説明

支承装置付き橋梁

【課題】載置面に対して橋梁を好適に相対移動させることが可能な支承装置付き橋梁を提供する。
【解決手段】橋梁は、上部構造11と、所定の載置面25aに載置されて上部構造11の一端を支持する支承装置15とを有し、支承装置15は、載置面25aに対して全方位に摺動可能な摩擦部材23を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支承装置付き橋梁に関する。
【背景技術】
【0002】
一端若しくは両端が載置面に対して移動可能に支持される橋梁(橋梁の上部構造)が知られている。例えば、特許文献1では、岸壁と浮桟橋とに架け渡される渡橋を開示している。当該渡橋の浮桟橋側の端部には、浮桟橋上を一方向に転がることが可能なローラ(車輪)が設けられている。そして、浮桟橋が潮位の変動によって上下すると、ローラが浮桟橋上を転がる。これにより、波浪や潮位の変動によって渡橋に外力が加えられることが避けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−140522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
陸側と浮桟橋等の浮体(ポンツーン)をつなぐ渡橋(以下橋梁と呼称)を例に説明する。浮体は、潮位の変動だけでなく、波浪、潮流、風などの種々の外力によって、種々の方向に運動する。当該運動の中には、橋梁と浮体とをローラの軸方向に相対移動させようとする運動も含まれる。しかしながら、浮体が橋梁の直角方向に変動した場合、ローラでは、十分に追従して橋梁と浮体とを相対移動させることができず、その結果、橋梁および陸に固定された固定構造物に高い外力が加えられるおそれがある。また、腐食によりローラーの回転が悪くなった際も、橋梁および陸に固定された支持装置に高い外力が加えられるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、載置面に対して橋梁を好適に相対移動させることが可能な支承装置付き橋梁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の支承装置付き橋梁は、上部構造と、所定の載置面に載置されて前記上部構造の一端を支持する支承装置とを有し、前記支承装置は、前記載置面に対して全方位に摺動可能な摩擦部材を有する。
【0007】
好適には、前記摩擦部材は、繊維からなる基材と、樹脂からなる結合剤と、摩擦摩耗調整剤とを含んで構成されている。
【0008】
好適には、前記摩擦部材は、NAO材(ノンアスベスト摩擦材料)、ロースチール材、又は、セミメタリック材により構成されている。
【0009】
好適には、前記摩擦部材の、前記載置面に摺動する摺動面は全方位に対して曲面状に形成されている。
【0010】
好適には、前記摺動面は球面状に形成されている。
【0011】
本発明の一態様の支承装置は、所定の載置面に載置されて橋梁の上部構造を支持する支承装置であって、前記載置面に対して全方位に摺動可能な摩擦部材を有する。
【0012】
本発明の一態様の支承装置は、橋梁の上部構造を支持する支承装置であって、載置面を構成する載置部材と、前記載置面に載置されて当該載置面に対して全方位に摺動可能な摩擦部材とを有し、前記載置部材及び前記摩擦部材の少なくとも一方は、繊維からなる基材と、樹脂からなる結合剤と、摩擦摩耗調整剤とを含んで構成されている。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成によれば、載置面に対して橋梁を低い摩擦係数をもって相対移動させることができるので、橋梁や支持装置に過大な荷重を避けることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る橋梁を模式的に示す平面図及び側面図。
【図2】図1の橋梁の一端を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る橋梁1の要部を模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、橋梁1の要部を模式的に示す側面図である。なお、これらの図の説明においては、適宜にxyz座標系を定義し、参照するものとする。
【0016】
橋梁1は、陸に固定された固定構造物3と、水域(海、湖、河川等)において浮かべられた浮体5との間に架け渡される、若しくは、浮体間に架け渡される渡橋として構成されている。換言すれば、橋梁1は、少なくとも一端が浮体により支持される渡橋として構成されている。図1の例では、橋梁1は、固定構造物3と浮体5とに架け渡されている(支持されている)。
【0017】
固定構造物3は、例えば、水域に対して壁状に形成された岸壁や、支柱を介して水底に支持される(固定)桟橋である。図1では、固定桟橋を例示している。
【0018】
浮体5は、例えば、浮桟橋や船舶である。図1では浮桟橋を例示している。浮体5は、矢印y1〜y3で示すように、潮位の変化、波浪、潮流、風等の外力を受ける。そして、浮体5は、2点鎖線によって例示するように、xyzの3軸方向に平行移動するとともに、xyzの3軸回りに揺動する。ただし、浮体5は、係留索7若しくは不図示の錨によって、固定構造物3に対する移動がある程度規制されている。
【0019】
なお、橋梁1は、例えば、比較的軽く形成されており、天候等の影響によって浮体5が大きく動揺するような場合においては、橋梁が軽量の複合材料(FRP)で構成されている時には、固定構造物3に設置されたクレーン9によって吊り挙げられ、浮体5から退避される。クレーン9は、例えば、500kgの荷重を持ち上げることが可能である。
【0020】
橋梁1は、その本体部分である上部構造11と、上部構造11の固定構造物3側の端部を支持する支持装置13と、上部構造11の浮体5側の端部を支持する支承装置15とを有している。
【0021】
上部構造11は、例えば、特に図示しないが、人や車両等を直接支える路面を構成する床版と、床版を支持する橋桁とを有している。上部構造11を構成する各部材は、木材、金属、FRP等の適宜な材料により形成されてよい。好適には、橋梁にかかる応力を軽減させ、設置及び避難が容易であり、かつ耐食性が優れるFRPが挙げられる。
【0022】
支持装置13は、上部構造11の固定構造物3に対するy軸回り(橋梁1に直交する水平軸回り)に回転を許容している。また、支持装置13は、上部構造11の固定構造物3に対するその他の移動を規制している。すなわち、支持装置13は、上部構造11の平行移動(xyzの3軸方向)、橋梁1のx軸回り(橋梁1に平行な軸回り)の回転、及び、橋梁1のz軸回り(鉛直軸回り)の回転を規制している。ただし、z軸回りの回転等、これらの移動の一部が許容されていてもよい。
【0023】
支持装置13は、適宜に構成されてよい。最も簡便な例では、上部構造11は、その一端が固定構造物3の上面に載置されるとともに、当該一端の適宜な部位がロープにより係留柱(ビット)などの固定構造物に固定される。橋梁1は、ロープによって平行移動が規制され、また、固定構造物3の上面との当接部分を支点としてy軸回りに回転可能である。この場合、固定構造物3の上面及びロープが支持装置13を構成する。また、別の例では、支持装置13は、ヒンジ機構により構成されており、橋梁1のy軸回りの回転のみを許容する。
【0024】
図2は、図1(b)のII−II線における断面図である。
【0025】
上部構造11は、例えば、荷重を支持するための主桁17と、主桁17上に載置された床版19とを有している。これらの形状及び材料は適宜に設定されてよい。
【0026】
支承装置15は、上部構造11に固定される保持部21と、保持部21に固定され、浮体5に支持される摩擦部材23とを有している。
【0027】
浮体5上には、載置部材25が配置されており、摩擦部材23は載置部材25により構成された載置面25a上に配置されている。なお、載置部材25は、支承装置15若しくは橋梁1の付属品として捉えられてもよい。
【0028】
保持部21は、適宜な構成とされてよい。図2では、特に符号は付さないが、H形状の鋼材と、当該鋼材を覆う耐腐食性に優れた材料(例えばFRP、コンクリート)により形成された部材との組み合わせにより構成された保持部21を例示している。保持部21は、不図示のボルト等により上部構造11に対して移動不可能に固定されている。
【0029】
摩擦部材23は、載置面25aに摺動する摺動面23aを有している。摺動面23aは、例えば、全方位に対して曲面状に形成されている。より好ましくは、摺動面23aは、球面(曲率が一定の曲面)状に形成されている。摩擦部材23は、不図示のボルト等により保持部21に対して移動不可能に固定されている。なお、曲面(球面)の曲率(半径)は適宜に設定されてよいが、浮体5の上下の変動に応じて摺動面23aが載置面25aに対して滑らかに滑るように、上部構造11の重さや長さ、浮体5の予想される運動等を考慮して設定されることが好ましい。
【0030】
摩擦部材23は、摩擦係数が適宜に設定され(例えば比較的小さく)、摩耗に強い材料により形成されている。このような材料としては、例えば、トラックやバス等の車両の摩擦ブレーキに使用されている材料を挙げることができる。このようなブレーキ材料は、繊維からなる基材と、樹脂からなる結合剤と、摩擦調整材とを含んで構成されている。
【0031】
基材を構成する繊維としては、例えば、スチール繊維、非鉄金属繊維、有機繊維(アラミド繊維、ナイロン、セルロース等)、無機繊維(ガラス繊維、ロックウール等)が挙げられる。樹脂としては、例えば、フェノール樹脂が挙げられる。摩擦摩耗調整剤としては、例えば、有機充填剤、無機充填剤、無機研削材、固体潤滑剤、金属粉末が挙げられる。別の観点では、摩擦摩耗調整剤としては、有機物系のもの(アラミド、ゴム等)、無機物系のもの(カーボン、セラミックファイバ、炭酸カルシウム等)、金属物系のもの(真鍮、鉄粉等)、酸化物系のもの(酸化鉄、セラミック等)が挙げられる。
【0032】
また、ブレーキ材料は、スチール繊維の配合比率によって、セミメタリック材、ロースチール材、NAO(Non-Asbestos Organic,ノンアスベスト摩擦材料)材の3種類に区別され、それぞれ適当な摩擦係数を有し、優れた耐摩擦性、低ノイズが特徴である。日本ではNAO材、欧州ではロースチール材、米国ではセミメタリック材がよく用いられている。
【0033】
支承装置15は、摩擦部材23を介して浮体5の上面(厳密には載置面25a)に載置されているだけであり、支承装置15(上部構造11)の浮体5に対する相対移動を妨げる設備は設けられていない。すなわち、摩擦部材23は、浮体5の上面に沿う方向の全方位に摺動可能である。
【0034】
摩擦部材23は、繊維からなる基材と、樹脂からなる結合剤と、摩擦摩耗調整剤とを含んで構成されている。好ましくは、摩擦部材23は、NAO材、ロースチール材、又は、セミメタリック材により構成されている。
【0035】
従って、適度の摩擦係数を得ることが容易であるとともに、耐摩耗性に優れた摩擦部材23が構成される。さらに、車両等の摩擦ブレーキに利用される材料と同様であることから、生産コストが抑えられることが期待される。また、車両用の摩擦ブレーキ用に形成されたドラムをそのまま摩擦部材23として利用するようなことも可能となる。
【0036】
摩擦部材23の、載置面25aに摺動する摺動面23aは全方位に対して曲面状(好ましくは球面状)に形成されている。従って、浮体5が変位しても、一定の摩擦面積が確保される。その結果、摩擦部材23の摺動による上部構造11の浮体5の運動への好適な追従が安定して行われる。
【0037】
載置部材25を橋梁1の付属品とみなした場合においては、橋梁1は、繊維からなる基材と、樹脂からなる結合剤と、摩擦摩耗調整剤とを含んで構成され、載置面25aを構成する載置部材25を更に有する。
【0038】
従って、摩擦部材23が載置される載置面25a側においても、低い摩擦係数及び耐摩耗性を得ることが容易である。また、浮体5本体に対する摩耗が防止されるから、メンテナンスも容易である。
【0039】
載置部材25は、例えば、板状の部材であり、摩擦部材23と同様に、ブレーキ材料により形成されている板状の部材や、金属板が選定される。金属板の場合、摩耗しにくく、耐食性のある金属が望ましく、ステンレスやチタンが選ばれる。載置部材25は、浮体5に載置されているだけでもよいし、不図示のボルト等によって浮体5に対して固定されていてもよい。
【0040】
以上の実施形態によれば、橋梁1は、上部構造11と、所定の載置面25aに載置されて上部構造11の一端を支持する支承装置15とを有し、支承装置15は、載置面25aに対して全方位に摺動可能な摩擦部材23を有する。
【0041】
従って、摩擦部材23と載置面25aとの摺動によって、浮体5の種々の移動に追従して全方位に上部構造11を移動させ、上部構造11に加えられる外力を抑制することができる。
【0042】
本発明は以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0043】
橋梁は、渡橋に限定されない。陸地において橋台間に架け渡されるものであってもよいし、少なくとも一端が橋脚に架け渡されるものであってもよい。このような陸上の橋梁に適用された場合においては、支承装置は免震に寄与可能である。また、橋梁は、人や車等の交通路を構成する橋梁に限定されず、水若しくは石油等の資源を運搬するための管路が配置されるものであってもよい。
【0044】
摩擦部材の形状は適宜に設定されてよい。また、摩擦部材は、保持部を介さずに、上部構造の主桁等に直接固定されてもよい。摩擦部材及び載置面の一方は、鉄などのブレーキ材以外の材料によって形成されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…橋梁、5…浮体、7…係留索、9…クレーン、11…上部構造、13…支持装置、
15…支承装置、17…主桁、19…床版、23…摩擦部材、23a…摺動面、
25…載置部材、25a…載置面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造と、所定の載置面に載置されて前記上部構造の一端を支持する支承装置とを有し、前記支承装置は、前記載置面に対して全方位に摺動可能な摩擦部材を有する支承装置付き橋梁。
【請求項2】
前記摩擦部材は、NAO材、ロースチール材、又は、セミメタリック材により構成されている請求項1に記載の支承装置付き橋梁。
【請求項3】
前記NAO材は、繊維からなる基材と、樹脂からなる結合剤と、摩擦摩耗調整剤とを含んで構成されている請求項1に記載の支承装置付き橋梁。
【請求項4】
前記摩擦部材の、前記載置面に摺動する摺動面は全方位に対して曲面状に形成されている請求項2または3のいずれか1項に記載の支承装置付き橋梁。
【請求項5】
前記摺動面が球面状に形成されている請求項2〜4に記載の支承装置付き橋梁。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197589(P2012−197589A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62152(P2011−62152)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000238957)福井ファイバーテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】