放射線撮影装置
【課題】統計ノイズの影響を画像に重畳させない放射線撮影装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る放射線撮影装置は、変化率マップM1を生成する変化率マップ生成部48を備えている。そして、この変化率マップM1は、スムージングされ、平均値マップとなる。平均値マップからは、統計ノイズが平均化されてボカされる。放射線透視画像に変化率マップの有する統計ノイズが重畳することがない。また、スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてなされる。すると、縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、変化率マップM1に現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【解決手段】本発明に係る放射線撮影装置は、変化率マップM1を生成する変化率マップ生成部48を備えている。そして、この変化率マップM1は、スムージングされ、平均値マップとなる。平均値マップからは、統計ノイズが平均化されてボカされる。放射線透視画像に変化率マップの有する統計ノイズが重畳することがない。また、スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてなされる。すると、縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、変化率マップM1に現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の透視画像が取得できる放射線撮影装置に関し、特に、放射線が被検体を通過する際に生じる散乱線を除去する放射線グリッドを備えた放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医用のX線透視撮影装置やX線CT(computed tomography)では、被検体からの散乱X線(以下、「散乱線」と略記する)がX線検出器に入射するのを防止するために、散乱線を除去するグリッド(散乱線除去手段)が用いられている。しかし、グリッドを用いてもグリッドを透過する散乱線による偽像、およびグリッドを構成する吸収箔による偽像が生じる。特に、検出素子が行列状(2次元マトリックス状)に構成されたフラットパネル型(2次元)X線検出器(FPD: Flat Panel Detector)をX線検出器として用いる場合には、グリッドの吸収箔の間隔とFPDの画素間隔とが異なることから生じるモアレ縞などの偽像が、散乱線による偽像の他にも生じる。かかる偽像を低減させるために偽像補正が必要となっている。また、最近、このようなモアレ縞を起こさないように、配置方向が検出素子の行列方向のいずれかに対して平行であり、かつFPDの画素間隔の整数倍で配置された吸収箔を有する同期型グリッドが提案されており、それを用いた補正法も必要となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
現在では、モアレ縞の補正についてはスムージングなどを含む画像処理による方法が行われているが、偽像補正が過剰の場合には、直接X線(以下、「直接線」と略記する)の分解能も低下する傾向にある。したがって、画像処理において偽像を確実に低減させようとすると直接線の分解能まで低下して画像が鮮明でなくなり、逆に、直接線の分解能を重視して画像を鮮明にさせようとすると画像処理において偽像が低減しなくなり、いわゆる画像処理と鮮明さとのトレードオフとなる。このようなことから、完全な偽像処理が困難となっている。また、グリッドを用いても残ってしまう散乱線の補正法についても、様々な方法が提案されているが、補正演算に時間がかかるなどの問題がある。
【0004】
本出願人は、既に、上述した同期型グリッドを用いた補正法について、直接線が吸収箔により遮蔽される画素について補正し、その遮蔽された画素列あるいは画素行から、グリッドを透過した散乱線分布を求め、その分布に基づいて他の画素の信号を補正する方法を提案している。また、その方法では、グリッドとX線検出器との距離を吸収箔の高さの整数倍にすることや、X線管のような放射線照射手段、グリッドおよびX線検出器の位置が変化しても、吸収箔の陰影が一定の画素列あるいは画素行内に収まるようなグリッドの位置および吸収箔の形状が設定されていることなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−257939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この様な従来構成においては、以下のような問題点がある。
散乱線は、グリッドを通過すると、その殆どが吸収されてしまうが、中には、グリッドを通過してしまうものがある。この通過の具合は、吸収箔の配列の歪みに影響されて、X線検出器の検出面の各部において、一定とならない。具体的には、散乱線放射線の透過具合がX線検出器に写りこんでしまう。この様に、散乱線の影響は、X線検出器全体に及んでいる。
【0007】
この影響を除くために、予め、散乱線の透過具合がX線検出器の各部で異なることに起因して、画像に表れる模様(散乱線の縞模様)を変化率マップとして記憶しておき、上述のような画像処理の際に、この散乱線の縞模様を画像処理によって除去する構成が考えうる。
【0008】
しかしながら、上述の変化率マップには、散乱線の影響によらないノイズ(統計のノイズ)が重畳している。散乱線の縞模様は、吸収箔の歪み具合によって大きく変化するので、予測は難しいことから、変化率マップは、グリッドが装着されたX線検出器にX線を実際に当てることで取得される。このとき、検出素子に到達する放射線の線量は、検出素子同士で同じである保証はなく、多少のバラツキを有している。したがって、変化率マップには、このバラツキが重畳し、これが統計ノイズの原因である。なお、このバラツキは、グリッドをX線検出器に装着しなくても生じ、上述の散乱線の縞模様とは独立したものである。
【0009】
散乱線の縞模様を除去する画像処理は、簡単に言えば、変化率マップを放射線透視画像に重ね合わせることによって行われる。変化率マップには、散乱線の縞模様とは別に統計ノイズが重畳しているので、画像に変化率マップを作用させると、変化率マップに重畳した統計ノイズだけ余計に画像の画素値を変更してしまい、画像に粒状のノイズが表れる原因となる。
【0010】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、統計ノイズの影響を画像に重畳させない放射線撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、この様な目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、放射線画像を得る放射線撮影装置であって、放射線を照射する放射線源と、放射線を検出する複数の検出素子が行方向、および列方向に二次元的に配列されて構成された放射線検出手段と、行方向に伸びた吸収箔が列方向に配列されているとともに散乱線を除去する放射線グリッドとを備え、2次元的に配列された画素の画素値を求めるための所定の物理量を求める物理量取得手段と、所定の物理量をマッピングして物理量マップを生成する物理量マップ生成手段と、物理量マップにおける吸収箔の延伸方向に沿って並んだ物理量の配列についてスムージングを行って物理量マップを生成する物理量マップ平滑化手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、物理量マップを生成する物理量マップ生成手段を備えている。この物理量マップは、放射線透視画像に表れる模様(散乱線の縞模様)を示しているものであり、これを用いて放射線透視画像に補正を加えれば、散乱線の縞模様が除去される。そして、請求項1に記載の構成は、この物理量マップにスムージングを行って平均値マップを生成する物理量マップ平滑化手段を備えている。したがって、物理量マップには、散乱線の縞模様の他に、統計ノイズが重畳している。しかし、物理量マップは、スムージングされ、平均値マップとなる。平均値マップからは、統計ノイズが平均化されてボカされる。統計ノイズが放射線透視画像において粒状の粗い偽像として写りこもうとしても、平均値マップにおいては、その粒状性は、ボカされており、結局、放射線透視画像に物理量マップの有する統計ノイズが重畳することがない。
【0013】
また、スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って並んだ物理量の配列についてなされる。散乱線の縞模様はスムージングでボケないことが望ましい。散乱線の縞模様は、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って伸びている(言いかえれば、散乱線の縞模様は、放射線グリッドの吸収箔の配列方向に沿って配列されている)。スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って行われるので、物理量に含まれる統計ノイズ成分についてはスムージングが施され、散乱線の縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、物理量マップに現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の放射線撮影装置において、放射線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を特定する画素特定手段と、その画素特定手段で特定された所定の画素での散乱線強度、所定の画素での直接放射線強度の少なくとも1つの放射線強度を推定する強度推定手段とを更に備え、(A)物理量取得手段に相当する構成として、被検体のある状態での実測に基づいて強度推定手段で推定された放射線強度を用いて、その放射線強度に関する全ての画素についての基準強度として、平均値またはスムージング・補間計算により求められる各画素の値を求め、その値に対する各画素の変化率を求める変化率算出手段が備えられ、(B)物理量マップ生成手段に相当する構成として各画素の変化率をマッピングして変化率マップを生成する変化率マップ生成手段が備えられ、(C)物理量マップ平滑化手段に相当する構成として、変化率マップにおける吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてスムージングを行って平均値マップを生成する変化率マップ平滑化手段が備えられることを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]上述の構成は、本発明に係る放射線撮影装置の具体的な態様を示したものである。すなわち、上述の構成によれば、変化率マップを生成する変化率マップ生成手段を備えている。この変化率マップは、放射線透視画像に表れる模様(散乱線の縞模様)を示しているものであり、これを用いて放射線透視画像に補正を加えれば、散乱線の縞模様が除去される。そして、請求項1に記載の構成は、この変化率マップにスムージングを行って平均値マップを生成する変化率マップ平滑化手段を備えている。したがって、変化率マップには、散乱線の縞模様の他に、統計ノイズが重畳している。しかし、変化率マップは、スムージングされ、平均値マップとなる。平均値マップからは、統計ノイズが平均化されてボカされる。統計ノイズが放射線透視画像において粒状の粗い偽像として写りこもうとしても、平均値マップにおいては、その粒状性は、ボカされており、結局、放射線透視画像に変化率マップの有する統計ノイズが重畳することがない。
【0016】
また、スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてなされる。散乱線の縞模様はスムージングでボケないことが望ましい。散乱線の縞模様は、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って伸びている(言いかえれば、散乱線の縞模様は、放射線グリッドの吸収箔の配列方向に沿って配列されている)。スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って行われるので、変化率に含まれる統計ノイズ成分についてはスムージングが施され、散乱線の縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、変化率マップに現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【0017】
また、請求項3に記載の放射線撮影装置は、請求項1に記載の放射線撮影装置において、平均値マップと、透過率算出手段で求められた直接線透過率と、別の被検体のある状態での実測での散乱放射線除去手段を透過した後の放射線強度である実測強度とに基づいて、強度推定手段は、画素特定手段で特定された所定の画素での放射線強度を推定することを特徴とするものである。
【0018】
[作用・効果]このように反映させる具体的な内容は以下の通りである。すなわち、放射線照射手段は、別の被検体(ここでは実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態で放射線を照射して、散乱放射線除去手段を介して放射線検出手段に入射させることで、被検体のある状態での実測での散乱放射線除去手段を透過した後の放射線強度である実測強度が得られる。変化率算出手段で求められた変化率と、透過率算出手段で求められた直接線透過率、そして、別の被検体(実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態での実測での上述した実測強度とに基づいて、強度推定手段は、画素特定手段で特定された所定の画素での放射線強度を推定する。このように、被検体のない状態での実測データに基づいて直接線透過率が求められ、その直接線透過率を用いて、被検体(ここではファントム)のある状態で放射線撮影を行って変化率が求められ、その変化率、または変化率補間手段により補間された変化率を用いて、別の被検体(ここでは実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態で放射線撮影を行って、その被検体(実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態での実測強度に基づいて放射線強度を推定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に記載の発明によれば、放射線強度に基づいて放射線画像が適切に得られ、散乱放射線除去手段の陰影が消え、散乱放射線が完全に除去された直接放射線だけの放射線画像が得られる。そして、散乱放射線除去手段に依存せずに、適切な放射線画像を得ることができる。
【0020】
そして、本発明によれば、物理量マップを生成する物理量マップ生成手段を備えている。そして、この物理量マップにスムージングを行って平均値マップを生成する物理量マップ平滑化手段を備えている。物理量マップは、スムージングされ、平均値マップとなる。平均値マップからは、統計ノイズが平均化されてボカされる。結局、放射線透視画像に物理量マップの有する統計ノイズが重畳することがない。
【0021】
また、スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてなされる。すると、物理量マップの変化率に含まれる統計ノイズ成分についてはスムージングし、縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、物理量マップに現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【実施例1】
【0022】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は、実施例1に係るX線撮影装置のブロック図であり、図2は、フラットパネル型X線検出器(FPD)の検出面の模式図であり、図3は、X線グリッドの概略図である。実施例1では、放射線としてX線を例に採って説明する。
【0023】
本実施例1に係るX線撮影装置は、図1に示すように、被検体Mを載置した天板1と、被検体Mに向けてX線を照射するX線管2と、X線管2から照射されて被検体Mを透過したX線を検出するフラットパネル型X線検出器(以下、「FPD」と略記する)3と、FPD3によって検出されたX線に基づいて画像処理を行う画像処理部4と、画像処理部4によって各種の画像処理されたX線画像を表示する表示部5とを備えている。表示部5はモニタやテレビジョンなどの表示手段で構成されている。また、FPD3の検出面側にはグリッド6を配設している。X線管2は、この発明における放射線照射手段に相当し、フラットパネル型X線検出器(FPD)3は、この発明における放射線検出手段に相当し、グリッド6は、この発明における散乱線除去手段に相当する。
【0024】
画像処理部4は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。なお、各種の画像処理を行うためのプログラム等をROM(Read−only Memory)などに代表される記憶媒体に書き込んで記憶し、その記憶媒体からプログラム等を読み出して画像処理部4のCPUが実行することでそのプログラムに応じた画像処理を行う。特に、画像処理部4の後述する画素特定部41や透過率算出部42や透過率補間部43や強度推定部44や変化率算出部46や変化率補間部47は、所定の画素の特定や直接線透過率の算出・補間や強度の推定・補間や変化率の算出に関するプログラムを実行することで、そのプログラムに応じた所定の画素の特定や直接線透過率の算出・補間や強度の推定・補間や変化率の算出・補間をそれぞれ行う。
【0025】
画像処理部4は、所定の画素を特定する画素特定部41と、直接線透過率を求める透過率算出部42と、直接線透過率を補間する透過率補間部43と、強度を推定する強度推定部44と、変化率を求める変化率算出部46と、変化率を補間する変化率補間部47とを備えている。これとは別に、画像処理部4は、変化率マップ生成部48と、平滑化部49とを備えているが、その詳細は後述する。画素特定部41は、この発明における画素特定手段に相当し、透過率算出部42は、この発明における透過率算出手段に相当し、透過率補間部43は、この発明における透過率補間手段に相当し、強度推定部44は、この発明における強度推定手段に相当し、変化率算出部46は、この発明における変化率算出手段に相当し、変化率補間部47は、この発明における変化率補間手段に相当する。また、変化率マップ生成部は、本発明の変化率マップ生成手段に相当し、平滑化部49は、本発明の変化率マップ平滑化手段に相当する。
【0026】
FPD3は、図2に示すように、その検出面にはX線に有感な複数の検出素子dを2次元マトリックス状に配列して構成されている。検出素子dは、被検体Mを透過したX線を電気信号に変換して一旦蓄積して、その蓄積された電気信号を読み出すことで、X線を検出する。各々の検出素子dでそれぞれ検出された電気信号を、電気信号に応じた画素値に変換して、検出素子dの位置にそれぞれ対応した画素にその画素値を割り当てることでX線画像を出力して、画像処理部4の画素特定部41や透過率算出部42や強度推定部44(図1,図4を参照)にX線画像を送り込む。このように、FPD3は、X線を検出する複数の検出素子dが行列状(2次元マトリックス状)に構成されている。検出素子dは、この発明における検出素子に相当する。
【0027】
グリッド6は、図3に示すように、散乱線(散乱X線)を吸収する吸収箔6aと散乱線を透過させる中間層6cとを交互に並べて構成されている。吸収箔6a,中間層6cを覆うグリッドカバー6dは、X線の入射面および逆側の面から吸収箔6a,中間層6cを挟み込む。吸収箔6aの図示を明確にするために、グリッドカバー6dについては二点鎖線で図示し、その他のグリッド6の構成(吸収箔6aを支持する機構等)については図示を省略する。吸収箔6aは、この発明における吸収層に相当する。
【0028】
次に、吸収箔6aの配列について説明する。具体的には、図3中のX方向に沿って伸びた吸収箔6aと中間層6cとを図3中のY方向に順に交互に並べるられている。ここで、図3中のX方向は、FPD3の検出素子d(図2を参照)の行方向に平行であり、図3中のY方向は、FPD3の検出素子d(図2を参照)の列方向に平行である。したがって、本実施例1では、吸収箔6aの配置方向が検出素子dの行方向に対して平行である。
【0029】
また、Y方向において互いに隣接する吸収箔6a間の間隔Kgyが、互いに隣接する画素間の間隔Kfyの整数倍になって同期している(図3では2倍で図示)。このように、吸収箔6aの配置方向が検出素子dの行方向に対して平行であり、かつ互いに隣接する吸収箔6aの間隔Kgyが、互いに隣接する画素間の間隔Kfyの整数倍になるように、グリッド6は構成されている。
【0030】
本実施例1では、中間層6cは空隙になっている。したがって、グリッド6はエアグリッドでもある。なお、吸収箔6aについては、鉛などのようにX線に代表される放射線を吸収する物質であれば、特に限定されない。中間層6cについては、上述した空隙の他に、アルミニウムや有機物質などのようにX線に代表される放射線を透過させる中間物質であれば、特に限定されない。
【0031】
本実施例1に係る実際のX線撮影およびデータの流れについて、図4〜図8を参照して説明する。図4は、具体的な画像処理部の構成およびデータの流れを示したブロック図であり、図5は、一連のX線撮影の流れを示すフローチャートであり、図6は、被検体のない状態でのX線撮影を模式的に示した図であり、図7は、SIDと直接線透過率および変化率との関係を模式的に示したグラフであり、図8は、アクリル平板のファントムを被検体として用いる場合の実施例1に係る被検体のある状態でのX線撮影を模式的に示した図である。
【0032】
図4に示すように、X線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を画素特定部41は特定する。本実施例1では、(n−1)番目の画素、それに隣接するn番目の画素、されにそれに隣接する(n+1)番目の画素からなる3つの画素の組み合わせ(図4中では「n−1」,「n」,「n+1」で表記)を画素特定部41は特定して強度推定部44に送り込む。なお、後述する連立方程式の解に含まれる分母の絶対値が所定値以下(本実施例1では分母が“0”)の場合には、画素特定部41は、その連立方程式の組み合わせとなる所定の画素を選択せずに、別の所定の画素を組み合わせとして選択して特定する。連立方程式は後述する説明から明らかなように強度推定部44から求められるので、強度設定部44から求められる分母に関するデータ(図4中では「denominator」で表記)を画素特定部41に送り込む。
【0033】
被検体のない状態での実測により求められたグリッド6による直接線(直接X線)の透過前および透過後の透過率である直接線透過率を、X線管2とグリッド6およびFPD3との離散的な距離に対して透過率算出部42は求める。本実施例1では、直接線透過率(図4中では「Cp」で表記)を透過率算出部42は求めて透過率補間部43や強度推定部44に送り込む。
【0034】
透過率算出部42で求められた直接線透過率Cpを、上述した離散的な距離に前後する距離に対して透過率補間部43は補間する。そして、補間された直接線透過率Cpも強度推定部44に送り込む。
【0035】
画素特定部41で特定された所定の画素での散乱線強度(散乱X線強度)、所定の画素での直接線強度(直接X線強度)の少なくとも1つの強度を強度推定部44は推定する。本実施例1では、透過率算出部42で求められた直接線透過率Cp,または、透過率補間部43で補間された直接線透過率Cpと、被検体Mのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度(図4中では「G」で表記)とに基づいて、透過散乱線強度(図4中では「Sc」で表記)や推定直接線強度(図4中では「P」で表記)を強度推定部44は推定して変化率算出部46や表示部5などに送り込む。また、本実施例1では、強度推定部44は連立方程式を解くことで透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定するので、連立方程式の解に含まれる分母に関するデータdenominatorも求まり、その分母に関するデータdenominatorを画素特定部41に送り込む。
【0036】
被検体Mのある状態での実測に基づいて強度推定部44で推定された強度を用いて、その強度に関する全ての画素についての基準強度として、平均値またはスムージング・補間計算により求められる各画素の値を求め、その値に対する各画素の変化率を変化率算出部46は求める。そして、強度推定部44で推定された変化率、または変化率補間部47で補間された変化率を用いて、別の被検体Mに対するX線撮影に反映させる。本実施例1では、強度推定部44で推定された透過散乱線強度Scを用いて、変化率(図4中では「Rcs」で表記)を求めて、強度推定部44に再度送り込む。この様に形成された変化率Rcsは、変化率マップ生成部48に送出される。そこで生成された変化率マップM1は、平滑化部49に送出される。
【0037】
本実施例1では、実際のX線撮影は、図5に示すようなフローとなる。
【0038】
(ステップS1)被検体のない状態での実測
被検体のない状態でX線撮影を行う。図6に示すように、X線管2とグリッド6との間に被検体を介在させずに、X線管2からX線をグリッド6およびFPD3に向けて照射することで、被検体のない状態でX線撮影を行って被検体のない状態での実測を行う。すなわち、X線管2は、被検体のない状態でX線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させることで、被検体のない状態での実測データが得られる。具体的には、被検体のない状態でのX線をFPD3の検出素子d(図3を参照)は電気信号に変換して読み出して、電気信号に応じた画素値に変換する。
【0039】
(ステップS2)直接線透過率の算出・補間
その画素値は、被検体のない状態での実測により求められたグリッド6を透過した後の強度と同等である。一方、グリッド6を透過する前の強度は既知であるので、グリッド6を透過する前(透過前)およびグリッド6を透過した後(透過後)の透過率である直接線透過率Cpは、グリッド6を透過する前の強度とグリッド6を透過した後の強度(すなわちFPD3で検出された画素値)との比率で表される。
【0040】
そこで、FPD3から画素値と同等であるグリッド6を透過した後の強度と、既知であるグリッド6を透過する前の強度とを透過率算出部42に送り込むことで、透過率算出部42は、グリッド6による透過前の強度と透過後の強度との比率で表された直接線透過率Cpを求める。かかる直接線透過率CpをX線管2とグリッド6およびFPD3との離散的な距離に対して透過率算出部42は求める。X線管2とグリッド6およびFPD3との距離は、グリッド6およびFPD3が互いに近接して配置されているので、X線管2の焦点からFPD3までの検出面(入射面)までの距離(SID: Source Image Distance)となる。
【0041】
X線管2の焦点からFPD3までの検出面までの距離SIDは、実際のX線撮影では、図6に示すように変化する。そこで、同じく被検体のない状態でX線撮影を行い、図7中の黒丸に示すように、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…ごとに、透過率算出部42は直接線透過率Cpを求める。離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…に対する直接線透過率Cpを透過率補間部43や強度推定部44に送り込む。なお、各々の画素ごとにも透過率算出部42は直接線透過率Cpを求めて透過率補間部43や強度推定部44に送り込む。
【0042】
透過率算出部42で求められた直接線透過率Cpを、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…に前後する距離に対して透過率補間部43は補間する。その補間結果は、例えば図7中の実線に示す通りである。補間の方法については、互いに隣接する離散的な距離(例えばLs+1,Ls+2)に対する2つの直接線透過率Cpの相加平均(加算平均)あるいは相乗平均によって得られた値を、上述した隣接する離散的な距離の間にある距離に対する直接線透過率Cpとして求めてもよいし、ラグランジェ補間を用いてもよいし、最小自乗法を用いて図7中の実線の近似式を用いて実線中に乗っていて距離に対応する値を直接線透過率Cpとして求めてもよいなど、通常において用いられる補間であれば特に限定されない。透過率算出部42で補間された直接線透過率Cpを強度推定部44に送り込む。
【0043】
(ステップS3)ファントムのある状態での実測
次に、被検体Mのある状態でX線撮影を行う。図8に示すように、直接線の透過厚さが一定、すなわち各画素での推定直接線強度Pが全て同じ値とみなせるアクリル平板のファントムPhを被検体Mとして用いる。
【0044】
本実施例1の説明に戻って、X線管2とグリッド6との間にアクリル平板のファントムPhを介在させて、X線管2からX線をグリッド6およびFPD3に向けて照射することで、ファントムPhのある状態でX線撮影を行ってファントムPhのある状態の実測を行う。すなわち、X線管2は、ファントムPhのある状態でX線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させることで、ファントムPhのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度Gが得られる。具体的には、ファントムPhのある状態でのX線をFPD3の検出素子d(図3を参照)は電気信号に変換して読み出して、電気信号に応じた画素値に変換する。
【0045】
(ステップS4)強度の推定
その画素値は、ファントムPhのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度Gと同等である。一方、画素特定部41は、上述したように隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)を3つの画素の組み合わせとして特定する。そして、透過率算出部42で求められた直接線透過率Cp,透過率補間部43で補間された直接線透過率Cpと、FPD3から画素値と同等である実測強度Gとに基づいて、画素特定部41で特定された隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)での透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを強度推定部44は推定する。
【0046】
ここで、実測強度GはステップS3で実測によって求められており既知である。直接線透過率CpはステップS1で実測によって得られ、ステップS2で算出・補間されており既知である。一方、透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pは強度推定部44で推定されるべき値であり、この時点では未知である。そこで、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)毎の連立方程式を解くことで、強度推定部44は透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定する。
【0047】
隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)毎に、実測強度GをGn−1,Gn,Gn+1とするとともに、直接線透過率CpをCpn−1,Cpn,Cpn+1とし、透過散乱線強度ScをScn−1,Scn,Scn+1とし、推定直接線強度PをPn−1,Pn,Pn+1とする。各画素の透過散乱線強度Scは、グリッド6(散乱線除去手段)の不均一性などにより隣接する3つの画素間で変化するが、それを考慮して隣接する画素の透過散乱線強度Scの補間演算により求められるものとする。本実施例1では、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)内での透過散乱線強度Scの変化は下記(1)式のように直線近似できるものとする。
【0048】
Scn=(Scn+1+Scn−1)/2 …(1)
また、透過散乱線強度Scの補間方法については、直接線透過率Cpの補間でも述べたのと同様で、例えばラグランジェ補間を用いてもよく、通常において用いられる補間であれば特に上記(1)式に限定されない。
【0049】
実測強度Gは推定直接線強度P・直接線透過率Cpの積と透過散乱線強度Scとの和に等しいとする、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)毎の連立方程式(2)〜(4)式で表される。
【0050】
Gn+1=Pn+1・Cpn+1+Scn+1 …(2)
Gn=Pn・Cpn+Scn …(3)
Gn−1=Pn−1・Cpn−1+Scn−1 …(4)
【0051】
上述したようにファントムPhとして用いられるアクリル平板では直接線の透過厚さが一定となるように形成されているので、推定直接線強度Pは隣接する3つの画素間で等しいとする(5)式で表される。
【0052】
Pn−1=Pn=Pn+1 …(5)
【0053】
このように、画素特定部41で特定された隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)での未知である透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定する際に、既知である直接線透過率Cpの既知の個数および既知である実測強度Gの既知の個数に応じて、画素特定部41は特定されるべき所定の画素の個数を決定する。そして、その決定された所定の画素毎の実測強度G,直接線透過率Cpおよび推定されるべき透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pに関する連立方程式を解くことで、強度推定部44は透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定することになる。
【0054】
上記(1)式は、各画素の透過散乱線強度Scは、隣接する画素の透過散乱線強度Scの補間演算により求められる式であるので、未知の個数を1つ減らすことができる。一方、上記(5)式は、推定直接線強度Pは隣接する3つの画素間で等しいとする式であるので、未知の個数を1つにすることができる。したがって、上記(1)、(5)式以外の連立方程式では、特定される画素の個数分だけ連立方程式を立てればよいので、この場合には任意の個数だけ画素特定部41は特定すれば、連立方程式を解くことができる。本実施例1では、その個数を3つとして、上記(2)〜(4)式である連立方程式を立てている。
【0055】
このような上記(1)〜(5)式から得られる連立方程式を解くことで、推定直接線強度Pn(=Pn+1=Pn−1)、透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1は、下記(6)〜(9)式のように求められる。
【0056】
Pn=(Gn+1+Gn−1−2Gn)/(Cpn+1+Cpn−1−2Cpn) …(6)
Scn+1=Gn+1−Pn+1・Cpn+1 …(7)
Scn=Gn−Pn・Cpn …(8)
Scn−1=Gn−1−Pn−1・Cpn−1 …(9)
上記(6)〜(9)式では、先ず上記(6)式で既知である実測強度Gn−1,Gn,Gn+1と既知である直接線透過率Cpn−1,Cpn,Cpn+1と用いて推定直接線強度Pを求めて、推定直接線強度Pを既知とした後に、その既知となった推定直接線強度Pn(=Pn+1=Pn−1)も用いて上記(7)〜(9)式で透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求めている。
【0057】
このように、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)の組み合わせを1組とすると、各々の組についてそれぞれ1つの推定直接線強度Pnが求まるが、上記(5)式でも述べたように、本来は3つの画素の組み合わせにおいて全ての組で推定直接線強度Pnは同じ値となるべきである。しかし、実際には、グリッド6の周辺部で散乱線の透過率変化の影響により異なっていたり、統計変動誤差により異なっていたりする。このようなグリッド6の設置状態や統計変動誤差による影響を低減させるため実験誤差の少ない中央部の推定直接線強度Pnの平均値を求める。例えば、上述したようなグリッド6の周辺部で少しずつ異なる場合には、上記(6)式を用いて、グリッド6の中央部の3つの画素(n−1),n,(n+1)の組み合わせにおいて複数組の推定直接線強度Pnをそれぞれ求めて、平均値P^を求める。その平均値P^を上記(2)〜(4)式にそれぞれ再代入(すなわち、上記(7)〜(9)式を変形した下記(10)〜(12)式に代入)して、再度、各組の全ての透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求める。
【0058】
Scn+1=Gn+1−P^・Cpn+1 …(10)
Scn=Gn−P^・Cpn …(11)
Scn−1=Gn−1−P^・Cpn−1 …(12)
このように上記(10)〜(12)式で透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求めることで強度推定部44は推定する。強度推定部44で推定された透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を変化率算出部46や表示部5などに送り込む。
【0059】
ここで、上記(1)〜(5)式の連立方程式の解に含まれる分母に注目すると、本実施例1では、上記(6)式から明らかなように“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”である。上記(6)式を上記(7)〜(9)式に代入した場合でも分母は“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”である。分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”の絶対値が所定値以下の場合には、かかる連立方程式を解くことができない恐れがある。
【0060】
特に、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときには、上記(1)〜(5)式の連立方程式を解くことができない。分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のとき、すなわち、各画素の中央画素における直接線透過率Cpnが、隣接する画素の直接線透過率Cpn+1,Cpn−1の相加平均(Cpn+1+Cpn−1−2Cpn=0,すなわちCpn=(Cpn+1+Cpn−1)/2)のときには、そのときの連立方程式の組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)を画素特定部41は選択しても連立方程式を解くことができない。好ましくは、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときには、画素特定部41は、その連立方程式の組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)を選択せずに、別の3つの画素(n´−1),n´,(n´+1)の画素(例えばn,(n+1),(n+2)の画素、あるいは(n−2),(n−1),nの画素など)を組み合わせとして選択して特定する。そして、その特定された別の3つの画素(n´−1),n´,(n´+1)の画素の上記(1)〜(5)式の連立方程式を解く。
【0061】
上記のように特定された画素については、連立方程式を解くことができ、求められた推定直接線強度Pnを用いて前述のような方法で推定直接線強度Pnの平均値を求める。推定直接線強度Pnの平均値P^が求まれば、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)の透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1についても、上記(10)〜(12)式で求めることができる。
【0062】
連立方程式を解くことのついての説明をまとめると、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときの推定直接線強度Pn(=Pn+1=Pn−1)を上記(6)式からそれぞれ求めて、平均値P^を求める。平均値P^を上記(10)〜(12)式に代入して、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求める。分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1についても同様に上記(10)〜(12)式に代入して、透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求めることができる。このように、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときに求められる推定直接線強度Pを先に求めて、平均値P^を求めてから、それを使って分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1,および分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1も同様に求める。
【0063】
この方法では、被検体がアクリル平板のファントムPhであり、推定直接線強度Pの変化が既知で、滑らかであることを利用して、最初に画素特定部41で特定された画素(特定画素)について求められた推定直接線強度Pをスムージング・補間計算する、あるいは推定直接線強度Pの平均値を求めて、推定直接線強度P(本実施例1では平均値P^)を求めている。推定直接線強度Pの変化が滑らかであることと、平均化あるいはスムージングは統計変動誤差によるバラツキを低減させる効果もあり、推定直接線強度Pは真値に近い値が得られる。その真値に近い推定直接線強度Pを上記(2)式〜(4)式に代入することで透過散乱線強度Scを直接に求めており、透過散乱強度Scに対しては、平均化またはスムージング・補間計算を行っていないので、透過散乱線強度Scの画像に分解能の劣化が無いという大きな利点がある。また、透過散乱線強度Scの分解能が維持され、グリッド箔の変形などによる透過散乱線強度Scの微細な変化を正確に求めることができる。
【0064】
別の方法として、例えば、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を推定直接線強度Pよりも先に求めて、透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1の補間で、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を求め、それぞれ求められた透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を上記(7)〜(9)式に代入することで、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないとき、および分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの推定直接線強度Pを求めて、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときも含めて、グリッド6の中央部の3つの画素(n−1),n,(n+1)の組み合わせにおける複数組の推定直接線強度Pnの平均値P^を求めてもよい。また、この平均値P^を用いて上記(10)〜(12)式に代入することで、透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を再度求めて、その再度求められた透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を用いて、後述するステップS5において変化率Rcsを求めてもよい。
【0065】
(ステップS5)変化率の算出・補間
強度推定部44で推定された透過散乱線強度Sc(Scn−1,Scn,Scn+1)を用いて変化率算出部46は変化率Rcsを求める。具体的には、透過散乱線強度Scの基準強度として、全ての画素についてのその値に対する各画素の変化率Rcsを求めるために平均値Sc^またはスムージング・補間計算により求められる各画素の値Sc〜を求める。各画素の透過散乱線強度Scnと平均値Sc^または各画素の値Sc〜との比率を変化率Rcsとして、各画素の変化率RcsをRcsnとすると、下記(13)式で表される。
【0066】
Rcsn=Scn/Sc^
または Rcsn=Scn/Sc〜 …(13)
透過散乱線の変化率を求める時に、分母に置く基準推定散乱強度については、散乱線強度は箔に歪などがなく、設置条件に拠らない理想的なグリッドの場合の散乱線強度に相当する。
【0067】
その方法として、
1)簡便に散乱線強度分布を二次元的に一定と近似して平均値を用いる
2)用いたファントムの形状やグリッドの周辺部など設置条件などによる散乱線強度変化を厳密に考慮して、各画素の推定された散乱線強度を二次元的にスムージング・補間して得られる値を用いる方法があり、1)の平均値はスムージング・補間計算の最も簡略な方法とも言える。
【0068】
このようにして、基準値との比を取ることにより吸収箔6aの変形などがあるために生じるグリッド6の設置状態が考慮された透過散乱線強度Scの変化は、変化率Rcsnで表わされる。変化率Rcsnを変化率算出部46は全ての画素で求める。変化率算出部46で求められた変化率Rcsn−1,Rcsn,Rcsn+1を必要に応じて変化率補間部47で補間した後、強度推定部44に再度送り込む。
【0069】
変化率Rcsも、直接線透過率Cpと同様に、図7中の黒塗りの方形に示すように、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…ごとに変化する。変化率算出部46で求められた変化率Rcsを、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…に前後する距離に対して変化率補間部47は補間する。その補間結果は、例えば図7中の点線に示す通りである。補間の方法については、互いに隣接する離散的な距離(例えばLs+1,Ls+2)に対する2つの変化率Rcsの相加平均(加算平均)あるいは相乗平均によって得られた値を、上述した隣接する離散的な距離の間にある距離に対する変化率Rcsとして求めてもよいし、ラグランジェ補間を用いてもよいし、最小自乗法を用いて図7中の点線の近似式を用いて点線中に乗っていて距離に対応する値を変化率Rcsとして求めてもよいなど、通常において用いられる補間であれば特に限定されない。
【0070】
(ステップS6)平均値マップの生成
この様にして得られた変化率Rcsの各々は、FPD3の検出素子dの各々に対応している。したがって、得られた変化率Rcsを検出素子dを参照してマッピングすれば、FPD3に写りこむ散乱線の縞模様を示す変化率マップM1が生成される。この変化率マップM1の生成は、変化率マップ生成部48によってなされる。そして、生成された変化率マップM1は、変化率マップ記憶部48aにて記憶される。
【0071】
この変化率マップM1の特徴について説明する。グリッド6における吸収箔6aは、FPD3の検出素子dの配列における一方向に沿っている。この方向に沿って変化率Rcsを比較していくと、互いに似通っている。しかし、吸収箔6aの配列方向に沿って変化率Rcsを比較していくと、互いに異なっている。この様な事情を模式的に表すと、図9の如くとなる。
【0072】
変化率マップM1を構成する変化率Rcsについて更に説明する。変化率Rcsには、散乱線の透過具合がFPD3の各部で異なることに起因して、放射線透視画像に表れる模様の成分が含まれている。理想的には、変化率Rcsには模様の成分のみを含んでいればよいのであるが、実際はそうではない。すなわち、変化率Rcsには、検出素子dに入射する直接線の強度に起因したバラツキ(統計ノイズ)が含まれている。
【0073】
変化率マップM1は、平滑化部49に送出される。そこでは、変化率マップM1をスムージングすることにより、上述の統計ノイズの影響は、変化率マップM1から除去される。この変化率に対するスムージングは、上述のステップS5におけるスムージング処理とは、性格を異にしている。具体的には、X線グリッドに沿った方向に並んだ変化率同士を用いて変化率マップM1をスムージングする。図10は、変化率マップM1に属する変化率aをスムージングの目標としている。まず、変化率aを中心として、変化率が一列に並んだ領域Dを認定する。そして、領域Dに属する変化率a,b1,b2,c1,c2を平均した平均値Qaを得る。この操作を変化率マップM1に属する変化率のすべてについて行う。つまり、変化率の各々に対応する平均値Qcsが得られることになる。変化率マップM1における変化率の位置を参照してこの平均値Qcsを配列すれば、新たなマップである平均値マップM2が取得されるわけである。なお、領域Dは、5個の変化率を有しているが、この個数は自由に増減できるものである。平均値マップM2は、平均値マップ記憶部49aにおいて記憶される。
【0074】
なお、スムージングの目標の変化率は、必ずしも領域Dの中心に位置していなくてもよい。すなわち、変化率マップM1の周縁に位置する変化率においては、図10における変化率b1,b2,c1,c2が存在しない場合が考えられる。その場合は、スムージングの目標の変化率を領域Dの中心としないでスムージングを行う構成とすることもできる。
【0075】
この様なスムージングの効果について説明する。図11は、実施例1の構成に係るスムージングの効果について説明する模式図である。図11(a)においては、実施例1の構成である領域Dに属する変化率a,b1,b2,c1,c2を示している。つまり、各変化率は、統計ノイズに由来する成分K1と、散乱線の縞模様に由来する成分K2とを備えている。X線グリッドの吸収箔の延伸方向(X方向)に沿って伸びている変化率における散乱線の縞模様に由来する成分K2は、領域Dに属する変化率の間で互いに類似しているので、平均値Qaにおいて、成分K2は保たれている。一方、成分K1は、領域Dに属する変化率の間でバラツイているので、これは、平均化される。
【0076】
比較のため、吸収箔に直交する方向に並んだ変化率a,b3,b4,c3,c4について同様の操作を行うとどうなるかを示す。この様子は図11(b)に示されている。変化率a,b3,b4,c3,c4の間では、散乱線の縞模様に由来する成分K2が一様とならず、平均値の成分K2と変化率aとを比較すると、互いに異なったものとなってしまっていることがわかる。変化率a,b3,b4,c3,c4の間で平均値を求めてしまうと、平均値Aに含まれる成分K2の値は、変化率aに含まれるそれと異なってきてしまう。散乱線の縞模様は成分K2に含まれているので、スムージングすることでK2の値が変化してしまうと、平均値マップM2において散乱線の縞模様がボケてしまう。実施例1では、この様な構成は採用されない。
【0077】
(ステップS7)実際の被検体のある状態での実測
次に、ステップS3〜S6で用いられた被検体M(ここではファントムPh)とは別の被検体Mのある状態でX線撮影を行う。図1に示すように、実際のX線撮影に用いられる被検体Mを用いる。X線管2とグリッド6との間に実際の被検体Mを介在させて、X線管2からX線をグリッド6およびFPD3に向けて照射することで、実際の被検体Mのある状態でX線撮影を行って実際の被検体Mのある状態の実測を行う。すなわち、X線管2は、実際の被検体M(実際のX線撮影に用いられる被検体M)のある状態でX線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させることで、被検体Mのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度Gが、ステップS3と同様に得られる。具体的には、被検体Mのある状態でのX線をFPD3の検出素子d(図3を参照)は電気信号に変換して読み出して、電気信号に応じた画素値に変換する。
【0078】
(ステップS8)強度の推定・補間
ステップS4でも述べたように、その画素値は、被検体Mのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度Gと同等である。同様に、画素特定部41は、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)を3つの画素の組み合わせとして特定する。そして、平均値マップ記憶部49aが記憶している平均値Qcsと、透過率算出部42で求められた直接線透過率Cp,または透過率補間部43で補間された直接線透過率Cpと、FPD3から画素値と同等である実測強度Gとに基づいて、画素特定部41で特定された隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)での透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを強度推定部44は再度に推定する。
【0079】
ステップS4と同様に、連立方程式を解くことで透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定するが、ステップS4と異なる部分は、平均値Qcsというパラメータが考慮されている点と、透過散乱線強度Scに関する式と、推定直接線強度Pに関する式とがそれぞれ異なっている点である。なお、ステップS4と共通する箇所については、その説明を省略する。
【0080】
ステップS8では、透過散乱線強度Scは、グリッド6の吸収箔に変形などのような箔の不均一性がなく設置状態が理想的な場合の透過散乱線強度としている。透過散乱線強度Scがグリッド6の不均一性の為に生じる変化率を除けば、被検体が水柱(例えば水円柱)や人体などであり、放射線がX線やγ線の場合は、その変化が滑らかであることから、隣接する3つの画素間で等しいとする下記(1)´´式で表される。
【0081】
Scn−1=Scn=Scn+1 …(1)´´
【0082】
実測強度Gは推定直接線強度P・直接線透過率Cpの積と透過散乱線強度Sc・平均値Qcsの積との和に等しいとする、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)毎の連立方程式(2)´´〜(4)´´式で表される。
【0083】
Gn+1=Pn+1・Cpn+1+Scn+1・Qcsn+1 …(2)´´
Gn=Pn・Cpn+Scn・Qcsn …(3)´´
Gn−1=Pn−1・Cpn−1+Scn−1・Qcsn−1 …(4)´´
【0084】
各画素の推定直接線強度Pは、ステップS3のアクリル平板のファントムPhの場合と異なり、被検体Mの形状、材質などによる変化があり、その変化は隣接する画素の推定直接線強度Pの補間演算で表わせるものとする。本実施例1では、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)内での推定直接線強度Pの変化は下記(5)´´式のように直線近似できるものとする。
【0085】
Pn=(Pn+1+Pn−1)/2 …(5)´´
また、推定直接線強度Pの補間方法については、直接線透過率Cpの補間やステップS4の透過散乱線強度Scの補間でも述べたのと同様で、例えばラグランジェ補間を用いてもよく、通常において用いられる補間であれば特に上記(5)´´式に限定されない。
【0086】
このような上記(1)´´〜(5)´´式から得られる連立方程式を解くことで、推定直接線強度Pn−1,Pn,Pn+1,透過散乱線強度Scn(=Scn+1=Scn−1)は、下記(6)´´〜(9)´´式のように求められる。
【0087】
Scn=Gn+1/Qcsn+1−{(Cpn・Qcsn−1−2Cpn−1・Qcsn)
・Gn+1+2Cpn−1・Qcsn+1・Gn−Cpn・Qcsn+1・
Gn−1}/(Cpn+1・Cpn・Qcsn+1・Qcsn−1−2Cpn+1
・Cpn−1・Qcsn+1・Qcsn+Cpn・Cpn−1
・Qcsn+12) …(6)´´
Pn−1={(Cpn・Qcsn−1−2Cpn−1・Qcsn)・Gn+1+2Cpn−1
・Qcsn+1・Gn−Cpn・Qcsn+1・Gn−1}/(Cpn+1・
Cpn・Qcsn−1−2Cpn+1・Cpn−1・Qcsn+Cpn・
Cpn−1・Qcsn+1) …(7)´´
Pn=Gn/Cpn−Qcsn・[Gn+1/Qcsn+1−{(Cpn・Qcsn−1−
2Cpn−1・Qcsn)・Gn+1+2Cpn−1・Qcsn+1・Gn−Cpn・
Qcsn+1・Gn−1}/(Cpn+1・Cpn・Qcsn+1・Qcsn−1−
2Cpn+1・Cpn−1・Qcsn+1・Qcsn+Cpn・Cpn−1・
Qcsn+12)] …(8)´´
Pn+1=Gn+1/Cpn+1−Qcsn−1・[{(Cpn・Qcsn−1−
2Cpn−1・Qcsn)・Gn+1+2Cpn−1・Qcsn+1・Gn−Cpn・
Qcsn+1・Gn−1}/(Cpn+1・Cpn・Qcsn+1・Qcsn−1−
2Cpn+1・Cpn−1・Qcsn+1・Qcsn+Cpn・Cpn−1・
Qcsn+12)] …(9)´´
上記(6)´´〜(9)´´式を用いて求められた推定直接線強度Pn−1,Pn,Pn+1,透過散乱線強度Scn(=Scn+1=Scn−1)は、上記(1)´´〜(5)´´式の連立方程式の解に含まれる分母が“0”でないときに求められる値である。
【0088】
上記(1)´´〜(5)´´式の連立方程式の解に含まれる分母が“0”のときには、上記(1)´´〜(5)´´式の連立方程式を解くことができないので、分母が“0”のときの組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)では、そのときの推定直接線強度Pn−1,Pn,Pn+1あるいは透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1が求められずに推定できないことになる。分母が“0”のときの組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)場合の推定直接線強度Pn−1,Pn,Pn+1あるいは透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1の推定方法には、例えば下記の1)の方法がある。
【0089】
1)の方法は、透過散乱線強度Scを先に求める方法である。グリッド6の吸収箔に変形などなく設置状態が理想的な場合の透過散乱線強度Scとしているので、先ず、分母が“0”でないときに得られた複数の透過散乱線強度Scnを用いて、分母が“0”のため未だ得られていない画素を含め、適切なスムージング・補間計算により全ての画素に対する透過散乱線強度Scn〜を求める。上記(1)´´式でも述べたように、被検体が水柱(例えば水円柱)や人体などであり、放射線がX線やγ線の場合は、変化は滑らかであることと、スムージングは統計変動誤差によるバラツキを低減させる効果もあり、透過散乱線強度Scnの真値に近い値Scn〜が得られる。このようにして求められた透過散乱線強度Scn〜を、全ての画素について上記(3)式のScnに代入し、推定直接線強度Pnを直接に求める。この方法では、上述のように、推定直接線強度Pに対して、分母が“0”でない画素の値からのスムージング・補間計算をしないので、推定直接線強度Pの画像に分解能の劣化が無いという大きな利点がある。
【0090】
このように、ステップS4と同様に、上記のように、透過散乱線強度Scnを先に求めてもよいし、推定直接線強度Pnを先に求めてもよい。
【0091】
このように、ステップS1〜S8を経て、ステップS8で求められた推定直接線強度Pnを画素値として用いることで、散乱線やグリッド6による偽像を低減させたX線画像が適切に得られる。かかるX線画像を、上述した表示部5に表示出力してもよいし、RAM(Random−Access Memory)などに代表される記憶媒体に書き込んで記憶して、適宜必要に応じて読み出してもよいし、プリンタなどに代表される印刷手段に印刷出力してもよい。また、ステップS7の1)の方法で推定直接線強度Pnよりも先に透過散乱線強度Scnを求めた場合には、後で推定直接線強度Pnを求めてからX線画像として表示部5や記憶媒体や印刷手段などに出力すればよい。
【0092】
また、X線管2の焦点からFPD3までの検出面までの距離SIDごとに、ステップS2で直接線透過率Cpを求めているので、ステップS3〜S8で求められるパラメータは、距離SIDごとに適切に得られる値である。さて、距離SIDが変化しても被検体MとFPD3との距離が変化しなければ、直接線透過率Cpと異なり散乱線分布の変化は少なく、の平均値マップの平均値Qcsnの変化は殆ど無視できる。その場合には、あるSIDで平均値Qcsnを求めておけば、異なる距離SIDに対してもその値を使用できるので、ステップS3〜S5を省略することができる。そして、ステップ6以降の実際の被検体Mのある状態での実測以降を行えばよい。さらに、距離SIDの変化に対する平均値Qcsnの変化が無視できない場合には、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…ごとに、平均値Qcsnを求めておき、実際の距離SIDに対してはそれらの補間計算により求めれば、やはりステップS3〜S5を省略することができる。そして、ステップ6以降の実際の被検体Mのある状態での実測以降を行えばよい。したがって、実際のX線撮影において、距離SIDが図6に示すように変化しても、その距離SIDごとに考慮された直接線透過率Cpと透過散乱線強度Scの平均値Qcsを用いることで、循環器撮影装置などのように、X線管2,グリッド6およびFPD3の距離をその都度変更して撮影する場合においても適用することができる。
【0093】
本実施例1に係るX線撮影装置によれば、X線管2からX線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させる。一部の散乱X線(散乱線)がグリッド6によって除去されて、FPD3はX線を検出してX線画像を得る。このとき、X線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を画素特定部41は特定する。その画素特定部41で特定された所定の画素での散乱X線強度(散乱線強度)、所定の画素での直接X線強度(直接線強度)の少なくとも1つの強度を強度推定部44は推定する。したがって、グリッド6の設置状態が考慮された所定の画素での散乱X線強度、直接X線強度の少なくとも1つの強度を適切に推定することができる。
【0094】
以上のように、実施例1に記載の発明によれば、X線管2から放射線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させる。一部の散乱線がグリッド6によって除去されて、FPD3は放射線を検出して放射線画像を得る。このとき、放射線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を画素特定部41は特定する。その画素特定部41で特定された所定の画素での散乱線強度、所定の画素での直接放射線強度の少なくとも1つの放射線強度を強度推定手部44は推定する。したがって、グリッド6の設置状態が考慮された所定の画素での散乱線強度、直接放射線強度の少なくとも1つの放射線強度を適切に推定することができる。したがって、特定された画素については強度推定手部44によって放射線強度が推定され、特定されなかった画素については強度補間手段によって放射線強度が補間される。そして、このような放射線強度に基づいて放射線画像が適切に得られ、グリッド6の陰影が消え、散乱線が完全に除去された直接放射線だけの放射線画像が得られる。かかる画素特定部41,強度推定手部44によって得られる放射線画像では、いずれのグリッド6においても適切に得られる。その結果、汎用のグリッド6にも適用することができ、グリッド6の設置状態に依存せずに、適切な放射線画像を得ることができる。また、全ての画素について放射線強度を推定する必要はなく、特定された所定の画素での放射線強度のみを推定して、残りの特定されなかった画素での放射線強度については補間を行って求めればよいので、演算処理を軽減化、短時間化することができるという効果をも奏する。
【0095】
そして、実施例1の構成によれば、変化率マップM1を生成する変化率マップM1生成部を備えている。この変化率マップM1は、放射線透視画像に表れる模様(散乱線の縞模様)を示しているものであり、これを用いて放射線透視画像に補正を加えれば、散乱線の縞模様が除去される。そして、この変化率マップM1にスムージングを行って平均値マップM2を生成する平滑化部49を備えている。したがって、変化率マップM1には、散乱線の縞模様の他に、統計ノイズが重畳している。しかし、変化率マップM1は、スムージングされ、平均値マップM2となる。平均値マップM2からは、統計ノイズが平均化されてボカされる。統計ノイズが放射線透視画像において粒状の粗いノイズとして写りこもうとしても、平均値マップM2においては、その粒状性は、ボカされており、結局、放射線透視画像に変化率マップM1の有する統計ノイズが重畳することがない。
【0096】
また、スムージングは、グリッド6の吸収箔6aの延伸方向に沿って並んだ変化率Rcsの配列についてなされる。散乱線の縞模様はスムージングでボケないことが望ましい。散乱線の縞模様は、グリッド6の吸収箔6aの延伸方向に沿って伸びている(言いかえれば、散乱線の縞模様は、グリッド6の吸収箔6aの配列方向に沿って配列されいる)。スムージングは、グリッド6の吸収箔6aの延伸方向に沿って行われるので、変化率Rcsに含まれる統計ノイズ成分についてはスムージングし、散乱線の縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、変化率マップM1に現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【0097】
また、X線管2は、別の被検体(ここでは実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態で放射線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させることで、被検体のある状態での実測でのグリッド6を透過した後の放射線強度である実測強度が得られる。平均値マップ記憶部49aが記憶している平均値Qcsと、透過率算出部42で求められた直接線透過率、そして、別の被検体(実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態での実測での上述した実測強度とに基づいて、強度推定手部44は、画素特定部41で特定された所定の画素での放射線強度を推定する。このように、被検体のない状態での実測データに基づいて直接線透過率が求められ、その直接線透過率を用いて、被検体(ここではファントム)のある状態で放射線撮影を行って変化率Rcsが求められ、その変化率Rcs,または変化率Rcs補間手段により補間された変化率Rcsを用いて、別の被検体(ここでは実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態で放射線撮影を行って、その被検体(実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態での実測強度に基づいて放射線強度を推定することができる。
【0098】
本発明は、上述の実施例の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0099】
(1)上述した実施例では、放射線としてX線を例に採って説明したが、X線以外の放射線(例えばγ線など)に適用してもよい。
【0100】
(2)上述した実施例では、放射線撮像装置は、医用等に用いられる、図1に示すような天板1に被検体を載置して撮影を行う構造であったが、これに限定されない。例えば、工業用等に用いられる非破壊検査装置のように被検体(この場合には検査の対象物が被検体)をベルト上に運搬させて撮影を行う構造であってもよいし、医用等に用いられるX線CT装置などのような構造であってもよい。
【0101】
(3)上述した構成の変化率マップ生成部48は、領域Dに含まれる変化率Rcsを平均して平均値Aを求めたが、本発明はこの構成に限らない。スムージングの目標である変化率の距離に応じて、領域Dに属する変化率に重み付けを行って平均値Aを求める構成としてもよい。つまり、図12に示すように、スムージングの目標である変化率aについて平均値Aを求める際に、変化率e1のように変化率aから離れた変化率よりも変化率b1のように変化率aにより隣接した変化率の方を平均値Aに影響させる構成とするのである。例えば、
A={1×(e1+e2)+2×(d1+d2)+3×(c1+c2)4×(b1+b2)5×a}/(1+1+2+2+3+3+4+4+5) …(10)
の式にしたがって、変化率の各々を用いて平均値Aを導出してもよい。この様な構成とすることで、より変化率マップM1が保持する散乱線の縞模様を確実にボカさない構成とすることができる。
【0102】
(4)上述した実施例では、ステップS5において、透過散乱線の変化率を被検体のある状態での実測に基づいて推定された透過散乱線強度Scを用いて、その透過散乱線強度Scに関する全ての画素についての平均値に対する各画素の変化率を求める方法について述べた。しかし、透過散乱線の変化率を求める方法としては、被検体のない状態での実測により、変化率Rcsを求める方法として、グリッドに対し、放射線照射源を二次元的にスキャンして散乱線と同等の広い方向からの直接線が散乱放射線除去手段に入射するようにして模擬的な散乱線源(直接線のない)とし、その積算値から、全画素の平均値との比を求めて変化率Rcsを求める方法があり、いずれの方法を用いてもよい。
【0103】
(5)上述した実施例では、画素特定手段(実施例では画素特定部41)が特定されるべき所定の画素の個数を3つとしたが、3つに限定されない。連立方程式に応じて個数を決定すればよい。
【0104】
(6)上述した実施例では、連立方程式の解に含まれる分母の絶対値が所定値以下の場合には、画素特定手段(実施例では画素特定部41)は、その連立方程式の組み合わせとなる所定の画素を選択しなかったが、その所定値については上述した“0”に限定されない。上述した実施例で連立方程式の解に含まれる分母は、(ステップS2)直接線透過率Cpの算出・補間での推定直接線強度Pnに含まれる分母と、(ステップS7)強度の推定・補間での被検体の透過散乱線強度Scに含まれる分母とがあり、比較的簡単な、(ステップS2)直接線透過率Cpの算出・補間での推定直接線強度Pnに含まれる分母(Cpn+1+Cpn−1−2Cpn)の場合について説明する。
【0105】
例えばグリッド箔による遮蔽画素をn,遮蔽画素でない画素をn+1,n−1とすると、箔に歪などの無い場合は、その時のそれぞれの直接線透過率Cpの値は予め計算できる。例えば、画素の幅が150μm,グリッド箔の厚みが30μm,中間物質がエアーの場合は、グリッドカバーの吸収を無視すると、Cpn+1=1, Cpn−1=1, Cpn=0.7となる。したがって、この時の分母は、Cpn+1+Cpn−1−2Cpn=1+1−2x0.7=0.6となる。
【0106】
一方、Pnの分子は(Gn+1+Gn−1−2Gn)であるが、その統計変動誤差はGn+1,Gn−1,Gnの統計変動誤差から予測でき、最終的に得られるPnの統計変動誤差は分母の値で割った値となる。上記の例では、理想的な箔の設置状態で0.6であり、箔に歪などがあればその値が小さくなる場合があり、分子の統計変動誤差をその値で割った場合に、統計変動誤差が大きくなり、後で求めるPnの平均値に大きな誤差を与えることになる。したがって、例えば、その許容値を理想的な場合の3倍とすると、分母の所定値が0.2となり、信頼性の高いPnの値だけを求めることができる。このようにして、所定値を決め、画素を特定することができる。
【0107】
(ステップS8)の場合も同様に、正常な場合の分母の値と比較して、所定値を、最終的に得られるSnの統計変動誤差の許容値から決定することができる。上記はいずれも、求めたい値の統計変動誤差の許容値を基準に所定値を決めたが、別の基準値から所定値を決めてもよい。
【0108】
(7)上述した実施例では、透過散乱線強度および推定直接線強度を推定したが、いずれか一方の強度のみを推定してもよい。
【0109】
(8)上述したように、本明細書では「画素」とは、束ね処理(ビニング処理)されていない1画素はもちろんのこと、複数の画素を束ねて(ビニング)1画素扱いする画素も含む。したがって、画素を特定する場合や、特定された特定画素を用いる場合には、ビニングされた画素に適用してもよいし、ビニングされていない画素に適用してもよい。
【0110】
(9)上述した実施例においては、物理量取得手段に相当する構成として、変化率算出手段が備えられていた。また、物理量マップ生成手段に相当する構成として、変化率マップ生成手段が備えられていた。そして、物理量マップ平滑化手段に相当する構成として、変化率マップ平滑化手段が備えられていた。そして、変化率Rcsを配列して変化率マップM1を生成し、これを平滑化することで平均値マップM2を生成していた。しかし、本発明はこの様な構成に限らない。変化率Rcsに代わって、直接線透過率Cp,透過散乱線強度Sc,または、推定直接線強度Pを配列してこれらに関する平均値マップを生成してもよい。この様にすることで、画像処理部4は、直接線透過率Cp,透過散乱線強度Sc,または、推定直接線強度Pに重畳している統計ノイズを除去した上で画像処理が可能となるので散乱線の縞模様と統計ノイズとがともに除去された画像を取得することができる。
【0111】
(10)上述した実施例において、グリッド6は、単一方向に吸収箔6aが配列された構成となっていたが、これに代えて、クロスグリッドとすることができる。クロスグリッドは、細長状の吸収箔が縦横に配列された格子状となっている。この場合、平滑化部49は、変化率マップM1を縦横(X方向、Y方向)のいずれかの方向を選択し、選択された方向に直列して並んだ変化率Rcsの平均値を求めることになる。なお、縦方向の平均値の算出と、横方向の平均値の算出を組み合わせて平均値マップM2を生成する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】実施例1に係るX線撮像装置のブロック図である。
【図2】フラットパネル型X線検出器(FPD)の検出面の模式図である。
【図3】グリッドの概略図である。
【図4】実施例1に係る具体的な画像処理部の構成およびデータの流れを示したブロック図である。
【図5】実施例1に係る一連のX線撮像の流れを示すフローチャートである。
【図6】被検体のない状態でのX線撮像を模式的に示した図である。
【図7】SIDと直接線透過率および変化率との関係を模式的に示したグラフである。
【図8】アクリル平板のファントムを被検体として用いる場合の実施例1に係る被検体のある状態でのX線撮像を模式的に示した図である。
【図9】実施例1に係る変化率マップを説明する模式図である。
【図10】実施例1に係るスムージングを説明する模式図である。
【図11】図11は、実施例1の構成に係るスムージングの効果について説明する模式図である。
【図12】本発明の1変形例に係る模式図である。
【符号の説明】
【0113】
2 … X線管
3 … フラットパネル型X線検出器(FPD)
d … 検出素子
6 … グリッド
6a … 吸収箔
41 … 画素特定部
42 … 透過率算出部
43 … 透過率補間部
44 … 強度推定部
46 … 変化率算出部
47 … 変化率補間部
48 … 変化率マップ生成部(変化率マップ生成手段)
49 … 平滑化部(変化率マップ平滑化手段)
Kgy … 吸収箔間の間隔
Kfx,Kfy … 画素間の間隔
(n−1),n,(n+1) … 画素
G,Gn−1,Gn,Gn+1 … 実測強度
Cp,Cpn−1,Cpn,Cpn+1 … 直接線透過率
Sc,Scn−1,Scn,Scn+1 … 透過散乱線強度
P,Pn−1,Pn,Pn+1 … 推定直接線強度
P(n−1),P(n),P(n+1) … 推定直接線分布
an … 変換係数
Qcs … 平均値
Rcs,Rcsn−1,Rcsn,Rcsn+1 … 変化率
M … 被検体
M1 …変化率マップ
M2 …平均値マップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の透視画像が取得できる放射線撮影装置に関し、特に、放射線が被検体を通過する際に生じる散乱線を除去する放射線グリッドを備えた放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医用のX線透視撮影装置やX線CT(computed tomography)では、被検体からの散乱X線(以下、「散乱線」と略記する)がX線検出器に入射するのを防止するために、散乱線を除去するグリッド(散乱線除去手段)が用いられている。しかし、グリッドを用いてもグリッドを透過する散乱線による偽像、およびグリッドを構成する吸収箔による偽像が生じる。特に、検出素子が行列状(2次元マトリックス状)に構成されたフラットパネル型(2次元)X線検出器(FPD: Flat Panel Detector)をX線検出器として用いる場合には、グリッドの吸収箔の間隔とFPDの画素間隔とが異なることから生じるモアレ縞などの偽像が、散乱線による偽像の他にも生じる。かかる偽像を低減させるために偽像補正が必要となっている。また、最近、このようなモアレ縞を起こさないように、配置方向が検出素子の行列方向のいずれかに対して平行であり、かつFPDの画素間隔の整数倍で配置された吸収箔を有する同期型グリッドが提案されており、それを用いた補正法も必要となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
現在では、モアレ縞の補正についてはスムージングなどを含む画像処理による方法が行われているが、偽像補正が過剰の場合には、直接X線(以下、「直接線」と略記する)の分解能も低下する傾向にある。したがって、画像処理において偽像を確実に低減させようとすると直接線の分解能まで低下して画像が鮮明でなくなり、逆に、直接線の分解能を重視して画像を鮮明にさせようとすると画像処理において偽像が低減しなくなり、いわゆる画像処理と鮮明さとのトレードオフとなる。このようなことから、完全な偽像処理が困難となっている。また、グリッドを用いても残ってしまう散乱線の補正法についても、様々な方法が提案されているが、補正演算に時間がかかるなどの問題がある。
【0004】
本出願人は、既に、上述した同期型グリッドを用いた補正法について、直接線が吸収箔により遮蔽される画素について補正し、その遮蔽された画素列あるいは画素行から、グリッドを透過した散乱線分布を求め、その分布に基づいて他の画素の信号を補正する方法を提案している。また、その方法では、グリッドとX線検出器との距離を吸収箔の高さの整数倍にすることや、X線管のような放射線照射手段、グリッドおよびX線検出器の位置が変化しても、吸収箔の陰影が一定の画素列あるいは画素行内に収まるようなグリッドの位置および吸収箔の形状が設定されていることなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−257939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この様な従来構成においては、以下のような問題点がある。
散乱線は、グリッドを通過すると、その殆どが吸収されてしまうが、中には、グリッドを通過してしまうものがある。この通過の具合は、吸収箔の配列の歪みに影響されて、X線検出器の検出面の各部において、一定とならない。具体的には、散乱線放射線の透過具合がX線検出器に写りこんでしまう。この様に、散乱線の影響は、X線検出器全体に及んでいる。
【0007】
この影響を除くために、予め、散乱線の透過具合がX線検出器の各部で異なることに起因して、画像に表れる模様(散乱線の縞模様)を変化率マップとして記憶しておき、上述のような画像処理の際に、この散乱線の縞模様を画像処理によって除去する構成が考えうる。
【0008】
しかしながら、上述の変化率マップには、散乱線の影響によらないノイズ(統計のノイズ)が重畳している。散乱線の縞模様は、吸収箔の歪み具合によって大きく変化するので、予測は難しいことから、変化率マップは、グリッドが装着されたX線検出器にX線を実際に当てることで取得される。このとき、検出素子に到達する放射線の線量は、検出素子同士で同じである保証はなく、多少のバラツキを有している。したがって、変化率マップには、このバラツキが重畳し、これが統計ノイズの原因である。なお、このバラツキは、グリッドをX線検出器に装着しなくても生じ、上述の散乱線の縞模様とは独立したものである。
【0009】
散乱線の縞模様を除去する画像処理は、簡単に言えば、変化率マップを放射線透視画像に重ね合わせることによって行われる。変化率マップには、散乱線の縞模様とは別に統計ノイズが重畳しているので、画像に変化率マップを作用させると、変化率マップに重畳した統計ノイズだけ余計に画像の画素値を変更してしまい、画像に粒状のノイズが表れる原因となる。
【0010】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、統計ノイズの影響を画像に重畳させない放射線撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、この様な目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、放射線画像を得る放射線撮影装置であって、放射線を照射する放射線源と、放射線を検出する複数の検出素子が行方向、および列方向に二次元的に配列されて構成された放射線検出手段と、行方向に伸びた吸収箔が列方向に配列されているとともに散乱線を除去する放射線グリッドとを備え、2次元的に配列された画素の画素値を求めるための所定の物理量を求める物理量取得手段と、所定の物理量をマッピングして物理量マップを生成する物理量マップ生成手段と、物理量マップにおける吸収箔の延伸方向に沿って並んだ物理量の配列についてスムージングを行って物理量マップを生成する物理量マップ平滑化手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、物理量マップを生成する物理量マップ生成手段を備えている。この物理量マップは、放射線透視画像に表れる模様(散乱線の縞模様)を示しているものであり、これを用いて放射線透視画像に補正を加えれば、散乱線の縞模様が除去される。そして、請求項1に記載の構成は、この物理量マップにスムージングを行って平均値マップを生成する物理量マップ平滑化手段を備えている。したがって、物理量マップには、散乱線の縞模様の他に、統計ノイズが重畳している。しかし、物理量マップは、スムージングされ、平均値マップとなる。平均値マップからは、統計ノイズが平均化されてボカされる。統計ノイズが放射線透視画像において粒状の粗い偽像として写りこもうとしても、平均値マップにおいては、その粒状性は、ボカされており、結局、放射線透視画像に物理量マップの有する統計ノイズが重畳することがない。
【0013】
また、スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って並んだ物理量の配列についてなされる。散乱線の縞模様はスムージングでボケないことが望ましい。散乱線の縞模様は、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って伸びている(言いかえれば、散乱線の縞模様は、放射線グリッドの吸収箔の配列方向に沿って配列されている)。スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って行われるので、物理量に含まれる統計ノイズ成分についてはスムージングが施され、散乱線の縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、物理量マップに現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の放射線撮影装置において、放射線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を特定する画素特定手段と、その画素特定手段で特定された所定の画素での散乱線強度、所定の画素での直接放射線強度の少なくとも1つの放射線強度を推定する強度推定手段とを更に備え、(A)物理量取得手段に相当する構成として、被検体のある状態での実測に基づいて強度推定手段で推定された放射線強度を用いて、その放射線強度に関する全ての画素についての基準強度として、平均値またはスムージング・補間計算により求められる各画素の値を求め、その値に対する各画素の変化率を求める変化率算出手段が備えられ、(B)物理量マップ生成手段に相当する構成として各画素の変化率をマッピングして変化率マップを生成する変化率マップ生成手段が備えられ、(C)物理量マップ平滑化手段に相当する構成として、変化率マップにおける吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてスムージングを行って平均値マップを生成する変化率マップ平滑化手段が備えられることを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]上述の構成は、本発明に係る放射線撮影装置の具体的な態様を示したものである。すなわち、上述の構成によれば、変化率マップを生成する変化率マップ生成手段を備えている。この変化率マップは、放射線透視画像に表れる模様(散乱線の縞模様)を示しているものであり、これを用いて放射線透視画像に補正を加えれば、散乱線の縞模様が除去される。そして、請求項1に記載の構成は、この変化率マップにスムージングを行って平均値マップを生成する変化率マップ平滑化手段を備えている。したがって、変化率マップには、散乱線の縞模様の他に、統計ノイズが重畳している。しかし、変化率マップは、スムージングされ、平均値マップとなる。平均値マップからは、統計ノイズが平均化されてボカされる。統計ノイズが放射線透視画像において粒状の粗い偽像として写りこもうとしても、平均値マップにおいては、その粒状性は、ボカされており、結局、放射線透視画像に変化率マップの有する統計ノイズが重畳することがない。
【0016】
また、スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてなされる。散乱線の縞模様はスムージングでボケないことが望ましい。散乱線の縞模様は、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って伸びている(言いかえれば、散乱線の縞模様は、放射線グリッドの吸収箔の配列方向に沿って配列されている)。スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って行われるので、変化率に含まれる統計ノイズ成分についてはスムージングが施され、散乱線の縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、変化率マップに現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【0017】
また、請求項3に記載の放射線撮影装置は、請求項1に記載の放射線撮影装置において、平均値マップと、透過率算出手段で求められた直接線透過率と、別の被検体のある状態での実測での散乱放射線除去手段を透過した後の放射線強度である実測強度とに基づいて、強度推定手段は、画素特定手段で特定された所定の画素での放射線強度を推定することを特徴とするものである。
【0018】
[作用・効果]このように反映させる具体的な内容は以下の通りである。すなわち、放射線照射手段は、別の被検体(ここでは実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態で放射線を照射して、散乱放射線除去手段を介して放射線検出手段に入射させることで、被検体のある状態での実測での散乱放射線除去手段を透過した後の放射線強度である実測強度が得られる。変化率算出手段で求められた変化率と、透過率算出手段で求められた直接線透過率、そして、別の被検体(実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態での実測での上述した実測強度とに基づいて、強度推定手段は、画素特定手段で特定された所定の画素での放射線強度を推定する。このように、被検体のない状態での実測データに基づいて直接線透過率が求められ、その直接線透過率を用いて、被検体(ここではファントム)のある状態で放射線撮影を行って変化率が求められ、その変化率、または変化率補間手段により補間された変化率を用いて、別の被検体(ここでは実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態で放射線撮影を行って、その被検体(実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態での実測強度に基づいて放射線強度を推定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に記載の発明によれば、放射線強度に基づいて放射線画像が適切に得られ、散乱放射線除去手段の陰影が消え、散乱放射線が完全に除去された直接放射線だけの放射線画像が得られる。そして、散乱放射線除去手段に依存せずに、適切な放射線画像を得ることができる。
【0020】
そして、本発明によれば、物理量マップを生成する物理量マップ生成手段を備えている。そして、この物理量マップにスムージングを行って平均値マップを生成する物理量マップ平滑化手段を備えている。物理量マップは、スムージングされ、平均値マップとなる。平均値マップからは、統計ノイズが平均化されてボカされる。結局、放射線透視画像に物理量マップの有する統計ノイズが重畳することがない。
【0021】
また、スムージングは、放射線グリッドの吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてなされる。すると、物理量マップの変化率に含まれる統計ノイズ成分についてはスムージングし、縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、物理量マップに現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【実施例1】
【0022】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は、実施例1に係るX線撮影装置のブロック図であり、図2は、フラットパネル型X線検出器(FPD)の検出面の模式図であり、図3は、X線グリッドの概略図である。実施例1では、放射線としてX線を例に採って説明する。
【0023】
本実施例1に係るX線撮影装置は、図1に示すように、被検体Mを載置した天板1と、被検体Mに向けてX線を照射するX線管2と、X線管2から照射されて被検体Mを透過したX線を検出するフラットパネル型X線検出器(以下、「FPD」と略記する)3と、FPD3によって検出されたX線に基づいて画像処理を行う画像処理部4と、画像処理部4によって各種の画像処理されたX線画像を表示する表示部5とを備えている。表示部5はモニタやテレビジョンなどの表示手段で構成されている。また、FPD3の検出面側にはグリッド6を配設している。X線管2は、この発明における放射線照射手段に相当し、フラットパネル型X線検出器(FPD)3は、この発明における放射線検出手段に相当し、グリッド6は、この発明における散乱線除去手段に相当する。
【0024】
画像処理部4は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。なお、各種の画像処理を行うためのプログラム等をROM(Read−only Memory)などに代表される記憶媒体に書き込んで記憶し、その記憶媒体からプログラム等を読み出して画像処理部4のCPUが実行することでそのプログラムに応じた画像処理を行う。特に、画像処理部4の後述する画素特定部41や透過率算出部42や透過率補間部43や強度推定部44や変化率算出部46や変化率補間部47は、所定の画素の特定や直接線透過率の算出・補間や強度の推定・補間や変化率の算出に関するプログラムを実行することで、そのプログラムに応じた所定の画素の特定や直接線透過率の算出・補間や強度の推定・補間や変化率の算出・補間をそれぞれ行う。
【0025】
画像処理部4は、所定の画素を特定する画素特定部41と、直接線透過率を求める透過率算出部42と、直接線透過率を補間する透過率補間部43と、強度を推定する強度推定部44と、変化率を求める変化率算出部46と、変化率を補間する変化率補間部47とを備えている。これとは別に、画像処理部4は、変化率マップ生成部48と、平滑化部49とを備えているが、その詳細は後述する。画素特定部41は、この発明における画素特定手段に相当し、透過率算出部42は、この発明における透過率算出手段に相当し、透過率補間部43は、この発明における透過率補間手段に相当し、強度推定部44は、この発明における強度推定手段に相当し、変化率算出部46は、この発明における変化率算出手段に相当し、変化率補間部47は、この発明における変化率補間手段に相当する。また、変化率マップ生成部は、本発明の変化率マップ生成手段に相当し、平滑化部49は、本発明の変化率マップ平滑化手段に相当する。
【0026】
FPD3は、図2に示すように、その検出面にはX線に有感な複数の検出素子dを2次元マトリックス状に配列して構成されている。検出素子dは、被検体Mを透過したX線を電気信号に変換して一旦蓄積して、その蓄積された電気信号を読み出すことで、X線を検出する。各々の検出素子dでそれぞれ検出された電気信号を、電気信号に応じた画素値に変換して、検出素子dの位置にそれぞれ対応した画素にその画素値を割り当てることでX線画像を出力して、画像処理部4の画素特定部41や透過率算出部42や強度推定部44(図1,図4を参照)にX線画像を送り込む。このように、FPD3は、X線を検出する複数の検出素子dが行列状(2次元マトリックス状)に構成されている。検出素子dは、この発明における検出素子に相当する。
【0027】
グリッド6は、図3に示すように、散乱線(散乱X線)を吸収する吸収箔6aと散乱線を透過させる中間層6cとを交互に並べて構成されている。吸収箔6a,中間層6cを覆うグリッドカバー6dは、X線の入射面および逆側の面から吸収箔6a,中間層6cを挟み込む。吸収箔6aの図示を明確にするために、グリッドカバー6dについては二点鎖線で図示し、その他のグリッド6の構成(吸収箔6aを支持する機構等)については図示を省略する。吸収箔6aは、この発明における吸収層に相当する。
【0028】
次に、吸収箔6aの配列について説明する。具体的には、図3中のX方向に沿って伸びた吸収箔6aと中間層6cとを図3中のY方向に順に交互に並べるられている。ここで、図3中のX方向は、FPD3の検出素子d(図2を参照)の行方向に平行であり、図3中のY方向は、FPD3の検出素子d(図2を参照)の列方向に平行である。したがって、本実施例1では、吸収箔6aの配置方向が検出素子dの行方向に対して平行である。
【0029】
また、Y方向において互いに隣接する吸収箔6a間の間隔Kgyが、互いに隣接する画素間の間隔Kfyの整数倍になって同期している(図3では2倍で図示)。このように、吸収箔6aの配置方向が検出素子dの行方向に対して平行であり、かつ互いに隣接する吸収箔6aの間隔Kgyが、互いに隣接する画素間の間隔Kfyの整数倍になるように、グリッド6は構成されている。
【0030】
本実施例1では、中間層6cは空隙になっている。したがって、グリッド6はエアグリッドでもある。なお、吸収箔6aについては、鉛などのようにX線に代表される放射線を吸収する物質であれば、特に限定されない。中間層6cについては、上述した空隙の他に、アルミニウムや有機物質などのようにX線に代表される放射線を透過させる中間物質であれば、特に限定されない。
【0031】
本実施例1に係る実際のX線撮影およびデータの流れについて、図4〜図8を参照して説明する。図4は、具体的な画像処理部の構成およびデータの流れを示したブロック図であり、図5は、一連のX線撮影の流れを示すフローチャートであり、図6は、被検体のない状態でのX線撮影を模式的に示した図であり、図7は、SIDと直接線透過率および変化率との関係を模式的に示したグラフであり、図8は、アクリル平板のファントムを被検体として用いる場合の実施例1に係る被検体のある状態でのX線撮影を模式的に示した図である。
【0032】
図4に示すように、X線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を画素特定部41は特定する。本実施例1では、(n−1)番目の画素、それに隣接するn番目の画素、されにそれに隣接する(n+1)番目の画素からなる3つの画素の組み合わせ(図4中では「n−1」,「n」,「n+1」で表記)を画素特定部41は特定して強度推定部44に送り込む。なお、後述する連立方程式の解に含まれる分母の絶対値が所定値以下(本実施例1では分母が“0”)の場合には、画素特定部41は、その連立方程式の組み合わせとなる所定の画素を選択せずに、別の所定の画素を組み合わせとして選択して特定する。連立方程式は後述する説明から明らかなように強度推定部44から求められるので、強度設定部44から求められる分母に関するデータ(図4中では「denominator」で表記)を画素特定部41に送り込む。
【0033】
被検体のない状態での実測により求められたグリッド6による直接線(直接X線)の透過前および透過後の透過率である直接線透過率を、X線管2とグリッド6およびFPD3との離散的な距離に対して透過率算出部42は求める。本実施例1では、直接線透過率(図4中では「Cp」で表記)を透過率算出部42は求めて透過率補間部43や強度推定部44に送り込む。
【0034】
透過率算出部42で求められた直接線透過率Cpを、上述した離散的な距離に前後する距離に対して透過率補間部43は補間する。そして、補間された直接線透過率Cpも強度推定部44に送り込む。
【0035】
画素特定部41で特定された所定の画素での散乱線強度(散乱X線強度)、所定の画素での直接線強度(直接X線強度)の少なくとも1つの強度を強度推定部44は推定する。本実施例1では、透過率算出部42で求められた直接線透過率Cp,または、透過率補間部43で補間された直接線透過率Cpと、被検体Mのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度(図4中では「G」で表記)とに基づいて、透過散乱線強度(図4中では「Sc」で表記)や推定直接線強度(図4中では「P」で表記)を強度推定部44は推定して変化率算出部46や表示部5などに送り込む。また、本実施例1では、強度推定部44は連立方程式を解くことで透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定するので、連立方程式の解に含まれる分母に関するデータdenominatorも求まり、その分母に関するデータdenominatorを画素特定部41に送り込む。
【0036】
被検体Mのある状態での実測に基づいて強度推定部44で推定された強度を用いて、その強度に関する全ての画素についての基準強度として、平均値またはスムージング・補間計算により求められる各画素の値を求め、その値に対する各画素の変化率を変化率算出部46は求める。そして、強度推定部44で推定された変化率、または変化率補間部47で補間された変化率を用いて、別の被検体Mに対するX線撮影に反映させる。本実施例1では、強度推定部44で推定された透過散乱線強度Scを用いて、変化率(図4中では「Rcs」で表記)を求めて、強度推定部44に再度送り込む。この様に形成された変化率Rcsは、変化率マップ生成部48に送出される。そこで生成された変化率マップM1は、平滑化部49に送出される。
【0037】
本実施例1では、実際のX線撮影は、図5に示すようなフローとなる。
【0038】
(ステップS1)被検体のない状態での実測
被検体のない状態でX線撮影を行う。図6に示すように、X線管2とグリッド6との間に被検体を介在させずに、X線管2からX線をグリッド6およびFPD3に向けて照射することで、被検体のない状態でX線撮影を行って被検体のない状態での実測を行う。すなわち、X線管2は、被検体のない状態でX線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させることで、被検体のない状態での実測データが得られる。具体的には、被検体のない状態でのX線をFPD3の検出素子d(図3を参照)は電気信号に変換して読み出して、電気信号に応じた画素値に変換する。
【0039】
(ステップS2)直接線透過率の算出・補間
その画素値は、被検体のない状態での実測により求められたグリッド6を透過した後の強度と同等である。一方、グリッド6を透過する前の強度は既知であるので、グリッド6を透過する前(透過前)およびグリッド6を透過した後(透過後)の透過率である直接線透過率Cpは、グリッド6を透過する前の強度とグリッド6を透過した後の強度(すなわちFPD3で検出された画素値)との比率で表される。
【0040】
そこで、FPD3から画素値と同等であるグリッド6を透過した後の強度と、既知であるグリッド6を透過する前の強度とを透過率算出部42に送り込むことで、透過率算出部42は、グリッド6による透過前の強度と透過後の強度との比率で表された直接線透過率Cpを求める。かかる直接線透過率CpをX線管2とグリッド6およびFPD3との離散的な距離に対して透過率算出部42は求める。X線管2とグリッド6およびFPD3との距離は、グリッド6およびFPD3が互いに近接して配置されているので、X線管2の焦点からFPD3までの検出面(入射面)までの距離(SID: Source Image Distance)となる。
【0041】
X線管2の焦点からFPD3までの検出面までの距離SIDは、実際のX線撮影では、図6に示すように変化する。そこで、同じく被検体のない状態でX線撮影を行い、図7中の黒丸に示すように、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…ごとに、透過率算出部42は直接線透過率Cpを求める。離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…に対する直接線透過率Cpを透過率補間部43や強度推定部44に送り込む。なお、各々の画素ごとにも透過率算出部42は直接線透過率Cpを求めて透過率補間部43や強度推定部44に送り込む。
【0042】
透過率算出部42で求められた直接線透過率Cpを、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…に前後する距離に対して透過率補間部43は補間する。その補間結果は、例えば図7中の実線に示す通りである。補間の方法については、互いに隣接する離散的な距離(例えばLs+1,Ls+2)に対する2つの直接線透過率Cpの相加平均(加算平均)あるいは相乗平均によって得られた値を、上述した隣接する離散的な距離の間にある距離に対する直接線透過率Cpとして求めてもよいし、ラグランジェ補間を用いてもよいし、最小自乗法を用いて図7中の実線の近似式を用いて実線中に乗っていて距離に対応する値を直接線透過率Cpとして求めてもよいなど、通常において用いられる補間であれば特に限定されない。透過率算出部42で補間された直接線透過率Cpを強度推定部44に送り込む。
【0043】
(ステップS3)ファントムのある状態での実測
次に、被検体Mのある状態でX線撮影を行う。図8に示すように、直接線の透過厚さが一定、すなわち各画素での推定直接線強度Pが全て同じ値とみなせるアクリル平板のファントムPhを被検体Mとして用いる。
【0044】
本実施例1の説明に戻って、X線管2とグリッド6との間にアクリル平板のファントムPhを介在させて、X線管2からX線をグリッド6およびFPD3に向けて照射することで、ファントムPhのある状態でX線撮影を行ってファントムPhのある状態の実測を行う。すなわち、X線管2は、ファントムPhのある状態でX線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させることで、ファントムPhのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度Gが得られる。具体的には、ファントムPhのある状態でのX線をFPD3の検出素子d(図3を参照)は電気信号に変換して読み出して、電気信号に応じた画素値に変換する。
【0045】
(ステップS4)強度の推定
その画素値は、ファントムPhのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度Gと同等である。一方、画素特定部41は、上述したように隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)を3つの画素の組み合わせとして特定する。そして、透過率算出部42で求められた直接線透過率Cp,透過率補間部43で補間された直接線透過率Cpと、FPD3から画素値と同等である実測強度Gとに基づいて、画素特定部41で特定された隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)での透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを強度推定部44は推定する。
【0046】
ここで、実測強度GはステップS3で実測によって求められており既知である。直接線透過率CpはステップS1で実測によって得られ、ステップS2で算出・補間されており既知である。一方、透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pは強度推定部44で推定されるべき値であり、この時点では未知である。そこで、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)毎の連立方程式を解くことで、強度推定部44は透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定する。
【0047】
隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)毎に、実測強度GをGn−1,Gn,Gn+1とするとともに、直接線透過率CpをCpn−1,Cpn,Cpn+1とし、透過散乱線強度ScをScn−1,Scn,Scn+1とし、推定直接線強度PをPn−1,Pn,Pn+1とする。各画素の透過散乱線強度Scは、グリッド6(散乱線除去手段)の不均一性などにより隣接する3つの画素間で変化するが、それを考慮して隣接する画素の透過散乱線強度Scの補間演算により求められるものとする。本実施例1では、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)内での透過散乱線強度Scの変化は下記(1)式のように直線近似できるものとする。
【0048】
Scn=(Scn+1+Scn−1)/2 …(1)
また、透過散乱線強度Scの補間方法については、直接線透過率Cpの補間でも述べたのと同様で、例えばラグランジェ補間を用いてもよく、通常において用いられる補間であれば特に上記(1)式に限定されない。
【0049】
実測強度Gは推定直接線強度P・直接線透過率Cpの積と透過散乱線強度Scとの和に等しいとする、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)毎の連立方程式(2)〜(4)式で表される。
【0050】
Gn+1=Pn+1・Cpn+1+Scn+1 …(2)
Gn=Pn・Cpn+Scn …(3)
Gn−1=Pn−1・Cpn−1+Scn−1 …(4)
【0051】
上述したようにファントムPhとして用いられるアクリル平板では直接線の透過厚さが一定となるように形成されているので、推定直接線強度Pは隣接する3つの画素間で等しいとする(5)式で表される。
【0052】
Pn−1=Pn=Pn+1 …(5)
【0053】
このように、画素特定部41で特定された隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)での未知である透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定する際に、既知である直接線透過率Cpの既知の個数および既知である実測強度Gの既知の個数に応じて、画素特定部41は特定されるべき所定の画素の個数を決定する。そして、その決定された所定の画素毎の実測強度G,直接線透過率Cpおよび推定されるべき透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pに関する連立方程式を解くことで、強度推定部44は透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定することになる。
【0054】
上記(1)式は、各画素の透過散乱線強度Scは、隣接する画素の透過散乱線強度Scの補間演算により求められる式であるので、未知の個数を1つ減らすことができる。一方、上記(5)式は、推定直接線強度Pは隣接する3つの画素間で等しいとする式であるので、未知の個数を1つにすることができる。したがって、上記(1)、(5)式以外の連立方程式では、特定される画素の個数分だけ連立方程式を立てればよいので、この場合には任意の個数だけ画素特定部41は特定すれば、連立方程式を解くことができる。本実施例1では、その個数を3つとして、上記(2)〜(4)式である連立方程式を立てている。
【0055】
このような上記(1)〜(5)式から得られる連立方程式を解くことで、推定直接線強度Pn(=Pn+1=Pn−1)、透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1は、下記(6)〜(9)式のように求められる。
【0056】
Pn=(Gn+1+Gn−1−2Gn)/(Cpn+1+Cpn−1−2Cpn) …(6)
Scn+1=Gn+1−Pn+1・Cpn+1 …(7)
Scn=Gn−Pn・Cpn …(8)
Scn−1=Gn−1−Pn−1・Cpn−1 …(9)
上記(6)〜(9)式では、先ず上記(6)式で既知である実測強度Gn−1,Gn,Gn+1と既知である直接線透過率Cpn−1,Cpn,Cpn+1と用いて推定直接線強度Pを求めて、推定直接線強度Pを既知とした後に、その既知となった推定直接線強度Pn(=Pn+1=Pn−1)も用いて上記(7)〜(9)式で透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求めている。
【0057】
このように、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)の組み合わせを1組とすると、各々の組についてそれぞれ1つの推定直接線強度Pnが求まるが、上記(5)式でも述べたように、本来は3つの画素の組み合わせにおいて全ての組で推定直接線強度Pnは同じ値となるべきである。しかし、実際には、グリッド6の周辺部で散乱線の透過率変化の影響により異なっていたり、統計変動誤差により異なっていたりする。このようなグリッド6の設置状態や統計変動誤差による影響を低減させるため実験誤差の少ない中央部の推定直接線強度Pnの平均値を求める。例えば、上述したようなグリッド6の周辺部で少しずつ異なる場合には、上記(6)式を用いて、グリッド6の中央部の3つの画素(n−1),n,(n+1)の組み合わせにおいて複数組の推定直接線強度Pnをそれぞれ求めて、平均値P^を求める。その平均値P^を上記(2)〜(4)式にそれぞれ再代入(すなわち、上記(7)〜(9)式を変形した下記(10)〜(12)式に代入)して、再度、各組の全ての透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求める。
【0058】
Scn+1=Gn+1−P^・Cpn+1 …(10)
Scn=Gn−P^・Cpn …(11)
Scn−1=Gn−1−P^・Cpn−1 …(12)
このように上記(10)〜(12)式で透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求めることで強度推定部44は推定する。強度推定部44で推定された透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を変化率算出部46や表示部5などに送り込む。
【0059】
ここで、上記(1)〜(5)式の連立方程式の解に含まれる分母に注目すると、本実施例1では、上記(6)式から明らかなように“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”である。上記(6)式を上記(7)〜(9)式に代入した場合でも分母は“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”である。分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”の絶対値が所定値以下の場合には、かかる連立方程式を解くことができない恐れがある。
【0060】
特に、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときには、上記(1)〜(5)式の連立方程式を解くことができない。分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のとき、すなわち、各画素の中央画素における直接線透過率Cpnが、隣接する画素の直接線透過率Cpn+1,Cpn−1の相加平均(Cpn+1+Cpn−1−2Cpn=0,すなわちCpn=(Cpn+1+Cpn−1)/2)のときには、そのときの連立方程式の組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)を画素特定部41は選択しても連立方程式を解くことができない。好ましくは、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときには、画素特定部41は、その連立方程式の組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)を選択せずに、別の3つの画素(n´−1),n´,(n´+1)の画素(例えばn,(n+1),(n+2)の画素、あるいは(n−2),(n−1),nの画素など)を組み合わせとして選択して特定する。そして、その特定された別の3つの画素(n´−1),n´,(n´+1)の画素の上記(1)〜(5)式の連立方程式を解く。
【0061】
上記のように特定された画素については、連立方程式を解くことができ、求められた推定直接線強度Pnを用いて前述のような方法で推定直接線強度Pnの平均値を求める。推定直接線強度Pnの平均値P^が求まれば、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)の透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1についても、上記(10)〜(12)式で求めることができる。
【0062】
連立方程式を解くことのついての説明をまとめると、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときの推定直接線強度Pn(=Pn+1=Pn−1)を上記(6)式からそれぞれ求めて、平均値P^を求める。平均値P^を上記(10)〜(12)式に代入して、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求める。分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1についても同様に上記(10)〜(12)式に代入して、透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1をそれぞれ求めることができる。このように、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときに求められる推定直接線強度Pを先に求めて、平均値P^を求めてから、それを使って分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1,および分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1も同様に求める。
【0063】
この方法では、被検体がアクリル平板のファントムPhであり、推定直接線強度Pの変化が既知で、滑らかであることを利用して、最初に画素特定部41で特定された画素(特定画素)について求められた推定直接線強度Pをスムージング・補間計算する、あるいは推定直接線強度Pの平均値を求めて、推定直接線強度P(本実施例1では平均値P^)を求めている。推定直接線強度Pの変化が滑らかであることと、平均化あるいはスムージングは統計変動誤差によるバラツキを低減させる効果もあり、推定直接線強度Pは真値に近い値が得られる。その真値に近い推定直接線強度Pを上記(2)式〜(4)式に代入することで透過散乱線強度Scを直接に求めており、透過散乱強度Scに対しては、平均化またはスムージング・補間計算を行っていないので、透過散乱線強度Scの画像に分解能の劣化が無いという大きな利点がある。また、透過散乱線強度Scの分解能が維持され、グリッド箔の変形などによる透過散乱線強度Scの微細な変化を正確に求めることができる。
【0064】
別の方法として、例えば、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を推定直接線強度Pよりも先に求めて、透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1の補間で、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を求め、それぞれ求められた透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を上記(7)〜(9)式に代入することで、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”でないとき、および分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときの推定直接線強度Pを求めて、分母“Cpn+1+Cpn−1−2Cpn”が“0”のときも含めて、グリッド6の中央部の3つの画素(n−1),n,(n+1)の組み合わせにおける複数組の推定直接線強度Pnの平均値P^を求めてもよい。また、この平均値P^を用いて上記(10)〜(12)式に代入することで、透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を再度求めて、その再度求められた透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1を用いて、後述するステップS5において変化率Rcsを求めてもよい。
【0065】
(ステップS5)変化率の算出・補間
強度推定部44で推定された透過散乱線強度Sc(Scn−1,Scn,Scn+1)を用いて変化率算出部46は変化率Rcsを求める。具体的には、透過散乱線強度Scの基準強度として、全ての画素についてのその値に対する各画素の変化率Rcsを求めるために平均値Sc^またはスムージング・補間計算により求められる各画素の値Sc〜を求める。各画素の透過散乱線強度Scnと平均値Sc^または各画素の値Sc〜との比率を変化率Rcsとして、各画素の変化率RcsをRcsnとすると、下記(13)式で表される。
【0066】
Rcsn=Scn/Sc^
または Rcsn=Scn/Sc〜 …(13)
透過散乱線の変化率を求める時に、分母に置く基準推定散乱強度については、散乱線強度は箔に歪などがなく、設置条件に拠らない理想的なグリッドの場合の散乱線強度に相当する。
【0067】
その方法として、
1)簡便に散乱線強度分布を二次元的に一定と近似して平均値を用いる
2)用いたファントムの形状やグリッドの周辺部など設置条件などによる散乱線強度変化を厳密に考慮して、各画素の推定された散乱線強度を二次元的にスムージング・補間して得られる値を用いる方法があり、1)の平均値はスムージング・補間計算の最も簡略な方法とも言える。
【0068】
このようにして、基準値との比を取ることにより吸収箔6aの変形などがあるために生じるグリッド6の設置状態が考慮された透過散乱線強度Scの変化は、変化率Rcsnで表わされる。変化率Rcsnを変化率算出部46は全ての画素で求める。変化率算出部46で求められた変化率Rcsn−1,Rcsn,Rcsn+1を必要に応じて変化率補間部47で補間した後、強度推定部44に再度送り込む。
【0069】
変化率Rcsも、直接線透過率Cpと同様に、図7中の黒塗りの方形に示すように、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…ごとに変化する。変化率算出部46で求められた変化率Rcsを、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…に前後する距離に対して変化率補間部47は補間する。その補間結果は、例えば図7中の点線に示す通りである。補間の方法については、互いに隣接する離散的な距離(例えばLs+1,Ls+2)に対する2つの変化率Rcsの相加平均(加算平均)あるいは相乗平均によって得られた値を、上述した隣接する離散的な距離の間にある距離に対する変化率Rcsとして求めてもよいし、ラグランジェ補間を用いてもよいし、最小自乗法を用いて図7中の点線の近似式を用いて点線中に乗っていて距離に対応する値を変化率Rcsとして求めてもよいなど、通常において用いられる補間であれば特に限定されない。
【0070】
(ステップS6)平均値マップの生成
この様にして得られた変化率Rcsの各々は、FPD3の検出素子dの各々に対応している。したがって、得られた変化率Rcsを検出素子dを参照してマッピングすれば、FPD3に写りこむ散乱線の縞模様を示す変化率マップM1が生成される。この変化率マップM1の生成は、変化率マップ生成部48によってなされる。そして、生成された変化率マップM1は、変化率マップ記憶部48aにて記憶される。
【0071】
この変化率マップM1の特徴について説明する。グリッド6における吸収箔6aは、FPD3の検出素子dの配列における一方向に沿っている。この方向に沿って変化率Rcsを比較していくと、互いに似通っている。しかし、吸収箔6aの配列方向に沿って変化率Rcsを比較していくと、互いに異なっている。この様な事情を模式的に表すと、図9の如くとなる。
【0072】
変化率マップM1を構成する変化率Rcsについて更に説明する。変化率Rcsには、散乱線の透過具合がFPD3の各部で異なることに起因して、放射線透視画像に表れる模様の成分が含まれている。理想的には、変化率Rcsには模様の成分のみを含んでいればよいのであるが、実際はそうではない。すなわち、変化率Rcsには、検出素子dに入射する直接線の強度に起因したバラツキ(統計ノイズ)が含まれている。
【0073】
変化率マップM1は、平滑化部49に送出される。そこでは、変化率マップM1をスムージングすることにより、上述の統計ノイズの影響は、変化率マップM1から除去される。この変化率に対するスムージングは、上述のステップS5におけるスムージング処理とは、性格を異にしている。具体的には、X線グリッドに沿った方向に並んだ変化率同士を用いて変化率マップM1をスムージングする。図10は、変化率マップM1に属する変化率aをスムージングの目標としている。まず、変化率aを中心として、変化率が一列に並んだ領域Dを認定する。そして、領域Dに属する変化率a,b1,b2,c1,c2を平均した平均値Qaを得る。この操作を変化率マップM1に属する変化率のすべてについて行う。つまり、変化率の各々に対応する平均値Qcsが得られることになる。変化率マップM1における変化率の位置を参照してこの平均値Qcsを配列すれば、新たなマップである平均値マップM2が取得されるわけである。なお、領域Dは、5個の変化率を有しているが、この個数は自由に増減できるものである。平均値マップM2は、平均値マップ記憶部49aにおいて記憶される。
【0074】
なお、スムージングの目標の変化率は、必ずしも領域Dの中心に位置していなくてもよい。すなわち、変化率マップM1の周縁に位置する変化率においては、図10における変化率b1,b2,c1,c2が存在しない場合が考えられる。その場合は、スムージングの目標の変化率を領域Dの中心としないでスムージングを行う構成とすることもできる。
【0075】
この様なスムージングの効果について説明する。図11は、実施例1の構成に係るスムージングの効果について説明する模式図である。図11(a)においては、実施例1の構成である領域Dに属する変化率a,b1,b2,c1,c2を示している。つまり、各変化率は、統計ノイズに由来する成分K1と、散乱線の縞模様に由来する成分K2とを備えている。X線グリッドの吸収箔の延伸方向(X方向)に沿って伸びている変化率における散乱線の縞模様に由来する成分K2は、領域Dに属する変化率の間で互いに類似しているので、平均値Qaにおいて、成分K2は保たれている。一方、成分K1は、領域Dに属する変化率の間でバラツイているので、これは、平均化される。
【0076】
比較のため、吸収箔に直交する方向に並んだ変化率a,b3,b4,c3,c4について同様の操作を行うとどうなるかを示す。この様子は図11(b)に示されている。変化率a,b3,b4,c3,c4の間では、散乱線の縞模様に由来する成分K2が一様とならず、平均値の成分K2と変化率aとを比較すると、互いに異なったものとなってしまっていることがわかる。変化率a,b3,b4,c3,c4の間で平均値を求めてしまうと、平均値Aに含まれる成分K2の値は、変化率aに含まれるそれと異なってきてしまう。散乱線の縞模様は成分K2に含まれているので、スムージングすることでK2の値が変化してしまうと、平均値マップM2において散乱線の縞模様がボケてしまう。実施例1では、この様な構成は採用されない。
【0077】
(ステップS7)実際の被検体のある状態での実測
次に、ステップS3〜S6で用いられた被検体M(ここではファントムPh)とは別の被検体Mのある状態でX線撮影を行う。図1に示すように、実際のX線撮影に用いられる被検体Mを用いる。X線管2とグリッド6との間に実際の被検体Mを介在させて、X線管2からX線をグリッド6およびFPD3に向けて照射することで、実際の被検体Mのある状態でX線撮影を行って実際の被検体Mのある状態の実測を行う。すなわち、X線管2は、実際の被検体M(実際のX線撮影に用いられる被検体M)のある状態でX線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させることで、被検体Mのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度Gが、ステップS3と同様に得られる。具体的には、被検体Mのある状態でのX線をFPD3の検出素子d(図3を参照)は電気信号に変換して読み出して、電気信号に応じた画素値に変換する。
【0078】
(ステップS8)強度の推定・補間
ステップS4でも述べたように、その画素値は、被検体Mのある状態での実測でのグリッド6を透過した後の強度である実測強度Gと同等である。同様に、画素特定部41は、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)を3つの画素の組み合わせとして特定する。そして、平均値マップ記憶部49aが記憶している平均値Qcsと、透過率算出部42で求められた直接線透過率Cp,または透過率補間部43で補間された直接線透過率Cpと、FPD3から画素値と同等である実測強度Gとに基づいて、画素特定部41で特定された隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)での透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを強度推定部44は再度に推定する。
【0079】
ステップS4と同様に、連立方程式を解くことで透過散乱線強度Scや推定直接線強度Pを推定するが、ステップS4と異なる部分は、平均値Qcsというパラメータが考慮されている点と、透過散乱線強度Scに関する式と、推定直接線強度Pに関する式とがそれぞれ異なっている点である。なお、ステップS4と共通する箇所については、その説明を省略する。
【0080】
ステップS8では、透過散乱線強度Scは、グリッド6の吸収箔に変形などのような箔の不均一性がなく設置状態が理想的な場合の透過散乱線強度としている。透過散乱線強度Scがグリッド6の不均一性の為に生じる変化率を除けば、被検体が水柱(例えば水円柱)や人体などであり、放射線がX線やγ線の場合は、その変化が滑らかであることから、隣接する3つの画素間で等しいとする下記(1)´´式で表される。
【0081】
Scn−1=Scn=Scn+1 …(1)´´
【0082】
実測強度Gは推定直接線強度P・直接線透過率Cpの積と透過散乱線強度Sc・平均値Qcsの積との和に等しいとする、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)毎の連立方程式(2)´´〜(4)´´式で表される。
【0083】
Gn+1=Pn+1・Cpn+1+Scn+1・Qcsn+1 …(2)´´
Gn=Pn・Cpn+Scn・Qcsn …(3)´´
Gn−1=Pn−1・Cpn−1+Scn−1・Qcsn−1 …(4)´´
【0084】
各画素の推定直接線強度Pは、ステップS3のアクリル平板のファントムPhの場合と異なり、被検体Mの形状、材質などによる変化があり、その変化は隣接する画素の推定直接線強度Pの補間演算で表わせるものとする。本実施例1では、隣接する3つの画素(n−1),n,(n+1)内での推定直接線強度Pの変化は下記(5)´´式のように直線近似できるものとする。
【0085】
Pn=(Pn+1+Pn−1)/2 …(5)´´
また、推定直接線強度Pの補間方法については、直接線透過率Cpの補間やステップS4の透過散乱線強度Scの補間でも述べたのと同様で、例えばラグランジェ補間を用いてもよく、通常において用いられる補間であれば特に上記(5)´´式に限定されない。
【0086】
このような上記(1)´´〜(5)´´式から得られる連立方程式を解くことで、推定直接線強度Pn−1,Pn,Pn+1,透過散乱線強度Scn(=Scn+1=Scn−1)は、下記(6)´´〜(9)´´式のように求められる。
【0087】
Scn=Gn+1/Qcsn+1−{(Cpn・Qcsn−1−2Cpn−1・Qcsn)
・Gn+1+2Cpn−1・Qcsn+1・Gn−Cpn・Qcsn+1・
Gn−1}/(Cpn+1・Cpn・Qcsn+1・Qcsn−1−2Cpn+1
・Cpn−1・Qcsn+1・Qcsn+Cpn・Cpn−1
・Qcsn+12) …(6)´´
Pn−1={(Cpn・Qcsn−1−2Cpn−1・Qcsn)・Gn+1+2Cpn−1
・Qcsn+1・Gn−Cpn・Qcsn+1・Gn−1}/(Cpn+1・
Cpn・Qcsn−1−2Cpn+1・Cpn−1・Qcsn+Cpn・
Cpn−1・Qcsn+1) …(7)´´
Pn=Gn/Cpn−Qcsn・[Gn+1/Qcsn+1−{(Cpn・Qcsn−1−
2Cpn−1・Qcsn)・Gn+1+2Cpn−1・Qcsn+1・Gn−Cpn・
Qcsn+1・Gn−1}/(Cpn+1・Cpn・Qcsn+1・Qcsn−1−
2Cpn+1・Cpn−1・Qcsn+1・Qcsn+Cpn・Cpn−1・
Qcsn+12)] …(8)´´
Pn+1=Gn+1/Cpn+1−Qcsn−1・[{(Cpn・Qcsn−1−
2Cpn−1・Qcsn)・Gn+1+2Cpn−1・Qcsn+1・Gn−Cpn・
Qcsn+1・Gn−1}/(Cpn+1・Cpn・Qcsn+1・Qcsn−1−
2Cpn+1・Cpn−1・Qcsn+1・Qcsn+Cpn・Cpn−1・
Qcsn+12)] …(9)´´
上記(6)´´〜(9)´´式を用いて求められた推定直接線強度Pn−1,Pn,Pn+1,透過散乱線強度Scn(=Scn+1=Scn−1)は、上記(1)´´〜(5)´´式の連立方程式の解に含まれる分母が“0”でないときに求められる値である。
【0088】
上記(1)´´〜(5)´´式の連立方程式の解に含まれる分母が“0”のときには、上記(1)´´〜(5)´´式の連立方程式を解くことができないので、分母が“0”のときの組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)では、そのときの推定直接線強度Pn−1,Pn,Pn+1あるいは透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1が求められずに推定できないことになる。分母が“0”のときの組み合わせとなる3つの画素(n−1),n,(n+1)場合の推定直接線強度Pn−1,Pn,Pn+1あるいは透過散乱線強度Scn−1,Scn,Scn+1の推定方法には、例えば下記の1)の方法がある。
【0089】
1)の方法は、透過散乱線強度Scを先に求める方法である。グリッド6の吸収箔に変形などなく設置状態が理想的な場合の透過散乱線強度Scとしているので、先ず、分母が“0”でないときに得られた複数の透過散乱線強度Scnを用いて、分母が“0”のため未だ得られていない画素を含め、適切なスムージング・補間計算により全ての画素に対する透過散乱線強度Scn〜を求める。上記(1)´´式でも述べたように、被検体が水柱(例えば水円柱)や人体などであり、放射線がX線やγ線の場合は、変化は滑らかであることと、スムージングは統計変動誤差によるバラツキを低減させる効果もあり、透過散乱線強度Scnの真値に近い値Scn〜が得られる。このようにして求められた透過散乱線強度Scn〜を、全ての画素について上記(3)式のScnに代入し、推定直接線強度Pnを直接に求める。この方法では、上述のように、推定直接線強度Pに対して、分母が“0”でない画素の値からのスムージング・補間計算をしないので、推定直接線強度Pの画像に分解能の劣化が無いという大きな利点がある。
【0090】
このように、ステップS4と同様に、上記のように、透過散乱線強度Scnを先に求めてもよいし、推定直接線強度Pnを先に求めてもよい。
【0091】
このように、ステップS1〜S8を経て、ステップS8で求められた推定直接線強度Pnを画素値として用いることで、散乱線やグリッド6による偽像を低減させたX線画像が適切に得られる。かかるX線画像を、上述した表示部5に表示出力してもよいし、RAM(Random−Access Memory)などに代表される記憶媒体に書き込んで記憶して、適宜必要に応じて読み出してもよいし、プリンタなどに代表される印刷手段に印刷出力してもよい。また、ステップS7の1)の方法で推定直接線強度Pnよりも先に透過散乱線強度Scnを求めた場合には、後で推定直接線強度Pnを求めてからX線画像として表示部5や記憶媒体や印刷手段などに出力すればよい。
【0092】
また、X線管2の焦点からFPD3までの検出面までの距離SIDごとに、ステップS2で直接線透過率Cpを求めているので、ステップS3〜S8で求められるパラメータは、距離SIDごとに適切に得られる値である。さて、距離SIDが変化しても被検体MとFPD3との距離が変化しなければ、直接線透過率Cpと異なり散乱線分布の変化は少なく、の平均値マップの平均値Qcsnの変化は殆ど無視できる。その場合には、あるSIDで平均値Qcsnを求めておけば、異なる距離SIDに対してもその値を使用できるので、ステップS3〜S5を省略することができる。そして、ステップ6以降の実際の被検体Mのある状態での実測以降を行えばよい。さらに、距離SIDの変化に対する平均値Qcsnの変化が無視できない場合には、離散的な距離Ls+1,Ls+2,Ls+3,…ごとに、平均値Qcsnを求めておき、実際の距離SIDに対してはそれらの補間計算により求めれば、やはりステップS3〜S5を省略することができる。そして、ステップ6以降の実際の被検体Mのある状態での実測以降を行えばよい。したがって、実際のX線撮影において、距離SIDが図6に示すように変化しても、その距離SIDごとに考慮された直接線透過率Cpと透過散乱線強度Scの平均値Qcsを用いることで、循環器撮影装置などのように、X線管2,グリッド6およびFPD3の距離をその都度変更して撮影する場合においても適用することができる。
【0093】
本実施例1に係るX線撮影装置によれば、X線管2からX線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させる。一部の散乱X線(散乱線)がグリッド6によって除去されて、FPD3はX線を検出してX線画像を得る。このとき、X線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を画素特定部41は特定する。その画素特定部41で特定された所定の画素での散乱X線強度(散乱線強度)、所定の画素での直接X線強度(直接線強度)の少なくとも1つの強度を強度推定部44は推定する。したがって、グリッド6の設置状態が考慮された所定の画素での散乱X線強度、直接X線強度の少なくとも1つの強度を適切に推定することができる。
【0094】
以上のように、実施例1に記載の発明によれば、X線管2から放射線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させる。一部の散乱線がグリッド6によって除去されて、FPD3は放射線を検出して放射線画像を得る。このとき、放射線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を画素特定部41は特定する。その画素特定部41で特定された所定の画素での散乱線強度、所定の画素での直接放射線強度の少なくとも1つの放射線強度を強度推定手部44は推定する。したがって、グリッド6の設置状態が考慮された所定の画素での散乱線強度、直接放射線強度の少なくとも1つの放射線強度を適切に推定することができる。したがって、特定された画素については強度推定手部44によって放射線強度が推定され、特定されなかった画素については強度補間手段によって放射線強度が補間される。そして、このような放射線強度に基づいて放射線画像が適切に得られ、グリッド6の陰影が消え、散乱線が完全に除去された直接放射線だけの放射線画像が得られる。かかる画素特定部41,強度推定手部44によって得られる放射線画像では、いずれのグリッド6においても適切に得られる。その結果、汎用のグリッド6にも適用することができ、グリッド6の設置状態に依存せずに、適切な放射線画像を得ることができる。また、全ての画素について放射線強度を推定する必要はなく、特定された所定の画素での放射線強度のみを推定して、残りの特定されなかった画素での放射線強度については補間を行って求めればよいので、演算処理を軽減化、短時間化することができるという効果をも奏する。
【0095】
そして、実施例1の構成によれば、変化率マップM1を生成する変化率マップM1生成部を備えている。この変化率マップM1は、放射線透視画像に表れる模様(散乱線の縞模様)を示しているものであり、これを用いて放射線透視画像に補正を加えれば、散乱線の縞模様が除去される。そして、この変化率マップM1にスムージングを行って平均値マップM2を生成する平滑化部49を備えている。したがって、変化率マップM1には、散乱線の縞模様の他に、統計ノイズが重畳している。しかし、変化率マップM1は、スムージングされ、平均値マップM2となる。平均値マップM2からは、統計ノイズが平均化されてボカされる。統計ノイズが放射線透視画像において粒状の粗いノイズとして写りこもうとしても、平均値マップM2においては、その粒状性は、ボカされており、結局、放射線透視画像に変化率マップM1の有する統計ノイズが重畳することがない。
【0096】
また、スムージングは、グリッド6の吸収箔6aの延伸方向に沿って並んだ変化率Rcsの配列についてなされる。散乱線の縞模様はスムージングでボケないことが望ましい。散乱線の縞模様は、グリッド6の吸収箔6aの延伸方向に沿って伸びている(言いかえれば、散乱線の縞模様は、グリッド6の吸収箔6aの配列方向に沿って配列されいる)。スムージングは、グリッド6の吸収箔6aの延伸方向に沿って行われるので、変化率Rcsに含まれる統計ノイズ成分についてはスムージングし、散乱線の縞模様の成分についてはスムージングを施さない構成とすることができる。これにより、変化率マップM1に現れた散乱線の縞模様はスムージングでボケてしまうことがなく、放射線透視画像に表れる模様を除去することができる。
【0097】
また、X線管2は、別の被検体(ここでは実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態で放射線を照射して、グリッド6を介してFPD3に入射させることで、被検体のある状態での実測でのグリッド6を透過した後の放射線強度である実測強度が得られる。平均値マップ記憶部49aが記憶している平均値Qcsと、透過率算出部42で求められた直接線透過率、そして、別の被検体(実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態での実測での上述した実測強度とに基づいて、強度推定手部44は、画素特定部41で特定された所定の画素での放射線強度を推定する。このように、被検体のない状態での実測データに基づいて直接線透過率が求められ、その直接線透過率を用いて、被検体(ここではファントム)のある状態で放射線撮影を行って変化率Rcsが求められ、その変化率Rcs,または変化率Rcs補間手段により補間された変化率Rcsを用いて、別の被検体(ここでは実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態で放射線撮影を行って、その被検体(実際の放射線撮影に用いられる被検体)のある状態での実測強度に基づいて放射線強度を推定することができる。
【0098】
本発明は、上述の実施例の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0099】
(1)上述した実施例では、放射線としてX線を例に採って説明したが、X線以外の放射線(例えばγ線など)に適用してもよい。
【0100】
(2)上述した実施例では、放射線撮像装置は、医用等に用いられる、図1に示すような天板1に被検体を載置して撮影を行う構造であったが、これに限定されない。例えば、工業用等に用いられる非破壊検査装置のように被検体(この場合には検査の対象物が被検体)をベルト上に運搬させて撮影を行う構造であってもよいし、医用等に用いられるX線CT装置などのような構造であってもよい。
【0101】
(3)上述した構成の変化率マップ生成部48は、領域Dに含まれる変化率Rcsを平均して平均値Aを求めたが、本発明はこの構成に限らない。スムージングの目標である変化率の距離に応じて、領域Dに属する変化率に重み付けを行って平均値Aを求める構成としてもよい。つまり、図12に示すように、スムージングの目標である変化率aについて平均値Aを求める際に、変化率e1のように変化率aから離れた変化率よりも変化率b1のように変化率aにより隣接した変化率の方を平均値Aに影響させる構成とするのである。例えば、
A={1×(e1+e2)+2×(d1+d2)+3×(c1+c2)4×(b1+b2)5×a}/(1+1+2+2+3+3+4+4+5) …(10)
の式にしたがって、変化率の各々を用いて平均値Aを導出してもよい。この様な構成とすることで、より変化率マップM1が保持する散乱線の縞模様を確実にボカさない構成とすることができる。
【0102】
(4)上述した実施例では、ステップS5において、透過散乱線の変化率を被検体のある状態での実測に基づいて推定された透過散乱線強度Scを用いて、その透過散乱線強度Scに関する全ての画素についての平均値に対する各画素の変化率を求める方法について述べた。しかし、透過散乱線の変化率を求める方法としては、被検体のない状態での実測により、変化率Rcsを求める方法として、グリッドに対し、放射線照射源を二次元的にスキャンして散乱線と同等の広い方向からの直接線が散乱放射線除去手段に入射するようにして模擬的な散乱線源(直接線のない)とし、その積算値から、全画素の平均値との比を求めて変化率Rcsを求める方法があり、いずれの方法を用いてもよい。
【0103】
(5)上述した実施例では、画素特定手段(実施例では画素特定部41)が特定されるべき所定の画素の個数を3つとしたが、3つに限定されない。連立方程式に応じて個数を決定すればよい。
【0104】
(6)上述した実施例では、連立方程式の解に含まれる分母の絶対値が所定値以下の場合には、画素特定手段(実施例では画素特定部41)は、その連立方程式の組み合わせとなる所定の画素を選択しなかったが、その所定値については上述した“0”に限定されない。上述した実施例で連立方程式の解に含まれる分母は、(ステップS2)直接線透過率Cpの算出・補間での推定直接線強度Pnに含まれる分母と、(ステップS7)強度の推定・補間での被検体の透過散乱線強度Scに含まれる分母とがあり、比較的簡単な、(ステップS2)直接線透過率Cpの算出・補間での推定直接線強度Pnに含まれる分母(Cpn+1+Cpn−1−2Cpn)の場合について説明する。
【0105】
例えばグリッド箔による遮蔽画素をn,遮蔽画素でない画素をn+1,n−1とすると、箔に歪などの無い場合は、その時のそれぞれの直接線透過率Cpの値は予め計算できる。例えば、画素の幅が150μm,グリッド箔の厚みが30μm,中間物質がエアーの場合は、グリッドカバーの吸収を無視すると、Cpn+1=1, Cpn−1=1, Cpn=0.7となる。したがって、この時の分母は、Cpn+1+Cpn−1−2Cpn=1+1−2x0.7=0.6となる。
【0106】
一方、Pnの分子は(Gn+1+Gn−1−2Gn)であるが、その統計変動誤差はGn+1,Gn−1,Gnの統計変動誤差から予測でき、最終的に得られるPnの統計変動誤差は分母の値で割った値となる。上記の例では、理想的な箔の設置状態で0.6であり、箔に歪などがあればその値が小さくなる場合があり、分子の統計変動誤差をその値で割った場合に、統計変動誤差が大きくなり、後で求めるPnの平均値に大きな誤差を与えることになる。したがって、例えば、その許容値を理想的な場合の3倍とすると、分母の所定値が0.2となり、信頼性の高いPnの値だけを求めることができる。このようにして、所定値を決め、画素を特定することができる。
【0107】
(ステップS8)の場合も同様に、正常な場合の分母の値と比較して、所定値を、最終的に得られるSnの統計変動誤差の許容値から決定することができる。上記はいずれも、求めたい値の統計変動誤差の許容値を基準に所定値を決めたが、別の基準値から所定値を決めてもよい。
【0108】
(7)上述した実施例では、透過散乱線強度および推定直接線強度を推定したが、いずれか一方の強度のみを推定してもよい。
【0109】
(8)上述したように、本明細書では「画素」とは、束ね処理(ビニング処理)されていない1画素はもちろんのこと、複数の画素を束ねて(ビニング)1画素扱いする画素も含む。したがって、画素を特定する場合や、特定された特定画素を用いる場合には、ビニングされた画素に適用してもよいし、ビニングされていない画素に適用してもよい。
【0110】
(9)上述した実施例においては、物理量取得手段に相当する構成として、変化率算出手段が備えられていた。また、物理量マップ生成手段に相当する構成として、変化率マップ生成手段が備えられていた。そして、物理量マップ平滑化手段に相当する構成として、変化率マップ平滑化手段が備えられていた。そして、変化率Rcsを配列して変化率マップM1を生成し、これを平滑化することで平均値マップM2を生成していた。しかし、本発明はこの様な構成に限らない。変化率Rcsに代わって、直接線透過率Cp,透過散乱線強度Sc,または、推定直接線強度Pを配列してこれらに関する平均値マップを生成してもよい。この様にすることで、画像処理部4は、直接線透過率Cp,透過散乱線強度Sc,または、推定直接線強度Pに重畳している統計ノイズを除去した上で画像処理が可能となるので散乱線の縞模様と統計ノイズとがともに除去された画像を取得することができる。
【0111】
(10)上述した実施例において、グリッド6は、単一方向に吸収箔6aが配列された構成となっていたが、これに代えて、クロスグリッドとすることができる。クロスグリッドは、細長状の吸収箔が縦横に配列された格子状となっている。この場合、平滑化部49は、変化率マップM1を縦横(X方向、Y方向)のいずれかの方向を選択し、選択された方向に直列して並んだ変化率Rcsの平均値を求めることになる。なお、縦方向の平均値の算出と、横方向の平均値の算出を組み合わせて平均値マップM2を生成する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】実施例1に係るX線撮像装置のブロック図である。
【図2】フラットパネル型X線検出器(FPD)の検出面の模式図である。
【図3】グリッドの概略図である。
【図4】実施例1に係る具体的な画像処理部の構成およびデータの流れを示したブロック図である。
【図5】実施例1に係る一連のX線撮像の流れを示すフローチャートである。
【図6】被検体のない状態でのX線撮像を模式的に示した図である。
【図7】SIDと直接線透過率および変化率との関係を模式的に示したグラフである。
【図8】アクリル平板のファントムを被検体として用いる場合の実施例1に係る被検体のある状態でのX線撮像を模式的に示した図である。
【図9】実施例1に係る変化率マップを説明する模式図である。
【図10】実施例1に係るスムージングを説明する模式図である。
【図11】図11は、実施例1の構成に係るスムージングの効果について説明する模式図である。
【図12】本発明の1変形例に係る模式図である。
【符号の説明】
【0113】
2 … X線管
3 … フラットパネル型X線検出器(FPD)
d … 検出素子
6 … グリッド
6a … 吸収箔
41 … 画素特定部
42 … 透過率算出部
43 … 透過率補間部
44 … 強度推定部
46 … 変化率算出部
47 … 変化率補間部
48 … 変化率マップ生成部(変化率マップ生成手段)
49 … 平滑化部(変化率マップ平滑化手段)
Kgy … 吸収箔間の間隔
Kfx,Kfy … 画素間の間隔
(n−1),n,(n+1) … 画素
G,Gn−1,Gn,Gn+1 … 実測強度
Cp,Cpn−1,Cpn,Cpn+1 … 直接線透過率
Sc,Scn−1,Scn,Scn+1 … 透過散乱線強度
P,Pn−1,Pn,Pn+1 … 推定直接線強度
P(n−1),P(n),P(n+1) … 推定直接線分布
an … 変換係数
Qcs … 平均値
Rcs,Rcsn−1,Rcsn,Rcsn+1 … 変化率
M … 被検体
M1 …変化率マップ
M2 …平均値マップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線画像を得る放射線撮影装置であって、放射線を照射する放射線源と、放射線を検出する複数の検出素子が行方向、および列方向に二次元的に配列されて構成された放射線検出手段と、前記行方向に伸びた吸収箔が前記列方向に配列されているとともに散乱線を除去する放射線グリッドとを備え、2次元的に配列された画素の画素値を求めるための所定の物理量を求める物理量取得手段と、
前記所定の物理量をマッピングして物理量マップを生成する物理量マップ生成手段と、
前記物理量マップにおける前記吸収箔の延伸方向に沿って並んだ物理量の配列についてスムージングを行って平均値マップを生成する物理量マップ平滑化手段とを備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮影装置において、
前記放射線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を特定する画素特定手段と、
その画素特定手段で特定された前記所定の画素での散乱線強度、前記所定の画素での直接放射線強度の少なくとも1つの放射線強度を推定する強度推定手段とを更に備え、
(A)前記物理量取得手段に相当する構成として、前記被検体のある状態での実測に基づいて前記強度推定手段で推定された前記放射線強度を用いて、その放射線強度に関する全ての画素についての基準強度として、平均値またはスムージング・補間計算により求められる各画素の値を求め、その値に対する各画素の変化率を求める変化率算出手段が備えられ、
(B)前記前記物理量マップ生成手段に相当する構成として前記各画素の変化率をマッピングして変化率マップを生成する変化率マップ生成手段が備えられ、
(C)前記物理量マップ平滑化手段に相当する構成として、前記変化率マップにおける前記吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてスムージングを行って平均値マップを生成する変化率マップ平滑化手段が備えられることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線撮影装置において、前記平均値マップと、前記透過率算出手段で求められた直接線透過率と、前記別の被検体のある状態での実測での前記散乱放射線除去手段を透過した後の放射線強度である実測強度とに基づいて、前記強度推定手段は、前記画素特定手段で特定された前記所定の画素での放射線強度を推定することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項1】
放射線画像を得る放射線撮影装置であって、放射線を照射する放射線源と、放射線を検出する複数の検出素子が行方向、および列方向に二次元的に配列されて構成された放射線検出手段と、前記行方向に伸びた吸収箔が前記列方向に配列されているとともに散乱線を除去する放射線グリッドとを備え、2次元的に配列された画素の画素値を求めるための所定の物理量を求める物理量取得手段と、
前記所定の物理量をマッピングして物理量マップを生成する物理量マップ生成手段と、
前記物理量マップにおける前記吸収箔の延伸方向に沿って並んだ物理量の配列についてスムージングを行って平均値マップを生成する物理量マップ平滑化手段とを備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮影装置において、
前記放射線画像を構成する各々の画素のうち、所定の画素を特定する画素特定手段と、
その画素特定手段で特定された前記所定の画素での散乱線強度、前記所定の画素での直接放射線強度の少なくとも1つの放射線強度を推定する強度推定手段とを更に備え、
(A)前記物理量取得手段に相当する構成として、前記被検体のある状態での実測に基づいて前記強度推定手段で推定された前記放射線強度を用いて、その放射線強度に関する全ての画素についての基準強度として、平均値またはスムージング・補間計算により求められる各画素の値を求め、その値に対する各画素の変化率を求める変化率算出手段が備えられ、
(B)前記前記物理量マップ生成手段に相当する構成として前記各画素の変化率をマッピングして変化率マップを生成する変化率マップ生成手段が備えられ、
(C)前記物理量マップ平滑化手段に相当する構成として、前記変化率マップにおける前記吸収箔の延伸方向に沿って並んだ変化率の配列についてスムージングを行って平均値マップを生成する変化率マップ平滑化手段が備えられることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線撮影装置において、前記平均値マップと、前記透過率算出手段で求められた直接線透過率と、前記別の被検体のある状態での実測での前記散乱放射線除去手段を透過した後の放射線強度である実測強度とに基づいて、前記強度推定手段は、前記画素特定手段で特定された前記所定の画素での放射線強度を推定することを特徴とする放射線撮影装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−253167(P2010−253167A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109229(P2009−109229)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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