説明

放射線硬化型熱転写素子

【課題】有機マイクロエレクトロニクスデバイスを製造する目的で放射線硬化型熱転写素子を製造及び利用する方法の提供。
【解決手段】サブストレート100とサブストレート100の上を覆っている光熱変換層102を含む放射線硬化型熱転写素子と、熱転写素子を作製するための方法。該光熱変換層102は、硬化波長の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質と、硬化波長における放射線吸収度を実質的に向上させない結像放射線吸収剤物質からなる。該放射線硬化型熱転写素子は、有機マイクロエレクトロニクスデバイスを作製するためのプロセスで用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写素子、とりわけ、レーザー誘起型熱結像(LITI)又はその他の結像方法に有用な放射線硬化型熱転写素子に関するものである。本発明はさらに、有機マイクロエレクトロニクスデバイスを製造する目的で放射線硬化型熱転写素子を製造及び利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型の電子デバイスと光学デバイスの多くは、相互に積み重なっているさまざまな材料の層によって形成されている。このようなデバイスの例としては、各ピクセルがパターン配列で形成されている光学ディスプレイ、通信デバイス用の光導波路構造体、及び半導体ベースデバイス用の金属−絶縁体−金属のスタックが挙げられる。これらのデバイスを作製するための従来の方法としては、レセプタサブストレートの上に1つ以上の層を形成させるとともに、デバイスを形成させるのと同時に、又はデバイスを形成させた後に、前記層をパターニングするものが挙げられる。層のパターニングは、フォトリソグラフィー技術によって行う場合が多く、フォトリソグラフィー技術としては例えば、フォトレジストで層を覆い、マスクを通じて放射線を照射することによって前記フォトレジストをパターニングし、照射したフォトレジスト、又は照射していないフォトレジストのいずれかの部分を取り除いてパターンに従って下位層を露呈させてから、照射済みの層をエッチングするものが挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
多くの場合では、最終的なデバイス構造を作製するには、複数の付着及びパターニング工程が必要となる。例えば、光学ディスプレイの作製には、赤ピクセル、緑ピクセル、及び青ピクセルを別個に形成させることが必要である。これらのタイプの各ピクセルでは一般に層を付着させるが、一部の層は別々に形成させなければならないとともに、別々にパターニングする必要がある場合が多い。一部の用途では、従来のフォトリソグラフィーによるパターニングを用いてデバイスを作製するのは困難であるか、実用的ではない。したがって、前記デバイスを形成させるための新たな方法に対する必要性がある。少なくとも一部の場合では、この新たな方法によって、信頼性がさらに高いうえに、より複雑なデバイスの構築が可能となるであろう。
【0004】
LITIは、多層マイクロエレクトロニクス及び光学デバイス向けの代替的なパターニング法として開発されたものである。LITIは、ドナーシートからレセプタ表面に物質を転写させることを伴うデジタルパターニング法である。LITI法には一般に、ディスプレイ用途に合わせて1つ以上の転写層をパターン様に印刷することが含まれている。LITIパターニング法では典型的に、放射線源(例えばマスクを通じて照射を行う赤外線レーザー又はフラッシュランプ)によってパターン様に露光させた多層熱転写ドナーフィルムを用い、所望のサブストレートに前記ドナーフィルムからパターン付き転写層を転写させる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の実施形態としては、サブストレートとサブストレートの上を覆っている光熱変換(LTHC)層を含む放射線硬化型熱転写素子が挙げられる。このLTHC層は、硬化波長(単一又は複数)の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質と、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を実質的に上昇させない結像放射線吸収剤物質からなる。
【0006】
第2の実施形態としては、サブストレートとサブストレートの上を覆っているLTHC層を含む放射線硬化型熱転写素子が挙げられる。このLTHC層には、硬化波長(単一又は複数)の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質と、放射線硬化型物質の硬化前には、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を実質的に上昇させない結像放射線吸収剤物質が含まれている。
【0007】
第3の実施形態としては、硬化波長(単一又は複数)の放射線の照射によって硬化するとともに、サブストレートとサブストレートの上を覆っているLTHC層を含む熱転写素子が挙げられる。このLTHC層は、放射線硬化型物質と、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を実質的に上昇させない結像放射線吸収剤物質からなる。同程度の結像放射線吸収度と厚みを有するとともに、結像放射線吸収剤物質の代わりに、同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われている熱転写素子中に存在している残留硬化型物質の量よりも、残留硬化型物質の量は実質的に少ない。
【0008】
第4の実施形態としては、硬化波長(単一又は複数)の放射線の照射によって硬化するとともに、サブストレートとサブストレートの上を覆っているLTHC層を含む熱転写素子が挙げられる。このLTHC層は、放射線硬化型物質と、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を実質的に上昇させない結像放射線吸収剤物質からなる。残留硬化物質の量は、小粒子吸収剤物質を含む熱転写素子中に存在している残留硬化物質の量よりも、実質的に少ない。
【0009】
第5の実施形態としては、サブストレートとサブストレートの上を覆っているLTHC層を含む熱転写素子を作製するための方法が挙げられ、このLTHC層は、放射線硬化型物質と、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を実質的に上昇させない結像放射線吸収剤物質からなり、この方法には、LTHC層をサブストレートの上にコーティングする工程、放射線硬化型物質を硬化させて、結像放射線吸収剤物質が、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度が実質的に上昇しないようにする工程が含まれている。
【0010】
第6の実施形態としては、有機マイクロエレクトロニクスデバイスを作製するための方法が挙げられ、この方法には、サブストレートとサブストレートの上を覆っているLTHC層を含む熱転写素子を提供する工程(このLTHC層は、硬化波長(単一又は複数)の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質と、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を実質的に上昇させない結像放射線吸収剤物質からなる)、熱転写素子とレセプタを密接に接触するように配置する工程、近赤外放射線源を用いて熱転写素子を像様式パターンで露光させる工程、及び像様式パターンに相当する熱転写素子の少なくとも一部をレセプタに転写して、有機マイクロエレクトロニクスデバイスを形成させる工程が含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】代表的なLITIドナーフィルム構造を示している断面図。
【図2A】LTHC層中のプルシアンブルー(ペンカラー(Penn Color))のスペクトルを示しているグラフ。
【図2B】LTHC層中のプロ−ジェット(Pro-Jet)830LDI(アベシア(Avecia))のスペクトルを示しているグラフ。
【図2C】LTHC層中のYKR2900(山本)のスペクトルを示しているグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、添付の図面とともに、以下の本発明の様々な実施形態の詳細な説明で、さらに完全に理解できるであろう。
【0013】
本明細書は、LITIドナーフィルムで用いるLITI転写層のパターニング法に関する。LITIドナーフィルムは、デバイス又はその他の物品を形成させる際に熱転写及び熱転写素子を用いるデバイス及びその他の物体の形成又は部分形成に用いてもよい。具体例としては、熱転写素子は、多層能動デバイス及び受動デバイスなどの多層デバイス、例えば多層エレクトロニクス及び光学デバイスを少なくとも部分的に作製する目的で形成させることができる。この方法は、例えば、熱転写素子から最終レセプタに多成分転写アセンブリを熱転写することによって実現させることができる。デバイス及びその他の物品を形成させる際に単一層及びその他の多層転写も利用可能であることは分かるであろう。
【0014】
本明細書における順序(例えば、工程の実施順序、又はサブストレート上の層の順序)は、明記した要素の間の中間体を排除するように意図したものではない。さらに、本明細書で使用する時、
「能動デバイス」という用語には、増幅、振動、又は信号制御などの動的機能を発揮することができるとともに、動作するのに電源が必要であるエレクトロニクスコンポーネント又は光学コンポーネントが含まれる。
【0015】
「硬化波長」という用語には、LTHC層内での吸収時に、放射線硬化型物質の重合及び/又は架橋を開始させることができる波長又は波長範囲が含まれる。
【0016】
「結像波長」という用語には、結像源が放出する波長又は波長範囲が含まれる。
【0017】
「マイクロエレクトロニクスデバイス」という用語には、単独で用いるか、及び/又はその他のコンポーネントとともに用いてさらに大規模なシステム、例えば電子回路を形成させることのできる電子コンポーネント又は光学コンポーネントが含まれる。
【0018】
「受動デバイス」という用語には、動作時に基本的に静的である(すなわち、通常は増幅又は振動不可能である)とともに、特有の動作の際に電力を必要としない電子コンポーネント又は光学コンポーネントが含まれる。
【0019】
「小粒子吸収剤」という用語には、例えば、C.F.ボーレン(Bohren)及びD.R.ハフマン(Huffman)著『小粒子による光の吸収及び散乱(Absorption and Scattering of Light by Small Particles)』(ジョンワイリーアンドサンズ社(John Wiley & Sons, Inc.)、米国議会図書館(Library of Congress)ISBN 0−471−29340−」7、1983年)に記載されているように、小粒子による光の吸収と散乱をもたらす吸収剤が含まれる。
【0020】
熱転写素子
本発明は、放射性硬化型熱転写素子を含むLITIドナーフィルムと、例えばマイクロエレクトロニクスデバイス及び光学デバイスを製造する際に有用な放射性硬化型熱転写層を作製する方法を提供する。図1に示されているように、代表的なLITIドナーフィルムには、力学的支持のためのドナーサブストレート100と、サブストレート100の上を覆っているとともに結像力を熱に変換させる目的で用いられるLTHC層102が備わっている。その他の層としては例えば、転写層106、サブストレートの上を覆っている任意の中間層104、サブストレート100とLTHC層102との間にある任意の下層108、及び転写層の下にある任意の剥離層110が挙げられ得る。
【0021】
サブストレート及び任意の下塗層
一般に、LITIドナーの熱転写素子にはサブストレートが備わっている。このドナーサブストレートはポリマーフィルムであることができる。1つの適したタイプのポリマーフィルムはポリエステルフィルム、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムである。その一方で、その他のフィルムとしては、レセプタの反対側からドナーの放射を行う場合、特定の波長における光透過率が高いうえに、特定の用途に合わせて十分な力学的及び熱的安定性があるといった適切な光学特性を備えているものが挙げられる。一部の実施形態では、サブストレートそのものに、結像放射線吸収剤物質を含有させてよく、この場合には、サブストレートの一部、例えば最上層、又はサブストレート全体(例えば吸収剤がサブストレート全体にわたり均質である場合)をLTHC層として機能させることができる。この場合、LTHCもサブストレートとして機能するため、サブストレートは任意的なものである。
【0022】
ドナーサブストレートは、少なくとも一部の場合では実質的に平面で、均一なコーティングを形成できるようになっている。ドナーサブストレートの典型的な厚みは0.025ミリメートル(mm)〜0.15mm、好ましくは0.05mm〜0.1mmであるが、それよりも厚い又は薄いドナーサブストレートを用いてもよい。
【0023】
典型的に、ドナーサブストレートといずれかの隣接層(単一又は複数)を形成させる目的で用いる物質は、ドナーサブストレートと隣接層(単一又は複数)の間の接着性を向上させ、サブストレートと隣接層の間の温度輸送を制御し、LTHC層への結像放射線輸送を制御するように選定することができる。ただし、任意の下塗層を用いて、サブストレートの上に次の層をコーティングしている最中に、均一性を向上させるとともに、ドナーサブストレートと隣接層の間の結合力も向上させることができる。下塗層を備えている適したサブストレートの1例は、製品番号M7Q(デュポン帝人フィルム(DuPont Teijin Films)、日本、大阪)から入手可能である。
【0024】
任意の下層
例えば結像の最中にドナーサブストレートへの損傷を最小限に抑える目的で、任意の下層をドナーサブストレートとLTHC層の間にコーティングするか、又は別の方法で配置してよい。下層は、LTHC層のドナーサブストレート素子に対する接着性に影響を与える可能性がある。典型的には、下層は耐熱性が高く(すなわち前記サブストレートよりも熱伝導率が低い)、断熱材としての機能を果たして、LTHC層中で発生する熱からサブストレートを守る。あるいは、例えばLTHC層の過熱により生じる可能性がある結像欠陥の発生を減少させる目的で、前記サブストレートよりも熱伝導率が高い下層を用いて、LTHC層から前記サブストレートへの熱輸送を高めることができる。
【0025】
適した下層としては例えば、ポリマーフィルム、金属層(例えば蒸着金属層)、無機物層(例えばゾル−ゲル付着層及び無機酸化物(例えばシリカ、チタニア、酸化アルミニウム及びその他の金属酸化物)の蒸着層)、及び有機/無機複合層が挙げられる。下層材として適した有機物質としては、熱硬化性物質と熱可塑性物質の双方が挙げられる。適した熱硬化性物質としては、熱、放射線、又は化学処理によって架橋できる樹脂(架橋済み又は架橋可能なポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、エポキシ、及びポリウレタンなど)が挙げられる。熱硬化性物質は、例えば、熱可塑性前駆体としてドナーサブストレート又はLTHC層の上にコーティングし、その後に架橋させて架橋済み下層を形成させてよい。
【0026】
適した熱可塑性物質としては、例えば、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリエステル、及びポリイミドが挙げられる。これらの熱可塑性有機物質は、従来のコーティング技法(例えば溶媒コーティング又はスプレーコーティング)によって塗布してよい。下層は、1つ以上の波長の結像放射線に対し、透過性、吸収性、反射性、又はこれらのうちのいくつかの組み合わせのいずれかであってよい。
【0027】
下層材として適した無機物質としては、例えば、金属、金属酸化物、金属硫化物、及び無機炭素被膜、結像光波長において透過性、吸収性、又は反射性を有する前記物質が挙げられる。前記物質は、従来の技法(例えば真空スパッタリング、真空蒸着、又はプラズマジェット付着)によってコーティングしてもよいし、別の方法で塗布してもよい。
【0028】
この下層は、数多くの利点をもたらし得る。例えば、下層は、LTHC層とドナーサブストレートとの間の熱輸送を管理又は制御する目的で用いてよい。下層は、LTHC層中で発生する熱からサブストレートを絶縁させる目的、又は熱をLTHC層からサブストレートの方に吸収させる目的で用いてよい。ドナー素子内における温度管理と熱輸送は、層を追加することによって、並びに/又は層の特性、例えば、熱伝導率(例えば、熱伝導率の値及び指向性のいずれか又は双方)、吸収剤物質の分布及び/若しくは配向、又は層若しくは層内の粒子の形態(例えば、金属薄フィルム層又は粒子内の結晶成長又は結晶粒形成の配向)を制御することによって、実現させることができる。
【0029】
下層には、例えば、光開始剤、界面活性剤、顔料、可塑剤、及びコーティング助剤を含む添加物を含有させてよい。下層の厚みは、例えば下層の材料、LTHC層の材料及び光学的特性、ドナーサブストレートの材料、結像放射線の波長、熱転写素子への結像放射線の照射持続時間、ドナー素子の全体構造といった要因に依存する。ポリマー下層では、下層の厚みは典型的には0.05ミクロン〜10ミクロンであり、より好ましくは約0.1ミクロン〜4ミクロンであり、より好ましくは約0.5ミクロン〜3ミクロンであり、さらにより好ましくは約0.8ミクロン〜2ミクロンである。無機下層(例えば、金属又は金属化合物下層)では、下層の厚みは典型的には0.005ミクロン〜10ミクロンであり、より好ましくは約0.01ミクロン〜4ミクロンであり、さらにより好ましくは約0.02ミクロン〜2ミクロンである。
【0030】
LITIドナー下層のさらに詳細な説明は、米国特許第6,284,425号に記載されている。
【0031】
光熱変換(LTHC)層
放射線誘起型熱転写では、発光源から放射される光のエネルギーを熱転写ドナーの中に結合させる目的で、LTHC層を熱転写ドナー内に組み込む。LTHC層には典型的に、入射放射線を吸収するとともに、入射放射線の少なくとも一部を熱に変換して転写層を熱転写ドナーからレセプタに転写できるようにする結像放射線吸収剤物質が含まれている。一部の実施形態では、熱転写素子には、LTHC層、及び熱転写ドナーのLTHC層以外の層の1つ以上、例えば、ドナーサブストレート、転写層、任意の中間層、又は任意の剥離層の中に配置されている追加の結像放射線吸収剤物質(単一又は複数)が挙げられる。
【0032】
典型的には、LTHC層(又はその他の層)中の結像放射線吸収剤物質は、電磁スペクトルの赤外線、可視線、及び/若しくは紫外線の領域内、又は特定の波長範囲内の光を吸収する。結像放射線吸収剤物質は、特定の結像放射線を吸収する力があるとともに、0.2〜3、好ましくは0.5〜2の範囲内である結像放射線の波長で光学的吸収をもたらすのに十分な水準で、熱転写素子内に存在している。典型的な放射線吸収剤物質としては、例えば、染料(例えば、可視染料、紫外染料、赤外染料、蛍光染料、及び放射偏光染料)、顔料、有機顔料、無機顔料、金属、金属化合物、金属フィルム、フェリシアニド顔料、フタロシアニン顔料、フタロシアニン染料、シアニン顔料、シアニン染料、及びその他の吸収剤物質を挙げることができる。
【0033】
典型的な結像放射線吸収剤物質の例としては、カーボンブラック、金属酸化物、及び金属硫化物を挙げることができる。典型的なLTHC層の1例としては、カーボンブラックなどの顔料、及び有機ポリマーなどの結合剤を挙げることができる。別の典型的なLTHC層としては、薄いフィルムとして形成されている金属、又は金属/金属酸化物、例えば、ブラックアルミニウム(すなわち外観が黒い部分酸化アルミニウム)を挙げることができる。金属及び金属化合物フィルムは、例えばスパッタリング及び蒸着などの技法によって形成させてよい。粒子被膜は、結合剤といずれかの適したドライ又はウエットコーティング技法を用いて形成させてよい。
【0034】
LTHC層中の結像放射線吸収剤物質として典型的に用いられる染料は、粒子状で存在させるか、結合剤の材料に溶解させるか、又は少なくとも部分的に結合剤の材料中に分散させるかしてよい。分散粒子の結像放射線吸収剤物質を用いる場合、その粒径は、少なくとも一部の場合では、約10ミクロン以下にできるとともに、約1ミクロン以下にしてもよい。典型的な染料としては、スペクトルの赤外線領域内で吸収する染料が挙げられる。このような染料の例は、松岡賢著『赤外線吸収染料(Infrared Absorbing Dyes)』(プレナムプレス(Plenum Press)、ニューヨーク、1990年)、松岡賢著『ダイオードレーザーの染料の吸収スペクトル(Absorption Spectra of Dyes for Diode Lasers)』(ぶんしん出版、東京、1990年)、米国特許第4,722,583号、同4,833,124号、同4,912,083号、同4,942,141号、同4,948,776号、同4,948,778号、同4,950,639号、同4,940,640号、同4,952,552号、同5,023,229号、同5,024,990号、同5,156,938号、同5,286,604号、同5,340,699号、同5,351,617号、同5,360,694号、及び同5,401,607号、欧州特許第321,923号及び同568,993号、並びにK.A.ベイロ(Beilo)ら著『化学学会誌ケミカルコミュニケーションズ(J. Chem. Soc., Chem. Comm.)1993』452〜454ページ(1993年)に記載されている。赤外結像放射線吸収剤物質としては、グランデールプロテクティブテクノロジー社(Glendale Protective Technologies, Inc.)(フロリダ州レークランド(Lakeland))からサイアソーブ(CYASORB)IR−99、IR−126及びIR−165という商品名で市販されているものが挙げられる。特定の結合剤及び/又はコーティング溶媒中での溶解度、特定の結合剤及び/又はコーティング溶媒との相溶性、並びに吸収波長範囲などの要因に基づき、特定の染料を選択してもよい。
【0035】
顔料物質を結像放射線吸収剤物質としてLTHC層内で用いてもよい。典型的な顔料の例としては、カーボンブラック及びグラファイト、並びにフタロシアニン、ニッケルジチオレン、及び米国特許第5,166,024号と同5,351,617号とに記載されているその他の顔料が挙げられる。これらに加えて、例えばピラゾロン系イエロー、ジアニシジン系レッド、及びニッケルアゾ系イエローの銅又はクロム錯体系のブラックアゾ顔料も有用である可能性がある。無機顔料、例えば、ランタン、アルミニウム、ビスマス、スズ、インジウム、亜鉛、チタン、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、イリジウム、ニッケル、パラジウム、銅、銀、金、ジルコニウム、鉄、鉛、及びテルルなどの金属の酸化物及び硫化物を用いることもできる。金属のホウ化物、炭化物、窒化物、炭窒化物、青銅のナノ構造酸化物、及び青銅族と構造的関係のある酸化物(例えば、WO)を利用してもよい。
【0036】
金属結像放射線吸収剤物質は、例えば、米国特許第4,252,671号に記載されているような粒子形状、又は米国特許第5,256,506号に開示されているようなフィルムのいずれかの形で用いてよい。典型的な金属としては例えば、アルミニウム、ビスマス、スズ、インジウム、テルル及び亜鉛が挙げられる。
【0037】
粒子結像放射線吸収剤物質は、結合剤中に分散させてよい。被膜内の結像放射線吸収剤物質の比率(重量%)(比率の算出にあたって溶媒は除外する)は、LTHC内で用いる粒子結像放射線吸収剤物質(単一又は複数)及び結合剤(単一又は複数)にもよるが、一般的には1重量%〜30重量%であり、より好ましくは3重量%〜20重量%、さらにより好ましくは5重量%〜15重量%である。
【0038】
当該技術分野において既知のLTHC層には一般に、紫外線硬化型樹脂系と、小粒子吸収剤物質としてのカーボンブラック顔料分散体が挙げられる。カーボンブラックは安価で、安定性があり、加工し易く、近赤外線結像レーザーの波長である808ナノメートル(nm)及び1064nmで吸収を行う。カーボンブラックのスペクトル特性によって一般に、紫外線硬化しにくく、コーティング中に光学的に検査しにくいLTHC層が得られる。これに加えて、レーザー熱印刷中に発生するのと同じ光熱変換方法のため、紫外線硬化方法中に被膜が熱損傷を受けやすい。硬化方法は典型的には紫外線にしか感光しないとは言うものの、紫外線ランプ照射には、可視線全体にわたる力が備わっており、紫外線が吸収されて熱に変換される。その結果、フィルムサブストレートの熱損傷と変形につながる場合が多い。
【0039】
本発明と整合している実施形態は、結像放射線吸収剤物質と、硬化波長(単一又は複数)の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質が含まれているLTHC層を提供する。一部の実施形態では、結像放射線吸収剤物質は、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を実質的に上昇させない。例えば、一部の実施形態では、結像放射線吸収剤物質は、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を50%超、40%超、30%超、20%超、10%超、又は5%超上昇させることはない(放射線吸収度の上昇率が低いほど好ましい)。別の実施形態では、結像放射線吸収剤物質は、放射線硬化型物質の硬化前に、単一の硬化波長又は複数の硬化波長の範囲内における放射線吸収度を実質的に上昇させず、放射線硬化型物質の硬化前は、10%以内であるのがより好ましい。
【0040】
本発明と整合している別の実施形態では、前記結像放射線吸収剤物質の代わりに、同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われ、結像波長と厚みにおいて同程度の光学密度を有している熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量よりも、未反応の残留硬化型物質の量が実質的に少ない。例えば、一部の実施形態では、未反応の硬化型物質の量は、小粒子吸収剤物質の場合と比べて、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、又は5%未満である(存在している未反応の硬化型物質の量が少ないほど好ましい)。
【0041】
本発明と整合している別の実施形態では、LTHC層の硬化後における未反応の硬化型物質の量は、小粒子吸収剤物質が含まれている熱転写素子中に存在している未反応の硬化型物質の量よりも実質的に少ない。例えば、一部の実施形態では、LTHC層の硬化後に存在している未反応の硬化型物質の量は、小粒子吸収剤物質の場合と比べて、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、又は5%未満である(存在している未反応の硬化型物質の量が少ないほど好ましい)。
【0042】
小粒子吸収剤物質の例は、ペンカラー(Penn Color)(ペンシルバニア州ドイルスタウン(Doylestown))製の9B981D、9B950D及び9B923などの紫外線ペースト中に見られるようなカーボンブラックである。
【0043】
適した放射線硬化型物質としては、放射線硬化型モノマー、オリゴマー、ポリマー及びコ(ポリマー)、とりわけ、アクリレート及びメタ(アクリレート)モノマー、オリゴノマー、ポリマー及びコ(ポリマー)が挙げられる。放射線硬化型物質の硬化をもたらす目的で用いる放射線源は、紫外線帯域(200nm〜400nm)又は可視線帯域(400nm〜700nm)の範囲内で、硬化波長(単一又は複数)の放射線を放射するのが好ましい。一部の実施形態では、硬化をもたらす目的で用いる放射線源は、レーザー又はフラッシュランプにしてよい。
【0044】
LTHC層中の結像放射線吸収剤物質として近赤外線染料又は顔料を用いることによって、放射線硬化型LTHCの形成にあたって処理上及び性能上の利点を数多く得られるであろう。第1に、材料の多くは、硬化波長(単一又は複数)でかなりの放射線を吸収する別の結像吸収剤物質よりも、より効率的にレーザー波長で結像放射線を吸収する材料である。この効力は、言い換えれば、所定のレーザー出力に対して、より少ない結像放射線吸収剤物質充填量を利用できるということであり、より滑らかな表面につながる可能性がある。第2に、特定のLTHCでは、可視スペクトル内で実質的に吸収が行われないことによって、紫外線照射中の無用な光熱変換が回避され、被覆フィルムの熱変形の可能性が低下する。第3に、可視スペクトル内の、より透過率の高いスペクトルウィンドウは、LTHC及び中間層のコーティングを行っている最中、並びに製造現場、顧客先、又はその他の場所でドナーフィルムの最終検査を行っている最中における光検査方法(粒子及びコーティング欠陥の検出)の向上をもたらすことになる。第4に、スペクトルの可視領域の透過性が他よりも高いことによって、レーザーシステムをドナーフィルムを通じて高解像度レセプタサブストレート(例えばディスプレイバックプレーン)に位置合わせ可能になる。第5に、可視領域の透過性が他よりも高いことによってさらに、事前にパターニング済みのドナーフィルムを、パターン付きレセプタサブストレートと位置合わせできるようになる。最後に、紫外線の透過性スペクルウィンドウは、紫外線硬化の効率性の向上(未反応の放射線硬化型物質の残留濃度の低下)、硬化時間の短縮化(処理速度の向上)、及び紫外線ランプの出力設定値の低下(被覆フィルムへの熱損傷の低減)をもたらす。
【0045】
LITI方法における本発明の結像放射線吸収剤物質の利点をより深く理解するためには、近赤外線(NIR)、可視線(VIS)、及び紫外線(UV)という3つのスペクトル領域の光学的特性を考慮する必要がある。レーザー波長は典型的には、近赤外線のスペクトル領域(700nm〜1100nm)に一致することになる。一定のタイプのレーザーに合わせて効率的な結像放射線吸収剤物質にするためには、非小粒子吸収剤物質に典型的に、レーザー波長で顕著な吸収帯を持たせなければならない。好ましい結像放射線吸収剤物質のレーザー波長における効率的な吸収係数は、少なくとも10mL/g−cm、好ましくは10mL/g−cm、より好ましくは10mL/g−cmである。
【0046】
したがって、808ナノメートルのレーザーとともに用いるのに適している結像放射線吸収剤物質の例としては、プルシアンブルー(ピグメントブルー27)、銅フタロシアニン(ピグメントブルー15)及び銅フタロシアニンの多数の置換誘導体、ポリメチン染料が挙げられる。また、適した結像近赤外線(NIR)吸収剤としては、溶剤可溶性シアニン染料、例えば、FEWケミカルズ(FEW Chemicals)(ドイツ、ウォルフェン(Wolfen))製のS0402、S0337、S0391、S0094、S0325、S0260、S0712、S0726、S0455及びS0728、並びに山本化成株式会社(日本、東京)製のYKR−2016、YKR−2100、YKR−2012、YKR−2900、D01−014及びD03−002と、可溶性ポリメチン染料、例えば、アベシア(Avecia)(英国マンチェスター州ブラックリー(Blackley))製のプロ−ジェット(Pro‐Jet)830LDIが挙げられる。本発明の実施形態で有用なその他の結像放射線吸収剤としては、水溶性シアニン染料、例えば、FEWケミカルズ(FEW Chemicals)製のS0121、S0270及びS0378と、可溶性及び不溶性双方のフタロシアニン結像放射線吸収剤、例えば、山本化成製のYKR−1020、YKR−220、YKR−1030、YKR−3020、YKR−3071、YKR−4010、YKR−3030、YKR−3070、YKR−369、D05−003及びYKR−5010、並びにアベシア(Avecia)製のプロ−ジェット(Pro‐Jet)800NP及びプロ−ジェット(Pro‐Jet)830NPが挙げられる。
【0047】
図2A〜2Cは、LTHC層内で用いる代表的な材料のスペクトルを示しているグラフである。図2Aは、LTHC層内のプルシアンブルー(ペンカラー(Penn Color))のスペクトルを示しているグラフである。図2Bは、LTHC層内のプロ−ジェット(Pro‐Jet)830LDI(アベシア)のスペクトルを示しているグラフである。図2Cは、LTHC層内のYKR2900(山本化成)のスペクトルを示しているグラフである。
【0048】
可視スペクトル領域(400nm〜700nm)内の透過性の増加は、目視及び/又は光による検査及び位置合わせの双方にとって重要である可能性がある。これに加えて、紫外線硬化処理中にLTHC層とサブストレートに加わる熱負荷を低下させる、つまり、熱作用によるサブストレートの変形及び劣化の可能性を低減させるであろう。
【0049】
LTHC層内に好ましい近赤外線結像放射線吸収剤物質が含まれているLTHC層は、理想的な光源から発せられる可視領域内の入射パワーの少なくとも20%より多くを伝達させ、前記と同じ範囲にわたり、結像波長におけるLTHC吸収度が好ましくは0.40より多く、より好ましくは0.7より多く、最も好ましくは1.0より多い一定のスペクトルエネルギー分布を有している。LTHC層内にさらに好ましい近赤外線結像放射線吸収剤物質が含まれているLTHC層は、理想的な光源から発せられる可視領域内の入射パワーの少なくとも30%より多くを伝達させ、前記と同じ範囲にわたり、結像波長におけるLTHC吸収度が好ましくは0.40より多く、より好ましくは0.7より多く、最も好ましくは1.0より多い一定のスペクトルエネルギー分布を有している。LTHC層内にさらに好ましい近赤外線結像放射線吸収剤物質が含まれているLTHC層は、理想的な光源から発せられる可視領域内の入射パワーの少なくとも40%より多くを伝達させ、前記と同じ範囲にわたり、結像波長におけるLTHC吸収度が好ましくは0.40より多く、より好ましくは0.7より多く、最も好ましくは1.0より多い一定のスペクトルエネルギー分布を有している。LTHC層内にさらに好ましい近赤外線結像放射線吸収剤物質が含まれているLTHC層は、理想的な光源から発せられる可視領域内の入射パワーの少なくとも50%より多くを伝達させ、前記と同じ範囲にわたり、結像波長におけるLTHC吸収度が好ましくは0.40より多く、より好ましくは0.7より多く、最も好ましくは1.0より多い一定のスペクトルエネルギー分布を有している。
【0050】
同様に、LTHC被膜を通じて伝わる紫外線エネルギー(波長約200nm〜400nm)の量は、LTHC層を容易にUV硬化できることに結びつき、最終的には、残留物の水準、硬化速度、及びLTHC層の熱変形の可能性に影響を及ぼす。近赤外線結像吸収剤物質(特定の実施形態では0.2〜3.0の結像波長における吸収度を実現させるのに十分な水準で存在している)を用いて作製したLTHCコーティングは、利用可能な紫外線領域を通じて強い吸収力を示すことはなく(ポリエステルサブストレートは300ナノメートル未満の紫外線波長を効果的に遮る)、理想的な放射線源から発せられる紫外線領域内の入射パワーの少なくとも15%、より好ましくは20%、さらに好ましくは25%より多く伝達させ、上記と同じ範囲にわたり一定のスペクトルエネルギー分布を有する。その結果、前記被膜は、より小さい総紫外線エネルギー、より早いライン速度、及び/又はより低い紫外線ランプの出力設定値で硬化させることができ、残留物がより少なく、熱変形がより少ない硬化LTHC層をもたらす。
【0051】
上述のとおり、粒子結像放射線吸収剤物質は、結合剤の中に配置してよい。被膜内の結像放射線吸収剤物質の比率(重量%)(比率の算出にあたって溶媒は除外する)は、LTHC内で用いる粒子結像放射線吸収剤物質(単一又は複数)及び結合剤(単一又は複数)にもよるが、一般的には1重量%〜30重量%であり、3重量%〜20重量%であるのがより好ましく、5重量%〜15重量%であるのがさらに好ましい。
【0052】
任意のポリマー結合剤をLTHC層に含有させてよい。LTHC層内で用いるのに適しているポリマー結合剤としては、フィルム形成ポリマー、例えばフェノール樹脂(例えばノボラック樹脂、クレゾール樹脂、及びレゾール樹脂)、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセテート、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリレート、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、及びウレタンアクリレートが挙げられる。その他の適した結合剤としては、重合済み若しくは重合可能であるか、又は架橋済み若しくは架橋可能であるモノマー、オリゴマー、又はポリマーを挙げてよい。一部の実施形態では、結合剤は、重合可能又は架橋可能なモノマー及び/又はオリゴマーを任意のポリマーでコーティングすることを利用して最初に形成させる。ポリマーを結合剤中で用いる場合、結合剤には、ポリマーを1〜50重量%、好ましくは10〜45重量%含有させる(重量%の計算の際には溶媒は除外する)。
【0053】
ドナーサブストレートにコーティング後、モノマー、オリゴマー、及びポリマーを重合及び/又は架橋して、LTHC層を形成させる。一部の場合では、LTHC層の架橋度が低すぎると、LTHC層が、熱による損傷を受けるか、及び/又は転写層を含むレセプタにLTHC層の一部を転写させてよい。
【0054】
少なくとも一部の場合では、熱可塑性樹脂(例えば、ポリマー)を含有させることによって、LTHC層の性能(例えば、転写特性及び/又は被覆性)を向上することができる。熱可塑性樹脂は、LTHC層のドナーサブストレートに対する接着性を向上させることができる。1つの実施形態では、結合剤に、熱可塑性樹脂が25〜50重量%(重量%の計算の際には溶媒は除外する)、及び好ましくは熱可塑性樹脂が30〜45重量%含まれているが、これよりも少ない量の熱可塑性樹脂を用いてもよい(例えば、1〜15重量%)。熱可塑性樹脂は典型的に、結合剤の他の材料との相溶性を持つ(すなわち、1相合成を形成する)ように選定される。『ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)』(J.ブランドラップ(Brandrup)編、第7章、519〜557ページ、1989年)に記載されているように、溶解パラメータを用いて、相溶性を表すことができる。少なくとも一部の実施形態では、溶解パラメータが9〜13(cal/cm1/2、好ましくは9.5〜12(cal/cm1/2である熱可塑性樹脂が結合剤用として選択されている。適した熱可塑性樹脂の例としては、ポリアクリル酸、スチレン−アクリルポリマー及び樹脂、並びにポリビニルブチラールが挙げられる。
【0055】
コーティング方法を円滑にする目的で、従来のコーティング助剤、例えば界面活性剤及び分散剤を加えてもよい。LTHC層は、さまざまなコーティング法を用いてドナーサブストレートの上にコーティングしてよい。少なくとも一部の場合では、ポリマー又は有機LTHC層は、約0.05ミクロン〜約20ミクロン、より好ましくは約0.5ミクロン〜約10ミクロン、さらに好ましくは約1ミクロン〜約7ミクロンの厚みでコーティングされる。少なくとも一部の場合では、無機LTHC層は、0.001ミクロン〜10ミクロン、好ましくは0.002ミクロン〜1ミクロンの厚みでコーティングされる。
【0056】
放射線吸収剤物質は、LTHC層全体にわたって均一に配置することができ、あるいは、不均一に分布させることができる。例えば、米国特許第6,468,715号に記載されているように、不均一なLTHC層を用いて、ドナー素子内の温度プロファイルを制御することができる。これによって、転写特性の向上した(例えば、想定転写パターンと実際の転写パターンの間のフィディリティが向上した)熱転写素子を生み出すことができる。
【0057】
例えば、ドナー素子内で得られる最高温度を制御する目的、及び/又は転写層境界面で得られる温度を制御する目的で、LTHC層に、不均一な分布の吸収剤物質を搭載することができる。例えば、LTHC層には、ドナーサブストレートに近づくほど密度が低くなり、転写層に近づくほど密度が高くなる吸収剤物質分布を持たせることができる。多くの場合では、このような設計によって、厚み及び光学密度が同じである均一なLTHC層に比べて、LTHC層のより深部で、吸収され熱に変換される放射線を多くすることができる。わかりやすくするために、「深部」という用語は、LTHC層内の位置を説明する目的で用いる場合、熱質量転写素子のドナーサブストレート側から測定した、LTHC層の厚み方向の距離を意味する。別の場合では、ドナーサブストレートに近づくほど密度が高くなり、転写層に近づくほど密度が低くなる吸収剤物質分布を有するLTHC層を搭載するのが有用である。
【0058】
LTHC層は、同種又は異種の物質が含まれている2つ以上のLTHC層を組み合わせることによって形成させることもできる。この点については、2つ以上のLTHC層を用いる場合、1つの層のみに、硬化波長における放射線吸収度を実質的に上昇させない結像放射線吸収剤物質を含有させればよい。LTHC構造の別の例については、以下でさらに詳細に論じる。
【0059】
熱質量転写ドナー素子には、不均一なLTHC層を含めることができる。例えば、LTHC層には、厚みによって変化する吸収剤物質の分布を持たせることができる。具体的に言うと、LTHC層には、深部に行くほど上昇する吸収密度を持たせることができる。より一般的には、LTHC層全体において同じ吸収剤物質の分布若しくは密度を変えることによって、又はLTHC層の異なる場所に異なる吸収剤物質又は層を搭載することによって、あるいは、この双方を行うことによって、LTHC層は、変動型吸収係数を有するように設計することができる。本開示の目的上、不均一という用語には、LTHC層内の少なくとも1方向における、材料(単一又は複数)の異方性熱特性又は分布が含まれる。
【0060】
一般に、吸収係数は、LTHC層内の結像放射線の吸収率に比例している。均一なLTHC層では、吸収係数は、厚み全体にわたって一定であり、LTHC層の光学密度は、LTHC層の総厚に吸収係数を乗じた値にほぼ比例している。不均一なLTHC層では、吸収係数は変動することができる。代表的な不均一なLTHC層の吸収係数は、LTHC層の厚みの関数に応じて変動し、光学密度は、LTHCの厚み範囲全体にわたる光学密度の積分値に左右されることになる。
【0061】
不均一なLTHC層には、LTHC層の平面内で変動する吸収係数を持たせることもできる。これに加えて、吸収剤物質は、異方性熱伝導を実現させる目的で、LTHC層の平面内で配向させるか、又は不均一に分散させることができる(例えば、針状磁性粒子を吸収粒子として用いることができるとともに、磁場の存在下で配向させることができる)。このように、LTHC層は、熱エネルギーを前記層の厚みを通じて効率的に伝導させ、転写層に熱を輸送する一方で、より低温の隣接区域、例えば、結像放射線を照射していない区域に放散する熱を少なくする目的で前記層の平面内では熱伝導度が悪くなるように、作製することができる。このような異方性熱伝導を用いて、本発明のドナー素子による熱パターニングの解像度を向上させてよい。
【0062】
同様に、熱を別の層へ又は別の層から遠ざかるように輸送する作用を制御する異方性熱伝導性が備わるように、熱質量転写ドナー素子のその他の層のいずれか(例えばサブストレート、下層、中間層、及び/又は熱転写層)を作製することができる。異方性熱伝導性を有する層を作製する1つの方法は、層内の物質(異なる熱伝導性を含む)の異方性配向又は分布をもたらすことである。別の方法は、1つ以上の層の表面に物理的構造を付与する(例えば、一部の場所の層を他の場所の層よりも薄くする)ことである。
【0063】
層の厚みとともに変動する吸収係数が備わるようにLTHC層を設計することによって、ドナー素子の結像性能を向上させることができる。例えば、厚みと光学密度が同じである均一なLTHC層と比べて、ドナー素子内で得られる最大温度が下がるか、及び/又は、転写温度(すなわち、転写層とLTHCの境界面、又は転写層と中間層の境界面で得られる温度)が上がるように、LTHC層を設計することができる。利点としては、ドナーの過熱によってドナー素子又は転写パターンを損傷させることなく転写特性(例えば、転写感度)の向上をもたらすことのできる結像条件を用いることができる点を挙げることができる。
【0064】
代表的な実施形態では、熱質量転写ドナー素子には、吸収係数が厚みとともに変動するLTHC層が備わっている。このようなLTHC層は、いずれかの適した技法によって作製することができる。例えば、2つ以上の層を連続してコーティング、ラミネート、又はその他の方法で形成させることができ、この場合、前記層の各々の吸収係数は異なっており、それによって、全体として不均一なLTHC層が形成される。層間の境界線は、緩やか(例えば、層間の拡散によって)にも急にもすることができる。不均一なLTHC層は、事前に形成された層の中に物質を拡散させて、厚みとともに変動する吸収係数をもたらすことによって作製することもできる。例としては、吸収剤物質を結合剤の中に拡散させること、酸素をアルミニウム薄層の中に拡散させることなどが挙げられる。
【0065】
不均一なLTHC層を作製する適した方法としては、架橋結合剤中に分散している吸収剤物質を含む2つ以上の層(各層の吸収係数は異なる)を連続的にコーティングするとともに、各コーティング工程の後に架橋を行うか、当該層をすべてコーティングした後に複数の層を一緒に架橋するかするもの、吸収係数が異なる2つ以上の層を連続的に蒸着させるもの、及び吸収係数が異なる2つ以上の層(少なくとも1つの層に、架橋可能な結合剤中に分散している吸収剤物質が含まれているとともに、少なくとも1つの層が蒸着されており、この場合、前記架橋可能な結合剤は、前記特定の層をコーティングした直後、又はその他のコーティング工程を行った後に架橋してよい)を連続的に形成させるものが挙げられるが、これらに限らない。
【0066】
作製することができる不均一なLTHC層の例としては、所望の層数にもよるが、深部領域ほど吸収係数が高い2層構造体、深部領域ほど吸収係数が低い2層構造体、深部へ行くほど吸収係数が順次的に大きくなる3層構造体、深部へ行くほど吸収係数が順次的に小さくなる3層構造体、深部へ行くほど吸収係数が大きくなってから小さくなる3層構造体、深部へ行くほど吸収係数が小さくなってから大きくなる3層構造体などが挙げられる。吸収係数が異なる領域の数が増えるのに伴い、及び/又は領域が薄くなるに伴い、及び/又は領域間の拡散性が増大するのに伴い、連続変動型吸収係数に近づく不均一なLTHC層を形成させることができる。
【0067】
ある1つの実施形態では、深部に行くほど吸収係数が大きくなる不均一なLTHC層は、LTHC層の浅部側からドナー素子に照射する際に、LTHC層内で得られる最大温度を低下させる目的、及びドナー素子の転写温度を上昇させる目的で用いることができる。ドナー素子内の最高温度を低下させる利点は、LTHC層又はその他の層の熱分解又は過熱を原因とする問題の減少であり得る。このような問題としては、転写画像の変形、無用にもLTHC層の部分がレセプタに転写される問題、意図に反して転写画像が断片化する問題、及び転写画像の表面粗度の向上又はその他の物理的若しくは化学的分解(例えば、結像工程中のドナー素子の過熱によって1つ以上の層が力学的に変形することが原因)を挙げることができる。このような問題は、総称して結像欠陥という。本発明と整合している実施形態に従ってLTHC層を設計することの別の利点は、より高出力の放射線源、及び/又はより長いドウェル時間(例えば、より高いレーザー線量)を用いて、転写温度を上昇させることができ、それによって、転写フィデリティが向上する上に、結像欠陥を引き起こすであろうLTHC層内温度を上回らない。
【0068】
本発明と整合している実施形態によるLTHC層は、硬化波長(単一又は複数)の放射線を実質的に吸収する小粒子吸収剤物質又はその他の結像放射線吸収剤物質が含まれている類似のLTHC層よりも高い可視光透過特性を示すであろう。一部の実施形態は、少なくとも部分的に可視光を通すLTHC層を含むLTITドナーフィルムを含む。これによって例えば、製造プロセス中に、LITIドナーフィルムの欠陥の目視検査又はその他のオンライン検査をさらに容易に行うことが可能になる。一部の実施形態では、LITIドナーフィルムは、少なくとも部分的に可視光を通すように、すなわち、事前にパターニング済みのドナーフィルムを、パターニングするレセプタサブストレートと正確に位置合わせできるようにするとともに、パターニングする層の正確な位置決めが必要な複雑な多層電子デバイスの製造を容易にするように、提供される。
【0069】
LTHC層は、多成分転写アセンブリを含む熱転写素子、及びデバイスの単一層又はその他のアイテムを転写する際に用いる熱転写素子を含む、さまざまな熱転写素子で用いることができる。LTHC層は、上述のとおり多層デバイスを形成させるのに有用な熱転写素子、及びその他のアイテムを形成させる際に有用な熱転写素子とともに用いることができる。例としては、熱転写によって形成させることができるカラーフィルター、スペーサ層、ブラックマトリックス層、プリント回路基板、ディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ及び発光型ディスプレイ)、偏光子、z‐軸伝導体、及びその他のアイテム、例えば、米国特許第5,156,938号、同5,171,650号、同5,244,770号、同5,256,506号、同5,387,496号、同5,501,938号、同5,521,035号、同5,593,808号、同5,605,780号、同5,612,165号、同5,622,795号、同5,685,939号、同5,691,114号、同5,693,446号、及び同5,710,097号、並びにPCT特許出願番号98/03346号及び同97/15173号に記載されているものなどのアイテムが挙げられる。
【0070】
任意の中間層
熱転写素子内に、任意の要素として中間層を搭載してよい。任意の中間層は、転写層の転写部分の損傷と汚染を最小限に抑える目的で用いてよく、さらには、転写層の転写部分の変形を軽減させるであろう。中間層はさらに、熱転写素子に対する転写層の接着性に影響を及ぼすか、又は別に、結像及び非結像領域内の転写層の剥離をその他の方法で制御するであろう。典型的には、中間層は耐熱性が高く、結像条件下では、とりわけ転写像が機能しなくなる程度まで変形又は化学分解することはない。中間層は典型的には、転写プロセス中、LTHC層と接触した状態を保つとともに、実質的に転写層とともに転写されることはない。
【0071】
適した中間層としては、例えば、ポリマーフィルム、金属層(例えば、蒸着金属層)、無機物層(例えば、ゾル−ゲル付着層、及び無機酸化物(例えば、シリカ、チタニア及びその他の金属酸化物)の蒸着層)、及び有機/無機複合層が挙げられる。中間層として適している有機材料としては、熱硬化性物質と熱可塑性物質の双方が挙げられる。適した熱硬化性物質としては、架橋済み又は架橋可能なポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、エポキシ、及びポリウレタンを含む、熱、放射線、又は化学処理によって架橋してよい樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。熱硬化性物質は、例えば、熱可塑性前駆体としてLTHC層の上にコーティングした後、架橋して、架橋済み中間層を形成させてよい。
【0072】
適した熱可塑性物質としては、例えば、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリエステル、及びポリイミドが挙げられる。これらの熱可塑性有機物質は、従来のコーティング技法(例えば、溶媒コーティング又はスプレーコーティング)によって塗布してよい。典型的には、中間層で用いるのに適している熱可塑性物質のガラス転移温度(T)は25℃超、より好ましくは50℃超、さらに好ましくは100℃超、さらに好ましくは150℃超である。中間層は、結像放射波長において、光透過性、光吸収性、光反射性、又はこれらの組み合わせであることができる。
【0073】
中間層材料として適している無機物質としては、例えば、金属、金属酸化物、金属硫化物、及び無機炭素コーティングが挙げられ、結像光波長において高い透過性又は反射性を示すこれらの物質が挙げられる。これらの物質は、従来の技法(例えば、真空スパッタリング、真空蒸着、又はプラズマジェット堆積)によって光熱変換層に塗布されることができる。
【0074】
中間層は、数多くの利点をもたらしてよい。中間層は、LTHC層からの物質の移動に対するバリアになってよい。また、熱不安定及び/又は温度感受性物質を移動させることができるように、転写層内の温度調節も行ってよい。例えば、中間層は熱拡散子としての役割を果たし、LTHC層内で得られる温度との関連で、中間層と転写層の境界面の温度を制御することができる。これによって、転写層の品質(すなわち、表面粗度、縁部粗度など)が向上するであろう。中間層の存在によって、プラスチックメモリの向上、又は転写材の変形の軽減につながる。
【0075】
中間層には、添加物、例えば、光開始剤、界面活性剤、顔料、可塑剤、及びコーティング助剤を含有させてよい。中間層の厚みは、例えば、中間層の材料、LTHC層の材料、転写層の材料、結像放射線の波長、及び熱転写素子への結像放射線の照射持続時間といった要因に依存する。ポリマー中間層では、中間層の厚みは典型的には約0.05ミクロン〜約10ミクロンであり、より好ましくは約0.1ミクロン〜約4ミクロン、さらに好ましくは約0.5ミクロン〜約3ミクロン、及びさらに好ましくは約0.8ミクロン〜約2ミクロンである。無機中間層(例えば、金属又は金属化合物中間層)では、中間層の厚みは典型的には約0.005ミクロン〜約10ミクロンであり、より好ましくは約0.01ミクロン〜約3ミクロン、さらに好ましくは約0.02ミクロン〜約1ミクロンである。
【0076】
転写層
熱転写素子内に、転写層を搭載してよい。転写層は一般に、例えば、蒸着又はスパッタリング、均一層としてコーティング、又はデジタル印刷(例えば、デジタルインクジェット印刷又はデジタル電子写真印刷)、リソグラフ印刷、又はマスクを介した蒸着若しくはスパッタリングを用いてパターン状に印刷することによって、LTHC層の上を覆うように形成させる。既述のとおり、LTHC層と転写層の間に、その他の任意の層、例えば、任意の中間層を組み込んでよい。
【0077】
転写層は典型的に、レセプタへ転写するための1つ以上の層を含む。これらの層は、例えば、電子発光物質、又は電子活性物質を含む、有機物質、無機物質、有機金属、及びその他の物質を用いて形成されてよい。転写層は、個別の層を含むものとして記載及び図示してあるが、少なくとも一部の場合では、各層の少なくとも一部を含む界面領域があってもよいことは明らかであろう。これは、例えば、転写層の転写の前、最中、又は後に、層の混合又は層間の物質の拡散が見られる場合に生じるであろう。別の場合では、転写層の転写の前、最中、又は後に、2つの層を完全又は部分的に混合してよい。
【0078】
転写層の1例としては、多層デバイス、例えば、レセプタ上の能動又は受動デバイスを形成させる際に用いる多成分転写アセンブリが挙げられる。一部の場合では、転写層に、能動又は受動デバイスに必要な層のすべてを搭載してよい。別の場合では、能動又は受動デバイスの1つ以上の層をレセプタ上に搭載し、残りの層を転写層に搭載してよい。あるいは、転写層を付着させた後に、能動又は受動デバイスの1つ以上の層をレセプタ上に転写させてもよい。一部の場合では、転写層を用いて、能動又は受動デバイスの1つの層のみ、又はデバイス以外のアイテムの1つ又は複数の層を形成させる。多成分転写アセンブリを用いること(とりわけ、層を混合しない場合)の1つの利点は、熱転写アセンブリを作製するとともに、好ましくは転写中に保持させる場合に、多成分転写アセンブリの層に重要な界面特性を生み出せる点である。層を個別に転写すると、層間の境界面が最適でなくなる可能性がある。
【0079】
熱転写素子には、例えば、電子回路、抵抗器、コンデンサ、ダイオード、整流器、エレクトロルミネセントランプ、記憶素子、電界効果トランジスタ、バイポーラトランジスタ、単接トランジスタ、金属酸化膜半導体(MOS)トランジスタ、金属絶縁体半導体トランジスタ、電荷結合デバイス、絶縁体−金属−絶縁体スタック、有機導電体−金属−有機導電体スタック、集積回路、光検出器、レーザー、レンズ、導波管、格子、ホログラフィック素子、フィルタ(例えば、アドドロップフィルタ、利得等化フィルタ、遮断フィルタなど)、ミラー、スプリッタ、カップラー、コンバイナ、モジュレータ、センサー(例えば、エバネッセントセンサー、位相変調センサー、干渉センサーなど)、光キャビティ、圧電デバイス、強誘電デバイス、薄膜電池、又はこれらの組み合わせ、例えば、光学ディスプレイのアクティブマトリックス配列としての電界効果トランジスタと有機エレクトロルミネセントランプの組み合わせを形成させる際に用いることができる転写層を搭載することができる。その他のアイテムは、多成分転写アセンブリ及び/又は単一層を転写させることによって形成させてよい。
【0080】
熱質量転写ドナー素子から選択的にパターン形成させることができる転写層の例としては、着色剤(例えば、結合剤中に分散又は溶解している顔料及び/又は染料)、偏光子、液晶材料、粒子(例えば、液晶ディスプレイ用スペーサ、磁性粒子、絶縁粒子、導電性粒子)、電子放出物質(例えば、リン光体及び/又は有機エレクトロルミネセント物質)、疎水性物質(例えば、インクジェットレセプタ用パーティションバンク)、親水性物質、多層スタック(例えば、有機エレクトロルミネセントデバイスのような多層デバイス構造)、微細構造又はナノ構造層、フォトレジスト、金属、ポリマー含有層、接着剤、結合剤、酵素、若しくはその他の生体材料、又はその他の適した材料若しくは材料の適した混合物が含まれている転写層が挙げられる。転写層の例は、米国特許第5,725,989号、同5,710,097号、同5,693,446号、同5,691,098号、同5,685,939号、同5,521,035号、同6,221,543号、同6,461,775号及び同6,228,543号、国際公開番号WO97/15173号、WO98/03346号及びWO99/46961号、並びに共通譲渡の米国特許出願番号09/231,724号の文書に開示されている。
【0081】
とりわけ適している転写層には、ディスプレイ用途に適している光学デバイスで有用な材料が挙げられる。フォトリソグラフベースのパターン形成技法よりもよりも少ないプロセス工程を用いて、レセプタ上の1つ以上の材料にパターンを非常に正確かつ精密に形成させる目的で、熱質量転写を行うことができ、すなわち、熱質量転写は、ディスプレイ製造で特に有用である可能性がある。例えば、レセプタへの熱転写後に、転写済み材料によって、単独、又は他の素子(同様の形でパターニングされていてもいなくてもよい)と組み合わせる形でディスプレイで有用である可能性があるカラーフィルタ、ブラックマトリックス、スペーサ、バリア、パーティション、偏光子、遅延層、波長板、有機導電体又は半導体、無機導電体又は半導体、有機レクトロルミネセント層(蛍光及び/又はリン光)、リン光層、有機レクトロルミネセントデバイス、有機トランジスタ、及びその他の素子、デバイス、又はその部分が形成されるように、転写層を作製することができる。
【0082】
一部の実施形態では、転写層は、ドナー素子の上に事前にパターニングされており、放射線誘起型結像プロセスを通じて、事前にパターニング済みの転写層の全部又は一部をレセプタに転写させる。転写層のサブストレートへの転写を容易にする目的で、さまざまな層(例えば、接着層)を転写層の上にコーティングしてよい。
【0083】
LITIパターニング
放射線(例えば、光)を用いる熱転写では、さまざまな放射線発光源を用いることができる。アナログ技法(例えば、マスクを介した照射)では、高出力光源(例えば、キセノンフラッシュランプとレーザー)が有用である。デジタル結像技法では、赤外レーザー、可視レーザー、及び紫外レーザーが特に有用である。適したレーザーとしては例えば、高出力(例えば、100mW以上)のシングルモードレーザーダイオード、ファイバー結合型レーザーダイオード、及びダイオード励起ソリッドステートレーザー(例えば、Nd:YAG及びNd:YLF)が挙げられる。レーザー照射持続時間は、例えば、約0.1マイクロ秒〜100マイクロ秒の範囲内にすることができ、レーザーフルエンスは、例えば、約0.01J/cm〜約1J/cmの範囲内にすることができる。
【0084】
(例えば、高情報量フルカラーディスプレイ用途に合わせて)広いサブストレート区域全体にわたって高いスポット配置精度を要する場合、レーザーは放射線源としてとりわけ有用である。レーザー源は、大型硬質サブストレート(1メートル(m)×1m×1.1mmのガラスなど)と、連続又はシート状フィルムサブストレート(厚さ100ミクロンのポリイミドシートなど)の双方と適合性がある。
【0085】
レセプタへの熱転写
結像の最中、転写層の一部をレセプタに結像及び転写させるために、熱転写素子は典型的にレセプタと密接に接触することになる。少なくとも一部の場合では、圧力又は真空を用いて、レセプタと密接に接触した状態で熱転写素子を保持させてよい。続いて、例えば、有機マイクロエレクトロニクスデバイスを形成させるためにパターンに従って転写層を熱転写素子からレセプタに像様転写する目的で、放射線源を用いて、LTHC層(及び/又は結像放射線吸収剤物質が含まれているその他の層(単一又は複数))を像様な形で(例えば、デジタル処理で、又はマスクを介したアナログ照射によって)加熱してよい。
【0086】
典型的には、任意の中間層及びLTHC層など、熱転写素子の転写層以外の層のいずれも転写させることなく、転写層をレセプタに転写する。ドナー及びレセプタ被膜内の接着剤及び凝集力は、転写層を放射線照射領域内に転写させ、非照射領域内には転写させないように設定するのが好ましい。一部の場合では、中間層を介して透過する結像放射線のレベルを弱めるとともに、転写層の転写済み部分へのいずれかの損傷で、透過放射線と転写層及び/又はレセプタの相互作用が原因となるであろう損傷を軽減させる目的で、反射型中間層を用いることができる。この作用は、レセプタが結像放射線に対する高い吸収性を含む場合に発生するであろう熱損傷を減少させるのにとりわけ有益である。
【0087】
レーザーを照射中は、結像物質からの多重反射を原因とする干渉パターンの形成を最小限に抑えるのが望ましいと思われ、これは、さまざまな方法によって実現させることができる。最も一般的な方法は、米国特許第5,089,372号に記載されているように、入射光のスケールで熱転写素子の表面を効果的に粗面化することである。この粗面化には、入射光の空間コヒーレンスを壊す効果があり、したがって、自己干渉を最小化する。代替的な方法は、サブストレートの片側又は両側の熱転写素子内で反射防止被膜を用いることである。反射防止被膜の利用は既知であり、米国特許第5,171,650号に記載されているように、4分の1波長の厚みの被膜、例えばフッ化マグネシウムによって実施してよい。
【0088】
長さと幅の寸法が1メートル以上である熱転写素子など、大型熱転写素子を用いることができる。動作時、大型転写素子全体にわたってレーザーをラスター化するか、又は他の方法で移動させることができ、前記レーザーを選択的に操作して、所望のパターンに従って熱転写素子の一部を照らす。あるいは、レーザーは静的なものにしてよく、熱転写素子を、レーザーの下で動かしてよい。
【0089】
一部の場合では、デバイスを形成させる際に2つ以上の異なる熱転写素子を連続的に用いることが必要であるか、望ましいか、及び/又は好都合であってよい。例えば、ある1つの熱転写素子を用いて、電界効果トランジスタのゲート電極を形成させてよく、別の熱転写素子を用いてゲート絶縁層と半導電層を形成させてよく、さらに別の熱転写層を用いて、ソース・ドレインコンタクトを形成させてよい。2つ以上の熱転写素子のその他のさまざまな組み合わせを用いてデバイスを形成させることができ、この場合、各熱転写素子によってデバイスの1つ以上の層が形成される。これらの熱転写素子の各々には、多成分転写アセンブリを搭載してよく、又はレセプタへ転写するための単一層しか搭載しなくてもよい。続いて、2つ以上の熱転写アセンブリを連続的に用いて、デバイスの1つ以上の層を付着させる。一部の場合では、2つ以上の熱転写素子の少なくとも1つに、多層転写アセンブリが備わっている。
【0090】
レセプタ
レセプタサブストレートは、ガラス、透明フィルム、反射フィルム、金属、半導体、各種紙、及びプラスチックを含む、特定の用途に適しているアイテムであってよいが、これらに限らない)。例えば、レセプタサブストレートは、ディスプレイ用途に適しているいずれかのタイプのサブストレート又はディスプレイ素子であってよい。液晶ディスプレイ、又は発光型ディスプレイなどのディスプレイで用いるのに適しているレセプタサブストレートとしては、可視光を実質的に通す硬質又は可撓性サブストレートが挙げられる。硬質レセプタサブストレートの例としては、ガラス、インジウム酸化スズ被覆ガラス、低温ポリシリコン、及び硬質プラスチックが挙げられる。
【0091】
適した可撓性サブストレートとしては、実質的に透明かつ透過性であるポリマーフィルム、反射フィルム、非複屈折フィルム、半透過型フィルム、偏光フィルム、多層光学フィルムなどが挙げられる。適したポリマーサブストレートとしては、ポリエステルベース(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセタールなど)、セルロースエステルベース(例えば、セルローストリアセテート、セルロースアセテート)、及び各種結像技術で支持材として用いられるその他の従来型のポリマーフィルムが挙げられる。0.05mm〜2.54mm(すなわち2ミル〜100ミル)の透明ポリマーフィルムベースが好ましい。
【0092】
ガラスレセプタサブストレートの場合、典型的な厚みは0.2mm〜2.0mmである。厚みが1.0mm以下、さらには厚みが0.7mm以下のガラスサブストレートを用いるのが望ましい場合が多い。薄いサブストレートほど、ディスプレイの厚みが薄くなるとともに、重量が軽くなる。ただし、特定の処理、操作、及び組み立て条件では、上記よりも厚いサブストレートが必要になるであろう。例えば、一部の組み立て条件では、サブストレート間に配置されているスペーサの位置を調整する目的で、ディスプレイアセンブリの圧縮が必要になるであろう。より軽量なディスプレイのための薄いサブストレートと、信頼性の高い操作及び処理のための厚いサブストレートという相反する懸案事項のバランスを取って、特定のディスプレイ寸法に合った好ましい構造を実現させることができる。
【0093】
レセプタサブストレートがポリマーフィルムである場合、統合させなければならないディスプレイ動作への干渉を実質的に回避するためには、フィルムは非複屈折フィルムであるのが好ましいと思われ、あるいは、所望の光学的作用を実現させるためには、フィルムは複屈折フィルムであるのが好ましいであろう。代表的な非複屈折レセプタサブストレートは、溶媒キャストさせたポリエステルである。前記ポリエステルの典型例は、9,9−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−フルオレン、及びイソフタル酸、テレフタル酸、又はこれらの混合物から誘導された反復型共重合単位から成るか、又は実質的に成るポリマーから誘導されたものであり、前記ポリマーは、均一なフィルムの形成が可能となるように、オリゴマー(すなわち、分子量が約8000以下である化学種)の含有量が実質的に少ない。このポリマーは、熱転写受像素子内の1つの成分として、米国特許第5,318,938号に開示されている。別の部類の非複屈折サブストレートは、非晶質ポリオレフィン(例えば、ゼオネックス(Zeonex)TMの商品名で日本ゼオン株式会社から販売されているもの)である。代表的な複屈折ポリマーレセプタとしては、米国特許第5,882,774号及び同5,828,488号、並びに国際公開番号WO95/17303号に開示されているような多層偏光子又はミラーが挙げられる。
【0094】
転写層のレセプタサブストレートへの転写を容易にする目的で、さまざまな層(例えば、接着層)を最終レセプタサブストレートの上にコーティングしてよい。多層デバイスの一部を形成させる目的で、その他の層を最終レセプタサブストレートの上にコーティングしてよい。例えば、熱転写素子から転写層を転写する前に、レセプタサブストレート上に形成されている金属アノード又はカソードを含むレセプタサブストレートを用いて、有機発光ダイオード(OLED)又はその他の電子デバイスを形成させてよい。この金属アノード又はカソードは、例えば、レセプタサブストレート上に導電層を付着させるとともに、例えばフォトリソグラフィー技術を用いて1つ以上のアノード又はカソードに層をパターニングすることによって、形成させてよい。
【0095】
LITIドナーによるマイクロエレクトロニクスデバイスの製造
放射線硬化型LTITドナーフィルムを用いて、さまざまな電子デバイス及び光学デバイスを製造することができる。一部の場合では、複数の熱転写素子を用いてデバイス又はその他の物体を形成させてよい。複数の熱転写素子としては、多成分転写アセンブリを含む熱転写素子、及び単一層を転写させる熱転写素子を挙げてよい。例えば、多成分転写アセンブリを含む1つ以上の熱転写素子、及び単一層を転写させる1つ以上の熱転写素子を用いて、デバイス又はその他の物体を形成させてよい。
【0096】
転写層の多成分転写アセンブリを用いて形成する多層デバイスは、例えば電子デバイス又は光学デバイスであってよい。このようなデバイスの例としては、電子回路、抵抗器、コンデンサ、ダイオード、整流器、エレクトロルミネセントランプ、エレクトロルミネセントデバイス、記憶素子、電界効果トランジスタ、バイポーラトランジスタ、単接トランジスタ、MOSトランジスタ、金属−絶縁体−半導体トランジスタ、電荷結合デバイス、絶縁体−金属−絶縁体スタック、有機導電体−金属−有機導電体スタック、集積回路、光検出器、レーザー、レンズ、導波管、格子、ホログラフィック素子、フィルタ(例えば、アドドロップフィルタ、利得等化フィルタ、遮断フィルタなど)、ミラー、スプリッタ、カップラー、コンバイナ、モジュレータ、センサー(例えば、エバネッセントセンサー、位相変調センサー、干渉センサーなど)、光キャビティ、圧電デバイス、強誘電デバイス、薄膜電池、又はこれらの組み合わせが挙げられる。形成可能なその他の導電デバイスとしては、例えば、電極及び導電素子が挙げられる。
【0097】
本発明と整合性のある一部の実施形態は、受動又は能動デバイスの少なくとも一部を形成させる際に用いられる多成分転写アセンブリが含まれている転写層を提供する。例として、1つの実施形態では、転写層に、多層デバイスの少なくとも2つの層を形成させることができる多成分転写アセンブリが含まれている。多層デバイスのこの2つの層は、転写層の2つの層に相当する場合が多い。この例では、多成分転写アセンブリの転写によって形成される層の1つは、能動層(すなわち、デバイス内で、導電層、半導電層、超電導層、導波層、周波数逓倍層、光生成層(例えば、ルミネッセンス層、発光層、蛍光層、又はリン光層)、電子生成層、若しくは、穴生成層として、及び/又はデバイス内で光学又は電子利得をもたらす層として機能する層)である。
【0098】
多成分転写アセンブリの転写によって形成される第2の層は、別の能動層又は動作層(すなわち、デバイス内で、絶縁層、導電層、半導電層、超電導層、導波層、周波数逓倍層、光生成層(例えば、蛍光層又はリン光層)、電子生成層、穴生成層、光吸収層、反射層、回折層、位相遅延層、散乱層、分散層、若しくは拡散層として、及び/又はデバイス内で光学又は電子利得をもたらす層として機能する層)である。また、多成分転写アセンブリを用いて、追加の能動層及び/又は動作層、並びに非動作層(すなわち、デバイスの動作中に機能を発揮することがなく、例えば、転写アセンブリのレセプタサブストレートへの転写を容易にする目的、及び/又は転写アセンブリをレセプタサブストレートに接着させる目的で設けられている層)を形成させてもよい。
【0099】
レセプタへの接着を容易にするために、転写層に、転写層の外面に配置されている接着層を含めてよい。例えば、接着層がレセプタと転写層の他の層の間に電気を通す場合には、接着層は動作層であってよく、例えば、接着層が転写層をレセプタに接着させるのみである場合には、接着層は非動作層であってよい。接着層は、例えば、導電及び非導電性ポリマー、導電及び非導電性充填ポリマー、並びに/又は導電及び非導電性分散体を含む、熱可塑ポリマーを用いて形成してよい。適したポリマーの例としては、アクリルポリマー、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリアセチレン、及び『導電性分子及び導電性ポリマーハンドブック(Handbook of Conductive Molecules and Polymers)』第1〜4巻(H.S.ナルワ(Nalwa)編、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、チチェスター(Chichester)、1997年)に列挙されているようなその他の導電性有機物質が挙げられる。適した導電性分散体の例としては、カーボンブラック、グラファイト、超微粒子インジウムスズ酸化物、超微細アンチモンスズ酸化物、並びにナノフェーズテクノロジーズコーポレーション(Nanophase Technologies Corporation)(イリノイ州バーリッジ(Burr Ridge))及びメテック(Metech)(ペンシルバニア州エルバーソン(Elverson))などの企業から市販されている物質が含まれているインクが挙げられる。
【0100】
転写層には、熱転写素子の残部と接している転写層面の上に配置されている任意の剥離層も含めてよい。この剥離層は、部分的又は完全に、転写層の残部とともに転写させてよく、あるいは、転写層の転写時に、剥離層の実質的にすべてを熱転写素子に残してもよい。
【0101】
転写層は別個の層を用いて形成させてよいが、少なくとも一部の場合では、転写層に、複数の成分、及び/又はデバイス内で複数の用途を含む層を含めてもよいことが分かるであろう。また、少なくとも一部の実施形態では、転写中に、2つ以上の別個の層を一緒に溶融するか、又は他の方法で混合若しくは組み合わせてよいことが分かる。
【0102】
OLEDの製造
OLEDの少なくとも一部を形成させるために多層転写アセンブリを転写することによって、熱転写素子を用いて能動デバイスを形成させることの説明に役立つ非限定例が得られる。多成分転写ユニットの例は、米国特許6,410,201号に記載されている。少なくとも一部の例では、OLEDデバイスに、カソードとアノードの間に挟み込まれている、適した有機材の薄層(単一又は複数)が備わっている。カソードから有機層(単一又は複数)の中に電子を注入させ、アノードから有機層(単一又は複数)の中に正孔を注入させる。注入電荷は、逆帯電電極の方に移動するにつれ再結合して、典型的には励起子と呼ばれている電子−正孔の対を形成させる。これらの励起子、又は励起状態の種は、基底状態に戻る時に、光の形状でエネルギーを発する(例えば、T.ツツイ(Tsutsui)の『MRS紀要』22巻、39〜45ページ(1997年)を参照のこと)。
【0103】
OLED構造の実例は、当業者には既知である(例えば、『有機エレクトロルミネセンス(Organic Electroluminescence)』(ザキヤ・カファフィ(Zakya Kafafi)(編)、CRCプレス(CRC Press)ニューヨーク、2005年)を参照のこと)。OLED構造の実例は、ポリマーマトリックス中に電荷伝達種及び/又は放電種が分散している分子分散ポリマーデバイス(J.キド(Kido)『ポリマー材ベースの有機エレクトロルミネセンスデバイス(Organic Electroluminescent devices Based on Polymeric Materials)』(『ポリマー科学の動向(Trends in Polymer Science)』2巻、350〜355ページ(1994年))を参照のこと)、ポリフェニレンビニレンのようなポリマーの層が電荷伝達種及び/又は放電種として機能する共役ポリマーデバイス(J.J.M.ホールズ(Halls)ら『固体薄フィルム(Thin Solid Films)』276巻、13〜20ページ(1996年)を参照のこと)、蒸着小分子ヘテロ構造デバイス(米国特許第5,061,569号及びC.H.チェン(Chen)ら『分子有機エレクトロルミネセンス材料の最近の成果(Recent Developments in Molecular Organic Electroluminescent Materials)』(『マクロモレキュラーシンポジア(Macromolecular Symposia)』125巻、1〜48ページ(1997年))を参照のこと)、発光電気化学セル(Q.ペイ(Pei)ら、『米国化学会誌(J. Amer. Chem. Soc.)』118巻、3922〜3929ページ(1996年)を参照のこと)、並びに複数の波長の光を発することのできる垂直積層有機発光ダイオード(米国特許第5,707,745号及びZ.シェン(Shen)ら、『科学(Science)』276巻、2009〜2011ページ(1997年)を参照のこと)が挙げられる。異なる色の光の放出は、電子輸送/エミッタ層206内で異なるエミッタ及びドーパントを用いることによって実現させることができる(C.H.チェン(Chen)ら『分子有機エレクトロルミネセンス材料の最近の成果(Recent Developments in Molecular Organic Electroluminescent Materials)』(『マクロモレキュラーシンポジア(Macromolecular Symposia)』125巻、1〜48ページ(1997年))を参照のこと)。
【0104】
その他のOLED多層デバイス構造は、異なる転写層を用いて転写してよい。さらには、別個のエミッタ層を層の間に差し込むこともできる。多層アセンブリをレセプタの上に転写して、OLEDを形成させることができる。例えば、緑色OLEDをレセプタサブストレートの上に転写することができる。続いて青色OLED、次に赤色OLEDを転写してよい。緑色OLED、青色OLED、赤色OLEDの各々は、それぞれ緑色熱転写素子、青色熱転写素子、赤色熱転写素子を用いて別々に転写して、ディスプレイのサブピクセルを形成させる。あるいは、赤色熱転写素子、緑色熱転写素子、及び青色熱転写素子をそれぞれの上部に転写して、米国特許第5,707,745号に開示されているタイプのマルチカラー積層型OLEDデバイスを作製することができる。
【0105】
フルカラーデバイスを形成させるための別の方法としては、数列の正孔輸送層材を付着させ、続いて、正孔輸送材と平行又は垂直に赤色、緑色、及び青色電子輸送/エミッタ多成分転写アセンブリを連続的に付着させるものが挙げられる。フルカラーデバイスを形成させるためのさらに別の方法としては、赤色、緑色、及び青色カラーフィルター(従来型の透過型フィルター、蛍光フィルター、又はリン光体のいずれか)を付着させ、続いて、白色光又は青色光エミッタに対応する多成分転写アセンブリを付着させるものが挙げられる。
【0106】
形成された後は、OLEDは典型的には、ドライバに結合しているとともに、損傷を防ぐ目的で密閉されている。熱転写素子は、適した転写層でコーティングされている小型、又は比較的大型のシートにすることができる。これらのデバイスを転写する際に、レーザー光、又はその他の類似の発光源を用いることによって、熱転写素子から幅の狭いライン、及びその他の形状を形成することが可能になる。レーザー又はその他の光源を用いて、レセプタ(長さと幅が数メートルであるレセプタも含む)上に転写層のパターンを形成することができる。
【0107】
以下の例は、放射線硬化型LITIドナーフィルム、及び本発明と整合性のある一部の実施例による放射線硬化型熱転写素子の利用を例証している。当業者であれば、これらの実施形態による放射線硬化型熱転写素子を用いることのいくつかの利点が分かるであろう。例えば、従来のフォトリソグラフィー法と比べて、処理工程の数が減少するであろう。これは、複数のエッチング及びマスキング工程を用いるのではなく、各OLEDの層の多くを同時に転写するためである。さらには、パターン付き転写素子を作製するのに要する時間も短縮できる。これに加えて、異なる熱素子の同じ結像ハードウェアを用いて複数のデバイスとパターンを作製することができる。
【実施例】
【0108】
【表1】

【0109】
(実施例1)
カーボンブラックとプルシアンブルー(アイアンブルー及びピグメントブルー27としても知られている)を含有させて、808ナノメートルの吸収度が同程度であるLTHC層を調製した。
【0110】
以下の方法でタイプ1を調製した。LTHC溶液の塗布前に、15.2m/分(50フィート/分)のライン速度、及び300ワットの出力で窒素を用いて、ベースフィルムサブストレート(M7Q、バージニア州ホープウェル(Hopewell)のデュポン帝人フィルムズ(DuPont Teijin Films)から入手可能な厚み0.07mm(2.88ミル)のポリエチレンテレフタレート)の内側にコロナ処理を施した。続いて、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて、コロナ処理済みのM7Qフィルム上に、表Iに示されている組成を有するプルシアンブルーベースのLTHC溶液(非小粒子吸収剤)を適用した。約2.8ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、180Rのマイクログラビアを2.7m/分(9.0フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(75/75/80℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)(メリーランド州ゲイサーズバーグ(Gaithersburg))製の、600W/インチ、出力設定70%のDバルブ付きランプから発せられる紫外製(UV)放射のもとで光硬化させた。硬化済み被膜の670nmにおける光学密度は約2.7であった。
【0111】
タイプ2は以下の方法で調整した。リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて、中間層溶液Iを硬化済みLTHC層、タイプ1の上に塗布した。約2.6ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、180Rのマイクログラビアを2.4m/分(8.0フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(40/50/50℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)製の、600W/インチ、出力設定70%のH+バルブ付きランプから発せられる紫外製(UV)放射のもとで光硬化させた。
【0112】
タイプ3は、以下の方法で調製した。LTHC溶液の塗布前に、15.2m/分(50フィート/分)のライン速度、及び300ワットの出力で窒素を用いて、厚み0.07mm(2.88ミル)のポリエチレンテレフタレートであるベースフィルムサブストレートM7Q(バージニア州ホープウェル(Hopewell)のデュポン帝人フィルムズ(DuPont Teijin Films))の内側にコロナ処理を施した。続いて、コロナ処理済みのM7Qフィルム上に、表Iに示されている組成を有する9B950D(小粒子吸収剤)を用いて調製したカーボンブラックベースのLTHC溶液を塗布した。LTHC溶液は、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて塗布した。約0.07mm(2.8ミクロン)の乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、180Rのマイクログラビアを9.78m/分(32.1フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(75/75/80℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)製の、600W/インチ、出力設定70%のDバルブ付きランプから発せられる紫外線(UV)放射のもとで光硬化させた。硬化済み被膜の670nmにおける光学密度は約2.6であった。
【0113】
タイプ4は以下の方法で調製した。リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて、中間層溶液Iを硬化済みLTHC層、タイプ3の上に塗布した。約1.4ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、200Rのマイクログラビアを2.0m/分(6.5フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(40/50/50℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)の600W/インチ、出力設定70%のH+バルブ付きランプから発せられる紫外製(UV)放射のもとで光硬化させた。
【0114】
2つのLTHC層配合の組成は表1に列挙されており、乾燥フィルムは表IIに列挙されている。LTHC層被膜の特性比較データは表IIIに示されている。抽出した未反応のTMPTAはHPLCを用いて割り出した。抽出した未反応の総アクリレートは、サートマー(Sartomer)が公表したTMPTAモノマー中のTMPTAの推定比率(%)でTMPTAの数値を除すことによって算出した。抽出可能データは、プルシアンブルーLTHC層(タイプ1)と、中間層を含むプルシアンブルーLTHC層(タイプ2)のUV透過率の上昇によって、カーボンブラックLTHC層(タイプ3)と中間層を含むカーボンブラックLTHC層(タイプ4)に比べて、いかにコーティング化学反応の向上につながり、抽出可能なTMPTAモノマーの量を大幅に減少させるかを示している。
【0115】
プルシアンブルー及びカーボンブラック充填LTHC層及びドナーフィルムから取った表面粗度データは、タッピングモードの原子間力顕微鏡(AFM)と表面干渉分光法を用いて割り出した。デジタルインストルメントディメンション5000SPM(Digital Instruments Dimension 5000 SPM)という計器を用いて、タッピングモードAFMによる5ミクロン×5ミクロンの領域上の領域プロファイリングを行った。2乗平均平方根(Rq)表面粗度は、前記領域全体を対象に、512×512ピクセルの解像度で割り出した。表面干渉分光法は、VSIモードで動作している光学プロファイラWyko NT3300を用いて行った。2乗平均平方根(Rq)表面粗度は、603ミクロン×429ミクロンのサイズスケールで割り出した。2乗平均平方根値は、タイプ1、2、3及び4のものを表IIIに記載してある。
【0116】
結像放射線吸収剤物質としてプルシアンブルーが含まれているLTHC層と比べて、カーボンブラック充填LTHC層の表面粗度が高いことは、容易に理解できる。これに加えて、中間層をコーティングする前は高い表面粗度を示すカーボンブラック充填LTHC層性能とは対照的に、プルシアンブルーLTHC層の表面粗度は、中間層被膜がない場合は中間層被膜とほぼ一致している。抽出可能物がより少ないこと、表面粗度がより低いことはいずれも、熱転写効率と転写済み画像の質を向上させるのに好都合となる可能性がある。
【0117】
(実施例2)
顔料充填量が異なる一連のLTHC層被膜を表IVに示されている組成から調製した。
【0118】
タイプ5は、以下の方法で調製した。LTHC溶液の塗布前に、15.2m/分(50フィート/分)のライン速度、及び300ワットの出力で窒素を用いて、厚み0.07mm(2.88ミル)のポリエチレンテレフタレートであるベースフィルムサブストレートM7Q(バージニア州ホープウェル(Hopewell)のデュポン帝人フィルムズ(DuPont Teijin Films))の内側にコロナ処理を施した。続いて、コロナ処理済みのM7Qフィルム上に、表IVに示されている組成を有する9S928D(非小粒子吸収剤)が用いられているプルシアンブルーベースのLTHC溶液を塗布した。LTHC溶液は、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて塗布した。約1.25ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、200Rのマイクログラビアを1.9m/分(6.2フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(75/75/80℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)製の、600W/インチ、出力設定70%のDバルブ付きランプから発せられる紫外線(UV)放射のもとで光硬化させた。硬化済み被膜の670nmにおける光学密度は約0.682であった。
【0119】
続いて、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて、中間層溶液IIを硬化済みLTHC層の上に塗布した。約1.16ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、200Rのマイクログラビアを1.3m/分(10.2フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(40/50/50℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)の600W/インチ、出力設定70%のH+バルブ付きランプから発せられる紫外製(UV)放射のもとで光硬化させた。
【0120】
タイプ6は以下の方法で調製した。LTHC溶液の塗布前に、15.2m/分(50フィート/分)のライン速度、及び300ワットの出力で窒素を用いて、厚み0.07mm(2.88ミル)のポリエチレンテレフタレートであるベースフィルムサブストレートM7Q(バージニア州ホープウェル(Hopewell)のデュポン帝人フィルムズ(DuPont Teijin Films))の内側にコロナ処理を施した。続いて、コロナ処理済みのM7Qフィルム上に、表IVに示されている組成を有する9S928D(非小粒子吸収剤)が用いられているプルシアンブルーベースのLTHC溶液を塗布した。LTHC溶液は、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて塗布した。約0.0699mm(2.75ミクロン)の乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、180Rのマイクログラビアを2.6m/分(8.6フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(75/75/80℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)製の、600W/インチ、出力設定70%のDバルブ付きランプから発せられる紫外線(UV)放射のもとで光硬化させた。硬化済み被膜の670nmにおける光学密度は約1.43であった。
【0121】
続いて、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて、中間層溶液IIを硬化済みLTHC層の上に塗布した。約0.03mm(1.18ミクロン)の乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、200Rのマイクログラビアを3.12m/分(10.2フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(40/50/50℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)の600W/インチ、出力設定70%のH+バルブ付きランプから発せられる紫外製(UV)放射のもとで光硬化させた。
【0122】
タイプ7は以下の方法で調製した。LTHC溶液の塗布前に、15.2m/分(50フィート/分)のライン速度、及び300ワットの出力で窒素を用いて、厚み0.07mm(2.88ミル)のポリエチレンテレフタレートであるベースフィルムサブストレートM7Q(バージニア州ホープウェル(Hopewell)のデュポン帝人フィルムズ(DuPont Teijin Films))の内側にコロナ処理を施した。続いて、コロナ処理済みのM7Qフィルム上に、表IVに示されている組成を有する9S928D(非小粒子吸収剤)が用いられているプルシアンブルーベースのLTHC溶液を塗布した。LTHC溶液は、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて塗布した。約2.75ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、180Rのマイクログラビアを2.41m/分(7.9フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(75/75/80℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)製の、600W/インチ、出力設定70%のDバルブ付きランプから発せられる紫外線(UV)放射のもとで光硬化させた。7硬化済み被膜の670nmにおける光学密度は約3.127であった。
【0123】
続いて、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて、中間層溶液IIを硬化済みLTHC層の上に塗布した。約1.16ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、200Rのマイクログラビアを3.11m/分(10.2フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(40/50/50℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)の600W/インチ、出力設定70%のH+バルブ付きランプから発せられる紫外製(UV)放射のもとで光硬化させた。
【0124】
タイプ8(比較対象)は以下の方法で調製した。LTHC溶液の適用前に、15.2m/分(50フィート/分)のライン速度、及び300ワットの出力で窒素を用いて、厚み0.07mm(2.88ミル)のポリエチレンテレフタレートであるベースフィルムサブストレートM7Q(バージニア州ホープウェル(Hopewell)のデュポン帝人フィルムズ(DuPont Teijin Films))の内側にコロナ処理を施した。続いて、コロナ処理済みのM7Qフィルム上に、表IVに示されている組成を有する9B950D(小粒子吸収剤)を用いたカーボンブラックベースのLTHC溶液を塗布した。LTHC溶液は、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて塗布した。約1.25ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、180Rのマイクログラビアを1.5m/分(5.0フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(75/75/80℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)製の、600W/インチ、出力設定70%のDバルブ付きランプから発せられる紫外線(UV)放射のもとで光硬化させた。硬化済み被膜の670nmにおける光学密度は約0.46であった。
【0125】
タイプ9(比較対象)は以下の方法で調製した。LTHC溶液の塗布前に、15.2m/分(50フィート/分)のライン速度、及び300ワットの出力で窒素を用いて、厚み0.07mm(2.88ミル)のポリエチレンテレフタレートであるベースフィルムサブストレートM7Q(バージニア州ホープウェル(Hopewell)のデュポン帝人フィルムズ(DuPont Teijin Films))の内側にコロナ処理を施した。続いて、コロナ処理済みのM7Qフィルム上に、表IVに示されている組成を有する9B950D(小粒子吸収剤)を用いたカーボンブラックベースのLTHC溶液を塗布した。LTHC溶液は、リバースマイクログラビアコーティング法(康井精機のテストコーターモデルCAG−150)を用いて塗布した。約1.25ミクロンの乾燥厚を実現させるために、6.1m/分(20フィート/分)のライン速度を用いるとともに、200Rのマイクログラビアを1.6m/分(5.4フィート/分)に設定した。被膜は、一連の3つのオーブン(75/75/80℃)によってライン内で乾燥させて、フュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)製の、600W/インチ、出力設定70%のDバルブ付きランプから発せられる紫外線(UV)放射のもとで光硬化させた。硬化済み被膜の670nmにおける光学密度は約0.95であった。
【0126】
硬化済み被膜の対応重量比率(%)は表Vに示してある。表VIは、代表的な近紫外線結像放射線吸収剤物質がさまざまな充填量で含まれている表Vの被膜の可視光及び紫外線積分透過特性の比較と、高重量充填量、低重量充填量という2つのカーボンブラックの比較を提供する。結像レーザー波長における光学密度が1.49ほどの高さでも(この場合、入射光の97%が吸収される)、非小粒子吸収剤LTHC層の可視光領域及び紫外線領域の双方における転写は、結像レーザー波長における吸収度が実質的に非小粒子吸収剤LTHC層よりも小さいカーボンブラック充填LTHC層をはるかに上回っている。
【0127】
(実施例3)
実施例2のタイプ7として上述したプルシアンブルーLITIドナーフィルムで、厚み2.75マイクロメートルのLTHC中に21.6%の顔料充填率で分散している結像放射線吸収剤物質としてプルシアンブルー顔料が含まれている放射線硬化型熱転写素子を含むドナーフィルムを用いて、OLED層の放出層のパターニングを行った。
【0128】
レセプタサブストレートは、ITO被覆ガラス(厚み0.7mm)の上で作製した(ITOは、マサチューセッツ州メシューエン(Methuen)のULVACテクノロジーズ(ULVAC Technologies)からS−ITO(150NM)として入手可能である)。約60nmの乾燥厚を実現させるために、前記サブストレートをバイトロン(Baytron)P VP CH8000(マサチューセッツ州ニュートン(Newton)のH.C.スタルク(H.C. Starck))でスピンコートし、続いて、窒素パージオーブン内で5分間、200℃まで加熱した。続いて、約100nmの乾燥厚を実現させるために、被覆サブストレートをHTM−001(ドイツ、フランクフルトのコビオンオーガニックセミコンダクターズ社(Covion Organic Semiconductors, GmbH)製の正孔輸送ポリマー)とトルエンの溶液で、さらにはアルゴンパージグローブボックス内で、スピンコートした。最後に、レセプタ構造を仕上げるために、バルザース(Balzers)の真空槽内において、上部において9.3E−5Pa(10−7トール)の背圧で標準的な熱蒸発手順を用いて、スピロ−TAD(ドイツ、フランクフルトのコビオンオーガニックセミコンダクターズ社(Covion Organic Semiconductors, GmbH))の約20nmの層に真空コーティングを施した。
【0129】
Irppy(イリジウムトリ−フェニルピリジン(Irppy)、緑色リン光染料)が9重量%ドープされている、所望の厚み30nmのTMM004層(コビオン(Covion)が所有権を有するOLEDホスト)を実現させるように制御させたホストと染料の同時蒸発とともに、バルザース(Balzers)の真空槽内において、9.3E−5Pa(10−7トール)の背圧で標準的な熱蒸発手順を用いて、実施例2のタイプ7のLITIドナーフィルムに真空コーティングを施した。次に、レーザー誘起型熱結像(LITI)を用いて、ホスト/染料システムをドナーシートからレセプタ表面に転写した。結像平面において1ワットの出力でシングルモードのNd:YAGレーザーを用いて、前記サブストレートの裏側からドナーを結像した。テレセントリック構造に近い構造の一部としてfθスキャンレンズを用いて像平面上に焦点を合わせたレーザービームとともに、線形検流計のシステムを用いてスキャニングを行った。レーザースポットサイズは、1/eの強度で測定したところ、18×250ミクロンであった。三角形のディザパターン及び400kHzの周波数とともに、1方向スキャンを用いた。ピッチ165ミクロンとともに、所要線幅は110ミクロンであった。転写層には、高い縁部粗度が備わるとともに、熱損傷又は中心線欠陥の可視的兆候はなかった。
【0130】
バルザース(Balzers)の真空槽内において、9.3E−5Pa(10−7トール)の背圧で標準的な熱蒸発手順を用いて、LTTI結像レセプタの上に、引き続き、Balq(100A)/Alq(200A)/LiF(7A)/Al(40A)/Ag(4000A)というスタックをコーティングすることによって、デバイスの製造を終わらせた。前記デバイスを密閉し、得られる光、電流、及び電圧の特徴についてテストした。200ニトにおける当該OLEDデバイスの輝度効率は5.5Cd/A、電圧は6.5Vであった。
【0131】
【表2】

【0132】
【表3】

【0133】
【表4】

【0134】
【表5】

【0135】
【表6】

【0136】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブストレートと、
前記サブストレートの上を覆っている光熱変換層であって、結像放射線吸収剤物質と、
硬化波長の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質を含む光熱変換層と
を含む熱転写素子であって、
前記結像放射線吸収剤物質が、前記硬化波長における放射線吸収度を実質的に上昇させない熱転写素子。
【請求項2】
前記サブストレートの上を覆っている中間層を更に含む、請求項1に記載の熱転写素子。
【請求項3】
前記光熱変換層の上を覆っている転写層を更に含む、請求項1に記載の熱転写素子。
【請求項4】
前記転写層がエレクトロルミネセント物質又は電子活性物質を含んでいる、請求項3に記載の熱転写素子。
【請求項5】
前記結像放射線吸収剤物質が近赤外結像放射線吸収剤物質である、請求項1に記載の熱転写素子。
【請求項6】
前記結像放射線吸収剤物質が、顔料、染料、フェリシアニド顔料、フタロシアニン顔料、フタロシアニン染料、シアニン顔料、又はシアニン染料から成る群の1つ以上から選択される、請求項1に記載の熱転写素子。
【請求項7】
前記結像放射線吸収剤物質が前記放射硬化型物質の硬化前に、前記硬化波長における放射線吸収度を実質的に上昇さることがない、請求項1に記載の熱転写素子。
【請求項8】
サブストレートと、
前記サブストレートの上を覆っている光熱変換層であって、結像放射線吸収剤物質と、
硬化波長の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質を含む光熱変換層と
を含む熱転写素子であって、
前記結像放射線吸収剤物質が、前記硬化波長における放射線吸収度を50%より多く上昇させることがない熱転写素子。
【請求項9】
前記結像放射線吸収剤物質が、前記硬化波長における放射線吸収度を40%より多く上昇させることがない、請求項8に記載の熱転写素子。
【請求項10】
前記結像放射線吸収剤物質が、前記硬化波長における放射線吸収度を30%より多く上昇させることがない、請求項8に記載の熱転写素子。
【請求項11】
前記結像放射線吸収剤物質が、前記硬化波長における放射線吸収度を20%より多く上昇させることがない、請求項8に記載の熱転写素子。
【請求項12】
前記結像放射線吸収剤物質が、前記硬化波長における放射線吸収度を10%より多く上昇させることがない、請求項8に記載の熱転写素子。
【請求項13】
前記結像放射線吸収剤物質が、前記硬化波長における放射線吸収度を5%より多く上昇させることがない、請求項8に記載の熱転写素子。
【請求項14】
前記結像放射線吸収剤物質が前記放射線硬化型物質の硬化前に、前記硬化波長における放射線吸収度を10%より多く上昇させることがない、請求項12に記載の熱転写素子。
【請求項15】
サブストレートと、
前記サブストレートの上を覆っている光熱変換層であって、前記光熱変換層は、結像放射線吸収剤物質と、硬化波長の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質から形成され、前記結像放射線吸収剤物質が前記硬化波長における放射線吸収度を実質的に上昇させない光熱変換層と
を含む熱転写素子であって、
前記結像放射線吸収剤物質の代わりに同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われ、同程度の光学パラメーターと物理的パラメーターを有している熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量よりも、未反応の残留硬化型物質の量が実質的に少ない熱転写素子。
【請求項16】
前記サブストレートの上を覆っている中間層を更に含む、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項17】
前記光熱変換層の上を覆っている転写層を更に含む、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項18】
前記転写層がエレクトロルミネセント物質又は電子活性物質を含む、請求項17に記載の熱転写素子。
【請求項19】
前記結像放射線吸収剤物質が近赤外結像放射線吸収剤物質である、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項20】
前記結像放射線吸収剤物質が、顔料、染料、フェリシアニド顔料、フタロシアニン顔料、フタロシアニン染料、シアニン顔料、及びシアニン染料から成る群の1つ以上から選択される、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項21】
前記小粒子吸収剤物質がカーボンブラックを含む、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項22】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記結像放射線吸収剤物質の代わりに同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われ、同程度の光学パラメーターと物理的パラメーターを有している熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の50%未満である、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項23】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記結像放射線吸収剤物質の代わりに同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われ、同程度の光学パラメーターと物理的パラメーターを有している熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の40%未満である、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項24】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記結像放射線吸収剤物質の代わりに同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われ、同程度の光学パラメーターと物理的パラメーターを有している熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の30%未満である、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項25】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記結像放射線吸収剤物質の代わりに同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われ、同程度の光学パラメーターと物理的パラメーターを有している熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の20%未満である、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項26】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記結像放射線吸収剤物質の代わりに同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われ、同程度の光学パラメーターと物理的パラメーターを有している熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の10%未満である、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項27】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記結像放射線吸収剤物質の代わりに同じ条件下で硬化する小粒子吸収剤物質が使われ、同程度の光学パラメーターと物理的パラメーターを有している熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の5%未満である、請求項15に記載の熱転写素子。
【請求項28】
サブストレートと、
前記サブストレートの上を覆っている光熱変換層であって、前記光熱変換層は、結像放射線吸収剤物質と、硬化波長の放射線の照射によって硬化可能な放射線硬化型物質から生成され、前記結像放射線吸収剤物質が前記硬化波長における放射線吸収度を実質的に上昇させない光熱変換層と
を含む熱転写素子であって、
前記光熱変換層の硬化後における未反応の残留硬化型物質の量が、小粒子吸収剤物質が含まれている熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量よりも実質的に少ない熱転写素子。
【請求項29】
前記サブストレートの上を覆っている中間層を更に含む、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項30】
前記光熱変換層の上を覆っている転写層を更に含む、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項31】
前記転写層がエレクトロルミネセント物質又は電子活性物質を含む、請求項30に記載の熱転写素子。
【請求項32】
前記結像放射線吸収剤物質が近赤外結像放射線吸収剤物質である、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項33】
前記結像放射線吸収剤物質が、顔料、染料、フェリシアニド顔料、フタロシアニン顔料、フタロシアニン染料、シアニン顔料、及びシアニン染料から成る群の1つ以上から選択される、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項34】
前記小粒子吸収剤物質がカーボンブラックを含む、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項35】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記小粒子吸収剤物質を含む前記熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の50%未満である、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項36】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記小粒子吸収剤物質を含む前記熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の40%未満である、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項37】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記小粒子吸収剤物質を含む前記熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の30%未満である、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項38】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記小粒子吸収剤物質を含む前記熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の20%未満である、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項39】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記小粒子吸収剤物質を含む前記熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の10%未満である、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項40】
未反応の残留硬化型物質の量が、前記小粒子吸収剤物質を含む前記熱転写素子中に存在している未反応の残留硬化型物質の量の5%未満である、請求項28に記載の熱転写素子。
【請求項41】
サブストレートと、前記サブストレートの上を覆っているとともに、像感光物質と放射線硬化型物質から形成された光熱変換層とを含む熱転写素子を作製するための方法であって、
前記サブストレートの上に前記光熱変換層をコーティングする工程と、
前記結像放射線吸収剤物質の硬化波長における放射線吸収度を実質的に上昇しないで、前記放射線硬化型物質を放射線硬化させる工程と
を含む、方法。
【請求項42】
有機マイクロエレクトロニクスデバイスを作製するための方法であって、
サブストレートと、前記サブストレートの上を覆っている放射線硬化型光熱変換層と、前記光熱変換層の上を覆っている転写層を含む熱転写素子であって、前記光熱変換層が、結像放射線吸収剤物質と、硬化波長の放射線の照射による硬化が可能な放射線硬化型物質から形成されているとともに、前記結像放射線吸収剤物質が前記硬化波長における放射線吸収度を実質的に上昇させない熱転写素子を提供する工程と、
前記熱転写素子とレセプタを密接に接触させるように配置する工程と、
前記熱転写素子に、結像放射線源から結像放射線を像様式パターンで照射する工程と、
前記像様式パターンに対応する熱転写素子の少なくとも一部をレセプタに転写して、有機マイクロエレクトロニクスデバイスを形成する工程と
を含む方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公開番号】特開2012−186172(P2012−186172A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−108647(P2012−108647)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【分割の表示】特願2008−534708(P2008−534708)の分割
【原出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(308040351)三星モバイルディスプレイ株式會社 (764)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Mobile Display Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】San #24 Nongseo−Dong,Giheung−Gu,Yongin−City,Gyeonggi−Do 446−711 Republic of KOREA
【Fターム(参考)】