説明

撮像装置

【課題】 異物が付着し難く、ローパスフィルタに傷が付きにくい光学部材を有する撮像装置を提供する。
【解決手段】 レンズ3から撮像素子5に至る光路20上に光学部材4を有する撮像装置1であって、光学部材4はレンズ3側から撥水性又は撥水撥油性を有する膜44、第一の反射防止膜43、赤外カットガラス41、ローパスフィルタ42及び第二の反射防止膜45又は赤外カット膜48をこの順に有する撮像装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性又は撥水撥油性を有する膜を有する光学部材を光路上に有する撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルスチルカメラ、画像入力装置(例えばファクシミリ、スキャナ)等、光学像を電気信号に変換する撮像装置が広く普及している。そして光電変換素子(CCD)等の撮像素子を有する電子撮像装置が繁用されるにつれ、これらを使用する際に撮像素子の受光面に至る光路上に塵埃等の異物が存在すると、画像に写り込みを生じてしまうという問題が顕在化してきている。
【0003】
例えば一眼レフ式で撮影レンズの交換が可能なデジタルスチルカメラの場合、撮影レンズを外したときに塵埃等がミラーボックス内に侵入しやすい。またミラーボックス内でミラーや撮影レンズの絞りを制御する機構が作動するため、ミラーボックス内部でゴミが発生することもある。ファクシミリ、スキャナ等の画像入力装置の場合、原稿が送られる際や原稿読取ユニットが移動する際に塵埃等の異物を生じ、これがCCDの受光面近傍や原稿載置用のプラテンガラス等に付着することがある。そこで一般的には、エアブロワ等を用いて撮像素子表面等に付着した異物を吹き飛ばしている。しかし吹き飛ばされた異物は撮像機器内部に留まる。
【0004】
特にデジタルスチルカメラには空間周波数特性を制御するための光学フィルタが撮像素子の近傍に配設されており、複屈折特性を有する水晶板が光学フィルタとして一般的に用いられている。しかし水晶は圧電効果を有しているため、振動等により帯電し易く、帯電した電荷が逃げにくいという性質を有する。そのためカメラ作動に伴って生じる振動や空気の流れ等により異物がカメラ中を浮遊すると、帯電した光学フィルタに付着することがある。このため、光学フィルタに空気を吹き付けたり、光学フィルタをワイパで拭くようにしたり、振動を加えたりすることによって、付着した異物を除去する必要が生じる。しかし、機械的に塵埃を除去する方法によると、高コスト化したり、装置の重量が増加したり、電池の消費が早くなったりするという問題がある。
【0005】
特開2006-163275号(特許文献1)は、水晶からなる光学ローパスフィルタ及び赤外カットフィルタから構成され、表面に異物付着防止膜が形成された光学部品を記載している(段落15)。この光学部品を撮像装置の光路に設けると、光は異物付着防止膜→赤外カットフィルタ→光学ローパスフィルタを通って撮像素子の受光面に入射するが、光学部品の表面には異物付着防止膜が形成されているので、画像に異物の写り込みは生じ難いと考えられるものの、なお画像には何らかの写り込みがある。本発明者らによる鋭意の結果、この主因は光学ローパスフィルタの傷にあることが分かった。鮮明な画像に対する要求はますます高まっており、画像に影響を与える因子を極力排除した撮像装置が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2006-163275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、異物が付着しにくい光学部材を有する撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、レンズから撮像素子に至る光路上に、反射防止膜と、赤外カットガラスと、ローパスフィルタとを有する光学部材を設けた撮像装置において、少なくとも反射防止膜のレンズ側の表面に撥水性又は撥水撥油性を有する膜を形成すると、光学部材に異物が付着し難くなることを発見し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち本発明の撮像装置は、レンズから撮像素子に至る光路上に光学部材を有し、前記光学部材は前記レンズ側から順に撥水性又は撥水撥油性を有する膜、反射防止膜、赤外カットガラス、及びローパスフィルタを有することを特徴とする。
【0010】
前記光学部材は前記ローパスフィルタの表面に別の反射防止膜を設けても良い。前記ローパスフィルタの前記撮像素子側の表面に赤外カット膜を設けても良い。
【0011】
前記光学部材はさらに前記撮像素子側の表面に撥水性又は撥水撥油性を有する膜を有するのが好ましい。
【0012】
前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜はフッ素を含有するのが好ましく、その厚さは0.4〜100 nmであるのが好ましい。前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜に接する前記反射防止膜の最表層は、二酸化ケイ素からなるのが好ましい。
【0013】
本発明の一実施例では、前記光学部材は、前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜と前記赤外カットガラスとの間に、導電性又は半導電性の金属酸化物からなる低表面抵抗膜を有する。本発明の他の実施例では、前記光学部材は、前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜と前記赤外カットガラスとの間に、導電性又は半導電性の金属酸化物からなる第一の低表面抵抗膜を有し、前記ローパスフィルタと前記撮像素子側の表面との間に、導電性又は半導電性の金属酸化物からなる第二の低表面抵抗膜を有する。いずれの場合も、低表面抵抗膜を有する側の面の表面抵抗は1×104〜1×1013Ω/□であるのが好ましい。
【0014】
前記金属酸化物は酸化アンチモン、インジウム酸化錫及びアンチモン酸化錫からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の撮像装置の光路に設けられる光学部材は、表面に撥水性又は撥水撥油性を有する膜が形成されているので、異物が付着し難い上、ローパスフィルタが撮像素子側になるように配置されているので、傷が付きにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の撮像装置の一例を概略的に示す。図1に示す撮像装置1は、カメラ本体2内の光路20上に、n個のレンズ(光の入射側から順に3a,3b・・・3nとする)からなるレンズ群3と、光透過性の光学部材4と、撮像素子5とをこの順に有する。レンズ群3側から入射した光は、光学部材4を通って撮像素子5に照射される。
【0017】
図2に示すように、光学部材4は貼りあわされた赤外カットガラス41及びローパスフィルタ42を有し、赤外カットガラス41の外面には第一の反射防止膜43及び撥水性又は撥水撥油性を有する膜(以下特段の断りがない限り、「撥水/撥油性膜」と表記する。)44がこの順に成膜されており、ローパスフィルタ42の外面には第二の反射防止膜45が成膜されている。赤外カットガラス43とローパスフィルタ44との間には、接着剤層46が形成されている。この光学部材4は、図1に示すように赤外カットガラス41がレンズ群3側となって、ローパスフィルタ42が撮像素子5側となるように設けられる。従って、光学部材4はレンズ群3側から順に、撥水/撥油性膜44、第一の反射防止膜43、赤外カットガラス41、接着剤層46、ローパスフィルタ42、及び第二の反射防止膜45を有する(図2)。
【0018】
赤外カットガラス41は通常のものでよく、例えば赤外線吸収ガラス(IRガラス)が好ましい。また酸化チタン層と二酸化ケイ素層とを交互に有する積層膜でもよい。赤外カットガラス41が積層膜の場合、ローパスフィルタ42上に直接成膜すればよいので、接着剤層46は不要である。
【0019】
ローパスフィルタ42は、ローパスフィルタとしての機能を有する所定の板厚の複屈折板であればよい。ローパスフィルタ42の好ましい材料として水晶、リチウムナイオベート等が挙げられる。ローパスフィルタ42は回折格子型光学的ローパスフィルタでも良い。
【0020】
第一及び第二の反射防止膜43,45は同じ材料からなる構成でも良いし、異なる材料からなる構成でも良い。第一及び第二の反射防止膜43,45を形成する材料は特に限定されない。反射防止膜材料の具体例として、酸化ケイ素、酸化チタン、フッ化マグネシウム、窒化ケイ素、酸化セリウム、酸化アルミニウム、五酸化タンタル及び酸化ジルコニウムが挙げられる。反射防止膜43,45は単層であっても良いし、多層であっても良い。ただし撥水/撥油性膜44に接する層は二酸化ケイ素からなるのが好ましい。つまり、第一の反射防止膜43が単層の場合は二酸化ケイ素層であるのが好ましく、多層の場合は少なくとも最表面が二酸化ケイ素層であるのが好ましい。二酸化ケイ素からなる層は、フッ素を含有する撥水/撥油性膜44と密着しやすい。図2に示す例の場合、第二の反射防止膜45は撥水/撥油性膜44に接しないので、このような要求はない。
【0021】
撥水/撥油性膜44の材質は無色で透明性が高いものである限り特に制限されず、一般的なものが使用できる。撥水/撥油性膜の材質として、例えばフッ素を含有する有機化合物及びフッ素を含有する有機−無機ハイブリッドポリマーが挙げられる。
【0022】
フッ素含有有機化合物として、フッ素樹脂及びフッ化ピッチ[例えばCFn(n:1.1〜1.6)]が挙げられる。フッ素樹脂の例としては、フッ素含有オレフィン系化合物の重合体、並びにフッ素含有オレフィン系化合物及びこれと共重合可能な単量体からなる共重合体が挙げられる。そのような(共)重合体の例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PFEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(PETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエ−テル共重合体(PFA)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(PECTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PEPE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)が挙げられる。フッ素樹脂として市販のフッ素含有組成物を重合させたものを使用してもよい。市販のフッ素含有組成物として例えばオプスター(ジェイエスアール株式会社製)、サイトップ(旭硝子株式会社製)が挙げられる。
【0023】
フッ素を含有する有機−無機ハイブリッドポリマーとして、フルオロカーボン基を有する有機珪素ポリマーが挙げられる。フルオロカーボン基を有する有機珪素ポリマーとして、フルオロカーボン基を有するフッ素含有シラン化合物を加水分解して得られるポリマーが挙げられる。フッ素含有シラン化合物としては下記式(1):
CF3(CF2)a(CH2)2SiRbXc ・・・(1)
(ただしRはアルキル基であり、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子であり、aは0〜7の整数であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜3の整数であって、b + c = 3である。)により表される化合物が挙げられる。式(1)により表される化合物の具体例として、CF3(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CH2)2SiCl3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5(CH2)2SiCl3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2SiCl3、CF3(CF2)7(CH2)3SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3Cl2等が挙げられる。有機ケイ素ポリマーの市販品の例としてはノベックEGC-1720(住友スリーエム株式会社製)やXC98-B2472(GE東芝シリコーン株式会社製)が挙げられる。
【0024】
撥水/撥油性膜44の厚さは0.4〜100 nmであるのが好ましく、10〜80 nmであるのがより好ましい。撥水/撥油性膜の厚さが0.4 nm未満であると、撥水/撥油性が不十分である。一方100 nm超とすると、透明性及び導電性が損なわれるうえに、反射防止膜の光学特性を変えてしまう。撥水/撥油性膜の屈折率は1.5以下であるのが好ましく、1.45以下であるのがより好ましい。撥水/撥油性膜は真空蒸着法によって成膜してもよいが、ゾル−ゲル法等の湿式法により成膜するのが好ましい。
【0025】
接着剤層46は、通常の接着剤からなる層でよい。接着剤層46を形成する接着剤の例として熱硬化性樹脂接着剤、紫外線硬化樹脂接着剤及び常温硬化型接着剤が挙げられるが、より好ましい接着剤は紫外線硬化樹脂接着剤である。なお後述するように光学部材4が紫外線カット効果を有する場合には、紫外線硬化樹脂接着剤からなる層は、紫外線カットフィルタ等を設ける前に硬化させておく必要がある。
【0026】
図3に示す例は、両側の最表面に第一及び第二の撥水/撥油性膜44,47が成膜されている以外、図1及び2に示す例と同じであるので、相違点のみ以下に説明する。第二の撥水/撥油性膜47の好ましい材質及び好ましい厚さは、上述の撥水/撥油性膜44と同じである。また第二の撥水/撥油性膜47は、第一の撥水/撥油性膜44と同じ材質及び厚さであっても異なる材質及び厚さであっても良い。図3に示す例の場合、第二の反射防止膜45は第二の撥水/撥油性膜47に接しているので、密着性の観点から、第二の反射防止膜45の最表面は二酸化ケイ素からなるのが好ましい。
【0027】
図4は、本発明の撮像装置に用いる光学部材4のさらに別の例を示す。光学部材4は、レンズ群3側から順に撥水/撥油性膜44、反射防止膜43、赤外カットガラス41、接着剤層46、ローパスフィルタ42、及び赤外カット膜48からなる層構成を有する以外、図1及び2に示す例と同じであるので、相違点のみ以下に説明する。
【0028】
赤外カット膜48は酸化チタン層と二酸化ケイ素層とを交互に有する積層膜が好ましい。このような積層膜とすることにより、可視光域においては反射防止膜としても機能する。赤外カット膜48上にも撥水/撥油性を形成しても良い(図示せず)。
【0029】
光学部材4は、紫外線カット効果を有してもよい。光学部材4が紫外線カット効果を有するようにするには、紫外線カットフィルタを設けてもよいし、撥水/撥油性膜44,47が紫外線カット材料を含有するようにしてもよい。光学部材4の透明性や光透過性を妨げない限り、紫外線カットフィルタには一般的なものを用いることができる。例えば通常のガラス組成にCeO2、FeO、TiO2等を添加した紫外線カットガラスでもよいし、Ti、Ce等を含有する紫外線吸収塗膜でもよいし、紫外線吸収材のスパッタリング膜又は真空蒸着膜でもよい。
【0030】
前記光学部材は、(a) 前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜と前記赤外カットガラスとの間、又は(b) 前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜と前記赤外カットガラスとの間と、前記ローパスフィルタと前記撮像素子側の表面との間に、導電性又は半導電性の金属酸化物からなる低表面抵抗膜を有するのが好ましい。導電性又は半導電性の金属酸化物は、透明性を有する導電性酸化物であれば特に限定されないが、酸化アンチモン(Sb2O5)、インジウム酸化錫(ITO)及びアンチモン酸化錫(ATO)からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0031】
低表面抵抗膜の膜厚は使用する金属酸化物の種類によって異なるが、1〜5000 nmが好ましく、10〜3000 nmがより好ましい。膜厚が1 nm未満であると、帯電防止機能を充分に発揮できず、膜厚が5000 nm超であると低表面抵抗膜の膜厚が不均一になるうえに、透明性が損なわれる。
【0032】
低表面抵抗膜の表面抵抗は1×10〜1×1013Ω/□であるのが好ましく、1×10〜1×1013Ω/□であるのがより好ましい。1×10Ω/□未満の表面抵抗を有する低表面抵抗膜は透明性が低い。また表面抵抗が1×1013Ω/□を超えると、実質的に帯電防止による防塵機能が働かない。
【0033】
低表面抵抗膜はゾル−ゲル法等の湿式法により形成するのが好ましい。ゾル−ゲル法によれば、真空プロセスを経ることなく大気中で成膜できるため、成膜コストが安い。ゾル−ゲル法による成膜は、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、バーコート法、ロールコート法等により行うことができる。勿論、低表面抵抗膜をスパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法や化学蒸着法により形成しても良い。
【0034】
光学部材の好ましい層構成は、(a) 撥水性又は撥水撥油性を有する膜、第一の反射防止膜、赤外カットガラス、ローパスフィルタ、及び任意の第二の反射防止膜、(b) 撥水性又は撥水撥油性を有する膜、第一の低表面抵抗膜、第一の反射防止膜、赤外カットガラス、ローパスフィルタ、第二の反射防止膜、及び任意の第二の低表面抵抗膜、(c) 撥水性又は撥水撥油性を有する膜、反射防止膜、赤外カットガラス、ローパスフィルタ、及び赤外カット膜、(d) 第一の撥水性又は撥水撥油性を有する膜、第一の低表面抵抗膜、第一の反射防止膜、赤外カットガラス、ローパスフィルタ、第二の反射防止膜、第二の低表面抵抗膜、及び第二の撥水性又は撥水撥油性を有する膜等が挙げられる。
【0035】
光学部材4は、振動機構の作用を受けるようになっているのが好ましい。振動機構は超音波、圧電素子等、通常用いられる手段によるものでよい。振動機構によって光学部材4に振動を与えることによって、光学部材4に付着する異物をより一層少なくすることができる。
【実施例】
【0036】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0037】
実施例1
(a) 反射防止膜及び赤外カット膜の形成
水晶からなるローパスフィルタとIRガラスからなる赤外カットガラスとを熱硬化性樹脂を用いて貼りあわせた基板(京セラキンセキ株式会社製、CD-5000)の赤外カットガラス側の面に、フッ化マグネシウム層(厚さ67 nm)と、二酸化ケイ素層(厚さ17 nm)とを真空蒸着によってこの順に積層することにより、反射防止膜を形成した。またローパスフィルタ側の面には、五酸化タンタル層と二酸化ケイ素層とを交互に8層ずつ真空蒸着することにより、赤外カット膜を形成した。
【0038】
(b) 撥水/撥油性膜の成膜
工程(a) で得られた反射防止膜上に、フッ素系撥水剤(キャノンオプトロン株式会社製、「OF-110」)を厚さ0.01μmになるように真空蒸着によって成膜した。
【0039】
実施例2
(a) 反射防止膜の形成
実施例1で用いたのと同じ基板の両面に、基板から順にTa2O5層(厚さ16 nm)、MgF2層(厚さ32 nm)、Ta2O5層(厚さ55 nm)、MgF2層(厚さ15 nm)、Ta2O5層(厚さ45 nm)、MgF2層(厚さ76 nm)及びSiO2層(厚さ17 nm)を真空蒸着によって形成した。
【0040】
(b) 撥水/撥油性膜の成膜
工程(a) で得られた両反射防止膜上に、フッ素系表面処理剤(住友スリーエム株式会社製、「ノベックIGC-1720」)をディップコートし、撥水/撥油性膜(厚さ0.03μm、屈折率1.34)を成膜した。
【0041】
(c) 工程(b) で得た光学部材を、赤外カットガラスがレンズ側でローパスフィルタが撮像素子側になるようにカメラ本体の光路に設置し、本発明の撮像装置を得た。
【0042】
実施例3
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン50 gを0.01 N塩酸で加水分解させたものにSb2O5ゾル[AMT130、日産化学工業(株)製]を50 g加え、さらにエタノールを10 g加えて、低表面抵抗コート液を調製した。水晶からなるローパスフィルタとIRガラスからなる赤外カットガラスとを熱硬化性樹脂を用いて貼りあわせた基板(京セラキンセキ株式会社製、CD-5000)を低表面抵抗コート液に浸漬し、基板の両面に低表面抵抗コート液を厚さ1μmに塗布し、140℃に1時間加熱し、低表面抵抗膜を形成した。
【0043】
赤外カットガラス側の低表面抵抗膜上に、フッ化マグネシウム層(厚さ67 nm)と、二酸化ケイ素層(厚さ17 nm)とを真空蒸着によってこの順に形成することにより、反射防止膜を形成した。この反射防止膜上にフッ素系撥水剤(キャノンオプトロン株式会社製、「OF-110」)を厚さ0.01μmになるように真空蒸着し、撥水/撥油性膜を成膜した。またローパスフィルタ側の低表面抵抗膜上に五酸化タンタル層と二酸化ケイ素層とを交互に8層ずつ真空蒸着することにより、赤外カット膜を形成した。
【0044】
実施例4
低表面抵抗コート液としてインジウム酸化錫(ITO)からなる透明導電性塗料を使用した以外実施例3と同様にして、光学部材を作製した。
【0045】
実施例5
水晶からなるローパスフィルタとIRガラスからなる赤外カットガラスとを熱硬化性樹脂を用いて貼りあわせた基板(京セラキンセキ株式会社製、CD-5000)の赤外カットガラス側の面に、フッ化マグネシウム層(厚さ67 nm)と、二酸化ケイ素層(厚さ17 nm)とを真空蒸着によってこの順に積層することにより、反射防止膜を形成した。この反射防止膜上にインジウム酸化錫(ITO)からなる低表面抵抗膜を真空蒸着により成膜した。この低表面抵抗膜上にフッ素系撥水剤(キャノンオプトロン株式会社製、「OF-110」)を厚さ0.01μmになるように真空蒸着した。またローパスフィルタ側の面に、五酸化タンタル層と二酸化ケイ素層とを交互に8層ずつ真空蒸着することにより、赤外カット膜を形成した。
【0046】
比較例1
実施例1で用いたのと同じ基板の両面にMgF2層(厚さ67 nm)を真空蒸着によって形成した。
【0047】
評価1
赤外カットガラス側表面のゴミの付着し難さを次のようにして調べた。粒径5〜75μmのけい砂と、粒径15μmのポリアクリル樹脂製粒子の混合物(擬似ゴミ)を実施例1〜5で得た光学部材並びに比較例1の光学部材の赤外カットガラス側の面に均一に振りかけた後、圧電素子を使用し、光軸方向に加速度45000Gで振動を与えた。各光学部材の表面を目視で比較したところ、実施例1〜5で得た光学部材の表面には擬似ゴミが残留していなかったが、比較例1には残留していた。
【0048】
評価2
実施例2の撮像装置と、ローパスフィルタと赤外カットガラスからなる光学部材をローパスフィルタがレンズ側で赤外カットガラスが撮像素子側になるように設置した撮像装置(比較例2)とを用意し、1万回ずつシャッターを切った。その後、レンズを外してそれぞれの光学部材を取り出し、メタノールを浸み込ませた綿棒でローパスフィルタ側の表面を30回擦った。その結果、実施例2の光学部材にはキズがつかなかったが、比較例2の光学部材のローパスフィルタには2本の線状のキズがついた。実施例2の光学部材は撥水/撥油性膜により異物が付着し難く、高い滑り性及び高い耐擦傷性を有するので、キズがつかなかったと考えられる。一方、比較例2の光学部材は撥水/撥油性膜を有さないので、シャッターを切る間に塵埃が比較的耐擦傷性が低い水晶からなるローパスフィルタに付着し、綿棒で擦ることでキズが生じたと推定される。
【0049】
評価3
実施例3で作製した光学部材の低表面抵抗膜が形成された面の表面抵抗は8×1012Ω/□であった。また実施例4及び5で作製した光学部材の低表面抵抗膜が形成された面の表面抵抗1×105Ω/□であった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の撮像装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の撮像装置に用いる光学部材の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の撮像装置に用いる光学部材の別の例を示す断面図である。
【図4】本発明の撮像装置に用いる光学部材のさらに別の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・撮像装置
2・・・カメラ本体
20・・・光路
3・・・レンズ群
3a,3b,3n・・・レンズ
4・・・光学部材
41・・・赤外カットガラス
42・・・ローパスフィルタ
43,45・・・第一及び第二の反射防止膜
44,47・・・撥水性又は撥水撥油性を有する膜(撥水/撥油性膜)
46・・・接着剤層
48・・・赤外カット膜
5・・・撮像素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズから撮像素子に至る光路上に光学部材を有する撮像装置であって、前記光学部材は前記レンズ側から順に撥水性又は撥水撥油性を有する膜、反射防止膜、赤外カットガラス、及びローパスフィルタを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像装置において、前記光学部材が前記ローパスフィルタの撮像素子側の表面に別の反射防止膜を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の撮像装置において、前記光学部材がさらに前記撮像素子側の表面に撥水性又は撥水撥油性を有する膜を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の撮像装置において、前記ローパスフィルタの前記撮像素子側の表面に赤外カット膜を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の撮像装置において、前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜がフッ素を含有することを特徴とする撮像装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の撮像装置において、前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜の厚さが0.4〜100 nmであることを特徴とする撮像装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の撮像装置において、前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜に接する前記反射防止膜の最表層が二酸化ケイ素からなることを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の撮像装置において、前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜と前記赤外カットガラスとの間に、導電性又は半導電性の金属酸化物からなる低表面抵抗膜が設けられていることを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
請求項8に記載の撮像装置において、前記光学部材のレンズ側の表面抵抗が1×104〜1×1013Ω/□であることを特徴とする撮像装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の撮像装置において、前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜と前記赤外カットガラスとの間に、導電性又は半導電性の金属酸化物からなる第一の低表面抵抗膜が設けられており、前記ローパスフィルタと前記撮像素子側の表面との間に、導電性又は半導電性の金属酸化物からなる第二の低表面抵抗膜が設けられていることを特徴とする撮像装置。
【請求項11】
請求項10に記載の撮像装置において、前記光学部材の両面が1×104〜1×1013Ω/□の表面抵抗を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の撮像装置において、前記金属酸化物が酸化アンチモン、インジウム酸化錫及びアンチモン酸化錫からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−54302(P2008−54302A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188769(P2007−188769)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】