説明

撥アルコール性および撥水性不織布

本発明は合成ポリマー繊維から作られた撥アルコール性および撥水性の不織布を特徴とする。繊維は、撥アルコールおよび撥水特性を与えるために合成ポリマーに混合した表面改質剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質剤と混合した合成ポリマー繊維から作られた撥アルコール性および撥水性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は、手術帽、手術用シート、手術用被覆布、手術衣、およびドレープなどの病院用衣服を含む種々の用途を有する。不織布は、フェイスマスク、水フィルターおよびエアフィルターなどのフィルター、すなわち微粒子およびエアロゾル汚染物質を濾過するためのフィルターにも使用されている。
【0003】
さまざまなフルオロケミカルが、種々の基材に撥水性および撥油性、ならびに防汚性を与えるために使用されている。これらのフルオロケミカルは最も一般的には局所的に(例えば、スプレー、パッド、または仕上げ浴への浸漬により)適用されてきた。得られた撥水性/撥油性基材は、布の裏側への血液、血液感染性病原体、および他の体液の透過を防止する(すなわち、化学的に有毒なまたは感染性の物質への曝露を遮断する)ことが望まれる医療技術者および研究者のための防護服などの、撥水性および/または撥油性(ならびに防汚性)の性質が評価されるような多くの用途に使用されてきた。これらの用途の多くにおいて、帯電防止特性も望まれる。
【0004】
帯電は、多くの工業製品および材料の加工および使用における種々の問題の原因である。帯電は材料が互いにくっついたり、互いに反発したりする原因となる。これは繊維および布の加工において特に問題である。さらに、帯電により物体がゴミや埃を引きつけるので、フルオロケミカル撥水/撥油剤の有効性が減少する。絶縁性の物体からの静電気の放電も重大な安全上の問題を引き起こす。例えば、手術を行う場合に、可燃性の物質の存在下での静電気の放電は発火源となり、火事および/または爆発を引き起こす可能性がある。現代の電子機器は静電気の放電による永久的な損傷を非常に受けやすいので、静電気は電子工業において特に問題である。
【0005】
従来の帯電防止剤(その多くは帯電の消失を水の吸収および伝導性に依存する保湿剤である)は一般的にフルオロケミカル撥水/撥油剤との組合せにおいてあまり有効ではなかった。前記の組合せは、いずれかの添加剤を単独で使用する場合と比較して、しばしば帯電防止剤または撥水/撥油剤のいずれかの性質(または両方)の実質的な低下を(または消失さえも)もたらす。
【0006】
さらに、従来の帯電防止剤とフルオロケミカル撥水/撥油剤をポリマー溶融物の加工において組み合わせることは、例えば保湿剤帯電防止剤に結合している水が溶融物の加工温度で素早く蒸発するために特に困難であった。これにより、ポリマー中に望まれない気泡が生成する結果となり、押出装置においてスクリューのずれを起こした。また、多くの帯電防止剤は必要な熱安定性を欠き、不快な匂いの発生につながった(例えば、高い押出温度を用いる溶融吹出法において)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、望ましくは基材に優れた帯電防止特性および優れた撥アルコール/撥水特性の両方を与えることができ、かつ、特に、加工の問題または溶融物の欠陥を起こさない溶融添加物として使用することができる撥アルコール性および撥水性の布の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は合成ポリマー繊維から作られた撥アルコール性および撥水性不織布を特徴とする。前記繊維は、撥アルコールおよび撥水特性を与えるために合成ポリマーに混合された表面改質剤を含む。表面改質剤は、帯電を減少させることもできる。したがって、本発明の布は、汚染、例えば水溶液(体液を含む)、およびアルコール溶液(イソプロパノールを含む)に対する障壁を提供し、例えば、病院において有用である。
【0009】
したがって、本発明の第1の態様は、表面改質剤と混合した合成ポリマー繊維を含む不織布であって、前記表面改質剤が、25kDa未満、望ましくは20kDa、18kDa、16kDa、15kDa、14kDa、13kDa、12kDa、11kDa、10kDa、8kDa、6kDa、またはさらに4kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含む不織布を特徴とする。
【0010】
関連する態様において、本発明は本発明の布を含む物品を特徴とする。本発明の布を用いて製造することができる物品には、手術帽、手術用シート、手術用被覆布、手術衣、マスク、手袋、ドレープ、およびフィルター、すなわち、レスピレーター、水フィルター、エアフィルター、またはフェイスマスクが含まれるが、これらに限定されない。
【0011】
別の態様において、本発明は、ポリマー繊維に表面改質剤を混合することにより、合成ポリマー繊維から作られた不織布の撥水性を増大させる方法であって、前記表面改質剤が、25kDa未満、望ましくは20kDa、18kDa、16kDa、15kDa、14kDa、13kDa、12kDa、11kDa、10kDa、8kDa、6kDa、またはさらに4kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含み、前記表面改質剤が撥水性を増大させるのに十分な量で存在する方法を特徴とする。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、ポリマー繊維に表面改質剤を混合することにより合成ポリマー繊維から作られた不織布の撥アルコール性を増大させる方法であって、前記表面改質剤が、25kDa未満、望ましくは20kDa、18kDa、16kDa、15kDa、14kDa、13kDa、12kDa、11kDa、10kDa、8kDa、6kDa、またはさらに4kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含み、前記表面改質剤が撥アルコール性を増大させるのに十分な量で存在する方法を特徴とする。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、ポリマー繊維に表面改質剤を混合することにより合成ポリマー繊維から作られた不織布の帯電を減少させる方法であって、前記表面改質剤が、25kDa未満、望ましくは20kDa、18kDa、16kDa、15kDa、14kDa、13kDa、12kDa、11kDa、10kDa、8kDa、6kDa、またはさらに4kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含み、前記表面改質剤が帯電を減少させるのに十分な量で存在する方法を特徴とする。
【0014】
別の態様において、本発明は、ポリマー繊維に表面改質剤を混合することにより合成ポリマー繊維から作られた不織布への病原体の付着を減少させる方法であって、前記表面改質剤が、25kDa未満、望ましくは20kDa、18kDa、16kDa、15kDa、14kDa、13kDa、12kDa、11kDa、10kDa、8kDa、6kDa、またはさらに4kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含み、前記表面改質剤が前記布への病原体の付着を減少させるのに十分な量で存在する方法を特徴とする。
【0015】
上記のいずれの態様においても、合成ポリマー繊維には、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリシリコン、ポリアミン、ポリアクリロニトリル、テレフタレート、および多糖より選択されるポリマーが含まれるが、これらに限定されない。望ましくは、合成ポリマー繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリビニルアセテート、ポリ塩化ビニル、およびそれらのコポリマーより選択されるポリオレフィンである。
【0016】
上記のいずれの態様においても、ポリマー中心部分はセグメント化ブロックコポリマーを含む。望ましくは、ポリマー中心部分は、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリラクトン、ポリシリコン、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニル誘導体、ポリペプチド、多糖、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン-ブチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、またはポリエチレンブチレンセグメントを含む。
【0017】
上記のいずれの態様においても、本発明の布は、0.05%〜15%、0.05%〜13%、0.05%〜10%、0.05%〜5%、0.05%〜3%、0.5%〜15%、0.5%〜10%、0.5%〜6%、0.5%〜4%、1%〜15%、1%〜10%、1%〜8%、1%〜6%、1%〜5%、2%〜5%、または4%〜8%(w/w)の表面改質剤を含有する。
【0018】
上記のいずれの態様においても、表面活性基は、ポリジメチルシロキサン、炭化水素、フッ化炭素、フッ素化ポリエーテル、ポリアルキレンオキシド、およびそれらの組合せより選択される。例えば、表面改質剤は、次の式により表される:
−(オリゴ)−F
または
【化1】

【0019】
上記の式において、Fはポリフルオロ有機基であり、オリゴはオリゴマーセグメントであり、リンクBはカップリングセグメントであり、Cは鎖末端基であり、aは0よりも大きい整数である。望ましくは、Fはポリフルオロアルキルであり、100〜1,500Daの分子量を有する。本発明の表面改質剤に使用することができるフルオロアルキルの例には、一般式CF(CFCHCH[式中、rは2〜20である]、およびCF(CF(CHCHO)χ[式中、χは1〜10であり、sは1〜20である]のラジカルが含まれる。望ましくは、オリゴは20繰り返し単位より少ない分枝鎖または非分枝鎖オリゴマーセグメントである。
【0020】
上記のいずれの態様においても、表面活性基は次の式により表される:
−[B−(オリゴ)]−B−F
【0021】
上記の式中、Fはポリフルオロ有機基であり(すなわち、一般式CF(CFCHCH[式中、rは2〜20である]、およびCF(CF(CHCHO)χ[式中、χは1〜10であり、sは1〜20である]のラジカルを含み)、Bはウレタンを含み、オリゴはポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含み、nは1〜10の整数である。
【0022】
「オリゴ」は、一般的に約50モノマー単位および10,000未満、好ましくは5000未満の分子量を有する比較的短い繰り返し単位を意味する。好ましくは、オリゴは、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリラクトン、ポリシリコン、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニル、ポリペプチド、多糖;ならびにそれらのエーテルおよびアミン結合セグメントからなる群より選択される。
【0023】
本明細書において使用される「表面改質剤」は、20kDa未満の中心部分を含み、少なくとも一つの表面活性基に共有結合する比較的低分子量のポリマーを指す。表面改質剤の分子量が低いために、合成ポリマー繊維の巨大分子ポリマー鎖の間に拡散することが可能になる。
【0024】
「表面活性基」は、表面改質剤に共有結合により連結する親油性基を意味する。表面活性基は表面改質剤の中心ポリマー部分の一方または両方の末端にかぶせるように位置してもよく、または表面改質剤の中心ポリマー部分に存在する一つ以上の側鎖に結合してもよい。表面活性基の例には、ポリジメチルシロキサン、炭化水素、フッ化炭素、フッ素化ポリエーテル、ポリアルキレンオキシド、およびそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
「帯電の減少」とは、表面改質剤を加えずに製造した同じ布と比較して、表面改質剤を含有する布における帯電が減少することを意味する。布の静電気消失特性を評価する方法は実施例に記載されている。
【0026】
「撥水性の増加」とは、表面改質剤を加えずに製造した同じ布と比較して、表面改質剤を含有する布における撥水性が増加することを意味する。布の撥水特性を評価する方法は実施例に記載されている。
【0027】
「撥アルコール性の増加」とは、表面改質剤を加えずに製造した同じ布と比較して、表面改質剤を含有する布におけるメタノール、エタノール、およびプロパノールに対する撥アルコール性が増加することを意味する。布の撥アルコール特性を評価する方法は実施例に記載されている。
【0028】
「病原体の付着の減少」とは、病原体に曝された場合に、表面改質剤を加えずに製造した同じ布と比較して、表面改質剤を含有する布への病原体(すなわち、真菌、細菌、および/またはウイルス)の付着または定着が減少することを意味する。布への病原体の付着は公知の方法を用いて定量することができる(例えば、Kluehら、J Biomed. Mater. Res., 53:621 (2000)を参照されたい)。
【0029】
本明細書において使用される「リンクB」は、2個のオリゴ部分および1個の表面活性基に共有結合により連結することができる結合セグメントを指す。典型的には、リンクB分子は40〜700の範囲の分子量を有する。好ましくは、リンクB分子は、官能基を有するジアミン、ジイソシアネート、ジスルホン酸、ジカルボン酸、二酸塩化物およびジアルデヒドの群より選択され、官能基を有する構成要素は表面活性基との化学結合のための第2の官能基を有する。前記の第2の基には、例えば、エステル、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、チオール、ビニルおよび第2級アミンが含まれる。オリゴ中間物質の末端ヒドロキシル、アミンまたはカルボン酸は、ジアミンと反応してオリゴアミドを形成し;ジイソシアネートと反応してオリゴウレタン、オリゴウレア、オリゴアミドを形成し;ジスルホン酸と反応してオリゴスルホネート、オリゴスルホンアミドを形成し;ジカルボン酸と反応してオリゴエステル、オリゴアミドを形成し;二酸塩化物と反応してオリゴエステル、オリゴアミドを形成し;ジアルデヒドと反応してオリゴアセタール、オリゴイミンを形成する。
【0030】
本明細書において使用される「C」は、鎖末端基を指す。鎖末端基の例には、アミン、アルコール、またはカルボン酸官能基を有する一官能基性の基が含まれる。
【0031】
本発明の他の特徴および利点は下記の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
詳細な説明
本発明の方法および組成物は、本発明の表面改質剤と混合した合成ポリマー繊維から作られた不織布を特徴とする。本発明の布は撥アルコール性および撥水性である。また、前記布は帯電を防止する。
【0033】
本発明の表面改質剤は米国特許第6,127,507号に記載される通りに調製することができる。この特許を参照により本明細書に組み入れる。本発明の表面改質剤は、ポリマー繊維と相溶性の中心部分およびポリマー繊維と非相溶性の表面活性成分を含むように選択される。表面改質剤の相溶性セグメントは、混合した際にポリマー繊維基材内に表面改質剤のためのアンカーを提供するように選択する。表面活性基は、一つには、表面改質剤を混合物の表面に運び、そこで表面活性末端基を表面から外に露出させる役割を有する。その結果、本発明の繊維または布の表面において表面改質剤の損失があっても、表面改質剤が混合物から表面に持続的に移動することにより補充される。後者のプロセスは、表面活性基のポリマー基材との熱力学的非相溶性、ならびに混合物の表面における低い表面エネルギーを達成しようとする傾向により駆動されると考えられる。アンカーと表面への移動の間のバランスが達成されると、表面改質剤はポリマーの表面において安定にとどまる一方で、同時に表面の特性を変える。
【0034】
好適な合成ポリマー(熱可塑性または熱硬化性のいずれであってもよい)には、ポリ(塩化ビニル)、ポリエチレン(高密度、低密度、超低密度)、ポリプロピレン、およびポリスチレンなどのプラスチック商品;例えばポリエステル(例えばポリ(エチレンテレフタレート)およびポリ(ブチレンテレフタレート))、ポリアミド(脂肪族、アモルファス、芳香族)、ポリカーボネート(例えば、ビスフェノールAから誘導されるものなどの芳香族ポリカーボネート)、ポリオキシメチレン、ポリアクリレートおよびポリメタクリレート(例えば、ポリ(メチルメタクリレート))、いくつかの修飾されたポリスチレン(例えば、スチレン−アクリロニトリル(SAN)およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)コポリマー)、耐衝撃性ポリスチレン(SB)、フッ素化プラスチック、およびポリ(フェニレンオキシド)−ポリスチレンおよびポリカーボネート−ABSなどの混合物などの産業用プラスチック;例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン、ポリイミド、およびポリエーテルイミドなどの高性能プラスチック;例えばアルキド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂(例えばメラミンおよび尿素樹脂)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル(いわゆるビニルエスエルを含む)、ポリウレタン、アリル樹脂(例えば、アリルジグリコールカーボネートから誘導されるポリマー)、フッ素エラストマー、およびポリアクリレートなどの熱硬化性樹脂;ならびにそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
合成ポリマー繊維を本発明の表面改質剤と混合して混合物を形成させる。熱可塑性ポリマーがその溶融加工可能性の見地からより好ましい。熱可塑性ポリマーは高温、例えば120℃より高い(より好ましくは200℃より高い、またはさらに300℃よりも高い)温度で溶融加工可能である。望ましい熱硬化性ポリマーには、ポリウレタン、エポキシ樹脂、および不飽和ポリエステルが含まれる。望ましい熱可塑性ポリマーには、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンと1種以上のアルファオレフィンのコポリマー(例えば、ポリ(エチレン−ブテン)およびポリ(エチレン−オクテン))、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリスチレン、ABSコポリマー、ポリアミド、フッ素エラストマー、およびそれらの混合物が含まれる。
【0036】
表面改質剤は、繊維を作るためのポリマーの溶融加工の前に加える。溶融加工により混合物を形成するために、表面改質剤を、例えば、ペレット化または粉末化したポリマーと混合した後、例えばモールディング、メルトブロー、メルトスピン、または溶融押出などの公知の方法により溶融加工することができる。表面改質剤は直接ポリマーと混合することも可能であり、またはまず表面改質剤/ポリマー混合物の濃縮物の形でポリマーと予め混合することも可能である。所望により、表面改質剤の有機溶液を粉末化またはペレット化したポリマーと混合した後、溶媒を蒸発させて、次いで溶融加工を行うことができる。あるいは、押出により繊維を形成する直前に表面改質剤を溶融したポリマー流に注入して混合物を形成することができる。
【0037】
溶融加工の後、ポリマー繊維の帯電防止および撥アルコール/撥水特性の発達を促進するためにアニール工程を実施することができる。前記のアニール工程に加えて、またはそれに変えて、溶融加工された組合せは、一方または両方がパターン化された2つの加熱したローラーの間でエンボス加工をおこなうこともできる。典型的には、アニール工程はポリマーの溶融温度よりも低い温度で実施する(例えば、ポリアミドの場合には約150〜220℃で5分間まで)。
【0038】
表面改質剤は、特定の用途に対して望まれる帯電防止および撥アルコール/撥水特性を達成するのに十分な量で熱可塑性または熱硬化性ポリマーに加える。典型的には、使用される表面改質剤の量は、混合物の0.05〜15%(w/w)の範囲である。量は実験的に決定することができ、必要または所望に応じてポリマーの他の物理的性質を損なうことなく帯電防止および撥アルコール/撥水特性を達成するように調節することができる。
【0039】
得られたメルトブローまたはメルトスピンにより成形された繊維は、ある水準の帯電防止および撥アルコール/撥水特性が望まれる用途に有用な不織布を製造するために使用される。例えば、本発明の布は、医療用布、医療および工業用衣類、衣料品の製造に使用するための布、家具、および化学プロセスフィルターまたはレスピレーターなどの濾過システムに使用することができる。布は撥アルコールおよび撥水特性を示す。また、布は、種々の環境条件下で帯電防止および撥油(および防汚)特性を示し、種々の用途に使用することが可能である。
【0040】
不織生地または布はメルトブローまたはスパンボンド不織布のいずれかの製造において使用される方法により調製することができる。例えば、Wente,「超微細熱可塑性繊維」(Superfine Thermoplastic Fibers), Indus. Eng’g Chem. 48, 1342 (1956)、またはWenteら、「超微細有機繊維の製造」(Manufacture of Superfine Organic Fibers), Naval Research Laboratories Report No. 4364 (1954)に記載されるものと同様の方法を使用することができる。不織布から作られた多層構造物は、例えば医療用布のように、広く工業および商業分野で有用である。前記の多層構造物を構成する層の構造は望まれる最終用途の性質に応じて変化し、構造物は、米国特許第5,145,727号(Pottsら)および米国特許第5,149,576号(Pottsら)(これらの特許明細書を参照により本明細書に組み入れる)に記載されるもののような多くの有用な組合せにおいて、2層以上のメルトブローおよびスパンボンド不織布を含むことができる。多層構造物において、構造全体に帯電防止および撥アルコール/撥水特性を与えるために表面改質剤を1層以上の層に使用することができる。
【0041】
本発明の布は、真菌、細菌、およびウイルスなどの病原体の付着または定着を防ぐことができる表面を特徴とする。したがって、本発明の布は汚染を減少させ、無菌状態を維持するために使用することができる。
【0042】
所望に応じて、本発明の布は、さらに当該技術分野において通常使用される1種以上の慣用の添加物、例えば、染料、色素、抗酸化剤、紫外線安定剤、難燃剤、界面活性剤、可塑剤、粘着付与剤、充填剤、およびそれらの混合物を含有してもよい。特に、例えば溶融添加ポリオレフィンへの適用において帯電防止および/または撥アルコール/撥水特性を改善するために性能向上剤(例えば、ポリブチレンなどのポリマー)を利用することができる。
【0043】
下記の実施例は、本発明の方法および化合物の機能、製造、および評価の方法に関する完全な開示および説明を当業者に提供するために記載するものであって、発明者らが意図する本発明の範囲を限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1:撥アルコール性/撥水性試験
布サンプルを脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合物(例えば、100/0、90/10、80/20、70/30、60/40、50/50、・・・10/90、0/100(v/v)混合物)の浸透について試験することにより不織布の撥アルコール性を評価することができる。まず、本発明の布を平らで水平な表面に置く。水または水/IPA混合物の5滴の小滴を、サンプル上の少なくとも2インチ離れた位置に静かに置く。45°の角度で10秒間観察した後に5滴のうち4滴が球または半球に見える場合、その布はその混合物に対して撥アルコール/撥水性であると見なされる。少なくとも40/60(水/IPA)混合物に撥アルコール性/撥水性を示す布が望ましい。
【0045】
あるいは、布の液体をはじく能力は、液体ストライクスルー抵抗試験を用いて評価することができる。ストライクスルー試験器は、垂直に取り付けられた透明なプラスチック管を含み、その管の底には布サンプルを支持するためのゴムのガスケットを有するフランジが付いている。それぞれの試験サンプルを管の底に取り付ける。試験する液体(すなわち、水、アルコール、油、またはそれらの混合物)を一定の充填速度で管の中に導入し、一定の速度で液体の圧力を増加させる。液体および不織布の両方を23±1℃に調整する。液体の最初の滴がサンプルを透過した時に、そのサンプルに対して液体の高さをミリメートルで測定する。値が高いほど、撥アルコール性/撥水性が大きい。
【0046】
実施例2:静電気消失試験
不織布の静電気消失特性を、米国連邦測定基準101B、方法4046(Federal Test Method Standard 101B, Method 4046)の、「材料の帯電防止特性」(Antistatic Properties of Materials)に従って、ETS 406C型静電減衰試験ユニット(ETS Model 406C Static Decay Test Unit)(Electro-Tech Systems, Inc., Glenside, Pa.製造)を用いて測定することができる。この装置は、高電圧(5000ボルト)を用いることにより平らな試験材料の表面に初期静電気を導入し(平均導入静電気)、電場測定器により、表面電圧の5000ボルト(または誘導された静電気)から初期誘導電荷の10%までの減衰時間を観察する。これが静電気消失時間である。静電気消失時間が短いほど、試験材料の帯電防止特性が高い。
【0047】
実施例3:表面抵抗率試験
不織布の表面抵抗率試験は、ASTM基準D−257(ASTM Standard D-257)、「絶縁材料のD.C.抵抗または伝導度」(D.C. Resistance or Conductance of Insulating Materials)の方法に従って測定することができる。例えば、表面抵抗率は、803B型プローブを取り付けたETS 872型広範囲抵抗計(ETS Model 872 Wide Range Resistance Meter) (Electro-Tech Systems, Inc., Glenside, Pa.)を用いて測定することができる。この装置は、平らな試験材料に接触する2つの同心円状電極を通して100ボルトの外部電圧を適用し、オーム/平方単位で表面抵抗率を測定する。
【0048】
他の実施形態
本明細書において言及されたすべての出版物、特許および特許出願を、個々の出版物または特許出願について具体的におよび個別に参照により本明細書に組み入れることを指示したものと同じ程度に、参照により本明細書に組み入れる。
【0049】
本発明をその特定の実施形態に関連して説明したが、その変更が可能であること、および本出願が、一般的に発明の原理に従う発明の変更、使用、または改変を含むことを意図しており、また、発明が属する技術分野において公知のまたは通常実施される範囲であり、明細書中に記載された本質的な特徴を有し、特許請求の範囲に従う、本明細書の開示からの逸脱を含むことが理解されるであろう。
【0050】
他の実施形態は特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質剤と混合した合成ポリマー繊維を含む不織布であって、前記表面改質剤が16kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含む、上記不織布。
【請求項2】
前記合成ポリマー繊維が、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリシリコン、ポリアミン、ポリアクリロニトリル、テレフタレート、および多糖より選択されるポリマーを含む、請求項1に記載の布。
【請求項3】
前記合成ポリマー繊維が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリビニルアセテート、塩化ポリビニル、およびそれらのコポリマーより選択されるポリオレフィンである、請求項2に記載の布。
【請求項4】
前記ポリマー中心部分がセグメント化ブロックコポリマーを含む、請求項1に記載の布。
【請求項5】
前記ポリマー中心部分が、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリラクトン、ポリシリコン、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニル誘導体、ポリペプチド、多糖、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン−ブチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、またはポリエチレンブチレンセグメントを含む、請求項4に記載の布。
【請求項6】
前記布が0.05%〜5%(w/w)の前記表面改質剤を含む、請求項1に記載の布。
【請求項7】
前記表面活性基が、ポリジメチルシロキサン、炭化水素、フッ化炭素、フッ素化ポリエーテル、ポリアルキレンオキシド、およびそれらの組合せより選択される、請求項1に記載の布。
【請求項8】
前記表面改質剤が、式:
−(オリゴ)−F
[式中、Fはポリフルオロ有機基であり、オリゴはオリゴマーセグメントである]
により表される、請求項1に記載の布。
【請求項9】
前記表面改質剤が、式:
【化1】

[式中、
(i) FはリンクBに共有結合したポリフルオロ有機基であり;
(ii) Cは鎖末端基であり;
(iii) オリゴはオリゴマーセグメントであり;
(iv) リンクBはカップリングセグメントであり;
(v) aは0よりも大きい整数である]
により表される、請求項1に記載の布。
【請求項10】
がポリフルオロアルキルである、請求項8または9に記載の布。
【請求項11】
が100〜1,500Daの分子量を有する、請求項8または9に記載の布。
【請求項12】
が一般式CF(CFCHCH[式中、rは2〜20である]、およびCF(CF(CHCHO)χ[式中、χは1〜10であり、sは1〜20である]のラジカルからなる群より選択される、請求項8または9に記載の布。
【請求項13】
前記オリゴが20繰り返し単位よりも少ない分枝鎖または非分枝鎖オリゴマーセグメントである、請求項8または9に記載の布。
【請求項14】
前記ポリマー中心部分が、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリラクトン、ポリシリコン、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニル誘導体、ポリペプチド、多糖、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン−ブチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、またはポリエチレンブチレンセグメントを含む、請求項13に記載の布。
【請求項15】
請求項1に記載の布を含む物品。
【請求項16】
手術帽、手術用シート、手術用被覆布、手術衣、マスク、手袋、および手術用ドレープより選択される、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
手術用ドレープである、請求項15に記載の物品。
【請求項18】
フィルターである、請求項15に記載の物品。
【請求項19】
前記フィルターが、レスピレーター、水フィルター、エアフィルター、またはフェイスマスクの一部分である、請求項18に記載の物品。
【請求項20】
合成ポリマー繊維から作られた不織布の撥水性を増大させる方法であって、前記ポリマー繊維に表面改質剤を混合することを含み、前記表面改質剤が16kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含み、前記表面改質剤が撥水性を増大させるのに十分な量で存在する、上記方法。
【請求項21】
合成ポリマー繊維から作られた不織布の撥アルコール性を増大させる方法であって、前記ポリマー繊維に表面改質剤を混合することを含み、前記表面改質剤が16kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含み、前記表面改質剤が撥アルコール性を増大させるのに十分な量で存在する、上記方法。
【請求項22】
合成ポリマー繊維から作られた不織布の帯電を減少させる方法であって、前記ポリマー繊維に表面改質剤を混合することを含み、前記表面改質剤が16kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含み、前記表面改質剤が帯電を減少させるのに十分な量で存在する、上記方法。
【請求項23】
合成ポリマー繊維から作られた不織布への病原体の付着を減少させる方法であって、前記ポリマー繊維に表面改質剤を混合することを含み、前記表面改質剤が16kDa未満の分子量を有し、かつ表面活性基と共有結合するポリマー中心部分を含み、前記表面改質剤が前記布への病原体の付着を減少させるのに十分な量で存在する、上記方法。
【請求項24】
前記表面改質剤がさらに式:
−[B−(オリゴ)]−B−F
[式中、
Bはウレタンを含み;
オリゴはポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含み;
はポリフルオロ有機基であり;および
nは1〜10の整数である]
により表される、請求項8に記載の布。
【請求項25】
請求項24に記載の布を含む物品。

【公表番号】特表2009−523921(P2009−523921A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551331(P2008−551331)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/001155
【国際公開番号】WO2007/084514
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508215131)インターフェース バイオロジクス,インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】