説明

放電検出システムおよび放電検出方法、ウェブ材処理装置

【課題】グラビア輪転機等で発生する種々の静電気放電を監視するシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】グラビア輪転機の印刷部3の周辺に、1つまたは複数のアンテナ31を設け、アンテナ31を放電検出装置33に通信可能に接続する。放電検出装置33は、受信した電磁波に応じたアンテナ31の出力データを取得するデータ装置51と出力データの周波数解析を行なう周波数解析装置53、解析された出力データに基づき静電気放電の有無を判定するため放電判定装置55からなり、放電判定装置55は、出力データが所定の値以上で、かつ、特定の周波数成分を検出した場合に、静電気放電が発生したと判定し、警報装置35に警報を発するための信号を送信し、かつ、輪転機制御装置37にグラビア輪転機を停止させるための信号を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア輪転機等、ウェブ材を搬送し処理を行うウェブ材処理装置に用いられる放電検出システムとその検出方法、およびウェブ材処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア輪転機による印刷には、可燃性の有機溶剤を含むインキ等が使用される。この際、空気中の酸素と揮発した有機溶剤が一定の割合で存在する箇所があり、その箇所で帯電物と、帯電物との間で電位差のある導体間で静電気放電が生じると、有機溶剤に着火し、火災が発生する危険性がある。
【0003】
そのため、グラビア輪転機が設置される場所では、静電気放電による火災の発生を防止するため、対策を施す必要がある。対策には、1)帯電物を、静電気放電の発生しない電位まで除電する、2)放電の発生を検出し、警告する等の方法がある。
【0004】
このうち2)の放電の発生を検出し、警告する方法としては、静電グラビア印刷機の稼働中に、放電発生を検出し、警告するものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−129030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、グラビア輪転機の稼働中には、摩擦(剥離)帯電、流動帯電、誘導帯電により帯電し、放電する可能性のあるものが多数存在する。
【0007】
図6は、グラビア輪転機1の概略を示す図である。図6は、グラビア印刷を行う部分のみが図示されているが、グラビア輪転機1は、このほか、印刷用紙を給排紙する給紙部および排紙部等からなる。
【0008】
グラビア輪転機1は、給紙部(不図示)、排紙部(不図示)、および、複数の印刷部3等からなる。各印刷部3で、各色(例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック、特色等)の印刷が行われる。
給紙部(例えば、図6の左側にある)から給紙された印刷用紙5は、複数の搬送ローラ23によって、各印刷部3および印刷部3間を搬送され、この間各色の印刷が行なわれる。印刷が行なわれた印刷用紙5は、排紙部(例えば、図6の右側にある)に排紙される。
【0009】
印刷部3は、圧胴11、版胴13、インキパン15、ドクターブレード21、ファニッシャーロール19、エアシリンダー25、巻込み防止バー29等からなる。インキパン15には、各印刷部3の色のインキ17が入っている。インキ17には、有機溶剤が含まれている。版胴13には印刷用の版が巻き付けられており、版胴13に付着したインキパン15内のインキ17により、版胴13と圧胴11の間を走行する印刷用紙5に印刷が施される。印刷用紙5のインキは、複数の搬送ローラ23に沿って搬送される間に乾燥装置27によって乾燥し、印刷用紙5は、次の印刷部3に搬送される。
【0010】
ドクターブレード21は、版胴13に余分についたインキ17をかき落し、ファニッシャーロール19は、インキパン15内で回転して、インキ17を撹拌して一様にする。エアシリンダー25は、圧胴11へかける圧力を調節し、走行する印刷用紙5に一様な圧力がかかるようにする。巻込み防止バー29は、印刷用紙5の版胴13への巻込みを防止するもので、圧胴11と版胴13の間に設けられる。
印刷用紙5は、紙、セロハン、OPP(biaxial oriented polypropylene:二軸延伸ポリプロピレン)、PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)、ナイロン等のウェブ状部材である。
【0011】
グラビア輪転機1の稼働中には、静電式であるか否かに関わらず、印刷用紙5や圧胴11等では摩擦(剥離)帯電、インキ17では流動帯電による帯電が起こり、また、それらの帯電物付近にある浮遊導体では誘導帯電による帯電が起こり、放電の可能性がある。すなわち、帯電して放電する可能性のある部品が多く存在する。
【0012】
一方、特許文献1に示された方法は、静電グラビア印刷機を対象とする。静電グラビア印刷機は、帯電装置によって圧胴11を帯電させることにより、版胴13のセルについたインキ17を盛り上がらせて、印刷用紙5へのインキの着肉を向上させるものであり、特許文献1に示された方法は、高電圧が印加される電流路における静電気放電を電流量から検出するものである。
【0013】
特許文献1の方法では、静電グラビア印刷の稼働時にのみ静電気放電を検出でき、静電グラビア印刷ではない通常のグラビア印刷の稼働時に、摩擦帯電した圧胴から放電が発生した場合などでは、放電を検出できないという問題がある。また、静電グラビア印刷の稼働時であっても、上記電流路以外の箇所で発生する放電については検出できないという問題もある。
【0014】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、グラビア輪転機等で発生する種々の静電気放電を監視するシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するための第1の発明は、ウェブ材を搬送し所定の処理を行うウェブ材処理装置に用いられる放電検出システムであって、前記ウェブ材処理装置の周囲に配置される、前記ウェブ材処理装置で発生する電磁波を受信するためのアンテナと、前記アンテナと通信可能に接続し、前記アンテナから送信された、前記アンテナで受信された電磁波に対応する出力データの値および/または周波数成分に基づき、静電気放電の有無を判定する放電検出装置と、を具備することを特徴とする放電検出システムである。
【0016】
前記放電検出装置は、前記ウェブ材処理装置の運転を制御する制御装置と通信可能に接続し、静電気放電が有りと判定した場合に、前記制御装置に前記ウェブ材処理装置の運転を停止するための信号を送信する。
また、好ましくは、第1の発明の放電検出システムは、前記放電検出装置と通信可能に接続し、前記放電検出装置により静電気放電が有りと判定された場合に所定の警報を発する警報装置を更に具備する。
さらに、前記ウェブ材処理装置により処理されるウェブ材の表面電位を計測するための表面電位計測装置を更に具備し、前記放電検出装置は、前記表面電位計測装置と通信可能に接続し、前記表面電位計測装置から送信された、前記表面電位計側装置で計測した前記ウェブ材の表面電位に対応する出力データの値に基づき、前記ウェブ材の帯電の有無を判定することも好ましい。
【0017】
第2の発明は、ウェブ材を搬送し所定の処理を行うウェブ材処理装置に用いられる放電検出方法であって、前記ウェブ材処理装置の周囲に配置されるアンテナで、前記ウェブ材処理装置で発生する電磁波を受信する工程と、前記アンテナと通信可能に接続される放電判定装置で、前記アンテナから送信された、前記アンテナで受信された電磁波に対応する出力データの値および/または周波数成分に基づき、静電気放電の有無を判定する工程と、を具備することを特徴とする放電検出方法である。
【0018】
第3の発明は、第1の発明の放電検出システムが設けられた、ウェブ材を搬送し所定の処理を行うウェブ材処理装置である。ウェブ材処理装置は、例えばグラビア輪転機、グラビアコーターやラミネーターである。
【0019】
上記の構成により、アンテナにより静電気放電で発生した電磁波を受信し、当該電磁波に基づき静電気放電の検出を行なう。これにより、広範囲での放電検出が可能となり、グラビア輪転機等のウェブ材処理装置で発生する種々の静電気放電を監視することが可能になる。加えて、警報装置を設けたり、放電時に装置の運転を停止させることにより、放電時に適切な安全対策を施すことができる。アンテナの設置箇所により特定の領域での放電の検出も可能であり、表面電位によるウェブ材の帯電検出と組み合わせることで、より適切かつ迅速な安全対策が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る放電検出システム2の構成を示す概略構成図。
【図2】放電検出システム2における静電気放電検出の流れを示すフローチャート。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る放電検出システム2aの構成を示す概略構成図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る放電検出システム2bの構成を示す概略構成図。
【図5】アンテナ31の出力データの例を示す図。
【図6】グラビア輪転機1の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る放電検出システム2を示す概略構成図である。放電検出システム2は、図6に例示したグラビア輪転機1に設けられる。
【0022】
前述したが、図1(a)あるいは図6に示すように、グラビア輪転機1の印刷部3は、圧胴11、版胴13、インキ17を貯留するインキパン15、ドクターブレード21、ファニッシャーロール19、圧胴用エアシリンダー25、巻込み防止バー29等からなる。また、輪転機制御装置37はシーケンサ等であり、グラビア輪転機1の運転の制御を行なうものである。
【0023】
給紙部または前段の印刷部(不図示)から供給された印刷用紙5は、搬送ローラ23aを介して図のAに示す搬送方向に搬送され、圧胴11と版胴13の間を進み、この際版胴13についたインキパン15のインキ17が印刷用紙5に圧着され、印刷される。印刷された印刷用紙5は、搬送ローラ23bを介して、次段の印刷部または排紙部(不図示)に排出される。
【0024】
放電検出システム2は、アンテナ31、放電検出装置33、警報装置35等より構成される。
【0025】
アンテナ31は、印刷部3の周囲に配置され、グラビア輪転機1による印刷に伴い発生する電磁波を受信する。また、アンテナ31は、放電検出装置33に有線、無線を問わず通信可能に接続され、受信した電磁波に応じた出力データ(電圧データ)を放電検出装置33に送信、出力する。
【0026】
アンテナ31は、電磁波を受信可能であれば種類は問わないが、例えば、ループアンテナ、ダイポールアンテナ、スロットアンテナ等であり、印刷部3の近辺で作業を行うオペレータの邪魔にならない大きさであることが好ましい。例えば、円周30cm以下のループアンテナを使用すればよい。
【0027】
放電検出装置33は、アンテナ31から出力データを受信して、これに基づき放電の有無の判定を行なうとともに、警報装置35、および輪転機制御装置37と通信可能に接続し、放電を検出した場合に所定の制御信号を警報装置35や輪転機制御装置37に送信する。
【0028】
図1(b)に示すように、放電検出装置33は、例えば、アンテナの出力データである電圧データを受信し取得するデータ取得装置51と、取得した出力(電圧)データの周波数解析を行う周波数解析装置53と、解析された出力データより、その(電圧)値(アンテナ31で受信した電磁波の振幅に対応)および/または周波数成分(アンテナ31で受信した電磁波の周波数成分に対応)に基づき、静電気放電の有無を判定する放電判定装置55等により構成される。
【0029】
データ取得装置51は、例えばデータロガー等であり、アンテナ31と通信可能に接続される。
周波数解析装置53は、例えばFFTアナライザ等であり、データ取得装置51、放電判定装置55と通信可能に接続される。周波数は、1GHz程度を解析可能であることが望ましいが、これに限ることはなく、100MHz以下であってもよい。
放電判定装置55は、例えばコンピュータ等であり、CPU、ROM、RAM等の制御部や、HDD等の記憶部、警報装置35および輪転機制御装置37と通信可能に接続する通信部、さらには表示部や入出力部等を備える。記憶部には、周波数解析装置53により解析された出力データの(電圧)値および/または周波数成分に基づき、静電気放電の有無を判定するためのプログラムやデータ、判定結果に基づき警報装置35および輪転機制御装置37に所定の制御信号を送信するためのプログラム等が格納されている。
【0030】
なお、放電検出装置33の構成はこれに限るものではない。例えば周波数解析装置53と放電判定装置55は例えば一体のコンピュータなどによりその機能が実現されていてもよい。
【0031】
警報装置35は、放電検出装置33(放電判定装置55)から送信される上記所定の制御信号に基づき、視覚的または/および聴覚的にグラビア輪転機1のオペレータ等に警報を発するもので、例えば、スピーカー装置や回転灯装置等であるが、オペレータが放電の発生を認識できるものであればよく、これらに限られることはない。
【0032】
次に、図2等を参照しながら、本実施形態の放電検出システム2による静電気放電検出の流れについて説明する。図2は、放電検出システム2による静電気放電検出の流れを示すフローチャートである。
【0033】
図2に示すように、まず、グラビア輪転機1の運転を開始する(ステップS101)。グラビア輪転機1による印刷の開始に伴い、放電検出システム2を稼働し、アンテナ31により電磁波を受信し、放電の監視を開始する(ステップS102)。
【0034】
放電検出装置33は、電磁波の受信に応じてアンテナ31から送信、出力されるアンテナ31の出力(電圧)データを解析して、静電気放電の有無を判定する(ステップS103)。
すなわち、放電検出装置33のデータ取得装置51と周波数解析装置53により取得、解析された、アンテナ31の出力(電圧)データに基づき、放電判定装置55の制御部が放電の有無を判定する。
【0035】
図5は、放電検出装置33により放電の有無を判定するアンテナ31の出力(電圧)データを模式的に示す例である。出力データは、アンテナ31が受信した電磁波に対応するものである。図5(a)は時間と(電圧)値の関係であり、アンテナ31が受信した電磁波の振幅に対応する。また、図5(b)は出力(電圧)データの周波数成分であり、アンテナ31が受信した電磁波の周波数成分に対応する。放電判定装置55の制御部は、このような出力データについて、所定の(電圧)値以上となったか否か判定する。また、制御部は、この出力データの周波数成分に基づき、特定の周波数成分の有無を判定する。
そして、制御部は、出力データが所定の(電圧)値以上で、かつ、特定の周波数成分が検出された場合に、静電気放電が発生したと判定する。
【0036】
アンテナを設置する印刷部3の周辺では、静電気放電以外にも電磁波を発生する装置や部品が存在する。そのため、静電気放電による電磁波と、その他の電磁波を識別できるように、静電気放電を識別するため検出する特定の周波数成分の範囲を予め設定する。さらに、出力データより放電の有無を判定するための、上記所定の(電圧)値、および、特定の周波数成分の有無を判定するための閾値も、予め決定しておく。
【0037】
静電気放電の有無の判定(ステップS103)において、静電気放電が発生した(ステップS103の「有り」)の場合、放電検出装置33(放電判定装置55の制御部)は、輪転機制御装置37にグラビア輪転機1を停止させるための制御信号を送信し、また、警報装置35に、警報を出力するための制御信号を送信する(ステップS110)。
【0038】
警報装置35は、視覚的または/および聴覚的にグラビア輪転機1のオペレータ等に警報を発する。すなわち、スピーカーや回転灯等を作動させる。また、輪転機制御装置37は、グラビア輪転機1の運転を停止する。
この警告に伴い、オペレータは静電気放電の発生源に対策を施し(ステップS111)、その後、再度、グラビア輪転機1の運転を再開する(ステップS101)。
【0039】
一方、静電気放電の有無の判定(ステップS103)において、静電気放電が無いと判定された場合(ステップS103の「無し」)、グラビア輪転機1の運転を継続し(ステップS104)、グラビア輪転機1による印刷物の生産が終了するまで(ステップS105のNO)、放電検出システム2により静電気放電の有無を監視しつつグラビア輪転機1を運転し印刷を継続する。
生産が終了した場合には(ステップS105のYES)、グラビア輪転機1を停止し、処理を終了する。
【0040】
以上に説明した処理の流れにより、アンテナ31で計測される電磁波により、静電気放電を検出することが可能になる。静電気放電の有無の判定処理(ステップS103)では、出力データが所定の(電圧)値以上で、かつ、特定の周波数成分が検出された場合に、静電気放電が発生したと判定したが、電源等他の電磁波発生源がない場合等には、出力データが所定の(電圧)値以上になった場合、または、特定の周波数成分を検出した場合に静電気放電が発生したと判定するようにしてもよい。
これらの判定方法は、プログラムとして予め放電判定装置55の記憶部等に格納しておく。
【0041】
前述したように、アンテナを設置する印刷部3の周辺では、静電気放電以外にも電磁波を発生する装置や部品が存在する。静電気放電の電磁波の周波数帯に応じて、放電検出装置33では、アンテナ31の出力データに対して、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタなどによるフィルタリング処理を行うなどして、必要な周波数帯の電磁波のみを検出できるようにしてもよい。これにより、静電気放電の検出精度は向上する。
【0042】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る放電検出システム2aの構成を示す概略構成図である。グラビア輪転機1の構成は、第1の実施形態に係るグラビア輪転機1と同様である。
【0043】
第2の実施形態に係る放電検出システム2aでは、静電気放電の検出精度を向上するために、アンテナ31が複数設けられている。図3では、アンテナ31の数は2個(アンテナ31aおよびアンテナ31b)であるが、アンテナ31の数は更に増やしてもよい。
放電検出システム2aの他の構成は、第1の実施形態の放電検出システム2と同様であるので、図等には同じ番号を付し、説明を省略する。また、放電検出システム2aによる放電検出方法は、図2を用いて説明した放電検出システム2によるものと同様であるので、説明を省略する。
【0044】
複数のアンテナ31a、31bは、それぞれ、放電検出装置33(データ取得装置51)に接続され、放電検出装置33は、複数のアンテナ31からの出力(電圧)データをもとに静電気放電の有無を判定する。すなわち、放電検出システム2aによる放電検出方法では、図2のステップS103において、放電判定装置55の制御部が、複数のアンテナ31の出力(電圧)データのいずれかが所定の(電圧)値を上回り、かつ、特定の周波数成分を検出した場合に、静電気放電が発生したと判定する。あるいは前述したように、アンテナ31の設置環境によっては、複数のアンテナ31の出力データのいずれかが所定の(電圧)値を上回るか、または、特定の周波数成分を検出した場合に、静電気放電が発生したと判定してもよい。
【0045】
第2の実施形態の放電検出システム2aによっても、第1の実施形態の放電検出システム2と同様の効果が得られる。また、印刷部3近辺には、アースされた金属体など、電磁波を吸収する可能性のあるものが存在するが、放電検出システム2aは、複数のアンテナ31を設けていることにより、静電気放電をより確実に検出することができる。加えて、放電検出装置33により静電気放電の発生箇所を判定し推定することもできる。
【0046】
例えば、アンテナ31a、アンテナ31bのいずれかの出力データのみが放電の発生を示す場合、さらには、アンテナ31aとアンテナ31bの出力データのいずれもが放電の発生を示すが、いずれかの出力データの(電圧)値がより高い場合など、放電検出装置33(放電判定装置55)はこれらの状況に応じていずれかのアンテナ31に近い位置に静電気放電の発生箇所があると判定し、その情報を放電判定装置55の表示部に表示する、あるいはこれに応じて警報装置35により異なる警報を行なうなどして、これをオペレータに示すことにより、静電気放電の発生箇所の特定を容易に行うことが可能になり、復旧を早めることが可能になる。
【0047】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る放電検出システム2bの構成を示す概略構成図である。グラビア輪転機1の構成は、第1、第2の実施形態に係るグラビア輪転機1と同様である。
【0048】
第3の実施形態に係る放電検出システム2bは、第2の実施形態に係る放電検出システム2aに更に表面電位計41(表面電位計測装置)を設けたものである。
【0049】
表面電位計41は、印刷用紙5の帯電に係る表面電位を検出するものであり既知のものを使用可能である。表面電位計41は、圧胴11近辺の、印刷用紙5の近傍で、かつ、印刷用紙5に接触しない位置に設けられる。表面電位計41は、放電検出装置33bと通信可能に接続される。
【0050】
放電検出装置33bには、アンテナ31の出力データを取得するためのデータ取得装置51、周波数解析装置53、放電判定装置55のほか、表面電位計41と通信可能に接続され、表面電位計41からの出力データである、表面電位に応じた電流データもしくは電圧データを受信し取得するためのデータ取得装置57が設けられている。データ取得装置57は、放電判定装置55と通信可能に接続される。データ取得装置57は、例えばデータロガー等である。
放電検出システム2bの他の構成は、第2の実施形態の放電検出システム2aと同様であるので、図等には同じ番号を付し、説明を省略する。
【0051】
放電検出システム2bにおける放電検出方法においては、図2のステップS102で表面電位計41による印刷用紙5の表面電位の計測も開始する。
そして、ステップS103においては、放電判定装置55の制御部は、さらに、表面電位計41からの出力データである電流(電圧)データが、所定の値を上回った場合に、印刷用紙5の帯電が有りと判定し、この場合ステップS110において輪転機制御装置37にグラビア輪転機1を停止させるための制御信号を送るとともに、警報装置35に、警報を出力するための制御信号を送る。上記所定の値は、予め放電判定装置55の記憶部等に格納しておく。警報装置35は、この場合前述の放電検出の場合とは異なる警報を行なうものであってもよい。警報に伴いオペレータは用紙の除電を行なった後、グラビア輪転機1の運転を再開する。
【0052】
第3の実施形態の放電検出システム2bでは、第2の実施形態の放電検出システム2aに加え、表面電位計41を設けていることにより、複数のアンテナの出力データに基づく放電発生箇所の判定を前述したように行うことができるのに加え、更に、表面電位計41からの出力データに基づいて放電が検出された場合には、印刷用紙5の帯電が発生していると判定し、この情報を放電判定装置55の表示部に表示する、あるいはこれに応じて警報装置35により異なる警報を行なうなどして、これをオペレータに示すことにより、用紙の帯電が発生していることが認識でき、これに応じた対策を迅速に行なうことが可能になる。
【0053】
以上のように、1つまたは複数のアンテナ31を設置し、アンテナ31により静電気放電により発生した電磁波を受信し、これに応じたアンテナ31の出力データに基づき放電の検出を行なう。これにより、広範囲での放電検出が可能となり、グラビア輪転機等のウェブ材処理装置で発生する種々の静電気放電を監視することが可能になる。加えて、警報装置を設けたり、放電時に装置の運転を停止させることにより、放電時に適切な安全対策を施すことができる。アンテナ31の設置箇所により特定の領域での放電の検出も可能であり、ウェブ材の表面電位による帯電検出と組み合わせることで、より適切かつ迅速な安全対策を行なうことも可能である。
また、本発明の放電検出システムはウェブ材に印刷処理を行うグラビア輪転機に適用する例を用いて説明したが、勿論適用対象はこれに限られることはなく、ウェブ材を搬送し所定の処理を行うものであれば適用することが可能かつ有効であり、例えばウェブ材に対しラミネート処理を行うラミネーターやウェブ材への塗布処理を行うグラビアコーターなどにも同様に適用することが可能である。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかる放電検出システム等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0055】
1………グラビア輪転機
2、2a、2b………放電検出システム
3………印刷部
5………印刷用紙
11………圧胴
13………版胴
15………インキパン
17………インキ
19………ファニッシャーロール
21………ドクターブレード
23………搬送ローラ
25………圧胴用エアシリンダー
29………巻き込み防止バー
31、31a、31b………アンテナ
33、33b………放電検出装置
35………警報装置
37………輪転機制御装置
41………表面電位計
51、57………データ取得装置
53………周波数解析装置
55………放電判定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ材を搬送し所定の処理を行うウェブ材処理装置に用いられる放電検出システムであって、
前記ウェブ材処理装置の周囲に配置される、前記ウェブ材処理装置で発生する電磁波を受信するためのアンテナと、
前記アンテナと通信可能に接続し、前記アンテナから送信された、前記アンテナで受信された電磁波に対応する出力データの値および/または周波数成分に基づき、静電気放電の有無を判定する放電検出装置と、
を具備することを特徴とする放電検出システム。
【請求項2】
前記放電検出装置は、前記ウェブ材処理装置の運転を制御する制御装置と通信可能に接続し、静電気放電が有りと判定した場合に、前記制御装置に前記ウェブ材処理装置の運転を停止するための信号を送信することを特徴とする請求項1記載の放電検出システム。
【請求項3】
前記放電検出装置と通信可能に接続し、前記放電検出装置により静電気放電が有りと判定された場合に所定の警報を発する警報装置を更に具備することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の放電検出システム。
【請求項4】
前記ウェブ材処理装置により処理されるウェブ材の表面電位を計測するための表面電位計測装置を更に具備し、
前記放電検出装置は、前記表面電位計測装置と通信可能に接続し、前記表面電位計測装置から送信された、前記表面電位計側装置で計測した前記ウェブ材の表面電位に対応する出力データの値に基づき、前記ウェブ材の帯電の有無を判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の放電検出システム。
【請求項5】
ウェブ材を搬送し所定の処理を行うウェブ材処理装置に用いられる放電検出方法であって、
前記ウェブ材処理装置の周囲に配置されるアンテナで、前記ウェブ材処理装置で発生する電磁波を受信する工程と、
前記アンテナと通信可能に接続される放電判定装置で、前記アンテナから送信された、前記アンテナで受信された電磁波に対応する出力データの値および/または周波数成分に基づき、静電気放電の有無を判定する工程と、
を具備することを特徴とする放電検出方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の放電検出システムが設けられた、ウェブ材を搬送し所定の処理を行うウェブ材処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−66898(P2012−66898A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211909(P2010−211909)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】