説明

放射線用シンチレータプレート及びその製造方法

【課題】放射線用シンチレータ材料としてCsIをベースとして、放射線照射による発光の発光効率を向上させることで発光輝度を改良することができる放射線用シンチレータプレート、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ヨウ化セシウム(CsI)と賦活剤からなる混合物と、金または金化合物とを蒸着して基板上に金を含む蛍光体層を形成することを特徴とする放射線用シンチレータプレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線用シンチレータプレート及びその製造方法に関し、特にCsIをベースに用いる蛍光体層を具備した放射線用シンチレータプレート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線画像のような放射線画像は医療現場において病状の診断に広く用いられている。特に増感紙−フィルム系による放射線画像は、長い歴史の中で高感度化と高画質化が図られた結果、高い信頼性と優れたコストパフォーマンスを併せ持った撮像システムとして、今なお世界中の医療現場で用いられている。しかしながら、これら画像情報は所謂アナログ画像情報であって、自由な画像処理や瞬時の画像転送を行うことができないものであった。
【0003】
その後、デジタル方式の放射線画像検出装置として、コンピューテッドラジオグラフィ(CR)が登場している。CRではデジタルの放射線画像が直接得られ、陰極管や液晶パネル等の画像表示装置に画像を直接表示することが可能なことから、写真フィルム上への画像形成が不要となり、アナログの銀塩写真方式による画像形成に比べ、病院や診療所での診断作業の利便性を大幅に向上させている。
【0004】
CRは主に医療現場で受け入れられており、輝尽性蛍光体プレートを用いてX線画像を得ている。ここで「輝尽性蛍光体プレート」というのは、被写体を透過した放射線を蓄積して、赤外線などの電磁波(励起光)の照射で時系列的に励起させることにより、蓄積された放射線をその線量に応じた強度で輝尽発光として放出するものであり、所定の基板上に輝尽性蛍光体が層状に形成された構成を有している。
【0005】
しかしながら、この輝尽性蛍光体プレートではSN比や鮮鋭性が十分でなく、空間分解能も不十分であり、スクリーン・フィルムシステムの画質レベルには到達していない。
【0006】
そこで、更に新たなデジタルX線画像技術として、例えば、雑誌Physics Today、1997年11月号24頁のジョン・ローランズ論文“Amorphous Semiconductor Usher in Digital X−ray Imaging”や、雑誌SPIEの1997年32巻2頁のエル・イー・アントヌクの論文”Development of a High Resolution,Active Matrix,Flat−Panel Imager with Enhanced Fill Factor”等に記載された、薄膜トランジスタ(TFT)を用いた平板X線検出装置(FPD)が登場している。
【0007】
このFPDでは、CRに比べ装置の小型化が可能である点や、動画表示が可能である点において優れているという特徴がある。しかしながら、CRと同様スクリーン・フィルムシステムの画質レベルには到達しておらず、高画質に対する要望が近年益々高まっていた。
【0008】
ここで、FPDでは放射線を可視光に変換するために、発光する特性を有するX線蛍光体で作られたシンチレータプレートを使用しているが、TFTや該TFTを駆動する回路等にて発生する電気ノイズが大きいために低線量撮影においてSN比が低下し、画質レベルを十分にするだけの発光効率を確保することができないものであった。
【0009】
一般に、シンチレータプレートの発光効率は蛍光体層の厚さ、蛍光体のX線吸収係数によって決まるが、蛍光体層の厚さを厚くすればするほど蛍光体層内での発光光の散乱が生じ、鮮鋭性が低下する。そのため、画質に必要な鮮鋭性を決めると膜厚も自ずと決定される。
【0010】
特に、シンチレータプレートの蛍光体層で使用されるヨウ化セシウム(CsI)は、X線から可視光に変換する変換率が比較的高く、また蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成できるため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、蛍光体層の厚さを厚くすることが可能であった。
【0011】
ここで蛍光体層の形成に際し、CsIの単独使用では発光効率が低いために各種の添加剤が用いられる。添加剤の濃度は、ベースとなるCsIに対して0.01mol%以上とすることで発光効率が上昇することが知られている。例えば、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものを蒸着により基板上にナトリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI:Na)として堆積させ、後工程としてアニールを行うことで可視変換効率を向上させ、X線蛍光体として使用する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0012】
また最近では、CsIを蒸着でインジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)等の賦活物質をスパッタで形成するX線蛍光体を作製する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)
しかしながら、特許文献1に記載の方法や、特許文献2に記載の方法によりX線蛍光体を作製する技術をもってしても放射線照射による発光効率は未だ低いものである。特に、特許文献2ではCsIへの添加剤に関して記載されているものの、該添加剤の融点に着目したものではなく、放射線照射による発光効率においては更なる改良が望まれていた。
【特許文献1】特公昭54−35060号公報
【特許文献2】特開2001−59899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、放射線用シンチレータ材料としてCsIをベースとして、放射線照射による発光の発光効率を向上させることで発光輝度を改良することができる放射線用シンチレータプレート、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
【0015】
1.ヨウ化セシウム(CsI)と賦活剤からなる混合物と、金または金化合物とを蒸着して基板上に金を含む蛍光体層を形成することを特徴とする放射線用シンチレータプレート。
【0016】
2.前記賦活剤がヨウ化タリウム(TlI)であることを特徴とする前記1に記載の放射線用シンチレータプレート。
【0017】
3.前記ヨウ化タリウム(TlI)がヨウ化セシウム(CsI)に対して、0.01mol%以上、10mol%以下であることを特徴とする前記2に記載の放射線用シンチレータプレート。
【0018】
4.前記金化合物がヨウ化金(AuI)であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の放射線用シンチレータプレート。
【0019】
5.前記蛍光体層中の金はヨウ化セシウム(CsI)に対して、0.05mol%以上、20mol%以下であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の放射線用シンチレータプレート。
【0020】
6.前記蛍光体層が蛍光体の柱状結晶の集合からなることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の放射線用シンチレータプレート。
【0021】
7.前記1〜6のいずれか1項に記載の放射線用シンチレータプレートを蒸着によって製造する放射線用シンチレータプレートの製造方法において、ヨウ化セシウム(CsI)と賦活剤からなる混合物、及び金または金化合物がそれぞれ蒸着装置に装着された別のボートに充填された後、加熱され、基板上に蒸着されることを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、放射線用シンチレータ材料として優れた物質であるCsIをベースとして、放射線照射による発光の発光効率を向上させることで発光輝度を改良することができる放射線用シンチレータプレート、及びその製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
上記の課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討した結果、CsIと賦活剤を含む原材料を蒸着し、柱状結晶構造の放射線用シンチレータプレートを作製するにあたって、結晶内に金(Au)が含ませることで放射線の利用効率が向上し、CsI結晶の発光効率が大きく向上することを見出した。
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。但し、発明の範囲は図示例に限定されない。
【0025】
本発明の放射線用シンチレータプレート10は、図1に示すように基板1上に蛍光体層2を備えるものであり、該蛍光体層2に放射線が照射されると蛍光体層2は入射した放射線のエネルギーを吸収して、波長が300nmから800nmの電磁波、即ち可視光線を中心に紫外光から赤外光に亘る電磁波(光)を発光するようになっている。
【0026】
ここで、基板1としてはX線等の放射線を透過させることが可能なものであり、樹脂やガラス基板、シリコン板、金属板(例えば、アルミニウム、チタン)などが用いられるが、耐性の向上や軽量化といった観点から、1mm以下のアルミニウム板や炭素繊維強化樹脂シートを始めとする樹脂を用いるのが好ましい。
【0027】
また、蛍光体層2としてはCsをベースとして結晶が形成されたものであり、CsIが好適である。蛍光体層2には賦活剤が含まれており、この賦活剤はベースとなるCsIに対し0.01mol%以上含んでいればよい。ここで、CsIに対し賦活剤が0.01mol%未満であると、CsI単独使用で得られる発光輝度と大差なく、目的とする発光輝度を得ることができない。なお、前述のように規定された賦活剤の含有割合は、蛍光体層2を形成する際の材料における割合を指している。賦活剤としては、インジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)等からの化合物が挙げられるが、本発明においては、ヨウ化タリウム(TlI)が好ましい。
【0028】
本発明においては、蛍光体層2は後述するように蒸着により形成されるため、蛍光体層2を形成する際の材料とは蒸着する際の供給源(蒸着源)となる原材料を指している。
【0029】
また本発明においては、金または金化合物はCsIと賦活剤からなる混合物とは別のボートに充填して加熱蒸着することが好ましい。
【0030】
本発明で言う金量とは、基板上に蒸着形成された結晶内での割合を指している。金量としては結晶内に0.05mol%以上含んでいれば、本発明の効果が得られる。また20mol%よりも多いと結晶の透明性が低下し、逆に輝度が低下する。
【0031】
以下、基板1上に蛍光体層2を形成させる方法について説明する。
【0032】
蛍光体層2は、蒸着法により形成される。
【0033】
蒸着法は基板1を概知の蒸着装置内に設置すると共に、蒸着源に前述のように規定された賦活剤を含む蛍光体層の原材料と、金または金化合物をそれぞれ別のボートに充填した後、装置内を排気すると同時に窒素等の不活性ガスを導入口から導入して、1.33×10-3〜1.33Pa程度の真空とし、次いで賦活剤を含む蛍光体と金または金化合物の充填されたボートを抵抗加熱法などの方法で加熱蒸発させて、基板1表面に蛍光体を所望の厚みに堆積させ、基板1上に蛍光体層2が形成される。真空度の調整においては、不活性ガスとして、窒素以外にアルゴン、ヘリウムが用いられる。
【0034】
また、金化合物としては、臭化金(AuBr、AuBr3)、塩化金(AuCl、AuCl3)、フッ化金(AuF3)、ヨウ化金(AuI、AuI3)が挙げられるが、本発明においてはヨウ化金(AuI)が好ましい。
【0035】
なお、この蒸着工程を複数回に分けて行い、蛍光体層2を形成することも可能である。例えば、同一構成の蒸着源を複数用意し、一つの蒸着源による蒸着が終了したら、次の蒸着源による蒸着を開始し、所望の厚さの蛍光体層2になるまでこれを繰り返し行う。また、蒸着時は必要に応じて基板1を冷却あるいは加熱してもよい。蒸着終了後、基板1ごと蛍光体層2を加熱処理してもよい。
【0036】
ここで、図2を参照して蒸着法を行う際に使用する蒸着装置の一例として、蒸着装置20について説明する。
【0037】
蒸着装置20には、真空ポンプ21と真空ポンプ21の作動により内部が真空となる真空容器22とが備えられている。真空容器22の内部には、蒸着源として抵抗加熱ルツボ23Aと23Bが備えられており、この抵抗加熱ルツボ23の上方には回転機構24により回転可能に構成された基板1が基板ホルダ25を介して設置されている。また、抵抗加熱ルツボ23と基板1との間には、必要に応じて抵抗加熱ルツボ23から蒸発する蛍光体の蒸気流を調節するためのスリットが設けられている。なお、基板1は蒸着装置20を使用する際に基板ホルダ25に設置して使用するようになっている。
【0038】
次に、放射線用シンチレータプレート10の作用について説明する。
【0039】
放射線用シンチレータプレート10に対し、蛍光体層2側から基板1側に向けて放射線を入射すると、蛍光体層2に入射された放射線は蛍光体層2中の蛍光体粒子に放射線のエネルギーが吸収され、蛍光体層2からその強度に応じた電磁波(光)が発光される。
【0040】
このとき、基板1上に形成される蛍光体膜には、賦活剤を含む蛍光体層の原材料と金または金化合物が含まれており、金または金化合物が含有されたことによる特有の特性を発揮している。また、同時に蛍光体層2を構成する各柱状結晶を規則正しく形成されている。その結果、蛍光体層2では瞬時発光の発光効率を向上させ、放射線用シンチレータプレート10の放射線に対する感度を大きく改善させる。
【0041】
以上のように、本発明の放射線用シンチレータプレート10では、放射線が照射された際に蛍光体層2の発光効率を飛躍的に向上させて、発光輝度を向上させることができる。これより、得られる放射線画像における低線量撮影時のSN比を向上させることもできる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれに限定されるものではない。下記の方法に従って実施例1〜11、比較例の放射線用シンチレータプレートを作製した。
【0043】
実施例1
(蒸着源材料の作製)
CsIに対し、賦活剤としてヨウ化タリウム(TlI)を0.3(mol%)比率で混合し、乳鉢にてこれらが均一になるように粉砕し、混合した。
【0044】
(放射線用シンチレータプレートの作製)
炭素繊維強化樹脂シートからなる支持体の片面に、図2に示す蒸着装置20を使用して上記蒸着源材料を蒸着させて蛍光体層を形成した。即ち、まず上記蒸着源材料を蒸着源である抵抗加熱ルツボ23Aに充填すると共に、ヨウ化金(AuI)を別のボート23Bに充填し、回転機構24により回転される支持体ホルダ25に基板1を設置し、基板1と抵抗加熱ルツボ23A及び23Bとの間隔を400mmに調節した。
【0045】
続いて、真空ポンプ21により真空容器22内を一旦排気し、アルゴンガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、回転機構24により10rpmの速度で基板1を回転させながら基板1の温度を150℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボ23Aと23Bを加熱して蛍光体を蒸着し、蛍光体層2の膜厚が500μmとなったところで基板1への蒸着を終了させて、実施例1の放射線用シンチレータプレートを得た。このときヨウ化金(AuI)の蒸着量はボート23Bに上部に配置されたスリットの開口部により調節された。
【0046】
実施例1の放射線用シンチレータプレートにおける賦活剤(TlI)の量を表1のように変化させ、また蛍光体層中の金が表1になるようにヨウ化金(AuI)を用いて、比較例、実施例2〜11の放射線用シンチレータプレートを作製した。
【0047】
(発光輝度の測定)
得られた実施例1の放射線用シンチレータプレートを、管電圧80kVpのX線を各試料の裏面(シンチレータ蛍光体層が形成されていない面)から照射し、瞬時発光を光ファイバーで取り出し、発光量を浜松ホトニクス社製のホトダイオード(S2281)で測定して、その測定値を「発光輝度(感度)」とした。
【0048】
但し、表1中各実施例で用いた放射線用シンチレータプレートの発光輝度を示す値は、比較例の放射線用シンチレータプレートの発光輝度を1.0としたときの相対値である。
【0049】
【表1】

【0050】
表1より、本発明の放射線用シンチレータプレートは、明らかに発光輝度に優れることは分かる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の放射線用シンチレータプレートを示す図である。
【図2】本発明に係る蒸着装置を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 蛍光体層
10 放射線用シンチレータプレート
20 蒸着装置
21 真空ポンプ
22 真空容器
23 抵抗加熱ルツボ
24 回転機構
25 基板ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化セシウム(CsI)と賦活剤からなる混合物と、金または金化合物とを蒸着して基板上に金を含む蛍光体層を形成することを特徴とする放射線用シンチレータプレート。
【請求項2】
前記賦活剤がヨウ化タリウム(TlI)であることを特徴とする請求項1に記載の放射線用シンチレータプレート。
【請求項3】
前記ヨウ化タリウム(TlI)がヨウ化セシウム(CsI)に対して、0.01mol%以上、10mol%以下であることを特徴とする請求項2に記載の放射線用シンチレータプレート。
【請求項4】
前記金化合物がヨウ化金(AuI)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線用シンチレータプレート。
【請求項5】
前記蛍光体層中の金はヨウ化セシウム(CsI)に対して、0.05mol%以上、20mol%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射線用シンチレータプレート。
【請求項6】
前記蛍光体層が蛍光体の柱状結晶の集合からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の放射線用シンチレータプレート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射線用シンチレータプレートを蒸着によって製造する放射線用シンチレータプレートの製造方法において、ヨウ化セシウム(CsI)と賦活剤からなる混合物、及び金または金化合物がそれぞれ蒸着装置に装着された別のボートに充填された後、加熱され、基板上に蒸着されることを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−211199(P2007−211199A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34846(P2006−34846)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】