説明

斜め延伸光学フィルムの製造方法及び延伸装置

【課題】本発明の目的は、延伸倍率の制約が少なく、フィルムのしわや端部での破断の無い、均一に分子の配向軸がフィルム長手方向に対して傾斜した斜め延伸光学フィルムの製造方法及び該光学フィルムを製造する延伸装置を提供することである。
【解決手段】延伸領域において、一方の把持手段の延伸開始位置P1と延伸停止位置P2とを結ぶ直線と搬送方向との角度θa1と、もう一方の把持手段の延伸開始位置S1と延伸停止位置S2とを結ぶ直線と搬送方向との角度θb1と、緩和領域において、一方の把持手段の緩和開始位置P3と緩和停止位置P4とを結ぶ直線と搬送方向との角度θa2と、もう一方の把持手段の緩和開始位置S3と緩和停止位置S4とを結ぶ直線と搬送方向との角度θb2としたとき、θa1≧θb1、θa1≦16.0°、θb2>θa2、θa2≦0.30°の4つの条件式を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向角度がフィルムの長手方向に対して傾斜している斜め延伸光学フィルムの製造方法及び延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶表示装置や有機EL表示装置などの画像表示装置においては、着色防止や視野角拡大、外光の映り込み防止などの光学補償に、位相差フィルムが用いられている。この位相差フィルムの遅相軸と偏光板の透過軸とが所定の角度となるように配置して、貼り合わせたものを光学補償用のフィルムとして用いられることがある。
【0003】
従来、この位相差フィルムを製造する方法としては、長尺の透明な樹脂フィルムを製膜した後、これをフィルムの長手方向または幅手方向に延伸している。そのため、樹脂フィルムの配向軸も長手方向または幅手方向となり、結果、位相差フィルムの遅相軸もほぼ、延伸方向または延伸方向に直角な方向となる。よって、位相差フィルムの遅相軸と偏光板の透過軸との角度を、平行または直交以外の角度に調整するためには、一枚ずつ必要な面積の位相差フィルムを裁断した後、偏光板の透過軸と調整して貼り合わせるという方法がとられていた。しかしながら、このような方法では、裁断ロスが多く、収率が低下し、廃棄物が増えるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決する方法として、位相差フィルムと偏光フィルムとをロールtoロール方式で、連続して張り合わせることができるように、位相差フィルムの遅相軸方向が、長手方向または幅手方向と異なる、長手方向に所定の角度を有するように、樹脂フィルムの配向軸を斜めにする方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1においては、ロール状のセルロースエステルフィルムを長手方向に対して実質的に45度の方向に延伸処理することにより、長手方向と遅相軸との角度が実質的に45度であるロール状フィルムの4分の1波長板の製造方法が提案されている。具体的には、両端の把持部の速度が異なるようにしたテンター式延伸装置において、延伸前のフィルムの厚さがあらかじめ幅方向で異なるようにしておくことで達成できるとしている。しかしながら、フィルムの幅方向に膜厚偏差を持たせて延伸するため、幅方向だけでなく長手方向にも厚みムラを持ったフィルムになり、均一な延伸をすることが困難であった。
【0006】
また、特許文献2においては、左右に無端チェインを有するテンター式延伸装置を用いた斜めに延伸する方法において、無端チェインを駆動するレール部を入り口レール部、屈曲レール部、出口レール部に分け、各レール部を左右独立した幅方向位置決め手段により、位置決めしている。このようにすることで、任意の配向角度で任意の延伸倍率のフィルムを得ることができるとしている。
【0007】
また、特許文献3においては、左右に無端チェインを有するテンター式延伸装置を用いた斜めに延伸する方法において、片方のチェインのみを外側に膨れるように蛇行する部分を有する構成とし、斜めに延伸する方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2及び3の何れおいても、チェインを屈曲又は蛇行させる際に生じるフィルムを延伸させる力が不均一にかかったり、延伸方向を徐々になめらかに変化させないと、クリップなどの把持部分にムリな力が加わり、フィルムのしわ(部分的なたるみ)やツレ(部分的な引っ張り)や破損の原因となることが多い。
【0009】
また、前述のようなフィルムのしわや破損を解決する方法として、左右の連続する無端チェインにアームを取り付け、該アームはフィルムの端部を把持するクリップを有し、アームをチェイン上でフィルム搬送方向に対して斜めに摺動させる方法が特許文献4及び特許文献5に提案されている。しかしながら、このような方法においても、延伸倍率が高くなったり、高温での延伸が必要になる場合には、フィルム端部の変形量が大きくなり、クリップ周辺での破断が生じ、延伸倍率に制約が出るという問題が発生した。
【特許文献1】特開2002−22944号公報
【特許文献2】特開2003−276082号公報
【特許文献3】特開2003−207625号公報
【特許文献4】特開2005−349698号公報
【特許文献5】特開2007−30466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、従来の延伸方法では、何れも配向軸をフィルム長手方向に対して斜め方向に傾斜させることは可能であっても、光学品質が均一でしわや破断のないフィルムを得ることは困難であった。
【0011】
本発明の目的は、延伸倍率の制約が少なく、フィルムのしわや端部での破断の無い、均一に分子の配向軸がフィルム長手方向に対して傾斜した斜め延伸光学フィルムの製造方法及び該光学フィルムを製造する延伸装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0013】
1.
長尺のフィルムの幅方向の両端を把持手段により把持し、前記フィルムの延伸後の搬送方向と該フィルムの配向軸の方向が傾斜するように延伸する延伸工程を有する斜め延伸光学フィルムの製造方法において、
前記延伸工程は、
前記フィルムを最大延伸幅まで延伸する延伸領域と、
該延伸領域の後、前記最大延伸幅より狭い、緩和幅まで緩和する緩和領域とを有し、
前記延伸領域において、
前記フィルムの片方の端部を把持する把持手段が、
前記フィルムの延伸を開始する位置をP1、
前記フィルムの延伸を停止する位置をP2、
前記フィルムのもう一方の端部を把持する把持手段が、
前記フィルムの延伸を開始する位置をS1、
前記フィルムの延伸を停止する位置をS2、
とするとき、
P1とP2とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θa1と、
S1とS2とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θb1とが、下記条件式(1)と(2)を満たし、
前記緩和領域において、
前記フィルムの片方の端部を把持する把持手段が、
前記フィルムの緩和を開始する位置をP3、
前記フィルムの緩和を停止する位置をP4、
前記フィルムのもう一方の端部を把持する把持手段が、
前記フィルムの緩和を開始する位置をS3、
前記フィルムの緩和を停止する位置をS4、
とするとき、
P3とP4とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θa2と、
S3とS4とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θb2とが、下記条件式(3)と(4)を満たしていることを特徴とする斜め延伸光学フィルムの製造方法。
【0014】
θa1≧θb1・・・・(1)
θa1≦16.0°・・・(2)
θb2>θa2・・・(3)
θa2≦0.30°・・・(4)
2.
前記θb1と前記θb2とが、下記条件式(5)を満たしていることを特徴とする1に記載の斜め延伸光学フィルムの製造方法。
【0015】
θb1>θb2・・・(5)
3.
フィルムの搬送経路の両側に設けられた2本のチェインと、
該チェインに設けられた多数のベースと、
該ベース上にそれぞれ摺動可能に取り付けられ前記フィルム側に突出可能なアームと、
該アームの前記フィルム側の一端にそれぞれ設けられて前記フィルムの両側縁部を把持可能なクリップとを有し、
該クリップで前記フィルムの両側縁部を把持し、搬送しながら前記アームを摺動させて前記フィルムを延伸する延伸装置において、
前記クリップが前記チェインの走行方向に対して、少なくとも所定の角度範囲を回転可能であることを特徴とする延伸装置。
【0016】
4.
フィルムの搬送経路の両側に設けられた2本のチェインと、
該チェインに設けられた多数のベースと、
該ベース上にそれぞれ摺動可能に取り付けられ前記フィルム側に突出可能なアームと、
該アームの前記フィルム側の一端にそれぞれ設けられて前記フィルムの両側縁部を把持可能なクリップとを有し、
該クリップで前記フィルムの両側縁部を把持し、搬送しながら前記アームを摺動させて前記フィルムを延伸する延伸装置において、
前記アームが湾曲していることを特徴とする延伸装置。
【0017】
5.
フィルムの搬送経路の両側に設けられた2本のチェインと、
該チェインに設けられた多数のベースと、
該ベース上にそれぞれ摺動可能に取り付けられ前記フィルム側に突出可能なアームと、
該アームの前記フィルム側の一端にそれぞれ設けられて前記フィルムの両側縁部を把持可能なクリップとを有し、
該クリップで前記フィルムの両側縁部を把持し、搬送しながら前記アームを摺動させて前記フィルムを延伸する延伸装置において、
前記クリップに複数の前記アームが取り付けられていることを特徴とする延伸装置。
【0018】
6.
フィルムの搬送経路の両側に設けられた2本のチェインと、
該チェインに設けられた多数のベースと、
一方のチェインに設けられたベースと他方のチェインに設けられたベースを連結し、それぞれのベースに取り付けられたアームと、
該アーム上で摺動可能に設けられ、前記フィルムの両側縁部を把持可能な一対のクリップとを有し、
該クリップで前記フィルムの両側縁部を把持し、搬送しながら前記クリップを摺動させて前記フィルムを延伸することを特徴とする延伸装置。
【0019】
7.
3乃至6の何れか1項の延伸装置を用いたことを特徴とする1に記載の斜め延伸光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法においては、フィルムを最大延伸幅まで延伸する延伸領域と、該延伸領域の後、最大延伸幅より狭い、緩和幅まで緩和する緩和領域とを有し、延伸領域において、一方の把持手段がフィルムの延伸を開始する位置P1と延伸を停止する位置P2とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θa1と、もう一方の把持手段がフィルムの延伸を開始する位置S1と延伸を停止する位置S2とを結ぶ直線と搬送方向との角度θb1と、緩和領域において、一方の把持手段がフィルムの緩和を開始する位置P3と緩和を停止する位置P4とを結ぶ直線と搬送方向との角度θa2と、もう一方の把持手段がフィルムの緩和を開始する位置S3と緩和を停止する位置S4とを結ぶ直線と搬送方向との角度θb2としたとき、θa1≧θb1、θa1≦16.0°、θb2>θa2、θa2≦0.30°の4つの条件式を満たすようにしている。このような条件を満たすことにより、延伸倍率の制約が少なく、フィルムのしわや端部での破断の無い、均一に分子の配向軸がフィルム長手方向に対して傾斜した斜め延伸光学フィルムの製造方法及び該光学フィルムを製造する延伸装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明で得られる斜め延伸光学フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムを長手方向に対して分子の配向軸を傾斜するように延伸することにより得られる。熱可塑性樹脂としては、例えば、マレイミド、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルホン、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエチレンテレフタレート、セルロースエステル、ポリノルボルネンなどの適宜の熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、上記熱可塑性樹脂には、可塑剤や紫外線吸収剤などの添加剤が適宜添加されていてもよい。
【0023】
使用される上記熱可塑性樹脂フィルムの製造方法自体は特に問わない。例えば、溶融押出成形、溶融キャスティング成形、カレンダー法、溶液流延法などの様々な一般的なフィルム成形方法により熱可塑性樹脂フィルムを用いることができる。
【0024】
延伸前の熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、30〜200μm程度の範囲が好ましい。30μm以下では、延伸後に厚みが薄くなり、フィルムの強度が不足したり、腰が弱くなってハンドリングが困難となることがあり、200μmを超えると、厚み方向で均一は配向軸を得ることが難しくなる。
【0025】
図1は、本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法の一例を説明するための模式的平面図である。本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法により斜め延伸光学フィルムを製造するに際しては、図1に模式的に示す延伸光学フィルムの製造装置1が用いられる。この製造装置1は、熱可塑性樹脂フィルムをロールから巻き出す巻きだし工程2と、延伸処理する延伸工程3と、ロールに巻きとる巻きとり工程4とを有する。延伸工程3では、該フィルムを加熱する加熱装置が配置され、加熱されながら延伸され、その後冷却されて配向軸が固定された斜め延伸光学フィルムを得る。加熱装置に用いられる手段は、熱可塑性樹脂フィルムを均一に加熱することができれば特に限定されることはなく、例えば、熱風式、パネルヒーター、ハロゲンヒーターなどの加熱装置等が挙げられ、温度制御が精度よく行える熱風式が好ましい。また、必要に応じて、巻きだし工程2と延伸工程3との間には、巻き出された熱可塑性樹脂フィルムを予熱する予熱装置を設けたり、延伸工程3と巻きとり工程4との間に冷却装置を設けても良い。また、熱可塑性樹脂フィルムを巻き出す方向を巻きだし方向、ロールに巻きとる方向を搬送方向とする。
【0026】
また、延伸工程3においては、熱可塑性樹脂フィルムを最大延伸幅W1まで延伸する延伸領域31と、最大延伸幅より狭い緩和幅W2まで緩和する緩和領域32とを有している。延伸装置には、斜め延伸できる装置であれば良いが、フィルムの幅方向両端を多数の把持手段で把持し、斜めに延伸するテンターを用いるのが好ましい。図1の製造装置では、延伸装置にテンターを用いている。また、本発明において、斜め延伸光学フィルムの製造方法で、フィルムの配向軸の方向が傾斜するとは、延伸後のフィルム搬送方向に対して、フィルムの配向軸の方向が20〜70度傾斜することを指す。
【0027】
長尺状の幅W0の熱可塑性樹脂フィルムは、巻きだしロール21により巻き出され、把持開始位置P0、S0で、フィルム幅方向の両端を把持手段である左右のクリップ51、52で把持される。左右のクリップ51、52で把持した状態で、所定の距離を幅W0の状態で、巻きだし方向に搬送される。次に左側のクリップ51が把持開始位置P0からL1の距離を移動した延伸開始位置P1で斜め外方向に延伸を開始する。また、右側のクリップ52は、把持開始位置S0からL2の距離を移動した延伸開始位置S1で斜め外方向に延伸を開始する。左側のクリップ51は、延伸停止位置P2で斜め外方向への延伸を停止し、右側のクリップ52は、延伸停止位置P2からL3の距離だけ離れた延伸停止位置S2で斜め外方向への延伸を停止する。このようにして、延伸工程3の延伸領域31で最大延伸幅W1まで熱可塑性樹脂フィルムを斜めに延伸する。次に、所定の距離を最大延伸幅W1の状態で搬送し、左側のクリップ51が緩和開始位置P3に来たとき、フィルムを延伸する方向とは逆の斜め内方向に移動し、緩和を開始する。また、右側のクリップ52は、緩和開始位置S3に来たときに、斜め内方向に移動し、緩和を開始する。左右のクリップ51、52がそれぞれP4、S4の緩和停止位置に到達したときに、緩和方向の移動を停止し、フィルムの幅は、最大延伸幅W1より狭い緩和幅W2となる。その後、P5、S5の把持解除位置まで、緩和幅W2の状態で搬送し、クリップ51、52を解除する。クリップ51、52から解除された斜め延伸されたフィルムは、巻きとり工程4の巻きとりロール41で巻きとられる。このようにして本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法により配向軸が搬送方向に対して傾斜した斜め延伸光学フィルムを製造する。
【0028】
このように本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法においては、延伸工程3は、フィルムを最大延伸幅W1まで延伸する延伸領域31と、該延伸領域の後、最大延伸幅W1より狭い、緩和幅W2まで緩和する緩和領域32とを有し、該緩和領域32を通過後に把持手段を開放することとしている。
【0029】
このような緩和領域32を設けることにより、延伸領域31で発生したフィルムの幅手に不均一な残留応力を、均一化させることが出来るという利点を有し、膜厚ムラや破断の無い、搬送方向に配向軸が均一に傾斜した斜め延伸光学フィルムを得ることができる。
【0030】
また、延伸領域31において、P1とP2とを結ぶ直線と搬送方向との角度θa1と、S1とS2とを結ぶ直線と搬送方向との角度θb1とが、下記条件式(1)と(2)を満たし、緩和領域32において、P3とP4とを結ぶ直線と搬送方向との角度θa2と、S3とS4とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θb2とが、下記条件式(3)と(4)を満たしている。なお、θa1、θb1、θa2、θb2の各角度は絶対値で表記している。また、θa2、θb2は、図1のようにフィルムの中央側(内方向)への角度である。
【0031】
θa1≧θb1・・・・(1)
θa1≦16.0°・・・(2)
θb2>θa2・・・(3)
θa2≦0.30°・・・(4)
このように式(1)から(4)を満たすことにより、膜厚ムラや破断の無い、搬送方向に配向軸が均一に傾斜した斜め延伸光学フィルムを得ることができる。θa1が16.0°を超える場合は、前後に配置されたクリップあるいはアームが干渉するため複雑な機構が必要となり、安定な延伸が困難である。また、θa1≧θb1のとき、θb2≦θa2とした場合は、フィルムの幅手方向に不均一に応力が残留するため配向軸が不均一となってしまう。また、θa1<θb1のとき、θb2>θa2とした場合も同様に、フィルムの幅手方向に不均一に応力が残留するため配向軸が不均一となってしまう。θa2、θb2がフィルムの幅手方向中央部から外側へ傾斜している場合、フィルムの破断が生じるため好ましくない。一方、θa2が0.3°を超える場合は、フィルム搬送方向にツレが生じてしまい、平面性故障となる。
【0032】
また、さらにθb1とθb2とが、下記条件式(5)を満たしていると好ましい。
【0033】
θb1>θb2・・・(5)
このように式(5)を満たすことにより、よりムラや破断の無い、より搬送方向に配向軸が均一に傾斜した斜め延伸光学フィルムを得ることができる。
【0034】
また、図1においては、図面左側にP0〜P5、右側にS1〜S5としたが、図面の左右に関係なく、条件式(1)を満たすようにP側(P0〜P5)、S側(S1〜S5)を決めればよい。
【0035】
また、延伸工程3においては、熱可塑性樹脂フィルムを加熱手段により加熱して延伸するのが好ましい。特に、延伸工程3の延伸領域31のフィルムの温度よりも、緩和領域のフィルムの温度が低いことがより好ましい。このようにすることにより膜厚ムラや破断の無い、搬送方向に配向軸が均一に傾斜した斜め延伸光学フィルムを得ることができる。
【0036】
また、左右のクリップ51,52の延伸開始位置P1、S1が図1のようにL2−L1だけずれる場合には、拡大図である図2に示すように、下流側にあるクリップ52の延伸開始位置S1をフィルム中央側のS12の位置になるようにするのが好ましい。即ち、クリップ51の軌跡がP1−P2であるとするとP1−P2と平行になるようにクリップ52がS11−S22の軌跡を描くように、延伸角度θa1とθb0を同じに設定するのが好ましい。このようにすることにより、より端部の応力が緩和され、均一な配向軸を持つ斜め延伸光学フィルムを得ることができる。
【0037】
また、図1に示す左右のクリップ51、52が延伸を停止する位置P2、S2のずれ量L3は、最大延伸幅W1と次の式(6)の関係にあるのが好ましい。
【0038】
L3×0.35≦W1≦L3×3.0・・・(6)
このような関係にすることにより、設備を大型化させる必要が無く、かつ効率的に斜め方向の延伸が実現できるため好ましい。
【0039】
また、延伸領域31と緩和領域32の間には、最大延伸幅W1を保持する保持領域33が存在する。この保持領域33において、左右のクリップ51、52の延伸停止位置P2とS2がずれると、実質的な保持時間が異なる場合がある。このような場合、保持領域33におけるフィルムの幅方向の温度が異なるように設定するのが好ましい。フィルムの幅方向の温度が異なるように設定することにより、より端部の応力が緩和され、均一な配向軸を持つ斜め延伸光学フィルムを得ることができ、好ましい。フィルム幅方向の温度を異ならせる手段としては、熱風の吹き出し口のを幅方向に複数設置し、各吹き出し口からの熱風温度を制御しても良く、また、吹き出し口とフィルム面との距離を調整することで行っても良く、更には、面状ヒータやハロゲンランプなどを幅方向に複数設置し、各温度を調整するようにしても良い。
【0040】
また、図1における斜め延伸装置であるテンターの上流側に、縦延伸機を設置することが、配向軸の角度を精度良く調整するのに好ましい。この場合、縦延伸機を通過したフィルムは、フィルム幅方向端部と中央部で膜厚差を生じ、端部の膜厚が厚くなることがあり、その場合には、縦延伸機で延伸する時に幅方向でフィルムの温度差を付けるようにして均一な膜厚になるように調整することが好ましい。また、縦延伸する前のフィルムの厚さを中央部で厚くなるようにしておくことで延伸後幅方向に均一なフィルム膜厚を得ることができる。また、縦延伸機で延伸されたフィルムは、フィルム移動方向の残留応力が大きく、そのため後工程であるテンターでの延伸工程で破断を生じたり、微細なひび割れ(クレーズ)がフィルム表面に発生することがある。この縦延伸機による残留応力を緩和するために、縦延伸機とテンターとの間に緩和工程を入れることが好ましい。緩和工程における縦緩和の方法は、周速差を設けた2つのロールによる収縮を用いても良いし、一般的な緩和プロセスを使用できる。
【0041】
また、熱可塑性樹脂を溶媒に溶かして金属体上に流延してフィルムを作製する溶液流延法のフィルム製造装置の後段に斜め延伸装置を設置し、金属体から剥がしたフィルムを延伸する場合、揮発性の溶媒を多く含んだフィルムを延伸することとなる。このような揮発性の溶媒を含んだフィルムを延伸する場合は、テンターで用いる温度と揮発性溶媒の沸点とを適切に調整することがフィルム幅方向の延伸軸の傾きムラをなくす点で好ましい。また、延伸前のフィルムの高沸点溶媒の含有量を調整したり、又は、テンター内部の雰囲気を揮発性溶媒雰囲気として、揮発性溶媒の揮発量を調整することで、より均一な配向軸を持つ斜め延伸光学フィルムを製造することができる。
【0042】
なお、上記の本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法についての説明図として、図1のようにフィルムの巻きだし方向と搬送方向とがほぼ同じ方向のもので説明したが、巻きだし方向と搬送方向が一定の角度を持つ、図3のような場合においても、本発明は適用される。図3の場合も角度の基準となる方向は、フィルムをロールで巻きとる搬送方向である。なお、図1に対応する記号、番号を図3にも付しているが、同じ記号及び番号は、図1と同じ意味で用いてるので説明は省略する。
【0043】
次に、本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法に用いるのに好ましい延伸装置について、図4〜図13を用いて説明する。
【0044】
図4および図5に、本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置(伸縮装置)401の断面および平面を示す。フィルム延伸装置401は、フィルム402を供給する供給装置403と、フィルムを加熱する縦延伸炉404と、フィルム402を下流に搬送する中間搬送装置405とからなる縦延伸部(縦伸縮部)406と、フィルム402を搬送しながら搬送方向に対して傾斜する方向に延伸する斜方延伸機407と、斜方延伸機407の中央部を覆うように設けられ、フィルム402を加熱する斜方延伸炉408とからなる斜方延伸部(斜方伸縮部)409と、フィルム402を巻き取る巻取装置410とからなっている。
【0045】
供給装置403は、フィルム402を巻き付けた原反リール411が装着され、フィルム402を基準ロール412とニップロール413で挟み込んで所定の搬送速度で送り出す。縦延伸炉404は、フィルム402に上下から互い違いに熱風を吹きかける熱風ダクト(加熱手段)414を有する断熱材で構成した箱体である。中間搬送装置405は、フィルム402を比率ロール415とニップロール416で挟み込んで搬送し、搬送方向と平行なE1方向に延伸する。斜方延伸機407は、フィルム402の両側に配した延伸チェイン417でフィルム402を搬送しながら、搬送方向に対して角度αだけ傾斜したE2方向に延伸するものであるが詳細は後述する。斜方延伸炉408は、フィルム402に上下から熱風を吹きかける熱風ダクト418を有する断熱材で構成した箱体である。巻取装置410は、テンションロール419で張力を調整しながら、フィルム402を製品リール420に巻き取る。
【0046】
図6に、斜方延伸機407の構成を示す。斜方延伸機407は、平行する2本の延伸チェイン417と、延伸チェイン417にそれぞれ一定間隔で設けた多数のベース421と、それぞれのベース421に一定方向に摺動可能に取り付けたアーム422と、それぞれのアーム422の先端に設けたクリップ423とからなっている。クリップ423は、フィルム402の両側縁部を把持できるようになっており、延伸チェイン417はフィルム402の面に垂直なスプロケット424に架け渡されて周回するようになっている。
【0047】
図7は、斜方延伸機407のさらに詳細な構造を示す。延伸チェイン417には1コマおきにベース421が固定されている。ベース421にはそれぞれ延伸チェイン417に対して45°(図5の角度α)傾斜した2つの摺動軸425が設けられ、それぞれの摺動軸425に沿って摺動可能にアーム422が取り付けられている。アーム422の上部には、ベアリングからなる位置決め部材426が設けられており、ガイド427で位置決め部材426を案内することでアーム422を突出および後退させるようになっている。アーム422の先端に設けたクリップ423は、公知のフィルム把持機構であり、ガイド428で開閉(フィルム402の把持又は解放)される。
【0048】
斜方延伸機407は、延伸チェイン417のベース421からアーム422を突出させてクリップ423によりフィルム402の両側縁部を把持し、延伸チェイン417が進行することでフィルム402を搬送する。この間に、クリップ423でフィルム402を把持したままアーム422を後退させることでフィルム402をアーム422の摺動する方向(図5のE2方向)に延伸して拡幅する。フィルム402が拡幅された後、クリップ423は、フィルム402を開放する。そして、アーム422は、さらに後退し、延伸チェイン417がスプロケット424に沿って折り返されるときにクリップ423がフィルム402に接触しないようにする。
【0049】
続いて、以上の構成からなるフィルム延伸装置401におけるフィルム402の延伸について説明する。
【0050】
縦延伸部406において、フィルム402は、基準ロール412で所定の速度で送り出され、比率ロール415によって基準ロール412よりも速い速度で搬送されると、縦延伸炉404内で加熱された部分が搬送方向(E1方向)に、比率ロール415の基準ロール412に対する搬送速度の比と同じ比率で延伸される。この縦方向の延伸によって、フィルム402は、分子が搬送方向に並び、縦方向の配向角が付与される。
【0051】
さらに、斜方延伸部409において、フィルム402は、搬送方向に対して角度αだけ傾斜下方向にE2方向に延伸される。この時、図1に示すように搬送方向とのなす角度が、前述の式(1)〜(4)を満たすように、延伸を開始及びする位置P1、S1、P2、S2、緩和を開始及び停止する位置P3、S3、P4、S4をそれぞれ設定する。このようにすることで、延伸領域においては、傾斜方向の延伸によって、フィルム402には、E2方向の引っ張りと、フィルム402の変形に対する応力とが作用し、E2方向よりも搬送方向に対して大きな角度に分子を配列させようとする延伸力が働き、傾斜方向の配向角が付与される。また、緩和領域においては、延伸領域において生じた応力の一部を緩和することができる。
【0052】
この結果、フィルム402は、しわやツレ、端部の破断などが無く、均一な配向軸を持つ、光学品質に優れた斜め延伸光学フィルムを得ることができる。
【0053】
また、本実施形態のフィルム延伸装置401において、クリップ423が、延伸チェイン417の走行方向に対して少なくとも所定の角度範囲を回転可能にすることが好ましい。
【0054】
図8に示すように、クリップ423が、延伸チェイン417の走行方向に対して所定の範囲で回転可能にすることで、フィルムにより均一に引っ張り応力がかかることで、より均一な配向軸をもつ光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得ることができる。具体的には、アーム422の先端に取り付けられたクリップ423を回転自在に取り付けるだけでも効果があるが、アーム422の動きに合わせて、互いに対向するクリップ同士が平行で、フィルム端部の走行方向に向くように、クリップ423の角度を制御することが好ましい。図9に具体的な例を示が、これに限らず、クリップ423が延伸チェイン417の走行方向に対して所定の角度の範囲で回転可能であり、制御出来る構造のものであればよい。図9はクリップ423の角度変化の機構を示す1つの具体例を模式的に示した平面図である。アーム422の先端に回転自在に設けられたクリップ423は、片方を圧縮バネ501で付勢され、もう一方をモータ502で駆動軸503を出し入れして、回転角度の制御を行っている。回転角度は、アームの動きに合わせて、図示していない回転角度制御装置によりモータの回転を制御することで調整することが出来る。
【0055】
また、本実施形態のフィルム延伸装置401において、アーム422が湾曲していることが好ましい。
【0056】
図10に示すようにアーム422が湾曲していることにより、ベース421上をアーム422が摺動するのに連動して、なめらかにクリップ423の角度が変化し、フィルムにより均一に引っ張り応力がかかることで、より均一な配向軸をもつ光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得ることができる。図11にベース421上を湾曲したアーム422が摺動する様子を説明するための構成図を模式的示す。
【0057】
アーム422は、ベース421にピニオンギヤ504、505により固定及び搬送される。ピニオンギヤ504、505が回転することにより、該ピニオンギヤ504、505と係合するアーム422の側面に形成されたラックギヤが駆動させられ湾曲したアーム422が湾曲形状に沿って動かされる。図10のaの位置からb、cへと変化するにつれて、先端に固定配置されたクリップ423は、徐々に角度を変化させながら移動する。この角度変化は、アーム422の湾曲形状を規定することにより制御することが出来、フィルムにより均一に引っ張り応力がかかるようになり、より均一な配向軸をもつ光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得ることができる。
【0058】
また、本実施形態のフィルム延伸装置401において、クリップ423に2つのアーム422が取り付けられていることが好ましい。
【0059】
図12に示すようにクリップ423に2つのアーム422を取り付け、各アーム422を独立してベース421上を摺動させることで、クリップ423の角度を任意に調整することができ、フィルムに、より均一に引っ張り応力がかかることで、より均一な配向軸をもつ光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得ることができる。
【0060】
また、本実施形態のフィルム延伸装置401において、図13に示すように、一方のチェイン417に設けられたベース421と他方のチェイン417に設けられたベース421を連結し、それぞれのベース421に取り付けられたアーム422と、該アーム上で摺動可能に設けられ、フィルムの両側縁部を把持した一対のクリップで、搬送しながらクリップを摺動させてフィルムを延伸することが好ましい。
【0061】
このような構成にすることでアーム422の延伸工程での熱膨張による延伸方向の誤差も少なくすることが出来、フィルムにより均一に引っ張り応力がかかることで、より均一な配向軸をもつ光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得ることができる。また、アーム422がフィルムの下部を横断することで延伸工程におけるフィルム加熱ムラを起こす可能性もあるが、そのような場合には、例えば、熱風の供給角度を調整したり、熱風口を搬送されるフィルムの上下に千鳥状に配置させることでより均一なフィルム温度にすることが出来る。
【0062】
また、本実施形態のフィルム延伸装置401において、クリップ423の幅は、アーム422の幅よりも広いことが、好ましい。クリップ423の幅をアーム422より広くすることにより、フィルムの幅方向端部付近の搬送方向に対する配向軸の角度ムラを少なくすることが出来る。
【0063】
また、クリップ423の配置のピッチは、20mm以下であることが好ましい。20mm以下にすることにより、フィルム幅方向の端部をより均一に引っ張ることが出来、より均一な配向軸をもつ光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得ることができる。
【0064】
また、本実施形態のフィルム延伸装置401において、アーム422は、熱膨張係数の小さい金属材料を用いるのが好ましい。また、軽量化の観点から、カーボンファイバーのような炭素繊維材料を用いるのも良い。このような材料を用いることにより、フィルムを加熱する延伸工程で、アーム422の熱膨張を少なくし、フィルムの搬送安定性や延伸精度の確保に有効である。また、アーム422に温度抑制のための冷風を当てることも、熱膨張を抑えるのに好ましい。
【0065】
また、本実施形態のフィルム延伸装置401において、把持開始位置P0、S0でクリップ423がフィルム両端で把持を始めるようにアーム422の摺動に連動したクリップ把持機構を有することが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1〜12、比較例1〜6)
本実施例では、図4に示した延伸装置1を用いて熱可塑性樹脂フィルムを延伸し、斜め延伸光学フィルムを作製した。熱可塑性樹脂フィルムとして、ノルボルネン系樹脂のペレット(日本ゼオン社製、ZEONOR1420)を100℃で5時間乾燥し、押出し機に供給し、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経てTダイからキャスティングドラム上にシート状に押出し、冷却し、厚み160μmの長尺の未延伸フィルム(0)を得た。未延伸フィルム(0)はロールに巻き取った。
【0068】
次いで、未延伸フィルム(0)をロールから引き出して、図4に示す延伸装置1を用いて、図1ようなクリップの軌跡を有するパターンに設定し、連続的に延伸して、搬送方向に対する配向軸の角度が45(°)になる長尺の斜め延伸光学フィルムを得た。この時の縦延伸部におけるE1方向の延伸率は1とし、縦方向への延伸は行わなかった。また、得られたフィルムの幅W2は、最大延伸幅W1より10mm狭い幅であった。斜方延伸機407の図1に対応する各位置、即ち延伸開始位置P1、S1、延伸停止位置P2、S2、緩和開始位置P3、P3、緩和停止位置P4、S4、を変更して、θa1、θa2、θb1、θb2を表2のように実施例1〜12と比較例1〜6の設定条件で、フィルムの延伸を行い、ロールに巻きとった。
【0069】
得られた斜め延伸光学フィルムについて幅方向中央部と幅方向両端から50mmの2つの地点、及び幅方向の中間部の2つの地点の合計5点において、自動複屈折計(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−21ADH」)により搬送方向に対する配向軸の角度を測定した。配向軸の角度のばらつきは、上記5点において測定された値のうちの最大値と最小値との差とした。得られた搬送方向に対する配向軸のばらつきをの表2に示す。
【0070】
(実施例13)
実施例1において、クリップがチェインの走行方向に対して所定の角度回転出来るように図9の回転機構を用いて、フィルムの端部の把持する方向をフィル端部の走行方向に応じて滑らかに変化するように制御した。その他は、実施例1と同様にして斜め延伸光学フィルムを作製した。作製したフィルムの搬送方向に対する配向軸の角度を実施例1と同じように測定し、測定結果を表2に示す。
【0071】
(実施例14)
実施例1において、アームに図11の湾曲したアームを用いた他は、実施例1と同様にして斜め延伸光学フィルムを作製した。作製したフィルムの搬送方向に対する配向軸の角度を実施例1と同じように測定し、測定結果を表2に示す。
【0072】
(実施例15)
実施例1において、クリップに2本のアームを取り付け、各々のアームを制御するた図12の構成を用いた他は、実施例1と同様にして斜め延伸光学フィルムを作製した。作製したフィルムの搬送方向に対する配向軸の角度を実施例1と同じように測定し、測定結果を表2に示す。
【0073】
(実施例16)
実施例1において、互いに対応するベースを1本のアームで連結し、アーム上に配置した2本のクリップを摺動させた構成にした他は、実施例1と同様にして斜め延伸光学フィルムを作製した。作製したフィルムの搬送方向に対する配向軸の角度を実施例1と同じように測定し、測定結果を表2に示す。
【0074】
(実施例17)
実施例1における熱可塑性樹脂フィルムに替えて、下記に従い作製したセルロースエステルフィルムを用いた他は、実施例1と同様に作製した。
【0075】
セルロースエステルフィルムの作製に用いた材料について以下に纏めて示す。
【0076】
【表1】

【0077】
〈微粒子分散液〉
微粒子 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0078】
〈微粒子添加液〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースエステルAを添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後のセルロースエステル溶液を充分に攪拌しながら、ここに微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のナスロンファインポアNFフィルタで濾過し、微粒子添加液を調製した。
【0079】
メチレンクロライド 99質量部
セルロースエステルA 4質量部
微粒子分散液 11質量部
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルAを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、更に可塑剤及び紫外線吸収剤を添加、溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0080】
主ドープ液100質量部と微粒子添加液2質量部となるように加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分に混合し、次いでベルト流延装置を用い、幅2mのステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体から剥離した。
【0081】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 57質量部
セルロースエステルA 100質量部
可塑剤(A)、(B)、(C) 1:1:1の比で 5.5質量部
可塑剤(D) 5.5質量部
紫外線吸収剤(A) 0.4質量部
紫外線吸収剤(B) 0.7質量部
紫外線吸収剤(C) 0.6質量部
ステンレスバンド支持体かた剥離したフィルムを、実施例1と同様にして、図4に示す延伸装置1を用いて、搬送方向に対する配向軸の角度が45(°)になる長尺の斜め延伸光学フィルムを得た。作製したフィルムの搬送方向に対する配向軸の角度を実施例1と同じように測定し、測定結果を表2に示す。
【0082】
評価は、ばらつきの値が、0.5°以下を◎、0.5°を越えて1.5°以下を○、1.5°を越えて3°以下を△、3°を越えるものを×とした。ばらつきが3°以下であれば斜め延伸光学フィルムとして、画像表示装置の光学補償用に用いることが出来る。
【0083】
【表2】

【0084】
表2の実施例1〜12の結果から、前述の式(1)から(4)を満足する条件において、ばらつきが3°以下であり、均一に分子の配向が行われた斜め延伸光学フィルムを得たことがわかる。また、実施例1〜8と実施例9〜12を比較すると前述の式(5)を持たすことがよりばらつきの少ない配向軸を有する斜め延伸光学フィルムを得られることがわかる。一方、実施例1〜12と比較例1とを比べると、前述の式(1)〜(4)の条件で式(4)が範囲外になると、ばらつきが大きくなることがわかる。また、実施例1〜12と比較例2とを比べると、前述の式(1)〜(4)の条件で式(2)が範囲外となると、ばらつきが大きくなることがわかる。さらに、実施例1〜12と比較例3〜5とを比べると、前述の式(1)〜(4)の条件で式(3)が範囲外となると、ばらつきが大きくなることがわかる。また、実施例1〜12と比較例6とを比べると、前述の式(1)〜(4)の条件で式(1)が範囲外となると、ばらつきが大きくなることがわかる。
【0085】
また、実施例1と実施例13とを比べると、クリップをチェインの走行方向に対して少なくとも所定の角度範囲を回転可能にすることでより、よりばらつきが少なく、光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得られることがわかる。また、実施例1と実施例14とを比較すると、アームを湾曲形状とすることでも、よりばらつきが少なく、光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得られることがわかる。また、実施例1と実施例15とを比較すると、クリップに2本のアームを取り付け、各々のアームを制御する構成を用いても、よりばらつきが少なく、光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得られることがわかる。さらに、実施例1と実施例16とを比較すると、互いに対応するベースを1本のアームで連結し、アーム上に配置した2本のクリップを摺動させた構成を用いても、よりばらつきが少なく、光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得られることがわかる。
【0086】
また、実施例1と実施例17とを比較すると、熱可塑性樹脂を溶媒に溶かして金属体上に流延してフィルムを作製する溶液流延法のフィルム製造装置の後段に斜め延伸装置を設置し、金属体から剥がしたフィルムを延伸する場合でも、光学品質の良い斜め延伸光学フィルムを得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法を説明するための模式的平面図である。
【図2】クリップの延伸開始位置を説明するための部分拡大図である。
【図3】本発明の斜め延伸光学フィルムの製造方法において、フィルムの巻きだし方向と搬送方向とが一定の角度を持つ場合を示す模式的平面図である。
【図4】本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置の断面図を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置の平面図を模式的に示す図である。
【図6】斜方延伸機の構成を模式的に示す図である。
【図7】斜方延伸機のさらに詳細な構造を模式的に示す図である。
【図8】本発明の延伸装置のクリップが、延伸チェインの走行方向に対して所定の範囲で回転可能であることを模式的に示す図である。
【図9】本発明の延伸装置のクリップが、延伸チェインの走行方向に対して所定の範囲で回転可能である具体例を模式的に示す図である。
【図10】本発明の延伸装置のアームが湾曲していることを模式的に示す図である。
【図11】本発明の延伸装置のアームが摺動する様子を説明するための構成図を模式的示す図である。
【図12】本発明の延伸装置のクリップに2つのアームを取り付けた状態を模式的に示す図である。
【図13】本発明の延伸装置において、一方のベースと他方のベースを連結したアームを有する構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1 延伸光学フィルムの製造装置
2 巻きだし工程
3 延伸工程
4 巻きとり工程
W1 最大延伸幅
W2 緩和幅
31 延伸領域
32 緩和領域
33 保持領域
W0 延伸前のフィルムの幅
P0、S0 把持開始位置
21 巻きだしロール
51、51、423 クリップ
P1、S1 延伸開始位置
P2,S2 延伸停止位置
P3、S3 緩和開始位置
P4、S4 緩和停止位置
P5、S5 把持解除位置
41 巻きとりロール
401 フィルム延伸装置(延伸装置)
402 フィルム
403 供給装置
404 縦延伸炉
405 中間搬送装置
406 縦延伸部(縦伸縮部)
407 斜方延伸機
408 斜方延伸炉
409 斜方延伸図(斜方伸縮部)
410 巻取装置
411 原反リール
412 基準ロール
413、416 ニップロール
414、418 熱風ダクト(加熱手段)
415 比率ロール
417 延伸チェイン
419 テンションロール
420 製品リール
421 ベース
422 アーム
424 スプロケット
425 摺動軸
426 位置決め部材
427、428 ガイド
501 圧縮バネ
502 モータ
503 駆動軸
504、505 ピニオンギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のフィルムの幅方向の両端を把持手段により把持し、前記フィルムの延伸後の搬送方向と該フィルムの配向軸の方向が傾斜するように延伸する延伸工程を有する斜め延伸光学フィルムの製造方法において、
前記延伸工程は、
前記フィルムを最大延伸幅まで延伸する延伸領域と、
該延伸領域の後、前記最大延伸幅より狭い、緩和幅まで緩和する緩和領域とを有し、
前記延伸領域において、
前記フィルムの片方の端部を把持する把持手段が、
前記フィルムの延伸を開始する位置をP1、
前記フィルムの延伸を停止する位置をP2、
前記フィルムのもう一方の端部を把持する把持手段が、
前記フィルムの延伸を開始する位置をS1、
前記フィルムの延伸を停止する位置をS2、
とするとき、
P1とP2とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θa1と、
S1とS2とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θb1とが、下記条件式(1)と(2)を満たし、
前記緩和領域において、
前記フィルムの片方の端部を把持する把持手段が、
前記フィルムの緩和を開始する位置をP3、
前記フィルムの緩和を停止する位置をP4、
前記フィルムのもう一方の端部を把持する把持手段が、
前記フィルムの緩和を開始する位置をS3、
前記フィルムの緩和を停止する位置をS4、
とするとき、
P3とP4とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θa2と、
S3とS4とを結ぶ直線と前記搬送方向との角度θb2とが、下記条件式(3)と(4)を満たしていることを特徴とする斜め延伸光学フィルムの製造方法。
θa1≧θb1・・・・(1)
θa1≦16.0°・・・(2)
θb2>θa2・・・(3)
θa2≦0.30°・・・(4)
【請求項2】
前記θb1と前記θb2とが、下記条件式(5)を満たしていることを特徴とする請求項1に記載の斜め延伸光学フィルムの製造方法。
θb1>θb2・・・(5)
【請求項3】
フィルムの搬送経路の両側に設けられた2本のチェインと、
該チェインに設けられた多数のベースと、
該ベース上にそれぞれ摺動可能に取り付けられ前記フィルム側に突出可能なアームと、
該アームの前記フィルム側の一端にそれぞれ設けられて前記フィルムの両側縁部を把持可能なクリップとを有し、
該クリップで前記フィルムの両側縁部を把持し、搬送しながら前記アームを摺動させて前記フィルムを延伸する延伸装置において、
前記クリップが前記チェインの走行方向に対して、少なくとも所定の角度範囲を回転可能であることを特徴とする延伸装置。
【請求項4】
フィルムの搬送経路の両側に設けられた2本のチェインと、
該チェインに設けられた多数のベースと、
該ベース上にそれぞれ摺動可能に取り付けられ前記フィルム側に突出可能なアームと、
該アームの前記フィルム側の一端にそれぞれ設けられて前記フィルムの両側縁部を把持可能なクリップとを有し、
該クリップで前記フィルムの両側縁部を把持し、搬送しながら前記アームを摺動させて前記フィルムを延伸する延伸装置において、
前記アームが湾曲していることを特徴とする延伸装置。
【請求項5】
フィルムの搬送経路の両側に設けられた2本のチェインと、
該チェインに設けられた多数のベースと、
該ベース上にそれぞれ摺動可能に取り付けられ前記フィルム側に突出可能なアームと、
該アームの前記フィルム側の一端にそれぞれ設けられて前記フィルムの両側縁部を把持可能なクリップとを有し、
該クリップで前記フィルムの両側縁部を把持し、搬送しながら前記アームを摺動させて前記フィルムを延伸する延伸装置において、
前記クリップに複数の前記アームが取り付けられていることを特徴とする延伸装置。
【請求項6】
フィルムの搬送経路の両側に設けられた2本のチェインと、
該チェインに設けられた多数のベースと、
一方のチェインに設けられたベースと他方のチェインに設けられたベースを連結し、それぞれのベースに取り付けられたアームと、
該アーム上で摺動可能に設けられ、前記フィルムの両側縁部を把持可能な一対のクリップとを有し、
該クリップで前記フィルムの両側縁部を把持し、搬送しながら前記クリップを摺動させて前記フィルムを延伸することを特徴とする延伸装置。
【請求項7】
請求項3乃至6の何れか1項の延伸装置を用いたことを特徴とする請求項1に記載の斜め延伸光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−119774(P2009−119774A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297823(P2007−297823)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】