説明

放射測温装置及び放射測温方法

【課題】例えば高炉からの出銑流に含まれる溶融スラグのように、正確な放射率が予め特定されていない溶融物である測温対象の温度をも、非接触で測温することができる放射測温装置及び放射測温方法を提供すること。
【解決手段】放射率が予め特定されておらず、熱放射光の少なくとも一部を透過させる溶融物である測温対象の温度を測定する放射測温装置100を提供する。この放射測温装置100は、測温対象の熱放射輝度の分布を撮像する撮像部110と、撮像部110が撮像した撮像画像中の最高輝度を検出する最高輝度検出部123と、最高輝度検出部123が検出した最高輝度に基づいて、測温対象の温度を算出する温度算出部124と、を有する。この放射測温装置100によれば、正確な放射率が特定されていない測温対象の温度をも測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射率が予め特定されておらず、熱放射光の少なくとも一部を透過させる溶融物である測温対象の温度を測定する放射測温装置及び放射測温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測温対象の温度を測定する測温装置としては、大きく分けて接触式と非接触式に分かれる。接触式の測温装置としては、例えば熱電対型・抵抗型・液柱型など様々な種類の測温装置が挙げられる。これらの接触式の測温装置は、熱伝導を利用する場合が多く、測温対象に直接接触する必要がある。従って、例えば高温の測温対象を測温使用とする場合、接触式の測温装置の耐熱性が要求される。
【0003】
しかしながら、例えば製鉄所における高炉の出銑口から流出する溶銑(高炉から取り出される溶融した銑鉄)や溶融スラグ(溶銑と共に取り出される溶融した酸化物)など複数の物質が混合された溶融物のように測温対象が非常に高温である場合、かかる高温に対する耐熱性を確保することは難しい。よって、温度が測定できたとしても、接触式の測温装置の感温部が熱的に破損してしまい続けて使用することができない場合が多く、連続的な温度測定を行うことは難しい。しかし、溶銑や溶融スラグの温度には炉内の温度が反映されており、溶銑や溶融スラグの温度を測定することは、高炉の操業状態を判断する上で重要な指標となる。この製鉄プロセス以外の様々な工業分野において、高温の測温対象を測定でき、かつ、連続的にあるいは繰り返して使用することができる測温装置が希求されている。
【0004】
そこで、特許文献1には、測温対象の温度を非接触で測定することができる測温装置が開示されている。この非接触式の測温装置は、測温対象である複数の物質が混合された溶融物から発せられる熱放射光の熱放射輝度を観測して測温対象の温度を測定する。熱放射を利用した温度測定では、その測温対象の放射率が重要である。そこで、この特許文献1は、測温対象を高速シャッタを有する撮像装置で撮像して得た、溶銑部分が分離した撮像画像中から、放射率が判っている溶銑の輝度を抽出し、その輝度から溶銑の温度を測定することに成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−119110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、溶融スラグには、放射率の異なる例えばシリカ・アルミナ・石灰などが未知の比率で含まれており、溶融スラグ自体も混合物の一つと扱え、この溶融スラグの放射率を特定することは難しい。よって、特許文献1に記載の放射測温装置では、放射率が判っている溶銑の温度を測定することはできるものの、溶融スラグなどのように正確な放射率が判っていないため正確な放射率が予め特定されていないような測温対象の温度を、正確に測定することは難しい。また、溶銑と溶融スラグ、又は、溶融スラグに混合されている物質が不均一に混濁しており、かつ、高炉からの出銑時のようにその表面が平坦ではなく著しく波立っているような状態では、瞬間的な波の形状が見かけの放射率に影響するので、溶銑の温度を測定することが困難になる場合もあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、例えば高炉からの出銑流に含まれる溶融スラグのように、正確な放射率が予め特定されていない溶融物である測温対象の温度を、非接触で測温することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、放射率が予め特定されておらず、熱放射光の少なくとも一部を透過させる溶融物である測温対象の温度を測定する放射測温装置であって、上記測温対象から発せられる上記熱放射光の熱放射輝度の分布を撮像する撮像部と、上記撮像部が撮像した撮像画像中の最高輝度を検出する最高輝度検出部と、上記最高輝度検出部が検出した最高輝度に基づいて、上記測温対象の温度を算出する温度算出部と、を有し、上記温度算出部は、上記熱放射光に対する上記測温対象の大気との界面の反射損失をlnとすると、上記最高輝度における上記測温対象の放射率として(1−ln)〜1のいずれかの値を使用して、上記測温対象の温度を算出することを特徴とする、放射測温装置が提供される。
【0009】
この構成によれば、撮像部により、放射率が予め特定されていない溶融物の測温対象から発せられる熱放射光の熱放射輝度の分布を撮像することができる。つまり、撮像部が撮像する撮像画像には、輝度分布が含まれる。なお、この輝度分布は、例えば、撮像部が有する撮像素子に応じ、各画素毎の輝度に対応した濃度(強度ともいう。)の撮像画像における分布として表されてもよい。そして、最高輝度検出部により、この撮像画像中に含まれる最高輝度を検出することができる。そして、温度算出部により、最高輝度に基づいて、測温対象の温度を算出することができる。この際、温度算出部は、自らが発した熱放射光の少なくとも一部を透過する測温対象の温度を、その放射率を(1−ln)〜1とすることにより、算出することができる。つまり、温度算出部は、例えばPlanckの放射式やWienの式などのような高温物体の熱放射輝度と黒体との関係を用い、測温対象の放射率を(1−ln)〜1のいずれかの値とし、かつ、測温対象の熱放射輝度を撮像画像中の最高輝度として、測温対象の温度を算出することができる。
【0010】
また、上記温度算出部は、上記測温対象が高炉から出銑される出銑流に含まれる溶融スラグである場合、上記最高輝度における上記測温対象の放射率として0.96〜1のいずれかの値を使用して、上記溶融スラグの温度を算出してもよい。
この構成によれば、放射率が測定できない溶融スラグの温度を、その放射率を0.96〜1とすることにより、算出することができる。つまり、この際、温度算出部は、例えばPlanckの放射式やWienの式などのような高温物体の熱放射輝度と黒体との関係を用い、測温対象の放射率を0.96〜1のいずれかの値とし、かつ、溶融スラグの熱放射輝度を撮像画像中の最高輝度として、溶融スラグの温度を算出することができる。
【0011】
また、上記温度算出部は、上記測温対象の表面が波立った状態である場合、該波の大きさに応じた値を上記放射率として使用してもよい。
ここでは、表面が波立っている測温対象、つまり、表面に凹凸がある測温対象の温度を測定する。波の谷間(凹部)に位置する部位において、測温対象の熱放射により発せられる光は、当該測温対象の表面から発せられる直接光以外にも、その直接光が測温対象で反射した反射光をも含む。従って、最高輝度検出部は、直接光及び反射光を含む光の輝度を、最高輝度として検出することができ、温度算出部は、この最高輝度に基づいて、測温対象の温度を算出することができる。この際、波の大きさにより、反射光を含むか否か又は何次の反射光まで含むかが異なるが、上記構成によれば、この波の大きさに応じた値を放射率として使用する。よって、より正確な温度測定が可能となる。なお、放射率を決定する際に使用される波の大きさは、直接光の反射が起こりうる大きさに適宜設定されることが望ましい。
【0012】
また、上記温度算出部は、上記測温対象の表面が波立った状態である場合、上記最高輝度における上記測温対象の放射率として1を使用して、上記測温対象の温度を算出してもよい。
ここでは、表面が波立っている測温対象、つまり、表面に凹凸がある測温対象の温度を測定する。この構成によれば、温度算出部は、最高輝度における測温対象の放射率を1として、測温対象の温度を算出することができる。つまり、温度算出部は、例えばPlanckの放射式やWienの式などのような高温物体の熱放射輝度と黒体との関係を用い、測温対象の放射率を1とし、かつ、測温対象の熱放射輝度を撮像画像中の最高輝度として、測温対象の温度を算出することができる。なお、上述の通り、表面に波が生じている場合、撮像部により撮像される熱放射輝度の分布には、直接光だけでなく反射光も含まれる。従って、このように波立っている溶融物の最高輝度に対する放射率は1に近づく。また、仮に、その溶融物が熱放射輝度の少なくとも一部を透過させる場合、その溶融物の厚みが厚くなるほど、見かけの放射率(実効放射率)は1に近づく。従って、この構成によれば、放射率を1と近似することにより、放射率が未知の測温対象の温度を測定することを可能にしている。
【0013】
また、上記最高輝度検出部は、上記撮像部が撮像した複数の撮像画像にわたる上記最高輝度を検出してもよい。
この構成によれば、最高輝度検出部は、複数枚の撮像画像の中から最高輝度を検出する。上述の通り、最高輝度検出部は、撮像画像中の最高輝度を検出するが、測温対象が溶融物であるので、測温対象の厚みや表面状態は変化し、その変化に応じて最高輝度も変化する。そこで、上記構成では、測温対象を複数枚撮像して、その複数の撮像画像にわたる最高輝度を検出することにより、厚みや表面状態に依存しない最も高い最高輝度を検出できる確率を高めることを可能にしている。例えば、測温対象の厚みに最高輝度の放射率が依存する場合、測温対象の厚みが最大となった最高輝度が検出される確率を高めることができる。また、更に例えば、測温対象の表面状態(波の形状)に依存する反射光が撮像画像に含まれる確率をも高めることができる。よって、放射測温装置の温度測定精度を向上させることができる。
【0014】
また、上記撮像部は、上記測温対象の流動状態に応じた所定時間、撮像素子を露光する高速シャッターを有してもよい。
この構成によれば、高速シャッターにより、撮像素子を露光する時間を測温対象の流動状態(波立ちや測温対象の厚みの変化状態)に応じた所定時間にすることができる。従って、撮像部は、流動する測温対象が像流れしぼやけて撮像され、最高輝度が他の輝度と平均化されてしまうことを防止し、直接光及び反射光を含む光の輝度を撮像画像に含めることができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、放射率が予め特定されておらず、熱放射光の少なくとも一部を透過させる溶融物である測温対象の温度を測定する放射測温方法であって、上記測温対象の上記熱放射輝度の分布を撮像する撮像ステップと、上記撮像ステップで撮像した撮像画像中の最高輝度を検出する最高輝度検出ステップと、上記最高輝度検出ステップで検出した最高輝度に基づいて、上記測温対象の温度を算出する温度算出ステップと、を有し、上記温度算出ステップでは、上記該熱放射光に対する上記測温対象の大気との界面の反射損失をlnとすると、上記最高輝度における上記測温対象の放射率として(1−ln)〜1のいずれかの値を使用して、上記測温対象の温度を算出することを特徴とする、放射測温方法が提供される。
この構成によれば、測温対象の温度を算出することができる。
【0016】
また、上記温度算出ステップでは、上記測温対象が高炉から出銑される出銑流に含まれる溶融スラグである場合、上記最高輝度における上記測温対象の放射率として0.96〜1のいずれかの値を使用して、上記溶融スラグの温度を算出してもよい。
【0017】
また、上記温度算出ステップでは、上記測温対象の表面が波立った状態である場合、該波の大きさに応じた値を上記放射率として使用してもよい。
【0018】
また、上記温度算出ステップでは、上記測温対象の表面が波立った状態である場合、上記最高輝度における上記測温対象の放射率として1を使用して、上記測温対象の温度を算出してもよい。
【0019】
また、上記最高輝度検出ステップでは、上記撮像部が撮像した複数の撮像画像にわたる上記最高輝度を検出してもよい。
【0020】
また、上記撮像ステップでは、高速シャッターにより、上記測温対象の流動状態に応じた所定時間、撮像素子を露光してもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、例えば高炉からの出銑流に含まれる溶融スラグのように、正確な放射率が予め特定されていない溶融物である測温対象の温度をも、非接触で測温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る放射測温装置の構成について説明するための説明図である。
【図2】溶融スラグの見かけの放射率について説明するための説明図である。
【図3】溶融スラグの見かけの放射率について説明するための説明図である。
【図4】溶融スラグの厚みと実効放射率との関係について説明するための説明図である。
【図5】溶融スラグの見かけの放射率について説明するための説明図である。
【図6】溶融スラグの平坦表面放射率と見かけの放射率との関係について説明するための説明図である。
【図7】溶融スラグの平坦表面放射率と見かけの放射率との関係について説明するための説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る放射測温装置による温度校正について説明するための説明図である。
【図9】同実施形態に係る放射測温装置の動作について説明するための説明図である。
【図10】同実施形態に係る放射測温装置による測定例について説明するための説明図である。
【図11】高炉から出銑される出銑流について説明するための説明図である。
【図12】高炉から出銑される出銑流による熱放射輝度ヒストグラムについて説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
本発明の一実施形態に係る放射測温装置は、様々な溶融物である測温対象を測定することができるが、特に、正確な放射率が未知であったり、正確な放射率の測定が難しい場合など、放射率が予め特定されておらず、かつ、自らが発する熱放射光の少なくとも一部を透過させる溶融物の測温対象を、測定することが可能である。放射率が予め特定されていない場合の例としては、例えば、測温対象が溶融していて、表面に波が発生するなど、その表面状態が流動する場合、放射率が測温対象の厚みに依存するがその厚みが予め特定されていない場合、測温対象が混合物でその混合比が予め特定されていない場合、測温対象の成分等が予め特定されていない場合などが挙げられる。本発明の一実施形態に係る放射測温装置は、これらのような放射率が未知な測温対象の温度を、正確に測定することが可能である。なお、もちろん、この放射測温装置は、放射率が既知の測温対象や、あるいは溶融物ではない測温対象をも測定可能であることは言うまでもない。
【0025】
以下では、説明の便宜上、このような測温対象として、製鉄所における高炉の出銑口から出銑される出銑流に含まれる「溶融スラグ」を例に挙げて説明する。この例の場合、出銑口からは、もちろん溶融スラグだけでなく溶銑も出銑される。本発明の一実施形態に係る放射測温装置は、一つの測温対象だけでなく、例えば溶銑及び溶融スラグなどの複数の溶融物が混在した状態の測温対象をも測温することができる。本発明の一実施形態に係る放射測温装置が奏することができるこれらの効果などをより明確に説明するなどのために、この放射測温装置について説明する前に、以下で例示する高炉における温度測定の概要について、図1,図11,図12を参照しつつ説明する。ただし、本発明の一実施形態に係る放射測温装置は、以下で例示する溶融スラグだけでなく様々な測温対象の温度を測定することができることは、上述の通りである。
【0026】
<1.高炉における温度測定>
図1は、本発明の一実施形態に係る放射測温装置の構成について説明するための説明図である。図11は、高炉から出銑される出銑流について説明するための説明図である。図12は、高炉から出銑される出銑流による熱放射輝度ヒストグラムについて説明するための説明図である。
【0027】
(1−1.高炉操業の概要)
製鉄所の高炉は、鉄鉱石・コークス・石灰石などから高温の還元反応を利用して溶銑及び溶融スラグを生成する。この高炉の炉底には、溶銑及び溶融スラグが滴下して湯溜まりを形成している。図1に示すように、高炉の側面における湯溜まりの位置には、出銑口10が設けられており、この出銑口10に貫通孔11を開けることにより、溶銑及び溶融スラグの混合物(以下「出銑流1」ともいう。)が流出する。出銑口10にはマッド材が充填されており、ドリル等で機械的に貫通孔11を開孔する。貫通孔11の開孔直後の出銑口径(貫通孔11の口径)は、ドリル径にほぼ等しいが、出銑の経過と共に侵食され、次第に拡大する。出銑開始時は出銑流量が炉内での溶銑及び溶融スラグの生成量よりも少なく、炉内の溶銑及び溶融スラグ量は、増加する。出銑を続けると出銑口径が拡大する。この出銑口径の拡大に伴い出銑流量が増加して、炉内の湯溜まり量が低下に転じる。通常は出銑開始から2〜4時間程度で、湯面レベルが出銑口付近まで低下するので、マッド材を出銑口10の貫通孔11に充填して、出銑口10を閉塞させる。このような出銑作業を繰り返しながら銑鉄が製造される。出銑された溶銑及び溶融スラグは、出銑樋12を搬送されて、出銑樋12後尾において比重分離される。
【0028】
出銑口10から取り出される出銑流の温度(以下「出銑温度」ともいう。)は、内部を直接観察できない炉下部の熱状態を知る重要な情報である。出銑温度が低下すれば炉内の還元反応の活性が悪化している可能性がある。出銑温度は時間経過にも着目する必要があり、急激な温度変化は炉内で何らかの非定常状態が発生している疑いがある。そこで、高炉を適正に操業するためには、出銑温度を測定して高炉の状況を迅速かつ的確に判断して操業アクションをとる必要がある。このように出銑温度は、常に注意深く監視すべき操業情報である。なお、溶銑及び溶融スラグは、炉内の湯溜まりの同一箇所から流出するので、両者に温度差はないことが予想される。
【0029】
(1−2.関連技術に係る出銑温度測定方法)
次に、このような高炉で行われている関連技術に係る出銑温度の測定方法について説明する。関連技術による出銑温度の管理は、出銑樋12の下流において、溶銑の温度を熱電対で測定するのが一般的である。この温度測定方法は、「浸漬消耗型熱電対」と呼ばれる使い捨て熱電対プローブを人手で溶銑に浸漬するバッチ的測定方法である。熱電対を使用した接触式の測温装置は、精度・信頼性の高い測温が可能である。しかし、熱電対プローブは人手で浸漬されるので、出銑流1に作業者が接近する必要があり、更に出銑流1の高温により熱電対プローブは溶解するので、再利用できない場合が殆どである。そこで、関連技術による測温は、作業者が受ける負荷や貴金属熱電対プローブのコスト等の制約から、出銑中数回の間欠的な測定に限られる。また、出銑開始からしばらくの間は、出銑樋12を構成する耐火物により抜熱されるので、出銑樋12下流において測定される溶銑温度は、出銑口10から出銑された時点における温度(炉内状況を把握する上で真に知りたい温度)よりも低い恐れがある。
【0030】
本発明の発明者らは、高温の溶融物の測温装置について鋭意研究を行った結果、出銑流から発せられる熱放射光の熱放射輝度の2次元分布を高速シャッタで撮像すると、溶銑と溶融スラグとが分離して観察できることを発見した(図11(c)等参照。)。そこで、本発明の発明者らは、この溶銑と溶融スラグとが分離して出銑されるという現象等について鋭意研究を行った結果、上記特許文献1に開示された放射測温装置を発明した。この放射測温装置は、出銑流の熱放射輝度の撮像画像中の、放射輝度に応じて撮像素子が出力した濃度(画像輝度)を解析して、濃度ヒストグラムを算出する。ここで、放射測温装置は、濃度ヒストグラム上における溶銑の像の分布ピークP1の画像輝度Lm(画素数が最大となる濃度)を検出することができる(図12参照。)。その結果、放射測温装置は、溶銑像分布ピークP1の画像輝度Lmから温度を算出することができる。本発明の発明者らが発明した関連技術に係る上記放射測温装置は、上記の接触式の測温装置などでは捉えることができない短時間の溶銑温度の変化を測定することができ、かつ、接触式の測温装置などでは作業者が近づくことができない出銑口近傍において測温できるので、非常に有用である。
【0031】
(1−3.関連技術に係る放射測温装置の改善点)
しかしながら、高炉の操業状態を管理する上では、溶銑温度を測定するだけでなく、溶銑と同様に高炉から流出する溶融スラグの温度をも測定することが望まれていた。一方、上記関連技術に係る特許文献1に記載の放射測温装置では、この溶融スラグの温度を測定できない。そこで、更に溶融スラグの温度を測定することができるような放射測温装置の開発が希求されていた。
【0032】
この溶融スラグの測温が望まれる場合や、上記関連技術に係る放射測温装置により溶融スラグを測温できない場合などについて、詳しく説明すると以下の通りである。
【0033】
高炉からの出銑中は、溶銑と溶融スラグが同時に出銑口10から流出する時間が長いが、出銑初期(出銑を開始してからの所定期間)や出銑末期(貫通孔11をマッド材などで閉塞する前の所定期間)には、溶融スラグのみが出銑口10から流出することがある。図11には、出銑中の溶融スラグと溶銑の混合状態の変化の一例を示す。なお、図11は、紙面左方に出銑口10があり、出銑流が右方に流出している様子を示している。また、図11(a)〜(c)は、それぞれ、出銑直後・溶銑流出開始期・安定出銑期における出銑流の放射輝度の撮像画像を表し、撮像画像の出銑流中の濃度(画像輝度)が高い部位(明部)が、溶融スラグであり、また、濃度が低い部位(暗部)が溶銑である。
【0034】
例えば、図11に示した例の場合には、出銑開始後約30分程度は、図11(a)に示すように溶融スラグ(明部)のみが流出する。その後数分間は、図11(b)に示すように溶銑(暗部)の流出量が徐々に増加する遷移期となる。更に時間が経過すると、図11(c)に示すように溶融スラグに対する溶銑比率が高い状態で安定する。この安定出銑期は、通常約2時間以上続き、その間溶銑が出銑される。上記関連技術に係る放射測温装置は、この熱画像上の溶銑領域(暗部の領域)に着目して溶銑温度を求める。よって、この放射測温装置は、溶銑が出銑流に含まれる溶銑流出開始期(図11(b))や安定出銑期(図11(c))において、溶銑の温度を測定して、炉内の操業状態を知ることができる。しかしながら、出銑開始後約30分程度の溶融スラグのみが流出する期間は、溶銑の温度を介して炉内の操業状態を知ることができない。
【0035】
一方、より効果的かつ適正に高炉の操業状態を管理するためには、高炉内の熱状況についてはより多くの情報を得る必要がある。そして、出銑開始直後の高炉内部の温度も注目すべき情報である。出銑流が100%溶銑で構成されて溶融スラグを含まない場合はないことが経験的に知られているので、溶融スラグの温度を測定することができれば、出銑中の高炉の温度を出銑初期をも含め連続的に測定することが可能になる。従って、溶融スラグの温度を測定することができる放射測温装置の開発が希求されていた。
【0036】
一方、上述の通り、関連技術に係る放射測温装置は、溶銑の熱放射光の放射輝度を表した撮像画像中の濃度(画像輝度)を抽出することができ、この濃度から、溶銑の温度を算出する。また、放射輝度から温度を算出するには、測温対象の放射率を定める必要があるが、溶銑の放射率は測定可能であり、一般的に知られている(約0.4程度)。しかしながら、この関連技術に係る放射測温装置により、溶融スラグを測温する場合には、この放射率などが問題となる。
【0037】
高炉から出銑されるスラグの成分は、例えばCaO,SiO,AlOなどであり、使用する原料や炉内の反応状態等により変動する。そして、これらの混合比も炉内の反応状態等により変動する。その結果、この溶融スラグの放射率は、スラグ成分の変動やそれらの混合比の変動などにより、変化すると考えられる。一方、熱画像上の濃度(観測された放射輝度に相当。画像輝度とも言う。)は、測温対象の温度と放射率の関数で表されるので、このように放射率が一定ではない溶融スラグの画像濃度はばらつきが大きい。また、溶融スラグが流動しており表面状態も常に変化することも、溶融スラグの画像濃度のばらつきを大きくしていると考えられる。例えば、図11(c)の出銑流部位のヒストグラムを求めると、図12に示すように、溶融スラグのピークP2は不明瞭である。溶融スラグの濃度ピークP2に、濃度で約10レベル程度の幅があれば、この幅は約20℃以上の温度の不確かさに相当する。よって、溶融スラグの輝度に着目する方法の測温は難しい。
【0038】
また、放射測温における放射率の不安定性による測温誤差は、黒体放射の理論式から見積もることができる。例えば、1500℃の対象を波長0.65μmで観測して放射測温を行う場合、放射率を仮に0.7と仮定し、そこから放射率が±0.1変化すると、温度には±20℃の測定誤差を生じてしまう。この誤差は、許容しうる測定誤差ではない。
【0039】
つまり、溶融スラグの放射測温を行う場合、
(1)溶融スラグの輝度に相当する濃度の代表値を特定することが難しいこと、
(2)許容しうる程度に正確な溶融スラグの放射率を定めて温度を算出することが難しいこと、
などの問題点があり、上記関連技術に係る放射測温装置は、十分な精度で温度を測定することが困難であった。
【0040】
以上、高炉における温度測定について説明した。
本発明の発明者らは、高炉において行われている測温や、上記関連技術に係る測温装置の問題点などについて、鋭意研究を行った結果、上記のような問題点を解明し、溶銑だけでなく溶融スラグや他の溶融物である測温対象をも測温することが可能な本発明の一実施形態に係る放射測温装置を発明した。以下、本発明の一実施形態に係る放射測温装置について説明する。
【0041】
<2.一実施形態>
(2−1.概要:溶融スラグの放射率)
本発明の発明者らは、この本発明の一実施形態に係る放射測温装置を発明するにあたり、放射率が予め特定されていない溶融スラグ(測温対象の一例)において、最高画像輝度Lmax(最高濃度)を使用すれば溶融スラグの温度を測定できることを見出した。この際、本発明の発明者らは、更に、最高画像輝度Lmaxにおける溶融スラグの見かけの放射率を、特定の値に仮定できることを見出し、その値として、溶融スラグの場合には0.96〜1(特に望ましくは1)のいずれかの値を使用可能であることを見出した。ここで言う「見かけの放射率(実効放射率とも言う。)」とは、物質固有に定まる放射率ではなく、観察対象の状態や形状などによって変化する実効的な放射率を指す。
【0042】
そして、この溶融スラグの放射率に対する考察に基づいて、本発明の発明者らは、他の測温対象の場合には、その測温対象から発せられる熱放射光に対する測温対象の大気との界面の反射損失(以下「界面放射損失」とも言う。)をlnとすると、最高輝度における測温対象の見かけの放射率として(1−ln)〜1のいずれかの値を使用することが可能であることをも見出した。この溶融スラグでない測温対象については詳しく後述する。以下では、本発明の理解が容易になるように、本発明の一実施形態の具体的な構成について説明する前に、主に、本発明の発明者らが鋭意研究を行った結果明らかにした溶融スラグの見かけの放射率について説明する。
【0043】
溶融スラグに限らず測温対象から発せられる熱放射光として、波長λ([m])が可視光から近赤外光の波長領域である場合、その測温対象から発せられる熱放射光の熱放射輝度Iと、測温対象の温度T([K])との関係は、Planckの黒体放射式の近似式として知られているWienの式で表される。すなわち、熱放射輝度Iと、測温対象の温度T([K])との関係は、以下の式1で表される。
【0044】
【数1】

【0045】
ここで、εは測温対象の放射率、c1は黒体放射の第1定数(1.1910×10−16[Wm−2])、cは黒体放射の第2定数(0.014388[mK])、λは観測波長([m])をそれぞれ表す。波長λは光検出器によって固定されるので、式1の右辺では、温度Tと放射率εが変数である。同じ温度Tであっても放射率εが低ければ熱放射輝度Iは小さい。放射測温ではこの熱放射輝度Iを観測する。撮像装置を使った放射測温では、観測量(出力信号)として画像輝度(濃度)Lが得られるが、これは熱放射輝度に対応している(通常は熱放射輝度Iと画像輝度Lが比例関係である)。従って、測定対象温度Tが同一であっても放射率εが低ければ画像輝度Lも低い。なお通常は画像輝度Lと黒体温度(物体を黒体と仮定した場合の見かけの温度)Tとの関係を予め実験的に求めておく。この関係は、例えば、図8のようになる。もし測定対象が黒体でない(すなわち放射率ε<1)場合は、真の温度Tは黒体温度Tより高くなり、両者の関係は以下の式2で記述される。式2中の真の温度Tと黒体温度Tはいずれも絶対温度で与える。
【0046】
【数2】

【0047】
次に出銑流の熱画像について考察する。図1に示す出銑流1を撮像して、図11(c)に例示した撮像画像に含まれる濃度(画像輝度)を解析したところ、図12に示した濃度ヒストグラムに示すように、溶銑の放射輝度に対応する濃度ピークP1と、溶融スラグの放射輝度に対応する濃度ピークP2とは、ある程度の大きさの分散を有することが判る。また、溶融スラグの濃度ピークP2の分散は、溶銑の濃度ピークの分散よりも大きいことも判る。この分散の大きな溶融スラグの濃度ピークP2に着目すると、図12に示した例の場合、最高画像輝度Lmax(最高濃度)は、約175となっており、溶融スラグの濃度ピークP2の中心からのズレが大きい。
【0048】
また、溶融スラグと溶銑は炉内湯溜まりの同一個所から流出するので、両者に温度差はないものと近似でき、かつ、溶融スラグ全体での温度差もないもとの近似できる。それに対して、図12に示すように溶融スラグでは、最高画像輝度Lmaxにおける濃度ピークP2の中心からのズレが大きい(このズレを「濃度差ΔL」とする。)。式1で、温度Tが一定であること、及び、濃度差ΔLが大きいことなどから、出銑流1中の溶融スラグでは、局所的に見かけの放射率が高くなっている個所が存在することになる。
【0049】
このように局所的に見かけの放射率が高くなっていることの理由について鋭意研究を行った結果、本発明の発明者らは、その成果として、溶融スラグについて以下の2点の特性を解明することに成功した。
特性1:溶融スラグが光学的に半透明であること
特性2:溶融スラグの熱画像には反射光が含まれること
この特性1,2について具体的に説明すると以下の通りである。なお、以下では、熱放射光の強さを物理量である熱放射輝度Iで表し、これに対応した観測量である画像輝度(濃度)Lは必要に応じて記述する。
【0050】
(2−1−1.特性1:溶融スラグが光学的に半透明であること)
溶融スラグの見かけの放射率が局所的に高くなることについて本発明の発明者らが解明した特性1について、図2〜図4を参照しつつ説明する。ここでの説明は特性1を単独で扱い、特性2は含まないものとする。図2及び図3は、溶融スラグの見かけの放射率について説明するための説明図である。図4は、溶融スラグの厚みと見かけの放射率との関係について説明するための説明図である。
【0051】
本発明の発明者らは、高炉出銑流中の溶融スラグの濃度ピークP2の分散が溶銑よりも大きく、その結果、局所的に見かけの放射率が高くなっていると思われる理由について調査した。本発明の発明者らは、出銑流1に含まれる溶融スラグを採取し分析した結果、溶融スラグの厚みが数ミリ程度であれば撮像装置が観察する波長において溶融スラグは光学的に半透明であることを発見した。
【0052】
本発明の発明者らは、溶融スラグが光学的に半透明であること、つまり、熱放射光の少なくとも一部を透過させることに基づき、その溶融スラグの見かけの放射率等を以下のように考察する。
【0053】
図2に示すように、出銑口10から出銑される出銑流1には、溶銑Meと溶融スラグSlが含まれる。溶融スラグSlは、図11(c)等に示すように安定出銑期等では、溶銑Me中に分離して混在している。図2では、この溶融スラグSlが混在した状態と、そこから発せられる放射輝度を模式的に示している。
【0054】
放射輝度I1は、溶銑Meの表面から放射された放射光の輝度を表す。この放射輝度I1の放射率は、溶銑Meの放射率(約0.4)で一定である。すなわち、放射輝度I1は、温度のみの関数となる。一方、放射輝度I2,I3は、溶融スラグSlの表面から放射された放射光の輝度を表す。この放射輝度I2,I3の放射率は、本発明の発明者らが見出した溶融スラグSlの半透明性によれば、温度だけでなく、溶融スラグSlの厚みに依存する。従って、放射輝度I2よりも放射輝度I3の方が輝度が高い。放射輝度I3は、溶融スラグSlの厚みが十分に厚く、その放射率は、溶融スラグSl固有の値で安定すると考えられる。これに対して、放射輝度I2は、溶融スラグSlの厚みが十分ではなく、かつ、溶融スラグSlが半透明性を有するため、溶銑Meから放射される放射輝度が加算された状態になると考えられる。
【0055】
図3に、この溶銑Meからの放射光の一部が溶融スラグSlを透過し、更に、溶融スラグSl自身の放射光も加わった放射輝度I2を、溶銑Me及び溶融スラグSlの表面が平面であると仮定して、詳しく模式的に示す。図3中、放射輝度Isは、溶融スラグSl自身から放射される放射光の輝度を表し、放射輝度Imは、溶銑Meから放射されて溶融スラグSlを透過した放射光の輝度を表す。一方、図3中の放射輝度Iは、撮像部110で撮像される輝度を表す。つまり、この放射輝度Iは、溶融スラグSlの表面から発せられる図2中の放射輝度I2(場合によっては、放射輝度I3)を表す。なお、本発明の一実施形態で使用される撮像部110については、詳しく後述する。
【0056】
溶融スラグSlの厚みをdとすると、上記放射輝度Is,Imは、共にdの関数として表される。従って、撮像される放射輝度I(つまり、見かけ上の放射輝度)も、溶融スラグSlの厚みdの関数となる。なお、放射輝度I,Is,Imが温度Tの関数でもあることは、言うまでもない。
【0057】
ここで、放射輝度Is,Imの光線が、溶融スラグSlと大気(媒質)との間の界面を垂直に通過すると仮定すれば、その界面で生じる放射輝度の損失、つまり、界面反射損失lnは、幾何光学理論から下記式3で表される。
【0058】
【数3】

【0059】
なお、この式3中、nは大気の屈折率(1.0)を表し、nは溶融スラグSlの屈折率を表す。出銑流1に含まれ溶銑Meから分離した溶融スラグSlを採取して、その屈折率nを測定したところ、本発明の発明者らは、屈折率nが約1.5であることを確認した。
【0060】
この屈折率nも、溶融スラグSlの放射率と同様に、溶融スラグSlに含まれる成分や混合比により若干変化すると予想されるが、説明の便宜上、ここでは、屈折率nを1.5と仮定する。すると、上記式1からは、溶融スラグSlの界面反射損失lnは、約4%(ln≒0.04)であることが判る。
【0061】
一方、上記撮像される見かけ上の放射輝度Iについて考えると、以下の式4,式5で表される。なお、式4及び式5中、dは上述の通り溶融スラグSlの厚み([mm])を表し、ε(d)は厚みdに応じた溶融スラグSlの放射率を表し、τ(d)は厚みdに応じた溶融スラグSlの透過率を表し、εは溶銑Meの放射率を表す。そして、IはWienの式の黒体放射輝度([W・m−2・μm−1・sr−1])であり、下記式6で表される。前述したのと同様、式6中、c1は黒体放射の第1定数(1.1910×10−16[Wm−2])、cは黒体放射の第2定数(0.014388[mK])、λは観測波長([m])をそれぞれ表す。
【0062】
【数4】

【0063】
なお、厳密に言えば、式4に示す放射輝度Iには、溶融スラグSlの内部における多重反射が含まれることになる。しかしながら、上記式3から計算された界面反射損失lnが4%であり、かつ、溶融スラグSl内の伝搬時の減衰もあるので、このような内部多重反射の成分は、無視できる程に小さい。
【0064】
更に、上記式5中の溶融スラグSlの透過率τは、ランバート・ベールの法則と、スラグ・大気間の界面反射損失lnに基づき、下記式7となる。同様に、溶融スラグSlの放射率εは下記式8で表される。なお、式7中のkは、溶融スラグSlの減衰係数([1/mm])である。
【0065】
【数5】

【0066】
従って、上記式5に、この式7及び式8を代入して整理すると、溶融スラグSlの見かけの放射輝度Iは、下記式9で表される。本発明の一実施形態に係る撮像部110はこの放射輝度Iを観測する。式9で、溶融スラグSlの表面から発せられた放射輝度Iの見かけの放射率ε、つまり、見かけの放射率ε(d)は、下記式10となる。
【0067】
【数6】

【0068】
本発明の発明者らは、上記界面反射損失lnを求めた溶融スラグSlの試料を使用して、減衰係数kを実験的に求めた。つまり、溶融スラグSlの試料に対して、厚みdを測定し、本発明の一実施形態で使用する撮像部110が撮像する波長λと同じ波長λの光線(半導体レーザ)を試料に照射して、その透過光強度を観測した。その結果、溶融スラグSlの減衰係数kとして、0.37[1/mm]を得た。
【0069】
上記のk=0.37[1/mm]を式10に代入すると、溶融スラグSlの厚みdをパラメータとした見かけの放射率εの変化を表すグラフが得られる(図4参照。)。見かけの放射率εは、溶銑Meの放射率ε(≒0.4)から厚みdに応じて増加して、最終的には約0.96に集束する。この実効放射率εの集束値は、上記式10の厚みdを無限大とした場合の下記式11に、界面反射損失lnを代入した値からも判る。
【0070】
【数7】

【0071】
上記式10や図4からも判るように、溶融スラグSlの厚みdが10mmに達する付近から、見かけの放射率εは高位安定と見なせる。一方、出銑流1の直径は、約100mm程度であり、図11(b)及び図11(c)等のような実際の熱画像では、表面上の溶融スラグSlのサイズが10mm程度ある個所が散在するので、このような部位では溶融スラグSlの厚み(深さ)dも10mm程度あると考えられる。
【0072】
つまり、このような発見(特性1等)及び考察に基づいて、本発明の発明者らは、溶融スラグSlの熱放射光中の最高の熱放射輝度が撮像された結果である最高画像輝度Lmaxに対応する見かけの放射率εは、約0.96と見なすことが可能であることを見出した。なお、本発明の発明者らは、溶融スラグSlの見かけの放射率εに対する上記見地から、溶融スラグ以外の測温対象についても、その測温対象が光学的に透明又は半透明である場合には、その測温対象の見かけの放射率εも上記式11を満たすことを解明した。
【0073】
(2−1−2.特性2:溶融スラグの熱画像には反射光が含まれること)
次に、溶融スラグの見かけの放射率が局所的に高くなることについて本発明の発明者らが解明した特性2について、図5〜図7を参照しつつ説明する。ここでは説明を判り易くするため、上記特性1の説明において「溶融スラグの表面が平坦である場合に放射率が溶融スラグの厚みの関数となる」と説明した見かけの放射率のことを「平坦表面放射率」と呼び単にεと記す。そして、平坦表面放射率が溶融スラグの表面形状に依存して変化することを「見かけの放射率」(記号E)として扱う。図5は、溶融スラグの見かけの放射率について説明するための説明図である。図6及び図7は、溶融スラグの平坦表面放射率と見かけの放射率との関係について説明するための説明図である。
【0074】
本発明の発明者らは、高炉出銑流中の溶融スラグの濃度ピークP2の分散が溶銑よりも大きく、その結果、局所的に見かけの放射率が高くなっていることについて、前述の特性1以外にも原因がないかを調査した。その結果、本発明の発明者らは、溶融スラグの熱画像には反射光が含まれることを発見した。つまり、本発明の発明者らは、溶融スラグの放射率等を以下のように考察する。
【0075】
高炉から出銑される出銑流1は、溶融物であり流動しており、その表面には波が発生している。特に溶融スラグは粘性が高く、出銑流1の溶融スラグの表面状態は、波・凹凸・隆起などが発生した平坦ではない形状を有する。図5には、この溶融スラグSlの表面Sの状態を示す。この溶融スラグSlの表面Sからは、その温度Tと放射率ε(平坦表面放射率)に応じた熱放射輝度(直接光I0)の熱放射光が発せられる。本発明の一実施形態に係る撮像部110が撮像する熱放射光を考えると、溶融スラグSlの表面Sからの直接光I0だけでなく、別の個所から発せられた直接光I0が溶融スラグの表面Sで反射した反射光Iri(iは反射回数を表した自然数)も、撮像部110により同時に撮像される。よって、撮像部110に撮像される見かけの放射光Iは、近似式12で表される。
【0076】
【数8】

【0077】
光学におけるキルヒホッフの法則によれば放射率εは、光の吸収率aと等しく、光の反射率rは、r=1−a=1−εと表される。従って、溶融スラグ上の各反射光Lriの濃度Iriは、反射回数i及び反射率rにより式13,14で表される。
【0078】
【数9】

【0079】
この式13中、Iは黒体放射輝度を表す。式13により、式12は、下記式15及び式16のように表される。
【0080】
【数10】

【0081】
従って、撮像部110の撮像素子に撮像される放射輝度Iの見かけの放射率Eは、溶融スラグの平坦表面放射率εにより下記式17で表される。
【0082】
【数11】

【0083】
これらの式から計算される、平坦表面放射率εと反射光を含む見かけの放射率Eとの関係を図6及び図7に示す。図6及び図7には、反射光が含まれない場合(平坦表面放射率ε)、1次反射光(i=1)が含まれる場合、2次反射光(i=1,2)まで含まれる場合、3次反射光(i=1,2,3)まで含まれる場合のそれぞれの見かけの放射率Eを示した。なお、図7は、平坦表面放射率ε及び見かけの放射率Eが0.9〜1の範囲における図6の拡大図である。
【0084】
図6及び図7に示すように、反射光が重なり合えば、見かけの放射率Eは、平坦表面放射率εよりも1に近づくことが判る。溶融スラグが厚く、平坦表面放射率εが1に近いほど、見かけの放射率Eも1に近づくが、平坦表面放射率εが1に近くなくても、上述のように反射光を含み、その反射数が高くなると、見かけの放射率Eは1に近づくこととなる。溶融スラグのような溶融物は流動しているため、その表面状態には波が存在し、見かけの放射光には、高次の多重反射光が含まれうる。
【0085】
例えば溶融スラグが厚くて溶融スラグの平坦表面反射率εが0.96であり、更に、1次反射光が含まれる場合には、撮像部110に撮像される光の見かけの放射率Eは、0.998となる。見かけの放射率Eが0.998であれば、放射率を1と仮定したとしても測温誤差は僅か0.3℃であり、実用上全く問題にならない。さらに、例えば2次以上の反射光を含む場合には、見かけの放射率は、ほぼ1.000となり、測定誤差を更に低減することが可能となる。
【0086】
つまり、このような発見(特性2等)及び考察に基づいて、本発明の発明者らは、溶融スラグSlの表面が波立っている場合、最高輝度に対応する見かけの放射率Eは、半透明性による平坦表面放射率εの最大値よりも1に近づくことを見出した。なお、本発明の発明者らは、溶融スラグSlの見かけの放射率Eに対する上記見地から、溶融スラグ以外の測温対象についても、その測温対象が溶融物で表面が波立っている場合には、その測温対象の見かけの放射率Eも、平坦表面放射率又は真の放射率より1に近づくことを解明した。
【0087】
(2−1−2.見かけの放射率のまとめ)
以上、本発明の発明者らが、出銑流1中の溶融スラグで局所的に見かけの放射率が高くなっていること等について鋭意研究を行った結果明らかにした溶融スラグの特性1,2と、その特性1,2に基づき今回初めて明らかにした溶融スラグの見かけの放射率Eについて説明した。この見かけの放射率Eについてまとめると、以下の条件1,2が言える。
【0088】
条件1:溶融スラグは光学的に半透明であり、この場合、最高輝度(最高画像輝度Lmax)における溶融スラグの見かけの放射率εは0.96と見なすことができる。
条件2:溶融スラグの表面が波立っている場合、撮像画像には1重又は多重反射光が含まれるため、最高輝度(最高画像輝度Lmax)における溶融スラグの見かけの放射率Eは、上記条件1の放射率(平坦表面放射率ε)から更に1に近づく。
【0089】
従って、本発明の一実施形態に係る放射測温装置は、溶融スラグを測定する場合、最高画像輝度Lmaxに対する放射率Eとして0.96〜1のいずれかの値を使用して、溶融スラグの温度Tを、より正確に求めることを可能にしている。以下、この本発明の一実施形態に係る放射測温装置について具体的に説明する。
【0090】
(2−2.放射測温装置100の構成)
図1に、本発明の一実施形態に係る放射測温装置100の構成を示す。
図1に示すように、本実施形態に係る放射測温装置100は、撮像部110と、画像処理部121と、画像データ記憶部122と、最高輝度検出部123と、温度算出部124と、校正データ記憶部125と、表示部131と、温度データ記憶部132とを有する。
【0091】
撮像部110は、出銑口10から出銑され樋カバー13に隠れるまでの間の出銑流1から発せられる熱放射光の熱放射輝度の2次元分布(「熱放射輝度分布」ともいう。熱放射輝度の分布の一例)を撮像する。撮像部110は、特に流動する溶融物の一例であり出銑流に含まれる溶融スラグの熱放射輝度を撮像する。この撮像部110は、出銑流1に近接される必要はなく、遠隔撮像が可能である。また、撮像部110は、出銑流1の飛散や周囲の温度などを考慮して、撮像面前方に冷却ガスが吹き出す空冷ジャケットに収納されることが好ましい。撮像部110は、熱放射輝度分布を撮像するために、波長選択フィルタと、高速シャッターと、撮像素子とを有する(図示せず)。
【0092】
波長選択フィルタは、波長選択部の一例であり、撮像素子へと透過する光の波長を選択する。波長選択フィルタとしては、例えば中心透過波長が0.65μmのフィルタを使用することができる。この波長選択フィルタは、測温対象が放射した光の光路上において、撮像素子の上流側に配置される。つまり、波長選択フィルタが配置されることにより、撮像素子は、ほぼ一定の波長λの輝度のみを捉えることができる。よって、後述する温度算出時の波長λは、この波長選択フィルタによって決定される。しかし、ほぼ一定の波長λのみを撮像することが可能な撮像素子を使用すれば、波長選択フィルタを省略することも可能である。
【0093】
高速シャッターは、撮像素子が所定の時間で露光されるように、露光時間を調整する。高速シャッターは、例えば、撮像素子の露光時間を電子的に制御する電子シャッターである。溶融スラグを含む出銑流は、例えば5〜10m/secの噴出速度で出銑される。よって、高速シャッターによる露光時間は、溶融スラグの流動状態に応じた時間、つまり、この出銑流が、「像流れ」しない程度の時間に設定される。換言すれば、露光時間は、図11(a)〜(c)に示したように、出銑流が像流れしてぼやけて撮像されることを防ぎ、かつ、溶銑と溶融スラグによるマーブル模様を撮像することが可能な時間に設定される。溶融スラグは、乱流状態で流出しているので、噴出方向へと移動するだけでなく出銑流の内部で対流しており、溶融スラグの表面の状態(波立ち、凹凸状態)は、時事刻々と変化している。ここでは、例えば移動している状態や対流している状態などのように、表面が波立ち、かつ、表面状態が変化しうる溶融スラグ(溶融物である測温対象)の状態を「流動状態」ともいう。一方、撮像部110の撮像画像には、像流れせず、かつ、ぼやけていない溶融スラグの表面状態が明瞭に撮像されることが好ましい。従って、露光時間は、この溶融スラグの流動状態に応じた所定の時間に設定されることが好ましい。
【0094】
例えば、溶融スラグの噴出速度が5〜10m/secの場合には、露光時間は1/5000sec以下であることが好ましく、更に1/10000sec以下であることが好ましい。なお、露光時間が1/10000secの場合、出銑流は露光中に約1mm程度進むことになる。露光時間は、これらの例に限定されず上述の通り、溶融スラグの表面状態を像流れせずに撮像しうる時間に設定される。また、露光時間が短すぎる場合には、光量不足などにより画像輝度にノイズが発生し温度の算出精度が低下する可能性があるので、露光時間の下限は集光レンズや撮像素子の感度等にも依存する。
【0095】
撮像素子は、撮像面を形成し、出銑流1から放射された熱放射光を捉え、その輝度に応じた電気信号に変換する。つまり、この電気信号の大きさには、出銑流1の熱放射光の熱放射輝度が反映される。この電気信号の大きさのことを、ここでは「濃度」や「強度」というが、輝度を反映しているという意味で「輝度(画像輝度)」ともいう。デジタル化されて扱われる撮像素子の濃度の階調数は、例えば、溶融物の流動状態・粘性・放射測温装置100の測温精度などに応じて設定される。例えば階調数が8bitの256階調に設定される場合、1階調の変化は、温度で約2℃程度の変化に相当する。撮像部110が撮像する撮像画像の空間的な解像度、つまり画素数は、撮像面を形成する撮像素子の個数などに依存する。この画素数は、測温対象である溶融物の表面状態を捉えうる値に設定される。なお、撮像素子としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal−Oxide Semiconductor)などの様々なモノクロイメージセンサ(特にモノクロに限定はされない。)を使用することができる。この撮像素子で撮像される画像のことを、「撮像画像」や「画像」ともいい、熱放射輝度を捉えた画像であるという意味で「熱画像」ともいう。この撮像画像中の各画素は、それぞれ対応する撮像素子が捉えた放射光の輝度に応じた濃度(画像輝度)を値として格納する。つまり、濃度は、放射光の輝度に応じた値を有して、各画素の位置に応じて撮像画像中に分布している(図11参照。)。この撮像画像について、濃度の大きさに対して、各濃度階調の画素の個数の分布状態を表したヒストグラムを、ここでは「熱放射輝度ヒストグラム」や「濃度ヒストグラム」等ともいう(図12参照。)。なお、カラーイメージセンサを用いる場合は、例えばRGBの3色で画素を構成しているときには特定の1色の濃度あるいは3色の平均濃度と放射光の輝度とを対応付けるようにすればよい。その他のタイプのカラーイメージセンサを用いても良いことは明らかである。
【0096】
なお、このように構成される撮像部110は、黒体炉を利用して温度校正され、例えば露光時間などの設定値が校正を行ったときの設定に固定される。この撮像部110の校正について、図8を参照しつつ説明する。図8は、本実施形態に係る放射測温装置による温度校正について説明するための説明図である。
【0097】
まず、例えば露光時間、レンズの絞りや焦点距離などの設定を、撮像部110の配置場所及び撮像対象(ここでは出銑流1)などに合わせて調整する。そして、撮像部110により、黒体炉(温度を高精度に制御できる放射率1の基準放射源)を測定する。この測定を黒体炉の温度を変更しながら行う。その結果、黒体炉の温度と、その黒体の放射輝度を撮像した際の画像輝度(濃度)との関係を対応付ける「校正データ」が測定される。この校正データの例を図8に示す。更に、校正データから、図8に示す黒体温度と画像輝度(濃度)との検量線を、引数を画像濃度とし出力値を黒体温度とする関数にフィッティングする。そして、関数にフィッティングされた校正データを、校正データ記憶部125に記録する。なお、図8に示した校正データは、撮像部110の構成や設定値により異なる。かかる校正を行うことにより、撮像部110を2次元放射計として使用することができる。
【0098】
画像処理部121は、撮像部110が撮像した熱画像を取り込み、空間フィルタなどを用いて熱画像にスムージング処理を施す。画像処理部121は、スムージング処理として、例えば、熱画像の各画素の濃度を、隣接する複数の画素(例えば3画素)で平均化する。このようにスムージング処理を施すことにより、熱画像中のノイズを低減させることができる。スムージング処理が施された熱画像は、最高輝度検出部123に出力される。また、この熱画像は、画像データ記憶部122に記録されてもよい。
【0099】
なお、この際、画像処理部121は、溶融スラグの表面状態を検出してもよい。より具体的には、画像処理部121は、例えば、図11に示すような熱画像から出銑流1の領域を抽出し、その領域と他の領域との境界(つまり、溶融スラグを含む出銑流1の表面)を抽出する。そして、画像処理部121は、この境界から出銑流1にどの程度の大きさの波又は凹凸が生じているかを検出してもよい。なお、ここでは、上記境界から波等の大きさを検出する場合について説明しているが、画像処理部121は、出銑流1の表面を表す熱画像から直接、波等の大きさを検出することも可能である。この検出された波等の大きさは、温度算出部124に出力されたり、画像データ記憶部122に記録され、後述の温度算出過程において使用されうる。
【0100】
最高輝度検出部123は、画像処理部121が画像処理した熱画像中から、放射輝度が最も高い輝度を検出する。つまり、最高輝度検出部123は、輝度に対応した各画素の濃度中、最高濃度を検出する。最高輝度検出部123が検出する最高濃度は、図12に示した濃度ヒストグラムの例で言えば、横軸の画像濃度が最も大きい値を示す。なお、ここでは、最高濃度は、最も高い輝度に対応するという意味で「最高画像輝度Lmax」ともいう。
【0101】
この最高輝度検出部123は、1枚の熱画像中から最高画像輝度Lmaxを検出してもよいが、画像データ記憶部122に記録された連続する(短時間で撮像された)複数枚の熱画像中から、その複数枚の熱画像にわたって最も高い濃度を、最高画像輝度Lmaxとして検出してもよい。以下で説明するように、放射測温装置100は最高画像輝度Lmax(最高濃度)に基づいて測温対象の温度を算出するが、最高輝度検出部123が複数枚の熱画像から最高画像輝度Lmaxを検出することにより、更に溶融スラグの測温精度を向上させることができる。
【0102】
温度算出部124は、最高輝度検出部123が検出した最高画像輝度Lmax(最高輝度の一例。最高濃度ともいう。)に基づいて、測温対象の一例の溶融スラグの温度を算出する。この際、温度算出部124は、上述の校正データ記憶部125に予め記憶された撮像部110の校正データを使用し、かつ、最高画像輝度Lmaxにおける溶融スラグの見かけの放射率Eとして0.96〜1のいずれかの値を使用して、溶融スラグの温度を算出する。つまり、温度算出部124は、上記条件1,2で説明したように、「溶融スラグの最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eを0.96〜1のいずれかの値と仮定可能であること」を利用することにより、溶融スラグの温度Tを算出する。
【0103】
より具体的に説明すると、温度算出部124は、まず、最高画像輝度Lmaxから溶融スラグの黒体温度(溶融スラグを黒体と仮定した場合の見かけの温度)Tを、図8に例示した校正データに基づいて求める。そして、溶融スラグに対して設定した放射率Eに基づいて、下記式18により、真の溶融スラグ温度Tを算出する。なお、式18中では黒体温度Tと、真の溶融スラグ温度Tを絶対温度で扱う。最高画像輝度Lmaxにおける溶融スラグの放射率を1とする場合、温度算出部124は、校正データの関数に最高画像輝度Lmax(最高濃度)を代入して黒体温度Tを算出し、これを溶融スラグの温度Tとする。
【0104】
【数12】

【0105】
この溶融スラグの温度Tを算出する際、温度算出部124は、上述の通り、最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eとして0.96〜1のいずれかの値を使用する。この際、放射率Eは、予め適切な値に設定されてもよいが、この放射率Eの選択は、例えば、以下のように行われることが望ましい。
【0106】
例えば、温度算出部124は、単純に、見かけの放射率Eを1に設定することが可能である。上記条件1,2で説明した通り、見かけの放射率Eは、溶融スラグが半透明であるため0.96と見なすことができ、かつ、波が存在すれば更に1に近づく。仮に、放射率Eを1に設定したが、反射光が含まれず実際の見かけの放射率Eが0.96程度であったとしても、この場合の測定誤差は、約5℃程度であり、実用上許容しうる測温が可能である。一方、図7からも判るように、1次反射光Ir1が含まれるだけで見かけの放射率Eは、0.998と非常に1に近づくため、このように放射率Eを1に設定した場合には、より精度の高い測温が可能となる。
【0107】
なお、出銑流1の波立ちが小さく、放射率Eが1と見なせるほど多重反射が生じる箇所がない撮像画像が、撮像部110により撮像されることも考えられる。そこで、最高輝度検出部123が、短時間に撮像され画像データ記憶部122に記録された複数枚の撮像画像にわたる最高画像輝度Lmaxを検出することにより、温度算出部124は、見かけの放射率Eが1に近づくのに十分な多重反射が生じる確率を高め、測温精度を向上させることができる。また、このことは、条件1にも当てはまる。つまり、溶融スラグの厚みが薄く、平坦表面放射率εが0.96よりも小さい撮像画像が、撮像部110により撮像されることも考えられる。この場合にも、最高輝度検出部123が、短時間に撮像され画像データ記憶部122に記録された複数枚の撮像画像にわたる最高画像輝度Lmaxを検出することにより、温度算出部124は、平坦表面放射率εが0.96に近づく確率を高めて、測温精度を向上させることができる。
【0108】
また、例えば、温度算出部124は、画像処理部121が溶融スラグの表面状態を検出している場合、溶融スラグの表面に生じている波の大きさに応じた値に、放射率Eを設定することも可能である。この場合、例えば、反射光が含まれうる波の大きさを予め測定して閾値とし、温度算出部124は、この閾値と、画像処理部121が検出した波の大きさとに基づいて、反射光の有無を判断する。そして、温度算出部124は、反射光が含まれない場合には、放射率Eを0.96に設定し、反射光が含まれる場合には、放射率Eを1に設定することも可能である。溶融スラグのように平坦表面放射率εが0.96と1に近くはない測温対象を測定する場合には、図6に示すように、見かけの放射率Eは、含まれる反射光の反射回数に応じて、段階的に変化する。従って、上記の溶融スラグに対する反射光の選択のための閾値を、含まれる反射光の反射回数毎に設定し、温度算出部124に、放射率Eを段階的に調整させることも可能である。なお、この反射率Eを、段階的に調整する場合と同様に、連続的に変化させることももちろん可能である。
【0109】
引き続き図1を参照し、放射測温装置100が有する他の構成について説明すると以下の通りである。
表示部131は、温度算出部124が算出した溶融スラグの温度Tを表示する。この溶融スラグの温度Tは、上述の通り、同じ湯溜まりから出銑された溶銑の温度ともほぼ等しく、また、高炉の湯溜まりから出銑された直後であるため湯溜まりの温度をも反映している。従って、放射測温装置100によれば、湯溜まりの温度をより正確に測定することができる。また、温度算出部124が算出した溶融スラグの温度Tは、温度データ記憶部132に記録されてもよい。放射測温装置100は、関連技術に係る接触式の測温装置の間欠測温に比べて、秒オーダーのごく短い時間間隔で測定を繰り返すことができる。よって、温度データ記憶部132に測定温度Tを記録することで、高炉の内部の温度の変化を連続的に測定することができる。
【0110】
(2−3.放射測温装置100の動作)
次に、本実施形態に係る放射測温装置100の動作について、図9を参照しつつ説明する。図9は、本実施形態に係る放射測温装置の動作について説明するための説明図である。
【0111】
まず、ステップS01が処理され、撮像部110が、測温対象である溶融スラグを含む出銑流1から熱放射された放射光を撮像する。この撮像画像は、画像処理部121に出力される。そしてステップS03に進む。
【0112】
ステップS03では、画像処理部121が撮像画像に上記スムージング処理などを施す。そして、画像処理部121は、撮像画像を、最高輝度検出部123に出力すると共に画像データ記憶部122に記録する。なお、このステップS03では、画像処理部121が、溶融スラグの表面状態、つまり、波(凹部)の大きさも検出することが望ましい。そしてステップS05に進む。
【0113】
ステップS05では、最高輝度検出部123が、画像処理部121から出力された1枚の撮像画像、又はこの1枚の撮像画像を含む画像データ記憶部122に記録された複数枚の撮像画像(短時間に撮像された複数枚の撮像画像)から、最高輝度に相当する最高画像輝度Lmaxを検出する。なお、上述の通り最高画像輝度Lmaxは、溶融スラグの厚みに依存した平坦表面放射率εの直接光I0と、その表面状態に依存した反射光Iri(iは放射光の反射回数を表した自然数)と、を含む見かけの輝度に対応しており、比較的厚い溶融スラグかからの直接光I0や多重反射した反射光Iriを含むことが望ましい。従って、最高輝度検出部123が複数枚の撮像画像から最高画像輝度Lmaxを検出することにより、比較的厚い溶融スラグかからの直接光I0や、多数回反射した反射光Iriをより多く含む見かけの輝度が撮像画像に撮像されている確率を高めることができ、放射測温装置100の測温精度を向上させることができる。次にステップS07に進む。
【0114】
ステップS07では、温度算出部124により、見かけの放射率Eが設定される。なお、この際、温度算出部124は、単純に、予め設定された値(例えば1)を放射率Eに設定することも可能であるが、更に、ステップS03で検出された波の大きさに応じた値を放射率Eに設定することも可能である。次にステップS09に進む。
【0115】
ステップS09では、温度算出部124が、最高輝度検出部123が検出した最高画像輝度Lmaxと、図8に例示した校正データの関数とに基づいて黒体温度Tを算出する。そして、黒体温度Tと放射率Eとを式18に代入して溶融スラグの温度Tを算出する。そしてステップS11に進む。
【0116】
ステップS11では、温度算出部124が算出した溶融スラグの温度Tが、表示部131に表示され、かつ、温度データ記憶部132に記録される。この際、表示部131は、温度の時間変化を履歴としてグラス表示させてもよいことは言うまでもない。そしてステップS13に進む。
【0117】
ステップS13では、放射測温装置100が、測温が停止されたか否かを確認する。例えば、放射測温装置100の上位の制御装置による指令値・ユーザの入力値・高炉の出銑状態などに応じて、測温が自動的に停止されてもよい。そして、測温が停止された場合には、放射測温装置100は、動作を終了し、測温が停止されていない場合には、放射測温装置100は、上記ステップS01以降の処理を繰り返し行う。従って、放射測温装置100は、溶融スラグの温度Tを連続的に撮像することができる。なお、放射測温装置100は、ステップS01〜ステップS10の処理を、例えば1秒間に1回以上繰り返し行うことも可能である。
【0118】
(2−4.放射測温装置100による測定例)
次に、本実施形態に係る放射測温装置100の測定例について、図10を参照しつつ説明する。図10は、本実施形態に係る放射測温装置による測定例について説明するための説明図である。ここでは、操業中の高炉に対して、本実施形態に係る放射測温装置100により、出銑口10から出銑される溶融スラグの温度Tを測定した。また、放射測温装置100の性能を比較するために、出銑樋12の下流において、関連技術に係る接触式の測温装置である熱電対を出銑流1に浸漬することにより、出銑流1の測温を行った。出銑流1の温度と溶融スラグの温度Tとはほぼ等しくなることが予想される。
【0119】
なお、熱電対としては、通常使用されるR熱電対(操業で使用されている浸漬消耗型熱電対)を使用した。また、撮像部110としては、モノクロCCDカメラを使用して、高速シャッターの露光時間を1/10000秒として高速露光で撮像した。また、撮像素子の階調数は、8bitの256階調とした。そして、波長選択フィルタにより、λ=0.65の光を透過させて撮像素子に撮像させた。この撮像部110を、予め黒体炉で温度校正し、校正データを校正データ記憶部125に記録させた(図8参照。)。また、溶融スラグの温度Tを求める際に使用する最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eとしては、1を使用した。
【0120】
そして、高炉の出銑開始から約3時間の間、放射測温装置100は、所定の時間間隔で連続的な測温を行い、一方、熱電対により、おおむね30分間隔で間欠的に測温を行った。また、図1に示すように、撮像部110により、高炉の出銑口10から出銑する溶銑・溶融スラグの噴流を横方向から撮像した。その結果、図11に示したような熱画像が撮像された。
【0121】
放射測温装置100の測温結果の履歴を図10に示した。表示部131が履歴をグラフ表示させる場合、図10に示すグラフが表示されてもよい。図10には、放射測温装置100による測温結果と共に、熱電対による測定結果を比較のために表示した。図10に示すように、放射測温装置100の測温結果と、熱電対の測温結果とが精度よく一致することが確認された。つまり、本実施形態に係る放射測温装置100が溶融スラグの温度Tを精度よく測定可能であることが判る。また、熱電対による測定に比べて、放射測温装置100は、連続的な測温が可能である。
【0122】
(2−5.放射測温装置100による効果の例)
以上、本発明の一実施形態に係る放射測温装置100について説明した。この放射測温装置100によれば、最高画像輝度Lmaxから温度Tを算出することにより、表面が波立つ溶融物の一例である溶融スラグの温度Tを正確に測定することができる。この際、放射測温装置100は、溶融スラグの正確な放射率εが判っている必要はない。関連技術に係る上記特許文献1の放射測温装置は、溶銑の流出が無ければ出銑流1の測温を行うことは難しかったが、本実施形態に係る放射測温装置100、溶融スラグの温度Tを測定することにより、溶銑があまり含まれない出銑流1(例えば出銑開始後の約数十分間)の温度をも測定することができる。また、放射測温装置100は、連続的な測温が可能であるので、高炉内部の温度の時間変化を測定することが可能である。従って、高炉内部の熱状況について、これまでより多くの情報を得ることができ、高炉操業をより安定させることができる。この際、放射測温装置100は、溶融物の一例である溶融スラグの平坦表面放射率εは0.96に近似する。そして、放射測温装置100は、溶融スラグの表面が大きく波立っている場合、見かけの放射率Eを1と近似する。その結果、測定誤差を減少させることができる。従って、放射測温装置100は、著しく波立つような溶融物の温度を測定できるだけでなく、関連技術では測温を困難にしていた著しい波立ちを逆に利用して、測温精度を向上させることができる。更にこの際、放射測温装置100は、出銑開始初期のように溶融スラグが大半を占める場合だけでなく、溶銑と不均一に混合されて混濁した状態であっても、溶融スラグの最高輝度を検出して測温することが可能である。
【0123】
更に、本実施形態に係る放射測温装置100は、出銑口10の近傍に配置される必要はなく、ある程度離れた場所から溶融スラグの温度Tを遠隔測定することができるので、例えば出銑流1の熱放射・スプラッシュ飛散などに対する環境対策が簡便である。また、放射測温装置100は、出銑口10から出銑された直後の溶融スラグの温度を測定できるので、出銑樋12の下流で測定を行う関連技術に係る熱電対よりも、炉内温度に近い溶融スラグの温度を測定することができる。
【0124】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0125】
例えば、上記実施形態では、測温対象である流動する溶融物の一例として、溶融スラグを例に説明したが、本発明はかかる例に限定されるものではない。溶融スラグ以外の測温対象を測温する場合について、説明すれば、以下の通りである。
【0126】
上記実施形態では、溶融スラグから発せられる熱放射光の最高輝度に相当する最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eを、条件1,2に基づき0.96〜1に近似した。これに対して、本発明の発明者らは、溶融スラグの特性1,2に対する考察に基づいて、溶融スラグ以外の測温対象についても、最高画像輝度Lmaxを用いれば、同様に測温が可能であることを見出した。この場合、上記条件1,2は、それぞれ下記条件3,4と言い換えることが可能である。
【0127】
条件3:測温対象が熱放射輝度の少なくとも一部を透過する場合、つまり、測温対象が光学的に半透明か透明である場合、その測温対象の大気との界面の反射損失lnとすると、式11より、その最高画像輝度Lmaxにおける見かけの放射率(平坦表面放射率)εは(1−ln)と見なすことができる。
条件4:測温対象の表面が波立った状態である場合、つまり、測温対象の表面に凹部が存在する場合、撮像画像には1重又は多重反射光が含まれるため、その最高画像輝度Lmaxにおける見かけの放射率Eは、上記条件3の平坦表面放射率ε(条件1を満たさない場合には真の放射率)よりも更に1に近づく。
【0128】
なお、上記実施形態の溶融スラグの場合も同様であるが、測温対象は、上記条件3,4(条件1,2)の両方を満たす必要は必ずしもなく、どちらか一方を満たせば、最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eを所定の値に近似することが可能となる。例えば、測温対象が光学的に半透明であるが、その表面が平坦な場合、つまり、条件3を満たすが、条件4を満たさない場合には、放射測温装置100は、条件3から、その測温対象の最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eを(1−ln)に近似することが可能である。逆に、例えば、測温対象が光学的に透明でもなければ半透明でもないが、その表面が波立った状態である場合、つまり、条件3を満たさないが、条件4を満たす場合には、放射測温装置100は、その測温対象の真の放射率が予め特定されていないとしても、条件4から、最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eを1に近似することが可能である。
【0129】
この条件3を満たさず条件4を満たす場合について、例を挙げて説明する。仮に、真の放射率εが0.7付近で変動する測温対象について、放射測温装置100が、その最高輝度に相当する最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eを1に近似して温度を測定したと仮定する。この場合、放射率εが±0.1変化すれば、その測定誤差は±20℃程度となり、実用上許容しうる誤差とは言い難い。一方、上記のように波立ちが起こっていて、最高画像輝度Lmaxを使用し、かつ、見かけの放射率Eとして1を使用する場合、その最高画像輝度Lmaxには、1重又は多重反射光が含まれる。図6からも判るように、その見かけの放射率Eは、2次反射光までが含まれる場合、0.97となる。この場合、見かけの放射率Eを1としておけば、測定誤差は5℃程度となり、実用上許容しうる精度が確保できる。従って、測温対象の真の放射率εが1に近ければ近いほど、最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eも1に近づくが、たとえ、真の放射率εが1と近似できるほど1に近くないとしても、1次反射光、2次反射光、そして更に多重の反射光が重なり合えば、最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eを1に近似して、精度良く測温することが可能である。
【0130】
なお、上記条件3を満たす場合には、上記実施形態で説明した溶融スラグと同様に、放射測温装置100は、条件3,4から、測温対象の最高画像輝度Lmaxに対する見かけの放射率Eを(1−ln)〜1のいずれかの値に近似することにより、条件4を満たすか否かには関係なく、測温精度を高めることが可能である。
【0131】
また、放射測温装置100は、液体表面に凹凸が生じる乱流として流動する様々な溶融を測定することもできる。つまり、放射測温装置100は、光学的に半透明であったり透明であるか、表面が波打っている溶融物であれば、様々な溶融物を測定することができる。この際、溶融物は、溶融スラグのようにある程度の粘性を有し、表面状態に凹凸や隆起が生じているほど、多くの多重反射が発生しうるため、測温精度を高めることができる。また、溶融物自体の正確な放射率εは、上述の通り未知であってもよいが、ある程度1に近い値である場合には、更に正確な測温が可能となる。更に、溶融物は、上記出銑流1のように複数の溶融物が混合したものであっても、測温可能である。この場合、混合された溶融物同士は、マーブル状に分離して撮像されることが望ましく、放射測温装置100は、混合された溶融物中の放射率が高い方の溶融物の温度を測定することにより、混合された溶融物の温度を測定することが可能である。
【0132】
また、例えば、上記各実施形態で説明した一連の処理は、専用のハードウエアにより実行させてもよいが、ソフトウエアにより実行させてもよい。一連の処理をソフトウエアにより行う場合、汎用又は専用のコンピュータにプログラムを実行させることにより、上記の一連の処理を実現することができる。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、HDD(Hard Disk Drive)・ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)等の記録装置と、LAN(Local Area Network)・インターネット等のネットワークに接続された通信装置と、マウス・キーボード等の入力装置と、フレキシブルディスク、各種のCD(Compact Disc)・MO(Magneto Optical)ディスク・DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、磁気ディスク、半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体等を読み書きするドライブと、モニタなどの表示装置・スピーカやヘッドホンなどの音声出力装置などの出力装置等と、を有してもよい。そして、このコンピュータは、記録装置・リムーバブル記録媒体に記録されたプログラム、又はネットワークを介して取得したプログラムを実行することにより、上記一連の処理を実行してもよい。
【符号の説明】
【0133】
1 出銑流
10 出銑口
11 貫通孔
12 出銑樋
13 樋カバー
100 放射測温装置
110 撮像部
121 画像処理部
122 画像データ記憶部
123 最高輝度検出部
124 温度算出部
125 校正データ記憶部
131 表示部
132 温度データ記憶部
Sl 溶融スラグ
Me 溶銑
S 表面
Lmax 最高画像輝度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射率が予め特定されておらず、熱放射光の少なくとも一部を透過させる溶融物である測温対象の温度を測定する放射測温装置であって、
前記測温対象から発せられる前記熱放射光の熱放射輝度の分布を撮像する撮像部と、
前記撮像部が撮像した撮像画像中の最高輝度を検出する最高輝度検出部と、
前記最高輝度検出部が検出した最高輝度に基づいて、前記測温対象の温度を算出する温度算出部と、
を有し、
前記温度算出部は、前記熱放射光に対する前記測温対象の大気との界面の反射損失をlnとすると、前記最高輝度における前記測温対象の放射率として(1−ln)〜1のいずれかの値を使用して、前記測温対象の温度を算出することを特徴とする、放射測温装置。
【請求項2】
前記温度算出部は、前記測温対象が高炉から出銑される出銑流に含まれる溶融スラグである場合、前記最高輝度における前記測温対象の放射率として0.96〜1のいずれかの値を使用して、前記溶融スラグの温度を算出することを特徴とする、請求項1に記載の放射測温装置。
【請求項3】
前記温度算出部は、前記測温対象の表面が波立った状態である場合、該波の大きさに応じた値を前記放射率として使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の放射測温装置。
【請求項4】
前記温度算出部は、前記測温対象の表面が波立った状態である場合、前記最高輝度における前記測温対象の放射率として1を使用して、前記測温対象の温度を算出することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の放射測温装置。
【請求項5】
前記最高輝度検出部は、前記撮像部が撮像した複数の撮像画像にわたる前記最高輝度を検出することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の放射測温装置。
【請求項6】
前記撮像部は、前記測温対象の流動状態に応じた所定時間、撮像素子を露光する高速シャッターを有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の放射測温装置。
【請求項7】
放射率が予め特定されておらず、熱放射光の少なくとも一部を透過させる溶融物である測温対象の温度を測定する放射測温方法であって、
前記測温対象から発せられる前記熱放射光の熱放射輝度の分布を撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで撮像した撮像画像中の最高輝度を検出する最高輝度検出ステップと、
前記最高輝度検出ステップで検出した最高輝度に基づいて、前記測温対象の温度を算出する温度算出ステップと、
を有し、
前記温度算出ステップでは、前記熱放射光に対する前記測温対象の大気との界面の反射損失をlnとすると、前記最高輝度における前記測温対象の放射率として(1−ln)〜1のいずれかの値を使用して、前記測温対象の温度を算出することを特徴とする、放射測温方法。
【請求項8】
前記温度算出ステップでは、前記測温対象が高炉から出銑される出銑流に含まれる溶融スラグである場合、前記最高輝度における前記測温対象の放射率として0.96〜1のいずれかの値を使用して、前記溶融スラグの温度を算出することを特徴とする、請求項7に記載の放射測温方法。
【請求項9】
前記温度算出ステップでは、前記測温対象の表面が波立った状態である場合、該波の大きさに応じた値を前記放射率として使用することを特徴とする、請求項7又は8に記載の放射測温方法。
【請求項10】
前記温度算出ステップでは、前記測温対象の表面が波立った状態である場合、前記最高輝度における前記測温対象の放射率として1を使用して、前記測温対象の温度を算出することを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の放射測温方法。
【請求項11】
前記最高輝度検出ステップでは、前記撮像部が撮像した複数の撮像画像にわたる前記最高輝度を検出することを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載の放射測温方法。
【請求項12】
前記撮像ステップでは、高速シャッターにより、前記測温対象の流動状態に応じた所定時間、撮像素子を露光することを特徴とする、請求項7〜11のいずれかに記載の放射測温方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−236898(P2009−236898A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6986(P2009−6986)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】