説明

放射線撮像装置および放射線検出信号処理方法

【課題】 時間遅れを十分に除去することができ、放射線画像を高精度に得ることができる放射線撮像装置および放射線検出信号処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 前回の最後における撮像(サンプリング)から今回における撮像(サンプリング)までの間隔時間Tの間で取り出される各X線検出信号(入射X線強度)に含まれる時間遅れ分(斜線部分)を指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして再帰的演算処理により各X線検出信号から除去し、今回の補正後放射線検出信号を求めることで、時間遅れ分を十分に除去し、放射線画像を高精度に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検体を照射して逐次に得られる各信号を1つにまとめて蓄積して、その蓄積された状態で検出された放射線検出信号を取り出し、その放射線検出信号に基づいて放射線画像を得る信号処理を行う放射線撮像装置および放射線検出信号処理方法に係り、特に、前回の最後におけるサンプリング(取り出し)から今回におけるサンプリング(取り出し)までのサンプリング間隔時間の時間遅れに起因する画像の劣化を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線断層撮像装置を例に採って放射線撮像装置を説明する。X線断層撮像装置では、被検体の体軸周りにX線管(放射線照射手段)と検出器(放射線検出手段)とが回転しながら断層画像を得る周回型のX線断層撮像装置と、被検体の体軸周りに回転せずにX線管と検出器との位置を変更しながら断層画像を得る非周回型のX線断層撮像装置とがある。前者の周回型の装置は、いわゆる『X線CT(computed tomography)装置』と呼ばれているものである。後者の非周回型の装置の場合には、以下の2通りの手法のいずれかで断層画像の撮像を行う。
【0003】
(a)図7に示すように、サンプリング時間間隔ΔtごとX線管と検出器との位置を変更しながら、その都度、X線検出信号を検出する。検出されたアナログの各X線検出信号をA/D変換器でディジタル化して、ディジタル化されたこれらのX線検出信号を1つのX線検出信号にまとめて蓄積する。そして、蓄積されたX線検出信号を取り出して、このX線検出信号に基づいて断層画像を得る。
【0004】
(b)X線管と検出器との位置を変更しながら、検出器あるいはフィルムなどに代表される放射線検出手段にアナログ状態で蓄積してから検出する。蓄積された状態で検出された放射線検出信号をA/D変換器でディジタル化して取り出して、このX線検出信号に基づいて断層画像を得る。放射線検出手段で蓄積するには、X線から変換された電荷を検出器やフィルムのTFT(薄膜トランジスタ)の容量素子(キャパシタンス)で蓄積する手法、あるいは検出器における読み出し部分で読み出された電荷を1つのX線検出信号にまとめる手法などがある。なお、A/D変換器によるサンプリング(取り出し)の後に短い間隔時間(例えば20ないし30秒から数分程度)でサンプリング(取り出し)を続けて行う場合がある。以下、このX線検出信号のサンプリングは撮像と同等なので、以下を撮像として説明する。この発明は、後者の(b)の手法に関するものである。したがって、以下では(b)の手法で説明を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(b)の手法の場合には、次のような問題がある。この問題について、図5、図6を用いて説明する。図5は、放射線入射状況を示す図であるとともに、図6は、時間遅れ状況を示す図である。図中の縦軸は入射放射線強度を示し、時間t0〜t1は前回の最後における撮像(サンプリング)、時間t2〜t3は今回における撮像(サンプリング)を示す。また、間隔時間Tは、前回の最後における撮像から今回における撮像までの間の時間を示す。図5に示すように、時間t0〜t1およびt2〜t3の間に放射線が入射されると、入射線量に応じた本来の信号に、図6に斜線で示す時間遅れ分が加わって、放射線検出信号を示す入射放射線強度は図6中に太線で示すものとなる。
【0006】
上述したように、図6に示すように、例えば20ないし30秒から数分程度の短い間隔時間Tで次(今回)の撮像(サンプリング)を行う場合には、実際には前回の撮像に関するインパルス応答が減衰しながらも放射線検出信号の成分がわずかながらに残っているので、この成分が次の撮像における放射線検出信号に重畳してしまう。その結果、残像が生じて画像が劣化してしまう。なお、十分に減衰してから次の撮像を行うことも考えられるが、その場合には待ち時間が長くなってしまう。また、待ち時間が長くなると、例えば弱い放射線を照射してから強い放射線を照射する医用放射線装置のFRタイムのように仕様が決まっている場合には、その使用上の妨げになってしまう。
【0007】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、時間遅れを十分に除去することができ、放射線画像を高精度に得ることができる放射線撮像装置および放射線検出信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、発明者は、以下のような知見を得た。すなわち、上述した(a)の手法のようにサンプリング時間間隔ΔtごとにX線検出信号を収集したときにおいても、時間遅れが生じる。かかる時間遅れを除去するために、発明者は特願2003−033389号を出願している。この出願によれば、この時間遅れに対して、次の再帰式a〜cにより、インパルス応答に起因する時間遅れを除去している。
【0009】
k =Yk −Σn=1 N [αn ・〔1−exp(Tn ) 〕・exp(Tn )・Snk]…a
n =−Δt/τn …b
nk=Xk-1 +exp(Tn )・Sn(k-1)…c
但し, Δt:サンプリング時間間隔
k:サンプリングした時系列内のk番目の時点を示す添字
k :k番目のサンプリング時点で取り出された放射線検出信号
k :Yk から時間遅れ分を除去した遅れ除去放射線検出信号
k-1 :一時点前のXk
n(k-1):一時点前のSnk
exp :指数関数
N:インパルス応答を構成する時定数が異なる指数関数の個数
n:インパルス応答を構成する指数関数の中の一つを示す添字
αn :指数関数nの強度
τn :指数関数nの減衰時定数
この再帰式的演算では、FPDのインパルス応答係数である、N,αn,τn を事前に求めておき、それを固定した状態で放射線検出信号Yk を式a〜cに適用し、その結果、時間遅れ分を除去したXk を算出することになる。
【0010】
ここで、上述した出願の具体的な内容について、図8、図9を用いて説明する。図8は、図5と同様に放射線入射状況を示す図であるとともに、図9は、図6と同様に時間遅れ状況を示す図である。図8に示すように、時間t0〜t1の間に放射線が入射されると、入射線量に応じた本来の信号に、図9に斜線で示す時間遅れ分が加わって、放射線検出信号Yk は図7中に太線で示すものとなる。
【0011】
このように、(a)の手法のようにサンプリング時間間隔ΔtごとにX線検出信号を収集したときにおいても、時間遅れが生じるが、上述した式a〜cを用いることで時間遅れを除去することができる。
【0012】
そこで、(b)の手法のように蓄積した状態でX線検出信号を検出してからディジタル化して収集する場合においても、上述した式a〜cに準じた式を用いることで時間遅れを除去するという知見を得た。
【0013】
このような知見に基づくこの発明は、次のような構成をとる。
【0014】
すなわち、請求項1に記載の発明は、被検体に向けて放射線を照射する放射線照射手段と、被検体を透過した放射線を逐次に1つの放射線検出信号にまとめて蓄積して、その蓄積された状態の放射線検出信号を検出する放射線検出手段と、前記放射線検出手段から蓄積された状態で検出された放射線検出信号を取り出す信号サンプリング手段とを備え、被検体への放射線照射に伴って放射線検出手段から出力されたその放射線検出信号に基づいて放射線画像が得られるように構成された放射線撮像装置であって、信号サンプリング手段による前回の最後における放射線検出信号のサンプリングから今回における放射線検出信号のサンプリングまでのサンプリング間隔時間を測定する間隔時間測定手段と、そのサンプリング間隔時間の間で取り出される各放射線検出信号に含まれる時間遅れ分を指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして再帰的演算処理により各放射線検出信号から除去する時間遅れ除去手段を備え、前記時間遅れ除去手段は、前回の最後において取り出された放射線検出信号と今回において取り出される放射線検出信号とサンプリング間隔時間とに基づいて時間遅れ分を除去して、今回の補正後放射線検出信号を求めることを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、放射線検出手段は、被検体を透過した放射線を逐次に1つの放射線検出信号にまとめて蓄積して、その蓄積された状態の放射線検出信号を検出するものであって、放射線照射手段による被検体への放射線に伴って放射線検出手段から蓄積された状態で検出された放射線検出信号を信号サンプリング手段で取り出して、その放射線検出信号に基づいて放射線画像を得る。信号サンプリング手段による前回の最後におけるサンプリングから今回におけるサンプリングまでのサンプリング間隔時間の間で取り出される各放射線検出信号に含まれる時間遅れ分は、指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして、再帰的演算処理により各放射線検出信号から時間遅れ分を除去して今回の補正後放射線検出信号を求める。したがって、サンプリング間隔時間を測定すれば、そのサンプリング間隔時間と前回の最後において取り出された放射線検出信号と今回において取り出される放射線検出信号とに基づいて時間遅れ分を十分に除去することができる。その結果、時間遅れに起因した画像の劣化を防止することができ、放射線画像を高精度に得ることができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の放射線撮像装置において、前記装置は、前記補正後放射線検出信号に基づいて被検体の断層画像を得る放射線断層撮像装置であることを特徴とするものである。
【0017】
[作用・効果]請求項2に記載の発明によれば、放射線検出手段が、被検体を透過した放射線を逐次に1つの放射線検出信号にまとめて蓄積して、その蓄積された状態の放射線検出信号を検出し、信号サンプリング手段がその放射線検出信号を取り出して、その放射線検出信号に基づいて放射線画像を得るように構成された放射線撮像装置のときに、時間遅れに起因した画像の劣化を防止することができ、放射線画像を高精度に得ることができるので、その放射線撮像装置が放射線断層撮像装置に適用した場合に特に有用である。
【0018】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の放射線撮像装置において、時間遅れ除去手段は放射線検出信号から時間遅れ分を除去する再帰的演算処理を式A、
lagfree =I−I0 ・α・〔1−exp(−T/τ) 〕・exp(−T/τ) …A
但し, T:サンプリング間隔時間
I:今回において取り出される放射線検出信号
0 : 前回の最後において取り出された放射線検出信号
lagfree : Iから時間遅れ分を除去した補正後放射線検出信号
α:指数関数の強度
τ:指数関数の減衰時定数
により行い、前記式Aにより求められた前記インパルス応答に基づいて時間遅れ分を除去して、今回の補正後放射線検出信号を求めることを特徴とするものである。
【0019】
[作用・効果]請求項3に記載の発明によれば、式Aという簡潔な漸化式によって時間遅れ分を除去した補正後放射線検出信号Xk が速やかに求められる。
【0020】
また、請求項4に記載の発明は、被検体を照射して逐次に得られる各信号を1つにまとめて蓄積して、その蓄積された状態で検出された放射線検出信号を取り出し、その放射線検出信号に基づいて放射線画像を得る信号処理を行う放射線検出信号処理方法であって、前回の最後における放射線検出信号のサンプリングから今回における放射線検出信号のサンプリングまでのサンプリング間隔時間を測定し、そのサンプリング間隔時間の間で取り出される各放射線検出信号に含まれる時間遅れ分を指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして再帰的演算処理により各放射線検出信号から除去し、その際には、前回の最後において取り出された放射線検出信号と今回において取り出される放射線検出信号と蓄積間隔時間とに基づいて時間遅れ分を除去して、今回の補正後放射線検出信号を求めることを特徴とするものである。
【0021】
[作用・効果]請求項4に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明を好適に実施することができる。
【0022】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の放射線検出信号処理方法において、放射線検出信号から時間遅れ分を除去する再帰的演算処理を式A、
lagfree =I−I0 ・α・〔1−exp(−T/τ) 〕・exp(−T/τ) …A
但し, T:サンプリング間隔時間
I:今回において取り出される放射線検出信号
0 : 前回の最後において取り出された放射線検出信号
lagfree : Iから時間遅れ分を除去した補正後放射線検出信号
α:指数関数の強度
τ:指数関数の減衰時定数
により行い、前記式Aにより求められた前記インパルス応答に基づいて時間遅れ分を除去して、今回の補正後放射線検出信号を求めることを特徴とするものである。
【0023】
[作用・効果]請求項5に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明を好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明に係る放射線撮像装置および放射線検出信号処理方法によれば、前回の最後におけるサンプリングから今回におけるサンプリングまでのサンプリング間隔時間の間で取り出される各放射線検出信号に含まれる時間遅れ分を指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして再帰的演算処理により各放射線検出信号から除去し、今回の補正後放射線検出信号を求めることで、時間遅れ分を十分に除去し、放射線画像を高精度に得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
【0026】
図1は、実施例に係るX線断層撮像装置の全体構成を示すブロック図である。
【0027】
X線断層撮像装置は、図1に示すように、被検体Mに向けてX線を照射するX線管1(放射線照射手段)と、被検体Mを透過したX線を検出するFPD2(放射線検出手段)と、FPD2(フラットパネル型X線検出器)からX線検出信号(放射線検出信号)をディジタル化して取り出すA/D変換器3(信号サンプリング手段)と、後述する間隔時間(サンプリング間隔時間)を測定する間隔時間測定部4(間隔時間測定手段)と、A/D変換器3から出力されるX線検出信号に基づいてX線画像を作成する検出信号処理部5と、検出信号処理部5で取得されたX線画像を表示する画像モニタ6とを備えている。つまり、被検体MへのX線照射に伴ってA/D変換器3でFPD2から取り出されるX線検出信号に基づきX線画像が取得されるとともに、取得されたX線画像が画像モニタ6の画面に映し出される構成となっている。以下、本実施例の装置の各部構成を具体的に説明する。
【0028】
X線管1とFPD2は被検体Mを挟んで対向配置されていて、X線管1はX線撮影の際、X線照射制御部7の制御を受けながら被検体Mにコーンビーム状のX線を照射すると同時に、X線照射に伴って生じる被検体Mの透過X線像がFPD2のX線検出面に投影される配置関係となっている。
【0029】
X線管1とFPD2のそれぞれはX線管移動機構8およびX線検出器移動機構9によって被検体Mに沿って往復移動可能に構成されている。また、X線管1とFPD2の移動に際しては、X線管移動機構8およびX線検出器移動機構9が照射検出系移動制御部10の制御を受けてX線の照射中心がFPD2のX線検出面の中心に常に一致する状態が保たれるようにし、X線管1とFPD2の対向配置を維持したままで一緒に移動させる構成となっている。もちろんX線管1とFPD2が移動するにつれて被検体MへのX線照射位置が変化することにより撮影位置が移動することになる。
【0030】
FPD2は、図2に示すように、被検体Mからの透過X線像が投影されるX線検出面に多数のX線検出素子2aが被検体Mの体軸方向Xと体側方向Yに沿って縦横に配列された構成となっている。例えば、縦30cm×横30cm程の広さのX線検出面にX線検出素子2aが縦1536×横1536のマトリックスで縦横に配列されている。FPD2の各X線検出素子2aが検出信号処理部5で作成されるX線画像の各画素と対応関係にあり、FPD2から取り出されたX線検出信号に基づいて検出信号処理部5で断層画像に対応するX線画像が作成される。
【0031】
なお、本実施例では、X線管1とFPD2の対向配置を維持したままで一緒に移動させながら、X線管1から照射されて被検体Mを透過したX線をFPD2が蓄積して検出して、断層画像を作成する。そこで、X線検出素子2aの容量素子(キャパシタンス)は、断層画像に対応したX線画像1枚分に相当するデータになるまでの間、X線から変換された電荷を逐次に蓄積して、X線画像1枚分に相当するデータになれば、蓄積された信号を1つのX線検出信号にまとめて出力する。したがって、FPD2から出力されたX線検出信号は、蓄積された状態でFPD2から検出されることになる。その蓄積された状態のX線検出信号はA/D変換器3でアナログからディジタル化されて取り出される。
【0032】
なお、X線検出信号をFPD2などに代表される放射線検出手段で蓄積するには、容量素子で蓄積する手法に限定されず、FPD2の読み出し部分(データ線)で読み出された電荷を例えば加算器などで1つのX線検出信号にまとめる手法であってもよい。いずれの手法においても、蓄積された状態で検出されたX線検出信号は後段のA/D変換器3に送られる。
【0033】
A/D変換器3は、X線画像1枚分ずつの上述したX線検出信号を取り出して、後段のメモリ部10でX線画像作成用のX線検出信号を記憶するように構成されている。A/D変換器3によるX線検出信号の取り出し開始は、オペレータの手動操作によって行われる構成でもよいし、X線画像1枚分に相当するデータになれば、それに連動して自動的に行われる構成でもよい。
【0034】
間隔時間測定部4は、図5、図6に示すように、前回の最後における撮像(サンプリング)から今回における撮像(サンプリング)までの間の時間を示す間隔時間Tを測定する。間隔時間測定部4による測定は、オペレータの手動操作によって行われる構成でもよいし、撮像のたびにタイマが検出することで自動的に行われる構成でもよいし、撮像の計画を予め作成しておいて、その撮像計画に基づいて行われる撮像に連動して行われる構成でもよい。
【0035】
また、本実施例のX線断層撮像装置は、図1に示すように、前回の最後における撮像(サンプリング)から今回における一連の撮像(サンプリング)までの間隔時間Tの間で取り出される各X線検出信号に含まれる時間遅れ分は、指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして、再帰的演算処理により各X線検出信号から時間遅れ分を除去した今回の撮像における補正後X線検出信号を算出する時間遅れ除去部12を備えている。
【0036】
すなわち、FPD2の場合、図6に示すように、X線検出信号には、過去のX線照射に対応する信号が時間遅れ分(斜線部分)として含まれる。この時間遅れ分を時間遅れ除去部12で除去して時間遅れのない補正後X線検出信号にするとともに、補正後X線検出信号に基づいて検出信号処理部5でX線断層画像に対応するX線画像を作成する構成となっている。
【0037】
具体的に時間遅れ除去部12は、各X線検出信号から時間遅れ分を除去する再帰的演算処理を、次式Aを利用して行う。
【0038】
lagfree =I−I0 ・α・〔1−exp(−T/τ) 〕・exp(−T/τ) …A
但し, T:(サンプリング)間隔時間
I:今回において取り出されるX線検出信号
0 : 前回の最後において取り出されたX線検出信号
lagfree : Iから時間遅れ分を除去した補正後X線検出信号
α:指数関数の強度
τ:指数関数の減衰時定数
つまり、式Aの第2項の『I0 ・α・〔1−exp(−T/τ) 〕・exp(−T/τ)』が時間遅れ分に該当するので、本実施例装置では、時間遅れ分を除去した補正後X線検出信号Ilagfreeが式Aという簡潔な漸化式によって速やかに求められる。
【0039】
なお、この式Aは、上述した特願2003−033389号で説明した式a〜cにおいて、サンプリング時間間隔ΔtをTとし、時間遅れ分を除去した放射線検出信号XkをIlagfreeとし、k番目のサンプリング時点で取り出された放射線検出信号YkをIとし、さらにSnkをI0と置き換えることで導かれる。
【0040】
なお、本実施例装置では、A/D変換器3や、間隔時間測定部4、検出信号処理部5、X線照射制御部7や、照射検出系移動制御部10、時間遅れ除去部12は、操作部13から入力される指示やデータあるいはX線撮影の進行にしたがって主制御部14から送出される各種命令にしたがって制御・処理を実行する構成となっている。
【0041】
次に、上述の本実施例装置を用いてX線撮影を実行する場合について、図面を参照しながら具体的に説明する。図3は実施例でのX線検出信号処理方法の手順を示すフローチャートである。
【0042】
〔ステップS1〕オペレータの設定によりX線が連続ないし断続的に被検体Mに照射されるのと並行して、FPD2の検出素子2aによるX線から電荷への変換が行われ、検出素子2aの容量素子で変換された電荷が前回に変換された電荷に重なって蓄積される。なお、蓄積された電荷は1つにまとめられて、X線検出信号として読み出される。
【0043】
〔ステップS2〕X線照射が終了すればステップS3に進み、X線照射が終了していなければステップS1に戻る。このステップS1,S2とをX線照射の間に繰り返すことで、一連のX線照射の間にX線検出信号についてX線画像1枚分に相当するデータが取得される。
【0044】
〔ステップS3〕X線検出信号はA/D変換器3によってディジタル化されて取り出される。この取り出し(サンプリング)で1回分の撮像が行われることにもなる。具体的には、次に撮像が行われるまでに前回の最後における撮像(サンプリング)でのX線検出信号I0をA/D変換器3が取り出す。
【0045】
〔ステップS4〕今回行われるべき撮像を再度開始する場合には、ステップS1に戻り、今回行われるべき撮像がない場合には、ステップS5に進む。なお、前回の最後における撮像から今回における撮像までの間の間隔時間T(図5、図6参照)が間隔時間測定部4によって測定される。
【0046】
〔ステップS5〕時間遅れ除去部12が式Aによる再帰的演算処理を行い、今回において取り出されるX線検出信号Iから時間遅れ分を除去した補正後X線検出信号Ilagfree、すなわち、画素値を求める。
【0047】
〔ステップS6〕検出信号処理部5がX線画像1枚分の補正後X線検出信号Ilagfreeに基づいてX線画像を作成する。作成したX線画像を画像モニタ6に表示する。
【0048】
次に、図3におけるステップS5の時間遅れ除去部12による再帰的演算処理のプロセスを、図4のフローチャートを参照して説明する。図4は実施例でのX線検出信号処理方法における時間遅れ除去のための再帰的演算処理プロセスを示すフローチャートである。
【0049】
〔ステップT1〕前回の最後において取り出されたX線検出信号I0を式Aに代入する。
【0050】
〔ステップT2〕そして、今回において取り出されるX線検出信号Iを式Aに代入する。
【0051】
〔ステップT3〕間隔時間Tを式Aに代入することで今回の補正後X線検出信号Ilagfreeが算出される。
【0052】
〔ステップT4〕新たなる撮像におけるX線検出信号があれば、今回において取り出されるX線検出信号Iを前回の最後において取り出されたX線検出信号I0に置き換えるとともに、新たなる撮像におけるX線検出信号を今回において取り出されるX線検出信号Iに置き換える。また、間隔時間Tも、今回における撮像から新たなる撮像までの間の間隔時間Tに置き換えて、ステップT1に戻る。新たなる撮像におけるX線検出信号がなければ、次のステップT5に進む。
【0053】
〔ステップT5〕X線画像1枚分の補正後X線検出信号Ilagfreeが算出され、前回の最後から今回の撮像までの2回分の撮影分についての再帰的演算処理が終了となる。
【0054】
以上のように、本実施例のX線断層撮像装置によれば、FPD2は、被検体Mを透過したX線を逐次に1つのX線検出信号にまとめて蓄積して、その蓄積された状態のX線検出信号を検出するものであって、FPD2による被検体MへのX線に伴ってFPD2から蓄積された状態で検出されたX線検出信号をA/D変換器3で取り出して、そのX線検出信号に基づいてX線画像を得る。A/D変換器3による前回の最後におけるサンプリング(取り出し)から今回におけるサンプリング(取り出し)までの間隔時間Tの間で取り出される各X線検出信号に含まれる時間遅れ分は、指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして、式Aの再帰的演算処理により各X線検出信号から時間遅れ分を除去して今回の補正後X線検出信号を求める。したがって、間隔時間Tを測定すれば、その間隔時間Tと前回の最後において取り出されたX線検出信号と今回において取り出されるX線検出信号とに基づいて時間遅れ分を十分に除去することができる。その結果、時間遅れに起因した画像の劣化を防止することができ、X線画像を高精度に得ることができる。
【0055】
なお、上述した(a)の手法のようにサンプリング時間間隔ΔtごとにX線検出信号を収集して時間遅れ分を除去する特願2003−033389号の場合と比較すると、時間遅れを考慮するためにX線照射前後のX線非照射の間までX線検出信号を求める必要がない。また、次に行われる今回の撮像の間では間隔時間測定部4で間隔時間のみを監視して、今回の撮像を開始してから間隔時間を測定すればよいので、(b)の手法のように蓄積した状態でX線検出信号を検出してからディジタル化して収集する方がデータ数を軽減でき、断層画像を簡易に求めることができる。
【0056】
また、時間遅れに起因した画像の劣化を防止することができ、放射線画像を高精度に得ることができるので、この発明が本実施例のようなX線断層撮像装置に適用した場合に特に有用である。
【0057】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0058】
(1)上述した実施例装置では、放射線検出手段がFPDであったが、この発明は、FPD以外のX線検出信号の時間遅れを生ずる放射線検出手段を用いた構成の装置にも用いることができる。
【0059】
(2)上述した実施例装置は、X線断層撮像装置であったが、(b)の手法のように蓄積した状態でX線検出信号を検出してからディジタル化して収集するのであれば、必ずしもX線断層撮像装置のように限定されない。
【0060】
(3)上述した実施例装置は、非周回型の装置であったが、(b)の手法を用いるのであれば、例えばX線CT装置のように周回型の装置にも適用することができる。
【0061】
(4)この発明は、医用装置にも、非破壊検査機器などの工業用装置にも適用することができる。
【0062】
(5)上述した実施例装置は、放射線としてX線を用いる装置であったが、この発明は、X線に限らず、X線以外の放射線を用いる装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例のX線断層撮像装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施例装置に用いられているFPDの構成を示す平面図である。
【図3】実施例でのX線検出信号処理方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】実施例でのX線検出信号処理方法における時間遅れ除去用の再帰的演算処理プロセスを示すフローチャートである。
【図5】放射線入射状況を示す図である。
【図6】時間遅れ状況を示す図である。
【図7】従来のサンプリング時間間隔ごとにX線検出信号を収集する際のX線検出信号のサンプリング状況を示す模式図である。
【図8】この発明に至ったサンプリング時間間隔ごとにX線検出信号を収集する場合での放射線入射状況を示す図である。
【図9】この発明に至ったサンプリング時間間隔ごとにX線検出信号を収集する場合での時間遅れ状況を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 … X線管(放射線照射手段)
2 … FPD(放射線検出手段)
3 … A/D変換器(信号サンプリング手段)
4 … 間隔時間測定部(間隔時間測定手段)
12 … 時間遅れ除去部(時間遅れ除去手段)
M … 被検体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に向けて放射線を照射する放射線照射手段と、被検体を透過した放射線を逐次に1つの放射線検出信号にまとめて蓄積して、その蓄積された状態の放射線検出信号を検出する放射線検出手段と、前記放射線検出手段から蓄積された状態で検出された放射線検出信号を取り出す信号サンプリング手段とを備え、被検体への放射線照射に伴って放射線検出手段から出力されたその放射線検出信号に基づいて放射線画像が得られるように構成された放射線撮像装置であって、信号サンプリング手段による前回の最後における放射線検出信号のサンプリングから今回における放射線検出信号のサンプリングまでのサンプリング間隔時間を測定する間隔時間測定手段と、そのサンプリング間隔時間の間で取り出される各放射線検出信号に含まれる時間遅れ分を指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして再帰的演算処理により各放射線検出信号から除去する時間遅れ除去手段を備え、前記時間遅れ除去手段は、前回の最後において取り出された放射線検出信号と今回において取り出される放射線検出信号とサンプリング間隔時間とに基づいて時間遅れ分を除去して、今回の補正後放射線検出信号を求めることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮像装置において、前記装置は、前記補正後放射線検出信号に基づいて被検体の断層画像を得る放射線断層撮像装置であることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線撮像装置において、時間遅れ除去手段は放射線検出信号から時間遅れ分を除去する再帰的演算処理を式A、
lagfree =I−I0 ・α・〔1−exp(−T/τ) 〕・exp(−T/τ) …A
但し, T:サンプリング間隔時間
I:今回において取り出される放射線検出信号
0 : 前回の最後において取り出された放射線検出信号
lagfree : Iから時間遅れ分を除去した補正後放射線検出信号
α:指数関数の強度
τ:指数関数の減衰時定数
により行い、前記式Aにより求められた前記インパルス応答に基づいて時間遅れ分を除去して、今回の補正後放射線検出信号を求めることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項4】
被検体を照射して逐次に得られる各信号を1つにまとめて蓄積して、その蓄積された状態で検出された放射線検出信号を取り出し、その放射線検出信号に基づいて放射線画像を得る信号処理を行う放射線検出信号処理方法であって、前回の最後における放射線検出信号のサンプリングから今回における放射線検出信号のサンプリングまでのサンプリング間隔時間を測定し、そのサンプリング間隔時間の間で取り出される各放射線検出信号に含まれる時間遅れ分を指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして再帰的演算処理により各放射線検出信号から除去し、その際には、前回の最後において取り出された放射線検出信号と今回において取り出される放射線検出信号と蓄積間隔時間とに基づいて時間遅れ分を除去して、今回の補正後放射線検出信号を求めることを特徴とする放射線検出信号処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線検出信号処理方法において、放射線検出信号から時間遅れ分を除去する再帰的演算処理を式A、
lagfree =I−I0 ・α・〔1−exp(−T/τ) 〕・exp(−T/τ) …A
但し, T:サンプリング間隔時間
I:今回において取り出される放射線検出信号
0 : 前回の最後において取り出された放射線検出信号
lagfree : Iから時間遅れ分を除去した補正後放射線検出信号
α:指数関数の強度
τ:指数関数の減衰時定数
により行い、前記式Aにより求められた前記インパルス応答に基づいて時間遅れ分を除去して、今回の補正後放射線検出信号を求めることを特徴とする放射線検出信号処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−6387(P2006−6387A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183825(P2004−183825)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】