説明

改善された熱安定性を有する、高級ポリグリコールをベースとする熱運搬媒体

【課題】 熱運搬媒体の熱安定性を、該熱運搬媒体の分解がソーラー装置の停滞状態においても生じないように改良することである。
【解決手段】 この課題は、
a)92〜99重量%の、式
R-O-(CH2-CH2-O)n-H
[式中、nが3〜500の整数であり、RがH、C〜C−アルキル基または炭素原子数6〜12の芳香族残基である。]
で表される少なくとも1種類のポリグリコール、
b)1〜8重量%の少なくとも1種類の腐食防止剤
を含有し、エチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの含有量が0.2重量%より少ないことを条件とする、ソーラー装置用熱運搬濃厚物によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高級ポリグリコールをベースとする新規の熱運搬媒体に関する。本発明に従う熱運搬媒体は改善された高温安定性を有しており、それ故にモノエチレングリコールおよび/または1,2−プロピレングリコールをベースとする慣用の熱運搬媒体に比較して長い寿命を有する。
【0002】
新規の熱運搬媒体を使用する分野には熱または冷温を運搬するための工業用装置、特に特別な熱応力さらされる太陽熱装置が含まれる。この特別な用途のためには、平板型太陽集熱器および真空型太陽集熱管(vacuum tube collectors)の両方が該当する。
【0003】
より効果的に作用する集熱器被覆を用いることによって、この太陽熱装置のピーク温度は上昇し続ける。これは、太陽熱収集用液のオーバーヒートをもたらす沢山の構造物において循環ポンプのスイッチが自動的に切れるので、特に太陽熱装置の停滞状態の際に問題がある。
【0004】
広い範囲で使用される平板型太陽集熱器の場合には、これは200℃付近のピーク温度に上昇させてしまう。即ち、高い熱負荷にさらされる真空型太陽集熱管の場合には、300℃までさえ測定される。モノエチレングリコールおよび/または1,2−プロピレングリコールをベースとする熱運搬媒体の寿命は平板型太陽集熱器を用いた場合でさえ不十分であり、真空型太陽集熱管においてこの様な熱運搬媒体を用いると、特にモノエチレングリコールまたはプロピレングリコールの熱的酸化不安定性に起因する重大な問題が発生する。
【0005】
モノエチレングリコールおよび/または1,2−プロピレングリコールの熱分解で、中でも分解生成物として攻撃的な酸(例えば蟻酸、乳酸および酢酸)および不十分な性質の分解生成物が生じる。このことに関する説明は、“Arbeitsblatt der Arbeitsgemeinschaft Korrosion e.V.”、Korrosionuntersuchungen in Warmetragern fur Solaranlagen(ソーラー装置のための熱運搬媒体中での腐食の研究)、Werkstoffe und Korrosion(材料および腐食)、39、297-304 (1988)に記載されている。
【0006】
生じる分解生成物は集熱器集団においてマイナスの影響を及ぼす。停滞状態での熱の別の作用の結果として、残留物が吸収材表面を腐食する。極端な場合には残留物は集熱器パイプの完全閉塞をもたらしそしてそれ故に循環を止めてしまい得る。
【0007】
この問題はドイツ特許出願公開第19,525,090(A)号明細書に既に言及されている。195〜400の分子量範囲の1,2−プロピレングリコールに比較的に高分子量のポリアルキレングリコールを10〜40%の濃度で添加することによって、溶解した腐食防止剤が結晶化析出するのを避けられるそうである。この濃厚物は熱搬送を最適にするために水と適宜混合される。
【0008】
ヨーロッパ特許出願公開第0,971,013号明細書には、腐食防止剤、トリエチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの混合物を含有する熱運搬液が開示されている。そこでは、トリエチレングリコールの割合は45〜98%でありそしてプロピレングリコールのそれは1〜55%である。この熱運搬媒体の長所は、低分子量のグリコールが添加物の溶解性および高温での添加物の結晶化挙動を改善することである。
【0009】
しかしながらこの従来技術の熱運搬媒体の場合には、エチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの熱酸化分解が未だ発生してしまうという問題が判った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故に本発明の課題は、熱運搬媒液の熱安定性を、該熱運搬媒体の分解がソーラー装置(solar installation)の停滞状態においても生じないように改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに本発明者は、より高級なポリグリコールをベースとする熱運搬媒体が純粋な1,2−プロピレングリコールまたはトリエチレングリコールと1,2−プロピレングリコールとの混合物をベースとする熱運搬媒体よりも著しく高い熱安定性を示すことを見出した。
【0012】
それ故に本発明は、
a)92〜99重量%の、式
R-O-(CH2-CH2-O)n-H
[式中、nが3〜500の整数であり、RがH、C〜C−アルキル基または炭素原子数6〜12の芳香族残基である。]
で表される少なくとも1種類のポリグリコール、および
b)1〜8重量%の少なくとも1種類の腐食防止剤
を含有し、エチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの含有量が0.2重量%より少ないことを条件とする、ソーラー装置用熱運搬濃厚物に関する。
【0013】
本発明は更に、上記の熱運搬濃厚物を熱運搬媒体として水希釈液の状態で使用する、ソーラー装置の運転方法にも関する。
【0014】
また本発明は、上記の熱運搬濃厚物をソーラー装置において熱運搬媒体として水で希釈した液の状態で用いることに関する。
【0015】
nは好ましくは3〜20の整数である。
【0016】
Rは好ましくはH,メチル基または場合によっては置換されたフェニル基である。
【0017】
熱運搬濃厚物を規準とするグリコールの割合は好ましくは93〜98重量%、特に好ましくは94〜96重量%である。
【0018】
更に有利な本発明の一つの実施態様においては、ポリグリコールは3:1〜1:3の混合比のトリエチレングリコールとテトラエチレングリコールとの混合物である。
【0019】
本発明の熱運搬媒体中のエチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの含有量は好ましくは0.1重量%より少なく、特に好ましくは0.05重量%より少ない。
【0020】
本発明の即使用可能な熱運搬媒体は本発明の熱運搬濃厚物を水と混合することによって生成される。有利な混合比は30〜70重量%の、好ましくは45〜55重量%の水に対して70〜30重量%、特に好ましくは55〜45重量%の本発明の熱運搬濃厚物である。
【0021】
本発明の特に有利な態様は、
a)45〜55重量%の、式
R-O-(CH2-CH2-O)n-H
[式中、nが3〜500の整数であり、RがH、C〜C−アルキル基または炭素原子数6〜12の芳香族残基である。]
で表される少なくとも1種類のポリグリコール、
b)1〜4重量%の少なくとも1種類の腐食防止剤および
c)45〜55重量%の水
を含有し、中でも
a)45〜55重量%のトリエチレングリコール、
b)1〜4重量%の少なくとも1種類の腐食防止剤および
c)45〜55重量%の水
を含有し、
エチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの含有量が0.1重量%より少ないことを条件とする、即使用可能な熱運搬熱運搬媒体である。
【0022】
熱運搬濃厚物においておよび即使用可能な熱運搬熱運搬媒体において使用できる腐食防止剤は、例えば硼酸塩、珪酸塩、アミン類、トリアゾール類またはチアゾール類、モリブデン酸塩、酸アミド類、ニトレート、安息香酸ナトリウムおよびモノ−、ジ−およびトリカルボン酸の塩および文献で知られる他の腐食防止剤であり、濃厚物中には好ましくは2〜7重量%の量で含まれる。腐食防止剤の有利な濃度は、即使用可能な熱運搬熱運搬媒体を規準として1〜4重量%である。
【0023】
更に酸化防止剤を添加することも可能である。
[実施例]
【0024】
【表1】

DTAでの熱安定性の測定(表1)で、1,2−プロピレングリコールの熱酸化分解がトリエチレングリコールの場合よりも速やかに進行することが明らかに判る。この実験で、ポリグリコールVP1962が特に熱安定性があることが判る。
【0025】
以下の熱運搬媒体を、それの熱安定性の測定のために製造した。
【0026】
【表2】

早めた試験法をソーラー装置における状態をシミュレーションするために開発した(熱試験)。
【0027】
300mLの試験液を、二重壁のステンレス鋼製貯蔵容器(同時に冷却器としても役立つ)中に導入する。ポンプで該媒体を閉じた循環系で、260L/時の流速で、約950ワット以下から電気的に加熱される銅製試験用ディスク上に搬送する。プロセス制御システムによって制御されておりそして160℃で流れを止めるバルブをポンプと加熱器との間に設置する。結果として試験液は蒸発する。330℃でバルブを開き、液体を試験用ディスク上に再び運搬しそしてその結果として冷却する。160℃の最終温度に達した時に新たなサイクルを開始する。試験圧は6bar(ゲージ圧)より高くない。試験時間は72時間である。安全のために試験装置は流れ安全装置および10barの設定圧の安全バルブによって保護する。
【0028】
この早めた試験では、比較的高級なポリグリコールをベースとする熱運搬媒体がプロピレングリコールをベースとする熱運搬媒体よりも著しく安全であることが判る。例3の熱運搬媒体の場合には、例1および2(比較例)の場合よりも全体として相応する酸が遥かに少ない。更に媒体中の保持アルカリ度が実験の間にあまり速く減少しない。
【0029】
熱運搬媒体の化学組成を表2に示してある。例3は本発明の組成を有する調製物に相当する。
【0030】
【表3】

比較例から、専ら高級ポリグリコールをベースとする熱運搬媒体は純粋のプロピレングリコールをベースとするかまたはトリエチレングリコール/プロピレングリコール−混合物をベースとする熱運搬媒体よりも熱酸化に対して非常に安定であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)92〜99重量%の、式
R-O-(CH2-CH2-O)n-H
[式中、nが3〜500の整数であり、RがH、C〜C−アルキル基または炭素原子数6〜12の芳香族残基である。]
で表される少なくとも1種類のポリグリコール、および
b)1〜8重量%の少なくとも1種類の腐食防止剤
を含有し、エチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの含有量が0.2重量%より少ないことを条件とする、ソーラー装置用熱運搬濃厚物。
【請求項2】
腐食防止剤が硼酸塩、珪酸塩、アミン類、トリアゾール類、チアゾール類、モリブデン酸塩、ニトレート、安息香酸ナトリウム、およびモノ−、ジ−またはトリカルボン酸の塩よりなる群から選択される、請求項1に記載の熱運搬濃厚物。
【請求項3】
2〜7重量%の腐食防止剤を含有する、請求項1または2に記載の熱運搬濃厚物。
【請求項4】
94〜98重量%のポリグリコール含有量を有する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の熱運搬濃厚物。
【請求項5】
nが3〜20の整数である、請求項1〜4のいずれか一つに記載の熱運搬濃厚物。
【請求項6】
RがHまたはメチル基である、請求項1〜5のいずれか一つに記載の熱運搬濃厚物。
【請求項7】
ポリグリコールがトリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールを3:1〜1:3の混合比で含有する混合物である、請求項1〜6のいずれか一つに記載の熱運搬濃厚物。
【請求項8】
エチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの含有量が0.1重量%より少ない、請求項1〜7のいずれか一つに記載の熱運搬濃厚物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の熱運搬濃厚物30〜70重量%および合計で100重量%とする量の水を含有する、ソーラー装置用熱運搬媒体。
【請求項10】
a)45〜55重量%の、式
R-O-(CH2-CH2-O)n-H
[式中、nが3〜500の整数であり、RがH、C〜C−アルキル基または炭素原子数6〜12の芳香族残基である。]
で表される少なくとも1種類のポリグリコール、
b)1〜4重量%の少なくとも1種類の腐食防止剤および
c)45〜55重量%の水
を含有し、エチレングリコールおよび1,2−プロピレングリコールの含有量が0.1重量%より少ないことを条件とする、請求項9に記載の熱運搬媒体。

【公開番号】特開2007−204753(P2007−204753A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23664(P2007−23664)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(398025878)クラリアント・インターナシヨナル・リミテッド (74)
【Fターム(参考)】