攪拌装置,攪拌方法、および遺伝子自動検査装置
【課題】狭い容器底の液体を確実に攪拌する、分注チップ攪拌後の反応液エアロゾルが拡散しコンタミネーションリスクが高いといった課題を全て解決する形で攪拌を実施する攪拌装置を提供する。
【解決手段】本発明の攪拌装置は、容器を垂直に架設可能な架設台、該架設台を回転させる回転駆動体、および該回転駆動体の回転を制御する制御部を備え、前記架設台の容器設置部の中心は前記回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、上記制御部が、高速回転と遅速回転または回転停止とを交互に実施する。これにより、容器底の狭い微量容器であっても、反応容器底の反応液まで効率的に攪拌できる。
【解決手段】本発明の攪拌装置は、容器を垂直に架設可能な架設台、該架設台を回転させる回転駆動体、および該回転駆動体の回転を制御する制御部を備え、前記架設台の容器設置部の中心は前記回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、上記制御部が、高速回転と遅速回転または回転停止とを交互に実施する。これにより、容器底の狭い微量容器であっても、反応容器底の反応液まで効率的に攪拌できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の反応溶液を非接触で攪拌する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分析における従来の反応溶液の攪拌方法としては、大きく接触攪拌と非接触攪拌とに区別できる。接触攪拌の場合、攪拌棒を用いる方法とシリンジ機構等を用いた吸引吐出による方法が主である。攪拌棒を用いる方法は、攪拌棒の先端を反応溶液に挿入し、攪拌棒を回転させることで、溶液の攪拌を行う。溶液攪拌後は、他サンプルへのキャリーオーバーを防ぐために、攪拌棒先端を洗浄する。本方式は先端形状を工夫することによって、攪拌されにくい溶液も効果的に攪拌できる。また、シリンジ機構等を用いた吸引吐出による方法は、分注プローブまたは分注チップ先端を反応溶液に挿入し、反応液を吸引吐出することによって、溶液の攪拌を行う。溶液攪拌後は分注プローブを用いた場合は、キャリーオーバーを防ぐために分注プローブ先端および内壁を洗浄する。また、使い捨ての分注チップを用いた場合は、使用した分注チップを廃棄する。
【0003】
非接触攪拌の場合、反応容器を固定し反応液に超音波を当てることによる攪拌方法と、反応容器と共に反応溶液を激しく動かす機構を用いた攪拌方法が主である。超音波を用いた攪拌方法は、反応容器の周囲を液体で満たし、周囲の液体を通して反応液に超音波を当てることによって、反応溶液を激しく動かし効果的に攪拌を実施していた。また、反応容器を激しく動かす機構を用いる方法は、反応容器を攪拌機構に載せて、攪拌機構を動作させることで攪拌を実施する。より具体的には、特許文献1の攪拌機構によれば、図1(A)(B)に示すように反応容器上部を固定し、反応容器底を偏心して回転させることによって攪拌を実施していた。また、免疫自動分析装置(Roche社)で実施されている攪拌機構によれば、図1(C)に示すように反応容器のほぼ中間を固定し、反応容器底と反応容器上部を回転させることによって、攪拌を実施していた。
【0004】
特に、微量の反応液量および非接触の攪拌方法が求められる検査として例えばウイルスの核酸を増幅して検出する遺伝子検査が挙げられる。遺伝子検査は理論的には1分子のウイルス核酸でも指数関数的に増幅することによって検出可能な検査法であり、PCR法を始めとしてLAMP法,NASBA法,TMA法等多くの分析法が存在する。これらの分析法の特徴としては、反応液量が微量であること、微量なために反応容器の形状が特殊であること、非常に感度が高いためキャリーオーバーのリスクが高いことが挙げられ、反応液調製後に指数関数的な増幅が始まるため、微量な反応液の飛散も偽陽性のリスクとなる。従って、従来の手作業による遺伝子検査では、微量溶液に対応した反応容器で、キャリーオーバーのリスクが低い攪拌方法として、ボルテックス攪拌と遠心機を組合せることによる非接触攪拌を実施していた。より具体的には、ボルテックス攪拌は偏心回転と同時に上下動を伴う攪拌機構であり、反応溶液を反応容器内全体に飛散させ、遠心機により集液することによって効果的な攪拌を実施する。このとき、反応容器の先端が細く攪拌機構を用いた攪拌方式で攪拌されにくい反応容器でも攪拌が可能であった。
【0005】
また、激しい攪拌によって活性を失い易い酵素を含む反応液の場合、前述の機械的なボルテックスミキサーを用いた攪拌方法は実施せずに、反応容器底を手でたたいて攪拌するタッピング操作によって攪拌していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接触攪拌では、反応容器に蓋が存在する場合は、蓋開閉の工程を必要とし、自動分析装置では追加機構が必要な問題があった。また、攪拌棒を用いる方式や分注プローブを用いる方式で洗浄工程を必要とし、自動分析装置では追加機構および動作が必要であった。また、本洗浄工程では、1コピーの標的核酸から検出可能な遺伝子検査の場合、キャリーオーバーを防ぐ洗浄が困難な課題があり、偽陽性の原因となる問題があった。また、反応液量が微量の場合には洗浄時に攪拌棒先端に付着する洗浄液の反応系への持ち込みによる、反応液量の変化が分析反応に影響を及ぼすことも課題であった。また、分注チップを用いる吸引吐出による攪拌方式の場合、分注チップ先端にサンプルを含む反応溶液が付着するため、廃棄時にサンプル汚染のリスクが大きかった。
【0008】
非接触攪拌として、超音波攪拌を用いる場合は、反応容器周囲に超音波を伝導させるために液体で満たす必要があり、反応温度制御に液体を使用しない場合には適用が困難であった。また、超音波は多量の泡を発生させるため、微量反応および検出の場合、発生した泡が検出に影響する問題があった。また、特許文献1に示す免疫自動分析装置(e170,Roche社)で適用されているような回転軸を斜めにする攪拌機では、微量液量に対応するために反応容器底形状を極端に狭くしたときに、反応容器底の液体が反応容器の振り子運動による攪拌動作では動きにくく、攪拌が困難な問題があった。特に、特許文献1に示される構成、つまり、反応容器上端を固定し、反応容器底を偏心させる場合、回転速度および偏心距離を大きくしても、反応容器底の液体は動きにくいままであり、容器底の液体を完全に攪拌できない問題があった。また、粘性の異なる複数の反応液を逐次的に攪拌する場合、粘性の違いによって攪拌され易さが異なるため、特許文献1に示される単一の攪拌動作では攪拌が困難な問題があった。
【0009】
また、遺伝子検査のような100μl以下の微量な反応を自動化する装置においては、反応容器底の狭い特殊な形状の容器が必要である。当該容器を使用した攪拌工程として、キャリーオーバーを防ぐ、泡の発生を抑える、狭い容器底の液体を確実に攪拌する、分注チップ攪拌後の反応液エアロゾルが拡散しコンタミネーションリスクが高いといった課題を全て解決する形で攪拌を実施することは困難であった。さらに、遺伝子検査においては、激しい攪拌によって失活しやすい酵素が多く、従来の激しいボルテックス攪拌では反応酵素が失活する問題があった。また、前処理や反応時に高温に制御する必要がある場合、ミネラルオイルを添加し、反応液上層にミネラルオイルの膜を形成させ蒸発を防いでいた。このような分析法の場合、激しい攪拌を実施するとミネラルオイルが高い粘性のために容器底に接着するため、容器底からの反応検出が不良になる問題があった。また、遺伝子検査装置として粘性の異なる複数の分析項目を依頼された場合、粘性の異なる反応液を逐次的に攪拌できることが求められるが、特許文献1に示す単一の動作のみで攪拌を実施した場合、全ての分析項目に対応することは困難であった。また、LAMP法,NASBA法,TMA法のような定温増幅の場合、酵素を添加した時点で増幅が始まるため、酵素添加後の攪拌時に温度が極端に高い場合や、低い場合に増幅反応に影響する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
少なくとも反応容器を架設する架設台、架設台を回転させる回転駆動体、そして回転駆動体の回転を制御する制御部で構成され、架設台の反応容器設置部の中心は回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、かつ反応容器の回転軸が垂直であることを特徴とする攪拌機構を用い、上記制御部は架設台に対して、高速回転と遅速回転または回転停止を繰返し実施することを特徴とする装置。
【0011】
また、当該攪拌機構と攪拌機構周囲に温度調節機構を備え、反応容器を架設する搬送機構,反応容器に反応液を添加する分注機構,反応を検出する検出器を備え、分注機構で反応容器に反応液を添加した後、搬送機構によって反応容器を攪拌機構に設置し、温度調節機構により所定の温度に維持した状態で前述の攪拌装置で攪拌する遺伝子検査装置。また、分析項目によって試薬の粘性が異なる場合、分析項目に応じて攪拌制御部の制御動作を切り換える遺伝子検査装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明を実施することによって、非接触で攪拌可能であり、キャリーオーバーを防ぐことができる。さらに、完全に容器を密閉した状態で攪拌可能なため、攪拌時および攪拌後の攪拌棒または攪拌チップによる反応液の飛散を完全に防止できる。さらに、容器底の狭い微量容器であっても、反応容器底の反応液まで効率的に攪拌できる。さらに、粘性の異なる複数の反応液を連続的に攪拌できる。さらに、反応液上層にミネラルオイルがある場合でも、ミネラルオイルを容器底に接触させることなく攪拌できる。さらに、従来、用手法でのみ実現できていたタッピングによる攪拌を自動で実現する攪拌方法であるため、ボルテックスのような激しい攪拌で失活しやすい酵素に対して、失活を抑えて攪拌できる。本攪拌機構と攪拌機構周囲に温度調節機構を設置する構成によって、温度に敏感かつ高感度でコンタミネーションのリスクの高い遺伝子検査においても自動で攪拌を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の攪拌装置の概略を示す図であり、(A)は容器設置穴が一つのものであり、(B)は容器設置穴が複数のものである。(C)は回転停止/遅速回転、および高速回転時の容器内の反応液の様子を示す図である。
【図2】本発明の攪拌装置の概略を示す図である。
【図3】ユーザとシステムの処理フローを示す図である。
【図4】本発明の遺伝子自動検査装置の概略を示すブロック図である。
【図5】遺伝子検査装置の概略構成を示す平面図である。
【図6】図5に示す遺伝子検査装置に移動機構を加えた図である。
【図7】図5に示す遺伝子検査装置および外部装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の最良の形態の一つは、少なくとも反応容器を架設する架設台、架設台を回転させる回転駆動体、そして回転駆動体の回転を制御する制御部で構成され、架設台の反応容器設置部の中心は回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、かつ反応容器の回転軸が垂直であることを特徴とする攪拌機構を用い、上記制御部は架設台に対して、高速回転と遅速回転または回転停止を繰返し実施することを特徴とする攪拌装置。
【0015】
もう一つの本発明の最良の形態は、少なくとも分注機構,反応容器搬送機構,攪拌機構,検出機構,制御部を持ち、攪拌機構は前述の構成および攪拌方法であることを特徴とする遺伝子検査装置である。好ましくは、攪拌中の温度変化が検査結果に影響する場合は、攪拌機構の周囲に温度制御機構を備える構成であって、より好ましくは分析項目によって試薬の粘性が異なる場合、分析項目に応じて攪拌制御部の制御動作を切り換えることを特徴とする遺伝子検査装置。
【0016】
本発明は、微小容器に対して反応容器の攪拌、様々な検討を行った結果、本発明に至ったものである。
【0017】
以下、本発明を適用した図面を用いて本発明を実現する装置構成と動作方法を詳細に説明するが、本発明は、反応容器を架設する架設台、架設台を回転させる回転駆動体、そして回転駆動体の回転を制御する制御部で構成され、架設台の反応容器設置部の中心は回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、かつ反応容器の回転軸が垂直であることを特徴とする攪拌機構を用い、上記制御部が、高速回転と、遅速回転または回転停止を交互に繰返し実施できればよく、以下に記述する具体例に限定されない。
【0018】
本発明に必要とする最低限の機構と構成を図1(A)(B)に示す。図1(A)(B)に示すように、本発明は少なくとも反応容器を架設する架設台、架設台を回転させる回転駆動体、そして回転駆動体の回転を制御する制御部で構成され、架設台の反応容器設置部の中心は回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、かつ反応容器の回転軸が垂直であることを特徴とする攪拌機構で構成される。より好ましくは、架設台と回転駆動体は連結機構によって連結され、架設台に多数の反応容器を架設できる。
【0019】
本発明における反応容器とは、攪拌すべき反応液を封入した容器であればよく、反応容器に限定されないが、特に狭い容器底の反応容器を用いる場合に、本発明の特徴的な効果の一つである、反応容器底の反応液の効果的な攪拌を実施できる。狭い容器底の反応容器とは、容器底の幅が3mm以下の幅を意味し、具体的には、分子生物学用のPCRチューブの底形状であるが、本発明は当該具体例に限定されない。本発明における「反応液」とは、生化学検査,遺伝子検査等、従来の一般的に用いられる試薬であればいかなる試薬でもよく、特に激しい攪拌で失活しやすい酵素を攪拌する場合に本発明の特徴的な効果の一つである酵素の失活を防いだ攪拌を実施できる。また、本発明は反応液の上層に蒸発を防ぐためのミネラルオイルが添加されていても効果的な攪拌が可能である。
【0020】
本発明における架設台とは、図1(A)(B)に示すように反応容器を架設可能な穴が少なくとも一つ空いており、攪拌動作により反応容器の垂直軸が傾かないことを特徴とする。より好ましくは多数の反応容器を架設可能、もしくは、複数穴の空いた反応プレートを設置可能である。より、具体的には、PCRチューブを垂直に架設可能であり、または、96穴のPCRプレートを架設できる。
【0021】
本発明における回転駆動体とは、架設台を一定速度で回転させることが可能で、好ましくは速度,回転方向が可変であればよく、当該駆動機構としてはいかなる機構を用いてもよい。より好ましくは、ステッピングモータを用いる。回転駆動体を制御する制御部としては、図2に示す構成を制御可能であればいかなる構成でもよい。
【0022】
本発明を実現する攪拌動作方法としては、反応液を反応容器内の片側に偏らせる高速回転と、反応容器内の反応液を静置状態に戻す遅速回転または回転停止を交互に繰返し実施することで、反応容器底の反応液まで反応容器内で大きく移動させて攪拌する。より、好ましくは反応液の粘性が増大すると、高速回転と遅速回転または回転停止を交互に繰返す回数そして/または高速回転の回転速度が増加する。
【0023】
本発明における高速回転とは、回転中心を中心として回転の遠心力により反応液が反応容器の内壁に伸びる状態となる回転を意味する。本回転速度は偏心距離と反比例し、偏心距離が大きければ回転速度は小さくなる一方、攪拌機構の大きさも大きくなるデメリットがあるが、本発明は、回転中心を中心として回転の遠心力により反応液が反応容器の内壁に伸びる状態となれば、回転速度および偏心距離をいかなる設定にしてもよい。本発明の「反応液が反応容器の内壁に伸びる状態」とは、高速回転中の液面最下点が回転前の液面高さの半分以下となればよく、回転速度と偏心距離に限定されない。なお、本発明における偏心距離とは、回転の振幅距離を意味する。より、具体的には図1(A)(B)に示す構成の場合は反応容器の中心と回転中心の距離を意味する。
【0024】
本発明における遅速回転または回転停止とは、反応液の液面を水平状態にできればよく、回転駆動体の回転速度に限定されない。本発明における高速回転と遅速回転または回転停止を交互に繰返す動作は、高速回転と遅速回転または回転停止を交互に切り換えることできればよく、高速回転時間,遅速回転時間または回転停止時間の長さに限定されず、ここで繰返される高速回転の速度は毎回異なる速度でも、同じ速度でもよい。より好ましくは、攪拌時間を短縮するために遅速回転時間または回転停止時間の長さは短いほどよい。また、反応液の粘性が高ければ、高速回転の速度または時間または偏心距離とを増やし、高速回転と遅速回転または回転停止の繰返し回数を増やすことで効果的な攪拌が可能である。
【0025】
本発明のもう一つの形態として、図5,図6,図7に示すように、少なくとも分注機構,反応容器搬送機構,攪拌機構,検出機構,制御部を持ち、前述の構成および攪拌方法であることを特徴とする遺伝子検査装置である。本発明における攪拌中の温度変化が検査結果に影響する場合は、攪拌機構の周囲に温度制御機構を備える構成であって、攪拌機構が、依頼された検査に応じて使用する試薬の液性が変化する場合は、依頼された検査に応じて攪拌方法を変更するとよい。好ましくは、攪拌機構において攪拌前に反応容器に蓋をする機構を持つ。
【0026】
本発明における遺伝子検査とは、特定の遺伝子を増幅して特異的に検出可能であればよく遺伝子検査法に限定されない。具体的な例としては、Polymerase chain reaction(PCR法),Nucleic Acid Sequencing Based Amplification法(NASBA法),LAMP法,TMA法,SDA等が挙げられるが、本発明は、特定の遺伝子を増幅検出可能であれば良く、これらの具体例に限定されない。
【0027】
本発明における分注機構とは、遺伝子検査に用いる反応液を分析に必要な精度で分注可能であればよく、分注方法,分注方式に限定されない。好ましくは50μl以下の分注が可能で、より好ましくは、10μl以下の分注が可能であるとよい。本発明における搬送機構とは、反応容器を攪拌機構に設置できればいかなる機構であってもよい。より具体的な例としては、反応容器を掴み上空に持ち上げ搬送し、反応容器を下降させることによって攪拌機構の架設台に反応容器を設置可能な搬送機構が挙げられるが、本発明は当該具体例に限定されるものではない。本発明における検出機構とは、反応容器内の反応液の検出反応が検出可能であればいかなる検出機構でもよい。より具体的には、蛍光色素を用いて核酸増幅反応を検出する場合は、蛍光検出器を検出機構として用いる。攪拌機構の周囲に備える温度調節機構は、検出反応に求められる温度で制御可能であればよい。より好ましくは、NASBA法,LAMP法,TMA法等、一部の遺伝子検査法は前処理反応に温度調節機構を必要とするため、当該温度調節機構の熱を攪拌時の温度調節に用いる。
【0028】
以下、本発明の実施例を詳細に記述するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0029】
攪拌ユニットによる微小反応容器の攪拌について説明する。
【0030】
(1.試薬・消耗品構成について)
本実施例に用いた実験器具、試薬の一覧を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
(2.本実施例における装置構成)
攪拌機構の構成を図1および表2に示す。また、制御部の構成を表3に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
(3.実施方法)
本発明を実施した手順を以下の表4に、攪拌時の攪拌速度,時間等のステッピングモータ設定値を表5に、詳細攪拌制御を表6に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
表6中、英字は直後の括弧内の動作の繰返し回数を意味し、各英字は表9に対応する。
【0040】
また、攪拌動作をより複雑にすることによって、高粘性の溶液でも、早く攪拌を完了できるかどうかを検討した。本検討には、表7に示す攪拌動作を実施した。表7は高粘性用の高速攪拌動作を示している。
【0041】
【表7】
【0042】
(4.実施結果)
表1および表2で示したサンプルおよび装置構成で攪拌を実施したときの目視確認による実験結果を以下の表8に示す。表8は攪拌効果検討結果を示している。
【0043】
【表8】
【0044】
表8中、OKは攪拌良好を示しており、NGは攪拌不良を示している。
【0045】
上記結果より、粘性の違いによる高速回転と回転停止の繰返し回数を増やすことで攪拌効果を上げることができる。本結果より、表6に示すX,Y,Zの値を表9のように設定した。表9は詳細攪拌動作を示している。
【0046】
【表9】
【0047】
また、攪拌動作をより複雑にすることによって、高粘性の溶液でも、早く攪拌を完了できるか攪拌動作を検討した。本検討の結果、表10に示す攪拌回数で攪拌できた。表10は攪拌検討結果を示している。
【0048】
【表10】
【0049】
本結果より、非接触で攪拌することによって、キャリーオーバーを防ぐことができ、同時に、完全に容器を密閉した状態で攪拌可能なため、攪拌時および/または攪拌後の攪拌棒または攪拌チップによる反応液の飛散を完全に防止できる。さらに、容器底の狭い微量容器であっても、反応容器底の反応液まで効率的に攪拌できる。さらに、粘性の異なる複数の反応液を連続的に攪拌できる。さらに、反応液上層にミネラルオイルがある場合でも、ミネラルオイルを容器底に接触させることなく攪拌できる。さらに、従来、用手法でのみ実現できていたタッピングによる攪拌を自動で実現する攪拌方法であるため、ボルテックスのような激しい攪拌で失活しやすい酵素に対して、失活を抑えて攪拌できる。
【実施例2】
【0050】
攪拌機構を持つ遺伝子検査装置
(1.測定条件)
核酸分析法の一つであるNASBA法の測定条件を表11に、本発明で使用するNASBA法の試薬およびサンプルを表12に、表12の試薬を用いたサンプル調製方法を表13に示す。
【0051】
【表11】
【0052】
【表12】
【0053】
【表13】
【0054】
(2.装置構成)
本発明を適用してNASBA法を実施するために必要な装置構成を表14に示す。
【0055】
【表14】
【0056】
(3.検査)
本発明を実現する遺伝子検査システムの検査フローを図3に示す。図3において、「・」はおよびを示しており、「/」は「および/またはを」示している。本発明を本実施例に示す遺伝子検査に適用することで、分注チップが反応液に接触することなしに、反応液を攪拌可能となり、廃棄された分注チップから増幅核酸がエアロゾルとなって拡散し、分析結果に悪影響を及ぼすリスクを低減できる。また、攪拌機構に温度制御を加えることによって、攪拌中の温度低下が分析結果に影響を与える場合、温度低下を防ぐことができる。また、検査項目(試薬)の種類の液性の違いによって、攪拌動作を変更する必要がある場合のシステムの攪拌動作決定および実行のフローを図4に示した。本フローによれば、分析項目によって、最適な攪拌動作が決定され、検査システムが自動的に実行されることが示されている。本攪拌動作については、分析項目に相対する試薬の液性によって異なり、具体的な攪拌動作を規定するものではない。本機能によって、各分析項目に対して最適な攪拌動作が実行できる。
【符号の説明】
【0057】
1 試料容器
2 試料容器ラック
3 試薬容器
4 試薬ラック
5 反応容器
6 反応容器ラック
7 分注チップ
8 分注チップラック
9 定温器
10 反応容器キャリアー
11 反応ディスク
12 検出器
13 攪拌器
20 分注プローブ
21 反応容器移送機構
22 ヘッド
23 サイドレール
24 センターレール
30 記憶装置
31 演算機
32 モニター
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の反応溶液を非接触で攪拌する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分析における従来の反応溶液の攪拌方法としては、大きく接触攪拌と非接触攪拌とに区別できる。接触攪拌の場合、攪拌棒を用いる方法とシリンジ機構等を用いた吸引吐出による方法が主である。攪拌棒を用いる方法は、攪拌棒の先端を反応溶液に挿入し、攪拌棒を回転させることで、溶液の攪拌を行う。溶液攪拌後は、他サンプルへのキャリーオーバーを防ぐために、攪拌棒先端を洗浄する。本方式は先端形状を工夫することによって、攪拌されにくい溶液も効果的に攪拌できる。また、シリンジ機構等を用いた吸引吐出による方法は、分注プローブまたは分注チップ先端を反応溶液に挿入し、反応液を吸引吐出することによって、溶液の攪拌を行う。溶液攪拌後は分注プローブを用いた場合は、キャリーオーバーを防ぐために分注プローブ先端および内壁を洗浄する。また、使い捨ての分注チップを用いた場合は、使用した分注チップを廃棄する。
【0003】
非接触攪拌の場合、反応容器を固定し反応液に超音波を当てることによる攪拌方法と、反応容器と共に反応溶液を激しく動かす機構を用いた攪拌方法が主である。超音波を用いた攪拌方法は、反応容器の周囲を液体で満たし、周囲の液体を通して反応液に超音波を当てることによって、反応溶液を激しく動かし効果的に攪拌を実施していた。また、反応容器を激しく動かす機構を用いる方法は、反応容器を攪拌機構に載せて、攪拌機構を動作させることで攪拌を実施する。より具体的には、特許文献1の攪拌機構によれば、図1(A)(B)に示すように反応容器上部を固定し、反応容器底を偏心して回転させることによって攪拌を実施していた。また、免疫自動分析装置(Roche社)で実施されている攪拌機構によれば、図1(C)に示すように反応容器のほぼ中間を固定し、反応容器底と反応容器上部を回転させることによって、攪拌を実施していた。
【0004】
特に、微量の反応液量および非接触の攪拌方法が求められる検査として例えばウイルスの核酸を増幅して検出する遺伝子検査が挙げられる。遺伝子検査は理論的には1分子のウイルス核酸でも指数関数的に増幅することによって検出可能な検査法であり、PCR法を始めとしてLAMP法,NASBA法,TMA法等多くの分析法が存在する。これらの分析法の特徴としては、反応液量が微量であること、微量なために反応容器の形状が特殊であること、非常に感度が高いためキャリーオーバーのリスクが高いことが挙げられ、反応液調製後に指数関数的な増幅が始まるため、微量な反応液の飛散も偽陽性のリスクとなる。従って、従来の手作業による遺伝子検査では、微量溶液に対応した反応容器で、キャリーオーバーのリスクが低い攪拌方法として、ボルテックス攪拌と遠心機を組合せることによる非接触攪拌を実施していた。より具体的には、ボルテックス攪拌は偏心回転と同時に上下動を伴う攪拌機構であり、反応溶液を反応容器内全体に飛散させ、遠心機により集液することによって効果的な攪拌を実施する。このとき、反応容器の先端が細く攪拌機構を用いた攪拌方式で攪拌されにくい反応容器でも攪拌が可能であった。
【0005】
また、激しい攪拌によって活性を失い易い酵素を含む反応液の場合、前述の機械的なボルテックスミキサーを用いた攪拌方法は実施せずに、反応容器底を手でたたいて攪拌するタッピング操作によって攪拌していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接触攪拌では、反応容器に蓋が存在する場合は、蓋開閉の工程を必要とし、自動分析装置では追加機構が必要な問題があった。また、攪拌棒を用いる方式や分注プローブを用いる方式で洗浄工程を必要とし、自動分析装置では追加機構および動作が必要であった。また、本洗浄工程では、1コピーの標的核酸から検出可能な遺伝子検査の場合、キャリーオーバーを防ぐ洗浄が困難な課題があり、偽陽性の原因となる問題があった。また、反応液量が微量の場合には洗浄時に攪拌棒先端に付着する洗浄液の反応系への持ち込みによる、反応液量の変化が分析反応に影響を及ぼすことも課題であった。また、分注チップを用いる吸引吐出による攪拌方式の場合、分注チップ先端にサンプルを含む反応溶液が付着するため、廃棄時にサンプル汚染のリスクが大きかった。
【0008】
非接触攪拌として、超音波攪拌を用いる場合は、反応容器周囲に超音波を伝導させるために液体で満たす必要があり、反応温度制御に液体を使用しない場合には適用が困難であった。また、超音波は多量の泡を発生させるため、微量反応および検出の場合、発生した泡が検出に影響する問題があった。また、特許文献1に示す免疫自動分析装置(e170,Roche社)で適用されているような回転軸を斜めにする攪拌機では、微量液量に対応するために反応容器底形状を極端に狭くしたときに、反応容器底の液体が反応容器の振り子運動による攪拌動作では動きにくく、攪拌が困難な問題があった。特に、特許文献1に示される構成、つまり、反応容器上端を固定し、反応容器底を偏心させる場合、回転速度および偏心距離を大きくしても、反応容器底の液体は動きにくいままであり、容器底の液体を完全に攪拌できない問題があった。また、粘性の異なる複数の反応液を逐次的に攪拌する場合、粘性の違いによって攪拌され易さが異なるため、特許文献1に示される単一の攪拌動作では攪拌が困難な問題があった。
【0009】
また、遺伝子検査のような100μl以下の微量な反応を自動化する装置においては、反応容器底の狭い特殊な形状の容器が必要である。当該容器を使用した攪拌工程として、キャリーオーバーを防ぐ、泡の発生を抑える、狭い容器底の液体を確実に攪拌する、分注チップ攪拌後の反応液エアロゾルが拡散しコンタミネーションリスクが高いといった課題を全て解決する形で攪拌を実施することは困難であった。さらに、遺伝子検査においては、激しい攪拌によって失活しやすい酵素が多く、従来の激しいボルテックス攪拌では反応酵素が失活する問題があった。また、前処理や反応時に高温に制御する必要がある場合、ミネラルオイルを添加し、反応液上層にミネラルオイルの膜を形成させ蒸発を防いでいた。このような分析法の場合、激しい攪拌を実施するとミネラルオイルが高い粘性のために容器底に接着するため、容器底からの反応検出が不良になる問題があった。また、遺伝子検査装置として粘性の異なる複数の分析項目を依頼された場合、粘性の異なる反応液を逐次的に攪拌できることが求められるが、特許文献1に示す単一の動作のみで攪拌を実施した場合、全ての分析項目に対応することは困難であった。また、LAMP法,NASBA法,TMA法のような定温増幅の場合、酵素を添加した時点で増幅が始まるため、酵素添加後の攪拌時に温度が極端に高い場合や、低い場合に増幅反応に影響する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
少なくとも反応容器を架設する架設台、架設台を回転させる回転駆動体、そして回転駆動体の回転を制御する制御部で構成され、架設台の反応容器設置部の中心は回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、かつ反応容器の回転軸が垂直であることを特徴とする攪拌機構を用い、上記制御部は架設台に対して、高速回転と遅速回転または回転停止を繰返し実施することを特徴とする装置。
【0011】
また、当該攪拌機構と攪拌機構周囲に温度調節機構を備え、反応容器を架設する搬送機構,反応容器に反応液を添加する分注機構,反応を検出する検出器を備え、分注機構で反応容器に反応液を添加した後、搬送機構によって反応容器を攪拌機構に設置し、温度調節機構により所定の温度に維持した状態で前述の攪拌装置で攪拌する遺伝子検査装置。また、分析項目によって試薬の粘性が異なる場合、分析項目に応じて攪拌制御部の制御動作を切り換える遺伝子検査装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明を実施することによって、非接触で攪拌可能であり、キャリーオーバーを防ぐことができる。さらに、完全に容器を密閉した状態で攪拌可能なため、攪拌時および攪拌後の攪拌棒または攪拌チップによる反応液の飛散を完全に防止できる。さらに、容器底の狭い微量容器であっても、反応容器底の反応液まで効率的に攪拌できる。さらに、粘性の異なる複数の反応液を連続的に攪拌できる。さらに、反応液上層にミネラルオイルがある場合でも、ミネラルオイルを容器底に接触させることなく攪拌できる。さらに、従来、用手法でのみ実現できていたタッピングによる攪拌を自動で実現する攪拌方法であるため、ボルテックスのような激しい攪拌で失活しやすい酵素に対して、失活を抑えて攪拌できる。本攪拌機構と攪拌機構周囲に温度調節機構を設置する構成によって、温度に敏感かつ高感度でコンタミネーションのリスクの高い遺伝子検査においても自動で攪拌を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の攪拌装置の概略を示す図であり、(A)は容器設置穴が一つのものであり、(B)は容器設置穴が複数のものである。(C)は回転停止/遅速回転、および高速回転時の容器内の反応液の様子を示す図である。
【図2】本発明の攪拌装置の概略を示す図である。
【図3】ユーザとシステムの処理フローを示す図である。
【図4】本発明の遺伝子自動検査装置の概略を示すブロック図である。
【図5】遺伝子検査装置の概略構成を示す平面図である。
【図6】図5に示す遺伝子検査装置に移動機構を加えた図である。
【図7】図5に示す遺伝子検査装置および外部装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の最良の形態の一つは、少なくとも反応容器を架設する架設台、架設台を回転させる回転駆動体、そして回転駆動体の回転を制御する制御部で構成され、架設台の反応容器設置部の中心は回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、かつ反応容器の回転軸が垂直であることを特徴とする攪拌機構を用い、上記制御部は架設台に対して、高速回転と遅速回転または回転停止を繰返し実施することを特徴とする攪拌装置。
【0015】
もう一つの本発明の最良の形態は、少なくとも分注機構,反応容器搬送機構,攪拌機構,検出機構,制御部を持ち、攪拌機構は前述の構成および攪拌方法であることを特徴とする遺伝子検査装置である。好ましくは、攪拌中の温度変化が検査結果に影響する場合は、攪拌機構の周囲に温度制御機構を備える構成であって、より好ましくは分析項目によって試薬の粘性が異なる場合、分析項目に応じて攪拌制御部の制御動作を切り換えることを特徴とする遺伝子検査装置。
【0016】
本発明は、微小容器に対して反応容器の攪拌、様々な検討を行った結果、本発明に至ったものである。
【0017】
以下、本発明を適用した図面を用いて本発明を実現する装置構成と動作方法を詳細に説明するが、本発明は、反応容器を架設する架設台、架設台を回転させる回転駆動体、そして回転駆動体の回転を制御する制御部で構成され、架設台の反応容器設置部の中心は回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、かつ反応容器の回転軸が垂直であることを特徴とする攪拌機構を用い、上記制御部が、高速回転と、遅速回転または回転停止を交互に繰返し実施できればよく、以下に記述する具体例に限定されない。
【0018】
本発明に必要とする最低限の機構と構成を図1(A)(B)に示す。図1(A)(B)に示すように、本発明は少なくとも反応容器を架設する架設台、架設台を回転させる回転駆動体、そして回転駆動体の回転を制御する制御部で構成され、架設台の反応容器設置部の中心は回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、かつ反応容器の回転軸が垂直であることを特徴とする攪拌機構で構成される。より好ましくは、架設台と回転駆動体は連結機構によって連結され、架設台に多数の反応容器を架設できる。
【0019】
本発明における反応容器とは、攪拌すべき反応液を封入した容器であればよく、反応容器に限定されないが、特に狭い容器底の反応容器を用いる場合に、本発明の特徴的な効果の一つである、反応容器底の反応液の効果的な攪拌を実施できる。狭い容器底の反応容器とは、容器底の幅が3mm以下の幅を意味し、具体的には、分子生物学用のPCRチューブの底形状であるが、本発明は当該具体例に限定されない。本発明における「反応液」とは、生化学検査,遺伝子検査等、従来の一般的に用いられる試薬であればいかなる試薬でもよく、特に激しい攪拌で失活しやすい酵素を攪拌する場合に本発明の特徴的な効果の一つである酵素の失活を防いだ攪拌を実施できる。また、本発明は反応液の上層に蒸発を防ぐためのミネラルオイルが添加されていても効果的な攪拌が可能である。
【0020】
本発明における架設台とは、図1(A)(B)に示すように反応容器を架設可能な穴が少なくとも一つ空いており、攪拌動作により反応容器の垂直軸が傾かないことを特徴とする。より好ましくは多数の反応容器を架設可能、もしくは、複数穴の空いた反応プレートを設置可能である。より、具体的には、PCRチューブを垂直に架設可能であり、または、96穴のPCRプレートを架設できる。
【0021】
本発明における回転駆動体とは、架設台を一定速度で回転させることが可能で、好ましくは速度,回転方向が可変であればよく、当該駆動機構としてはいかなる機構を用いてもよい。より好ましくは、ステッピングモータを用いる。回転駆動体を制御する制御部としては、図2に示す構成を制御可能であればいかなる構成でもよい。
【0022】
本発明を実現する攪拌動作方法としては、反応液を反応容器内の片側に偏らせる高速回転と、反応容器内の反応液を静置状態に戻す遅速回転または回転停止を交互に繰返し実施することで、反応容器底の反応液まで反応容器内で大きく移動させて攪拌する。より、好ましくは反応液の粘性が増大すると、高速回転と遅速回転または回転停止を交互に繰返す回数そして/または高速回転の回転速度が増加する。
【0023】
本発明における高速回転とは、回転中心を中心として回転の遠心力により反応液が反応容器の内壁に伸びる状態となる回転を意味する。本回転速度は偏心距離と反比例し、偏心距離が大きければ回転速度は小さくなる一方、攪拌機構の大きさも大きくなるデメリットがあるが、本発明は、回転中心を中心として回転の遠心力により反応液が反応容器の内壁に伸びる状態となれば、回転速度および偏心距離をいかなる設定にしてもよい。本発明の「反応液が反応容器の内壁に伸びる状態」とは、高速回転中の液面最下点が回転前の液面高さの半分以下となればよく、回転速度と偏心距離に限定されない。なお、本発明における偏心距離とは、回転の振幅距離を意味する。より、具体的には図1(A)(B)に示す構成の場合は反応容器の中心と回転中心の距離を意味する。
【0024】
本発明における遅速回転または回転停止とは、反応液の液面を水平状態にできればよく、回転駆動体の回転速度に限定されない。本発明における高速回転と遅速回転または回転停止を交互に繰返す動作は、高速回転と遅速回転または回転停止を交互に切り換えることできればよく、高速回転時間,遅速回転時間または回転停止時間の長さに限定されず、ここで繰返される高速回転の速度は毎回異なる速度でも、同じ速度でもよい。より好ましくは、攪拌時間を短縮するために遅速回転時間または回転停止時間の長さは短いほどよい。また、反応液の粘性が高ければ、高速回転の速度または時間または偏心距離とを増やし、高速回転と遅速回転または回転停止の繰返し回数を増やすことで効果的な攪拌が可能である。
【0025】
本発明のもう一つの形態として、図5,図6,図7に示すように、少なくとも分注機構,反応容器搬送機構,攪拌機構,検出機構,制御部を持ち、前述の構成および攪拌方法であることを特徴とする遺伝子検査装置である。本発明における攪拌中の温度変化が検査結果に影響する場合は、攪拌機構の周囲に温度制御機構を備える構成であって、攪拌機構が、依頼された検査に応じて使用する試薬の液性が変化する場合は、依頼された検査に応じて攪拌方法を変更するとよい。好ましくは、攪拌機構において攪拌前に反応容器に蓋をする機構を持つ。
【0026】
本発明における遺伝子検査とは、特定の遺伝子を増幅して特異的に検出可能であればよく遺伝子検査法に限定されない。具体的な例としては、Polymerase chain reaction(PCR法),Nucleic Acid Sequencing Based Amplification法(NASBA法),LAMP法,TMA法,SDA等が挙げられるが、本発明は、特定の遺伝子を増幅検出可能であれば良く、これらの具体例に限定されない。
【0027】
本発明における分注機構とは、遺伝子検査に用いる反応液を分析に必要な精度で分注可能であればよく、分注方法,分注方式に限定されない。好ましくは50μl以下の分注が可能で、より好ましくは、10μl以下の分注が可能であるとよい。本発明における搬送機構とは、反応容器を攪拌機構に設置できればいかなる機構であってもよい。より具体的な例としては、反応容器を掴み上空に持ち上げ搬送し、反応容器を下降させることによって攪拌機構の架設台に反応容器を設置可能な搬送機構が挙げられるが、本発明は当該具体例に限定されるものではない。本発明における検出機構とは、反応容器内の反応液の検出反応が検出可能であればいかなる検出機構でもよい。より具体的には、蛍光色素を用いて核酸増幅反応を検出する場合は、蛍光検出器を検出機構として用いる。攪拌機構の周囲に備える温度調節機構は、検出反応に求められる温度で制御可能であればよい。より好ましくは、NASBA法,LAMP法,TMA法等、一部の遺伝子検査法は前処理反応に温度調節機構を必要とするため、当該温度調節機構の熱を攪拌時の温度調節に用いる。
【0028】
以下、本発明の実施例を詳細に記述するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0029】
攪拌ユニットによる微小反応容器の攪拌について説明する。
【0030】
(1.試薬・消耗品構成について)
本実施例に用いた実験器具、試薬の一覧を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
(2.本実施例における装置構成)
攪拌機構の構成を図1および表2に示す。また、制御部の構成を表3に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
(3.実施方法)
本発明を実施した手順を以下の表4に、攪拌時の攪拌速度,時間等のステッピングモータ設定値を表5に、詳細攪拌制御を表6に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
表6中、英字は直後の括弧内の動作の繰返し回数を意味し、各英字は表9に対応する。
【0040】
また、攪拌動作をより複雑にすることによって、高粘性の溶液でも、早く攪拌を完了できるかどうかを検討した。本検討には、表7に示す攪拌動作を実施した。表7は高粘性用の高速攪拌動作を示している。
【0041】
【表7】
【0042】
(4.実施結果)
表1および表2で示したサンプルおよび装置構成で攪拌を実施したときの目視確認による実験結果を以下の表8に示す。表8は攪拌効果検討結果を示している。
【0043】
【表8】
【0044】
表8中、OKは攪拌良好を示しており、NGは攪拌不良を示している。
【0045】
上記結果より、粘性の違いによる高速回転と回転停止の繰返し回数を増やすことで攪拌効果を上げることができる。本結果より、表6に示すX,Y,Zの値を表9のように設定した。表9は詳細攪拌動作を示している。
【0046】
【表9】
【0047】
また、攪拌動作をより複雑にすることによって、高粘性の溶液でも、早く攪拌を完了できるか攪拌動作を検討した。本検討の結果、表10に示す攪拌回数で攪拌できた。表10は攪拌検討結果を示している。
【0048】
【表10】
【0049】
本結果より、非接触で攪拌することによって、キャリーオーバーを防ぐことができ、同時に、完全に容器を密閉した状態で攪拌可能なため、攪拌時および/または攪拌後の攪拌棒または攪拌チップによる反応液の飛散を完全に防止できる。さらに、容器底の狭い微量容器であっても、反応容器底の反応液まで効率的に攪拌できる。さらに、粘性の異なる複数の反応液を連続的に攪拌できる。さらに、反応液上層にミネラルオイルがある場合でも、ミネラルオイルを容器底に接触させることなく攪拌できる。さらに、従来、用手法でのみ実現できていたタッピングによる攪拌を自動で実現する攪拌方法であるため、ボルテックスのような激しい攪拌で失活しやすい酵素に対して、失活を抑えて攪拌できる。
【実施例2】
【0050】
攪拌機構を持つ遺伝子検査装置
(1.測定条件)
核酸分析法の一つであるNASBA法の測定条件を表11に、本発明で使用するNASBA法の試薬およびサンプルを表12に、表12の試薬を用いたサンプル調製方法を表13に示す。
【0051】
【表11】
【0052】
【表12】
【0053】
【表13】
【0054】
(2.装置構成)
本発明を適用してNASBA法を実施するために必要な装置構成を表14に示す。
【0055】
【表14】
【0056】
(3.検査)
本発明を実現する遺伝子検査システムの検査フローを図3に示す。図3において、「・」はおよびを示しており、「/」は「および/またはを」示している。本発明を本実施例に示す遺伝子検査に適用することで、分注チップが反応液に接触することなしに、反応液を攪拌可能となり、廃棄された分注チップから増幅核酸がエアロゾルとなって拡散し、分析結果に悪影響を及ぼすリスクを低減できる。また、攪拌機構に温度制御を加えることによって、攪拌中の温度低下が分析結果に影響を与える場合、温度低下を防ぐことができる。また、検査項目(試薬)の種類の液性の違いによって、攪拌動作を変更する必要がある場合のシステムの攪拌動作決定および実行のフローを図4に示した。本フローによれば、分析項目によって、最適な攪拌動作が決定され、検査システムが自動的に実行されることが示されている。本攪拌動作については、分析項目に相対する試薬の液性によって異なり、具体的な攪拌動作を規定するものではない。本機能によって、各分析項目に対して最適な攪拌動作が実行できる。
【符号の説明】
【0057】
1 試料容器
2 試料容器ラック
3 試薬容器
4 試薬ラック
5 反応容器
6 反応容器ラック
7 分注チップ
8 分注チップラック
9 定温器
10 反応容器キャリアー
11 反応ディスク
12 検出器
13 攪拌器
20 分注プローブ
21 反応容器移送機構
22 ヘッド
23 サイドレール
24 センターレール
30 記憶装置
31 演算機
32 モニター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器を垂直に架設可能な架設台、該架設台を回転させる回転駆動体、および該回転駆動体の回転を制御する制御部を備え、前記架設台の容器設置部の中心は前記回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、上記制御部が、高速回転と遅速回転または回転停止とを交互に実施することを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の攪拌装置であって、
前記容器内の反応液の粘性の高さと、高速回転と遅速回転または回転停止を繰返し実施する回数が正比例することを特徴とする攪拌装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の攪拌装置であって、
前記容器内の反応液の粘性の高さと、前記高速回転時の速度が正比例することを特徴とする攪拌装置。
【請求項4】
請求項1に記載の攪拌装置であって、
前記架設台と前記回転駆動体が連結部で連結されており、該連結部によって前記架設台全体が偏心回転することを特徴とする攪拌装置。
【請求項5】
請求項1に記載の攪拌装置であって、
前記架設台は、底部の幅が3mm以下の容器を架設することを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項6】
請求項1に記載の攪拌装置であって、
容器の温度を調整する温度調整機構を備えたことを特徴とする攪拌装置。
【請求項7】
容器を架設する架設台における容器設置部の中心を、架設部を回転させる回転中心とは異なる位置にて、架設台に対して高速回転と遅速回転または回転停止とを交互に実施することを特徴とする攪拌方法。
【請求項8】
請求項7に記載の攪拌方法であって、
前記容器内の反応液の粘性の高さと、高速回転と遅速回転または回転停止を繰返し実施する回数が正比例することを特徴とする攪拌方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の攪拌方法であって、
前記容器内の反応液の粘性の高さと、前記高速回転時の速度が正比例することを特徴とする攪拌方法。
【請求項10】
容器を垂直に架設可能な架設台、該架設台を回転させる回転駆動体、および該回転駆動体の回転を制御する制御部を備え、前記架設台の容器設置部の中心は前記回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、上記制御部が、高速回転と遅速回転または回転停止とを交互に実施する攪拌機構と、
反応液を調整する分注機構と、
反応容器を搬送する搬送機構と、
反応液中の反応を検出する検知器とを備えたことを特徴とする、遺伝子自動検査装置。
【請求項11】
請求項10に記載の遺伝子自動検査装置であって、
アッセイ依頼確定時にアッセイ項目に応じて攪拌方法を変化させることを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項12】
請求項11に記載の遺伝子自動検査装置であって、
アッセイ依頼確定時にアッセイ項目に使用する反応液の粘性の高さと、高速回転と、遅速回転または回転停止を繰返し実施する回数が正比例することを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の遺伝子自動検査装置であって、
アッセイ依頼確定時にアッセイ項目に使用する反応液の粘性の高さと、前記高速回転時の速度が正比例することを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項14】
請求項10に記載の遺伝子自動検査装置であって、
前記架設台は、底部の幅が3mm以下の容器を架設することを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項15】
請求項10に記載の遺伝子自動検査装置であって、
容器の温度を調整する温度調整機構を備えたことを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項1】
容器を垂直に架設可能な架設台、該架設台を回転させる回転駆動体、および該回転駆動体の回転を制御する制御部を備え、前記架設台の容器設置部の中心は前記回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、上記制御部が、高速回転と遅速回転または回転停止とを交互に実施することを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の攪拌装置であって、
前記容器内の反応液の粘性の高さと、高速回転と遅速回転または回転停止を繰返し実施する回数が正比例することを特徴とする攪拌装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の攪拌装置であって、
前記容器内の反応液の粘性の高さと、前記高速回転時の速度が正比例することを特徴とする攪拌装置。
【請求項4】
請求項1に記載の攪拌装置であって、
前記架設台と前記回転駆動体が連結部で連結されており、該連結部によって前記架設台全体が偏心回転することを特徴とする攪拌装置。
【請求項5】
請求項1に記載の攪拌装置であって、
前記架設台は、底部の幅が3mm以下の容器を架設することを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項6】
請求項1に記載の攪拌装置であって、
容器の温度を調整する温度調整機構を備えたことを特徴とする攪拌装置。
【請求項7】
容器を架設する架設台における容器設置部の中心を、架設部を回転させる回転中心とは異なる位置にて、架設台に対して高速回転と遅速回転または回転停止とを交互に実施することを特徴とする攪拌方法。
【請求項8】
請求項7に記載の攪拌方法であって、
前記容器内の反応液の粘性の高さと、高速回転と遅速回転または回転停止を繰返し実施する回数が正比例することを特徴とする攪拌方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の攪拌方法であって、
前記容器内の反応液の粘性の高さと、前記高速回転時の速度が正比例することを特徴とする攪拌方法。
【請求項10】
容器を垂直に架設可能な架設台、該架設台を回転させる回転駆動体、および該回転駆動体の回転を制御する制御部を備え、前記架設台の容器設置部の中心は前記回転駆動体の回転中心とは異なる位置にあり、上記制御部が、高速回転と遅速回転または回転停止とを交互に実施する攪拌機構と、
反応液を調整する分注機構と、
反応容器を搬送する搬送機構と、
反応液中の反応を検出する検知器とを備えたことを特徴とする、遺伝子自動検査装置。
【請求項11】
請求項10に記載の遺伝子自動検査装置であって、
アッセイ依頼確定時にアッセイ項目に応じて攪拌方法を変化させることを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項12】
請求項11に記載の遺伝子自動検査装置であって、
アッセイ依頼確定時にアッセイ項目に使用する反応液の粘性の高さと、高速回転と、遅速回転または回転停止を繰返し実施する回数が正比例することを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の遺伝子自動検査装置であって、
アッセイ依頼確定時にアッセイ項目に使用する反応液の粘性の高さと、前記高速回転時の速度が正比例することを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項14】
請求項10に記載の遺伝子自動検査装置であって、
前記架設台は、底部の幅が3mm以下の容器を架設することを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【請求項15】
請求項10に記載の遺伝子自動検査装置であって、
容器の温度を調整する温度調整機構を備えたことを特徴とする遺伝子自動検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−19488(P2011−19488A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169679(P2009−169679)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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