説明

撥水加工繊維シート、及びその製造方法

【課題】高温条件等をともなわない簡便な製造方法であって、撥水性に優れ、且つその耐久持続性に優れた繊維シートの製造方法、及び該製造方法によって形成した撥水加工繊維シートを提供する。
【解決手段】エネルギー線の照射により重合可能な重合性化合物(A)と、該重合性化合物(A)とは相溶するが、該重合性化合物(A)の重合体ポリマー(P)とは相溶せず、且つエネルギー線に対して不活性な化合物(B)とを混合した撥水加工用組成物(X)を製造する工程、該撥水加工用組成物(X)を繊維シートに付着させる工程、エネルギー線の照射により該撥水加工用組成物(X)中の重合性化合物(A)を重合させた後、化合物(B)を除去する工程を有し、前記化合物(B)が液体状又は固体状であり、分子量が500以下であり、且つ25℃における飽和蒸気圧が400Pa以下の化合物である撥水加工繊維シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水加工繊維シートとその製造方法に関し、より詳細には、微細な凹凸構造を有するポリマーからなる撥水性構造体を繊維表面に有する撥水加工繊維シート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維シートは、織物、編物、不織布、及びそれらの複合体など、繊維を構成成分としたシート状成型物の総称である。現在、撥水性を示す繊維シートの製造は、撥水加工された繊維素材を用いて行われるのが主流である。織物や編物の場合は、撥水性繊維を織機や編機により加工することによって得られる。また、不織布の場合は、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、湿式法などによって撥水性繊維シートとすることができる。
【0003】
繊維素材を撥水加工する技術としては、例えば溶剤や水に溶解、分散させた撥水性の樹脂、エマルジョン、ディスパーションなどを繊維素材に塗布した後、溶剤や水などを気化させ撥水性の連続皮膜を形成させる方法が知られている。しかしながら、これらの加工処理で得られた繊維、及びそれらを用いて調製した繊維シートは、耐久性が必ずしも高くなく、使用にともなって処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失いやすいという欠点を有している。
【0004】
これに対して、特許文献1〜3には、フッ素系樹脂を溶融混練して得られた撥水性繊維が提案されている。この場合、撥水性自体の持続性は高いが、一般に、フッ素樹脂は融点と分解点が近いため、長期使用においては分解熱劣化したポリマーが生成しやすく、その影響で安定して良好な糸質の繊維を得ることが困難である。
また、特許文献4、5には、フッ素系樹脂微粒子やシリコーン系樹脂微粒子などの撥水性微粒子を紡糸原液に添加混合することにより、該微粒子を繊維中に練り込み、撥水性繊維とする技術が提案されている。しかし、このような方法では、撥水性粒子の一部しか繊維表面に現れず、繊維表面には撥水性粒子が散在するため十分な撥水性が得られないという問題がある。一方で、撥水性粒子を多用すると繊維内部に撥水性粒子が多量に混入して、繊維自体の性質が変化し、例えば繊維が硬くなったり脆くなったりするという問題や紡糸できなくなるという問題がある。
【0005】
このような問題を回避するために、特許文献6に記載の方法では、熱可塑性樹脂からなる繊維に対して、該樹脂の融点以上に加熱した撥水性粒子を接触させることにより、安定的に繊維表面に撥水性粒子を固着させ、該繊維を用い、撥水性および耐久性に優れた繊維シートの製造に成功している。また、同特許文献では、熱可塑性樹脂からなる繊維を有する繊維シートに対して、該樹脂の融点以上に加熱した撥水性粒子を接触・固着させ、撥水加工繊維シートを製造する方法も提案されている。しかしながら、これらの方法は、熱可塑性樹脂からなる繊維に対してのみ行うことができる方法であり、また、高温条件での処理をともなうという欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−238822号公報
【特許文献2】特開平09−302523号公報
【特許文献3】特開平09−302524号公報
【特許文献4】特開2001−146627号公報
【特許文献5】特開平02−26919号公報
【特許文献6】特開2003−268675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高温条件等をともなわない簡便な製造方法であって、撥水性に優れ、且つその耐久持続性に優れた繊維シートの製造方法、特に、表面の水接触角が140°以上の超撥水性又は高撥水性を示す繊維シートの製造方法、及び該製造方法によって形成した撥水加工繊維シートを提供することにある。
【0008】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、エネルギー線照射による重合反応が引き起こすポリマーの相分離現象を利用した、簡便且つ常温プロセスによる撥水加工繊維シート、特に、水接触角が140°以上の超撥水性又は高撥水性を示す繊維シートの製造方法、及び該製造方法によって形成した撥水加工繊維シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、種々検討した結果、エネルギー線の照射により重合可能な重合性化合物と、エネルギー線に対して不活性な可溶性添加物とを混合した撥水加工用組成物を繊維シート上に付着させ、エネルギー線照射により重合させ相分離状態を誘起し、その後、可溶性添加物の一部を除去し、繊維上に安定にポリマー硬化物を生成させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、エネルギー線の照射により重合可能な重合性化合物(A)と、
該重合性化合物(A)とは相溶するが、該重合性化合物(A)の重合体ポリマー(P)とは相溶せず、且つエネルギー線に対して不活性な化合物(B)とを混合した撥水加工用組成物(X)を製造する工程、
該撥水加工用組成物(X)を繊維シートに付着させる工程、
エネルギー線の照射により該撥水加工用組成物(X)中の重合性化合物(A)を重合させた後、化合物(B)を除去する工程を有し、
前記化合物(B)が液体状又は固体状であり、分子量が500以下であり、且つ25℃における飽和蒸気圧が400Pa以下の化合物であることを特徴とする撥水加工繊維シートの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記の方法で得られたことを特徴とする撥水加工繊維シートを提供するものである。
【0012】
更に、本発明は、エネルギー線の照射により重合可能な重合性化合物(A)の重合体により形成される撥水性構造体を繊維表面に有することを特徴とする撥水加工繊維シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、繊維シートに対して直接撥水加工用組成物を付着させ、エネルギー線の照射により、ポリマーからなる表面凹凸性の撥水性硬化物を形成させるため、簡便で且つ常温のプロセスにより、耐久性の高い撥水加工繊維シート、特に、水接触角が140°以上の撥水加工繊維シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られた撥水加工繊維シート[H−1]の繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例7で得られた撥水加工繊維シート[H−7]の表面上の水滴写真である。
【図3】実施例7で得られた撥水加工繊維シート[H−7]の繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例10で得られた撥水加工繊維シート[H−10]の表面上の水滴写真である。
【図5】実施例10で得られた撥水加工繊維シート[H−10]の繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について説明する。
【0016】
なお、撥水性材料の技術分野では、学術上、技術上の明確な区別、及び定義はないが、一般的に、水接触角がおよそ150°以上の表面を超撥水性表面といい、およそ120〜150°の範囲の水接触角を示す表面を高撥水性表面といい、およそ90〜120°の範囲の水接触角を示す表面を通常の撥水性表面と区別している。
【0017】
本明細書では、上記の一般的な区別を採用し、水接触角が150°以上の表面を「超撥水性」表面と定義し、120°以上〜150°未満の範囲の水接触角を示す表面を「高撥水性」表面と定義し、90°〜120°未満の範囲の水接触角を示す表面を「通常の撥水性」表面と定義し、表記する。但し、単に「撥水性表面」と記載した場合は、「超撥水性表面」、「高撥水性表面」及び「通常の撥水性表面」の全てを含むものとする。
【0018】
本発明の製造方法では、「超撥水性」、「高撥水性」及び「通常の撥水性」表面を有する繊維シートの製造まで、原料の選択、配合量の調整、製膜条件の調整等で制御可能であるが、特に、「超撥水性」、及び「高撥水性」表面を有する繊維シートの製造に適しており、「超撥水性」、及び、水接触角140°以上の「高撥水性」表面を有する繊維シートの製造に最も適している。したがって、以下では超撥水性表面を有する繊維シートの製造方法を主体に説明を行う。
【0019】
<基本となる発明>
本発明の撥水加工繊維シートは、エネルギー線の照射により重合可能な重合性化合物(A)と、該重合性化合物(A)とは相溶するが、該重合性化合物(A)の重合体ポリマー(P)とは相溶せず、且つエネルギー線に対して不活性な化合物(B)とを混合した撥水加工用組成物(X)を繊維シート上に付着させ、エネルギー線の照射により重合させた後、化合物(B)を除去することにより製造することができる。
【0020】
この方法では、重合性化合物(A)の重合により生成した重合体ポリマー(P)が、化合物(B)と相溶しなくなり、重合体ポリマー(P)と化合物(B)との相分離状態が生じ、重合体ポリマー(P)内部や重合体ポリマー(P)間に化合物(B)が取り込まれた状態になる。この化合物(B)を除去することにより、化合物(B)が占めていた領域が孔となり、ポリマー硬化物表面に微細凹凸構造が誘起され超撥水性を示す。
【0021】
重合性化合物(A)は、エネルギー線の照射により重合可能な重合性化合物(a)を単一成分で、または、その2種類以上を混合して用いることができる。重合性化合物(a)は、エネルギー線の照射により重合し、ポリマーとなる物質であれば特に制限はなく、ラジカル重合性、アニオン重合性、カチオン重合性など任意のものであってよい。例えば、ビニル基を含有する重合性化合物が用いられるが、なかでも、エネルギー線の照射による重合速度が速い(メタ)アクリル系化合物が好ましい。また、硬化後の強度も高くできることから、重合して架橋ポリマーを形成する化合物であることが好ましく、1分子中に2つ以上のビニル基を有する2官能以上の重合性化合物であることが特に好ましい。
【0022】
前記(メタ)アクリル系化合物としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−イソシアナト−2−メチルプロピルジ(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N−メチレンビスアクリルアミドなどの2官能モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレートなどの3官能モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能モノマーが挙げられる。
【0023】
また、分子鎖に(メタ)アクリロイル基を有する重合性のオリゴマーとして、重量平均分子量が500〜50,000のものが挙げられ、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールA骨格を有するポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、分子末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0024】
以上挙げた重合性化合物および重合性オリゴマーの中でも、疎水性が高く、且つ、重合後に架橋密度が高く、表面微細構造の発達したポリマー膜を与えやすいという観点から、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0025】
また、重合性化合物(a)としては、ビニル基を1つ有する単官能重合性化合物、特に、ビニル基を1つ有する(メタ)アクリル化合物などを用いることができる。ただし、単官能重合性化合物は、2官能以上の重合性化合物とともに用いることが好ましい。
【0026】
ビニル基を1つ有する(メタ)アクリル系化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、エチレンオキサイド変性フタル酸アクリレート、ω−カルボキシカプロラクトンモノアクリレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロジェンフタレート、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリル酸ダイマー、2−アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロジェンフタレート、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、塩素置換アルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸ソーダエトキシ(メタ)アクリレート、スルホン酸−2−メチルプロパン−2−アクリルアミド、燐酸エステル基含有(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルクロライド、(メタ)アクリルアルデヒド、スルホン酸エステル基含有(メタ)アクリレート、シラノ基含有(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基含有(メタ)アクリレート、(N−アルキル)アクリルアミド、(N、N−ジアルキル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ポリジメチルシロキサン鎖含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0027】
これらの単官能重合性化合物の中でも、疎水性を高め、且つ、粘度調節を行う目的で、メチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートが、また、重合後膜表面に偏在し、表面の自由エネルギーを低下させる目的で、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルシロキサン鎖含有(メタ)アクリレートなどが好ましく用いられる。
【0028】
化合物(B)は、以下に示す化合物(b)を単一成分で、または、その2種類以上を混合して用いることができる。化合物(b)は、重合性化合物(A)の重合プロセスにおいては、基材上にとどまり、且つ、重合性化合物(A)の重合後は主に溶剤洗浄により除去される。化合物(b)は、化合物(B)の構成成分として、重合性化合物(A)とは相溶するが、重合性化合物(A)の重合体ポリマー(P)とは相溶せず、且つエネルギー線に対して不活性であり、また、分子量が500以下であり、25℃における飽和蒸気圧が400Pa以下の液体状又は固体状の化合物であれば、特に制限はない。ただし、分子量に関しては、300以下であることが、より好ましい。また、化合物(b)が疎水性の高い化合物であることは、重合体ポリマー(P)と相分離状態を形成した際、表面近傍に存在し、除去後、ポリマー硬化物表面に微細凹凸構造が誘起され超撥水性を示しやすいため好ましい。したがって、化合物(b)は、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、メルカプト基、シアノ基、アミド結合、及び、ウレア結合等の極性化学単位を含まない化合物であることが好ましい。
【0029】
そのような用件を満たし、且つ、疎水性の高い化合物として、前記化合物(b)が、式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)で表される化合物、並びに炭素数10〜20の分岐していてもよいアルカンが挙げられる。
【0030】
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数が9〜19の分岐していてもよいアルキル基又はベンジル基、Rはメチル基又はエチル基を表す。)
【0031】
【化2】

(式(2)中、Rはメチル基又はエチル基、Rは炭素数10〜20の分岐していてもよいアルキル基又はベンジル基を表す。)
【0032】
【化3】

(式(3)中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は分岐していてもよいアルキル基を表すが、そのうちの少なくとも2つがエチル基であるか、少なくとも1つが炭素数3〜8の分岐していてもよいアルキル基である。)
【0033】
【化4】

(式(4)中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基を表す。)
【0034】
式(1)及び式(2)中、R及びRは炭素数が7〜18のアルキル基であることが好ましく、炭素数8〜16のアルキル基であることがより好ましい。また、式(3)中、R〜R10は、少なくとも1つが炭素数3〜7のアルキル基であることが好ましく、炭素数3〜6のアルキル基であることがより好ましい。この場合、残りの他の基は水素原子であることが好ましい。また、R〜R10中の炭素数の合計は10以下であることが好ましい。更に、式(4)中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数2〜7のアルキル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルキル基であることがより好ましい。そして、アルカンとしては炭素数12〜20のアルカンであることが好ましく、炭素数12〜18のアルカンであることがより好ましい。
【0035】
これらの中でも、25℃における飽和蒸気圧が150Pa以下である液体または固体を用いる場合は、その揮発性が低いため、より薄い層を形成することができる。層が薄い場合、繊維を硬くなるのを防ぐことができ、その結果、繊維シートの風合いを保つのに有利である。そのような化合物として、テトラデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、オクタデカン酸メチル等の長鎖脂肪族カルボン酸のメチルエステル、及び、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン等の長鎖脂肪族炭化水素が好ましく用いられる。
【0036】
撥水加工用組成物(X)に含まれる重合性化合物(A)及び化合物(B)の含有量によって、ポリマー硬化物中の孔径、表面凹凸性や強度が変化する。重合性化合物(A)の含有量が多いほどポリマー硬化物の強度が向上するが、ポリマー硬化物内部の孔径や表面凹凸は小さくなり、撥水性が低下する傾向にある。重合性化合物(A)の好ましい含有量としては30〜80質量%の範囲、特に好ましくは40〜70質量%の範囲が挙げられる。重合性化合物(A)の含有量が30質量%以下になると、ポリマー硬化物の強度が低くなり、重合性化合物(A)の含有量が80質量%以上になると、ポリマー硬化物内部の孔径や表面凹凸の調整が難しくなる。
【0037】
また、撥水加工用組成物(X)において、上記化合物(b)とともに、揮発性の高い液体状の化合物(D)を構成成分として共存させることは、調製するポリマー硬化物の厚みを小さくし、繊維シートの風合いを保つのに有用である。この場合、撥水加工用組成物の繊維シート上への塗布後、重合性化合物(A)の重合プロセスを通して、化合物(b)は繊維上にとどまるが、一方、化合物(D)は揮発するため、結果として、ポリマー硬化物の厚みは薄くなる。そのような化合物(D)としては、25℃における飽和蒸気圧が600Pa以上である液体であることが好ましい。そのような用件を満たし、且つ、疎水性の高い化合物として、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、R13COOR14(式中R13及びR14は、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基を表すが、R13とR14の炭素数の合計は6以下である。)、R15COR16(式中R15及びR16は、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基を表すが、R15とR16の炭素数の合計は6以下である。)、R17OR18(式中R17及びR18は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表すが、R17とR18の炭素数の合計は7以下である。)、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素が好ましく用いられる。R13COOR14の具体例としては、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸メチル等が、R15COR16の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が、R17OR18の具体例としては、ジエチルエーテルがある。化合物(b)と化合物(D)の混合割合は、撥水加工繊維シートの目的性能に応じて、任意の割合で適宜設定することができる。
【0038】
撥水加工用組成物(X)には、重合速度や重合度、あるいはポリマー硬化物の孔径、表面凹凸性などを調整するために、重合開始剤、重合禁止剤、重合遅延剤、あるいは、増粘剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0039】
重合開始剤としては、エネルギー線の照射により、重合性化合物(A)を重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などが使用できる。例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類、ベンゾフェノン、4,4′−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのベンジルケタール類、N−アジドスルフォニルフェニルマレイミドなどのアジドが挙げられる。また、マレイミド系化合物などの重合性光重合開始剤を使用することもできる。また、ここに挙げた重合開始剤を、テトラエチルチイラムジスルフィドなどのジスルフィド系化合物、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルなどのニトロキシド化合物、4,4’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビピリジン銅錯体−トリクロロ酢酸メチル複合体、ベンジルジエチルジチオカルバメートなどの化合物と併用して、リビングラジカル重合開始剤として用いることもできる。
【0040】
重合遅延剤や重合禁止剤は、α−メチルスチレン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンなどの重合速度の低いビニル系モノマーやtert−ブチルフェノールなどのヒンダントフェノール類などが挙げられる。
【0041】
増粘剤は、塗工性を向上させる目的、及び、ポリマー硬化物内部の孔径、表面の凹凸性を制御する目的で、公知慣用のものを用いることができる。撥水加工用組成物(X)が低粘度であると、細孔の形状が、互いに接着した粒状ポリマーの間隙として与えられることが多く、逆に高粘度であると網状に析出したポリマーの間隙として与えられることが多い。すなわち、高粘度であるほど塗工性は向上するが、孔径や表面凹凸が細かくなり、撥水性が低下する傾向にある。したがって、撥水加工用組成物(X)を構成する素材の組合せや撥水加工繊維シートの目的性能により、粘度は適宜設定を変えることは重要である。
【0042】
本発明の撥水加工繊維シートを構成する繊維としては、撥水加工用組成物(X)や使用するエネルギー線によって実質的に侵されず、例えば、溶解、分解、重合などが生じず、かつ、撥水加工用組成物(X)を実質的に侵さないものであればよい。そのような繊維としては、例えば、再生繊維(例えば、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維など)、半合成繊維(例えば、アセテート繊維、トリアセテート繊維など)、合成繊維(例えば、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、弗素繊維など)、無機繊維(例えば、ガラス繊維、炭素繊維など)、植物繊維(例えば、綿、麻など)、動物繊維(例えば、羊毛、絹など)などが挙げられる。
【0043】
繊維シートの構造としては、例えば織物、編物、不織布などがある。織物や編物の場合は、前記繊維を織機や編機により加工することによって得られる。また、不織布の場合は、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、湿式法などによって繊維シートとすることができる。また、これらの製法によって形成される繊維ウエブに、接着性繊維や融点の異なる2種類以上の樹脂が複合された複合繊維などを予め混入させてから、加熱処理すれば繊維間が接合された繊維シートとすることができる。また、種類の異なる前記繊維シートを複数積層して更に一体化してなる繊維シートであってもよい。
【0044】
また、繊維は表面処理されていてよい。表面処理は、撥水加工用組成物(X)による繊維表面の溶解防止を目的としたもの、撥水加工用組成物(X)の付着性向上及び撥水性ポリマー硬化物の接着性向上を目的としたものなどが挙げられる。
【0045】
基材の表面処理方法は任意であり、例えば、前記重合性化合物(A)を基材の表面に塗布し、エネルギー線を照射して硬化させる処理、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、酸又はアルカリ処理、スルホン化処理、フッ素化処理、シランカップリング剤等によるプライマー処理、表面グラフト重合、界面活性剤や離型剤等の塗布などが挙げられる。この中で、例えば、トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレートやトリエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート等のシランカップリング剤によって処理する方法は、これらのシランカップリング剤の有する重合基が撥水加工用組成物(X)と共重合できることより、撥水性ポリマー硬化物の繊維上への接着性を向上させる上で有用である。
【0046】
撥水加工用組成物(X)の繊維シートへの塗布方法に特に限定はなく、例えば、ディップ法、ロ−ルコ−ト法、ドクタ−ブレ−ド法、スピンコ−ト法、バーコート法、スプレ−法等による塗布方法が好ましく挙げられる。
【0047】
重合過程において照射するエネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、レーザー光線、放射光などの光線;エックス線、ガンマ線、放射光などの電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線などの粒子線が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性や硬化速度の面から紫外線及び可視光が好ましく、紫外線が特に好ましい。硬化速度を速め、硬化を完全に行う目的で、エネルギー線の照射を低酸素濃度雰囲気で行うことが好ましい。低酸素濃度雰囲気としては、窒素気流中、二酸化炭素気流中、アルゴン気流中、真空又は減圧雰囲気中が好ましい。
【0048】
撥水加工用組成物(X)の重合により生成した、重合体ポリマー(P)と化合物(B)が相分離されたポリマー硬化物から化合物(B)を除去する方法は、溶剤を用いた洗浄により行うことができる。その際、化合物(B)が占めていた領域が溶剤により置換され、その後、乾燥過程において溶剤が蒸発することにより、ポリマー硬化物内部の孔や表面の凹凸構造が形成され、撥水加工繊維シートの製造が完結する。溶剤は、化合物(b)と相溶するものであれば、制限なく用いることができる。ただし、乾燥操作を容易にするために、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルムなどの揮発性の高い汎用溶剤を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の方法により製造した撥水加工繊維シートは、直径約0.05μm〜10μmの粒子状のポリマーが互いに凝集し、この粒子間の隙間が細孔となる凝集粒子構造のポリマー硬化物や、ポリマーが網目状に凝集した三次元網目構造のポリマー硬化物を繊維表面に有する。
【0050】
また、本発明の製造方法の工程を繰り返し行うことは、耐久性に優れた撥水加工繊維シートを得るために有利である。この場合、行程を繰り返し行うにつれ、下位層のポリマー硬化物の孔が、上位層のポリマー硬化物を構成するポリマーの侵入により部分的に埋められるため、構造が補強され、結果として、撥水加工繊維シートの耐久性が向上する。
<撥水加工用組成物(X)が、ポリマー(C)を含有する発明>
撥水加工用組成物(X)は、更に、該重合性化合物(A)と該化合物(B)と相溶し、且つエネルギー線に対して不活性なポリマー(C)を含有することができる。
【0051】
この場合、重合性化合物(A)の重合により生成した重合体ポリマー(P)が、化合物(B)と相溶しなくなり、重合体ポリマー(P)と化合物(B)との相分離状態が生じ、重合体ポリマー(P)内部や重合体ポリマー(P)間に化合物(B)が取り込まれた状態になる。この化合物(B)を除去することにより、化合物(B)が占めていた領域が孔となり、ポリマー硬化物表面に微細凹凸構造が誘起され超撥水性を有する繊維シートを製造できる。ポリマー(C)は、本発明の効果を損なわない限り、撥水加工用組成物(X)の硬化膜からその全てが除去されても構わないが、硬化物の強度を確保する上で、少なくとも一部を硬化物中に残留させることが好ましい。したがって、重合体ポリマー(P)と化合物(B)との相分離状態において、ポリマー(C)は重合体ポリマー(P)相にある程度分配されることが好ましく、その分配率が高ければ高いほど、硬化物の強度は高くなる。
【0052】
ポリマー(C)は、ポリマーを単一成分で、または、その2種類以上を混合して用いることができる。ポリマー(C)の構成成分として、重合性化合物(A)と化合物(B)と相溶し、且つエネルギー線に対して不活性であれば、特に制限はない。このような観点から、ポリマー(C)は、超撥水性を示すポリマー硬化物を構成する成分となるために疎水性が高いことが好ましく、アクリル系(共)重合体又はスチレン系(共)重合体が好ましく用いられる。中でも、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリイソプロピル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリイソブチル(メタ)アクリレート、ポリtert−ブチル(メタ)アクリレート、ポリヘキシル(メタ)アクリレート、ポリドデシル(メタ)アクリレート、ポリステアリル(メタ)アクリレート、ポリイソボルニル(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレンが特に好ましく用いられる。また、ポリマー(C)の役割の1つとして、撥水加工用組成物(X)の粘度を高めることによる、相分離条件の拡大が挙げられる。すなわち、撥水加工用組成物(X)の粘度が高いほど、組成物に用いることのできる重合性化合物(A)および化合物(B)の種類が増える。また、後述するように、撥水加工用組成物(X)の粘度は、ポリマー硬化物の孔径、表面凹凸性に影響を与える。したがって、該ポリマーの分子量は、撥水加工繊維シートの目的性能に応じて適宜設定することが重要である。該ポリマーの分子量は10,000〜1,000,000の範囲において設定することが好ましい。
【0053】
撥水加工用組成物(X)に含まれる重合性化合物(A)と化合物(B)及びポリマー(C)の相対含有量によって、ポリマー硬化物の孔径、表面凹凸性や強度が変化する。重合性化合物(A)の含有量が多いほど硬化物の強度が向上するが、硬化物内部の孔径や表面凹凸は小さくなり、撥水性が低下する傾向にある。重合性化合物(A)の好ましい含有量としては30〜80質量%の範囲、特に好ましくは40〜70質量%の範囲が挙げられる。重合性化合物(A)の含有量が30質量%以下になると、硬化物の強度が低くなり、重合性化合物(A)の含有量が80質量%以上になると、硬化物内部の孔径や表面凹凸の調整が難しくなる。
【0054】
また、撥水加工用組成物(X)の粘度は、ポリマー硬化物の細孔形状に影響を与える。撥水加工用組成物(X)が低粘度であると、細孔の形状が、互いに接着した粒状ポリマーの間隙として与えられることが多く、逆に高粘度であると網状に析出したポリマーの間隙として与えられることが多い。すなわち、高粘度であるほど塗工性、ポリマー硬化物の厚みの均質性は向上するが、孔径や表面凹凸が細かくなり、撥水性が低下する傾向にある。したがって、撥水加工繊維シートの目的性能に応じ、重合性化合物(A)と化合物(B)及びポリマー(C)の相対含有量、化合物(B)に対するポリマー(C)の相対含有量を変化させ、撥水加工用組成物(X)の粘度を適宜設定することは重要である。
【0055】
また、撥水加工用組成物(X)中にポリマー(C)を含有させる場合も、化合物(B)中に、上記化合物(b)とともに、揮発性の高い液体状の化合物(D)を構成成分として共存させることは、調製するポリマー硬化物の厚みを小さくし、繊維シートの風合いを保つのに有用である。
【0056】
化合物(b)と化合物(D)の混合割合は、撥水加工繊維シートの目的性能に応じて、任意の割合で適宜設定することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
〔撥水加工繊維シートの調製〕
共栄社化学株式会社製エチレングリコールジメタクリレート「ライトエステルEG」6.94g、共栄社化学株式会社製tert−ブチルメタクリレート「ライトエステルTB」1.14g、共栄社化学株式会社製パーフロロオクチルエチルメタクリレート「ライトエステルFM−108」0.16g、及び、光重合開始剤としてチバガイギー社製1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュア184」0.18gを均一に混合して重合性組成物[A−1]を調製した。これを、テトラデカン酸メチル5.23gと均一に混合して、撥水加工用組成物[X−1]を調製した。
【0059】
続いて、日本バイリーン株式会社製親水性ポリオレフィン不織布「目付18g/m、厚さ0.18mm」に、スピンコーターを用いて、3000rpm、10秒間の条件で撥水加工用組成物[X−1]を塗布した。該不織布に3000Wメタルハライドランプを光源とするアイグラフィックス株式会社製のUE031−353CHC型UV照射装置を用い、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を、室温、窒素気流下で3分間照射して撥水加工用組成物[X−1]を重合させ、その後、エタノールおよびヘキサンを用いて洗浄することにより、撥水加工繊維シート[H−1]を得た。
〔撥水加工繊維シートの分析〕
(1) 水接触角:144°
測定装置:協和界面化学自動接触角計DM500
水滴量:4.0μl
(2) 表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。繊維シート表面の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
測定装置:キーエンスリアルサーフェスビュー顕微鏡VE−9800
(3) 洗濯耐性試験後の水接触角:142°
試験方法:家庭用洗濯機に約25℃の水40リットルを入れ、これに家庭用の洗濯用洗剤20gを加え、よくかき混ぜて洗剤を溶解した。これに試験片(10cm×10cm)3枚と負荷布として綿布を適当枚数加えて洗濯液に投入し、洗濯操作を行った。洗濯攪拌操作を90分間行った後、すすぎ洗いを15分間行い、次に3分間脱水操作を行った。室温で放置して、自然乾燥させ、乾燥後に接触角の試験を行った。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0060】
(実施例2)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
基材として、親水性ポリオレフィン不織布の代わりに、日本バイリーン株式会社製PET不織布「繊維径約11.6μm、目付40g/m、厚さ0.32mm」を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−2]を得た。
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:141°(未処理のPET不織布の水接触角:118°)
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:141°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0061】
(実施例3)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
基材として、親水性ポリオレフィン不織布の代わりに、日本バイリーン株式会社製吸水性レーヨン不織布「目付142g/m、厚さ0.93mm」を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−3]を得た。
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:143°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:142°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0062】
(実施例4)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
基材として、親水性ポリオレフィン不織布の代わりに、白十字株式会社製綿ガーゼ「ステラーゼS」を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−4]を得た。
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:145°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:143°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0063】
(実施例5)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
共栄社化学株式会社製1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート「ライトエステル1,6HX」6.87g、共栄社化学株式会社製n−ラウリルメタクリレート「ライトエステルL」1.27g、前記「ライトエステルFM−108」0.16g、及び、光重合開始剤として前記「イルガキュア184」0.18gを均一に混合して重合性組成物[A−5]を調製した。これを、テトラデカン9.14gと均一に混合して、撥水加工用組成物[X−5]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−5]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−5]を得た。
【0064】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:144°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:140°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0065】
(実施例6)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
共栄社化学株式会社製ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート「ライトアクリレートDCP−A」7.00g、大阪有機化学工業株式会社製イソブチルアクリレート「AIB」1.02g、共栄社化学株式会社製パーフロロオクチルエチルアクリレート「ライトアクリレートFA−108」0.15g、及び、光重合開始剤として前記「イルガキュア184」0.18gを均一に混合して重合性組成物[A−6]を調製した。これを、ヘキサデカン酸メチル5.22gと均一に混合して、撥水加工用組成物[X−6]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−6]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−6]を得た。
【0066】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:145°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:143°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0067】
(比較例1)
〔非撥水性繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、ヘキサン酸メチル4.65gと均一に混合して組成物[XR−1]を調製した。
続いて、撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[XR−1]を用いる以外は実施例1と同様にして、非撥水性繊維シート[R−1]を得た。
【0068】
〔非撥水性繊維シートの分析〕
水接触角:65°
測定装置、測定条件等は、実施例1に記載の通り。
このように、25℃における飽和蒸気圧が670Paであるヘキサン酸メチルを化合物(B)として含む組成物を用いて調製した繊維シートは、撥水性を示さなかった。
【0069】
(比較例2)
〔非撥水性繊維シートの作製〕
実施例5と同様の方法により、重合性化合物[A−5]を調製した。これを、ヘキサン酸メチル4.65gと均一に混合して組成物[XR−2]を調製した。
続いて、撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[XR−2]を用いる以外は実施例1と同様にして、非撥水性繊維シート[R−2]を得た。
【0070】
〔非撥水性繊維シートの分析〕
水接触角:68°
測定装置、測定条件等は、実施例1に記載の通り。
このように、25℃における飽和蒸気圧が670Paであるヘキサン酸メチルを化合物(B)として含む組成物を用いて調製した繊維シートは、撥水性を示さなかった。
【0071】
(比較例3)
〔非撥水性繊維シートの分析〕
実施例6と同様の方法により、重合性化合物[A−6]を調製した。これを、ヘキサン酸メチル4.65gと均一に混合して組成物[XR−3]を調製した。
続いて、撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[XR−3]を用いる以外は実施例1と同様にして、非撥水性繊維シート[R−3]を得た。
【0072】
〔非撥水性繊維シートの分析〕
水接触角:65°
測定装置、測定条件等は、実施例1に記載の通り。
このように、25℃における飽和蒸気圧が670Paであるヘキサン酸メチルを化合物(B)として含む組成物を用いて調製した繊維シートは、撥水性を示さなかった。
【0073】
(実施例7)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様に重合性化合物[A−1]を調製した。これを、デカン酸メチル4.64g及びAldrich社製ポリイソブチルメタクリレート(重量平均分子量300,000)0.52gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−7]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−7]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−7]を得た。
【0074】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:152°(水滴写真を図2に示す。)
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。繊維シート表面の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。
洗濯耐性試験後の水接触角:150°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0075】
(実施例8)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
基材として、前記親水性ポリオレフィン不織布の代わりに前記PET不織布を用いる以外は実施例7と同様にして、撥水加工繊維シート[H−8]を得た。
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:153°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:150°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0076】
(実施例9)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
基材として、前記親水性ポリオレフィン不織布の代わりに前記レーヨン不織布を用いる以外は実施例7と同様にして、撥水加工繊維シート[H−9]を得た。
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:148°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:146°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0077】
(実施例10)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
基材として、前記親水性ポリオレフィン不織布の代わりに前記綿ガーゼ「ステラーゼS」を用いる以外は実施例7と同様にして、撥水加工繊維シート[H−10]を得た。
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:150°(水滴写真を図4に示す。)
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。繊維シート表面の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
洗濯耐性試験後の水接触角:149°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0078】
(実施例11)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、フェニル酢酸エチル4.59g及びAldrich社製ポリイソブチルメタクリレート(重量平均分子量300,000)0.52gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−11]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−11]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−11]を得た。
【0079】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:149°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:146°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0080】
(実施例12)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、テトラデカン4.72g及びAldrich社製ポリイソブチルメタクリレート(重量平均分子量300,000)0.52gと均一に混合して撥水加工繊維シート用組成物[X−12]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−12]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−12]を得た。
【0081】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:151°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:148°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0082】
(実施例13)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、イソブチルベンゼン4.65g及びAldrich社製ポリイソブチルメタクリレート(重量平均分子量300,000)0.52gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−13]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−13]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−13]を得た。
【0083】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:150°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:149°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0084】
(実施例14)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、ジエチレングリコールジブチルエーテル4.64g及びAldrich社製ポリイソブチルメタクリレート(重量平均分子量300,000)0.52gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−14]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−14]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−14]を得た。
【0085】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:150°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:146°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0086】
(実施例15)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、デカン酸メチル4.64g及びAldrich社製ポリエチルメタクリレート(重量平均分子量340,000)0.52gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−15]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−15]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−15]を得た。
【0087】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:149°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:147°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0088】
(実施例16)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、デカン酸メチル4.64g及びAldrich社製ポリイソボルニルメタクリレート(重量平均分子量554,000)0.50gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−16]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−16]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−16]を得た。
【0089】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:151°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:147°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0090】
(実施例17)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、デカン酸メチル4.64g及びAldrich社製ポリスチレン(重量平均分子量280,000)0.48gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−17]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−17]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−17]を得た。
【0091】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:148°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:146°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0092】
(実施例18)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例5と同様に重合性化合物[A−5]を調製した。これを、デカン酸メチル4.64g及びAldrich社製ポリイソブチルメタクリレート(重量平均分子量300,000)0.52gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−18]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−18]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−18]を得た。
【0093】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:149°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:148°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0094】
(実施例19)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例6と同様に重合性化合物[A−6]を調製した。これを、デカン酸メチル4.64g及びAldrich社製ポリイソブチルメタクリレート(重量平均分子量300,000)0.52gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−19]を調製した。
撥水加工用組成物[X−1]の代わりに、[X−19]を用いる以外は実施例1と同様にして、撥水加工繊維シート[H−19]を得た。
【0095】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:151°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:146°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0096】
(比較例4)
〔非撥水性繊維シートの作製〕
実施例7と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、Aldrich社製ポリイソブチルメタクリレート(重量平均分子量300,000)0.52gと均一に混合して組成物[XR−4]を調製した。
続いて、撥水加工用組成物[X−7]の代わりに、[XR−4]を用いる以外は実施例7と同様にして、非撥水性繊維シート[R−4]を得た。
【0097】
〔非撥水性繊維シートの分析〕
水接触角:86°
測定装置、測定条件等は、実施例1に記載の通り。
このように、化合物(B)を含まない膜形成用組成物を用いて調製した加工繊維シートは、実施例7の撥水加工繊維シートよりも低い水接触角の値となった。
【0098】
(比較例5)
〔非撥水性繊維シートの作製〕
実施例7と同様の方法により、重合性化合物[A−1]を調製した。これを、Aldrich社製ポリエチルメタクリレート(重量平均分子量340,000)0.52gと均一に混合して組成物[XR−5]を調製した。
続いて、撥水加工用組成物[X−7]の代わりに、[XR−5]を用いる以外は実施例7と同様にして、非撥水性繊維シート[R−5]を得た。
【0099】
〔非撥水性繊維シートの分析〕
水接触角:82°
測定装置、測定条件等は、実施例1に記載の通り。
このように、化合物(B)を含まない膜形成用組成物を用いて調製した加工繊維シートは、実施例7の撥水加工繊維シートよりも低い水接触角の値となった。
【0100】
(比較例6)
〔非撥水性繊維シートの作製〕
実施例19と同様の方法により、重合性化合物[A−6]を調製した。これを、Aldrich社製ポリスチレン(重量平均分子量280,000)0.48gと均一に混合して組成物[XR−6]を調製した。
続いて、撥水加工用組成物[X−7]の代わりに、[XR−6]を用いる以外は実施例7と同様にして、非撥水性繊維シート[R−6]を得た。
【0101】
〔非撥水性繊維シートの分析〕
水接触角:66°
測定装置、測定条件等は、実施例1に記載の通り。
このように、化合物(B)を含まない膜形成用組成物を用いて調製した加工繊維シートは、実施例7の撥水加工繊維シートよりも低い水接触角の値となった。
【0102】
(実施例20)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、撥水加工用組成物[X−1]を調製した。これを、酢酸エチル51.5gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−20]を調製した。
実施例1と同様の方法により前記親水性ポリオレフィン不織布上に、スピンコーターを用いて、3000rpm、180秒間の条件で撥水加工用組成物[X−20]を付着させた。該不織布に対して、実施例1と同様の方法で重合、続いて、洗浄を行うことにより、撥水加工繊維シート[H−20]を得た。
【0103】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:140°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:139°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0104】
(実施例21)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例7と同様の方法により、撥水加工用組成物[X−7]を調製した。これを、酢酸エチル50.5gと均一に混合して撥水加工用組成物[X−21]を調製した。
実施例7と同様の方法により前記親水性ポリオレフィン不織布上に、スピンコーターを用いて、3000rpm、180秒間の条件で撥水加工用組成物[X−21]を付着させた。該不織布に対して、実施例7と同様の方法で重合、続いて、洗浄を行うことにより、撥水加工繊維シート[H−21]を得た。
【0105】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:147°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:145°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0106】
(実施例22)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例1と同様の方法により、撥水加工用組成物[X−1]を用い、前記親水性ポリオレフィン不織布上に撥水性ポリマー硬化物を付着させ、撥水加工繊維シート[H−1]を得た。
次に、撥水加工繊維シート[H−1]上に、実施例1と同様の方法で撥水加工用組成物[X−1]を用いて撥水性ポリマー硬化物を付着させる工程を繰り返し4回行い、撥水加工繊維シート[H−22]を得た。
【0107】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:146°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:145°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。
【0108】
(実施例23)
〔撥水加工繊維シートの作製〕
実施例7と同様の方法により、撥水加工用組成物[X−7]を用い、前記親水性ポリオレフィン不織布上に撥水性ポリマー硬化物を付着させ、撥水加工繊維シート[H−7]を得た。
次に、撥水加工繊維シート[H−7]上に、実施例7と同様の方法で撥水加工用組成物[X−7]を用いて撥水性ポリマー硬化物を付着させる工程を繰り返し4回行い、撥水加工繊維シート[H−23]を得た。
【0109】
〔撥水加工繊維シートの分析〕
水接触角:153°
表面形態:走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
洗濯耐性試験後の水接触角:152°
測定装置、試験方法等は、実施例1に記載の通り。
以上の結果から、繊維表面に微細な凹凸構造を有する撥水性ポリマー硬化物が付着した、洗濯耐性の高い撥水加工繊維シートが形成できたことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー線の照射により重合可能な重合性化合物(A)と、
該重合性化合物(A)とは相溶するが、該重合性化合物(A)の重合体ポリマー(P)とは相溶せず、且つエネルギー線に対して不活性な化合物(B)とを混合した撥水加工用組成物(X)を製造する工程、
該撥水加工用組成物(X)を繊維シートに付着させる工程、
エネルギー線の照射により該撥水加工用組成物(X)中の重合性化合物(A)を重合させた後、化合物(B)を除去する工程を有し、
前記化合物(B)が液体状又は固体状であり、分子量が500以下であり、且つ25℃における飽和蒸気圧が400Pa以下の化合物であることを特徴とする撥水加工繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記化合物(B)が、式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)で表される化合物、並びに炭素数10〜20の分岐していてもよいアルカンからなる群から選ばれた1種以上の化合物である請求項1記載の撥水加工繊維シートの製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数が9〜19の分岐していてもよいアルキル基又はベンジル基、Rはメチル基又はエチル基を表す。)
【化2】

(式(2)中、Rはメチル基又はエチル基、Rは炭素数10〜20の分岐していてもよいアルキル基又はベンジル基を表す。)
【化3】

(式(3)中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は分岐していてもよいアルキル基を表すが、そのうちの少なくとも2つがエチル基であるか、少なくとも1つが炭素数3〜8の分岐していてもよいアルキル基である。
【化4】

(式(4)中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記撥水加工用組成物(X)が、更に、該重合性化合物(A)と該化合物(B)と相溶し、且つエネルギー線に対して不活性なポリマー(C)を含有する請求項1又は2記載の撥水加工繊維シートの製造方法。
【請求項4】
更に、25℃における飽和蒸気圧が600Pa以上である液体状の化合物(D)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の撥水加工繊維シートの製造方法。
【請求項5】
前記化合物(D)が、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、R13COOR14(式中R13及びR14は、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基を表すが、R13とR14の炭素数の合計は6以下である。)、R15COR16(式中R15及びR16は、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基を表すが、R15とR16の炭素数の合計は6以下である。)、R17OR18(式中R17及びR18は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表すが、R17とR18の炭素数の合計は7以下である。)、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム及び四塩化炭素からなる群から選ばれた1種以上の化合物である請求項4記載の撥水加工繊維シートの製造方法。
【請求項6】
前記ポリマー(C)が、アクリル系共重合体又はスチレン系共重合体である請求項3〜5のいずれか1つに記載の撥水加工繊維シートの製造方法。
【請求項7】
前記ポリマー(C)の分子量が、10,000〜1,000,000の範囲にある請求項3〜6のいずれか1つに記載の撥水加工繊維シートの製造方法。
【請求項8】
表面における水との接触角が150°以上で、超撥水性を示す請求項1〜7のいずれかに記載の撥水加工繊維シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法で得られたことを特徴とする撥水加工繊維シート。
【請求項10】
エネルギー線の照射により重合可能な重合性化合物(A)の重合体により形成される撥水性構造体を繊維表面に有することを特徴とする撥水加工繊維シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−46840(P2012−46840A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189443(P2010−189443)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】