説明

放射線治療装置

【課題】患部の変動に追従して照射範囲を制御することができる具体的構成を実現し、これによって照射精度を高めることができる放射線治療装置を提供する。
【解決手段】患者3の患部3aに例えばイオンビームを照射する粒子線治療装置1において、ビーム発生装置4と、患者コリメータ23、患者ボーラス24、これら患者コリメータ23及び患者ボーラス24を移動させる駆動装置26を有し、ビーム発生装置4からのイオンビームを患部3a形状に形成して照射する照射野形成装置6と、患部3aの変動を検出する患部検出装置7と、この患部検出装置7の検出結果に応じて照射野形成装置6の駆動装置26を駆動制御する制御システム8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の患部に放射線を照射して治療を施す放射線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の患部に放射線(例えば陽子線や重粒子線等のイオンビームまたはX線等)を照射して治療を施す放射線治療装置が知られている。例えばイオンビームを照射する粒子線治療装置は、ビーム発生装置と、このビーム発生装置で発生したイオンビームを輸送するビーム輸送系と、このビーム輸送系に接続された照射野形成装置とを備えている。ビーム発生装置は、シンクロトロン等の加速器でイオンビームを加速して設定エネルギー(例えば250MeV)まで高めた後、ビーム輸送系に出射する。照射野形成装置は、回転ガントリーによって照射方向が決められ、ビーム輸送系からのイオンビームを患部形状に形成して照射する。
【0003】
粒子線治療の計画段階においては、患者の患部を例えばX線CT装置等の画像診断装置によって得られるCT画像から計測し、これに基づいてイオンビームの照射条件(照射方向、照射範囲、及び照射時間等)を計画する。このとき重要なのは、患者の正常組織への照射を極力抑えつつ、患部組織に大きな線量を集中させることである。ところが、患者の呼吸運動等の体動によって、患部の位置や形状が変化することがしばしある。
【0004】
そこで、放射線治療の高精度化を目的として、患者の呼吸運動等の体動によって生じる患部の回転や位置変化を検出する検出装置が提唱されている(例えば、特許文献1参照)。この検出装置は、体内の患部に例えば3つの角速度検出器を設け、これら角速度検出器からの検出信号を受信する受信器を体外に設け、この受信器で受信した検出信号に基づいて患部の回転変位(回転角度)を演算する。また、体内の患部に例えば1つの送信器を設け、この送信器からの波動信号を受信して送信する例えば4つの送受信器を体表面に設け、これら送受信器からの波動信号をそれぞれ受信する例えば4つの受信器を体外に設け、これら受信器で受信した波動信号に基づいて患部に設けた送信器の位置変化を演算する。そして、演算した送信器の位置変化から患部の回転変位を差し引き、患部の平行移動による変位を演算する。このようにして得られた患部の回転や位置変化等に基づいて放射線の照射条件を決定し、これに基づいて加速器のエネルギー、照射範囲の大きさ、回転ガントリーの位置・方向、及び治療ベットの位置・方向を制御する。
【0005】
【特許文献1】特許第3304441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には以下のような課題が存在する。
すなわち、上記特許文献1記載の従来技術においては、患部に角速度検出器や送信器等を設けて患部の変動(時間的な位置変化)を検出する検出装置が開示されているものの、この検出装置の検出結果に対応して放射線の照射範囲を制御する具体的な構成が明示されていない。
【0007】
本発明は、上記の事柄に基づいてなされたものであり、その目的は、患部の変動に追従して放射線の照射範囲を制御することができる具体的構成を実現し、これによって照射精度を高めることができる放射線治療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、患者の患部に放射線を照射する放射線治療装置において、放射線発生装置と、コリメータ及びこのコリメータを移動させる駆動装置を有し、前記放射線発生装置からの放射線を患部形状に形成して照射する照射野形成装置と、患部の変動を検出する患部検出手段と、前記患部検出手段の検出結果に応じて前記照射野形成装置の駆動装置を駆動制御する制御手段とを備える。
【0009】
本発明においては、患者の呼吸運動等の体動による患部の変動を患部検出手段で検出する。そして、この患部検出手段の検出結果に応じて、制御手段は、照射野形成装置の駆動装置を駆動制御してコリメータを移動させる。詳細には、例えば患部が横方向に平行移動した場合は、放射線の進行方向に対し垂直な方向にコリメータを移動させ、放射線の照射範囲を平行移動させる。また、例えば患部が回転移動した場合は、放射線の進行方向を回転軸としてコリメータを回転させ、放射線の照射範囲を回転移動させる。これにより、変動する患部と放射線の照射範囲を一致させることが可能である。このように本発明においては、患部の変動に追従して放射線の照射範囲を制御することができる具体的構成を実現し、これによって照射精度を高めることができる。
【0010】
(2)上記目的を達成するために、また本発明は、患者の患部に放射線を照射する放射線治療装置において、放射線発生装置と、コリメータ、ボーラス、これらコリメータ及びボーラスを移動させる駆動装置を有し、前記放射線発生装置からの放射線を患部形状に形成して照射する照射野形成装置と、患部の変動を検出する患部検出手段と、前記患部検出手段の検出結果に応じて前記照射野形成装置の駆動装置を駆動制御する制御手段とを備える。
【0011】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記照射野形成装置の駆動装置は、前記コリメータ及びボーラスを一体として移動させる駆動機構を有する。
【0012】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかにおいて、好ましくは、記照射野形成装置の駆動装置は、前記コリメータ又は/及びボーラスを、放射線の進行方向に対し垂直な方向に移動させる平行駆動機構を有する。
【0013】
(5)上記(1)〜(3)のいずれかにおいて、また好ましくは、前記照射野形成装置の駆動装置は、前記コリメータ又は/及びボーラスを、放射線の進行方向を軸心として回転させる回転駆動機構を有する。
【0014】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかにおいて、好ましくは、前記患部検出手段で検出した患部の変動が所定の設定範囲から外れたときに、放射線の照射を停止する照射停止手段をさらに備える。
【0015】
例えば患部の変動が大きすぎる場合、これに対応してコリメータ又はボーラスを移動させて放射線の照射範囲を制御しても、照射精度が低くなることがある。そこで本発明では、患部検出手段で検出した患部の変動が所定の設定範囲から外れたときに、照射停止手段で放射線の照射を停止する。これにより、放射線の照射精度をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、患部の変動に追従して放射線の照射範囲を制御することができる具体的構成を実現し、これによって照射精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の放射線治療装置の好適な一実施形態である粒子線治療装置を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態による粒子線治療装置の全体構成を表す概略図であり、図2は、本実施形態による粒子線治療装置に備えられる照射野形成装置の詳細構造を関連装置とともに表す概略図である。
【0018】
これら図1及び図2において、粒子線治療装置1は、治療ベット2に固定された患者3の患部3aにイオンビーム(例えば陽子線)を照射するものであり、ビーム発生装置4(放射線発生装置)と、このビーム発生装置4で発生したイオンビームを輸送するビーム輸送系5と、このビーム輸送系5に接続され、イオンビームを患部3a形状に形成して照射する照射野形成装置6と、患者3の呼吸運動等の体動による患部3aの変動を検出する患部検出装置7と、この患部検出装置7の検出結果に応じてビーム照射を制御する制御システム8とを備えている。
【0019】
ビーム発生装置4は、イオン源9と、このイオン源9からのイオンを加速する前段加速器(例えば直線加速器)10と、この前段加速器10から入射されたイオンビームをさらに加速するシンクロトロン11とを有する。シンクロトロン11のビーム周回軌道上には、高周波加速空洞12及び高周波印加装置13が設置されている。加速空洞12には、高周波電力を供給する第1高周波電源(図示せず)が接続され、高周波印加装置13には、開閉スイッチ14(照射停止手段)を介し第2高周波電源15が接続されている。
【0020】
そして、前段加速器10からシンクロトロン11に入射されたイオンビームは、高周波加速空洞12内で発生する高周波電磁場によって加速され、設定エネルギー(例えば250MeV程度)まで高められる。そして、開閉スイッチ14が閉じ状態となって第2高周波電源15からの高周波電力が高周波印加装置13に供給されると、安定限界内で周回しているイオンビームに高周波印加装置13から高周波電場が印加される。これにより、イオンビームが安定限界外に移行し、出射用デフレクタ16からビーム輸送系5に出射されるようになっている。
【0021】
ビーム輸送系5の一部である逆U字状のビーム輸送装置17及びこれに接続された照射野形成装置6は、回転ガントリー18に設置されており、この回転ガントリー18によって患者3の周囲を回転するようになっている。これにより、患者3の患部3aに対し複数の方向から照射可能としている。
【0022】
照射野形成装置6は、回転ガントリー18に取り付けられたケーシング19を有し、ケーシング19内にはビーム進行方向(図2中下方向)の上流側より順次、第1散乱体20、第2散乱体21、リッジフィルタ22、患者コリメー23、及び患者ボーラス24が配置されている。第1散乱体20、第2散乱体21、及びリッジフィルタ22は、イオンビームの照射範囲(言い換えれば、線量分布)を径方向及び進行方向に拡大するためのものであり、患者コリメータ23及び患者ボーラス24は、イオンビームの照射範囲を患部3a形状に整形するためのものである。なお、本実施形態では、患者コリメータ23を患者ボーラス24の上流側に配置しているが、下流側に配置してもよい。
【0023】
第1散乱体20及び第2散乱体21は、イオンビームの照射範囲を径方向(言い換えれば、ビーム進行方向に対し垂直な方向)に拡大するものである。第1散乱体20は、イオンビームのエネルギー損失量に対しビーム散乱量が大きな材料(原子番号の大きな物質、例えば鉛等)からなる板部材で構成されており、イオンビームの径方向の線量分布を正規分布状に拡大するようになっている。なお、第1散乱体20は、例えば複数種類の材料で構成されてもよく、また例えば複数の板部材をビーム進行方向に重ね合わせてもよい。
【0024】
第2散乱体21は、例えば2重リング構造であり、イオンビームのエネルギー損失量に対しビーム散乱角が大きな物質(原子番号の大きな物質、例えば沿等)からなる円盤部21aと、この円盤部21aの外周側に設けられ、イオンビームのエネルギー損失量に対しビーム散乱角が小さな物質(原子番号の小さば物質、例えば樹脂等)からなるリング部21aとで構成されている。また、イオンビームのエネルギー損失量が等しくなるように、円盤部21aの厚み寸法が比較的短く、リング部21bの厚み寸法が比較的長くなっている。これにより、第1散乱体20によって正規分布状に拡大していたイオンビームの径方向の線量分布を、一様に拡大するようになっている。なお、第2散乱体21は、2重リング構造に代えて、例えば径方向に向かって段階的に材料の割合を変える構造としてもよく、また例えば径方向に向かって厚み寸法を滑らかに変化する構造等としてもよい。
【0025】
リッジフィルタ22は、イオンビームのエネルギー分布幅を広げて、患部3aの深さ方向(図2中上下方向)の線量分布を一様に拡大する、いわゆる拡大ブラッグピーク形成装置である。このリッジフィルタ22は、複数の楔型構造を有し、ビーム入射位置に応じてイオンビームが透過する厚み寸法が異なっている。これにより、ビーム入射位置に応じてエネルギー損失量が異なるため、複数のエネルギー成分を持つイオンビームが形成される。その結果、患部3aに照射されると異なる深さのブラッグピークが複数形成され、全体として患部3aの深さ方向に一様な線量分布を形成するようになっている。なお、本実施形態では、拡大ブラッグピーク形成装置として、リッジフィルタ22を用いたが、これに代えて、例えば周方向に厚み寸法が段階的に変化するレンジモジュレーションホイール等を用いてもよい。
【0026】
患者コリメータ23は、イオンビームを遮蔽する遮蔽体で構成され、この遮蔽体には患部3aの横方向(言い換えれば、ビーム進行方向に対し垂直な方向)形状に対応する貫通穴が形成されている。これにより、イオンビームの照射範囲を患部3aの横方向形状に合わせて整形するようになっている。
【0027】
患者ボーラス24は、例えば樹脂製のブロック体が掘削加工されたものであり、ビーム入射位置に応じて厚み寸法が変化している。これにより、ビーム入射位置毎にビーム飛程が調整され、イオンビームの到達深度を患部3aの深さ形状に合わせるようになっている。
【0028】
ここで本実施形態の大きな特徴として、患者コリメータ23及び患者ボーラス24は、ビーム進行方向に近接するように配置され例えば円筒状の支持体25に固定されている。そして、この支持体25を、すなわち患者コリメータ23及び患者ボーラス24を一体として移動させる駆動装置26が設けられている。
【0029】
本実施形態の駆動装置26は、ビーム進行方向に対し垂直な第1の方向(図2中左右方向)に支持体25を移動させる第1の平行駆動機構27と、ビーム進行方向に対し垂直かつ前記第1の方向に直交する第2の方向(図2中紙面に対し垂直方向)に支持体25を移動させる第2の平行駆動機構(図示せず)と、ビーム進行方向を回転軸として支持体25を回転させる回転駆動機構28とを有する。
【0030】
第1の平行駆動機構27は、上記第1の方向に延在され軸心廻りに回転可能に設けられたボールネジ29と、このボールネジ29の一方側(図2中右側)端部に固着されたギヤ30と、このギヤ30に噛み合うギヤ31aを備えたモータ31と、ボールネジ29が貫通し螺合されたスライド32とで構成されている。スライド32の下側には、円環状のレール部材33を介し支持体25がビーム進行方向を回転軸として回動可能に設けられている。そして、モータ31の回転動力がギヤ31a,32を介し伝達されてボールネジ29が一方側又は反対側に回転すると、スライド32及び支持体25がボールネジ29の軸方向一方側(図2中左側)又は他方側(図2中右側)に移動するようになっている。
【0031】
第2の平行駆動機構は、詳細を図示しないが、例えば第1の平行駆動機構27と同様、上記第2の方向(言い換えれば、ボールネジ29の軸方向に直交する方向)に延在され軸心廻りに回転可能に設けられたボールネジと、このボールネジをギヤを介し回転させるモータと、前記ボールネジに螺合されたスライダ等で構成されている。そして、例えば第1の平行駆動機構27全体(詳細には、ボールネジ29及びモータ31)を、ビーム進行方向に対し垂直な第2の方向に移動させるようになっている。
【0032】
回転駆動機構28は、支持体25の外周側に設けられたギヤ34と、上記第1の平行駆動機構27のスライド32に固定され、ギヤ34に噛み合うギヤ35aを備えたモータ35とで構成されている。そして、モータ35の回転動力がギヤ35a,34を介し伝達されて、支持体25がビーム進行方向を回転軸として一方側又は反対側に回転するようになっている。
【0033】
患部検出装置7は、例えば2方向から患者3の患部3aに向けてX線をそれぞれ照射するX線発生装置36A,36Bと、患部3aに照射されたX線をそれぞれ受信し、患部3a周辺のX線透視画像をそれぞれ取得するX線受信機37A,37Bとで構成されている。X線受信機37A,37Bで取得したX線透視画像は、制御システム8に送信される。
【0034】
制御システム8は、照射制御装置38、平行駆動制御装置39、及び回転駆動制御装置40を有する。なお、照射制御装置38、平行駆動制御装置39、及び回転駆動制御装置40を個々に設けず、それらの各機能を制御システム8が発揮するように構成してもよい。
【0035】
照射制御装置38にはメモリ41が設けられており、このメモリ41には、例えば患者3の身体情報やイオンビームの照射条件(詳細には、照射方向、照射範囲、及び照射時間等)等が予め記憶されている。照射制御装置38は、メモリ41に記憶された情報等を用いて、患部検出装置7から受信したX線透視画像を解析する。詳細には、例えば患者3の患部3a又はその近傍には予め目印となるもの(例えば金属球等)が埋設されており、メモリ41に予め記憶された患部3aと目印との位置関係を用いてX線透視画像を解析して、患部3aの位置や形状及びその変化量を演算する。そして、患部3aの変動に対応し最適な照射範囲(詳細には、正常組織への照射を極力抑えつつ、患部組織に大きな線量を集中させるような照射範囲)を形成するように、患者コリメータ23及び患者ボーラス24の移動方向及びその移動量を演算し、それら演算結果を平行駆動制御装置39及び回転駆動制御装置40へそれぞれ出力するようになっている。
【0036】
平行駆動制御装置39は、照射制御装置38から入力された患者コリメータ23及び患者ボーラス24の平行移動方向及びその移動量に応じて駆動信号を生成し、第1の平行駆動機構27のモータ31及び第2の平行駆動機構のモータ(図示せず)にそれぞれ出力するようになっている。その結果、ビーム進行方向に対する垂直面内での患者コリメータ23及び患者ボーラス24の位置を制御するようになっている。
【0037】
回転駆動制御装置40は、照射制御装置38から入力された患者コリメータ23及び患者ボーラス24の回転方向及び回転角度に応じて駆動信号を生成し、回転駆動機構28のモータ35に出力する。その結果、患者コリメータ23及び患者ボーラス24の回転位置を制御するようになっている。
【0038】
また、照射制御装置38は、患部3aの変動とメモリ41に予め記憶された所定の設定範囲(詳細には、例えば患部3aの変動が大きすぎて最適な照射範囲を得ることができない場合があり、それらの条件を範囲外として設定した範囲)とを比較判定し、患部3aの変動が所定の設定範囲から外れたときには、停止信号を出力して開閉スイッチ14を開き状態とする。これにより、高周波印加装置13への電力供給が遮断されて、サイクロトロン11からビーム輸送系5へのビーム出射が停止され、患部3aへのビーム照射を停止するようになっている。
【0039】
なお、上記において、患部検出装置7は、特許請求の範囲記載の患部の変動を検出する患部検出手段を構成する。また、制御システム8は、患部検出手段の検出結果に応じて照射野形成装置の駆動装置を駆動制御する制御手段を構成し、制御システム8及び開閉スイッチ14は、患部検出手段で検出した患部の変動が所定の設定範囲から外れたときに、放射線の照射を停止する照射停止手段を構成する。
【0040】
次に、本実施形態による粒子線治療装置1の動作を説明する。図3は、上記照射野形成装置6の動作の一例を説明するための概略図である。
【0041】
まず治療ベッド2を移動して、初期状態にある患者3の患部3aを照射野形成装置6のビーム軸と一致させる(図3(a)参照)。そして、例えばオペレータが操作盤(図示せず)から治療開始信号を入力すると、開閉スイッチ14が閉じ状態となってシンクロトロン11からビーム輸送系5にイオンビームが出射される。ビーム輸送系5を経て照射野形成装置6に達したイオンビームは、第1散乱体20、第2散乱体21、リッジフィルタ22、患者コリメータ23、及び患者ボーラス24を通過することにより、患部3a形状に形成されて照射される。
【0042】
これと同時に、患部検出装置6で患部3aのX線透視画像を取得し、これを照射制御装置38に出力する。照射制御装置38は、メモリ41に予め記憶された情報を用いてX線透視画像を解析し、患部3aの位置や形状及びその変化量を演算する。そして、患部3aの変動に対応し最適な照射範囲を形成するように、患者コリメータ23及び患者ボーラス24の移動方向及びその移動量を演算し、それら演算結果を平行駆動制御装置39及び回転駆動制御装置40へそれぞれ出力する。
【0043】
例えば図3(b)に示すように患部3aが横方向(図3(b)中左側)に平行移動した場合は、照射制御装置39で演算した患者コリメータ23及び患者ボーラス24の移動方向及びその移動量を含む情報信号が平行駆動制御装置39に入力され、平行駆動制御装置39は第1の平行駆動機構27のモータ31に駆動信号を出力する。そして、モータ31が駆動してボールネジ29が回転し、ビーム進行方向に対し垂直な第1の方向に患者コリメータ23及び患者ボーラス24が移動する。これにより、イオンビームの照射範囲を横方向に平行移動させることができ、変動する患部3aに一致させることが可能となる。
【0044】
また、例えば患部3aが横方向に回転移動した場合は、照射制御装置38で演算した患者コリメータ23及び患者ボーラス24の回転方向及び回転角度を含む情報信号が回転駆動制御装置40に入力され、回転駆動制御装置40は回転駆動機構28のモータ35に駆動信号を出力する。そして、モータ35が駆動し、ビーム進行方向を回転軸として患者コリメータ23及び患者ボーラス24が回転する。これにより、イオンビームの照射範囲を回転移動させることができ、変動する患部3aに一致させることが可能となる。
【0045】
以上のように本実施形態においては、患部3aの変動に追従してイオンビームの照射範囲を制御することができ、これによって照射精度を高めることができる。また、イオンビームの照射範囲を患部3aの変動に追従させることにより、照射精度を高めつつ連続照射することができ、治療時間の短縮を図ることができる。
【0046】
また本実施形態においては、患部検出装置7で検出した患部3aの変動が所定の設定範囲から外れたときには、照射制御装置38から停止信号を出力して開閉スイッチ14を閉じ状態とし、患部3aへのビーム照射を停止する。これにより、照射精度をさらに高めることができる。
【0047】
なお、上記一実施形態においては、患部3aの変動を検出する患部検出手段として、X線透視画像を取得する患部検出装置7を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば患部3aに超音波を印加しその反射波を測定する方法、患部3aに陽電子放出源を導入し消滅ガンマ線を測定する方法、患部3aと連携して動く生体組織(例えば骨、横隔膜、胸盤、及び皮膚等)の位置を測定し、メモリ41に予め記憶した患部13aと生体組織の位置関係を用いて得る方法等を用いてもよい。また、例えば呼吸パターンを模擬した信号に合わせて患者3が呼吸し、メモリ41に予め記憶した患者3の呼吸位相と患部3aの変動との関係から得る方法でもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、上記一実施形態においては、駆動装置26は、患者コリメータ23及び患者ボーラス24を一体として移動させる平行駆動機構27及び回転駆動機構28を備えた構成を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば患者コリメータ23及び患者ボーラス24を別体としてそれぞれ移動させる駆動機構を備えた構成としてもよく、このような変形例を図4及び図5により説明する。
【0049】
図4は、本変形例による照射野形成装置の詳細構造を関連装置とともに表す概略図であり、図5は、本変形例による照射野形成装置の動作の一例を説明するための概略図である。なお、これら図4及び図5において、上記一実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0050】
本変形例の駆動装置26’は、ビーム進行方向(図4中下方向)に対し垂直な第1の方向(図4中左右方向)に患者コリメータ23を移動させる第1のコリメータ平行駆動機構42と、ビーム進行方向に対し垂直な第2の方向(図4中紙面に対し垂直な方向)に移動させる第2のコリメータ平行駆動機構(図示せず)と、ビーム進行方向を回転軸として患者コリメータ23を回転させるコリメータ回転駆動機構43と、ビーム進行方向に対し垂直な第1の方向に患者ボーラス24を移動させる第1のボーラス平行駆動機構44と、ビーム進行方向に対し垂直な第2の方向に移動させる第2のボーラス平行駆動機構(図示せず)と、ビーム進行方向を回転軸として患者ボーラス24を回転させるボーラス回転駆動機構45とを有する。
【0051】
また、本変形例の制御システム8’は、上記照射制御装置38、コリメータ平行駆動制御装置46、コリメータ回転駆動制御装置47、ボーラス平行駆動制御装置48、ボーラス回転駆動制御装置49を有する。なお、照射制御装置38、コリメータ平行駆動制御装置46、コリメータ回転駆動制御装置47、ボーラス平行駆動制御装置48、及びボーラス回転駆動制御装置49を個々に設けず、それらの各機能を制御システム8が発揮するように構成してもよい。
【0052】
照射制御装置38は、メモリ41に記憶された情報等を用いて、患部検出装置7から受信したX線透視画像を解析し、患部3aの位置や形状及びその変化量を演算する。そして、患部3aの変動に対応し最適な照射範囲を形成するように、患者コリメータ23及び患者ボーラス24の移動方向及びその移動量をそれぞれ演算し、それら演算結果をコリメータ平行駆動制御装置46、コリメータ回転駆動制御装置47、ボーラス平行駆動制御装置48、及びボーラス回転駆動制御装置49へそれぞれ出力する。
【0053】
例えば患部3aが初期状態(図5(a)参照)から横方向に平行移動した場合(図5(b)参照)、照射制御装置39は、照射野形成装置6のビーム入射点と患部3aとを結ぶ直線上に患者コリメータ23及び患者ボーラス24を配置するように、患者コリメータ23及び患者ボーラス24の平行移動方向及びその移動量をそれぞれ演算する。そして、患者コリメータ23の平行移動方向及びその移動量を含む情報信号がコリメータ平行駆動制御装置46に出力され、コリメータ平行駆動制御装置46が第1のコリメータ平行駆動機構42のモータに駆動信号を出力し、ビーム進行方向に対し垂直な第1の方向に患者コリメータ23を移動させる。また、患者ボーラス24の平行移動方向及びその移動量を含む情報信号がボーラス平行駆動制御装置48に出力され、ボーラス平行駆動制御装置48が第1のボーラス平行駆動機構44のモータに駆動信号を出力し、ビーム進行方向に対し垂直な第1の方向に患者ボーラス23を移動させる。その結果、イオンビームの照射範囲を横方向に平行移動させることができ、変動する患部3aに一致させることが可能となる。
【0054】
また、例えば患部3aが横方向に回転移動した場合、照射制御装置38で演算した患者コリメータ23及び患者ボーラス24の回転方向及び回転角度を含む情報信号がコリメータ回転駆動制御装置47及びボーラス回転駆動制御装置49にそれぞれ出力される。そして、コリメータ回転駆動制御装置47はコリメータ回転駆動機構43のモータに駆動信号を出力して、ビーム進行方向を回転軸として患者コリメータ23を回転させ、ボーラス回転駆動制御装置49はボーラス回転駆動機構45のモータに駆動信号を出力して、ビーム進行方向を回転軸として患者ボーラス24を回転させる。その結果、イオンビームの照射範囲を回転移動させることができ、変動する患部3aに一致させることが可能となる。
【0055】
以上のように構成された本変形例においても、上記一実施形態同様、患部3aの変動に追従してイオンビームの照射範囲を制御することができ、これによって照射精度を高めることができる。
【0056】
なお、上記一実施形態及び一変形例においては、駆動装置26,26’は、患者コリメータ23及び患者ボーラス24を一体又は別体として、ビーム進行方向に対し垂直な方向に移動させる平行駆動機構及びビーム進行方向を回転軸として回転させる回転駆動機構を設けた構成を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば患者コリメータ23及び患者ボーラス24を一体又は別体としてビーム進行方向に移動させる駆動機構を設けてもよい。そして、この駆動機構によって患者コリメータ23をビーム上流側に移動させれば、イオンビームの径方向の照射範囲は相似拡大し、反対にビーム下流側に移動させれば、イオンビームの径方向の照射範囲を相似縮小することが可能である。また、患者ボーラス24をビーム上流側に移動させれば、イオンビームの到達深度の形状は相似拡大し、反対にビーム下流側に移動させれば、イオンビームの到達深度の形状は相似縮小することが可能である。また、例えば患者コリメータ23及び患者ボーラス24を一体又は別体として傾斜させる駆動機構を設けてもよい。この駆動機構によって患者コリメータ23を傾斜させると、傾斜方向一方側におけるイオンビームの径方向の照射範囲を縮小し、傾斜方向反対側におけるイオンビームの径方向の照射範囲を拡大することが可能である。また、患者ボーラス24を傾斜させると、傾斜方向一方側におけるイオンビームの到達深度の形状を拡大し、傾斜方向反対側におけるイオンビームの到達深度の形状を縮小することが可能である。これらの変形例においても、上記同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態である粒子線治療装置の全体構成を表す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態である粒子線治療装置に備えられる照射野形成装置の詳細構造を関連装置とともに表す概略図である。
【図3】本発明の一実施形態における照射野形成装置の動作の一例を説明するための概略図である。
【図4】本発明の一変形例である照射野形成装置の詳細構造を関連装置とともに表す概略図である。
【図5】本発明の一変形例における照射野形成装置の動作の一例を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1 粒子線治療装置(放射線治療装置)
3 患者
3a 患部
4 ビーム発生装置(放射線発生装置)
6 照射野形成装置
7 患部検出装置(患部検出手段)
8 制御システム(制御手段、照射停止手段)
14 開閉スイッチ(照射停止手段)
23 患者コリメータ
24 患者ボーラス
26 駆動装置
27 第1の平行駆動機構
28 回転駆動機構
42 第1のコリメータ平行駆動機構
43 コリメータ回転駆動機構
44 第1のボーラス平行駆動機構
45 ボーラス回転駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の患部に放射線を照射する放射線治療装置において、
放射線発生装置と、
コリメータ及びこのコリメータを移動させる駆動装置を有し、前記放射線発生装置からの放射線を患部形状に形成して照射する照射野形成装置と、
患部の変動を検出する患部検出手段と、
前記患部検出手段の検出結果に応じて前記照射野形成装置の駆動装置を駆動制御する制御手段とを備えたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項2】
患者の患部に放射線を照射する放射線治療装置において、
放射線発生装置と、
コリメータ、ボーラス、これらコリメータ及びボーラスを移動させる駆動装置を有し、前記放射線発生装置からの放射線を患部形状に形成して照射する照射野形成装置と、
患部の変動を検出する患部検出手段と、
前記患部検出手段の検出結果に応じて前記照射野形成装置の駆動装置を駆動制御する制御手段とを備えたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項3】
前記照射野形成装置の駆動装置は、前記コリメータ及びボーラスを一体として移動させる駆動機構を有する請求項2記載の放射線治療装置。
【請求項4】
前記照射野形成装置の駆動装置は、前記コリメータ又は/及びボーラスを、放射線の進行方向に対し垂直な方向に移動させる平行駆動機構を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の放射線治療装置。
【請求項5】
前記照射野形成装置の駆動装置は、前記コリメータ又は/及びボーラスを、放射線の進行方向を回転軸として回転させる回転駆動機構を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の放射線治療装置。
【請求項6】
前記患部検出手段で検出した患部の変動が所定の設定範囲から外れたときに、放射線の照射を停止する照射停止手段をさらに備えた請求項1乃至5のいずれかに記載の放射線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−37629(P2007−37629A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222668(P2005−222668)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】