説明

撹拌・混合装置および半導体封止用樹脂組成物の製造方法

【課題】樹脂組成物中に金属製の異物が混入することを防止しつつ、混合時間を短縮することができる撹拌・混合装置および半導体封止用樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】撹拌・混合装置1は、樹脂組成物が収納される容器2と、容器2内に挿入され、樹脂組成物を撹拌する複数の撹拌部材3と、容器2を振動させる駆動装置4とを有している。各撹拌部材3は、棒状部32と、棒状部32の先端部に設けられた板状部31と、棒状部32の基端部に設けられた把持部33とを有している。また、板状部31は、棒状部32に対して垂直となるように設けられている。また、撹拌部材3は、板状部31を容器本体21の底部から離間させることにより、樹脂組成物を撹拌するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌・混合装置および半導体封止用樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の封止材により半導体チップ(半導体素子)を被覆(封止)してなる半導体パッケージが知られている。この半導体パッケージの封止材は、樹脂組成物を、例えば、トランスファー成形等により成形して得られる。
【0003】
ところで、前記樹脂組成物の製造工程には、比重の異なる複数種の粉末材料を含む樹脂組成物(組成物)を混合する工程が含まれており、その樹脂組成物の混合は、例えば、ハイスピードミキサー、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサー等の羽根を回転させて混合を行う回転羽根方式の混合装置で行われている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、これらの高速攪拌式混合機は、容器の内部に、羽根が回転可能に設置されており、容器内に樹脂組成物を収納した状態で、その羽根が回転することで、樹脂組成物が混合される。
【0004】
しかしながら、従来では、攪拌羽根が高速回転することにより、粉末状の樹脂組成物の混合を行うので、その混合の際、高速で回転する羽根が擦れて、樹脂組成物中に金属製の異物(金属異物)が混入してしまい、製造された樹脂組成物を用いて半導体チップを封止したとき、ショート等が発生するという問題がある。
【0005】
そこで、ペイントシェーカー等の振動方式の混合装置により、樹脂組成物が収納された容器を振動させ、その樹脂組成物を混合することが考えられる。これによれば、混合の際、樹脂組成物中に金属製の異物が混入してしまうことを防止(または抑制)することができる。
【0006】
しかしながら、前記ペイントシェーカーを用いると、混合に時間がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−105094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、樹脂組成物中に金属製の異物が混入することを防止しつつ、混合時間を短縮することができる撹拌・混合装置および半導体封止用樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(18)の本発明により達成される。
(1) 比重の異なる複数種の粉末材料を含む組成物を混合する撹拌・混合装置であって、
前記組成物が収納される容器と、
前記容器内に挿入され、前記組成物を撹拌する撹拌部材と、
前記容器を振動させる駆動手段とを有し、
前記撹拌部材により、前記容器内に収納された前記組成物を撹拌した後、前記駆動手段により、前記容器を振動させ、前記組成物を混合するよう構成されていることを特徴とする撹拌・混合装置。
【0010】
(2) 前記撹拌部材を複数有する上記(1)に記載の撹拌・混合装置。
(3) 前記複数の撹拌部材のそれぞれは、前記容器の底面の形状と同様の形状を複数に分割してなる板状部を有する上記(2)に記載の撹拌・混合装置。
【0011】
(4) 前記撹拌部材は、板状部を有する上記(1)または(2)に記載の撹拌・混合装置。
【0012】
(5) 前記板状部を前記容器の底部から離間させることにより、前記組成物を撹拌するよう構成されている上記(3)または(4)に記載の撹拌・混合装置。
【0013】
(6) 前記撹拌部材は、棒状部を有し、該棒状部の先端部に前記板状部が設けられている上記(3)ないし(5)のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【0014】
(7) 前記板状部は、前記棒状部に対して垂直となるように設けられている上記(6)に記載の撹拌・混合装置。
【0015】
(8) 前記駆動手段は、前記容器を少なくとも2方向に同時に振動させるよう構成されている上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【0016】
(9) 前記容器の少なくとも内面は、非金属で構成されている上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【0017】
(10) 前記撹拌部材の少なくとも外面は、非金属で構成されている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【0018】
(11) 前記複数種の粉末材料は、樹脂粒子と無機粒子とを含む上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【0019】
(12) 前記組成物は、樹脂粒子を含む第1の層と、無機粒子を含む第2の層とに分かれて前記容器内に収納される上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【0020】
(13) 半導体封止用樹脂組成物の製造方法であって、
撹拌部材により、容器内に収納された比重の異なる複数種の粉末材料を含む組成物を撹拌する撹拌工程と、
前記容器を振動させ、前記組成物を混合する混合工程とを有することを特徴とする半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【0021】
(14) 前記撹拌部材は、板状部を有し、
前記撹拌工程において、前記板状部を前記容器の底部から離間させることにより、前記組成物を撹拌する上記(13)に記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【0022】
(15) 前記混合工程において、前記容器を少なくとも2方向に同時に振動させる上記(13)または(14)に記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【0023】
(16) 前記組成物は、樹脂粒子を含む第1の層と、無機粒子を含む第2の層とに分かれて前記容器内に収納される上記(13)ないし(15)のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【0024】
(17) 前記混合工程において、前記組成物を均一に混合する上記(13)ないし(16)のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【0025】
(18) 前記均一の度合いは、前記混合工程後の前記組成物の6箇所からそれぞれ3gの前記組成物をサンプルとして抽出し、該各サンプルを燃焼させたとき、残った灰分の重量分率の標準偏差が0.2以下である上記(17)に記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、容器を振動させて組成物を混合するので、その組成物中に金属製の異物(金属異物)が混入してしまうことを防止することができ、製造された樹脂組成物を用いて半導体素子を封止したとき、ショート等の発生を防止することができる。
【0027】
また、容器を振動させて組成物を混合するのに先立って、撹拌部材により、容器内の組成物を撹拌するので、その組成物が混合され易くなり、混合時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】樹脂組成物の製造工程を示す図である。
【図2】本発明の撹拌・混合装置の実施形態を示す側面図(一部断面図)である。
【図3】図1に示す撹拌・混合装置の容器を示す斜視図である。
【図4】図1に示す撹拌・混合装置の撹拌部材を示す斜視図である。
【図5】図1に示す撹拌・混合装置の容器本体内に各撹拌部材を挿入した状態を示す平面図である。
【図6】図1に示す撹拌・混合装置の容器内に第1の組成物および第2の組成物を収納した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の撹拌・混合装置および半導体封止用樹脂組成物の製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1は、樹脂組成物の製造工程を示す図、図2は、本発明の撹拌・混合装置の実施形態を示す側面図(一部断面図)、図3は、図1に示す撹拌・混合装置の容器を示す斜視図、図4は、図1に示す撹拌・混合装置の撹拌部材を示す斜視図、図5は、図1に示す撹拌・混合装置の容器本体内に各撹拌部材を挿入した状態を示す平面図、図6は、図1に示す撹拌・混合装置の容器内に第1の組成物および第2の組成物を収納した状態を示す断面図である。
【0031】
なお、以下では、図2〜図4、図6中の上側を「上」、下側を「下」、左側を「左」、右側を「右」として説明を行う。
【0032】
図2に示す撹拌・混合装置1は、成形体(圧粉体)である樹脂組成物を製造する際の撹拌工程および混合工程で使用される装置である。この撹拌・混合装置1の説明に先立って、まずは、原材料から半導体封止用樹脂組成物を製造するまでの製造工程の全体を説明する。
【0033】
まず、樹脂組成物の原材料である各材料を用意する。
原材料は、樹脂と、硬化剤と、充填材(無機粒子)(微粒子)とを有し、さらに必要に応じて、硬化促進剤と、カップリング剤等を有している。樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。
【0034】
エポキシ樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック型、ビフェニール型、ジシクロペンタジエン型、トリフェノールメタン型、多芳香族環型等が挙げられる。
【0035】
硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック型、フェノールアラルキル型、トリフェノールメタン型、多芳香族環型等が挙げられる。
【0036】
充填材としては、例えば、溶融シリカ(破砕状、球状)、結晶シリカ、アルミナ等が挙げられる。
【0037】
硬化促進剤としては、例えば、リン化合物、アミン化合物等が挙げられる。
カップリング剤としては、例えば、シラン化合物等が挙げられる。
【0038】
なお、原材料は、前記材料のうち所定の材料が省略されていてもよく、また、前記以外の材料を含んでいてもよい。他の材料としては、例えば、着色剤、離型剤、低応力剤、難燃剤等が挙げられる。
【0039】
難燃剤としては、例えば、臭素化エポキシ樹脂、酸化アンチモン、ノンハロ・ノンアンチモン系等が挙げられる。ノンハロ・ノンアンチモン系の難燃剤としては、例えば、有機燐、金属水和物、窒素含有樹脂等が挙げられる。
【0040】
(微粉砕)
図1に示すように、原材料のうちの所定の材料については、まず、粉砕装置により、所定の粒度分布となるように粉砕(微粉砕)する。この粉砕する原材料としては、例えば、樹脂、硬化剤、促進剤等の充填材以外の原材料であるが、充填材の一部を加えることもできる。これにより、樹脂粒子等の複数種の粉末材料を含む第1の組成物が得られる。また、粉砕装置としては、例えば、連続式回転ボールミル、気流式粉砕機等を用いることができる。
【0041】
原材料のうちの所定の材料、例えば、充填材の全部又は一部(残部)については、表面処理を施す。この表面処理としては、例えば、充填材の表面にカップリング剤等を付着させる。これにより、充填材である無機粒子(粉末材料)を含む第2の組成物が得られる。なお、前記微粉砕と表面処理とは、同時に行ってもよく、また、いずれか一方を先に行ってもよい。
【0042】
(撹拌)
次に、撹拌・混合装置1により、前記微粉砕工程で得られた第1の組成物および前記表面処理工程で得られた第2の組成物、すなわち、比重の異なる複数種の粉末材料を含む樹脂組成物(組成物)を撹拌し、粗く混合する。なお、撹拌・混合装置1については、後に詳述する。
【0043】
(混合)
次に、撹拌・混合装置1により、前記粗く混合された樹脂組成物を完全に混合する。
【0044】
(混練)
次に、混練装置により、前記混合された樹脂組成物を混練する。この混練装置としては、例えば、1軸型混練押出機、2軸型混練押出機等の押出混練機やミキシングロール等のロール式混練機を用いることができる。
【0045】
(脱気)
次に、脱気装置により、前記混練された樹脂組成物に対し脱気を行う。
【0046】
(シート化)
次に、シート化装置により、前記脱気した樹脂組成物をシート状に成形し、シート状の樹脂組成物を得る。このシート化装置としては、例えば、シーティングロール等を用いることができる。
【0047】
(冷却)
次に、冷却装置により、前記シート状の樹脂組成物を冷却する。これにより、樹脂組成物の粉砕を容易かつ確実に行うことができる。
【0048】
(粉砕)
次に、粉砕装置により、シート状の樹脂組成物を所定の粒度分布となるように粉砕し、粉末状の樹脂組成物を得る。この粉砕装置としては、例えば、ハンマーミル、石臼式磨砕機、ロールクラッシャー等を用いることができる。
【0049】
尚、顆粒状又は粉末状の樹脂組成物を得る方法としては、上記のシート化、冷却、粉砕工程を経ずに、例えば、押出機の出口に小径を有するダイスを設置して、ダイスから吐出される溶融状態の樹脂組成物を、カッター等で所定の長さに切断することにより顆粒状の樹脂組成物を得るホットカット法を用いることもできる。この場合、ホットカット法により顆粒状の樹脂組成物を得た後、樹脂組成物の温度があまり下がらないうちに脱気を行うことが好ましい。
【0050】
(タブレット化)
次に、成形体製造装置(打錠装置)により、前記粉末状の樹脂組成物を圧縮成形し、成形体である樹脂組成物を得ることができる。
【0051】
この樹脂組成物は、例えば、半導体チップ(半導体素子)の被覆(封止)等に用いられる。すなわち、樹脂組成物を、例えば、トランスファー成形等により成形し、封止材として半導体チップを被覆し、半導体パッケージを製造する。
【0052】
なお、前記タブレット化の工程を省略し、粉末状の樹脂組成物を用い、例えば、圧縮成形、射出成形等により、封止材を成形してもよい。
【0053】
次に、撹拌・混合装置1について説明する。
図2〜図5に示すように、撹拌・混合装置1は、比重の異なる複数種の粉末材料を含む樹脂組成物(組成物)を混合する装置であり、樹脂組成物が収納される容器2と、容器2内に挿入(設置)され、樹脂組成物を撹拌する撹拌部材3と、容器2を振動させる(振り動かす)駆動装置(駆動手段)4とを有している。この撹拌・混合装置1では、まず、撹拌部材3により、容器2内に収納された樹脂組成物を撹拌し、その後、駆動装置4により、容器2を振動させ、その容器2内の樹脂組成物を混合する。なお、前記複数種の粉末材料は、樹脂粒子と無機粒子とを含んでいる。
【0054】
駆動装置4は、基台44と、スライダ43と、容器2を着脱自在に保持するホルダ(保持部)45と、ホルダ45を所定方向に振動させる第1の振動機構(第1の駆動機構)41と、スライダ43を前記第1の振動機構41と異なる方向に振動させる第2の振動機構(第2の駆動機構)42とを有している。
【0055】
ホルダ45は、容器2を着脱自在に保持し得るように、その容器2に対応した形状をなしている。図示の構成では、ホルダ45は、有底円筒状(有底筒状)をなしている。また、ホルダ45の外周面には、左側に向かって突出する突起451が形成されている。
【0056】
第1の振動機構41は、モータ410を有しており、その回転軸411の先端部は、突起451の先端部に接続されている。なお、回転軸411と突起451との間には、図示しない変速機構等が設置されていてもよい。
【0057】
モータ410は、その回転軸411が正方向と逆方向とに交互に所定角度ずつ回転(回動)するように駆動制御されるよう構成されている。
【0058】
モータ410が作動し、その回転軸411が正方向と逆方向とに交互に所定角度ずつ回転、すなわち、回転軸411が回転方向に振動すると、ホルダ45は、回転軸411と共に正方向と逆方向とに交互に所定角度ずつ回転、すなわち、回転軸411を回転中心にしてその回転方向に振動する。そして、容器2がホルダ45に保持されていれば、その容器2は、ホルダ45と共に回転軸411の回転方向に振動する。
【0059】
レール421は、基台44上に設けられている。また、レール421は、左右方向に沿って延在している。すなわち、レール421は、ホルダ45の突起451やモータ410の回転軸411と平行になるように形成されている。
【0060】
また、スライダ43は、基台44上に、レール421に沿って左右方向に移動可能に設置されている。前記モータ410は、このスライダ43に固定されており、モータ410およびホルダ45は、スライダ43と共に、レール421に沿って左右方向に移動するようになっている。
【0061】
第2の振動機構42は、前記レール421と、図示しないモータと、モータの駆動力をスライダ43に伝達する図示しない駆動力伝達手段とを有している。
【0062】
この第2の振動機構42の駆動力伝達手段は、モータの作動により、スライダ43をレール421に沿って左右方向に移動させるよう構成されている。また、第2の振動機構42のモータは、スライダ43をレール421に沿って左方向と右方向とに交互に所定距離ずつ移動させるように駆動制御されるよう構成されている。
【0063】
第2の振動機構42のモータが作動すると、スライダ43がレール421に沿って左方向と右方向とに交互に所定距離ずつ移動、すなわち、スライダ43が左右方向に振動する。これにより、スライダ43と共に、第1の振動機構41のモータ410およびホルダ45が、レール421に沿って左方向と右方向とに交互に所定距離ずつ移動、すなわち、左右方向に振動する。そして、容器2がホルダ45に保持されていれば、その容器2は、ホルダ45と共に左右方向に振動する。
【0064】
このように、第1の振動機構41および第2の振動機構42により、ホルダ45およびそのホルダ45に保持された容器2は、2方向、すなわち、回転軸411の回転方向および左右方向に、同時に振動する。これにより、容器2内の樹脂組成物が混合される。この撹拌・混合装置1では、容器2を振動させて樹脂組成物を混合するので、ヘンシェルミキサー等の羽根を回転させて混合を行う回転羽根方式の混合装置を用いる場合のような容器内面や羽根の摩耗の問題がなく、これにより、樹脂組成物中に金属製の異物(金属異物)が混入してしまうことを防止(または抑制)することができる。
【0065】
また、振動機構は必ずしも2部に分かれている必要はなく、一つの駆動部に2方向の振動動作を行わせてもよい。
【0066】
容器2は、密閉可能であり、樹脂組成物が収納される容器本体21と、容器本体21に対して着脱自在に装着される蓋体22とを有している。すなわち、容器2は、蓋体22が容器本体21に装着された状態では、容器本体21(容器2)内が密閉(液密に封止)されるように構成されている。また、容器本体21は、有底筒状(有底円筒状)をなしている。
【0067】
撹拌・混合装置1は、複数(図示の構成では4つ)の撹拌部材3を有している。各撹拌部材3は、棒状部32と、棒状部32の先端部(図4中下側)に設けられた板状部31と、棒状部32の基端部(図4中上側)に設けられた把持部33とを有している。板状部31は、棒状部32に対して垂直となるように設けられている。
【0068】
また、各撹拌部材3のそれぞれは、容器本体21(容器2)の底面の形状と同様(同一)の形状(図示の構成では円形)を複数(図示の構成では4つ)に分割してなる形状の板状部31を有している。この場合、各板状部31は、等角度間隔(図示の構成では90°間隔)で分割されている。すなわち、各板状部31は、中心角がすべて等しい(図示の構成では中心角が90°をなす)扇形をなしている。
【0069】
この撹拌部材3は、板状部31を容器本体21の底部から離間させることにより、樹脂組成物を撹拌するよう構成されている。すなわち、撹拌部材3は、初めは、その板状部31が容器本体21の底部に位置するように配置されており、撹拌部材3を容器2内から引き上げることにより、板状部31が容器本体21の底部から離間し、その際、板状部31により、樹脂組成物が撹拌され、粗く混合される。
【0070】
なお、容器本体21の底部に板状部31が位置するように各撹拌部材3が配置された状態では、前述したように、各撹拌部材3の板状部31の全体の形状(各板状部31を合わせた形状)は、容器本体21の底面の形状と同様の形状をなしている。これにより、容器本体21内の樹脂組成物をもれなく撹拌することができる。
【0071】
容器2の構成材料は、特に限定されないが、容器2の少なくとも内面は、非金属で構成されていることが好ましい。この場合、容器2の全体を非金属で構成してもよい。
【0072】
また、撹拌部材3の構成材料は、特に限定されないが、撹拌部材3の少なくとも表面は、非金属で構成されていることが好ましい。この場合、撹拌部材3の全体を非金属で構成してもよい。
【0073】
これにより、樹脂組成物の撹拌や混合の際、樹脂組成物中に金属製の異物が混入してしまうことを防止することができ、製造された樹脂組成物を用いて半導体チップを封止したとき、ショート等の発生を防止することができる。具体的には、撹拌・混合装置1による樹脂組成物の撹拌および混合後の樹脂組成物中の金属の増加率を1.0wtppm以下、特に、0.1wtppm以下とすることができる。
【0074】
前記非金属材料としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス材料や、表面をゴム、ナイロン等の樹脂材料で被覆したもの等が挙げられ、これらのうちでは、樹脂材料で被覆したものが好ましい。
【0075】
なお、撹拌部材3の個数は、4つに限定されず、1〜3つ、または5つ以上であってもよいが、複数が好ましい。撹拌部材3を複数個設けることにより、容易、迅速かつ確実に、樹脂組成物を撹拌することができる。
【0076】
次に、撹拌工程および混合工程と、その工程における撹拌・混合装置1の作用を説明する。
【0077】
(撹拌工程)
この撹拌(予備撹拌)工程では、撹拌・混合装置1により、粉末状の樹脂組成物、すなわち、微粉砕工程で得られた第1の組成物および表面処理工程で得られた第2の組成物を撹拌する。
【0078】
まずは、各撹拌部材3を容器本体21内に挿入し、容器本体21の底部に各板状部31が位置するように各撹拌部材3を載置(設置)する。この状態では、各撹拌部材3の板状部31の全体の形状は、容器本体21の底面の形状と同様となる。
【0079】
次に、容器本体21内に樹脂組成物を収納する。この場合、容器本体21内に、まずは、第1の組成物と第2の組成物とのうちの一方を収納し、次いで、その上に他方を収納する。これにより、樹脂組成物は、図6に示すように、樹脂粒子を含む第1の組成物で形成された第1の層51と、無機粒子(充填材)を含む第2の組成物で形成された第2の層52とに分かれて容器本体21内に収納される。
【0080】
なお、第1の層51と第2の層52とのいずれを下層にしてもよい(図示では、第1の層51が下層になっている)が、比重の小さい方を下層にすることが好ましい。これにより、後述する混合工程において、樹脂組成物を短時間で均一に混合することができる。
【0081】
次に、各撹拌部材3を1つずつ順番に容器本体21内から引き上げる。この順番は、特に限定されず、例えば、時計回りの順番や、反時計回りの順番等が挙げられる。撹拌部材3を容器本体21内から引き上げることにより、板状部31が容器本体21の底部から離間し、その際、板状部31により、第1の層51と第2の層52とに分かれていた樹脂組成物が撹拌され、粗く混合される。これにより、混合工程において、樹脂組成物を短時間で均一に混合することができる。
【0082】
なお、撹拌部材3を引き上げた際、板状部31上に残った樹脂組成物は、その板状部31を傾斜させ、ヘラ等の器具を用いて容器本体21内に戻す。
【0083】
なお、撹拌部材3を引き上げる際は、その撹拌部材3を鉛直方向(棒状部32の軸方向)に移動させることが好ましい。
【0084】
また、撹拌部材3を引き上げる際、例えば、撹拌部材3をその棒状部32の軸を中心に回転させてもよい。
【0085】
(混合工程)
この混合(本混合)工程では、撹拌・混合装置1により、撹拌工程で撹拌(粗く混合)された樹脂組成物を混合する。
【0086】
まずは、容器本体21に蓋体22を装着し、その容器本体21内を密閉する。
次に、容器2を駆動装置4のホルダ45に取り付け、保持させ、駆動装置4を作動させる。これにより、第1の振動機構41および第2の振動機構42により、容器2は、2方向、すなわち、回転軸411の回転方向および図2中の左右方向に、同時に振動し、樹脂組成物が混合される。また、蓋体22はホルダ45と一体でもかまわない。
【0087】
この各方向の振動の振動数(周波数)は、それぞれ、特に限定されないが、5〜8サイクル/秒程度であることが好ましく、6〜8サイクル/秒程度であることがより好ましい。なお、各方向の振動の振動数は、同じであってもよく、また、異なっていてもよい。
【0088】
また、混合時間は、特に限定されないが、1〜7分程度であることが好ましく、3〜5分程度であることがより好ましい。混合時間が短いと混合度が不足し、混合時間が長いと内容物の温度が上がり好ましくない。
【0089】
この混合工程において、樹脂組成物は均一に混合される。その均一の度合いは、下記の標準偏差が0.2以下であることが好ましく、0.0〜0.1程度であることがより好ましい。
【0090】
ここで、前記標準偏差は、混合工程後の樹脂組成物の6箇所からそれぞれ3gの樹脂組成物をサンプルとして抽出し、各サンプルを灰化させ、残った灰分の重量分率の標準偏差(灰分バラツキ)である。
【0091】
以上、本発明の撹拌・混合装置および半導体封止用樹脂組成物の製造方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物や、工程が付加されていてもよい。
【0092】
また、本実施形態では、混合工程において、容器を2方向に同時に振動させるよう構成されているが、本発明では、これに限らず、混合工程において、例えば、容器を1方向に振動、または3以上の方向に同時に振動させるよう構成されていてもよい。
【0093】
以上説明したように、この撹拌・混合装置1によれば、樹脂組成物中に金属製の異物が混入してしまうことを防止することができ、製造された樹脂組成物を用いて半導体チップを封止したとき、ショート等の発生を防止することができる。
【0094】
また、容器2を振動させて樹脂組成物を混合するのに先立って、撹拌部材3により、容器2内の樹脂組成物を撹拌するので、その樹脂組成物が混合され易くなり、混合時間を短縮することができる。
【実施例】
【0095】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
<第1の組成物の原材料>
ビフェニール型エポキシ樹脂:7.1重量部
(油化シェルエポキシ(株)製YX4000H、融点105℃、エポキシ当量195)
フェノールアラルキル樹脂:6.4重量部
(三井化学(株)製XLC−3L、150℃の溶融粘度2.0ポイズ、水酸基当量172)
1、8−ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン−7:0.2重量部
溶融シリカ:20.0重量部
カルナバワックス:0.5重量部
カーボンブラック:0.3重量部
【0096】
<第2の組成物の原材料>
溶融シリカ(平均粒径16μm):63.0重量部
エポキシシランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン):0.5重量部
【0097】
[1]第1の組成物の製造
連続式回転ボールミルを用い、上記第1の組成物の原材料を粉砕し、その粒度分布を下記のように調整し、第1の組成物を得た。
【0098】
粒径250μm以上が0wt%、粒径150μm以上、250μm未満が2wt%、粒径150μm未満が98wt%。
【0099】
[2]第2の組成物の製造
リボンブレンダーを用い、溶融シリカの表面にエポキシシランカップリング剤を付着させ、第2の組成物を得た。
【0100】
(実施例1)
前述した図2に示す撹拌・混合装置1を用い、下記のようにして、第1の組成物および第2の組成物を混合し、粉末状の樹脂組成物を得た。
【0101】
まずは、4つの撹拌部材3が容器本体21内に挿入されている状態で、その容器本体21内に、第1の組成物を収納し、その上に第2の組成物を収納した。これにより、下層に第1の組成物からなる第1の層が形成され、上層に第2の組成物からなる第2の層が形成された。
【0102】
次に、各撹拌部材3を時計回りの順番に1つずつ容器本体21内から引き上げ、容器本体21内の樹脂組成物を撹拌した。各撹拌部材3の板状部31の上面の面積は、380cmであり、引き上げ速度は、0.2m/sとした。
【0103】
次に、容器本体21に蓋体22を装着し、その容器本体21内を密閉し、容器2を駆動装置4のホルダ45に取り付け、駆動装置4を作動させ、容器2を2方向に同時に振動させ、樹脂組成物を混合した。この混合条件としては、回転軸411の回転方向の振動の振動数は、7サイクル/秒、図2中の左右方向の振動の振動数は、7サイクル/秒とし、混合時間は、3分とした。
【0104】
(比較例1)
撹拌部材3による撹拌を行わない以外は、前記実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0105】
(比較例2)
撹拌部材3による撹拌を1回行い、駆動装置4により容器2を振動させることによる混合を行わない以外は、前記実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0106】
(比較例3)
撹拌部材3による撹拌を行わず混合時間を8分とし、前記実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0107】
[評価]
実施例1、比較例1、2および3に対し、それぞれ、下記のようにして樹脂組成物の均一性の評価を行った。
【0108】
まず、混合後の容器2内の樹脂組成物のうちの下記の箇所からそれぞれ3g分をサンプルとして抽出した。サンプルの抽出箇所は、容器2内の樹脂組成物の上端部における外周部および中心部と、中央部における外周部および中心部と、下端部における外周部および中心部の6箇所とし、6つのサンプルを得た。
【0109】
次に、各サンプルを、700℃のオーブンで、180分間処理した。
次に、各サンプルの処理後に残った灰分の重量を測定し、その灰分の重量分率の標準偏差を求めた。また、混合後の混合物について、熱電対温度計を用いてその内部温度を計測した。その結果は、下記の通りである。
【0110】
実施例1における標準偏差:0.04、 混合物温度:25℃
比較例1における標準偏差:0.25、 混合物温度:25℃
比較例2における標準偏差:9.03、 混合物温度:20℃
比較例3における標準偏差:0.10、 混合物温度:30℃
【0111】
上記の結果から、実施例1では、混合後の樹脂組成物の均一性が良好であることが判る。
これに対し、撹拌部材による撹拌を行わなかった比較例1と、撹拌部材による撹拌のみを行を行った比較例2では、いずれも混合後の樹脂組成物の均一性が不良であることが判る。撹拌部材による撹拌を行わなかった比較例3は混合時間が長いため十分な均一性は得られるが、混合物の温度が上昇し固結などの不具合を起こすこととなる。
【符号の説明】
【0112】
1 撹拌・混合装置
2 容器
21 容器本体
22 蓋体
3 撹拌部材
31 板状部
32 棒状部
33 把持部
4 駆動装置
41 第1の振動機構
410 モータ
411 回転軸
42 第2の振動機構
421 レール
43 スライダ
44 基台
45 ホルダ
451 突起
51 第1の層
52 第2の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比重の異なる複数種の粉末材料を含む組成物を混合する撹拌・混合装置であって、
前記組成物が収納される容器と、
前記容器内に挿入され、前記組成物を撹拌する撹拌部材と、
前記容器を振動させる駆動手段とを有し、
前記撹拌部材により、前記容器内に収納された前記組成物を撹拌した後、前記駆動手段により、前記容器を振動させ、前記組成物を混合するよう構成されていることを特徴とする撹拌・混合装置。
【請求項2】
前記撹拌部材を複数有する請求項1に記載の撹拌・混合装置。
【請求項3】
前記複数の撹拌部材のそれぞれは、前記容器の底面の形状と同様の形状を複数に分割してなる板状部を有する請求項2に記載の撹拌・混合装置。
【請求項4】
前記撹拌部材は、板状部を有する請求項1または2に記載の撹拌・混合装置。
【請求項5】
前記板状部を前記容器の底部から離間させることにより、前記組成物を撹拌するよう構成されている請求項3または4に記載の撹拌・混合装置。
【請求項6】
前記撹拌部材は、棒状部を有し、該棒状部の先端部に前記板状部が設けられている請求項3ないし5のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【請求項7】
前記板状部は、前記棒状部に対して垂直となるように設けられている請求項6に記載の撹拌・混合装置。
【請求項8】
前記駆動手段は、前記容器を少なくとも2方向に同時に振動させるよう構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【請求項9】
前記容器の少なくとも内面は、非金属で構成されている請求項1ないし8のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【請求項10】
前記撹拌部材の少なくとも外面は、非金属で構成されている請求項1ないし9のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【請求項11】
前記複数種の粉末材料は、樹脂粒子と無機粒子とを含む請求項1ないし10のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【請求項12】
前記組成物は、樹脂粒子を含む第1の層と、無機粒子を含む第2の層とに分かれて前記容器内に収納される請求項1ないし11のいずれかに記載の撹拌・混合装置。
【請求項13】
半導体封止用樹脂組成物の製造方法であって、
撹拌部材により、容器内に収納された比重の異なる複数種の粉末材料を含む組成物を撹拌する撹拌工程と、
前記容器を振動させ、前記組成物を混合する混合工程とを有することを特徴とする半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記撹拌部材は、板状部を有し、
前記撹拌工程において、前記板状部を前記容器の底部から離間させることにより、前記組成物を撹拌する請求項13に記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記混合工程において、前記容器を少なくとも2方向に同時に振動させる請求項13または14に記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記組成物は、樹脂粒子を含む第1の層と、無機粒子を含む第2の層とに分かれて前記容器内に収納される請求項13ないし15のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
前記混合工程において、前記組成物を均一に混合する請求項13ないし16のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
前記均一の度合いは、前記混合工程後の前記組成物の6箇所からそれぞれ3gの前記組成物をサンプルとして抽出し、該各サンプルを燃焼させたとき、残った灰分の重量分率の標準偏差が0.2以下である請求項17に記載の半導体封止用樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−167970(P2011−167970A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34899(P2010−34899)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】