説明

改善された耐オゾン性を呈する、含金属染料をベースとするインクジェットインク

【課題】
大気オゾンへの曝露の影響を最小限としつつ、半金属酸化物又は金属酸化物を含有する多孔質媒体上に印刷することのできるインクジェットインクを提供する。
【解決手段】
本発明のインクジェットインクは、ハロフェノールを含む液体ビヒクルと、含金属染料とから構成することができる。あるいはまた、改善された耐オゾン性を呈する画像を印刷するためのシステムは、その上にコーティングされたインク受容層を備える印刷媒体と、印刷媒体上に印刷できるよう構成されたインクジェットインクとを含んで成り、この場合、インク受容層は半金属酸化物あるいは金属酸化物の微粒子を含有する。当該インクジェットインクは、水溶性部分を有していないプロトン化フェノールを含有する液体ビヒクルと、含金属染料とから構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、含金属(metallized)染料をベースとするインクジェットインクに関する。より詳細には、本発明は、半金属酸化物又は金属酸化物を含有する多孔質媒体上に印刷する際に、改善された耐オゾン性を呈する、含金属染料をベースとするインクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット技術において、高分解能画像の画像品質は、画像を生成するのに使用するインクジェットインクと、画像がその上に印刷される印刷媒体との両方に依存する。画質の望ましい特性を幾つか挙げれば、飽和色、高光沢及び光沢均一性、並びに粒状性及びコアレッセンスが無いこと等がある。
【0003】
しかしながら、高分解能画像の印刷後は、その画像品質がどれだけ長く維持されるかに関連する画像耐久性が主な問題となる。写真産業がフィルムからディジタル画像方式に移行しつつあり、画像耐久性に関する問題は、ますます重要となる。
【0004】
現在市販されている多くの印刷媒体に関しては、印刷された画像は、一般に、画像耐久性の点で望ましくない特性を有する。そのような望ましくない特性の1つは、染料系インクジェットインクを多孔質媒体上に印刷する際に観察される、徐々に進行する染料の褪色である。そのような褪色は、大気によって、より詳細には、大気中の少量のオゾンによって引き起こされることが示されている。時間が経つと、オゾンは、インクジェットインクに通常使われている多くの染料と反応して、それらを破壊し、それらの意図されていたカラー特性を失わせたり、劣化させたりするものと考えられる。染料の褪色は、その多くがその他の染料に関して問題である以上に、特定種の染料に関して問題であることに留意されたい。例えば、シアン染料は、大気中のオゾンの存在によって、その他の染料が受けるよりも大きく影響を受ける傾向がある。
【0005】
染料の褪色と共に、他の望ましくない顕著な特性として、カラーシフトがある。オゾンがインクジェットインクの染料と反応すると、所与の染料の意図されたカラー特性が可視スペクトルに沿って別の波長値に移動(シフト)し得ることが確認されている。この影響によって、印刷画像に関しては、本来その染料によって表したい色に対して、知覚される色は徐々に変化してしまう。
【0006】
これらの望ましくない特性、即ち、染料の褪色並びにカラーシフトは、両方とも、徐々に印刷画像の見た目に影響する。時間が経過するにつれて、印刷画像は、これらの顕著な変化を受け易いため、多くは、特にグラフィック技術及び写真工業においては、有意期間を持ちこたえるべく意図された、画像のインクジェット印刷を採用したがらなかったのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、大気オゾンへの曝露の影響を最小限としつつ、半金属酸化物又は金属酸化物を含有する多孔質媒体上に印刷することのできるインクジェットインクを開発することが有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
インクジェットインクに特定の種の添加剤を含有させることが、耐オゾン性を改善するのに有益であろうことが確認された。これによれば、典型的にこの基準を満たすインクジェットインクは、ハロフェノールを含有する液体ビヒクルを含むことができ、且つさらに、含金属染料も含むことができる。
【0009】
他の実施形態では、耐オゾン性の改善された画像を印刷するシステムは、印刷媒体とインクジェットインクから構成することができる。当該印刷媒体は、その上に被覆されたインク受容層を含むことができ、この場合、当該インク受容層は、半金属酸化物又は金属酸化物の微粒子を含有し得る。インクジェットインクは、印刷媒体上に印刷できるよう構成することができ、且つ水溶性部分を有していないプロトン化フェノールを含む液体ビヒクルを含むことができ、且つさらに、含金属染料を含有することができる。
【0010】
他の実施形態では、耐オゾン性が改善された画像を印刷する方法は、印刷媒体上へインクジェットインクを噴射させるステップを包含する。当該印刷媒体は、その上に被覆されたインク受容層を含むことができ、且つ当該インク受容層は、半金属酸化物又は金属酸化物の微粒子を含むことができる。インクジェットインクは、水溶性部分を含まないプロトン化フェノールを含む液体ビヒクルを含むことができ、且つさらに、含金属染料を含有することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐オゾン性の改善されたインクジェットインク、並びに耐オゾン性の改善された画像を印刷する方法を提供することができる。本発明のその他の諸々の特徴並びに利点は、例示目的で本発明の特徴を記載するところの詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の特定の実施形態を開示、記載するにあたって、本発明が、本明細書に開示する特定のプロセス並びに材料に限定されないことを理解されたい。何故なら、それらは或る程度変更し得るためである。また、本明細書で用いる用語は、特定の実施形態を専ら記述するだけの目的で用いており、本発明の範囲を限定する意のないこも理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定される。
【0013】
本発明を説明し且つ範囲請求するに際し、以下の用語を用いることとする。
【0014】
別途明確に指示のない限り、単数形は、複数形の意味を包含する。従って、例えば、「染料」という場合、1つ又は複数の当該材料(染料)を指すことを包含する。
【0015】
本明細書で用いる場合、「液体ビヒクル」とは、着色剤を基材に輸送するのに用い得る、液体組成物を包含するものと定義される。液体ビヒクルは当分野で周知であり、本発明の実施形態に従って広範なインクビヒクルを使用することができる。インクビヒクルは、限定はしないが、界面活性剤、溶媒、共溶媒、緩衝剤、殺生物剤、粘度修正剤、金属イオン封止剤、安定化剤、及び水をはじめとする、様々な各種薬剤からなる混合物から構成することができる。いくつかの実施形態では、液体ビヒクルはまた、ポリマー、UV硬化性材料、可塑剤、及び/又は共溶媒のような、その他の添加剤を含有することもできる。
【0016】
用語「含金属染料」には、染料構造の一部として、染料分子にキレート化されたり、配位したり、又は錯化している遷移金属を含有する染料が包含される。含金属染料には、単に金属対イオンを有する染料は含まれない。例えば、DB199Naは、ナトリウムの対イオンを有する銅フタロシアニン染料である。銅成分によって、この特定の染料は「含金属」染料となるが、ナトリウム対イオンによってはそうはならない。
【0017】
フェノール組成物に言及する際の用語「プロトン化」とは、フェノール組成物の少なくとも比較的多くの部分が、脱プロトン化(−O)形ではなく、ヒドロキシ(−OH)形であることを示す。これは、インク組成物のpHに左右され得る。換言すれば、用語「プロトン化」とは、フェノールのpKa値が、印刷媒体に印刷後のインクのpH値より大きいか、又は印刷媒体に印刷後のインクジェットインクのpHより多少低く(例えば、約1pH単位未満の差にて低く)、その結果、フェノールの少なくとも比較的多くの部分が、インク中で、又は印刷媒体に適用後に、プロトン化することを意味する。相対値に応じて、フェノールの事実上全てがプロトン化するか、又は有意の複数のアミン(又はフェノール)がプロトン化し得る。
【0018】
「pKa」とは、組成物の半分がプロトン化し且つ残りの半分が脱プロトン化することになるpHとして定義される。pHが高くなると、比較的少ない分子がプロトン化する。同様に、pHが低くなると、比較的多くの分子がプロトン化する。フェノール組成物自体のpKa値に対し、フェノール組成物を含有する組成物のpHが1単位毎高くなるにつれて、存在するプロトン化フェノールの量は10倍少なくなる。従って、本発明の一実施形態によれば、pKaは、印刷媒体上に印刷後のインクジェット物のpHより高いか、又は印刷媒体上に印刷後のインクジェット物のpHより1単位程低いかのいずれかとし得る。いずれの場合においても、フェノール添加剤は、本発明の実施形態により、やはり「プロトン化している」と考えることができる。
【0019】
用語「ハロフェノール」とは、フェノール又はフェノール誘導体、及び当該フェノール又はフェノール誘導体に結合しているハロゲンを含んで成る組成物を意味する。当該フェノールは、水溶性基、巨大な(嵩高い、bulky)基、並びに望ましいその他の基を用いて、所望の結果を達成するよう誘導体化することができる。典型的には、ハロゲン(例えばクロロ又はブロモ基)を、フェノールの芳香環に直に結合させる。
【0020】
用語「可溶化部分(水溶性部分)」は、有機組成物に結合させることでそれらの溶解度を改善し得る酸性基を意味する。例を示せば、スルホン酸基、カルボン酸基等がある。
【0021】
数値又は範囲に言及する際の用語「約」は、測定実施時に起こり得る実験誤差から生ずる値も包含する意がある。
【0022】
本明細書においては、比率、濃度、量、分子サイズ等のような数値データを範囲形式で提示する場合がある。そのような範囲形式は、単に便利且つ簡潔のために用いるものであって、範囲の限界値として明記した数値を含むだけでなく、各数値及び副範囲があたかも明記されているようにその範囲内に包含される個別の数値又は副範囲を全て包含するものと柔軟に解釈すべきことを理解されたい。例えば、約1wt%〜約20wt%という重量範囲は、1wt%、約20wt%という明記された濃度限界値を含むだけではなくて、2wt%、3wt%、4wt%のような個別の濃度、並びに5wt%〜15wt%、10wt%〜20wt%等のような副範囲も包含するものと解釈されたい。
【0023】
本発明によれば、インクジェットインクは、ハロフェノールを含有する液体ビヒクルを含むことができ、且つさらに、含金属染料も含むことができる。
【0024】
他の実施形態では、耐オゾン性の改善された画像を印刷するシステムは、印刷媒体とインクジェットインクとから構成することができる。当該印刷媒体は、その上に被覆されたインク受容層を含むことができ、この場合、当該インク受容層は、半金属酸化物又は金属酸化物の微粒子を含有し得る。インクジェットインクは、印刷媒体上に印刷できるよう構成することができ、且つ水溶性部分を含まないプロトン化フェノールを含有する液体ビヒクルを含むことができ、且つさらに、含金属染料を含有することができる。
【0025】
他の実施形態では、耐オゾン性の改善された画像を印刷する方法は、印刷媒体上にインクジェットインクを噴射させるステップを包含する。当該印刷媒体は、その上に被覆されたインク受容層を含むことができ、当該インク受容層は、半金属酸化物又は金属酸化物の微粒子を含有し得る。インクジェットインクは、水溶性部分を含まないプロトン化フェノールを含有する液体ビヒクルを含むことができ、且つさらに、含金属染料を含むことができる。
【0026】
インクジェットインク組成物
本発明の実施形態によれば、特に半金属酸化物又は金属酸化物によって被覆された媒体基材のような多孔質媒体基材上に印刷する際に、フェノール組成物は、インクジェットインクの耐オゾン性を改善し得ることが見出されている。フェノールとしては、ハロフェノール、インク中でプロトン化するフェノール、及び/又は慣習的な水溶性部分(例えばスルホン酸、カルボン酸等)を欠いた形態のフェノールをはじめとする、種々の形態のフェノールを用いることができる。これらのフェノール添加物は、銅又はニッケルを含有する染料のような、含金属染料を含むインクジェットインクに添加する際に、特に有用である。用い得る染料の1つの種類として、フタロシアニン染料が挙げられる。用い得る染料の他の種類として、アゾ染料が挙げられる。本発明の実施形態によれば、媒体基材へのインクジェットインクの適用は、サーマル式又は圧電式インクジェット適用法により行うことができる。
【0027】
本発明の実施形態によれば、ハロフェノール、プロトン化するフェノール、及び/又は慣習的な水溶性部分を欠いたフェノールなどのフェノールは、インクジェットインク組成物中に0.01wt%〜10wt%にて存在させ得る。さらに、含金属染料は、インクジェットインク組成物中に0.1wt%〜10wt%にて存在させ得る。
【0028】
用い得る典型的なハロフェノール組成物として、2−クロロフェノール、3−クロロフェノール、及び4−クロロフェノールのような、クロロフェノールが挙げられる。同様に、ハロフェノールとして、2−ブロモフェノール、3−ブロモフェノール、及び4−ブロモフェノールのような、ブロモフェノールが挙げられる。さらに他の実施形態では、ハロフェノールは、Triclosan(商標)(5−クロロ−2−(2,4−ジクロロフェノキシ)フェノール)のようなハロフェノキシフェノールとし得る。
【0029】
上述のように、本発明のインクジェットインク組成物は、典型的に、水、共溶媒、界面活性剤、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封鎖剤、粘度修正剤、湿潤剤、及び/又はその他の既知の添加剤から構成し得る水性調合物又は液体ビヒクルとして調製される。本発明の一態様では、当該液体ビヒクルは、インクジェットインク組成物の約70wt%〜約99wt%を構成することができる。他の態様では、液体ビヒクルは、着色剤以外に、高分子バインダ、ラテックス微粒子、及び/又はその他の固形物も含有させ得る。
【0030】
前述のように、本発明のインクジェット組成物に共溶媒を含有させることができる。本発明に用い得る適切な共溶媒としては、水溶性有機共溶媒、限定はしないが、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、グリコールエーテル、ポリ(グリコール)エーテル、ラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、長鎖アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、グリコールブチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アミド、エーテル、カルボン酸、エステル、オルガノスルフィド、オルガノスルホキシド、スルホン、アルコール誘導体、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブ、エーテル誘導体、アミノアルコール、及びケトンが挙げられる。例えば、共溶媒は、炭素数30以下の第一脂肪族アルコール、炭素数30以下の第一芳香族アルコール、炭素数30以下の第二脂肪族アルコール、炭素数30以下の第二芳香族アルコール、炭素数30以下の1,2−ジオール、炭素数30以下の1,3−ジオール、炭素数30以下の1,5−ジオール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテルの高次の同族体、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテルの高次の同族体、ラクタム、置換ホルムアミド、未置換ホルムアミド、置換アセトアミド、及び未置換アセトアミドを挙げることができる。本発明の実施に際して好ましく用いられる共溶媒の具体例としては、限定はしないが、1,5−ペンタンジオール、2−ピロリドン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、3−メトキシブタノール、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンがある。共溶媒を添加することによって、インクジェットインク中の水の蒸発速度を低下させたり、詰まりを最小限としたり、粘度、pH、表面張力、光学濃度、及び印刷品質などのインクの他の性質を変更することができる。共溶媒の濃度は、約0.1wt%〜約40wt%の範囲とし得、一実施形態ではは、約5wt%〜約15wt%である。当分野で知られているように、複数の共溶媒を用いることもできる。
【0031】
任意に、緩衝剤又はpH調節剤を、本発明のインクジェットインク組成物に用いることができる。代表的な緩衝剤として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物;クエン酸;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びジメチルエタノールアミンのようなアミン;並びにブリード抑制又は光学濃度特性に実質的に干渉しないその他の塩基性若しくは酸性成分のようなpH制御溶液が挙げられる。用いる場合、緩衝剤は、典型的に、インクジェットインク組成物の約10wt%未満にて含有させる。
【0032】
本発明の他の態様においては、種々の殺生物剤を用いて、望ましくない微生物の成長を阻害することができる。適切な殺生物剤の幾つかの非限定例には、安息香酸塩、ソルビン酸塩、NUOSEPT(ヌデックス社(Nudex,Inc.)、ヒュルス アメリカ(Huls America)社の1部門)、UCARCIDE(ユニオンカーバイド(Union Carbide)社)、VANCIDE(RT ヴァンダービルト社(Vanderbilt Co.))、及びPROXEL(アイシーアイ アメリカ(ICI America)社)のような市販品、及びその他の既知の殺生物剤がある。典型的には、前述の殺生物剤は、インクジェットインク組成物の約5wt%未満、多くの場合、約0.1wt%〜約0.25wt%にて含有させる。
【0033】
インク調合分野における当業者に周知のように、1つ又は複数の各種界面活性剤を用いることができる。適切な界面活性剤の非限定例としては、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェニルポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドブロックコポリマー、アセチレン系ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド(ジ)エステル、ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミド、ジメチコンコポリオール、置換アミンオキシド、TERGITOLS、SURFYNOLS、ZONYLS、TRITONS、MERPOLSのような市販製品、及びそれらの組合せが挙げられる。本発明のインクジェットインクにおける界面活性剤の添加量は、0wt%〜10wt%の範囲とし得る。
【0034】
本発明の一実施形態では、インクジェットインクは、サーマル式インクジェットペンから適用されるように構成することができる。サーマル式インクジェットシステムは、圧電式インクジェットシステムとはそれらの噴射特性において全く異なっている。それ故、圧電式インクジェットシステム用として有効である組成物が、サーマル式インクジェットシステム用としては必ずしも有効ではない。しかしながら、その逆は必ずしも真ではない。即ち、サーマル式インクジェットシステムに対してよく機能するポリマーは、その逆(圧電式インクジェットシステムに対してよく機能するポリマーをサーマル式インクジェットシステムに用いる)よりは、圧電式インクジェットシステムに対しても機能しそうである。それ故、サーマル式インクジェットシステムは、圧電式インクジェットシステムほど寛容でないため、サーマル式インクジェットシステムと共に用いる液体ビヒクル又はその他の添加剤の選択は、多くの場合、圧電式インクジェットシステムの場合よりも注意を要する。
【0035】
多孔質被覆媒体
本発明の一態様によれば、インク受容層のコーティングされた媒体基材を利用するシステム及び方法が提供される。被覆印刷媒体は、典型的に、基材と、当該基材上に付着している多孔質のインク受容層とを含んで成る。当該基材には、紙、プラスチック、被覆紙、織物、アート紙、又はインクジェット印刷に用いられるその他の既知の基材を用い得る。一実施形態では、写真ベースを基材として用いることができる。写真ベースは、典型的に、ポリエチレン層のような、2つの高分子の層で挟持された単層の紙を含んで成る3層システムである。
【0036】
多孔質のインク受容層に関しては、無機の半金属若しくは金属の酸化物微粒子、高分子バインダ、及び任意に、媒染剤及び/又はその他の多孔質コーティング組成剤を存在させ得る。一実施形態では、無機の半金属若しくは金属の酸化物微粒子は、シリカ、アルミナ、ベーマイト、ケイ酸塩(ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等)、チタニア、ジルコニア、炭酸カルシウム、粘土、及びそれらの組み合わせとし得る。より詳細な態様においては、当該微粒子は、アルミナ、シリカ、又はアルミノケイ酸塩とし得る。これらの無機微粒子の各々を多孔質コーティング組成物全体に分散させ、それを媒体基材に適用することで、多孔質のインク受容層を形成することができる。典型的に、無機微粒子は、コーティング組成物中に60wt%〜95wt%にて存在する。2、3の具体的実施形態では、ベーマイトをコーティング組成物中に85wt%〜95wt%にて存在させたり、シリカあるいはケイ酸塩をコーティング組成物中に75wt%〜85wt%にて存在させたりすることができる。
【0037】
多孔質コーティング組成物中の無機微粒子を互いに結合させるために、典型的に、高分子バインダを含有させる。用い得る典型的な高分子バインダーとしては、その水溶性コポリマーを含むポリビニルアルコール;ポリビニルアセテート;ポリビニルピロリドン;酸化及びエーテル化デンプンをはじめとする変性デンプン;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースをはじめとする水溶性のセルロース誘導体;その誘導体及びコポリマーを含むポリアクリルアミド;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク質;シリル修飾ポリビニルアルコール;無水マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエンコポリマー等をはじめとする共役ジエンコポリマーラテックス;アクリル酸及びメタクリル酸等のポリマー及びコポリマーをはじめとするアクリル系ポリマーラテックス;エチレン−酢酸ビニルコポリマーをはじめとするビニルポリマーラテックス;官能基(例えば、カルボキシ、アミノ、アミド、スルホ等)を含有するモノマーによって上記ポリマーを修飾して得られたものをはじめとする官能基修飾ラテックス;メラミン樹脂、尿素樹脂等をはじめとする熱硬化性樹脂からなる水性バインダ;ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミド樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、及びアルキル樹脂をはじめとする合成樹脂バインダがある。前述のバインダは、多孔質のインク受容層を互いに結合させつつ、多孔質のインク受容層の多孔性を十分維持できる程の少量にて存在させることができる。本発明の実施形態によれば、高分子バインダは、コーティング組成物中に5wt%〜40wt%にて存在させ得る。ベーマイトを用いる場合の特定の実施形態では、高分子バインダは、3wt%〜15wt%にて存在させ得る。あるいは、シリカ若しくはケイ酸塩を用いる場合は、高分子バインダは、10wt%〜25wt%にて存在させ得る。他の特定の実施形態では、当該バインダは、ポリビニルアルコール又はその誘導体とし得る。
【0038】
任意に、多孔質のインク受容層はまた、所定の種類の染料と反応して耐久性を高めることが知られているイオン結合化学種又は媒染剤によって修飾することもできる。コーティング組成物中に含めることができる(即ち、多孔質のインク受容層に含有させることができる)代表的な媒染剤には、カチオン基(アミノ、第三アミノ、アミドアミノ、ピリジン、イミン等)を有する親水性、水分散性、又は水溶性のポリマーが含まれる。これらのカチオン性修飾ポリマーは、水溶性あるいは水分散性バインダと相溶性であり、且つ画像処理又は画像中に存在する色にほとんど又は全く悪影響を及ぼさない。そのようなポリマーの適例としては、限定はしないが、ポリ第四アンモニウム塩、カチオン性ポリアミン、ポリアミジン、カチオン性アクリルコポリマー、グアニジン−ホルムアルデヒドポリマー、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジアセトンアクリルアミド−ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ポリエチレンイミン、及びエピクロロヒドリンとのポリエチレンイミン付加物がある。媒染剤の他に、多孔質のインク受容層に存在させることのできるその他の任意成分として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、殺生物剤、可塑剤、光沢剤、粘度修正剤、矯正(レベリング)剤、UV吸収剤、ヒンダードアミン安定剤、抗オゾン剤(anti−ozonants)、シランカップリング剤、及び/又はその他の既知添加剤を挙げることができる。これらの添加剤に加えて、官能性部分の結合したシランカップリング剤を用いて、半金属酸化物又は金属酸化物の微粒子を化学的に表面修飾することもできる。
【0039】
当該インク受容層は、十分な量のインクを吸収して高品質の印刷画像を作り出せるよう設計された、単一層又は複数層のコーティングとし得る。当該インク受容層は、コーティング組成物を、ブレードコーティング、エアナイフコーティング、ロッドコーティング、ワイヤロッドコーティング、ロールコーティング、スロットコーティング、スライドホッパーコーティング、グラビア、カーテン、及びカスケードコーティングをはじめとする、当業者に周知の任意の手段によって媒体基材に適用することで形成し得る。当該インク受容層は、媒体基材の片面又は両面上に印刷することができる。本発明の一実施形態では、コーティング組成物によって形成されるインク受容層の深さは、約20μm〜約60μmとし得る。2、3の特定の実施形態によれば、ベーマイト含有コーティング組成物の厚みは、約40μm〜約55μmとし得、シリカ又はケイ酸塩含有コーティング組成物の厚みは、約25μm〜約35μmとし得る。媒体のトップコートとして適用される場合、その厚みは0.1μm〜10μmの範囲、より特殊な実施形態では1μm〜5μmの範囲とし得る。
【0040】
(実施例)
以下の実施例において、現在最もよく知られている本発明の実施形態を説明する。しかしながら、以下は、本発明の原理の応用についての単なる例示、説明に過ぎないことを理解されたい。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多数の修正及び代替の組成物、方法、並びにシステムが当業者によって案出されよう。添付の特許請求の範囲は、前述の修正並びに変更を網羅するものとする。以上、本発明を特定のものに関連して上述してきたが、以下の実施例は、現在、本発明の最も実用的であり且つ好ましい実施形態であると思われるものに関連してさらに詳述するものである。
【実施例1】
【0041】
インクジェットインクの調製
以下の表1に従って幾つかの試験用インクジェットインク組成物及び比較対照用インクジェットインク組成物を調製した。
【0042】
【表1】

【実施例2】
【0043】
多孔質媒体上に印刷されたインクジェットインクの耐オゾン性
種々の含金属染料とフェノール添加物を含有する試験用インクジェットインクと、フェノール添加物を含有しない対応する比較対照用インクジェットインクとを比較して、耐オゾン性に及ぼすフェノール添加物の効果を測定した。詳細には、種々の試験用インク及び比較対照用インクを0.25光学濃度(OD)、0.5(OD)及び1.0(OD)にて、Epson Premiumu Glossy Photo Paper上に印刷した。1重量ppmのオゾン含量、相対湿度50%、及び温度30℃のチャンバに印刷した各サンプルを配置した。各印刷サンプルの不良は、30%OD損失として定義した。各試験のデータを以下の表2〜表6に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
表2〜6から分かるように、含金属染料を含有するインクジェットインクでは、フェノール添加物を含む際に、ほとんど全ての実施例において耐オゾン性の改善することが確認された。
【0050】
本発明の特定の好ましい実施形態を参照して本発明を記述してきたが、当業者は、本発明の趣旨から逸脱することなく種々の修正、変更、省略、並びに置換をなし得ることが分かるであろう。それ故、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロフェノールを含有する液体ビヒクルと、
含金属染料と、
を含んで成る、インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記ハロフェノールが、インクジェットインク組成物中に0.01wt%〜10wt%にて存在し、且つ前記含金属染料が、インクジェットインク組成物中に0.01wt%〜10wt%にて存在する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記ハロフェノールが、クロロフェノールである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記ハロフェノールが、ブロモフェノールである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記ハロフェノールが、ハロフェノキシフェノールである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記ハロフェノールが、水溶性部分を有していない、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記ハロフェノールが、プロトン化している、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
前記含金属染料が、フタロシアニン染料である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項9】
前記含金属染料が、ニッケルアゾ染料である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項10】
耐オゾン性の改善された画像を印刷する方法であって、印刷媒体上にインクジェットインクを噴射するステップを包含し、前記印刷媒体が、その上に被覆されたインク受容層を含み、前記インク受容層が、半金属酸化物又は金属酸化物の微粒子を含み、前記インクジェットインクが、水溶性部分を有していないプロトン化フェノールを含有する液体ビヒクルを含み且つ含金属染料をさらに含有する、方法。
【請求項11】
前記フェノールが、ハロフェノールである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記フェノールが、インクジェットインク組成物中に0.01wt%〜10wt%にて存在し、且つ前記含金属染料が、インクジェットインク組成物中に0.01wt%〜10wt%にて存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ハロフェノールが、クロロフェノール、ブロモフェノール、又はハロフェノキシフェノールである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記含金属染料が、銅フタロシアニン染料、ニッケルフタロシアニン染料、又はニッケルアゾ染料である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記の半金属酸化物又は金属酸化物の微粒子が、シリカ、アルミナ、ベーマイト、ケイ酸塩、チタニア、ジルコニア、炭酸カルシウム、粘土、及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項10に記載の方法。

【公開番号】特開2006−28512(P2006−28512A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204319(P2005−204319)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】