説明

撮像装置

【課題】 光学面への入射角度が大きくなっても、又、イメージサークルの異なった撮像素子を用いた場合でも良好なる反射防止効果を有し、フレアやゴーストの発生が少ない撮像光学系を有する撮像装置を得ること。
【解決手段】 平均ピッチが可視光の波長よりも短い微細凹凸構造体を、光入出射面の少なくとも一方の面に形成した光学素子が開口絞りよりも物体側に配置される撮像光学系と該撮像光学系で形成される像を受光する撮像手段とを有する撮像装置であって、
前記微細凹凸構造体を形成した光学面の有効径をRA、光軸上に結像する光束が該光学面を通過するときの高さから定まる直径をR0、該撮像手段の大きさで制限される撮影画角を2ω(度)とするとき
3.5<RA/R0
60°<2ω
なる条件を満足すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズ面(光学部材)の表面(光入出射面)に反射防止機能を有する微細凹凸構造体を設け、反射防止を効果的に行ったビデオカメラ等の撮像装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス、プラスチックなどの透光性媒質(透光性部材)を用いたレンズにおいては、表面反射による透過光の損失を低減させるために光入出射面に反射防止膜を設けるなどの表面処理を施している。例えば可視光に対する反射防止膜としては、薄膜の誘電体膜を複数層重ねた多層膜が知られている。この多層膜は、透光性の基板表面に真空蒸着により金属酸化物等の薄膜を成膜して形成されている。
【0003】
近年、デジタルカメラ用レンズなどの光学系においては、高い光学性能を有し、かつ光学系全体が小型軽量であることが求められている。そしてこれに対応して口径の大きなレンズや曲率半径の小さな面を有するレンズが多く使用されるようになってきている。
【0004】
このようなレンズを光学系に用いるとレンズ周辺部では光線が大きな角度で入射する。このため誘電体薄膜を単層ないし多層積層した反射防止膜では入射角が広範囲となるため反射を十分抑制することができず、ゴーストやフレアなどの有害光が発生する原因となっている。
【0005】
そうした状況を鑑み、開口絞りに対して凹面を向けている光透過部材に、ゾルーゲル法を用いて形成された層を少なくとも1層以上含む反射防止膜を形成した光学系が知られている(特許文献1)。
【0006】
特許文献1では、広い入射角度範囲で低い反射率を実現し、ゴーストやフレアの発生を低減した光学系を開示している。
【0007】
またレンズに用いる反射防止構造として、可視光の波長よりも短い平均ピッチを持つ微細凹凸構造体が知られている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−316386号公報
【特許文献2】特開2005−157119号公報
【特許文献3】特開2006−10831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
CCD、CMOS等の撮像素子を用いて撮影を行うデジタルカメラでは、撮像素子として多くの場合、従来の撮影レンズとの互換性を考慮し、フイルムサイズより小さいAPS−Cサイズが用いられる。
【0010】
図2に示すように、フイルムサイズ8(フルサイズ)の大きさは縦×横:24mm×36mmである。また、APS−Cサイズ47の大きさは15mm×22.5mmであり、フルサイズの1/1.6である。
【0011】
APS−Cサイズ用カメラは、フルサイズ用のフィルムカメラで撮影した時のトリミング撮影と同じ効果となり、画角が狭くなる。このため、より望遠型の撮影レンズで撮ったのと同様に写る。
【0012】
同じ焦点距離の交換レンズをAPS−Cサイズ用カメラに装着して撮影した時の画角は、フィルムカメラに比べて換算焦点距離で1.6倍になる。このため、APS−Cサイズ用カメラにおいて望遠レンズでは、より望遠領域の撮影が可能となるメリットがある。しかしながらフィルムカメラの標準レンズ(f=50mm)付近や、広角レンズにおいては、APS−Cサイズ用カメラでは画角が狭められる。このため、APS−Cサイズ用カメラでは、より広角の撮影レンズが必要となってくる。
【0013】
従来のフルサイズ用の標準型のズームレンズでは広角端の焦点距離が28mm程度であったが、APS−Cサイズ用カメラには広角端の焦点距離が17mm程度のものが必要となってきている。そのためAPS−Cサイズ用カメラの広角レンズとしては、焦点距離14mmや焦点距離15mmと行った超広角の撮影レンズを使用することになってきている。
【0014】
これらの焦点距離はフィルムカメラでの両側対角画角が110度とかなり広くなっている。そのため、フィルムカメラでは、開口絞りより前方に行くほどレンズの外径(有効径)は大きくなってくる。特に前方のレンズは開口絞り付近に曲率中心を持つ開角の大きい球面形状となっている。
【0015】
図24は、一眼レフレックスカメラの交換レンズとしての広角レンズの一例のレンズ断面図である。図24に示すように、各像高への光束は最も物体側のレンズなどでは分離した領域を通過する状態となっている。
【0016】
図24において13〜19はレンズを示す。21は可変絞り、27はフレアーカット絞りである。
【0017】
図22は開口絞り21より物体側のある1つのレンズのレンズ面を通過する有効光束の範囲を示す説明図である。
【0018】
図22において、48はフルサイズのときの光束の有効範囲である。49はAPS−Cサイズのときの有効範囲である。APS−Cサイズのときの有効光束は図22にように、内側の四角49で囲まれた範囲となり、レンズ径のごく一部に相当している。APS−Cサイズを用いたときは、領域49以外の光束は不要光であり、ゴーストやフレアの原因となる。
【0019】
フルサイズの画角の光束の有効径を考慮して、図22の斜線で示す領域をカットするフレアカット用の異形遮光板50を光路中に配置したとしても、その開口部はAPS−Cサイズの領域49の必要光束の約2倍の面積となる。このため、フレアを十分カットすることが困難である。
【0020】
しかしながら、図24に示すような広角レンズにおいて、図22で示す領域49より外側の領域48ではレンズ面G1bの周辺部となる。このために、レンズ面の傾きが大きく、このレンズ面G1bには、例えば不要光が60°を超える角度で入射する割合も多い。
【0021】
誘電体薄膜を多層積層した反射防止膜では、各膜の屈折率および膜厚を制御し、表面・界面で発生する反射光を干渉させることで反射率の低減を図っている。そのため、光学系のレンズ面に適用したとき、特定の波長や特定の入射角では高性能な反射防止性能(反射防止機能)が得られる。
【0022】
しかしながら、それ以外の波長やそれ以外の入射角では反射防止性能が大きく低下する、すなわち波長帯域特性や入射角度特性が悪くなるという問題点があった。
【0023】
これに対して、微細凹凸構造より成る微細凹凸構造体をレンズ面に形成すると、比較的広い波長範囲で入射角度特性の良い反射防止特性を得ることが容易となる。
【0024】
しかしながら、広角の撮影レンズでは、軸外光のレンズ面への入射角度が大きくなる。従って広い波長域で良好なる反射防止機能(波長帯域特性)を得、また広い入射角範囲で良好なる反射防止機能(入射角度特性)を得るためには微細凹凸構造体のレンズ面への適用を適切に設定することが重要と成ってくる。
【0025】
広画角の撮影レンズにおいて、微細凹凸構造体のレンズ面への適用箇所が不適切であると、良好なる反射防止効果が得られず、フレアやゴーストが多く発生し、高画質の像を得るのが難しくなってくる。
【0026】
本発明は、イメージサークルの異なった撮像素子を用いたとき、軸外光束が光学面を通過するときの入射高の差が一定以上ある光学面に微細凹凸構造体を形成している。これにより光学面への入射角度が大きくなっても、又、イメージサークルの異なった撮像素子を用いた場合でも良好なる反射防止効果を有し、フレアやゴーストの発生が少ない撮像光学系を有する撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の撮像装置は、
平均ピッチが可視光の波長よりも短い微細凹凸構造体を、光入出射面の少なくとも一方の面に形成した光学素子が開口絞りよりも物体側に配置される撮像光学系と該撮像光学系で形成される像を受光する撮像手段とを有する撮像装置であって、
前記微細凹凸構造体を形成した光学面の有効径をRA、光軸上に結像する光束が該光学面を通過するときの高さから定まる直径をR0、該撮像手段の大きさで制限される撮影画角を2ω(度)とするとき
3.5<RA/R0
60°<2ω
なる条件を満足することを特徴としている。
【0028】
この他、本発明の撮像装置は、
平均ピッチが可視光の波長よりも短い微細凹凸構造体を、光入出射面の少なくとも一方の面に形成した光学素子が開口絞りよりも物体側に配置される撮像光学系と該撮像光学系で形成される像を受光する撮像手段とを有する撮像装置であって、
該撮像手段の有効範囲として第1の撮像範囲と、それよりも小さな第2の撮像範囲において、該第1の撮像範囲の最軸外像高に結像する光束のうち、該開口絞りの中心を通過する光線が該微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの高さから定まる有効径をR1、該第2の撮像範囲の最軸外像高に結像する光束のうち、該開口絞りの中心を通過する光線が該微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの高さから定まる有効径をR2、光軸上に結像する光束が該微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの直径をR0とするとき
【0029】
【数1】

【0030】
なる条件を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、光学面への入射角度が大きくなっても、又、イメージサークルの異なった撮像素子を用いた場合でも良好なる反射防止効果を有し、フレアやゴーストの発生が少ない撮像光学系を有する撮像装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施例である光学系の構成図
【図2】本発明の第1実施例の撮像範囲を示す模式図
【図3】本発明の第2実施例である光学系の構成図
【図4】本発明の第2実施例の異形フレアカット絞りの模式図
【図5】本発明の第3実施例である光学系の構成図
【図6】本発明の第3実施例の鏡筒のシフト構造を示す模式図
【図7】本発明の第3実施例の鏡筒を下方にシフトした状態を示す模式図
【図8】本発明の第3実施例の鏡筒を上方にシフトした状態を示す模式図
【図9】本発明の第3実施例の鏡筒のティルト構造を示す模式図
【図10】本発明の第3実施例の鏡筒を下方にティルトした状態を示す模式図
【図11】本発明の第3実施例の鏡筒を上方にティルトした状態を示す模式図
【図12】本発明の第3実施例の撮像範囲を示す模式図
【図13】本発明の第3実施例の下方シフト状態での撮像範囲を示す模式図
【図14】本発明の第3実施例の上方シフト状態での撮像範囲を示す模式図
【図15】本発明の第3実施例の下方ティルト状態での撮像範囲を示す模式図
【図16】本発明の第3実施例の上方ティルト状態での撮像範囲を示す模式図
【図17】本発明の模式図波長以下の微細な凹凸構造の断面方向の屈折率を表す模式図
【図18】本発明の模式図波長以下の微細な凹凸構造の断面方向の屈折率を表す模式図
【図19】波長以下の微細な凹凸構造の界面からのSEM写真
【図20】波長以下の微細な凹凸構造の断面方向からのSEM写真
【図21】波長以下の微細な凹凸構造を界面からのSEM写真
【図22】第1レンズにおける必要光束の範囲を示す模式図
【図23】波長以下の微細な凹凸構造の反射率分光特性のグラフ
【図24】従来例の光学系の構成図
【図25】従来例の光学系の構成図
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の撮像装置で用いる撮像光学系は開口絞りよりも物体側に光学素子を有している。このうち少なくとも1つの光学素子の光入射面の少なくとも一方には、平均ピッチが可視光の波長よりも短い微細凹凸構造体が形成されている。
【0034】
撮像装置は、撮像光学系で形成される像を受光する撮像手段とを有している。
【0035】
以下、図面を用いて本発明の各実施例を説明する。
【実施例1】
【0036】
図1は本発明の撮像装置で用いる撮像光学系の実施例1のレンズ断面図である。
【0037】
実施例1(以下の各実施例も同様である。)は撮像装置に用いられる撮影レンズ(撮像光学系)の光路を示している。図1のレンズ断面図において、左方が物体側(前方)で、右方が像側(後方)である。
【0038】
尚、実施例1(以下の各実施例も同様である。)の光学系をプロジェクター等の光学機器に用いても良い。このときは左方がスクリーン、右方が被投影画像となり、投射画像を表示するためのLCD等の表示素子が撮像装置における撮像素子に対応する。実施例1の光学系を以下「撮影レンズ」ともいう。
【0039】
実施例1の撮影レンズは焦点距離14mmで撮影画角(2ω=114°)の広角レンズである。
【0040】
図1において、LSは撮影レンズであり、第1レンズユニットL1乃至第4レンズユニットL4を有している。
【0041】
第1レンズユニットL1は負の屈折力で、第1レンズG1、第2レンズG2、第3レンズG3、第4レンズG4を有している。第2レンズユニットL2は第5レンズG5、第6レンズG6を有している。第3レンズユニットL3は第7レンズG7〜第9レンズを有している。第4レンズユニットL4は第10レンズG10〜第14レンズG14を有している。
【0042】
IPは像面であり、CCDセンサーやCMOSセンサー等の固体撮像素子(撮像手段)の撮像面が置かれる。9は可変絞りであり、第3レンズユニットL3と第4レンズユニットL4との間に配置されている。
【0043】
第1レンズG1の像側の光学面G1bには、可視光の波長(400nm〜700nm)よりも短いピッチの微細凹凸構造体12が形成されている。
【0044】
第1レンズG1の像側の光学面G1bを「微細凹凸面G1b」ともいう。10は軸上光束である。11はフルサイズの撮像手段を用いたときの最軸外光束である。
【0045】
可変絞り9から物体側に行くほど光束は広がっている。特に、微細凹凸構造体12が形成された光学面G1bにおいては、像高毎の光束が分離するようになっている。
【0046】
微細凹凸構造体を形成した光学面G1bの有効径をRAとする。光軸上に結像する光束が光学面G1bを通過するときの高さから定まる直径をR0とする。撮像手段の大きさで制限される撮影画角を2ω(度)とする。このとき、
3.5<RA/R0 ・・・(1)
60°<2ω ・・・(2)
なる条件を満足している。
【0047】
又、撮像手段の有効範囲として第1の撮像範囲と、それよりも小さな有効範囲を第2の撮像範囲とする。
【0048】
第1の撮像範囲の最軸外像高に結像する光束のうち、該開口絞りの中心を通過する光線が該微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの高さから定まる有効径をR1とする。
【0049】
第2の撮像範囲の最軸外像高に結像する光束のうち、該開口絞りの中心を通過する光線が該微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの高さから定まる有効径をR2とする。
【0050】
光軸上に結像する光束が微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの直径をR0とする。
【0051】
このとき、
【0052】
【数2】

【0053】
なる条件を満足している。
【0054】
ここで、第1の撮像範囲は短辺が24mm、長辺が36mmである。第2の撮影範囲は短辺を24×kmm、長辺を36×kmmとする。
【0055】
このとき
0.3<k<0.8 ・・・(4)
なる条件式を満足している。
【0056】
図2は実施例1の撮影レンズで撮影するときの有効画面の説明図である。
【0057】
図2において8は24mm×36mm(フルサイズ)の撮像範囲である。47はフルサイズよりも小さな15mm×22.5mm(APCサイズ)の撮像範囲である。実施例1の撮影レンズLSでは、この2つの撮像サイズを兼用する。
【0058】
図22は、図2に示す撮像サイズ8、47に結像する撮影光束が、第1レンズG1の微細凹凸面G1bを通過するときの説明図である。
【0059】
図22に示す微細凹凸面G1bにおいて、外側の48で示す範囲がフルサイズに相当する光束の通過範囲である。内側の49で示す範囲がAPS−Cサイズに相当する光束の通過範囲である。
【0060】
図22に示すように、撮影画面としてAPS−Cサイズでの撮影においては、範囲49よりも外側の領域の光線全てが不要光となる。この不要光は、フレアやゴーストの原因となる。本来なら範囲49の外側の光線を遮光するのが良い。
【0061】
しかし、撮影画面サイズの異なる撮影画面を対象とした撮影レンズでは、この不要光を遮光することが困難である。
【0062】
そこで本実施例では、微細凹凸面G1bの凹凸構造を適切に構成することにより、このときの不要光によるフレアや、ゴーストの発生を極限まで抑えている。
【0063】
図20、図21は微細凹凸面G1bに形成した微細凹凸構造体のSEM写真である。
【0064】
図20はこの構造の横からの断面のSEM写真である。図21は構造を面の上方から観察したSEM写真である。この微細凹凸構造体は花弁状に結晶が析出したもので、基板界面(レンズ面)付近がもっとも密で、界面(レンズ面)から離れるに従って疎になっている。
【0065】
この微細凹凸構造体は可視光に対して十分に微細であるため、等価な屈折率(有効屈折率)の薄膜として作用する。
【0066】
図17は、図20の微細凹凸構造体の断面の有効屈折率に関する模式図である。縦軸は微細凹凸構造体の厚さ方向(高さ方向)の位置を示し、横軸は屈折率を示している。
【0067】
縦軸で、0はレンズ面との界面を示す。Daは微細凹凸構造体の凹凸構造の厚さ(高さ)である。 光学面との界面付近(厚さ0、又はその付近)は媒質が密であるために、有効屈折率はNsと高くなっている。
【0068】
一方、界面から離れるに従って有効屈折率も低くなり、構造の上端では空気とほぼ同等の有効屈折率が1となっている。そのため本実施例の微細凹凸構造体の可視光に関しては、図23に示す分光反射率のグラフのように良好な反射防止構造となっている。
【実施例2】
【0069】
図3は本発明の撮像装置で用いる撮像光学系(撮影レンズ)の実施例2のレンズ断面図である。
【0070】
本実施例は、開口絞りより物体側に、開口形状が非円形のフレアカット絞りを有している。フレアカット絞りより物体側に微細凹凸構造体を形成した光学面が位置している。
【0071】
実施例2の撮影レンズは焦点距離14mmで撮影画角(2ω=114°)の広角レンズである。
【0072】
図3において、LSは撮影レンズであり、第1レンズユニットL1乃至第4レンズユニットL4を有している。
【0073】
第1レンズユニットL1は負の屈折力で、第1レンズG1、第2レンズG2、第3レンズG3、第4レンズG4を有している。第2レンズユニットL2は第5レンズG5〜第7レンズG7を有している。第3レンズユニットL3は第8レンズG8、第9レンズG9を有している。第4レンズユニットL4は第10レンズG10〜第14レンズG14を有している。
【0074】
IPは像面であり、CCDセンサーやCMOSセンサー等の固体撮像素子(撮像手段)の撮像面が置かれる。21は可変絞りであり、第3レンズユニットL3と第4レンズユニットL4との間に配置されている。
【0075】
27はフレアカット絞りであり、第3レンズG3と第4レンズG4との間に配置されている。
【0076】
第2レンズG2の像側の光学面G2bには、平均ピッチが可視光の波長(400nm〜700nm)よりも短い微細凹凸構造体29が形成されている。
【0077】
第2レンズG2の像側の光学面G2bを以下「微細凹凸面G2b」ともいう。
【0078】
22は中心像高に結像する光束(軸上光束)である。また、23から26にそれぞれ像高10mm、15mm、18mm,21.635mmに結像する光束である。
【0079】
絞り21から物体側に行くほど光束は広がっている。特に、微細凹凸構造体29が配置された光学面G2bにおいては、像高毎の光束が分離するようになっている。
【0080】
図4はフレアカット絞り27の開口形状を示す説明図である。
【0081】
図4において、28は撮像範囲に相当する像高に結像する光束が、フレアカット絞り27の面を通過する範囲(開口部)である。それ以外の光束は斜線の領域1で遮光している。そのため、それより像側の光学系への不要光の進入は遮断される。
【0082】
フレアカット絞り27より物体側の第1レンズG1から第3レンズG3に関しては不要部分への光束を防ぐ事が難しい。そこで、フレアカット絞り27より物体側の第2レンズG2の第2面G2bに、微細凹凸構造体29を形成することで、不要光によるフレアや、ゴーストの発生を極限まで抑えている。
【0083】
光学面G2bに形成される微細凹凸構造体の特性は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0084】
図5は本発明の撮像装置の撮像光学系(撮影レンズ)の実施例3のレンズ断面図である。
【0085】
本実施例の撮像装置は、シフト機能を有し、第1、第2の撮像範囲はいずれも矩形状である。短辺方向の片側シフト可動量をs1、長辺方向の片側シフト可動量をs2とする。第1の撮像範囲は短辺が(24+2×s1)mm、長辺が(36+2×s2)mm、第2の撮影範囲は短辺が24mm、長辺が36mmである。
【0086】
このとき
5<s1<20 ・・・(5)
5<s2<20 ・・・(6)
なる条件を満足している。
【0087】
実施例3の撮影レンズはシフト、ティルト機構を有し、焦点距離24mmで撮影画角(2ω=84°)の広角レンズである。
【0088】
図5において、LSは撮影レンズであり、第1レンズユニットL1乃至第4レンズユニットL4を有している。
【0089】
第1レンズユニットL1は負の屈折力で、第1レンズG1、第2レンズG2を有している。第2レンズユニットL2は第3レンズG3、第4レンズG4を有している。第3レンズユニットL3は第5レンズG5、第6レンズG6を有している。第4レンズユニットL4は第7レンズG7〜第11レンズG11を有している。
【0090】
IPは像面であり、CCDセンサーやCMOSセンサー等の固体撮像素子(撮像手段)の撮像面が置かれる。36は可変絞りであり、第3レンズユニットL3と第4レンズユニットL4との間に配置されている。
【0091】
第2レンズG2の物体側の光学面G2aには、平均ピッチが可視光の波長(400nm〜700nm)よりも短い微細凹凸構造体39が形成されている。
【0092】
第2レンズG2の物体側の光学面G2aを以下「微細凹凸面G2a」ともいう。37は軸上光束である。38は最軸外光束である。
【0093】
絞り36から物体側に行くほど光束は広がっている。特に、微細凹凸構造体39が形成された光学面G2aにおいては、像高毎の光束が分離するようになっている。
【0094】
図12は実施例3の撮影レンズで撮影するときの有効画面の説明図である。
【0095】
図12において45は24mm×36mm(フルサイズ)の撮像範囲である。撮像範囲45は撮像素子(の有効面)に相当する。
【0096】
46はフルサイズの撮像範囲の全周に、10mmの拡張した撮像範囲である。
【0097】
本実施例の撮影レンズは、拡張した撮像範囲46での結像性能を考慮して設計してある。すなわち、対角21.6mm+10mmの31.6mmのイメージサークルを持つ。よって、焦点距離24mmながら、フルサイズ換算で16mm相当の画角(2ω=105°)の広角レンズとなっている。
【0098】
この撮影レンズは、カメラ本体に対してレンズ光軸を平行移動(シフト)および、傾ける(ティルト)ことが可能な機構を有した、いわゆるシフト・ティルト機能を有している。
【0099】
図6は実施例3の撮影レンズのシフト機構を説明するための模式図である。図6において、40はレンズ鏡筒であり、可動側シフト機構41に固定されている。
【0100】
第1乃至第3レンズユニットL1、L2、L3がシフトレンズとなる。42は固定側シフト機構であり不図示のマウントを介してカメラ本体43と固定されている。カメラ本体43の内部には撮像素子45が配置されている。また、撮像素子45と光学的に共役な位置に配置されたピント板(不図示)に形成された物体像(ファインダー像)観察するためのファインダー系が配置されている。44はファインダー系の一部を構成する接眼部である。撮像面とピント板との相対的位置は一定である。
【0101】
図7は、図6においてシフトレンズL1、L2、L3を下方にシフトした状態の模式図である。
【0102】
可動側シフト機構41が固定側シフト機構42に対して下方にスライドする事で、撮影レンズがカメラ本体43に対して相対的に下方にシフトしている。
【0103】
シフト前、撮影レンズの光軸Laは、撮像素子45の中心と一致していた。シフトにより、撮影レンズの光軸Laは撮像素子45の下方に移動する。図13は撮影レンズの撮像範囲46に対して、撮像素子45の位置が上方にシフトしている。
【0104】
図8は、図6においてシフトレンズL1、L2、L3を上方にシフトした状態の模式図である。
【0105】
可動側シフト機構41が固定側シフト機構42に対して上方にスライドする事で、撮影レンズがカメラ本体43に対して相対的に上方にシフトしている。
【0106】
シフト前、撮影レンズの光軸Laは、撮像素子45の中心と一致していた。シフトより、撮影レンズの光軸Laは撮像素子45の上方に移動する。図14は、撮影レンズの撮像範囲46に対して、撮像素子45の位置が下方にシフトしている。
【0107】
撮像素子45上での移動量は撮影レンズのシフト量に一致する。実施例3の撮影レンズでは上下左右に10mmの拡張した撮像範囲を設けているので、撮影レンズは10mmのシフトが可能である。
【0108】
図9は実施例3の撮影レンズのティルト機構を説明するための模式図である。
【0109】
図9においてレンズ鏡筒40は、可動側ティルト機構47に固定されている。また、固定側ティルト機構48は不図示のマウントを介してカメラ本体43と固定されている。カメラ本体43の内部には撮像素子45が固定されており、また、撮像素子45と共役な位置に配置されたピント板(不図示)を観察するためのファインダー系が配置されている。
【0110】
44は、ファインダー系の一部を構成する接眼部である。撮像面とピント板との相対的位置は一定である。
【0111】
図10は、図9においてティルトレンズL1、L2、L3を下方にティルトした状態の模式図である。
【0112】
可動側ティルト機構47が固定側ティルト機構48に対して下方に回転する事で、撮影レンズがカメラ本体43に対して相対的に下方にティルトしている。
【0113】
ティルト前、撮影レンズの光軸Laは、撮像素子45の中心と一致していた。ティルトにより、撮影レンズの光軸Laは撮像素子45の下方に移動する。光軸Laの撮像素子45上での移動量は、ティルト機構の回転中心に位置によって変化する。
【0114】
通常は撮影レンズの像側主点位置付近とするが、それよりも物体側に中心をずらすと、より移動量が増加する。
【0115】
本実施例では像側主点位置より物体側にティルト機構の回転中心が配置されている。図15は撮影レンズの撮像範囲46に対して、撮像素子45の位置が大きく、上方にシフトしている。
【0116】
図11は、図9においてティルトレンズL1、L2、L3を上方にティルトした状態の模式図である。
【0117】
可動側ティルト機構47が固定側ティルト機構48に対して上方に回転する事で、撮影レンズがカメラ本体43に対して相対的に上方にティルトしている。
【0118】
ティルトにより、撮影レンズの光軸Laは撮像素子45の下方に移動する。下方へのティルトと同様に、本実施例では像側主点位置より物体側にティルト機構の回転中心が配置されている。
【0119】
図16は撮影レンズの撮像範囲46に対して、撮像素子45の位置が大きく、下方にシフトしている。
【0120】
このように、本実施例の撮影レンズでは、撮像素子45と比較して、大きな撮像範囲46を持っている。そのため、図12から図16までに示す撮像範囲46のうち、撮像素子45以外の領域に入射する光は不要光となり、フレアやゴーストの原因となる。
【0121】
シフト・ティルトの状態により撮像範囲46のうち、どこの領域を使うかは変化するため、不要光となる光束を遮光する事は困難である。
【0122】
そこで、本実施例では、撮影レンズの一部に微細凹凸構造体をレンズ面に形成し、不要光によるフレアや、ゴーストの発生を極限まで抑えている。
【0123】
光学面G2aに形成した微細凹凸構造体39は実施例1と同様である。
【0124】
それぞれの実施例に対して、条件式(1)の値を表1に示す。
【0125】
図25は図3の撮影レンズにおいて微細凹凸構造体29が形成されている光学面G2bを通過する光束の説明図である。RDは微細凹凸構造体を有する光学面G2bの有効径である。R0は中心像高の光束が光学面G2bを通過する領域の直径である。この値R0が大きいほど、光束がより分離しており、左辺が下限値より大きいとき、すなわち、より分離した光学面に使用することが効果的である。
【0126】
表2に実施例1と実施例3の、請求項2の条件式(3)の値を示す。
【0127】
この条件式は、図25に示すように、波長以下の微細凹凸構造を有する面での中心像高の光束の径R0に対する不要光の通過する領域(R2より外側でR1より内側)の割合を規定するものである。
【0128】
この式の左辺が下限値より大きいと、より多くの不要光を含む可能性があり、そのような光学面に波長以下の微細凹凸構造を使用することが好ましい。
【0129】
なお、実施例1から実施例3の波長以下の微細凹凸構造としては、図19のSEMで示すような凹凸構造を用いてもよい。図18は、その断面の有効屈折率を模式化した図である。上に凸の構造であるため、光学面との界面付近は媒質が密となっており、有効屈折率も高くなっている。一方、界面から離れるに従って凸形状は細くなるので、有効屈折率も低くなっている。そのため可視光に関しては、図20、図21の波長以下の微細凹凸構造と同等の良好な反射防止性能が得られる。
【0130】
次に本発明に係る撮像光学系の数値実施例1〜3を示す。
【0131】
又、前述した条件式(1)、(3)と数値実施例1〜3との関係を表1、表2に示す。
【0132】
数値実施例においてiは物体側からの光学面の順序を示す。ri(Ri)は物体側より順に第i番目のレンズ面の曲率半径、di(Di)は物体側より順に第i番目のレンズ厚及び空気間隔、ni(Ni)とνiは各々物体側より順に第i番目のレンズの材料のd線に対する屈折率、アッベ数である。又前述の各条件式と数値実施例の関係を表1に示す。
【0133】
非球面形状は光軸方向にX軸、光軸と垂直方向にH軸、光の進行方向を正とし、Rを近軸曲率半径、A、B、C、D、Eを各々非球面係数としたとき、
【0134】
【数3】

【0135】
なる式で表している。
【0136】
又非球面係数の値において、例えば「D−Z」「e−Z」の表示は「10−Z」を意味する。
【0137】
【数4】

【0138】
【数5】

【0139】
【数6】

【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
以上のように、本発明によればシフト・ティルト機構を有する撮影レンズにおいて、イメージサークルの違いから、フードやフレアカット絞りを用いることができない場合にも、不要光によるフレアやゴーストの発生を最小限に抑える事ができる。
【0143】
特にフィルムカメラとデジタルカメラ兼用や、デジタルカメラでもイメージサークルの異なるフォーマットに共通で使用可能な一眼レフレックスカメラ用の交換可能な撮影レンズなどにおいてゴーストの発生を効果的に抑制することができる。
【0144】
また、カメラマウントの光軸に対して、撮影レンズの光軸をシフトまたはティルトする機能を備えた、撮像装置においてのゴーストの発生を効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0145】
L1 第1レンズ群
L2 第2レンズ群
L3 第3レンズ群
L4 第4レンズ群
G1 第1レンズ
G2 第2レンズ
G3 第3レンズ
G4 第4レンズ
G5 第5レンズ
G6 第6レンズ
G7 第7レンズ
G8 第8レンズ
G9 第9レンズ
G10 第10レンズ
G11 第11レンズ
G12 第12レンズ
G13 第13レンズ
G14 第14レンズ
IP 結像面
9 可動絞り(開口絞り)
10 像面中心の像高の光束
11 像面端の像高の光束
12 波長以下の微細な凹凸構造を持った面
IP 結像面
21 可動絞り(開口絞り)
22 像面中心の像高の光束
23 像高10mmの光束
24 像高15mmの光束
25 像高18mmの光束
26 像高21mmの光束
27 フレアカット絞り
28 フレアカット絞り開口部
29 波長以下の微細な凹凸構造を持った面
IP 結像面
36 可動絞り(開口絞り)
37 像面中心の像高の光束
38 像面端の像高の光束
39 波長以下の微細な凹凸構造を持った面
40 レンズ鏡筒
41 シフト機構可動側
42 シフト機構固定側
43 カメラ本体
44 ファインダー
45 イメージセンサー
46 シフト・ティルトレンズの撮像可能範囲
47 APS−Cサイズの撮像範囲
48 第1レンズにおけるフルサイズの光束の通過範囲
49 第1レンズのおけるAPS−Cサイズの光束の通過範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均ピッチが可視光の波長よりも短い微細凹凸構造体を、光入出射面の少なくとも一方の面に形成した光学素子が開口絞りよりも物体側に配置される撮像光学系と該撮像光学系で形成される像を受光する撮像手段とを有する撮像装置であって、
前記微細凹凸構造体を形成した光学面の有効径をRA、光軸上に結像する光束が該光学面を通過するときの高さから定まる直径をR0、該撮像手段の大きさで制限される撮影画角を2ω(度)とするとき
3.5<RA/R0
60°<2ω
なる条件を満足することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
平均ピッチが可視光の波長よりも短い微細凹凸構造体を、光入出射面の少なくとも一方の面に形成した光学素子が開口絞りよりも物体側に配置される撮像光学系と該撮像光学系で形成される像を受光する撮像手段とを有する撮像装置であって、
該撮像手段の有効範囲として第1の撮像範囲と、それよりも小さな第2の撮像範囲において、該第1の撮像範囲の最軸外像高に結像する光束のうち、該開口絞りの中心を通過する光線が該微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの高さから定まる有効径をR1、該第2の撮像範囲の最軸外像高に結像する光束のうち、該開口絞りの中心を通過する光線が該微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの高さから定まる有効径をR2、光軸上に結像する光束が該微細凹凸構造体を形成した光学面を通過するときの直径をR0とするとき
【数1】


なる条件を満足することを特徴とする撮像装置。
【請求項3】
前記第1の撮像範囲は短辺が24mm、長辺が36mmであり、前記第2の撮影範囲は短辺を24×kmm、長辺を36×kmmとするとき
0.3<k<0.8
なる条件式を満足することを特徴とする請求項2の撮像装置。
【請求項4】
前記撮像装置は、シフト機能を有し、前記第1、第2の撮像範囲はいずれも矩形状であり、短辺方向の片側シフト可動量をs1、長辺方向の片側シフト可動量をs2とし、前記第1の撮像範囲は短辺が(24+2×s1)mm、長辺が(36+2×s2)mm、第2の撮影範囲は短辺が24mm、長辺が36mmであるとき
5<s1<20
5<s2<20
なる条件を満足することを特徴とする請求項2の撮像装置。
【請求項5】
平均ピッチが可視光の波長よりも短い微細凹凸構造体を、光入出射面の少なくとも一方の面に形成した光学素子が開口絞りよりも物体側に配置される撮像光学系と該撮像光学系で形成される像を受光する撮像手段とを有する撮像装置において、
前記開口絞りより物体側に、開口形状が非円形のフレアカット絞りを有し、該フレアカット絞りより物体側に前記微細凹凸構造体を形成した光学面が位置することを特徴とする撮像装置。
【請求項6】
前記撮像手段の大きさで制限される撮影画角を2ω(度)とするとき
60°<2ω
なる条件を満足することを特徴とする請求項5の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−97197(P2010−97197A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198414(P2009−198414)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】