説明

放射線計測装置

【課題】原子力発電施設において所定の外的要因により放射線量が変動した場合に、正確な警報設定値に変更する。
【解決手段】放射線計測装置は、原子力発電施設の所定の測定箇所の放射線量を測定する検出部と、検出部により測定された放射線量に応じた測定値が、予め設定されている警報設定値を超えているか否かを判断し、当該判断結果に基づいて警報を発報する制御部とを備える。放射線計測装置は、原子力発電所施設において水素注入により放射線量の測定値が変動したとき、自動追従モードを実行する。自動追従モードでは、水素注入により変動したBG値に基づく警報測定値(BG×n)が、予め設定された警報設定値未満である場合には、警報設定値が直ちに警報測定値となるように更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線計測装置に関する。詳しくは、施設の測定箇所において所定の外的要因により放射線量の測定値に基づくバックグランド値が変動したとき、外的要因により変動したBG値に基づく警報測定値(BG×n)と予め設定されている警報設定値とを比較し、当該比較結果に基づいて予め設定された警報設定値をバックグランド値の変動に応じて更新するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や、病院、大学等の放射線を取り扱う施設には、施設内や機器の放射能量(濃度)を計測するための放射線計測装置が設置されている。原子力発電所を例に説明すると、原子力発電所に設置される放射線計測装置は、給水やタービン、中央制御室等の測定箇所に設置された検出器(モニタ)と、検出器から供給される検出信号に基づいて実際の線量率を表示する表示計と、表示している数値データを常時記録する記録計と、必要に応じてデータの解析、保存を行う制御部とから構成されている。
【0003】
このように構成された放射線計測装置の制御部では、図7(A)に示すように、検出器により測定された測定値と予め設定された警報設定値とを比較し、測定値が警報設定値以上になった場合に警報を発報することにより運転員に注意を喚起している。警報設定値は、原子力発電所の所定の測定箇所の測定値(例えば、過去の運転データ)から求められた値(以下、バックグランド(BG値)という)をn(nは正の実数)倍した値「BG×n倍」により定義されている。また、BG値は、図7(B)に示すように、原子炉を定格出力とし、原子炉内に水素量を一定量注入したときの放射線量の測定値を平均化した値により定義されている。
【0004】
ところで、原子炉の構造材や配管には腐食に強い部材が用いられているが、熱が加えられると、結晶粒界に沿ってクロム欠乏域が発生し、そこに高い引っ張り応力がさらに加わると、高温純水中であっても、酸素濃度が高い場合には結晶粒界に沿って局部的な腐食が発生し、応力腐食割れに発展する可能性がある。
【0005】
そこで、従来から、応力腐食割れに対処するため、沸騰水型原子炉の給水系を介して炉水に水素を注入する、水素注入が広く行われている。例えば、特許文献1には、圧力容器内から流出した炉水の水質を測定し、このデータに基づいて給水系に水素を注入する水素注入量制御装置が提案されている。また、特許文献2には、金属材料の腐食環境の度合いを示す腐食電位および主蒸気系線量率が所定の範囲になるように水素の注入量を制御する水素注入システムが提案されている。これらの水素注入によれば、炉水中の溶存酸素濃度、過酸化水素濃度等を低減させて水質環境を改善し、一次系構造材料の腐食電位を低下させることで、応力腐食割れを防止することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−21554号公報
【特許文献2】特開平9−222495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような従来の水素注入では以下のような問題がある。すなわち、上述した原子力発電所の炉水中において酸素に中性子が当たると放射性同位元素N−16が生成される。この放射性同位元素N−16は、原子炉内に水素が注入されると、揮発性の窒素化合物(HNO3,HNO2,NH3,N2その他)などの混合物となり、窒素化合物(NH3等)の割合が増加し、その一部が主蒸気とともに主タービン系や排ガス系に移行して行く。これにより、タービン建屋などの放射線レベルが高くなり、主タービン・排ガス系に設置されている主蒸気モニタ・排ガス系のモニタ等の指示値が変動してしまう。そのため、上述した警報設定値を算出する際に用いたBG値も変動することになる。
【0008】
ところが、上述したように、警報設定値は予め設定された値で固定されてしまうものであるから、水素注入によりBG値が変動してしまった場合には、先に設定した警報設定値「BG×n倍」を常に満足しているとは限らない。したがって、水素注入によるBG値の変動の有無に係らず、警報設定値を固定した場合、水素注入によりBG値が高くなったときは、「BG×n倍」の値が警報設定値により近づく方向となり、ちょっとした指示変動で不用意に警報が発報してしまうという問題がある。一方、水素注入の量の変動によりBG値が低くなったときは、「BG×n倍」の値が警報設定値から離れる方向となり、本来、「BG×n倍」値が警報を発報すべき値となっているにも係らず警報が発報しないという問題がある。
【0009】
また、上述した説明では、水素注入により原子炉内における施設の放射線量が変動する場合について説明したが、その他の外的要因によっても放射線量が変動する場合が考えられ、このような場合においても、外的要因を考慮した警報設定値の更新作業が必要となることは勿論である。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、原子力発電施設において所定の外的要因により放射線量が変動した場合に、正確な警報設定値に更新することが可能な放射線計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、施設の所定の測定箇所に設置される放射線計測装置であって、測定箇所の放射線量を測定する検出部と、検出部により測定された放射線量に応じた測定値が、予め設定されている警報を発報するか否かの基準を示す警報設定値を超えているか否かを判断し、当該判断結果に基づいて警報を発報する制御部とを備え、制御部は、測定箇所において所定の外的要因により放射線量の測定値が変動したとき、検出部により測定された放射線量に応じた測定値からバックグランド値を取得し、取得した当該バックグランド値に基づいて放射線量が異常か否かを判断するための警報測定値を算出し、算出した当該警報測定値と予め設定されている警報設定値とを比較し、当該比較結果に基づいて予め設定された警報設定値を測定値の変動に応じて更新するものである。
【0012】
本発明において、例えば、原子力発電所施設において水素注入等の外的要因が発生すると、これに伴って、検出部により測定される放射線量の測定値が変動し、バックグランド値(以下、BG値という)も変動する。本発明に係る放射線計測装置では、所定の外的要因が発生した場合に、警報測定値と予め設定されている警報設定値とを比較し、当該比較結果により予め設定された警報設定値を測定値の変動に応じて更新させる。
【0013】
更新方法としては、外的要因により変動したBG値に基づく警報測定値(BG×n)が予め設定された警報設定値未満である場合には、警報設定値が直ちに警報測定値となるように更新される。また、外的要因により変動したBG値に基づく警報測定値(BG×n)が警報設定値以上であって、バックグランド値とn/mとの乗算した値(BG×n/m)が警報設定値を超える場合には、警報設定値が警報測定値となるように更新される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外的要因により変動するバックグランド値に基づく警報測定値と予め設定されている警報設定値とを比較し、当該比較結果に基づいて予め設定された警報設定値を更新することにより、外的要因による変動を考慮した警報設定値を自動追従させることができ、より正確な警報設定値に基づいて警報を発報することができる。その結果、施設における安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る放射線計測装置のブロック構成例を示す図である。
【図2】自動追従モードを説明するための図である(第1の処理)。
【図3】自動追従モードを説明するための図である(第2の処理)。
【図4】放射線計測装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図5】上限リミッター機能付き自動追従モードを説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る放射線計測装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図7】従来の放射線計測装置の警報発報処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下実施の形態とする)について説明する。
<1.第1の実施の形態>
[放射線計測装置の構成例]
まず、本発明に係る放射線計測装置100の構成の一例について説明する。本発明に係る放射線計測装置100は、原子力発電所や、病院、大学等の放射線を使用する施設に適用可能であり、応用腐食割れの発生を防止するために行われる水素注入等の外的要因が発生した場合に、外的要因により変動する測定値に応じて予め設定された警報設定値を更新する自動追従モードを備えるものである。以下では、本発明に係る放射線計測装置100を原子力発電所に適用した場合について説明する。
【0017】
放射線計測装置100は、図1に示すように、制御部10と表示部20と記録部22と警報部24と操作部26とメモリ部28と検出部30と増幅部32とを備えている。制御部10、表示部20、記録部22、警報部24、操作部26、メモリ部28および増幅部32のそれぞれは中央制御室に設けられており、検出部30は原子力発電施設の所定の測定箇所に設置されている。
【0018】
検出部30は、例えば、電離箱式やGM計数管式、シンチレーション式、半導体式等の検出器(モニタ)から構成され、測定箇所における放射線量を測定(連続監視)し、測定により得られた測定値を増幅部32に供給する。本例では、検出部30として、上流側主蒸気管に設置された主蒸気モニタ(放射線モニタ)を示している(図1参照)。増幅部32は、検出部30から供給された測定値の出力バランスを調整したり、測定値を増幅して制御部10に供給する。なお、検出部30側にプリアンプを別途設けても良い。
【0019】
表示部20は、制御部10を介して検出部30から供給された検出信号(測定値)に基づいて、各施設の測定箇所の放射線線量率を表示する。表示方法は、デジタル表示であっても良いし、アナログ表示であっても良い。記録部22は、制御部10を介して検出部30から供給された検出信号(測定値)に基づいて、運転中の各施設の測定箇所における放射線量等を記録する。記録方式は、ペーパーレス型でも良いし、インクジェット等によりペーパーに記録するペーパー型でも良い。中央制御室に配備された運転員は、定期的に表示部20の指示値や、記録部22の記録値をチェックすることにより放射線量の異常の有無を確認できる。
【0020】
警報部24は、例えばスピーカにより構成され、所定の測定箇所において放射線量が警報設定値を超えたときに制御部10から供給される音声信号に基づいて、中央制御室内等に警報を報発する。つまり、放射線量の測定値が異常な上昇を記録した場合に、中央制御室等に配備された運転員に警報により注意を喚起する。
【0021】
操作部26は、例えばキーボードやマウス等により構成され、表示部20の近傍や中央制御室の主盤等に設けられている。操作部26は、自動追従モードや固定モードの切り替え(選択)や各機器の操作等を行うものであり、ユーザの入力操作に応じた操作信号を生成して制御部10に供給する。例えば、水素注入等の外的要因により測定箇所の放射線量が変動して自動追従モードがユーザにより選択された場合に、自動追従モードに対応した操作信号を生成して制御部10に供給する。
【0022】
メモリ部28は、例えば半導体メモリやHDD(Hard Disk Drive)により構成され、検出部30により測定された測定データを記憶する。例えば、後述するように、自動追従モード時において所定周期で取得された測定値を平均化した平均値等を記憶する。
【0023】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)12とROM(Read Only Member)14とRAM(Random Access Memory)16とを有している。ROM14は、放射線計測装置100を動作させるための各種のプログラム等を記録する。RAM16は、CPU12で各種の処理を行うときに得られたデータを一時的に記憶保持する。CPU12は、ROM14に記憶されているプログラムを実行して、放射線計測装置100が所望の動作となるように各部の制御を行う。
【0024】
また、制御部10は、操作部26から供給されるモード選択に応じた操作信号に基づいて、固定モードや自動追従モードを実行する。固定モードでは、検出部30により測定された放射線量に応じた測定値が、予め設定されている警報を発報するか否かの基準を示す警報設定値を超えているか否かを判断し、当該判断結果に基づいて警報を発報する。自動追従モードでは、測定箇所において水素注入等の外的要因により放射線量の測定値が変動を監視し、測定値の変動が検出されたとき、検出部30により測定された放射線量に応じた測定値からBG値を取得し、取得した当該BG値に基づいて放射線量が異常か否かを判断するための警報測定値(BG×n)を算出する。そして、算出した警報測定値と予め設定されている警報設定値とを比較し、この比較結果に基づいて予め設定された警報設定値を測定値の変動に応じてリアルタイム更新する。
【0025】
[自動追従モード]
続けて、自動追従モードについて詳細に説明する。自動追従モードとは、上述したように、水素注入等の外的要因により放射線量(BG値)が変動する場合に、変動したBG値に基づく(BG×n)値と予め設定されている警報設定値との比較結果に応じて、固定された警報設定値を(BG×n)値に更新するモードである。この自動追従モードは、水素注入後におけるBG値が予め設定した警報設定値から離れる方向に変動している場合の第1の処理と、水素注入後におけるBG値が予め設定した警報設定値に接近する方向に変動している場合の第2の処理とを含んでいる。
【0026】
まず、第1の処理について説明する。
(1)BG値に乗算するためのn値を予め設定する。n値は、警報設定値を算出するときに用いたn値と同一の値であり、警報を発報する基準となる警報設定値を超えたか否かを判断するときに用いられる係数である。
(2)検出部30により測定された測定値を例えば10秒周期で取得し、取得した測定値を制御部10のメモリ部28に保存する。10秒周期としたのは、時定数が約10秒であることを考慮したためであり、測定対象により時定数は異なる値となる。
(3)メモリ部28に保存した直近の40回の測定値のうち、「最大値を計測した以降の5回分の測定値」と「最小値を計測した以降の5回分の測定値」を除いた30回の値を取得し、取得した30回の測定値の平均値を算出し、この平均値をBG値としてメモリ部28に保存する。最大値および最小値を計測した以降の5回分を除くこととしたのは、正確な計測を行うためには(元の値に減衰するまでには)、時定数の5倍程度の測定時間を除く必要があるからである。これにより、スパイク状に変化した異常な動き(ノイズ)に対して不用意に設定値が変動することを防止できる。
(4)設定したn値と算出したBG値とを乗算し、水素注入後における(BG×n)値を算出する。
(5)予め設定された警報設定値が上記(4)で算出した(BG×n)値を超過するときには、直ちに警報設定値を自動追従させて(BG×n)値に更新する。これは、水素注入後におけるBG値が予め設定された基準のBG値よりも低下したので、これに伴い、水素注入後の(BG×n)値も警報設定値より下回ってしまい、本来では警報設定値に到達しているにも係らず、警報が発報しないという問題が生じてしまうからである。例えば、図2に示すように、BG値が点Aから点Bの間では、水素注入後の(BG×n)値が警報設定値未満となるので、直ちに警報設定値を水素注入後の(BG×n)値に変更する。一方、BG値が点A以前かつ点B以降の場合には、水素注入後の(BG×n)値が警報設定値以上となるので、警報設定値を予め設定された値に維持(固定)する。
(6)水素注入後の(BG×n)値の計算結果を少数点第x位(xの値は予め設定する)で切捨てることにより、(BG×n)値を丸め処理する。これにより、安全を確保した上で確実に(BG×n)値を満足させることができる。
【0027】
次に、第2の処理について説明する。
(1)n値の設定、測定値のサンプリング、BG値および(BG×n)値の算出方法は、上述した第1の処理の(1)〜(4)までの処理と同様である。
(2)水素注入後におけるBG値にn/mを乗算することにより(BG×n/m)値を算出する。ここで、n/mをBG値に乗算することとしたのは、水素注入後のBG値が予め設定された基準のBG値よりも上昇変動している場合には、BG値が警報設定値に近づいて警報発報までの範囲が狭くなるので(厳しい方向に向かうので)、直ちに警報設定値を追従させる緊急性が低いからである。なお、「m」は2以上の実数であり、この「m」を大きく選定することにより警報設定値の更新タイミングをより早くすることができる。
(3)(BG×n/2)値が警報設定値を超えた場合には、警報設定値を(BG×n)値に更新する。例えば、図3に示に示すように、「m」を2に設定した場合、BG値が点Cから点Dの間では警報設定値を(BG×n)値に更新し、BG値が点C以前かつ点D以降では警報設定値を予め設定された値に固定する。
(4)水素注入後の(BG×n)値の計算結果を少数点第x位(xの値は予め設定する)で切捨てることにより、(BG×n)値を丸め処理する。これにより、安全を確保した上で確実に(BG×n)値を満足させることができる。
【0028】
[固定モード]
続けて、固定モードについて説明する。固定モードとは、放射線量の変動の有無に係らず、警報設定値を最初に設定した値に固定させるモードであり、従来の放射線計測装置100の警報設定値による警報判定処理と同様のモードである。この固定モードは、例えば、水素注入等の外的要因が発生していないような通常の運転時に設定される監視、警報モードである。
【0029】
[放射線計測装置の動作例]
次に、原子力発電所の給水系を介して炉水に水素注入が行われた場合に、ユーザが自動追従モードを選択したときの放射線計測装置100の動作の一例について説明する。なお、自動追従モードが選択されるまでは、固定モードが選択されているものとする。
【0030】
図4に示すように、ステップS10で制御部10は、自動追従モードが選択されたか否かを判断する。自動追従モードが選択されたと判断した場合にはステップS20に進み、自動追従モードが選択されていないと判断した場合には通常の固定モードの処理を実行する。
【0031】
ステップS20で制御部10は、原子力発電施設に設置されている検出部30で測定された運転中における実際の測定値に基づいて(BG×n)値を算出する。本例では、例えば、上流側主蒸気管に設置された検出部30からの測定値に基づいてBG値を算出し、このBG値をn倍することにより(BG×n)値を算出する。なお、(BG×n)値の算出方法は、上述した第1の処理の(1)〜(4)と同様の処理である。(BG×n)値を算出したらステップS30に進む。
【0032】
ステップS30で制御部10は、水素注入後における(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満であるか否かを判断する。水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満であると判断した場合にはステップS40に進み、水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満でないと判断した場合にはステップS50に進む。
【0033】
ステップS40で制御部10は、水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満であると判断した場合には、警報設定値を直ちに(BG×n)値に更新する。例えば、図2に示したように、水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値よりも下回った場合には、予め設定した警報設定値を(BG×n)値となるように更新する。
【0034】
一方、水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満でないと判断した場合、ステップS50で制御部10は、水素注入後のBG値に基づいて算出した(BG×n/2)値が警報設定値を超えているか否かを判断する。水素注入後の(BG×n/2)値が警報設定値を超えていると判断した場合にはステップS60に進む。一方、水素注入後の(BG×n/2)値が警報設定値を超えていないと判断した場合には、水素注入後においてもBG値が正常の範囲内で推移しているものとしてモニタによる監視を継続する。
【0035】
ステップS60で制御部10は、水素注入後の(BG×n/2)値が警報設定値を超えていると判断した場合、警報設定値を水素注入後の(BG×n)値に更新する。例えば、図3に示したように、(BG×n/2)値が予め設定した警報設定値よりも上回った場合には、予め設定した警報設定値を水素注入後の(BG×n)値となるように更新する。
【0036】
このような自動追従モードによる一連の処理が終了し、水素注入による放射線量の変動が減衰(停止)した場合には、自動追従モードから固定モードに切り替えられる。そして、制御部10は、固定モードにおいて施設内の測定箇所の放射線量を測定し、これに基づく(BG×n)値が警報設定値を越えたか否かの監視を継続する。
【0037】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、水素注入等の外的要因により、バックグランド値が変動した場合でも、変動したバックグランド値に基づく(BG×n)値と予め設定されている警報設定値とを比較し、当該比較結果に応じて予め設定された警報設定値を自動追従(更新)させる。これにより、外的要因による変動を考慮した最適な警報設定値に再設定することができ、より正確に警報を発報することができる。その結果、より安全に原子力発電施設の運転を実行することができる。
【0038】
また、自動追従モードと固定モードとを任意に選択可能としているので、プラントや機器の異常により計測値(指示値)が上昇、低下した場合でも、固定モードを選択することにより、誤って警報設定値が自動追従しないような制御を実行できる。これにより、より正確かつ安全に原子力発電施設の運転を行うことができる。
【0039】
<2.第2の実施の形態>
第2の実施の形態では、上記第1の実施の形態で説明した自動追従モードに上限リミッター値を設定し、この上限リミッター値以上に警報設定値が自動更新されていように制御している。なお、上述した第1の実施の形態で説明した放射線計測装置100と共通する構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0040】
[リミッター機能付き自動追従モード]
放射線計測装置100は、リミッター機能付き自動追従モードを有している。このリミッター機能付き自動追従モードでは、外的要因による放射線量の変動に応じて更新される警報設定値が、正常の範囲内(安全上問題とならない許容範囲内)での更新となるように、警報設定値とは別個に上限リミッター値を設けている。例えば、図5に示すように、水素注入後の(BG×n/2)値が警報設定値を超え場合には、警報設定値が水素注入後の(BG×n)値に自動更新される。しかしながら、本実施の形態では、上限リミッター値が予め設定されているので、BG値が点Eから点Fまでの間では(BG×n)値に更新されずに上限リミッター値に制限(変更)される。一方、BG値が点Cから点Eおよび点Fから点Dまでの間は、水素注入後の(BG×n)値が上限リミッター値未満であるので、上述したように(BG×n)値に更新される。
【0041】
[放射線計測装置の動作例]
続けて、原子力発電所の給水系を介して炉水に水素注入が行われた場合に、自動追従モードを選択したときの放射線計測装置100の動作の一例について説明する。なお、第2の実施の形態において、図6に示すステップS100からステップS140までの処理は、上述した第1の実施の形態で説明した図4に示すステップS10からステップS50までの処理と同様であるため、説明を簡略化する。図6に示すように、ステップS100で制御部10は、自動追従モードが選択されたか否かを判断する。自動追従モードが選択されたと判断した場合にはステップS110に進み、自動追従モードが選択されていないと判断した場合には通常の固定モードの処理を実行する。
【0042】
ステップS110で制御部10は、原子力発電所施設に設置された検出部30からの運転中における実際の測定値に基づいて(BG×n)値を算出する。
【0043】
ステップS120で制御部10は、水素注入後における(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満であるか否かを判断する。水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満であると判断した場合にはステップS130に進み、水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満でないと判断した場合にはステップS140に進む。
【0044】
ステップS130で制御部10は、水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満であると判断した場合には、警報設定値を直ちに(BG×n)値に更新する。
【0045】
一方、水素注入後の(BG×n)値が予め設定した警報設定値未満でないと判断した場合、ステップS140で制御部10は、水素注入後のBG値に基づいて算出した(BG×n/2)値が警報設定値を超えているか否かを判断する。水素注入後の(BG×n/2)値が警報設定値を超えていると判断した場合にはステップS150に進む。一方、水素注入後の(BG×n/2)値が警報設定値を超えていないと判断した場合には、水素注入後においてもBG値が正常の範囲内で推移しているものとしてモニタによる監視を継続する。
【0046】
ステップS150で制御部10は、水素注入後の(BG×n/2)値が警報設定値を超えていると判断した場合、水素注入後の(BG×n)値が予め設定された上限リミッター値を超えているか否かを判断する。(BG×n)値が上限リミッター値を超えていると判断したときにはステップS160に進み、(BG×n)値が予め設定された上限リミッター値を超えていないと判断した場合にはステップS170に進む。
【0047】
ステップS160で制御部10は、(BG×n)値が上限リミッター値を超えていると判断した場合、警報設定値を上限リミッター値に更新する。例えば、図5に示したように、BG値の点Eから点Fまでの間は、(BG×n)値が予め設定された警報設定値を超えるので、警報設定値を上限リミッター値に制限する。
【0048】
一方、ステップS170で制御部10は、(BG×n)値が上限リミッター値を超えていないと判断した場合、警報設定値を(BG×n)値に更新する。例えば、図5に示したように、BG値の点Cから点Eおよび点Fから点Dまでの間は、(BG×n)値が上限リミッター値未満であるので、警報設定値を(BG×n)値に更新する。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態によれば、上限リミッター値を設けることにより、警報設定値を適正な範囲で自動追従させることができ、より安全性の向上を図ることができる。
【0050】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。例えば、上述した第1の実施の形態では、自動追従モードと固定モードとの2つのモードを設けて、外的要因の発生に応じてユーザが何れかのモードを選択できるように構成したが、これに限定されることはない。例えば、自動追従モードだけを設けるような構成としても良い。
【符号の説明】
【0051】
10・・・制御部、20・・・表示部、22・・・記録部、24・・・警報部、26・・・メモリ部、30・・・検出部、100・・・放射線計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設の所定の測定箇所に設置される放射線計測装置であって、
前記測定箇所の放射線量を測定する検出部と、
前記検出部により測定された前記放射線量に応じた測定値が、予め設定されている警報を発報するか否かの基準を示す警報設定値を超えているか否かを判断し、当該判断結果に基づいて警報を発報する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記測定箇所において所定の外的要因により放射線量の測定値が変動したとき、前記検出部により測定された放射線量に応じた測定値からバックグランド値を取得し、取得した当該バックグランド値に基づいて前記放射線量が異常か否かを判断するための警報測定値を算出し、算出した当該警報測定値と予め設定されている前記警報設定値とを比較し、当該比較結果に基づいて予め設定された前記警報設定値を前記測定値の変動に応じて更新する
ことを特徴とする放射線計測装置。
【請求項2】
前記制御部が判断する前記警報設定値は、前記施設の測定箇所における過去の運転データにより得られたバックグランド値とn(nは正の実数)とを乗算して得られた値であり、
前記警報測定値は、前記施設の実際の運転中におけるバックグランド値とn(nは正の実数)とを乗算して得られた値である
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項3】
前記制御部は、
所定の外的要因により変動した前記バックグランド値に基づく前記警報測定値が前記警報設定値未満である場合、前記警報設定値が前記警報測定値となるように前記警報設定値を更新する
ことを特徴とする請求項2に記載の放射線計測装置。
【請求項4】
前記制御部は、
mを2以上の正の実数としたとき、所定の外的要因により変動した前記バックグランド値とn/mとの乗算した値が前記警報測定値を超える場合、前記警報測定値が前記警報測定値となるように前記警報設定値を更新する
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の放射線計測装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記警報設定値を許容範囲内に制限するためのリミッター値を設け、前記警報測定値が当該リミッター値を超えるか否かを判断し、当該判断結果により前記警報測定値が前記リミッター値を超えていると判断したとき、前記警報設定値を前記リミッター値に更新する
ことを特徴とする請求項4に記載の放射線計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−128076(P2011−128076A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288280(P2009−288280)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】