説明

撥水性基材および光処理基材の製造方法

【課題】本発明は、基材等に撥水性の薄膜が形成されてなる、撥水性基材を製造する方法の提供を目的とする。また、本発明は、比較的低エネルギーの光を用いた分解反応によって、コントラストの高い親水性領域と撥水性領域を表面に有する光処理基材を製造する方法の提供を目的とする。
【解決手段】基材の表面に下式(1)で表される化合物を塗布し、撥水性の薄膜を基材の表面に形成することを特徴とする撥水性基材の製造方法。
ただし、
1、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示し、かつ、4つの基のうち少なくとも1つは、撥水性の1価有機基を示す。
は、水素原子または1価炭化水素基を示す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性基材を製造する方法、該撥水性基材の光照射部を親水性に変化させ光処理基材を製造する方法、および撥水性基材の製造に用いられる新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子、集積回路、有機ELディスプレイ用デバイス等の微細デバイスの製造方法としては、真空蒸着、スパッタリング等によって基材上に機能性材料の薄膜を形成させ、該薄膜をフォトリソグラフィによってパターン化する手法が用いられる。しかしフォトリソグラフィの工程は複雑であり、エネルギーおよび材料等の利用効率が低く、設備が高価である問題があった。
低コストおよび低エネルギーであるパターン形成方法として、基材表面に、機能性材料の溶液を、インクジェット印刷、スクリーン印刷、マイクログラビア塗工等の方法でパターン形成する技術が提案されている。上記機能性材料としては、金属配線を形成する金属粒子分散ペースト、カラーフィルタを形成する色素材料、電子デバイス・有機ディスプレイを形成するセラミック材料、有機半導体材料等が挙げられる。特に基材が、プラスチック基材等のフレキシブルな基材である場合には、上記方法とロールツーロールを組み合わせる方法が提案されている。
【0003】
また、基材表面に、特性の異なるパターンを形成して微細デバイスを作製する方法が提案されている。たとえば、基材表面に親水性領域と撥水性領域とを形成し、機能性材料の溶液を親水性領域に塗布する方法がある。この方法では、溶液が親水性領域で濡れ広がり、撥水性領域へはにじみ出ないことから、親水性領域と撥水性領域のパターンに応じた高解像度の機能性材料のパターンが容易に形成できる。
基材表面に親水性領域と撥水性領域とを形成する方法としては、具体的には、親水性表面に撥水性物質を塗布して薄膜を形成し、光照射により該撥水性物質を分解し、つぎに除去する方法が挙げられる。該方法で得られた基材は、光照射部のみが親水性表面になる(特許文献1参照。)。
薄膜パターンを形成する基材上の薄膜は、単分子程度の膜厚であるのが好ましく、自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayer。以下略してSAMと記す。)が好ましい。SAMの分解・除去方法としては、紫外線を用いた方法が好ましいとされている。しかし、紫外線としては、200nm以下の高エネルギー線が用いられるため、真空装置の導入により設備が高価になったり、薄膜パターンに有機物を用いる場合には有機物までもが分解する等の問題があった。
また、基材上に光分解性含フッ素化合物を塗布し、撥水性の薄膜を形成でき、かつ300nm以上の光で効率的に分解し親水性表面を形成する方法が知られている(特許文献2参照。)。図1に該方法を実施する場合の例における基材表面を模式的に示す断面図を示す。
【0004】
【特許文献1】特開2000−282240号公報
【特許文献2】国際公開第2005/054256号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、基材等に撥水性の薄膜が形成されてなる、撥水性基材を製造する方法の提供を目的とする。また、本発明は、比較的低エネルギーの光を用いた分解反応によって、コントラストの高い親水性領域と撥水性領域を表面に有する光処理基材を製造する方法の提供を目的とする。また、本発明は、該光処理基材を用いて、機能性材料のパターンが形成された部材を製造する方法の提供を目的とする。さらに、本発明は、該撥水性基材および光処理基材の製造に有用な化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕基材の表面に下式(1)で表される化合物を塗布し、撥水性の薄膜を基材の表面に形成することを特徴とする撥水性基材の製造方法。
ただし、
1、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示し、かつ、4つの基のうち少なくとも1つは、撥水性の1価有機基を示す。
は、水素原子または1価炭化水素基を示す。
【0007】
【化4】

【0008】
〔2〕撥水性の1価有機基は、R基もしくは該基を部分構造として持つ基(ただし、R基は、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基の基中に存在する水素原子の2個以上がフッ素置換された基を示す。)、オルガノシロキサン骨格を有する1価の基、または炭素数10以上のアルキル基もしくは該基を部分構造として持つ基である上記〔1〕に記載の撥水性基材の製造方法。
〔3〕式(1)で表される化合物は、下式(1−1)で表される化合物である上記〔1〕または〔2〕に記載の撥水性基材の製造方法。
ただし、
11、R21、R31、およびR41は、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示し、かつ、4つ基のうち少なくとも1つは、R基または該基を部分構造として持つ基(ただし、R基は、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基の基中に存在する水素原子の2個以上がフッ素置換された基を示す。)を示す。
51は、水素原子または1価炭化水素基を示す。
【0009】
【化5】

【0010】
〔4〕基材の表面を酸化処理した後に式(1)で表される化合物を塗布することで撥水性の薄膜を基材の表面に形成する上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の撥水性基材の製造方法。
〔5〕基材が、有機材料からなる、または有機材料からなる表面を有する上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の撥水性基材の製造方法。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の製造方法により撥水性基材を得て、ついで撥水性の薄膜に光照射することによって薄膜の光照射部を親水性にすることを特徴とする光処理基材の製造方法。
〔7〕波長250nm以上の光を照射する上記〔6〕記載の光処理基材の製造方法。
〔8〕光処理基材は、表面に撥水性領域と親水性領域を有する上記〔6〕または〔7〕に記載の光処理基材の製造方法。
〔9〕上記〔8〕に記載の製造方法で得られた光処理基材の表面に機能性材料を含む液を塗布して、光処理基材の親水性領域に該液を付着させ、つぎに乾燥させることによって機能性材料のパターンを形成させることを特徴とする機能性材料のパターンが形成された部材の製造方法。
〔10〕下式(1−1)で表される化合物。
ただし、
11、R21、R31、およびR41は、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示し、かつ、4つ基のうち少なくとも1つは、R基または該基を部分構造として持つ基(ただし、R基は、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基の基中に存在する水素原子の2個以上がフッ素置換された基を示す。)を示す。
51は、水素原子または1価炭化水素基を示す。
【0011】
【化6】

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリコンウェハ基材やガラス基材等の無機材料からなる基材だけでなく、プラスチック基材等の有機材料からなる基材の表面に撥水性の薄膜を形成させた撥水性基材を製造できる。
該薄膜は比較的低エネルギーの光によって分解し、基材の光照射部に親水性が付与される。よって、様々な材質の基材を用いてコントラストの高い親水性領域と撥水性領域を表面に有する光処理基材が得られる。また、高エネルギー光源を用いることなく安価な装置を用いて、少ない工程数で、光処理基材を製造できる。
さらに、光処理基材を用いて、機能性材料のパターンが形成された部材を簡便に得ることができ、多くの用途に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他式で表される化合物も同様に記す。
まず、本発明で用いられる化合物(1)について説明する。
【0014】
【化7】

【0015】
1、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示す。1価の基は、有機基またはヘテロ原子から構成される基が好ましい。
1価の基がRの位置にあると、化合物(1)の吸光度が大きくなる傾向があるため好ましい。また1価の基がRの位置にあると、化合物(1)の吸収が長波長にシフトする傾向があるため好ましい。R1の位置やRの位置に1価の基を導入すると、立体障害により分子の平面性が失われ、吸収波長の低波長化や吸光度の低下が懸念されることから、1価の基はR、Rの位置にあることが好ましい。
【0016】
ここで、R1、R、R、およびRのうち少なくとも1つは、撥水性の1価有機基である。撥水性の1価有機基の存在によって、化合物(1)から形成される薄膜を撥水性とすることができる。撥水性の1価有機基としては、R基もしくは該基を部分構造として持つ基、オルガノシロキサン骨格を有する1価の基、または炭素数10以上のアルキル基もしくは該基を部分構造として持つ基が好ましい。撥水性の1価有機基としては、高い撥水性だけでなく撥油性をも有することから、R基もしくは該基を部分構造として持つ基が特に好ましい。
上記R基は、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基(以下、該基をR基という。)の基中に存在する水素原子の2個以上がフッ素置換された基を示す。R基の構造は、直鎖構造、分岐構造、環構造、または部分的に環を有する構造が挙げられ、直鎖構造が好ましい。
【0017】
さらに、R基のフッ素原子数は、2個以上でありかつ((R基中のフッ素原子数)/(R基中の水素原子数))×100(%)の値が60%以上となる数が好ましく、さらに80%以上となる数が好ましく、特に100%となる数(すなわち、R基がペルフルオロ化された基。以下、該基をRFF基と記す。)が好ましい。
基の炭素原子数は1〜20が好ましく、4〜16がより好ましく、6〜12が特に好ましい。炭素原子数が該範囲であると、優れた撥水性を発揮する利点がある。
基としては、C2n+1−、C2n−1−、CClFn−12n−2−、またはC2p+1O(C2qO)2r−で表されるRFF基、およびCHFn−12n−2−で表されるR基が好ましく、該RFF基が特に好ましい。ただし、nは1〜20の整数を示し、4〜16の整数がより好ましく、6〜12の整数が特に好ましい。pは1〜3の整数、qは2または3、rは1〜3の整数、sは0〜4の整数であることが好ましい。なお、R基は、R基がフッ素原子とフッ素原子以外のハロゲン原子とで置換された基であってもよい。他のハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。
【0018】
基の具体例としては、以下の基が挙げられる。
F(CF−、F(CF−、F(CF−、CFCFCF=CF−、CF(CFCF=CF−、CF(CFCF=CF−、H(CF−、H(CF−、H(CF−、Cl(CF−、Cl(CF−、Cl(CF−。
CFCFOCFCFOCF−、CFCFOCFCFOCFCF−、CFCFO(CFCFO)CF−、CFCFO(CFCFO)CFCF−。
CFCFCFOCF−、CFCFCFOCFCF−、CFCFCFOCF(CF)−、CFCFCFOCF(CF)CF−、CFCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)−、CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)CF−、CFCFCFOCF=CF−、CFCFCFOCF(CF)CFOCF=CF−。
【0019】
基を部分構造として持つ基としては、R基を末端に有する基が好ましく、式R−X−で表される基がより好ましく、式RFF−X−で表される基が特に好ましい。Xは、R基またはRFF基とベンゼン環を連結する基であり、フッ素原子を含まない2価連結基を示す。
【0020】
Xとしては、(飽和または不飽和の)2価炭化水素基、または、該2価炭化水素基の片末端に、エーテル性酸素原子、(置換または非置換の)イミノ結合、エステル結合、ケト基(−C(O)−)もしくは(置換または非置換の)アミド結合が結合した基が好ましい。これらのうち、ベンゼン環と結合するXの原子が、エーテル性酸素原子、窒素原子、カルボニル炭素原子、または不飽和炭素原子である場合には、ベンゼン環と共鳴構造をとり、化合物(1)の光吸収特性を向上できるため好ましい。
式R−X−で表される基としては、R−CH=CH−、R−CHCH=CH−、R−CHCHCH=CH−、R−C−、R−CO−、R−(CHO−、R−(CHNH−、R−(CHN(CH)−、R−(CHOC(O)−、R−(CHC(O)O−、R−(CHC(O)−、R−(CHC(O)NH−で表される基が好ましい。ただし、tは0〜4の整数を示す。なかでも、R−(CHO−(tは1〜4の整数)がより好ましく、R−(CHO−で表される基が特に好ましい。
さらに、式RFF−X−で表される基としては、式C2n+1(CHO−で表される基が特に好ましい。ただし、nは1〜20の整数を示し、4〜16が好ましく、6〜12が特に好ましい。tは前記と同じ意味を示す。
【0021】
撥水性の1価有機基が、オルガノシロキサン骨格を有する1価の基である場合、オルガノシロキサン骨格としては、式R−(Si(R−O)−Si(R−で表される基が好ましい。ただし、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基およびフルオロアリール基から選択される基を示し、uは0〜500の整数を示す。
の炭素原子数は1〜30が好ましい。入手が容易である観点からは、Rはメチル基が好ましい。また、基材に撥水性だけでなく撥油性を付与できる観点からは、Rはフルオロアルキル基、フルオロアルケニル基またはフルオロアリール基であるのが好ましく、対応するアルキル基、アリール基またはアルケニル基に含まれる水素原子の2個以上がフッ素原子で置換された基がより好ましい。
【0022】
オルガノシロキサン骨格を有する1価の基としては、式R−(Si(R−O)−Si(R22−Y−で表される基が好ましい。Yは、式R−(Si(R−O)−Si(R−で表される基とベンゼン環を連結する基であり、ケイ素原子を含まない2価連結基を示す。
Yとしては、(飽和または不飽和の)2価炭化水素基、または、該2価炭化水素基の片末端に、エーテル性酸素原子、(置換または非置換の)イミノ結合、エステル結合、ケト基(−C(O)−)もしくは(置換または非置換の)アミド結合が結合した基が好ましい。これらのうち、ベンゼン環と結合するYの原子が、エーテル性酸素原子、窒素原子、カルボニル炭素原子、または不飽和炭素原子である場合には、ベンゼン環と共鳴構造をとり、化合物(1)の光吸収特性を向上できるため好ましい。
Yとしては、−CH=CH−、−CHCH=CH−、−CHCHCH=CH−、−C−、−CO−、−(CHO−、−(CHNH−、−(CHN(CH)−、−(CHOC(O)−、−(CHC(O)O−、−(CHC(O)−、−(CHC(O)NH−で表される基が好ましい。ただし、vは0〜4の整数を示す。なかでも、−(CHO−(vは1〜4の整数)がより好ましく、−(CHO−で表される基が特に好ましい。なお、該基(Y)の向きは、左側に式R−(Si(R−O)−Si(R−で表される基が、右側にベンゼン環が結合する。
【0023】
撥水性の1価有機基が、炭素数10以上のアルキル基もしくは該基を部分構造として持つ基である場合、炭素数10以上のアルキル基であるのが好ましく、炭素数14〜20のアルキル基であるのがより好ましい。炭素原子数が該範囲であると、優れた撥水性を発揮する利点がある。アルキル基は、直鎖構造、分岐構造、環構造、または部分的に環を有する構造が挙げられ、直鎖構造が好ましい。
撥水性の1価有機基が炭素数10以上のアルキル基もしくは該基を部分構造として持つ基の具体例としては、以下の基が挙げられる。
H(CH10−、H(CH12−、H(CH14−、H(CH16−、H(CH18−、H(CH20、H(CH14O−、H(CH16O−、H(CH18O−、H(CH20O−、H(CH14NH−、H(CH16NH−、H(CH18NH−、H(CH20NH−。
【0024】
化合物(1)中の撥水性の1価有機基は、入手容易性および経済性の観点から1個であることが好ましいことから、R〜Rの1つが撥水性の1価有機基であり、残余の3つが水素原子または撥水性の1価有機基以外の1価の基であるのが好ましい。
〜Rが、撥水性の1価有機基以外の1価の基である場合には、化合物(1)の光吸収特性を向上できるために、ベンゼン環と共鳴構造をとりうる基であることが好ましい。ベンゼン環と共鳴構造をとりうる基としては、ベンゼン環に結合する原子が非共有電子対を持つヘテロ原子である基、またはベンゼン環に結合する炭素原子が多重結合を構成している基が好ましい。そのような基としては、−O−R、−OC(O)−R、−NR、−NO、−NHC(O)R、−SR、−(CO)−R、−(CO)O−R、−CR=CR、−CN、−C(O)NR、またはフェニル基から選択される基が好ましい。上記置換基中のR基は水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。分子の平面性が失われ、吸収波長が低波長化したり吸光度が低下するのをさけるために、1価の基は、立体障害の少ない基が好ましく、原子数2〜6の基がより好ましい。
【0025】
さらに、R〜Rは水素原子を必須とすることが好ましい。R〜Rは2個が水素原子であり、残余の1個が撥水性の1価有機基であり、残余の1個が撥水性の1価有機基以外の1価の基であることが特に好ましい。
【0026】
は、水素原子または1価炭化水素基を示し、水素原子、メチル基、またはエチル基が好ましい。
【0027】
化合物(1)としては、下記化合物(1−1)が好ましい。
【0028】
【化8】

【0029】
ただし、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示し、かつ、4つ基のうち少なくとも1つは、R基または該基を部分構造として持つ基を示す。
51は、水素原子または1価炭化水素基を示す。
基または該基を部分構造として持つ基としては、前記と同様の態様が挙げられる。
化合物(1−1)中のR基または該基を部分構造として持つ基は、入手容易性および経済性の観点から1個であることが好ましいことから、R〜Rの1つがR基または該基を部分構造として持つ基であり、残余の3つが水素原子またはR基を持たない1価の基であるのが好ましい。
11〜R41がR基を持たない1価の基である場合には、上記したR〜Rが撥水性の1価有機基以外の1価の基である場合における態様と同様の態様が挙げられる。
11〜R41は水素原子を必須とすることが好ましい。R11〜R41は2個が水素原子であり、残余の1個がR基または該基を部分構造として持つ基であり、残余の1個がR基を持たない1価の基であることが特に好ましい。
51は、水素原子またはメチル基であるのが好ましい。
【0030】
化合物(1)としては、下記化合物(1−2)が特に好ましい。
【0031】
【化9】

【0032】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
22:アルコキシ基を示す。
、X:前記と同じ意味を示す。
52:水素原子またはメチル基を示す。
【0033】
化合物(1)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0034】
【化10】

【0035】
本発明の撥水性基材の製造方法においては、まず基材の表面に化合物(1)を塗布し、撥水性の薄膜を基材の表面に形成する。化合物(1)を基材表面に塗布することにより、化合物(1)が脱窒素し、基材表面の官能基との間に化学結合が形成すると考えられ、化合物(1)の誘導体からなる薄膜が基材表面に形成する。
本発明における薄膜は基材の最表面に形成される。薄膜は基材の表面に接して形成されてもよく、基材上に形成された1または2以上の中間層を介して形成されてもよい。中間層は、本発明における光照射によって、光分解しない材料からなる層であるのが好ましく、金属薄膜が好ましい。
本発明に用いる基材の材料は特に限定されず、無機材料、有機材料、および金属等が好ましく挙げられる。本発明では、上記材料からなる基材、または上記材料からなる表面を有する基材を用いることができる。無機材料としては、ガラス、石英ガラス、シリコンウェハ等が挙げられる。有機材料としては、プラスチック、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリ汗タール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。フレキシブルな有機材料からなる基材を用いた場合には、後述するように光処理基材からロールツーロール法により高スループットでデバイスを作成することができる。金属としては、Al,Zn等の卑金属、Au,Pt等の貴金属、およびこれらの金属酸化物等が挙げられる。
【0036】
基材が無機材料である場合、基材表面は水酸基を有する。例えばシリコンウェハやガラスの場合は表面にSi−OHが生成し、高い親水性を示す。基材がプラスチック等の有機材料である場合、基材の表面を酸化処理することにより、表面にはカルボキシ基、カルボニル基(アルデヒド基、ケトン基などを含む)、水酸基、アルコキシ基、エーテル結合、エステル結合、ペルオキシド基、オキシラニル基等が生成し、主にはカルボキシ基が生成する。基材が卑金属または金属酸化物である場合、基材の表面を酸化処理することにより表面には水酸基が生成し、高い親水性を示す。
【0037】
なお、該基材に本発明の化合物(1)を塗布する前に、基材の表面を酸化処理することが好ましい。酸化処理する方法としては、紫外線照射処理、紫外線オゾン処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理等があり、紫外線照射処理、紫外線オゾン処理またはプラズマ処理が好ましい。
【0038】
化合物(1)を基材表面に塗布する方法としては、化合物(1)または化合物(1)と有機溶剤とを含む組成物をはけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、または手塗り等の塗布方法で塗布する方法が挙げられる。塗布は、室温下または加熱下で行うことが好ましい。また塗布後の基材は、大気中または窒素気流中等で乾燥されることが好ましい。該乾燥は室温で行うのが好ましい。乾燥を加熱下で行う場合には、基材の材質の耐熱性によって温度および時間を適宜変更するのが好ましい。
【0039】
化合物(1)と有機溶剤とを含む組成物とする場合、化合物(1)の1種を含有してもよく、2種以上を含有してもよい。有機溶剤としては化合物(1)と反応しない有機溶剤から選択するのが好ましく、炭化水素類、芳香族類、塩素化炭化水素類、フッ素系炭化水素類等の溶媒が好ましい。
【0040】
薄膜表面の水に対する接触角は、90度以上である場合が好ましく、100度以上である場合がより好ましく、105度以上である場合が最も好ましい。ここで接触角とは、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0041】
次に、上記製造方法により得られた撥水性基材の撥水性の薄膜に光照射することによって、薄膜の光照射部を親水性とした光処理基材を得る。撥水性の薄膜を構成している化合物(1)の誘導体は光照射により分解し、基材の表面に元の親水性基が生成すると考えられる。
【0042】
光照射に用いる光は、波長250nm以上の光が好ましく、波長300nm以上の光がより好ましく、波長350nm以上の光が特に好ましい。該波長の上限は400nmが好ましい。波長250nm以上の光は、基材を分解する恐れが少ない利点がある。
【0043】
光照射の光源には、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ナトリウムランプ、窒素等の気体レーザー、有機色素溶液の液体レーザー、無機単結晶に希土類イオンを含有させた固体レーザー等を用いることが好ましい。単色光を照射したい場合には、光源にレーザーを用いるのが好ましい。レーザー光以外の光源を用いて単色光を得たい場合には、広帯域の線スペクトルまたは連続スペクトルを、バンドパスフィルター、カットオフフィルター等の光学フィルターを使用して、必要な波長を有する光を取り出すのが好ましい。光源は、一度に大面積に照射できることから、高圧水銀ランプまたは超高圧水銀ランプが好ましい。
【0044】
また、光照射の際には、薄膜の最表面に液体を接触させた状態で、薄膜に光照射をすることが好ましい。薄膜表面に液体を接触させた状態で光照射を行うと、薄膜の光分解反応が促進し、短時間で分解反応が進行する。分解反応が進行する理由は定かではないが、気相中で光照射を行う場合に比して、液体が分子間のエネルギー移動による消光現象を抑制した結果、照射に用いた光エネルギーが効率よく薄膜に伝えられるため、と考えられる。
【0045】
液体としては、常温および常圧において液状であって、光照射に用いる光を吸収しない溶媒または光を吸収しにくい溶媒が好ましい。液体の例としては、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類、ハロゲン系溶媒が挙げられる。液体は1種のみを用いても、2種以上を用いて粘度、極性、または沸点等を調節した混合液体であってもよい。液体としては、水のみ、または水に他の液体を添加した液体が好ましく、環境面での観点から水のみが特に好ましい。
【0046】
薄膜の最表面に液体を接触させた状態で光照射を行う方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
方法1;撥水性基材を液体中に浸漬し、そのまま薄膜に光照射する方法。
方法2;撥水性基材の薄膜の最表面に液体からなる層を形成し、薄膜に光照射する方法。
方法2の場合には、撥水性基材の表面に液体の層を形成させた後に光照射を行うのが好ましい。液体の層を形成させる方法としては、回転塗布、浸漬塗布、はけ塗り、流し塗り、スキージ塗布、スプレー塗布および手塗りから選ばれる塗布方法が好ましく、生産性に優れる回転塗布法または浸漬塗布法が特に好ましい。
【0047】
方法1および2において、液体を撥水性の薄膜上に保持しやすくするために、25℃における表面張力が40mN/m以下である液体を使用するのが好ましい。該表面張力に調節するために、液体には界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては特に限定されず、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤からなる群から選ばれる界面活性剤を1種類以上用いるのが好ましい。界面活性剤は、光を吸収する部位(芳香環等)を持たない界面活性剤が特に好ましい。界面活性剤は、フッ素系であっても非フッ素系であってもよい。界面活性剤の量は液体に対して5質量%以下が好ましい。
また、液体に酸、塩基、またはそれらの塩を含ませてもよい。これらを含ませた場合には、分解反応が促進される傾向がある。酸としては特に限定されず、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられる。また、塩基としては特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等が挙げられる。
【0048】
本発明においては、光照射することによって、薄膜の光照射部が親水性に変化する。光照射部の水に対する接触角が、60度以下である場合が好ましく、40度以下である場合がより好ましく、20度以下である場合が最も好ましい。さらに、光照射前後の接触角差は50度以上である場合が好ましく、60度以上である場合がより好ましく、70度以上である場合が最も好ましい。
【0049】
光照射は、薄膜の全面に行ってもよく、一部に行ってもよく、通常は一部に行うのが好ましい。光照射を薄膜の一部に行うことにより、光照射面と非照射面との間に撥水親水性が異なる表面が形成され、表面に撥水性領域と親水性領域を有する光処理基材が得られる。光照射を薄膜の一部に行う方法としては、所定のパターンを有するフォトマスクを介して光照射を行う方法、レーザー光を用いて薄膜の一部にのみ光照射を行う方法が挙げられ、前者の方法は、一度に大きな面積を照射できるため好ましい。
また、光照射は、基材を透過する波長の光であれば、基材のどちらの面側から行ってもよく、通常は基材の薄膜面側から光照射するのが好ましい。
光の照射時間は、光の波長、光の強度・光源の種類、薄膜を形成する材料の種類等に応じて、適宜変更しうる。光照射を液相中にて行う場合、気相中で照射を行う場合に比して照射量が1/5〜1/10程度となる時間で、薄膜の接触角を変化させうる。
【0050】
図2に、シリコンウェハ基材に化合物(1)を塗布して本発明の製造方法を実施する場合の例における基材表面を模式的に示す断面図を示す。ただし、Rは前記と同じ意味を示し、Meはメチル基を示す。化合物(1)は酸化されたシリコンウェハ表面のSi−OHと反応し、エーテル結合を形成することで基材表面に撥水性の薄膜が形成される。光照射部では薄膜を構成する化合物(1)の誘導体が分解し、化合物(1)の誘導体が基材表面から脱離して元の親水性表面が露出する。その親水性は高く、撥水親水のコントラストを大きくすることができる。
【0051】
図3に、プラスチック基材に化合物(1)を塗布して本発明の製造方法を実施する場合の例における基材表面を模式的に示す断面図を示す。ただし、Rは前記と同じ意味を示し、Meはメチル基を示す。化合物(1)は酸化されたプラスチック表面の−COOHと反応し、エステル結合を形成することで基材表面に撥水性の薄膜が形成される。光照射部では薄膜を構成する化合物(1)の誘導体が分解し、化合物(1)の誘導体が基材表面から脱離して元の親水性表面が露出する。このようにプラスチック基材にも簡単に撥水親水パターンを形成することができる。
【0052】
さらに本発明によれば、上記製造方法により得た親水性領域と撥水性領域を有する光処理基材の表面に機能性材料を含む液を塗布すれば、光処理基材の親水性領域にのみ該液を付着させることができる。つぎに基材を乾燥させることによって、機能性材料のパターンが形成された部材を製造できる。機能性材料としては、金属配線を形成する金属粒子分散ペースト、カラーフィルタを形成する色素材料、電子デバイス・有機ディスプレイを形成するセラミック材料、有機半導体材料等が挙げられる。機能性材料を含む液とは、機能性材料を水もしくは有機溶媒に溶解させた液をいう。液の塗布方法としては、インクジェット法が好ましい。
光処理基材から機能性材料のパターンが形成された部材を得た後、さらに部材の表面の全体に光照射することにより、部材表面の撥水性領域を親水性にすることができる。すなわち、撥水性領域における薄膜を構成する化合物(1)の誘導体を分解し、化合物(1)の誘導体を部材表面から脱離させることができる。機能性材料のパターンが形成された部材は電子素子として有用であるところ、該部材を電子素子として使用する場合に、撥水性の薄膜が素子の動作に影響するおそれがある。よって、機能性材料のパターンが形成された後、撥水性の薄膜を除去することが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例においては、ジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R−225と記す。)としては、旭硝子社製商品名AK−225を用いた。水に対する接触角の測定は室温(25℃)にて行い、静滴法を用い基材に水滴を3ケ所乗せ、測定された接触角3点の平均値として求めた。
【0054】
[例1]化合物(1)の合成例
(例1−1)
出発原料としてCCHCHCHBrを用いた以外は国際公開2005/054256号パンフレットの合成例(1−1)から合成例(1−3)と同様にして、化合物(a)を得た。H−NMRの測定結果を示す。
【0055】
【化11】

【0056】
H−NMR(溶媒:CDCl)δ(ppm):2.14−2.44(4H)、3.98(3H)、4.16(2H)、5.83(2H)、7.50(1H)、7.57(1H)、8.43(1H)。
【0057】
(例1−2)
50mLの褐色瓶に、化合物(a)(150mg)、酸化マンガン(IV)(150mg)およびヘキサン(15g)を入れ、室温で1時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液の固体をろ過し、化合物(b)の黄色溶液を得た。その一部を抜き取り、溶媒を留去し、H−NMRにより分析したところ、化合物(b)が89モル%含まれていた。H−NMRの測定結果を示す。
【0058】
【化12】

【0059】
H−NMR(溶媒:CDCl)δ(ppm):2.1−2.4(4H)、3.93(3H)、4.11(2H)、6.39(1H)、6.77(1H)、7.78(1H)。
【0060】
[例2]比較用化合物(c)の合成
出発原料としてCCHCHCHBrを用いた以外は国際公開2005/054256号パンフレットの合成例(1−1)、合成例(1−2)、および合成例2と同様にして、化合物(c)を得た。
【0061】
【化13】

【0062】
H−NMR(溶媒:CDCl)δ(ppm):0.65(2H)、1.21(9H)、1.42−1.78(4H)、2.14−2.46(6H)、3.80(6H)、3.96(3H)、4.15(2H)、5.51(2H)、7.01(1H)、7.72(1H)。
【0063】
[Siウェハ基材]
酸化膜付Siウェハを、5分間UVオゾン処理し、洗浄済みSiウェハを得た。洗浄済みSiウェハの水に対する接触角は5度以下であった。以下の例においては、Siウェハ基材として該洗浄済みSiウェハを用いた。
[ポリイミド基材]
厚さ125μmポリイミドフィルムを、5分間UVオゾン処理し、洗浄済みポリイミドフィルムを得た。洗浄済みポリイミドの水に対する接触角は20度であった。以下の例においては、ポリイミド基材として該洗浄済みポリイミドフィルムを用いた。
【0064】
[例3]撥水性基材の作製
ガラス製容器に、例1で得られた化合物(b)の黄色溶液とSiウェハ基材を入れ、室温で1時間静置した。Siウェハ基材を取り出し、アセトンで5回、R−225で5回洗浄し風乾して撥水性基材(b−1)を作製した。
得られた撥水性基材(b−1)の水に対する接触角は97度であった。
[例4]撥水性基材の作製
ガラス製容器に、例1で得られた化合物(b)の黄色溶液とポリイミド基材を入れ、室温で1時間静置した。ポリイミド基材を取り出し、アセトンで5回、R−225で5回洗浄し風乾して撥水性基材(b−2)を作製した。
得られた撥水性基材(b−2)の水に対する接触角は95度であった。
[例5]撥水性基材の作製
ガラス製容器に、例2で得られた化合物(c)を1質量部、トルエンを100質量部およびSiウェハ基材を入れ、100℃で1時間加熱した。Siウェハ基材を取り出し、アセトンで5回、R−225で5回洗浄し風乾して撥水性基材(c−1)を作製した。
得られた撥水性基材(c−1)の水に対する接触角は100度であった。
[例6]撥水性基材の作製
Siウェハ基材の代わりにポリイミド基材を用いた以外は例5と同様にして撥水性基材(c−2)を作製した。
得られた撥水性基材(c−2)の水に対する接触角は68度であり、化合物(c)をポリイミド基材に充分に反応させることができなかった。
【0065】
[光照射方法]
以下の光照射において、光源には超高圧水銀ランプを用いた。照度は365nmにおいて100mW/cmとした。
[例7]光処理基材の作製
撥水性基材(b−1)について、化合物で処理した面上から、1分間光照射を行った。光照射した後、アセトンで5回、R−225で5回洗浄し、風乾した後に、水に対する接触角の測定を行った。同様に光照射を5分間、10分間、15分間、30分間行った光処理基材においても洗浄、風乾した後に、水に対する接触角の測定を行った。接触角測定結果を表1にまとめて示す。
[例8]光処理基材の作製
撥水性基材(b−2)について、例7と同様の処理を行い、接触角の測定を行った。結果を表1にまとめて示す。
[例9]光処理基材の作製
撥水性基材(c−1)について、例7と同様の処理を行い、接触角の測定を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0066】
【表1】

【0067】
[例10]光処理基材の作製
容器に撥水性基材(b−1)を入れ、これに2−プロパノールを3mmの高さまで満たし、化合物で処理した面上から、0.5分間光照射した後、基材を取り出した。アセトンで5回、R−225で5回洗浄し、風乾した後に、接触角測定を行った。同様に光照射を1分間、2分間、5分間、10分間行った光処理基材においても洗浄、風乾した後に、水に対する接触角の測定を行った。接触角測定結果を表2にまとめて示す。
【0068】
[例11]光処理基材の作製
撥水性基材(b−2)について、例10と同様の処理を行い、接触角の測定を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により得られた光処理基材の表面は、撥水性領域からなる、または撥水性領域と親水性領域とからなる。このうち有用性の観点から、光処理基材は、撥水性領域と親水性領域とからなる光処理基材が好ましい。該光処理基材は、撥水性領域と親水性領域のパターンが基材表面に形成させうることから、該表面の親水性領域に機能性材料を付着させ、様々な基材に応用できる。
たとえば、該処理基材にインクジェット印刷、スクリーン印刷等の手法により機能性材料の溶液を塗布すると、通常の溶液は親水性領域にのみ濡れ広がり、撥水性領域には滲み出ないため、鮮明な機能性材料のパターンが形成できる。さらに、親水性領域または撥水性領域に親水性または撥水性のインクを含ませ、別の基材に転写することにより、マイクロコンタクトプリンティング用のスタンプ等として利用できる。また、該処理基材にインクジェット印刷または真空蒸着等の手法で、親水性領域または撥水性領域のみに機能性材料を蒸着させることによっても、機能性材料のパターンが形成された基材が得られる。該処理基材を機能性材料の溶液で濡らした場合には、撥水性領域上の該溶液は親水性領域へと移動し、機能性材料のパターンが形成できる。得られた基材は、金属配線板として、カラーフィルタとして、電子デバイス・有機ディスプレイ用材料として、有機半導体材料等として有用である。
【0071】
また本発明の方法は、無機材料からなる基材だけでなくプラスチック等の有機材料からなるフレキシブルな基材を用いることができる。よって、ロールツーロール法による高スループットのデバイス作成と、本発明の方法とを組み合わせることにより、高解像度の機能性材料のパターンをより容易に作成でき、安価で簡便に各種デバイスの作成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】従来の光処理基材の製造方法を実施する場合の例における基材表面を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の光処理基材の製造方法を実施する場合の例における基材表面を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の光処理基材の製造方法を実施する場合の他の例における基材表面を模式的に示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に下式(1)で表される化合物を塗布し、撥水性の薄膜を基材の表面に形成することを特徴とする撥水性基材の製造方法。
ただし、
1、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示し、かつ、4つの基のうち少なくとも1つは、撥水性の1価有機基を示す。
は、水素原子または1価炭化水素基を示す。
【化1】

【請求項2】
撥水性の1価有機基は、R基もしくは該基を部分構造として持つ基(ただし、R基は、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基の基中に存在する水素原子の2個以上がフッ素置換された基を示す。)、オルガノシロキサン骨格を有する1価の基、または炭素数10以上のアルキル基もしくは該基を部分構造として持つ基である請求項1に記載の撥水性基材の製造方法。
【請求項3】
式(1)で表される化合物は、下式(1−1)で表される化合物である請求項1または2に記載の撥水性基材の製造方法。
ただし、
11、R21、R31、およびR41は、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示し、かつ、4つ基のうち少なくとも1つは、R基または該基を部分構造として持つ基(ただし、R基は、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基の基中に存在する水素原子の2個以上がフッ素置換された基を示す。)を示す。
51は、水素原子または1価炭化水素基を示す。
【化2】

【請求項4】
基材の表面を酸化処理した後に式(1)で表される化合物を塗布することで撥水性の薄膜を基材の表面に形成する請求項1〜3のいずれかに記載の撥水性基材の製造方法。
【請求項5】
基材が、有機材料からなる、または有機材料からなる表面を有する請求項1〜4のいずれかに記載の撥水性基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により撥水性基材を得て、ついで撥水性の薄膜に光照射することによって薄膜の光照射部を親水性にすることを特徴とする光処理基材の製造方法。
【請求項7】
波長250nm以上の光を照射する請求項6に記載の光処理基材の製造方法。
【請求項8】
光処理基材は、表面に撥水性領域と親水性領域を有する請求項6または7に記載の光処理基材の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法で得られた光処理基材の表面に機能性材料を含む液を塗布して、光処理基材の親水性領域に該液を付着させ、つぎに乾燥させることによって機能性材料のパターンを形成させることを特徴とする機能性材料のパターンが形成された部材の製造方法。
【請求項10】
下式(1−1)で表される化合物。
ただし、
11、R21、R31、およびR41は、それぞれ独立して、水素原子または1価の基を示し、かつ、4つ基のうち少なくとも1つは、R基または該基を部分構造として持つ基(ただし、R基は、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基の基中に存在する水素原子の2個以上がフッ素置換された基を示す。)を示す。
51は、水素原子または1価炭化水素基を示す。
【化3】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−275742(P2007−275742A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104410(P2006−104410)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】