説明

摺動面構造

【課題】負荷容量の低減を抑えながら周期構造部の攻撃性を緩和できる摺動面構造を提供する。
【解決手段】第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとが潤滑剤L下で相対的に摺動する摺動面構造である。第1部材1と第2部材2との少なくともいずれか一方の摺動面1aに、グレーティング状凹凸の周期構造部3と周期構造未形成部4とが摺動方向に沿って交互に形成される。周期構造部3は摺動面周縁1bに連通される。周期構造部3の凸部高さ位置10を未形成部4の高さ位置11よりも低く設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面テクスチャリングは流体潤滑領域の拡大や摩擦低減など、摺動特性の改善手法の一つとなっている。サブミクロンの周期ピッチと溝深さをもつグレーティング状の周期構造部はサブミクロンの油膜厚さにおいて、極めて高い負荷能力と剛性をもつことが知られており、往復摺動や回転摺動に利用されている。
【0003】
しかし、起動直後や停止直前など十分な動圧が得られない場面では、周期構造部による攻撃性が問題となる。ここで、周期構造部による攻撃性とは、相手側部材に対する摩耗増大性や損傷性等である。周期構造部の攻撃性を緩和するためには、周期構造部の凸部高さを周期構造未形成部分と面一な高さより低くすることが有効である。
【0004】
そこで、従来においては、摺動面に、周期構造部の凸部よりも高さ位置が高位となる凸部を回転中心部に設けたスラスト軸受がある(特許文献1)。このスラスト軸受では、回転停止時において、摺動面(相手側の摺動面に対面する面)の全体がこの相手側の摺動面に接触することなく、凸部の頂点の接触となる。このため、起動時において、凸部の頂点と相手側の摺動面との接触が、回転中心付近に限定され、摩擦による起動トルクへの影響を小さいものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−12456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のものでは、摺動面上に凸部を形成する必要がある。この場合の形成方法として、凸部を別部材として形成した後、この摺動面に接合する方法、又は凸部を残すように切削や研削する方法等がある。このため、いずれの形成方法もその加工工程が多く、生産性に劣るものであった。
【0007】
また、凸部を形成することによって、周期構造部にて形成される油膜が厚くなる傾向にある。このように、油膜が厚くなると、低負荷容量および低剛性を招くことになる。
【0008】
周期構造部の凸部高さを周期構造未形成部分と面一な高さより低くしすぎると負荷容量に悪影響が出る。そのため、負荷容量に影響が出にくいパターニングの開発と適正な高さの設定が望まれている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みて、負荷容量の低減を抑えながら周期構造部の攻撃性を緩和できる摺動面構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の摺動面構造は、第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造であって、第1部材と第2部材との少なくともいずれか一方の摺動面に、グレーティング状凹凸の周期構造部と周期構造未形成部とが摺動方向に沿って交互に形成されるとともに、前記周期構造部は摺動面周縁に連通され、かつ、周期構造部の凸部高さ位置を未形成部の高さ位置よりも低く設定したものである。
【0011】
本発明の摺動面構造によれば、周期構造部の凸部高さ位置を未形成部の高さ位置よりも低く設定したことによって、摺動起動時及び摺動停止時における周期構造部による攻撃性が緩和される。ここで、周期構造部による攻撃性とは、相手側部材に対する摩耗増大性や損傷性等である。また、周期構造部が摺動面周縁に連通されているので、第1部材と第2部材の摺動動作によって、摺動面周縁から潤滑剤を摺動面内方へ導入することができる(この作用を流体導入効果と呼ぶ)。周期構造部と周期構造未形成部とが摺動方向に沿って交互に形成され、しかも、周期構造部の凸部高さ位置を未形成部の高さ位置よりも低く設定することによって、周期構造部と未形成部との境界で圧力が発生し、摺動方向に圧力勾配ができる(この作用をステップ効果と呼ぶ)。このように、周期構造部と未形成部とを設けることによって、周期構造部の凸部高さ位置と未形成部の高さ位置との高低差を大きくしても負荷容量の減少を少なくできる。
【0012】
したがって、本発明の摺動面構造では、流体導入効果とステップ効果とを併せ持つことになる。ステップ効果による負荷容量は流体導入効果の負荷容量に比べて、周期構造部の凸部高さ位置が周期構造未形成部の高さ位置よりも低くなることによる影響が小さい。
【0013】
前記周期構造部の凸部高さ位置と未形成部の高さ位置との高低差を前記摺動面の算術平均粗さ以上とするのが好ましい。また、前記周期構造部の凸部高さ位置と未形成部の高さ位置との高低差を前記摺動面の最大高さ粗さ以下とするのが好ましい。
【0014】
周期構造部の周期ピッチを10μm以下とするのが好ましく、周期構造部の凹部の深さが1μm以下とするのが好ましい。
【0015】
周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成されているのが好ましい。また、周期構造部と前記高低差とは同時加工により形成されてなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の摺動面構造では、摺動起動時及び摺動停止時における周期構造部による攻撃性が緩和され、相手側部材の摩耗増大を防止でき、摺動面構造として長期にわたって安定した機能を発揮することができる。また、流体導入効果とステップ効果とを併せ持つことになり、負荷容量の低減を低く抑えながら周期構造部の攻撃性を有効に緩和でき、高品質の摺動面構造の提供が可能となる。
【0017】
周期構造部の凸部高さ位置と未形成部の高さ位置との高低差を前記摺動面の算術平均粗さ以上とすれば、起動直後や停止直前など十分な動圧が得られない場面でも周期構造部がほとんど荷重支持することなく摺動することになる。このため、周期構造部の攻撃性を大幅に低減することができる。
【0018】
前記周期構造部の凸部高さ位置と未形成部の高さ位置との高低差を前記摺動面の最大高さ粗さ以下とすれば、負荷容量の大幅な低下を防止することができる。
【0019】
周期構造部の凹凸ピッチを10μm以下とした場合、潤滑剤の漏れ(側方漏れ)を冗長的に抑えることができ、効率的に動圧を得ることができる。周期構造部の凹部の深さを1μm以下とした場合、動圧発生時の浮上量の変動を減少でき、剛性向上に寄与する。
【0020】
周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成したものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さを持つものを容易に形成できる。
【0021】
周期構造部と前記高低差とが同時加工により形成されるものでは、加工時間を短縮できて生産性の向上及び低コスト化を図ることができる。また、同時加工は、レーザの出力を調整することにより可能で安定して高精度に、周期構造部と前記高低差を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態を示す摺動面構造の要部拡大断面図である。
【図2】前記図1に示す摺動面構造の周期構造部を有する摺動面の簡略図である。
【図3】前記摺動面に形成される周期構造部の拡大図である。
【図4】前記周期構造部を形成するためのレーザ表面加工装置の簡略図である。
【図5】周期構造部の溝方向が摺動方向に沿って交互に相反する方向とされた摺動面の簡略図である。
【図6】往復動摺動パターンの周期構造部が形成された摺動面の簡略図である。
【図7】スパイラルパターンの周期構造部が形成された摺動面の簡略図である。
【図8】ステップパターンの周期構造部が形成された摺動面の簡略図である。
【図9】掘り下げ深さと負荷容量との関係を示すグラフ図である。
【図10】掘り下げ深さと負荷容量との関係を示すグラフ図である。
【図11】すべり速度と摩擦係数との関係を示すグラフ図である。
【図12】算術平均粗さの定義を説明するためのグラフ図である。
【図13】最大高さ粗さの定義を説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明の実施の形態を図1〜図13に基づいて説明する。
【0024】
本発明に係る摺動面構造は、図1に示すように、第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとが潤滑剤L下で相対的に摺動するものである。この場合、第1部材1及び第2部材2は、炭素鋼、銅、アルミニウム、白金、超硬合金等であっても、炭化ケイ素や窒化ケイ素等のシリコン系セラミックスであっても、エンジニアプラスチック等であってもよい。また、潤滑剤Lとしても、水やアルコールであっても、さらにはエンジンオイル等の潤滑油等であってもよい。すなわち、第1・第2部材1、2の材質、使用する環境等に応じて種々の潤滑剤を用いることができる。また、第1部材1を例えば図2に示すようにリング体とし、第2部材2を例えば円盤形状体で構成した。
【0025】
第1部材1の上面が摺動面1aとなり、第2部材2の下面が摺動面2aとなる。第1部材1の摺動面1aにグレーティング状凹凸の周期構造部3が周方向に所定ピッチで複数個形成される。すなわち、グレーティング状凹凸の周期構造部3と周期構造未形成部4とが摺動方向に沿って交互に形成される。
【0026】
周期構造部3は図3に示すように、微小の凹部5と微小の凸部6とが交互に所定ピッチで配設されてなるものである。周期構造部3の凹凸ピッチを10μm以下とし、凹部5の深さを1μm以下とするのが好ましい。この場合、周期構造部3の凹部5は、第1部材1の外周縁(摺動面周縁)1bに連通(開口)している。第1部材1の内周縁1cには開口していない。
【0027】
周期構造部3はスパイラル状に湾曲し、各周期構造部3の湾曲方向が同一に設定され、第1部材1と第2部材2との少なくもいずれか一方がその軸心廻りに回転することによって、第1部材1の周期構造部3が、摺動面1aの外周縁側から潤滑剤が第1部材1の内部に導入されるように設定される。
【0028】
周期構造部3は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成している。具体的には、図4に示すフェムト秒レーザ表面加工装置を使用する。レーザ発生器11(チタンサファイアフェムト秒レーザ発生器)で発生したレーザ(例えば、パルス幅:120fs、中心波長800nm、繰り返し周波数:1kHz、パルスエネルギー:0.25〜400μJ/pulse)は、ミラー12により加工材料Wに向けて折り返され、メカニカルシャッタ13に導かれる。レーザ照射時はメカニカルシャッタ13を開放し、レーザ照射強度は1/2波長板14と偏光ビームスプリッタ16によって調整可能とし、1/2波長板15によって偏光方向を調整し、集光レンズ(焦点距離:150mm)17によって、XYθステージ19上の加工材料W表面に集光照射する。なお、フェムト秒レーザはフェムト秒(1000兆分の1秒)オーダーという極端に短い時間単位の中にエネルギーを圧縮した光源である。
【0029】
すなわち、アブレーション閾値近傍のフルエンスで直線偏光のレーザをワーク(加工材料)Wに照射した場合、入射光と加工材料Wの表面に沿った散乱光またはプラズマ波の干渉により、波長オーダのピッチと溝深さを持つグレーティング状の周期構造部を偏光方向に直交して自己組織的に形成する。このとき、フェムト秒レーザをオーバラップさせながら走査させることで、周期構造部を広範囲に拡張することができる。
【0030】
レーザのスキャンは、レーザを固定して加工材料Wを支持するXYθステージ19を移動させても、XYθステージ19を固定してレーザを移動させてもよい。あるいは、レーザとXYθステージ19を同時移動させてもよい。なお、前記図3は、前記フェムト秒レーザ表面加工装置にて形成した周期構造部3を電子顕微鏡で撮像した図である。
【0031】
そして、本発明の摺動面構造では、図1に示すように、周期構造部3の凸部高さ位置を未形成部4の高さ位置よりも低く設定している。周期構造部3の凸部高さ位置10と未形成部4の高さ位置11との高低差を摺動面1a(第1部材1の上面における未形成部4及び周期構造部3より内径側の面)の算術平均粗さRa以上としている。また、この高低差を摺動面1aの最大高さ粗さRz以下としている。
【0032】
算術平均粗さRaは、図12に示すように、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線mの方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の数1の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【数1】

【0033】
また、最大高さ粗さRzは、図13に示すように、粗さ曲線からその平均線mの方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の山頂線と谷底線との間隔を粗さ曲線の縦倍率の方向に測定し、この値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。すなわち、(Rz=Rp+Rv)となる。
【0034】
本発明において、図1に示すように、摺動面1aから周期構造部3の凸部高さ位置10までを掘り下げ深さ(高低差)Tと呼び、周期構造部3の凸部6の高さ(周期構造部3の凹部5の深さ)を周期構造部深さT1と呼び、摺動運動中の摺動面間隙間を平滑部すきまSと呼ぶ。
【0035】
また、周期構造部3と前記高低差(掘り下げ深さ)Tとは同時加工により形成することができる。すなわち、フェムト秒レーザ表面加工装置において、周期構造部3を形成する際に、レーザの出力を調整することによって、その同時加工が可能となる。
【0036】
本発明の摺動面構造では、周期構造部3の凸部高さ位置10を未形成部4の高さ位置11よりも低く設定したことによって、摺動起動時及び摺動停止時における周期構造部による攻撃性が緩和される。ここで、周期構造部3による攻撃性とは、相手側部材に対する摩耗増大性や損傷性等である。また、周期構造部3が摺動面周縁1bに連通されているので、第1部材と第2部材の摺動動作によって、摺動面周縁1bから潤滑剤Lを摺動面内方へ導入することができる(この作用を流体導入効果と呼ぶ)。周期構造部3と未形成部4とが摺動方向に沿って交互に形成され、しかも、周期構造部3の凸部高さ位置10を未形成部4の高さ位置11よりも低く設定することによって、周期構造部3と未形成部4との境界で圧力が発生し、摺動方向に圧力勾配ができる(この作用をステップ効果と呼ぶ)。このように、周期構造部3と未形成部4とを設けることによって、周期構造部3の凸部高さ位置10と未形成部4の高さ位置11との高低差を大きくしても負荷容量の減少を少なくできる。
【0037】
したがって、本発明の摺動面構造では、流体導入効果とステップ効果とを併せ持つことになる。ステップ効果による負荷容量は流体導入効果の負荷容量に比べて、周期構造部3の凸部高さ位置10が周期構造未形成部4の高さ位置11よりも低くなることによる影響が小さい。
【0038】
すなわち、本発明の摺動面構造では、摺動起動時及び摺動停止時における周期構造部3による攻撃性が緩和され、相手側部材(この場合、第2部材2)の摩耗増大を防止でき、摺動面構造として長期にわたって安定した機能を発揮することができる。また、流体導入効果とステップ効果とを併せ持つことになり、負荷容量の低減を低く抑えながら周期構造部3の攻撃性を有効に緩和でき、高品質の摺動面構造の提供が可能となる。
【0039】
周期構造部3の凸部高さ位置10と未形成部4の高さ位置11との高低差を前記摺動面の算術平均粗さ以上とすれば、起動直後や停止直前など十分な動圧が得られない場面でも周期構造部3がほとんど荷重支持することなく摺動するため、周期構造部3の攻撃性を大幅に低減することができる。
【0040】
前記周期構造部3の凸部高さ位置10と未形成部4の高さ位置11との高低差を摺動面1aの最大高さ粗さ以下とすれば、負荷容量の大幅な低下を防止することができる。
【0041】
周期構造部3の凹凸ピッチを10μm以下とした場合、潤滑剤Lの漏れ(側方漏れ)を冗長的に抑えることができ、効率的に動圧を得ることができる。周期構造部3の凹部5の深さを1μm以下とした場合、動圧発生時の浮上量の変動を減少でき、剛性向上に寄与する。
【0042】
周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成したものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さを持つものを容易に形成できる。
【0043】
周期構造部3と前記高低差とは同時加工により形成されるものでは、加工時間を短縮できて生産性の向上及び低コスト化を図ることができる。また、同時加工は、レーザの出力を調整することにより可能で安定して高精度に、周期構造部3と前記高低差を形成することができる。
【0044】
次に、図5は周方向に隣り合う周期構造部3において、対称形としている。すなわち、例えば、第2部材2の回転方向が時計まわり方向(矢印A方向)であれば、3aの周期構造部において、潤滑剤Lが内部に導入される潤滑剤導入効果が発揮される。このため、この場合であっても、流体導入効果とステップ効果とを併せ持つことになる。なお、3a、3a間の3bの周期構造部3においては、潤滑剤Lが内部から周縁1bに排出される。
【0045】
図5に示す摺動面構造において、第2部材2の回転方向が反時計まわり方向(矢印B方向)であれば、3bの周期構造部において、潤滑剤Lが内部に導入される潤滑剤導入効果が発揮される。このため、この場合であっても、流体導入効果とステップ効果とを併せ持つことになる。なお、3b、3b間の3aの周期構造部においては、潤滑剤Lが内部から周縁1bに排出される。
【0046】
前記各実施形態では、摺動方向が回転方向であったが、図6では摺動方向が直線方向である摺動面構造の摺動面1aを示している。この場合、摺動方向に沿って、周期構造部3と周期構造未形成部4とが交互に形成されている。
【0047】
また、摺動方向に沿って隣り合う周期構造部3の向きを対称となるように形成している。すなわち、第2部材2の摺動方向が矢印C方向である場合、3cの周期構造部は潤滑剤Lを矢印Eのように内部に導入する潤滑剤導入効果を発揮し、3dの周期構造部は潤滑剤Lを矢印Fのように外部へ排出する潤滑剤排出効果を発揮する。また、第2部材2の摺動方向が矢印D方向である場合、3dの周期構造部は潤滑剤Lを内部に導入する潤滑剤導入効果を発揮し、3cの周期構造部は潤滑剤Lを外部へ排出する潤滑剤排出効果を発揮する。従って、この場合であっても、流体導入効果とステップ効果とを併せ持つことになる。
【0048】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、周期構造部3を第2部材2側に形成してもよく、第1部材1及び第2部材2の両側に設けてもよい。また、第1部材1と第2部材2の形状としても、図例のものに限らず、他の種々の形状のものにて構成できる。周期構造部3の大きさ、配設ピッチ等は、使用する第1・第2部材の大きさ、材質、潤滑剤の種類、摺動速度等に応じて種々変更することができる。
【0049】
第1部材1と第2部材2の相対的な摺動運動は、第1部材1を固定して第2部材2を往復動させるものであっても、逆に第2部材2側を固定して、第1部材側を摺動させるものであってもよい。すなわち、周期構造部3が形成されている方を摺動させても、周期構造部3が形成されない方を摺動させてもよい。また、第1部材1と第2部材2の双方を摺動させるものであってもよい。
【0050】
図2と図5に示す実施形態においては、周期構造部3が6個であり、未形成部4が6個であり、図6に示す実施形態においても、摺動方向に沿って周期構造部3が6個配設されたものであったが、これらに限るものではなく、周期構造部3の増減は任意である。また、一の周期構造部3及び未形成部4の周方向長さや径方向長さ等も任意に設定できる。しかし、ステップ効果は周期構造部3及び未形成部4の周方向長さや径方向長さに影響を受けるため、周期構造部3の周方向長さは径方向長さの1〜5倍程度にすることが好ましい。また、未形成部4の周方向長さは周期構造部3の周方向長さの0.2〜2.0倍程度にするのが好ましい。
【0051】
ところで、前記実施形態では、周期構造部3を形成する際に、パルスレーザであるフェムト秒レーザを用いたが、フェムト秒レーザ以外のピコ秒レーザやナノ秒レーザといったパルスレーザを使用することもできる。
【0052】
本発明の摺動面構造によれば、流体導入効果及びステップ効果を発揮して低摩擦を得ることができる。このため、本発明の摺動面構造は、各種の自動車部品、機械部品、ポンプ等の種々の機器に使用可能である。
【実施例1】
【0053】
掘り下げ深さTの負荷容量に及ぼす影響について調べた。まず、周期構造部(ピッチ0.7μm、深さ0.2μm)をスパスイラル状に形成したスパイラルパターン(図7)と同心円状の周期構造部3を間欠的に形成したステップパターン(図8)の負荷容量を無限溝数理論を用いて計算した。すなわち、図8では、周方向に沿って形成される周期構造部3(3e)と、この周期構造部3e間に周期構造部3が形成されない未形成部4とが、周方向に交互に配設されたものである。この場合、周期構造部3は摺動面周縁1bに連通されていない。
【0054】
図7に示すスパイラルパターンを形成した摺動面構造では主に周期構造部3の流体導入効果によるポンピング作用で負荷容量が発生する。このとき半径方向に大きな圧力勾配が生じるが、円周方向(摺動方向)には周期構造部の間隔が微細であるため、ほとんど圧力勾配は生じない。一方、図8に示すステップパターンを形成した摺動面構造では円周方向に配置された周期構造部と未形成部の境界で圧力が発生するため、円周方向(摺動方向)に大きな圧力勾配が生じる。しかしながら、周期構造部3は摺動面周縁1bに連通されていないので、流体導入効果を有さない。
【0055】
平滑部すきまSを0.2μmとし、両パターンの周期構造部形成領域を最適化した際の掘り下げ深さTと負荷容量の関係を図9に示す。図7に示すスパイラルパターンを形成した摺動面構造では掘り下げ深さTが0では大きな負荷容量が得られるが、掘り下げ深さTの増加に対して負荷容量が指数的に減少する。また、図8に示すステップパターンを形成した摺動面構造では掘り下げ深さの増加によって負荷容量が一旦増加した後、緩やかに減少に転じている。すなわち、ステップパターンの負荷容量はスパイラルパターンと比較して掘り下げ深さTの影響を受けにくく、掘り下げ深さTが0.1μmではステップパターンの負荷容量の方がスパイラルパターンより若干大きくなっている。
【0056】
これに対して、図2に示す間欠スパイラルパターン(本発明のパターン)のように、摺動面周縁1bに連通した周期構造部3と未形成部4を摺動方向に沿って交互に配置したものでは、流体導入効果とステップ効果を併せもたせることで、負荷容量の低減を低く抑えつつ周期構造部3の攻撃性を緩和できる摺動面構造とすることができる。
【0057】
図10は図9に間欠スパイラルパターンの負荷容量の計算結果を追加したものである。間欠スパイラルパターンはスパイラルパターンとステップパターンの特性を併せもち、全領域でステップパターンを上回る負荷容量が得られている。なお、図9と図10の縦軸は任意単位(a.u.)である。
【0058】
次に、リングオンディスク試験装置を用いた実験を行った。第2部材2を構成するディスク試験片を固定側試験片とし、第1部材1を構成するリング試験片を回転側試験片とした。各試験片は表面粗さRa0.02μm、Rz0.15μm程度に仕上げた。ディスク試験片は全て鏡面とし、リング試験片(外径16mm、内径10mm)はスパイラルパターン(図7)と間欠スパイラルパターン(図2)(本発明品)の2種類とした。各周期構造部3のピッチは約0.7μm、深さは約0.2μmとした。また本発明品での掘り下げ深さTは約0.1μmとした。潤滑剤には純水を用いた。荷重を10Nで固定し、静止状態からすべり速度1.2m/sで起動させた後、5分毎にすべり速度を0.15m/sまで段階的に低下させながら摩擦係数を測定し、各すべり速度における平均摩擦係数を算出した。
【0059】
各すべり速度における摩擦係数の実験結果を図11に示す。高すべり速度領域ではスパイラルパターン、間欠スパイラルパターンともにすべり速度の低下に対して摩擦係数が減少する流体潤滑状態となった。スパイラルパターンはすべり速度が0.35m/s以下になると摩擦係数が上昇し、混合潤滑に移行した。一方、流体導入効果とステップ効果を併せもつ間欠スパイラルパターン(本発明品)は0.24m/sまで流体潤滑を維持しており、スパイラルパターンより高い負荷容量を得られることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 第1部材
1b 周縁
1a、2a 摺動面
2 第2部材
3a、3b、3c、3d、3e 周期構造部
4 周期構造未形成部
5 凹部
6 凸部
10、11 高さ位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造であって、第1部材と第2部材との少なくともいずれか一方の摺動面に、グレーティング状凹凸の周期構造部と周期構造未形成部とが摺動方向に沿って交互に形成されるとともに、前記周期構造部は摺動面周縁に連通され、かつ、周期構造部の凸部高さ位置を未形成部の高さ位置よりも低く設定したことを特徴とする摺動面構造。
【請求項2】
前記周期構造部の凸部高さ位置と未形成部の高さ位置との高低差を前記摺動面の算術平均粗さ以上としたことを特徴とする請求項1に記載の摺動面構造。
【請求項3】
前記周期構造部の凸部高さ位置と未形成部の高さ位置との高低差を前記摺動面の最大高さ粗さ以下としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動面構造。
【請求項4】
周期構造部の周期ピッチが10μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の摺動面構造。
【請求項5】
前記周期構造部の凹部の深さが1μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の摺動面構造。
【請求項6】
前記周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の摺動面構造。
【請求項7】
前記周期構造部と前記高低差とは同時加工により形成されてなることを特徴とする請求項6に記載の摺動面構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−36561(P2013−36561A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173860(P2011−173860)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000110859)キヤノンマシナリー株式会社 (179)
【Fターム(参考)】