説明

改良されたバルーンカフ付き気管切開チューブの製造方法。

互いに異なる領域において壁厚が互いに異なるバルーンの作製方法が提供される。この方法は、熱可塑性ポリマーから成る原料チューブを使用する。前記原料チューブは、非対称的なモールド内に配置される。非対称的なモールド内で、前記チューブを、前記チューブの材料を軟化させるのに十分な温度に予熱した後、チューブが長さ方向に収縮することを可能にしながら、前記チューブをガスで膨張させて不均一に伸張させる。このことによりバルーンが形成される。このようにして作製されたバルーンは、互いに異なる領域において互いに異なる厚さを有し、上側領域が約15μmないし約30μmの壁厚を有し、下側領域が約5μmないし約15μmの壁厚を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、本願と同一出願人による2007年9月20日に出願された米国仮出願第60/994、664号(米国代理人事件整理番号64391725US01)の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
カフ付き気管切開チューブは、入院患者の人工呼吸を長期間行うために使用されることが多く、気管内チューブ(ET)チューブは、1週間ないし10日の期間の場合に使用される。気管切開チューブは、喉部を通じて気管内に挿入され、チューブの近位端は通常は呼吸用空気の機械的供給源、すなわち人工換気装置または人工呼吸装置に接続される。カフすなわち「バルーン」が気管切開チューブの遠位端に配置され、気管切開チューブを通じてのみ呼吸ができるように、膨張して患者の気管を塞ぐ。バルーンはまた、液体分泌物が気管を下降して肺に入り、人工呼吸器関連肺炎(VAP)を引き起こすことを防止する役割も果す。分泌物は、肺に入らないようにするために、バルーンの上側に溜められ、定期的に除去される。
【0003】
ET及び気管切開チューブに使用されるカフは、長年に渡り、高圧、低体積のバルーンであった。これらのバルーンはまた、ポリオレフィン及びポリ塩化ビニルから作製された、比較的厚い壁部を有する。壁厚は、60μmないし150μmまたはそれ以上であり得、比較的扱いにくい不必要に強力なバルーンとなり得る。このような「HPLV(高圧力・低体積)」バルーンは、気管の壁部を強く圧迫するので、気管の組織に大きな外傷を与えることが分かっている。患者の有害転帰及び長い回復時間は、医療専門家及び研究者による、外傷の少ない人工換気を補助するために気管を塞ぐ装置の研究を促した。
【0004】
ここ数十年の間、より圧力が低く、より体積が大きいバルーンが開発されてきた。これらのHVLP(高体積・低圧力)バルーンは、気管の内壁と接触する面積が大きく、より低い圧力(平方センチメートル当り)で壁と当接する。しかし、これらのバルーンの壁厚は依然として比較的厚いものであり、60μmないし150μmであった。このようなより新しいバルーンでも、気管組織への外傷は当然生じ得るので、改良の余地はまだある。
【0005】
より最近では、Gobelに付与された米国特許第6、526、977号明細書(特許文献1)に開示されているような、壁厚がより薄いHVLPバルーンが開発されている。Gobelは、壁厚を非常に薄くした特大サイズのバルーンが、気管壁部に対して、分泌物が通過できない非常に小さい折れ部(ひだ)を形成することを教示している。同様に、米国特許第6、612、305号明細書(特許文献2)には、バルーン位置のより良好な制御を提供する最近開発されたバルーンを教示しているが、このバルーンは気管瘻孔を塞いでしまうので、瘻孔へのアクセスが妨げられる。
【0006】
そのため、気管内で従来のバルーンよりも安定的であり、かつ薄く柔軟なバルーン及びその作製方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6、526、977号明細書
【特許文献2】米国特許第6、612、305号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主題は、気管瘻孔を塞ぐことなく気管内でのチューブの位置制御を高めるようにデザインされたバルーンカフ付き気管切開チューブに関する。
【0009】
前記気管切開チューブデバイスは、近位端部、遠位端部、及び両端部間に延在する屈曲領域を有する中空のチューブまたはカテーテルを有する。前記チューブの前記遠位端部は、患者の喉部に形成された瘻孔を通じて気管ルーメン内に挿入されるように構成されており、前記遠位端部は気管ルーメン内において第1の方向に延び、前記近位端部は前記気管間瘻孔を通って前記気管ルーメン内から体外へ向かう第2の方向へ延びる。前記近位端部は、前記デバイスの近位面を規定する。
【0010】
前記デバイスは、前記チューブの一部を取り囲む膨張可能バルーンをさらに備える。より具体的には、前記バルーンは、前記チューブの前記遠位端部が実質的に該バルーンの中心に位置するようにして前記遠位端部に取り付けられるバルーン遠位端部を有する。前記バルーンはまた、前記デバイスの前記近位面よりも下方に位置し、前記チューブの前記屈曲領域の中心が実質的に該バルーンの中心から外れるようにして前記屈曲領域に取り付けられるバルーン近位端部を有する。膨張時、この構造は、前記デバイスの前記近位面よりも下方に位置する前記チューブの前記近位端部及び前記チューブの前記遠位端部の周囲においてバルーンを膨張させて、前記気管瘻孔を塞ぐことなく前記気管瘻孔よりも下方の気管を塞ぐ。チューブ上に配置されたバルーンのこの構造は、分泌物を瘻孔から体外へ除去することを可能にする。バルーンは、従来の手法により膨張及び収縮させられる。
【0011】
本発明は、互いに異なる領域において壁厚が互いに異なる膨張可能バルーン部材の製造方法を包含する。本方法は、少なくとも次のステップを含む。熱可塑性ポリマーから成る原料チューブを準備するステップと、前記原料チューブを、非対称的なモールド内で、前記チューブの材料を軟化させるのに十分な温度まで予熱するステップと、前記チューブを圧縮ガスによって膨張させて前記加熱されたモールドの壁部に接触させながら、前記原料チューブをその長さ方向に収縮させるステップとを含む。このようにしてバルーンが作製される。作製されたばかりのバルーンは、前記伸長方向に対して、前記熱可塑性ポリマーの非晶質部分を配向化するために熱セットされ得る。前記バルーンは冷却させられ、その後、前記モールドから取り出される。
【0012】
したがって、膨張可能バルーン部材は、遠位端部、バルーンをチューブに取り付けるための遠位側取付領域、近位端部、バルーンをチューブに取り付けるための近位側取付領域、上側領域、下側領域を有し、前記上側領域は約15μmないし約30μmの壁厚を有し、前記下側領域は約5μmないし約15μmの壁厚を有する。
【0013】
前記バルーンは、熱可塑性ポリウレタンポリマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロックコポリマー、SBSジブロックエラストマー、SEBSトリブロックエラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン・テレフタレート、低密度ポリエチレン、それらのブレンド、あるいはそれらの混合物から作製され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】カフ付き気管切開チューブを示す図である。
【図2】気管に挿入し、バルーンを膨張させた後のカフ付き気管切開チューブを示す図である。
【図3】気管に挿入し、バルーンを膨張させた後の例示的なカフ付き気管切開チューブの図である。このバルーンは、気管瘻孔を完全に塞ぐことなくチューブの固定性を高めるようにデザインされている。
【図4】例示的な膨張可能バルーン部材の斜視図である。
【図5】例示的な膨張可能バルーン部材の側面図である。
【図6】例示的な膨張可能バルーン要素の別の実施形態を示す斜視図である。
【図7】例示的な膨張可能バルーン要素の別の実施形態を示す側面図である。
【図8A】非対称的な材料チューブの断面図である。
【図8B】非対称的な材料チューブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、カフ付きの気管切開チューブデバイス100を示す。デバイス100は、チューブ105と、膨張可能カフ110とを備える。チューブ105は、近位端部120と遠位端部115とをさらに有する。チューブ105は、その近位端部120の近傍に、該チューブを患者に縫合により取り付けるためのフランジ125を有する。フランジはまた、気管切開チューブを一定位置に保つのを助けるために患者の首の周りに巻かれるストラップを取り付けるに使用されるスロットを有する。チューブは、バルーンの膨張及び収縮に使用されるルーメンをその中心に有し、チューブの近位端部は、必要に応じてベンチレータに接続される。気管瘻孔を通じて患者の気管内にチューブを配置した後、バルーンを膨張させて、気管をシールする。膨張及び収縮させるための従来の手法が用いられ、そのような手法には、チューブに沿って配設され、フランジを通過して膨張空気源に接続される小型の膨張ルーメン(図示せず)が含まれる。
【0016】
図2は、図1に示したデバイス100を気管24に挿入した後に、バルーン110を膨張させた状態を示す。フランジ125は、喉部の外面に対向して配置される。バルーン110は、チューブ105のルーメンを通じて呼吸を行うことができるように気管24をシールする。
【0017】
図3は、本発明によるバルーンをチューブに取り付けて気管内に挿入した状態を示す図である。膨張したバルーン180は、気管瘻孔210よりも下方の領域205においては気管(すなわち、気管ルーメン200)を塞ぐ(シールする)が、気管瘻孔よりも上方の領域においては気管を塞がないように構成されている。このことは、チューブの近位端部120における膨張可能バルーン180の取付け位置と、チューブの遠位端部115における膨張可能バルーン180の取付け位置とが互いに連続的でないために、別の言い方をすれば、互いに180度以外の角度(α)を成していることにより達成され得る。前記バルーンのこの構造では、分泌物が隙間215を通って瘻孔に達し、瘻孔から体外に除去することが可能となる。
【0018】
バルーンにおける互いに異なる領域が互いに異なる壁厚を有することがさらに望ましい。例えば、バルーンの「B」領域が、バルーンの「A」領域よりもより薄い壁厚を有することが望ましい。本願発明者は特定の動作理論に拘束されることを望まないが、気管の下側壁部195と接触する第2のバルーン部分「B」が比較的薄い壁厚を有することにより、患者が仰向けに寝たときに重力に起因して分泌物が蓄積される傾向がより高い領域に対してより良好なシールを提供することができると一般的に考えられている。壁厚が比較的厚い第1のバルーン部分「A」は、患者が仰向けに寝たときに分泌物が蓄積される傾向がより低い領域である気管の上側壁部190と接触する。患者が立ち上がったとき、分泌物が隙間215を通って瘻孔に達し、瘻孔から体外に除去することが可能である。
【0019】
課題を解決するための手段の欄において説明した本発明は、互いに異なる領域において壁厚が互いに異なる膨張可能バルーン部材の製造方法を包含する。本方法は、熱可塑性ポリマーから成り、ルーメンを有する原料チューブを準備するステップを含む。前記チューブをモールド内で、前記チューブの材料を軟化させるのに十分な温度まで予熱した後、前記原料チューブのルーメンに導入した気体で膨張させて前記チューブの材料を概ね不均一に伸張させると、前記チューブは前記モールドの形状を取り、遠位端部、遠位側取付領域、近位端部、近位側取付領域、上側領域、及び下側領域を有するバルーンを作製することができる。前記上側領域が約15μmないし約30μmの厚さを有し、前記下側領域が約5μmないし約15μmの厚さを有することが望ましい。
【0020】
バルーンの壁厚の測定は、ライトマチック(Litematic)装置を用いて行うことができる。例示的な装置は、ミツトヨ・アメリカ社(Mitutoyo America Corporation)製の318シリーズVL−50Aモデルである。この製造業者によると、前記ライトマチック装置は、プローブチップ及び不撓性セラミック基材を使用して、0から50.8mmまでの厚さを、0.01ミクロン単位で測定することができる。用いられる測定力は、0.01N(1g)である。試験のために使用されるプローブチップは、「標準的な」プローブチップとしてライトマチック装置と共に提供される、直径3mmの炭化物ボール接触点であった。
【0021】
単プライのフォイルまたは膜のストリップが、各サンプルの厚さを測定するのに使用され得る。各サンプルのバルーン試料(気管切開チューブには取り付けられていない)を切断してストリップを形成する。第1の端部は、約30mmの幅の不均一な帯域を除去するために切除すべきである。その後、各帯域を幅方向に切断してストリップを形成する。各ストリップの厚さの測定は、各ストリップの長さ方向に沿った10箇所の位置で行う。各サンプルについて各ストリップの測定結果(少なくとも6つのストリップを測定する)を平均して、個々のサンプルの標準偏差を計算する。
【0022】
図4及び図5は、本発明の方法で作製されたバルーンを示す図である。当然ながら、このバルーンの作製に使用されたモールドは、所望されるバルーンと同一の形状を有する。すなわち、中心線からオフセットされたバルーンが作製されるように、前記チューブの少なくとも一方の端部が前記モールドの中心線からオフセットされている。そのため、図4及び図5は、バルーンを示すだけでなく、モールドの内部空間をも示す。少なくとも一方の端部の開口部がバルーン中心線からオフセットされたバルーンを作製するためには、モールドは非対称的である必要がある。すなわち、チューブは、モールドの内部空間を真っ直ぐ通り、かつその一端がモールドの中心線から所望通りに外れるようにしてモールド内に配置される。モールドの両端には、チューブが突出する及びチューブを締め付けて固定する開口部が設けられている。モールドは、2つまたはそれ以上のピースに開くことができるか、または、単一のピースであり得る。モールドを開くことができる場合、前記モールド内にチューブを配置した後、モールドを閉じる。モールドが単一のピースである場合、チューブは前記モールドのいずれか一方の端部からモールドの内部に滑らせて入れられる。
【0023】
本方法によれば、原料チューブは、モールド内で、前記チューブの材料を軟化させるのに十分な温度まで予熱される。前記チューブは対称的な厚さを有し、チューブのサイズ(直径)は所望されるカフのサイズによって決定される。例えば、8.61mmの外径(OD)及び8.5mmの内径(ID)を有する原料チューブから、サイズ9の気管切開チューブが作製される。チューブが緊密に保持されるようにモールドの両端から材料が十分に突出するようにしてチューブをモールド内に配置した後、モールド及びチューブを50℃ないし120℃、望ましくは60℃ないし80℃の温度に予熱する。予熱された原料チューブは、その両端を引っ張ることにより、長さ方向(軸方向)に伸張させられる。温度を維持しながら、空気、窒素またはその他の不活性ガスによってチューブ内部(原料チューブのルーメン内部)を0.5barの圧力で加圧しながら、前記チューブを約5秒間ないし60秒間に渡って約50%ないし200%伸張させるべきである。次に、加熱され伸張させられたチューブを、空気、窒素またはその他の不活性ガスによってチューブ内部を約0.5barないし2barの圧力で加圧しながら、前記チューブを約5秒間ないし15秒間に渡って長さ方向に10%ないし50%収縮させる。このことにより、バルーンが作製される。この収縮/加圧ステップでは、前記チューブをモールドの壁部に接触するまで伸張させるが、前記チューブが非常に薄くなり破裂するまでは膨張させない。
【0024】
その後、随意的に、モールド内に位置しその両端が固定されたままの状態のバルーンを、130℃ないし165℃の温度及びバルーンの膨張を保つ圧力(例えば、約0.5bar)で約30秒間ないし約90秒間加熱して熱セットする。バルーンを約20℃ないし50℃で冷却した後、モールドから取り出す。モールドが1つのピースである場合、モールドから損傷することなく引き出すことができるように、バルーンを収縮させる。バルーンに真空を加えてバルーン内部のガスを排出することにより、バルーンを収縮させることができる。バルーンを収縮させた後、モールドのいずれかの端部から、あるいはチューブをモールドに入れた位置から、バルーンを容易に引き出すことができる。このようにして作製されたバルーンは、その後、公知の手法によりチューブに取り付けられる。
【0025】
当然ながら、バルーン部材の作製に、他のポリマー材料を用いることもできる。例えば、バルーン部材は、熱可塑性ポリウレタンポリマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロックコポリマー、SBSジブロックエラストマー、SEBSトリブロックエラストマー、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン・テレフタレート(PET)、それらのブレンド、あるいはそれらの混合物から作製することができる。他の材料よりも刺激が少ないポリウレタンを使用することがより望ましい。有用なポリウレタンとしては、ダウ・ケミカル社(ダウ・プラスチックス)(Dow Chemical Company (Dow Plastics))から、ペレタン(Pellethane)の商標名で入手可能なものが含まれる。熱可塑性ポリウレタンエストラマーであるペレタン(Pellethane)は、様々なグレード及び硬度のものが入手可能であり、最終製品に所望される性質に応じて、特定用途のための特定のグレード及び硬度のものが選択される。ポリマーの硬度は、例えば、様々な用途における要求を満たすように選択される。
【0026】

【0027】
90Aのデューロメータ硬度(ASTM D−2240)を有するペレタン(Pellethane)2363−90Aとして特定されるダウ(Dow)社製のポリウレタン原料チューブが使用される。このポリウレタンは、110℃の軟化温度(ASTM D−790)、及び、224℃、2160gで30g/10分の溶融指数(ASTM D−1238)を有する。8.61mmの外径(OD)及び8.5mmの内径(ID)を有するこのチューブを、図4に示すような内部空間を有するワンピース型モールドに入れて、モールドの両端部で締め付けて固定する。このモールド及びチューブを、約60℃の温度に予熱する。温度が平衡に達したら、チューブを、若干の内部圧力下(窒素を使用して0.5bar)で約10秒間に渡って約75%伸張させる。そして、チューブの内部を2barで加圧しながら、チューブを約3分の1に収縮させる。このことにより、バルーンが作製される。約140℃の温度及び0.5barの圧力で、バルーンを約90秒間熱セットする。その後、バルーンを約45℃で冷却し、チューブのルーメンに真空を加えて、バルーンを収縮させる。その後、前記チューブ及びバルーンをモールドの一端から取り出す。
【0028】
作製された膨張可能バルーン250の斜視図である図4と、図4に示したバルーンと同一のバルーンの側面である図5を再び参照して、膨張可能バルーンは、遠位端部255、遠位側取付領域260、近位端部265、近位側取付領域270、上側領域275、及び下側領域280を有する。上述したように、前記上側領域は約15μmないし約30μmの厚さを有することが望ましく、前記下側領域は約5μmないし約15μmの厚さを有することが望ましい。図6は、膨張可能バルーン部材250の別の実施形態の斜視図であり、図7は、同一のバルーンの側面図である。図6及び図7に見ることができるように、膨張可能バルーン部材は、遠位端部255、遠位側取付領域260、近位端部265、近位側取付領域270、上側領域275、及び下側領域280を有する。図6及び図7のバルーンは、図4及び図5に示したバルーンを作製する方法と同様の方法で作製される。原料チューブは、モールドの内部空間を一直線に通るようにしてモールドに挿入される。作製されたバルーンを気管切開チューブへ取り付けると、バルーンの近位端部の開口部と遠位端部の開口部とが180度の角度に対して互いにオフセットされる。
【0029】
図4ないし図7に示した上側領域は、約15μmないし約30μmの厚さを有することが望ましく、前記下側領域は約5μmないし約15μmの厚さを有することが望ましい。上側領域275から下側領域280までの寸法は、約50mmないし約25mm、望ましくは約35mmないし約30mmの範囲であり得る。遠位端255から近位端265までの寸法は、約60mmないし約25mm、望ましくは約40mmないし約30mmの範囲であり得る。当然ながら、寸法はそれよりも大きくても小さくてもよいと考えられる。
【0030】
30μm以下の壁厚(例えば、上側領域において15μmないし30μm、下側領域において5μmないし15μm)の膨張可能バルーンカフを有することの利点の1つは、より厚い膜(例えば、30μmを超える厚さ)を有するバルーンと対比して、膨張させる前のカフの外形がより低くなりシャフトに密接して保持されることである。従来の厚さのバルーンは、気管内への挿入時に気管瘻孔を通過させる必要がある部分の体積が大きい。よって、従来のバルーンを通過させるためにはより大きなサイズの瘻孔が必要となるため、外傷が大きくなり、最終的には患者の転帰にも影響を与える可能性がある。
【0031】
材料チューブは、非対称的な壁厚を有し得る。非対称的な材料チューブの断面を図8A及び図8Bに示す。中央ルーメン302の非対称の程度は、熱可塑性ポリマーの種類、ブローする量、チューブを伸張させる量などの因子に依存する。この非対称性のために、作製されるバルーンの壁厚の特性を特定用途のためにユーザが微細に調節することができるように、ブロー成形する前にチューブは回転させられ得る。バルーンの互いに異なる位置での壁厚は、対称的なチューブから同一の方法で作製したバルーンの壁厚よりも、さらに異なり得る。あるいは、前記チューブは、バルーンの互いに異なる位置での壁厚が略同一となるようにして、非対称的なモールド内に配置される。
【0032】
この出願は、同一出願人により同日に出願された特許出願のグループのうちの1つである。このグループには、Brian Cuevasによる米国特許出願第12/206、517号明細書(標題:改良されたバルーンカフ付き気管切開チューブ)、Brian Cuevasによる米国特許出願第12/206、530号明細書(標題:挿入が容易な改良されたバルーンカフ付き気管切開チューブ)、Brian Cuevasによる米国特許出願第12/206,480号明細書(標題:改良されたバルーンカフ付き気管切開チューブを製造するための管状ワークピース)、Brian Cuevasによる米国特許出願第12/206、583号明細書(標題:改良されたバルーンカフ付き気管切開チューブの製造方法)が含まれる。
【0033】
上述の詳細な説明から、本発明の修正及び変形が当業者にとって明らかであろう。そのような修正及び変形は、本発明の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる領域において壁厚が互いに異なるバルーンの作製方法であって、
熱可塑性ポリマーから成る原料チューブを準備するステップと、
前記原料チューブを、非対称的なモールド内で、前記原料チューブの材料を軟化させるのに十分な温度まで予熱するステップと、
前記原料チューブをその長さ方向に伸張させるステップと、
前記原料チューブを圧縮ガスで膨張させて前記加熱されたモールドの壁部に接触させながら、前記原料チューブをその長さ方向に収縮させるステップと、
完成したバルーンを前記モールドから取り出すステップとを含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記完成したバルーンが互いに異なる領域において壁厚が互いに異なり、上側領域において約15μmないし約30μmの壁厚を有し、下側領域において約5μmないし約15μmの壁厚を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記熱可塑性ポリマーが、熱可塑性ポリウレタンポリマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロックコポリマー、SBSジブロックエラストマー、SEBSトリブロックエラストマー、ポリ塩化ビニル、低密度ポリエチレン、ポリエチレン・テレフタレート、それらのブレンド、あるいはそれらの混合物から構成される群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記チューブを膨張させた後に、前記熱可塑性ポリマーの非晶質部分を配向化するのに十分な温度及び時間で前記バルーンを加熱することにより、前記バルーンを熱セットするステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記チューブの冷却後に、前記バルーンを収縮させるために前記チューブから膨張ガスを排出するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
互いに異なる領域において壁厚が互いに異なるバルーンの作製方法であって、
ルーメンを有する原料チューブを、その両端に前記チューブが突出する開口部を有する非対称的なモールド内に配置するステップと、
前記原料チューブを前記モールドの両端部で緊密に保持するステップと、
前記モールドを50℃ないし120℃の温度に予熱するステップと、
一定温度で、空気、窒素またはその他の不活性ガスにより前記原料チューブの内部を約0.5barの圧力で加圧しながら、前記原料チューブを5秒間ないし60秒間に渡ってその長さ方向に50%ないし200%伸張させるステップと、
空気、窒素またはその他の不活性ガスで前記原料チューブの内部を約0.5barないし2barの圧力で加圧しながら、前記原料チューブを5秒間ないし15秒間に渡ってその長さ方向に10%ないし50%収縮させてバルーンを作製するステップとを含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記モールド内に位置しその両端が前記モールドに緊密に保持された前記チューブを、前記バルーンの膨張を維持する圧力、130℃ないし165℃の温度で、約30秒間ないし約90秒間加熱するステップと、
前記バルーンを約20℃ないし50℃で冷却するステップと、
前記バルーンを前記モールドから取り出すステップとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記バルーンを前記モールドから取り出す前に、前記モールドから前記バルーンを損傷することなく取り出すことができるように、前記バルーンを収縮させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6に記載の方法であって、
前記材料チューブが、熱可塑性ポリマーから成り、かつ非対称的な壁厚を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記熱可塑性ポリマーが、熱可塑性ポリウレタンポリマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロックコポリマー、SBSジブロックエラストマー、SEBSトリブロックエラストマー、ポリ塩化ビニル、低密度ポリエチレン、ポリエチレン・テレフタレート、それらのブレンド、あるいはそれらの混合物から構成される群より選択されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2010−540270(P2010−540270A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525475(P2010−525475)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【国際出願番号】PCT/IB2008/053760
【国際公開番号】WO2009/037643
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(309038085)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (51)
【Fターム(参考)】