説明

撥水撥油性顔料とその製造方法およびその顔料を含有する化粧料

【課題】十分な撥水撥油性を有し、しかも一般に用いられているバインダーや界面活性剤のみで、満足のできる良好な分散状態を得ることのできる撥水撥油性顔料
【解決手段】顔料粉体と、化学式(1)で示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物と、化学式(2)で示されるN−アシルアミノ酸とを同時に酸性下で混合した後、中和処理することによって、前記顔料粉体に前記リン酸エステル化合物とN−アシルアミノ酸とを表面処理する。
【化9】


【化10】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油性を有する顔料とその製造方法および、その顔料を含有するファンデーション、アイシャドー、ほほ紅等のメークアップ化粧料またはサンスクリーン化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ファンデーション、アイシャドー、ほほ紅等のメークアップ化粧料またはサンスクリーン化粧料に撥水撥油性能を付与するには、パーフルオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物で表面処理された顔料粉体を配合したり(特許文献1,2,3参照)、あるいはパーフルオロアルキル基を有するアルコキシシランで表面処理された顔料粉体を配合する(特許文献4参照)ことが行われている。
【0003】
しかし、上記従来の顔料粉体では、化粧料の製造に際してケーキングを起こすといったトラブルがあったり、あるいはバインダーとして高価なフッ素系溶剤を使用しなければならない(特許文献5,6参照)という欠点があった。
【0004】
そこで、これらの欠点を解消するために、パーフルオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物とアルコキシアルキルシラン化合物とを有機溶剤存在下で同時処理したり(特許文献7参照)、パーフルオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物とポリシロキサンとを有機溶剤存在下で同時処理する(特許文献8参照)ことが行われている。また、水系では、アルカリ領域において撥水撥油性を付与するための表面処理化合物を溶解または分散させて顔料粉体と混合し中和処理することによって、顔料粉体の表面処理を行うようにしたものが提案されている(特許文献9参照)。
【0005】
【特許文献1】特公平5−86984号公報
【特許文献2】特開平3−246210号公報
【特許文献3】特開平4−330007号公報
【特許文献4】特開2001−2524号公報
【特許文献5】特開平4−224506号公報
【特許文献6】特開平5−39209号公報
【特許文献7】特開2001−316223号公報
【特許文献8】特開2000−256133号公報
【特許文献9】特開2000−290532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、パーフルオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物で表面処理された顔料粉体は、パーフルオロ基によって強い撥水撥油性を発現するため、一般に用いられている油分(脂肪族系、シリコン系)をいわゆるバインダーや界面活性剤として用いるだけでは、満足される良好な分散状態で良好な感触の化粧料を得ることが難しいという問題点がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、十分な撥水撥油性を有し、しかも一般に用いられているバインダーや界面活性剤のみで、満足のできる良好な分散状態を得ることのできる撥水撥油性顔料とその製造方法を提供し、併せてその顔料を含有して良好な感触を有する化粧料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、化学式(1)で示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物と、化学式(2)で示されるN−アシルアミノ酸と顔料粉体とを水系酸性領域下で中和処理して同時処理することで、優れた分散性を有する顔料が得られることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【化5】

【化6】

【0009】
要するに、第1発明による撥水撥油性顔料は、
顔料粉体の表面に、上記化学式(1)で示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物と、上記化学式(2)で示されるN−アシルアミノ酸とを同時処理してなることを特徴とするものである。
【0010】
前記第1発明において、前記N−アシルアミノ酸が、Nε−ラルロイルリジンであるのが好ましい(第2発明)。
【0011】
また、第3発明による撥水撥油性顔料の製造方法は、
顔料粉体と、上記化学式(1)で示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物と、上記化学式(2)で示されるN−アシルアミノ酸とを同時に酸性下で混合した後、中和処理することによって、前記顔料粉体に前記リン酸エステル化合物とN−アシルアミノ酸とを表面処理することを特徴とするものである。
【0012】
さらに、第4発明による化粧料は、
前記第1発明または第2発明に係る撥水撥油性顔料を含有してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一般の分散配合剤、例えばワセリン、ラノリン、マイクロクリスタルワックス、カルナバロウ、キャンデリアロウ、スクワラン、流動パラフィン、エステル油、ジグリセライド、トリグリセライド、シリコン油等の分散配合剤にて良好に分散配合できる撥水撥油性顔料を得ることができる。また、その撥水撥油性顔料を化粧料に配合することで、良好な感触を有する化粧料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明による撥水撥油性顔料とその製造方法およびその顔料を含有する化粧料の具体的な実施の形態について説明する。
【0015】
本実施形態において、顔料粉体の表面処理方法は次のとおりである。すなわち、水スラリーに下記化学式(1)にて示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物を所定量徐々に滴下し、酸を加えてスラリーを酸性状態にして加温する。次いで、その中に下記化学式(2)にて示されるN−アシルアミノ酸を所定量直接加えるか、もしくは予め酸性領域で分散溶解させた水溶液を加えて良く撹拌する。その後アルカリ水溶液で中和することにより前記リン酸エステル化合物とN−アシルアミノ酸とを同時表面処理する。
【化7】

【化8】

【0016】
本実施形態で用いられる顔料粉体としては、無機顔料、有機顔料および樹脂粉体顔料が挙げられる。
【0017】
ここで、無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄、群青、亜鉛華、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、マイカ、セリサイト、タルク、シリカ、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化クロム、ケイ酸マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、チタン被覆雲母等が挙げられる。また、有機顔料としては、リソールルビンB、レーキレッドC、リソールレッド、ローダミンB、ヘリンドンピンクCN、パーマネントレッド、ベンジルオレンジG、フタロシアニンブルー等が挙げられる。また、樹脂粉体顔料としては、ナイロンパウダー、アクリルパウダー、シリコンパウダー等が挙げられる。
【0018】
また、本実施形態で用いられる前記化学式(1)にて示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物としては、一般的に旭硝子(株)からAG−530の名称で市販されている水分散エマルジョンの固形分であるパーフルオロアルキルリン酸エステルジエタノールアミン塩、またこれと同じ分子構造をもつが塩の形が異なるパーフルオロアルキルリン酸エステルナトリウム塩、パーフルオロアルキルリン酸エステルカリウム塩、パーフルオロアルキルリン酸アンモニウム塩等が挙げられる。
【0019】
次に、本実施形態で用いられる前記化学式(2)で示されるN−アシルアミノ酸としては、味の素(株)より市販されている商品名アミホープLLのNε−ラウロイルリジンがあるが、他に、Nα−ヘキサノイルリジン、Nα−オレイルイルリジン、Nα−ラウロイルリジン、Nα−ミリストノイルリジン、Nα−パルミトイルリジン、Nα−ステアノイルリジン、Nε−ヘキサノイルリジン、Nε−オレイルイルリジン、Nε−ミリストノイルリジン、Nε−パルミトイルリジン、Nε−ステアノイルリジン等が挙げられる。
【0020】
本実施形態において、N−アシルアミノ酸の被覆量については特に限定されるものではないが、一般に0.1〜20重量%が適当である。この被覆量が、0.1重量%未満であると、一般的なバインダーおよび界面活性剤等のみでは分散状態の良い化粧料を得ることができず、フッ素系の油剤を使用しなければならない場合が生じる可能性がある。一方、被覆量が20重量%を超えると、前記化学式(1)にて示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物による被覆でもたらされる撥油性が十分に発現しなくなる可能性がある。
【実施例】
【0021】
次に、本発明による撥水撥油性顔料とその製造方法およびその顔料を含有する化粧料の具体的な実施例を挙げて、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
(製造実施例1)
まず、撹拌および加温装置を備えたステンレス製反応容器にイオン交換水1000重量部と酸化チタン100重量部とを入れて撹拌して、酸化チタンを分散させた。次に、旭硝子(株)製パーフルオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物であるAG−530、5重量部を約1/20程度に薄めた水溶液を滴下し、その後適度に希釈した塩酸水溶液をpH3以下までゆっくりと滴下した。さらに、この溶液を80℃まで加温した後、予めイオン交換水100重量部と味の素(株)製のNε−ラウロイルリジンであるアミホープLL、2重量部をpH3以下で加温分散させた水分散液を加えてよく撹拌した。その後、炭酸ナトリウム水溶液を用いてpH6まで中和を行った。次いで、処理された粉体を数回水で洗浄した後、ろ過を行い、乾燥後粉砕して、しっとり感のある撥水撥油性を有する酸化チタンを得た。
【0023】
(製造実施例2)
製造実施例1における酸化チタンの代わりにセリサイト、タルクおよびマイカを用いて、製造実施例1と同様にして表面処理を行い、しっとり感のある撥水撥油性を有するセリサイト、タルクおよびマイカを得た。
【0024】
(製造実施例3)
製造実施例1における酸化チタンの代わりに黒色酸化鉄、黄酸化鉄および赤酸化鉄を用いて、加温温度を80℃から60℃に下げた以外は製造実施例1と同様にして表面処理を行い、しっとり感のある撥水撥油性を有する黒酸化鉄、黄酸化鉄および赤酸化鉄を得た。
【0025】
(製造比較例1)
製造実施例1において、味の素(株)製のNε−ラウロイルリジンであるアミホープLL分散液を加えないで、旭硝子(株)製パーフルオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物であるAG−530のみで表面処理を行い、撥水撥油性を有する酸化チタンを得た。
【0026】
(製造比較例2)
製造比較例1における酸化チタンの代わりにセリサイト、タルクおよびマイカを用いて、製造比較例1と同様にして表面処理を行い、撥水撥油性を有するセリサイト、タルクおよびマイカを得た。
【0027】
(製造比較例3)
製造比較例1における酸化チタンの代わりに黒色酸化鉄、黄酸化鉄および赤酸化鉄を用いて、加温温度を80℃から60℃に下げた以外は製造比較例1と同様にして表面処理を行い、撥水撥油性を有する黒酸化鉄、黄酸化鉄および赤酸化鉄を得た。
【0028】
上記製造実施例1〜3および製造比較例1〜3で得られた顔料粉体の撥水度および撥油度をエルマー社製ゴニオメーター式接触角測定装置を用いて水および流動パラフィンによる接触角を測定することにより得た。その結果が表1に示されている。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果から、パーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物に対して、Nε−ラウロイルリジンを同時処理しても、得られた顔料粉体は十分な撥水撥油性を有していることがわかる。しかも、本発明の方法によって処理された顔料粉体はしっとり感があり、感触も優れていた。
【0031】
(実施例1)
製造実施例で調製された顔料粉体を用い、以下の配合よりなるパウダーベース88%と、バインダーベース12%とをヘンシェルミキサーにて混合してパウダーファンデーションを調製した。
パウダーベースの配合比率:
本発明セリサイト 35.0
本発明タルク 25.0
本発明マイカ 20.0
本発明酸化チタン 10.0
本発明黄酸化鉄 4.0
本発明ベンガラ 1.2
本発明黒色酸化鉄 0.8
ナイロンパウダー 4.0
100.0
バインダーベースの配合比率:
ジメチルポリシロキサン(6CS) 30
ジメチルポリシロキサン(10000CS) 25
精製ラノリン 9
エステル油 36
100
【0032】
(比較例1)
製造比較例で調製された顔料粉体を用い、実施例1の配合にてその実施例1と同様にしてパウダーファンデーションを調製した。
【0033】
(実施例2)
製造実施例で調製された顔料粉体を用い、以下の配合にてW/Oリキッドファンデーションを調整した。
本発明タルク 3.0
本発明セリサイト 2.0
本発明酸化チタン 15.0
本発明ベンガラ 0.2
本発明黄酸化鉄 2.5
本発明黒色酸化鉄 0.8
メチルポリシロキサン(6CS) 7.4
ジメチルシクロヘキサン−メチル(ポリオキシエチレン)
ジメチルシロキサン共重合体 1.8
メチルポリシロキサン(100S) 8.0
メチルポリシロキサン(10000S) 4.0
メチルフェニルポリシロキサン 10.0
エタノール 10.0
1,3−ブチレングリコール 2.0
精製水 33.3
100.0
【0034】
(比較例2)
製造比較例で調製された顔料粉体を用い、実施例2の配合にてその実施例2と同様にしてW/Oリキッドファンデーションを調整した。
【0035】
上記実施例1,2および比較例1,2の化粧料について、その分散状態、状態安定性、撥水性、撥油性の結果が表2にまとめられている。
【0036】
【表2】

【0037】
この表2の結果より、製造実施例1,2で調製された本発明による顔料粉体を用いた化粧料は、撥水撥油性を有していることがわかる。また、実施例1のパウダーファンデーションは分散状態も良く、撥水撥油性を示し、またケーキングを起こすこともなく分散安定性も良好である。また、肌への延展性も良好で粉っぽい感触はなかった。これに対して、比較例1のパウダーファンデーションでは撥水撥油性を失しているが、ケーキングを起こし、良好なパウダーファンデーションではなかった。
【0038】
一方、実施例2のW/OリキッドファンデーションではW/Oエマルジョンの安定性、分散状態も良く、肌に塗った場合、良好な撥水撥油性を示した。これに対して、比較例2では、W/Oリキッドファンデーションが非常に不安定ですぐに分離を起こしてしまい、安定なW/Oリキッドファンデーションを得ることができなかった。
【0039】
本実施例では、ファンデーションに適用したものについて説明したが、本発明の撥水撥油性顔料は、ファンデーション以外のメークアップ化粧料や、サンスクリーン化粧料に適用して好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粉体の表面に、化学式(1)で示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物と、化学式(2)で示されるN−アシルアミノ酸とを同時処理してなることを特徴とする撥水撥油性顔料。
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記N−アシルアミノ酸が、Nε−ラルロイルリジンである請求項1に記載の撥水撥油性顔料。
【請求項3】
顔料粉体と、化学式(1)で示されるパーフロオロアルキル基を有するリン酸エステル化合物と、化学式(2)で示されるN−アシルアミノ酸とを同時に酸性下で混合した後、中和処理することによって、前記顔料粉体に前記リン酸エステル化合物とN−アシルアミノ酸とを表面処理することを特徴とする撥水撥油性顔料の製造方法。
【化3】

【化4】

【請求項4】
請求項1または2に記載の撥水撥油性顔料を含有してなることを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2007−154101(P2007−154101A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353918(P2005−353918)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】