説明

改善された力学的性能を有する医療デバイス

本発明の態様によれば、少なくとも1つの低Tgブロックおよび少なくとも1つの高Tgブロックを含む少なくとも1つのブロックコポリマーを含有する、共有結合によって架橋された少なくとも1つのポリマーの領域を含有する移植可能なまたは挿入可能な医療デバイスが提供される。本発明の共有結合によって架橋されたポリマーの領域を利用することができる医療デバイスの例としては、耐摩耗性であり、かつ比較的低い摩擦係数を有するコーティングを必要とする医療デバイスを含む。このようなデバイスは、組織を通過するおよび/または組織と接触する医療デバイス、例えば針、縫合糸、ガイドワイヤー、カテーテル、バルーン、およびバルーンカテーテルなどを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、医療デバイス、より具体的には移植可能なまたは挿入可能な医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、例えば、そのポリマーを溶解または溶融することによって可逆的な物理的架橋を形成するエラストマー状(可逆的に変形可能な)ポリマーである。エラストマーの低いガラス転移温度(Tg)の中間ブロックと硬く上昇したTgの末端ブロックを有するトリブロックコポリマーが、熱可塑性エラストマーのよく見られる例である。周知の通り、このようなコポリマーは、相分離する傾向があり、エラストマーブロックは凝集してエラストマー相の領域を形成し、硬いブロックは凝集して硬い相の領域を形成する。理論に拘束されたくはないが、それぞれのエラストマーブロックはそれぞれの末端に硬いブロックを有するので、また同じトリブロックコポリマー内の異なる硬いブロックは2つの異なる硬い相の領域を占める能力があるので、2つの硬い相の領域は軟らかいブロックを介して互いに物理的に架橋されることになると考えられている。
【0003】
このようなトリブロックコポリマーの例は、ポリ(スチレン−b−イソプレン−b−スチレン)(SIS)、ポリ(スチレン−b−ブタジエン−b−ポリスチレン)(SBS)、ポリ(スチレン−b−エチレン/ブチレン−b−スチレン)(SEBS)、およびポリ(スチレン−b−イソブチレン−b−スチレン)(SIBS)である。SIBSを具体的な例として取り上げると、これらのポリマーは薬剤溶出性冠動脈ステントなどの移植可能なまたは挿入可能な薬剤放出医療デバイス中の薬剤放出ポリマーとして役立つことが証明されている。それらの薬剤放出特性に加えて、SIBSコポリマーは、特に血管系内部での優れた生体安定性および生体適合性を有することが示されている。さらに、これらは冠状動脈ステント用途のために、良好な弾性および高い引張強度を含む、優れた力学的性質を有する。これらの力学的性質の結果として、ステントを拡張したときに、これらのポリマーはクリンプを受け、拡張することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらおよび他の熱可塑性エラストマーの望ましい性質にも拘らず、これらの材料の、例えば、とりわけ強度、破断伸び、および耐摩耗性の1つまたは複数を含む、1つまたは複数の力学的性質を向上させることが望ましい状況がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、少なくとも1つのブロックコポリマーを含有する、共有結合によって架橋された少なくとも1つのポリマーの領域を含有する、移植可能なまたは挿入可能な医療デバイスが提供される。この少なくとも1つのブロックコポリマーは、さらに少なくとも1つの低Tgブロックおよび少なくとも1つの高Tgブロックを含有する。
【0006】
本発明の利点は、様々な多ブロック熱可塑性エラストマーの1つまたは複数の力学的性質を所与の医療用途のために改良することができることである。
【0007】
本発明のこれらのおよび他の態様、実施形態および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲を精査すれば当業者には直ちに明白となるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
以下の本発明の数ある態様および実施形態の詳細な説明を参照することによって本発明のより完全な理解を得ることができる。以下の本発明の詳細な説明は、例示することを意図されてはいるが、発明を限定しない。
【0009】
本発明の一態様によれば、少なくとも1つのブロックコポリマーを含有し、共有結合によって架橋された少なくとも1つのポリマーの領域を含有する移植可能なまたは挿入可能な医療デバイスが提供される。この少なくとも1つのブロックコポリマーは、さらに少なくとも1つの低Tgブロックおよび少なくとも1つの高Tgブロックを含有する。
【0010】
本発明から恩恵を受けた医療デバイスは幅広く異なって様々な医療デバイスを含み、これらは手順としての使用のためにまたはインプラントとしてのいずれかで対象者に移植されたり挿入されたりする。
【0011】
本発明による共有結合によって架橋されたポリマーの領域を利用することができる医療デバイスの例は、例えば、膝、腰、および椎間板(spinal disk)などの荷重を支える関節の取替えのための補綴デバイスを含む。このようなインプラントにおいても酸化の低減および耐摩耗性が一般に求められている。
【0012】
本発明による共有結合によって架橋されたポリマーの領域を利用することができる医療デバイスのさらなる例は、耐摩耗性であり、かつ比較的低い摩擦係数を有するコーティングを必要とするものを含む。このようなデバイスは、組織を通過するおよび/または組織と接触するもの、例えば針、縫合糸、ガイドワイヤー、カテーテル、バルーン、およびバルーンカテーテルなどを含む。具体例としてのバルーンにおいては、組織に対して良好な耐摩耗性を有する耐久性のコーティングが大いに望ましい。さらに、このようなコーティングは、拡張された組織からまたは配置されたステントからバルーンを取り除くときの、特に十分に拡張しない不適合バルーンまたは何回もの拡張/収縮サイクルの後にクリープする傾向を有するバルーンを使用するときの(すなわち、それらは元のサイズまで収縮しない)、引抜き抵抗を低減することもできる。このようなコーティングは、バルーンがステント病変をより楽に再横断することをも可能にすることがある。カテーテルに関しては、これらのデバイスは設置の間に切断される恐れがあり、これはカテーテルの破損をもたらし得る。このようなコーティングは、カテーテルの引裂き抵抗および耐摩耗性を増大させることがある。
【0013】
本発明による共有結合によって架橋されたポリマーの領域を利用することができる医療デバイスのさらなる例は、尿道スリング、ヘルニア「メッシュ」、人工靭帯、血管グラフト、ステントグラフト、ステント(冠動脈ステント、脳血管ステントなどの末梢血管ステント、尿路ステント、尿管ステント、胆管ステント、気管ステント、消化管ステントおよび気管支ステントを含む)、脳動脈瘤充填コイル(Guglilmi detachable coilおよび金属コイルを含む)を含む塞栓形成デバイス、縫合糸アンカー(suture anchor)、吻合クリップおよびリングを含む寒栓デバイス、心臓弁および血管弁を含む弁、心室補助デバイス、ペースメーカーリード用コーティングを含むリードコーティング、シャント、蝸牛インプラント、透析ポート、手術部位の組織ステープルおよび結紮クリップ、カニューレ、金属ワイヤー結紮糸、骨グラフトなどの整形外科用プロテーゼ、骨プレート、歯科インプラント、歯根充填材、白化ストリップ、塞栓剤、気密シーラント、薬効包帯、腹帯(belly band)、胃バルーン、および肥満デバイス(obesity device)を含む。
【0014】
したがって、一部の実施形態では本発明のポリマーの領域は医療デバイス全体に相当する。他の実施形態では、ポリマーの領域は医療デバイスの1つまたは複数の部分に相当する。例えば、ポリマーの領域は医療デバイスの構成要素の形態、医療デバイスに組み込まれる1つまたは複数の繊維の形態、下層の基材の全部または一部分だけの上を覆って形成される1つまたは複数のポリマー層の形態などであり得る。下層の医療デバイス基材の材料には、セラミック、金属およびポリマーの基材を含む。基材材料は、とりわけ炭素またはケイ素に基づく材料であり得る。層は様々な位置でおよび様々な形状で(例えば、一連の長方形の形状、縞模様、または任意の他の連続または不連続なパターンで)下層の基材を覆って提供され得る。本明細書で使用する所与の材料の「層」は、その材料の厚さが長さおよび幅の両方と比較して小さい領域である。本明細書で使用する層は平面状である必要はなく、例えば、下層の基材の輪郭に沿う。層は不連続であってもよい(例えば、パターンになっている)。
【0015】
本明細書で使用する「ポリマーの領域」は、例えば、50重量%以下〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%以上のポリマーを含有する領域(例えば、デバイス全体、デバイスの構成要素、デバイスのコーティング層など)である。
【0016】
本明細書で使用する「ポリマー」は、1つまたは複数の一般にモノマーと呼ばれる構成単位の複数のコピー(例えば、2〜5〜10〜25〜50〜100〜250〜500〜1000以上)を含有する分子である。
【0017】
ポリマーは、例えば、とりわけ環状、直鎖および分岐鎖立体配置から選択される、いくつかの立体配置を呈することができる。分岐立体配置は、星形立体配置(例えば、3つ以上の鎖が単一の分岐点から放射状に伸びている立体配置)、櫛形立体配置(例えば、主鎖および複数の側鎖を有する立体配置)、樹枝状立体配置(例えば、分枝状および超分岐ポリマーを有する立体配置)などの立体配置を含む。
【0018】
本明細書で使用する「ホモポリマー」は、単一の構成単位の複数のコピーを含有するポリマーである。「コポリマー」は少なくとも2つの異なる構成単位の複数のコピーを含有するポリマーであり、その例はランダムコポリマー、統計的なコポリマー(statistical copolymer)、グラジエントコポリマー(gradient copolymer)、周期的な(例えば、交互の)コポリマーおよびブロックコポリマーを含む。
【0019】
本明細書で使用する「ブロックコポリマー」は、例えば、1つのポリマーブロックに別のポリマーブロックには見出されない構成単位(例えば、モノマー)が見出されるという理由で、組成の異なる2つ以上のポリマーブロックを含有するコポリマーである。本明細書で使用する「ポリマーブロック」は、構成単位のグループ分けである(例えば、5〜10〜25〜50〜100〜250〜500〜1000以上の単位)。ブロックは分岐があってもなくてもよい。ブロックは単一の種類の構成単位を有してもよく(本明細書では「ホモポリマーブロック」とも呼ばれる)または複数の種類の構成単位を有してもよく(本明細書では「コポリマーブロック」とも呼ばれる)、それらは、例えば、ランダム、統計的、グラジエント、または周期的な(例えば交互の)分布で存在することができる。
【0020】
本明細書で使用する「鎖」は直鎖ポリマーまたはその一部分、例えば、直鎖ブロックである。
【0021】
本明細書で使用する「低Tgポリマーブロック」は、体温未満、より通常には35℃〜20℃〜0℃〜−25℃〜−50℃以下のTgを示すブロックである。逆に、本明細書で使用する高いまたは「高Tgポリマーブロック」は、体温を超える、より通常には40℃〜50℃〜75℃〜100℃以上のTgを示すブロックである。Tgは、示差走査熱量計(DSC)によって測定することができる。
【0022】
ブロックコポリマーの配置は幅広く異なってよく、例えば、とりわけ、2つ以上の高Tgポリマー鎖(「H」と表示する)および1つ以上の低Tgポリマー鎖(「L」と表示する)を含む以下の配置を含み得る:(a)HLH、(HL)、L(HL)およびH(LH)型の交互鎖を有するブロックコポリマーで、mが2以上の正の整数であるもの、(b)X(LH)などの複数の枝(星型を含む)を有する(multiarm)コポリマーで、nが2以上の正の整数であり、Xはハブ化学種(例えば、開始剤分子の残基、連結残基など)であるもの、および(c)L鎖骨格および複数のH側鎖を有する櫛形コポリマー。
【0023】
低Tgポリマーブロックの具体的な例は、以下のものの1つまたは複数を含有するホモポリマーおよびコポリマーブロックを含む(同じもののホモポリマーの公表されているTgを添えて列挙している):(1)以下を含むアルケンモノマー:エチレン、プロピレン(Tg−8〜−13℃)、イソブチレン(Tg−73℃)、1−ブテン(Tg−24℃)、4−メチルペンテン(Tg29℃)、1−オクテン(Tg−63℃)および他のα−オレフィンを含む、ジエン例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、4−ブチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジブチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、および3−ブチル−1,3−オクタジエン;(2)以下のものを含むアクリル系モノマー:(a)アルキルアクリレート、例えばメチルアクリレート(Tg10℃)、エチルアクリレート(Tg−24℃)、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート(Tg−11℃、アイソタクチック)、ブチルアクリレート(Tg−54℃)、sec−ブチルアクリレート(Tg−26℃)、イソブチルアクリレート(Tg−24℃)、シクロヘキシルアクリレート(Tg19℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(Tg−50℃)、ドデシルアクリレート(Tg−3℃)およびヘキサデシルアクリレート(Tg35℃)など、(b)アリールアルキルアクリレート、例えばベンジルアクリレート(Tg6℃)、(c)アルコキシアルキルアクリレート、例えば2−エトキシエチルアクリレート(Tg−50℃)および2−メトキシエチルアクリレート(Tg−50℃)、(d)ハロアルキルアクリレート、例えば2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート(Tg−10℃)および(e)シアノアルキルアクリレート、例えば2−シアノエチルアクリレート(Tg4℃);(3)以下のものを含むメタクリル系モノマー(a)アルキルメタクリレート、例えばブチルメタクリレート(Tg20℃)、ヘキシルメタクリレート(Tg−5℃)、2−エチルヘキシルメタクリレート(Tg−10℃)、オクチルメタクリレート(Tg−20℃)、ドデシルメタクリレート(Tg−65℃)、ヘキサデシルメタクリレート(Tg15℃)およびオクタデシルメタクリレート(Tg−100℃)および(b)アミノアルキルメタクリレート、例えばジエチルアミノエチルメタクリレート(Tg20℃)および2−tert−ブチル−アミノエチルメタクリレート(Tg33℃);(4)以下のものを含むビニルエーテルモノマー(a)アルキルビニルエーテル、例えばメチルビニルエーテル(Tg−31℃)、エチルビニルエーテル(Tg−43℃)、プロピルビニルエーテル(Tg−49℃)、ブチルビニルエーテル(Tg−55℃)、イソブチルビニルエーテル(Tg−19℃)、2−エチルヘキシルビニルエーテル(Tg−66℃)およびドデシルビニルエーテル(Tg−62℃);(5)以下のものを含む環状エーテルモノマー、テトラヒドロフラン(Tg−84℃)、トリメチレンオキシド(Tg−78℃)、エチレンオキシド(Tg−66℃)、プロピレンオキシド(Tg−75℃)、メチルグリシジルエーテル(Tg−62℃)、ブチルグリシジルエーテル(Tg−79℃)、アリルグリシジルエーテル(Tg−78℃)、エピブロモヒドリン(Tg−14℃)、エピクロロヒドリン(Tg−22℃)、1,2−エポキシブタン(Tg−70℃)、1,2−エポキシオクタン(Tg−67℃)および1,2−エポキシデカン(Tg−70℃);(6)(上記のアクリレートおよびメタクリレート以外の)エステルモノマーで以下のものを含む、エチレンマロネート(Tg−29℃)、酢酸ビニル(Tg30℃)、およびプロピオン酸ビニル(Tg10℃);(7)以下のものを含むハロゲン化アルケンモノマー、塩化ビニリデン(Tg−18℃)、フッ化ビニリデン(Tg−40℃)、cis−クロロブタジエン(Tg−20℃)、およびtrans−クロロブタン(Tg−40℃);および(8)以下のものを含むシロキサンモノマー、ジメチルシロキサン(Tg−127℃)、ジエチルシロキサン、メチルエチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン(Tg−86℃)、およびジフェニルシロキサン。
【0024】
高Tgポリマーブロックの具体的な例は、以下のものの1つまたは複数を含有するホモポリマーおよびコポリマーブロックを含む:(1)以下のものを含むビニル芳香族モノマー(a)無置換ビニル芳香族、例えばスチレン(Tg100℃)および2−ビニルナフタレン(Tg151℃)、(b)α−メチルスチレンなどのビニル置換芳香族および(c)4−ヒドロキシスチレン(Tg174℃)などの環ヒドロキシ化ビニル芳香族を含む環置換ビニル芳香族、3−メチルスチレン(Tg97℃)、4−メチルスチレン(Tg97℃)、2,4−ジメチルスチレン(Tg112℃)、2,5−ジメチルスチレン(Tg143℃)、3,5−ジメチルスチレン(Tg104℃)、2,4,6−トリメチルスチレン(Tg162℃)、および4−tert−ブチルスチレン(Tg127℃)などの環アルキル化ビニル芳香族、、環アルコキシ化ビニル芳香族、例えば4−メトキシスチレン(Tg113℃)および4−エトキシスチレン(Tg86℃)、環ハロゲン化ビニル芳香族、例えば2−クロロスチレン(Tg119℃)、3−クロロスチレン(Tg90℃)、4−クロロスチレン(Tg110℃)、2,6−ジクロロスチレン(Tg167℃)、4−ブロモスチレン(Tg118℃)および4−フルオロスチレン(Tg95℃)、環エステル置換ビニル芳香族、例えば4−アセトキシスチレン(Tg116℃)、4−アミノスチレンを含む環アミノ置換ビニル芳香族、p−ジメチルエトキシシロキシスチレンなどの環シリル置換スチレン、無置換および置換ビニルピリジン、例えば2−ビニルピリジン(Tg104℃)および4−ビニルピリジン(Tg142℃)、ならびに他のビニル芳香族モノマー、例えばビニルカルバゾール(Tg227℃)およびビニルフェロセン(Tg189℃);(2)以下のものを含む他のビニルモノマー(a)ビニルエステル、例えば安息香酸ビニル(Tg71℃)、4−tert−ブチル安息香酸ビニル(Tg101℃)、ビニルシクロヘキサノエート(Tg76℃)、ビニルピバレート(Tg86℃)、トリフルオロ酢酸ビニル(Tg46℃)、ビニルブチラール(Tg49℃)、(b)ビニルアミン(c)ビニルハライド、例えば塩化ビニル(Tg81℃)およびフッ化ビニル(Tg40℃)、ならびに(d)アルキルビニルエステル、例えばtert−ブチルビニルエーテル(Tg88℃)およびシクロヘキシルビニルエーテル(Tg81℃);(3)アセナフタレン(Tg214℃)およびインデン(Tg85℃)を含む他の芳香族モノマー;(4)以下のものを含むメタクリル系モノマー(a)メタクリル酸無水物(Tg159℃)、(b)以下のものを含むメタクリル酸エステル(メタクリレート)(i)アルキルメタクリレート、例えばメチルメタクリレート(Tg105−120℃)、エチルメタクリレート(Tg65℃)、イソプロピルメタクリレート(Tg81℃)、イソブチルメタクリレート(Tg53℃)、t−ブチルメタクリレート(Tg118℃)およびクロロヘキシルメタクリレート(Tg92℃)、(ii)芳香族メタクリレート、例えばフェニルメタクリレート(Tg110℃)および芳香族アルキルメタクリレート、例えばベンジルメタクリレート(Tg54℃)を含む、(iii)ヒドロキシアルキルメタクリレート、例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg57℃)および2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(Tg76℃)、(iv)イソボルニルメタクリレート(Tg110℃)およびトリメチルシリルメタクリレート(Tg68℃)を含むさらなるメタクリレート、および(c)メタクリロニトリル(Tg120℃)を含む他のメタクリル酸誘導体(5)(a)ある種のアクリル酸エステル、例えばtert−ブチルアクリレート(Tg43−107℃)、ヘキシルアクリレート(Tg57℃)およびイソボルニルアクリレート(Tg94℃)を含むアクリル系モノマー;ならびに(b)アクリロニトリルを含む他のアクリル酸誘導体(Tg125℃)。
【0025】
本明細書で使用するポリ(ビニル芳香族)ブロックは、ビニル芳香族モノマーの1種以上の複数のコピーを含有するブロックであり、ポリアルケンブロックは、アルケンモノマーの1種以上の複数のコピーを含有するブロックなどである。
【0026】
上述の通り、本発明の医療デバイスは、少なくとも1つの共有結合によって架橋された、少なくとも1つのブロックコポリマーを含有するポリマーの領域を含有する。この少なくとも1つのブロックコポリマーは、さらに(a)少なくとも1つの低Tgブロックおよび(b)少なくとも1つの高Tgブロックを含有する。例えば、他にも多くの可能性がある中でもとりわけ、2つ以上の高Tgブロックが1つ以上の低Tgブロックを通じて相互に連結されていてよい。
【0027】
共有結合の架橋は、トリブロックコポリマーの強度および伸びを増大させることが示されている。例えば、S.Sakuraiらの「Mechanical properties of polystyrene−block−polybutadiene−block−polystyrene triblock copolymers crosslinked in the dsordered state」、Polymer40巻(1999年)2071〜2076頁を参照されたい。架橋はその他の、例えばとりわけクリープ抵抗性、耐摩耗性および引裂き抵抗性の1つまたは複数を含む力学的性質も向上させることが予想される。力学的性質の向上は様々な医療デバイスの性能を向上させるであろう。
【0028】
一部の実施形態では、ブロックコポリマー中の1つまたは複数のブロックそれ自体が架橋されるのに足るほど反応性である。他の実施形態では、ブロックコポリマーは、十分に反応性とするために修飾される。さらに他の実施形態では、ブロックコポリマーを十分に反応性とするために反応性の種が重合過程の間に導入される。さらに他の実施形態では、ブロックコポリマーは、補完的な反応性ポリマーとブレンドされ、ブレンドは次いで架橋され、それによって相互貫入ネットワークを形成する。
【0029】
ポリマーは、様々な方法で架橋させることができる。例えば、架橋は、エネルギー(例えば、熱または電離放射線もしくは非電離放射線、例えば電子線放射、γ放射線、UV光、可視光などを当てること)または化学物質(例えば、水分)あるいは両方に曝露することによって開始させることができる。架橋は、適当な化学種、例えば、とりわけ触媒(例えば、反応生成物の部分となることなく化学反応の完結を支援する種)および/または架橋剤(例えば、他の分子と結合を形成して架橋ポリマーネットワークの部分となる種)の支援を得て進行することができる。
【0030】
最初の例としては、とりわけエチレンおよび/またはプロピレンから形成されたポリマーを含む、様々なポリアルケン、それらの骨格に沿ったラジカル種の形成の結果として架橋され得る。ラジカルは、例えば電離放射線(例えば高エネルギー電子、X線、γ放射線など)に曝露すると形成され得る。ラジカルは、フリーラジカルを発生する種、とりわけ過酸化物、パーエステル(perester)、およびアゾ化合物などに曝露したときにも形成されてよく、以下のものなどの過酸化物が普通に使用される:2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン(Lupersol 130,Atochem Inc.,Philadelphia,Pa.);2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン(Varox 130);t−ブチルα−クミルパーオキシド;ジ−ブチルパーオキシド;t−ブチルヒドロパーオキシド;ベンゾイルパーオキシド;ジクロロベンゾイルパーオキシド;ジクミルパーオキシド(Lupersol 101,Atochem Inc.);ジ−t−ブチルパーオキシド;2,5−ジメチル−2,5−ジ(パーオキシベンゾエート)−3−ヘキシン;1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン;ラウロイルパーオキシド;ジ−t−アミルパーオキシド;1,1−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン;2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン;および2,2−ジ−(t−アミルパーオキシ)プロパン。
【0031】
いったん形成されると、2つの異なる鎖上のラジカルは合わさって鎖の間に結合を形成することができる。この反応は、ポリマーが移動性の状態、例えば、溶融状態にある場合には増進され、この状態はラジカル形成と同時に、またはラジカル形成に続いて達成されればよい。
【0032】
これらの原理に基づけば、ポリアルケンブロックコポリマー(例えば、高Tgの末端ブロックを有しかつエチレン、プロピレンまたはそれらの両方などを有する低Tgの中央ブロックを有するトリブロックコポリマー)は、放射線またはフリーラジカル形成性化合物への曝露によって、例えば溶融段階にある間に、架橋され得る。この種のブロックコポリマーの市販されている例は、例えば、Kraton Polymers、Houston TX、USAからのKRATON Gシリーズのポリマー、具体的にはSEBS、ポリ(スチレン−b−エチレン/ブチレン−b−スチレン)トリブロックコポリマー(例えば、KRATON G 1650、1651、1652、1654、1657など)を含む。1つの具体的な例として、このようなコポリマーは、(例えば、形状が所望の医療デバイスまたはデバイスの部品に相当する)金型の中で溶融状態まで加熱し、次いで、例えば、電離放射線を当てることによってまたは溶融状態まで加熱すると活性化されるフリーラジカル発生種を含めることによって架橋させることができる。
【0033】
互いに反応性であることに加えて、ポリマー鎖上で発生したラジカルは、1つまたは複数の不飽和部位(例えば、−HC=CH−または−C=C−)を有するものなどの多官能性架橋種を含む様々なその他の種とも反応性である。
【0034】
例えば、本発明の一部の実施形態では、ビニル架橋剤をラジカル化されたブロックコポリマーの間の架橋を増進させるために加えることができる。例えば、nが例えば0〜20にわたる整数であるHC=CH−(CH−HC=CHなどのアルケンをこの目的のために使用することができる。これについては、例えば、P.Braccoらの、下記を参照されたい。そこでは他の種よりも、とりわけ1,7−オクタジエン中に浸漬された超高分子量ポリエチレンが、電子線放射に曝露させると架橋される。このようなラジカルは、上述の通り、過酸化物などのフリーラジカル発生化合物の導入によっても発生させることができる。
【0035】
多官能性架橋剤の他の例は、末端が不飽和の、直鎖または分岐鎖ポリマー、例えば、ポリアルケン(例えば、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリ(エチレン−コ−ポリブチレン)、ポリイソブチレンなど)、ポリビニル芳香族、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどを含み、これらのポリマーは、例えば2〜5〜10〜25〜50〜100以上のモノマー単位を含有することができる。これらのポリマーのあるもの(例えば、ポリイソブチレンおよびポリメタクリレート)は、放射線に曝露すると鎖切断されやすい。
【0036】
これについては、架橋剤とブロックコポリマーの間の相溶性は、架橋されるブロックコポリマー中に見出されるものと同じまたは類似のモノマー組成を有するポリマーブロックを含有する多官能性架橋剤を使用することによって高められ得る。例えば、SEBSは末端が不飽和のポリエチレン、ポリブチレン、またはポリスチレンを使用して架橋することができる。
【0037】
1種または複数のジエンモノマーを含有するポリマーブロックは、化学物質に基づく(例えば、フリーラジカル発生種を使用する)架橋、エネルギーに基づく(例えば、電離放射または非電離放射を使用する)架橋あるいはそれらの両方を含む、架橋を特に受けやすい。ポリマーブロックを形成するためのジエンは、例えば、とりわけ上記したものの適当なメンバーから選択することができる。ブロックコポリマーの具体的な例は、とりわけポリ(スチレン−b−イソプレン−b−スチレン)(SIS)およびポリ(スチレン−b−ブタジエン−b−ポリスチレン)トリブロックコポリマーを含む。
【0038】
具体的な例として、R.Basheerら「The radiation crosslinking of block copolymers of butadiene and styrene」、Die Makromolekulare Chemie、2003年、183巻、9号、2141〜2151頁は、ブタジエンおよびスチレンのブロックコポリマーをγ線放射への曝露によって架橋する方法を記載している。SBSおよびSISの電子線放射による架橋は、H.Kanbaraら「Measurement of crosslinking degree for electron beam irradiated block copolymers」、Polymer Engineering and Science、2004年、34巻、8号、691〜694頁に記載されている。もう1の具体的な例として、S.Sakuraiら「Mechanical properties of polystyrene−block−polybutadiene−block−polystyrene triblock copolymers crosslinked in the disordered state」、Polymer40巻(1999年)2071〜2076頁は、SBSが過酸化物の作用物質、具体的には1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを使用して架橋することができることを実証した。さらなる具体例として、C.Deckerら「High−speed photocrosslinking of thermoplastic styrene−butadiene elastomers」、Journal of Applied Polymer Science、2000年、77巻、9号、1902〜1912頁は、アシルホスフィンオキシド光開始剤および三官能性チオール架橋剤を使用するSBSおよびSISコポリマーの架橋を報告している。Deckerらは、アシルホスフィン酸化物光開始剤および、任意選択で、テレケリック(telechelic)アクリレートオリゴマーの存在下におけるUV曝露したときのSBSの光架橋もMacromolecular Chemistry and Physics、「Photocrosslinking of functionalized rubbers、7.Styrene−butadiene block copolymers」、1999年、200巻、2号、358〜367頁で報告している。
【0039】
他の実施形態では、ポリマーの重合中または重合に続いて、それらに容易に架橋し得る基を備えることによってポリマーを架橋可能にする。架橋し得る基は、ポリマーの1つまたは複数の鎖末端に、ポリマーのポリマー骨格に沿って、または両者の組合せに備えることができる。
【0040】
例えば、不飽和基および加水分解可能な基の組合せを有するシラン化合物を、例えば、ポリアルケン(例えば、エチレンおよび/またはブチレンを含有するポリマー)上に、フリーラジカル発生条件下(例えば、適当な過酸化物の存在下または電離放射線の存在下)でグラフトさせることができる。具体的な例として、ビニルトリメトキシシランがポリエチレンに、グラフト化剤としてジクミルパーオキシドを使用してグラフトされている。このようなポリマーは水分硬化可能(架橋可能)である。特に、架橋は水に曝露すると進行することができ、水はポリマー中のアルコキシ基が加水分解される原因となり、周辺のヒドロキシ基の縮合が続いて−Si−O−Si−連結を含有する架橋を形成する。この過程は、例えば、スチームオートクレーブ処理または適当な触媒、例えば有機スズ触媒の使用によって促進され得る。
【0041】
本発明による類似の方法を使用して、例えば、エチレン、プロピレンまたは両方を含有するポリマーブロックを有するブロックコポリマーは、1つまたは複数の不飽和部位および1つまたは複数の加水分解可能なシラン基を有する種で架橋することができる。このようなシランの具体的な例は、とりわけ、式HC=CH−(CH−Si−(OR)の種を含み、nは、例えば、0〜20にわたる整数であり、Rは1〜10個の炭素原子を有するアルキル基および6〜10個の炭素原子を有するアリール基から選択される。
【0042】
別の例として、架橋はまずエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴムをシラン化合物でヒドロシリル化することによって達成されてよく、ケイ素水素結合(Si−H)はすぐにEPDMゴム上に見出されるペンダントオレフィン性不飽和と反応する。シランはまた好ましくは続く架橋反応のための複数のアルキルシロキシ基を含有する。このような化合物の一例は、Sigma−Aldrich and Gelest、Inc.、Morrisville、PA、USA(製品# SIT8721.0)から入手可能なトリス(トリメチルシロキシ)シランである。
【0043】
不飽和酸無水物を、エチレンまたはプロピレンを含有するものを含めたポリマー鎖にグラフトすることも知られている。例えば、マレイン酸無水物を有機過酸化物の存在下でポリアルケン鎖にグラフトすることが知られている。過酸化物の例は上記で列挙されている。ポリアルケン鎖のマレイン酸処理(maleation)は、例えば、他の処理よりも、とりわけ溶液中でまたは溶融相中で(例えば、反応押出しなどによって)実施することができる。
【0044】
類似の方法を使用して、エチレン、プロピレンまたは両方を含有しているブロックコポリマーをマレイン酸処理することができる。この種のブロックコポリマーは市販されている。例えば、マレイン酸処理されたSEBSは、Kraton Polymers からKraton FGシリーズのポリマーとして入手可能である(例えば、FG1901またはFG1924X)。このようなマレイン酸処理されたポリマーは、次いでそれぞれ2つ以上のグラフトされた無水物基と反応性基、例えば、とりわけアミン基および/またはヒドロキシ基を含有している多官能性架橋種を介して架橋させることができる。このような種の例は、多官能性アルコール、多官能性アミン、末端ヒドロキシ基および/またはアミン基を有する直鎖または分岐鎖のポリアルケン、末端ヒドロキシ基および/またはアミン基を有する直鎖または分岐鎖のポリ(ビニル芳香族)、などを含む。
【0045】
架橋後に、すべての残余の無水マレイン単位を加水分解してカルボキシレート(カルボン酸基)を形成させることができる。これらの基は、水素結合を形成することができ、これはまた物理的架橋として働くことができる。
【0046】
ポリアルケンの架橋に関するより詳細な情報は、例えば、P.Braccoら、「Radiation−induced crosslinking of UHMWPE in the presence of co−agents:chemical and mechanical characterization」、Polymer46巻(2005年)10648〜10657頁、G.Lewis、「Properties of crosslinked ultra−high−molecular−weight polyethylene」、Biomaterials22巻(2001年)371〜401頁、S.M.Kurtzら、「Advances in the processing, sterilization, and crosslinking of ultra−high molecular weight polyethylene for total joint arthroplasty」、Biomaterials20巻(1999年)1659〜1688頁、Lyonsの米国特許第4036719号、Cornetteらの米国特許出願第2005/0031813号、Halahmiらの米国特許出願第2005/0218551号、およびSaloveyらの米国特許出願第2004/0208841号で見出すことができ、これらの開示を参考として本明細書に援用される。
【0047】
別の例として、ジエンはパーオキシ酸とも反応させることができてエポキシ基を形成し、エポキシ基は放射線での処理によって架橋させることができる。エポキシ化された天然ゴムが照射によって架橋された1つの研究は、大部分の架橋はエポキシ基の開環によるものであり、ごくわずかのC−C架橋が観察されるかまたは全く観察されないことを見出した。M C Senake Perera、「Radiation degradation of epoxidized natural rubber studied by solid−state nuclear magnetic resonance and infrared spectroscopy」、Polymer International49巻、7号、2000年、691〜698頁。所望であれば、ジエンは、Ericksonの米国特許第5491193号に記載されている通り、エポキシ基の形成に先立って部分的に水素化させることができる。例えば、Erickson特許では、ポリマーは水素化されて、ポリマー1グラム当たりに約0.1〜約5ミリ当量残っている残余の脂肪族二重結合を有する部分的に水素化されたポリマーを生成する。部分的に水素化されたポリマーは、パーオキシ酸と接触させてエポキシ化されたポリマーを形成させ、このポリマーは1グラム当たりに0.1〜約5ミリ当量の間のエポキシドを有する。エポキシ化されたポリマーは、次いでポリマーを架橋させるのに足る量の(電離または非電離のどちらかの)放射線に曝露させる。
【0048】
他の実施形態では、ポリジエンを所望の程度までエポキシ化することができ、架橋および次いで残余の不飽和を低減/除去するための水素化が続く。
【0049】
本発明の他の実施形態は、反応性種の組込みを重合過程と併せて含む。
【0050】
これに関しては、とりわけイソブチレン、ブタジエン、イソプレン、メチルブテン、および2−メチルペンテンなどのアルケンまたはとりわけスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレンおよびインデンなどのビニル芳香族モノマーを含む、不飽和モノマーのカチオン重合が周知である。通常のカチオン重合過程では、適当な不飽和モノマーを、カチオン重合触媒、開始剤、および任意選択の(プロトン性の不純物による開始を防ぐための)ルイス塩基の存在下で、通常非プロトン性溶媒中の乾燥条件下で低温において重合させる。この方法で形成されたポリマーは、リビングカチオン(living cation)ポリマーである(例えば、ポリマー鎖がある一定の長さに達したときにまたは触媒が使い尽くされたときに停止するのではなく、ポリマー鎖が通常モノマーの供給が途絶えるまで開始位置から成長し続けるポリマー)。カチオン重合触媒は、例えば、ルイス酸(例えば、とりわけBClまたはTiCl)でよい。開始剤は、例えば、アルキルハライドまたは(ハロアルキル)−アリール化合物、例えば、とりわけ2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタンなどの単官能性開始剤、1,3−ジ(1−クロロ−1−メチルエチル)−5−(t−ブチル)ベンゼンなどの二官能性開始剤、または1,3,5−トリ(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼンなどの三官能性開始剤であってもよい。ルイス塩基は、とりわけ2,6−ジtert−ブチル−ピリジン(DTBP)またはルチジンなどのピリジンおよびその誘導体を含む。
【0051】
具体的な例としては、イソブチレンなどのカチオン重合性アルケンは、二官能性開始剤(例えば、とりわけ1,3−ジ(1−クロロ−1−メチルエチル)−5−(t−ブチル)ベンゼン)の存在下で重合させることができ、2つのポリアルケン鎖末端から続くスチレンなどのカチオン重合性ビニル芳香族モノマーの重合が続き、それによってポリ(ビニル芳香族−b−アルケン−b−ビニル芳香族)トリブロックコポリマーが形成される(開始剤残渣の存在は、それがコポリマーのささいな成分であるので通常ブロックコポリマー用語中では無視される)。
【0052】
SIBSなどのポリ(ビニル芳香族−b−アルケン−b−ビニル芳香族)コポリマーをより反応性にし、したがってより良好に架橋反応に加わることができるようにするために、少量のジエン、例えば、イソプレンまたはブタジエンを、カチオン重合過程の間に加え(例えば、イソブチレンと混合してまたはイソブチレンに続いて加えて)、それによってポリイソブチレンブロックの内部またはその末端に不飽和を有するSIBSをもたらすことができる。このようなポリマーは、例えば、とりわけEPDMゴムと併せて使用するための、上記したものなどの技法を使用して、架橋することができる。
【0053】
別の例として、ブロックコポリマーは、反応性化合物でそれらを末端キャップすることによってより反応性にすることができる。
【0054】
例えば、ブロックコポリマーは、ヘテロ環状化合物で末端キャップすることができ、次いでそれを光開始剤の存在下でUVによって架橋することができる。これに関しては、参考として本明細書に援用されるFaustらの米国特許第6750267号は、ヘテロ環状化合物で末端キャップされたイソブチレンポリマーを記載しており、これはカチオン性光開始剤(例えば、とりわけスルホン酸のジアーリルヨードニウム塩、スルホン酸のトリアリールスルホニウム塩、ホウ酸のジアリールヨードニウム塩、およびホウ酸のトリアリールスルホニウム塩から選択されるオニウム塩)と組み合わせて、組成物を硬化(すなわち、架橋)させるに足る量の紫外光または可視光などのエネルギー源に曝露させることができる。
【0055】
本発明における使用のためのトリブロックコポリマーは、例えば二官能性開始剤(例えば、1,3−ジ(1−クロロ−1−メチルエチル)−5−(t−ブチル)ベンゼン)から第1のモノマー(例えば、イソブチレン)をカチオン的に重合させることに、第2のモノマー(例えば、スチレン)のカチオン重合が続くことによって形成され得る。重合はスチレンモノマーの完全な変換の前に停止される。こうして形成されたトリブロックコポリマー、例えば、ポリ(スチレン−b−イソブチレン−b−スチレン)コポリマーは、次いで単離され/精製され、Faustらにおいて記載されたものに似た方法によるヘテロ環状化合物(例えば、とりわけ2,2−ジフリルプロパンまたはチオフェン)での末端キャッピングが続く。末端キャップされたポリマーは、次いでカチオン性光開始剤と組み合わされ、エネルギー源(例えば、紫外光)への曝露によって架橋され得る。
【0056】
別の例として、1つまたは複数の鎖末端、1つまたは複数の鎖に沿って、またはそれらの組合せに反応性基を有するブロックポリマーを調製することができる。
【0057】
具体的な例として、参考として本明細書に援用されるそれぞれFaustらの米国特許第5981895号、米国特許第6051657号および米国特許第6194597号は、2つを互いにカップリングさせて水分硬化性の両末端反応性(telechelic)の系を形成させることができるシリル官能性リビングカチオンポリマーを調製する方法を記載している。この方法は、重合過程のために官能性開始剤を利用し、続いて鎖末端同士を二官能性結合剤を使用してカップリングして水分硬化性ポリマーを形成させる。より詳細には、記載されている方法は、ルイス酸の存在下で、少なくとも1つのカチオン重合性モノマーを通常のカチオン性重合開始基(例えば、ハロゲン、アルコキシ、アシルオキシまたはヒドロキシ基)およびシラン基(例えば、−SiX3−n、Rは1〜10個の炭素原子を有するアルキル基または6〜10個の炭素原子を有するアリール基から選択され、Xはハロゲンであり、nは1、2または3である)、例えばとりわけ
【0058】
【化1】

を含む官能性開始剤と反応させることを含む。得られたリビングポリマーは、次いで適当なカップリング剤、例えば、とりわけ少なくとも2つのフラン環を有する分子
【0059】
【化2】

を使用して、カップリングさせる。
【0060】
一実施形態によれば、本発明における使用のためのコポリマーは、例えば、第1のカチオン重合性高Tgモノマー(例えば、スチレンなどのビニル芳香族モノマー)のシリル官能性開始剤からの重合に続く第2の低Tgモノマー(例えば、イソブチレンなどのアルケン)の重合によって調製することができる。得られたシリル官能化ジブロックコポリマーは、次いで適当なカップリング剤、例えばとりわけ上記したものなどの少なくとも2つのフラン環を有する分子でそれ自体に連結され得る。得られたHLHトリブロックコポリマー(この用語は上に注記した通り開始剤およびカップリング基の残余の存在を無視している)は、次いでアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)と反応させ、それによってケイ素原子上のハロゲン基がアルコールに対応するアルコキシ官能基によって置換される。得られたアルコキシシリル官能性ポリマーは、次いで非溶媒(non−solvent)を用いる沈殿などの従来の手段によって反応溶液から単離され得る。このようなポリマーは、水分への曝露によって硬化させることができ、それらは任意選択で追加の作用物質、例えば、触媒(例えば、とりわけ2−エチルヘキサン酸スズ(II)などの有機スズ触媒)および/または架橋剤などを含有することができる。
【0061】
水分硬化性ポリマーは、参考として本明細書に援用されるFaustらの米国特許第6469115号にも記載されており、そこではイソブチレンなどのアルケンのカチオン重合を、シリル官能性の開始剤、例えば、上記したものの1つの存在下で実施する。さらに、この重合過程でシリル官能性ビニル芳香族モノマーは、例えば、
【0062】
【化3】

にも使用され、式中のR”は、独立に1〜10個の炭素原子を有するアルキル基または6〜10個の炭素原子を有するアリール基から選択され、R’’’は2〜6個の炭素原子を有する二価の非芳香族炭化水素基であり、Xはハロゲン基であり、nは独立に1,2または3であり、上式の化合物は、例えば2−ジクロロメチルシリル−エチル−スチレン(DSiSt)である。一部の実施形態では、まずアルケンモノマーが重合され、アルケンの重合がほぼ完了した後でシリル官能性モノマーの重合が続く。他の実施形態では、アルケンモノマーとシリル官能性モノマーを同時に重合させる。どちらの場合も、上記で論じた通り、得られたポリマーは次いでアルコールと反応させて、得られたアルコキシシリル官能性ポリマーを単離する。このようなポリマーは、水分への曝露によって、任意選択で、例えば触媒および/または架橋剤などの追加の作用物質の存在下で、架橋させることができる。
【0063】
本発明における使用のためのポリマーは、類似の手順を使用して作成することができる。例えば、シリル官能性開始剤、例えば、上記したもの(カチオン重合の目的のための単官能性であるもの)の1つを使用することができ、低Tgモノマーの重合の前に高Tgモノマーの重合過程が進行する。シリル官能性ビニルモノマー、例えば上記のものの1つは、工程の1つまたは複数の時点で、例えば、高Tgモノマーの前に導入する、高Tgモノマーと混合して導入する、高Tgモノマーの後でかつ低Tgモノマーの前に導入する、低Tgモノマーと混合して導入する、低Tgモノマーの後で導入することができ、また前記のものの任意の組合せででも導入することができる。例えば、スチレンの重合はシリル官能性開始剤から進行することができ、イソブチレンの重合が続き、シリル官能性ビニル芳香族モノマーの重合が続く。他の例としては、スチレンの重合はシリル官能性開始剤から進行することができ、シリル官能性ビニル芳香族の重合が続き、イソブチレンの重合が続く。実施形態にかかわらず、得られたポリマーは、例えば少なくとも2つのフラン環を有する分子、例えば、上記の通りbFPFを使用して互いに結合され得る。得られた連結されたポリマーは、次いでアルコールと反応させ、かつ得られたアルコキシシリル官能性ポリマーを単離することができる。このようなポリマーは水分への曝露によって、任意選択で、例えば触媒および/または架橋剤などの追加の作用物質の存在下で、架橋させることができる。
【0064】
別の例として、二官能性開始剤は、高Tgモノマーの重合の前の低Tgモノマーの重合過程で使用することができる。上記で記載したもののようなシリル官能性のビニル芳香族モノマーは、工程中の1つまたは複数の時点で導入することができ、例えば、低Tgモノマーの前に導入する、低Tgモノマーと混合して導入する、低Tgモノマーの後でかつ高Tgモノマーの前に導入する、高Tgモノマーと混合して導入する、および高Tgモノマーの後で導入する、または前記のものの任意の組合せで導入することができる。第1の例としては、イソブチレンの重合は二官能性開始剤から進行することができ、スチレンの重合が続き、シリル官能性ビニル芳香族モノマーの重合が続く。第2の例としては、イソブチレンの重合は二官能性開始剤から進行することができ、シリル官能性ビニル芳香族モノマーの重合が続き、スチレンの重合が続く。第3の例としては、イソブチレンおよびシリル官能性ビニル芳香族モノマーの混合または重合が二官能性開始剤から進行することができ、スチレンの重合が続く。実施形態にかかわらず、得られたポリマーは、水分への曝露によって、任意選択で追加の作用物質、例えば触媒および/または架橋剤の存在下で、上記の通りアルコールを反応させ、単離し、架橋させることができる。
【0065】
さらなる水分硬化性ポリマーは、参考として本明細書に援用されるFaustらの米国特許第6268451号に記載されており、そこでは以下の3つのモノマーをルイス酸および溶媒の存在下で同時に重合させている:(a)アルケンモノマー、例えば、イソブチレン、(b)アルケンモノマーよりもはるかに反応性が高い第1のシリル官能性ビニル芳香族、例えばビニルフェニルモノマー
【0066】
【化4】

など、および(c)アルケンモノマーよりもはるかに反応性が低い第2のシリル官能性ビニル芳香族、例えば、α−アルキル置換ビニルフェニルモノマー、例えば
【0067】
【化5】

など、RおよびR’は2〜6個の炭素原子を有する二価の非芳香族炭化水素基であり、R”は1〜10個の炭素原子を有するアルキル基または6〜10個の炭素原子を有するアリール基から選択され、Xは独立にハロゲンなどの加水分解可能な基であり、nは独立に1、2または3である。得られるポリマーは「擬テレケリック」ターポリマーであると言われ、それは1つの種類の反応性シリル官能性単位を統計的にターポリマー鎖の頭の近くに集中して、およびわずかに異なる種類の反応性シリル官能性単位をターポリマーの尾に統計的に集中して有しているコポリマーを意味する。このようなポリマーは、アルコールと反応させ、単離し、かつ上記の通り水分に曝露させることによって架橋させることができる。
【0068】
本発明の特定の実施形態では、相互貫入ポリマーネットワーク(IPN)または半IPNが創出され、その中では補完的なポリマーが(a)少なくとも1つの低Tgブロックおよび(b)少なくとも1つの高Tgブロックを含むブロックコポリマーの存在下で架橋される。理論に拘束されたくはないが、補完的ポリマーを架橋させることによって、ブロックコポリマーが共有結合の架橋(ブロックコポリマーが反応性であれば)、鎖の絡み合い、または両方によって架橋ポリマーの領域中に固定されると考えられている。
【0069】
補完的ポリマーの例は、放射線、熱および/または水分などの化学物質に曝露すると架橋するポリマーから選択することができる。このようなポリマーの具体的な例は、アルケン単位、例えば、とりわけエチレンおよび/またはプロピレン単位などのオレフィン単位、またはイソプレンおよび/またはブタジエン単位などのジエン単位を含有するホモポリマーおよびコポリマーを含む。上に注記した通り、このようなポリマーは、任意選択でポリマー骨格に沿って反応性基を創るための化学反応を受けた後で、例えば、エネルギーまたは化学硬化剤に(例えば、アルコキシシラン基、無水物基、エポキシ基など)、任意選択で触媒の存在下で(例えば、過酸化物、光開始剤など)、および/または任意選択で架橋剤(例えば、多官能性種とりわけビニル、チオール、ヒドロキシおよび/またはアミン基を有するもの)の存在下で、曝露すると架橋され得る。さらなる具体的な例は、官能性開始剤(例えば、とりわけシリル官能性開始剤)、官能性モノマー(例えば、とりわけシリル官能性モノマー)、および/または官能性末端キャップ(例えば、とりわけヘテロ環状化合物)を使用して形成される架橋性ポリマーを含む。これらの具体的な例に関するさらなる知識は、上記で論じており、例示したブロックコポリマー以外のホモポリマーおよびコポリマーにも当てはまる。
【0070】
例えば、架橋性の補完的ポリマー、例えば、ポリエチレンまたはポリブチレンなどのホモポリマー、またはポリエチレン−co−ポリブチレンもしくはポリエチレン−co−ブチルアクリレートなどのコポリマーは、(a)反応性の低Tg中央ブロックおよび高Tg末端ブロックを有するトリブロックコポリマー、例えばSEBSコポリマー、または(b)非反応性低Tg中央ブロックおよび高Tg末端ブロックを有するトリブロックコポリマー、例えば、SIBSコポリマーの存在下で架橋することができる。任意選択で、架橋はポリマー骨格に沿って反応性基(例えば、とりわけ上記で論じたアルコキシシラン基および無水物基)を発生させた後で触媒(例えば、とりわけ上記で論じた過酸化物および光開始剤)の存在下、および/または架橋剤(例えば、とりわけ上記で論じたビニル、ヒドロキシまたはアミン基を有するものなどの多官能性種)の存在下で進行することもある。理論に拘束されたくはないが、SEBSは共有結合の架橋および鎖の絡み合いの組合せによって架橋ポリマーの領域中に固定されるようになり、一方SIBSは鎖の絡み合いによって架橋ポリマーの領域中に固定されるようになると考えられている。
【0071】
特定の実施形態では、1つまたは複数の治療剤が本発明による架橋ポリマーの領域の上、内部または下に備えられる。「治療剤」、「薬剤」、「薬剤活性剤」、「薬剤活性物質」などの関連する用語は本明細書では交換可能に使用することができる。
【0072】
本発明に関連する使用のための例となる治療剤は以下のものを含む:(a)抗血栓剤、例えばヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、およびPPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)など;(b)抗炎症剤、例えばデキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデゾニド、エストロゲン、スルファサラジンおよびメサラミンなど;(c)抗新生物剤/抗増殖剤/分裂阻害剤、例えばパクリタクセル、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンジオスタチン、アンジオペプチン、平滑筋細胞増殖阻止能力があるモノクローナル抗体、およびチミジンキナーゼ阻害剤など;(d)麻酔剤、例えばリドカイン、ブピバカインおよびロピバカインなど;(e)抗凝固剤、例えばD−Phe−Pro−Argクロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、ヘパリン、ヒルジン、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤およびダニ抗血小板ペプチドなど;(f)血管細胞増殖促進因子、例えば増殖因子、転写活性化因子、および翻訳促進因子など;(g)血管細胞増殖阻害剤、例えば増殖因子阻害剤、増殖因子受容体拮抗薬、転写抑制剤、翻訳抑制剤、複製阻害剤、阻害抗体、成長因子に対する抗体、増殖因子および細胞毒素から成る二官能性分子など;(h)プロテインキナーゼおよびチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、チルホスチン、ゲニステイン、キノキサリン);(i)プロスタサイクリン類似体;(j)コレステロール低下剤;(k)アンジオポエチン;(l)抗菌剤(トリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシドおよびニトロフラントインなど;(m)細胞毒性薬、細胞分裂阻害剤および細胞増殖影響因子;(n)血管拡張剤;(o)内因性血管作用機序に干渉する薬剤;(p)白血球動員の阻害剤、例えばモノクローナル抗体など;(q)サイトカイン;(r)ホルモン;(s)ゲルダナマイシンを含むHSP 90タンパク質(すなわち、熱ショックタンパク質、これは分子シャペロンまたはハウスキーピングタンパク質であり、細胞の増殖および生存に関与する他のクライアントタンパク質/シグナル変換タンパク質の安定性および機能に必要とされる)阻害剤、(t)α受容体拮抗薬(ドキサゾシン、タムスロシンなど)およびβ受容体作動薬(ドブタミン、サルメテロールなど)、β受容体拮抗薬(アテノロール、メタプロロール、ブトキサミンなど)、アンジオテンシン−II受容体拮抗薬(ロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタンおよびテルミサルタンなど)、および鎮痙薬(塩化オキシブチニン、フラボキサート、トルテロジン、硫酸ヒヨスチアミン、ジクロミンなど)、(u)bARKct阻害剤、(v)ホスホランバン阻害剤、(w)Serca 2 遺伝子/タンパク質、(x)アミノキノリン(aminoquizoline)を含む免疫応答修飾剤、例えば、レジキモドおよびイミキモドなどのイミダゾキノリン、および(y)ヒトアポリポタンパク質(例えば、AI、AII、AIII、AIV、AVなど)。
【0073】
必ずしも上記で列挙したものを除かない数多くの治療剤が血管治療法のための候補として、例えば、再狭窄を標的とする薬剤として、確認されてきた。このような薬剤は本発明の実施のために有用であり、以下のものの1つまたは複数を含む:(a)ジルチアゼムおよびクレンチアゼム(clentiazem)などのベンゾチアザピン、ニフェジピン、アムロジピンおよびニカルダピンなどのジヒドロピリジンならびにベラパビムなどのフェニルアルキルアミンを含むCaチャンネル遮断剤、(b)ケタンセリンおよびナフチドロフリルなどの5−HT拮抗薬、ならびにフルオキセチンなどの5−HT取り込み抑制剤を含むセロトニン経路調節剤、(c)シロスタゾールおよびジピリダモールなどのホスホジエステラーゼ阻害剤、フォルスコリンなどのアデニレート/グアニレートシクラーゼ刺激剤ならびにアデノシン類似体を含む環状ヌクレオチド経路の作用物質、(d)プラゾシンおよびブナゾシンなどのα−拮抗薬、プロプラノロールなどのβ−拮抗薬、ラベタロールおよびカルベジオールなどのα/β−拮抗薬を含むカテコールアミン調節剤、(e)エンドテリン受容体拮抗薬、(f)ニトログリセリン、二硝酸イソソルビドおよび亜硝酸アミルなどの有機硝酸塩/亜硝酸塩、ニトロプルシドナトリウムなどの無機ニトロソ化合物、モルシドミン(molsidomine)およびリンシドミン(linsidomine)などのシドノニミン(sydnonimine)、ジアゼニウムジオレート(diazenium diolate)およびアルカンジアミンのNO付加物などのノノエート(nonoate)を含む一酸化窒素供与体/放出性分子、低分子量化合物(例えば、カプトプリルのS−ニトロソ誘導体、グルタチオンおよびN−アセチルペニシラミン)および高分子量化合物(例えば、タンパク質、ぺプチド、オリゴサッカリド、ポリサッカリド、合成ポリマー/オリゴマーおよび天然ポリマー/オリゴマーのS−ニトロソ誘導体)を含むS−ニトロソ化合物ならびにC−ニトロソ化合物、O−ニトロソ化合物、N−ニトロソ化合物およびL−アルギニン、(g)ACE阻害剤、例えばシラザプリル、フォシノプリルおよびエナラプリルなど、(h)ATII受容体拮抗薬、例えばサララシンおよびロサルチンなど、(i)血小板接着抑制剤、例えばアルブミンおよびポリエチレンオキシドなど、(j)例えばシロスタゾール、アスピリンおよびチエノピリジン(チクロピジン、クロピドグレル)を含む血小板凝集抑制剤、ならびにGP IIb/IIIa阻害剤、例えばアブシキシマム、エピチフィバチドおよびチロフィバンなど、(k)ヘパリノイド、例えばヘパリン、低分子量ヘパリン、硫酸デキストランおよびβ−シクロデキストリンテトラデカサルフェート、トロンビン阻害剤、例えばヒルジン、ヒルログ、PPACK(D−phe−L−プロピル−L−arg−クロロメチルケトン)およびアルガトロバンなど、Fxa阻害剤、例えばアンチスタチンおよびTAP(ダニ抗凝固性ペプチド)など、ビタミンK阻害剤、例えばワルファリンなど、ならびに活性化タンパク質Cを含む凝固経路調節剤、(l)シクロオキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばアスピリン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、およびスルフィンピラゾンなど、(m)天然および合成コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン、プレドニゾロン、メトプレドニゾロンおよびヒドロコルチゾンなど、(n)リポキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばノルジヒドログアイレチン酸およびカフェイン酸など、(o)ロイコトリエン受容体拮抗薬、(p)E−およびP−セレクチンの拮抗薬、(q)VCAM−1およびICAM−1相互作用の阻害剤、(r)例えばPGE1およびPGI2などのプロスタグランジンなどを含むプロスタグランジンおよびその類似体ならびにプロスタサイクリン類似体、例えばシプロステン(ciprostene)、エポプロステノール、カルバサイクリン、イロプロスト(iloprost)およびベラプロスト(beraprost)、(s)ビスホスホネートを含む、マクロファージ活性化予防因子(preventer)、(t)HMG−CoAレダクターゼ阻害剤、例えばロバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、およびセリバスタチンなど、(u)魚油およびオメガ3脂肪酸、(v)フリーラジカルスカベンジャー/酸化防止剤、例えばプロブコール、ビタミンCおよびE、エブセレン、trans−レチノイン酸およびSOD模倣物など、(w)FGF経路の作用物質、例えばbFGF抗体およびキメラ融合タンパク質など、PDGF受容体拮抗薬、例えばトラピジルなどを含む様々な増殖因子に影響を及ぼす剤、ソマトスタチン類似体、例えばアンジオペプチンおよびオクレオチドなどを含むIGF経路の作用物質、TGF−β経路の作用物質(例えばポリアニオン性の作用物質(ヘパリン、フコイジン)、デコリン、およびTGF−β抗体など)、EGF経路の作用物質(例えばEGF抗体、受容体拮抗薬およびキメラ融合タンパク質など)、TNF−α経路の作用物質(例えばサリドマイドおよびその類似体など)、トロンボキサンA2(TXA2)経路調節剤、例えばスロトロバン(sulotroban)、バピプロスト(vapiprost)、ダゾキシベン(dazoxiben)およびリドグレル(ridogrel)など、ならびにプロテインチロシンキナーゼ阻害剤、例えばチルホスチン(tyrphostin)、ゲニステイン(genistein)およびキノキサリン誘導体など、(x)MMP経路阻害剤、例えばマリマスタト(marimastat)、イロマスタト(ilomastat)およびメタスタト(metastat)など、(y)細胞運動性抑制剤、例えばサイトカラシンBなど、(z)代謝拮抗薬、例えばプリン類似体(例えば、6−メルカプトプリンまたはクラドリビン、これは塩素化プリンヌクレオシド類似体である)、ピリミジン類似体(例えば、シタラビンおよび5−フルオロウラシル)およびメトトレキサート、ナイトロジェンマスタード、アルキルスルホネート、エチレンイミン、抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン)、ニトロソ尿素、シスプラチン、微小管動態に影響を及ぼす作用物質(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチン、Epo D、パシタクセルおよびエポチロン)、カスパーゼ活性化剤、プロテアソーム阻害剤、血管形成抑制剤(例えば、エンドスタチン、アンジオスタチンおよびスクアラミン)、ラパマイシン、セリバスタチン、フラボピリドールおよびスラミンなどを含む抗増殖剤/抗新生物剤(aa)マトリックス堆積(deposition)/組織化(organization)経路抑制剤、例えばハロフジノン(halofuginone)または他のキナゾリノン誘導体およびトラニラスト(tranilast)など、(bb)内皮化促進剤、例えばVEGFおよびRGDペプチド、ならびに(cc)血液レオロジー調節剤、例えばペントキシフィリンなど。
【0074】
本発明の医療デバイスと併せて幅広い範囲の治療剤負荷を使用することができ、治療上有効な量は当業者によって簡単に決定され得る。通常の負荷は、例えば、ポリマーの質量の1重量%以下〜2重量%〜5重量%〜10重量%〜25重量%以上にわたる。
【0075】
持続放出プロフィールを有する医療デバイスは、本発明のある種の実施形態において有益である。「持続放出プロフィール」によって意味されるのは、治療剤の有効量が医療デバイスから患者の組織または生理学的環境へ延長された時間に、例えば何日間か、何週間かまたは何カ月間にさえ、わたって放出される放出プロフィールである。
【0076】
本発明によるポリマーの領域を形成するためには、数多くの技法が利用可能である。一般に、本明細書に記載されているポリマーの領域は、共有結合による架橋の形成に先立ってまたはこれと同時に所望の形態に加工される。
【0077】
例えば、ポリマーの領域が熱可塑性の特徴を有する1つまたは複数のポリマーから形成される場合は、様々な標準的熱可塑性加工技法を使用してポリマーの領域を形成することができる。これらの技法を使用して、例えば、(a)まずポリマーを含有する溶融物、および触媒、架橋剤、治療剤などの任意の補完的な作用物質を供給し、(b)続いて溶融物を冷却することによって、ポリマーの領域を形成することができる。熱可塑性加工技法の例は、圧縮成形、射出成形、ブロー成形、吹付、真空成形およびつやだし(calendaring)、様々な長さのシート、ファイバー、ロッド、管その他の断面プロフィールへの押出し、およびこれらの方法の組合せを含む。これらのおよび他の熱可塑性加工技法を使用して、デバイス全体またはその部分を作成することができる。
【0078】
熱可塑性加工技法以外の、溶媒に基づく技法を含む、他の加工技法も本発明のポリマーの領域を形成するために使用することができる。これらの技法を使用して、ポリマーの領域を、例えば、(a)まずポリマーおよび触媒、架橋剤、治療剤などの任意の補完的な作用物質を含有する溶液または分散液を提供すること、ならびに(b)続いて溶媒を除去すること、によって形成することができる。最終的に選択される溶媒は、1つまたは複数の溶媒種を含有し、一般に乾燥速度、界面張力などの他の要因に加えて、ポリマーの領域を形成するポリマー(および多くの実施形態では治療剤および、有る場合は、補完的な剤も)を溶解させる能力に基づいて選択される。溶媒に基づく好ましい技法は、これらだけには限定されないが、溶媒キャスティング技法、スピンコーティング技法、ウェブコーティング(web coating)技法、溶媒スプレー技法、浸漬技法、空気懸濁を含む力学的懸濁によるコーティングを含む技法、インクジェット技法、静電気技法、およびこれらの方法の組合せを含む。
【0079】
本発明の一部の実施形態では、溶液(溶媒に基づく加工を使用する場合)またはポリマー溶融物(熱可塑性加工を使用する場合)を含有するポリマーを、基材に塗布してポリマーの領域を形成する。例えば、基材は移植可能なまたは挿入可能な医療デバイスの全体または部分に相当し、それにポリマーコーティングを、例えば、スプレー、押出しなどによって塗布することができる。基材は、例えば、型などの鋳型であってもよく、ポリマーの領域は固化した後でそれから外される。具体的な例で、荷重を受ける関節はこのやり方で型成形される。他の実施形態では、例えば、押出しおよび共押出し技法によって、1つまたは複数のポリマーの領域が基材の助けを借りずに形成される。具体的な例では、医療デバイス全体が押し出される。もう1つでは、ポリマーコーティング層がその下層である医療デバイス本体と一緒に共押出しされる。
【0080】
架橋は、例えば、このような加工に続いてエネルギー(例えば熱、放射線など)、化学種(例えば、水分)、または架橋をもたらす任意の他の作用因子への曝露によって)誘導することができる。架橋は、成形加工の間に誘導することもでき、その場合はこれらの加工は「反応(性)」加工である。一般的な例は、とりわけ材料が押出しと同時に熱硬化される反応押出成形である。
【0081】
本明細書では、様々な実施形態を具体的に例示しかつ記載しており、本発明の変更形態および変形形態が上記の教示によって取り上げられており、かつ本発明の趣旨および意図される範囲を逸脱することなく付帯の特許請求の範囲の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低Tgブロックおよび高Tgブロックを含む少なくとも1つのブロックコポリマーを含む共有結合によって架橋されたポリマーの領域を含む医療デバイス。
【請求項2】
複数の架橋されたポリマーの領域を含む、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記ブロックコポリマーが1つの低Tg中央ブロックおよび複数の高Tg末端ブロックを含む複数の枝を有するブロックコポリマー(multiarm block copolymer)である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記低Tg中央ブロックが、ポリオレフィン、ポリアクリレートおよびポリシロキサンブロックから選択され、前記高Tg末端ブロックが、ポリ(ビニル芳香族)、ポリアクリレートブロック、およびポリメタクリレートブロックから選択される、請求項3に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記低Tg中央ブロックがポリアルケンブロックであり、前記高Tg末端ブロックがポリ(ビニル芳香族)ブロックである、請求項3に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記ポリアルケンブロックが、エチレン、ブチレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン、およびこれらの組合せから選択されるモノマーを含む、請求項5に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記ポリビニル芳香族ブロックが、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩、ヒドロキシスチレン、アルキル置換スチレン、エーテル置換スチレン、エステル置換スチレン、アミノ置換スチレン、シリル置換スチレン、ビニルピリジン、アルキル置換ビニルピリジン、およびこれらの組合せから選択される芳香族モノマーを含む、請求項5に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記ブロックコポリマーの分子が、それ自体に、補完的ポリマーに、またはそれらの両方に共有結合によって架橋されている、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記ブロックコポリマーの前記分子の炭素原子が互いに共有結合によって結合されている、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記ブロックコポリマーが、エチレン、ブチレンおよびこれらの組合せから選択されるアルケンモノマーを含む、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記ブロックコポリマーがジエンモノマーを含む、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項12】
前記ブロックコポリマーが多官能性架橋剤を介して共有結合によって架橋されている、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項13】
前記多官能性架橋剤が、不飽和基、アミン基、ヒドロキシ基、チオール基およびこれらの組合せから選択される反応性基を含む、請求項12に記載の医療デバイス。
【請求項14】
前記ブロックコポリマーが、その長さに沿って、その末端に、またはそれらの両方に位置する反応性基によって架橋されている、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項15】
前記反応性基が、シラン基、無水物基、エポキシ基、およびこれらの組合せから選択される、請求項14に記載の医療デバイス。
【請求項16】
前記反応性基がシラン基であり、前記ポリマーの領域が水分への曝露時に架橋される、請求項14に記載の医療デバイス。
【請求項17】
前記反応性基が無水物基であり、前記ポリマーの領域が、アミン基、ヒドロキシ基およびこれらの組合せから選択される反応性種を含む多官能性架橋剤を介して架橋されている、請求項14に記載の医療デバイス。
【請求項18】
前記ブロックコポリマーが、エネルギー、化学物質、およびこれらの組合せから選択される硬化因子への曝露時に架橋される、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項19】
前記共有結合によって架橋されたポリマーの領域が共有結合によって架橋された補完的ポリマーを含む、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項20】
前記補完的ポリマーの分子が、それ自体に、前記ブロックコポリマーに、またはそれらの両方に共有結合によって架橋されている、請求項19に記載の医療デバイス。
【請求項21】
前記ポリマーの領域が医療デバイス全体にまたは医療用デバイスの全構成要素に相当する、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項22】
前記ポリマーの領域が下層となる基材を少なくとも部分的に覆う層の形態である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項23】
治療剤が前記ポリマーの領域の上に、該ポリマーの領域の内部に、または該ポリマーの領域の下に提供される、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項24】
前記治療剤が、抗増殖剤、血管細胞増殖促進剤、抗菌剤、鎮痛剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、抗痙攣剤、α遮断剤、カルシウムチャンネル遮断剤、β作動薬、抗新生物剤(neoplastic agent)、細胞増殖抑制剤、およびこれらの組合せから選択される、請求項23に記載の医療デバイス。
【請求項25】
関節プロテーゼおよび組織を通過するデバイスから選択される、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項26】
膝関節、腰関節、椎間板および脊髄核、血管グラフト、人工靭帯、および腹帯から選択される、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項27】
組織を通過する前記デバイスが、針、縫合糸、ガイドワイヤー、カテーテル、バルーン、およびバルーンカテーテルから選択される、請求項25に記載の医療デバイス。

【公表番号】特表2010−501264(P2010−501264A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525657(P2009−525657)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/018840
【国際公開番号】WO2008/024510
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】