説明

斜面の安定化工法

【課題】引張り、曲げ、せん断等に対する耐力確保が十分であることはもちろん、地下水に起因する斜面の崩落対策としても十分な斜面の安定化工法を提供する。
【解決手段】先端部と後端部とに螺旋状回転翼19A,19bを設けた小口径の逆止弁付き鋼管12と後端部に螺旋状回転翼19Cを設けた、ドレーン管として機能する小口径の孔明き鋼管14とを用意する。そして、逆止弁付き鋼管12に孔明き鋼管14をカップリング15を介して継ぎ足しながら両鋼管12、14を地中に回転圧入し、逆止弁付き鋼管12を地中内の不動層Bに貫入させると共に、孔明き鋼管14を前記不動層Bの上部の移動層Cに位置させる。その後、逆止弁付き鋼管12の内部から逆止弁を開いて該鋼管12の周りの地中に硬化材グラウトを加圧注入して、鋼管12を不動層Bに定着させ、この状態で、孔明き鋼管14の開口から移動層C内の地下水を排水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土斜面、切り土斜面等の斜面を安定化するための安定化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面の安定化工法としては、地盤に削孔した孔内に鉄筋を挿入すると共に、硬化材グラウトを注入して鉄筋を地盤に定着させる鉄筋補強土工法、ケーシングを用いて地盤に削孔した後、ケーシング内にアンカーを挿入して、前記ケーシングを引抜き、しかる後に孔内に硬化材グラウトを注入してアンカーを地盤に定着させるグランドアンカー工法が従来より知られている。
【0003】
しかしながら、上記鉄筋補強土工法によれば、小径(20〜30mm程度)の鉄筋を使用することに加え、削孔径、削孔長共にかなり小さく(削孔径:40〜60mm程度、削孔長:5m程度)、グラウト定着層の厚さもわずかとなり、引張り、曲げ、せん断等に対する耐力はそれほど期待できず、小規模の斜面安定化対策に限定されるという問題があった。また、上記グランドアンカー工法によれば、引張りに対する耐力は十分となるものの、曲げおよびせん断に対する耐力は期待できず、その上、アンカーに大きなプレストレスを付与するため、支圧板として剛性の高い大型の法枠や十字ブロックが必要となり、それらの打設に多くの工数と時間とを要して施工が面倒になるという問題があった。
【0004】
そこで最近、上記鉄筋補強土工法やグランドアンカー工法に代わる斜面安定化工法の開発が推し進められている。例えば、特許文献1には、100〜300mmの小口径の逆止弁付き鋼管を地中に貫入した後、該鋼管の内部から前記逆止弁を開いて該鋼管の周りの地中に硬化材グラウトを加圧注入して、該鋼管を定着させる工法が開示されている。また、特許文献2には、先端部に回転具(螺旋状回転翼)を設けると共に、安定処理材(硬化材グラウト)の噴射口を設けた補強材(鋼管)を、前記噴射口から安定処理材を噴射させながら地盤中に回転圧入し、補強材の周囲に柱状の安定処理層(定着層)を形成してアンカーとする工法が開示されている。これら工法によれば、鋼管が周囲の定着層と一体となって引張り、曲げ、せん断等に対する大きな耐力を発揮するので、斜面の安定化に大きく寄与するものとなる。
【0005】
ところで、斜面の崩壊は、浸透水や湧水等の地下水によって地中の移動層(主働領域)がゆるむことにより起こることが多く、特に盛土斜面でその傾向が顕著なる。そして、この地下水に起因する斜面崩落に関しては、上記した新たな工法によっても十分な対策とならず、このため、地下水の多い斜面特に盛土斜面の補強に際しては、別途、水抜き工を施工する必要があり、その分、施工期間の延長並びに施工コストの上昇が避けられないようになる。
【0006】
なお、例えば、特許文献3には、地中にオーガ先端から固結材を吐出させながら掘進して補強柱体を構築し、この補強柱体内に先端に集水孔を有する中空芯材を挿入して、その先端部を地中に突出させ、芯材を通じて排水する斜面補強工法が記載されている。しかし、この工法によれば、中空芯材の周囲に不透過の補強柱体が配置されるため、補強柱体の先端側からだけの水抜きとなり、上記地下水に起因する斜面の崩落対策としては不十分である。
【0007】
【特許文献1】特開2002−275907号公報
【特許文献1】特開2004−162417号公報
【特許文献1】特開平7−189264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した技術的背景に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、引張り、曲げ、せん断等に対する耐力確保が十分であることはもちろん、地下水に起因する斜面の崩落対策としても十分な斜面の安定化工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、少なくとも先端部に螺旋状回転翼を設けた小口径の逆止弁付き鋼管とドレーン管として機能する小口径の孔明き鋼管とを用意し、前記逆止弁付き鋼管に前記孔明き鋼管を継ぎ足しながら両鋼管を地中に回転圧入して、該逆止弁付き鋼管を地中内の不動層に貫入させると共に、該孔明き鋼管を前記不動層の上部の移動層に位置させ、しかる後、前記逆止弁付き鋼管の内部から前記逆止弁を開いて該鋼管の周りの地中に硬化材グラウトを加圧注入し、該鋼管を前記不動層に定着させることを特徴とする。
【0010】
このように行う斜面の安定化工法においては、逆止弁付き鋼管を不動層まで貫入し、その周りに硬化材グラウトを加圧注入して該鋼管を不動層に定着させるので、引張り、曲げ、せん断等に対して大きな耐力を発揮する。また、地下水の影響でゆるみが生じ易い移動層にはドレーン機能を有する孔明き鋼管を位置させるので、地下水が該孔明き鋼管を通じて外部へ排水され、地下水の影響で移動層がゆるむこともなくなる。
【0011】
本発明において、上記逆止弁付き鋼管および孔明き鋼管としては、100mm以下の小口径のものを用いるのが望ましい。これは、盛土斜面は、一般的に狭隘な環境に存在することが多く、小型の施工機械による施工を可能にするためである。ただし、口径があまり小さいと、曲げ耐力、せん断耐力が不足するので、小さくても70mmとするのが望ましい。
【0012】
本発明は、上記逆止弁付き鋼管の後端部または孔明き鋼管の先端部に螺旋状回転翼を設け、該回転翼を、硬化材グラウトの移動層側への流動を抑える遮蔽板として用いるようにしてもよい。この場合は、硬化材グラウトが孔明き鋼管の周りに浸入するのが抑えられるので、孔明き鋼管のドレーン機能が損なわれることはなくなる。
【0013】
本発明はまた、孔明き鋼管の後端部に螺旋状回転翼を設け、該回転翼を、斜面の表面を押える支圧板として用いるようにしてもよい。この場合は、別途支圧板を設ける工程が不要になるので、施工コストが低減する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る斜面の安定化工法によれば、引張り、曲げ、せん断等に対する耐力確保が十分であることはもちろん、地下水に起因する斜面の崩落対策としても十分となり、地下水の多い斜面特に盛土斜面の補強に向けて極めて有用となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る安定化工法を実施した後の斜面の状態を示したものである。本実施の形態は、盛土斜面1を対象になされたもので、同図には、盛土斜面1の法面2から地中に打設された複数の抑止杭10が示されている。盛土斜面1は、その法面2の背後にすべり面Aを有し、該すべり面Aよりも深い側が不動層(定着領域)B、該すべり面Aよりも法面2側が移動層(主働領域)Cとなっている。各抑止杭10は、水平軸Lに対して所定の角度θ(θ=0〜30度)だけ傾斜する状態で、前記すべり面Aより十分深く打設されている。
【0017】
図2および図3にも示すように、各抑止杭10は、管壁に円周方向および軸方向に等配して多数の逆止弁11を設けた逆止弁付き鋼管12と同じく管壁に円周方向および軸方向に等配して多数の開口13を設けた孔明き鋼管14とをカップリング15を介して連結した中空杭体16と、この中空杭体16を構成する逆止弁付き鋼管12の周りに形成されたグラウト定着層17とからなっている。中空杭体16は、逆止弁付き鋼管12と孔明き鋼管14との境界部分(カップリング15)がほぼすべり面A上に位置するように地中に打設され、これによって逆止弁付き鋼管12はその全体が前記浮動層B内に配置され、かつ孔明き鋼管14はその全体が移動層C内に配置されている。本実施形態において、逆止弁付き鋼管12並びに孔明き鋼管14としては、口径が70〜100mmの小口径鋼管が用いられている。また、逆弁付き鋼管12としては、その軸方向に多数の節18を有する節付き鋼管が用いられている。
【0018】
ここで、孔明き鋼管14の開口13は、細長い矩形の孔となっている。この開口13は、一例として、幅1〜3mm程度、長さ14mm程度の大きさとなっており、これにより開口13から鋼管14内への土砂の浸入は阻止されるが、水の浸入は許容されるようになっている。すなわち、孔明き鋼管14はドレーン管として機能するようになっている。
【0019】
本実施形態において、上記逆止弁付き鋼管12には、その先端部と後端部との二箇所に螺旋状回転翼19A、19Bが設けられ、一方、孔明き鋼管14には、その後端部に同様の螺旋状回転翼19Cが設けられている。各回転翼19A〜Cは、鋼管12、14の外径に比して十分大きな直径(一例として、鋼管径の1.5〜3.0倍)となるようにその大きさが設定されている。また、各回転翼19A〜Cは、各鋼管12、14の時計方向への回転に応じて地中に食込むようにその螺旋向きが設定されている。
【0020】
本安定化工法の実施に際しては、盛土斜面1の周辺の段部3に図示を略す施工機械を乗入れ、先ず、逆止弁付き鋼管12を先頭に、これを盛土斜面1の法面2から地中に回転圧入し、逆止弁付き鋼管12が適当深度貫入したところで、カップリング15を介して孔明き鋼管14を継足し、その回転圧入を続ける。このとき、逆止弁付き鋼管12の先端部に設けた螺旋状回転翼19Aの食込みにより各鋼管12、14(中空杭体16)の回転圧入が進行するので、土砂の排出はなく、したがって、排土処理は不要になる。また、各鋼管12、14は小口径鋼管(口径70〜100mm)となっているので、施工機械は小型のもので足り、したがって、施工機械を乗入れる段部3は幅の狭い小段でもよく、狭隘な環境でも無理なく施工を行うことができる。
【0021】
そして、先頭の逆止弁付き鋼管12のほぼ全長が盛土斜面1の不動層B内に貫入したら、中空杭体16の回転圧入を停止し、図4に示すように逆止弁付き鋼管12の内部に注入機20を挿入する。この注入機20は、シングルパッカーと呼称されるもので、空気圧により膨出する1つの膨出体21と吐出ノズル22とを備えており、膨出体21には地上の圧縮空気源から延ばしたエアホース23が、吐出ノズル22には地上のグラウト供給源から延ばしたグラウト管24がそれぞれ接続されている。
【0022】
上記注入機20は、最初、逆弁付き鋼管12の先端部付近まで挿入し、その位置でエアホース23を通じて膨出体21に圧縮空気を送ってこれを膨出させ、逆止弁付き鋼管12に対してその位置を固定する。続いて、グラウト管24を通じて吐出ノズル22にグラウトセメントミルク、セメントモルタル等の硬化材グラウトを圧送する。すると、この硬化材グラウトは、吐出ノズル22から吐出して鋼管12の先端部に充填され、その圧力で、充填域に対応する逆止弁11が開いて硬化材グラウトが逆止弁付き鋼管12の周辺へ放射状に噴出し、鋼管12の周りの地中に加圧注入される。
【0023】
このようにして、逆止弁付き鋼管12の周りには、周辺土砂と硬化材グラウトとが混合した前記グラウト定着層17が形成され、このグラウト定着層17は、注入機20を、逆止弁11の配列ピッチに相当するピッチで引上げながら、前記硬化材グラウトの吐出を繰返すことで次第に上方へ拡大する。このとき、逆止弁付き鋼管12の後端部には螺旋状回転翼19Bが存在するので、該回転翼19Bによって移動層C側、すなわち孔明き鋼管14の周りへの硬化材グラウトの浸入が抑えられ、この結果、孔明き鋼管14の開口13が硬化材グラウトによって閉塞されることはなくなる。したがって、該回転翼19Bは、硬化材グラウトの移動層C側への流動を抑える遮蔽板として機能している。
【0024】
上記した硬化材グラウトの加圧注入は、逆止弁付き鋼管12のほぼ全長わたって実施し、これにより逆止弁付き鋼管12のほぼ全長がグラウト定着層17を介して盛土斜面1の不動層Bに強固に定着され、中空杭体16とグラウト定着層17とが一体となった抑止杭10の打設が終了する。このように打設された抑止杭10は、先頭側の逆止弁付き鋼管12がグラウト定着層17を介して盛土斜面1の不動層(定着領域)Bに定着されかつ大径の螺旋状回転翼19Aによって抜け方向に拘束されているので、引張り、曲げ、せん断等に対して大きな耐力を発揮するものとなる。本実施形態においては特に、逆止弁付き鋼管12として外周面に節18を有する節付き鋼管を用いているので、該鋼管12の引抜抵抗が増大し、抑止杭10の支持力はより一層増大する。
【0025】
一方、盛土斜面1の移動層(主働領域)Cには、ドレーン管として機能する孔明き鋼管14が埋設されているので、浸透水や湧水等の地下水は開口13から鋼管14内に流入し、該鋼管14内を通して外部へ排出される。したがって、地下水によって移動層Cがゆるむことはなくなり、盛土斜面1の崩落が未然に防止される。本実施形態においては特に、中空杭体16を水平軸Lに対してわずかの傾斜角度(0〜30度)で傾斜させているので、孔明き鋼管14を通じて円滑に排水が進み、移動層Cのゆるみはより一層抑制される。
【0026】
ここで、孔明き鋼管14は、その後端部に設けた螺旋状回転翼19Cが土中にわずか埋込まれるようにその長さが設定されており、これにより該回転翼19Cは、盛土斜面1の法面2を押える支圧板として機能し、この結果、移動層Cからの土砂の抜け出しが防止され、盛土斜面1はより一層安定する。換言すれば、別途支圧板を設ける工程が不要になり、その分、施工コストが低減する。
【0027】
なお、上記孔明き鋼管14の開口13は、土砂の流入を防ぐフィルタを付設した構造としてもよく、この場合は、開口13の大きさ、形状は任意である。また、この孔明き鋼管14は、鋼管と同等の強度を有する他のドレーン管に代えることができる。
【0028】
また、上記実施形態においては、逆止弁付き鋼管12に対し、その先端部と後端部とに螺旋状回転翼19A、19Bを設けたが、後端側の螺旋状回転翼19Bは、逆止弁付き鋼管12に代え、孔明き鋼管14の先端部またはカップリング15に設けるようにしてもよいものである。
【0029】
さらに、上記実施形態においては、硬化材グラウトを加圧注入する注入機20として、1つの膨出体21を備えたシングルパッカーを用いたが、該注入機20としては、2つの膨出体を備えた、いわゆるダブルパッカー形式のものを用いてもよいものである。この場合は、2つの膨出体の間の空域が圧力室となり、この圧力室を経て硬化材グラウトが逆止弁11から噴出されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一つの実施形態である安定化工法を実施した後の斜面の状態を模式的に示す断面図である。
【図2】本安定化工法で打設された抑止杭の打設状態を示す断面図である。
【図3】本安定化工法で打設される抑止杭を構成する逆止弁付き鋼管と孔明き鋼管の構造を示す側面図である。
【図4】逆止弁付き鋼管から注入機を用いて硬化材グラウトを加圧注入する実施状況を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 盛土斜面
2 法面
10 抑止杭
11 逆止弁
12 逆止弁付き鋼管
13 開口
14 孔明き鋼管
16 中空杭体
17 グラウト定着層
19A〜C 螺旋状回転翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも先端部に螺旋状回転翼を設けた小口径の逆止弁付き鋼管とドレーン管として機能する小口径の孔明き鋼管とを用意し、前記逆止弁付き鋼管に前記孔明き鋼管を継ぎ足しながら両鋼管を地中に回転圧入して、該逆止弁付き鋼管を地中内の不動層に貫入させると共に、該孔明き鋼管を前記不動層の上部の移動層に位置させ、しかる後、前記逆止弁付き鋼管の内部から前記逆止弁を開いて該鋼管の周りの地中に硬化材グラウトを加圧注入し、該鋼管を前記不動層に定着させることを特徴とする斜面の安定化工法。
【請求項2】
逆止弁付き鋼管および孔明き鋼管の口径が、70〜100mmであることを特徴とする請求項1に記載の斜面の安定化工法。
【請求項3】
逆止弁付き鋼管の後端部または孔明き鋼管の先端部に螺旋状回転翼を設け、該回転翼を、硬化材グラウトの移動層側への流動を抑える遮蔽板として用いることを特徴とする請求項1または2に記載の斜面の安定化工法。
【請求項4】
孔明き鋼管の後端部に螺旋状回転翼を設け、該回転翼を、斜面の表面を押える支圧板として用いることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の斜面の安定化工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−274553(P2008−274553A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115719(P2007−115719)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】