説明

放射線画像検出器

【課題】放射線画像検出器の発熱による結晶化を抑制し、寿命を延ばす。
【解決手段】放射線画像を担持した記録用の電磁波の照射を受けて電荷を発生する、非晶質半導体からなる放射線画像検出部と、放射線画像検出部に向かって電子ビームを放出する、2次元上に配列された多数の電子放出源を有する放射線画像読取部16とを備えた放射線画像検出器に冷却部21,22を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像を担持した記録用の電磁波の照射を受けて電荷を発生することにより放射線画像を検出する放射線画像検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光の照射によって電荷を発生する光導電膜と、複数の電子放出源を備え、光の照射によって光導電膜中で発生、蓄積された信号電荷を電子ビームによって読み出す画像検出器が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、医療分野などにおいて、被写体を透過した放射線の照射を受けて電荷を発生し、その電荷を蓄積することにより被写体に関する放射線画像を検出する放射線画像検出器が各種提案、実用化されており、上記のような放射線画像検出器として、たとえば、特許文献2においては、非晶質半導体、たとえば、a−Seを利用した放射線画像検出器が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−176704号公報
【特許文献2】特開2000−284056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、たとえば、特許文献1に記載の画像検出器と特許文献2に記載の放射線画像検出器とを組み合わせ、非晶質半導体からなる光導電膜に放射線を照射することにより放射線画像を記録し、その光導電膜を電子ビームによって読み出す放射線画像検出器が考えられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の電子放出源は読取効率が悪く、アノード電極に向かう電流は電子放出源を流れる電流のうち、高くて数%、悪い場合には0.数%であり、残りは読取りに使われずにゲート電極に向かいリーク電流として消費され、その一部は熱に変換される。そして、放射線画像検出器に要求される画素数は一般撮影で約2900×2900、マンモグラフィで6000×4800と大きく、特に動画撮影で高速に読取り動作させる場合には、電子放出源の発熱量が極めて大きくなるものと考えられる。
【0007】
そして、特に非晶質半導体を利用した場合には、上記のような発熱によりガラス転移温度を容易に超えてしまい、結晶化が進行し、放射線画像検出器の寿命を著しく短くするという不都合を生じる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、上記のような結晶化を抑制し、寿命を延ばすことができる放射線画像検出器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の放射線画像検出器は、放射線画像を担持した記録用の電磁波の照射を受けて電荷を発生する、非晶質半導体からなる放射線画像検出部と、放射線画像検出部に向かって電子ビームを放出する、2次元上に配列された多数の電子放出源を有する放射線画像読取部と、放射線画像読取部側に設けられた冷却部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、上記本発明の放射線画像検出器においては、冷却部を、放射線画像読取部の熱を放熱する放熱板を有するものとすることができる。
【0011】
また、放熱板と放射線画像読取部との間に熱媒体を設けるようにすることができる。
【0012】
また、冷却部を、放射線画像読取部の熱を放熱する放熱板と放熱板に設けられた冷却用液体が流れる管とを有するものとすることができる。
【0013】
また、冷却部を、ペルチェ素子を有するものとすることができる。
【0014】
また、冷却部を、ゼーベック効果を利用して冷却するものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の放射線画像検出器によれば、放射線画像を担持した記録用の電磁波の照射を受けて電荷を発生する、非晶質半導体からなる放射線画像検出部と、放射線画像検出部に向かって電子ビームを放出する、2次元上に配列された多数の電子放出源を有する放射線画像読取部と、放射線画像読取部側に設けられた冷却部とから構成するようにしたので、放射線画像読取部において発生した熱を冷却部により冷却することができ、放射線画像検出部の非晶質半導体が結晶化するのを抑制することができる。よって、放射線画像検出器の寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の放射線画像検出器の一実施形態について説明する。図1は、放射線画像検出器の冷却部を除く部分の斜視図、図2は図1に示す放射線画像検出器の2−2線断面図である。
【0017】
放射線画像検出器10は、図1に示すように、ガラス基板11、ガラス基板11上に形成されたアノード電極12、アノード電極12上に形成され、アノード電極12から後述する光導電層への電荷の注入を阻止する電荷注入阻止層13、放射線の照射を受けることにより電荷を発生する光導電層14、および光導電層14において発生した電荷を蓄積する電荷蓄積層15をこの順に積層してなる放射線画像検出部と、放射線画像検出部において蓄積記録された放射線画像を読み取る放射線画像読取部16とを備えている。
【0018】
アノード電極12は平面電極であり、たとえば、500nm以下の厚さのITO、IZOや100nm程度の薄いAu、Al、Crから形成されている。
【0019】
電荷注入阻止層13は、たとえば、CeOやGeOにより形成されている。また、電荷注入阻止層13は、異なる材料から形成される層(たとえば、CeO層とGeO層)を複数重ね合わせて形成するようにしてもよい。
【0020】
光導電層14は、面内均質性の高い非晶質半導体から形成され、たとえば、暗伝導度が低く、光伝導特性の良いa−Seを用いることが望ましい。また、a−Si:Hにより形成するようにしてもよい。また、光導電層14は、たとえば、50〜2000μmの厚さで形成するようにすればよい。望ましくは、150μ〜2000μmである。また、特にマンモグラフィ用の放射線画像検出器を形成する場合には、50〜300μmの厚さで形成することが望ましい。また、a−Seに0.01〜20ppmの範囲でアルカリ金属元素をドープすることが望ましい。上記のようにアルカリ金属元素をドープすることにより電荷の移動度を向上させることができる。また、光導電層14は、平均原子番号×膜厚(μm)が5000以上50000以下を満たすように形成することが望ましい。
【0021】
電荷蓄積層15は、たとえば、多孔質Sbにより形成するようにすればよい。
【0022】
放射線画像読取部16は、図2に示すように、放射線画像検出部に向かって電子ビームを放出する電子放出源17aと電子放出源17aを駆動する電子放出源駆動電極17と誘導電荷検出電極18とを備えている。誘導電荷検出電極18は、光導電層14において発生した電荷に応じた誘導電荷が発生する電極であり、たとえば、Pd、Pt、Ru、Ag、Au、Ti、In,Cu、Cr、Fe、Zn、Sn、Ta、Mo、W、Pbから形成されている。
【0023】
図3に放射線画像読取部16の上面図を示す。図3に示すように、誘導電荷検出電極18と電子放出源駆動電極17とは、ともにストライプ状に形成され、互いに直交する方向に延びるように形成されている。そして、電子放出源駆動電極17の誘導電荷検出電極18との交差部分上には電子放出源17aが設けられている。また、誘導電荷検出電極18と電子放出源駆動電極17との間には絶縁層19が形成されている。
【0024】
そして、誘導電荷検出電極18の電子放出源駆動電極17との交差部分には、電子放出源17aから放出された電子ビームが通過するように穴が設けられている。なお、絶縁層17にも上記交差部分に対応する部分に穴が設けられている。なお、図2における放射線画像読取部16は、図3における2−2線断面図を示している。
【0025】
電子放出源17aとしては、たとえば、表面伝導電子エミッタの電子放出源、ホットエレクトロンエミッタの電子放出源、またはカーボンナノチューブエミッタの電子放出源を用いることができる。表面伝導電子エミッタを用いるようにした場合には、電子放出源を印刷技術で形成することができ、低コスト化、大面積化を容易に図ることができる。また、ホットエレクトロンエミッタを用いるようにした場合には、比較的、動作環境に敏感でなく低真空で動作する、すなわち真空封止が容易な電子放出源とすることができる。また、カーボンナノチューブエミッタを用いるようにした場合には、電界集中により大電流が放出可能、かつ印刷法で低コスト、大面積で製造可能な電子放出源とすることができる。なお、電子放出源の詳細については、たとえば、共立出版株式会社「発光型ディスプレイ1」やシーエムシー出版「フィールドエミッションディスプレイ技術」に記載されている。
【0026】
また、図2および図3においては、誘導電荷検出電極18の電子放出源駆動電極17との1つの交差部分に1つの電子放出源17aしか記載していないが、多数の電子放出源17aを設けるようにしてもよい。上記のように各交差部分毎に多数の電子放出源17aを設けるようにすることにより電子放出源17a毎のバラツキを小さくすることができる。
【0027】
また、放射線画像検出部と放射線画像読取部16とは、図2に示すように、筐体20内に収容されており、筐体20内は真空になっている。なお、図1においては筐体20を図示省略してある。
【0028】
また、放射線画像検出器においては、図2に示すように、放射線画像読取部16側の筐体20に、放射線画像検出器の熱を放熱するための放熱板21と、放熱板21を冷却するための多数のファン22が設けられている。この放熱板21とファン22により冷却部が構成されている。
【0029】
また、放射線画像読取部16の、各誘導電荷検出電極18には、図3に示すように、電流検出アンプ21がそれぞれ接続され、電流検出アンプ21にはA/D変換回路22が接続されている。また、電子放出源駆動電極17には、電子放出源17aを制御する電子放出源制御回路23が接続されている。
【0030】
また、光導電層14と電荷注入阻止層13との間に、光導電層14の結晶化を抑制するため結晶化抑制層を設けるようにしてもよい。結晶化抑制層の材料としては、たとえば、Asを用いることができる。また、ハロゲン元素、アルカリ元素とハロゲン元素の化合物、アルカリ土類元素とハロゲン元素の化合物をドープするようにしてもよい。たとえば、I、Cl、LiF、MgF、またはCaFをドープするようにしてもよい。
【0031】
次に、上記放射線画像検出器10への放射線画像の記録および読取りの作用について説明する。なお、以下に参照する図4および図5においては、冷却部を図示省略してある。
【0032】
まず、図4(A)に示すように、放射線画像検出器10のアノード電極12に正の電圧を印加した状態において、放射線源から被写体に向けて放射線が照射され、その被写体を透過して被写体の放射線画像を担持した放射線が放射線画像検出器10のアノード電極12側から照射される。なお、このときアノード電極12に印加される電圧は、光導電層14においてアバランシェ増倍現象を引き起こす程度の大きさであることが望ましく、たとえば、50〜200V/μm程度であることが望ましい。
【0033】
そして、放射線画像検出器10に照射された放射線は、アノード電極12および電荷注入阻止層13を透過し、光導電層14に照射される。そして、その放射線の照射によって光導電層14において電子−正孔対が発生し、そのうち電子はアノード電極12に帯電した正の電荷と結合して消滅し、正孔は電荷蓄積層15に蓄積される。そして、電荷蓄積層15に正孔が蓄積されると、電荷蓄積層の電位が上がり、蓄積した正孔量に応じた誘導電荷が誘導電荷検出電極18に発生する(図4(B)参照)。上記のようにして放射線画像の記録が行われる。
【0034】
そして、次に、図5に示すように、電子放出源制御部23により各電子放出源駆動電極17に閾値電圧以上の電圧が順次切り替えて印加され、各電子放出源駆動電極17上に設けられた電子放出源17aから順次電子が放出される。なお、このとき、電子放出源17aからは、電荷蓄積層15に蓄積した正孔量(電位)に応じて電子が発生する。そして、電子放出源17aから放出された電子と電荷蓄積層15に蓄積した正孔とが再結合し、これと同時に誘導電荷検出電極18上の誘導電荷の量も変化し、その変化が各誘導電荷検出電極18に接続された電流検出アンプ21により検出される。そして、電流検出アンプ21において検出された信号はA/D変換回路22によりデジタル化され、デジタル画像信号として取得される。
【0035】
上記実施形態の放射線画像検出器10によれば、誘導電荷検出電極18をストライプ状に形成して信号検出するようにしたので、アノード電極12を平面電極としてラインスキャンすることができ、高速読取が可能である。また、アノード電極12と電荷注入阻止層13との平滑が保て、電界集中による画像欠陥を防止することができる。また、アバランシェ増幅を起こすことも容易になる。
【0036】
また、上記実施形態の放射線画像検出器10においては、放熱板21とファン22とから冷却部を構成するようにしたが、これに限らず、放射線画像検出器10を冷却するものであれば如何なるものを設置するようにしてもよい。
【0037】
たとえば、ゼーベック効果を利用したシステムを利用するようにしてもよい。ゼーベック効果を利用したシステムは、たとえば、図6に示すように、熱電変換素子23と放熱フィン24とファン25とから構成される。熱電変換素子23は、放射線画像検出器10で発生した熱を電気変換することにより放射線画像検出器10を冷却する。そして、さらに熱電変換素子23で得られた電気でファン25を駆動し、ファン25の風で放射線画像検出器10を冷却する。つまり、放射線画像検出器10は、熱電変換素子23の吸熱と熱電変換素子23で得られた電気は発生した風による放熱促進で、二重の自己冷却効果を受けることができる。
【0038】
また、パイプが通っている金属製(Alなど)の放熱板を設け、その放熱板のパイプの中に冷却用の水または油などの熱媒体を流すようにしてもよい。上記のように湯冷、水冷にすることにより、空冷と比較すると電気ノイズの混入を少なくすることができ、検出器の性能を低下させないようにすることができる。
【0039】
また、冷却部としてペルチェ素子を設けるようにしてもよい。
【0040】
また、図2に示す放射線画像検出器において、放熱板21と筐体20との間に熱媒体(たとえば、熱伝導性ゲル状のもの)を設けるようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態は、放射線の照射を受けてその放射線を直接電荷に変換することにより放射線画像の記録を行う、いわゆる直接変換方式の放射線画像検出器に本発明を適用したものであるが、これに限らず、たとえば、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷に変換することにより放射線画像の記録を行う、いわゆる間接変換方式の放射線画像検出器に本発明を適用するようにしてもよい。具体的には、放射線を可視光に変換する蛍光体層をガラス基板11上に設け、アノード電極12および電荷注入阻止層13を、上記可視光を透過する材料および厚さで形成するようにすればよい。蛍光体層の材料としては、たとえば、CsIを用いることができる。また、間接変換方式の放射線画像検出器を構成する場合には、光導電層14の厚さは、2〜20μmが望ましい。
【0042】
また、本発明の放射線画像検出器における放射線画像検出器の層構成は上記実施形態のような層構成に限らずその他の層を加えたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の放射線画像検出器の一実施形態の一部斜視図
【図2】図1に示す放射線画像検出器の2−2線断面図
【図3】図1に示す放射線画像読取部の上面図
【図4】放射線画像検出器への放射線画像の記録の作用を説明するための図
【図5】放射線画像検出器からの放射線画像の読取りの作用を説明するための図
【図6】本発明の放射線画像検出器の冷却部のその他の実施形態を示す図
【符号の説明】
【0044】
10 放射線画像検出器
11 ガラス基板
12 アノード電極
13 電荷注入阻止層
14 光導電層
15 電荷蓄積層
16 放射線画像読取部
17 電子放出源駆動電極
17a 電子放出源
18 誘導電荷検出電極
19 絶縁層
20 筐体
21 電流検出アンプ
22 A/D変換回路
23 電子放出源駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線画像を担持した記録用の電磁波の照射を受けて電荷を発生する、非晶質半導体からなる放射線画像検出部と、
該放射線画像検出部に向かって電子ビームを放出する、2次元上に配列された多数の電子放出源を有する放射線画像読取部と、
該放射線画像読取部側に設けられた冷却部とを備えたことを特徴とする放射線画像検出器。
【請求項2】
前記冷却部が、前記放射線画像読取部の熱を放熱する放熱板を有することを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出器。
【請求項3】
前記放熱板と前記放射線画像読取部との間に熱媒体を設けることを特徴とする請求項2記載の放射線画像検出器。
【請求項4】
前記冷却部が、前記放射線画像読取部の熱を放熱する放熱板と該放熱板に設けられた冷却用液体が流れる管とを有するものであることを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出器。
【請求項5】
前記冷却部が、ペルチェ素子を有するものであることを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出器。
【請求項6】
前記冷却部が、ゼーベック効果を利用して冷却するものであることを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−219734(P2008−219734A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57127(P2007−57127)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
【Fターム(参考)】