説明

撮像装置

【課題】高い解像度を確保しつつ、コントラストおよび精鋭度の低下を防止することが可能な撮像装置を提供すること
【解決手段】撮像装置は、前記光学像と前記撮像素子の一方が他方に対して移動した後に撮像素子から画像信号を取得し、複数回の撮像によって取得した複数の画像信号を統合して各画像信号よりも高解像度の画像信号を生成し、撮像素子の開口部と画素ピッチのサイズはそれぞれ制限されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子を備えた顕微鏡(「デジタル顕微鏡」と呼ぶ場合もある)としての撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル顕微鏡は、病理診断などの分野に適用され、その解像力は、光学顕微鏡部の解像力と撮像素子の解像力の両方に依存する。特許文献1は、光学像と撮像素子の相対位置を変化させて複数回撮像し、高解像度の画像を出力し、取得画像の解像度を撮像素子の画素数よりも上げる方法(超解像技術)を開示している。その他の従来技術としては、非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−306492号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】オファー・ヘイダー(Ofer Hadar)、グレン・ディー・ボアマン(Glenn D. Boreman)著、「オーバーサンプリング・レクワイアメンツ・フォー・ピクセレーティッドイメージャー・システムズ(Oversampling requirements for pixelated-imager systems)」、オプティカル・エンジニアリング(Optical Engineering)、1999年第38号、p.782−785
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者は特許文献1の方法では、コントラストや鮮鋭度が低下して、微細構造が認識できなくなるおそれがあることを発見した。
【0006】
そこで、本発明は、高い解像度を確保しつつ、コントラストおよび精鋭度の低下を防止することが可能な撮像装置を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の撮像装置は、顕微鏡光学系によって形成された標本の光学像を光電変換する撮像素子と、前記光学像と前記撮像素子の一方が他方に対して移動した後に前記撮像素子から画像信号を取得し、複数回の撮像によって取得した複数の画像信号を統合して各画像信号よりも高解像度の画像信号を生成する画像処理手段と、を有し、次式を満足することを特徴とする。
【0008】
【数3】

【0009】
【数4】

【0010】
ここで、aは前記撮像素子の各画素の開口部の1辺の長さの最大値、Rは撮像素子のS/N比、Vはノイズの分散、Wは単位時間および面積当たりの光量、Tは露出時間、ηは量子効率、Mは前記顕微鏡光学系の結像光学系の結像倍率、λは前記顕微鏡光学系において前記標本を照明する照明光の波長、NAは前記顕微鏡光学系の対物レンズの開口数、σは前記顕微鏡光学系において前記標本を照明する照明光学系のコヒーレンスファクタを表し、pは画素ピッチの最大値、Nは1回の撮像における1方向の画素数に対する前記高解像度の画像信号の1方向の解像度の比を表す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い解像度を確保しつつ、コントラストおよび精鋭度の低下を防止することが可能な撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例の撮像装置のブロック図である。
【図2】図1に示す撮像装置の動作を説明するための図である。
【図3】図1に示す撮像装置の動作を説明するための図である。
【図4】空間周波数と、開口率が異なる撮像素子のMTFとの関係を示すグラフである。
【図5】超解像を行わない場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】数式6の効果を説明するための超解像を行った場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図7】数式10の効果を説明するための超解像を行った場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施例の撮像装置(デジタル顕微鏡)のブロック図である。
【0014】
撮像装置は、図1に示すように、顕微鏡本体110、パーソナルコンピュータ(PC)120、表示部(表示手段)122、入力部(入力手段)124、制御部130、画像処理部(画像処理手段)140、メモリ150を有する。
【0015】
顕微鏡本体110は、顕微鏡光学系によって標本(試料)の光学像を形成して観察可能にすると共に撮像素子115によってその撮像面に光学像を形成して撮像可能に構成されている。
【0016】
顕微鏡本体110は、駆動部111、照明光学系112、標本ステージ113、結像光学系114、撮像素子115、撮像素子ステージ118を有する。照明光学系112〜結像光学系114は顕微鏡光学系を構成し、照明光学系112〜撮像素子ステージ118は撮像部を構成する。
【0017】
駆動部111は、撮像素子115の撮像面における光学像と各画素の開口部の一方を他方に対して移動させる移動手段として機能すれば、その構成は限定されない。例えば、駆動部111は、撮像素子ステージ118に設けられて撮像素子115の、顕微鏡光学系の光軸に垂直な方向の位置を変化させるアクチュエータとして構成されてもよい。この場合、移動方向は、顕微鏡光学系の光軸に垂直な平面に設定された直交座標系におけるXY方向であってもよいし、当該平面において設定された基準軸からの回転角であってもよい。また、顕微鏡光学系の光軸に垂直な成分があれば移動方向は光軸に斜めの方向であってもよい。
【0018】
あるいは、結像光学系114に光路を変化させる光学素子(例えば、結像光学系114の瞳位置に設置されたプリズム)を設け、駆動部111は、当該光学素子を変化させるアクチュエータとして構成されてもよい。更に、駆動部111は、標本ステージ113に設けられて標本ステージ113の顕微鏡光学系の光軸に垂直な位置を変化させるアクチュエータとして構成されてもよい。
【0019】
駆動部111の駆動により、画素ピッチ以下の距離だけ位置が変化した画像を複数回撮像して取得画像の解像度を撮像素子の画素数よりも向上する超解像を実現することができる。
【0020】
不図示の光源から発せられた照明光は照明光学系112を介して標本ステージ113上の不図示の標本を照明し、標本からの透過光が結像光学系114によって撮像素子115の撮像面に光学像として結像される。なお、顕微鏡光学系は標本が上方から照明され、その反射光を結像する落射照明方式を使用してもよい。
【0021】
撮像素子115は顕微鏡光学系が形成した光学像を光電変換してアナログ電気信号に変換する。撮像素子115は、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などのイメージセンサ(エリアセンサ)を使用することができる。
【0022】
図1には、撮像素子115の2×2画素の構成を拡大した平面図が示されている。一般に、撮像素子115の各画素は、光路に沿って物体側から順に、不図示のマイクロレンズ、不図示のカラーフィルタ、遮光膜116、開口部117、開口部117の下に配置されて光電変換を行う不図示のフォトディテクタ(光電変換素子)を有する。開口部117は、遮光膜に設けられてフォトディテクタが受光することを可能にする。
【0023】
撮像素子115の画素面積において開口部117の面積が占める割合は開口率と呼ばれ、撮像素子115の飽和電荷容量と感度を向上するために通常は開口率は可能な最大値に設定されている。
【0024】
一方、撮像素子115のMTF(Modulation Transfer Function)は開口部の面積が大きくなると高周波領域で低下する。このため、画素ピッチpを一定として開口率を増大すると、画像の高周波成分が劣化して微細構造を識別するために必要なコントラストや精鋭度が低下する。なお、ここで、画素ピッチpを撮像素子115の各画素の中心点間の距離と定義し、1画素の面積は画素ピッチpの2乗であるとする。
【0025】
超解像を開口率が大きい状態で行うと、撮像素子115によって微細構造の情報が消失した状態で解像度が増えることになり、微細構造の再現性が低下する(微細構造の一部が認識できなくなる)。
【0026】
そこで、本実施例では、撮像素子115のMTFの遮断周波数(MTFが0になる最小の周波数)が顕微鏡光学系の遮断周波数以上となるように開口率を決定している。この条件は、顕微鏡光学系が伝達しうる標本の最小の構造を撮像素子が消失させないことを意味する。
【0027】
以下では、画素および開口部117の形状を正方形と仮定した上でこの条件を数式で表しているが、実用上は正方形に限定される必要はない。まず、撮像素子115の1次元のMTFは次式で表すことができる。
【0028】
【数5】

【0029】
MTFが0になる遮断周波数は1/aであり、a[μm]は画素の開口部117の1辺の長さを表す(正方形でなければ1辺の長さの最大値を表す)。また、顕微鏡光学系の遮断周波数はNA(1+σ)/Mλと表すことができる。ここで、NAは結像光学系114に含まれる対物レンズの開口数、σは照明光学系112のコヒーレンスファクタ、Mは結像光学系114の結像倍率、λ[μm]は照明光の波長を表す。
【0030】
微細な構造が光学系が形成する像では認識できるにも拘らず撮像素子を通すと認識できなくなることを防止するために、撮像素子115のMTFの遮断周波数が顕微鏡光学系の遮断周波数以上である条件は、次式で表すことができる。
【0031】
【数6】

【0032】
一方、撮像素子115の画素ピッチpまたは開口部117の長さaを縮小すると、飽和電荷容量と感度が低下するためにノイズが相対的に増大し、S/N比が低下する。飽和電荷容量は、撮像素子115のフォトディテクタの面積によって決定されるため、S/N比の低下を防止するにはフォトディテクタの面積を縮小せずに遮光膜116を広げ、顕微鏡の照明光の強度を上げることが考えられる。しかし、照明光の強度には上限があるため、開口部117の長さには下限値を設定する必要がある。
【0033】
例えば、撮像素子115の単位時間・単位面積当たりの光量の上限値をW[光子数/秒/μm]、電子数に換算した撮像素子115のノイズの分散をV[電子数]、S/N比の下限値をR[dB]、露出時間をT[秒]、量子効率をηと仮定する。
【0034】
なお、W、V、ηは撮像装置の部品の仕様として予め決定されており、R、Tは撮像装置の目標仕様に基づき設計時に決められる値である。これらを踏まえ、開口部115の長さaが満たすべき条件は以下で表すことができる。
【0035】
【数7】

【0036】
数式7を変形すると数式8が得られる。
【0037】
【数8】

【0038】
数式6と8から次式が得られる。
【0039】
【数9】

【0040】
超解像を行わない場合は、撮像素子115の画素ピッチを縮小することで解像度を上げることができるが、画素間の信号の漏れ出し(クロストーク)の増大が避けられず、また、撮像素子の作製技術(プロセスルール)の進歩を待たねばならない。これに対して、本実施例は画素ピッチを縮小しないため、クロストークを増大させることなく現在のプロセスルールを用いて作製できる撮像素子115によって解像度を上げることができる。
【0041】
また、超解像を行うとモアレ縞が抑制される。モアレ縞は、一般にナイキスト周波数と呼ばれる画素ピッチの逆数の1/2よりもMTFが0になる最小の周波数(遮断周波数)が小さければ発生しない。pを画素ピッチ、Mを結像倍率、λを照明光の波長、NAを対物レンズの開口数、σを照明光学系112のコヒーレンスファクタ、Nを1回の撮像における1方向の画素数に対する高解像度画像の1方向の解像度の比とすると、この条件は次式で表すことができる。なお、画素が正方形形状でなければpは画素ピッチの最大値となる。
【0042】
【数10】

【0043】
また、数式8のaをpに置き換え数式10と組み合わせると、次式が得られる。
【0044】
【数11】

【0045】
撮像素子115から出力されたアナログ電気信号は不図示のA/D変換部によってデジタル信号に変換されて画像処理部140に入力される。
【0046】
PC120は、予め設定されているプログラムに従って制御部130に駆動部111の駆動を制御するように命令したり、制御部130を介して撮像素子115の撮像タイミングを制御する制御手段である。表示部122はディスプレイなどからなり、入力部124はキーボードやポインティングデバイスなどから構成される。
【0047】
画像処理部140は光学像と撮像素子の一方が他方に対して移動されるたびに撮像部によって撮像された画像信号を取得し、複数の位置において複数回に撮像された画像信号を統合して各画像信号よりも高解像度の画像信号を生成する。また、画像処理部140は表示や保存に必要な様々な処理を行う。画像処理部140で生成された画像データはPC120に伝送され、表示部122に表示される。メモリ150は、画像処理部140が処理した画像を保存する。画像処理部140およびメモリ150はPC120の内部に設けられてもよいし、顕微鏡本体110の内部に設けられてもよい。
【0048】
動作において、PC120は、予め設定されているプログラムに従って制御部130に駆動部111の駆動を制御するように命令する。これにより、駆動部111は、撮像素子115の撮像面における光学像と各画素の開口部の位置を変化させる。解像度をN倍にする場合について説明する。
【0049】
図2は、N=4として4回撮像を行う例を説明するための平面図であり、ここでは、駆動部111は撮像素子ステージ118に設けられて2×2画素の領域からなる撮像素子115をXY方向に移動させている。図2において、直交座標軸であるXY方向が図示のごとく設定されており、X方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向である。実線の正方形の領域は1画素の領域である。
【0050】
図2(a)は、駆動部111が撮像素子ステージ118を駆動する前の状態を示しており、ハッチングされた領域は撮像素子115の2×2画素の領域を示している。4つの開口部117の下に設けられた不図示のフォトディテクタからの出力信号はA1、B1、C1、D1として区別されている。点線で示した領域は顕微鏡光学系が撮像素子115の撮像面に形成した光学像OIの領域である。図2(a)では、撮像素子115の領域と光学像OIとがぴったりと重なっており、両者は同じ広さの領域となっている。
【0051】
図2(b)は、駆動部111が撮像素子ステージ118をX方向に駆動した状態を示しており、光学像OIの位置は変化せず、撮像素子115の領域は光学像OIに対して+X方向に画素ピッチpの1/2(=p/2)だけずれている。4つの開口部117の下に設けられた不図示のフォトディテクタからの出力信号はA2、B2、C2、D2として区別されている。
【0052】
図2(c)は、駆動部111が撮像素子ステージ118をXY方向に駆動した状態を示しており、光学像OIの位置は変化せず、撮像素子115の領域は光学像OIに対して+X方向と+Y方向にそれぞれ画素ピッチpの1/2だけずれている。4つの開口部117の下に設けられた不図示のフォトディテクタからの出力信号はA3、B3、C3、D3として区別されている。
【0053】
図2(d)は、駆動部111が撮像素子ステージ118をY方向に駆動した状態を示しており、光学像OIの位置は変化せず、撮像素子115の領域は光学像OIに対して+Y方向に画素ピッチpの1/2だけずれている。4つの開口部117の下に設けられた不図示のフォトディテクタからの出力信号はA4、B4、C4、D4として区別されている。
【0054】
図2(e)は、画像処理部140が2×2画素から生成した4×4の解像度の画像を示している。A1〜D4は図2(a)〜図2(d)で得られた出力信号(複数の画像信号)である。このように撮像素子を用いてサブ画素ピッチで撮像素子と光学像の一方の位置を他方に対してシフトして複数回撮像した後に統合処理を行うことによって高解像度の画像を得ることができる。また、この時に、数式6に従うように小さくした開口部117を使用することによってコントラストや精鋭度の低下を防止することができる。
【0055】
撮像素子115が1つしかない場合には、上述したように、画素ピッチpの1/2だけ微動させて画像を4回撮像し、得られた4枚の画像を統合して解像度が4倍の画像を得ることができる。撮像素子115が間隔を置いて複数配置されている場合には、撮像素子間の空隙の領域の画像を取得するために画素ピッチの1/2だけ撮像素子115を微動させ画像を4回撮像する。こうして得られた全ての画像を統合することで、解像度が1回撮像の場合の4倍の画像を得ることができる。なお、撮像素子の微動と撮像の繰り返し回数は4回に限定されない。
【0056】
なお、図2と同様の効果は、駆動部111が結像光学系114に設けた光路を変更する光学素子を駆動する場合でも得ることができる。
【0057】
図3(a)は、4回撮像の場合に駆動部111を撮像素子ステージ118を回転する手段として構成した場合の例を示す図である。各撮像時の駆動部111による回転角は90度となっている。
【0058】
図3(b)は、4回撮像の場合に駆動部111を標本ステージ113をXY方向に駆動する手段として構成した場合の例を示す図である。各撮像時の駆動部111によるシフト量は画素ピッチの1/2となっている。
【0059】
図3(a)と図3(b)においても図2と同様に、コントラストや精鋭度の低下を防止した状態で高解像度の画像を得ることができる。
【0060】
撮像回数は4回に限定されない。例えば、図3(c)は駆動部111を図2と同様に構成した場合において9倍の解像度(N=9)を得るための9回撮像の例を示している。各撮像時の駆動部111によるシフト量は画素ピッチの1/3となっている。
【0061】
一般に、撮像回数がN回の場合の各撮像時の駆動部111によるシフト量は画素ピッチの1/√Nとなる。また、超解像のための動作を行うか否かや動作方法については、観察者が撮像の度に毎回選択してもよいし、あらかじめPC120に保存されている設定に従ってもよい。更に、画素や開口部が正方形形状ではない場合等、Nは画像の縦方向と横方向とで異なってもよい。
【実施例1】
【0062】
図2の例において、結像光学系114の結像倍率が6倍、対物レンズのNAが0.75、照明のコヒーレンスファクタが0.7、照明光の波長が400nmである場合に数式6の等号が成立するaの値は1.88[μm]である。なお、画素および受光部は正方形を仮定している。
【0063】
また、数式8において、Vを10[電子数]、Rを10[dB]、Wを200[光子数/秒/μm]、Tを0.1秒、ηを0.5としたときに等号が成立するaの値は1.78[μm]である。
【0064】
撮像素子115の画素ピッチpを3μmとし、開口部117の1辺の長さaが2.7μm(開口率81%)と1.88μm(開口率39%)の2通りを考える。
【0065】
図4は、画素ピッチpが3μmの場合の撮像素子115のMTFを示すグラフであり、横軸は空間周波数[本/mm]、縦軸が撮像素子115のMTFである。なお、このMTFは超解像とは無関係に、画素の開口部の1辺の長さaと空間周波数ξから数式5によって決定される。
【0066】
開口率を81%から39%にすることで1.0μm周期に対応する1000本/mmでのMTFは0.70から0.85に向上している。同様に、0.33μm周期に対応する3000本/mmでのMTFは開口率81%では0.06、開口率39%では0.30である。このことから、0.33μm周期の格子パターンは開口率81%ではほぼ消失してしまうのに対し、開口率39%では消失せず解像することが予測できる。
【0067】
次に、前記条件で1.0μm周期で0.5μm幅の5本バーチャートを用いたシミュレーション結果を示す。まず、光学像のコントラストを算出し、次に撮像素子115の出力を計算したうえでコントラストを算出する。
【0068】
ここで、撮像素子115の各画素の開口率は39%と81%の2種類、画素ピッチpの1/2だけずらした4回撮像(超解像)を行うか否かの2通りについて計算した。コントラストCの定義は、5本のうち中央の3本のバーの中心を結ぶ線分上の光学像の最大値Imaxと最小値Iminとを用いて次式で表される。
【0069】
【数12】

【0070】
図5は超解像を行わない場合のシミュレーション結果、図6は超解像を行った場合のシミュレーション結果をそれぞれ示しており、それぞれ横軸は5本バーチャートの位置を表し、縦軸は光強度を表している。
【0071】
図5および図6では、破線は光学像、点線は開口率81%、実線は開口率39%の場合の撮像素子の出力を示している。図5に比べ図6の方が、撮像素子115の出力が光学像に明確に近づいており、かつ開口率39%の方が開口率81%の場合よりも良好である。
【0072】
これらのデータに対し数式12のコントラストを計算した結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
超解像を行い、かつ開口率が数式6を満たすように縮小することで、光学像に近いコントラストが得られる。例えば4回撮像で開口率を81%から39%に下げることで、コントラストが25%向上していることが表1から分かる。
【0075】
現在一般的なデジタル顕微鏡の解像力は0.5μmに設定されていることが多いが、これは一般的な細胞内部の小器官の最小サイズが0.5μmであるためである。この0.5μmは空間周波数に換算すると1000本/mmであるが、図4に示すように1000本/mmでMTFが0.9を超えるためにはaの値が画素ピッチpの1/2未満(開口率25%未満)である必要がある。
【0076】
ここで、撮像素子115のフォトディテクタを現実的な値として画素の面積の50%とする。このとき、飽和電荷容量を維持しながら開口率を25%未満にするためには、開口部117のフォトディテクタに対する面積比は0.5未満でなければならない。
【実施例2】
【0077】
撮像素子の画素以外は実施例1と同じ条件とする。画素ピッチの1/2だけずらして画像を4回撮像する場合は数式10のN=2に相当し、その場合に数式10で等号が成立するpの値は1.88μmである。
【0078】
開口率を81%または39%とし、0.4μm周期で0.2μm幅の5本バーチャートを用いたシミュレーションを、pを下回る画素ピッチ1.5μmとpを上回る画素ピッチ3.0μmの2通りで行った。
【0079】
図7に示すシミュレーション結果は、破線が光学像、点線が画素ピッチ3.0μm、実線が画素ピッチ1.5μmの場合の撮像素子の出力を示しており、横軸は5本バーチャートの位置を表し、縦軸は光強度を表している。画素ピッチ3.0μmでは5本のバーを識別することは不可能であるのに対し、画素ピッチ1.5μmでは5本のバーを識別することができる。
【0080】
表2に対応するコントラスト値を示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2において、数式9と数式11を共に満足するコントラスト値は0.106、数式9を満足するが数式11は満足しないコントラスト値は0.035である。また、数式9を満足しないが数式11は満足するコントラスト値は0.075、数式9と数式11を共に満足しないコントラスト値は0.006である。
【0083】
数式10を満たさない、換言するとモアレ縞が発生する条件の画素ピッチ3.0μmを適用すると、5本バーチャートと異なる偽パターンが発生し識別できない結果になっている。一方、数式10を満たす画素ピッチ1.5μmを適用すると偽パターンは発生せず、5本バーチャートであることが識別できる。
【0084】
また、開口率を81%から39%に下げることでコントラストが42%向上しており、0.5μm幅のバーチャートを用いた実施例1よりも効果が増大していることが表2から分かる。このようにパターンの大きさが解像限界に近づくほど、開口率を下げる効果は増大する。
【実施例3】
【0085】
実施例3は、図1のPC120が顕微鏡本体110の結像倍率、対物レンズの開口数、照明のコヒーレンスファクタのうち決定されていないパラメータを自動的に決定し、制御部130を介して設定する。
【0086】
画素の開口部117のサイズが予め決定されている場合には、数式6を満たすようにパラメータを決定する。例えば、開口部117のサイズが1.88μm、結像倍率が6倍、対物レンズのNAが0.75、照明光の波長が400nmである場合に照明光学系112のコヒーレンスファクタσを決定する場合を考える。数式6にパラメータを代入すると、コヒーレンスファクタσは0.7以下となる。撮像時間の短縮のために照明光の強度を最大にしたい場合はσ=0.7が解となる。
【0087】
同様に、画素ピッチpが予め決定されている場合は数式10を満たすようにパラメータを決定する。例えば、画素ピッチpが4μm、結像倍率が6倍、対物レンズのNAが0.75、照明光の波長が400nmである場合にコヒーレンスファクタσを決定する場合を考える。数式10にパラメータを代入すると、照明のコヒーレンスファクタσは0.6以下となる。撮像時間の短縮のために照明光の強度を最大にしたい場合はσ=0.6が解となる。このように数式6または10以外の条件を加えるかパラメータの選択肢を限定しておくことによって、一意にパラメータを決定することができる。
【実施例4】
【0088】
制御部130は駆動部111の動作と同期して照明光が瞬間的に標本に放射されるように不図示の照明装置または照明光学系112の絞りの動作を制御する。これにより、駆動動作に起因する振動が十分に減衰した状態で撮像を行うことができ、コントラストや精鋭度の低下を防止することができる。
【実施例5】
【0089】
実施例5は、取得した画像を図1の表示部122に表示し、その後観察者が入力部124からより高解像度の画像取得を指示した場合には、再度駆動と撮像を繰り返し、より高解像度の画像を表示部122に表示する。装置の制約上取得できる解像度の限界に達するまでは、この動作は繰り返すことが可能である。この動作により、観察者にとって必要な解像度の画像が対話的に取得することができる。また、高解像度の画像の再取得を観察者が判断する代わりに、PC120が備える公知の自動判定アルゴリズムによって取得画像を解析し、予め指定された条件を満たさなければ再取得動作を自動的に開始することも可能である。
【0090】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は本実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の撮像装置のデジタル顕微鏡の用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
112 照明光学系
114 結像光学系
115 撮像素子
117 開口部
140 画像処理部(画像処理手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡光学系によって形成された標本の光学像を光電変換する撮像素子と、
前記光学像と前記撮像素子の一方が他方に対して移動した後に前記撮像素子から画像信号を取得し、複数回の撮像によって取得した複数の画像信号を統合して各画像信号よりも高解像度の画像信号を生成する画像処理手段と、
を有し、
次式を満足することを特徴とする撮像装置。
【数1】


【数2】


ここで、aは前記撮像素子の各画素の開口部の1辺の長さの最大値、Rは撮像素子のS/N比、Vはノイズの分散、Wは単位時間および面積当たりの光量、Tは露出時間、ηは量子効率、Mは前記顕微鏡光学系の結像光学系の結像倍率、λは前記顕微鏡光学系において前記標本を照明する照明光の波長、NAは前記顕微鏡光学系の対物レンズの開口数、σは前記顕微鏡光学系において前記標本を照明する照明光学系のコヒーレンスファクタを表し、pは画素ピッチの最大値、Nは1回の撮像における1方向の画素数に対する前記高解像度の画像信号の1方向の解像度の比を表す。
【請求項2】
前記コヒーレンスファクタ、前記開口数および前記結像倍率のいずれかを自動的に決定する制御手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記比が画像の縦方向と横方向とで異なることを特徴とする請求項1または2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記光学像と前記撮像素子の一方の移動と同期して照明光を瞬間的に前記標本に放射するように前記顕微鏡光学系を制御する制御手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記光学像と前記撮像素子の一方の移動と前記撮像素子による撮像の回数を変更する入力を受け付ける入力手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記撮像素子の各画素の開口部の1辺の長さの最大値が前記画素ピッチの1/2未満であることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記撮像素子は光電変換を行うフォトディテクタと、前記フォトディテクタが前記標本からの光を受光することを可能にする前記開口部を有する遮光膜と、を有し、前記フォトディテクタの面積に対する前記開口部の面積の比が0.5未満であることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−181406(P2012−181406A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44876(P2011−44876)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】