説明

撮像方法

【課題】可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体の向こう側にある対象物を鮮明に撮像する。
【解決手段】屋内に、撮像対象の対象物Xがある。対象物Xは黒体放射する。対象物Xを遠赤外線を撮像できる赤外線カメラ1にて撮像する。照明光源4の手前にはフィルタ5があり、照明光源4からの照明光は遠赤外線が遮断される。対象物Xと赤外線カメラ1の間には霧状の水滴が存在する。この状態で赤外線カメラ1で撮像を行うと、対象物Xからの遠赤外線のみによって対象物Xが撮像されるので、得られる画像は鮮明である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体を挟んで存在する、黒体放射により光を放射する対象物を撮像するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体の向こう側にある観察の対象となる対象物を観察したい場合がある。例えば、霧状の水滴を含む空気の向こう側にある対象物を観察したい場合がある。或いは、泥水の中に沈んだ生存者を早急に確認したい場合がある。
そのような対象物を肉眼で観察するには限界があるので、何らかの機器、具体的にはカメラを用いてそのような観察を行うことになる。
【0003】
例えば、自動車に搭載されることがあるフォグランプが射出する光のように、可視光の中でも比較的波長の長い光は、光を散乱させる微粒子である霧状の水滴が存在する空気中であっても、微粒子に散乱させられにくく遠くまで届くことが知られている。
したがって、黒体放射により放射される光により観察可能な対象物であれば(例えば、対象物がその周辺よりも比較的高温のものであれば)、対象物が黒体放射により放射する可視光よりも波長の長い赤外線領域の波長の光を赤外線カメラで撮像することにより、対象物の観察が可能となる。
【0004】
そのような理屈で赤外線カメラを用いて、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体の向こう側にある対象物を観察しようとする試みがなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる技術によっても、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体の向こう側にある対象物を鮮明に撮像することは難しい。
【0006】
本願発明は、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体を挟んで存在する、黒体放射を行う対象物を、鮮明に撮像できるようにする技術を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく行った研究の結果、本願発明者らは、赤外線領域の波長の光の黒体放射を行う対象物を、赤外線領域の波長の光を撮像する赤外線カメラで撮像しても画像が鮮明にならない理由は、赤外線カメラが、対象物以外からの赤外線領域の波長の光を、本来撮影すべき対象物からの赤外線領域の波長の光と共に撮像してしまうことが原因であることを突き止めた。つまり、対象物以外からの赤外線領域の波長の光が外乱光となるのが、赤外線カメラで得られる画像が不鮮明となる原因だ、との知見を本願発明者らは得たのである。
以下に説明する本願発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0008】
かかる課題を解決するために、本願発明者らは、上記知見に基づく以下の3つの発明を提案する。
1つ目の発明は、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体を挟んで存在する、赤外線領域のうちの一定範囲の波長領域である特定波長領域の波長の光を黒体放射で放射する対象物を、照明光源のある屋内で撮像する撮像方法である。
この撮像方法では、前記照明光源からの光を通過させるものであり、前記照明光源からの光のうち前記特定波長領域の波長の光を遮断するフィルタを配し、前記対象物を撮像するために、前記特定波長領域の波長の光を撮像する赤外線カメラを用いる。
この撮像方法では、赤外線領域である特定波長領域の波長の光を撮像する赤外線カメラで対象物を撮像する。対象物は、赤外線領域のうちの一定範囲の波長領域である特定波長領域の波長の光を放射するものとする。なお、この点については、以下の2つ目、3つ目の発明でも同じである。
そして、この撮像方法では、照明光源からの光を通過させるものであり、照明光源からの光のうち特定波長領域の波長の光を遮断するフィルタを配する。なお、このフィルタは、特定波長領域の波長の光を遮断するものであれば、それ以外の波長の光は通過させても遮断しても構わない。
このフィルタが存在するので、この撮像方法では、一般的には赤外線領域の波長の光まで含む照明光源の光から、赤外線カメラで撮像される特定波長領域の波長の光が除かれる。これにより、赤外線カメラで撮像される画像が鮮明となる。
なお、照明光源から以外の光、例えば太陽光が屋内に入り込んで来るのであれば、太陽光が入り込んで来る窓等に上記フィルタと同等の特定波長領域の波長の光を遮断する他のフィルタを貼り付けるとか、或いは波長に関わらず光を遮断する遮光カーテン等で窓を覆うなどすることができるのは当然である。つまり、前記屋内に、外部からの太陽光が入ってくる場合に、太陽光が前記屋内に入ってくる部分に、前記特定波長領域の波長の光を遮断する遮断手段を配する、ことができる。照明光源から以外の光に対しての以上の事情は、以下に説明する2つ目の発明でも同じである。
【0009】
2つ目の発明は、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体を挟んで存在する、赤外線領域のうちの一定範囲の波長領域である特定波長領域の波長の光を黒体放射で放射する対象物を、照明光源のある屋内で撮像する撮像方法である。
この撮像方法では、前記照明光源として、前記特定波長領域の波長の光を出さないものを設置し、前記対象物を撮像するために、赤外線領域の波長の光を撮像する赤外線カメラを用いる。
1つ目の発明では、フィルタにより、照明光源からの光に含まれる特定波長領域の波長の光を除いたが、2つ目の発明ではその代わりに、そもそも特定波長領域の波長の光を出さないものを用いることで、対象物からの赤外線領域の波長の光を赤外線カメラで撮像することにする。これにより、赤外線カメラで撮像される画像が鮮明となる。
このような照明光源の例としては、蛍光灯、LED電球などがある。
【0010】
3つ目の発明は、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体を挟んで存在する、赤外線領域のうちの一定範囲の波長領域である特定波長領域の波長の光を黒体放射で放射する対象物を撮像する撮像方法である。
この撮像方法では、前記対象物を撮像するために、前記特定波長領域の波長の光を撮像するものであり、それを前記対象物に向けたときに前記対象物とは異なる方向から入光する前記特定波長領域の波長の光を遮断するための遮断手段が設けられた赤外線カメラを用いる。
この撮像方法は例えば、その鏡筒にフードが取付けられた赤外線カメラを用いるなどして、対象物からの特定波長領域の波長の光以外の特定波長領域の波長の光を、なるべく赤外線カメラで撮像しないようにすることにより、赤外線カメラで撮像される画像を鮮明にする。
1つ目の発明、2つ目の発明と比して画像の鮮明さにはやや劣る可能性もあるが、この撮像方法は、屋内のみならず屋外でも用いることが出来る点で有用である。
【0011】
以下の内容は、1つ目の発明から3つ目の発明に共通である。
本願発明では、赤外線カメラが撮像するのは特定波長領域の波長の光である。特定波長領域は、可視光を散乱させる微粒子での散乱の起こりにくさを考慮して、可視光よりも波長の長い赤外線領域とされているが、遠赤外線領域であれば更に微粒子での散乱が生じにくくなり、赤外線カメラで撮像した画像の更なる鮮明化が期待できるようになる。
また、本願発明における可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体は、霧状の水滴を含む空気であってもよいし、或いは泥水、煤を含んで濁った油などであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明の第1実施形態による撮像方法の概略を説明するための図。
【図2】本願発明の第3実施形態による撮像方法の概略を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい第1、第2、第3実施形態を説明する。各実施形態の説明では、共通する対象には共通の符号を付すものとし、また、共通する説明は場合により省略するものとする。
【0014】
≪第1実施形態≫
第1実施形態の撮像方法の概略を図1に示す。
第1実施形態の撮像方法は、屋内で撮像を行う方法である。この実施形態では、これには限られないが、この実施形態では天窓とされた窓6のある室内で昼間に撮像を行うこととする。この実施形態で撮像の対象となる対象物Xは、これには限られないが、数十℃〜千数百℃程度である。
この実施形態で行われる撮像には、赤外線カメラ1を用いる。赤外線カメラ1は赤外線領域の撮像を行うことができるものであれば足り、市販のもので十分である。この実施形態の赤外線カメラ1は動画を撮像可能なデジタルカメラである。赤外線領域の光の波長は、0.7μmから1000μmであるが、この実施形態では、これには限られないが、波長が4μmから1000μmの遠赤外線を撮像することができる赤外線カメラ1を用いる。なお、赤外線カメラ1は、遠赤外線領域のすべての波長の光を撮像できるものである必要はなく、その一部の波長の光の撮像が行えればよい。赤外線カメラ1が撮像を行う光の波長の範囲が、本発明でいう特定波長領域となる。
なお、対象物Xは黒体放射により、特定波長領域の波長の光を放出している。
【0015】
赤外線カメラ1にはディスプレイ2が接続されている。赤外線カメラ1とディスプレイ2との接続は、これには限られないが、ケーブル3によって行われている。もっともこの接続は、有線でなく、無線で行なわれても構わず、また、両者の間に他の機器が存在しても構わない。赤外線カメラ1が撮像を行うことによって生成された画像のデータがケーブル3を経由してディスプレイ2に送られる。
ディスプレイ2は上述のデータを受取り、赤外線カメラ1によって撮像された画像を略実時間で表示するようにされている。赤外線カメラ1によって撮像を行う者は、ディスプレイ2を見ながら赤外線カメラ1によって撮像されている対象物Xを見ることができる。
【0016】
撮像が行なわれる屋内の空間には、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体の一例となる、霧状の水滴を含む空気が存在している。霧状の水滴は、その空間の全体にあっても良いが、その空間のうちの赤外線カメラ1と対象物Xの間に少なくとも存在する。図1では、霧状の水滴が存在する部分をYで示した。
【0017】
撮像が行なわれる屋内の空間には、照明光源4が存在する。照明光源4は、これには限られないが、この実施形態では白熱電球である。白熱電球は、可視光も放出するが、特定波長領域を含む赤外線領域の波長の光も放出する。その中の、少なくとも特定波長領域の波長の光を遮断するため、照明光源4の前にはフィルタ5が配されている。フィルタ5は、照明光源4からの特定波長領域の波長の光以外の光のすべてがそれを通過するようになっていても良いし、図1に示したように照明光源4からの特定波長領域の波長の光以外の光の大部分が通過するようになっていてもよい。
なお、撮像が行なわれる屋内の空間には、上述した窓6から太陽光が入ってくる。太陽光には特定波長領域の波長の光が含まれている。それを赤外線カメラ1で撮像するのを防ぐため、その窓6には上記フィルタと同様のフィルタを貼り付ける等して特定波長領域の波長の光が窓6から屋内に入り込むのを防ぐ。この実施形態では、窓6に遮光カーテン7を掛けて特定波長領域の波長の光も含めた太陽光のすべてを遮光することとしている。
【0018】
この状態で、赤外線カメラ1で対象物Xを撮像すると、赤外線カメラ1は、対象物Xを基本的に、対象物Xが黒体放射により放射する特定波長領域の波長の光によって撮像することになる。対象物Xが放射する特定波長領域の波長の光は赤外線領域の光であり、赤外線カメラ1との間にある空気中の霧状の水滴により散乱されにくいことと相俟って、赤外線カメラ1により得られる対象物Xの画像は、特殊な画像処理等を行なわずとも、鮮明なものとなる。
他方、照明光源4からの特定波長領域以外の波長の光であり可視光を含むものが撮像を行っている空間には存在するので、赤外線カメラ1で撮像を行う者が作業に苦労することはない。
【0019】
なお、泥水、煤を含んだ油などが、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体である場合にも、同様の撮像を行える。それは、第2、第3実施形態でも同様である。
【0020】
≪第2実施形態≫
第2実施形態の撮像方法は、基本的に第1実施形態の場合と同様である。
第2実施形態の撮像方法も、第1実施形態のときと同じように屋内で撮像が行なわれる。撮像には第1実施形態の場合と同じ赤外線カメラとディスプレイとが使用され、また、第1実施形態の場合と同じ対象物が存在する。加えて、撮像が行なわれる室内の条件も、後述する照明光源を除いて第1実施形態の場合と同様であり、窓があり、また室内の少なくとも対象物と赤外線カメラの間には、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体の一例となる、霧状の水滴を含む空気が存在している。また、窓には遮光カーテンなどが配され、太陽光のうち少なくとも特定波長領域の波長の光を遮断できるようになっている。
【0021】
この実施形態の照明光源は、特定波長領域の波長の光を放出しないものとされている。例えば、そのようなLEDや蛍光灯が市販されているので、照明光源としてそのようなものを用いれば良い。屋内の照明光源が元からそのようなものであればその照明光源を用いればよいし、照明光源が白熱灯などの特定の波長の光を放出するものであれば、上述のLEDや蛍光灯などに照明光源を交換すればよい。
【0022】
この状態で、赤外線カメラで対象物を撮像すると、第1実施形態の場合と同様に、赤外線カメラは、対象物を基本的に、対象物が黒体放射により放射する特定波長領域の波長の光によって撮像することになる。したがって、対象物が放射する特定波長領域の波長の光が赤外線カメラとの間にある空気中の霧状の水滴により散乱されにくいことと相俟って、赤外線カメラにより得られる対象物の画像は、特殊な画像処理等を行なわずとも、鮮明なものとなる。
【0023】
≪第3実施形態≫
第3実施形態の撮像方法の概略を図2に示す。
第3実施形態の撮像方法は、屋内でも屋外でも使用できる。この実施形態では、屋外で撮像を行うこととする。
この実施形態で撮像される対象物Xは第1実施形態と同じであり、また、少なくとも対象物Xと赤外線カメラ1の間には、可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体の一例となる、霧状の水滴を含む空気が存在している。
【0024】
撮像に用いられる赤外線カメラ1は第1実施形態のものと基本的には同じであるが、第3実施形態の赤外線カメラ1には、フード11が取付けられている。
フード11は、赤外線カメラ1を対象物Xに向けたときに対象物Xとは異なる方向から来る特定波長領域の光を遮断するためのものであり、それが可能である限りその構成には特に制限はない。これには限られないが、この実施形態におけるフード11は不透明な樹脂でできており、円筒形であり、赤外線カメラ1の鏡筒をすっぽり覆うようなものとなっている。
【0025】
このような赤外線カメラ1で対象物Xを撮像すると、赤外線カメラ1は、対象物Xを基本的に、対象物Xが黒体放射により放射する特定波長領域の波長の光によって撮像し、また撮像する際に対象物Xの方向以外の方向からの特定波長領域の光を撮像しにくくなる。したがって、対象物Xが放射する特定波長領域の波長の光が赤外線カメラ1との間にある空気中の霧状の水滴により散乱されにくいことと相俟って、赤外線カメラ1により得られる対象物Xの画像は、特殊な画像処理等を行なわずとも、比較的鮮明なものとなる。
【符号の説明】
【0026】
1 赤外線カメラ
2 ディスプレイ
3 ケーブル
4 照明光源
5 フィルタ
11 フード
X 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体を挟んで存在する、赤外線領域のうちの一定範囲の波長領域である特定波長領域の波長の光を黒体放射で放射する対象物を、照明光源のある屋内で撮像する撮像方法であって、
前記照明光源からの光を通過させるものであり、前記照明光源からの光のうち前記特定波長領域の波長の光を遮断するフィルタを配し、
前記対象物を撮像するために、前記特定波長領域の波長の光を撮像する赤外線カメラを用いる、
撮像方法。
【請求項2】
可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体を挟んで存在する、赤外線領域のうちの一定範囲の波長領域である特定波長領域の波長の光を黒体放射で放射する対象物を、照明光源のある屋内で撮像する撮像方法であって、
前記照明光源として、前記特定波長領域の波長の光を出さないものを設置し、
前記対象物を撮像するために、赤外線領域の波長の光を撮像する赤外線カメラを用いる、
撮像方法。
【請求項3】
前記屋内に、外部からの太陽光が入ってくる場合に、
太陽光が前記屋内に入ってくる部分に、前記特定波長領域の波長の光を遮断する遮断手段を配する、
請求項1又は2記載の撮像方法。
【請求項4】
可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体を挟んで存在する、赤外線領域のうちの一定範囲の波長領域である特定波長領域の波長の光を黒体放射で放射する対象物を撮像する撮像方法であって、
前記対象物を撮像するために、前記特定波長領域の波長の光を撮像するものであり、それを前記対象物に向けたときに前記対象物とは異なる方向から入光する前記特定波長領域の波長の光を遮断するための遮断手段が設けられた赤外線カメラを用いる、
撮像方法。
【請求項5】
前記特定波長領域は、遠赤外線領域である、
請求項1〜4のいずれかに記載の撮像方法。
【請求項6】
可視光を散乱させる微粒子が分散した気体又は液体は、霧状の水滴を含む空気である、
請求項1〜3のいずれかに記載の撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−62577(P2013−62577A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198086(P2011−198086)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【特許番号】特許第5004143号(P5004143)
【特許公報発行日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(000203977)太平工業株式会社 (41)
【出願人】(311012631)エスケイ技研株式会社 (1)
【Fターム(参考)】