撮像装置
【課題】広視野かつ高解像の撮像装置において、視野全体にわたり良好な収差補正を行うことが可能な技術を提供する。
【解決手段】撮像装置が、撮像部と、試料の像を拡大して前記撮像部に導く結像光学系と、制御手段と、を備える。前記撮像部は、前記試料の像を複数の小区画に分けて撮像するための複数の撮像素子ユニットを有しており、前記複数の撮像素子ユニットのそれぞれは、撮像する小区画の像に含まれる収差を補正する収差補正手段と、前記収差補正手段により補正された像を撮像する撮像素子と、を有し、前記制御手段は、撮像する小区画の位置に応じて各撮像素子ユニットの収差補正手段の補正量を個別に制御する。
【解決手段】撮像装置が、撮像部と、試料の像を拡大して前記撮像部に導く結像光学系と、制御手段と、を備える。前記撮像部は、前記試料の像を複数の小区画に分けて撮像するための複数の撮像素子ユニットを有しており、前記複数の撮像素子ユニットのそれぞれは、撮像する小区画の像に含まれる収差を補正する収差補正手段と、前記収差補正手段により補正された像を撮像する撮像素子と、を有し、前記制御手段は、撮像する小区画の位置に応じて各撮像素子ユニットの収差補正手段の補正量を個別に制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本を撮像して広視野かつ高精細なデジタル画像を取得する撮像装置に関し、詳細には、撮像装置の収差を補正するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病理診断の分野において、人体の組織片等の顕微鏡像を撮像し、デジタル画像データによる蓄積、観察を可能にする撮像装置が注目を集めている。この種の撮像装置では、一般に、観察対象となる試料を透光性の保護部材(カバーグラス)で覆い固定したプレパラート(標本)が被写体として用いられる。このような被写体を撮像する場合、試料と結像光学系とのあいだにカバーグラスが介在するために、このカバーグラスに起因する各種収差の変動によって観察像が劣化する(コントラストの低下、ぼやけ)可能性がある。
そこで従来から、上記のような収差を補正するための方法が提案されている。例えば、特許文献1の撮像装置では、カバーグラスの厚さが基準値と異なることに起因する球面収差を、対物レンズの像側に挿入された可動レンズ群を光軸方向に移動させることで、補正している。また特許文献2では、カバーグラスの厚さと基準値との差を計測し、その計測値から収差の補正量を見積もる方法が提案されている。
最近では、病理診断に利用する画像をまとめて取得する目的で、大量の標本を連続的に撮像し画像化する処理が行われることが多い。このような長時間の連続撮像により、結像光学系に照明光による熱が蓄積され、収差が発生するという新たな問題が生じている。
なお光学系の収差補正の方法としては、例えば、特許文献3のようなアルバレツレンズとよばれる光学素子を用いる方法や、特許文献4のようなアダプティブオプティクスを用いる方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−264637号公報
【特許文献2】特開2007−101579号公報
【特許文献3】特開平10−242048号公報
【特許文献4】特開平11−101942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように収差補正の方法は各種提案されているが、これらの従来方法はいずれも結像光学系の視野全体を一律に補正するものであった。そのため、カバーグラスの表面形状(高さ)や厚さが視野内で均一でなかったり、撮像による熱変化が場所的に大きくばらついていたりすると、従来方法では収差を補正しきれない(視野内に過補正又は補正不足の領域が残る)おそれがある。従来は撮像装置の視野が狭く解像度も低かったため、このような補正不良はさほど問題とならなかったが、最近の広視野化および高精細化の要求にともない、この問題が無視できなくなってきている。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を鑑みてなされたものであり、広視野かつ高解像の撮像装置において、視野全体にわたり良好な収差補正を行うことが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、撮像部と、試料の像を拡大して前記撮像部に導く結像光学系と、制御手段と、を備え、前記撮像部は、前記試料の像を複数の小区画に分けて撮像するための複数の撮
像素子ユニットを有しており、前記複数の撮像素子ユニットのそれぞれは、撮像する小区画の像に含まれる収差を補正する収差補正手段と、前記収差補正手段により補正された像を撮像する撮像素子と、を有し、前記制御手段は、撮像する小区画の位置に応じて各撮像素子ユニットの収差補正手段の補正量を個別に制御する撮像装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、広視野かつ高解像の撮像装置において、視野全体にわたり良好な収差補正を行うことができ、高品質な画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】撮像装置の概略構成を示す図。
【図2】撮像素子と収差補正部の概略構成を示す図。
【図3】撮像領域を複数の小区画に分割して撮像する手順の例を示す図。
【図4】撮像装置による画像取得処理の流れを示すフローチャート。
【図5】実施例1の撮像素子と収差補正部の概略構成を示す図。
【図6】アルバレツレンズを用いた収差補正の例を示す図。
【図7】実施例3における撮像素子と収差補正部の概略構成を示す図。
【図8】補正光学系の例を示す図。
【図9】補正光学系の例を示す図。
【図10】補正光学系の例を示す図。
【図11】標本の表面形状の例を示す図。
【図12】標本の表面形状と光学系の焦平面の傾き補正の例を示す図。
【図13】撮像素子とアルバレツレンズの配置の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、標本を撮像してデジタル画像を取得する撮像装置において、組織片等の試料を保護する保護部材の厚さばらつき、試料や保護部材の表面形状(凹凸)、撮像時の熱変化等に起因する収差の補正を精度良くかつ自動で行う技術に関する。より詳しくは、本発明は、撮像部を複数の撮像素子で構成するとともに、撮像素子ごとに独立して補正量を制御可能な収差補正手段(補正光学系)を設けた点に一つの特徴を有している。これにより、保護部材厚さ、表面形状、温度等の視野内分布に応じて、撮像素子ごとに補正量を調整できるため、視野全体で良好な収差補正を実現することを可能にしている。したがって、本発明は、結像光学系の視野を複数の撮像素子で分割して撮像し、得られた複数の部分画像を合成することによって広視野かつ高解像の全体画像を生成するタイプの撮像装置に特に好ましく適用することができる。
【0010】
本発明は、撮像装置として具現化することもできるし、撮像装置と画像処理用のコンピュータ(さらには表示装置や画像記憶装置)を組み合わせた撮像システムとして具現化することもできる。このような撮像装置または撮像システムは、バーチャルスライド作成システムやデジタル顕微鏡などに好適に利用が可能であり、例えば病理診断等の用途に非常に有用である。
【0011】
(装置構成)
図1は、本発明の実施形態にかかる撮像装置の概略構成を示している。図1に示すように、本実施形態の撮像装置は、撮像前に標本のプレ計測を行う計測ユニット100と、プレ計測の結果を利用して標本の撮像を行いデジタル画像を取得する撮像ユニット300と、これらを制御する制御部400とから構成される。
【0012】
本実施形態で用いる標本(プレパラート)は、観察対象となる試料(生体の組織片など)をスライドグラス上に載置し、これを透光性の保護部材(カバーグラスなど)で覆って
固定したものである。試料を均一な厚さで作製することは難しいため、試料の表面(保護部材側の表面)や保護部材の表面には微小な凹凸が生じる。また、保護部材自体にも、数μmから十数μm程度の厚さのむらがある。
【0013】
図1において、計測ユニット100は、計測用照明部101、計測用ステージ102、計測用光学系104、計測部105からなる。計測用照明部101は、計測用ステージ102上に設置されているプレパラート(標本)103に光源からの光を導く照明光学系を有する。計測用ステージ102はプレパラート103を保持し、計測用光学系104に対するプレパラート103の位置を調整する支持手段である。
【0014】
計測用光学系104は、プレパラート103を透過した光を計測部105に導く光学系である。計測ユニット100ではプレパラート全体の計測を行うことが目的のため、計測用光学系104は低倍率のものでよい。計測部105は、計測用光学系104を介して受光した光に基づいて、プレパラート103上の試料(観察対象物)の大きさや、試料または保護部材の表面の形状や、保護部材の厚さを計測する手段である。計測部105で計測したデータは制御部400へ伝送され、後述する収差補正や焦点位置補正に利用される。
【0015】
計測部105には、計測目的に応じて各種のセンサを利用可能である。例えば試料の大きさを計測する目的であれば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの撮像素子で標本像の輝度や色を取得すればよい。試料もしくは保護部材の凹凸(表面形状)、あるいは保護部材の厚さを計測する目的であれば、反射光や干渉光を利用する各種のセンサを用いることができる。例えば特開平6−011341号公報に開示があるような三角測量法を応用した光学式距離測定方法や、特開2005−98833号公報に開示があるような共焦点光学系を用いてグラス境界面で反射するレーザー光の距離の差を測定する方法がある。レーザー干渉計などにより保護部材の厚さを計測することもできる。なお図1では、透過型の計測ユニットを例示したが、計測する物理量やセンサの種類に応じて、保護部材側から光を照射し反射光を計測する反射型の計測ユニットを用いたり、複数のユニットもしくはセンサを組み合わせて用いてもよい。
【0016】
図1において、撮像ユニット300は、撮像用照明部301、撮像用ステージ302、結像光学系304、撮像部305から構成される。
撮像用照明部301は、撮像用ステージ302上に設置されているプレパラート303に光源からの光を導く照明光学系を有する。撮像用照明部301は光源201と、照明光学系202で構成される。光源には、例えばハロゲンランプやキセノンランプ、LED(Light Emitting Diode)を用いることができる。
結像光学系304は、プレパラート303上の試料を広視野かつ高解像度で撮像するために、面Aで照明された試料の像を拡大し撮像部305の撮像面Bへと導く光学系である。
【0017】
撮像用ステージ302は、プレパラート303を保持し、撮像部305あるいは結像光学系304に対するプレパラート303の相対位置を調整する支持手段である。撮像用ステージ302は光軸(Z方向)に対して直交するX方向とY方向に独立して平行移動、または傾き駆動をおこなうことができる。図1に座標系を示すが、X軸は紙面に垂直な方向である。
計測用ステージ102から撮像用ステージ302へのプレパラートの移動は、不図示の搬送部により行われる。搬送部の機構としては、例えば計測用ステージ102自体が移動して撮像用ステージ302として機能する機構でもよいし、ハンド装置によりプレパラートを把持または吸着してステージ上に移動する機構でもよい。なお、複数のプレパラートの撮像を連続的に行う場合は、不図示のストッカに収容されているプレパラートが搬送部
によって1枚ずつ計測用ステージ102、撮像用ステージ302へと順に搬送される。なお、計測用ステージ102上と撮像用ステージ302上に異なるプレパラートが同時に設置され、計測ユニット100による計測処理と撮像ユニット300による撮像処理とが並列に行われてもよい。
【0018】
撮像用ステージ302の上、あるいは、ステージ302の内部の標本近くには、温度計測手段である温度センサ308が設置されている。この温度センサ308は、撮像時にプレパラート303の近傍の温度を計測するものである。温度センサ308は、標本内部(例えばカバーグラスとスライドグラスの間)に設置してもよいし、結像光学系304の内部や撮像用照明部301の内部などに設置してもよい。あるいは、温度の面内分布を得るために、複数のセンサをそれぞれ異なる位置に設置することもできる。温度センサ308で計測したデータは制御部400に伝送され、後述する収差補正に利用される。
【0019】
撮像部305は、結像光学系304を介して受光した光(試料の光学像)を光電変換し、画像データを生成、出力する手段である。得られた画像データは不図示の画像処理部に伝送され、現像、ガンマ補正、ノイズ除去、合成、圧縮等の画像処理が行われる。
【0020】
例えば、プレパラート上の10mm×10mmの撮像領域を光学倍率10倍で撮像することを考えた場合、撮像面Bでの撮像領域の大きさは100mm×100mm、すなわち直径141mm程度になる。これほどの面積を一括で撮像可能な大判の撮像素子は、画素欠陥等による歩留り低下の影響によりコスト高となる。そのため本実施形態では、撮像領域を複数の小区画に分割し、複数の撮像素子を用いて小区画単位で撮像を行い、得られた部分画像を合成(繋ぎ合わせ)することで、広視野かつ高精細の全体画像を生成する構成を採用する。
【0021】
図2(A)は、撮像部305の構成例を示している。撮像部305は、結像光学系304の視野304a内に二次元的に配置された19個の撮像素子306から構成されている。各撮像素子306は、例えばCCD、CMOSなどのイメージセンサからなる。ここで、撮像素子306が離散的に配置されているのは、撮像素子306の有効受光面306aの周囲に存在する回路基板306bが物理的に干渉し、受光面306aを隙間なく配列することができないためである。なお、図示の便宜のため、上2列の素子以外は、受光面306aのみを示している。各撮像素子306の受光面306aの大きさは撮像単位である小区画の大きさに対応しており、各撮像素子306はその受光面306aが結像光学系304の焦平面に一致するように配置される。撮像素子306の数及び配置は任意であるが、より少ない撮像回数で全ての小区画を撮像できるように決定するとよい。
【0022】
図3(A)、(B)を用いて、撮像部305による撮像手順の一例を説明する。図3(A)は、撮像面上での、結像光学系304の視野304aと撮像素子306の位置を示している。灰色の矩形が撮像素子306の受光面306a、すなわち、1回で撮像できる小区画(部分画像の領域)を示している。図3(A)の位置1,2,3,4はそれぞれ1回目、2回目、3回目、4回目の撮像における結像光学系304の視野の中心位置を示している。図3(B)は、撮像面上での撮像領域を示しており、1回目で撮像される小区画を1、2回目で撮像される小区画を2、3回目で撮像される小区画を3、4回目で撮像される小区画を4で示している。例えば、結像光学系304の中心位置を固定し、図3(A)の位置1,2,3,4の順に撮像用ステージ302の基準位置を順次移動させて撮像を4回繰り返すことで、図3(B)のように撮像領域を埋めつくす76枚の部分画像を取得することができる。
【0023】
また図1に示すように、本実施形態の撮像部305は、結像光学系304から撮像素子306に入射する光束310に対して収差補正を施すための収差補正部307を有してい
る。収差補正部307は撮像素子306ごとに個別に設けられており、各々の収差補正部307の補正量は独立に制御可能となっている(以下、対となる撮像素子306と収差補正部307を合わせて、撮像素子ユニットと呼ぶ。)。なお本実施形態では、全ての撮像素子ユニットを同一の電気基板上に配置したが、撮像素子ユニット毎に別の電気基板上に配置してもよい。
【0024】
図2(B)、(C)に、撮像素子306と収差補正部307の配置及び構成を模式的に示す。図2(B)、(C)は撮像部305を光軸と直交する方向から眺めた図である。
図2(B)は、収差補正部307が、補正光学系307aと補正光学系307aを駆動する駆動部307bとから構成された例である。撮像素子306は基板309上に固定されており、撮像素子306と結像光学系304の間の光路中に補正光学系307aが配置されている。駆動部307bは駆動用配線により基板309に電気的に接続されており、制御部400からの補正指令値に従って補正光学系307aの補正量を変化させる。補正光学系307aとしては、機械的な作用により光学特性を変化させる方式の光学系と、電気的な作用により光学特性を変化させる方式の光学系のいずれも用いることができる。前者の例としては圧電素子等により駆動されるアルバレツレンズがあり、後者の例としては液体レンズや液晶レンズなどのアダプティブオプティクスがある。
【0025】
図2(C)は、収差補正部307が、補正光学系307aに加え、撮像素子306の光軸方向の位置や傾きを調整するための姿勢調整部307cを有している例である。姿勢調整部307cの動作も制御部400からの補正指令値により制御される。姿勢調整部307cは、撮像素子306の姿勢のみを調整する構成でもよいが、図2(C)のごとく、補正光学系307aと撮像素子306を一体化し、両者の姿勢を一体的に調整する構成が好ましい。補正光学系307aと撮像素子306の相対位置を固定することで、補正光学系307aによる収差の補正と姿勢調整部307cによる収差の補正を独立に考えることができ、補正量の制御が容易になるからである。
【0026】
姿勢調整部307cは、フォーカスシフト(焦点ずれ)の補正や歪曲収差の補正に利用することができる。例えば、姿勢調整部307cにて撮像素子306を基準の撮像面Bから微小量だけ光軸方向に動かすことで試料表面の凹凸に起因するフォーカスシフトを補正し、補正光学系307aでは熱収差によるフォーカスシフトを補正してもよい。あるいは、姿勢調整部307cだけでフォーカスシフトを補正し、補正光学系307aでは別の収差を補正してもよい。さらには、姿勢調整部307cにより撮像素子306を光軸方向に対して傾けるとともに、補正光学系307aでも光束310の傾きを調整することで、両方で歪曲収差を補正してもよい。あるいは、姿勢調整部307cだけで歪曲収差を補正し、補正光学系307aでは別の収差を補正してもよい。
【0027】
制御部400は、計測ユニット100及び温度センサ308から得られた計測データに基づいて、プレパラート上の位置ごと(小区画ごと)の収差量を計算し、補正指令値を対応する撮像素子ユニットに対し送出する手段である。また、制御部400は、計測ユニット100、撮像ユニット300、搬送部、画像処理部など、撮像装置を構成する各ブロックを制御する機能も有する。制御部400の動作、並びに、収差補正及び焦点位置補正の具体例については、後述する。
【0028】
(撮像装置の動作)
次に、図4のフローチャートを参照して、撮像装置による画像取得処理の手順を説明する。
まず、制御部400が搬送部(不図示)を制御し、計測用ステージ102上にプレパラート103を設置する(S101)。なお、計測用ステージ102への設置については、自動でなく、オペレータ自身が行ってもよい。
【0029】
その後、計測用照明部101が計測用ステージ102上に設置されたプレパラート103を照明する。計測用光学系104からの光を計測部105で受光し、試料の形状や大きさ、試料又は保護部材の表面形状などを計測する(S102)。計測部105は計測データを制御部400に伝送する。また、温度センサ308が撮像ユニット300の温度を計測し、その計測データを制御部400に伝送する(S103)。
【0030】
次に、制御部400は、S102とS103で取得した計測データに基づいて、プレパラート上の撮像領域を決定するとともに、その撮像領域内の各小区画における収差量を計算し、その収差を補正するための補正量を決定する(S104)。なお、多数のプレパラートを連続撮像する場合(つまり図4のフローが繰り返し実行される場合)には、毎回温度計測を行うのではなく、予め用意した予測式やテーブルを用いて、温度あるいは収差量の変化を推定し、補正量を求めてもよい。
【0031】
ここで発生し得る収差としては、大きく分けて、プレパラート(試料、保護部材)に起因して生じる収差と、結像光学系304に起因して生じる収差とがある。前者の例は、保護部材の厚さが基準値(設計値)に比べて厚い又は薄いことに起因して生じる球面収差、試料又は保護部材の表面の凹凸あるいは保護部材の厚さむらに起因して生じる焦点位置ずれ(フォーカスシフト)や焦平面の傾きなどである。また照明光の熱や環境温度によるプレパラートの変形に起因する収差変動も前者の例に該当する。一方、後者の例としては、照明光の熱や環境温度による結像光学系304を構成する物質の屈折率変化や光学素子の変形によって生じる収差変動がある。収差変動は球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲などに現れる。上記の収差の中でも特に、焦点位置ずれ、球面収差、倍率誤差、歪曲収差が問題となるが、収差補正部307では、これらの収差のうち少なくとも1つを補正するとよい。
【0032】
プレパラートに起因する収差の場合、その収差量は、プレパラート上の位置によって変化し得る。そのため、S104では、制御部400は、図3(B)で示した小区画ごとに収差量ないし補正量を計算する必要がある。一方、結像光学系304に起因する収差の場合、その収差量は、結像光学系304の視野内の位置によって変わる。図3(A)、(B)のように撮像素子306と結像光学系304の視野304aの相対位置が固定されている場合には、撮像素子306ごとに収差量や補正量を計算すればよい。したがって、プレパラートに起因する収差と結像光学系304に起因する収差の両方を補正する場合、制御部400は、小区画の位置(プレパラート上の位置)と視野内の位置(撮像素子の位置)に基づいて収差の補正量を決定するとよい。
【0033】
例えば、制御部400は、プレ計測によって得られた表面形状(表面の凹凸)などの情報に基づいて、各小区画の焦平面の傾きを求め、この傾きを補正するための補正量を決定する。また、制御部400は、温度センサ308で計測された温度の情報に基づいて収差の変動量を求め、焦点位置補正、倍率補正、歪曲補正の量を決定する。このとき、制御部400は、光学系及び鏡筒の構造や物性の情報と計測された温度情報とから、収差あるいは収差の変動をシミュレーションによって計算し、補正量を計算するとよい。あるいは、温度変化と収差の補正量との関係を表す近似式やテーブルをあらかじめメモリ等に記憶させておき、制御部400が、計測された温度情報から補正量を求めることもできる。
【0034】
なお、本実施形態では、温度の計測結果を用いたが、他の方法により収差量を見積もる構成を採ることもできる。例えば、標本(プレパラート)を撮像する前に、テストチャートを撮像位置に設置して撮像を行い、得られたテストチャート画像を解析することにより、フォーカスシフト、倍率誤差、歪曲収差などを求めてもよい。テストチャートの撮像は、プレパラートを撮像する度に行ってもよいし、所定の間隔(例えば複数枚のプレパラー
トが撮像された後や、所定の時間が経過した後など)で行ってもよい。あるいは、多数のプレパラートを連続撮像する場合は、撮像開始からの経過時間と収差の補正量との関係を収差補正テーブルとしてあらかじめ記憶させておき、経過時間から補正量を決定することもできる。すなわち、温度などの計測結果から補正量を計算によって決定してもいいし、収差量を直接計測して補正量を得てもいいし、事前に得られている収差の情報に基づいて補正量を決定してもよい。温度の計測結果を収差の計算に用いない場合は、温度センサ308を省略することができる。
【0035】
制御部400が補正量を求めている時間を利用して、プレパラート103が搬送部(不図示)によって計測用ステージ102から撮像用ステージ302へと搬送される(S105)。処理時間の短縮のため、S104とS105の処理は並列に行われる。
【0036】
その後、制御部400は、決定した補正量に基づいて、各々の撮像素子ユニットに対し補正指令値(駆動信号)を送出し、収差補正部307の補正光学系307a及び/又は姿勢調整部307cを駆動する(S106)。このとき、制御部400は、撮像素子ユニットごとに、その撮像素子306で撮像する小区画に対応した補正量を選択する。
【0037】
そして、撮像用照明部301が撮像用ステージ302上に設置されたプレパラート303を照明し、撮像を行う(S107)。このとき、プレパラート303上の試料の像は、結像光学系304によって拡大され、収差補正部307によって適切な収差補正が行われた後に、撮像素子306の撮像面(受光面)上に結像する。各々の撮像素子306から出力された部分画像データは、撮像装置内部または外部の記憶装置に一時的に格納される。
【0038】
続いて、制御部400は、全ての小区画の撮像が完了したか否かを判定し(S108)、撮像していない小区画が残っている場合は、ステージ302と撮像部305のいずれか又は両方を移動させて、撮像素子306を次に撮像する小区画の位置に合わせる(S109)。撮像する小区画が変わると収差量も変わるため、制御部400は、変更後の小区画の位置に応じた補正量となるように収差補正部307を駆動した後(S106)、撮像を行う(S107)。
【0039】
S106〜S109の処理を繰り返すことで全ての小区画の部分画像データを取得した後、画像処理部がこれらの部分画像データを合成して、広視野且つ高精細の標本全体の画像データを生成する(S110)。このとき必要に応じて、ガンマ補正、ノイズ除去、圧縮等の画像処理も行われる。画像処理装置は、生成した画像データを撮像装置内部または外部の記憶装置に格納する(S111)。
【0040】
(本実施形態の利点)
本実施形態の撮像装置では、撮像部305を複数の撮像素子306で構成し、かつ、撮像素子306ごとに独立して制御可能な収差補正部307を設けている。これにより、撮像素子306ごとに個別に収差の補正量を調整することができるため、視野内で収差量にばらつきがある場合でも視野全体にわたり良好な収差補正を実現でき、高品質なデジタル画像を取得することができる。また、計測ユニット100の計測結果に基づいて収差の補正量を計算しているため、試料又は保護部材の表面形状(凹凸)や保護部材の厚さむらに起因する収差を好適に補正することができる。さらに温度センサ308の計測結果を利用することにより、環境温度や照明光の熱などに起因する結像光学系304の収差をも好適に補正することができる。
【0041】
<実施例1>
実施例1では、収差補正部307の補正光学系307aとしてアルバレツレンズを用いた例を説明する。アルバレツレンズとは、同一形状の非球面を有する一対の光学素子を、
非球面が対向するように近接させて配置した光学系である。一対の光学素子を光軸と直交する方向に相対的に移動させることにより、その光学特性を変化させることができる。
【0042】
図5(A)、(B)はそれぞれ1つの撮像素子ユニット(撮像素子306と収差補正部307の組)を示している。図5(A)の収差補正部307は、2つの光学素子O1、O2で構成されたアルバレツレンズからなる補正光学系307aと各光学素子を駆動する駆動部307bとからなる。また、図5(B)は、3つの光学素子O1、O2、O3で構成されたアルバレツレンズの例であり、これはO1とO2、O2とO3の二組のアルバレツレンズを組み合わせたものに相当する。このように2以上のアルバレツレンズを組み合わせることもできる。
【0043】
まず、図6(A)、(B)を用いて光学素子の横ずらしによって光学的なパワー(焦点距離)を発生させる例をもとに収差補正方法を説明する。図6(A)、(B)は、図5(A)のアルバレツレンズのXZ平面での断面を模式的に示している。
【0044】
図6(A)において、2つの光学素子O1とO2は互いに向かい合って配置されている。光学素子O1とO2の向き合っている面(内側の面)が同一形状の非球面となっている。光学素子O1とO2の外側の面は平面である。外側の面を平面にすると、横ずらししたときに外側の面からは収差が発生しないため、収差補正部の制御が簡単になるという利点がある。しかし、必ずしも外側の面を平面にする必要はない。
【0045】
図中Z軸は光軸である。光軸に直交する形でX,Y軸を取る。光学素子O1の非球面形状をf1(x,y)、光学素子O2の非球面形状をf2(x,y)とする。ずらす方向をx方向とすると、両者の非球面形状は定数項だけ異なる次の式で与えられる。x方向への素子の横ずらしによって光学的なパワー(焦点距離)を発生させるため、xは3次の項まで、yは2次の項までを用いる。
f1(x,y)=a(x3+3xy2)+c1
f2(x,y)=a(x3+3xy2)+c2 …(1)
ここで、aは非球面のうねりの大きさを表す係数であり、aが大きくなるほどうねりが大きく、aが小さくなるほど平面に近づく。
【0046】
アルバレツレンズは図6(A)のように中心の厚さdの2枚のレンズが間隔sを隔てて配置されている。図では、説明の便宜から、非球面のうねり及び間隔sを誇張して描いてあるが、実際のうねりa及び間隔sは非常に小さいものである。間隔sは小さいほうがよく、数μmから数100μm程度が望ましい。図6(B)は一方の素子のみをx方向へ横ずらしした状態を示している。
【0047】
図6(A)の初期状態においては光学素子O1の非球面形状f1(x,y)と光学素子O2の非球面形状f2(x,y)の凹凸が完全に一致するため、光学素子O1と光学素子O2より成る光学系は光学的パワーのない平行平面板と同じ働きをする。ここで図6(B)のように光学素子O2を距離Δだけx方向に動かすと、初期状態との光路長差は次のようになる。nはレンズの屈折率である。
光路長差=(n・d’+s’)−(n・d+s)
=(1−n)(f1(x+Δ,y)−f2(x,y)) …(2)
【0048】
ここでΔの2次以上の高次の項の影響は小さいとして無視すると次のようになる。
光路長差=(1−n)(3aΔ(x2+y2)+(c1−c2)) …(3)
したがって、横ずらし量Δによって(x2+y2)の項が発生し、このため光学素子O1とO2からなる光学系は光軸に対して回転対称なパワーを持つ。しかもそのパワーを横ずらし量Δによって自由に制御することが可能である。
【0049】
例として撮像素子306の1辺の大きさを20mmとすると補正光学系307aの視野の半径は10mmである。パワー成分として発生させる量を1mmとし、このときのずらし量Δを1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(3)より、a=6.7×10−3となる。
このような光学素子において、光学素子を1mm横ずらしすると(Δ=1)、パワー成分が1mm発生し、光学素子を2mm横ずらしすると(Δ=2)、パワー成分が2mm発生する。
この例では、一方の光学素子のみを動かしたが、両方の素子を逆方向にΔ/2ずつ動か
しても同様の結果が得られる。
【0050】
次に、図6(C)、(D)を参照して、複数のアルバレツレンズを組み合わせることにより、2種類の収差補正を独立に行う例を説明する。以下の例では、光学素子O1とO2を用いて焦点位置を補正し、光学素子O2とO3を用いて倍率変化を補正する。
【0051】
図6(C)のアルバレツレンズでは、中心の厚さdの3枚の光学素子O1〜O3が間隔sを隔てて配置されている。光学素子O1とO2の向き合っている面が同一形状の非球面となっており、その形状は図6(A)のものと同じである。すなわち、光学素子O1の光学素子O2側の非球面形状は、f1(x,y)であり、光学素子O2の光学素子O1側の非球面形状は、f2(x,y)である。また、光学素子O2とO3の向き合っている面も同一形状の非球面である。光学素子O2の光学素子O3側の非球面形状をf3(x,y)、光学素子O3の光学素子O2側の非球面形状をf4(x,y)とする。つまり、真ん中の光学素子O2は両面が非球面になっている。
【0052】
光学素子O1とO2の光学特性及び作用については、図6(A)、(B)で説明したものと同様である。一方、光学素子O2とO3の光学特性及び作用については、次のようになる。ずらす方向をx方向とすると、光学素子O2とO3の非球面形状は定数項だけ異なる次の式で与えられる。x方向への素子の横ずらしによって倍率変化を発生させるため、xは4次の項まで、yは3次の項までを用いる。簡単のため、定数項を省略する。
f3(x,y)=b(x4+4xy3)
f4(x,y)=b(x4+4xy3) …(4)
【0053】
ここで図6(D)のように光学素子O2を動かさず、光学素子O3を距離Δ’だけx方向に動かすと、初期状態との光路長差は次のようになる。nはレンズの屈折率である。ここで、Δ’の2次以上の高次の項の影響は小さいとして無視している。
光路長差=(1−n)(4bΔ’(x3+y3)) …(5)
したがって、横ずらし量Δ’によって(x3+y3)の項が発生し、このため光学素子O2とO3は倍率変化を生じる。しかもその量を横ずらし量Δ’によって自由に制御することが可能である。
【0054】
例として撮像素子の1辺の大きさを20mmとすると補正光学系の視野の半径は10mmとなる。倍率変化を発生させる量を1mmとし、このときのずらし量Δ’を1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(5)より、b=5.0×10−4となる。
【0055】
また、別の例として、光学素子O2とO3を用いて球面収差を補正する例を説明する。光学素子O2の非球面形状をf3(x,y)、光学素子O3の非球面形状をf4(x,y)とする。ずらす方向をx方向とすると、両者の非球面形状は定数項だけ異なる次の式で与えられる。x方向への素子の横ずらしによって球面収差を発生させるため、xは5次の項まで、yは4次の項までを用いる。簡単のため、定数項を省略する。
f3(x,y)=b(x5+5xy4)
f4(x,y)=b(x5+5xy4) …(6)
【0056】
ここで図6(D)のように光学素子O2を動かさず、光学素子O3を距離Δ’だけx方向に動かすと、初期状態との光路長差は次のようになる。nはレンズの屈折率である。ここでΔ’の2次以上の高次の項の影響は小さいとして無視している。
光路長差=(1−n)(5bΔ’(x4+y4)) …(7)
【0057】
したがって、横ずらし量Δ’によって(x4+y4)の項が発生し、このため光学素子O2とO3は球面収差を発生させる。しかもその量を横ずらし量Δ’によって自由に制御することが可能である。
例として球面収差を発生させる量を1mmとし、補正光学系の視野半径を10mm、このときのずらし量Δ’を1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(7)より、b=4.0×10−5となる。
【0058】
光学素子O1とO2の横ずらしの方向と光学素子O2とO3の横ずらしの方向を直交させてもよい。その例を、図6(E)〜(G)に示す。
光学素子O1とO2は前述したようにx方向への素子の横ずらしによって焦点位置、倍率誤差、または球面収差の補正が出来る。一方、光学素子O2とO3はy方向への素子の横ずらしによって歪曲変化を補正する。
【0059】
y方向への素子の横ずらしによって歪曲収差を補正するため、xは5次の項まで、yは6次の項までを用いる。定数項は省略する。
f3(x,y)=b(y6+6yx5)
f4(x,y)=b(y6+6yx5) …(8)
【0060】
ここで図6(G)のように光学素子O3を距離Δ’だけy方向に動かすと、初期状態との光路長差は次のようになる。nはレンズの屈折率である。ここでΔ’の2次以上の高次の項の影響は小さいとして無視している。
光路長差=(1−n)(6bΔ’(x5+y5)) …(9)
【0061】
したがって、横ずらし量Δ’によって(x5+y5)の項が発生し、このため光学素子O2とO3は歪曲収差を発生する。しかもその量を横ずらし量Δ’によって自由に制御することが可能である。
例として歪曲収差を発生させる量を1mmとし、補正光学系の視野の半径を10mm、このときのずらし量Δ’を1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(9)より、b=3.3×10−6となる。
【0062】
ずらして差分をとるという作業は微分そのものなので、非球面形状としてずらす方向には(n+1)次の項、ずらす方向と直交する方向にはn次の項を入れておき、微分の効果でn次の成分を出すようにするとn次の収差に対して補正することができる。これらの例ではx方向、y方向で対称な収差を補正するような非球面を与えたが、x方向、y方向で一方向のみの収差補正を行うこともできる。x方向、y方向で異なる収差の補正を行うこともできる。
【0063】
図13(A)、(B)に、撮像素子306と収差補正部307の配置の好ましい例を示す。図13(A)、(B)は、結像光学系304の側からみた撮像部305の平面図である。ここでは、収差補正部307として、光学素子O1とO2からなるアルバレツレンズを示しており、図の紙面奥から順に、撮像素子306、光学素子O1、光学素子O2が並んでいるものとする。図13(A)は初期状態(アルバレツレンズ駆動前の状態)を示している。それぞれの収差補正部307では、同一形状の非球面を有する一対の光学素子O
1とO2が中心を合わせて対向しており、収差の補正は行われない。図13(B)は光学素子O1、O2を相対的に横方向にずらすことによって収差を発生させた様子を示している。図13(B)のように、撮像素子ユニットを行ごとに互い違いに配置すると、同じ列にある撮像素子ユニット間の間隔を大きくでき、光学素子の列方向の移動距離を長くとれる。そして、移動距離、すなわち、光学素子O1とO2の相対的なずらし量を長くできると、収差補正量の制御がしやすく、また、非球面量を小さくできるので、意図した収差以外の収差が発生しにくいという利点がある。
【0064】
以上述べたような収差補正部307を備える撮像素子ユニットを結像光学系304の視野内に複数配置し、それぞれの収差補正部307を独立して制御することで、場所的に独立して収差補正を行うことができる。すなわち、撮像素子306ごとに設けられた収差補正部307を個別に制御することによって、複数の撮像素子306に入射する光に対して個別に収差補正をすることができる。
【0065】
<実施例2>
実施例2では、カバーグラスの厚さむらに起因する収差や焦点位置ずれを補正する例を説明する。
カバーグラスの厚さむらによって、結像位置が光軸方向に動いたり、光束(焦平面)が傾いたりするため、撮像素子306の撮像面が焦点深度内から外れてしまう場合がある。これを解決するために、図2(C)のように、カバーグラスの表面形状(凹凸)に合わせて撮像素子306を光軸方向に動かしたり、傾けたりするのと同様の補正を補正光学系で実現することもできる。
【0066】
アルバレツレンズと呼ばれる光学系により光学的なパワー(焦点距離)を変えることによって結像位置を光軸方向に動かすことができるのは実施例1で示した。同様に、次のようにして光束(焦平面)を傾けることもできる。
【0067】
図8(A)は、4枚の光学素子O1,O2,O3,O4から構成されたアルバレツレンズを示している。光学素子O1とO2が対となり、両素子の向き合っている面が同一形状の非球面となっており、外側の面は平面となっている。また光学素子O3とO4が対となり、両素子の向き合っている面が同一形状の非球面となっており、外側の面は平面となっている。外側の面を平面にすると、横ずらししたときに外側の面からは収差が発生しないため、補正光学系307aの制御が簡単になるという利点がある。しかし、必ずしも外側の面を平面にする必要はない。
【0068】
図中Z軸は光軸である。光軸に直交する形でX,Y軸を取る。光学素子O1の非球面形状をf1(x,y)、光学素子O2の非球面形状をf2(x,y)、光学素子O3の非球面形状をf3(x,y)、光学素子O4の非球面形状をf4(x,y)とする。光学素子O1またはO2のずらす方向をx方向とすると、両者の非球面形状は定数項だけ異なる次の式で与えられる。x方向への素子の横ずらしによってx方向の傾きを発生させるため、xは2次の項までを用いる。定数項は省略する。
f1(x,y)=ax2
f2(x,y)=ax2 …(10)
【0069】
光学素子O3またはO4はy方向への横ずらしによってy方向の傾きを出すため、yは2次の項までを用いる。定数項は省略すると、光学素子O3とO4の非球面形状は次の式で与えられる。
f3(x,y)=by2
f4(x,y)=by2 …(11)
なお、各光学素子の係数a、b、及び光学素子の間隔sは、実施例1と同様に小さいも
のである。
【0070】
素子の横ずらしのない初期状態においては光学素子O1と光学素子O2、また光学素子O3と光学素子O4より成る光学系は単なる平行平面板である。ここで図8(A)のように光学素子O2を動かさず、光学素子O1を距離Δだけx方向に動かし、また、図8(B)のように光学素子O3を動かさず、光学素子O4を距離Δ’だけy方向に動かす。すると初期状態との光路長差は、Δの2次以上の項を省略すると次のようになる。nは、レンズの屈折率である。
x方向の光路長差=(1−n)(2aΔx)
y方向の光路長差=(1−n)(2bΔ’y) …(12)
【0071】
したがって、x方向の横ずらし量Δとy方向の横ずらし量Δ’によって、x方向およびy方向の焦平面の傾きが独立して発生する。
例として補正光学系の視野の半径の大きさを10mmとすると、傾き1mradを発生させるためにはx方向の光路長差は最大10μmとなり、このときのずらし量Δを1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(12)より、a=10−3となる。
【0072】
あるいは図8(C)のようにして光学素子をx方向に動かすことによって、y方向の焦平面の傾きを制御することもできる。
図8(C)において、光学素子O1とO2の非球面形状は式(10)と同じであるが、光学素子O3とO4の非球面形状は次のようなものである。
f3(x,y)=2bxy
f4(x,y)=2bxy …(13)
【0073】
ここで図8(C)のように光学素子O1(またはO2)を距離Δだけx方向に動かし、光学素子O4(またはO3)を距離Δ’だけx方向に動かすと式(12)で示されるような焦平面の傾きが独立して発生する。式(13)で示される非球面形状をもつ光学素子は光学素子をy方向に動かすことによって、x方向の焦平面の傾きを制御することもできる。
【0074】
あるいは図8(D)のようにして1組の光学素子をx方向に動かすことによってx方向の焦平面の傾きの大きさを制御し、さらに光軸を中心に1組の光学素子を回転することによって傾きの方向を任意の方向に設定することもできる。
【0075】
これらの式(10),(11),(13)で示されたような2次の非球面形状をもつアルバレツレンズ1組または2組と、実施例1で示した式(1)で示されたような3次の非球面形状をもつアルバレツレンズ1組とを組み合わせる。そうすると、結像位置(焦点距離)を光軸方向に動かし、かつ、焦平面を傾けることが可能になる。
【0076】
ここで、標本の表面近傍に焦点位置を合わせる例を図11、図12を用いて説明する。
まず、計測ユニット100によりプレパラートに含まれる試料(観察対象物)の概略の形状、大きさや中心位置などを計測する。また、プレパラートの表面形状(表面の凹凸)を計測する。図11(A)は計測ユニット100により計測されたプレパラートの表面形状を濃淡画像で表現したものである。観察対象物の中心を原点にとり、横軸をX方向の位置、縦軸をY方向の像面上の大きさに換算した位置とし(単位はmm)、画素の濃淡でプレパラート上の各位置の像面上の大きさに換算した表面位置(高さ)を表している。この図では、白色が最も高く、黒色に近づくほど高さが低いことを示している。保護部材の厚さむらや試料自体の凹凸などに起因して、表面高さにばらつきが生じていることが分かる。
なお、このプレパラートの表面形状のXY方向の位置は、実際のプレパラート上の試料
の位置を光学系の倍率をかけて像面上の大きさに換算した。光学系の倍率は前述した10倍としてある。また、プレパラートの表面の凹凸の量も像面上の大きさに換算してあり、実際のプレパラート上の試料の凹凸の量に倍率を二乗した値をかけている。
【0077】
次に、制御部400は、図11(A)の計測データを用いて、各小区画での補正量を計算する。図11(B)は、計測データ上に、撮像単位である小区画を表す分割線を重ねて示したものである。小区画の大きさは撮像素子306の有効受光面306aの大きさによって決められる。1つの小区画が1つの撮像素子306で1回に撮像する領域である。ここでは、小区画の大きさは像面上で20mm×20mmであるとした。
【0078】
傾きをもつ試料表面にピントを合わせるには、試料表面の傾きをキャンセルするように光学系の焦平面を傾けることで、試料表面の像が撮像素子306の受光面に結像するようにすればよい。本実施例では、制御部400が、計測データから各小区画の表面の最小二乗平面を計算し、その最小二乗平面を撮像素子306の受光面と平行に変換するように、収差補正部307の補正量を決定する。
【0079】
図12(A)は、ある小区画の表面形状11と、その表面形状11に近似した最小二乗平面12を図示したものである。図12(A)は、図11(B)で示されたある一つの小区画の表面形状を鳥瞰図として示したものである。図11(B)の座標系の高さ方向をZとし、Z=0は結像光学系304の焦点位置とした。
【0080】
公知の最小二乗近似を利用して、表面形状11の最小二乗平面12を計算したところ、下記式で表される平面が得られた。
Z(x,y)=αx+βy+χ
α=0.013575、β=0.007186、χ=0.856061 …(14)
したがってX方向の傾きは13.6mrad、Y方向の傾きは7.2mrad、中心位置(x=10、y=−90)の高さはz=0.345mmである。
【0081】
図12(B)はアルバレツレンズによって表面の傾きを補正する様子を概念的に図示したものである。結像光学系304を通して得られる試料表面の光像13は、プレパラートの表面形状に応じた凹凸や傾きを有している。この光像13の最小二乗平面14の傾きをキャンセルするように光学素子O1〜O4を制御することで、試料表面の光像13が撮像素子306の受光面に概ね平行な像15に補正される。すなわち、本実施例の収差補正部307は、図2(C)のように撮像素子306を傾ける代わりに、光学素子O1〜O4によって光学系の焦平面を試料表面の最小二乗平面と平行になるようにするものである。
【0082】
ここで、光学素子O1とO2の非球面形状は式(10)で示されたようになっており、光学素子O3とO4の非球面形状は式(13)で示されたようになっている。
撮像素子306の大きさは1辺20mmなので補正光学系307aの視野半径は10mmである。非球面の係数a=b=10−3とし、レンズの屈折率を1.5とすると式(14)で示される平面に一致するためには、ずらし量Δ=13.6mm、Δ’=7.2mmだけ各光学素子を駆動すればよい。このとき、レーザー干渉計を用いてずらし量を計測すれば、補正光学系307aの相対位置精度を保証することができる。
【0083】
そして、光軸方向には撮像素子306の中心位置を0.345mm動かす。あるいは、非球面形状が式(1)で示される光学素子をもう一組増やして、補正光学系307aにより光軸方向の結像位置の移動を実現してもよい。その場合、補正光学系307aの視野半径を10mm、レンズの屈折率を1.5、a=6.7×10−3とすると、式(3)式よりずらし量Δは0.345mmとなる。
【0084】
他の例として、図9(A)のように、一対の光学素子O1,O2の対向する面を一次関数で表せるような傾きをもったものにしてもよい。光軸を中心に一方の光学素子を回転することによって、傾きを任意の方向に設定することもできる。図9(A)のように光学素子O1,O2の対向する面の形状が一致しているときは傾きをもたないが、図9(B)のように光軸を中心に一方の光学素子O2を回転すると焦平面に傾きが生じ、回転の方向に応じて傾きの方向が変化する。このような光学系はウエッジプリズムとして知られている。
また、図9(C)のように光学素子O1,O2をずらして配置すると、素子間の間隔が変化するため、球面収差が変化し、焦平面位置を光軸方向に変化させることができる。ただし、傾きの大きさを制御することはできない。
また、他の例として、図10(A)のような可変頂角プリズムPも知られている。この光学素子は平面を持ち、平面に対して垂直な軸を図10(B)や図10(C)のように光軸に対して傾けることによって焦平面の傾きを任意の大きさと方向に設定することができる。
【0085】
<実施例3>
実施例3では、収差補正部307としてアダプティブオプティクスを用いた例を説明する。図7は1つの撮像素子ユニットを示している。
【0086】
収差補正部307は、液体レンズからなる補正光学系307aを有している。駆動部307bから補正光学系307aに印加する電圧を制御することで、液体レンズの屈折率又は形状を変化させることができる。前述した実施例と同様、計測ユニット100又は温度センサ308から得られた計測データに従って小区画ごとの収差量を求め、これをキャンセルするように補正光学系307aの光学特性を制御することで、収差補正が可能となる。
【0087】
アダプティブオプティクスとしては、液体レンズの他に、液晶レンズを用いることもできる。あるいは、液体レンズの内部に液体と屈折率の異なる微細粒子を充填し、微細粒子の密度を変えることによって屈折率調整をする光学素子を用いることもできる。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、図1では、計測ユニット100と温度センサ308の両方を設けたが、補正する収差の種類に応じて、いずれか一方だけを設ける構成でもよい。また、上記実施形態では、補正の対象として、焦点位置のずれ、焦平面の傾き、球面収差、倍率誤差(倍率色収差)、歪曲収差などを例示したが、これら以外の収差を補正してもよい。また、収差補正部307としては、複数の補正光学系を組み合わせたり、異なる種類の補正光学系(例えば、アルバレツレンズとアダプティブオプティクス)を組み合わせることもできる。また、各撮像素子306の撮像面の平坦度が悪い(撮像面が反っている)と各撮像素子306で取得した画像が歪んでしまう場合があるが、各収差補正部307でこの歪みも(収差と併せて)補正してもよい。
【符号の説明】
【0089】
304:結像光学系、305:撮像部、306:撮像素子、307:収差補正部、400:制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本を撮像して広視野かつ高精細なデジタル画像を取得する撮像装置に関し、詳細には、撮像装置の収差を補正するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病理診断の分野において、人体の組織片等の顕微鏡像を撮像し、デジタル画像データによる蓄積、観察を可能にする撮像装置が注目を集めている。この種の撮像装置では、一般に、観察対象となる試料を透光性の保護部材(カバーグラス)で覆い固定したプレパラート(標本)が被写体として用いられる。このような被写体を撮像する場合、試料と結像光学系とのあいだにカバーグラスが介在するために、このカバーグラスに起因する各種収差の変動によって観察像が劣化する(コントラストの低下、ぼやけ)可能性がある。
そこで従来から、上記のような収差を補正するための方法が提案されている。例えば、特許文献1の撮像装置では、カバーグラスの厚さが基準値と異なることに起因する球面収差を、対物レンズの像側に挿入された可動レンズ群を光軸方向に移動させることで、補正している。また特許文献2では、カバーグラスの厚さと基準値との差を計測し、その計測値から収差の補正量を見積もる方法が提案されている。
最近では、病理診断に利用する画像をまとめて取得する目的で、大量の標本を連続的に撮像し画像化する処理が行われることが多い。このような長時間の連続撮像により、結像光学系に照明光による熱が蓄積され、収差が発生するという新たな問題が生じている。
なお光学系の収差補正の方法としては、例えば、特許文献3のようなアルバレツレンズとよばれる光学素子を用いる方法や、特許文献4のようなアダプティブオプティクスを用いる方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−264637号公報
【特許文献2】特開2007−101579号公報
【特許文献3】特開平10−242048号公報
【特許文献4】特開平11−101942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように収差補正の方法は各種提案されているが、これらの従来方法はいずれも結像光学系の視野全体を一律に補正するものであった。そのため、カバーグラスの表面形状(高さ)や厚さが視野内で均一でなかったり、撮像による熱変化が場所的に大きくばらついていたりすると、従来方法では収差を補正しきれない(視野内に過補正又は補正不足の領域が残る)おそれがある。従来は撮像装置の視野が狭く解像度も低かったため、このような補正不良はさほど問題とならなかったが、最近の広視野化および高精細化の要求にともない、この問題が無視できなくなってきている。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を鑑みてなされたものであり、広視野かつ高解像の撮像装置において、視野全体にわたり良好な収差補正を行うことが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、撮像部と、試料の像を拡大して前記撮像部に導く結像光学系と、制御手段と、を備え、前記撮像部は、前記試料の像を複数の小区画に分けて撮像するための複数の撮
像素子ユニットを有しており、前記複数の撮像素子ユニットのそれぞれは、撮像する小区画の像に含まれる収差を補正する収差補正手段と、前記収差補正手段により補正された像を撮像する撮像素子と、を有し、前記制御手段は、撮像する小区画の位置に応じて各撮像素子ユニットの収差補正手段の補正量を個別に制御する撮像装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、広視野かつ高解像の撮像装置において、視野全体にわたり良好な収差補正を行うことができ、高品質な画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】撮像装置の概略構成を示す図。
【図2】撮像素子と収差補正部の概略構成を示す図。
【図3】撮像領域を複数の小区画に分割して撮像する手順の例を示す図。
【図4】撮像装置による画像取得処理の流れを示すフローチャート。
【図5】実施例1の撮像素子と収差補正部の概略構成を示す図。
【図6】アルバレツレンズを用いた収差補正の例を示す図。
【図7】実施例3における撮像素子と収差補正部の概略構成を示す図。
【図8】補正光学系の例を示す図。
【図9】補正光学系の例を示す図。
【図10】補正光学系の例を示す図。
【図11】標本の表面形状の例を示す図。
【図12】標本の表面形状と光学系の焦平面の傾き補正の例を示す図。
【図13】撮像素子とアルバレツレンズの配置の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、標本を撮像してデジタル画像を取得する撮像装置において、組織片等の試料を保護する保護部材の厚さばらつき、試料や保護部材の表面形状(凹凸)、撮像時の熱変化等に起因する収差の補正を精度良くかつ自動で行う技術に関する。より詳しくは、本発明は、撮像部を複数の撮像素子で構成するとともに、撮像素子ごとに独立して補正量を制御可能な収差補正手段(補正光学系)を設けた点に一つの特徴を有している。これにより、保護部材厚さ、表面形状、温度等の視野内分布に応じて、撮像素子ごとに補正量を調整できるため、視野全体で良好な収差補正を実現することを可能にしている。したがって、本発明は、結像光学系の視野を複数の撮像素子で分割して撮像し、得られた複数の部分画像を合成することによって広視野かつ高解像の全体画像を生成するタイプの撮像装置に特に好ましく適用することができる。
【0010】
本発明は、撮像装置として具現化することもできるし、撮像装置と画像処理用のコンピュータ(さらには表示装置や画像記憶装置)を組み合わせた撮像システムとして具現化することもできる。このような撮像装置または撮像システムは、バーチャルスライド作成システムやデジタル顕微鏡などに好適に利用が可能であり、例えば病理診断等の用途に非常に有用である。
【0011】
(装置構成)
図1は、本発明の実施形態にかかる撮像装置の概略構成を示している。図1に示すように、本実施形態の撮像装置は、撮像前に標本のプレ計測を行う計測ユニット100と、プレ計測の結果を利用して標本の撮像を行いデジタル画像を取得する撮像ユニット300と、これらを制御する制御部400とから構成される。
【0012】
本実施形態で用いる標本(プレパラート)は、観察対象となる試料(生体の組織片など)をスライドグラス上に載置し、これを透光性の保護部材(カバーグラスなど)で覆って
固定したものである。試料を均一な厚さで作製することは難しいため、試料の表面(保護部材側の表面)や保護部材の表面には微小な凹凸が生じる。また、保護部材自体にも、数μmから十数μm程度の厚さのむらがある。
【0013】
図1において、計測ユニット100は、計測用照明部101、計測用ステージ102、計測用光学系104、計測部105からなる。計測用照明部101は、計測用ステージ102上に設置されているプレパラート(標本)103に光源からの光を導く照明光学系を有する。計測用ステージ102はプレパラート103を保持し、計測用光学系104に対するプレパラート103の位置を調整する支持手段である。
【0014】
計測用光学系104は、プレパラート103を透過した光を計測部105に導く光学系である。計測ユニット100ではプレパラート全体の計測を行うことが目的のため、計測用光学系104は低倍率のものでよい。計測部105は、計測用光学系104を介して受光した光に基づいて、プレパラート103上の試料(観察対象物)の大きさや、試料または保護部材の表面の形状や、保護部材の厚さを計測する手段である。計測部105で計測したデータは制御部400へ伝送され、後述する収差補正や焦点位置補正に利用される。
【0015】
計測部105には、計測目的に応じて各種のセンサを利用可能である。例えば試料の大きさを計測する目的であれば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの撮像素子で標本像の輝度や色を取得すればよい。試料もしくは保護部材の凹凸(表面形状)、あるいは保護部材の厚さを計測する目的であれば、反射光や干渉光を利用する各種のセンサを用いることができる。例えば特開平6−011341号公報に開示があるような三角測量法を応用した光学式距離測定方法や、特開2005−98833号公報に開示があるような共焦点光学系を用いてグラス境界面で反射するレーザー光の距離の差を測定する方法がある。レーザー干渉計などにより保護部材の厚さを計測することもできる。なお図1では、透過型の計測ユニットを例示したが、計測する物理量やセンサの種類に応じて、保護部材側から光を照射し反射光を計測する反射型の計測ユニットを用いたり、複数のユニットもしくはセンサを組み合わせて用いてもよい。
【0016】
図1において、撮像ユニット300は、撮像用照明部301、撮像用ステージ302、結像光学系304、撮像部305から構成される。
撮像用照明部301は、撮像用ステージ302上に設置されているプレパラート303に光源からの光を導く照明光学系を有する。撮像用照明部301は光源201と、照明光学系202で構成される。光源には、例えばハロゲンランプやキセノンランプ、LED(Light Emitting Diode)を用いることができる。
結像光学系304は、プレパラート303上の試料を広視野かつ高解像度で撮像するために、面Aで照明された試料の像を拡大し撮像部305の撮像面Bへと導く光学系である。
【0017】
撮像用ステージ302は、プレパラート303を保持し、撮像部305あるいは結像光学系304に対するプレパラート303の相対位置を調整する支持手段である。撮像用ステージ302は光軸(Z方向)に対して直交するX方向とY方向に独立して平行移動、または傾き駆動をおこなうことができる。図1に座標系を示すが、X軸は紙面に垂直な方向である。
計測用ステージ102から撮像用ステージ302へのプレパラートの移動は、不図示の搬送部により行われる。搬送部の機構としては、例えば計測用ステージ102自体が移動して撮像用ステージ302として機能する機構でもよいし、ハンド装置によりプレパラートを把持または吸着してステージ上に移動する機構でもよい。なお、複数のプレパラートの撮像を連続的に行う場合は、不図示のストッカに収容されているプレパラートが搬送部
によって1枚ずつ計測用ステージ102、撮像用ステージ302へと順に搬送される。なお、計測用ステージ102上と撮像用ステージ302上に異なるプレパラートが同時に設置され、計測ユニット100による計測処理と撮像ユニット300による撮像処理とが並列に行われてもよい。
【0018】
撮像用ステージ302の上、あるいは、ステージ302の内部の標本近くには、温度計測手段である温度センサ308が設置されている。この温度センサ308は、撮像時にプレパラート303の近傍の温度を計測するものである。温度センサ308は、標本内部(例えばカバーグラスとスライドグラスの間)に設置してもよいし、結像光学系304の内部や撮像用照明部301の内部などに設置してもよい。あるいは、温度の面内分布を得るために、複数のセンサをそれぞれ異なる位置に設置することもできる。温度センサ308で計測したデータは制御部400に伝送され、後述する収差補正に利用される。
【0019】
撮像部305は、結像光学系304を介して受光した光(試料の光学像)を光電変換し、画像データを生成、出力する手段である。得られた画像データは不図示の画像処理部に伝送され、現像、ガンマ補正、ノイズ除去、合成、圧縮等の画像処理が行われる。
【0020】
例えば、プレパラート上の10mm×10mmの撮像領域を光学倍率10倍で撮像することを考えた場合、撮像面Bでの撮像領域の大きさは100mm×100mm、すなわち直径141mm程度になる。これほどの面積を一括で撮像可能な大判の撮像素子は、画素欠陥等による歩留り低下の影響によりコスト高となる。そのため本実施形態では、撮像領域を複数の小区画に分割し、複数の撮像素子を用いて小区画単位で撮像を行い、得られた部分画像を合成(繋ぎ合わせ)することで、広視野かつ高精細の全体画像を生成する構成を採用する。
【0021】
図2(A)は、撮像部305の構成例を示している。撮像部305は、結像光学系304の視野304a内に二次元的に配置された19個の撮像素子306から構成されている。各撮像素子306は、例えばCCD、CMOSなどのイメージセンサからなる。ここで、撮像素子306が離散的に配置されているのは、撮像素子306の有効受光面306aの周囲に存在する回路基板306bが物理的に干渉し、受光面306aを隙間なく配列することができないためである。なお、図示の便宜のため、上2列の素子以外は、受光面306aのみを示している。各撮像素子306の受光面306aの大きさは撮像単位である小区画の大きさに対応しており、各撮像素子306はその受光面306aが結像光学系304の焦平面に一致するように配置される。撮像素子306の数及び配置は任意であるが、より少ない撮像回数で全ての小区画を撮像できるように決定するとよい。
【0022】
図3(A)、(B)を用いて、撮像部305による撮像手順の一例を説明する。図3(A)は、撮像面上での、結像光学系304の視野304aと撮像素子306の位置を示している。灰色の矩形が撮像素子306の受光面306a、すなわち、1回で撮像できる小区画(部分画像の領域)を示している。図3(A)の位置1,2,3,4はそれぞれ1回目、2回目、3回目、4回目の撮像における結像光学系304の視野の中心位置を示している。図3(B)は、撮像面上での撮像領域を示しており、1回目で撮像される小区画を1、2回目で撮像される小区画を2、3回目で撮像される小区画を3、4回目で撮像される小区画を4で示している。例えば、結像光学系304の中心位置を固定し、図3(A)の位置1,2,3,4の順に撮像用ステージ302の基準位置を順次移動させて撮像を4回繰り返すことで、図3(B)のように撮像領域を埋めつくす76枚の部分画像を取得することができる。
【0023】
また図1に示すように、本実施形態の撮像部305は、結像光学系304から撮像素子306に入射する光束310に対して収差補正を施すための収差補正部307を有してい
る。収差補正部307は撮像素子306ごとに個別に設けられており、各々の収差補正部307の補正量は独立に制御可能となっている(以下、対となる撮像素子306と収差補正部307を合わせて、撮像素子ユニットと呼ぶ。)。なお本実施形態では、全ての撮像素子ユニットを同一の電気基板上に配置したが、撮像素子ユニット毎に別の電気基板上に配置してもよい。
【0024】
図2(B)、(C)に、撮像素子306と収差補正部307の配置及び構成を模式的に示す。図2(B)、(C)は撮像部305を光軸と直交する方向から眺めた図である。
図2(B)は、収差補正部307が、補正光学系307aと補正光学系307aを駆動する駆動部307bとから構成された例である。撮像素子306は基板309上に固定されており、撮像素子306と結像光学系304の間の光路中に補正光学系307aが配置されている。駆動部307bは駆動用配線により基板309に電気的に接続されており、制御部400からの補正指令値に従って補正光学系307aの補正量を変化させる。補正光学系307aとしては、機械的な作用により光学特性を変化させる方式の光学系と、電気的な作用により光学特性を変化させる方式の光学系のいずれも用いることができる。前者の例としては圧電素子等により駆動されるアルバレツレンズがあり、後者の例としては液体レンズや液晶レンズなどのアダプティブオプティクスがある。
【0025】
図2(C)は、収差補正部307が、補正光学系307aに加え、撮像素子306の光軸方向の位置や傾きを調整するための姿勢調整部307cを有している例である。姿勢調整部307cの動作も制御部400からの補正指令値により制御される。姿勢調整部307cは、撮像素子306の姿勢のみを調整する構成でもよいが、図2(C)のごとく、補正光学系307aと撮像素子306を一体化し、両者の姿勢を一体的に調整する構成が好ましい。補正光学系307aと撮像素子306の相対位置を固定することで、補正光学系307aによる収差の補正と姿勢調整部307cによる収差の補正を独立に考えることができ、補正量の制御が容易になるからである。
【0026】
姿勢調整部307cは、フォーカスシフト(焦点ずれ)の補正や歪曲収差の補正に利用することができる。例えば、姿勢調整部307cにて撮像素子306を基準の撮像面Bから微小量だけ光軸方向に動かすことで試料表面の凹凸に起因するフォーカスシフトを補正し、補正光学系307aでは熱収差によるフォーカスシフトを補正してもよい。あるいは、姿勢調整部307cだけでフォーカスシフトを補正し、補正光学系307aでは別の収差を補正してもよい。さらには、姿勢調整部307cにより撮像素子306を光軸方向に対して傾けるとともに、補正光学系307aでも光束310の傾きを調整することで、両方で歪曲収差を補正してもよい。あるいは、姿勢調整部307cだけで歪曲収差を補正し、補正光学系307aでは別の収差を補正してもよい。
【0027】
制御部400は、計測ユニット100及び温度センサ308から得られた計測データに基づいて、プレパラート上の位置ごと(小区画ごと)の収差量を計算し、補正指令値を対応する撮像素子ユニットに対し送出する手段である。また、制御部400は、計測ユニット100、撮像ユニット300、搬送部、画像処理部など、撮像装置を構成する各ブロックを制御する機能も有する。制御部400の動作、並びに、収差補正及び焦点位置補正の具体例については、後述する。
【0028】
(撮像装置の動作)
次に、図4のフローチャートを参照して、撮像装置による画像取得処理の手順を説明する。
まず、制御部400が搬送部(不図示)を制御し、計測用ステージ102上にプレパラート103を設置する(S101)。なお、計測用ステージ102への設置については、自動でなく、オペレータ自身が行ってもよい。
【0029】
その後、計測用照明部101が計測用ステージ102上に設置されたプレパラート103を照明する。計測用光学系104からの光を計測部105で受光し、試料の形状や大きさ、試料又は保護部材の表面形状などを計測する(S102)。計測部105は計測データを制御部400に伝送する。また、温度センサ308が撮像ユニット300の温度を計測し、その計測データを制御部400に伝送する(S103)。
【0030】
次に、制御部400は、S102とS103で取得した計測データに基づいて、プレパラート上の撮像領域を決定するとともに、その撮像領域内の各小区画における収差量を計算し、その収差を補正するための補正量を決定する(S104)。なお、多数のプレパラートを連続撮像する場合(つまり図4のフローが繰り返し実行される場合)には、毎回温度計測を行うのではなく、予め用意した予測式やテーブルを用いて、温度あるいは収差量の変化を推定し、補正量を求めてもよい。
【0031】
ここで発生し得る収差としては、大きく分けて、プレパラート(試料、保護部材)に起因して生じる収差と、結像光学系304に起因して生じる収差とがある。前者の例は、保護部材の厚さが基準値(設計値)に比べて厚い又は薄いことに起因して生じる球面収差、試料又は保護部材の表面の凹凸あるいは保護部材の厚さむらに起因して生じる焦点位置ずれ(フォーカスシフト)や焦平面の傾きなどである。また照明光の熱や環境温度によるプレパラートの変形に起因する収差変動も前者の例に該当する。一方、後者の例としては、照明光の熱や環境温度による結像光学系304を構成する物質の屈折率変化や光学素子の変形によって生じる収差変動がある。収差変動は球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲などに現れる。上記の収差の中でも特に、焦点位置ずれ、球面収差、倍率誤差、歪曲収差が問題となるが、収差補正部307では、これらの収差のうち少なくとも1つを補正するとよい。
【0032】
プレパラートに起因する収差の場合、その収差量は、プレパラート上の位置によって変化し得る。そのため、S104では、制御部400は、図3(B)で示した小区画ごとに収差量ないし補正量を計算する必要がある。一方、結像光学系304に起因する収差の場合、その収差量は、結像光学系304の視野内の位置によって変わる。図3(A)、(B)のように撮像素子306と結像光学系304の視野304aの相対位置が固定されている場合には、撮像素子306ごとに収差量や補正量を計算すればよい。したがって、プレパラートに起因する収差と結像光学系304に起因する収差の両方を補正する場合、制御部400は、小区画の位置(プレパラート上の位置)と視野内の位置(撮像素子の位置)に基づいて収差の補正量を決定するとよい。
【0033】
例えば、制御部400は、プレ計測によって得られた表面形状(表面の凹凸)などの情報に基づいて、各小区画の焦平面の傾きを求め、この傾きを補正するための補正量を決定する。また、制御部400は、温度センサ308で計測された温度の情報に基づいて収差の変動量を求め、焦点位置補正、倍率補正、歪曲補正の量を決定する。このとき、制御部400は、光学系及び鏡筒の構造や物性の情報と計測された温度情報とから、収差あるいは収差の変動をシミュレーションによって計算し、補正量を計算するとよい。あるいは、温度変化と収差の補正量との関係を表す近似式やテーブルをあらかじめメモリ等に記憶させておき、制御部400が、計測された温度情報から補正量を求めることもできる。
【0034】
なお、本実施形態では、温度の計測結果を用いたが、他の方法により収差量を見積もる構成を採ることもできる。例えば、標本(プレパラート)を撮像する前に、テストチャートを撮像位置に設置して撮像を行い、得られたテストチャート画像を解析することにより、フォーカスシフト、倍率誤差、歪曲収差などを求めてもよい。テストチャートの撮像は、プレパラートを撮像する度に行ってもよいし、所定の間隔(例えば複数枚のプレパラー
トが撮像された後や、所定の時間が経過した後など)で行ってもよい。あるいは、多数のプレパラートを連続撮像する場合は、撮像開始からの経過時間と収差の補正量との関係を収差補正テーブルとしてあらかじめ記憶させておき、経過時間から補正量を決定することもできる。すなわち、温度などの計測結果から補正量を計算によって決定してもいいし、収差量を直接計測して補正量を得てもいいし、事前に得られている収差の情報に基づいて補正量を決定してもよい。温度の計測結果を収差の計算に用いない場合は、温度センサ308を省略することができる。
【0035】
制御部400が補正量を求めている時間を利用して、プレパラート103が搬送部(不図示)によって計測用ステージ102から撮像用ステージ302へと搬送される(S105)。処理時間の短縮のため、S104とS105の処理は並列に行われる。
【0036】
その後、制御部400は、決定した補正量に基づいて、各々の撮像素子ユニットに対し補正指令値(駆動信号)を送出し、収差補正部307の補正光学系307a及び/又は姿勢調整部307cを駆動する(S106)。このとき、制御部400は、撮像素子ユニットごとに、その撮像素子306で撮像する小区画に対応した補正量を選択する。
【0037】
そして、撮像用照明部301が撮像用ステージ302上に設置されたプレパラート303を照明し、撮像を行う(S107)。このとき、プレパラート303上の試料の像は、結像光学系304によって拡大され、収差補正部307によって適切な収差補正が行われた後に、撮像素子306の撮像面(受光面)上に結像する。各々の撮像素子306から出力された部分画像データは、撮像装置内部または外部の記憶装置に一時的に格納される。
【0038】
続いて、制御部400は、全ての小区画の撮像が完了したか否かを判定し(S108)、撮像していない小区画が残っている場合は、ステージ302と撮像部305のいずれか又は両方を移動させて、撮像素子306を次に撮像する小区画の位置に合わせる(S109)。撮像する小区画が変わると収差量も変わるため、制御部400は、変更後の小区画の位置に応じた補正量となるように収差補正部307を駆動した後(S106)、撮像を行う(S107)。
【0039】
S106〜S109の処理を繰り返すことで全ての小区画の部分画像データを取得した後、画像処理部がこれらの部分画像データを合成して、広視野且つ高精細の標本全体の画像データを生成する(S110)。このとき必要に応じて、ガンマ補正、ノイズ除去、圧縮等の画像処理も行われる。画像処理装置は、生成した画像データを撮像装置内部または外部の記憶装置に格納する(S111)。
【0040】
(本実施形態の利点)
本実施形態の撮像装置では、撮像部305を複数の撮像素子306で構成し、かつ、撮像素子306ごとに独立して制御可能な収差補正部307を設けている。これにより、撮像素子306ごとに個別に収差の補正量を調整することができるため、視野内で収差量にばらつきがある場合でも視野全体にわたり良好な収差補正を実現でき、高品質なデジタル画像を取得することができる。また、計測ユニット100の計測結果に基づいて収差の補正量を計算しているため、試料又は保護部材の表面形状(凹凸)や保護部材の厚さむらに起因する収差を好適に補正することができる。さらに温度センサ308の計測結果を利用することにより、環境温度や照明光の熱などに起因する結像光学系304の収差をも好適に補正することができる。
【0041】
<実施例1>
実施例1では、収差補正部307の補正光学系307aとしてアルバレツレンズを用いた例を説明する。アルバレツレンズとは、同一形状の非球面を有する一対の光学素子を、
非球面が対向するように近接させて配置した光学系である。一対の光学素子を光軸と直交する方向に相対的に移動させることにより、その光学特性を変化させることができる。
【0042】
図5(A)、(B)はそれぞれ1つの撮像素子ユニット(撮像素子306と収差補正部307の組)を示している。図5(A)の収差補正部307は、2つの光学素子O1、O2で構成されたアルバレツレンズからなる補正光学系307aと各光学素子を駆動する駆動部307bとからなる。また、図5(B)は、3つの光学素子O1、O2、O3で構成されたアルバレツレンズの例であり、これはO1とO2、O2とO3の二組のアルバレツレンズを組み合わせたものに相当する。このように2以上のアルバレツレンズを組み合わせることもできる。
【0043】
まず、図6(A)、(B)を用いて光学素子の横ずらしによって光学的なパワー(焦点距離)を発生させる例をもとに収差補正方法を説明する。図6(A)、(B)は、図5(A)のアルバレツレンズのXZ平面での断面を模式的に示している。
【0044】
図6(A)において、2つの光学素子O1とO2は互いに向かい合って配置されている。光学素子O1とO2の向き合っている面(内側の面)が同一形状の非球面となっている。光学素子O1とO2の外側の面は平面である。外側の面を平面にすると、横ずらししたときに外側の面からは収差が発生しないため、収差補正部の制御が簡単になるという利点がある。しかし、必ずしも外側の面を平面にする必要はない。
【0045】
図中Z軸は光軸である。光軸に直交する形でX,Y軸を取る。光学素子O1の非球面形状をf1(x,y)、光学素子O2の非球面形状をf2(x,y)とする。ずらす方向をx方向とすると、両者の非球面形状は定数項だけ異なる次の式で与えられる。x方向への素子の横ずらしによって光学的なパワー(焦点距離)を発生させるため、xは3次の項まで、yは2次の項までを用いる。
f1(x,y)=a(x3+3xy2)+c1
f2(x,y)=a(x3+3xy2)+c2 …(1)
ここで、aは非球面のうねりの大きさを表す係数であり、aが大きくなるほどうねりが大きく、aが小さくなるほど平面に近づく。
【0046】
アルバレツレンズは図6(A)のように中心の厚さdの2枚のレンズが間隔sを隔てて配置されている。図では、説明の便宜から、非球面のうねり及び間隔sを誇張して描いてあるが、実際のうねりa及び間隔sは非常に小さいものである。間隔sは小さいほうがよく、数μmから数100μm程度が望ましい。図6(B)は一方の素子のみをx方向へ横ずらしした状態を示している。
【0047】
図6(A)の初期状態においては光学素子O1の非球面形状f1(x,y)と光学素子O2の非球面形状f2(x,y)の凹凸が完全に一致するため、光学素子O1と光学素子O2より成る光学系は光学的パワーのない平行平面板と同じ働きをする。ここで図6(B)のように光学素子O2を距離Δだけx方向に動かすと、初期状態との光路長差は次のようになる。nはレンズの屈折率である。
光路長差=(n・d’+s’)−(n・d+s)
=(1−n)(f1(x+Δ,y)−f2(x,y)) …(2)
【0048】
ここでΔの2次以上の高次の項の影響は小さいとして無視すると次のようになる。
光路長差=(1−n)(3aΔ(x2+y2)+(c1−c2)) …(3)
したがって、横ずらし量Δによって(x2+y2)の項が発生し、このため光学素子O1とO2からなる光学系は光軸に対して回転対称なパワーを持つ。しかもそのパワーを横ずらし量Δによって自由に制御することが可能である。
【0049】
例として撮像素子306の1辺の大きさを20mmとすると補正光学系307aの視野の半径は10mmである。パワー成分として発生させる量を1mmとし、このときのずらし量Δを1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(3)より、a=6.7×10−3となる。
このような光学素子において、光学素子を1mm横ずらしすると(Δ=1)、パワー成分が1mm発生し、光学素子を2mm横ずらしすると(Δ=2)、パワー成分が2mm発生する。
この例では、一方の光学素子のみを動かしたが、両方の素子を逆方向にΔ/2ずつ動か
しても同様の結果が得られる。
【0050】
次に、図6(C)、(D)を参照して、複数のアルバレツレンズを組み合わせることにより、2種類の収差補正を独立に行う例を説明する。以下の例では、光学素子O1とO2を用いて焦点位置を補正し、光学素子O2とO3を用いて倍率変化を補正する。
【0051】
図6(C)のアルバレツレンズでは、中心の厚さdの3枚の光学素子O1〜O3が間隔sを隔てて配置されている。光学素子O1とO2の向き合っている面が同一形状の非球面となっており、その形状は図6(A)のものと同じである。すなわち、光学素子O1の光学素子O2側の非球面形状は、f1(x,y)であり、光学素子O2の光学素子O1側の非球面形状は、f2(x,y)である。また、光学素子O2とO3の向き合っている面も同一形状の非球面である。光学素子O2の光学素子O3側の非球面形状をf3(x,y)、光学素子O3の光学素子O2側の非球面形状をf4(x,y)とする。つまり、真ん中の光学素子O2は両面が非球面になっている。
【0052】
光学素子O1とO2の光学特性及び作用については、図6(A)、(B)で説明したものと同様である。一方、光学素子O2とO3の光学特性及び作用については、次のようになる。ずらす方向をx方向とすると、光学素子O2とO3の非球面形状は定数項だけ異なる次の式で与えられる。x方向への素子の横ずらしによって倍率変化を発生させるため、xは4次の項まで、yは3次の項までを用いる。簡単のため、定数項を省略する。
f3(x,y)=b(x4+4xy3)
f4(x,y)=b(x4+4xy3) …(4)
【0053】
ここで図6(D)のように光学素子O2を動かさず、光学素子O3を距離Δ’だけx方向に動かすと、初期状態との光路長差は次のようになる。nはレンズの屈折率である。ここで、Δ’の2次以上の高次の項の影響は小さいとして無視している。
光路長差=(1−n)(4bΔ’(x3+y3)) …(5)
したがって、横ずらし量Δ’によって(x3+y3)の項が発生し、このため光学素子O2とO3は倍率変化を生じる。しかもその量を横ずらし量Δ’によって自由に制御することが可能である。
【0054】
例として撮像素子の1辺の大きさを20mmとすると補正光学系の視野の半径は10mmとなる。倍率変化を発生させる量を1mmとし、このときのずらし量Δ’を1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(5)より、b=5.0×10−4となる。
【0055】
また、別の例として、光学素子O2とO3を用いて球面収差を補正する例を説明する。光学素子O2の非球面形状をf3(x,y)、光学素子O3の非球面形状をf4(x,y)とする。ずらす方向をx方向とすると、両者の非球面形状は定数項だけ異なる次の式で与えられる。x方向への素子の横ずらしによって球面収差を発生させるため、xは5次の項まで、yは4次の項までを用いる。簡単のため、定数項を省略する。
f3(x,y)=b(x5+5xy4)
f4(x,y)=b(x5+5xy4) …(6)
【0056】
ここで図6(D)のように光学素子O2を動かさず、光学素子O3を距離Δ’だけx方向に動かすと、初期状態との光路長差は次のようになる。nはレンズの屈折率である。ここでΔ’の2次以上の高次の項の影響は小さいとして無視している。
光路長差=(1−n)(5bΔ’(x4+y4)) …(7)
【0057】
したがって、横ずらし量Δ’によって(x4+y4)の項が発生し、このため光学素子O2とO3は球面収差を発生させる。しかもその量を横ずらし量Δ’によって自由に制御することが可能である。
例として球面収差を発生させる量を1mmとし、補正光学系の視野半径を10mm、このときのずらし量Δ’を1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(7)より、b=4.0×10−5となる。
【0058】
光学素子O1とO2の横ずらしの方向と光学素子O2とO3の横ずらしの方向を直交させてもよい。その例を、図6(E)〜(G)に示す。
光学素子O1とO2は前述したようにx方向への素子の横ずらしによって焦点位置、倍率誤差、または球面収差の補正が出来る。一方、光学素子O2とO3はy方向への素子の横ずらしによって歪曲変化を補正する。
【0059】
y方向への素子の横ずらしによって歪曲収差を補正するため、xは5次の項まで、yは6次の項までを用いる。定数項は省略する。
f3(x,y)=b(y6+6yx5)
f4(x,y)=b(y6+6yx5) …(8)
【0060】
ここで図6(G)のように光学素子O3を距離Δ’だけy方向に動かすと、初期状態との光路長差は次のようになる。nはレンズの屈折率である。ここでΔ’の2次以上の高次の項の影響は小さいとして無視している。
光路長差=(1−n)(6bΔ’(x5+y5)) …(9)
【0061】
したがって、横ずらし量Δ’によって(x5+y5)の項が発生し、このため光学素子O2とO3は歪曲収差を発生する。しかもその量を横ずらし量Δ’によって自由に制御することが可能である。
例として歪曲収差を発生させる量を1mmとし、補正光学系の視野の半径を10mm、このときのずらし量Δ’を1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(9)より、b=3.3×10−6となる。
【0062】
ずらして差分をとるという作業は微分そのものなので、非球面形状としてずらす方向には(n+1)次の項、ずらす方向と直交する方向にはn次の項を入れておき、微分の効果でn次の成分を出すようにするとn次の収差に対して補正することができる。これらの例ではx方向、y方向で対称な収差を補正するような非球面を与えたが、x方向、y方向で一方向のみの収差補正を行うこともできる。x方向、y方向で異なる収差の補正を行うこともできる。
【0063】
図13(A)、(B)に、撮像素子306と収差補正部307の配置の好ましい例を示す。図13(A)、(B)は、結像光学系304の側からみた撮像部305の平面図である。ここでは、収差補正部307として、光学素子O1とO2からなるアルバレツレンズを示しており、図の紙面奥から順に、撮像素子306、光学素子O1、光学素子O2が並んでいるものとする。図13(A)は初期状態(アルバレツレンズ駆動前の状態)を示している。それぞれの収差補正部307では、同一形状の非球面を有する一対の光学素子O
1とO2が中心を合わせて対向しており、収差の補正は行われない。図13(B)は光学素子O1、O2を相対的に横方向にずらすことによって収差を発生させた様子を示している。図13(B)のように、撮像素子ユニットを行ごとに互い違いに配置すると、同じ列にある撮像素子ユニット間の間隔を大きくでき、光学素子の列方向の移動距離を長くとれる。そして、移動距離、すなわち、光学素子O1とO2の相対的なずらし量を長くできると、収差補正量の制御がしやすく、また、非球面量を小さくできるので、意図した収差以外の収差が発生しにくいという利点がある。
【0064】
以上述べたような収差補正部307を備える撮像素子ユニットを結像光学系304の視野内に複数配置し、それぞれの収差補正部307を独立して制御することで、場所的に独立して収差補正を行うことができる。すなわち、撮像素子306ごとに設けられた収差補正部307を個別に制御することによって、複数の撮像素子306に入射する光に対して個別に収差補正をすることができる。
【0065】
<実施例2>
実施例2では、カバーグラスの厚さむらに起因する収差や焦点位置ずれを補正する例を説明する。
カバーグラスの厚さむらによって、結像位置が光軸方向に動いたり、光束(焦平面)が傾いたりするため、撮像素子306の撮像面が焦点深度内から外れてしまう場合がある。これを解決するために、図2(C)のように、カバーグラスの表面形状(凹凸)に合わせて撮像素子306を光軸方向に動かしたり、傾けたりするのと同様の補正を補正光学系で実現することもできる。
【0066】
アルバレツレンズと呼ばれる光学系により光学的なパワー(焦点距離)を変えることによって結像位置を光軸方向に動かすことができるのは実施例1で示した。同様に、次のようにして光束(焦平面)を傾けることもできる。
【0067】
図8(A)は、4枚の光学素子O1,O2,O3,O4から構成されたアルバレツレンズを示している。光学素子O1とO2が対となり、両素子の向き合っている面が同一形状の非球面となっており、外側の面は平面となっている。また光学素子O3とO4が対となり、両素子の向き合っている面が同一形状の非球面となっており、外側の面は平面となっている。外側の面を平面にすると、横ずらししたときに外側の面からは収差が発生しないため、補正光学系307aの制御が簡単になるという利点がある。しかし、必ずしも外側の面を平面にする必要はない。
【0068】
図中Z軸は光軸である。光軸に直交する形でX,Y軸を取る。光学素子O1の非球面形状をf1(x,y)、光学素子O2の非球面形状をf2(x,y)、光学素子O3の非球面形状をf3(x,y)、光学素子O4の非球面形状をf4(x,y)とする。光学素子O1またはO2のずらす方向をx方向とすると、両者の非球面形状は定数項だけ異なる次の式で与えられる。x方向への素子の横ずらしによってx方向の傾きを発生させるため、xは2次の項までを用いる。定数項は省略する。
f1(x,y)=ax2
f2(x,y)=ax2 …(10)
【0069】
光学素子O3またはO4はy方向への横ずらしによってy方向の傾きを出すため、yは2次の項までを用いる。定数項は省略すると、光学素子O3とO4の非球面形状は次の式で与えられる。
f3(x,y)=by2
f4(x,y)=by2 …(11)
なお、各光学素子の係数a、b、及び光学素子の間隔sは、実施例1と同様に小さいも
のである。
【0070】
素子の横ずらしのない初期状態においては光学素子O1と光学素子O2、また光学素子O3と光学素子O4より成る光学系は単なる平行平面板である。ここで図8(A)のように光学素子O2を動かさず、光学素子O1を距離Δだけx方向に動かし、また、図8(B)のように光学素子O3を動かさず、光学素子O4を距離Δ’だけy方向に動かす。すると初期状態との光路長差は、Δの2次以上の項を省略すると次のようになる。nは、レンズの屈折率である。
x方向の光路長差=(1−n)(2aΔx)
y方向の光路長差=(1−n)(2bΔ’y) …(12)
【0071】
したがって、x方向の横ずらし量Δとy方向の横ずらし量Δ’によって、x方向およびy方向の焦平面の傾きが独立して発生する。
例として補正光学系の視野の半径の大きさを10mmとすると、傾き1mradを発生させるためにはx方向の光路長差は最大10μmとなり、このときのずらし量Δを1mm、レンズの屈折率を1.5とすると式(12)より、a=10−3となる。
【0072】
あるいは図8(C)のようにして光学素子をx方向に動かすことによって、y方向の焦平面の傾きを制御することもできる。
図8(C)において、光学素子O1とO2の非球面形状は式(10)と同じであるが、光学素子O3とO4の非球面形状は次のようなものである。
f3(x,y)=2bxy
f4(x,y)=2bxy …(13)
【0073】
ここで図8(C)のように光学素子O1(またはO2)を距離Δだけx方向に動かし、光学素子O4(またはO3)を距離Δ’だけx方向に動かすと式(12)で示されるような焦平面の傾きが独立して発生する。式(13)で示される非球面形状をもつ光学素子は光学素子をy方向に動かすことによって、x方向の焦平面の傾きを制御することもできる。
【0074】
あるいは図8(D)のようにして1組の光学素子をx方向に動かすことによってx方向の焦平面の傾きの大きさを制御し、さらに光軸を中心に1組の光学素子を回転することによって傾きの方向を任意の方向に設定することもできる。
【0075】
これらの式(10),(11),(13)で示されたような2次の非球面形状をもつアルバレツレンズ1組または2組と、実施例1で示した式(1)で示されたような3次の非球面形状をもつアルバレツレンズ1組とを組み合わせる。そうすると、結像位置(焦点距離)を光軸方向に動かし、かつ、焦平面を傾けることが可能になる。
【0076】
ここで、標本の表面近傍に焦点位置を合わせる例を図11、図12を用いて説明する。
まず、計測ユニット100によりプレパラートに含まれる試料(観察対象物)の概略の形状、大きさや中心位置などを計測する。また、プレパラートの表面形状(表面の凹凸)を計測する。図11(A)は計測ユニット100により計測されたプレパラートの表面形状を濃淡画像で表現したものである。観察対象物の中心を原点にとり、横軸をX方向の位置、縦軸をY方向の像面上の大きさに換算した位置とし(単位はmm)、画素の濃淡でプレパラート上の各位置の像面上の大きさに換算した表面位置(高さ)を表している。この図では、白色が最も高く、黒色に近づくほど高さが低いことを示している。保護部材の厚さむらや試料自体の凹凸などに起因して、表面高さにばらつきが生じていることが分かる。
なお、このプレパラートの表面形状のXY方向の位置は、実際のプレパラート上の試料
の位置を光学系の倍率をかけて像面上の大きさに換算した。光学系の倍率は前述した10倍としてある。また、プレパラートの表面の凹凸の量も像面上の大きさに換算してあり、実際のプレパラート上の試料の凹凸の量に倍率を二乗した値をかけている。
【0077】
次に、制御部400は、図11(A)の計測データを用いて、各小区画での補正量を計算する。図11(B)は、計測データ上に、撮像単位である小区画を表す分割線を重ねて示したものである。小区画の大きさは撮像素子306の有効受光面306aの大きさによって決められる。1つの小区画が1つの撮像素子306で1回に撮像する領域である。ここでは、小区画の大きさは像面上で20mm×20mmであるとした。
【0078】
傾きをもつ試料表面にピントを合わせるには、試料表面の傾きをキャンセルするように光学系の焦平面を傾けることで、試料表面の像が撮像素子306の受光面に結像するようにすればよい。本実施例では、制御部400が、計測データから各小区画の表面の最小二乗平面を計算し、その最小二乗平面を撮像素子306の受光面と平行に変換するように、収差補正部307の補正量を決定する。
【0079】
図12(A)は、ある小区画の表面形状11と、その表面形状11に近似した最小二乗平面12を図示したものである。図12(A)は、図11(B)で示されたある一つの小区画の表面形状を鳥瞰図として示したものである。図11(B)の座標系の高さ方向をZとし、Z=0は結像光学系304の焦点位置とした。
【0080】
公知の最小二乗近似を利用して、表面形状11の最小二乗平面12を計算したところ、下記式で表される平面が得られた。
Z(x,y)=αx+βy+χ
α=0.013575、β=0.007186、χ=0.856061 …(14)
したがってX方向の傾きは13.6mrad、Y方向の傾きは7.2mrad、中心位置(x=10、y=−90)の高さはz=0.345mmである。
【0081】
図12(B)はアルバレツレンズによって表面の傾きを補正する様子を概念的に図示したものである。結像光学系304を通して得られる試料表面の光像13は、プレパラートの表面形状に応じた凹凸や傾きを有している。この光像13の最小二乗平面14の傾きをキャンセルするように光学素子O1〜O4を制御することで、試料表面の光像13が撮像素子306の受光面に概ね平行な像15に補正される。すなわち、本実施例の収差補正部307は、図2(C)のように撮像素子306を傾ける代わりに、光学素子O1〜O4によって光学系の焦平面を試料表面の最小二乗平面と平行になるようにするものである。
【0082】
ここで、光学素子O1とO2の非球面形状は式(10)で示されたようになっており、光学素子O3とO4の非球面形状は式(13)で示されたようになっている。
撮像素子306の大きさは1辺20mmなので補正光学系307aの視野半径は10mmである。非球面の係数a=b=10−3とし、レンズの屈折率を1.5とすると式(14)で示される平面に一致するためには、ずらし量Δ=13.6mm、Δ’=7.2mmだけ各光学素子を駆動すればよい。このとき、レーザー干渉計を用いてずらし量を計測すれば、補正光学系307aの相対位置精度を保証することができる。
【0083】
そして、光軸方向には撮像素子306の中心位置を0.345mm動かす。あるいは、非球面形状が式(1)で示される光学素子をもう一組増やして、補正光学系307aにより光軸方向の結像位置の移動を実現してもよい。その場合、補正光学系307aの視野半径を10mm、レンズの屈折率を1.5、a=6.7×10−3とすると、式(3)式よりずらし量Δは0.345mmとなる。
【0084】
他の例として、図9(A)のように、一対の光学素子O1,O2の対向する面を一次関数で表せるような傾きをもったものにしてもよい。光軸を中心に一方の光学素子を回転することによって、傾きを任意の方向に設定することもできる。図9(A)のように光学素子O1,O2の対向する面の形状が一致しているときは傾きをもたないが、図9(B)のように光軸を中心に一方の光学素子O2を回転すると焦平面に傾きが生じ、回転の方向に応じて傾きの方向が変化する。このような光学系はウエッジプリズムとして知られている。
また、図9(C)のように光学素子O1,O2をずらして配置すると、素子間の間隔が変化するため、球面収差が変化し、焦平面位置を光軸方向に変化させることができる。ただし、傾きの大きさを制御することはできない。
また、他の例として、図10(A)のような可変頂角プリズムPも知られている。この光学素子は平面を持ち、平面に対して垂直な軸を図10(B)や図10(C)のように光軸に対して傾けることによって焦平面の傾きを任意の大きさと方向に設定することができる。
【0085】
<実施例3>
実施例3では、収差補正部307としてアダプティブオプティクスを用いた例を説明する。図7は1つの撮像素子ユニットを示している。
【0086】
収差補正部307は、液体レンズからなる補正光学系307aを有している。駆動部307bから補正光学系307aに印加する電圧を制御することで、液体レンズの屈折率又は形状を変化させることができる。前述した実施例と同様、計測ユニット100又は温度センサ308から得られた計測データに従って小区画ごとの収差量を求め、これをキャンセルするように補正光学系307aの光学特性を制御することで、収差補正が可能となる。
【0087】
アダプティブオプティクスとしては、液体レンズの他に、液晶レンズを用いることもできる。あるいは、液体レンズの内部に液体と屈折率の異なる微細粒子を充填し、微細粒子の密度を変えることによって屈折率調整をする光学素子を用いることもできる。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、図1では、計測ユニット100と温度センサ308の両方を設けたが、補正する収差の種類に応じて、いずれか一方だけを設ける構成でもよい。また、上記実施形態では、補正の対象として、焦点位置のずれ、焦平面の傾き、球面収差、倍率誤差(倍率色収差)、歪曲収差などを例示したが、これら以外の収差を補正してもよい。また、収差補正部307としては、複数の補正光学系を組み合わせたり、異なる種類の補正光学系(例えば、アルバレツレンズとアダプティブオプティクス)を組み合わせることもできる。また、各撮像素子306の撮像面の平坦度が悪い(撮像面が反っている)と各撮像素子306で取得した画像が歪んでしまう場合があるが、各収差補正部307でこの歪みも(収差と併せて)補正してもよい。
【符号の説明】
【0089】
304:結像光学系、305:撮像部、306:撮像素子、307:収差補正部、400:制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像部と、
試料の像を拡大して前記撮像部に導く結像光学系と、
制御手段と、を備え、
前記撮像部は、前記試料の像を複数の小区画に分けて撮像するための複数の撮像素子ユニットを有しており、
前記複数の撮像素子ユニットのそれぞれは、撮像する小区画の像に含まれる収差を補正する収差補正手段と、前記収差補正手段により補正された像を撮像する撮像素子と、を有し、
前記制御手段は、撮像する小区画の位置に応じて各撮像素子ユニットの収差補正手段の補正量を個別に制御する
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記撮像部は、前記複数の撮像素子ユニットと前記試料との相対位置を変えながら繰り返し撮像を行うことにより、前記試料の全体の画像を取得するものであり、
前記制御手段は、前記撮像素子ユニットと前記試料との相対位置が変わるたびに、変更後の小区画の位置に応じて各収差補正手段の補正量を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記収差補正手段は、前記結像光学系と前記撮像素子の間に設けられた、光学特性が可変の補正光学系を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記補正光学系は、光軸と直交する方向に相対的に移動することで光学特性を変化させる複数の光学素子から構成される
ことを特徴とする請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記補正光学系は、電気的な作用により光学特性を変化させる光学素子から構成されることを特徴とする請求項3に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記収差補正手段は、前記撮像素子の姿勢を調整する姿勢調整部を有する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記姿勢調整部は、前記撮像素子の光軸方向の位置を変化させる
ことを特徴とする請求項6に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記姿勢調整部は、前記撮像素子の撮像面の傾きを変化させる
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記姿勢調整部は、前記撮像素子と前記補正光学系の姿勢を一体的に変化させる
ことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記試料の表面の形状または前記試料の表面を覆う保護部材の表面の形状を計測する計測手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記計測手段の計測結果に基づいて、焦点位置のずれと焦平面の傾きのいずれか又は両方に対する補正量を決定する
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記試料の表面を覆う保護部材の厚さを計測する厚さ計測手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記厚さ計測手段の計測結果に基づいて、球面収差に対する補正量を決定する
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項12】
前記結像光学系と前記試料のいずれか又は両方の温度を計測する温度計測手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記温度計測手段の計測結果に基づいて、焦点位置のずれ、球面収差、倍率誤差、又は歪曲収差に対する補正量を決定する
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記撮像部によってテストチャートを撮像して得られた画像を解析した結果に基づいて、焦点位置のずれ、球面収差、倍率誤差、又は歪曲収差に対する補正量を決定する
ことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項1】
撮像部と、
試料の像を拡大して前記撮像部に導く結像光学系と、
制御手段と、を備え、
前記撮像部は、前記試料の像を複数の小区画に分けて撮像するための複数の撮像素子ユニットを有しており、
前記複数の撮像素子ユニットのそれぞれは、撮像する小区画の像に含まれる収差を補正する収差補正手段と、前記収差補正手段により補正された像を撮像する撮像素子と、を有し、
前記制御手段は、撮像する小区画の位置に応じて各撮像素子ユニットの収差補正手段の補正量を個別に制御する
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記撮像部は、前記複数の撮像素子ユニットと前記試料との相対位置を変えながら繰り返し撮像を行うことにより、前記試料の全体の画像を取得するものであり、
前記制御手段は、前記撮像素子ユニットと前記試料との相対位置が変わるたびに、変更後の小区画の位置に応じて各収差補正手段の補正量を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記収差補正手段は、前記結像光学系と前記撮像素子の間に設けられた、光学特性が可変の補正光学系を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記補正光学系は、光軸と直交する方向に相対的に移動することで光学特性を変化させる複数の光学素子から構成される
ことを特徴とする請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記補正光学系は、電気的な作用により光学特性を変化させる光学素子から構成されることを特徴とする請求項3に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記収差補正手段は、前記撮像素子の姿勢を調整する姿勢調整部を有する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記姿勢調整部は、前記撮像素子の光軸方向の位置を変化させる
ことを特徴とする請求項6に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記姿勢調整部は、前記撮像素子の撮像面の傾きを変化させる
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記姿勢調整部は、前記撮像素子と前記補正光学系の姿勢を一体的に変化させる
ことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記試料の表面の形状または前記試料の表面を覆う保護部材の表面の形状を計測する計測手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記計測手段の計測結果に基づいて、焦点位置のずれと焦平面の傾きのいずれか又は両方に対する補正量を決定する
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記試料の表面を覆う保護部材の厚さを計測する厚さ計測手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記厚さ計測手段の計測結果に基づいて、球面収差に対する補正量を決定する
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項12】
前記結像光学系と前記試料のいずれか又は両方の温度を計測する温度計測手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記温度計測手段の計測結果に基づいて、焦点位置のずれ、球面収差、倍率誤差、又は歪曲収差に対する補正量を決定する
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記撮像部によってテストチャートを撮像して得られた画像を解析した結果に基づいて、焦点位置のずれ、球面収差、倍率誤差、又は歪曲収差に対する補正量を決定する
ことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の撮像装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−34127(P2013−34127A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169520(P2011−169520)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]