹脂層20中の銀粒子25の平均粒径が30μmよりも大きい場合には、この銀粒子25が樹脂層20中に分散しにくくなる。このため、本実施形態では、樹脂層20中の銀粒子25の平均粒径を4μm〜30μmの範囲内としたことにより、この樹脂層20中の銀粒子25と銀皮膜層21との接合力を向上させることができる。
ここで、銀粒子25の平均粒径を30μmとした場合には、この銀粒子25が樹脂層20の外周面20Aに形成される銀皮膜層21の摺動面22から突出することとなる。この場合、この突出した部分は、初動時にシリンダボア3の内壁3Aにすべり接触して磨滅(初期磨滅)するため、摺動面22は、内壁3Aとのフリクションを低減した面として形成されることとなる。
【0031】
以上、説明したように、本実施形態によれば、アルミニウム合金からなる本体10の外周面11に銀を成膜して摺動面22を形成するピストン1の製造方法であって、本体10の外周面11に熱硬化性を有するポリアミドイミド樹脂24を塗布し、このポリアミドイミド樹脂24が硬化する前にテルピネオールに銀粒子23を分散させたスラリー28をポリアミドイミド樹脂24上にコーティングし、このコーティングしたスラリー28とポリアミドイミド樹脂24に超音波振動を与えた後、スラリー28、ポリアミドイミド樹脂24及び本体10を加熱して、ポリアミドイミド樹脂24を硬化させるとともにテルピネオールを除去し、当該ポリアミドイミド樹脂24の表面に銀粒子23同士を融着させて摺動面22を形成したため、この摺動面22を構成する銀皮膜層21と本体10とがポリアミドイミド樹脂24を硬化させた樹脂層20を介して接合される。このため、製造プロセスにおいて有害物質を使用することなく、これら本体10と銀皮膜層21との密着応力を向上させることができ、機械的強度に優れた銀皮膜層21が施されたピストン1を簡単に形成することができる。
さらに、本実施形態によれば、硬化する前の液状態にあるポリアミドイミド樹脂24上にスラリーをコーティングし、このコーティングしたスラリー28とポリアミドイミド樹脂24に超音波振動を与えることにより、これらポリアミドイミド樹脂24とスラリー28との界面30で、ポリアミドイミド樹脂24とスラリー28とが積極的に相互に混合される相互混合層26が形成され、この相互混合層26により銀皮膜層21と樹脂層20とが密着されるため、当該銀皮膜層と樹脂層20との接合力を向上させることができる。
さらに、液状のポリアミドイミド樹脂24上にスラリーをコーティングした後に、これらを加熱することにより、ポリアミドイミド樹脂24を硬化させて樹脂層20を形成する工程と、この樹脂層20の外周面20Aに銀皮膜層21を形成する工程とを、一の工程にて実現することができるため、処理工程及び製造時間の短縮を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、テルピネオール中に分散させる銀粒子23の平均粒径を1nm〜80nmの範囲内としたため、最大の平均粒径80nmに設定したとしても、銀皮膜層21中の銀純度を摺動に適した所定の基準値以上に保つことができ、熱伝導度の高いピストン1を形成することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、、加熱を行う際の加熱温度を160℃〜240℃の範囲内としたため、本体10の比強度を低下させることなく、ナノサイズの銀粒子23を熱融着させて銀皮膜層21を形成することができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、ポリアミドイミド樹脂24中に銀粒子25が含有されており、銀粒子25と銀皮膜層21とを融着させたため、ポリアミドイミド樹脂24が硬化して形成された樹脂層20と銀皮膜層21との接合力をより一層向上させることができる。ここで、ポリアミドイミド樹脂24に分散される銀粒子25の平均粒径を4nm〜30nmの範囲内としたため、樹脂層20中の銀粒子25と銀皮膜層21との接合力を向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、ポリアミドイミド樹脂24を塗布する前に、本体10の外周面11の酸化膜の少なくとも一部を除去するため、本体10の外周面11にアルミニウム合金の新生面が形成されるため、この新生面とポリアミドイミド樹脂24が硬化して形成される樹脂層20との密着性が向上する。
また、本実施形態によれば、ポリアミドイミド樹脂24を塗布する前に、本体10の外周面11の少なくとも一部に凹凸を形成するため、本体10の外周面11とポリアミドイミド樹脂24との接触面積が増大するとともに、このポリアミドイミド樹脂24が凹部11Aに侵入して、いわゆるアンカー効果を発揮することにより、本体10と樹脂層20との密着性を向上することができる。
また、本実施形態によれば、コーティングは、スクリーン印刷法により行うため、銀粒子23を分散させたスラリーを硬化前のポリアミドイミド樹脂24上に簡単にコーティングすることができる。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。例えば、本実施形態では、ピストン1の本体10をアルミニウム合金にて形成した構成について説明したが、この本体10をアルミニウム金属で形成したものであってもよいことは勿論である。
また、本実施形態では、摺動部材としてピストン1のスカート部10Bに銀皮膜層21を形成する構成について説明したが、これに限るものではなく、この銀皮膜層21をクランクシャフト、軸受メタル、カムシャフト等の摺動面に形成してもよい。
また、本実施形態では、ポリアミドイミド樹脂24及びスラリー28に超音波振動を与える構成として超音波振動装置を一例として説明したが、これらポリアミドイミド樹脂24及びスラリー28に超音波振動を与えられるのであれば、他の構成を用いても構わない。
また、本実施形態では、ポリアミドイミド樹脂24及びスラリー28に超音波振動を与えた後に、スラリー28、ポリアミドイミド樹脂24及び本体10を加熱する手順として説明しているが、加熱炉等の内部で加熱しながら超音波振動を与えることができるのであれば、ポリアミドイミド樹脂24及びスラリー28に超音波振動を与えつつ、スラリー28、ポリアミドイミド樹脂24及び本体10を加熱する手順としても良い。この場合、処理工程及び製造時間をより一層短縮することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ピストン(摺動部材)
2 皮膜層
3 シリンダボア(被摺動部材)
3A 内壁
10 本体(基材)
10A ランド部
10B スカート部
11 外周面(表面)
11A 凹部
20 樹脂層
20A 外周面
21 銀皮膜層
22 摺動面
23 銀粒子
24 ポリアミドイミド樹脂(樹脂材)
25 銀粒子
26 相互混合層
28 スラリー(懸濁溶液)
40 水槽
40A 天板
42 超音波発生器
43 水(液体)
45 超音波振動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材に銀を成膜して摺動面を形成する摺動部材の製造方法であって、
前記基材の表面に熱硬化性を有する樹脂材を塗布し、
この樹脂材が硬化する前に極性溶媒に銀粒子を分散させた懸濁溶液を前記樹脂材上にコーティングし、このコーティングした懸濁溶液と前記樹脂材とに超音波振動を与え、当該超音波振動を与えた懸濁溶液、樹脂材及び前記基材を加熱して、前記樹脂材を硬化させるとともに前記極性溶媒を除去し、当該樹脂材の表面に前記銀粒子同士を融着させて前記摺動面を形成したことを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記極性溶媒中に分散させる前記銀粒子の平均粒径を1nm〜80nmの範囲内としたことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記加熱を行う際の加熱温度を160℃〜240℃としたことを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂材として、イミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ナイロン系樹脂のいずれかを用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂材に銀粒子を分散させたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂材中に分散される前記銀粒子の平均粒径を4μm〜30μmの範囲内としたことを特徴とする請求項5に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂材を塗布する前に、前記基材の表面の酸化膜の少なくとも一部を除去することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂材を塗布する前に、前記基材の表面の少なくとも一部に凹凸を形成することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項9】
前記コーティングは、スクリーン印刷法により行うことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項10】
前記摺動部材は、ピストンであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−217892(P2012−217892A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84395(P2011−84395)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】