説明

散布作業機

【課題】散布装置による薬液の散布量を制御する散布作業機の提供。
【解決手段】操作パネルを通じて圧力優先モードが設定されている場合、設定された単位反当たりの散布量を基に散布圧力の設定を行い、目標車速を算出する。散布開始が指示され、目標車速に到達した後、散布を開始する。自動走行制御中に散布量の変更が指示された場合(S24:YES)、目標車速を再計算し(S25)、変更後の目標車速に従って車速の制御を行う(S27)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を散布するための散布装置を備え、散布装置による薬液の散布量を制御する散布作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
走行しながら薬液を散布する散布作業機に関して、単位面積当たりの散布量を一定にするために、作業時の走行速度(車速)に応じてノズル吐出量を調整する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、車速が主、ノズル吐出量が従の関係にあり、車速が速くなるとノズル吐出量を増加させ、車速が遅くなるとノズル吐出量を減少させることによって、単位面積当たりの散布量が一定となるように制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−136902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、ノズル吐出量は散布圧力に比例して大きくなり、噴霧液滴の粒径は小さくなる。逆に、散布圧力が小さくなれば、噴霧液滴の粒径が大きくなる。粒径の小さい液滴ほど、作物への付着性は良くなるが、その一方で農薬の飛散(ドリフト)が起こりやすいとされている。殺菌剤や殺虫剤の散布では、高い散布圧力での散布によって微細な噴霧液滴を発生させ、付着性を高めることが好まれているが、ポジティブリスト制(食品中の残留農薬等に対する規制)の施行によってドリフト対策の必要性が求められる。
【0005】
車速に応じてノズル吐出量を調整する車速連動散布制御装置では、例えば、車速が2倍になった場合には散布圧力を4倍、車速が3倍になった場合には散布圧力を9倍にして自動散布を行う。このように、車速連動散布制御装置では、車速に対して散布圧力の変動範囲が大きいため、適性な圧力範囲から外れることがあり、ドリフトし易い条件で散布する場合があった。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、適性な散布圧力を維持しながら、設定された散布量に見合う車速で自動変速走行が可能な散布作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る散布作業機は、動力源からの動力を無段変速機により変速して走行部に伝えて走行駆動するように構成した走行装置と、前記無段変速機により前記走行装置の車速を制御する車速制御部と、タンクに貯留された薬液をノズルから散布する散布装置と、前記ノズルによる薬液の散布圧力を制御する圧力制御部とを備える散布作業機において、単位面積当たりの薬液の散布量に係る設定を受付ける設定手段と、前記ノズルによる薬液の散布圧力を一定にした状態で、前記車速制御部が車速を制御することにより、前記設定手段で設定された散布量を実現する第1の散布方式、又は車速に応じて前記圧力制御部が散布圧力を制御することにより、前記設定手段で設定された散布量を実現する第2の散布方式の選択を受付ける選択手段とを備え、該選択手段で選択された散布方式に応じて、前記車速制御部による車速の制御及び前記圧力制御部による散布圧力の制御を実行するようにしてあることを特徴とする。
【0008】
本発明にあっては、第1の散布方式が選択された場合、散布圧力を一定に維持した状態で車速を制御することにより、設定された散布量での散布作業を実現し、第2の散布方式が選択された場合、車速に応じて散布圧力を制御することにより設定された散布量での散布作業を実現する。
【0009】
本発明に係る散布作業機は、散布量又は散布圧力の変更を受付け、変更後の散布量又は散布圧力に応じて目標とする車速を算出する手段を備え、該手段により算出された車速に基づき、前記車速制御部が車速を制御するようにしてあることを特徴とする。
【0010】
第1の散布方式では、散布量又は散布圧力を変更する場合であっても、車速が自動的に制御されるため、ギアチェンジなどの操作が不要となり、作業性が向上する。
【0011】
本発明に係る散布作業機は、前記設定手段により設定された散布量を実現した際の車速及び散布圧力を記憶する記憶手段を備え、該記憶手段に記憶された車速及び散布圧力を参照して、前記車速制御部による車速の制御及び前記圧力制御部による散布圧力の制御を実行するようにしてあることを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、過去の作業履歴を参照して、車速及び散布圧力を制御することにより、適性な車速及び散布圧力での散布作業を実現することができる。
【0013】
本発明に係る散布作業機は、散布目的に応じて規定した散布圧力を記憶する記憶手段と、散布目的の設定を受付ける手段とを備え、設定された散布目的に応じて前記記憶手段から読み出した散布圧力を、目標とする散布圧力として設定するようにしてあることを特徴とする。
【0014】
本発明にあっては、除草、消毒などの散布目的に応じて適切な散布圧力が設定される。
【0015】
本発明に係る散布作業機は、複数種のノズルを装着可能になしてあり、ノズルの種類に応じて規定した散布圧力を記憶する記憶手段と、装着すべきノズルの選択を受付ける手段とを備え、選択されたノズルに応じて前記記憶手段から読み出した散布圧力を、目標とする散布圧力として設定するようにしてあることを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、除草用のノズル、消毒用のノズル、潅水用のノズル等のノズルの種類に応じて適切な散布圧力が設定される。
【0017】
本発明に係る散布作業機は、散布圧力を計測する計測手段を備え、該計測手段が計測した散布圧力に基づき、前記圧力制御部が散布圧力を制御するようにしてあることを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、経年変化等により調圧弁の性能が変化した場合であっても、設定された散布圧力を維持することができる。
【0019】
本発明に係る散布作業機は、前記車速制御部が、前記目標とする車速を含む所定範囲内で車速を制御するようにしてあることを特徴とする。
【0020】
本発明にあっては、主変速レバー等を用いて手動で車速を制御することを許容すると共に、目標車速に近づいた場合には、自動制御による車速の微調整が可能となる。
【0021】
本発明に係る散布作業機は、前記車速制御部により車速を制御している場合に、車速を変更させる操作を受付けたとき、前記車速制御部による制御を停止する手段を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、作業者の手により車速が変更された場合、車速の自動制御を停止することができるため、安全性を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明による場合は、第1の散布方式が選択された場合、散布圧力を一定に維持した状態で車速を制御することにより、設定された散布量での散布作業を実現するため、散布環境に適した散布圧力及び散布量を維持することができる。このため、単位面積当たりの散布量を一定にすることができ、農薬の過剰散布がなくなり、環境への負荷を低減することができる。
【0024】
また、散布開始から散布終了まで、散布圧力を一定に維持することができるため、圧力変動による散布ムラ及び付着ムラが無くなり、均一な防除効果を期待することができる。
【0025】
更に、車速を自動制御することができるため、ギアチェンジなどの操作が不要となり、作業性を向上させることができる。
【0026】
また、本発明による場合は、第2の散布方式として、車速に応じて散布圧力を制御する散布方式も選択可能である。これにより、散布環境に応じて散布方式を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施の形態に係る散布作業機の側面図である。
【図2】本実施の形態に係る散布作業機の平面図である。
【図3】エンジン駆動力の伝動機構を示すスケルトン図である。
【図4】薬液の流路を説明する模式図である。
【図5】本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成を示すブロック図である。
【図6】操作パネルの模式図である。
【図7】散布モード設定時の画面例を示す模式図である。
【図8】散布量の自動制御に係る処理手順を説明するフローチャートである。
【図9】散布量の自動制御に係る処理手順を説明するフローチャートである。
【図10】散布量の自動制御に係る処理手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
実施の形態1.
図1は本実施の形態に係る散布作業機の側面図、図2はその平面図である。本実施の形態に係る散布作業機は具体的にはトラクタであり、トラクタの走行機体2は、左右一対の前輪3L,3R及び後輪4L,4Rにより支持されている。走行機体2の前部にはエンジン20がボンネット6に覆われた状態で搭載されており、エンジン20にて後輪4L,4R(又は前輪3L,3R及び後輪4L,4Rの双方)を駆動することにより、トラクタは前進又は後進するように構成されている。
【0029】
走行機体2は、前バンパ12及び前車軸ケース13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部に着脱自在に設置される左右の機体フレーム16とを有する。走行機体2の中央部にはエンジン20に燃料を供給する燃料タンク11が設けられている。機体フレーム16の後部には、エンジン20からの回転動力を適宜変速して前輪3L,3R及び後輪4L,4Rに伝達するための走行変速機構を有するミッションケース17が搭載されている。後輪4L,4Rは、ミッションケース17の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース18を介して取り付けられている。
【0030】
また、走行機体2の上面には運転キャビン7が設置されており、運転キャビン7には操縦座席8が設置されている。操縦座席8の前方には操縦コラム90が設けられており、操縦コラム90の左右方向の略中央部分には前輪3L,3Rの走行方向を左右に動かすステアリングホイール9が設置されている。操縦コラム90下方の右側には、左右の後輪4L,4Rに制動を掛けるための左右のブレーキペダル91L,91Rが配設されている。また、操縦コラム90下方の左側にはエンジン20の駆動力を遮断するためのクラッチペダル92が配設されている。
【0031】
操縦座席8の右側にはサイドコラム80が設けられており、このサイドコラム80には、作業機昇降レバー81、PTO変速レバー82、トラクタの前後進を切り替えるためのリバーサレバー83、走行速度(車速)を切り替えるための主変速レバー84が設けられている。また、主変速レバー84の近傍であって、運転キャビン7の右側面部には、後述するスプレーヤ(散布装置)の動作を制御するための操作パネル及びコントローラが設けられている(図5を参照)。これらの操作パネル及びコントローラは、散布作業時に後付けで接続されるものであり、後述するように、トラクタ側のコントローラとCAN(Controller Area Network)により通信可能に構成している。
なお、説明のため、図2には運転キャビン7の外装部分を示していない。
【0032】
ミッションケース17の後部上面には、作業機を昇降移動させる油圧式の昇降機構42が着脱可能に取り付けられる。本実施の形態では、薬液を散布するための作業機であるスプレーヤ30が、一対の左右ロワーリンク71,72及びトップリンク73からなる3点リンク機構を介して昇降機構42に連結される。ミッションケース17には、エンジン20からの回転動力の一部をPTO軸60(図3を参照)に伝達するためのPTO変速機構が内蔵されており、PTO変速機構により回転動力の大きさが無段階に調節されて、スプレーヤ30に伝達される。
【0033】
スプレーヤ30は、薬液を貯留する薬液タンク31、複数のノズル32,32,…,32を備えたブーム33、ブーム33を駆動するブーム駆動機構40、エンジン20からの動力を得て薬液タンク31内の薬液をノズル32,32,…,32へ圧送する噴霧ポンプ34を備える。
【0034】
ブーム33は、走行機体2の後方に装着され、農薬を散布する目的地までの移動走行時においては走行機体側に寄せて格納状態とされ、圃場において農薬を散布する際には、ブーム33を横方向に延ばした伸長状態として使用する。この場合、走行機体2の後方に薬液を散布する後方ブーム33B、及び後方ブーム33Bの両端に枢支して、走行機体2の側方に設けられる左右の側方ブーム33L,33Rを備える。それぞれのブーム33B,33L,33Rには、ノズル32が適宜の間隔を隔てて配設される。
なお、ブームを横方向に移動させる方法の他に、折り畳みによる方法をとるものもある。
【0035】
後方ブーム33Bと側方ブーム33L,33Rとの間には、それぞれブーム開閉シリンダ41L,41Rが介装され、これらのブーム開閉シリンダ41L,41Rを伸縮させることによって、側方ブーム33L,33Rを左右水平方向へ延設した作業位置と、走行機体2の前後方向で前上がりに位置させた収納位置との間を回動可能としている。
【0036】
また、作業機用昇降機構70は、昇降用シリンダ78により作業機本体とブーム架台79を連結し、昇降用シリンダ78を伸縮させることによってブーム架台79に装着された後方ブーム33B及び側方ブーム33L、33Rを上下昇降可能としている。
【0037】
図3はエンジン駆動力の伝動機構を示すスケルトン図である。本実施の形態に係るトラクタは、エンジン20の動力を伝達する経路として、駆動輪に伝達する走行系伝動経路(すなわち、主駆動輪として作用する後輪4L,4Rへ動力を伝達する走行系主伝動経路と、副駆動輪として作用する前輪3L,3Rへ動力伝達する走行系副伝動経路とを含む)及びスプレーヤ30に伝達するPTO系伝動経路とを有する。
【0038】
駆動源であるエンジン20の後側面には、エンジン出力軸21が後ろ向きに突出するように設けられる。エンジン出力軸21には、フライホイール22が直結するように取付けられている。フライホイール22から後ろ向きに突出する主動軸23と、ミッションケース17の前面から前向きに突出する主変速入力軸24との間を、両端に自在軸継ぎ手を備えた伸縮式の動力伝達軸25を介して連結する。エンジン20の動力は、ミッションケース17における主変速入力軸24に伝達し、次いで、油圧無段変速機26に伝達する。また、油圧無段変速機26の出力は、走行副変速ギヤ機構27にて適宜変速して、差動ギヤ機構28を介して後輪4L,4Rとに伝達する。また、走行副変速ギヤ機構27にて適宜変速したエンジン20の動力は、前車輪駆動ケースと前車軸ケース13の差動ギヤ機構29とを介して前輪3L,3Rに伝達する。
【0039】
油圧無段変速機26は、可変容量形の変速用油圧ポンプ部261と、この油圧ポンプ部261から吐出される高圧の作動油にて作動する定容量形の変速用油圧モータ部262とを備える。主変速入力軸24には、油圧ポンプ部261及び油圧モータ部262のためのシリンダブロック(不図示)が被嵌される。主変速入力軸24とシリンダブロックとはスプラインにて連結される。主変速入力軸24の入力側と反対側でシリンダブロックを挟んでこの一側部に油圧ポンプ部261が配置される。主変速入力軸24の入力側であるシリンダブロック他側部に油圧モータ部262が配置される。
【0040】
ポンプ斜板261aは、その傾斜角が主変速入力軸24の軸線に対して調節自在となるように設けられている。主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aの傾斜角を変更する斜板制御アクチュエータ261bを備える(図5を参照)。斜板制御アクチュエータ261bによりポンプ斜板261aの傾斜角が変更されて、油圧無段変速機26の主変速動作が行われるように構成されている。
【0041】
主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aを一方向(正の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロックと同一方向にモータ斜板(不図示)が回転され、油圧モータ部262を増速(正転)動作させ、主変速入力軸24より高い回転数で主変速出力軸51が回転され、主変速入力軸24の回転速度が増速されて主変速出力ギヤ52に伝えられる。すなわち、主変速入力軸24の回転数に、油圧ポンプ部261にて駆動される油圧モータ部262の回転数が加算されて、主変速出力ギヤ52に伝えられる。そのため、主変速入力軸24の回転数よりも高い回転数の範囲で、ポンプ斜板261aの傾斜(正の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ52からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板261aの最大傾斜(正の傾斜角)で最大走行速度になる。
【0042】
主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aを他方向(負の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロックと逆の方向にモータ斜板が回転され、油圧モータ部262を減速(逆転)動作させ、主変速入力軸24より低い回転数で主変速出力軸51が回転され、主変速入力軸24の回転速度が減速されて主変速出力ギヤ52に伝えられる。
【0043】
すなわち、主変速入力軸24の回転数に、油圧ポンプ部261にて駆動される油圧モータ部262の回転数が減算されて、主変速出力ギヤ52に伝えられる。そのため、主変速入力軸24の回転数よりも低い回転数の範囲で、ポンプ斜板261aの傾斜(負の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ52からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板261aの最大傾斜(負の傾斜角)で最低走行速度になる。
【0044】
次に、PTO軸60の動作について説明する。ミッションケース17の前室には、エンジン20からの動力をPTO軸60に伝えるPTO変速ギヤ機構61と、エンジン20からの動力を各油圧ポンプ54,55に伝えるポンプ駆動軸62とが設けられている。
【0045】
PTO変速ギヤ機構61には、PTOカウンタ軸63と、PTO変速出力軸64とを備える。PTO用の油圧クラッチ65にて連結されるPTO入力ギヤ66をPTOカウンタ軸63に被嵌させる。PTO入力ギヤ66には、主変速入力軸24に設ける入力側ギヤ67と、ポンプ駆動軸62の出力側ギヤ68とが噛合され、主変速入力軸24にポンプ駆動軸62が連結される。
【0046】
そして、PTOクラッチレバー(不図示)の継続操作により、PTOクラッチ油圧電磁弁69aにてクラッチシリンダ69bが作動してPTO用の油圧クラッチ65が継続され、主変速入力軸24とPTOカウンタ軸63とがPTO入力ギヤ66にて連結されるように構成されている。
【0047】
トラクタの後部にスプレーヤ30が接続されている場合、PTO軸60に伝達される動力の一部は、図に示していないギヤ等でその回転が調整されて噴霧ポンプ34に伝達される。噴霧ポンプ34は、PTO軸60からの動力を得てピストン等を作動させ、薬液タンク31に貯留された薬液を圧送できるように構成されている。
【0048】
次に、スプレーヤ30における薬液の流路について説明する。図4は薬液の流路を説明する模式図である。薬液タンク31に設けたドレン口101は、ホース102を介してストレーナ103に連通接続されている。このストレーナ103は、噴霧ポンプ34に位置する薬液吸入口104に接続されており、薬液タンク31からの薬液は、ストレーナ103で異物を除去された後、薬液吸入口104から噴霧ポンプ34に流入される。
【0049】
噴霧ポンプ34には吐出口105が設けられ、この吐出口105から吐出された薬液のうち設定圧力以下の余水は電動調圧弁106を通過してパイプ107を経て、薬液タンク31に設けられた戻り口108に還流される。一方、設定圧力以上の薬液は、流量センサ109及び圧力センサ110が設けられたパイプ111を通ってブーム部120に送られる。
なお、噴霧ポンプ34から吐出される薬液の一部は、パイプ112を通り、薬液タンク31の戻り口113を通じて薬液タンク31内に戻され、薬液タンク31内の薬液の攪拌に利用される。
【0050】
ブーム部120には、分水管121が設けられており、この分水管121から5つの散布管122a〜122eに分岐する。それぞれの散布管122a〜122eには、電気的に動作する散布バルブ123a〜123eが設けられており(図5を参照)、散布バルブ123a〜123eを開閉することにより、薬液散布の開始及び停止を制御するように構成されている。
【0051】
なお、散布管122a,122bは、トラクタの左側に位置する側方ブーム33Lの長手方向に沿って設置されるものであり、散布管122aについては側方ブーム33Lの中央から先端側、散布管122bについては側方ブーム33Lの中央から後端側に配置することで、それぞれの散布範囲を異ならせている。散布管122d,122eについても同様であり、それぞれの散布範囲が異なるように、トラクタの右側に位置する側方ブーム33Rの長手方向に沿って設置される。また、散布管122cについては、トラクタ後方に位置する後方ブーム33Bの長手方向に沿って設置される。
【0052】
以下、本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成について説明する。図5は本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るトラクタは、車両の制御を行うトラクタ側コントローラ310とスプレーヤの制御を行うスプレーヤ側コントローラ320とを備える。トラクタ側コントローラ310及びスプレーヤ側コントローラ320は、CANにより接続されており、協同して各種制御を行うことにより、本実施の形態のトラクタを本発明に係る散布作業機として機能させる。
【0053】
トラクタ側コントローラ310は、CPU311、EEPROM312、RAM313、入出力IF314、及び通信部315を備える。CPU311は、EEPROM312に予め格納された車両制御用プログラムをRAM313に展開して実行することにより、各種の制御及び演算を行う。
【0054】
トラクタ側コントローラ310の入出力IF314には、例えば、車速センサ131や斜板制御アクチュエータ261bが接続され、車速センサ131によって計測される車速の情報を取得すると共に、斜板制御アクチュエータ261bを制御するための制御コマンドを送出する。また、トラクタ側コントローラ310の入出力IF314には、主変速レバー84、アクセルレバー85、及び設定ダイヤル86の操作位置を示す信号が入力される。ここで、アクセルレバー85は、アクセル開度を制御するための操作具であり、設定ダイヤル86は、エンジン20の最高回転数を設定するための操作具である。
【0055】
なお、トラクタの車速(計算値)は、主変速レバー84、アクセルレバー85、設定ダイヤル86の操作位置により定まる。例えば、アクセルレバー85によるアクセル開度を100%、設定ダイヤル86による最高回転数を2430rpmとした状態で、主変速レバー84を最高速度位置に合わせた場合、車速の計算値は13km/hとなる。同様に、アクセルレバー85によるアクセル開度を100%、設定ダイヤル86による最高回転数を1400rpmとした状態で、主変速レバー84を最高速度位置に合わせた場合、車速の計算値は7.2km/hとなる。車速の計算値は、アクセル開度、エンジン20の最高回転数、主変速レバー84の操作位置、及び車速(計算値)を対応付けたテーブルを予めEEPROM312に格納しておき、該当する車速値をCPU311読み出す構成としてもよく、車速を計算するための演算式をEEPROM312に格納しておき、この演算式を用いてCPU311が車速値を計算する構成としてもよい。計算された車速の値は、例えば、走行変速機構に伝達される。
【0056】
トラクタ側コントローラ310の通信部315は、CANゲートウェイ300を介してスプレーヤ側コントローラ320に接続され、スプレーヤ側コントローラ320から送信される情報を受信し、スプレーヤ側コントローラ320に通知すべき情報を送信するように構成されている。
【0057】
スプレーヤ側コントローラ320は、CPU321、EEPROM322、RAM323、入出力IF324、及び通信部325を備える。CPU321は、EEPROM322に予め格納されたスプレーヤ制御用プログラムをRAM323に展開して実行することにより、各種の制御及び演算を行う。
【0058】
スプレーヤ側コントローラ320の入出力IF324には、散布モードの選択、目標反当たりの散布量の設定等を受付けるための操作パネル330、ブームスプレーヤを伸縮、昇降、旋回させるためのブームスプレーヤコントローラ350、及び散布用のバルブを開閉させるスイッチを備えたバルブ開閉コントローラ370が接続されている。
【0059】
通信部325は、CANゲートウェイ300を介してトラクタ側コントローラ310に接続され、トラクタ側コントローラ310から送信される情報を受信し、トラクタ側コントローラ310に通知すべき情報を送信するように構成されている。また、通信部325には、第1CANインタフェース301を介して、流量センサ109、圧力センサ110、電動調圧弁106が接続されており、流量センサ109によって計測された散布流量、圧力センサ110によって計測された散布圧力の情報を受信すると共に、電動調圧弁106を制御するための制御コマンドを送信する。更に、通信部325には、第1CANインタフェース301及び第2CANインタフェースを介して5つの散布バルブ123a〜123e、ブーム操作用電磁弁130が接続されており、散布作業時のスプレーヤの動作をCANを用いた通信により制御できるように構成している。
【0060】
図6は操作パネル330の模式図、図7は散布モード設定時の画面例を示す模式図である。操作パネル330は、散布作業に関する作業者の指示を受付ける第1操作ボタン群331、作業者の選択操作を受付ける第2操作ボタン群332、作業者に報知すべき情報を表示する表示部333、設定された目標反当たりの散布量を表示する散布量表示部334、散布作業の自動制御又は手動制御を識別表示する識別ランプ335,335を備える。
【0061】
第1操作ボタン群331は、操作内容を表示させるためのメニューボタン、選択された内容を確定するための決定ボタン等により構成される。また、第2操作ボタン群332は、上下左右方向の4つのカーソルボタンにより構成される。
【0062】
作業者は、散布作業に関する作業内容を操作パネル330を用いて決定する。例えば、第1操作ボタン群331が備えるメニューボタンを押下操作することにより、設定したい内容を表示部333に表示させ、表示部333に表示される選択項目を第2操作ボタン群332のカーソルボタンを用いて選択することによって各種設定を行う。操作パネル330を用いて設定する内容には、散布作業の自動制御又は手動制御の選択、自動制御における圧力優先モード又は車速優先モードの選択、単位反当たりの散布量(L/10a)等が含まれる。
【0063】
操作パネル330により自動制御が選択された場合、表示部333には、圧力優先モード又は車速優先モードを選択させるための選択画面が表示される。作業者は、第2操作ボタン群332が備える上下方向のカーソルボタンを押下操作することにより、圧力優先モード又は車速優先モードの何れか一方を選択する。圧力優先モード又は車速優先モードの何れかが選択された場合(すなわち、自動制御が選択された場合)、識別ランプ335の一方を点灯させることにより、自動制御が選択されていることを報知する。
【0064】
圧力優先モードで用いる散布圧力及び車速の設定値は、操作パネル330を操作して設定することが可能である。また、作業者の好みのデフォルト散布圧力又は車速を操作パネル330を通じて受付け、設定時に表示部333に表示するようにしてもよい。
【0065】
図7(a)は、圧力優先モードが選択された(下方向のカーソルボタンが押された)状態を示している。圧力優先モードが選択された状態で、第1操作ボタン群331の決定ボタンが押下操作された場合、図7(a)の右側の図に示すような画面に移行する。この画面では、「P」の文字を表示することにより、圧力優先モードが選択されている様子を示している。
同様に、図7(b)は、車速優先モードが選択された(上方向のカーソルボタンが押された)状態を示している。車速優先モードが選択された状態で、第1操作ボタン群331の決定ボタンが押下操作された場合、図7(b)の右側の図に示すような画面に移行する。この画面では、「V」の文字を表示することにより、車速優先モードが選択されている様子を示している。
【0066】
以下、本実施の形態に係る散布量の制御方法について説明する。図8〜図10は散布量の自動制御に係る処理手順を説明するフローチャートである。散布量の自動制御に先立ち、ノズルの選択を行う(ステップS11)。スプレーヤ30に装着可能なノズルには、消毒用のノズル、除草用のノズル、潅水用のノズルが存在する。作業者はスプレーヤによる散布に先立ち、装着すべきノズルの選択を行う。
【0067】
次いで、スプレーヤ側の操作パネル330にて、散布モードの選択を受付ける(ステップS12)。スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、ステップS12で受付けた選択が、自動制御(すなわち、圧力優先モード又は車速優先モードの何れか)であるか否かを判断し(ステップS13)、自動制御である場合(S13:YES)、操作パネル330にて目標反当たりの散布量の設定を受付ける(ステップS14)。
【0068】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、ステップS12で受付けた選択が、圧力優先モードであるか否かを判断する(ステップS15)。
【0069】
圧力優先モードであると判断した場合(S15:YES)、CPU321は、ステップS14で設定された散布量を基にして散布圧力を設定する(ステップS16)。例えば、目標反当たりの散布量に対する散布圧力を規定したテーブルを予めEEPROM322に記憶させておき、このテーブルから散布圧力を取得することで設定を行うことができる。また、過去の散布作業において、設定された散布量と適性な結果が得られたときの散布圧力との組をEEPROM322に記憶させておき、ステップS14で散布量が設定された場合、EEPROM322内の散布量と散布圧力との組に基づいて、散布圧力を設定するようにしてもよい。
【0070】
次いで、CPU321は、設定した散布圧力に基づき目標車速を算出する(ステップS17)。例えば、散布圧力Pと車速vとの間には、P=α×v2 の関係があるので、散布圧力Pが設定された場合、前記関係式を用いて車速vを算出することができる。ここで、αは、装着するノズルの吐出性能、目標散布量、散布幅によって定まる定数である。また、散布圧力に対する目標車速の値を規定したテーブルを予めEEPROM322に記憶させておき、設定された散布圧力に対する目標車速を、前記テーブルに記憶された目標車速の値を用いた補間演算により算出することも可能である。
【0071】
次いで、CPU321は、操作パネル330を通じて散布開始が指示されたか否かを判断する(ステップS18)。散布開始が指示されていない場合(S18:NO)、散布開始が指示されるまで待機する。
散布開始が指示されたと判断した場合(S18:YES)、通信部325は、選択されている散布モード(圧力優先モード)、及びステップS17で算出した目標車速をCANゲートウェイ300を介してトラクタ側コントローラ310へ通知する(ステップS19)。
【0072】
また、スプレーヤ側コントローラ320は、ステップS17で算出した目標車速を入出力IF324を通じて出力し、操作パネル330の表示部333に目標車速を表示させる(ステップS20)。作業者は、操作パネル330の表示部333に表示された目標車速を確認し、主変速レバー84等を用いてトラクタの車速を目標車速に合わせ込む操作を行う。
トラクタ側コントローラ310のCPU311は、車速センサ131から出力される車速の情報を基に、目標車速に到達したか否かを判断し(ステップS21)、目標車速に到達していない場合には(S21:NO)、目標車速に到達するまで待機する。この間、作業者がトラクタの車速を目標車速に合わせ込む操作を行う。
【0073】
なお、算出した目標車速だけでなく、主変速レバー84、アクセルレバー85、設定ダイヤル86の操作位置により定まる車速の計算値を併せて表示部333に表示するようにしてもよい。例えば、トラクタの発進前に主変速レバー84、アクセルレバー85、設定ダイヤル86の操作位置を合わせ込み、これらの操作位置により定まる車速の計算値が目標車速となるように設定しておくことで、目標車速に到達するまでの時間を短縮することができ、設定した散布量を速やかに実現することができる。
【0074】
目標車速に到達したと判断した場合(S21:YES)、通信部315は、目標車速に到達した旨をCANゲートウェイ300を介してスプレーヤ側コントローラ320へ通知する(ステップS22)。また、目標車速に到達した場合、トラクタ側コントローラ310のCPU311は、斜板制御アクチュエータ261bを操作して斜板の傾きを調整することにより、目標車速を維持する。
【0075】
スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、トラクタ側コントローラ310から通知される目標車速に到達した旨の情報を通信部325にて受信した場合、散布の準備が完了したと判断し、散布バルブ123a〜123eを開くための制御コマンドを通信部325を介して送信し、散布バルブ123a〜123eを開くことによって薬液の散布を開始する(ステップS23)。なお、必ずしも、全ての散布バルブ123a〜123eを開く必要はなく、バルブ開閉コントローラ370にて開くことが指定されたバルブに対してのみ、制御コマンドを送信する構成とすることができる。
【0076】
また、薬液の散布圧力がステップS16で設定された散布圧力となるように、CPU321は、電動調圧弁106を制御するための制御コマンドを送信し、散布圧力の調整を行う。この後、設定された散布圧力を維持するために、圧力のフィードバックを行う。具体的には、圧力センサ110により計測される散布圧力の値を適宜の時間間隔で取得し、取得した散布圧力の値を基に電動調圧弁106を制御することによって設定された散布圧力を維持する。このため、側方ブーム33R,33Lの一方だけ散布を止めるなどの条止め操作を行い、散布圧力が一時的に変動する場合であっても、作業者の手により圧力を調整する必要はなく、自動的に変動前の散布圧力に戻して設定された散布圧力を維持することができる。
【0077】
次いで、CPU321は、操作パネル330を通じて散布量の変更が指示されたか否かを判断する(ステップS24)。操作パネル330は、ステップS14で初期設定された値から±20%を上限及び下限とし、5%刻みで散布量の変更を受付けるものとする。なお、散布量の変更の範囲及び変更幅は、上記の値に限定されるものではなく、適宜設定し得るものである。
【0078】
散布量の変更が指示されたと判断した場合(S24:YES)、CPU321は、変更後の散布量に基づいて目標車速を再計算する(ステップS25)。例えば、散布量を初期設定の値から10%だけ増加させた場合、目標車速を現在の車速の値から10%だけ減速した値に変更する。逆に、散布量を初期設定の値から10%だけ減少させた場合、目標車速を現在の車速の値から10%だけ加速した値に変更する。このように、圧力優先モードでは、散布圧力を一定にした状態で車速を制御することにより、設定された散布量での散布作業を実現するようにしている。
目標車速の再計算後、通信部325は、変更後の目標車速をCANゲートウェイ300を介してトラクタ側コントローラ310へ通知する(ステップS26)。
【0079】
また、圧力優先モードにおいて、基準となる散布圧力の変更を受付けるようにしてもよい。すなわち、圧力優先モードでは、ステップS16で設定した基準の散布圧力を維持するように制御を行うが、この基準となる散布圧力の値を変更できるようにしてもよい。例えば、基準散布圧力を1MPaに設定して散布作業を開始した後に、風が強くなったとき、ドリフトを抑えるために散布圧力を少し落として、0.7MPaに変更したい場合等が生じる。
そこで、圧力優先モードにおいても、基準となる散布圧力の変更を受付け、散布圧力の変更分に応じて車速を変更し、単位反当たりの散布量を一定に維持することが望ましい。
【0080】
トラクタ側コントローラ310のCPU311は、スプレーヤ側コントローラ320から通知される変更後の目標車速を通信部315にて受信した場合、変更後の目標車速に従って車速制御を行う(ステップS27)。このとき、トラクタ側コントローラ310のCPU311は、車速センサ131から出力される車速の情報を参照しながら、斜板制御アクチュエータ261bを操作して斜板の傾きを調整することにより、実車速が変更後の目標車速となるように車速制御を行う。
主変速レバー84の操作により±5%の単位で車速を合わせ込むことは困難であるが、圧力優先モードでは、自動走行制御により車速を合わせるので、作業者の操作に依らずに変更後の目標車速を実現することができる。
【0081】
ステップS24で散布量の変更が指示されていないと判断した場合(S24:NO)、車速が変更されたか否かを判断する(ステップS28)。車速が変更されたか否かは、車速センサ131より随時得られる車速の情報を基に判断することができる。作業者が主変速レバー84などを操作することによって車速が変更された場合(S28:YES)、操作パネル330の表示部333に警告の表示を行う(ステップS29)。このとき、スプレーヤ側コントローラ320は、目標車速から外れた旨の情報、車速を元に戻すべき旨の指示等を操作パネル330の表示部333に表示させる。また、ブザー等により警告音を発する構成としてもよい。
警告の表示を行った後、トラクタの車速は、主変速レバー84等を用いた作業者の操作によって定まる車速に制御される。
【0082】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320は、操作パネル330を通じて散布停止が指示されたか否かを判断し(ステップS30)、散布停止が指示されていない場合(S30:NO)、処理をステップS24へ戻す。
【0083】
散布停止が指示された場合(S30:YES)、スプレーヤ側コントローラ320は、散布バルブ123a〜123eを閉じるための制御コマンドを通信部325を介して送信し、散布バルブ123a〜123eを閉じることにより、薬液の散布を停止する(ステップS31)。
【0084】
一方、ステップS15において、圧力優先モードでないと判断した場合(S15:NO)、すなわち、車速優先モードであると判断した場合、CPU321は、散布圧力の設定を行う(ステップS41)。散布圧力の設定は、圧力優先モードの設定方法と同様である。また、車速優先モードでは、作業者によってトラクタの走行が開始される(ステップS42)。
【0085】
スプレーヤ側コントローラ320は、操作パネル330を通じて散布開始が指示されたか否かを判断し(ステップS43)、散布開始が指示されていない場合(S43:NO)、散布開始が指示されるまで待機する。
【0086】
散布開始が指示された場合(S43:YES)、薬液の散布圧力がステップS41で設定された散布圧力となるように、CPU321が電動調圧弁106を制御するための制御コマンドを送信し、散布圧力の調整を行うと共に、散布バルブ123a〜123eを開くための制御コマンドを通信部325を介して送信し、散布バルブ123a〜123eを開くことにより、薬液の散布を開始する(ステップS44)。なお、必ずしも、全ての散布バルブ123a〜123eを開く必要はなく、バルブ開閉コントローラ370にて開くことが指定されたバルブに対してのみ、制御コマンドを送信する構成とすることができる。
【0087】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320は、流量センサ109より得られる散布量を取得する(ステップS45)。また、スプレーヤ側コントローラ320は、車速センサ131より得られる車速を、通信部325を通じてトラクタ側コントローラ310から取得する(ステップS46)。なお、スプレーヤ側コントローラ320は、散布量及び車速を、それぞれ流量センサ109及びトラクタ側コントローラ310より逐次取得する。
【0088】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320は、流量センサ109より取得した散布量が、ステップS14で設定した目標反当たりの散布量を満たすか否かを判断する(ステップS47)。設定した目標反当たりの散布量を満たすと判断した場合(S47:YES)、散布作業を続行する。
【0089】
設定した目標反当たりの散布量を満たさないと判断した場合(S47:NO)、スプレーヤ側コントローラ320は、散布量及び車速を再度取得する。そして、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、取得した車速に基づいて、調整すべき散布圧力を計算する(ステップS48)。上述したように、散布圧力Pと車速vとの間には、P=α×v2 の関係があるので、車速vに基づいて散布圧力Pを計算することができる。
【0090】
散布圧力を計算した後、CPU321は、電動調圧弁106を制御するコマンドを第1CANインタフェース301を通じて電動調圧弁106に送信し、散布圧力がステップS38で計算した散布圧力となるように電動調圧弁106の制御を行い、散布圧力を制御する(ステップS49)。
【0091】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320は、操作パネル330を通じて散布停止が指示されたか否かを判断し(ステップS50)、散布停止が指示されていない場合(S50:NO)、散布停止が指示されるまで待機する。
【0092】
散布停止が指示された場合(S50:YES)、スプレーヤ側コントローラ320は、散布バルブ123a〜123eを閉じるための制御コマンドを通信部325を介して送信し、散布バルブ123a〜123eを閉じることにより、薬液の散布を停止する(ステップS51)。
【0093】
また、ステップS13において、自動制御でないと判断した場合(S13:NO)、すなわち、手動制御であると判断した場合、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、操作パネル330を通じて散布開始が指示されたか否かを判断する(ステップS61)。散布開始が指示されていない場合(S61:NO)、散布開始が指示されるまで待機する。
【0094】
散布開始が指示された場合(S61:YES)、CPU321は、散布バルブ123a〜123eを開くための制御コマンドを送信し、散布バルブ123a〜123eを開くことによって薬液の散布を開始する(ステップS62)。手動制御では、作業者によって制御される車速で走行しながら、薬液の散布を行う。
【0095】
本実施の形態では、作業者によって設定された散布量を基に散布圧力を決定する構成としたが、設定した散布量を実現したときの車速及び散布圧力を設定散布量に対応させて記憶しておき、次に散布量が設定された場合、記憶された内容を参照して散布圧力を設定する構成としてもよい。
【0096】
また、ノズルの種類に応じて適切な散布圧力を規定しておき、ステップS11でノズルが選択された場合、選択されたノズルに応じて散布圧力を設定する構成としてもよい。更に、除草、消毒、潅水などの散布目的に応じて適切な散布圧力を設定しておき、操作パネル330にて散布目的を受付け、受付けた散布目的に応じて散布圧力を設定する構成としてもよい。
【0097】
本実施の形態では、スプレーヤ30が装着されたトラクタについて説明をしたが、トラクタにはスプレーヤ30以外の作業機が装着される場合もあるため、トラクタは、スプレーヤ30以外の作業機を制御するための機能を備える。例えば、耕耘機が接続されるトラクタには、耕耘機に対する負荷制御を行うものが存在する。この負荷制御では、土壌が堅い等の条件下で耕耘機に対する負荷が上昇した場合、エンジン回転数を上昇させたり、車速を減速したりする制御を行う。
【0098】
一方、耕耘機に代えてスプレーヤ30がトラクタに装着された場合であって、耕耘機の負荷制御機能が有効のままであった場合には、以下の問題点が生じる。上述したように、スプレーヤ30の分噴霧ポンプ34は、PTO軸60からの動力を得て作動する。このため、例えば、傾斜地での散布作業中に上り坂がきつくなり、エンジン負荷が高くなった場合、負荷制御機能によりエンジン回転数を上昇させると、噴霧ポンプ34の回転数が上昇することとなり、噴霧ポンプ34の故障の原因となり得る。また、本実施の形態のトラクタは、薬液の散布に関して圧力優先モードを備えており、圧力優先モードでは車速を制御して散布量を調整するため、負荷制御機能により車速を減速した場合、圧力優先モードで設定した散布量を実現することができない場合が生じる。
【0099】
このように、スプレーヤ30がトラクタに装着されているにも関わらず、他の作業機を制御するための機能が有効になっていると、不具合が生じたり、安全性が確保できないこともある。そこで、スプレーヤ30がトラクタに装着され、かつスプレーヤ側コントローラ320がトラクタ側CANに接続された場合、耕耘機の負荷制御機能のような、他の作業機に特有の機能を停止させることが望ましい。
【0100】
また、トラクタには、車速の上限値(最高速度)を設定できるものが存在する。しかしながら、上述した圧力優先モードでは、所望の散布量を得るために車速を制御する構成であるため、圧力優先モードにより算出した目標車速が、設定した最高速度を越える場合が生じる。例えば、最高速度を5km/hに設定している場合であっても、圧力優先モードによる目標車速が6km/hに算出される場合がある。設定した最高速度を上限とした場合、圧力優先モードで定めた目標車速を実現することができないため、作業者が設定した散布量を大きく下回ることになる。
【0101】
したがって、圧力優先モード時には、設定された最高速度から所定の割合(例えば、50%)だけ加算した値を上限値として許容することが望ましい。例えば、最高速度を5km/hに設定している場合、最高速度の50%を加算した7.5km/hまで許容して、圧力優先モードによる散布作業を実施する。なお、最高速度に加算する割合は、設定された最高速度に対して一定であってもよく、最高速度に応じて適宜設定する構成であってもよい。
【0102】
また、本実施の形態では、圧力優先モードにおいて自動走行制御(車速制御)を行えるようにしているが、自動走行制御を行っているときに、作業者が所定の操作を行った場合、作業者の操作を優先して、自動走行制御を解除する構成としてもよい。例えば、リバーサレバー83を前進位置からニュートラル位置に変更した場合、ブレーキペダル91L,91R又はクラッチペダル92の操作によりブレーキ又はクラッチをオフからオンに変更した場合、副変速レバーをローからハイに変更した場合等において、自動走行制御を解除してもよい。
【符号の説明】
【0103】
26 油圧無段変速機
30 スプレーヤ
31 薬液タンク
32 ノズル
33 ブーム
34 噴霧ポンプ
106 流量センサ
109 電動調圧弁
110 圧力センサ
131 車速センサ
261a ポンプ斜板
261b 斜板制御アクチュエータ
310 トラクタ側コントローラ
320 スプレーヤ側コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの動力を無段変速機により変速して走行部に伝えて走行駆動するように構成した走行装置と、前記無段変速機により前記走行装置の車速を制御する車速制御部と、タンクに貯留された薬液をノズルから散布する散布装置と、前記ノズルによる薬液の散布圧力を制御する圧力制御部とを備える散布作業機において、
単位面積当たりの薬液の散布量に係る設定を受付ける設定手段と、
前記ノズルによる薬液の散布圧力を一定にした状態で、前記車速制御部が車速を制御することにより、前記設定手段で設定された散布量を実現する第1の散布方式、又は車速に応じて前記圧力制御部が散布圧力を制御することにより、前記設定手段で設定された散布量を実現する第2の散布方式の選択を受付ける選択手段と
を備え、
該選択手段で選択された散布方式に応じて、前記車速制御部による車速の制御及び前記圧力制御部による散布圧力の制御を実行するようにしてあることを特徴とする散布作業機。
【請求項2】
散布量又は散布圧力の変更を受付け、変更後の散布量又は散布圧力に応じて目標とする車速を算出する手段を備え、
該手段により算出された車速に基づき、前記車速制御部が車速を制御するようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の散布作業機。
【請求項3】
前記設定手段により設定された散布量を実現した際の車速及び散布圧力を記憶する記憶手段を備え、
該記憶手段に記憶された車速及び散布圧力を参照して、前記車速制御部による車速の制御及び前記圧力制御部による散布圧力の制御を実行するようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の散布作業機。
【請求項4】
散布目的に応じて規定した散布圧力を記憶する記憶手段と、散布目的の設定を受付ける手段とを備え、
設定された散布目的に応じて前記記憶手段から読み出した散布圧力を、目標とする散布圧力として設定するようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の散布作業機。
【請求項5】
複数種のノズルを装着可能になしてあり、
ノズルの種類に応じて規定した散布圧力を記憶する記憶手段と、装着すべきノズルの選択を受付ける手段とを備え、
選択されたノズルに応じて前記記憶手段から読み出した散布圧力を、目標とする散布圧力として設定するようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の散布作業機。
【請求項6】
散布圧力を計測する計測手段を備え、
該計測手段が計測した散布圧力に基づき、前記圧力制御部が散布圧力を制御するようにしてあることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1つに記載の散布作業機。
【請求項7】
前記車速制御部は、前記目標とする車速を含む所定範囲内で車速を制御するようにしてあることを特徴とする請求項2に記載の散布作業機。
【請求項8】
前記車速制御部により車速を制御している場合に、車速を変更させる操作を受付けたとき、前記車速制御部による制御を停止する手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項7の何れか1つに記載の散布作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−196157(P2012−196157A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61494(P2011−61494)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(509264132)株式会社やまびこ (65)
【Fターム(参考)】