説明

改良抗体ライブラリー

本発明は、発現ライブラリーからscFv抗体分子の確実な発現および選別を可能にする、改良インビトロRNAディスプレイライブラリーを特徴とする。本発明のscFv抗体ライブラリーは、発現scFv抗体の発現を改善する、最適化され短縮されたドメイン間リンカーを含む。scFv抗体ライブラリーは、個々のライブラリークローン、ライブラリーまたはそのサブセットの同定を可能にする短い核酸バーコードも含む。本発明のscFv抗体ライブラリーを作製、増幅およびスペクトラタイプ解析するためのプライマーも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、これによりその内容が参照によって本明細書に組み込まれている、2008年9月30日に出願された米国仮出願第61/101,483号に基づく優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、改良抗体ライブラリー、ならびに改良抗体ライブラリーを作製する方法および材料に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ほぼどのような構造的エピトープでもそれと高い特異性および親和性で結合する抗体は、リサーチツールとして、またFDAに認可された治療薬として日常的に使用される。その結果、治療用および診断用モノクローナル抗体は、世界中で数十億ドル規模のマーケットを構成している。
【0004】
動物を免疫して抗体を得る古典的手法は、時間がかかり煩雑である。その結果、合成抗体ライブラリーを用いた、所望の標的分子に対する抗体をエキソビボ選別するための多くの方法が開発された。一部の方法において、抗体またはその断片のライブラリーは、生物(例えば、酵母細胞、細菌細胞もしくは哺乳類細胞)または超顕微鏡的因子(例えば、バクテリオファージもしくはウイルス)表面に提示され、生物または超顕微鏡的因子は所望の抗体の発現に対して選別される。他の方法において、抗体ライブラリーは、無細胞インビトロシステムにおいて発現、選別される。現在のインビトロ発現システムは、単一の抗体可変領域の発現に優れているが、単鎖抗体(scFv)分子等、多ドメイン抗体の発現には十分でない。これは、現在のscFv抗体ライブラリーの構造と、現在のインビトロ発現システムの反応条件の両方に起因する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本技術分野において、所望の標的に対するscFv抗体を選別するための改良抗体ライブラリーの必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、scFv抗体分子の確実な発現および選別を可能にする、改良インビトロディスプレイRNAライブラリーを提供することによって上述の課題を解決する。
【0007】
本発明は、次の記述を含む多くの利点を有するが、これらに限定されるものではない。
・発現改善のために最適化された領域間リンカーを含む、改良インビトロディスプレイscFv抗体ライブラリーの提供、
・短い核酸バーコードを含む改良インビトロディスプレイscFv抗体ライブラリーの提供、
・改良インビトロディスプレイscFv抗体ライブラリーを作製するためのプライマーの提供、
・本発明のライブラリーにおけるscFv抗体分子H鎖可変領域のCDR3領域をスペクトラタイプ解析するためのプライマーの提供、および
・改良インビトロディスプレイライブラリーを作製する方法。
【0008】
本発明はその一態様において、配列番号1−14、19−42および58−210の内いずれか一配列に記載されている核酸配列からなるオリゴヌクレオチドを提供する。別の一態様において、本発明は、配列番号1−14、19−42および58−210の内いずれか一配列に記載されている核酸配列を含むオリゴヌクレオチドを提供する。
【0009】
別の一態様において、本発明は、配列番号14−16および43−57の内いずれか一配列に記載されている核酸配列からなるオリゴヌクレオチドを提供する。別の一態様において、本発明は、配列番号14−16および43−57の内いずれか一配列に記載されている核酸配列を含むオリゴヌクレオチドを提供する。
【0010】
さらに別の一態様において、本発明は、配列番号17または18に記載されている核酸配列からなるオリゴヌクレオチドを提供する。別の一態様において、本発明は、配列番号17または18に記載されている核酸配列を含むオリゴヌクレオチドを提供する。
【0011】
本発明はその一実施形態において、ライブラリー増幅、ライブラリー逆転写および/またはライブラリースペクトラタイプ解析のための、配列番号1−210に記載されている配列の内いずれかの使用を提供する。
【0012】
別の一態様において、本発明は、ライブラリーの各構成員がH鎖可変領域、L鎖可変領域およびリンカー領域からなるオープンリーディングフレームを含有し、配列番号1−210に記載されている1つ以上のオリゴヌクレオチドを用いて作製され、H鎖可変領域およびL鎖可変領域をコードした配列のレパートリーを含む、単鎖抗体(scFv)を発現するための核酸ライブラリーを提供する。
【0013】
一実施形態において、ライブラリーは、20アミノ酸未満をコードしたリンカー領域をさらに含む。別の一実施形態において、ライブラリーは、15アミノ酸をコードしたリンカー領域をさらに含む。
【0014】
一実施形態において、ライブラリーの各構成員は、オープンリーディングフレームと作動可能に連結したプロモーターをさらに含む。別の一実施形態において、プロモーターは、T7、SP6およびT3からなる群から選択される。さらに別の一実施形態において、プロモーターはT7プロモーターである。
【0015】
一実施形態において、ライブラリーの各構成員は、そこに作動可能に連結した遺伝子の転写を促進することのできる5’非翻訳領域(5’UTR)をさらに含む。別の一実施形態において、5’UTRは、タバコモザイクウイルス5’UTRまたはその活性断片である。別の一実施形態において、ライブラリーの各構成員はポリアデニン配列をさらに含む。
【0016】
さらに別の一実施形態において、ライブラリーは核酸バーコードをさらに含む。別の一実施形態において、核酸バーコードは8ヌクレオチドを含む。
【0017】
別の一実施形態において、ライブラリーの各構成員はエピトープタグをコードした核酸配列をさらに含む。さらに別の一実施形態において、エピトープタグはFLAGタグである。さらに別の一実施形態において、核酸配列はscFvのリンカー領域の一部である。別の一実施形態において、ライブラリーは抗体定常部またはその断片をコードした核酸配列をさらに含む。
【0018】
一実施形態において、ライブラリーはリボソーム休止配列をさらに含む。
【0019】
一実施形態において、ライブラリーはペプチドアクセプターをさらに含む。別の一実施形態において、ペプチドアクセプターはソラレンC6分子を含むリンカーを介して共有結合する。さらに別の一実施形態において、リンカーは、5’(ソラレンC6)2’Ome(U AGC GGA UGC)XXXXXXCC(ピューロマイシン)(式中、XはトリエチレングリコールリンカーまたはPEG−150であり、CCはDNA骨格である)である。
【0020】
別の一態様において、本発明は、(a)核酸組成物を提供するステップ、および(b)配列番号1−210に記載されている1つ以上のオリゴヌクレオチドを用いて複数の抗体可変領域を増幅するステップを含み、前記組成物における核酸の少なくとも一部が抗体可変領域をコードした少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む、単鎖抗体(scFv)を発現するための核酸ライブラリーを作製する方法を提供する。
【0021】
別の一態様において、本発明は、(a)核酸組成物を提供するステップ、および(b)配列番号1−210に記載されている1つ以上のオリゴヌクレオチドを用いて前記可変領域のCDR3領域を増幅するステップを含み、前記組成物における核酸の少なくとも一部が抗体可変領域をコードした少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む、抗体可変領域をコードした少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む核酸をスペクトラタイプ解析する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一部の実施形態におけるmRNA−scFvディスプレイ技術の概略図を示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態におけるmRNA−scFvディスプレイ技術の概略図を示す図である。
【図3】ライブラリーDNAコンストラクトの概要描写を示す図である。
【図4】mRNA−scFv分子として生じ得る機能的scFvを示す図である。
【図5】mRNA−scFv分子フォーマットにおいて結合しているscFvが遊離scFv分子と機能的に同等であることを表す結果を示す図である。
【図6】17/9mRNA−scFvコンストラクトのTMV−UTRとコザック共通配列との間に挿入された4種類の8bpタグを示す図である。
【図7】例示的なコンストラクトおよび調節配列を示す図である。
【図8】3ラウンドの選別で同定されたランダムタグ配列を示す図である。
【図9】1ラウンドのmRNA−scFv選別の前と後に17/9scFvを定量した結果を示す図である。
【図10】D2E7と2SD4との間のキメラを示す図である。
【図11】異なるTNFαバインダーのK曲線を示す図である。
【図12】mRNA−scFv分子の耐熱性を示す図である。
【図13】mRNA−scFv分子の高温処理後にRNAが回収されたことを表す結果を示す図である。
【図14】未処理ヒトPBMCκ scFv PROfusionライブラリーにおけるPBMCドナーの年齢、民族および性別分布を示す図である。
【図15】構築された未処理ヒトPBMCκ scFv PROfusionライブラリーにおけるVHファミリー特異的PCR断片を示す図である。
【図16】構築された未処理ヒトPBMCκ scFv PROfusionライブラリーにおけるVκファミリー特異的PCR断片を示す図である。
【図17】構築された未処理ヒトPBMCκ scFv PROfusionライブラリーにおけるVH−Vκ scFv PCR産物を示す図である。
【図18】構築された未処理ヒトPBMCκ scFv PROfusionライブラリーにおけるVHおよびVκファミリー分布を示す図である。
【図19】未処理ヒトPBMC抗体CDR3サイズのスペクトラタイプ解析を示す図である。
【図20】スペクトラタイプ解析によるVH/Vκライブラリーの品質管理を示す図である。
【図21】未処理ヒトPBMCλ scFv PROfusionライブラリーにおけるVλファミリー特異的PCR断片を示す図である。
【図22】構築された未処理ヒトPBMCλ scFv PROfusionライブラリーにおけるVH−Vλ scFv PCR産物を示す図である。
【図23】構築された未処理ヒトPBMCλ scFv PROfusionライブラリーにおけるVHおよびVλファミリー分布を示す図である。
【図24】未処理ヒトリンパ節κおよびλ scFv PROfusionライブラリーにおけるPROfusionライブラリー構築の概要を示す図である。
【図25】構築された未処理ヒトリンパ節κおよびλ scFv PROfusionライブラリーにおけるVHファミリー特異的PCR断片を示す図である。
【図26】構築された未処理ヒトリンパ節κおよびλ scFv PROfusionライブラリーにおけるVκファミリー特異的PCR断片を示す図である。
【図27】構築された未処理ヒトリンパ節κおよびλ scFv PROfusionライブラリーにおけるVλファミリー特異的PCR断片を示す図である。
【図28】構築された未処理ヒトリンパ節κおよびλ scFv PROfusionライブラリーにおけるVH−VκおよびVH−Vλ scFv PCR産物を示す図である。
【図29】構築されたVH−Vκ scFvライブラリーにおけるVHおよびVκファミリー分布を示す図である。
【図30】構築されたVH−Vλ scFvライブラリーにおけるVHおよびVλファミリー分布を示す図である。
【図31】構築されたVH−Vλ scFvライブラリーにおけるスペクトラタイプ解析によるVH−VκおよびVH−Vλライブラリーの品質管理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明の詳細な記述)
本発明をより容易に理解できるように、特定の用語を先ず定義する。
【0024】
I.定義
用語「抗体」は、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体等)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、マウス抗体およびそれらの断片、例えば、抗体L鎖(VL)、抗体H鎖(VH)、単鎖抗体(scFv)、F(ab’)2フラグメント、Fabフラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメントおよび単領域抗体フラグメント(DAb)を含む。
【0025】
用語「抗体ライブラリー」は、抗体またはその断片をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を有する複数のDNAまたはRNA分子を意味する。これはまた、前記DNAまたはRNA分子から発現した複数の抗体タンパク質および核酸/抗体融合分子も含む。
【0026】
用語「H鎖可変領域」は、抗体H鎖可変領域をコードする核酸および該核酸のタンパク質産物を意味する。
【0027】
用語「L鎖可変領域」は、抗体L鎖可変領域をコードする核酸および該核酸のタンパク質産物を意味する。
【0028】
用語「スペクトラタイプ解析」は、抗体をコードした遺伝子配列をCDR3長に基づいて分離する、PCRに基づいた方法を意味する。CDR3長分布の変化は、抗体レパートリーの変化と相関する(Janewayら「Immunobiology」、5th ed.Garland Publishing、New York and London、(2001))。
【0029】
用語「エピトープタグ」は、抗体によって特異的に認識される短いアミノ酸配列であって、分子に化学的または遺伝学的に結合して、前記抗体によるその検出を可能にするアミノ酸配列、例えば、FLAGタグ、HAタグ、MycタグまたはT7タグを意味する。
【0030】
用語「核酸バーコード」は、本発明のライブラリーの非翻訳領域に含まれる短い核酸を意味する。バーコードは、個々のクローンまたは複数のライブラリー構成員に特有の識別子を提供するよう働くランダムまたは所定の配列である。
【0031】
用語「非抗体配列」は、本発明の抗体ライブラリーに出現する、本来の抗体配列の一部ではない任意の核酸またはアミノ酸配列を意味する。このような配列は、例えばエピトープタグまたは核酸バーコードを含む。
【0032】
用語「調節配列」は、特定の宿主生物、超顕微鏡的因子またはインビトロ発現システムにおける、作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な核酸配列または遺伝要素を意味する。このような配列は、本技術分野においてよく知られている。原核生物に適した調節配列は、例えばプロモーター、場合によってオペレーター配列、そしてリボソーム結合部位を含む。真核細胞はプロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが知られている。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係になるよう配置されている場合「作動可能に連結」されている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に作用する場合コード配列に作動可能に連結されており、またリボソーム結合部位は、転写を促進できるよう配置されている場合コード配列に作動可能に連結されている。一般に、「作動可能に連結」は、連結された核酸配列同士が隣接していることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも隣接している必要はない。連結は、例えば、都合のよい制限酵素認識部位におけるライゲーションによってなされる。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の慣例的手法に従って用いられる。
【0033】
用語「特異的結合」または「と特異的に結合する」は、少なくとも約1×10−6M、1×10−7M、1×10−8M、1×10−9M、1×10−10M、1×10−11M、1×10−12M以上の親和性で標的と結合する、および/またはその非特異的抗原との親和性より少なくとも2倍強い親和性で標的と結合する、結合分子の能力を意味する。
【0034】
用語「標的」は、抗体によって認識される抗原またはエピトープを意味する。標的は、例えば、任意のペプチド、タンパク質、糖類、核酸、脂質およびそれに対して特異抗体を作製する小分子を含む。一実施形態において、抗体は、ヒトタンパク質、例えばTNFα、IL−12またはIL−1αに対するものである。
【0035】
「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えられる置換である。同様の側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは、本技術分野において定義されている。
【0036】
用語「RNAディスプレイ」または「mRNAディスプレイ」は、発現したタンパク質またはペプチドがそのコード化mRNAと共有結合してまたは緊密な非共有結合的相互作用によって、「RNA/タンパク質融合」分子を形成するインビトロ技術を意味する。RNA/タンパク質融合体におけるタンパク質またはペプチド成分は、所望の標的との結合および結合しているコード化mRNA成分の配列決定によって決定されたタンパク質またはペプチドの同一性について選別される。このような方法は、本技術分野においてよく知られており、例えば、米国特許第7,195,880号、6,951,725号、7,078,197号、7,022,479号、6,518,018号、7,125,669号、6,846,655号、6,281,344号、6,207,446号、6,214,553号、6,258,558号、6,261,804号、6,429,300号、6,489,116号、6,436,665号、6,537,749号、6,602,685号、6,623,926号、6,416,950号、6,660,473号、6,312,927号、5,922,545号および6,348,315号に記載されている。
【0037】
用語「単鎖Fv抗体」または「scFv」は、VLおよびVH領域が組み合わされて一価分子を形成しそれらが単一のタンパク質鎖として生成されることを可能にする合成リンカーによる、組換え法を用いて接続されたL鎖可変領域の抗原結合部分とH鎖可変領域の抗原結合部分を意味する(単鎖Fv(scFv)として知られる。例えば、Birdら(1988)Science242:423−426およびHustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A85:5879−5883を参照)。
【0038】
用語「機能性部分」は、それが結合した分子に追加的な機能性を付与する任意の生物学的または化学的物質を意味する。
【0039】
用語「選別」は、ある分子を集団内の他の分子から実質的に区分化することを意味する。本明細書において、「選別」ステップは、選別ステップの後に集団における望ましくない分子に対する所望の分子の、少なくとも2倍、好ましくは30倍、さらに好ましくは100倍、最も好ましくは1000倍濃縮を提供する。本明細書に示されているように、選別ステップは任意の回数繰り返すことができ、また異なる種類の選別ステップを特定のアプローチと組み合わせることもできる。
【0040】
用語「休止配列」は、リボソームの翻訳速度を減速または停止させる核酸配列を意味する。
【0041】
用語「固体支持体」は、アフィニティー複合体が直接的または間接的(例えば、他の抗体やプロテインA等、他の結合パートナーの介在によって)のいずれかで結合することのできる、またはアフィニティー複合体を包埋できる(例えば、レセプターまたはチャネルによって)、任意のカラム(またはカラム材料)、ビーズ、試験管、マイクロタイター皿、固体粒子(例えば、アガロースまたはセファロース)、マイクロチップ(例えば、シリコン、シリコンガラスまたはゴールドチップ)または膜(例えば、リポソームや小胞の膜)を意味するが、これらに限定されるものではない。
【0042】
用語「リンカー領域」は、scFv抗体遺伝子における抗体VHおよびVL領域をコードする核酸配列を接続する核酸領域を意味する。リンカー領域は、VH、VLおよびリンカー領域を含む連続的なオープンリーディングフレームが形成されるように、抗体VHおよびVLをコードする核酸配列とフレーム内に存在する。この用語はまた、scFvタンパク質においてVHとVLを接続する領域も意味する。
【0043】
用語「ペプチドアクセプター」は、リボソームのペプチジルトランスフェラーゼの触媒活性によって、成長中のタンパク質鎖のC末端に付加され得る任意の分子を意味する。通常、このような分子は、(i)ヌクレオチドまたはヌクレオチド様部分(例えば、ピューロマイシンおよびそのアナログ)、(ii)アミノ酸またはアミノ酸様部分(例えば、20種類のD−もしくはL−アミノ酸の内のいずれかまたはその任意のアミノ酸アナログ(例えば、O−メチルチロシンまたはEllmanら(1991)Meth.Enzymol.202:301によって記載されたアナログの内のいずれか))および(iii)両者の間の結合(例えば、3’位置、より好ましくないが2’位置におけるエステル、アミドまたはケトン結合)を含むが、この結合は好ましくは天然のリボヌクレオチド構造由来の環状構造を顕著に乱さない。さらにこの用語は、タンパク質コード配列に(核酸配列に介在することによって直接的または間接的に)共有結合したペプチドアクセプター分子と共に、一部の非共有結合的手段、例えばタンパク質コード配列の3’末端に、またはその近傍に結合する第二の核酸配列を用いたハイブリダイゼーションによってタンパク質コード配列と接続した分子や、それ自身がペプチドアクセプター分子と結合する分子を包含するが、これらに限定されるものではない。
【0044】
II.概観
本発明は、発現ライブラリーからscFv抗体分子の確実な発現および選別を可能にするための、改良インビトロRNAディスプレイライブラリーを特徴とする。RNAディスプレイ法は、発現したタンパク質またはペプチドが共有結合または緊密な非共有結合的相互作用によってそのコード化mRNAと結合してRNA/タンパク質融合分子を形成する、タンパク質またはペプチドライブラリーの発現を一般に含む。RNA/タンパク質融合体におけるタンパク質またはペプチド成分は、所望の標的との結合および結合しているコード化mRNA成分の配列決定によって決定されるタンパク質またはペプチドの同一性に対して選別される。
【0045】
本発明のscFv抗体ライブラリーは、発現scFv抗体の発現を改善する、最適化され短縮された領域間リンカーを含む。scFv抗体ライブラリーは、個々のライブラリークローン、ライブラリーまたはそのサブセットの同定を可能にする短い核酸バーコードも含む。
【0046】
本発明はまた、本発明のscFv抗体ライブラリーを作製、増幅およびスペクトラタイプ解析するための新規プライマーも提供する。
【0047】
III.ライブラリー構築
モノクローナル抗体医薬候補を作製するための抗体技術開発として、本発明は、2種の組換え抗体作製アプローチ、すなわちPROfusion(mRNAディスプレイ)および酵母表面ディスプレイの開発を開示する。PROfusion mRNAディスプレイ技術は、ヒト抗体ライブラリーをスクリーニングするためのアブイニシオ方法である。酵母表面ディスプレイ技術は、酵母表面に特異的に提示されているモノクローナル抗体をスクリーニングするための細胞を利用した方法である。
【0048】
本発明はその一態様において、抗体分子を発現することのできる新規抗体ライブラリーを特徴とする。本発明のライブラリーは、標的に結合できる任意の抗体断片から作製される。一実施形態において、抗体可変領域のライブラリーが作製される。一実施形態において、これは、VHおよび/またはVL領域である。別の一実施形態において、scFvライブラリーが作製される。
【0049】
本発明のライブラリーは、可変部の外側の領域、例えば定常部もしくはその断片またはヒンジ部をコードする抗体核酸配列を含むこともできる。
【0050】
本発明の核酸ライブラリーは、RNA、DNAまたはRNAとDNAの両要素を含むことができる。
【0051】
1)核酸インプット多様性の生成
本発明の抗体ライブラリー作製に用いられている核酸配列は、あらゆるソースから得られる。一実施形態において、本発明のライブラリーは、齧歯類(rodent)、霊長類(primate)、ラクダ科(camelid)、サメまたはヒト免疫グロブリン遺伝子のレパートリーを含む任意の遺伝子組換え動物を含むあらゆる動物の抗体レパートリーから得られるが、これらに限定されない。生物の抗体補体の可変領域をコードした核酸を単離およびクローニングするための技法は、本技術分野においてよく知られている。実際に、抗体可変領域をコードした核酸を含む多くのcDNAライブラリー、例えばさまざまな免疫細胞、例えば末梢血単核細胞(PBMC)、脾臓またはリンパ節から作製されたヒト抗体可変領域のライブラリーが市販されている。別の一実施形態において、本発明のライブラリーは、1つ以上の抗体をコードした核酸のアブイニシオ合成によって得られる。
【0052】
本発明のライブラリーは、発現した抗体分子における1つ以上のアミノ酸置換および/または欠失をもたらす核酸置換および/または欠失を導入することによる、追加的な多様性の導入を必要とし得る。技術分野で認識されている任意の突然変異誘発方法、例えばランダム突然変異誘発、「ウォークスルー(walk through)」突然変異誘発および「ルックスルー(look through)」突然変異誘発が企図される。このような抗体突然変異誘発は、例えばエラープローンPCR、酵母もしくは細菌の「ミューテーター」株または抗体の全体もしくは一部のアブイニシオ合成における、ランダムまたは確定的な核酸変化の取込みを用いて達成できる。一実施形態において、1つ以上のアミノ酸がランダムに突然変異した抗体分子のライブラリーが作製され得る。別の一実施形態において、1つ以上のアミノ酸が1つ以上の所定のアミノ酸に突然変異した抗体分子のライブラリーが作製され得る。
【0053】
2)調節配列
本発明の核酸ライブラリーは、コードされた抗体のインビトロでの発現およびスクリーニングを促進するための追加的な調節配列を含むことができる。
【0054】
このような調節配列の一型は、mRNA合成のための所望のRNAポリメラーゼと併せて用いられるプロモーターとなることができる。本明細書に記載されている通り、直鎖状二本鎖DNAから行われる合成を導くことのできる任意のプロモーター、例えばT7、SP6またはT3ファージプロモーターが用いられてよい。
【0055】
第二の調節配列は、5’非翻訳領域(すなわち5’UTR)と言うことができ、これは翻訳開始部位のRNA上流に相当する。その他適切な5’UTRが利用され得る(例えば、Kozak(1983)Microbiol.Rev.47:1を参照)。一実施形態において、5’UTR(「TE」と言う)は、タバコモザイクウイルス5’非翻訳領域の欠失変異体となることができ、特に、TMV翻訳開始の直接5’側の塩基に相当する。このUTRの配列は次の通りである。rGrGrG rArCrA rArUrU rArCrU rArUrU rUrArC rArArU rUrArC rA(式中、転写を増加させるため最初の3個のGヌクレオチドが挿入される)。
【0056】
第三のエレメントは、翻訳開始部位となることができる。一般に、これはAUGコドンである。なお、AUG以外のコドンが天然のコード配列で利用されている例があり、これらのコドンが本発明の選別スキームにおいて用いられてもよい。この翻訳開始部位は、好ましくは「コザック」配列と言う翻訳の適切な前後関係に置かれる(例えば、Kozak(1983)Microbiol.Rev.47:1を参照)。
【0057】
第四のエレメントは、5’終止コドンを含むポリアデニル化(ポリA)配列となることができる。ポリA配列は、核酸ライブラリーコンストラクト内の抗体コード配列の後に配置され得る。このような、本技術分野においてよく知られている配列が企図される。
【0058】
3)追加的な核酸配列エレメント
本発明の核酸ライブラリーは、抗体をコードしたmRNA転写産物に組み込まれた追加的な配列エレメントを含むこともできる。これは、非抗体配列を含むことができる。
【0059】
一実施形態において、短い核酸配列、すなわち「核酸バーコード」は、抗体mRNA転写産物の非翻訳部分に組み込まれることができる。このバーコード配列は、核酸ライブラリーの個々の構成員を識別、または異なるライブラリー間を識別するための特有の識別子となることができる。短い核酸配列は、好ましくは50塩基未満、20塩基未満または10塩基未満を含む。一実施形態において、短い核酸配列は8塩基を含む。
【0060】
他の一実施形態において、特定の非抗体アミノ酸配列をコードした核酸配列エレメントは、コードされたアミノ酸配列が発現抗体に組み込まれるように、本発明の核酸ライブラリーのオープンリーディングフレーム(ORF)に組み込まれることができる。一実施形態において、非抗体核酸配列エレメントは、scFvのVH領域とVL領域との間のORFに組み込まれてリンカー領域となることができる。終止コドンを持たない、連続的なアミノ酸配列をコードした任意の核酸配列が、リンカー領域のために企図され得る。リンカー領域の長さは、50アミノ酸未満、20アミノ酸未満または16アミノ酸未満である。
【0061】
別の一実施形態において、1つ以上のエピトープタグ(例えば、FLAGタグ)をコードした核酸配列エレメントは、抗体コード配列に組み込まれることができる。この配列は、任意の位置、例えばscFv抗体分子のN末端、C末端またはVH領域とVL領域との間のリンカー領域に存在するエピトープタグを備える抗体の産生をもたらすことができる。一実施形態において、抗体定常部またはその断片をコードした配列が、本発明の核酸ライブラリーORFの3’部分に含まれてよい。この抗体定常部またはその断片は、特定のライブラリーの全構成員において同一である。
【0062】
他の実施形態において、特定の非抗体アミノ酸配列をコードした核酸配列エレメントは、本発明における核酸ライブラリーを酵母細胞表面に特異的に発現するために利用されるベクターに組み込まれていてよい。このエレメントは、本技術分野で公知の膜貫通領域を含むことができるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、このエレメントは、コードされたアミノ酸配列が発現抗体に組み込まれるように、本発明の核酸ライブラリーのORFに組み込まれることができる。別の一実施形態において、このエレメントは、ベクター配列に組み込まれることができるが、本発明の核酸ライブラリーのORFには組み込まれない。このエレメントは、本発明および上述の核酸ライブラリーの発現、安定性、フォールディングおよびエピトープ提示、または他の特徴に有用となることができる。
【0063】
4)オリゴヌクレオチドプライマー
本発明はその一態様において、本発明の抗体ライブラリーの合成および/または増幅に適した核酸オリゴヌクレオチドプライマーを特徴とする。例示的なプライマーは、配列番号1−13(表6)を含む。
【0064】
別の一態様において、本発明は、本発明のライブラリーから産生されたmRNAの逆転写に適した核酸オリゴヌクレオチドプライマーを特徴とする(表3)。例示的なプライマーは、配列番号14−16(表3)を含む。
【0065】
別の一態様において、本発明は、ライブラリーまたはその選別アウトプットにおけるVH CDR3サイズ分布のスペクトラタイプPCR解析に適したオリゴヌクレオチドプライマーを特徴とする(表4)。スペクトラタイプ解析は、抗体ライブラリーの多様性および選別の進行を評価するための有用なツールとなることができる。例示的なスペクトラタイプPCRプライマーは、配列番号17−18を含む。
【0066】
5)核酸のペプチドアクセプターとの連結
一実施形態において、本発明の抗体核酸ライブラリーは、ペプチドアクセプター部分を含むよう修飾され得る。この操作は、核酸発現ライブラリーの個々のメンバーとその同系タンパク質産物との共有結合を容易にする。技術分野で認識されているペプチドアクセプターを核酸に結合する任意の手段が企図される。
【0067】
本発明はその一態様において、ペプチドアクセプターを核酸ライブラリーへと結合するための新しい方法および組成物を特徴とする。一実施形態において、ソラレンC6分子およびペプチドアクセプター分子が核酸ライブラリーの3’末端配列と相補的であり得る核酸配列と融合し得る、ソラレンC6分子およびペプチドアクセプター分子を含む連結分子が合成され得る。このような連結分子は、相補的塩基対合を介して核酸ライブラリークローンの3’末端と結合することができる。ソラレンC6は、紫外線(UV)光感受性であり、リンカーを核酸ライブラリークローンに架橋し、これによりペプチドアクセプターを核酸ライブラリークローンに共有結合させる。別の一実施形態において、リンカー分子の核酸部分は、修飾されたヌクレオチド、例えば2プライムメトキシ(2’OMe)リボヌクレオチドを含むことができる。別の一実施形態において、リンカー分子は、ソラレンC6分子とペプチドアクセプター分子を含む核酸領域を隔てるトリエチレングリコールまたはPEG−150リンカーをさらに含むことができる。一実施形態において、リンカーは、5’(ソラレンC6)2’OMe(U AGC GGA UGC)XXXXXXCC(ピューロマイシン)3’(式中、XはトリエチレングリコールまたはPEG−150であり、CCは標準DNA骨格である)となることができる。一実施形態において、このようなリンカーは、例えば、TriLink BioTechnologies、Inc(サンディエゴ、カリフォルニア州)によってオーダーメイド合成される。
【0068】
IV.スペクトラタイプ解析法
スペクトラタイプ解析は、機能の多様性の代わりに抗原レセプター長の多様性を評価する、臨床および基礎免疫学的状況において用いられる方法である(例えば、Cochet、M.ら(1992)Eur.J.Immunol.、22:2639−2647;Pannetier、C.ら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:4319−4323;Pannetier、C.ら(1997)In Austin、O.J.R.(Ed.)The Antigen T Cell Receptor:Selected Protocols and Applications、TX Landes、287−325頁を参照)。スペクトラタイプアッセイは、例えば被験者の末梢血サンプルから単離されたCD4またはCD8T細胞を用いることができるが、一方、他のケースでは全CD3またはPBMC細胞が用いられる。
【0069】
本発明において、PCRは、抗体をコードした遺伝子配列をCDR3長に基づいて分析するための可変長領域(CDR3)を特異的に複製するために用いられ得る。CDR3長分布の変化は、抗体レパートリーの変化と相関する。一部の実施形態において、本発明の実施において構築された個々のライブラリーに特異的なプライマーは、各ライブラリーに独立したスペクトラタイプを提供するために用いられ得る。好ましい一実施形態において、それぞれVHのフレームワーク3領域およびJ領域とアニーリングする、蛍光色素標識5’フォワードプライマー(6−FAM−PanVHFR3−Fwd、5’−GACACGGCCGTGTATTACTGT−3’、配列番号17)およびリバースプライマー(PanJH−Rev、5’−GCTGAGGAGACGGTGACC−3’、配列番号18)は、PCRによってVH領域のCDR3領域にわたって増幅するために用いられ得る。他の実施形態において、抗体ライブラリーをコードしたポリヌクレオチド配列における同一の領域または他の領域と特異的にアニーリングする、本技術分野で公知の他のプライマーが用いられ得る。好ましい一実施形態において、その結果生じるCDR3レプリコンの混合物は、電気泳動によってサイズに従って分離され、デンシメトリーによって定量化されることができる。他の実施形態において、本技術分野で公知の他の方法は、その結果生じるCDR3レプリコンを特徴付けるために用いられ得る。
【0070】
好ましい一実施形態において、異なるVHファミリー間のCDR3サイズ分布のスペクトラタイプ解析は、VH cDNA断片において行われ得る。一実施形態において、例示的なVHファミリーは単一の生殖系列またはVH1−46、VH2、VH5およびVH6等、異なるVHファミリーから得られる。好ましい一実施形態において、スペクトラタイプ解析のためのテンプレートは、例えばヒトリンパ節ライブラリー、酵母脾臓ライブラリー、未処理ヒトλライブラリー、ヒトPBMCκライブラリー、VH−Vλ scFvライブラリー、VH−Vκ scFvライブラリーから選択され得る。他の実施形態において、スペクトラタイプ解析のためのテンプレートは、他のライブラリーから選択され得る。
【0071】
V.一般スクリーニング法
本発明はその一態様において、本発明の発現ライブラリーをスクリーニングして所望の抗原と結合できる抗体を同定する方法を特徴とする。抗体の標的分子への結合に基づいて発現ライブラリーから抗体の選別を可能にする任意のインビトロまたはインビボスクリーニング法が企図される。
【0072】
一実施形態において、本発明の発現ライブラリーは、技術分野で認識されているインビトロ無細胞表現型−遺伝子型連関ディスプレイを用いてスクリーニングされ得る。このような方法は、本技術分野でよく知られており、例えば米国特許第7,195,880号、6,951,725号、7,078,197号、7,022,479号、6,518,018号、7,125,669号、6,846,655号、6,281,344号、6,207,446号、6,214,553号、6,258,558号、6,261,804号,6,429,300号、6,489,116号、6,436,665号、6,537,749号、6,602,685号、6,623,926号、6,416,950号、6,660,473号、6,312,927号、5,922,545号および6,348,315号に記載されている。これらの方法は、タンパク質がその起源である核酸と物理的に関連または結合するような仕方で、核酸からインビトロでタンパク質を転写することを含む。発現したタンパク質を標的分子で選別することによって、タンパク質をコードする核酸もまた選別され得る。
【0073】
scFvタンパク質の発現を改善するため、上述において参照されたインビトロスクリーニングアッセイは特定の試薬の添加または除去を必要とし得る。一実施形態において、機能的scFv分子の産生を改善するために、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ酵素がインビトロ発現システムに添加されてよい。別の一実施形態において、弱い酸化剤(例えば、GSSG(酸化型グルタチオン)/GSH(還元型グルタチオン)、例えば、100mM GSSG/10mM GSH)がscFvタンパク質のインビトロ翻訳反応混合液に添加されて、scFv分子のVHおよびVL領域における鎖内ジスルフィド結合を形成させることができる。別の一実施形態において、還元剤(例えば、ジチオスレイトール(DTT))が、scFvのインビトロ翻訳反応混合物から除去されてよい。
【0074】
別の一実施形態において、1種類または数種類の標識アミノ酸またはその誘導体は、標識アミノ酸がその結果生じる抗体に取り込まれるように、インビトロ翻訳システムに添加されてよい。技術分野で認識されている任意の標識アミノ酸、例えば放射性標識アミノ酸、例えば35S標識メチオニンまたはシステインが企図される。
【0075】
一実施形態において、本発明のインビトロスクリーニングアッセイは、単数または複数の抗体のインビトロ選別後に、単数または複数の抗体と物理的に関連したmRNAが逆転写されて前記単数または複数の抗体をコードするcDNAを生成できることを必要とする。任意の適切な逆転写方法、例えば、酵素を介した、例えばモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素が企図される。
【0076】
本発明で用いられているスクリーニング法は、所望の標的に特異的に結合する抗体をコードする核酸の増幅を必要とし得る。一実施形態において、単数または複数の抗体と物理的に関連したmRNAは、増幅されてさらにmRNAを生成することができる。技術分野で認識されている任意のRNA複製方法、例えばRNAレプリカーゼ酵素を用いた方法が企図される。別の一実施形態において、単数または複数の抗体と物理的に関連したmRNAは、PCRで増幅される前に先ずcDNAに逆転写される。一実施形態において、PCR増幅は、高忠実度プルーフリーディングポリメラーゼ、例えばサーモコッカス・コダカラエンシス由来のKOD1耐熱性DNAポリメラーゼまたはPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いて行われる。別の一実施形態において、PCR増幅は、増幅されたDNAに突然変異の導入をもたらす条件下、すなわちエラープローンPCRを用いて行われてもよい。
【0077】
本発明で用いられているスクリーニング法は、改善された標的親和性を備える抗体の選別のため、標的結合スクリーニングアッセイのストリンジェンシーが強まることも必要とし得る。抗体−標的相互作用アッセイのストリンジェンシー増強するための、技術分野で認識されている任意の方法が企図される。一実施形態において、単数または複数のアッセイ条件(例えば、アッセイバッファーの塩濃度)が変化され、抗体分子の所望の標的に対する親和性を低減させることができる。別の一実施形態において、抗体が所望の標的と結合できる時間の長さが短縮され得る。別の一実施形態において、抗体−標的相互作用アッセイに競合結合ステップが加えられてよい。例えば、抗体は所望の固定化標的と先ず結合できる。次に、抗原に対して最も低い親和性を有する抗体が固定化標的から溶出され、その結果、抗原結合親和性の向上した抗体が濃縮されるよう、固定化標的との結合と競合するよう作用する特定の濃度の非固定化標的が添加され得る。一実施形態において、アッセイ条件のストリンジェンシーは、アッセイに添加される非固定化標的濃度を増加することによってさらに強くなることができる。
【0078】
本発明のスクリーニング法はまた、標的結合の向上した1種類または数種類の抗体を濃縮するために複数ラウンドの選別も必要とし得る。一実施形態において、選別の各ラウンドにおいて、技術分野で認識されている方法を用いてさらなるアミノ酸突然変異が抗体に導入され得る。別の一実施形態において、選別の各ラウンドにおける所望の標的に対する結合のストリンジェンシーは、所望の標的に対して向上した親和性を有する抗体を選別するために強くなることができる。
【0079】
本発明のスクリーニング法は、インビトロ翻訳システムの成分からRNA−抗体融合タンパク質の精製を必要とし得る。この操作は、技術分野で認識されている任意の分離方法を用いて行われてよい。一実施形態において、RNA−抗体融合タンパク質は、ポリデオキシチミジン(ポリdT)レジンを用いたクロマトグラフィーによって分離されてよい。別の一実施形態において、RNA−抗体融合タンパク質は、RNA−抗体融合タンパク質の抗体成分に存在するエピトープに特異的な抗体を用いたクロマトグラフィーによって分離されてよい。一実施形態において、エピトープは、アミノ酸配列タグ、例えばRNA−抗体融合タンパク質の抗体成分のアミノ酸配列の、例えばN末端、C末端または可変領域間リンカーに取り込まれたFLAGまたはHAタグとなることができる。
【0080】
本発明のライブラリーの抗体選別は、固定化標的分子の使用を必要とし得る。一実施形態において、標的分子は固体基質、例えばアガロースビーズに直接連結され得る。別の一実施形態において、標的分子は先ず修飾、例えばビオチン化されてよく、修飾された標的分子は修飾を介して固体支持体、例えばストレプトアビジン−M280、ニュートラアビジン−M280、SA−M270、NA−M270、SA−MyOne、NA−MyOne、SA−アガロースおよびNA−アガロースと結合することができる。
【0081】
本発明を、限定するものであると理解するべきでない、次の実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0082】
発明の具体例
他に記載がなければ、実施例を通じて次の材料と方法が用いられた。
【0083】
材料と方法
一般に、他に断りがなければ、本発明の実施において、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(特に、例えば免疫グロブリン技術)および畜産業における従来の技法が用いられる。例えば、Sambrook、FritschおよびManiatis、Molecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology)、510、Paul、S.、Humana Pr(1996);Antibody Engineering:A Practical Approach(Practical Approach Series、169)、McCafferty、Ed.、Irl Pr(1996);Antibodies:A Laboratory Manual、Harlowら、C.S.H.L.Press、Pub.(1999);Current Protocols in Molecular Biology、eds.Ausubelら、John Wiley&Sons(1992)を参照。
【0084】
(実施例1)
scFv分子用のmRNAディスプレイプロトコール
【0085】
mRNAディスプレイは、図2に示されている方法に従って行うことができる。この方法の特定の実施形態はより詳細に後述される。これら実施形態は、本発明の方法を説明することを目的としており、限定するものであると理解するべきでない。
【0086】
1.抗体ライブラリーテンプレートの設計
ライブラリーDNAコンストラクトは、図3に示されている図式に従って設計される。二本鎖DNAコンストラクトは、次の機能エレメントを5’末端から3’末端方向へと一般に含む。T7プロモーターは、インビトロのRNA転写に有用となり得る。TMV−UTR(タバコモザイクウイルス非翻訳領域)は、インビトロのタンパク質翻訳に有用となり得る。場合によるタグは、所定のライブラリーに属するコンストラクトの同定に有用となり得る、各ライブラリーに特有の8塩基対配列を含む。コザック共通配列は、タンパク質翻訳開始を促進する。対象抗体ライブラリーは、scFv、VHまたはVLをコードした配列を含むことができる。好ましい一実施形態において、抗体ライブラリーはscFvをコードする。一実施形態において、あらゆる抗体ライブラリーの3’末端の非可変領域である部分的抗体定常部配列も含まれる。一部の実施形態において、コンストラクトは、アフィニティー精製に有用なFLAGタグを追加的に含む。他の実施形態において、コンストラクトは、ソラレンおよびピューロマイシン修飾DNAオリゴヌクレオチドリンカーがプロトコールの次のステップにおいてコンストラクトと架橋することのできるアニーリング部位からなる、リンカーアニーリング配列を含む。一実施形態において、5’終止コドンを備えるポリアデニル化配列は、mRNAの安定性およびオリゴdTセルロースバッチ精製による精製に有用となり得る。
【0087】
2.標的抗原の調製
一般に、mRNAディスプレイ抗体ライブラリーは、ビオチン化抗原に対して選別することができる。各標的に対する最良の抗原は、ケースバイケースの原則に従って決定するべきであるが、次の記載は一般的ガイドラインとして用いることができる。標的抗原は、通常十分に特徴付けられ、多型(SNPおよびハプロタイプ)および/または薬理遺伝学的解析によって決定されるような、関連または優性遺伝アイソタイプである。標的抗原はさらに適切な生物活性(天然の抗原と同等の)、十分な溶解度ならびに化学的および物理的特性を有することができ、ライブラリー選別すなわちスクリーニングおよび下流のバイオアッセイに十分な量を調製することができる。ライブラリー選別に有用な例示的な標的抗原量を下の表1に記す。
【0088】
【表1】

【0089】
3.ライブラリーDNAの調製
ライブラリーDNAおよびその選別アウトプットは、PCRによって増幅できる。ライブラリー増幅の例示的なプライマーを表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
PCR増幅は、本技術分野で公知の方法を用いて行うことができる。PCR反応液は通常、DNAテンプレート、反応バッファー、dNTP、増幅用プライマー、DNAポリメラーゼおよび水を含む。複数の反応チューブをマスターミックスから一度に調製し、増幅DNA収量を増加する。25サイクルのPCRによって通常十分な増幅がもたらされるが、より多くの産物を得るために35サイクルもの回数を用いてもよい。
【0092】
4.ライブラリーDNAの精製
上述のPCRから得られた産物が正確なサイズ(scFvはほぼ850bp、VHまたはVLライブラリーはほぼ500bp)であり、最小限の非特異的産物が含まれている場合、産物は転写反応に直接用いることができる。あるいは、産物はゲル精製してもよい。PCR産物をゲル精製する場合、産物を調製用アガロースゲルで分離して、PCR産物を含む特異的バンドを切り出すことができる。続いてDNAは、本技術分野で公知の標準的方法を用いたゲル抽出によってバンドから精製することができ、その濃度は分光計で測定することができる。
【0093】
5.RNAの転写
ライブラリーDNAからRNAの転写は、本技術分野で公知の標準的な方法を用いて行うことができる。大量の反応容量を用いて、全ライブラリー多様性を標本抽出するのに十分なDNAテンプレートを転写することができる。例示的な一実施形態において、1×1013コピーのライブラリーテンプレートをRNA転写反応に用いることができる。RNA転写反応液は、通常5−10μgのPCR産物、反応バッファー、プラスATP、CTP、GTP、UTPおよびT7RNAポリメラーゼを含む。RNA転写反応は37℃で2時間から一晩の間行うことができる。選別の最初のラウンドの後、より短い時間を用いてもよい。RNA転写の後、DNAテンプレートはDNaseIを用いて反応混合液から除去できる。
【0094】
6.NAPカラムクロマトグラフィーによるRNA精製
RNA転写後、RNAはNAP−10カラム(GE Healthcare、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を用いて分画することができる。最大1mLの転写反応液が、RNA精製のためNAP−10カラムに装填できる。カラムは、分画前にジエチルピロカーボネート(DEPC)処理dHOを用いて平衡化することができる。全溶出容量は、転写反応液の容量の150%未満となるべきである。さらに、またはあるいは、RNAはNAP−25カラム(GE Healthcare、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を用いて分画できる。
【0095】
7.RNAの品質管理と定量
RNAサンプルのサイズおよび収量は、ゲル電気泳動を用いてモニターできる。RNA収量は、通常、ほぼ20nmol/mLの転写反応液の最高値に達する。
【0096】
8.リンカーへのRNAライゲーション
ペプチドアクセプター分子をその3’末端に備えるDNAリンカーは、各RNA分子の3’末端と共有結合的ライゲーションを行う。リボソームA部位に入り込んで未完成ポリペプチド鎖のカルボキシル末端に共有結合できるペプチドアクセプターは、mRNA(遺伝子型)の、該mRNAによってコードされたタンパク質(表現型)との共有結合的関連を最終的に可能にできる。例示的なPEG6/10リンカーは、次式を有することができる。
5’(ソラレンC6)2’OMe(UAGCGGAUGC)XXXXXXCC(ピューロマイシン)3’
【0097】
ソラレンC6の5’修飾は光感受性であり、UV架橋によってリンカーとmRNAとの間の共有結合を形成するよう機能する。2’OMe(UAGCGGAUGC)骨格領域は、mRNAにおけるFLAG配列に対して3’のリンカーアニーリング部位とアニーリングする(図1参照)。上述の配列において、Xは「スペーサー9」、あるいはトリエチレングリコールまたはPEG−150として知られている物質を示す。このスペーサーは、ピューロマイシンの真核生物リボソームA部位への挿入に対する柔軟性を提供するよう最適化されている。CCは標準的なDNA骨格を含む。ピューロマイシンの3’修飾は、リボソームA部位に挿入してリンカーと未完成ポリペプチドとの間に安定的な結合を形成する。本明細書に記載されているリンカーの減衰係数は、約147.7OD260/μモルである。このリンカーは光感受性であるため、このリンカーを含む溶液は、光から保護しなくてはならない。
【0098】
ライブラリーの全多様性を標本抽出するため、ライブラリー選別の最初のラウンドのためにラージスケールのライゲーション反応(3.1×1015転写RNA分子)が推奨される。このRNA量は、十分なテンプレートが翻訳反応に入れられて、ほぼ10pmolの機能的mRNAディスプレイ分子が産生されることを保証するために設定し得る。後期ラウンドでは、RNAインプットは選別当たり0.5nmolへと減少できる。例示的な一実施形態において、RNAライゲーション反応液は、次の成分、すなわちRNA、水、化学ライゲーションバッファーおよびPEG6/ピューロマイシンリンカー(1mM)を含むことができる。例示的な一実施形態において、全反応容量は100μLである。好ましい一実施形態において、リンカー/RNA分子比は、1.5より大きくなることができる。一実施形態において、反応液における最終リンカー濃度は約15μMであってよく、反応液におけるRNA濃度は約3−10μM(=0.3−1nmolのRNAインプット)の範囲に及ぶ。参考までに、1mg/mLの850ntのscFv RNA=3.56μMであり、達成可能な最大ライゲーション濃度は、3.16μM(=0.32nmol)である。
【0099】
アニーリング反応(リンカーと転写されたRNAとのアニールにおける)は、サーマルサイクラーにおいて行うことができる。好ましい一実施形態において、アニーリング反応は、サンプルを約85℃で30秒間、続いて1秒当たり約0.3℃のランプ速度を用いて約4℃で温置することによって行うことができる。次に、反応液は4℃で維持することができる。
【0100】
アニーリングしたリンカー/RNAのライゲーションは、UV架橋によって行うことができる。この操作は当業者に知られた任意の方法を用いて行うことができる。一実施形態において、反応チューブは手持ち式UVランプ(長波長、約365nm)の中央の上に置き、約15分間架橋することができる。フリーザーパックはランプの上に置き、紫外線照射中に発生した熱が消散するのに有用とすることができる。通常のライゲーション効率は約50−90%であり、普通は精製は必要とされない。ライゲーション産物は−80℃で保存することができる。
【0101】
9.翻訳反応
例示的な一実施形態において、全反応および精製の後、ほぼ約0.1%のインプットRNAをmRNAディスプレイ分子へと作製することができる。インビトロ翻訳は、当業者に知られた方法と試薬を用いて行われ得る。一実施形態において、scFvライブラリーを用いた翻訳反応は、約15mLの反応容量における約5nmolのRNAテンプレートと約10mLの網状赤血球ライセートを用いることができる。
【0102】
翻訳反応液の調製において、GSSG/GSH(酸化型グルタチオン/還元型グルタチオン)溶液は、最終濃度約100mM GSSG/10mM GSHに調製できる。PDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)は、PDI粉末をdHOに溶解して約1ユニット/μL濃度になるよう調製されてもよい。PDI溶液は−20℃で保存できる。
【0103】
例示的な翻訳反応液は、次の通り設定することができる:
【0104】
【表3】

【0105】
翻訳反応液は、30℃のウォーターバスで1−2時間温置する。翻訳容量が1.5mLを超えた場合、RNA/タンパク質融合体収量の顕著な減少が観察できた。従って、小さなアリコートに分注する前に、反応容量が1.5mLより多い場合、翻訳反応液のマスターミックスを調製してよい。
【0106】
10.RNA/タンパク質融合体形成
翻訳反応後、300μLの翻訳反応混合液につき約100μLの2M KClおよび約20μLの1M MgClを添加し、1時間室温で温置することができる。この操作は、mRNAテンプレート末端における休止リボソームを安定化し、DNAリンカー末端のピューロマイシンを休止リボソームのA部位に挿入し、これにより翻訳されたscFvタンパク質とそのmRNAテンプレートとを永続的に接続する。反応液が−20℃で一晩保存される場合、室温の温置は短縮できる。反応は、50μLの0.5M EDTAを加えてリボソームを停止することによって終了できる。反応液は−20℃で保存できる。5μLアリコートを後のシンチレーション計数のため取り分けることができる。
【0107】
11.オリゴdTセルロースによるRNA/タンパク質融合体の精製
このステップは、mRNAディスプレイ分子および残存RNAテンプレートを翻訳/融合反応液から精製する。オリゴdT結合のため、全RNAテンプレートを捕集するのに必要な、前洗浄したオリゴdTセルロース量を概算することができる。十分量のオリゴdT結合バッファーは、約1×最終濃度となるよう融合反応液に加えることができる。次に、前洗浄したオリゴdTセルロースが加えられ、反応液は1時間、4℃で行うことができる。反応液は、場合によって約1500rpm、5分間、4℃でスピンダウンすることができ、上清は廃棄される。オリゴdTセルロースビーズを移し、スピンカラムを用いて1×オリゴdT結合バッファーで約6回洗浄することができ、バッファーは通常、カラムを約1000rpm、10秒間スピンすることによって除去され得る。貫流液は廃棄してよいが、最後の洗浄液はシンチレーション計数のため取っておくことができる。mRNAディスプレイ分子(および遊離RNAテンプレート)は、ビーズにdHOを加えて5分間室温で温置することによって溶出できる。溶出液は、約4000rpmで20秒間スピンすることによって収集することができる。溶出は通常1回繰り返し、溶出液を合わせることができる。5μLの溶出液をシンチレーション計数のため取り分けることができる。オリゴdT精製効率は、NanoDrop分光装置(NanoDrop Technologies、ウィルミントン、デラウェア州)の260nmのOD(OD260)によって評価することもできる。理論的に、全残存RNAテンプレートおよびmRNAディスプレイ分子がオリゴdTビーズによって回収される。5×FLAG結合バッファーが、約1×最終濃度になるよう溶出液に加えられ得る。サンプルは、次のFLAG精製ステップに進まない場合、−80℃で保存することができる。
【0108】
オリゴdT回収は、次の通りに計算される。約5μLのインプット(融合反応液由来)、最後の洗浄液由来の100μLおよび5μLのアウトプット(オリゴdT精製由来の溶出液)が計数される。最後の洗浄液は、洗浄の程度を評価するために用いられ、他の2種の計数は、元来のRNAテンプレートインプットからRNA/タンパク質融合体回収を計算するために用いられる。RNA/タンパク質融合体収量(pmol)=(CPMアウトプット×容量アウトプット×5μM×容量ライセート)/[CPMインプット×容量インプット×(産物におけるメチオニンの#)]。この式は網状赤血球ライセートにおける5μMのメチオニン濃度を推測し、計算に用いられているあらゆる容量はμLで表されている。選別の初期のラウンドのmRNAディスプレイ分子収量は、通常0.5−2%であるが、後期ラウンドでは10%に増加する。
【0109】
12.抗FLAG M2アガロースによるRNA/タンパク質融合体精製
このステップは、残存RNAテンプレートからmRNAディスプレイ分子を精製する。全mRNAディスプレイ分子の捕集に必要とされる、前洗浄された抗FLAG M2アガロースビーズの量を概算することができる。一実施形態において、ビーズの結合能力は、50%スラリー1mL当たり約6nmol融合タンパク質である。結合と洗浄における操作に十分なビーズ容量を有するために、200μL未満の前洗浄されたビーズを用いることは推奨されない。後述の例は、最初の翻訳反応液300μLに対するものである。
【0110】
FLAG精製では、大口径ピペットチップを用いて300μLの前洗浄した抗FLAG M2アガロースをオリゴdT精製されたアウトプットに移すことができる。混合物は、回転によって1時間4℃で混合および温置することができる。抗FLAG M2アガロースとの温置は一晩続けてよい。抗FLAG M2アガロースは、場合によって遠心分離機で約1500rpm、1分間4℃でスピンして、上清を捨てることができる。抗FLAGビーズは、スピンカラムを用いて1×FLAG結合バッファーで約5回洗浄し、各洗浄につき約1000rpmで10秒間遠心分離することができる。貫流液は廃棄することができる。ビーズは約1000rpmで10秒間遠心分離することによって、700μLの選別バッファー(後述を参照)で追加的に2回洗浄することができる。最後の洗浄は、シンチレーション計数のため取っておくことができる。mRNAディスプレイ分子は、約400μLの100μg/mL FLAGペプチド(選別バッファーに溶解)を添加して5分間室温で温置することによって溶出できる。溶出液は、約3000rpmで20秒間スピンすることによって収集することができ、約400μLの100μg/mL FLAGペプチドを加えることによって、もう1回溶出することができる。両方の溶出液は合わされて、5μLの合わされた溶出液をシンチレーション計数のために取り分けることができる。この容量のFLAGペプチドは、最大約1mLの50%スラリーからの溶出に通常十分であり、より少量のスラリーが用いられていたおよび/またはより高いRNA/タンパク質融合体濃度が望ましい場合、半量(200μL)に縮小することができる。保存や抗原選別におけるRNA分解を防ぐため、適量の本技術分野で公知のRNaseインヒビター(すなわち、1−2U/μL RNaseOUTおよび0.02μg/mL酵母tRNA)が、精製されたmRNAディスプレイライブラリーに添加されてよい。次の抗原選別ステップに進まない場合、サンプルを−80℃で保存する。
【0111】
FLAG回収を定量するため、約5μLの溶出アウトプットおよび最後の洗浄由来の約100μLをベータカウンターで計数することができる。10−30%以上の回収を予想でき、次式に従って計算することができる。
PROfusion分子回収%=(CPMアウトプット×容量アウトプット)/(CPMインプット×容量インプット
【0112】
13.ビオチン化抗原によるライブラリー選別
選別は、目的の標的に特異的に結合する分子を濃縮するように設計される。ネガティブ選別(プレクリア)は、非特異的およびマトリックスバインダーを除去するのに必要となり得る。標的フォーマットに依存して選別プロトコールは異なる。次に、ビオチン化標的を用いた使用のための例示的な選別プロトコールを記載する。このプロトコールは、他のフォーマットの標的抗原に適合するよう修正することができ、所望のアウトプットに応じてスケールアップまたはスケールダウンすることができる。
【0113】
A.選別前の調製
ストレプトアビジン(SA)磁気ビーズは、捕集のため用いることができ、通常使用前にプレブロッキングすることができる。SAビーズは、原瓶から1.5または2mLチューブに移して2mLの1×FLAG結合バッファーで2回洗浄することができる。次にビーズは2mLの選別バッファーで2時間から一晩、4℃で回転しながらブロッキングすることができる。プレクリアと選別捕集の両方に十分なビーズを調製するべきである。プレブロッキングされたビーズは4℃で保存する。10pmolのビオチン化抗原につき約100μLのビーズが通常用いられる。
【0114】
1.5mLまたは2mL微量遠心チューブは、1×FLAG結合バッファーで約1時間から一晩、プレブロッキングする。プレブロッキングされたチューブは、全プレクリアおよび選別ステップに用いることができる。通常、各サンプルにつき4本のチューブが必要とされる。2本はプレクリア用、1本はビーズ用、そして1本は選別用である。
【0115】
最適な結果は、ライブラリーをプレクリアすることによって得ることができる。FLAG精製したmRNAディスプレイライブラリーは、SAビーズ(バッファーから分離)に加えることができる。SAビーズの容量は、捕集容量の半量に相当し得る。プレクリアしたmRNAディスプレイライブラリーを磁石を用いてSAビーズから分離する前に、全混合物は、30℃で約30分間回転しながら温置することができる。このプレクリアステップはもう1回繰り返し、第二のプレクリアSAビーズは、上述の通りに洗浄、計数して、バックグラウンドが高いか判断することができる。これは、「抗原無し」ネガティブコントロールとすることもできる。
【0116】
B.ライブラリー選別:結合
選別の第一ラウンドのため、ビオチン化標的(100nM)をプレクリアしたライブラリー全体に添加して、30℃で1時間回転しながら温置することができる。後期選別ラウンドのため、抗原結合分子の回収が1%を超えることが予想される場合、プレクリアしたライブラリーは、2個の等量アリコートに分注することができる。ビオチン化抗原は一方のアリコートに加えることができ、他方のアリコートは「抗原無し」ネガティブコントロールとなることができる。あるいは、上述の通り、洗浄した第二のプレクリアビーズは、より「プレクリア」手順でないことになるが、「抗原無し」コントロールであると考えることができる。後期ラウンドにおける抗原濃度は、抗原結合分子の回収が5%を超える場合減少させることができる。
【0117】
C.ライブラリー選別:捕集
プレブロッキングされたSAビーズ(バッファーから分離)は、結合反応液に添加して、30℃で5−10分間回転しながら温置することができる。捕集用SAビーズ量は、結合能力および選別に用いられている標的の濃度(上述を参照)に基づいて計算するべきである。SAビーズ量は、SAビーズバインダーを抑制するため標的濃度を下げる場合少なくするべきであるが、通常50μL以上のビーズが用いられる。
【0118】
D.ライブラリー選別:洗浄
磁石を用いてSAビーズを捕集し、1mLの選別バッファーで1分間洗浄することができる。磁石を用いてビーズを再度捕集し、約5回洗浄する(合計約6回)。洗浄回数を後期ラウンドで増やして、オフレート選別戦略を一部の標的に取り込むことができる。ビーズは、最後の1回は1mLの逆転写に適切な1×バッファーで洗浄することができる。ビーズを磁石で捕集し、水(上で計算された捕集ビーズ容量の4分の1)に再懸濁する。
【0119】
E.ライブラリー選別:計数および回収計算
ラウンド3から始めて、最後の洗浄液およびビーズの約10−20%を計数する。より多くのビーズが計数を抑えることができるため、100μL未満のビーズのみを通常計数する。ライブラリー選別回収は次式に従って計算する。
選別回収%=100×CPM全ビーズ/CPM全インプット
【0120】
14.RT−PCRによるライブラリーDNAの再増幅
逆転写は、ライブラリーから捕集した材料を用いて行うことができる。本技術分野で公知の試薬およびプロトコールが、逆転写反応の実施に適切である。選別後のビーズ容量に応じて、反応液の容量はスケールアップまたはダウンすることができる。
【0121】
逆転写に有用な例示的なプライマーを表3に示すが、本技術分野で公知の方法を用いて追加的なプライマーを設計することができる。Cκリバースプライマーはκライブラリーに用いられ、CJLリバースプライマーはλライブラリーに用いられ、Lib−GS−RevはヒトPBMC VHライブラリーに用いられる。
【0122】
【表4】

【0123】
例示的な逆転写反応液は、ライブラリー選別由来のビーズ(水に懸濁)、約10μMのリバースプライマーおよび約10mMのdNTPを含むことができる。反応液を65℃で5分間温置し、氷上で冷却する。次に、通常First Strand合成バッファー、0.1M DTTおよびRNaseインヒビターを反応液に添加する。逆転写酵素の添加前に、逆転写反応液を42℃で2分間温置する。次に反応液は、時々攪拌しつつ42℃で50分間温置し、95℃で5分間さらに温置する。続いてビーズを磁石によって収集し、上清を新しいチューブに移し、同一の選別アウトプット由来であればプールしてもよい。ビーズを水(RT容量の半量)に再懸濁し、チューブにおいて95℃で5分間温置する。磁石を用いてビーズを再度収集し、上清を、前に移しておいた上清と共にプールする。これは選別アウトプットのPCR増幅のためのcDNAテンプレートを含む。
【0124】
スペクトラタイプPCRは、ライブラリーまたはその選別アウトプットにおけるVH CDR3サイズ分布を解析するために用いることができる。これは、ライブラリーの多様性および選別の進行を評価するのに有用なツールである。最初の数ラウンドのライブラリー選別アウトプットおよび選別前のライブラリーは、高度に多様でなければならず、CDR3サイズ分布はガウス分布に近似する。例示的なスペクトラタイプPCRプライマーを表4に示す。
【0125】
【表5】

【0126】
例示的なスペクトラタイプPCR反応液を下の表5に示すが、反応液成分は本技術分野で公知の類似試薬で代用することができ、反応容量は選別反応のスケールと適合するよう調整することができる。
【0127】
表5:例示的なスペクトラタイプPCR反応液
cDNAテンプレート 2.0μL
dHO 18.1μL
5×耐熱性DNAポリメラーゼ反応バッファー 6.0μL
25mM MgCl 1.8μL
10mM dNTP 0.6μL
5’フォワードプライマー(10μM) 0.6μL
3’リバースプライマー(10μM) 0.6μL
耐熱性DNAポリメラーゼ 0.3μL
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
全容量 30.0μL
【0128】
本技術分野で公知の耐熱性DNAポリメラーゼがこの反応に適している。例示的な一実施形態において、最終Mg2+濃度は1.5mMである。例示的なサーマルサイクルプログラムとして、反応液を94℃で2分間温置し、続いて30回のサーマルサイクルに付してDNAを伸長させる。反応液は、各サイクルにおいて94℃で20秒間、55℃で20秒間、次に72℃で30秒間温置する。30サイクルの後、反応液を72℃で5分間さらに温置し、続いて4℃で保存する。PCR後、10μLのPCR産物を2%アガロースゲルにアプライし、反応が成功したことを確認する。反応液および残りの産物をスペクトラタイプ電気泳動によって解析する。
【0129】
増幅DNA産物は次の構成を有する。
5’−FR3(27bp)−VH CDR3−FR4(35bp)−3’
【0130】
VH CDR3サイズは、見かけ上のDNA産物サイズから推測することができる。これは、Rox染色サイズマーカーにより次の計算を用いて決定することができる。
サイズVH CDR3=(サイズ見かけ上のDNA産物サイズ−60)/3
式中、60=(62両末端のフレームワーク−13’突出+3DNAマーカー過小評価
【0131】
15.ライブラリーDNAテンプレート増幅のためのPCR
第一および第二ラウンドの選別アウトプットのため、cDNA(RT反応由来の上清)は8kDaカットオフを用いて水に対して透析することができ、cDNA全量をPCRテンプレートとして用いることができる。後期ラウンドの選別アウトプットのため、cDNAの10%をPCRテンプレートとして用い、通常透析は必要とされない。例示的な増幅プライマーを表6に示す。
【0132】
【表6】


【0133】
ライブラリーDNAテンプレート増幅のための例示的なPCR反応液を下の表7に示す。
【0134】
表7:ライブラリーcDNAテンプレート増幅のための例示的なPCR反応液
cDNAテンプレート X μL
dHO 90μLとする
10×High Fidelity Taq DNAポリメラーゼバッファー
100 μL
MgSO(50mM) 40 μL
10mMdNTP 20 μL
5’フォワードプライマー(10μM) 20 μL
3’リバースプライマー(10μM) 20 μL
High Fidelity Taq DNAポリメラーゼ 10 μL
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
全容量 1000 μL
【0135】
例示的な一実施形態において、ラウンド1および2のアウトプットには1mLのPCR反応液が用いられ、後期ラウンド由来のアウトプットには0.5mLの反応液が用いられる。100μL反応液のアリコートはマスターミックスから作製するべきである。ライブラリーDNAテンプレートの増幅のための例示的なサーマルサイクル条件を下の表8に示す。
【0136】
表8:ライブラリーDNAテンプレート増幅のためのサーマルサイクル条件
94℃ 2分間
94℃ 20秒間
55℃ 20秒間 25サイクル
68℃ 1分間
68℃ 5分間
4℃ 永続的に維持する
注記:通常、25サイクルで十分な増幅が得られるが、35サイクルもの回数に増やしてより多くの産物を得ることもできる。追加的な増幅サイクルによってさまざまなサイズの非特異的産物がより顕著となる可能性が有り、産物はゲル精製が必要となり得る。可能であれば、増幅サイクル数よりもDNAテンプレートインプットを増やす方が有用となり得る。
【0137】
PCR後、5−10μLの産物を適切なDNAサイズマーカーと共に1.2%アガロースゲルにアプライし、結果を確認する。産物が正確なサイズ(scFvはほぼ850bp、VHまたはVLライブラリーはほぼ500bp)であり、最小限の非特異的産物を有する場合、産物は次のラウンドの転写反応に直接用いることができる。産物はゲル精製を必要とし得る。ゲル精製がPCR産物に対して行われる場合、残りの全産物を調製的アガロースゲルで分離して、産物を含む特異的バンドをゲル抽出のために切り出すことができる。DNAにおける残存EtBrはUV吸光度に干渉する傾向があるため、ゲル精製したDNAは定量を誤らせる可能性がある。ゲル抽出におけるより広範な洗浄ステップはこの干渉を低減するのに有用となり得る。UV走査トレースは純粋なDNAサンプルと残存EtBrを有するDNAとの間で非常に異なるため、可能であればDNA濃度は分光計で測定するべきである。続いてこのプロトコールは繰り返され、複数ラウンドの選別を行う。
【0138】
16.例示的な試薬およびバッファーの組成
10×化学ライゲーションバッファー
Tris、pH7 250mM
NaCl 1M
【0139】
【表7】

【0140】
選別バッファー
リン酸塩ベースバッファー
PBS 1×
BSA 1mg/mL
サケ精子DNA 0.1mg/mL
TritonX−100 0.025%
酵母tRNA(場合による、使用前に添加) 20ng/mL
【0141】
代替的なHEPESベースバッファー
HEPES 50mM
NaCl 150mM
BSA 1mg/mL
サケ精子DNA 0.1mg/mL
TritonX−100 0.025%
酵母tRNA(場合による、使用前に添加) 20ng/mL
【0142】
First Strandバッファー
Tris−HCl、pH8.3 250mM
KCl 375mM
MgCl 15mM
【0143】
50×FLAGストック溶液
FLAGペプチド 25mg
選別バッファー 5mL
1mLのアリコートを作製し、−20℃で保存する。
【0144】
FLAG溶出溶液
50×FLAGストック溶液 1mL
選別バッファー 49mL
1mLのアリコートを作製し、−20℃で保存する。
【0145】
オリゴdTセルロースの調製
2.5gのオリゴdTセルロースを50mLチューブに移して、25mLの0.1N NaOHと混合することができる。混合液は1500rpmで3分間スピンダウンして、上清を捨てることができる。次にオリゴdTセルロースは25mLの1×オリゴdT結合バッファーで洗浄し、1500rpmで3分間スピンダウンすることができる。上清は捨ててよい。洗浄ステップはさらに3回繰り返すことができ、上清のpHを測定する。pHは洗浄バッファーと同じでなければならない(ほぼpH8.5)。オリゴdTセルロースは、1×オリゴdT結合バッファーを加えて最終容量25mLになるよう再懸濁して約50%スラリーを作製し、4℃で保存する。最終濃度=100mg/mL=1ナ
ノモルRNA結合能力
【0146】
抗FLAG M2アガロースの調製
25mLのM2アガロースビーズを50mLチューブに移して、Beckman遠心分離機(Beckman Coulter、フラートン、カリフォルニア州)において5分間1000rpmでスピンダウンすることができる。上清はアスピレーションによって除去してよい。その結果得られたビーズを等量の10mMグリシン(pH3.5)で再懸濁、洗浄し、5分間1000rpmでスピンダウンすることができる。上清を再度アスピレーションによって除去する。ビーズを1カラム容量の1×FLAG結合バッファーで再懸濁し、5分間1000rpmでスピンダウンする。上清はアスピレーションによって除去する。この洗浄ステップは3回繰り返すことができ、ビーズを1カラム容量の1×結合バッファー(1mg/mL BSAおよび100mg/mLサケ精子DNAを含む)に再懸濁することができる。混合液は1時間または一晩4℃で回転し、必要に応じて2mL画分のアリコートに分注し、4℃で維持する。
【0147】
(実施例2)
機能的mRNA−scFv分子の証明
【0148】
4種の抗体を用いて、機能的mRNA−scFv分子が提示され、それらそれぞれの抗原と結合できることを証明した。D2E7(ヒト抗hTNF)、Y61(ヒト抗hIL−12)、17/9(マウス抗−HA)およびMAK195(マウス抗hTNF)。次の表9のプライマーを用いたPCRによって、MAK−195scFvを作製する。
【0149】
【表8】

【0150】
NCBIデータベースからダウンロードしたタンパク質配列A31790およびB31790に基づく次のプライマー(下の表10を参照)を用いたPCRによって、抗HA17/9scFv(Schulze−Gahmenら(1993)J.Mol.Biol.234(4):1098−118を参照)を作製する。
【0151】
【表9】



【0152】
これらscFvのDNAコンストラクトは、インビトロで転写され、次にウサギ網状赤血球ライセートにおいてmRNA−scFv(タンパク質はピューロマイシン修飾を有するリンカーを介してmRNAに結合している)として、または遊離scFv(タンパク質はmRNAに結合していない)として翻訳される。両方のタイプの分子を精製し、対応するビオチン化抗原によるプルダウンアッセイに付す(図4を参照)。
【0153】
図4のデータは、機能的mRNA−scFv(ビオチン化抗原と結合)分子は、遊離scFv分子よりも低い回収率であったがストレプトアビジン−磁気ビーズによってプルダウンすることを示す。さらに別の実験によって、この差が単にscFvに繋がった大きなRNA分子によるものであることが示される。mRNA−scFv分子におけるRNA部分をRNaseによって分解することにより、scFvの抗原による回収を遊離scFv分子の回収と同一のレベルにまで回復させた(図5を参照)。
【0154】
(実施例3)
mRNA−scFvライブラリーの構築
【0155】
18人のドナー由来のヒト末梢血単核細胞(PBMC)をSeraCareから入手する。下の表11は、蛍光標識細胞分取(FACS)法によるPBMC分析を示す。次にライブラリー構築のため、ポリA RNAを抽出する。
【0156】
【表10】

【0157】
(実施例4)
ライブラリータグ選別
4種類の8塩基対タグ(配列番号39−42)を選択し、17/9mRNA−scFvコンストラクトのTMV−UTRとコザック共通配列との間に挿入する(図6を参照)。タグ配列はアデノシンを含まないよう設計し、3ラウンドの選別後に同定する。図6から分かるように、第一の位置にはGが好ましく、第二の位置にはTが好ましい。ランダム配列タグは、5’UTRのTMVとコザック共通配列との間に8個のランダム(B=G、C、T)ヌクレオチド挿入を備える5’プライマーを設計することによって作製される(図7を参照)。次に17/9scFvを増幅して2−3ラウンドの選別によって選別し、その次のラウンドでは5’プライマーで再増幅する。続いて配列アウトプットは、選別プロセスを経たタグを同定するよう処理される。各ラウンド由来の異なるアウトプットタグを図8に示す。一部の反復配列が各ラウンド内に観察されるが、複数ラウンドではタグ配列は観察されない。ATG配列はタグ配列に利用可能でないため、ラウンド2において1個の可能な突然変異がタグに存在することに留意するべきである。
【0158】
(実施例5)
17/9scFvのライブラリー選別
【0159】
本明細書に記載されているmRNAディスプレイ法を用いた数ラウンドの選別によってmRNA−scFv分子を濃縮できることを証明するため、重複PCR法によって25の多様性を有するscFvライブラリーを構築する。scFvライブラリーを作製するため、17/9、D2E7、2SD4、Y61およびMAK195のVHおよびVL断片を、上述の通りに用いる。次にこのライブラリーからビオチン化HAタグによって17/9scFvを選別する。選別後、クローニングおよびコロニーPCRによって17/9の濃縮を検査する。1ラウンドのmRNA−scFv選別の前と後で17/9scFvを定量した結果を、図9に示す。
【0160】
(実施例6)
mRNAディスプレイ技術は、異なる親和性を有するscFvバインダーを識別するために用いる
【0161】
mRNAディスプレイ技術、すなわち上述の技術が、異なる親和性を有するscFvバインダーを識別するために用いるか決定するため、D2E7と2SD4のキメラを作製する。2SD4は、TNFαに対して低い親和性(遊離タンパク質としてKDほぼ200nM)を示す、D2E7scFvの前駆体である。図10はキメラを示す。
【0162】
遊離タンパク質に対して滴定を行う。図11は、異なるキメラの間の抗原結合後の回収率と共に、抗原選別後の正規化回収率を示す。上述の結果から、本明細書に記載されているmRNAディスプレイ技術は、異なる親和性を有するバインダーを識別するために用いることができることが示される。
【0163】
(実施例7)
mRNA−scFv分子の耐熱性
【0164】
mRNA−scFv分子の耐熱性を決定するため、本明細書に記載されているようにD2E7−scCkおよびY61−scCkを翻訳して、mRNA−scFvフォーマットに精製する。次に、mRNA−scFv分子を抗原選別前にさまざまな温度で30分間温置する。抗原選別後の正規化回収率を図12に示す。
【0165】
図13は、mRNA−scFv分子の高温処理後にRNAを回収できることを示す。そこで、回収されたY61−scClのmRNA−scFv分子を有するビーズにおいてRT−PCRを行う。
【0166】
(実施例8)
ヒトPBMC RNAから未処理κ PROfusion scFvライブラリーの構築
【0167】
次の例は、PROfusion技術を用いた選別に適したヒト未処理κ scFvライブラリーの作製を説明する。
【0168】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、SeraCare(ミルフォード、マサチューセッツ州、cat.#72000)から購入する。異なるドナー由来の細胞は、抗ヒトCD20−FITC(BD Pharmingen、サンディエゴ、カリフォルニア州、cat.#556632)および抗ヒトCD27−PE(BD Pharmingen、cat.#555441)抗体による染色によって特徴付けられる。全RNAは、RNeasy Midiキット(QIAGEN、バレンシア、カリフォルニア州、cat.#75144)を用いて、メーカーのプロトコールに従ってPBMCから単離する。すなわち、凍結した細胞を37℃で素早く解凍し、グアニジンイソチオシアネートを含むバッファーに再懸濁し、21G注射針に複数回通すことによってホモジナイズする。エタノールを添加し、ライセートをRNeasy midiカラム(合計18カラム)にアプライする。カラムを洗浄し、全RNAをRNaseフリー水で溶出する。RNA濃度および収量は、OD260nm吸光度を測定することによって決定する。次に、Invitrogen Fastrack MAG Maxi mRNA単離キット(cat#K1580−02)を用いて、キットのマニュアルに従って全RNAからmRNAを単離する。この手順においてRNaseインヒビター(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州、cat#10777−019)を添加し、RNA分解を最小限に抑える。全RNAを先ずDNase(Invitrogen、cat#18−68−015)で処理し、ゲノムDNAの混入を最小限に抑える。すなわち、先ずオリゴdT−磁気ビーズを洗浄し、次に全RNAに加え、65℃で10分間温置し、続いて室温で30分間結合させる。ビーズを数回洗浄し、結合したmRNAをRNAseフリー水で溶出する。OD260nm吸光度を測定することによってmRNAを定量する。
【0169】
逆転写
次に、SuperScript II逆転写酵素(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州、cat.#18064−014)および15種類のプライマーの混合物(合計濃度100nM)(表12)を用いて、メーカーのプロトコールに従って37μgのmRNAから一本鎖cDNAを合成する。反応は、各0.9mlの2個のアリコートで行われる。RT反応液(全容量1.8ml)を36本のMicroSpin S−200HRカラム(Amersham Biosciences、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、cat.#27−5120−01)に通すことによって精製する(カラム当たり50μl)。カラム溶出液は、RNaseHで20分間37℃温置する。
【0170】
【表11】

【0171】
VH cDNA増幅
上述のRT反応液の3分の1は、VHリーダー配列(LS)特異的フォワードプライマーの混合物(合計濃度200nM)およびJH特異的リバースプライマーの混合物(合計濃度200nM)(表13)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、cat.#11304−102)による限定増幅に付す。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、10サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(60秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。次に、PCR産物をQIAquick PCR精製キット(QIAGEN、バレンシア、カリフォルニア州、cat.#28106)を用いて、メーカーのプロトコールに従って精製する。スモールスケールのパイロット実験により、少なくとも100倍のcDNA増幅を確認する。
【0172】
【表12】

【0173】
精製したPCR産物の1/100は、各VHファミリー特異的cDNA増幅のためのテンプレートとして用いる。増幅は、個々のVH LS特異的フォワードプライマー(200nM)およびJH特異的リバースプライマーの混合物(合計濃度200nM)(表13)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いたPCRにより行われる。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0174】
上述のPCR産物は、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN、バレンシア、カリフォルニア州)により、メーカーのプロトコールに従って精製する。続いて各PCR産物は、対応するVH特異的ネステッドフォワードプライマー(200nM)およびJH特異的リバースプライマーの混合物(合計濃度200nM)(表14)を含むPCR反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)により増幅する。各反応におけるフォワードプライマーは、続くライブラリー増幅における特異性を高めるために導入された8ヌクレオチド「タグ」(下線部)を有する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0175】
【表13】

【0176】
PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に付し、QIAquickゲル抽出キット(QIAGEN、バレンシア、カリフォルニア州、cat.#28704)によって精製する。これらPCR産物のアリコートは、Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)および200nMの次のユニバーサルプライマーを用いたPCR反応においてラージスケールでさらに増幅する。
T7TMVTag2(配列番号80):
TAATACGACTCACTATAGGGACAATTACTATTTACAATTACAGTGTTGCGAC
Library−GS−Reverse(配列番号16):CGCTACCTCCGCCGCCAGAC
【0177】
これらのプライマーは、PCR産物の5’末端にT7プロモーターおよびTMV−UTR配列を、PCR産物の3’末端に部分グリシン−セリン(G4S)−リンカーを付加する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、26サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0178】
PCR産物をQIAquick PCR精製キット(QIAGEN、バレンシア、カリフォルニア州)で精製し、260nmのUV吸光度で定量化し、これら産物のアリコートを1%アガロースゲル電気泳動で可視化して純度を確認する。VHファミリー特異的cDNA断片のアリコートをTOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてクローニングし、個々のクローンを配列決定により分析する。
【0179】
Vκ cDNA増幅
上述のRT反応から作製したcDNAの3分の1は、Vκリーダー配列(LS)特異的フォワードプライマーの混合物(合計濃度200nM)およびCκ特異的リバースプライマー(200nM)(表15)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)による限定増幅に付す。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、10サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(60秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。別のスモールスケール実験によって、このようなPCRによるcDNAの10−100倍増幅を確認する。
【0180】
PCR産物は、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN、バレンシア、カリフォルニア州)を用いて、メーカーのプロトコールに従って精製する。精製したPCR産物の1/500を、各Vκファミリー特異的cDNAの増幅のためのテンプレートとして用いる。増幅は、個々のVκ LS特異的フォワードプライマー(200nM)およびCκ特異的リバースプライマー(200nM)(表16)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いたPCRによって行われる。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0181】
【表14】

【0182】
【表15】

【0183】
PCR産物は、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)を用いて、メーカーのプロトコールに従って精製する。続いて各PCR産物を、対応するVκ特異的ネステッドフォワードプライマー(200nM)およびCκ特異的リバースプライマー(200nM)(表13)を含むPCR反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)により増幅する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0184】
PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に付し、QIAquickゲル抽出キット(QIAGEN、バレンシア、カリフォルニア州)により精製する。Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)および次のユニバーサルプライマー(200nM)を含むPCR反応液において、これらPCR産物のアリコートをラージスケールでさらに増幅する。
Library−GS−Forward(配列番号94):GTCTGGCGGCGGAGGTAGCG
FlagA20Rev(配列番号95):
TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTAAATAGCGGATGCCTTGTCGTCGTCGTCCTTGTAGTC
【0185】
これらプライマーは、PCR産物の5’末端に部分的G4S−リンカーを、その結果生じるPCR産物の3’末端にFLAGタグ、リンカーアニーリング部位およびポリAテールを付加する。
【0186】
PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、26サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(30秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。PCR産物をQIAquick PCR精製キット(QIAGEN、バレンシア、カリフォルニア州)で精製し、260nmのUV吸光度によって定量化し、これら産物のアリコートを1%アガロースゲル電気泳動により可視化して純度を確認する。得られたVκファミリー特異的cDNA断片の一部をTOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてクローニングし、個々のクローンを配列決定により分析する。
【0187】
VH−Vκ scFv構築
VHおよびVκ cDNA断片を各ファミリーにおける生殖系列の数に応じて混合する(表17および18)。
【0188】
【表16】

【0189】
【表17】

【0190】
合計10μgのVH cDNA断片(2×1013分子)および合計10μgのVκ cDNA断片(2×1013分子)は、重複PCRのテンプレートとして用いる。Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh FidelityならびにプライマーT7TMVTag2(200nM)およびFlagA20Rev(200nM)を用いて、30ml容量でPCRを行う。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、17サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(60秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。PCR産物のアリコートをTOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてクローニングし、個々のクローンを配列決定により分析する。
【0191】
スペクトラタイプ解析
それぞれVHのフレームワーク3領域およびJ領域とアニーリングする蛍光色素標識5’フォワードプライマー(6−FAM−PanVHFR3−Fwd、5’−GACACGGCCGTGTATTACTGT−3’、配列番号17)およびリバースプライマー(PanJH−Rev、5’−GCTGAGGAGACGGTGACC−3’、配列番号18)は、PCRによりVH領域のCDR3領域にわたって増幅するため用いる。200nM 6−FAM−PanVHFR3−Fwdプライマー、200nM PanJH−Revプライマー、200μM dNTP、1×GoTaqバッファーおよび1.5UのGoTaq(Promega、マディソン、ウィスコンシン州)を含む30μl反応容量で、50ngのscFvライブラリーDNAテンプレートを用いる。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、30サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および72℃(30秒間)、続いて5分間72℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。PCR後、10μlの産物を2%アガロースゲルにアプライして反応の成功を確認し、残りの産物をABIシーケンサー(Applied Biosystems、フォスターシティ、カリフォルニア州)を用いたスペクトラタイプ電気泳動に付す。ROX色素標識DNAマーカーにより決定した産物長から60bpフランキングフレームワーク配列を引くことによってCDR3長を計算する。
【0192】
結果
【0193】
ヒトPBMCの評価
20人のドナーから得られたPBMCサンプルのフローサイトメトリーによるB細胞(CD20)およびメモリーB細胞(CD27)のためのプレスクリーニングは、10人のドナー(PMBCにおける>9%B細胞、全B細胞における<35%メモリーB細胞)の選別をもたらし、ドナーの年齢、性別、民族分布をドナー利用可能性の最良の範囲に最適化できる(図14)。
【0194】
RNA精製
ライブラリー構築のための抗体cDNAレパートリーを得るため、1.9mgの全RNAを推定2.6×10個のB細胞を含む2.3×10個のヒトPBMCから得る。続いて全RNAからポリA mRNAを精製することによって、42.2μgのmRNAが得られる。
【0195】
VH cDNA断片の増幅
VHユニバーサルプライマー(T7TMVTag2、配列番号80およびlibrary−GS−Rev、配列番号16)により増幅されたほぼ500bpのVHファミリー特異的cDNA断片のアリコートを、アガロースゲル電気泳動によって可視化する(図15)。
【0196】
個々のVHクローンの配列解析を表19に示す。クローニングされたVH配列と公知のVH生殖系列配列との比較は、VHファミリー特異的プライマーによる高度に特異的な増幅を裏付ける。
【0197】
Vκ断片の増幅
ユニバーサルプライマー(Library−GS−Fwd、配列番号94およびFlagA20Rev、配列番号95)を用いて増幅したVκファミリー特異的cDNA断片のアリコートは、アガロースゲル電気泳動により可視化する(図16)。個々のVκクローンの配列解析を表20に示す。このデータは、Vκ生殖系列ファミリーのそれぞれに対するプライマーの特異性を裏付ける。
【0198】
【表18】

【0199】
VH−Vκ scFv構築
重複PCRを行ってVH−Vκ scFv cDNA断片を構築する。得られた産物の一部をアガロースゲル電気泳動により可視化する(図17)。作製したVH−Vκ scFv断片は、PROfusion mRNAディスプレイ技術による選別に必要なあらゆる要素を備える(図17)。個々のVH−Vκ scFvクローンの配列解析により、機能的介在G4Sリンカーとの大部分での正確なVH−Vκ組換えを確認する。構築したscFvライブラリーにおけるさまざまなVHおよびVκファミリーの分布は、以前の文献報告と一致する(図18、さらに、Tsuijiら(2006)Exp.Med.;V.203(2)、393−400頁およびAronsら(2006)British Journal of Haematology V.133、504−512頁も参照)。
【0200】
【表19】

【0201】
スペクトラタイプ解析
異なるVHファミリー間のCDR3サイズ分布のスペクトラタイプ解析は、scFvライブラリーへと組み立てる直前にVH cDNA断片において行われる(図19)。高度な多様性を有するcDNAライブラリーで予想されるように、観察されたCDR3サイズは、解析した全ファミリーで大きく異なる。異なるCDR3サイズの観察されたピーク高は、正規分布に一般的な釣鐘曲線を想定し、非常に大きな集団サイズを示唆する。これは特に、単一の生殖系列から、またはVH1−46、VH2、VH5およびVH6等、非常に小さいVHファミリーから得られた結果において明らかである。異なるVHファミリーにおけるCDR3サイズの僅かな差に留意しても興味深い。例えば、VH1およびVH2は、15−16残基のCDR3をより多く有する傾向があり、一方VH3は、13残基のCDR3をより多く有する傾向がある。全体的に考えると、個々のVHファミリーのスペクトラタイプ解析は、cDNAライブラリーにおける高度な多様性および非常に大きなVH配列を裏付ける。
【0202】
8種類のscFvライブラリーテンプレートをランダムに標本抽出し、前述の通りスペクトラタイプ解析に付す。全8サンプルから得られた結果は区別がつかず、各アリコートにおけるライブラリーテンプレートが再現可能な程類似していることを示唆する(図20)。ライブラリーVH CDR3サイズは正規分布し、大部分は6−24残基の間に収まり、中央は13−16残基の間である。この分布は予想されたように、個々のVHファミリーのスペクトラタイプ結果と一致する。
【0203】
結論
高品質ヒト抗体リードの選別は、治療用抗体医薬開発の成功のための必要条件である。確固とした選別技術に加え、抗体ライブラリーの品質(ソース、多様性および構築)は、良質のリード産生におけるその有用性を大きく左右する。ドナーコレクションにおける全多様性が得られるよう、多くのヒトドナーはより高度な多様性のためにプレスクリーニングされ、PCRプライマーはあらゆる抗体生殖系列配列をカバーできるよう非常に高い特異性を備えるよう設計される。構築された抗体scFvライブラリーは、2×10個より多いB細胞から得られた2×1012より大きい理論上の多様性を有するが、これは複数のクローンを配列決定し、スペクトラタイプ解析することにより実証されている。
【0204】
(実施例9)
ヒトPBMC RNA由来の未処理λPROfusion scFvライブラリーの構築
【0205】
全RNAおよびmRNA精製、mRNA逆転写ならびにPCRによるVH cDNA増幅は、実施例1に記載されている。
【0206】
Vλ cDNA増幅
上述のRT反応によって作製されたcDNAの3分の1は、Vλリーダー配列(LS)特異的フォワードプライマーの混合物(合計濃度200nM)およびCλ特異的リバースプライマー(200nM)(表21)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)による限定増幅に付す。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、10サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(60秒間)、続いて5分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。別のスモールスケール実験によって、このようなPCRによるcDNAの10−100倍増幅を確認する。
【0207】
【表20】

【0208】
PCR産物は、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)を用いて、メーカーのプロトコールに従って精製する。精製したPCR産物の1/250は、各Vλファミリー特異的cDNA増幅のためのテンプレートとして用いる。個々のVλ LS特異的フォワードプライマー(200nM)およびCλ特異的リバースプライマー(200nM)(表22)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いたPCRによって、増幅を行う。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、35サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(60秒間)、続いて5分間68℃伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0209】
【表21】

【0210】
PCR産物を2%アガロースゲルで泳動し、QuantumPrep FreezeNSqueezeカラム(Biorad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を用いて、メーカーのプロトコールに従って精製する。次に各PCR産物は、対応するVλ特異的ネステッドフォワードプライマー(200nM)およびCλ特異的リバースプライマー(200nM)(表13)を含むPCR反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)により増幅する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、35サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(60秒間)、続いて5分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0211】
PCR産物を2%アガロースゲルで泳動し、QuantumPrep FreezeNSqueezeカラム(Biorad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を用いて精製する。これらPCR産物のアリコートは、Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)および次のユニバーサルプライマー(200nM)を含むPCR反応液においてラージスケールでさらに増幅する。
Library−GS−Forward(配列番号94):GTCTGGCGGCGGAGGTAGCG
FlagA20Rev(配列番号95):
TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTAAATAGCGGATGCCTTGTCGTCGTCGTCCTTGTAGTC
【0212】
これらプライマーは、PCR産物の5’末端に部分G4S−リンカーを、その結果生じたPCR産物の3’末端にFLAGタグ、リンカーアニーリング部位およびポリAテールを付加する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、35サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(30秒間)、続いて5分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。PCR産物をPurelink PCR精製キット(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いて精製し、260nmのUV吸光度により定量化し、これら産物のアリコートを2%アガロースゲル電気泳動により可視化して純度を確認する。
【0213】
得られたVλファミリー特異的cDNA断片の一部をTOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてクローニングし、個々のクローンを配列決定により解析する。
【0214】
VH−Vλ scFv構築
各PCR産物により示された生殖系列の多様性に従い、VHおよびVλ cDNA断片を混合する(表23および24)。
【0215】
【表22】

【0216】
【表23】

【0217】
合計10μgのVH cDNA断片(2×1013分子)および10μgのVλ cDNA断片(2×1013分子)を重複PCRのテンプレートとして用いる。Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh FidelityならびにプライマーT7TMVTag2(200nM)およびFlagA20Rev(200nM)を用いて、30ml容量でPCRを行う。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、17サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(60秒間)、続いて5分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。TOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてPCR産物のアリコートをクローニングし、個々のクローンを配列決定により解析する。
【0218】
結果
【0219】
Vλ断片の増幅
ユニバーサルプライマー(Library−GS−FwdおよびFlagA20Rev)で増幅したVλファミリー特異的cDNA断片のアリコートをアガロースゲル電気泳動により可視化する(図21)。
【0220】
個々のVλクローンの配列解析を表25に示す。データは、1個のミスマッチを太字で強調表示してVλ生殖系列ファミリーのそれぞれに対するプライマー特異性を裏付ける(VL1 LS3、生殖系列V1−3)。
【0221】
【表24】

【0222】
VH−Vλ scFv構築
重複PCRを行ってVH−Vλ scFv cDNA断片を構築する。得られた産物の一部をアガロースゲル電気泳動により可視化する(図22)。作製したVH−Vλ scFv断片は、PROfusion mRNAディスプレイ技術による選別に必要なあらゆる要素を有する(図23)。
【0223】
個々のVH−Vλ scFvクローンの配列解析により、機能的介在G4Sリンカーとの大部分での正確なVH−Vλ組換えを確認する。
【0224】
(実施例10)
ヒトリンパ節mRNAから未処理κおよびλPROfusion scFvライブラリーの構築
【0225】
本実施例は、リンパ節mRNAからPROfusionヒト未処理scFvライブラリー(PBMCκおよびPBMCλ)の作製を説明する。
10.1 逆転写
【0226】
SuperScript II逆転写酵素(Invitrogen、cat.#18064−014)および15種類のプライマー混合物(合計濃度100nM)(表12)を用いて、メーカーのプロトコールに従って40μgのmRNAから一本鎖cDNAを合成する。各0.1mlの16個のアリコートで反応を行う。RT反応液をプールし(合計容量1.6ml)、20μlのRNaseHと20分間37℃で温置し、次に水に対して透析する。
【0227】
10.2 PCR
【0228】
10.2.1 VH cDNA増幅
VHリーダー配列(LS)特異的フォワードプライマーの混合物(合計濃度200nM)およびJH特異的リバースプライマーの混合物(合計濃度200nM)(表13)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、cat.#11304−102)により上述のRT反応液の3分の1を限定増幅に付す。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、10サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(60秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。次にPCR産物をQIAquick PCR精製キット(QIAGEN、cat.#28106)により、メーカーのプロトコールに従って精製する。スモールスケールのパイロット実験により、cDNAの少なくとも10倍増幅を確認する。
【0229】
精製したPCR産物の半量を7個の等量アリコートに分注し、各アリコートをVHファミリー特異的cDNAの内の1種類を増幅するためのテンプレートとして用いる。個々のVH LS特異的フォワードプライマー(200nM)およびJH特異的リバースプライマーの混合物(合計濃度200nM)(表13)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いたPCRにより増幅を行う。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0230】
QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)により、メーカーのプロトコールに従って上述のPCR産物を精製する。続いて、対応するVH特異的ネステッドフォワードプライマー(200nM)およびJH特異的リバースプライマーの混合物(合計濃度200nM)(表26)を含むPCR反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)により各PCR産物を増幅する。各反応液におけるフォワードプライマーは、次のライブラリー増幅における特異性を高めるために導入された8ヌクレオチド「タグ」(下線部)を有する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0231】
PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に付し、QIAquickゲル抽出キット(QIAGEN、cat.#28704)で精製する。これらPCR産物のアリコートを、Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)ならびに200nMのユニバーサルプライマー(T7TMVTag4sおよびLib−GSv2−Rev)を用いたPCR反応によりラージスケールでさらに増幅する。これらのプライマーは、PCR産物の5’末端にT7プロモーターおよびTMV−UTR配列を、PCR産物の3’末端に部分グリシン−セリン(G4S)−リンカーを付加する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。PCR産物をQIAquick PCR精製キット(QIAGEN)で精製し、260nmのUV吸光度で定量化し、これら産物のアリコートを1%アガロースゲル電気泳動により可視化して純度を確認する。VHファミリー特異的cDNA断片のアリコートをTOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてクローニングし、個々のクローンを配列決定により解析する。
【0232】
【表25】

【0233】
10.2.2 Vκ cDNA増幅
上述のRT反応により作製したcDNAの3分の1は、Vκリーダー配列(LS)特異的フォワードプライマーの混合物(合計濃度200nM)およびCκ特異的リバースプライマー(200nM)(表15)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)による限定増幅に付す。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、10サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(60秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。別のスモールスケール実験により、このようなPCRにより最大10倍のcDNA増幅を確認する。
【0234】
QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)を用いて、メーカーのプロトコールに従ってPCR産物を精製する。精製したPCR産物の半量を6個の等量アリコートに分注し、各アリコートは個々のVκファミリー特異的cDNA増幅のためのテンプレートとして用いる。個々のVκ LS特異的フォワードプライマー(200nM)およびCκ特異的リバースプライマー(200nM)(表15)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いたPCRにより増幅を行う。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0235】
PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に付し、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)を用いてメーカーのプロトコールに従って精製する。続いて対応するVκ特異的ネステッドフォワードプライマー(200nM)およびCκ特異的リバースプライマー(200nM)(表27)を含むPCR反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)により各PCR産物を増幅する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0236】
Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)ならびに200nMユニバーサルプライマー(Lib−GSv2−FwdおよびCKReverse)を含むPCR反応液において、ラージスケールでこれらPCR産物のアリコートをさらに増幅する。
【0237】
プライマーLib−GSv2−Fwdは、Vκ上流の部分G4S−リンカーを付加する。G4Sリンカーをコードしたユニバーサルプライマー配列(Lib−GSv2−FwdおよびLib−GSv2−Rev)は、ヒトPBMCライブラリー構築のために使用されるプライマー配列(Library−GS−ForwardおよびLibrary−GS−Reverse)から改変する。この改変は、プライマーLibrary−GS−ReverseがVH3ファミリー生殖系列のフレームワーク1とアニーリングして切断VH配列を生成する、クロスプライミング問題を防ぐため行われる。
【0238】
【表26】

【0239】
PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)を用いてPCR産物を精製し、260nmのUV吸光度で定量化し、これら産物のアリコートを1%アガロースゲル電気泳動により可視化して純度を確認する。得られたVκファミリー特異的cDNA断片のアリコートは、TOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてクローニングし、個々のクローンを配列決定により解析する。
【0240】
10.2.3 Vλ cDNA増幅
上述のRT反応から作製されたcDNAの3分の1は、Vλリーダー配列(LS)特異的フォワードプライマーの混合物(合計濃度200nM)およびCλ特異的リバースプライマー(200nM)(表21)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)による限定増幅に付す。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、10サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。別のスモールスケール実験により、このようなPCRによる最大10倍のcDNA増幅を確認する。
【0241】
QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)を用いて、メーカーのプロトコールに従ってPCR産物を精製する。精製したPCR産物の半量を16個の等量アリコートに分注し、各アリコートを個々のVλファミリー特異的cDNA増幅のためのテンプレートとして用いる。個々のVλ LS特異的フォワードプライマー(200nM)およびCλ特異的リバースプライマー(200nM)(表21)を含む反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いたPCRにより増幅を行う。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、30サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0242】
QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)で、メーカーのプロトコールに従ってPCR産物を精製する。続く増幅の前に、次の断片をプールする。VL−1 LS−1およびVL1 LS−3断片はVL1 LS混成断片に3:2の比率でプールし、VL−2 LS−3およびVL2 LS−4断片は3:2の比率でVL2 LS混成断片にプールし、VL3 LS−2、VL3 LS−3、VL3 LS−4およびVL3 LS−5断片は1:6:1:1の比率でVL3 LS混成断片にプールする。次に、対応するVλ特異的ネステッドフォワードプライマー(200nM)およびCλ特異的リバースプライマー(200nM)(表22)を含むPCR反応液においてPlatinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)により、個々のファミリーに対応するPCR産物を増幅する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(40秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0243】
PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に付し、QIAquickゲル抽出キット(QIAGEN)により精製する。Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh Fidelity(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)ならびに200nMユニバーサルプライマー(Lib−GSv2−FwdおよびCJLReverse)を含むPCR反応液において、これらPCR産物のアリコートをラージスケールでさらに増幅する。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、25サイクルの94℃(30秒間)、55℃(30秒間)および68℃(30秒間)、続いて5分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。
【0244】
QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)を用いてPCR産物を精製し、260nmのUV吸光度で定量化し、これら産物のアリコートを1%アガロースゲル電気泳動により可視化して純度を確認する。VLファミリー特異的プライマーの特異性は以前に確認されている。
【0245】
10.2.4 VH−Vκ scFv構築
各ファミリーの生殖系列の数(NCBIに基づく)に応じて、VHおよびVκ cDNA断片を混合する(表17および18)。
【0246】
合計10μgのVH cDNA断片(2×1013分子)および合計10μgのVκ cDNA断片(2×1013分子)を重複PCR用テンプレートとして用いる。Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh FidelityならびにプライマーT7TMVUTR(200nM)およびCκ5−FlagA20Rev(200nM)を用いて30ml容量で、次のステップによりPCRを行う。最初に2分間94℃の変性ステップ、12サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(60秒間)、続いて3分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。TOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてPCR産物のアリコートをクローニングし、個々のクローンを配列決定により解析する。
【0247】
【化1】

【0248】
プライマーCk5−FlagA20Revは、PCR産物の3’末端にポリAテールを付加する。従って、この配列はPROfusion分子のオリゴdT精製のために用いられる。
【0249】
10.2.5 VH−Vλ scFv構築
各PCR産物により示された生殖系列の多様性に応じて、VHおよびVλ cDNA断片を混合する(表18および28)。合計10μgのVH cDNA断片(2×1013分子)および10μgのVλ cDNA断片(2×1013分子)を重複PCR用テンプレートとして用いる。Platinum Taq DNAポリメラーゼHigh FidelityならびにプライマーT7TMVUTR(200nM)およびCL5FlagA20(200nM)を用いて30ml容量でPCRを行う。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、10サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および68℃(60秒間)、続いて5分間68℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。TOPO TAクローニングキット(Invitrogen、cat.#45−0641)を用いてPCR産物のアリコートをクローニングし、個々のクローンを配列決定により解析する。
【0250】
【表27】

【0251】
【化2】

【0252】
プライマーCL5−FlagA20は、PCR産物の3’末端にポリAテールを付加する。従って、この配列はPROfusion分子のオリゴdT精製のために用いられる。
【0253】
10.3 スペクトラタイプ解析
それぞれVHのフレームワーク3領域およびJ領域とアニーリングする蛍光色素標識5’フォワードプライマー(6−FAM−PanVHFR3−Fwd、5’−GACACGGCCGTGTATTACTGT−3’、配列番号17)およびリバースプライマー(PanJH−Rev、5’−GCTGAGGAGACGGTGACC−3’、配列番号18)を用いて、PCRによりVH領域のCDR3領域にわたって増幅する。50ngのscFvライブラリーDNAテンプレートは、200nM 6−FAM−PanVHFR3−Fwdプライマー、200nM PanJH−Revプライマー、200μM dNTP、1×GoTaqバッファーおよび1.5UのGoTaq(Promega、マディソン、ウィスコンシン州)を含む30μl反応容量に用いる。PCR条件は次の通りである。最初に2分間94℃の変性ステップ、30サイクルの94℃(20秒間)、55℃(20秒間)および72℃(30秒間)、続いて5分間72℃の伸長ステップならびに4℃の保存ステップ。PCR後、10μlの産物を2%アガロースゲルにアプライして反応が成功したことを確認し、ABIシーケンサーを用いて残りの産物をスペクトラタイプ電気泳動に付す。ROX色素標識DNAマーカーによって決定した産物長から60bpフランキングフレームワーク配列を引くことにより、CDR3長を計算する。
【0254】
結果
【0255】
PROfusion ScFvライブラリー構築の概略
PROfusionライブラリー構築における異なるステップを表すフローチャートを図24に示す。
【0256】
VH cDNA断片の増幅
VHユニバーサルプライマー(T7TMVUTRおよびLib−GSv2−Rev)で増幅したVHファミリー特異的cDNA断片(ほぼ500bp)のアリコートをアガロースゲル電気泳動により可視化する(図25)。VHファミリー特異的プライマーの特異性は、以前に試験したが、多数の生殖系列を有するファミリーを増幅するプライマーであることを再度確認する(表29)。
【0257】
Vκ断片の増幅
ユニバーサルプライマー(Lib−GSv2−FwdおよびCK Reverse)で増幅したVκファミリー特異的cDNA断片のアリコートをアガロースゲル電気泳動により可視化する(図26)。Vκファミリー特異的プライマーの特異性は前に試験したが、多数の生殖系列を有するファミリーを増幅するプライマーであることを再度確認する(表30)。
【0258】
【表28】

【0259】
【表29】

【0260】
Vλ断片の増幅
ユニバーサルプライマー(Lib−GSv2−Fwd、配列番号140およびCJL Reverse、配列番号15)で増幅したVλファミリー特異的cDNA断片のアリコートをアガロースゲル電気泳動により可視化する(図27)。Vλファミリー特異的プライマーの特異性は前に試験した。
【0261】
VH−VκおよびVH−Vλ scFvの構築
重複PCRを行って、VH−VκおよびVH−Vλ scFv cDNA断片を構築する。得られた産物の一部をアガロースゲル電気泳動により可視化する(図27)。作製したVH−VκおよびVH−Vλ scFv断片は、PROfusion mRNAディスプレイ技術による選別に必要なあらゆる要素を有する(図28)。
【0262】
個々のVH−VκおよびVH−Vλ scFvクローンの配列解析により、大部分のクローンにおけるVH−VκおよびVH−Vλと機能的介在G4Sリンカーとの正確な組換えを確認する。構築されたscFvライブラリーにおけるさまざまなVH、VκおよびVλファミリーの分布は、以前の文献報告と一致する(図29、図30、さらにTsuijiら(2006).Exp.Med.;V.203(2)、393−400頁およびAronsら(2006)British Journal of Haematology V.133、504−512頁も参照)。
【0263】
スペクトラタイプ解析
VH CDR3サイズ分布のスペクトラタイプ解析は、リバースプライマーの混合物を用いた逆転写によりリンパ節RNAから得られたcDNA(10.1を参照)、scFvライブラリーに組み立てられる直前のVH DNA断片の混合物、ならびに最終VH−VκおよびVH−Vλ scFv断片において行う(図31)。高度な多様性を有するcDNAライブラリーで予想されるように、観察されたCDR3サイズは正規分布し、その多くは6−22残基の間に収まり、中央は11−14残基である。
【0264】
結論
高品質ヒト抗体リードの選別は、治療用抗体医薬開発の成功のための必要条件である。確固とした選別技術に加えて、抗体ライブラリーの品質(ソース、多様性および構築)は、良質のリード生産におけるその有用性を大きく左右する。本発明において、ドナーコレクションにおける全多様性が得られるよう、ライブラリーの多様性を高めるため複数ドナー由来のmRNAが用いられ、あらゆる抗体生殖系列配列をカバーするため高度に特異的なPCRプライマーが設計される。VH−VκおよびVH−Vλ ScFvライブラリーを別々に構築し、同一のRNAソースから複数の抗体リードを選別する機会を増やす。両ライブラリーの高度な多様性は、複数クローンのスペクトラタイプ解析および配列決定により確認される。両ライブラリーは、異なる標的に対するPROfusion mRNAディスプレイ選別のために用いる。
【0265】
(実施例11)
PROfusionコンストラクトのための配列決定用プライマー
本実施例は、PROfusionコンストラクトに用いられる配列決定用プライマーを提供する。
【0266】
【化3】














【0267】
参照による援用
本願を通じて引用されている可能性のあるあらゆる引用文献(参考文献、特許、特許出願およびウエブサイト)の内容は、そこに引用されている参考文献のように、これによりその内容全体が参照によって本明細書に特に組み込まれている。本発明の実施において、他に断りがない限り、本技術分野においてよく知られている従来の免疫学と分子生物学および細胞生物学の技法が用いられる。
【0268】
均等
本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱することなく他の特定の形態に具体化することができる。従って上述の実施形態は、本明細書の記載に本発明を限定するものではなくむしろ説明のためのものであることをあらゆる点で考慮するべきである。従って本発明の範囲は、上述の説明によってではなくむしろ添付の特許請求の範囲によって示され、従って特許請求の範囲における均等の意義および範囲内のあらゆる変更を本明細書に包含することを目的とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1−14、19−42および58−210の内いずれか1つに記載されている核酸配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号14−16および43−57の内いずれか1つに記載されている核酸配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号17または18に記載されている核酸配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
ライブラリー増幅、ライブラリー逆転写および/またはライブラリースペクトラタイプ解析のための、請求項1から3における配列の内いずれかの使用。
【請求項5】
単鎖抗体(scFv)発現のための核酸ライブラリーであって、前記ライブラリーは前記H鎖可変領域およびL鎖可変領域をコードした配列のレパートリーを含み、ライブラリーの各構成員がH鎖可変領域、L鎖可変領域およびリンカー領域を含むオープンリーディングフレームを含有し、ならびに前記ライブラリーは請求項1の1つ以上のオリゴヌクレオチドを用いて作製される、ライブラリー。
【請求項6】
リンカー領域が20アミノ酸未満をコードする、請求項5のライブラリー。
【請求項7】
リンカー領域が15アミノ酸をコードする、請求項5のライブラリー。
【請求項8】
ライブラリーの各構成員が、オープンリーディングフレームと作動可能に連結したプロモーターをさらに含む、請求項5のライブラリー。
【請求項9】
前記プロモーターが、T7、SP6およびT3からなる群から選択されたプロモーターである、請求項8のライブラリー。
【請求項10】
前記プロモーターがT7プロモーターである、請求項9のライブラリー。
【請求項11】
ライブラリーの各構成員が、そこに作動可能に連結した遺伝子の転写を促進することのできる5’非翻訳領域(5’UTR)をさらに含む、請求項5のライブラリー。
【請求項12】
前記5’UTRがタバコモザイクウイルス5’UTRまたはその活性断片である、請求項11のライブラリー。
【請求項13】
ライブラリーの各構成員がポリアデニン配列をさらに含む、請求項5のライブラリー。
【請求項14】
ライブラリーの各構成員が核酸バーコードをさらに含む、請求項5のライブラリー。
【請求項15】
前記核酸バーコードが8ヌクレオチドを含む、請求項14のライブラリー。
【請求項16】
ライブラリーの各構成員がエピトープタグをコードした核酸配列をさらに含む、請求項5のライブラリー。
【請求項17】
エピトープタグがFLAGタグである、請求項16のライブラリー。
【請求項18】
前記核酸配列がscFvのリンカー領域の一部である、請求項16のライブラリー。
【請求項19】
ライブラリーの各構成員が、抗体定常部またはその断片をコードした核酸配列をさらに含む、請求項5のライブラリー。
【請求項20】
ライブラリーの各構成員がリボソーム休止配列をさらに含む、請求項5のライブラリー。
【請求項21】
ライブラリーの各構成員がペプチドアクセプターをさらに含む、請求項5のライブラリー。
【請求項22】
ペプチドアクセプターがソラレンC6分子を含むリンカーを介して共有結合する、請求項21のライブラリー。
【請求項23】
リンカーが、5’(ソラレンC6)2’Ome(U AGC GGA UGC)XXXXXXCC(ピューロマイシン)(式中、XはトリエチレングリコールリンカーまたはPEG−150であり、CCはDNA骨格である)である、請求項22のライブラリー。
【請求項24】
単鎖抗体(scFv)を発現するための核酸ライブラリーを作製する方法であって、
核酸組成物を提供するステップであって、前記組成物における核酸の少なくとも一部が抗体可変領域をコードした少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む、ステップ、および
請求項1の1つ以上のオリゴヌクレオチドを用いて複数の抗体可変領域を増幅するステップ、
を含む、方法。
【請求項25】
抗体可変領域をコードした少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む核酸をスペクトラタイプ解析する方法であって、
核酸組成物を提供するステップであって、前記組成物における核酸の少なくとも一部が抗体可変領域をコードした少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む、ステップ、および
請求項2の1つ以上のオリゴヌクレオチドを用いて前記可変領域のCDR3領域を増幅するステップ、
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公表番号】特表2012−504416(P2012−504416A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530180(P2011−530180)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/059059
【国際公開番号】WO2010/039852
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】