説明

撮像装置及び撮像方法

【課題】 センサにおける干渉光どうしのクロストークを抑制することで、最小限の画素数のセンサを構成する。
【解決手段】 本発明に係る撮像装置は、被検査物に照射する第1及び第2の測定光に基づく第1及び第2の合成光の重なりを低減する低減手段を有する。そして、本発明に係る撮像装置は、上記低減手段で低減された第1及び第2の合成光に基づく被検査物の光干渉断層画像を取得する取得手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉断層法を用いる撮像装置及び撮像方法であって、眼底や皮膚などの観察に用いられる医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、低コヒーレンス光による干渉を利用した光干渉断層法(Optical Coherence Tomography:OCT)を用いる撮像装置(以下、OCT装置とも呼ぶ。)が実用化されている。これは、試料に入射する光の波長程度の分解能で断層像を取得できるため、試料の断層像を高分解能に得ることができる。
【0003】
OCT装置は、特に、眼科領域において、眼底・網膜の断層像を得る上で、必要不可欠な装置になりつつある。また、眼科以外でも、皮膚の断層観察や、内視鏡やカテーテルとして構成して消化器、循環器の壁面断層撮像等が試みられている。
【0004】
ここで、OCTの方式には、主に、TD−OCT(Time Domain−OCT)とFD−OCT(Fourier Domain−OCT)の2つの方式がある。FD−OCTは、干渉光のスペクトル情報をフーリエ変換することにより、深さ方向の位置に対応する強度情報を一括して取得する方式である。このため、FD−OCTは、深さ方向の位置を取得するためにコヒーレンスゲート位置を変えるTD−OCTよりも、高速に断層像を取得することができる。
【0005】
OCT装置では、高分解能で測定する場合、ビーム1本あたりの測定領域が狭くなり、比較的測定時間を要する。特に、眼科に用いる場合、高速に撮像することが求められる。これは、撮像中の固視微動などにより、画像どうしの位置ずれが生じる可能性があるからである。
【0006】
測定時間を短くするために、複数のビームを用いて、ビーム1本あたりの測定領域を狭くする方法が、特許文献1に開示されている。
【0007】
特許文献1は、9本のビームをそれぞれ測定光と参照光に分ける干渉計により構成され、それぞれのビームによる干渉光を分光し、該分光された干渉光を複数ビームに対して同一の2次元センサアレイにより検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2008−508068
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、光源から発生される光は、光源自体の熱ゆらぎなどにより、意図する波長幅よりも長い波長幅を持つ光が発生されてしまう。
【0010】
そのため、上記特許文献1では、複数の分光された干渉光どうしが、2次元センサアレイ上で重ならないようにするために、それぞれの干渉光を検出する領域どうしの間隔を十分あけて構成している。なぜならば、複数の干渉光どうしがセンサ上で重なると、干渉光どうしがクロストークし、結果として得られる断層画像にノイズが発生してしまうためである。
【0011】
このとき、検出領域どうしの間隔を十分あける必要があるので、検出に使用しない画素を設けることになる。そのため、2次元アレイセンサに求められる画素数が多くなるので、読み出し速度も遅くなってしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る撮像装置は、
第1及び第2の測定光を被検査物に照射する照射手段と、
前記第1の測定光に基づく第1の合成光と、前記第2の測定光に基づく第2の合成光を検出する検出手段と、
前記検出手段における前記第1及び第2の合成光の重なりを低減する低減手段と、
前記低減手段で低減された前記第1及び第2の合成光に基づく前記被検査物の光干渉断層画像を取得する取得手段と、
を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る撮像方法は、
複数の光からなる測定光を被検査物の異なる位置に照射し、
前記被検査物によって反射あるいは散乱された前記複数の光からなる測定光による戻り光と、複数の光からなる参照光を合成し、
前記合成された干渉光をセンサにより検出し、
前記複数の干渉光を受光する前記センサにおいて、第1の干渉光と隣接する第2の干渉光とが互いに重なり得る部分の光量を低減し、
前記被検査物の光干渉断層画像を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分光された複数の光どうしがセンサで重なる光量を低減するように構成される。これにより、前記センサにおける前記分光された光どうしによるクロストークを抑制することができる。また、複数の光がそれぞれセンサに照射される領域(単位は画素)どうしを接近させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に係る光干渉断層法を用いる撮像装置の構成などを説明するための模式図である。
【図2】実施例1の干渉信号スペクトル(a)と、光学フィルタがない場合の干渉信号スペクトル(b)と、実施例3の干渉信号スペクトル(c)とを表す模式図である。
【図3】実施例1の干渉信号の波長スペクトル(a)から(c)と、光学フィルタがない場合の波長スペクトル(d)である。
【図4】実施例1のOCT画像(a)から(c)と、光学フィルタがない場合のOCT画像(d)である。
【図5】実施例2及び3に係る光干渉断層法を用いる撮像装置の構成を説明するための模式図である。
【図6】実施例4に係る光干渉断層法を用いる撮像装置の構成を説明するための模式図である。
【図7】実施例5に係る光干渉断層法を用いる撮像装置の構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係る撮像装置(あるいは光干渉断層法を用いる撮像装置とも呼ぶ。)について、図1を用いて説明する。
【0017】
まず、101は、光(低コヒーレンス光)を発生させるための光源である。光源101には、SLD(Super Luminescent Diode)を適用することができる。また、光源101には、ASE(Amplified Spontaneous Emission)も適用することができる。また、光源101には、チタンサファイアレーザなどの超短パルスレーザも適用することができる。このように、光源101は、低コヒーレンス光を発生させることの出来るものなら何でも良い。さらに、前記光源101から発生される光の波長は、特に制限されるものではないが、400nmから2μmの範囲である。そして、OCTを実現するための波長幅としては、例えば1pm以上、好ましくは10pm以上、更に好ましくは30pm以上の波長幅であることがよい。
【0018】
次に、103は、光源101からの光を参照光と測定光とに分割するための分割部である。分割部103には、ビームスプリッタや、ファイバカプラなどを適用することができる。このように、分割部103は、光を分割出来るものなら何でも良い。
【0019】
また、105は、測定光を被検査物120において走査するための走査光学部(あるいは走査部とも呼ぶ。)である。走査光学部105は、ガルバノスキャナなどが好適に用いられるが、光を走査出来るものなら何でも良い。 また、110は、被検査物120からの戻り光と参照光との合成光を検出するための検出部(分光器)である。検出部110は、複数の合成光(117a、117b、117c)を分光するための分光素子114(あるいは分光部とも呼ぶ。)を有する。分光素子114は、回折格子やプリズムなどであり、光を分光出来れば何でも良い。また、検出部110は、分光素子114により前記分光された複数の光(118a、118b、118c)を検出するためのセンサ116を有する。前記センサ116は、ラインセンサや2次元センサなどであり、光を検出出来れば何でも良い。
【0020】
また、被検査物120で走査される複数の測定光を該被検査物120において走査するように構成される。測定光を複数とする手法は、マイケルソン干渉計とマッハツェンダー干渉計とで異なる(後述)。
【0021】
そして、センサ116は、前記分光された第1及び第2の光(例えば、118a、118b、118cのいずれかとする。)をそれぞれ集光する第1の領域と第2の領域(例えば、119a、119b、119cのいずれかとする。)とを含み構成される。ここで、第1及び第2の領域とは、前記分光された複数の光がそれぞれセンサに照射される領域(単位は画素)のことである。なお、後述する実施例1の場合、分光された光が集光される1170画素が、第1の領域あるいは第2の領域に相当している。
【0022】
第1の光(例えば、118aとする。)のうち、第2の領域(例えば、119bとする。)に照射され得る波長の光の光量を低減する(光をカットする、あるいは光量を下げる)ように構成される。あるいは、分光された複数の光どうしがセンサ116で重なる光量を低減するように構成される。
【0023】
これにより、センサ116における前記分光された光どうしによるクロストークを抑制することができる。また、第1の領域と前記第2の領域とを接近させることができる。つまり、第1の領域と前記第2の領域との間隔(単位は画素)を短く(画素数を少なく)することができる。このとき、前記間隔がゼロである状態を含む。なお、後述する実施例1の場合、1170画素で構成される前記第1の領域と前記第2の領域との間にある132画素が、前記間隔に相当している。
【0024】
なお、本実施形態に係る撮像装置は、第1及び第2の測定光を被検査物に照射する照射部(上記走査部など)を有している。また、本実施形態に係る撮像装置は、第1の測定光に基づく第1の合成光(第1の測定光を照射した被検査物からの戻り光と、該第1の測定光に対応する第1の参照光と、を合成したもの。)と、第2の測定光に基づく第2の合成光(第2の測定光を照射した被検査物からの戻り光と、該第2の測定光に対応する第2の参照光と、を合成したもの。)と、を検出する検出部(上記分光部など)を有する。また、検出手段における前記第1及び第2の合成光の重なりを低減する低減部(後述の光学フィルタなど)を有する。さらに、本実施形態に係る撮像装置は、低減部で低減された第1及び第2の合成光に基づく被検査物の光干渉断層画像(あるいは断層画像とも呼ぶ。)を取得する取得部(不図示)を有する。なお、取得部は、検出部の上記センサから送付されたデータをフーリエ変換などの信号処理によって、断層画像を取得するものであれば何でも良い。
【0025】
ここで、前記低減するための光量低減部材(あるいは低減部とも呼ぶ。)を備えることが好ましい。光量低減部材としては、特定の波長の光の透過率または反射率を制限する特性を持つ光学フィルタ112が好ましい。このとき、光学フィルタ112により複数の合成光(117a、117b、117c)に対して前記低減を行う。そして、前記低減された複数の合成光を前記分光素子114により分光するように構成される。また、光量低減部材としては、前記分光された複数の光(118a、118b、118c)を遮蔽する遮蔽部材410が好ましい。
【0026】
また、前記分光された複数の光(118a、118b、118c)をそれぞれ前記領域(119a、119b、119c)ごとに集光するように構成されることが好ましい。
【0027】
(マイケルソン干渉計:実施例1から3の形態)
マイケルソン型の干渉計の場合、分割部103は、参照光と測定光とを合成するように構成される。すなわち、分割部103は、光源101から発生された光を参照光と測定光とに分割する役割と、参照光と戻り光とを合成する役割とを兼ねるように構成される。
【0028】
このとき、光源101から発生された光を複数に分割し、該分割された複数の光をそれぞれ参照光と測定光とに分割する(実施例1と2の形態)。
【0029】
また、前記複数の光源910a、910b、910cから光を発生する。そして、前記複数の光をそれぞれ参照光と測定光とに分割する(光源を複数有する実施例3の形態)。
【0030】
(マッハツェンダー干渉計:実施例4および5の形態)
マッハツェンダー型の干渉計の場合、前記参照光と前記測定光とを合成するための合成部を備える。前記合成部は、例えばファイバカプラ407であるが、光を合成出来るものなら何でも良い。
【0031】
そして、前記光源101から発生された光を前記測定光と前記参照光とに分割し、該分割された該測定光と該参照光とをそれぞれ複数の光に分割する。
【0032】
(別の本実施形態:撮像方法)
また、別の本発明の実施形態に係る光干渉断層法を用いる撮像方法は、以下の工程を含む。
a)複数の光からなる測定光を被検査物の異なる位置に照射する。
b)被検査物によって反射あるいは散乱された前記複数の光からなる測定光による戻り光と、複数の光からなる参照光を合成する。
c)前記合成された干渉光をセンサにより検出する。
d)複数の干渉光を受光する前記センサにおいて、第1の干渉光と隣接する第2の干渉光とが互いに重なり得る部分の光量を低減する。
e)被検査物の断層画像(あるいは光干渉断層画像とも呼ぶ。)を取得する。
【0033】
ここで、別の実施形態として、上述の実施形態に係る光干渉断層法を用いる撮像方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムとして、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体(例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、EEPROM、ブルーレイディスクなど)に格納しても良い。また、別の実施形態として、上述の光干渉断層法を用いる撮像方法をコンピュータに実行させるためのプログラムでも良い。
【0034】
(別の装置構成)
低コヒーレンス光源101から出射された光はファイバビームスプリッタ102により、複数の光に分割される。これらの複数に分割された光はファイバカプラ103により、それぞれ複数の光からなる測定光と参照光とに更に分割され、次のように測定光は被測定対象である被検査物に導かれると共に参照光が参照ミラーに導かれる。複数の光からなる測定光を被検査物に導くに際し、測定光は、特定の間隔で並べられたファイバコリメータ104より出射される。ビーム走査を行う走査手段(走査光学系)105によって走査された複数の光からなる測定光が、照射光学系を構成する対物レンズ106を介して、被測定物(被測定対象である被検査物)120に照射される。被測定物120によって反射あるいは散乱された戻り光は、再び同じ光学系を通って、ファイバカプラ103に戻される。参照光は、ファイバコリメータ107より出射され、参照ミラー109にて反射され、ファイバカプラ103に戻される。このとき、参照光との波長分散量をあわせるために、分散補償ガラス108を通している。被測定物120より散乱されファイバカプラ103に戻された測定光と、参照ミラー109にて反射されファイバカプラ103に戻され参照光がファイバカプラ103で合成され、干渉光となる。このように、ファイバカプラ103によって合成された干渉光は、干渉光の検出装置110によって、各測定光に対応した干渉信号として検出される。
【0035】
干渉光の検出装置110は図1(b)に示す構成となっている。ファイバによって入力された干渉光は、特定の間隔で並べられたファイバ端111から空中に出射され、特定の波長範囲の光のみ透過する光学フィルタ112を通り、コリメータレンズ113によって平行光になる。これらの平行光は回折格子、プリズムなどの分光素子114を通して分光、すなわち波長分解され、集光レンズ115によって、センサアレイ116上に集光される。入力された各干渉光117a、117b、117cは、分光され、センサアレイ116上の異なる領域に波長毎に集光される。このとき、隣り合う干渉光で光の重なり(クロストーク)が無いように光学フィルタの112の透過波長帯が設定されている。すなわち、隣り合う干渉光の一方の長波長側の光の一部と他方の短波長側の光一部が光学フィルタ112を透過しないようになっている。したがって、複数の干渉信号をクロストーク無く、効率的に取得することができる。センサアレイにて取得されたデータはフーリエ変換処理を含む信号処理工程を経て、OCT画像に変換される。
【0036】
以上の本実施形態の構成によれば、隣り合う干渉光をセンサアレイ上でクロストーク無く隣接させて配置することができるため、最小限のセンサアレイ画素数で複数ビームに対応した干渉信号を検出できる。そのため、高速に信号取得可能なOCT装置が簡便に実現できる。
【実施例】
【0037】
(実施例1:マイケルソン干渉計、分光する前に光学フィルタを配置)
以下に本発明の実施例について、図1を用いて説明する。
【0038】
本実施例では、基本構成として上記した図1(a)における光干渉断層法を用いる撮像装置を用いた。また、本実施例では、眼の網膜を被測定対象としての被検査物120とした。低コヒーレンス光源101として、出力20mW、中心波長840nm、波長幅45nmのSLD光源を用いる。SLD光源101より発せられた光は1対3のファイバビームスプリッタ102により、3本に等分される。それぞれの光は3個の50:50ファイバカプラ103によって測定光と参照光に分岐される。測定光側は3つのファイバコリメータ104によって平行ビームにされ、ガルバノスキャナとスキャンレンズで構成される走査光学系105および照射光学系である対物レンズ106によって、目の網膜120上に照射される。図1(c)に示されるように、このとき眼底200上で各ビームは異なる3つの位置201a、201b、201cを走査するように設定した。網膜120によって反射あるいは散乱された戻り光は、再び同じ光学系を通って、ファイバカプラ103に戻される。
【0039】
参照光は3つのファイバコリメータ107より出射され、参照ミラー109にて反射され、ファイバカプラ103に戻される。このとき、参照光との波長分散量をあわせるために、BK7ガラス108を通している。網膜120より散乱されファイバカプラ103に戻された測定光と、参照ミラー109にて反射されファイバカプラ103に戻された参照光は、ファイバカプラ103で合成され干渉光となる。この干渉光は干渉信号検出装置である分光器110によって、波長毎に分光され、検出される。
【0040】
分光器110は図1(b)で示される構成になっている。ファイバによって入力された干渉光は、一定の間隔で並べられたファイバ端111から空中に出射され、波長範囲810〜870nm、すなわち波長幅60nmの光のみ透過するバンドパスフィルタ112を通り、コリメータレンズ113によって平行光になる。これらの平行光は1200本/mmの透過型回折素子114によって分光され、集光レンズ115によって、画素サイズ10μm、画素数4096個、ライン読み出し周期70kHzのラインセンサ116上に集光される。それぞれ810〜870nmの波長がラインセンサ1170画素分に分光されるように分光器内のレンズを選んだ。このように設定された分光器で各ビームに対応した干渉信号を測定すると図2(a)の模式図のようになる。(ここでは簡単のため、干渉信号の細かい周期の信号を無視して単純な線でその概要を描いている。)光源の波長スペクトルのうち、810〜870nmに相当する光だけがラインセンサ上に照射され検出される。
【0041】
以上の構成において、網膜の測定を行うと、図3(a)から(c)のように、3つの測定ビーム201a、201b、201cそれぞれに対応した干渉信号117a、117b、117cの波長スペクトルが測定される。このデータをもとにフーリエ変換処理を含む信号処理を行うと、図4のように3つのOCT画像が得られる。
【0042】
バンドパスフィルタ112を外した場合、分光器で検出される干渉信号の波長スペクトルは図2(b)に示す模式図ように隣接するビーム間でクロストークが生じる。この状態における干渉信号は、図3(d)のようになる。図の右端の信号強度が、図3(a)から(c)の右端の信号強度に比べて大きくなっているのが、クロストークによる影響である。このクロストークの影響のある干渉信号をOCT画像に変換すると、図4(d)のように他のビームの画像の一部がノイズ成分として重なったような不明瞭な画像になる。これを避けるためには、本発明の方法によらなければ、隣接する干渉信号のクロストークが無いように各ビームの分光スペクトルを離して配置しなければならない。しかし、そのためにはさらに画素数の多いラインセンサを使わなければならず、コストアップになるとともに、読み出し周期が遅くなってしまう。
【0043】
以上より、本実施例によれば、複数のビームによるOCT画像が、最小限の画素数のセンサアレイによって、ノイズ成分を抑えた断層画像を構成するための測定信号を高速に取得できる。また、本実施例によれば、断層画像として表示したときにノイズ成分が目立たない程度に、複数の干渉光どうしがセンサ上で重ならないように接近させることができる。
【0044】
本実施例においては、光学フィルタとしてバンドパスフィルタ112を挿入する構成を説明したが、ラインセンサ116に達する光の波長を制限する光学フィルタであれば同様の効果がある。例えば、短い波長のみ透過するショートパスフィルタ、長い波長のみ透過するロングパスフィルタ、特定の波長のみ通さないノッチフィルタなどでも良い。また、これらの光学フィルタの任意の組み合わせでも良い。さらに、光学フィルタの製法についても、吸収型、反射型、誘電体多層膜による干渉型などによらず、何でも良い。
【0045】
さらに、本実施例においては光学フィルタ112の挿入位置が分光器110内にある場合を示したが、干渉信号が生成された後、センサアレイ116に入射する以前であればどの位置に挿入しても同様の効果が得られる。本実施例のように、分光器内に光学フィルタを配置すると光学系を小さくできる。
【0046】
(実施例2:参照光と測定光とに分割する前に光学フィルタを配置)
実施例2として、上記実施例1の光干渉断層法を用いる撮像装置のように光ファイバではなく、バルク光学系(光が空間中を通過する系)を用い、光学フィルタ112の位置を変えた構成例を説明する。
【0047】
図5(a)に、本実施例におけるバルク光学系を適用する光干渉断層法を用いる撮像装置の構成を説明する図を示す。なお、図5(a)においては、図1に示す構成と同じ構成に同一の符号が付されているので、共通する部分の説明は省略する。
【0048】
図5(a)において、903はコリメートレンズアレイ、904はキューブビームスプリッタ、905は照射光学系、906は分散補償ガラス、907は参照ミラー、908は干渉信号検出装置である。
【0049】
本実施例においては、光源の光が1対3ファイバビームスプリッタ102により、3本に等分されたのちの光学系がバルク光学系で構成されている。まずコリメートレンズアレイ903によって各ビームを平行ビームにする。3つのビームはバンドパスフィルタ112を通って、50:50キューブビームスプリッタ904によって、測定光と参照光に分けられる。3つの測定光は、ガルバノスキャナとスキャンレンズ、接眼レンズで構成される照射光学系905によって網膜120上に集光される。この3つのビームは、図1(c)の201a、201b、201cの各ビームスポットと線分で表わされる部分を走査するよう調整されている。各3つのビームの集光点より散乱された光は、照射光学系905を通してキューブビームスプリッタ904に導かれ、参照光と合成される。一方、参照光は分散補償ガラス906を通り、参照ミラー907によって反射され、キューブビームスプリッタ904に戻される。
【0050】
キューブビームスプリッタ904に戻された測定光と参照光が合成され、干渉光となり、この干渉光は、干渉信号検出装置908に導かれる。干渉信号検出装置908は図1(a)に示される分光器においてバンドパスフィルタ112を除いた構成となっている。本実施例の構成においても、バンドパスフィルタ112の効果が発揮されるため、ラインセンサ116によって検出される干渉信号は図2(a)と同様にクロストークの無い状態になる。
【0051】
以上により、バンドパスフィルタなどのラインセンサ116に達する光の波長を制限するための光学フィルタ112が測定光と参照光に分割する前に挿入されている場合においても、本発明の効果が得られることが示された。この場合、測定光に余分な波長成分が混ざらないため、余計な波長による散乱光ノイズが低減される。また、実施例1と同様に、干渉信号が合成された後、すなわちキューブビームスプリッタ904と干渉信号検出装置908の間に光学フィルタ112を挿入しても同様の効果が得られる。
【0052】
(実施例3:ビームごとに異なる光学フィルタを配置)
実施例3として、上記実施例1、2の光干渉断層法を用いる撮像装置のように1つの低コヒーレンス光源101を複数のビームに分岐するのではなく、各ビームに別々の光源を設けた場合の構成例を説明する。
【0053】
図5(b)に、本実施例におけるバルク光学系を適用する光干渉断層法を用いる撮像装置の構成を説明する図を示す。なお、図5(b)においては、図1に示す構成と同じ構成に同一の符号が付されているので、共通する部分の説明は省略する。
【0054】
図5(b)において、910a、910b、910cは低コヒーレンス光源、911はファイバコリメータアレイ、912a、912b、912cは光学フィルタである。
【0055】
本実施例においては、網膜を走査する各ビーム201a、201b、201cに対応した低コヒーレンス光源910a、910b、910cを用意する。各光源の光は光ファイバコリメータアレイ911によって平行ビームにされ、それぞれ光学フィルタ912a、912b、912cを通る部分以外は、実施例2と同様にバルク光学系を適用する光干渉断層法を用いる撮像装置の構成と同様である。
【0056】
図2(c)に、本実施例における、各ビームに対応した干渉信号の波長スペクトルの模式図を示す。個々の光源の波長スペクトル形状は製造ばらつきにより異なっているが、実施例1と同様に出力20mW、中心波長840nm、波長幅45nmのSLD光源を用いている。光学フィルタ912aは波長810nm以上を透過するロングパスフィルタ、912bは波長810〜870nmを透過するバンドパスフィルタ、912cは波長870nm以下を透過するショートパスフィルタとした。したがって、図2(c)に示すように、クロストークの無い波長スペクトルが取得でき、実施例1、2と同様に、複数のビームによるOCT画像が、最小限の画素数のセンサアレイによって、高速に取得できる。本実施例の場合、個々のビームの波長スペクトル特性、センサアレイ上の検出位置などに合わせて最適な光学フィルタを選択することができる。
【0057】
また、以上の実施例1〜3においては、測定ビームが3つの場合を例示したが、2つ以上複数の測定ビームを用いる場合すべてに本発明の効果は有効である。さらに、干渉信号スペクトルを検出するセンサアレイとして1次元のラインセンサの例を示したが、2次元のセンサアレイを用いる場合も、複数のセンサアレイを用いる場合も同様の効果が得られる。
【0058】
(実施例4:マッハツェンダー干渉計、分光した後に遮蔽部材を配置)
以上の実施例ではマイケルソン型の干渉計を用いた例を示したが、本実施例ではマッハツェンダー型の干渉計の場合の構成例を示す。
【0059】
図6に、本実施例におけるマッハツェンダー型の干渉計を適用する光干渉断層法を用いる撮像装置の構成を説明する図を示す。なお、図6において、図1に示す構成と同じ構成に同一の符号が付されている。
【0060】
SLD光源101より発せられた光は1対2のファイバビームスプリッタ401により、測定光と参照光に分岐される。測定光は、1対3のファイバビームスプリッタ102により3等分され、それぞれ光サーキュレータ402に入力される。光サーキュレータ402を通った光は3つのファイバコリメータ104によって平行ビームにされ、ガルバノスキャナとスキャンレンズで構成される照射光学系105および対物レンズ106によって、実施例1と同様に目の網膜120上に照射される。
【0061】
網膜120によって反射あるいは散乱された戻り光は、再び同じ光学系を通って、光サーキュレータ402に戻される。光サーキュレータに戻った光は、光サーキュレータの性質により、ファイバビームスプリッタ102側ではなく、2対1のファイバカプラ407側に出力される。参照光は、光サーキュレータ403を通り、ファイバコリメータ404より出射され、分散補償ガラス405を通って、参照ミラー109にて反射されたのち、光サーキュレータ403に戻される。この戻された反射光は、光サーキュレータ403により1対3のファイバビームスプリッタ406側に出力され、3等分された後、2対1のファイバカプラ407に入力される。
【0062】
網膜120より散乱され2対1のファイバカプラ407に入力された3つの測定光と、3等分された後2対1のファイバカプラ407に入力された3つの参照光は、2対1のファイバカプラ407にて合成され干渉光となる。この干渉光は干渉信号検出装置である分光器400によって、波長毎に分光され、検出される。
【0063】
分光器400は図6(b)で示される構成になっている。実施例1における分光器110とほぼ同様の構成であるが、異なる点は光学フィルタ112が無く、黒色アルマイト処理されたアルミ板に円孔を施したアパーチャ410が透過型回折格子114の後に挿入されている点である。透過型回折格子114を透過した光はその波長毎に異なる角度に出射されるが、波長810nm以下および870nm以上の光は遮蔽するようにアパーチャ410の円孔の大きさを調整している。したがって、実施例1の図3(a)から(c)と同様に、干渉信号117a、117b、117cの波長スペクトルが測定される。このデータをもとにフーリエ変換処理を含む信号処理を行うと、図4のように3つのOCT画像が得られる。ここでは、アパーチャとして黒色アルマイト処理されたアルミ板を用いたが、金属、木、紙など所望の光を透過させない部材であれば、いずれでも本発明の効果は有効である。なお、本実施例においても実施例1と同様に、アパーチャ410の代わりに光学フィルタ112を用いる構成としてもよく、実施例1において光学フィルタ112の代わりにアパーチャ410を用いる構成としてもよい。
【0064】
本実施例により、本発明の効果は干渉計の形によらず、また光量を調整するための調整部材が光学フィルタではなく、光遮蔽部材の場合でも有効であることが示された。
【0065】
(実施例5:参照光路に光学フィルタを配置)
実施例5として、光学フィルタを参照光路内に配置した構成例を説明する。
【0066】
図7に、本実施例における参照光路内に光学フィルタを配置した光干渉断層撮像法を用いる撮像装置の構成を説明する図を示す。なお,図7においては図1および6に示す構成と同じ構成に同一の符号が付されているので、共通する部分の説明は省略する。
【0067】
図7において、図6と異なる点は光学フィルタ112を参照光路に配置した点と、分光器500の構成である。光学フィルタ112は実施例1で説明したものと同じ特性のものである。分光器500は図7(b)で示されるように、実施例1で説明した分光器110に対して光学フィルタ112を除いた構成となっている。
【0068】
本実施例の構成では、測定光や戻り光に対して光学フィルタ112は影響を及ぼさない。したがって、ファイバカプラ407で合成された合成光には、眼の網膜120からの戻り光に含まれる波長810〜870nm以外の光が混在する。しかし、眼の網膜120の反射率はおよそ0.001%(−50dB)程度であり、参照光の光量に対して無視できる程度の光量である。したがって、ラインセンサ116上でのクロストークは実質上無視できる大きさであるため、複数の干渉光どうしがセンサ上で出来る限り重ならないようにして近接させることができる。
【0069】
また、参照光の光路に光学フィルタ112を設けることにより、戻り光の光量は光学フィルタにより損失されることがない。そのため、戻り光を効率良く合成光に利用できるので、比較的高画質な断層画像を取得することができる。
【0070】
以上により、光学フィルタ112が測定光路内に配置されている場合においても、本発明の効果が得られることが示された。また、本実施例においてはマッハツェンダー型の干渉計の例を示したが、マイケルソン型など他のタイプの干渉計の場合でも同様な構成が可能である。
【符号の説明】
【0071】
101 低コヒーレンス光源(光源)
103 ファイバカプラ(分割部)
105 走査手段(走査光学部)
110 分光器(検出部)
112 バンドパスフィルタ(調整部材)
114 透過型回折素子(分光素子)
116 センサアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の測定光を被検査物に照射する照射手段と、
前記第1の測定光に基づく第1の合成光と、前記第2の測定光に基づく第2の合成光を検出する検出手段と、
前記検出手段における前記第1及び第2の合成光の重なりを低減する低減手段と、
前記低減手段で低減された前記第1及び第2の合成光に基づく前記被検査物の光干渉断層画像を取得する取得手段と、
を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記検出手段が、
前記第1及び第2の測定光を照射した前記被検査物からの第1及び第2の戻り光と、該第1及び第2の測定光にそれぞれ対応する第1及び第2の参照光と、をそれぞれ合成した前記第1及び第2の合成光を分光する分光素子と、
前記分光素子で分光された第1及び第2の光を検出するセンサと、を有し、
前記低減手段が、前記センサにおける前記第1及び第2の光の重なりを低減することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記検出手段が、前記第1及び第2の光をそれぞれ第1の領域と第2の領域に集光させる集光手段を有し、
前記低減手段が、前記第1の光のうち、前記第2の領域に照射され得る波長の光の光量を低減することを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
光を発生させる光源と、
前記光源からの光を参照光と測定光とに分割する分割手段と、
前記光源から発生した光に基づく前記第1及び第2の測定光を走査する走査手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記低減手段が、前記光源から前記分割手段までの光路、前記第1及び第2の合成光の光路、前記第1及び第2の参照光の光路、のうち少なくとも1つの光路に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記低減手段が、特定の波長の光の透過率または反射率を制限する特性を持つ光学フィルタであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記低減手段が、前記分光素子で分光された第1及び第2の光を遮蔽する遮蔽部材であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記分割手段が、前記参照光と前記測定光とを合成するように構成され、
前記光源から発生された光を複数に分割し、該分割された複数の光をそれぞれ参照光と測定光とに分割し、該複数の測定光を前記被検査物において走査するように構成されることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記光源を複数有し、
前記複数の光源から光を発生し、該発生された複数の光をそれぞれ参照光と測定光とに分割し、該複数の測定光を前記被検査物において走査するように構成されることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記参照光と前記測定光とを合成するための合成手段を備え、
前記光源から発生された光を前記測定光と前記参照光とに分割し、該分割された該測定光と該参照光とをそれぞれ複数の光に分割し、該複数の測定光を前記被検査物において走査するように構成されることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項11】
複数の光からなる測定光を被検査物の異なる位置に照射し、
前記被検査物によって反射あるいは散乱された前記複数の光からなる測定光による戻り光と、複数の光からなる参照光を合成し、
前記合成された干渉光をセンサにより検出し、
前記複数の干渉光を受光する前記センサにおいて、第1の干渉光と隣接する第2の干渉光とが互いに重なり得る部分の光量を低減し、
前記被検査物の光干渉断層画像を取得することを特徴とする撮像方法。
【請求項12】
請求項11に記載の撮像方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−5235(P2011−5235A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66729(P2010−66729)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】