説明

撮像装置及び撮像システム、それらの制御方法

【課題】 薄型・軽量・低消費電力で且つ装置の特性変動を好適に低減可能な撮像装置又は撮像システムを提供する
【解決手段】 変換素子を複数備えた検出部101から出力される電気信号又は画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が検出部101に電圧の供給が開始されてからの時間に応じて変動する特性に関する情報である出力特性情報と、温度検知部115によって検知された検出部101の温度と、電源部107から変換素子に供給された電圧と、電源部107から検出部101に電圧の供給が開始されてから検出部101の変換素子で変換された電荷に応じた電気信号を検出部101から出力する撮像動作が開始されるまでの時間である撮像開始時間と、を用いて、撮像動作における電気信号又は画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する演算処理部117と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置及び撮像システム、それらの制御方法に関するものである。より具体的には、医療診断における一般撮像などの静止画撮像や透視撮像などの動画撮像に好適に用いられる、放射線撮像装置及び放射線撮像システム、それらの制御方法及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、X線等の放射線による医療画像診断や非破壊検査に用いる撮像装置として、半導体材料によって形成された平面検出器(Flat Panel Detector、以下検出器と略す)を用いた放射線撮像装置が実用化され始めている。このような放射線撮像装置は、例えば医療画像診断においては、一般撮像のような静止画撮像や、透視撮像のような動画撮像のデジタル撮像装置として用いられている。検出器としては、非晶質シリコンを用いた光電変換素子と、放射線を光電変換素子が感知可能な波長帯域の光に変換する波長変換体とを組み合わせた変換素子が用いられた間接変換型の検出器が知られている。また、非晶質セレン等の材料を用いて放射線を直接電荷に変換する変換素子が用いられた直接変換型の検出器が知られている。
【0003】
このような撮像装置では、非晶質半導体からなる変換素子のダングリングボンドや欠陥がトラップ準位として働くことにより、暗電流が変動したり過去の放射線又は光の照射の影響で残像(ラグ)が発生又は変動したりする可能性がある。それにより、撮像装置で取得される画像信号に変動が生じる可能性があった。それに対して特許文献1では、被写体情報を担う放射線又は光を検出器に照射する前に、別途準備された光源から被写体情報を担わない光を照射することで、撮像装置の特性や取得される画像信号の変動を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−256675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、装置内部に光源及びその光源を駆動するための駆動部を別途具備するため、撮像装置が大型化して重くなり、撮像装置の薄型・軽量化の妨げとなるという問題がある。また、光源による光照射が必要であるため、その光源を動作させるための電力が必要となり撮像装置又はシステム全体の電力が大きくなってしまうという問題がある。そのため、光源を用いることは望ましくない。しかしながら、光源を用いない場合、撮像装置の動作環境によっては撮像動作において撮像装置で取得される画像信号に変動が生じるかどうか、又、変動が生じる場合にはどの程度の変動が生じるのかがわからない。そのため、撮像装置に対する対策の要否や撮影技師に対する撮像可能かどうかの情報を撮像装置又は撮像システムが得ることができなかった。変動が生じていなければ問題はないが、もし変動が生じる場合には、良好な画像信号が取得できない可能性がある。そこで本発明は、このような問題を解決しようとするものであり、取得される画像信号に変動が生じるかどうか、又、変動が生じる場合にどの程度の変動が生じるのかを算出することができる撮像装置又はシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の撮像装置は、放射線又は光を電荷に変換する変換素子を複数備えた検出部と、前記電荷に応じた電気信号を前記検出部から出力するために前記検出部を駆動する駆動回路と、前記電気信号を画像データとして出力する読出回路と、を含み、前記電気信号を出力する撮像動作を行う検出器と、前記変換素子に電圧を供給する電源部と、前記検出部の温度を検知するための温度検知部と、前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が前記検出部に前記電圧の供給が開始されてからの時間に応じて変動する特性に関する情報である出力特性情報と、前記温度と、前記電圧と、前記電源部から前記検出部に前記電圧の供給が開始されてから前記撮像動作が開始されるまでの時間である撮像開始時間と、を用いて、前記撮像動作における前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する演算処理部と、を有する。
【0007】
また、本発明の撮像システムは、前記撮像装置と、前記制御部に制御信号を送信する制御コンピュータと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、撮像動作において取得される画像信号に発生し得るノイズ量及び残像量が予測でき、取得される画像信号に変動が生じるか、又、変動が生じる場合にどの程度の変動が生じるのかを算出できる撮像装置又はシステムを提供できる。そして、変動が生じておりノイズ量及び残像量が許容できる所定の範囲内に収まっていない場合には、算出されたノイズ量及び残像量を用いて、撮像装置の動作や、変換素子に供給される電圧の値を、変更することが可能となる。それにより、画像信号の変動が所定の範囲内に収まるのに必要な撮像動作の開始時間を制御することができる。また、算出された特性に基づいて、撮影技師に対して画像信号の変動の情報の提供や撮像装置の禁止動作の導入等を行うこともできる。そのため、光源を用いることなく薄型・軽量・低消費電力で且つ好適に撮像動作において取得される画像信号の予期しない変動を抑制した状態で撮像を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る撮像システムの概略的ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る撮像システムの動作フローを説明するフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る撮像装置の概略的等価回路図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る変換素子のノイズ量と残像量の時間依存性を説明するための特性図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る撮像装置のタイミングチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る撮像装置の櫂略的等価回路図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る変換素子の残像量の時間依存性を説明するための特性図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る撮像装置のタイミングチャートである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る撮像システムの動作フローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明において放射線は、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギーを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども、含まれるものとする。
【0011】
(第1の実施形態)
次に、本発明の概念を説明するために、図4(a)及び(b)を用いて、本発明の第1の実施形態に係る変換素子が有するノイズ量の時間依存性を、図4(c)〜(d)を用いて残像量の時間依存性を、説明する。なお、図4(a)〜(d)の横軸の時間は、変換素子に電圧が供給されてからの時間であり、電圧が供給された直後とは、図4(a)〜(d)の横軸上の縦軸と交差する位置に相当する。また、図4(a)〜(d)の推奨電圧とは、変換素子に供給される電圧の推奨値であり、推奨動作温度とは、撮像動作における変換素子の温度の推奨値である。
【0012】
複数の変換素子を備える検出部から出力される電気信号及び検出部を含む検出器から出力される画像データの質を決定する指標として、ノイズ量と残像量が挙げられる。ノイズとは、信号の中に本来の情報とは別に混じっている不規則なゆらぎ成分であり、変換素子のノイズの原因としてはkTCノイズや暗電流が主に挙げられる。また、残像とは、先の撮像動作においてなされた放射線又は光の照射に基づく電気信号が、後の撮像動作で出力される電気信号及び画像データに影響をおよぼすものである。本実施形態における変換素子に用いたPIN型フォトダイオードの残像の原因としては、スイッチ素子との時定数の影響で出力しきれず残留した電気信号や、スイッチ素子による出力に際して発生したkTCノイズや分配ノイズが主に挙げられる。
【0013】
本願発明者は、誠意検討の結果、ノイズと残像には変換素子に電圧が供給されてからの時間によって変動する特性(以下、変動特性と称する)があり、またその変動特性は、変換素子に与えられる電圧や変換素子の温度と相関することを見出した。ここで、変換素子に与えられる電圧とは、変換素子の2つの電極間の電位差を意味し、PIN型フォトダイオードであれば逆方向の電圧が与えられる。
【0014】
図4(a)及び(b)に示すように、ノイズ量は変換素子に電圧が供給された直後に大きく現れ、時間が経過するに従って小さくなり所定値に収束する変動特性を有する。そして、その特性変動は、図4(a)及び(b)に示すように、変換素子の温度が高いほど、又は、変換素子に供給する電圧の値が大きいほど、ノイズ量が多く、また所定値に収束するまでに要する時間が短い。
【0015】
また、図4(c)及び(d)に示すように、残像量も変換素子に電圧が供給された直後に大きく現れ、時間が経過するに従って小さくなり所定値に収束する変動特性を有する。そして、その特性変動は、図4(c)及び(d)に示すように、変換素子の温度が高いほど、又は、変換素子に供給する電圧の値が大きいほど、残像量が小さく、また所定値に収束するまでに要する時間が短い。
【0016】
そこで本願発明者は、上述した変動特性に基づいて、撮像動作において検出部から出力される電気信号又は検出器から出力される画像データに含まれるノイズ量及び残像量を演算処理により予め算出できることを見出した。つまり、撮像動作において出力される電気信号又は画像データにノイズ量及び残像量がどの程度含まれるかを、演算処理により予め算出できることを見出した。すなわち、変動特性を有するノイズ量及び残像量を、変換素子に電圧が供給されてからの時間と、変換素子を含む検出部の温度と、変換素子に供給される電圧と、をパラメータとする出力特性情報として予め準備する。この出力特性情報は、装置の出荷や設置前に各パラメータを変動させて撮像装置から得られた画像データに基づいて、テーブル形式又は近似式の形式で記憶されたものである。そして、出力特性情報と、検出部の温度と、電源部から変換素子に供給される電圧と、撮像開始時間と、を用いて、撮像動作において検出部から出力される電気信号又は検出器から出力される画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する。ここで、撮像開始時間とは、検出部への電圧の供給が開始されてから撮像動作が開始されるまでの時間である。撮像動作における電気信号又は画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出できることにより、それを用いた撮像装置の動作や、変換素子に供給される電圧の値を、変更することが可能となる。それにより、画像信号の変動が所定の範囲内に収まるのに必要な撮像動作の開始時間を制御することができる。また、算出された特性に基づいて、撮影技師に対して画像信号の変動の情報の提供や撮像装置の禁止動作の導入等を行うこともできる。すなわち、光源を用いることなく、薄型・軽量・低消費電力で且つ好適に撮像動作において取得される撮像動作において取得される画像信号の予期しない変動を抑制した状態で撮像を行うことが可能となる。なお、撮像動作及び撮像準備動作は後で詳細に説明する。ここで、検出部の温度とは、変換素子毎に計測された各変換素子の温度でも、それらの平均値でもよく、周知の温度センサを用いて接触して又は非接触で測定され得る。
【0017】
図1に示す本発明の放射線撮像システムは、撮像装置100、制御コンピュータ108、放射線制御装置109、放射線発生装置110、表示装置113、制御卓114を含む。撮像装置100は、放射線又は光を電気信号に変換する画素を複数備えた検出部101と、検出部101を駆動する駆動回路102と、駆動された検出部101からの電気信号を画像データとして出力する読出回路103と、を有する平面検出器104を含む。ここで、画素は少なくとも変換素子を含むものである。撮像装置100は更に、平面検出器(以下、検出器と示す)104からの画像データを処理して出力する信号処理部105と、各構成要素に夫々制御信号を供給して検出器104の動作を制御する制御部106と、各構成要素に夫々バイアスを供給する電源部107を含む。信号処理部105は、後述する制御コンピュータ108から制御信号を受けて制御部106に提供する。制御部106は、制御コンピュータ108からの制御信号を受けて、駆動回路102、読出回路103、信号処理部105、及び、電源部107のうちの少なくとも一つを制御する。電源部107は、不図示の外部電源や内蔵バッテリーから電圧を受けて検出部101、駆動回路102、読出回路103で必要な電圧を供給するレギュレータ等の電源回路を内包する。
【0018】
制御コンピュータ108は、放射線発生装置110と撮像装置100との同期や、撮像装置100の状態を決定する制御信号の送信、撮像装置100からの画像データに対する補正・保存・表示のための画像処理を行う。また、制御コンピュータ108は、制御卓114からの情報に基づき放射線の照射条件を決定する制御信号を放射線制御装置109に送信する。また、制御卓114は撮影技師から撮像開始を予定している時間などの撮像条件が入力される。そのため、制御コンピュータ108は、制御卓114からの情報に基づき、電源部107から検出部101への電圧の供給が開始されてから撮像動作が開始されるまでの時間である撮像開始時間を得ることができる。制御コンピュータ108は、得られた撮像開始時間に基づいて制御部106に制御信号を与え、また、後述する演算処理部117に撮像開始時間を送信する。
【0019】
放射線制御装置109は、制御コンピュータ108からの制御信号を受けて、放射線発生装置110に内包される放射線源111から放射線を照射する動作や、照射野絞り機構112の動作の制御を行う。照射野絞り機構112は、検出器104の検出部101に放射線又は放射線に応じた光が照射される領域である所定の照射野を変更することが可能な機能を有している。制御卓114は、制御コンピュータ108の各種制御のためのパラメータとして被検体の情報や撮像条件の入力を行い制御コンピュータ108に伝送する。表示装置113は、制御コンピュータ108で画像処理された画像データを表示する。
【0020】
本実施形態の放射線撮像システムは、温度検知部115と、電圧検知部116と、演算処理部117と、を更に含む。温度検知部115は、検出部101もしくは変換素子の温度を検知するものであり、測温抵抗体や熱電対、サーミスタ等の周知の温度センサを含むものである。ここで、温度検知部115は、検出部101内の所定の変換素子の温度を検知してもよく、また検出部101内の変換素子毎の温度を検知してもよく、検出部101内の所定数の変換素子の温度を平均して検出部101の温度として検知してもよい。電圧検知部116は、電源部107から検出部101の変換素子へ供給される電圧を検知するものである。電圧検知部116は、例えば、電源部107と検出部101との間に備えられ、電源部107から変換素子に供給される電圧を監視する周知の電圧計が用いられる。また、電圧検知部116は、更に、電圧の供給開始のタイミングを記憶し、また、推奨される撮像開始時間に関する情報を記憶したメモリと、記憶した電圧の供給開始のタイミングと制御卓114からの情報に基づいて撮像開始時間を検知する手段を有してもよい。演算処理部117は、撮像動作において検出部101から出力される電気信号に含まれ得るノイズ量及び残像量を算出するものである。検出部101から出力される電気信号に含まれ得るノイズ量及び残像量を算出するために、演算処理部117は、撮像動作に検出部101から出力される電気信号に含まれ得るノイズ量及び残像量を算出してもよい。また、読出回路103から出力される画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出してもよく、信号処理部105から出力される画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出してもよい。演算処理部117は、出力特性情報を有している。演算処理部117は、この出力特性情報と、検出部101の温度と、電源部107から検出部101に供給される電圧と、撮像開始時間と、を用いて、撮像動作において検出部101から出力される電気信号に含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する。制御コンピュータ108は、演算処理部117で算出された特性に基づいて、制御部106に対して、撮像動作の前又は撮像動作中に検出部101の変換素子へ供給される電圧や検出器の動作を変更するように、制御信号を供給することができる。なお、この制御コンピュータ108の機能は、制御部106が有していてもよく、また演算処理部117が有していてもよい。なお、電圧検知部116を用いず、制御コンピュータ108が設定した電圧に基づいて演算処理部117が含まれ得るノイズ量及び残像量の算出をしてもよい。なお、本実施形態では、演算処理部117が、予め記憶した出力特性情報と、検出部101の温度と、検出部101に供給される電圧の電圧値と、撮像開始時間と、を用いて、撮像動作の出力に含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する。ただし、本願発明はそれに限定されるものではなく、制御コンピュータ108が上記算出を行ってもよく、また、制御部106が上記算出を行ってもよい。なお、上記ノイズ量及び残像量の変動は、撮像動作の前に行われる撮像準備動作の有無やその動作内容にも依存するが、変動の傾向としてはいずれも図4(a)〜(d)で示した特性と同様である。そのため、出力特性情報としては、ノイズ量及び残像量の変動を、撮像動作の前に行われる撮影準備動作を予め加味して取得しておくことが望ましい。例えば、複数の撮像準備動作を行う場合には想定される撮像準備動作毎に、撮像準備動作を行わない場合には行わないシーケンスで、それぞれ出力特性情報を取得しておくことが望ましい。この出力特性情報の取得は、装置の出荷や設置前に各パラメータを変動させて撮像装置から得られた画像データをテーブル形式又は近似式の形式で記憶することである。
【0021】
算出されたノイズ量及び残像量は、制御コンピュータ108が有する以下の機能に用いることが有効である。第1に、算出されたノイズ量及び残像量を撮像技師に表示装置113を介して表示する。例えば、算出されたノイズ量及び残像量が診断用の画像データとして許容され得る所定の範囲を逸脱する場合、撮像技師に警告を表示することが有効である。第2に、算出されたノイズ量及び残像量に基づいて、撮像装置又は撮像システムの動作を変更する。例えば、算出されたノイズ量及び残像量が許容され得る所定の範囲を逸脱する場合、撮像動作の開始を禁止し、所定の範囲に収まるように撮像開始時間を遅延させることが有効である。第3に、算出されたノイズ量及び残像量が許容され得る所定の範囲に収まるように、撮像装置の動作を変更してもよい。例えば、撮像動作における蓄積動作の時間を短くすることが有効である。また、撮像動作の前に変換素子に供給される電圧の値を大きくすることにより、撮像動作の開始が可能になるまでの時間を短くすることが有効である。算出されたノイズ量及び残像量を用いて撮像装置の動作や変換素子に供給される電圧の値を変更することで、電気信号や画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が許容され得る所定の範囲内に収まるのに必要な撮像動作の開始時間を制御することができる。すなわち、光源を用いることなく、薄型・軽量・低消費電力で且つ撮像動作において取得される撮像動作において取得される画像信号の予期しない変動を抑制した状態で撮像を行うことが可能となる。ここで、必要な撮像動作の開始時間は、画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が許容され得る所定の範囲内に収まった時間をタイマーなどで計測してもよく、またその画像データが得られた動作のために与えられた制御信号を基に測定してもよい。
【0022】
次に、図2を用いて、本実施形態において撮像システムの動作フローを説明する。撮像システムの主電源を投入した後、制御用コンピュータ108からの要求に応じた制御部106が、電圧Vsを検出部101に供給するように電源部107を制御する。そして、検出器104が撮像準備動作を行うように、制御部106は検出器104を制御する。次に、温度検知部115が検出部101の温度を検知するよう、制御部106が温度検知部115を制御する。また、電圧検知部116が検出部101に供給される電圧Vsの電圧値を検知するよう、制御部106が電圧検知部116を制御する。更に、温度検知部115から検知された温度に関する情報が、電圧検知部116から検知された電圧に関する情報が、制御コンピュータ108から撮像開始時間に関する情報が、それぞれ演算処理部117に伝達される。次に、演算処理部117が、得られた温度、電圧、撮像開始時間に関する情報、及び、予め記憶している出力特性情報を用いて、画像信号又は画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する。なお、上記フローにおいて、制御コンピュータ108から撮像開始時間に関する情報が、それぞれ演算処理部17に伝達されることを示したが、本発明はそれに限定されるものではない。他の要素でできるものがあれば適用できるのは言うまでもない。
【0023】
放射線の曝射要求がない場合(NO)は、検出器104が再度撮像準備動作を行うように、曝射要求がある場合(YES)は、検出器104が撮像動作を行うように、制御部106は検出器104を制御する。撮像動作が終了した後、終了要求がある場合(YES)は一連の動作を終了するように、制御部106が各要素を制御する。終了要求がない場合(NO)は、検出器104が再度撮像準備動作を行うように、制御部106は検出器104を制御する。この際、温度、電圧、及び、撮像開始時間に関する情報のうち少なくとも一つを再取得し、演算処理部117に撮像動作の出力特性を再度算出させてもよい。
【0024】
次に、図3を用いて本発明の第1の実施形態に係る撮像装置を説明する。なお、図1を用いて説明した構成と同じものは同じ番号を付与してあり、詳細な説明は割愛する。また、図3では説明の簡便化のためにm行×n列の画素を有する検出器を含む撮像装置を示す。ここでmとnは2以上の整数であり、実際の撮像装置はより多画素であり、例えば17インチの撮像装置では約2800行×約2800列の画素を有している。
【0025】
検出部101は、行列状に複数配置された画素を有する。画素は、放射線又は光を電荷に変換する変換素子201と、その電荷に応じた電気信号を出力するスイッチ素子202と、を有する。本実施形態では、変換素子に照射された光を電荷に変換する光電変換素子として、ガラス基板等の絶縁性基板上に配置されアモルファスシリコンを主材料とするPIN型フォトダイオードを用いる。なお、図4(a)〜(d)に示す特性は、PIN型フォトダイオードに代表されるフォトダイオードの特性である。変換素子としては、上述の光電変換素子の放射線入射側に放射線を光電変換素子が感知可能な波長帯域の光に変換する波長変換体を備えた間接型の変換素子や、放射線を直接電荷に変換する直接型の変換素子が好適に用いられる。スイッチ素子202としては、制御端子と2つの主端子を有するトランジスタが好適に用いられ、本実施形態では薄膜トランジスタ(TFT)が用いられる。変換素子201の一方の電極はスイッチ素子202の2つの主端子の一方に電気的に接続され、他方の電極は共通のバイアス配線Bsを介して電源107aと電気的に接続される。行方向の複数のスイッチ素子、例えばT11〜T1nは、それらの制御端子が1行目の駆動配線G1に共通に電気的に接続されており、駆動回路102からスイッチ素子の導通状態を制御する駆動信号が駆動配線を介して行単位で与えられる。このように駆動回路102が行単位でスイッチ素子202の導通状態と非導通状態を制御することにより、駆動回路102は行単位で画素を走査する。列方向の複数のスイッチ素子、例えばT11〜Tm1は、他方の主端子が1列目の信号配線Sig1に電気的に接続されており、スイッチ素子が導通状態である間に、変換素子の電荷に応じた電気信号を、信号配線を介して読出回路103に出力する。列方向に複数配列された信号配線Sig1〜Signは、複数の画素から出力された電気信号を並列に読出回路103に伝送する。
【0026】
読出回路103は、検出部101から並列に出力された電気信号を増幅する増幅回路207を信号配線毎に対応して設けられている。また、各増幅回路207は、出力された電気信号を増幅する積分増幅器203と、積分増幅器203からの電気信号を増幅する可変増幅器204と、増幅された電気信号をサンプルしホールドするサンプルホールド回路205と、バッファアンプ206とを含む。積分増幅器203は、読み出された電気信号を増幅して出力する演算増幅器と、積分容量と、リセットスイッチと、を有する。積分増幅器203は、積分容量の値を変えることで増幅率を変更することが可能である。演算増幅器の反転入力端子には出力された電気信号が入力され、正転入力端子には基準電源107bから基準電圧Vrefが入力され、出力端子から増幅された電気信号が出力される。また、積分容量が演算増幅器の反転入力端子と出力端子の間に配置される。サンプルホールド回路205は、各増幅回路に対応して設けられ、サンプリングスイッチとサンプリング容量とによって構成される。また読出回路103は、各増幅回路207から並列に読み出された電気信号を順次出力して直列信号の画像信号として出力するマルチプレクサ208と、画像信号をインピーダンス変換して出力するバッファ増幅器209と、を有する。バッファ増幅器209から出力されたアナログ電気信号である画像信号Voutは、A/D変換器210によってデジタルの画像データに変換されて図1に示す信号処理部105へ出力される。そして、図1に示す信号処理部105で処理された画像データが制御コンピュータ108へ出力される。
【0027】
駆動回路102は、図1に示す制御部106から入力された制御信号(D−CLK、OE、DIO)に応じて、スイッチ素子を導通状態にする導通電圧Vcomと非道通状態とする非導通電圧Vssを有する駆動信号を、各駆動配線に出力する。これにより、駆動回路102はスイッチ素子の導通状態及び非導通状態を制御し、検出部101を駆動する。
図1における電源部107は、図2に示すバイアス電源107a、増幅回路の基準電源107bを含む。バイアス電源107aは、バイアス配線Bsを介して各変換素子の他方の電極に共通に電圧Vsを供給する。基準電源107bは、各演算増幅器の正転入力端子に基準電圧Vrefを供給する。
【0028】
図1に示す制御部106は、信号処理部105を介して装置外部の制御コンピュータ108等からの制御信号を受けて、駆動回路102、電源部107、読出回路103に各種の制御信号を与えて検出器104の動作を制御する。制御部106は、駆動回路102に制御信号D−CLKと制御信号OE、制御信号DIOを与えることによって、駆動回路102の動作を制御する。ここで、制御信号D−CLKは駆動回路として用いられるシフトレジスタのシフトクロックであり、制御信号DIOはシフトレジスタが転送するパルス、OEはシフトレジスタの出力端を制御するものである。また、制御部106は、読出回路103に制御信号RC、制御信号SH、及び制御信号CLKを与えることによって、読出回路103の各構成要素の動作を制御する。ここで、制御信号RCは積分増幅器のリセットスイッチの動作を、制御信号SHはサンプルホールド回路205の動作を、制御信号CLKはマルチプレクサ208の動作を制御するものである。
【0029】
次に、図5(a)〜(c)を用いて、本実施形態の撮像装置の動作を説明する。ここで、図5(a)は撮像装置全体の駆動タイミングを概略的に示したものであり、図5(b)は図5(a)のA−A’箇所を詳細に示したもの、図5(c)は図5(a)のB−B’箇所を詳細に示したものである。
【0030】
図5(a)及び(b)において、時刻t1において変換素子201に電圧Vsが供給されると、撮像装置100は撮像準備期間に撮像準備動作を行う。ここで、撮像準備動作とは、電圧Vsの印加開始に起因する検出器104の特性変動を安定化させるために、初期化動作Kを少なくとも1回行う動作であり、本実施形態では初期化動作Kを複数回繰り返し行っている。また、初期化動作Kとは、変換素子に蓄積動作前の初期のバイアスを与え、変換素子を初期化するための動作である。なお、図5(a)では、撮像準備動作として初期化動作K及び蓄積動作Wの一組を複数回繰り返し行う動作を行っている。次に、検出器104の特性変動が安定した時刻t2において、撮像装置100は、撮像動作を開始する。時刻t2から時刻t4の間の撮像期間のうち時刻t2から時刻t3の間では、撮像装置100は、初期化動作Kと、蓄積動作Wと、画像出力動作Xと、を行う。撮像動作において、蓄積動作Wは変換素子が電荷を生成するために放射線の照射に応じた期間で行われる動作であり、画像出力動作Xは蓄積動作Wで生成された電荷に応じた電気信号に基づいて画像データを出力する動作である。ここで本実施形態において撮像動作の蓄積動作Wは、撮像準備動作の蓄積動作Wと同じ時間の長さで行っているが、本発明はそれに限定されるものではない。撮像準備動作の短縮化のためには撮像準備動作の蓄積動作Wの時間の長さが、撮像動作の蓄積動作Wの時間の長さより短い方が好ましい。また本実施形態では、放射線の照射が行われない暗状態で変換素子が電荷を生成するために、画像出力動作Xの前の蓄積動作Wと同じ時間の長さで行われる蓄積動作Wと、その蓄積動作Wで生成された電荷に基づいて暗画像データを出力する暗画像出力動作Fと、を行う。暗画像出力動作Fでは、画像出力動作Xと同様の動作が撮像装置100で行われる。時刻t4で撮像動作が終了すると、撮像装置100は撮像準備動作を再度開始し、次の撮像動作が開始される時刻t5まで撮像準備動作を継続する。
【0031】
次に、図5(b)を用いて、撮像準備動作を詳細に説明する。図5(b)に示すように、初期化動作Kでは、まず制御部106からリセットスイッチに制御信号RCが与えられて積分増幅器203の積分容量及び信号配線がリセットされる。次に、変換素子201に電圧Vsが与えられた状態で、駆動回路102から駆動配線G1に導通電圧Vcomが与えられ、1行目の画素のスイッチ素子T11〜T13が導通状態とされる。このスイッチ素子の導通状態により、変換素子が初期化される。その際に変換素子の電荷がスイッチ素子により電気信号として出力されるが、本実施形態では制御信号SH及び制御信号CLKが出力されずサンプルホールド回路以降の回路を動作させていないため、読出回路103からその電気信号に応じたデータは出力されない。その後に再び積分容量及び信号配線がリセットされることにより、出力された電気信号は処理される。ただし、そのデータを補正などに使用したい場合には、制御信号SH及び制御信号CLKが出力されてサンプルホールド回路以降の回路を後述する画像出力動作や暗画像出力動作と同様に動作させてもよい。このようなスイッチ素子の導通状態の制御とリセットがm行目まで繰り返し行われることにより、検出器101の初期化動作がなされる。ここで、初期化動作においては、少なくともスイッチ素子の導通状態の間もリセットスイッチを導通状態に保ちリセットし続けていてもよい。また、初期化動作におけるスイッチ素子の導通時間は、後述する画像出力動作におけるスイッチ素子の導通時間より短くてもよい。また、初期化動作では複数行のスイッチ素子を同時に導通させてもよい。これらの場合には、初期化動作全体にかかる時間を短くすることが可能となり、より早く検出器の特性の変動を安定化させることが可能となる。なお、本実施形態の初期化動作Kは、撮像準備動作の後に行われる撮像動作に含まれる画像出力動作と同じ期間で行われている。蓄積動作Wでは、変換素子201に電圧Vsが与えられた状態で、スイッチ素子202には非導通電圧Vssが与えられており、全ての画素のスイッチ素子は非導通状態とされる。
【0032】
次に、図5(c)を用いて、撮像動作を詳細に説明する。なお、先に説明した動作については割愛する。図5(c)に示すように、画像出力動作では、まず制御部106から制御信号RCが出力されて積分容量及び信号配線がリセットされる。そして、駆動回路102から駆動配線G1に導通電圧Vcomが与えられ、1行目のスイッチ素子T11〜T1nが導通状態とされる。これにより1行目の変換素子S11〜S1nで発生された電荷に基づく電気信号が各信号配線に出力される。各信号配線を介して並列に出力された電気信号は、それぞれ各増幅回路207の積分増幅器203及び可変増幅器204で増幅される。増幅された電気信号はそれぞれ、制御信号SHによりサンプルホールド回路が動作され、各増幅回路207内のサンプルホールド回路205に並列に保持される。保持された後、制御部106から制御信号RCが出力されて積分増幅器203の積分容量及び信号配線がリセットされる。リセットされた後、1行目と同様に2行目の駆動配線G2に導通電圧Vcomが与えられ、2行目のスイッチ素子T21〜T2nが導通状態とされる。2行目のスイッチ素子T21〜T2nが導通状態とされている期間内に、マルチプレクサ208がサンプルホールド回路205に保持された電気信号を順次出力する。これにより並列に読み出された1行目の画素からの電気信号は直列の画像信号に変換して出力され、A/D変換器210が1行分の画像データに変換して出力する。以上の動作を1行目からm行目に対して行単位で行うことにより、1フレーム分の画像データが撮像装置から出力される。一方、暗画像出力動作Fでは、放射線の照射が行われない暗状態で画像出力動作Xと同様の動作が撮像装置100で行われる。
【0033】
(第2の実施形態)
次に、図6(a)、(b)を用いて本発明の第2の実施形態に係る撮像装置を説明する。なお、図3に示す第1の実施形態の構成と同じものは同じ番号を付与してあり、詳細な説明は割愛する。また、図6(a)では図3と同様に説明の簡便化のために3行×3列の画素を有する検出器を含む撮像装置を示すが、実際の撮像装置はより多画素である。また、図6(b)は1画素の概略的等価回路を示すものである。
【0034】
第1の実施形態の検出部101では、変換素子201にPIN型フォトダイオードを用いていたが、本実施形態の検出部101’では、変換素子601にMIS型変換素子としてMIS型光電変換素子を用いている。また、第1の実施形態では、変換素子201の他方の電極は共通のバイアス配線Bsを介してバイアス電源107aと電気的に接続されている。一方、本実施形態では、変換素子601の他方の電極は共通のバイアス配線Bsを介してバイアス電源107a’と電気的に接続されている。このバイアス電源107a’は、変換素子601の他方の電極に、電圧Vsとは別に変換素子601をリフレッシュするための電圧Vrを供給することが可能な構成となっている。
【0035】
また、図6(b)に示すように、変換素子601は、第1の電極602と第2の電極606の間に半導体層604が、第1の電極602と半導体層604との間に絶縁層603が、それぞれ設けられている。また、半導体層604と第2の電極606との間に不純物半導体層605が設けられている。第2の電極606は、バイアス配線Bsを介してバイアス電源107a’と電気的に接続される。変換素子601は、変換素子201と同様に、第2の電極606にバイアス電源107a’から電圧Vsが供給され、第1の電極602にスイッチ素子602を介して基準電圧Vrefが供給されて、蓄積動作がなされる。また、第2の電極606にバイアス電源107a’を介してリフレッシュ用の電圧Vrが供給され、変換素子601はそのバイアス|Vr−Vref|によりリフレッシュがなされる。なお、このリフレッシュは、MIS型変換素子の半導体層604で発生し、不純物半導体層605を通過できずに半導体層604と絶縁層603との間に蓄積された電子−正孔対の一方を、第2電極606に向けて移動させて消滅させることである。なお、リフレッシュに関しては、後で詳細に説明する。
【0036】
次に、図7(a)及び(b)を用いて、本発明の第2の実施形態に係る変換素子が有する残像量の時間依存性を、説明する。なお、第2の実施形態に係る変換素子が有するノイズ量の時間依存性に関しては、図4(a)及び(b)で説明したものと概略等しいため、詳細な説明は割愛する。
【0037】
図7(a)及び(b)に示すように、残像量は変換素子に電圧が供給された直後に大きく現れ、時間が経過するに従って小さくなり所定値に収束する。これは、第1の実施形態で説明した原因に加えて、MIS型変換素子では以下の原因があることを、本願発明者は、誠意検討の結果、見出した。MIS型変換素子では、暗電流などにより発生した電子−正孔対の一方が半導体層604と絶縁層603との間に蓄積され、それにより変換素子に電圧が供給されてからの時間に応じて半導体層604と絶縁層603の界面の電位Vaが変動する。この電位Vaが変動するため、半導体層604にかかる電圧が変動することにより、MIS型変換素子では変換素子に電圧が供給されてからの時間に応じて感度が変動する。以下にこのことを感度変動と称する。この感度変動が起こっている状況で撮像動作が行われた場合、放射線又は光が照射された画素のMIS型変換素子では、照射された放射線又は光により発生した電子−正孔対の一方が半導体層604と絶縁層603との間に蓄積されて、電位Vaが大きく変動する。一方、放射線又は光が照射されない画素のMIS型変換素子では、放射線又は光によって発生する電子−正孔対に起因する電位Vaの変動は起こらない。そのため、放射線又は光が照射された画素と放射線又は光が照射されなかった画素とでは、MIS型変換素子の感度に差が生じる。この感度の差が、次の撮像動作間で得られる画像データに残像として現れる。このことは、半導体層604と絶縁層603との間に蓄積された電子−正孔対の一方のうち、消滅される量が少ないリフレッシュ動作が行われる場合には、特に顕著となる。
【0038】
一方、十分な時間経過により、暗電流などにより発生した電子−正孔対の一方が半導体層604と絶縁層603との間に十分に蓄積されると、電位Vaが変換素子に電圧が供給されてからの時間に応じて所望の電位に収束する。このことは、半導体層604と絶縁層603との間に蓄積された電子−正孔対の一方のうち、消滅される量が少ないリフレッシュ動作が行われる場合には、特に顕著となる。電位Vaが収束することにより、撮影動作によって発生する感度の差が小さくなり、感度変動も収束し、変換素子が所望の感度で安定化する。これを安定状態と呼ぶ。安定状態では、光又は放射線の照射による電位Vaの変動も、リフレッシュ動作により抑制される。すなわち、光又は放射線の照射による変換素子の感度変動が抑制され、感度変動に起因する残像量が小さくなる。従って、図7(a)及び(b)に示すように、残像量は変換素子に電圧が供給された直後に大きく現れ、時間が経過するに従って小さくなり、安定状態における所定値に収束する。
【0039】
また、本願発明者は更に以下を見出した。図7(a)に示すように、変換素子の温度が高いほど、感度変動に起因する残像量が小さく、また所定値に収束するまでの時間が短くなる。これは、温度が高いほど暗電流などのノイズ量が増加し、それにより発生する電子−正孔対の量が多くなる。そのため、半導体層604と絶縁層603との間に蓄積される電子−正孔対の一方の量が多くなり、電位Vaが早く所望の電位に収束するためである。また、図7(b)に示すように、本願発明者は、リフレッシュ動作における変換素子の電圧の変動量|Vs−Vr|が大きいほど、感度変動に起因する残像量が小さく、また所定値に収束するまでの時間が短くなる。これは、リフレッシュ動作における変換素子の電圧の変動量が大きいほどリフレッシュ動作時に消滅する電子−正孔対の一方が多くなり、より少ない量の電子−正孔対の一方で電位Vaが所望の電位に収束するためである。
【0040】
次に、図8(a)〜(c)を用いて、本実施形態の撮像装置の動作を説明する。ここで、図8(a)は撮像装置全体の駆動タイミングを概略的に示したものであり、図8(b)は図8(a)のA−A’箇所を詳細に示したもの、図8(c)は図8(a)のB−B’箇所を詳細に示したものである。なお、図5(a)〜(c)に示す第1の実施形態の動作と同じものは同じ番号を付与してあり、詳細な説明は割愛する。
【0041】
第1の実施形態の撮像準備動作は、初期化動作K及び蓄積動作Wの一組を複数回繰り返し行う動作であったが、本実施形態の撮像準備動作は、リフレッシュ動作Rと初期化動作Kと蓄積動作Wの一組を複数回繰り返し行う動作となっている。ここで、リフレッシュ動作とは、MIS型変換素子の半導体層604で発生し、不純物半導体層605を通過できずに半導体層604と絶縁層603との間に蓄積された電子−正孔対の一方を、第2電極606に向けて移動させて消滅させるための動作である。また、第1の実施形態の撮像動作は、初期化動作Kと蓄積動作Wと画像出力動作Xと初期化動作Kと蓄積動作Wと暗画像出力動作Fとを行う動作であったが、本実施形態の撮像動作は、各初期化動作Kの前にリフレッシュ動作Rを更に行う動作である。このリフレッシュ動作では、まずバイアス配線Bsを介して第2電極604にリフレッシュ用の電圧Vrが供給される。次に、各スイッチ素子を導通して第1電極602に基準電圧Vrefが供給され、変換素子601はそのバイアス|Vr−Vref|によりリフレッシュがなされる。複数の変換素子601は行単位で順次リフレッシュされ、全てのスイッチ素子が非導通にされると全ての変換素子601のリフレッシュが終了する。その後、バイアス配線Bsを介して変換素子601の第2電極606に電圧Vsが供給され、各スイッチ素子を導通して第1電極602に基準電圧Vrefが供給され、変換素子601にはバイアス|Vs−Vref|が供給される。全てのスイッチ素子が非導通にされると全ての変換素子601が撮像可能なバイアス状態となり、リフレッシュ動作が終了する。次に、変換素子601を初期化し暗示出力を安定化させるために初期化動作Kを行い、その後蓄積動作Wに遷移する。
【0042】
次に、本実施形態において演算処理部117が行い得る処理の例を説明する。第1の実施形態と同様に、演算処理部117は、予め記憶した出力特性情報と、検出部101’の温度と、検出部101’に供給される電圧と、撮像開始時間と、を用いて、含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する。本実施形態の演算処理部117は、出力特性情報と、検出部101’の温度と、電圧Vr’と、制御コンピュータ108から要求されたノイズ量及び残像量と、を用いて、撮像動作の出力特性が要求されたノイズ量及び残像量を満足するために必要な撮像開始時間を算出できる。本願発明者は、誠意検討の結果、残像量の変動が安定する時間(以下、残像量安定時間と称する)t0が検出器101’の温度Tの指数関数で表されることを見出した。また、残像量安定時間t0が電圧Vrの値の指数関数でも表されることを本願発明者は見出した。つまり本願発明者は、以下の関係式を見出した。
【0043】
t0 > αexp(βVr’+γT+δVrT)
ここで、α、β、γ、δはそれぞれ所望の係数であり、電圧Vrや温度Tをパラメータとして、予め測定することにより得られる係数である。α、β、γ、δを予め測定する方法としては、変換素子に電圧が供給されてからの経過時間をパラメータとして検出部101’に放射線又は光を照射し、残像量安定時間t0を求める方法が有効である。また、検出部101’に放射線又は光を照射しないときの画像データを連続で取得し、残像量安定時間t0を推定する方法も有効である。同様の方法で、ノイズ量の変動が安定する時間(以下、ノイズ量安定時間と称する)t1と温度T、電圧Vrの関係を求めてもよい。
【0044】
また、本発明者は、残像量が所望の変動量以下となり制御コンピュータ108から要求された残像量に関する出力特性(以下、残像量要求出力特性と称する)を満足する時間(以下、要求撮像開始時間と称する)tsが残像量安定時間t0と以下の関係を満たすことを見出した。要求撮像開始時間tsは、残像量要求出力特性をGs、変換素子に電圧が供給された直後の残像量をG(0)、供給から時間t0が経過した時の残像量をG(t0)としたとき、以下の関係式を満たす、
ts > Gs/{G(0)−G(t0)}*t0
同様に、本発明者は、要求撮像開始時間tsが、制御コンピュータ108から要求されたノイズ量に関する出力特性(以下、ノイズ量要求出力特性と称する)を満足するノイズ量安定時間t0と以下の関係を満たすことを見出した。要求撮像開始時間tsは、ノイズ量要求出力特性をNs、変換素子に電圧が供給された直後のノイズ量をN(0)、供給から時間t0が経過した時のノイズ量をN(t0)としたとき、以下の関係式を満たす、
ts > Ns/{N(0)−N(t1)}*t1
また、上記式をから、演算処理部117は、出力特性情報と、検出部101’の温度と、要求出力特性と、要求撮像開始時間と、を用いて、要求出力特性と要求撮像開始時間を満足するために必要な、検出部101’に供給されるべき電圧Vr’を算出できる。算出された要求撮像開始時間tsや供給されるべき電圧Vr’を表示装置113に表示するように、制御コンピュータ108は表示装置を制御してもよい。
【0045】
次に、図9を用いて、上記演算処理部117が算出した電圧値Vrを用いて撮像装置を制御するための動作フローを説明する。まず、撮像システムの主電源を投入した後、制御用コンピュータ108からの要求に応じた制御部106が、電圧Vsを検出部101に供給するように電源部107を制御する。次に、撮影者によって制御卓114から制御コンピュータ108に要求出力特性と要求撮像開始時間tsが入力される。次に、温度検知部115が検出部101の温度を検知するよう、制御部106が温度検知部115を制御する。そして、温度検知部115から検知された温度に関する情報が、制御コンピュータ108から要求撮像開始時間ts及び要求出力特性に関する情報が、それぞれ演算処理部117に伝達される。そして演算処理部117は、出力特性情報と、検出部101’の温度と、要求出力特性と、要求撮像開始時間tsと、を用いて、要求出力特性と要求撮像開始時間tsとを満足するために必要な、検出部101’に供給されるべき電圧Vr’を算出する。演算処理部117は、算出された電圧値Vr’に関する情報を制御コンピュータ108に伝送し、制御コンピュータ108は制御部106に制御信号を送信する。それに基づいて制御部106は、電源部107が電圧Vrから電圧Vr’に切り替えて検出部101’に供給するように電源部107を制御する。電圧Vr’が供給された後、検出器104が撮像準備動作を行うように、制御部106は検出器104を制御する。
【0046】
放射線の曝射要求がない場合(NO)は、検出器104が再度撮像準備動作を行うように、曝射要求がある場合(YES)は、検出器104が撮像動作を行うように、制御部106は検出器104を制御する。撮像動作が行われた後、図8(a)に示す撮像開始時間t2’が要求撮像開始時間tsを比較し、要求出力特性が満足されたか否かの判定を行う。要求出力特性が満足されていないと判定された場合(NO)は、残像量が所望の値以下とならないことを意味するため、残像の影響が後の撮影動作で取得される画像データに影響を及ぼさないように、検出器104はその残像を除去する残像除去動作を行う。この残像除去動作は、変換素子の第1電極602及び第2電極606に同電位(例えば0V)を所定時間供給することによりなされる。残像除去動作がなされた後、終了要求がある場合(YES)は一連の動作を終了するように、制御部106が各要素を制御する。終了要求がない場合(NO)は、再度電圧Vr’の算出及び切り換えを行うために、検出部101’の温度検知と、要求撮像開始時間の設定及び取得と、要求出力特性の設定及び取得と、が制御コンピュータ108及び温度検知部115によってなされる。一方、要求出力特性が満足されたと判定された場合(YES)は、残像除去動作を行わず、終了要求がある場合(YES)は一連の動作を終了するように、制御部106が各要素を制御する。終了要求がない場合(NO)は、検出器104が再度撮像準備動作を行うように、制御部106は検出器104を制御する。
【0047】
本実施形態により、MIS型変換素子を有する検出器104の温度や撮像動作開始時間が異なる場合であっても、撮像動作の出力特性を予め算出することが可能となる。そのため、算出された出力特性を用いて、撮像装置の動作や、変換素子に供給される電圧の値を、変更することが可能となり、それにより、所定の範囲内に画像信号の変動する特性が収まるのに必要な撮像動作の開始時間を制御することができる。そのため、光源を用いることなく薄型・軽量・低消費電力で且つ好適に画像信号の変動の影響を抑制することが可能となる。
【0048】
なお、本発明の各実施形態は、例えば制御部106に含まれるコンピュータや制御コンピュータ108がプログラムを実行することによって実現することもできる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体又はかかるプログラムを伝送するインターネット等の伝送媒体も本発明の実施形態として適用することができる。また、上記のプログラムも本発明の実施形態として適用することができる。上記のプログラム、記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。また、第1又は第2の実施形態から容易に想像可能な組み合わせによる発明も本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
100 撮像装置
101 検出部
102 駆動回路
103 読出回路
104 平面検出器
105 信号処理部
106 制御部
107 電源部
108 制御コンピュータ
109 放射線制御装置
110 放射線発生装置
111 放射線源
112 照射野絞り機構
113 表示装置
114 制御卓
115 温度検知部
116 電圧検知部
117 演算処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線又は光を電荷に変換する変換素子を複数備えた検出部と、前記電荷に応じた電気信号を前記検出部から出力するために前記検出部を駆動する駆動回路と、前記電気信号を画像データとして出力する読出回路と、を含み、前記電気信号を出力する撮像動作を行う検出器と、
前記変換素子に電圧を供給する電源部と、
前記検出部の温度を検知するための温度検知部と、
前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が前記検出部に前記電圧の供給が開始されてからの時間に応じて変動する特性に関する情報である出力特性情報と、前記温度と、前記電圧と、前記電源部から前記検出部に前記電圧の供給が開始されてから前記撮像動作が開始されるまでの時間である撮像開始時間と、を用いて、前記撮像動作における前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する演算処理部と、
を有する撮像装置。
【請求項2】
前記駆動回路と前記読出回路と前記電源部とを制御する制御部を更に有し、
前記制御部は、前記演算処理部で算出されたノイズ量及び残像量に基づいて前記電圧及び前記検出器の動作のうち少なくとも一方を変更するように、前記駆動回路と前記読出回路と前記電源部とを制御することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記変換素子は、PIN型フォトダイオード又はMIS型光電変換素子を含む請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の撮像装置と、
前記制御部に制御信号を送信する制御コンピュータと、
を含む撮像システム。
【請求項5】
前記演算処理部は、前記出力特性情報と、前記温度と、前記電圧と、前記制御コンピュータから要求されたノイズ量及び残像量と、を用いて、前記撮像動作における前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が前記要求されたノイズ量及び残像量を満足するために必要な撮像開始時間である要求撮像開始時間を算出することを特徴とする請求項5に記載の撮像システム。
【請求項6】
前記演算処理部は、前記出力特性情報と、前記温度と、前記制御コンピュータから要求されたノイズ量及び残像量と、前記撮像動作における前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が前記要求されたノイズ量及び残像量を満足するために必要な撮像開始時間である要求撮像開始時間と、を用いて、前記要求されたノイズ量及び残像量と要求撮像開始時間とを満足するために必要な前記変換素子に供給されるべき電圧を算出し、
前記制御部は、前記電源部が前記変換素子に供給されるべき電圧を供給するように前記電源部を制御することを特徴とする請求項5に記載の撮像システム。
【請求項7】
放射線又は光を電荷に変換する変換素子を有する画素を複数備えた検出部と、前記電荷に応じた電気信号を前記検出部から出力するために前記検出部を駆動する駆動回路と、前記電気信号を画像データとして出力する読出回路と、を含み、前記電気信号を出力する撮像動作を行う検出器と、前記変換素子に電圧を供給する電源部と、を有する撮像装置の制御方法であって、
前記検出部の温度を検知する工程と、
前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が前記検出部に前記電圧の供給が開始されてからの時間に応じて変動する特性に関する情報である出力特性情報と、前記温度と、前記電圧と、前記電源部から前記検出部に前記電圧の供給が開始されてから前記撮像動作が開始されるまでの時間である撮像開始時間と、を用いて、前記撮像動作における前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量を算出する工程と、
を含むことを特徴とする撮像装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の撮像装置の制御方法を含む撮像システムの制御方法であって、
前記撮像システムは、前記撮像装置と、前記制御部に制御信号を送信する制御コンピュータと、を含み、
前記出力特性情報と、前記温度と、前記電圧と、前記制御コンピュータから要求されたノイズ量及び残像量と、を用いて、前記撮像動作における前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が前記要求されたノイズ量及び残像量を満足するために必要な撮像開始時間である要求撮像開始時間を算出する工程を更に含むことを特徴とする撮像システムの制御方法。
【請求項9】
請求項7に記載の撮像装置の制御方法を含む撮像システムの制御方法であって、
前記撮像システムは、前記撮像装置と、前記制御部に制御信号を送信する制御コンピュータと、を含み、
前記出力特性情報と、前記温度と、前記制御コンピュータから要求されたノイズ量及び残像量と、前記撮像動作における前記電気信号又は前記画像データに含まれ得るノイズ量及び残像量が前記要求されたノイズ量及び残像量を満足するために必要な撮像開始時間である要求撮像開始時間と、を用いて、前記要求されたノイズ量及び残像量と要求撮像開始時間とを満足するために必要な前記変換素子に供給されるべき電圧を算出する工程と、
前記電源部が前記変換素子に供給されるべき電圧を供給する工程と、
を更に含むことを特徴とする撮像システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−204964(P2012−204964A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65980(P2011−65980)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】