説明

放射線を用いて液体物品に対する保安検査を行う方法及び装置

本発明は放射線を用いて液体物品に対する保安検査を行う方法及び装置を開示している。その方法は、環境初期情報を取得するステップと、放射線ビームを発生し、前記液体物品を透過するステップと、前記液体物品を透過した放射線ビームを受け取って多角度投影データを形成するステップと、前記環境初期情報と前記液体物品の均一性とに基づいて、前記多角度投影データに対して逆演算を行い、被検液体物品の放射線吸収係数を計算し取得するステップと、前記放射線吸収係数を予め設置しているデータと比較して、被検液体物品に関する情報を取得するステップとを含む。従来の技術と比べると、本発明は、液体物品のパッケージの影響を受けておらず、干渉回避性が強く、検査の正確性が高く、使用が安全で確実であり、コストが低く、サイズが小さい、という特徴がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射検査技術分野に関し、特に、放射線を用いて高速に液体物品に対する保安検査を行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米国の9・11事件が発生した以後、航空分野における保安検査工作をますます重視している。従来の荷物の保安検査の他に、旅客の携帯している液体物品に対する保安検査も要求されている。従って、荷物中の液体物品に対する保安検査を高速に行うための有効な方式と手段が差し迫った必要となっている。
【0003】
現在、化学方法、電磁方法、中性子方法及び放射線方法のような4種類の方法が液体物品の保安検査に用いられることができる。具体的には、以下のとおりである。
【0004】
1)化学方法は、におい識別、イオン走査検知及び物質分析に細分化できる。におい識別は、実際応用中に常に液体物品が密封パッケージされているので検査を実現することができない。イオン走査検知はその高感度によってよく知られているが、その欠点が誤警報率が高く、常に背景環境の影響を受けることにある。物質分析は精度と正確度の高いという特徴を有しているが、このような方法はサンプルを分析するために一定の時間がかかるので、現地の高速検査の要求を満たすことができない。
【0005】
2)電磁方法は主動の測定方法を採用しており、電磁波に対する異なる液体物品の誘電率が同じではないことに応じて、液体物品を区分しておく。電磁方法自身は金属パッケージ及び厚い材料のパッケージから不利な影響を受けやすいので、実際にパッケージ材料が複雑である場合には、電磁方法は一定に制限される。
【0006】
3)中性子検査方法は、使用中に「中性子活性化」の現象、すなわち、中性子検査を介した被検液体物品に放射が残る現象が出現する。また、中性子の貫通能力がより強く、その放射シールディングがより複雑であり、装置の占有面積は大きいので、民用航空の保安検査システムに使用されることに適合していない。
【0007】
4)現在、航空分野における保安検査装置は放射線装置である場合が多い。これらの装置には、現在よく採用されている技術はX線2次元結像技術と3次元CT走査結像技術である。それらの技術は主に荷物の保安検査を行うために用いられるものであり、荷物中の液体物品のみに対する保安検査を行うことができない。
【0008】
X線2次元結像技術は、被検体の3次元情報をX線ビームの方向に積分して物体の2次元情報の投影画像を得るものである。これらの画像はグレースケールまたは疑似カラーの表現形式を採用して画像の差異を表現しており、装置の操作員に直観的な表示を行う。しかしながら、X線2次元結像技術は畢竟被検体の1次元情報が欠けているので、この技術を利用して液体物品を検査する場合に、被検液体物品の外形とサイズとの影響を多く受ける。
【0009】
3次元CT走査結像技術はCT技術を普及し応用するものである。CT技術は最初に医学に適用され、医者を助けて診断するツールである。それは被検体の各断層を多角度に投影して実現されるものである。前記各断層の多角度投影データをコンピュータで再作成し、各断層の再作成画像を算出して、再作成画像中における異なる減衰係数情報を異なるグレースケールで表示し、被検体の内部の差異を表示している。CT技術の発展につれ、非
破壊検査用の工業CTと保安検査のための荷物CT等が出現し、これらのCT開拓技術は依然として物体の内部差異を表示する断層画像を取得することを目的とする。従って、従来のX線3次元結像技術を採用して液体物品に対する保安検査を行う場合、差異のない断層画像情報のみを見るようになる。
【0010】
前記CT型保安検査装置は、検査できる被検体の範囲が広いので、コストが高く、装置が大きすぎて、普及応用が困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
要するに、液体物品に対する高速検査において、化学方法、電磁方法と中性子方法は自身の高速保安検査に適合していない特徴があり、X線2次元結像技術と3次元CT走査結像技術を採用して、コントラストを有するグレースケール画像または疑似カラー画像を取得しているが、液体物品の保安検査に十分な依拠を提供することができない。
【0012】
発明の開示
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、液体物品をそのパッケージを破壊しない状態で高速検査して、被検液体物品の定量情報を取得することができる、放射線を用いて液体物品に対する保安検査を行う方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面によれば、放射線を用いて液体物品に対する保安検査を行う方法であって、環境初期情報を取得するステップと、放射線ビームを発生して前記液体物品を透過させるステップと、前記液体物品を透過した放射線ビームを受け取って多角度投影データを形成するステップと、前記環境初期情報と前記液体物品の均一性とに基づき、前記多角度投影データに対して逆演算を行うことにより、被検液体物品の放射線吸収係数を計算して取得するステップと、前記放射線吸収係数を予め設定されているデータと比較して、被検液体物品に関する情報を取得するステップとを含む方法を提供する。
【0014】
本発明の一実施例によれば、前記環境初期情報が被検液体物品の幾何学的境界情報を含む。
【0015】
本発明の一実施例によれば、前記幾何学的境界情報が放射線写真技術又は走査結像技術により取得されるものである。
【0016】
本発明の一実施例によれば、前記被検液体物品が放射線吸収に対して均一性を表現する。
【0017】
本発明の他の一側面によれば、放射線を用いて液体物品に対する保安検査を行う装置であって、放射線ビームを発生する放射線源と、被検液体物品を放射線ビームが透過するように載置する載置機構と、環境初期情報と前記被検液体物品の多角度投影データとを取得する検知・採取手段と、コンピュータデータプロセッサーとを備え、前記コンピュータデータプロセッサーが、被検液体物品の環境初期情報と被検液体物品の均一性とを限定条件として、取得した多角度投影データに対して逆演算を行い、前記被検液体物品の放射線吸収係数を計算して取得する手段と、前記放射線吸収係数を予め設定されているデータと比較して被検液体物品に関する情報を取得する手段とを含む装置を提供する。
【0018】
本発明の一実施例によれば、前記放射線源がX線機器又はアイソトープソースである。
本発明の一実施例によれば、前記放射線源が1つ又は複数である。
【0019】
本発明の一実施例によれば、前記放射線源の放射線エネルギが調節できるものである。
本発明の一実施例によれば、前記検知・採取手段が検知器とデータ採取器とを一体化して形成されたものである。
【0020】
本発明の一実施例によれば、前記検知器が固体検知器、液体検知器、気体検知器又は半導体検知器である。
【0021】
本発明の一実施例によれば、前記検知器が一つ又は複数である。
本発明の一実施例によれば、前記検知器が1次元アレイ又は2次元アレイの形式を有している。
【0022】
本発明の一実施例によれば、前記検知器がエネルギ選択機能を有している。
本発明の一実施例によれば、前記検知器が積分方式又はパルス方式で動作する。
【0023】
本発明の一実施例によれば、前記多角度投影データが、被検液体物品を回転させるか又は放射線源と検知・採取手段とを回転させて取得されるものである。
【0024】
本発明の一実施例によれば、前記多角度投影データが、角度投影数を増加させるかまたは検知器を検知器ユニットのサイズの1/4のオフセットで装着して取得されるものである。
【0025】
本発明の一実施例によれば、前記コンピュータデータプロセッサーが所定の識別アルゴリズムにより前記比較を行う。
【0026】
本発明の一実施例によれば、前記放射線源と、検知・採取手段と、載置機構とコンピュータデータプロセッサーとの協同動作が、走査制御器により制御される。
【発明の効果】
【0027】
本発明は占用面積が小さく、正確性が高く、安全で確実であり、遮蔽しやすい、というメリットがある。本発明は航空分野に他の重要場所における保安検査に適用するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図面において、異なる図面に記載されている同一の符号は、同様又は近似の部材を表している。明瞭及び簡明にするために、ここに含まれる既知の機能及び構造に対する詳しい記述を省略するが、そうでなければ、これらによって本発明の主題が不明瞭になってしまう。
【0029】
図1は本発明の一実施例による検査装置の構成概略図である。
図1に示すように、本実施例による検査装置は、検査用放射線を発するX線機器又はアイソトープソース(X線又はγ線ソース)等のような放射線源10と、被検液体物品を載置してZ軸の周りを回動し、升降することができ、被検液体物品20を検出領域に進入させることによって、放射線源10から発せられた放射線を被検液体物品20を貫通させる載置手段30と、検知器とデータ採取器との一体化したモジュール構造を有しており、被検液体物品20を貫通した放射線を検知し、アナログ信号を取得しデジタル信号に変換して、被検液体物品20の走査データを出力するための検知・採取手段40と、全システムの各部の同期動作を制御するための走査制御器50と、データ採取器により採取されたデータを処理して、検査結果を出力するためのコンピュータデータプロセッサー60とを備える。
【0030】
図1に示すように、放射線源10は被検液体物品20が放置される載置手段30の一方側に位置する。検知・採取手段40は載置手段30の他の一方側に位置し、検知器とデータ採取器を含み、被検液体物品20の環境初期情報と多角度投影データを取得するためのものである。データ採取器にはデータ増幅成形回路が含まれ、(電流)積分モード又はパルス(計数)モードで動作し得る。検知・採取手段40のデータ出力ケーブルはコンピュータデータプロセッサー60に接続され、採取されたデータをコンピュータデータプロセッサー60に格納する。
【0031】
図2は、図1に示すようなコンピュータデータプロセッサー60の構造のブロック図を示す。図2に示すように、データ採取器により採取されたデータはメモリ61に格納されている。ROM(Read Only Memory)61にはコンピュータデータプロセッサーの配置情報及びプログラムが格納されている。RAM(Random Access Memory)63は、プロセッサー66の動作過程における各種のデータを一旦格納するためのものである。また、メモリ61にはデータ処理を行うためのコンピュータプログラム及び予め作成したデータベースも格納されており、このデータベースには各種の既知の液体物品に関する情報、例えば放射線吸収係数、密度等のような情報が格納されており、プロセッサー66で算出した被検液体物品20の放射線吸収係数と比較するためのものである。内部バス64には、前記メモリ61と、ROM62と、RAM63と、入力手段65と、プロセッサー66と、表示手段67とが接続されている。
【0032】
ユーザがキーボード又はマウスのような入力手段65を介して操作コマンドを入力した後、当該コンピュータプログラムにおける命令コードはプロセッサー66を所定のデータ処理アルゴリズムを実行するように指示し、データ処理結果を取得した後、LCDディスプレイのような表示手段67に表示させるか又は直接にハードコピーの形で出力させる。
【0033】
図3は、本発明の一実施例による検査方法のフローチャートを示す。図3に示すように、ステップS10においては、被検液体物品20を載置手段30上に放置し、操作員が操作開始コマンドを送出した後、走査制御器50は、放射線源10の放射線の発生を制御し、X線源10及び探知器から構成された検出空間である検出領域に進入するように載置手段30の上昇又は下降を制御する。この時、放射線源10からの放射線ビームは被検液体物品20を透過する。走査制御器50は被検液体物品を透過した放射線を受け取るように検知・採取手段40を制御して、被検液体物品の幾何学的境界情報のような環境初期情報を取得する。この幾何学的境界情報はX線写真技術又はX線走査結像技術により取得される。X線走査結像技術は平行移動方式、回転方式又は螺旋方式を採用してもよい。
【0034】
さらに、前記の処理過程において、取得された被検液体物品20の環境初期情報はパッケージのサイズ、パッケージの材質、被検液体物品のパッケージに対する体積比等をさらに含む。ニューラルネットワーク識別アルゴリズムにより各種の液体物品の上記の情報と放射線吸収係数とを予めソートして、データベースを作成する。実際の検査過程においては、実際に測定した各分類特徴とデータベースにおける分類特徴とを比較して、被検液体物品20に対する検査を実現する。
【0035】
そして、ステップS20においては、載置手段30を走査制御器50の制御により回転させ、第1の角度に到達すると、放射線源10から放射線を発して、被検液体物品20を透過させる。検知・採取手段40は透過した放射線を受け取り、第1の角度投影データを取得して、1×N次元ベクトルgと示し、コンピュータデータプロセッサー60中のメモリ61に格納する。ただし、Nは検知器における一行の検知器ユニットの数を示す。
【0036】
ステップS20’においては、載置手段30を走査制御器50の制御により続けて回転させ、第2の角度に到達すると、放射線源10から放射線を発して、被検液体物品20を
透過させる。検知・採取手段40は透過した放射線を受け取り、第2の角度投影データを取得して、1×N次元ベクトルgと示し、コンピュータデータプロセッサー60中のメモリ61に格納する。
【0037】
このように、前記のステップを繰り返し、ステップS20”では載置手段30を走査制御器50の制御により回転させ、第Mの角度に到達すると、第Mの角度投影データを取得して、1×N次元ベクトルgと示し、コンピュータデータプロセッサー60中のメモリ61に格納する。前記の走査過程を通じて、被検液体物品20の多角度投影データを取得して、M×N次元ベクトルgと示す。従って、一つの断層内で被検液体物品20の多角度投影データgを連続に取得することができる。
【0038】
ここで、多角度データを増加させるために、走査中に角度投影数を増加してもよいし、または検知器を構成する検知器ユニットのサイズの1/4のオフセットで検知器を装着してもよい。
【0039】
走査される被検液体物品20の線減衰係数(吸収係数)をI次元ベクトルfとする。ただし、Iは走査される液体物品の量子化画素の次元数を示す。X線と物質との相互作用に基づき、ビルの法則に応じて、式(1)がなされる。
【0040】
【数1】

【0041】
ただし、H、…、HはいずれもN×Iのシステムマトリックスであり、それらの各エレメントHnjは、この対応する角度である時、物体画像における量子化画素jのn番目の検知器により採取される信号に対する寄与係数である。H、…、Hのそれぞれは、シングルスパースマトリックス(Single Sparse matrix)であり、走査システムの具体的な設計により決定されるが、事前計算によりメモリ61に格納されるか、又はシステムのパラメータに基づきリアルタイムに計算し決定してもよい。そして、式(1)に対する逆演算をすると走査される物体の線減衰係数の情報を取得し得る。
【0042】
逆演算はノーマル演算の逆過程である。ノーマル演算過程とは、放射線源から発せられた初期信号が被検液体物品20を経由する時に減衰され、減衰された放射線信号が検知器により受け取られるという演算過程である。従って、検知器により受け取られる信号から被検液体物品の放射線に対する減衰情報を計算する過程が、逆演算である。
【0043】
しかし、液体物品の検査過程において、逆演算は悪条件 (ill-conditioned)問題であり、解の有効性及び安定性を向上させるために、例えば、上述にステップS10で取得した被検液体物品20の幾何学的境界情報のような他の情報を融合する必要がある。
【0044】
ステップS30においては、ステップS10で取得した被検液体物品20の幾何学的境界情報を含む初期環境情報に基づいて、逆演算を求めるための境界条件及び均一性条件を設定する。被検液体物品20の空間形状は、一つの有界関数として表することができ、前記のX線写真技術又はX線走査結像技術によって被検液体物品20の幾何学的境界情報を決定することができることによって、物体の関数の有効作用領域Ω、すなわち、
【0045】
【数2】

【0046】
を限定する。境界条件の導入は解を求める速度を向上させ、問題の不明確性をある程度改善させる。次に、検査システムの目標物体は液体物品部分であるので、走査される物体は液体物品領域Ωと非液体物品領域Ωというような2つの部分に区分される。液体物品の均一性に応じて、f=平滑化関数(smooth function)、ただしi∈Ω、ということを満たす。この平滑化関数の特徴は、液体物品の領域Ω内における全体平方偏差に限りがあり、液体物品の領域Ω内における部分的な波動に限りがある、ということである。液体物品の均一性の使用は、液体物品情報の抽出を多く最適化して、システムのロ-バストネス(robustness)を向上させる。
【0047】
なお、均一性を有する液体物品とは、放射線を均一に吸収する溶液、懸濁液又は乳濁液である。例えば、ミルク、粥等の液体物品も前記意味で均一性を有する液体物品である。すなわち、液体物品の均一性とは、被検液体物品の放射線吸収に対する均一性に表現される。
【0048】
従って、ステップS40においては、コンピュータデータプロセッサー60は、被検液体物品20の幾何学的境界サイズを境界条件とし、液体物品の均一性を収束条件として、前記の式(1)に従い被検液体物品20の放射線吸収係数を算出する。そして、Ω領域内における画素値の統計特性に基づいて、液体物品の有効放射線吸収係数を算出する。
【0049】
その後、ステップS50においては、コンピュータデータプロセッサー60は、算出した放射線吸収係数をデータベース中の既知の液体物品の放射線吸収係数と比較してこの被検液体物品20についての情報を与える。例えば、アルコールの放射線吸収係数は−280であるが、一つの未知液体物品に対しては、測定した結果が−270〜−290の間にあるとそれがアルコールである確率が高い。そして、この被検液体物品の識別用情報を表示手段67に表示させるか、又は直接にプリント出力させる。
【0050】
前記のステップS40においては、ベイズ方法(Bayesian method)を採用して幾何学的境界情報及び均一性を条件として被検液体物品20の放射線吸収係数を計算してよい、非統計方法を採用してまず前記の式(1)の解を求めて、一応の放射線吸収係数を取得した後、境界条件及び均一性を利用して最適化処理を行ってから、f,i∈Ωの分布に基づいて被検液体物品20の線減衰係数を評価して、計算の有効性と安定性を向上させるようにしてもよい。以下、例示の式でベイズ方法と非統計方法により放射線吸収係数を計算する過程を説明する。
【0051】
[ベイズ方法にて液体物品の放射線吸収係数を計算する例示]
【0052】
【数3】

【0053】
[非統計方法にて液体物品の線性吸収係数を計算する例示]
【0054】
【数4】

【0055】
非統計方法を実現する過程において、異なる均一性要求を設定することによって演算速度と精度を調節する。極端の場合には、液体物品の吸収係数を逐次代入することなく、一ステップだけで取得することができる。
【0056】
さらに、前記ステップS10においては、被検液体物品20がサンドイッチ構造又は例えば2層を有する階層化構造であることを見出すと、上述のような方法を採用してこの2層の液体物品の幾何学的境界情報をそれぞれ取得し、各層の液体物品に対して上述と同じである後続処理を実行し、最後この2種類の液体物品の識別用情報を被検液体物品20の最終識別用情報としてそれぞれ出力する。
【0057】
例えば、2層の液体物品である場合、液体物品領域Ωは第1の液体物品領域ΩlAと第2の液体物品領域ΩlBとを含む。第1の液体物品領域ΩlAの線減衰係数をfとして示し、第2の液体物品領域ΩlBの線減衰係数をfとして示すと、f=平滑化関数1、A∈ΩlA;f=平滑化関数2、B∈ΩlB、になる。
【0058】
このように、第1の液体物品領域ΩlAと第2の液体物品領域ΩlBのそれぞれに対して、上述のようなステップS10〜S50を実行することができる。
【0059】
上述のように、各種の液体物品のパッケージのサイズ、パッケージの材質、被検液体物品のパッケージに対する体積比等の情報及び放射線吸収係数に基づいて、ANN(Artificial Neural Network)、SVM(Support Vector Machine)、BNN(Bayesian Neural Network)のような識別アルゴリズムにより既知の各種の液体物品に対し分類テーブルを設けて、データベースに格納してもよい。上述のように、ステップS10及びステップS40において、被検液体物品20の環境初期情報と放射線吸収係数を取得した後、同一のニューラルネットワーク識別アルゴリズムにより被検液体物品20のデータベース中の類別を決定することによって、この被検液体物品20についての識別用情報を取得する。
【0060】
本実施例では、被検液体物品20を回転させる方式を採用して走査は実現される。このような走査方式を採用すると、装置の体積を減少し、装置のコストを低下させる。しかしながら、被検液体物品20を静止させ、放射線源10と検知・採取手段40とを回転させる走査方式を採用してもよい。
【0061】
さらに、放射線源10は、一つ又は複数のX線機器と、一つまたは複数のアイソトープソースとを含み、X線機器の放射線のエネルギは調節できるものである。放射線源10に複数のX線機器又は複数のアイソトープソースを含む場合には、検知器の数はX線機器の数と又はアイソトープソースの数と同じであり、この複数の検知器は放射線源に対応付けられて設置される。ここで、検知器は気体検知器、液体検知器、固体検知器又は半導体検知器であってもよく、エネルギ選択機能を有する。さらに、検知器は、使用方式が1次元アレイ又は2次元アレイであってもよく、即ち、ラインアレイ検知器又はエリアアレイ検知器である。
【0062】
以上、コンピュータデータプロセッサー60が所定のデータ処理アルゴリズムを含むコンピュータプログラムを実行させる、ということの実施形態によって、放射線吸収係数の計算過程と被検液体物品20の識別用情報の取得過程とを説明したが、コンピュータデータプロセッサー60は他の形態で実現されてもよい。図4は図1に示すような検査装置におけるコンピュータデータプロセッサー60の機能ブロック図を示す。
【0063】
図4に示すように、コンピュータデータプロセッサーの他の一例として、このコンピュータデータプロセッサー60’は、環境初期情報と多角度投影データ及び他のデータ、例えばシステム特性を説明するシステムマトリックスH,……Hを格納するデータメモリ71と、各種の液体物品の吸収係数又は他の特徴情報を格納し、各種の液体物品を有する分類テーブルも格納できるデータベースであって、検査過程中の比較のために用いられるデータベース74と、データメモリ71に格納されている環境初期情報、例えば被検液体物品の幾何学的境界情報と多角度投影データに基づいて、前記の式(1)に従って、液体物品の均一性を条件として、被検液体物品20の放射線吸収係数を計算する吸収係数計算ユニット72と、吸収係数計算ユニット72により計算された被検液体物品20の放射線吸収係数をデータベースに予め格納されている放射線吸収係数と比較することによって、当該被検液体物品20の識別用情報を決定する比較ユニット73と、比較ユニット73により取得された識別用情報を直接に操作員へ表示させる、例えばディスプレイ又は他の出力装置のような出力ユニット75とを備える。
【0064】
以上は、本発明の実施形態を具現するためのものであり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で行う種々の修正又は部分置換も本発明の請求保護範囲により限定される範囲に含まれるものであることは、当業者であれば理解できることであり、したがって、本発明の保護
範囲は特許請求の保護範囲を基準とすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の一実施例による検査装置の構成概略図である。
【図2】図2は、図1に示すような検査装置におけるコンピュータデータプロセッサーの構成図である。
【図3】図3は、本発明の一実施例による検査方法のフローチャートである。
【図4】図4は、図1に示すような検査装置におけるコンピュータデータプロセッサーの機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0066】
10 放射線源
20 被検液体物品
30 載置手段
40 検知・採取手段
50 走査制御器
60 コンピュータデータプロセッサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を用いて液体物品に対する保安検査を行う方法であって、
環境初期情報を取得するステップと、
放射線ビームを発生して前記液体物品を透過させるステップと、
前記液体物品を透過した放射線ビームを受け取って多角度投影データを形成するステップと、
前記環境初期情報と前記液体物品の均一性とに基づき、前記多角度投影データに対して逆演算を行うことにより、被検液体物品の放射線吸収係数を計算して取得するステップと、
前記放射線吸収係数を予め設定されているデータと比較して、被検液体物品に関する情報を取得するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記環境初期情報が被検液体物品の幾何学的境界情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記幾何学的境界情報が放射線写真技術又は走査結像技術により取得されるものであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記被検液体物品が放射線吸収に対して均一性を表現することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
放射線を用いて液体物品に対する保安検査を行う装置であって、
放射線ビームを発生する放射線源(10)と、
被検液体物品を放射線ビームが透過するように載置する載置機構(30)と、
環境初期情報と前記被検液体物品の多角度投影データとを取得する検知・採取手段(40)と、
コンピュータデータプロセッサー(60、60’)とを備え、
前記コンピュータデータプロセッサー(60、60’)が、
被検液体物品の環境初期情報と被検液体物品の均一性とを限定条件として、取得した多角度投影データに対して逆演算を行い、前記被検液体物品の放射線吸収係数を計算して取得する手段と、
前記放射線吸収係数を予め設定されているデータと比較して被検液体物品に関する情報を取得する手段とを含むことを特徴とする装置。
【請求項6】
前記放射線源(10)がX線機器又はアイソトープソースであることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記放射線源(10)が1つ又は複数であることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記放射線源(10)の放射線エネルギが調節できるものであることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記検知・採取手段が検知器とデータ採取器とを一体化して形成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項10】
前記検知器が固体検知器、液体検知器、気体検知器又は半導体検知器であることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記検知器が一つ又は複数であることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記検知器が1次元アレイ又は2次元アレイの形式を有していることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項13】
前記検知器がエネルギ選択機能を有していることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項14】
前記検知器が積分方式又はパルス方式で動作することを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項15】
前記多角度投影データが、被検液体物品を回転させるか又は放射線源と検知・採取手段とを回転させて取得されるものであることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項16】
前記多角度投影データが、角度投影数を増加させるかまたは検知器を検知器ユニットのサイズの1/4のオフセットで装着して取得されるものであることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項17】
前記コンピュータデータプロセッサーが所定の識別アルゴリズムにより前記比較を行うことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項18】
前記放射線源(10)と、検知・採取手段(40)と、載置機構(30)とコンピュータデータプロセッサー(60、60’)との協同動作が、走査制御器(50)により制御されることを特徴とする請求項5に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−503557(P2009−503557A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535874(P2008−535874)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/CN2006/003327
【国際公開番号】WO2008/037133
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(506388336)同方威視技術股▲フン▼有限公司 (7)
【出願人】(506162688)清華大學 (8)
【Fターム(参考)】