説明

放射熱伝達および日射熱取得を低減させた通気層を有する外壁・屋根構造

【課題】建築物の外壁または屋根構造において、従来、空気還流による除湿作用が期待されていた通気層に断熱・遮熱性能を付与することにより、断熱材の厚みを変えないで外壁または屋根の高い断熱・遮熱性能を確保し、断熱・遮熱性能を変えなくてもよい場合は、従来に比べて断熱材を薄くできる。
【解決手段】外壁または屋根構造の外側に設置した通気層9を介して外装材11を設置した建築物において、外装材11と断熱材7の一方または両方の通気層9側の表面に長波長成分の熱放射に対して低放射性能を有する低放射性シート8、8aを設置したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外気熱の室内への放射または、室内熱の外気への放射等の熱移動を外壁または屋根の外面側で遮断する機能を備えた建築物において、とくに高断熱・高遮熱性能を有する外壁または屋根構造に関する。なお、外壁または屋根構造とは、本発明の断熱構造が外壁及び屋根に共通に適用可能であるとの意味で用いる。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建築物においては、十分な断熱構造を採用することが、冷暖房費の節減は勿論、居住空間の快適化につながるものであり、この断熱構造は、夏冬等の冷暖房を要する時期に居住空間を快適に維持する上でも有効である。
【0003】
建築物の断熱構造を大別すると、内断熱方式と外断熱方式に分けられる。内断熱方式は、充填断熱方式ともいわれ、壁体内部から室内側、または構造体の空隙に断熱材を充填する方式であり、外断熱方式は、構造躯体の外側に断熱材を設置する方式である。いずれの断熱工法においても、通気胴縁を介して外装材を設置する方法が取られることが多い。なお、通気胴縁によって外装材との間に通気層が形成されるが、この通気層は従来断熱層としては扱われておらず、専ら湿気除去用の層として使用される方式である。通気層を有する外断熱方式に関連する従来技術としては、特開平10−212813号がある。
【0004】
屋根構造においては、屋根下地材と断熱材または構造材の間、または屋根葺き材と屋根下地材の間に通気層が形成されるが、この通気層に面する表面の放射率、この通気層の通気量、断熱材の断熱力、外装材外表面の日射反射率及び放射率と熱移動の関係に基づいて、通気層に面する表面の放射率を低下させることにより積極的に断熱性能を向上させた技術は開発されていない。
【特許文献1】特開平10−212813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、外壁及び屋根の通気層の断熱機能等は無視されていた。このため、断熱性能、省エネ性能を上げるには、断熱材の仕様・厚みを変化させることになる。
【0006】
しかし、断熱材の厚みを上げることは、単板断熱材ではすまないことであり、複数枚の断熱板を重ねて配置することになり、このため施工手間が上がり、材料費とともに施工費も増大するなど大きなコストアップにつながる問題がある。例えば、断熱性能を上げるために厚み140mmの断熱材を配置する場合は、50mm厚の単板+50mm厚の単板+40mm厚の断熱単板を貼り合せる3回もの施工手間を要するうえ、使用する断熱材料も多く必要となる。
【0007】
例えば、外断熱構造のスチールハウス等において、前述のように通気層は、該通気層の空気還流による除湿作用を期待する程度で、通常は、通気層を含む断熱材から外側は、外気として扱われていたのに対し、本発明では、この通気層を夏場では、外気熱の室内への侵入に対する高断熱・高遮熱層として機能させ、冬場では、この通気層を室内熱の外部への流出抑制層として機能させるよう設計モデルとして取り込んで構成したものである。外断熱構造をこのように設計することで、断熱材の厚みを変えずに、高い断熱・遮熱性能を付与できると共に、断熱・遮熱性能を変えなくてもよい場合は、従来に比べて断熱材を薄くすることができコストダウンが可能な高断熱・高遮熱性能を有する屋根・壁構造を実現可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明は、次のように構成する。
【0009】
第1の発明は、構造駆体の外側の通気層を介して外壁外装材を設置した外壁において、外装材の外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面と放射率が小さい内面を持つ皮膜を外装材の外側表面との間に微小な空間を持たせて設けると共に、外装材の内側表面には放射率の低い皮膜を設けたことを特徴とする外壁構造。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、外装材の内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けることを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、構造駆体の外側の通気層を介して外壁外装材を設置した外壁において、外装材の外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面を持つ皮膜を外装材の外側表面に設け、また外装材の内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けたことを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、第1〜第3の発明において、前記通気層を介して外壁外装材と向かい合う表面に放射率が小さくかつ透湿性のある皮膜を設けたことを特徴とする。
【0013】
第5の発明は、第4の発明において、前記通気層を介して外壁外装材と向かい合う表面皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする。
【0014】
第6の発明は、第1又は第2の発明において、前記外装材外表面皮膜の外面日射反射率が0.5以上、外面放射率が0.7以上、内面放射率が0.5以下で、かつ、外装材の内側表面の皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする。
【0015】
第7の発明は、構造駆体の上側の通気層を介して屋根葺材を設置した屋根、または屋根下地材上側に設置した防水材と屋根葺材の間に通気層のある屋根において、屋根葺材の外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面と放射率が小さい内面を持つ皮膜を屋根葺材の外側表面との間に微小な空間を持たせて設けると共に、屋根葺材の内側表面には放射率の低い皮膜を設けたことを特徴とする。
【0016】
第8の発明は、第7の発明において、屋根葺材の内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けることを特徴とする。
【0017】
第9の発明は、構造駆体の上側の通気層を介して屋根葺材を設置した屋根、または屋根下地材上側に設置した防水材と屋根葺材の間に通気層のある屋根において、屋根葺材の外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面を持つ皮膜を屋根葺材の外側表面に設け、また屋根葺材の内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けたことを特徴とする。
【0018】
第10の発明は、第7〜第9の発明において、前記通気層を介して屋根葺材と向かい合う表面に放射率の小さい皮膜、あるいは放射率が小さくかつ透湿性のある皮膜を設けたことを特徴とする。
【0019】
第11の発明は、第10の発明において、前記通気層を介して屋根葺材と向かい合う表面皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする。
【0020】
第12の発明は、第7又は第8の発明において、前記屋根葺材外表面の外面日射反射率が0.5以上、外面放射率が0.7以上、内面放射率が0.5以下で、かつ、屋根葺材の内側表面の皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする。
【0021】
第13の発明は、構造躯体の外側の通気層を介して外壁外装材を設置した外壁、または、構造躯体の上側の通気層を介して屋根葺材を設置した屋根において、外壁外装材または屋根葺材の外面に日射反射率の高い塗料層を設けると共に、それぞれの通気層に面する2つの表面の少なくとも一方に低放射性シートを取り付けたことを特徴とする。
【0022】
第14の発明は、屋根葺材の外面に日射反射率の高い塗料層を設けると共に、屋根下地材上側に設置した防水材と屋根葺材の間にできる通気層に面する、防水材または屋根葺材の2表面の少なくとも一方に低放射性シートを取り付けたことを特徴とする。
【0023】
第15の発明は、第13又は第14の発明において、前記通気層を介して外壁外装材と向かい合う表面に放射率が小さくかつ透湿性のある皮膜を設け、又は前記通気層を介して屋根葺材と向かい合う表面に放射率の小さい皮膜あるいは放射率が小さくかつ透湿性のある皮膜を設けたことを特徴とする。
【0024】
第16の発明は、第13〜15の発明において、前記外壁外装材または屋根の外面に設ける反射塗料の日射反射率が0.5以上、波長3μm以上の熱放射に対応する放射率が0.7以上であり、かつ、通気層に面する前記表面のどちらかまたは両方に取り付ける低放射性シートのうち、少なくとも一方の放射率が0.3以下であることを特徴とする。
【0025】
第17の発明は、第1〜16の発明において、前記通気層は、外気を取り入れるための開口と取り入れた外気を外に排出するための開口を有する通気層であることを特徴とする。
【0026】
第18の発明は、第1〜17の発明において、前記低放射皮膜が金属箔シート、金属蒸着シート、金属板または表面処理された金属板を含むシート、低放射塗料のいずれかであることを特徴とする。
【0027】
第19の発明は、第1〜18の発明において、前記日射反射率が高くかつ放射率も高い皮膜が、外装材の表面自体または塗装膜であることを特徴とする。
【0028】
第20の発明は、第1〜19の発明において、前記構造耐力上主要な構造駆体が、薄板軽量型鋼または木材、鉄骨、鉄筋コンクリートもしくはこれらの混構造で構成されていることを特徴とする。
【0029】
第21の発明は、第1〜20の発明において、前記外壁通気層の厚さが50mm以下、前記屋根通気層の厚さが100mm以下であることを特徴とする。
【0030】
第22の発明は、構造駆体の外側の通気層を介して設置される外壁用の外装材又は屋根葺材において、外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面と放射率が小さい内面を持つ皮膜を、当該外側表面との間に微小な空間を持たせて設けると共に、内側表面には放射率の低い皮膜を設けたことを特徴とする。
【0031】
第23の発明は、第22の発明において、内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けたことを特徴とする。
【0032】
第24の発明は、構造駆体の外側の通気層を介して設置される外壁用の外装材又は屋根葺材において、外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面を持つ皮膜を設け、また内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けたことを特徴とする。
【0033】
第25の発明は、第22〜第24の発明において、外表面皮膜の外面日射反射率が0.5以上、外面放射率が0.7以上、内面放射率が0.5以下で、かつ、内側表面の皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする。
【0034】
第26の発明は、構造駆体の外側の通気層を介して設置される外壁用の外装材、または構造駆体の上側の通気層を介して設置される屋根葺材において、外側表面に日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い皮膜を設置すると共に、内側表面には放射率の小さい皮膜を設けたことを特徴とする。
【0035】
第27の発明は、第26の発明において、外表面皮膜の外面日射反射率が0.5以上、外面放射率が0.7以上で、かつ、内側表面の皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、建築物の外装材の外表面に波長3μm以下の短波長成分の熱放射に対して高反射性能を有する皮膜と波長3μm以上の短波長成分の熱放射に対して低放射を有する皮膜を二重に取付け、または、建築物の断熱材と外壁外装材の少なくとも一方の通気層側の表面に、波長3μm以上の短波長成分の熱放射に対して低放射を有する低放射性能を有する低放射性シートを取りつけたことにより、従来は湿気抜きとしての機能のみが期待されていた通気層を断熱・遮熱層として構成できるので、断熱材の厚みを変えずに、より安価にしかも、高い断熱・遮熱性能の外壁または屋根構造を実現できる。したがって、断熱・遮熱性能を変えなくてもよい場合は、本発明の適用により断熱材を薄くすることができて施工面と材料費の面から経済的である。さらに、外壁の外面に太陽光の短波長成分に対して高い日射反射性能を有する塗装などを施したことで、先の低放射性シートとの相乗効果により、夏期においてさらに高い断熱・遮熱性能を付与することができる。
【0037】
これらの低放射性シート、反射塗料などの材料を、現場張り、現場塗りせず、外壁または屋根パネルの工場での建材製造時にあらかじめ表面処理等の措置を施すことにより、量産化とこれによるさらなる安価化が可能となる。このように本発明によると、高い断熱・遮熱性能を持つ建物の外壁または屋根構造を実現する手段として、断熱材の厚みのみに性能依存していた従来の場合と比べて、建築物の安価かつ短工期化が実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明の実施形態を図を参照して説明する。なお本発明は、スチールハウスに代表される薄板軽量形鋼造、または木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、もしくはこれらの混構造建築物の何れにも適用できるが、以下では、スチールハウスの例で説明する。
【0039】
スチールハウスは、板厚1mm前後の薄板軽量形鋼による枠材と構造用面材による薄板軽量形鋼造による建築物であって、木造に比べて耐震性、耐久性、断熱性などに優れていることから最近急速に普及しつつあるが、前記断熱性能のより一層の高性能を追求して現在標準仕様となっている外断熱構造を、さらに改良する試みがなされている。本実施形態では、この外断熱構造において従来試みられたことのない新規な技術改良がなされている。
【0040】
図1〜図4を説明すると、図1は、外断熱方式のスチールハウスにおける構造躯体と通気層を介して外装材を取り付ける構造を示す破断斜視図、図2は、図1の横断面図、図3は、図1の縦断面図、図4は屋外側正面図である。
【0041】
各図において、薄板軽量形鋼のたて枠1と、下枠2と上枠(図示省略)を組むことによって構造躯体の枠組が構成されており、たて枠1の他側フランジ1bに石膏ボード等の内装材(被覆材)3が固着されている。この構造躯体は、薄板軽量型鋼または木材、鉄骨、鉄筋コンクリートもしくはこれらの混構造で構成されていてもよい。この内装材3は、強化石膏ボードからなる屋内側防火被覆構造用面材3aが下張として釘・ドリルねじなどのファスナー5でたて枠1の他側フランジ1bに接合され、さらに屋内側防火被覆構造用面材3aの屋内側表面には、強化石膏ボードなどからなる屋内側防火被覆材3bがステープル止めされて構成されている。
【0042】
たて枠1の一側フランジ1aには、構造用合板や繊維補強セメント板などからなる構造耐力用面材4が釘・ドリルねじなどのファスナー5で接合されている。この構造耐力用面材4と屋内側防火被覆構造用面材3aと薄板軽量形鋼のたて枠1(及び上下の枠)とで構造耐力上主要な部分(以下、構造躯体という)6を構成している。または、屋内側防火被覆構造用面材3aを含まずに、構造躯体6を構成する場合もある。
【0043】
構造耐力用面材4の外側(屋外側)には、ポリスチレンフォームなどの発泡プラスチック系の断熱材7が配設されており、さらに、断熱材7の外側に通気胴縁10を介して窯業系サイディングの外装材11が設置されている。通気胴縁10は所定の間隔をあけて垂直に配設されていて、通気胴縁10を介して断熱材7と外装材11との間に通気層9が形成されている。この通気層9は、外気を取り入れるための開口と取り入れた外気を外に排出するための開口を有する通気層として構成されていてもよい。外壁構造として適用される場合において、この通気層9の厚さが50mm以下となるようにしてもよく、また屋根構造として適用される場合において、この通気層9の厚さが100mm以下であるようにしてもよい。
【0044】
その理由としては、外壁外装材との間にできる通気層、屋根葺き材との間にできる通気層9を対象 とした場合に、現実に、これ以上の厚さの通気層9はあまりないと予想されること、シミュレーションに用いた計算法の適用限界であること(比較的薄い通気層9で、通気量もそれ程多くない条件を設定としていること)が挙げられる。
【0045】
なお、この通気層9の実施工レベルでの寸法は、壁20mm、屋根50mm程度であり、拡大するとしても壁50mm以下、屋根100mm以下が現実的な数値である。しかしながら、この数値以下でなければ効果を発揮しない、ことを意味するものではない。
【0046】
通気胴縁10を貫通して釘・ドリルねじなどのファスナー5をたて枠1の他側フランジ1bに打設することで、断熱材7と通気胴縁10をたて枠1に固着している。また、通気胴縁10のさらに外側から釘・ドリルねじなどのファスナー5を通気胴縁10に打設することで、外装材11は通気胴縁10に固着される。通気胴縁10の間隔は任意であるし、また、垂直に配設するのに限らず、水平に配設してもよい。
【0047】
さらに、断熱材7と外装材11のそれぞれの通気層9に面する表面には、低放射性シート8、8aが配設されている。ここで低放射性シートとは、長波長(3μm以上)の熱放射に対する放射率が0.3以下のものをいう。この低放射性シート8、8aは、図のように断熱材7と外装材11のそれぞれの両面に設けるのが、高断熱・高遮熱性の面から最も望ましいが、断熱材7と外装材11の何れか一方の表面にだけ配設してもよく、この場合は、外装材11の外面に塗布する反射塗料(後述)との相乗効果で、必要な高断熱・高遮熱性を確保することが可能である。さらに、低放射性シート8、8aは、所定の放射率を有するものを用いるが、その詳細は、図5以下で詳しく説明する。特に、この低放射性シート8aに関しては、透湿性を持たせるようにしてもよい。ここでいう透湿性とは、水蒸気(気体)を通す性質の程度をいう。一般的には水蒸気は通すが水(液体)は通さない膜として具体化されることが多い。透湿性を有する膜として代表的なものは、例えばタイベック(登録商標)等に具現化されている。
【0048】
ちなみに、この低放射性シート8、8aは、前記低放射皮膜が金属箔シート、金属蒸着シート、金属板または表面処理された金属板を含むシート、低放射塗料のいずれかで構成されていてもよい。
【0049】
低放射性シート8、8aが配設された通気層9を空気が流れる。つまり、通気層9は、図示しない一端側が空気流入側、他端が空気流出側となって、該通気層9を流通することで湿気除去機能が奏される。
【0050】
本発明で、低放射性シートの名称は、断熱材7と外装材11の通気層9の側の表面に低放射性層を形成する代表例を示す用語として広い意味で用いており、シート系と塗料系の低放射性シートを含むものである。シート系の場合、低放射性シート8、8aの具体例としては、アルミ箔反射シートや、ステンレスシートや、樹脂系シート本体の一表面または両表面に低放射層をラミネートしたアルミ蒸着シート等がある。樹脂系シート本体の片側の表面に低放射層をラミネートした低放射性シートの場合は、外装材11側の低放射性シート8にあっては低放射層が通気層9の側に面するように取付け、また、断熱材7側の低放射性シート8にあっても低放射層は通気層9に面する側になるように取り付ける。低放射性シートが塗料系の場合は、低放射性の塗料を断熱材7と外装材11の通気層側の表面に塗布するものである。これらの低放射性シート8、8aや低放射性塗料の、断熱材7と外装材11への配設は現場作業でも可能であるが、予め工場にて壁パネル製作の工程において機械的作業で行なうことで施工性が一層向上する。
【0051】
通気層9に面して断熱材7と外装材11の一方または両方の表面に低放射性シート8、8aを設置することに加えて、本発明では、外装材11の外面にも高い日射反射性を有する塗装等の反射層15を形成しており、低放射性シート8、8aとの相乗効果で、なお一層の高断熱・高遮熱性能を奏することができる。また、前記反射層15を形成する反射塗料とは、太陽光の短波長(3μm未満)成分に対する高い反射性能を持つ反射塗料と定義し、さらに具体的には、0.5以上の反射率のものをいう。
【0052】
次に、スチールハウスの壁を構成する組立て工程を説明する。
【0053】
(1)断熱材7と外装材11の表面に低放射性シート8、8aを反射面が通気層9に面するようにして機械的手段で配設しておく。
【0054】
(2)予め配置した上枠(図示せず)、下枠2に、たて枠1を配置する。この場合、必要に応じて、テープ、タッピンねじ、かしめ等でたて枠1と上下枠を仮止めする。
【0055】
(3)構造耐力用面材4を取り付ける。このとき、たて枠1が構造耐力用面材4の縦方向の継ぎ目となるようにする。また、構造耐力用面材4、たて枠1、上下枠をスクリュウくぎ、またはタッピングねじなどのファスナー5で接合一体化する。
【0056】
(4)構造耐力用面材4の屋外側に低放射性シート8、8aが通気層9に面するように断熱材7を配置する。この場合、断熱材7を構造耐力用面材4の屋外側に隙間なく配置し、テープ等で仮止めする。
【0057】
(5)通気層9を形成のための通気胴縁10を取り付ける。外装材11が横張りの場合は、通気胴縁10を所定の間隔で鉛直方向に配置し、たて枠1と通気胴縁10とをタッピングねじ等のファスナー5で接合する。外装材11が縦張りの場合は、通気胴縁10を所定の間隔で水平方向に配置し、たて枠1と通気胴縁10とをタッピングねじ等のファスナー5で接合する。
【0058】
(6)鋼製目地ジョイナー(メッキ鋼板等)12を取り付ける。外壁シーリング目地13がある場合には、あらかじめ鋼製目地ジョイナー12を配置する。
【0059】
(7)低放射性シート8、8aが通気層9に面するように外装材11を配置する。外装材11の相互の重ね代は、9mm程度とする。シーリング目地13の幅は10mm程度とする。
【0060】
(8)外装材11と通気胴縁10が交差する位置において、当該外装材11と通気胴縁10をタッピングねじで接合する。なお、シーリング目地13は、ウレタン系・アクリルウレタン系・ポリサルファイド系・シリコーン系等からなる目地材ですき間なく埋めて外断熱方式の壁が完成する。
【0061】
本出願人は、図1〜図4に示す屋根・壁構造について、特に、通気層9の低放射性シート8、8aと外装材11の反射層15との組み合わせにより、高断熱・高遮熱性能の確認のためのシミュレーションを行なったので、図5〜図12を参照して説明する。図5は、高断熱・高遮熱性能の確認の試験を行なうための、図1と同様の屋根・壁構造のモデルを示す縦断面模式図である。図6、図11はシミュレーション用の外界条件、図7〜図10、図12は、それぞれ異なる条件の下で、前記シミュレーションにより確認された屋根・壁構造における高断熱・高遮熱性能を数値化して示すグラフである。
【0062】
図5は、図1と同様に、内装材3と構造耐力用面材4とで構造躯体6が構成されていて、構造躯体6の外側に断熱材7が配置され、その外側に通気層9を介して外装材11が設けられている。同図において、壁構造における断熱・遮熱性能を制御する対象パラメータとして、断熱材7の厚み:「TH」で示し、以下同様に、外装材11の通気層9に臨む側の低放射性シート8(図5では図示せず)による表面放射率:「E1」、断熱材7の通気層9側に面して配置される低放射性シート8a(図5では図示せず)による表面放射率:「E2」、外装材11に反射層15を設けたことによる外面の放射率:「ESO」、同じく外装材11の外面の日射反射率:「ρS」、通気層9の上下の開口率:「OA」で各々示す。
【0063】
また、以下では、断熱材7の厚み(TH)を40mmとした場合における図5に示す構成を本発明モデルとし、前記構成において低放射性シート8、8aと反射層15を有しないものを従来モデル(基準)とし、低放射性シートの反射率および、壁を通過する熱貫流低減率(後述する)は、何れも従来モデル(基準)との比較として表示するものである。
【0064】
図6は、図5の本発明モデルにて、日射反射と表面反射の最適化が図れる数値予測シミュレーション行なう際の外界条件として、東京・夏期の時刻別外気温、日射量、夜間放射量(冷房設計用1日分)で気温、夜間放射量、日射量の1日24時間の温度変化を示している。
【0065】
図6の外界条件の下で、図5の本発明モデルを従来モデルに組み込み、水平面(屋根)および東西南北面(壁)とした時の熱貫流低減率をシミュレートし、日射反射と通気層部の表面放射の最適化が図れる数値予測シミュレーション(遮熱効果の数値化)を行った。
【0066】
本発明では、図5に示すモデルの複合体の綜合性能として、熱貫流量低減率20%〜60%削減を目標とし、これを数値化して確認することを行なった。すなわち、従来モデルの構成からなる複合体の熱貫流量を基準にして、熱貫流量低減の目標を達成する手段として、外装材11の外面の日射反射率を大きくし、通気層9に面する外装材11と断熱材7の表面に低放射性シートを取り付けることを前提に、前記日射反射率、低放射性シートの放射率の数値を前記従来モデルに対しどの程度の値とすれば、前記熱貫流量20%〜60%削減を達成できるかをシミュレーションした。その結果、外装材11の外面の日射反射率を0.8、低放射性シートの放射率を0.2以下または0.3以下(この場合は、外壁の外面の反射層との相乗効果)の数値を組み合わせることで、前記熱貫流量を20%〜60%削減できることを確認できた。
【0067】
図7は、夏期その1として、東京地方を試験地とし、外装材11と断熱材7に前記の低放射性シート8、8aを用い、断熱材厚40mmとし、かつ、日射反射率を0.8にまで高めた場合における流入熱量の低減率を示すグラフである。なお、通気層厚は壁で20mm、屋根で50mmとし、屋根勾配は30°で南向きとしており、これらの点に関しては図8〜図10、および図12で共通である。同図のグラフにおいて、「ρS,E1,E2」の点線曲線では、外装材11の外面の反射率と通気層の放射率との相乗効果で、熱貫流低減率が最大で約65%削減できることが確認された。また「E1,E2」の曲線では、通気層の放射率を0.2程度に低減させると熱貫流低減率が約20%安定的に削減できることが分った。また、反対に、「ESO」外装材11の外面の放射率を小さくすると、熱貫流量は20〜30%程度増加することも確認された。
【0068】
図8は、夏期その2として、東京地方を試験地とし、外装材11と断熱材7に前記の低放射性シート8、8aを用い、断熱材厚60mmとし、かつ、日射反射率を0.8にまで高めた場合における流入熱量の低減率を示すグラフである。同図のグラフにおいて、「ρS,E1,E2」の点線曲線では、外表面の反射率と通気層の放射率との相乗効果で、熱貫流低減率が最大で約63%削減できることが確認された。また「E1,E2」の曲線では、通気層の放射率を0.2程度に低減させると熱貫流低減率が約20%安定的に削減できることが分った。また、反対に、「ESO」外装材11の外面の放射率を小さくすると、熱貫流量は20〜30%程度増加することは、図7と同じであった。
【0069】
図9は、夏期その3として、東京地方を試験地とし、外装材11と断熱材7に前記の低放射性シート8、8aを用い、断熱材厚THをパラメータに加え、かつ、日射反射率を0.5にまで高めた場合における流入熱量の低減率を示したグラフである。図7、図8では日射反射率を0.8にまで高めたが、図9では比較的容易に達成できる0.5にまで高めた場合の効果を示した。外壁では、日射反射率(ρS)、表面放射率(E1,E2)をそれぞれ単独に変更しても、断熱材厚さ(TH)を40mmから60mmに変えた場合の熱貫流量の低減効果に至らない。しかし、屋根では、通気層両面の放射率(E1,E2)を変えることにより、断熱材厚さ(TH)を40m mから60mmに変えるのとほぼ同じ25%程度の流入熱量の低減効果が得られる。最も効果が大きいのは、日射反射率(ρS)と表面放射率(E1,E2)の両方を変更する場合であり、断熱材厚さ(TH)を40mmから60mmに変えるより大きな約40%の効果が得られ、外壁では約25%〜30%の効果が得られる。
【0070】
図10に、夏期その4とし、屋根を対象として、前述の条件に通気層の開口率(OA)をパラメータに加え、基準ケースを100として、各パラメータを変化させたときの流入熱量の比率を示す。通気層の開口率を基準の狭からその2.5倍にまで大きくし、日射反射率(ρS)と表面放射率(E1,E2)の変化も考慮したケース6において最大で50%もの流入熱量を減らすことができる。図7,図8に戻るが開口率を基準の狭からその2.5倍にまで大きくした場合のみの効果は「OA」にあるように屋根では18%程度、壁では方位によって異なるものの最大10%である。このことより、特に屋根では通気層の換気効果を併用することが効果的であり、そのためには通気層の給排気口は、できるだけ通気抵抗を小さくして通気性をよくした方がよい。
【0071】
以上から次のことが云える。夏場の日、日射の入ってくる熱を外装材11の反射層15で反射しまたは吸収する。それでも熱線(赤外線)による熱は、外装材11を通って通気層9の側の表面から放射されるので、この熱は外装材11の通気層9側の表面に取り付けた低放射性シート8で遮断する。さらに低放射性シート8を通って通気層9に放射される熱は、断熱材7側の低放射性シート8aで遮断する。このように3段の熱遮断構造により、例えば構造躯体の外側に設置した断熱材から外装材までで構成される壁構造体熱貫流量を、従来に比べて、約70%〜約20%削減できることが確認された。これはまた、断熱・遮熱性能を変えなくてもよい場合は、本発明の適用により断熱材7を薄くすることができて施工面と材料費の面から経済的でもある。
【0072】
図11は、図5の本発明モデルにて、日射反射と表面反射の最適化が図れる数値予測シミュレーション行なう際の外界条件として、東京・冬期の時刻別外気温、日射量、夜間放射量(暖房設計用1日分)で気温、夜間放射量、日射量の1日24時間の温度変化を示している。
【0073】
図11の晴れた寒い冬の外界条件の下で、図5の本発明モデルを従来モデルに組み込み、水平面(屋根)および東西南北面(壁)とした時の熱貫流低減率をシミュレートし、日射反射と通気層部の表面放射の最適化が図れる数値予測シミュレーション(遮熱効果の数値化)を行った。
【0074】
図12は、冬期として、東京地方を試験地とし、外装材11と断熱材7に前記の低放射性シート8、8aを用い、かつ、断熱材厚THをパラメータとして熱貫流量低減率を示したグラフである。同図のグラフにおいて、日射による貫流熱量を減らす対策として日射反射率(ρS)を大きくしたことによって、冬期の日射熱取得が減少するため熱損失はやや増大する。しかし、日射反射率(ρS)に加え、片面の表面放射率(E1) も変更するとこの熱損失の増大を防ぐことができる。さらに、日射反射率(ρS)と両面の表面放射率(E1,E2)も変更した場合は、日射反射率(ρS)を大きくしたマイナスを補うだけでなく、断熱材厚さ(TH)を40mmから50mmに増加させた場合と同じく約10%前後の熱損失の減少が可能となる。
【0075】
以上から次のことが云える。冬場は、日射による入熱を外装材11の反射層15で反射することにより熱損失が大きくなるが、通気層9側の表面に取り付けた低放射性シート8により、室内側から屋外に移動する熱を遮断することから、先の熱損失を小さくすることができると共に、熱損失を同等とする場合には、断熱材を薄くすることで施工面と材料費の面から経済的である。すなわち、低放射性シート8は、夏場,冬場に関わらず、屋外から室内、あるいは室内から屋外への熱貫流量を小さくすることができる。
【0076】
図13(a)、(b)は、他の実施形態として、本発明を2つの外断熱構造の屋根に適用した例を示す。図13(a)において薄板軽量形鋼製の枠体16に合板等の面板17を取り付けて構造躯体が構成され、面板17の上に下地垂木18を介して野地板19が設置される。面板17と野地板19の間隙には断熱材7が設置されている。図13(b)では、野地板を兼ねる屋根下地材20が設けられ、これらの構成は図13(a)、(b)共通である。さらに図13(a)では、野地板19の上に通気胴縁10を介して屋根下地材21が設けられ、この屋根下地材21の上に防水材(図示せず)を介して屋根葺材22が設けられている。野地板19と屋根下地材21間に通気層9が形成されている。
【0077】
図13(b)では、屋根下地材20の上に防水材23が貼設され、この防水材23を流桟24で押さえている。流桟23と直交して瓦桟25が設けられ、瓦桟25を介して屋根下地材20の上側に屋根葺材22設けられている。また、瓦桟25と流桟23を介して屋根葺材22と屋根下地材20との間に通気層9が形成されている。
【0078】
図13(a)の外断熱方式の屋根において、屋根葺材22の外面に日射反射率の高い塗料層15を必要に応じて設けを設けると共に、通気層9に面する野地板19と屋根下地材21の2つの表面の少なくとも一方に低放射性シート8、8aが取り付けられる。図には2つの表面に低放射性シートが取り付けられた例を示している。
【0079】
図13(b)の外断熱方式の屋根においては、屋根葺材22の外面に日射反射率の高い塗料層15を必要に応じて設けると共に、屋根下地材20の上側に設置した防水材23と屋根葺材22の間にできる通気層9に面する、防水材23または屋根葺材20の2表面の少なくとも一方に低放射性シート8、8aが取り付けられる。なお、図には2つの表面に低放射性シートが取り付けられた例を示している。
【0080】
図13(a)、(b)に示したように、本発明の低放射性シート8、8aや反射層15を、外断熱方式の屋根に形成される通気層9や屋根葺材22の外面に設置することで、屋根の日射による建物内への放射熱伝達および日射熱取得を著しく低減できる。
【0081】
図14は、さらに他の実施形態として、本発明を充填断熱構造の壁に適用した例を示す。柱の空隙に断熱材を充填する場合を充填断熱という。図14によって説明すると、布基礎26上にモルタル27、ゴムシート28を介して土台29が設置され、土台29から柱30が立設され柱間に壁31が構成される。壁31の左側が室外側、右側が室内側であり、壁31の右側に断熱材(図示省略する)が張られて、充填断熱構造の躯体が構成されている。壁31の左側(つまり室外側)には横胴縁32を介して外装材11が装着され釘33で固着されており、外装材11と壁31の間に通気層9が形成されている。下部の横胴縁32には通気水切り34が設けられている。
【0082】
図14の充填断熱方式の外壁において、外装材11の外面に日射反射率の高い塗料層15を必要に応じて設けると共に、通気層9に面する外壁材11の表面と壁31の表面の少なくとも一方に低放射性シート8、8aが取り付けられる。図には2つの表面に低放射性シートが取り付けられた例を示している。
【0083】
図14に示したように、低放射性シート8、8aを通気層に、日射反射層15を外装材外表面に設置することにより、充填断熱構造の建物内への日射熱取得を著しく低減できる。
【0084】
なお、本発明では、外装材11を以下に説明する外装材41に代替するようにしてもよい。
【0085】
図15は、かかる外装材41断面を示している。この外装材41の外側表面51には、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面52と放射率が小さい内面53を持つ皮膜54が被覆されている。この皮膜54は、外装材41の外側表面51との間に微小な空間56を持たせて被覆されている。この微小な空間56により構成される層を以下、ポーラス層57という。
【0086】
皮膜54は、外面52を介して日射による短波長成分の熱を反射すると共に外気温による長波長成分の熱を放射するものである。またこの皮膜54における放射率の小さい内面53では、これに接するポーラス層57とともに、高い遮熱性能を発揮させることが可能となる。
【0087】
さらに、外装材41の通気層に面する側の表面59には、放射率の小さい皮膜を設けると、性能は格段に向上する。
【0088】
図16は、ポーラス層57を通気層に面する内側表面59に形成させた外装材41の構成を示している。この図16に示す外装材41の構成において、上述した図15と同一の構成要素、部材に関しては同一の番号を付すことにより、ここでの説明を省略する。
【0089】
この外装材41の外側表面51には、皮膜64が被覆されている。この皮膜64は、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面52を有している。また、この外装材41の内側表面59には、皮膜69が形成されている。この皮膜69は、外装材41の外側表面59近傍に形成された空間56を有するポーラス層57を介して被覆されている。この皮膜69は、ともに放射率の小さい内面62及び外面63を有している。
【0090】
図17は、ポーラス層57を両面に形成させた外装材41の構成を示している。この図17に示す外装材41の構成において、上述した図15、16と同一の構成要素、部材に関しては同一の番号を付すことにより、ここでの説明を省略する。この外装材41の外側表面51には皮膜54が被覆されてなり、内側表面59には、皮膜69が被覆されている。
【0091】
ここで、たとえば図15の外装材41表面に被覆された皮膜54の外面52の日射反射率(短波長3μm以下)は0.5以上、表面放射率(長波長3μm以上)は0.7以上、内面53の表面放射率(長波長3μm以上)は0.3以下であると仮定する。
【0092】
この図15に示す皮膜54とポーラス層57の遮熱効果を、図3において説明したモデルで試算してみた。各パラメータと基準熱抵抗値を下記の表に示す。
【表1】

【0093】
次に、ポーラス層57を構成する凹凸部の深さと面積に応じた断熱効果の割合を計算した結果について説明をする。断熱効果の割合は、内外表面でのポーラス層57の深さに応じて、下記の計算に基づき算出することができる。
【0094】
(1)凹凸部の平均深さが3mmで、外装材表面積に対する接着部面積の比率が30%の場合
3mmの空気層の熱抵抗=0.1083(空気層は密閉。皮膜放射率0.2、外装材放射率0.9として計算した値。以下同じ)、追加熱抵抗=0.1083×0.7=0.0758(30%は密着のため断熱効果なし。以下同じ)
断熱効果の増加割合=0.0758×100/1.978=4(%)
【0095】
(2)凹凸部の平均深さが5mmで、外装材表面積に対する接着部面積の比率が30%の場合
5mmの空気層の熱抵抗=0.169、追加熱抵抗=0.169×0.7=0.118
断熱効果の増加割合=0.118×100/1.978=6(%)
【0096】
(3)凹凸部の平均深さが7mmで、外装材表面積に対する接着部面積の比率が30%の場合
5mmの空気層の熱抵抗=0.222、追加熱抵抗=0.222×0.7=0.155
断熱効果の増加割合=0.155×100/1.978=8(%)
【0097】
(4)凹凸部の平均深さが9mmで、外装材表面積に対する接着部面積の比率が30%の場合
5mmの空気層の熱抵抗=0.269、追加熱抵抗=0.269×0.7=0.1883
断熱効果の増加割合=0.1883×100/1.978=10(%)
【0098】
このように、外装材41の表面に複数の性能を有する皮膜を被覆することにより、通気層に面するいずれか一方への低放射シート設置効果を10%前後向上させることが可能となる。
【0099】
なお、図17に示すように両側に皮膜54、69を形成させた場合には、熱抵抗をさらに向上させることができる。例えば、外側表面51におけるポーラス層57の凹凸部の深さを5mmとし、内側表面59における凹凸部の深さを9mmとした場合において、皮膜54、69をそれぞれ被覆した場合には、断熱性を16%前後まで向上させることが可能となる。即ち、内側表面と外側表面の双方においてポーラス層57を形成させる場合において、その断熱効果は、上記計算値としての和で表すことができる。
【0100】
ちなみに、上述した外装材41の構成をそのまま屋根構造として適用してもよい。また、外装材41は、本発明を適用した外壁に適用される場合のみならず、いかなる外壁に対して適用されるようにしてもよい。
【0101】
<実施形態の作用・効果>
本発明の外壁または屋根構造によると、従来、熱モデルとしては無視されており、専ら湿気抜きとしての機能が期待される存在であった通気層9に、低放射性シート8、8aを設置することにより、断熱材7を厚くするより安価に断熱・遮熱性能を向上させることができた。さらに、外装材11や屋根葺材22の外面に高い日射反射性能を有する塗装などの反射層15を施せば、先の低放射性シート8、8aとの相乗効果により、夏期において一層高い断熱・遮熱性能を付与することができた。
【0102】
低放射性のシート等本発明の技術を適用すると、断熱材の厚みを変えずに、高い断熱・遮熱性能を付与できる。断熱・遮熱性能を変えなくてもよい場合は、今回の技術の適用により断熱材を薄くすることができ、断熱材の厚みのみに性能依存していた従来の場合と比べて、安価かつ短期施工化が実現可能である。これらのシート、塗料などの材料を、現場張り、現場塗りせず、建材製造時にあらかじめ表面処理等の措置を施すことにより、量産化すればさらなる安価化が可能となる。
【0103】
なお、本実施形態で示した構成を適宜設計変更して実施することは、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、外断熱方式のスチールハウスにおける構造物躯体と通気層を介して外装材を取り付ける壁構造を示す破断斜視図である。
【図2】図1の横断面図である。
【図3】図1の縦断面図である。
【図4】図1の屋外側正面図である。
【図5】本発明の高断熱・高遮熱性能をシミュレーションするための図1と同じ構造をモデルとして示す模式図である。
【図6】図5のモデルにより高断熱・高遮熱性能をシミュレーション際の夏季外界条件を示すグラフである。
【図7】図6の第1設定条件の下でのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図8】図6の第2設定条件の下でのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図9】図6の第3設定条件の下でのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図10】屋根の断熱材厚、日射反射率、開口率、放射率が遮熱に与える影響を示すグラフである。
【図11】図5のモデルにより高断熱・高遮熱性能をシミュレーション際の冬季外界条件を示すグラフである。
【図12】図11の設定条件の下でのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図13】(a)、(b)は、2つの屋根モデルに本発明を適用した実施形態の断面図である。
【図14】内断熱構造の壁に本発明を適用した実施形態の断面図である。
【図15】外側表面にポーラス層が形成された外装材の例を示す図である。
【図16】内側表面にポーラス層が形成された外装材の例を示す図である。
【図17】両側にポーラス層が形成された外装材の例を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 たて枠
1a 一側フランジ
1b 他側フランジ
2 下枠
3 内装材
3a 屋内側防火被覆構造用面材
3b 屋内側防火被覆材
4 構造耐力用面材
5 ファスナー
6 構造耐力上の主要部分(構造躯体)
7 断熱材
8 低放射性シート
8a 低放射性シート
9 通気層
10 通気胴縁
11 外装材
12 鋼製目地ジョイナー
13 シーリング目地
14 目地受け
15 外装材外面の反射層
16 枠材
17 面材
18 下地垂木
19 野地板
20 屋根下地材
21 屋根下地材
22 屋根葺材
23 防水材
24 流桟
25 瓦桟
26 布基礎
27 モルタル
28 ゴムシート
29 土台
30 柱
31 壁
32 横胴縁
33 釘
34 通気水切り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造駆体の外側の通気層を介して外壁外装材を設置した外壁において、外装材の外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面と放射率が小さい内面を持つ皮膜を外装材の外側表面との間に微小な空間を持たせて設けると共に、外装材の内側表面には放射率の低い皮膜を設けたことを特徴とする外壁構造。
【請求項2】
外装材の内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けることを特徴とする請求項1記載の外壁構造。
【請求項3】
構造駆体の外側の通気層を介して外壁外装材を設置した外壁において、外装材の外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面を持つ皮膜を外装材の外側表面に設け、また外装材の内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けたことを特徴とする外壁構造。
【請求項4】
前記通気層を介して外壁外装材と向かい合う表面に放射率が小さくかつ透湿性のある皮膜を設けたことを特徴とする請求項1〜3記載のうち何れか1項記載の外壁構造。
【請求項5】
前記通気層を介して外壁外装材と向かい合う表面皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする請求項4記載の外壁構造。
【請求項6】
前記外装材外表面皮膜の外面日射反射率が0.5以上、外面放射率が0.7以上、内面放射率が0.5以下で、かつ、外装材の内側表面の皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の外壁構造。
【請求項7】
構造駆体の上側の通気層を介して屋根葺材を設置した屋根、または屋根下地材上側に設置した防水材と屋根葺材の間に通気層のある屋根において、屋根葺材の外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面と放射率が小さい内面を持つ皮膜を屋根葺材の外側表面との間に微小な空間を持たせて設けると共に、屋根葺材の内側表面には放射率の低い皮膜を設けたことを特徴とする屋根構造。
【請求項8】
屋根葺材の内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けることを特徴とする請求項7記載の屋根構造。
【請求項9】
構造駆体の上側の通気層を介して屋根葺材を設置した屋根、または屋根下地材上側に設置した防水材と屋根葺材の間に通気層のある屋根において、屋根葺材の外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面を持つ皮膜を屋根葺材の外側表面に設け、また屋根葺材の内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けたことを特徴とする屋根構造。
【請求項10】
前記通気層を介して屋根葺材と向かい合う表面に放射率の小さい皮膜、あるいは放射率が小さくかつ透湿性のある皮膜を設けたことを特徴とする請求項7〜9のうち何れか1項記載の屋根構造。
【請求項11】
前記通気層を介して屋根葺材と向かい合う表面皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする請求項10記載の屋根構造。
【請求項12】
前記屋根葺材外表面の外面日射反射率が0.5以上、外面放射率が0.7以上、内面放射率が0.5以下で、かつ、屋根葺材の内側表面の皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする請求項7又は8記載の屋根構造。
【請求項13】
構造躯体の外側の通気層を介して外壁外装材を設置した外壁、または、構造躯体の上側の通気層を介して屋根葺材を設置した屋根において、外壁外装材または屋根葺材の外面に日射反射率の高い塗料層を設けると共に、それぞれの通気層に面する2つの表面の少なくとも一方に低放射性シートを取り付けたことを特徴とする外壁または屋根構造。
【請求項14】
屋根葺材の外面に日射反射率の高い塗料層を設けると共に、屋根下地材上側に設置した防水材と屋根葺材の間にできる通気層に面する、防水材または屋根葺材の2表面の少なくとも一方に低放射性シートを取り付けたことを特徴とする屋根構造。
【請求項15】
前記通気層を介して外壁外装材と向かい合う表面に放射率が小さくかつ透湿性のある皮膜を設け、又は前記通気層を介して屋根葺材と向かい合う表面に放射率の小さい皮膜あるいは放射率が小さくかつ透湿性のある皮膜を設けたことを特徴とする請求項13又は14記載の外壁または屋根構造。
【請求項16】
前記外壁外装材または屋根の外面に設ける反射塗料の日射反射率が0.5以上、波長3μm以上の熱放射に対応する放射率が0.7以上であり、かつ、通気層に面する前記表面のどちらかまたは両方に取り付ける低放射性シートのうち、少なくとも一方の放射率が0.3以下であることを特徴とする請求項13〜15のうち何れか1項記載の外壁または屋根構造。
【請求項17】
前記通気層は、外気を取り入れるための開口と取り入れた外気を外に排出するための開口を有する通気層であることを特徴とする請求項1〜16のうち何れか1項記載の外壁構造または屋根構造。
【請求項18】
前記低放射皮膜が金属箔シート、金属蒸着シート、金属板または表面処理された金属板を含むシート、低放射塗料のいずれかであることを特徴とする請求項1〜17のうち何れか1項記載の外壁構造または屋根構造。
【請求項19】
前記日射反射率が高くかつ放射率も高い皮膜が、外装材の表面自体または塗装膜であることを特徴とする請求項1〜18のうち何れか1項記載の外壁構造または屋根構造。
【請求項20】
前記構造耐力上主要な構造駆体が、薄板軽量型鋼または木材、鉄骨、鉄筋コンクリートもしくはこれらの混構造で構成されていることを特徴とする請求項1〜19のうち何れか1項記載の外壁構造または屋根構造。
【請求項21】
前記外壁通気層の厚さが50mm以下、前記屋根通気層の厚さが100mm以下であることを特徴とする請求項1〜20のうち何れか1項記載の外壁または屋根構造。
【請求項22】
構造駆体の外側の通気層を介して設置される外壁用の外装材又は屋根葺材において、
外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面と放射率が小さい内面を持つ皮膜を、当該外側表面との間に微小な空間を持たせて設けると共に、内側表面には放射率の低い皮膜を設けたことを特徴とする外壁用の外装材又は屋根葺材。
【請求項23】
内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けたことを特徴とする請求項22記載の外壁用の外装材又は屋根葺材。
【請求項24】
構造駆体の外側の通気層を介して設置される外壁用の外装材又は屋根葺材において、
外側表面に、日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い外面を持つ皮膜を設け、また内側表面に、放射率の低い内面及び外面を持つ皮膜を当該内側表面との間に微小な空間を持たせて設けたことを特徴とする外壁用の外装材又は屋根葺材。
【請求項25】
外表面皮膜の外面日射反射率が0.5以上、外面放射率が0.7以上、内面放射率が0.5以下で、かつ、内側表面の皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする請求項22〜24のうち何れか1項記載の外壁用の外装材又は屋根葺材。
【請求項26】
構造駆体の外側の通気層を介して設置される外壁用の外装材、または構造駆体の上側の通気層を介して設置される屋根葺材において、
外側表面に日射反射率が高くかつ放射率(波長3μm以上の熱放射に対応する放射率)も高い皮膜を設置すると共に、内側表面には放射率の小さい皮膜を設けたことを特徴とする外壁用の外装材または屋根葺材。
【請求項27】
外表面皮膜の外面日射反射率が0.5以上、外面放射率が0.7以上で、かつ、内側表面の皮膜の放射率が0.3以下であることを特徴とする請求項26記載の外壁用の外装材または屋根葺材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−177136(P2006−177136A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131800(P2005−131800)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(803000089)株式会社 鹿児島TLO (8)
【Fターム(参考)】