説明

放射線又は化学療法誘発性粘膜炎の処置のための組み合わせ

本発明は、放射線又は化学療法によって誘発される粘膜炎の処置のための組成物を調製するための、グリシン、プロリンならびに場合により天然もしくは合成の皮膜形成ポリマー、及び/又はリシン及び/又はロイシンの組み合わせの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線又は化学療法によって誘発される粘膜炎の処置のための、グリシン、プロリンならびに場合により天然もしくは合成の皮膜形成ポリマー、及び/又はリシン及び/又はロイシンの組み合わせに関する。
【0002】
背景技術
口腔粘膜炎(OM)は、非外科的抗腫瘍処置の最も多い潜在的に深刻な副作用の1つである(1、2)。臨床的には、それは、紅斑、偽膜を伴うもしくは伴わない潰瘍形成、出血、滲出物の形成及び/又は上位の感染症(3)によって特徴付けられ、患者の生活の質に悪影響を与える衰弱性の形態に発展し得る。粘膜への損傷は、口腔から咽頭に広がる;従って、本発明では、「口腔粘膜炎」という用語は、咽頭の粘膜炎を含む。
【0003】
OM関連の症状に対する患者の感じ方は、口内の痛みの感覚から様々な口腔機能の障害に及ぶ(4)。OMは、味覚障害、嚥下障害及び会話困難、咀嚼困難又は嚥下困難などの痛みの症状に関連し得、その結果として食べる能力の障害、体重減少及び経鼻胃管による栄養補給の必要性を伴う。
【0004】
この全ては、患者の生活の質に悪影響があるだけでなく、処置を中止すること又は抗腫瘍薬剤の投与量を減少することにつながり得、その結果として患者の平均余命の低下を伴う(5)。財政的な観点からは、OMに罹患している患者の頻繁な入院、及び薬物投与又は経静脈栄養に熟練した職員よる患者の在宅介護は、国民保健サービスにかなりの負担をかける(6、7)
【0005】
OMの症例の重大性及び頻度ならびに被験体で行われた多くの研究にもかかわらず、この潜在的に深刻な合併症の予防及び処置に関して広く受け入れられる標準的戦略は、依然として存在しない。いくつかの試験はOMの発症が予防又は低減され得ることを実証しているが、それらは不十分な参加者数で行われており、臨床診療ガイドラインを作成することを可能にする十分な水準を満たしていない(8〜11)。
【0006】
現在、OM及びそれによって引き起こされる痛みの処置は:基本的な局所麻酔剤、全身性鎮痛剤、抗炎症剤、粘膜保護剤、洗口液剤、一般的な口腔衛生及び抗菌剤を含む(5、12〜15)。成長因子及びサイトカイン、粘膜を保護する生体化合物、寒冷療法ならびに低レベルレーザー療法などの多くの他の薬剤も試験された(13、16)。ヒアルロン酸(HA)は、様々な機序によって組織治癒に重要な役割を果たす(17〜19);臨床試験もまた、それが、下肢の潰瘍(20)及び術後の鼻粘膜(21)の治癒過程を改善し、頭部ガン、頸部ガン、乳ガン又は骨盤内のガンを処置するための放射線療法を受ける患者における急性上皮炎を軽減することを確認した(22)。
【0007】
従って、研究は、口腔粘膜炎及び対応する製剤に関する新しい処置戦略に焦点を合わせている。
【0008】
最近、局所使用のための0.2%HAをベースとしたゲルは、再発性アフタ性口内炎及び萎縮性/浸食性の口腔扁平苔癬に関連する痛み/刺痛を緩和するだけでなく、潰瘍、腐食又は萎縮を示す部分の臨床的消散に寄与することが実証された(23、24)。
【0009】
WO 2007/048524は、グリシン、リシン、ロイシン及びプロリンならびにヒアルロン酸ナトリウムの組み合わせを含む創傷治癒医薬組成物を記載しており、これは、迅速な創傷治癒の基礎を形成し、結合組織再構成及びその結果として起こる上皮細胞の再生を促進する細胞再生の過程を促進するのに特に効果的である。
【0010】
WO 2008/027904は、口内炎又は粘膜炎を処置するための、ヒアルロン酸塩もしくはPVPのような粘性ポリマーの製剤を開示している。
【0011】
WO 02/39978は、グルタミン、抗酸化物質及び脂肪酸を含む、栄養不良又は慢性疾患患者のための経腸栄養補助食品を開示している。グリシンは、場合によりカルシウム拮抗薬として存在し得る。
【0012】
発明の説明
グリシン、プロリン、ならびに場合により天然もしくは合成の皮膜形成ポリマー、リシン及び/又はロイシン、を含む組み合わせは、放射線又は化学療法によって誘発される口腔粘膜炎の処置、特に疼痛管理に関して効果的であることが今回発見された。特に、グリシン及びプロリンの組み合わせは、e−NOシンターゼ及びVEGFの遺伝子発現を驚くべきことに増加させることが見出された。さらに、前記アミノ酸は、TGFβの産生を制御及び増強し、線維芽細胞によるコラーゲン合成を定量的にコントロールする。このことは、グリシン及びプロリンの組み合わせもまた、特にリシン及びロイシンを伴う場合に、TGFβ発現を抑制するのに効果的であり、従って、線維芽細胞によるコラーゲン産生率が最大である場合に、線維性コラーゲン産生を妨げることを意味する。この点において、ヒアルロン酸は単独では全く活性を有さず、従って、線維性瘢痕の予防は観察されず、そして得られない。
【0013】
本発明による組成物は、特に痛みの軽減及び即時緩和(投与後たった2時間)の観点から、創傷治癒に対するかなり促進させる効果、とりわけ疼痛管理に対する驚くべき効果を有する。従って、本発明による組成物の使用は、疼痛管理に対する実用的支援を構成し、迅速、効果的な痛みの軽減を提供する。
【0014】
従って、本発明は、
a)グリシン、
b)プロリン、
ならびに場合により
c)天然もしくは合成の皮膜形成ポリマー、及び/又は
d)リシン、及び/又は
e)ロイシン、
を含む、放射線又は化学療法によって誘発される口腔粘膜炎の処置のための経口用製剤に関する。
【0015】
本発明によると、天然又は合成の皮膜形成ポリマーは、ヒアルロン酸又はその塩、ポリビニルピロリドン、及びセルロース誘導体からなる群より選択される。
【0016】
好ましい態様によると、天然又は合成の皮膜形成ポリマーは、ヒアルロン酸又はその塩である。
【0017】
本発明によると、アミノ酸はL型で存在する。
【0018】
好ましい態様によると、本発明による組成物は、様々な有効成分を以下の重量組成の割合:
a)0.5〜20%のグリシン、
b)0.2〜15%のプロリン、
ならびに場合により
c)0.5〜5%のヒアルロン酸もしくはその塩、及び/又は
d)0.05〜10%のリシン、及び/又は
e)0.05%〜3%のロイシン
で含むであろう。
【0019】
本発明による組成物は、噴霧剤、エアロゾル、洗口剤又はゲルの形態で局所投与に適切に製剤化され得、製薬技術で周知の従来の方法(例えば、Remington's Pharmaceutical Handbook, Mack Publishing Co., N.Y., USAに記載されているもの)に従って、最終用途に許容しうる賦形剤、可溶化剤、皮膚軟化剤、安定剤、乳化剤、pH調節剤及び保存剤を使用して調製されるであろう。
【0020】
薬理試験
1日投与量の放射線療法又は化学療法で最近(2週間以内に)処置されており、世界保健機関(WHO)の粘膜炎スケールで評価する場合に少なくとも悪性度1のOMを示し、パラセタモール/ココダモール/アセチルサリチル酸による処置によって痛みが緩和されなかった、OMを有する患者27人で試験を行った。噴霧剤形態の本発明による組成物で、各患者を1日に3〜4回、14日間処置したが、これは、in situで少なくとも2分間維持しなければならなかった。少なくとも1時間は食べない、飲まない又は口をすすがないように、患者に指示した。試験期間を通じて、グルコン酸クロルヘキシジンの非アルコール溶液を含む洗口液を使用して口腔衛生に特に注意すること、及び、喫煙しない、飲酒しない又は刺激性の食物を食べないように、患者に要求した。試験の結果を以下の表I及びIIで説明する。
【0021】
表Iは、様々な評価段階における痛みスコアを示す。T0(ベースライン〜処置開始前)時点において、以下のパラメーターを評価した:痛み(1〜100の視覚的リニアアナログスケール(linear visual analog scale)を使用)及びOMの重大性(WHOの粘膜炎スケールを使用)。T01(2時間後)、T1(24時間後)、T2(72時間後)、T3(7日後)及びT4(14日後)時点において、痛みスコア、臨床的消散指標(clinical resolution index)及び患者のコンプライアンスに基づいて、処置の効果を評価した。
【0022】
【表1】

【0023】
結果は、ベースライン測定と比較して、噴霧剤の投与後たった2時間で痛みの症状の顕著な軽減を示した(p<0.0001;z=−4.541)。この痛みの軽減は、2週間の間進行した(p<0.0001)。
【0024】
表IIは、臨床的消散指標に対する処置の効果を示す。処置した患者は、処置後たった72時間で損傷の顕著な臨床的改善を示した(p=0.0051;z=−2.803;ウィルコクソン検定)。特に、フリードマン検定は、様々な段階の測定におけるベースラインと比較して、顕著な臨床的改善(p<0.0001)を示した。2週間の観察期間中に、全ての患者は、ベースラインと比較して顕著な改善を示し(p<0.0001)、固体及び液体を嚥下する患者の能力が徐々に向上した。
【0025】
【表2】

【0026】
全ての患者は良好なコンプライアンスも示し、患者は誰も試験終了時に副作用を訴えなかった。患者は誰も、放射線療法又は化学療法処置を中止する義務はなかった。
【0027】
【表3】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)グリシン、
b)プロリン、
ならびに場合により
c)天然もしくは合成の皮膜形成ポリマー、及び/又は
d)リシン、及び/又は
e)ロイシン、
を含む、放射線又は化学療法によって誘発される粘膜炎の処置のための経口製剤。
【請求項2】
天然又は合成の皮膜形成ポリマーがヒアルロン酸又はその塩、ポリビニルピロリドン及びセルロース誘導体から選択される、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
天然又は合成の皮膜形成ポリマーがヒアルロン酸又はその塩である、請求項2記載の製剤。
【請求項4】
アミノ酸がL型である、請求項1記載の製剤。
【請求項5】
組み合わせの様々な成分が以下の重量組成範囲:
a)0.5〜20%のグリシン、
b)0.2〜15%のプロリン、
ならびに場合により
c)0.5〜5%のヒアルロン酸もしくはその塩、及び/又は
d)0.05〜10%のリシン、及び/又は
e)0.05%〜3%のロイシン
で存在する、請求項1及び2記載の製剤。
【請求項6】
組成物が噴霧剤、エアロゾル、洗口剤又はゲルの形態である、請求項1及び2記載の製剤。

【公表番号】特表2013−512220(P2013−512220A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540428(P2012−540428)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068216
【国際公開番号】WO2011/064297
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512135780)プロフェッショナル・ダイエテティクス・エス・アール・エル (2)
【氏名又は名称原語表記】PROFESSIONAL DIETETICS S.R.L.
【Fターム(参考)】