説明

放射線撮影装置、及びシンチレータとその製造方法

【課題】CsIよりも安価でかつ破損しにくい材質からなる蛍光体を使用して、CsIと同様の作用効果を有するシンチレータを得る。
【解決手段】シンチレータ24は、平板状の蛍光体からなる第1変換層40と、FOP内に蛍光体を充填することにより第1変換層40の一面に一体に立設された複数の柱状蛍光体からなる第2変換層41とからなる。第1及び第2変換層40、41の蛍光体は、樹脂バインダ中にGOS粒子を分散させたプラスチックシンチレータからなり、第2変換層41により、CsIの柱状結晶と同様な光ガイド効果を得ることができる。第1変換層40及び第2変換層41を一体に設けているので、第1変換層40と第2変換層41とを別体で設けて貼り合わせる場合のように、第1変換層40と第2変換層41との間に空気層が生じることはなく、貼り合せ状態が径年劣化することもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を光に変換するシンチレータと、シンチレータによって放射線から変換された光を電気信号に変換する複数の画素が二次元に配列されたセンサパネルとを有する放射線撮影装置と、シンチレータ及びその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
照射された放射線、例えばX線を光に変換するシンチレータと、シンチレータによって変換された光を電気信号に変換する複数の画素が二次元に配列されたセンサパネルとを対面配置した間接変換方式の放射線検出器を用いて、被検体を透過した放射線により表される放射線画像を撮影できるようにした放射線撮影装置が実用化されている。
【0003】
間接変換方式の放射線検出器には、「裏面読取方式(PSS:Penetration Side Sampling)」と、「表面読取方式(ISS:Irradiation Side Sampling)」と呼ばれる方式が知られている。PSS方式は、放射線の入射側からシンチレータ及びセンサパネルを順に配置し、シンチレータにより放射線から変換された光をセンサパネルによって検出する。これに対し、ISS方式は、放射線の入射側からセンサパネル及びシンチレータを順に配置し、センサパネルを透過した放射線をシンチレータで光に変換してセンサパネルで検出する。シンチレータは、放射線入射側がより強く発光するので、シンチレータの放射線入射側にセンサパネルを配置するISS方式は、PSS方式に比べて感度と放射線画像の分解能とが高くなる。
【0004】
また、シンチレータには、ヨウ化セシウム(以下、CsIと呼ぶ)等を基板に蒸着することにより、光出射方向に沿って複数の柱状結晶を立設したものがある。柱状結晶からなるシンチレータでは、放射線の照射によって発生した光は、柱状結晶のライトガイド効果によって柱状結晶中を全反射しながらセンサパネルに向けて進行するので、シンチレータから出射される光の散乱が抑制される。したがって、柱状結晶からなるシンチレータを用いた放射線撮影装置では、照射された放射線を画像として検出する際に、画像の鮮鋭度の低下を抑制することができる。
【0005】
PSS方式の放射線検出器を用いた放射線撮影装置として、例えば特許文献1記載のものが知られている。この放射線撮影装置では、放射線入射側から順に、GOSを用いた柱状の蛍光体層と平板状の蛍光体層とを積層したシンチレータを用いるとともに、柱状の蛍光体層の粒子径を平板状の蛍光体層よりも大きくすることが開示されている。放射線入射側に柱状の蛍光体層を配置することで鮮鋭性を向上させ、また柱状の蛍光体層の粒子径を大きくすることで感度を向上させている。
【0006】
ISS方式を用いた放射線撮影装置として、例えば特許文献2記載のものが知られている。この放射線撮影装置では、放射線入射側から第2及び第1の蛍光体層を順に配置することにより放射線を光に変換する効率を向上させている。また、第1の蛍光体層に、第1の蛍光体層によって変換された光を吸収する吸収剤を含ませることにより、第1の蛍光体層によって変換された光の側方散乱光を吸収剤によって吸収し、鮮鋭度を向上させている。特許文献2には、第1及び第2の蛍光体層に同じ材質、または異なる材質を用いることが開示されており、その一例として、第2の蛍光体層にGOSからなる平板状の蛍光体層を用い、第1の蛍光体層にCsIからなる柱状の蛍光体層を用いることが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−181941号公報
【特許文献2】特開2010−121997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、放射線撮影装置の感度、分解能及び鮮鋭性を向上させるには、ISS方式の放射線検出器に、CsIからなるシンチレータを用いるのが望ましい。しかし、CsIはGOS等の他の蛍光体に比べて格段に価格が高い。また、CsIは、硬くて脆い性質を有するため、CsIの破損を防止するための保護構造が必要となる。例えば可搬型の放射線撮影装置にCsIからなるシンチレータを搭載する場合には、病室等でベッドに寝ている患者の下に可搬型の放射線撮影装置を挿入して撮影することがあるため、シンチレータを患者の体重から守るために耐過重性を付与する保護構造が必要となり、放射線撮影装置の重量が重くなってしまう。
【0009】
特許文献1記載のシンチレータは、CsIよりも安価で破損しにくいGOSからなり、感度、分解能及び鮮鋭性の向上が可能であるため、このシンチレータを使用することにより、上記問題の解決が可能である。しかし、特許文献1には、ISS方式に関する記載はなく、当然ながら特許文献1の構成をISS方式に適用する際に、センサパネルに対して柱状の蛍光体層と平板状の蛍光体層とをどのような順番で積層するかも記載がない。また、鮮鋭度と感度を両立するという特許文献1の課題から、当該シンチレータをISS方式に適用した場合を予測すると、センサパネルに近い位置に柱状の蛍光体層が配置され、その下に平板状の蛍光体層が配置されると考えられるが、センサパネルから遠い位置に平板状の蛍光体層を配置しても何ら性能上の効果が得られず、シンチレータの構造が複雑化してコストアップするだけである。また、特許文献1では、柱状の蛍光体層をスクリーン印刷やサンドブラスト法によって形成しているが、これらの手法では、例えばセンサパネルの画素サイズ以下の柱径を有する高アスペクト比の柱状体は形成できない。
【0010】
なお、特許文献1記載のシンチレータをISS方式に適用する際に、放射線入射側から順に、平板状の蛍光体層と柱状の蛍光体層とを配置し、平板状の蛍光体層の粒子径を大きくすることは考え難い。このような構成にすると、感度は向上するものの、鮮鋭性が悪化するためである。
【0011】
また、特許文献2記載のシンチレータのように、GOSからなる第2の蛍光体層と、CsIからなる第1の蛍光体層とを積層したシンチレータを用いることにより、CsIによる効果を得ながら、CsIの使用量を減らしてコストダウンすることが可能である。しかし、このような異なる材質からなるシンチレータは、その積層の仕方によって各種問題が発生することが考えられる。例えば、センサパネルにGOSを塗布して第2の蛍光体層を形成し、第2の蛍光体層の上にCsIを蒸着して第1の蛍光体層を形成する場合には、CsIの蒸着が失敗するとセンサパネルと第2の蛍光体層もNG品となるため、歩留りの点で好ましくない。
【0012】
また、蒸着基板にCsIを蒸着して第1の蛍光体層を形成し、第1の蛍光体層の上にGOSを塗布して第2の蛍光体層を形成する場合には、CsIの柱状結晶間にGOSが入り込み、CsIの光ガイド効果が低下してしまう。以上のような問題を回避するため、第1の蛍光体層と第2の蛍光体層とを別々に形成して押し当てる、あるいは貼り合わせることが考えられるが、押し当てでは第1の蛍光体層と第2の蛍光体層との間に僅かな空気層が生じ、押し当て界面で光が反射することが考えられる。また、貼り合せでは、第1の蛍光体層と第2の蛍光体層とを均一に密着させることが難しく、貼り合せに用いた接着剤等の経時変化により密着性が悪化することが懸念される。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するため、CsIよりも安価でかつ破損しにくい材質からなるシンチレータを使用して、CsIを用いたシンチレータと同様の作用効果が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の放射線撮影装置は、シンチレータ、センサパネルを有している。シンチレータは、平板状の蛍光体からなる第1変換層と、第1変換層の一面に一体に立設された複数の柱状蛍光体からなる第2変換層とを有し、照射された放射線を光に変換する。センサパネルは、シンチレータの光出射側に配置されており、シンチレータにより変換された光を電気信号に変換する複数の画素が二次元に配列されている。
【0015】
シンチレータは、放射線の入射側から順に第1変換層と第2変換層とが配置されている。また、センサパネルは、第1変換部の放射線入射側に配置されており、画素が設けられた検出面が第1変換部と対面していることが好ましい。第2変換層の放射線入射側と反対側に、シンチレータによって放射線から変換された光をセンサパネルに向けて反射する反射層を配置してもよい。
【0016】
第2変換部は、複数の中空の光ファイバを束にしたファイバーオプティックプレートと、各光ファイバ内に充填された蛍光体とから構成されている。光ファイバの内面には、反射膜を設けてもよい。
【0017】
第1変換部及び第2変換部に用いられる蛍光体は、CsIに比べて安価で破損しにくいプラスチックシンチレータであることが好ましい。プラスチックシンチレータとしては、樹脂バインダ中にGOSの粒子が分散されたものが好ましい。また、放射線から光に変換する変換効率を高くするため、第1変換部の厚みは、第2変換部の厚みよりも大きいことが好ましい。
【0018】
また、本発明のシンチレータは、平板状の蛍光体からなる第1変換層と、第1変換層の一面に一体に立設された複数の柱状蛍光体からなる第2変換層とを有するものである。第2変換部は、複数の中空の光ファイバを束にしたファイバーオプティックプレートと、各光ファイバ内に充填された蛍光体とから構成されている。光ファイバの内面には、反射膜を設けてもよい。
【0019】
また、本発明のシンチレータの製造方法は、複数の中空の光ファイバを束にしたファイバーオプティックプレートの各光ファイバ内に蛍光体ペーストを充填し、複数の柱状蛍光体からなる第2変換層を形成する工程と、ファイバーオプティックプレートの一方の面に、蛍光体ペーストを塗布し、柱状蛍光体と一体に平板状の第1変換層を形成する工程とから構成されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシンチレータ及び放射線撮影装置によれば、平板状の蛍光体からなる第1変換層と複数の柱状蛍光体からなる第2変換層とを備えたシンチレータを用いるので、高価で破損しやすいCsIを用いなくても、CsIの柱状結晶と同様な光ガイド効果を得ることができ、放射線画像の分解能及び鮮鋭性を向上させることができる。また、第1変換層と第2変換層とを一体に設けているので、第1変換層と第2変換層とを別体に設けて貼り合わせる場合のように、第1変換層と第2変換層との間に空気層が生じることがなく、貼り合せ状態が径年劣化することもない。
【0021】
また、本発明はISS方式の放射線検出器に用いることにより、反射層に向けて伝播される光を第2変換層によってガイドすることができるので、放射線画像のボケを抑制することができる。また、第2変換層は、ファイバーオプティックプレートと、このファイバーオプティックプレートの各光ファイバ内に充填された蛍光体とで構成しているので、高アスペクト比を有する柱状蛍光体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】放射線撮影装置を一部破断して示す斜視図である。
【図2】放射線撮影装置の概略断面図である。
【図3】放射線検出器の端部側断面図である。
【図4】シンチレータの外観を示す斜視図である。
【図5】シンチレータの製造手順を示す説明図である。
【図6】光センサの構成を模式的に示した断面図である。
【図7】放射線撮影装置の電気系の要部構成を示すブロック図である。
【図8】コンソール及び放射線発生装置の電気系の要部構成を示すブロック図である。
【図9】シンチレータで発生した光のシンチレータ内での伝播状態を模式的に示す概略図である。
【図10】光ファイバ内に反射膜を設けた放射線検出器の端部側断面図である。
【図11】板状のシンチレータ内での光の伝播状態を模式的に示す概略図である。
【図12】PSS方式の放射線検出器における板状のシンチレータ内での光の伝播状態を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示すように、本発明に係る放射線撮影装置10は、全体形状がおよそ箱形で、矩形状の上面が放射線の照射面11とされた筐体12を備えている。筐体12は、放射線、例えばX線を透過させる材料からなり、照射面11が設けられている天板13以外の部分は、例えばABS樹脂等から構成され、天板13は例えばカーボン等から構成されている。これにより、天板13による放射線の吸収を抑制しつつ、天板13の強度が確保される。なお、筐体12は、放射線により感光材料に画像を記録する構成を備えた旧来のカセッテと同サイズであり、当該カセッテに代えて使用できるようになっている。
【0024】
放射線撮影装置10の照射面11には、複数個のLEDからなり、放射線撮影装置10の動作モード(例えば「レディ状態」や「データ送信中」等)やバッテリの残容量等の動作状態を表示するための表示部16が設けられている。なお、表示部16は、LED以外の発光素子で構成してもよいし、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の表示手段で構成してもよい。また、表示部16は、照射面11以外の部位に設けてもよい。
【0025】
放射線撮影装置10の筐体12内には、照射面11に対面するように、被撮影者の体を透過した放射線を検出するために、パネル状の放射線検出器19が配置されている。また、筐体12の内部には、照射面11の短手方向に沿った一端側に、マイクロコンピュータを含む各種の電子回路や、充電可能かつ着脱可能なバッテリ(二次電池)を収容するケース20が配置されている。放射線検出器19を含む放射線撮影装置10の各種電子回路は、ケース20内に収容されたバッテリから供給される電力によって作動する。筐体12内のうちケース20の照射面11側には、ケース20内に収容された各種電子回路が放射線の照射に伴って損傷することを回避するため、鉛板等からなる放射線遮蔽部材が配設されている。
【0026】
放射線検出器19は、放射線が照射される方向に沿って、照射面11側からセンサパネル23、シンチレータ24及び反射層25が積層された構成を有している。図2に示すように、センサパネル23は、天板13の内面に全面にわたって接着剤により貼り付けられている。センサパネル23の下面には、シンチレータ24が配置されており、シンチレータ24の下面には、反射層25が配置されている。シンチレータ24の外周には、シンチレータ24を湿気などから保護する封止剤28が設けられている。筐体12内の底面には、制御基板29が配置されている。制御基板29とセンサパネル23とは、フレキシブルケーブル30を介して電気的に接続されている。
【0027】
図3は、放射線検出器19の端縁側の断面図である。センサパネル23は、シンチレータ24から放射された光を検出するものであり、平板状で平面視における外形形状が矩形状とされたセンサ基板33と、センサ基板33の下面に設けられた光センサ34とを備えている。センサ基板33には、光センサ34を構成するフォトダイオード(PD:PhotoDiode)を例えばアモルファスシリコンの蒸着によって形成するため、耐熱性を有するガラス基板が用いられている。センサ基板33の厚みは、例えば700μm程度である。
【0028】
シンチレータ24は、接着剤37によりセンサパネル23に貼り付けられている。シンチレータ24は、被撮影者の体を透過して筐体12の照射面11に照射され、天板13及びセンサパネル23を透過して照射された放射線を吸収して光を放出する。一般に、シンチレータとしては、例えばCsI:Tl(タリウムを添加したヨウ化セシウム))や、CsI:Na(ナトリウム賦活ヨウ化セシウム)、GOS(Gd2O2S:Tb)等の材料を用いることができる。本実施形態では、シンチレータ24として、CsIよりも安価で破損しにくいという特性を利用するため、蛍光体粒子、例えばGOSの粒子を樹脂バインダ中に分散させたプラスチックシンチレータを用いている。
【0029】
シンチレータ24は、放射線入射側、すなわちセンサパネル23に貼り合わされる側から順に積層された平板状の第1変換層40と、第1変換層40と一体に設けられた柱状の第2変換層41とから構成されている。図4に示すように、第2変換層41は、複数の中空の光ファイバを束にしたファイバーオプティックプレート(以下、FOPと呼ぶ)42の各光ファイバ43内にGOSを充填したものである。
【0030】
シンチレータ24は、例えば厚みが500μmのGOS製の平板状シンチレータと同等の発光量を得るため、第1変換層40の厚みを300μm、第2変換層41の厚みを250μmとし、総厚みを550μmとしている。本実施形態のシンチレータ24の総厚みが平板状のシンチレータよりも厚いのは、第2変換層41に使用されているGOSの量が平板状のシンチレータに比べて少なくなるのを補うためである。なお、シンチレータ24の総厚み及び各層の厚みは一例であり、これに限定されるものではない。
【0031】
シンチレータ24は、例えば次のような手順で製造される。図5(A)に示すように、最初の工程では、複数の中空の光ファイバ43を束にしたFOP42の一方の面をGOSの粒子がバインダ中に分散されたGOSペースト内に浸漬させ、毛細管現象を利用して各光ファイバ43内の全域にGOSペーストを充填させて、第2変換層41を形成する。その際、FOP42の他方の面は、充填されたGOSペーストが流れ出ないように密着性のよい閉塞板45で塞いでおくのが好ましい。なお、GOSペーストに使用するバインダの種類、及びGOSペーストの粘度等は、光ファイバ43の内径に応じて適宜選択可能である。
【0032】
図5(B)に示すように、次の工程では、FOP42の一方の面上にGOSペーストを塗布して、平板状の第1変換層40を形成する。なお、第1変換層40の形成に使用するGOSペーストは、塗布後に流れ落ちるのを防止するため、第2変換層41の形成に使用したGOSペーストよりも高粘度なものが用いられる。その後、第1変換層40及び第2変換層41を構成するGOSペーストが乾燥されて硬化することにより、第1変換層40と第2変換層41とが一体に形成されたシンチレータ24が完成する。
【0033】
このように、シンチレータ24は、CsIの柱状結晶と同様な構成を有する第2変換層41をGOSによって形成することができるので、コストダウンが可能であり、シンチレータ24の補強構造を設けなくてもシンチレータ24の破損を抑制することができる。また、第1変換層40及び第2変換層41を一体に設けているので、第1変換層40と第2変換層41とを別体で設けて貼り合わせる場合のように、第1変換層40と第2変換層41との間に光を反射するような空気層が生じることはなく、貼り合せ状態が径年劣化することもない。
【0034】
シンチレータ24は、センサパネル23に貼り付けられた状態で、大気中の水分に対してバリア性を有する保護膜44によって覆われている。保護膜44の材質には、例えば熱CVD法、プラズマCVD法等の気相重合で得られる有機膜が用いられる。有機膜としては、ポリパラキシリレン製樹脂の熱CVD法によって形成された気相重合膜、または含フッ素化合物不飽和炭化水素モノマーのプラズマ重合膜不飽和炭化水素モノマーのプラズマ重合膜が用いられる。また有機膜と無機膜の積層構造を用いることも出来、無機膜の材料としては、例えば、窒化珪素(SiNx)膜、酸化珪素(SiOx)膜、酸窒化珪素(SiOxNy)膜、Al2O3等が好適である。
【0035】
反射層25は、例えばシンチレータ24に対する面が鏡面加工された金属板からなり、シンチレータ24によって放射線から変換された光をセンサパネル23に向けて反射することにより、検出光量を増加させて放射線検出器19の検出感度を向上させる。反射層25は、センサパネル23にシンチレータ24が貼り付けられ、保護膜44によってシンチレータ24が覆われた後に、保護膜44の密着力を用いてシンチレータ24に密着されている。なお、反射層25は、光透過性の高い接着剤によってシンチレータ24に貼り付けてもよい。
【0036】
本実施形態では、シンチレータ24の放射線照射面側にセンサパネル23が配置されているが、シンチレータとセンサパネルとをこのような位置関係で配置する方式は、「表面読取方式(ISS:Irradiation Side Sampling)」と称する。シンチレータは、放射線入射側がより強く発光するので、シンチレータの放射線入射側に光検出部を配置する表面読取方式(ISS)は、シンチレータの放射線入射側と反対側に光検出部を配置する「裏面読取方式(PSS:Penetration Side Sampling)」よりも光検出部とシンチレータの発光位置とが接近することから、撮影によって得られる放射線画像の分解能が高く、また光検出部の受光量が増大することで、結果として放射線撮影装置の感度が向上する。
【0037】
次に、センサパネル23の光センサ34について説明する。図6に示すように、光センサ34は、フォトダイオード(PD:PhotoDiode)等からなる光電変換部46、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)47、及び蓄積容量48を備えた画素部49からなり、画素部49は、センサ基板33上にマトリクス状に複数形成されている。また、センサパネル23のうち、放射線の到来方向と反対側の面には、センサ基板33上を平坦にするための平坦化層50が形成されている。上述したように、センサパネル23は、接着層51によって天板13に貼り付けられている。
【0038】
光電変換部46は、下部電極46aと上部電極46bとの間に、シンチレータ24から放出された光を吸収し、吸収した光に応じた電荷を発生する光電変換膜46cが配置されて構成されている。なお、下部電極46aは、シンチレータ24から放出された光を光電変換膜46cに入射させる必要があるため、少なくともシンチレータ24の発光波長に対して透明な導電性材料で構成することが好ましく、具体的には、可視光に対する透過率が高く、抵抗値が小さい透明導電性酸化物(TCO;Transparent Conducting Oxide)を用いることが好ましい。
【0039】
なお、下部電極46aとしてAuなどの金属薄膜を用いることもできるが、90%以上の光透過率を得ようとすると抵抗値が増大し易くなるため、TCOの方が好ましい。例えば、ITO、IZO、AZO、FTO、SnO2、TiO2、ZnO2等を用いることが好ましく、プロセス簡易性、低抵抗性、透明性の観点からITOが最も好ましい。なお、下部電極46aは、全画素部共通の一枚構成としてもよいし、画素部毎に分割してもよい。
【0040】
光電変換膜46cを構成する材料は、光を吸収して電荷を発生する材料であればよく、例えば、アモルファスシリコンや有機光電変換材料等を用いることができる。光電変換膜46cをアモルファスシリコンで構成した場合、シンチレータ24から放出された光を広い波長域に亘って吸収するように構成することができる。アモルファスシリコンからなる光電変換膜46cの形成には、蒸着を行う必要があるため、センサ基板33には、耐熱性を有するガラス基板を用いるのが好ましい。
【0041】
TFT47は、ゲート電極、ゲート絶縁膜及び活性層(チャネル層)が積層され、更に活性層上にソース電極とドレイン電極が所定の間隔を隔てて形成されている。活性層は、例えばアモルファスシリコンや非晶質酸化物、有機半導体材料、カーボンナノチューブ等のうちの何れかにより形成することができるが、活性層を形成可能な材料はこれらに限定されるものではない。
【0042】
図7に示すように、光センサ34には、一定方向(行方向)に沿って延設され個々のTFT47をオンオフさせるための複数本のゲート配線54と、前記一定方向と交差する方向(列方向)に沿って延設され、蓄積容量48(及び光電変換部46の下部電極46aと上部電極46bの間)に蓄積された電荷をオン状態のTFT47を介して読み出すための複数本のデータ配線55が設けられている。
【0043】
センサパネル23の個々のゲート配線54はゲート線ドライバ58に接続されており、個々のデータ配線55は信号処理部59に接続されている。被撮影者の体を透過した放射線(被撮影者の体の画像情報を担持した放射線)が放射線撮影装置10に照射されると、シンチレータ24のうち照射面11上の各位置に対応する部分からは、前記各位置における放射線の照射量に応じた光量の光が放出され、個々の画素部49の光電変換部46では、シンチレータ24のうちの対応する部分から放出された光の光量に応じた大きさの電荷が発生され、この電荷が個々の画素部49の蓄積容量48(及び光電変換部46の下部電極46aと上部電極46bの間)に蓄積される。
【0044】
上記のようにして個々の画素部49の蓄積容量48に電荷が蓄積されると、個々の画素部49のTFT47は、ゲート線ドライバ58からゲート配線54を介して供給される信号により行単位で順にオンされ、TFT47がオンされた画素部49の蓄積容量48に蓄積されている電荷は、アナログの電気信号としてデータ配線55を伝送されて信号処理部59に入力される。従って、個々の画素部49の蓄積容量48に蓄積された電荷は行単位で順に読み出される。
【0045】
信号処理部59は、個々のデータ配線55毎に設けられた増幅器及びサンプルホールド回路を備えており、個々のデータ配線55を伝送された電気信号は増幅器で増幅された後にサンプルホールド回路に保持される。また、サンプルホールド回路の出力側にはマルチプレクサ、A/D(アナログ/デジタル)変換器が順に接続されており、個々のサンプルホールド回路に保持された電気信号はマルチプレクサに順に(シリアルに)入力され、A/D変換器によってデジタルの画像データへ変換される。
【0046】
信号処理部59には画像メモリ62が接続されており、信号処理部59のA/D変換器から出力された画像データは画像メモリ62に順に記憶される。画像メモリ62は複数フレーム分の画像データを記憶可能な記憶容量を有しており、放射線画像の撮影が行われる毎に、撮影によって得られた画像データが画像メモリ62に順次記憶される。
【0047】
画像メモリ62は、放射線撮影装置10全体の動作を制御する制御部64と接続されている。制御部64は、マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPU64a、ROM及びRAMを含むメモリ64b、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等からなる不揮発性の記憶部64cを備えている。
【0048】
また、制御部64には無線通信部66が接続されている。無線通信部66は、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11a/b/g/n等に代表される無線LAN(Local Area Network)規格に対応しており、無線通信による外部機器との間での各種情報の伝送を制御する。制御部64は、無線通信部66を介してコンソール70(図8参照)と無線通信が可能とされており、コンソール70との間で各種情報の送受信が可能とされている。
【0049】
また、放射線撮影装置10には電源部67が設けられており、上述した各種電子回路(ゲート線ドライバ58や信号処理部59、画像メモリ62、無線通信部66、制御部64等)は電源部67と各々接続され(図示省略)、電源部67から供給された電力によって作動する。電源部67は、放射線撮影装置10の可搬性を損なわないように、前述のバッテリ(二次電池)を内蔵しており、充電されたバッテリから各種電子回路へ電力を供給する。ゲート線ドライバ58、信号処理部59、画像メモリ62、制御部64、無線通信部66及び電源部67は、上述したケース20内、もしくは制御基板29に設けられている。
【0050】
図8に示すように、コンソール70はコンピュータからなり、装置全体の動作を司るCPU71、制御プログラムを含む各種プログラム等が予め記憶されたROM72、各種データを一時的に記憶するRAM73、及び、各種データを記憶するHDD74を備え、これらはバスを介して互いに接続されている。またバスには、通信I/F部75及び無線通信部76が接続され、ディスプレイ77がディスプレイドライバ78を介して接続され、更に、操作パネル79が操作入力検出部80を介して接続されている。
【0051】
通信I/F部75は接続端子75a、通信ケーブル82及び放射線発生装置83の接続端子83aを介して放射線発生装置83と接続されている。コンソール70(のCPU71)は、放射線発生装置83との間での曝射条件等の各種情報の送受信を通信I/F部75経由で行う。無線通信部76は放射線撮影装置10の無線通信部66と無線通信を行う機能を備えており、コンソール70(のCPU71)は放射線撮影装置10との間で、画像データ等の各種情報の送受信を無線通信部76経由で行う。また、ディスプレイドライバ78はディスプレイ77への各種情報を表示させるための信号を生成・出力し、コンソール70(のCPU71)はディスプレイドライバ78を介して操作メニューや撮影された放射線画像等をディスプレイ77に表示させる。また、操作パネル79は複数のキーを含んで構成され、各種の情報や操作指示が入力される。操作入力検出部80は操作パネル79に対する操作を検出し、検出結果をCPU71へ通知する。
【0052】
放射線発生装置83は、放射線源85と、コンソール70との間で曝射条件等の各種情報の送受信を行う通信I/F部86と、コンソール70から受信した曝射条件(この曝射条件には管電圧、管電流の情報が含まれている)に基づいて放射線源85を制御する線源制御部87とを備えている。
【0053】
次に本実施形態の作用を説明する。放射線撮影装置10を使用して放射線画像の撮影を行う場合、撮影者(例えば放射線技師等)は、被撮影者の撮影対象部位と撮影台との間に、照射面11側を上方へ向けた放射線撮影装置10を挿入し、向きや位置等を調整する準備作業を行う。
【0054】
撮影者は、準備作業が完了すると、操作パネル79を操作して撮影開始を指示する。これにより、コンソール70では、曝射開始を指示する指示信号を放射線発生装置83へ送信し、放射線発生装置83は放射線源85から放射線を射出させる。放射線源85から射出された放射線は、被撮影者の体を透過して放射線撮影装置10の照射面11に照射され、天板13及びセンサパネル23を透過してシンチレータ24に照射される。
【0055】
シンチレータ24に照射された放射線は、シンチレータ24の放射線の入射面近傍、すなわち第1変換層40で大部分が光に変換され、第1変換層40を通過した放射線は第2変換層41によって光に変換される。GOSは、柱状結晶からなるCsIに比べて充填率が高いため発光効率が高く、本実施形態では第1変換層40及び第2変換層41の2つの層で放射線を光に変換しているため、更に高い変換効率を得ることができる。これにより、放射線検出器19の感度が向上する。
【0056】
図9に示すように、本実施形態の放射線検出器19において、第1変換層40で変換された光は全方向に向かうが、このうちセンサパネル23側に向かった光は、センサパネル23までの距離が短いので、光の発生位置と近い位置でセンサパネル23に入射することになる。したがって、第1変換層40で変換された光により放射線画像にボケは生じない。また、第1変換層40で変換された光のうち、反射層25側に向かった光は、第1変換層40及び第2変換層41内を伝播されて反射層25により反射され、再び第2変換層41及び第1変換層40内を伝播されてセンサパネル23に入射するため、光の伝播距離はセンサパネル23に直接向かう場合と比べて非常に長くなる。
【0057】
図11に示すように、例えば、従来の平板状のシンチレータ90を用いた放射線検出器91では、シンチレータ90の放射線の入射面近傍で発生した光は、反射層92までシンチレータ90内を伝播される間に、シンチレータ90の面方向における位置が光の発生位置から離れていき、反射層92で反射されてセンサパネル93まで伝播される間に更に遠くまで離れていくことがあり、このように発生位置から離れた光が本来入射するはずの画素部に入射せず、隣接する画素部や更に遠くの画素部に入射することによって放射線画像にボケが生じていた。
【0058】
これに対し、図9に示す本実施形態のシンチレータ24では、第1変換層40から第2変換層41に伝播された光は、第2変換層41の各光ファイバ43の光ガイド効果によって、光ファイバ43内を全反射しながら反射層25に向い、反射層25で反射されてセンサパネル23に向かう際にも光ファイバ43内でガイドされながら進行していくため、第1変換層40内での光の発生位置から近い画素部49に光を入射させることができる。これにより、放射線画像のボケを抑えることができ、GOSからなるシンチレータ24を使用しながら、CsIからなるシンチレータと同様に放射線画像の分解能及び鮮鋭性を向上させることができる。また、第2変換層41で放射線から変換された光も光ファイバ43によってガイドされてセンサパネル23の方向または反射層25の方向に向かうので、放射線画像の分解能及び鮮鋭性の向上に寄与することができる。
【0059】
センサパネル23は、画素部49に照射された光を画像として検出し、画像メモリ62に画像データを記憶する。CPU64aは、画像メモリ62に記憶された画像データを無線通信部66によってコンソール70へ送信する。コンソール70のCPU71は、放射線撮影装置10から受信した画像データを、RAM73を介してHDD74に記憶する。また、CPU71は、ディスプレイドライバ78を介して、HDD74に記憶されている画像データからなる放射線画像をディスプレイ77に表示させる。
【0060】
上述したように、ISS方式の放射線検出器19は、第1変換層40で発光した光のうち、センサパネル23と反対側の反射層25に向かう光に対するガイド効果のみを必要とするため、平板状の第1変換層40と柱状の第2変換層41とを積層して用いることによる効果が大きい。これに対し、図12に示すように、放射線の入射側から反射層95、シンチレータ96及びセンサパネル97を配置したPSS方式の放射線検出器98では、シンチレータ96の放射線入射面側で発生してセンサパネル97に向かう光と、反射層95で反射されてからセンサパネル97に向かう光の両方にガイド効果が必要となるため、シンチレータ96全体を柱状にしたほうが効果は大きく、本実施形態のように平板状の第1変換層40と柱状の第2変換層41とを積層しても、ISS方式の放射線検出器19ほどは効果が得られない。したがって、本発明は、ISS方式の放射線検出器に特に有用であると言える。
【0061】
上記実施形態では、第2変換層41にFOP42を用いたが、図10に示すように、光ファイバ43の内面に予めアルミニウム膜等の反射膜43aを形成しておいてもよい。これによれば、反射膜43aによる反射効率がアップし、光ファイバ43による光ガイド効果が向上するので、放射線画層の分解能及び鮮鋭性が更に向上させることができる。
【0062】
また、上記実施形態では、GOSからなるプラスチックシンチレータを用いたが、その他のプラスチックシンチレータとして、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)を主成分とするペットボトル用の樹脂を用いてもよい。詳しくは、「独立行政法人放射線医学総合研究所(http://www.nirs.go.jp/information/press/2010/05_19_1.shtml)」にて開示されているが、ペットボトル用の樹脂に放射線を照射することにより、光電子増倍管によって検出可能な光を発生させることができるので、本実施形態のような間接変換型の放射線検出器にも適用可能である。これによれば、シンチレータのコストを大幅に下げることができるので、安価な放射線撮影装置の提供が可能となる。
【0063】
また、上記実施形態では、光電変換部46の光電変換膜46cをアモルファスシリコンによって構成したが、光電変換膜46cは、有機光電変換材料を含む材料で構成してもよい。この場合、主に可視光域で高い吸収を示す吸収スペクトルが得られ、光電変換膜46cによるシンチレータ24から放出された光以外の電磁波の吸収が殆ど無くなるので、X線やγ線等の放射線が光電変換膜46cで吸収されることで発生するノイズを抑制できる。また、有機光電変換材料からなる光電変換膜46cは、インクジェットヘッド等の液滴吐出ヘッドを用いて有機光電変換材料をセンサ基板33上に付着させることで形成させることができ、センサ基板33に対して耐熱性は要求されない。このため、ガラス以外の材質からなるセンサ基板を用いることもできる。
【0064】
光電変換膜46cを有機光電変換材料で構成した場合、光電変換膜46cで放射線が殆ど吸収されないので、放射線が透過するようにセンサパネル23が配置される表面読取方式(ISS)において、センサパネル23を透過することによる放射線の減衰を抑制することができ、放射線に対する感度の低下を抑えることができる。従って、光電変換膜46cを有機光電変換材料で構成することは、特にISS方式に好適である。
【0065】
光電変換膜46cを構成する有機光電変換材料は、シンチレータ24から放出された光を最も効率良く吸収するために、その吸収ピーク波長が、シンチレータ24の発光ピーク波長と近いほど好ましい。有機光電変換材料の吸収ピーク波長とシンチレータ24の発光ピーク波長とが一致することが理想的であるが、双方の差が小さければシンチレータ24から放出された光を十分に吸収することが可能である。具体的には、有機光電変換材料の吸収ピーク波長と、シンチレータ24の放射線に対する発光ピーク波長との差が10nm以内であることが好ましく、5nm以内であることがより好ましい。
【0066】
このような条件を満たすことが可能な有機光電変換材料としては、例えばキナクリドン系有機化合物及びフタロシアニン系有機化合物が挙げられる。例えばキナクリドンの可視域における吸収ピーク波長は560nmであるため、例えば、シンチレータ24の材料としてCsI(Tl)を用いる場合には、上記ピーク波長の差を5nm以内にすることが可能となり、光電変換膜46cで発生する電荷量をほぼ最大にすることができる。なお、本発明では、シンチレータ24にCsI以外の材質を用いているため、その材質の発光ピーク波長に適合した有機光電変換材料を用いるのが好ましい。
【0067】
放射線検出パネルに適用可能な光電変換膜46cについて具体的に説明する。放射線検出パネルにおける電磁波吸収/光電変換部位は、電極46a、46bと、該電極46a,46bに挟まれた光電変換膜46cを含む有機層である。この有機層は、より具体的には、電磁波を吸収する部位、光電変換部位、電子輸送部位、正孔輸送部位、電子ブロッキング部位、正孔ブロッキング部位、結晶化防止部位、電極、及び、層間接触改良部位等を積み重ねるか、若しくは混合することで形成することができる。
【0068】
上記有機層は、有機p型化合物または有機n型化合物を含有することが好ましい。有機p型半導体(化合物)は、主に正孔輸送性有機化合物に代表されるドナー性有機半導体(化合物)であり、電子を供与しやすい性質を有する有機化合物である。さらに詳しくは2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物である。従って、ドナー性有機化合物としては、電子供与性を有する有機化合物であれば何れの有機化合物も使用可能である。有機n型半導体(化合物)は、主に電子輸送性有機化合物に代表されるアクセプター性有機半導体(化合物)であり、電子を受容し易い性質を有する有機化合物である。更に詳しくは2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物である。従って、アクセプター性有機化合物は、電子受容性を有する有機化合物であれば何れの有機化合物も使用可能である。
【0069】
有機p型半導体及び有機n型半導体として適用可能な材料や、光電変換膜46cの構成については、特開2009−32854号公報において詳細に説明されているため説明を省略する。
【0070】
また、光電変換部46は、少なくとも電極対46a,46bと光電変換膜46cを含んでいればよいが、暗電流の増加を抑制するため、電子ブロッキング膜及び正孔ブロッキング膜の少なくとも何れかを設けることが好ましく、両方を設けることがより好ましい。
【0071】
電子ブロッキング膜は、上部電極46bと光電変換膜46cとの間に設けることができ、上部電極46bと下部電極46aとの間にバイアス電圧を印加したときに、上部電極46bから光電変換膜46cに電子が注入されて暗電流が増加してしまうことを抑制することができる。電子ブロッキング膜には電子供与性有機材料を用いることができる。実際に電子ブロッキング膜に用いる材料は、隣接する電極の材料及び隣接する光電変換膜46cの材料等に応じて選択すればよく、隣接する電極の材料の仕事関数(Wf)より1.3eV以上電子親和力(Ea)が大きく、かつ、隣接する光電変換膜46cの材料のイオン化ポテンシャル(Ip)と同等のIp、若しくはそれより小さいIpを有するものが好ましい。この電子供与性有機材料として適用可能な材料については、特開2009−32854号公報において詳細に説明されているため説明を省略する。
【0072】
電子ブロッキング膜の厚みは、暗電流抑制効果を確実に発揮させると共に、光電変換部46の光電変換効率の低下を防ぐため、10nm以上200nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以上150nm以下、特に好ましくは50nm以上100nm以下である。
【0073】
正孔ブロッキング膜は、光電変換膜46cと下部電極46aとの間に設けることができ、上部電極46bと下部電極46aとの間にバイアス電圧を印加したときに、下部電極46aから光電変換膜46cに正孔が注入されて暗電流が増加してしまうことを抑制することができる。正孔ブロッキング膜には電子受容性有機材料を用いることができる。実際に正孔ブロッキング膜に用いる材料は、隣接する電極の材料及び隣接する光電変換膜46cの材料等に応じて選択すればよく、隣接する電極の材料の仕事関数(Wf)より1.3eV以上イオン化ポテンシャル(Ip)が大きく、かつ、隣接する光電変換膜46cの材料の電子親和力(Ea)と同等のEa、若しくはそれより大きいEaを有するものが好ましい。この電子受容性有機材料として適用可能な材料については、特開2009−32854号公報において詳細に説明されているため説明を省略する。
【0074】
正孔ブロッキング膜の厚みは、暗電流抑制効果を確実に発揮させると共に、光電変換部46の光電変換効率の低下を防ぐため、10nm以上200nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以上150nm以下、特に好ましくは50nm以上100nm以下である。
【0075】
なお、光電変換膜46cで発生した電荷のうち、正孔が下部電極46aに移動し、電子が上部電極46bに移動するようにバイアス電圧を設定する場合には、電子ブロッキング膜と正孔ブロッキング膜の位置を逆にすれば良い。また、電子ブロッキング膜と正孔ブロッキング膜は両方設けることは必須ではなく、何れかを設けておけば、或る程度の暗電流抑制効果を得ることができる。
【0076】
また、TFT47の活性層を形成可能な非晶質酸化物としては、例えば、In、Ga及びZnのうちの少なくとも1つを含む酸化物(例えばIn−O系)が好ましく、In、Ga及びZnのうちの少なくとも2つを含む酸化物(例えばIn−Zn−O系、In−Ga−O系、Ga−Zn−O系)がより好ましく、In、Ga及びZnを含む酸化物が特に好ましい。In−Ga−Zn−O系非晶質酸化物としては、結晶状態における組成がInGaO3(ZnO)m(mは6未満の自然数)で表される非晶質酸化物が好ましく、特に、InGaZnO4がより好ましい。なお、活性層を形成可能な非晶質酸化物はこれらに限定されるものではない。
【0077】
また、活性層を形成可能な有機半導体材料としては、例えば、フタロシアニン化合物や、ペンタセン、バナジルフタロシアニン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、フタロシアニン化合物の構成については、特開2009−212389号公報で詳細に説明されているため、説明を省略する。
【0078】
TFT47の活性層を非晶質酸化物や有機半導体材料、カーボンナノチューブ等のうちの何れかによって形成すれば、X線等の放射線を吸収せず、或いは吸収したとしても極めて微量に留まるため、ノイズの発生を効果的に抑制することができる。
【0079】
また、活性層をカーボンナノチューブで形成した場合、TFT47のスイッチング速度を高速化することができ、また、TFT47における可視光域の光の吸収度合いを低下させることができる。なお、活性層をカーボンナノチューブで形成する場合、活性層にごく微量の金属性不純物が混入しただけでTFT47の性能が著しく低下するため、遠心分離等により非常に純度の高いカーボンナノチューブを分離・抽出して活性層の形成に用いる必要がある。
【0080】
なお、有機光電変換材料で形成した膜及び有機半導体材料で形成した膜は何れも十分な可撓性を有しているので、有機光電変換材料で形成した光電変換膜46cと、活性層を有機半導体材料で形成したTFT47と、を組み合わせた構成であれば、患者の体の重みが荷重として加わるセンサパネル23の高剛性化は必ずしも必要ではなくなる。
【0081】
また、センサ基板3は、光透過性を有し且つ放射線の吸収が少ないものであればよい。ここで、TFT47の活性層を構成する非晶質酸化物や、光電変換部46の光電変換膜46cを構成する有機光電変換材料は、いずれも低温での成膜が可能である。従って、センサ基板33としては、半導体基板、石英基板、及びガラス基板等の耐熱性の高い基板に限定されず、合成樹脂製の可撓性基板、アラミド、バイオナノファイバを用いることもできる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の可撓性基板を用いることができる。このような合成樹脂製の可撓性基板を用いれば、軽量化を図ることもでき、例えば持ち運び等に有利となる。なお、センサ基板33には、絶縁性を確保するための絶縁層、水分や酸素の透過を防止するためのガスバリア層、平坦性あるいは電極等との密着性を向上するためのアンダーコート層等を設けてもよい。
【0082】
なお、アラミドは200度以上の高温プロセスを適用できるため、透明電極材料を高温硬化させて低抵抗化でき、また、ハンダのリフロー工程を含むドライバICの自動実装にも対応できる。また、アラミドはITO(indium tin oxide)やガラス基板と熱膨張係数が近いため、製造後の反りが少なく、割れにくい。また、アラミドは、ガラス基板等と比べて基板を薄型化できる。なお、超薄型ガラス基板とアラミドを積層してセンサ基板33を形成してもよい。
【0083】
また、バイオナノファイバは、バクテリア(酢酸菌、Acetobacter Xylinum)が産出するセルロースミクロフィブリル束(バクテリアセルロース)と透明樹脂とを複合したものである。セルロースミクロフィブリル束は、幅50nmと可視光波長に対して1/10のサイズで、かつ、高強度、高弾性、低熱膨である。バクテリアセルロースにアクリル樹脂、エポキシ樹脂等の透明樹脂を含浸・硬化させることで、繊維を60〜70%も含有しながら、波長500nmで約90%の光透過率を示すバイオナノファイバが得られる。バイオナノファイバは、シリコン結晶に匹敵する低い熱膨張係数(3−7ppm)を有し、鋼鉄並の強度(460MPa)、高弾性(30GPa)で、かつフレキシブルであることから、ガラス基板等と比べてセンサ基板33を薄型化できる。
【0084】
センサ基板33としてガラス基板を用いた場合、センサパネル23全体としての厚みは、例えば0.7mm程度になるが、センサ基板33として光透過性を有する合成樹脂からなる薄型の基板を用いることにより、センサパネル23全体としての厚みを、例えば0.1mm程度に薄型化できると共に、センサパネル23に可撓性をもたせることができる。また、センサパネル23に可撓性をもたせることで、放射線撮影装置10の耐衝撃性が向上し、放射線撮影装置10に衝撃が加わった場合にも破損し難くなる。また、プラスチック樹脂や、アラミド、バイオナノファイバ等は何れも放射線の吸収が少なく、センサ基板33をこれらの材料で形成した場合、センサ基板33による放射線の吸収量も少なくなるため、ISS方式によりセンサパネル23を放射線が透過する構成であっても、放射線に対する感度の低下を抑えることができる。
【0085】
上記実施形態では、センサパネル23として、光電変換部46及びTFT47からなる光センサ34を用いたが、CMOSセンサ、あるいは光電変換部(フォトダイオード)に有機光電変換材料を用いた有機CMOSセンサを光センサとして使用してもよい。基板に単結晶シリコンを用いるCMOSセンサまたは有機CMOSセンサは、アモルファスシリコンを用いた光電変換部と比べてキャリア移動度が3〜4桁ほど速く、放射線透過性が高いという特性を有しているためISS方式の放射線検出器に好適である。なお、有機CMOSセンサについては、特開2009−212377号公報において詳細に説明されているので、詳しい説明は省略する。
【0086】
上記CMOSセンサまたは有機CMOSセンサにフレキシブル性を付与するため、CMOSセンサまたは有機CMOSセンサを、プラスチックフイルム上に形成された有機薄膜トランジスタによって構成してもよい。なお、有機薄膜トランジスタについては、「Tsuyoshi Sekitani、「Flexible organic transistors and circuits with extreme bending stability」、Nature Materials 9、平成22年11月7日、p.1015-1022」において詳細に説明されているので、詳しい説明は省略する。
【0087】
また、上記CMOSセンサまたは有機CMOSセンサにフレキシブル性を付与するため、フレキシブル性を有するプラスチック基板上に、単結晶シリコンによって形成されたフォトダイオード及びトランジスタを配置した構成を用いてもよい。プラスチック基板上へのフォトダイオード及びトランジスタの配置には、例えば、数十ミクロン程度の大きさのデバイスブロックを溶液中で散布し、任意の基板上の必要な位置に配置する技術であるFluidic Self-Assembly(FSA)法を用いることができる。なお、FSA法については、「前澤宏一、「Fluidic Self-Assemblyのための共鳴トンネルデバイスブロック作製技術」、電子情報通信学会技術研究報告 ED,電子デバイス、社団法人電子情報通信学会、平成20年6月6日、108巻、87号、p.67-71」において詳細に説明されているので、詳しい説明は省略する。
【0088】
上記実施形態では、放射線検出器をカセッテサイズの筐体に組み込む例について説明したが、立位型、臥位型の撮影装置や、マンモグラフィ装置に組み込むことも可能である。また、放射線としてX線を例に説明したが、本発明は、γ線など、X線以外の放射線を使用するものでもよい。その他、上記の実施形態で説明した本発明に係る放射線撮影装置の構成は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0089】
10 放射線撮影装置
19 放射線検出器
23 センサパネル
24 シンチレータ
25 反射層
40 第1変換層
41 第2変換層
42 ファイバーオプティックプレート
43 光ファイバ
44 反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の蛍光体からなる第1変換層と、前記第1変換層の一面に一体に立設された複数の柱状蛍光体からなる第2変換層とを有し、照射された放射線を光に変換するシンチレータと、
前記シンチレータの光出射側に配置され、前記シンチレータにより変換された光を電気信号に変換する複数の画素が二次元に配列されたセンサパネルと、を備えたことを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記シンチレータは、放射線の入射側から順に前記第1変換層と前記第2変換層とが配置されており、前記センサパネルは、前記第1変換部の放射線入射側に配置されて、前記画素が設けられた検出面が前記第1変換部と対面していることを特徴とする請求項1記載の放射線撮影装置。
【請求項3】
前記第2変換層の放射線入射側と反対側に、前記シンチレータによって放射線から変換された光を前記センサパネルに向けて反射する反射層を配置したことを特徴とする請求項2記載の放射線撮影装置。
【請求項4】
前記第2変換部は、複数の中空の光ファイバを束にしたファイバーオプティックプレートと、前記各光ファイバ内に充填された蛍光体とからなることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の放射線撮影装置。
【請求項5】
前記光ファイバの内面に反射膜を有することを特徴とする請求項4記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記第1変換部及び前記第2変換部に用いられる蛍光体は、プラスチックシンチレータであることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記プラスチックシンチレータは、樹脂バインダ中にGOSの粒子が分散されたものであることを特徴とする請求項6記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記第1変換部の厚みは、前記第2変換部の厚みよりも大きいことを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の放射線撮影装置。
【請求項9】
平板状の蛍光体からなる第1変換層と、
前記第1変換層の一面に一体に立設された複数の柱状蛍光体からなる第2変換層と、を有することを特徴とするシンチレータ。
【請求項10】
前記第2変換部は、複数の中空の光ファイバを束にしたファイバーオプティックプレートと、前記各光ファイバ内に充填された蛍光体とからなることを特徴とする請求項9記載のシンチレータ。
【請求項11】
前記光ファイバの内面に反射膜を有することを特徴とする請求項10記載のシンチレータ。
【請求項12】
複数の中空の光ファイバを束にしたファイバーオプティックプレートの前記各光ファイバ内に蛍光体ペーストを充填して、複数の柱状蛍光体からなる第2変換層を形成する工程と、
前記ファイバーオプティックプレートの一方の面に、前記蛍光体ペーストを塗布して、前記柱状蛍光体と一体に平板状の第1変換層を形成する工程と、を備えたことを特徴とするシンチレータの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−247281(P2012−247281A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118677(P2011−118677)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】