説明

放射線画像検出器

【課題】放射線画像検出器において、環境の温度変化による変形や破壊を防止する。
【解決手段】放射線の照射を受けて電荷を発生する光導電層と、その光導電層の熱膨張係数a1より小さい熱膨張係数を有する基板とがこの順に積層された放射線画像検出器において、基板の光導電層が設けられた側とは反対側に、基板の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a2を有する変形抑制層を基板に固定して備え、光導電層の膜厚がd1であり、変形抑制層の膜厚がd2であるとき、下記式(1)を充足するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線の照射を受けて電荷を発生する光導電層と基板とが積層された放射線画像検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療診断を目的とする放射線撮影において、放射線が照射されることにより光導電層内で発生した電荷を電荷収集電極で集めて蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を電気信号に変換して出力することによって放射線画像情報を表す画像信号を出力する放射線画像検出器が知られている。このような放射線画像検出器は、蓄積された電荷を外部に読み出す電荷読出プロセスの面から、該蓄電部と接続された薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)を走査駆動して読み出すTFT読出方式のものや、読取光(読取用の電磁波)を検出器に照射して読み出す光読出方式のもの等がある。
【0003】
ここで、上記のような放射線画像検出器は、放射線の検出に用いられる光導電層を含む複数の層をガラス等の材料からなる基板上に形成してなるものであり、光導電層の熱膨張係数と基板の熱膨張係数とが大きく異なるため、環境の温度変化により反り等の変形が生じる。過度の変形は、光導電層の剥離等の物理的破損とともに、この放射線画像検出器により得られた放射線画像の画質の低下を招くおそれもある。
【0004】
これに対して、特許文献1では、光導電層と、その光導電層の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する基板とが積層された放射線画像検出器において、光導電層の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する変形抑制層を光導電層の基板が設けられた側とは反対側に備えることにより、熱膨張による光導電層および基板の変形を抑制する放射線検出器が提案されている。
【特許文献1】特開平2003−209232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、変形抑制層を光導電層の基板が設けられた側とは反対側に備える特許文献1の放射線検出器では、変形抑制層が放射線の入射方向に対して光導電層の前方に配置される構成であるため、放射線が光導電層に到達するまでに変形抑制層により吸収もしくは散乱されてしまい、放射線画像検出器における放射線の検出効率が低下するとともに、放射線画像の鮮鋭度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、光導電層と、その光導電層の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する基板とが積層された放射線画像検出器において、環境の温度変化による変形や破壊を防止するとともに、放射線の検出効率の低下を回避することができる放射線画像検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の放射線画像検出器は、放射線の照射を受けて電荷を発生する光導電層と、その光導電層の熱膨張係数a1より小さい熱膨張係数を有する基板とがこの順に積層された放射線画像検出器において、基板の光導電層が設けられた側とは反対側に、基板の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a2を有する変形抑制層を基板に固定して備え、光導電層の膜厚がd1であり、変形抑制層の膜厚がd2であるとき、下記式(1)を充足することを特徴とするものである。
【数1】

【発明の効果】
【0008】
本発明の放射線画像検出器によれば、放射線の照射を受けて電荷を発生する光導電層と、その光導電層の熱膨張係数a1より小さい熱膨張係数を有する基板とがこの順に積層された放射線画像検出器において、基板の光導電層が設けられた側とは反対側に、基板の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a2を有する変形抑制層を基板に固定して備え、光導電層の熱膨張係数a1、光導電層の膜厚d1、変形抑制層の熱膨張係数a2、および変形抑制層の膜厚d2の4つのファクターと温度変化による放射線画像検出器の変形との関係に基づいて、光導電層と変形抑制層の構成を定めているので、環境の温度変化による変形や破壊を防止することができるとともに、変形抑制層を放射線の入射方向に対して光導電層の後方に配置しているので、変形抑制層による放射線の検出効率の低下を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の放射線画像検出器の一実施形態について説明する。図1は本発明の放射線画像検出器の一実施形態を示す概略構成図である。
【0010】
本放射線画像検出器10は、所定の電圧が印加されるとともに、放射線画像を担持した放射線を透過する上部電極層11、上部電極層11を透過した放射線の照射を受けることにより電荷を発生する光導電層14、光導電層14において発生した電荷に応じた信号を出力するTFTを備えた下部電極層17、および基板18がこの順に積層された放射線画像検出器において、基板18の光導電層14が設けられた側とは反対側に変形抑制層19を基板18に固定して備えてなるものであり、光導電層14と上部電極層11との間には電荷注入阻止層12が、光導電層14と下部電極層17との間には電荷注入阻止層16が設けられている。さらに、電荷注入阻止層12と光導電層14との間には結晶化防止層13が、電荷注入阻止層16と光導電層14との間には結晶化防止層15が設けられている。
【0011】
上部電極層11としては、放射線を透過するものであればよく、たとえば、AlやAuなどを500A〜1000A厚にして用いることができる。
【0012】
光導電層14は、放射線の照射を受けることにより電荷を発生するものであればよく、基板17の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a1を有するa−Seを主成分とするものを使用する。厚さは200μm〜1000μm程度が適切である。ここで、主成分とは、50%以上の含有率を有するということである。なお、この光導電層の厚さは、光導電層の厚さの分布が一様でない場合には、全体的な厚さの平均値を用いる。
【0013】
電荷注入阻止層12と16は、電子又は正孔の光導電層14への注入を阻止するものであり、例えば、Sbなどの材料により数ミクロンの膜厚で形成されている。また、結晶化防止層13と15は、光導電層14の結晶化を抑制するものであり、結晶化温度の高いSe−As系化合物により数ミクロンの膜厚で形成されている。
【0014】
下部電極層17は、光導電層14で発生した電荷を蓄積する電荷蓄積容量と、電荷蓄積容量に蓄積された電荷を読み出すためのTFTスイッチとが2次元状に多数配列されたものである。そして、上記TFTスイッチをオン/オフするための多数の走査線と上記電荷蓄積容量に蓄積された電荷が読み出される多数のデータ線とが設けられている。
【0015】
基板18は、ガラス基板であり、例えば、コーニング社製のガラス基板を使用することができる。このコーニング社製のガラス基板の厚さは0.7mm程度であり、熱膨張係数は8.7×10−6である。
【0016】
変形抑制層19としては、基板18の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a2を有するポリカーボネ−ト、アラルダイト2020(エポキシ接着剤)などを、光導電層の熱膨張係数a1および光導電層の膜厚d1を参照し、下記の式(1)を充足する厚d2にして用いることができる。
【数2】

【0017】
この式(1)では、光導電層の熱膨張係数a1、光導電層の膜厚d1、変形抑制層の熱膨張係数a2、および変形抑制層の膜厚d2の4つのファクターと温度変化による放射線画像検出器の変形との関係に基づいて、環境の温度変化による放射線画像検出器10の変形を抑制することができる構成を定めている。
【0018】
具体的には、光導電層の熱膨張係数が基板の熱膨張係数より大きいため、環境の温度変化とともに、基板の光導電層14が設けられた側の面に、基板と光導電層との熱膨張の差による界面応力が発生し、その反対側と比較して伸び縮みの程度が大きくなり、放射線画像検出器に反り等の変形が生じるおそれがある。また、この界面応力は光導電層の膜厚d1に比例して大きくなるため、光導電層の膜厚d1が大きくなるほど、放射線画像検出器に反り等の変形が生じやすい。ここで、基板18の光導電層14が設けられた側とは反対側に、基板18の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a2および所定の膜厚d2を有する変形抑制層19を基板18に固定して設けることにより、基板の光導電層14が設けられた側とは反対側の面にも、基板と変形抑制層19との熱膨張の差による界面応力を発生させ、この応力によって基板に作用する全体的な曲げ応力を減少させることにより、環境の温度変化による放射線画像検出器10の変形を抑制する。
【0019】
ここで、この放射線画像検出器10においては、基板18上に光導電層14以外にも複数の他の層を有しているが、光導電層がそれらの他の層に比べて充分厚く、環境の温度変化による放射線画像検出器10の変形に対する光導電層の影響がそれらの他の層による影響を無視できるほど支配的であることから、変形抑制層19とともに光導電層14の構成のみを考慮した上記式(1)を充足するようにしている。
【0020】
この放射線画像検出器10は、上部電極層11にバイアス電圧が印加され、上部電極層11と下部電極層16との間に電界が形成されているときに、光導電層14に画像情報を担持する放射線が照射されると、光導電層14内に電荷が発生し、その電荷が上記電圧の印加により形成された電界分布に沿って下部電極層16に集められ、下部電極層16に電気的に接続された電荷蓄積容量に蓄積される。その後、走査線を介してTFTスイッチをオン状態にする信号を順次加え、データ線を介して各電荷蓄積容量に蓄積された電荷を放射線画像として読み取ることができる。
【0021】
以下の表1に、上記放射線画像検出器10における光導電層の熱膨張係数a1、変形抑制層の熱膨張係数a2、光導電層の膜厚d1、および変形抑制層の膜厚d2の構成が異なる、実施例1〜13および比較例1〜13の放射線画像検出器に対して5℃から40℃の温度サイクルを15回繰返した後、画質および外観を評価した結果を示す。
【0022】
ここで、放射線画像検出器に環境の温度変化によって過度の変形が生じると、光導電層が基板から剥離する等の物理的破損が発生し、その放射線画像検出器により得られた放射線画像中に画像欠陥が増加し、画質が低下することから、上記画質評価は、各場合において、上記温度サイクル処理を行った後の放射線画像検出器により得られた放射線画像から単位面積43cm×43cmあたりの画像欠陥数をカウントし、その数が1000未満である場合は○、1000以上である場合は×として画質を評価した。
【0023】
また、外観評価は、光導電層と基板の間におけるコーナー部とエッジ部の剥離状態を観察し、いずれの部分にも剥離が発生してない場合を○として評価した。
【0024】
ここで、光導電層14としては、熱膨張係数a1が4.78×10−5であるa−Seを使用している。変形抑制層19の構成材料としては、熱膨張係数が7.0×10−5の場合にはポリカーボネ−トを使用し、熱膨張係数が7.8×10−5の場合にはアラルダイト2020を使用している。
【表1】

【0025】
表1に示すように、変形抑制層の熱膨張係数a2と変形抑制層の膜厚d2との積に対する光導電層の熱膨張係数a1と光導電層の膜厚d1との積の比(d1×a1)/(d2×a2)が0.5以下又は2以上である比較例1〜13と比較して、上記の比(d1×a1)/(d2×a2)が0.5より大きくかつ2より小さい、上記式(1)を充足する実施例1〜13では、環境の温度変化による変形を抑制でき、剥離の発生を防止できるとともに、画像欠陥数が少ない高画質の放射線画像が得られることが明らかである。
【0026】
以上のように、本発明の放射線画像検出器では、放射線の照射を受けて電荷を発生する光導電層と、その光導電層の熱膨張係数a1より小さい熱膨張係数を有する基板とがこの順に積層された放射線画像検出器において、基板の光導電層が設けられた側とは反対側に、基板の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a2を有する変形抑制層を基板に固定して備え、光導電層の熱膨張係数a1、光導電層の膜厚d1、変形抑制層の熱膨張係数a2、および変形抑制層の膜厚d2の4つのファクターと温度変化による放射線画像検出器の変形との関係に基づいて、光導電層と変形抑制層の構成が上記式(1)を充足するようにしたので、環境の温度変化による変形や破壊を防止することができる。また、変形抑制層を放射線の入射方向に対して光導電層の後方に配置しているので、変形抑制層による放射線の検出効率の低下を回避することができる。
【0027】
また、本発明は、上記実施の形態に示したいわゆるTFT読取方式の放射線画像検出器に限らず、光読取方式等いかなるタイプの放射線画像検出器にも適用可能である。
【0028】
たとえば、図2に示す光読取方式の放射線画像検出器20は、放射線に対して透過性を有する第1の電極層21、第1の電極層21を透過した放射線の照射を受けることにより電荷対を発生して導電性を呈する記録用光導電層24、記録用光導電層24において発生した潜像電荷に対しては絶縁体として作用し、且つその潜像電荷と逆極性の輸送電荷に対しては導電体として作用する電荷輸送層25、読取光の照射を受けることにより電荷対を発生して導電性を呈する読取用光導電層26、読取光を透過する線状に延びる透明線状電極と読取光を遮光する線状に延びる遮光線状電極とが平行に交互に配列された第2の電極層27、光透過性を有する基板28とがこの順に積層された放射線画像検出器において、基板28の光導電層24が設けられた側とは反対側に、基板28の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a2を有する変形抑制層29を基板28に固定して備えてなるものであり、記録用光導電層24と電荷輸送層25との界面には、記録用光導電層24内で発生した電荷を蓄積する蓄電部22が形成されている。
【0029】
図2に示すこの放射線画像検出器20においては、基板28上に記録用光導電層24、読取用光導電層26および複数の他の層を有しているが、読取用光導電層26および他の層を無視できるほど記録用光導電層24が充分厚く、環境の温度変化による放射線画像検出器10の変形に対する記録用光導電層24の影響が支配的であるので、基板が記録用光導電層24の熱膨張係数a1より小さい熱膨張係数を有するものであり、記録用光導電層24の膜厚がd1であり、変形抑制層29の膜厚がd2であるとき、記録用光導電層24と変形抑制層29の構成が上記式(1)を充足するように構成することにより、環境の温度変化による変形や破壊を防止することができる。また、変形抑制層を放射線の入射方向に対して光導電層の後方に配置しているので、変形抑制層による放射線の検出効率の低下を回避することができる。
【0030】
なお、上記各実施の形態において、変形抑制層を基板に固定して設ける方法としては、環境の変化による変形抑制層と基板の熱膨張の程度の差により両者の界面において界面応力を発生させ、この応力によって基板に作用する全体的な曲げ応力を減少させることができる程度であればよく、変形抑制層の基板側の面の全体を基板に接着して固定するようにしてもよいし、変形抑制層の基板側の面の一部、たとえば矩形の変形抑制層の対向する2辺の端部をねじ止め、ビス止め等の方法により基板に固定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の放射線画像検出器の一実施形態を示す概略構成図
【図2】本発明の放射線画像検出器の一実施形態の示す概略構成図
【符号の説明】
【0032】
10、20 放射線画像検出器
14、24 光導電層、記録用光導電層(光導電層)
18、28 基板
19、29 変形抑制層
11 上部電極層
16 下部電極層
a1 光導電層の熱膨張係数
a2 変形抑制層の熱膨張係数
d1 光導電層の膜厚
d2 変形抑制層の膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の照射を受けて電荷を発生する光導電層と、該光導電層の熱膨張係数a1より小さい熱膨張係数を有する基板とがこの順に積層された放射線画像検出器において、
前記基板の前記光導電層が設けられた側とは反対側に、前記基板の熱膨張係数より大きい熱膨張係数a2を有する変形抑制層を前記基板に固定して備え、
前記光導電層の膜厚がd1であり、前記変形抑制層の膜厚がd2であるとき、下記式(1)を充足することを特徴とする放射線画像検出器。
【数1】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−235657(P2008−235657A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74571(P2007−74571)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】