説明

撮影レンズの絞り装置

【課題】 多段階の透過率が得られ高精度で信頼性の高いNDフィルタをを用いて高精度な透過率の制御を安価に実現することを課題とする。
【解決手段】 撮影レンズの光軸X−Xに直交する面上を移動し絞り開口20を可変させる絞り羽根3、4と、該絞り羽根を駆動する絞り羽根駆動機構5と、撮影レンズの光軸と直交する面上を移動して透過光量を可変させるNDフィルタ24と、該NDフィルタを駆動するNDフィルタ駆動機構7とを備えた撮影レンズの絞り装置1において、上記NDフィルタを、透明なシート33に同一濃度の網点34を多数形成して移動方向において段階的に又は無段階的に透過光量が変化するようにして形成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は新規な撮影レンズの絞り羽根装置に関する。詳しくは、複数の絞り羽根とNDフィルタを有し、かつ、絞り羽根とNDフィルタとを各別の駆動手段によって移動させるようになっている絞り装置において、透過光量の制御を安価に、かつ、精度よく行う技術に関する。
【0002】
【従来の技術】スチルカメラ、ビデオカメラ等の撮影レンズの絞り装置には、複数の絞り羽根を光軸周りに回動させて絞り径の調整を行ういわゆる「虹彩絞り」に替えて、一の直線上を互いに逆方向に移動する2枚の絞り羽根を用いて小型化と軽量化とコスト低減を図った撮影レンズの絞り装置が使用されるようになってきている。
【0003】ところが、被写体が明るいときに絞り径が小さくなりすぎると、回折による画質の劣化と焦点深度の増大によるゴミの写り込みが問題となる。
【0004】そこで、回折による画質の劣化を抑制するため、2枚の絞り羽根とNDフィルタとを備え、絞り羽根を絞り羽根駆動機構により駆動して絞り開口を形成すると共に、NDフィルタをNDフィルタ駆動機構により駆動して上記絞り開口に進入させるようにしたものがある。また、例えば特願平9−224788号に記載されたもののように絞り羽根駆動機構とNDフィルタ駆動機構を一つの装置で兼用しているものもある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来の撮影レンズの絞り装置に使用するNDフィルタが絞り開口に出入りするだけのものであれば、一枚のNDフィルタで済み、安価に構成することができるが、透過光量の制御が粗くなるという問題がある。
【0006】特願平9−224788に示された例のように、NDフィルタが絞り開口に位置した状態で多段階の透過率の制御を必要とする場合、複数枚数のNDフィルタが必要になり、かつ、複数のNDフィルタ相互を精度よく位置合わせをして貼り合わせる必要があり、そのため高度な技術が必要となり高価なものとなってしまうという問題がある。
【0007】さらに多段階の透過率を必要とする場合には、多数枚のNDフィルタをずらして重ね貼りをするとか、あるいは、蒸着等の手段により、部分的に濃度差を付けて一枚のNDフィルタとして形成している。
【0008】前者の場合、重ね貼りをすると、温湿度の変化等により、反りや剥離を引き起こしやすく、信頼性を維持するのが難しい。また、重ねることで光軸方向の厚みが増加し、小型化の妨げになるという問題がある。
【0009】後者の場合、NDフィルタが一枚で済むものの、製造プロセスに高度な技術が必要なため歩留まりも悪く、高価になってしまうという問題がある。
【0010】そこで、本発明は、多段階の透過率が得られ高精度で信頼性の高いNDフィルタをを用いて高精度な透過率の制御を安価に実現することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明撮影レンズの絞り装置は、上記した課題を達成するために、NDフィルタを、透明なシートに同一濃度の網点を多数形成して移動方向において段階的に又は無段階的に透過光量が変化するようにして形成したものである。
【0012】従って、本発明撮影レンズの絞り装置にあっては、網点は単濃度のものでよいため、一度の膜生成工程でNDフィルタを形成することができ、安価で高精度なNDフィルタを得ることができる。
【0013】また、別の本発明撮影レンズの絞り装置は、上記課題を解決するために、NDフィルタを、透明なシートに同一濃度の膜を形成し該膜中に網点状に多数の孔を形成して移動方向において段階的に又は無段階的に透過光量が変化するようにして形成したものである。
【0014】従って、別の本発明撮影レンズの絞り装置にあっては、NDフィルタの形成に当たっては、まず、単一濃度の膜を形成すればよく、一度の膜生成工程で足り、安価で高精度なNDフィルタを得ることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下に、本発明撮影レンズの絞り装置の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】図1に示したように、撮影レンズの絞り装置1は、光軸X−X方向から見て縦長の長方形を為し光軸方向に扁平な筐体2内に光軸に直交する方向(本実施の形態においては上下方向)に移動自在に設けられた2枚の絞り羽根3、4と、これら絞り羽根3、4を駆動する絞り羽根駆動機構5と、上記筐体2内で絞り羽根3、4と同じ方向に移動自在に設けられたNDフィルタ部材6と、該NDフィルタ部材6を駆動するNDフィルタ駆動機構7等からなる。
【0017】上記筐体2は、中板8を真ん中に挟んで後板9と前板10とが前後で結合されて成る。後板9は前方に向かって開口した浅い箱状をしており、該後板9の中央には円形の光通過孔11が形成され、該光通過孔11に近接して左右で上下に離間して2本ずつの支持ピン12、12、・・・が突設されている。前板10の中央部に円形の光通過孔13が形成され、該光通過孔13は後板9の光通過孔11と中心が一致されている。
【0018】一方の絞り羽根3は前方から見てほぼJ字状をしており、上方に開口した切欠14を有する。絞り羽根3には左側に1個の、また、右側に上下に並んで2個の上下方向に延びる被案内スリット15、15、15が形成され、さらに、右上端部には左右方向に延びる連結スリット16が形成されている。そして、上記被案内スリット15、15、15に後板9の支持ピン12、12、12が摺動自在に挿通され、これによって、絞り羽根3は後板9に上下方向に移動自在に支持される。
【0019】他方の絞り羽根4は前方から見てほぼh字状をしており、下方に開口した切欠17を有する。絞り羽根4には左側に上下に並んで2個の、また、右側に1個の上下方向に延びる被案内スリット18、18、18が形成され、さらに、左上端部には左右方向に延びる連結スリット19が形成されている。そして、上記被案内スリット18、18、18に後板9の支持ピン12、12、12が摺動自在に挿通され、これによって、絞り羽根4は後板9に上下方向に移動自在に支持される。
【0020】そして、互いに重なった状態となる絞り羽根3、4の切欠14と17とによって絞り開口20が形成される。
【0021】中板8は光軸方向に見てほぼ正方形を為し、中央部に円形の光通過孔21が形成され、また、ほぼ4隅に取付孔22、22、・・・が形成されている。そして、該中板8の取付孔22、22、・・・に後板9の支持ピン12、12、・・・が中程まで圧入され、これによって、中板8は後板9に支持され、後板9の前側を塞ぐように前板10が取着され、これによって、中板8を挟んで後側に絞り羽根3、4の移動空間が形成され、前側にNDフィルタ部材6の移動空間が形成される。また、後板9、前板10及び中板8にそれぞれ形成された光挿通孔11、13及び21は前後方向に重なり、その中心軸は光軸X−Xと一致するようになる。
【0022】NDフィルタ部材6はフィルタ保持板23にNDフィルタ24が保持されて成る。フィルタ保持板23は前方から見て逆h字状をしており、上方へ開口したほぼU字状の切欠23aが形成され、該切欠23aを覆うようにNDフィルタ24が取着されている。フィルタ保持板23の左右両側縁には上下方向に延びる被案内スリット25、25が形成され、また、左下端部に左右方向に延びる連結スリット26が形成されている。そして、NDフィルタ部材6は中板8と前板10との間でフィルタ保持板23の被案内スリット25、25に後板9の支持ピン12、12、・・・が摺動自在に挿通され、これによって、NDフィルタ部材6は後板9に上下方向に移動自在に支持される。
【0023】絞り羽根駆動機構5は筐体2の上部後面に固定されたモータ27と該モータ27の出力軸に固定された回動アーム28とから成り、回動アーム28の両端には連結ピン29、29が前方に向かって突設されている。
【0024】筐体2の後板9の上端部の左右両側部に弧状のスリット9a、9aが形成されている。該スリット9a、9aは上記モータ27の出力軸を中心とする弧状に形成されており、該スリット9a、9aに上記連結ピン29、29が挿通され、かつ、該連結ピン29、29は絞り羽根3、4の連結スリット16、19に摺動自在に連結される。
【0025】しかして、モータ27が駆動されると回動アーム28が回動され、これによって、連結ピン29、29の一方が上昇(又は下降)、他方が下降(又は上昇)するので、絞り羽根3、4は上下方向へ、かつ、互いに逆方向へ移動され、それに応じて2つの絞り羽根3、4の切欠14、17によって形成される絞り開口20の径が変化される。
【0026】NDフィルタ駆動機構は、筐体2の下部後面に固定されたモータ30と該モータ30の出力軸に一端部が固定された回動アーム31とから成り、回動アーム31の回動端には連結ピン32が前方に向かって突設されている。
【0027】筐体2の後板9の下端部の左側部に弧状のスリット9bが形成されている。該スリット9bは上記モータ30の出力軸を中心とする弧状に形成されており、該スリット9bに上記連結ピン32が挿通され、かつ、該連結ピン32はNDフィルタ部材6の連結スリット26に摺動自在に連結される。
【0028】しかして、モータ30が駆動されると、回動アーム31が回動され、これによって、連結ピン32が上下方向に移動するので、NDフィルタ部材6は上下方向に移動される。
【0029】上記したように、絞り羽根駆動機構5及びNDフィルタ駆動機構7を各別に駆動することにより、絞り開口20の大きさを変化させ、また、NDフィルタ24の絞り開口20に対する位置関係を規定することにより、絞り開口20を透過する光量を制御するようになっている。
【0030】そして、本発明にあっては、NDフィルタ24に特徴がある。
【0031】図2はNDフィルタ24を示す拡大正面図である。NDフィルタ24は透明なシート33に蒸着あるいは写真製版の一般的な印刷工程により単一濃度の膜34、34、・・・を網点状に形成したものである。この場合、いわゆる「網点印刷」と同様の手法により網点状の膜34、34、・・・を一定のルールに従って形成する。上記NDフィルタ駆動機構7によって移動するNDフィルタ24の絞り開口20に対する位置は例えば図2R>2のa乃至eのように変化する(なお、絞り開口20を示す円は便宜上示したもので、NDフィルタ24上に描写されるものではない。)。これによって、絞り開口20を透過する光量、すなわち、透過率は段階的に変化させることができる。例えば、aでは100%、eでは膜34、34、・・・が本来有している透過率に達し、その途中(b〜c〜d)では段階的に透過率が変化する。
【0032】なお、図2に示したものは、網点34、34、・・・のピッチを一定とするルールに従って大きさを順次変化させていったものであるが、変形例も多数考えられる。例えば、図3に示すもの24Aは網点34、34、・・・の大きさを一定として形成ピッチを変えたものであるし、図4に示すもの24Bは、同じ大きさの網点34、34、・・・を数段階に粗く配置したものである。もちろん、網点34、34、・・・配置のルールはこれらの他にも種々考えることができる。
【0033】さらに、図5に示すもの24Cのように、透明シート33上に等濃度の膜35を均一に形成しておき、上記した各パターンの網点の位置に相当する位置に孔36、36、・・・を形成することによっても同様の目的を達成することができる。なお、この場合、孔36、36、・・・を実際に穿孔する替わりに、膜35の形成時に孔36、36、・・・に相当する部分が白抜きになるように、すなわち、当該箇所に膜35が形成されないようにしても良い。
【0034】上記した撮影レンズの絞り装置1にあっては、単濃度の膜を使用するものであるにもかかわらず、多濃度の膜を使用したのと同様の多段階の透過率を有するNDフィルタを得ることができる。従って、一度の膜生成工程あるいは一度の穿孔工程でNDフィルタを形成することができ、安価で高精度のNDフィルタを得ることができる。
【0035】また、多段階に濃度差を付ける必要がないため、高精度の蒸着技術あるいは印刷技術を必要とせず、この点でも安価にNDフィルタを得ることができる。
【0036】さらに、多段階の透過率を必要とする場合、従来のように、多数枚のNDフィルタをずらして重ね貼りする必要がないので、材料費も少なく、かつ、加工工数も少ないので、きわめて安価である。
【0037】さらにまた、多数枚のNDフィルタを重ね貼りしたもののように、温湿度の変化等による反りや剥離の心配がないため、信頼性の高いものとなる。
【0038】なお、上記実施の形態において示した各部の形状乃至構造は、いずれも本発明を実施するに際して行う具体化のほんの一例を示したものにすぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されるようなことがあってはならないものである。
【0039】
【発明の効果】以上に記載したところから明らかなように、本発明撮影レンズの絞り装置は、撮影レンズの光軸に直交する面上を移動し絞り開口を可変させる絞り羽根と、該絞り羽根を駆動する絞り羽根駆動機構と、撮影レンズの光軸と直交する面上を移動して透過光量を可変させるNDフィルタと、該NDフィルタを駆動するNDフィルタ駆動機構とを備えた撮影レンズの絞り装置において、上記NDフィルタを、透明なシートに同一濃度の網点を多数形成して移動方向において段階的に又は無段階的に透過光量が変化するようにして形成したことを特徴とする。
【0040】従って、本発明撮影レンズの絞り装置にあっては、網点は単濃度のものでよいため、一度の膜生成工程でNDフィルタを形成することができ、安価で高精度なNDフィルタを得ることができる。
【0041】また、別の本発明撮影レンズの絞り装置は、撮影レンズの光軸に直交する面上を移動し絞り開口を可変させる絞り羽根と、該絞り羽根を駆動する絞り羽根駆動機構と、撮影レンズの光軸と直交する面上を移動して透過光量を可変させるNDフィルタと、該NDフィルタを駆動するNDフィルタ駆動機構とを備えた撮影レンズの絞り装置において、上記NDフィルタを、透明なシートに同一濃度の膜を形成し該膜中に網点状に多数の孔を形成して移動方向において段階的に又は無段階的に透過光量が変化するようにして形成したことを特徴とする。
【0042】従って、別の本発明撮影レンズの絞り装置にあっては、NDフィルタの形成に当たっては、まず、単一濃度の膜を形成すればよく、一度の膜生成工程で足り、安価で高精度なNDフィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図面は本発明撮影レンズの絞り装置の実施の形態を示すものであり、本図は分解斜視図である。
【図2】NDフィルタを示す拡大正面図である。
【図3】NDフィルタの変形例を示す拡大正面図である。
【図4】NDフィルタの別の変形例を示す拡大正面図である。
【図5】NDフィルタのさらに別の変形例を示す拡大正面図である。
【符号の説明】
1…撮影レンズの絞り装置、3…絞り羽根、4…絞り羽根、5…絞り羽根駆動機構、7…NDフィルタ駆動機構、20…絞り開口、24…NDフィルタ、33…透明シート、34…網点、24A…NDフィルタ、24B…NDフィルタ、24C…NDフィルタ、35…膜、36…孔、X−X…光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】 撮影レンズの光軸に直交する面上を移動し絞り開口を可変させる絞り羽根と、該絞り羽根を駆動する絞り羽根駆動機構と、撮影レンズの光軸と直交する面上を移動して透過光量を可変させるNDフィルタと、該NDフィルタを駆動するNDフィルタ駆動機構とを備えた撮影レンズの絞り装置において、上記NDフィルタを、透明なシートに同一濃度の網点を多数形成して移動方向において段階的に又は無段階的に透過光量が変化するようにして形成したことを特徴とする撮影レンズの絞り装置。
【請求項2】 撮影レンズの光軸に直交する面上を移動し絞り開口を可変させる絞り羽根と、該絞り羽根を駆動する絞り羽根駆動機構と、撮影レンズの光軸と直交する面上を移動して透過光量を可変させるNDフィルタと、該NDフィルタを駆動するNDフィルタ駆動機構とを備えた撮影レンズの絞り装置において、上記NDフィルタを、透明なシートに同一濃度の膜を形成し該膜中に網点状に多数の孔を形成して移動方向において段階的に又は無段階的に透過光量が変化するようにして形成したことを特徴とする撮影レンズの絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−352736(P2000−352736A)
【公開日】平成12年12月19日(2000.12.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−163835
【出願日】平成11年6月10日(1999.6.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】