断層像再構成方法およびX線CT装置
【課題】対象物のCT撮影により得られた投影データを用いて、順投影処理を含む断層像再構成演算を行うことにより、対象物の断層像を構築する方法において、CT再構成領域の外側に対象物の一部が存在している場合でも、それが原因でアーチファクトが生じることを防止することのできる断層像再構成方法を提供する。
【解決手段】何らかの方法で構築した対象物の断層像を順投影処理する工程を含む断層像再構成演算方法において、順投影処理に供する領域を、CT再構成領域の外側で、かつ、投影データが放射線検出器の受光面に映り込む領域にまで拡張することにより、CT再構成領域A外に物体が存在した場合にもその影響が計算に組み入れられるので、それに起因するアーチファクトの発生が防止できる。
【解決手段】何らかの方法で構築した対象物の断層像を順投影処理する工程を含む断層像再構成演算方法において、順投影処理に供する領域を、CT再構成領域の外側で、かつ、投影データが放射線検出器の受光面に映り込む領域にまで拡張することにより、CT再構成領域A外に物体が存在した場合にもその影響が計算に組み入れられるので、それに起因するアーチファクトの発生が防止できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CTやSPECT等、放射線を利用して対象物の断層像を構築する断層像再構成方法と、その方法を利用したX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CTやSPECT(Single Photon Emission CT)、あるいはPET(Positron Emission Tomography)においては、対象物を複数の角度で透過した放射線を検出器で検出して、複数角度での放射線投影データを収集し、その投影データを再構成することによって、対象物の断層像を得る。
【0003】
投影データの再構成方法にはいくつかの手法が知られており、FBP(Filtered Back Prjection)などの解析的手法、ART(Algebraic Reconstruction)などの代数的手法、およびOS−MLEM(Orderd−Subsets Maximum−Likelihood Expectation−Maximization)などの統計的手法等が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
また、SA(Simulated Annealing)法を採用し、画像再構成にFBPを排除することを可能とした方法も提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
これらの再構成方法においては、単純なFBPを除いて、順投影処理という処理が行われる。順投影処理は、何らかの方法で構築した断層像(零画像を含む)を、放射線の焦点と放射線検出器の検出面とを結ぶ方向に、検出面上に数値計算上で投影する処理であり、断層像を構成する各ピクセルについて、放射線の焦点位置から、それぞれのピクセルに向けて模擬的に放射線を照射したときの検出面上への投影領域に、当該ピクセルが有する輝度情報を割り当て、検出器の各画素による検出確率を計算する。
【0006】
ところで、X線などの放射線を用いた産業用のCT装置においては、一般に、放射線源と放射線検出器との間に、対象物を配置するための試料ステージを設け、対象物に放射線を照射しながら、放射線源と放射線検出器の対と試料ステージとを相対的に回転させ、微小角度ごとに放射線検出器の出力、つまり対象物Wの放射線投影データを収集し、その複数角度における放射線投影データを用いた再構成演算により、対象物の断層像を得る。
【0007】
通常の産業用のCT装置においては、図6に撮影系の構成を正面図(A)および平面図(B)により模式的に示すように、放射線源51と放射線検出器52の間に回転テーブル53を備えた試料ステージを設け、その回転テーブル53の回転軸Rを、放射線源51と放射線検出器52とを結ぶ放射線光軸方向Lに対して直交する方向に設けられる。また、回転テーブル53を設けることに代えて、放射線源51と放射線検出器52の対を対象物Wの回りに回転させるように構成したものもある。
【0008】
CT装置においては、対象物と放射線源との距離を短くすればするほど、投影倍率を拡大することができ、微細な部位を大きく拡大したCT像を得ることができる。しかし、対象物を回転させるか、あるいは放射線源と放射線検出器の対を回転させるという構成上、図7に示すように、対象物Wが特に回路基板等の板状の物品であるような場合に、対象物Wと放射線源51とが干渉し、これら両者を近づけるには限界があり、このことが投影倍率の拡大のための制約となる。
【0009】
このような問題を解決するために、従来、斜めCT装置、あるいは傾斜型CT装置と称される装置が実用化されている。その撮影系の構成例を図8に模式的に示す。すなわち、放射線源51と放射線検出器52の中心とを結ぶ線L、回転テーブル53の回転軸Rとが直交しない位置関係でこれらを配置することにより、対象物Wが回路基板等の板状のものであっても、放射線源51を対象物Wに対して接近させることが可能となり、図7に示した装置に比して投影倍率を大幅に拡大することが可能となる(例えば特許文献2参照)。
【0010】
以上のような斜めCT装置においても、前記した図7に示した通常のコーンビームCT装置等と同等の手法を用いた再構成演算により断層像を求めることができる。このような斜めCT装置において例えばFBP等の逆投影処理を行う場合、図9(A)に正面図、同図(B)に平面図をそれぞれ模式的に示すように、放射線源51と放射線検出器52および回転軸Rとの位置関係に基づき、図中Aで示す領域がCT再構成領域となる。また、通常のコーンビームCT装置では、図10(A)に正面図、同図(B)に平面図を模式的に示すように、同じく放射線源51と放射線検出器52および回転軸Rとの位置関係に基づいて、図中Aで示す領域がCT再構成領域となる。
【0011】
CT装置における投影データの再構成演算により断層像を構築する手法としては、前記したFBP法をはじめとする逆投影処理による方法が一般的であるが、その画質を改善するための手法として、前記したART法をはじめとする逐次漸近的手法が、医用のCT装置、つまり人体を対象とするCT装置に採用されつつある(例えば特許文献3参照)。
【0012】
ART等の逐次漸近的手法においては、例えば逆投影処理により構築した断層像を、順投影することによって投影データを算出し、その算出結果が撮影により実際に得た投影データと一致とするように、断層像を修正していく手法である。
【0013】
ここで、前記した斜めCT装置で収集したデータは、対象物の3次元構造を厳密に再構成するための十分な情報を含んでいないことが知られている。このため、医用のCT装置においては被検体の体軸方向の情報が欠落することが多い。これを改善するために、上記したART法をはじめとする逐次漸近的手法の中で体軸方向の情報を復元するための評価関数を含める研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開WO2008/059982号パンフレット
【特許文献2】特開2005−127886号公報
【特許文献3】特開2007−117740号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】小林 哲哉、外3名、”断層画像再構成のための統合シミュレーションシステムの開発”[online]、[平成21年11月12日検索]、インターネット<URL:http://www.is.tsukuba ac.jp/lecture/syspro/h20report1/04_.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、産業用の斜めCT装置においては、医用のCT装置とは異なり、前記したように回路基板等の板状の物品を撮影することが多く、CT再構成領域外にも物品が存在していることが多い。また、産業用のコーンビームCT装置においても、撮影の拡大率を大きくするために、CT撮影領域以外に物品が存在した状態で撮影をすることがある。
【0017】
すなわち、斜めCT装置におけるCT再構成領域は前記した図9に示した通りであるが、図11に示すように、CT再構成領域Aの外側に、投影データに映り込む領域Bが大きく存在する。ARTなどの逐次漸近的手法や、SAなど、断層像像の再構成演算過程で用いられる順投影処理では、通常、再構成領域以外の領域には何も存在しないという前提のもとに処理を実行するので、従来の逐次漸近的手法やSAなどの順投影処理を用いる再構成手法を産業用の斜めCT装置に応用し、回路基板等の板状の物品を対象物とすると、領域Bに物体が存在することになるため、顕著なアーチファクト(虚像)が現れる原因となる。このことは、通常のコーンビームCT装置においてCT再構成撮影領域以外の領域に物品が存在している状態でCT撮影をして、順投影処理を行った場合にも言える。
【0018】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、断層像の再構成演算の過程に順投影処理を含む再構成演算方法において、CT再構成領域の外側に物品が存在していても、それに伴うアーチファクトの発生を抑制することのできる断層像再構成方法と、その方法を利用した放射線CT装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、本発明の再構成演算方法は、対象物を透過した放射線を検出器で検出して得られる投影データを、複数の投影角度で収集し、その収集した投影データを再構成することによって対象物の断層像を構築するとともに、その再構成過程に、断層像を構成する各ピクセルを上記検出器の受光面に投影する順投影処理を含む断層像再構成方法において、上記順投影処理に供する領域を、CT再構成領域を含み、かつ、投影データが上記検出器の受光面に映り込む可能性のある全領域のうちのあらかじめ設定されている領域とすることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0020】
ここで、本発明においては、上記順投影処理に供する処理領域のうち、CT再構成領域の外側の領域については、当該CT再構成領域から遠ざかるほど、上記順投影処理で用いる上記各ピクセルの大きさを大きくする方法(請求項2)を好適に採用することができる。
【0021】
また、本発明の放射線CT装置は、放射線源と放射線検出器の間に、対象物を搭載するための試料ステージが設けられ、上記放射線源と放射線検出機器の対と上記試料ステージとを相対的に回転させる回転機構を備え、放射線源からの放射線試料ステージ上の対象物に照射しつつ回転機構を駆動し、所定の角度ごとに採取した放射線検出器の出力を用い、対象物の断層像を構築する再構成演算手段備えた放射線CT装置において、上記再構成演算手段による再構成演算過程に、断層像を構成する各ピクセルを上記放射線検出器の受光面に投影する順投影処理を有し、その順投影処理に供される処理領域が、CT再構成領域を含み、かつ、投影データが上記検出器の受光面に映り込む可能性のある全領域のうちのあらかじめ設定されている領域とされていることによって特徴づけられる(請求項3)。
【0022】
本発明の放射線CT装置においては、上記順投影処理に供される領域を設定する設定手段を備えている構成(請求項4)を好適に採用することができる。
【0023】
本発明は、前記した図10,図11におけるCT再構成領域Aだけでなく、そのCT再構成領域の外側で、投影データが放射線検出器に映り込む領域をも含む領域を、順投影処理に供する領域とすることによって、課題を解決しようとするものである。
【0024】
すなわち、例えば図11の斜めCT装置においては、実際に放射線検出器に入射する放射線は、図11における領域Aを含む領域Bを透過したものであり、領域Bのうち、領域A以外の領域に物体が存在すれば、CT撮影により実際に検出される投影データにはその物体の透過情報が含まれる。回路基板等の板状の物品を対象物として、その一部領域を拡大撮影する場合には、注目領域であるCT再構成領域A以外の領域Bに必ず物体が存在した状態で撮影することになる。従って、CT撮影により得られた投影データと、CT再構成領域Aのみを考慮した順投影処理により得られるデータとは、必然的な不一致が生じる。例えば逐次漸近的手法による再構成演算では、順投影処理により得られた画像と実際に撮影した投影データに基づく画像とのフィッティングにより断層像を構築していくため、上記の不一致は致命的な問題であり、断層像にアーチファクトが生じる原因となる。このことはSAに基づく再構成演算でも同じであり、再構成演算過程に順投影処理を含む手法の全てについて同様の問題が生じる。
【0025】
そこで、本発明においては、断層像の再構成演算過程に順投影処理を含む再構成演算方法において、その順投影処理に供する領域を、CT再構成領域のみならず、その外側で、放射線検出器に映り込む可能性のあるあらかじめ設定されている領域にまで拡張する。これにより、順投影処理で得られた画像が、CT撮影により得た放射線投影データに基づく画像と一致するように断層像を修正していくことで、アーチファクトの発生を防止することができる。
【0026】
ここで、このように順投影処理の領域を広げることは、処理時間が長くなることに繋がる。これを解決するのが請求項2に係る発明である。すなわち、請求項2に係る発明においては、本発明において順投影処理の処理領域に設定される領域Bのうち、CT再構成領域Aを除く領域について、当該領域Aから遠ざかるほど、各ピクセルの大きさ、つまり画素サイズ(画素等量長)を大きくして処理を実行する。これにより、計算処理回数を減らすことができる。
【0027】
請求項3に係る発明は、以上の本発明の再構成演算方法を利用した放射線CT装置であり、請求項4に係る発明では、順投影処理を行う領域の設定手段を備えていることを特徴とするものであり、CT撮影時におけるセッティング状態に応じて、放射線検出器に映り込む領域で、かつ、被検体の存在する領域を含むように順投影処理領域を設定することで、アーチファクトの発生を抑制しながらもむだな領域の処理を行うことによる計算処理回数の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、産業用の斜めCT装置などを用いて例えば回路基板等の板状の物品を拡大撮影する場合でも、逐次漸近的手法やSA等の順投影処理を含む再構成演算手法を用いて、アーチファクトのない高画質の断層像を得ることができる。
【0029】
また、請求項2に係る発明のように、CT再構成領域の外側の領域の処理について、CT再構成領域から遠ざかるほど画素サイズを大きくして処理を実行することにより、再構成のための計算時間を従来に比してさほど長くすることなく、上記の効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態の再構成演算の動作手順の例を表すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における逆投影並びに順投影処理が施される領域の説明図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図4】本発明の実施の形態における逆投影並びに順投影処理で用いられる画素サイズを表す概念図である。
【図5】本発明を通常のコーンビームCT装置に適用する場合の順投影処理領域の説明図である。
【図6】産業用のCT装置の一般的な撮影系の構成例を示す模式図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図7】図5に示した撮影系における放射線源と対象物との接近限界の説明図である。
【図8】斜めCT装置の撮影系の構成例を示す模式図である。
【図9】斜めCT装置におけるCT再構成領域の説明図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図10】通常のコーンビームCT装置におけるCT再構成領域の説明図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図11】斜めCT装置における放射線検出器の受光面に映り込む領域の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 放射線源
2 放射線検出器
3 回転テーブル
4 コンピュータ
5 表示器
6 操作部
7 X線コントローラ
8 軸制御部
R 回転軸
W 対象物
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明をX線を用いた斜めCT装置に適用した実施の形態の構成図であり、X線発生装置1とX線検出器2の間に、対象物Wを搭載して鉛直の回転軸Rを中心として回転する回転テーブル3が配置されている。X線発生装置1の焦点とX線検出器2の中心とを結ぶ線は回転軸Rに対して直交しておらず、従って水平ではなく、斜め下方から対象物WにX線を照射し、その透過X線が斜め上方のX線検出器2に入射する。回転テーブル3は移動機構(図示略)の駆動により鉛直方向を含む互いに直交する3軸方向に移動可能となっており、この移動により撮影倍率や撮影範囲等を設定することができる。また、X線発生装置1はコーンビーム状のX線を発生し、X線検出器2は2次元X線検出器である。
【0033】
CT撮影は、X線発生装置1からのX線を対象物Wに向けて照射しつつ、回転テーブル3を回転させ、その微小回転角度ごとにX線検出器2の出力を収集することによって行われる。
【0034】
すなわち、CT撮影中においては、回転テーブル3の微小回転角度ごとにX線検出器2の出力がコンピュータ4に取り込まれ、各投影角度でのX線投影データとしてメモリもしくはハードディスクに記憶されていく。
【0035】
コンピュータ4は、以上のように収集した各角度でのX線投影データを、公知の前処理を施すとともに、後述する手順のもとに、逐次漸近的手法によって対象物Wの断層像を構築する。その断層像は表示器5に表示される。
【0036】
コンピュータ4には、キーボード、マウス、ジョイスティック等からなる操作部6が接続されており、この操作部6を操作することによりコンピュータ4に対して各種指令を与え、あるいは各種設定をすることができる。後述する順投影処理に供する領域をオペレータが設定する場合には、この操作部6の操作で行うことができる。
【0037】
コンピュータ4は、また、X線発生装置1に対して供給すべき管電流や管電圧を制御するX線コントローラ7を制御下に置いているとともに、回転テーブル3の回転機構並びに移動機構についても、軸制御部8を介して制御する。このような制御に関する指令や設定等についても、前記した操作部6の操作で行うことができる。
【0038】
次に、以上の構成からなる本発明の実施の形態における再構成演算の手順の例を、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0039】
前記した動作のもとにCT撮影し、これによって得た各投影角度での投影データを逆投影することにより、1回目の断層像を構築する。次に、その断層像を順投影することにより、計算上の投影データを得て、その結果と、実際にCT撮影によって収集した投影データとを比較し、その差を算出する。その差を逆投影することにより断層像を得て、その差による断層像を、先の断層像に加算することによって、当該先の断層像を補正する。そして、その補正後の断層像を再び順投影することによって計算上の投影データを得て、上記と同様にその結果とCT撮影により実際に収集した投影データとを比較してその差を算出し、その差を逆投影して直前の断層像に加算することで、補正された断層像を得る。この動作を、差が規定の差以下となるか、あるいは反復回数が規定回数に達した時点で、そのときに得られている断層像を完成された断層像として記憶する。
【0040】
そして、この実施の形態における特徴は、第1に、上記の動作における逆投影処理並びに順投影処理の対象とする領域を、CT再構成領域のみならず、X線投影データがX線検出器に映り込む全ての領域のうちのあらかじめ設定されている領域とする点である。
【0041】
すなわち、図3(A)に正面図、(B)に平面図を示すように、従来のこの種の再構成演算において対象とされるのは図中Aで示すCT再構成領域であり、図中の点P1,P2,P7,P8で囲まれた空間である。これに対し、本発明の実施の形態において逆投影処理および順投影処理の対象とする領域は、図中Bで示す、X線投影データがX線検出器2に映り込む全ての領域のうちのあらかじめ設定されている領域である。この領域Bは以下に示す通り、回転軸Rを中心とする、上側が大径の円錐台状となる。上側の半径は回転軸Rと下記の点P3とのなす距離であり、下側の半径は回転軸Rと下記の点P4とのなす距離である。
【0042】
正面図(A)においてX線発生装置1の焦点1aとX線検出器2の下縁2aを結ぶ線L1が回転軸Rと交わる点をP1とし、同じく焦点1aとX線検出器2の上縁2bを結ぶ線L2が回転軸Rと交わる点をP2とすると、点P3は、P2を通る水平線L3と線L1とが交わる点であり、点P4は、P1を通る水平線L4と線L2とが交わる点である。なお、正面図(A)および平面図(B)においては、上記の点P1〜P4のほか、両図の対応を明確にするために点P5〜P8を付している。
【0043】
以上のようなX線投影データがX線検出器2の受光面に映り込む可能性のある全領域Bのうちのあらかじめ設定されている領域を逆投影処理並びに順投影処理を施す対象とすることにより、CT再構成領域A外の領域に物体が存在することに起因するアーチファクトの発生を防止することができる。図3に示した例では、X線検出器2の受光面に映り込む可能性のある領域Bの全体を逆投影処理並びに順投影処理を施す対象にしてもよいし、または、領域Bのうちのあらかじめ設定された一部の領域(領域Aは必ず含む)をその対象としてもよい。
【0044】
また、この実施の形態における第2の特徴は、図4に平面図で概念的に表すように、逆投影処理および順投影処理に用いる各ピクセルの大きさ、つまり画素サイズ(画素等量長)を、CT再構成領域A内は一定とするものの、その領域Aを除く領域Bにおいては、CT再構成領域Aから遠ざかるほど、大きくしている点である。すなわち、図4において図示されている枡目は、領域B内における画素等量サイズを概念的に示すものであり、CT再構成領域A内の画素サイズに比して、領域Bの画素サイズを大きくし、なおかつ、CT再構成領域Aから遠ざかるにつれて次第に更に大きくしている。
【0045】
このような画素等量サイズを用いて逆投影処理および順投影処理を施すことにより、各処理の計算処理回数を減らすことができ、CT再構成領域Aのみを対象として逐次漸近的手法によって断層像を再構成する場合に比して、あまり処理時間を長くすることなく、アーチファクトのない断層像を得ることができる。
【0046】
なお、以上の実施の形態では、X線発生装置1とX線検出器2の間に回転テーブル3を配置した例を示したが、X線発生装置1とX線検出器2の対を回転させる構成の斜めCT装置にも本発明を等しく適用できることは勿論である。また、放射線はX線以外の放射線を用いてもよいことは言うまでもない。
【0047】
また、以上の実施の形態では、再構成演算方法としてARTを用いた例を示したが、本発明は、前記した特許文献1に記載されている手法をはじめとするSAを含め、再構成演算過程に順投影処理を含む全ての手法に適用することができる。
【0048】
更に、以上の実施の形態では、本発明の斜めCT装置に適用した例を示したが、本発明は通常のコーンビームCT装置にも等しく適用することができる。すなわち、例えば図5に例示するように、対象物Wとして本体部分Waからアーム状の部材Wbが突出したようなものを考え、断層像は本体部分Waのみでよい場合には、図示のような位置関係で撮影することが多い。この場合、アーム状の部材WbはCT再構成領域からはみ出し、しかもこのアーム状の部材Wbの投影データは検出器52に映り込むことになる。このような設定状態でCT撮影を行い、CT再構成領域Aのみを対象として順投影処理を行うと、アーム状の部材Wbの投影データが検出器52に映り込んでいるにもかかわらず、そこには何も存在しないとして処理が行われることになり、その影響が本体部分Waの断層像に現れてしまう結果となる。そこで、順投影処理に供する領域を図5にCに示すような領域に設定する。このような設定により、アーム部分の投影データについても順投影処理に供される結果、その影響が本体部分の断層像に及ぶことを抑制することができる。領域Cの大きさは任意に設定することが可能であり、あらかじめ適当な大きさを設定しておけばよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CTやSPECT等、放射線を利用して対象物の断層像を構築する断層像再構成方法と、その方法を利用したX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CTやSPECT(Single Photon Emission CT)、あるいはPET(Positron Emission Tomography)においては、対象物を複数の角度で透過した放射線を検出器で検出して、複数角度での放射線投影データを収集し、その投影データを再構成することによって、対象物の断層像を得る。
【0003】
投影データの再構成方法にはいくつかの手法が知られており、FBP(Filtered Back Prjection)などの解析的手法、ART(Algebraic Reconstruction)などの代数的手法、およびOS−MLEM(Orderd−Subsets Maximum−Likelihood Expectation−Maximization)などの統計的手法等が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
また、SA(Simulated Annealing)法を採用し、画像再構成にFBPを排除することを可能とした方法も提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
これらの再構成方法においては、単純なFBPを除いて、順投影処理という処理が行われる。順投影処理は、何らかの方法で構築した断層像(零画像を含む)を、放射線の焦点と放射線検出器の検出面とを結ぶ方向に、検出面上に数値計算上で投影する処理であり、断層像を構成する各ピクセルについて、放射線の焦点位置から、それぞれのピクセルに向けて模擬的に放射線を照射したときの検出面上への投影領域に、当該ピクセルが有する輝度情報を割り当て、検出器の各画素による検出確率を計算する。
【0006】
ところで、X線などの放射線を用いた産業用のCT装置においては、一般に、放射線源と放射線検出器との間に、対象物を配置するための試料ステージを設け、対象物に放射線を照射しながら、放射線源と放射線検出器の対と試料ステージとを相対的に回転させ、微小角度ごとに放射線検出器の出力、つまり対象物Wの放射線投影データを収集し、その複数角度における放射線投影データを用いた再構成演算により、対象物の断層像を得る。
【0007】
通常の産業用のCT装置においては、図6に撮影系の構成を正面図(A)および平面図(B)により模式的に示すように、放射線源51と放射線検出器52の間に回転テーブル53を備えた試料ステージを設け、その回転テーブル53の回転軸Rを、放射線源51と放射線検出器52とを結ぶ放射線光軸方向Lに対して直交する方向に設けられる。また、回転テーブル53を設けることに代えて、放射線源51と放射線検出器52の対を対象物Wの回りに回転させるように構成したものもある。
【0008】
CT装置においては、対象物と放射線源との距離を短くすればするほど、投影倍率を拡大することができ、微細な部位を大きく拡大したCT像を得ることができる。しかし、対象物を回転させるか、あるいは放射線源と放射線検出器の対を回転させるという構成上、図7に示すように、対象物Wが特に回路基板等の板状の物品であるような場合に、対象物Wと放射線源51とが干渉し、これら両者を近づけるには限界があり、このことが投影倍率の拡大のための制約となる。
【0009】
このような問題を解決するために、従来、斜めCT装置、あるいは傾斜型CT装置と称される装置が実用化されている。その撮影系の構成例を図8に模式的に示す。すなわち、放射線源51と放射線検出器52の中心とを結ぶ線L、回転テーブル53の回転軸Rとが直交しない位置関係でこれらを配置することにより、対象物Wが回路基板等の板状のものであっても、放射線源51を対象物Wに対して接近させることが可能となり、図7に示した装置に比して投影倍率を大幅に拡大することが可能となる(例えば特許文献2参照)。
【0010】
以上のような斜めCT装置においても、前記した図7に示した通常のコーンビームCT装置等と同等の手法を用いた再構成演算により断層像を求めることができる。このような斜めCT装置において例えばFBP等の逆投影処理を行う場合、図9(A)に正面図、同図(B)に平面図をそれぞれ模式的に示すように、放射線源51と放射線検出器52および回転軸Rとの位置関係に基づき、図中Aで示す領域がCT再構成領域となる。また、通常のコーンビームCT装置では、図10(A)に正面図、同図(B)に平面図を模式的に示すように、同じく放射線源51と放射線検出器52および回転軸Rとの位置関係に基づいて、図中Aで示す領域がCT再構成領域となる。
【0011】
CT装置における投影データの再構成演算により断層像を構築する手法としては、前記したFBP法をはじめとする逆投影処理による方法が一般的であるが、その画質を改善するための手法として、前記したART法をはじめとする逐次漸近的手法が、医用のCT装置、つまり人体を対象とするCT装置に採用されつつある(例えば特許文献3参照)。
【0012】
ART等の逐次漸近的手法においては、例えば逆投影処理により構築した断層像を、順投影することによって投影データを算出し、その算出結果が撮影により実際に得た投影データと一致とするように、断層像を修正していく手法である。
【0013】
ここで、前記した斜めCT装置で収集したデータは、対象物の3次元構造を厳密に再構成するための十分な情報を含んでいないことが知られている。このため、医用のCT装置においては被検体の体軸方向の情報が欠落することが多い。これを改善するために、上記したART法をはじめとする逐次漸近的手法の中で体軸方向の情報を復元するための評価関数を含める研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開WO2008/059982号パンフレット
【特許文献2】特開2005−127886号公報
【特許文献3】特開2007−117740号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】小林 哲哉、外3名、”断層画像再構成のための統合シミュレーションシステムの開発”[online]、[平成21年11月12日検索]、インターネット<URL:http://www.is.tsukuba ac.jp/lecture/syspro/h20report1/04_.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、産業用の斜めCT装置においては、医用のCT装置とは異なり、前記したように回路基板等の板状の物品を撮影することが多く、CT再構成領域外にも物品が存在していることが多い。また、産業用のコーンビームCT装置においても、撮影の拡大率を大きくするために、CT撮影領域以外に物品が存在した状態で撮影をすることがある。
【0017】
すなわち、斜めCT装置におけるCT再構成領域は前記した図9に示した通りであるが、図11に示すように、CT再構成領域Aの外側に、投影データに映り込む領域Bが大きく存在する。ARTなどの逐次漸近的手法や、SAなど、断層像像の再構成演算過程で用いられる順投影処理では、通常、再構成領域以外の領域には何も存在しないという前提のもとに処理を実行するので、従来の逐次漸近的手法やSAなどの順投影処理を用いる再構成手法を産業用の斜めCT装置に応用し、回路基板等の板状の物品を対象物とすると、領域Bに物体が存在することになるため、顕著なアーチファクト(虚像)が現れる原因となる。このことは、通常のコーンビームCT装置においてCT再構成撮影領域以外の領域に物品が存在している状態でCT撮影をして、順投影処理を行った場合にも言える。
【0018】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、断層像の再構成演算の過程に順投影処理を含む再構成演算方法において、CT再構成領域の外側に物品が存在していても、それに伴うアーチファクトの発生を抑制することのできる断層像再構成方法と、その方法を利用した放射線CT装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、本発明の再構成演算方法は、対象物を透過した放射線を検出器で検出して得られる投影データを、複数の投影角度で収集し、その収集した投影データを再構成することによって対象物の断層像を構築するとともに、その再構成過程に、断層像を構成する各ピクセルを上記検出器の受光面に投影する順投影処理を含む断層像再構成方法において、上記順投影処理に供する領域を、CT再構成領域を含み、かつ、投影データが上記検出器の受光面に映り込む可能性のある全領域のうちのあらかじめ設定されている領域とすることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0020】
ここで、本発明においては、上記順投影処理に供する処理領域のうち、CT再構成領域の外側の領域については、当該CT再構成領域から遠ざかるほど、上記順投影処理で用いる上記各ピクセルの大きさを大きくする方法(請求項2)を好適に採用することができる。
【0021】
また、本発明の放射線CT装置は、放射線源と放射線検出器の間に、対象物を搭載するための試料ステージが設けられ、上記放射線源と放射線検出機器の対と上記試料ステージとを相対的に回転させる回転機構を備え、放射線源からの放射線試料ステージ上の対象物に照射しつつ回転機構を駆動し、所定の角度ごとに採取した放射線検出器の出力を用い、対象物の断層像を構築する再構成演算手段備えた放射線CT装置において、上記再構成演算手段による再構成演算過程に、断層像を構成する各ピクセルを上記放射線検出器の受光面に投影する順投影処理を有し、その順投影処理に供される処理領域が、CT再構成領域を含み、かつ、投影データが上記検出器の受光面に映り込む可能性のある全領域のうちのあらかじめ設定されている領域とされていることによって特徴づけられる(請求項3)。
【0022】
本発明の放射線CT装置においては、上記順投影処理に供される領域を設定する設定手段を備えている構成(請求項4)を好適に採用することができる。
【0023】
本発明は、前記した図10,図11におけるCT再構成領域Aだけでなく、そのCT再構成領域の外側で、投影データが放射線検出器に映り込む領域をも含む領域を、順投影処理に供する領域とすることによって、課題を解決しようとするものである。
【0024】
すなわち、例えば図11の斜めCT装置においては、実際に放射線検出器に入射する放射線は、図11における領域Aを含む領域Bを透過したものであり、領域Bのうち、領域A以外の領域に物体が存在すれば、CT撮影により実際に検出される投影データにはその物体の透過情報が含まれる。回路基板等の板状の物品を対象物として、その一部領域を拡大撮影する場合には、注目領域であるCT再構成領域A以外の領域Bに必ず物体が存在した状態で撮影することになる。従って、CT撮影により得られた投影データと、CT再構成領域Aのみを考慮した順投影処理により得られるデータとは、必然的な不一致が生じる。例えば逐次漸近的手法による再構成演算では、順投影処理により得られた画像と実際に撮影した投影データに基づく画像とのフィッティングにより断層像を構築していくため、上記の不一致は致命的な問題であり、断層像にアーチファクトが生じる原因となる。このことはSAに基づく再構成演算でも同じであり、再構成演算過程に順投影処理を含む手法の全てについて同様の問題が生じる。
【0025】
そこで、本発明においては、断層像の再構成演算過程に順投影処理を含む再構成演算方法において、その順投影処理に供する領域を、CT再構成領域のみならず、その外側で、放射線検出器に映り込む可能性のあるあらかじめ設定されている領域にまで拡張する。これにより、順投影処理で得られた画像が、CT撮影により得た放射線投影データに基づく画像と一致するように断層像を修正していくことで、アーチファクトの発生を防止することができる。
【0026】
ここで、このように順投影処理の領域を広げることは、処理時間が長くなることに繋がる。これを解決するのが請求項2に係る発明である。すなわち、請求項2に係る発明においては、本発明において順投影処理の処理領域に設定される領域Bのうち、CT再構成領域Aを除く領域について、当該領域Aから遠ざかるほど、各ピクセルの大きさ、つまり画素サイズ(画素等量長)を大きくして処理を実行する。これにより、計算処理回数を減らすことができる。
【0027】
請求項3に係る発明は、以上の本発明の再構成演算方法を利用した放射線CT装置であり、請求項4に係る発明では、順投影処理を行う領域の設定手段を備えていることを特徴とするものであり、CT撮影時におけるセッティング状態に応じて、放射線検出器に映り込む領域で、かつ、被検体の存在する領域を含むように順投影処理領域を設定することで、アーチファクトの発生を抑制しながらもむだな領域の処理を行うことによる計算処理回数の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、産業用の斜めCT装置などを用いて例えば回路基板等の板状の物品を拡大撮影する場合でも、逐次漸近的手法やSA等の順投影処理を含む再構成演算手法を用いて、アーチファクトのない高画質の断層像を得ることができる。
【0029】
また、請求項2に係る発明のように、CT再構成領域の外側の領域の処理について、CT再構成領域から遠ざかるほど画素サイズを大きくして処理を実行することにより、再構成のための計算時間を従来に比してさほど長くすることなく、上記の効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態の再構成演算の動作手順の例を表すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における逆投影並びに順投影処理が施される領域の説明図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図4】本発明の実施の形態における逆投影並びに順投影処理で用いられる画素サイズを表す概念図である。
【図5】本発明を通常のコーンビームCT装置に適用する場合の順投影処理領域の説明図である。
【図6】産業用のCT装置の一般的な撮影系の構成例を示す模式図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図7】図5に示した撮影系における放射線源と対象物との接近限界の説明図である。
【図8】斜めCT装置の撮影系の構成例を示す模式図である。
【図9】斜めCT装置におけるCT再構成領域の説明図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図10】通常のコーンビームCT装置におけるCT再構成領域の説明図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図11】斜めCT装置における放射線検出器の受光面に映り込む領域の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 放射線源
2 放射線検出器
3 回転テーブル
4 コンピュータ
5 表示器
6 操作部
7 X線コントローラ
8 軸制御部
R 回転軸
W 対象物
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明をX線を用いた斜めCT装置に適用した実施の形態の構成図であり、X線発生装置1とX線検出器2の間に、対象物Wを搭載して鉛直の回転軸Rを中心として回転する回転テーブル3が配置されている。X線発生装置1の焦点とX線検出器2の中心とを結ぶ線は回転軸Rに対して直交しておらず、従って水平ではなく、斜め下方から対象物WにX線を照射し、その透過X線が斜め上方のX線検出器2に入射する。回転テーブル3は移動機構(図示略)の駆動により鉛直方向を含む互いに直交する3軸方向に移動可能となっており、この移動により撮影倍率や撮影範囲等を設定することができる。また、X線発生装置1はコーンビーム状のX線を発生し、X線検出器2は2次元X線検出器である。
【0033】
CT撮影は、X線発生装置1からのX線を対象物Wに向けて照射しつつ、回転テーブル3を回転させ、その微小回転角度ごとにX線検出器2の出力を収集することによって行われる。
【0034】
すなわち、CT撮影中においては、回転テーブル3の微小回転角度ごとにX線検出器2の出力がコンピュータ4に取り込まれ、各投影角度でのX線投影データとしてメモリもしくはハードディスクに記憶されていく。
【0035】
コンピュータ4は、以上のように収集した各角度でのX線投影データを、公知の前処理を施すとともに、後述する手順のもとに、逐次漸近的手法によって対象物Wの断層像を構築する。その断層像は表示器5に表示される。
【0036】
コンピュータ4には、キーボード、マウス、ジョイスティック等からなる操作部6が接続されており、この操作部6を操作することによりコンピュータ4に対して各種指令を与え、あるいは各種設定をすることができる。後述する順投影処理に供する領域をオペレータが設定する場合には、この操作部6の操作で行うことができる。
【0037】
コンピュータ4は、また、X線発生装置1に対して供給すべき管電流や管電圧を制御するX線コントローラ7を制御下に置いているとともに、回転テーブル3の回転機構並びに移動機構についても、軸制御部8を介して制御する。このような制御に関する指令や設定等についても、前記した操作部6の操作で行うことができる。
【0038】
次に、以上の構成からなる本発明の実施の形態における再構成演算の手順の例を、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0039】
前記した動作のもとにCT撮影し、これによって得た各投影角度での投影データを逆投影することにより、1回目の断層像を構築する。次に、その断層像を順投影することにより、計算上の投影データを得て、その結果と、実際にCT撮影によって収集した投影データとを比較し、その差を算出する。その差を逆投影することにより断層像を得て、その差による断層像を、先の断層像に加算することによって、当該先の断層像を補正する。そして、その補正後の断層像を再び順投影することによって計算上の投影データを得て、上記と同様にその結果とCT撮影により実際に収集した投影データとを比較してその差を算出し、その差を逆投影して直前の断層像に加算することで、補正された断層像を得る。この動作を、差が規定の差以下となるか、あるいは反復回数が規定回数に達した時点で、そのときに得られている断層像を完成された断層像として記憶する。
【0040】
そして、この実施の形態における特徴は、第1に、上記の動作における逆投影処理並びに順投影処理の対象とする領域を、CT再構成領域のみならず、X線投影データがX線検出器に映り込む全ての領域のうちのあらかじめ設定されている領域とする点である。
【0041】
すなわち、図3(A)に正面図、(B)に平面図を示すように、従来のこの種の再構成演算において対象とされるのは図中Aで示すCT再構成領域であり、図中の点P1,P2,P7,P8で囲まれた空間である。これに対し、本発明の実施の形態において逆投影処理および順投影処理の対象とする領域は、図中Bで示す、X線投影データがX線検出器2に映り込む全ての領域のうちのあらかじめ設定されている領域である。この領域Bは以下に示す通り、回転軸Rを中心とする、上側が大径の円錐台状となる。上側の半径は回転軸Rと下記の点P3とのなす距離であり、下側の半径は回転軸Rと下記の点P4とのなす距離である。
【0042】
正面図(A)においてX線発生装置1の焦点1aとX線検出器2の下縁2aを結ぶ線L1が回転軸Rと交わる点をP1とし、同じく焦点1aとX線検出器2の上縁2bを結ぶ線L2が回転軸Rと交わる点をP2とすると、点P3は、P2を通る水平線L3と線L1とが交わる点であり、点P4は、P1を通る水平線L4と線L2とが交わる点である。なお、正面図(A)および平面図(B)においては、上記の点P1〜P4のほか、両図の対応を明確にするために点P5〜P8を付している。
【0043】
以上のようなX線投影データがX線検出器2の受光面に映り込む可能性のある全領域Bのうちのあらかじめ設定されている領域を逆投影処理並びに順投影処理を施す対象とすることにより、CT再構成領域A外の領域に物体が存在することに起因するアーチファクトの発生を防止することができる。図3に示した例では、X線検出器2の受光面に映り込む可能性のある領域Bの全体を逆投影処理並びに順投影処理を施す対象にしてもよいし、または、領域Bのうちのあらかじめ設定された一部の領域(領域Aは必ず含む)をその対象としてもよい。
【0044】
また、この実施の形態における第2の特徴は、図4に平面図で概念的に表すように、逆投影処理および順投影処理に用いる各ピクセルの大きさ、つまり画素サイズ(画素等量長)を、CT再構成領域A内は一定とするものの、その領域Aを除く領域Bにおいては、CT再構成領域Aから遠ざかるほど、大きくしている点である。すなわち、図4において図示されている枡目は、領域B内における画素等量サイズを概念的に示すものであり、CT再構成領域A内の画素サイズに比して、領域Bの画素サイズを大きくし、なおかつ、CT再構成領域Aから遠ざかるにつれて次第に更に大きくしている。
【0045】
このような画素等量サイズを用いて逆投影処理および順投影処理を施すことにより、各処理の計算処理回数を減らすことができ、CT再構成領域Aのみを対象として逐次漸近的手法によって断層像を再構成する場合に比して、あまり処理時間を長くすることなく、アーチファクトのない断層像を得ることができる。
【0046】
なお、以上の実施の形態では、X線発生装置1とX線検出器2の間に回転テーブル3を配置した例を示したが、X線発生装置1とX線検出器2の対を回転させる構成の斜めCT装置にも本発明を等しく適用できることは勿論である。また、放射線はX線以外の放射線を用いてもよいことは言うまでもない。
【0047】
また、以上の実施の形態では、再構成演算方法としてARTを用いた例を示したが、本発明は、前記した特許文献1に記載されている手法をはじめとするSAを含め、再構成演算過程に順投影処理を含む全ての手法に適用することができる。
【0048】
更に、以上の実施の形態では、本発明の斜めCT装置に適用した例を示したが、本発明は通常のコーンビームCT装置にも等しく適用することができる。すなわち、例えば図5に例示するように、対象物Wとして本体部分Waからアーム状の部材Wbが突出したようなものを考え、断層像は本体部分Waのみでよい場合には、図示のような位置関係で撮影することが多い。この場合、アーム状の部材WbはCT再構成領域からはみ出し、しかもこのアーム状の部材Wbの投影データは検出器52に映り込むことになる。このような設定状態でCT撮影を行い、CT再構成領域Aのみを対象として順投影処理を行うと、アーム状の部材Wbの投影データが検出器52に映り込んでいるにもかかわらず、そこには何も存在しないとして処理が行われることになり、その影響が本体部分Waの断層像に現れてしまう結果となる。そこで、順投影処理に供する領域を図5にCに示すような領域に設定する。このような設定により、アーム部分の投影データについても順投影処理に供される結果、その影響が本体部分の断層像に及ぶことを抑制することができる。領域Cの大きさは任意に設定することが可能であり、あらかじめ適当な大きさを設定しておけばよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を透過した放射線を検出器で検出して得られる投影データを、複数の投影角度で収集し、その収集した投影データを再構成することによって対象物の断層像を構築するとともに、その再構成過程に、断層像を構成する各ピクセルを上記検出器の受光面に投影する順投影処理を含む断層像再構成方法において、
上記順投影処理に供する領域を、CT再構成領域を含み、かつ、投影データが上記検出器の受光面に映り込む可能性のある全領域のうちのあらかじめ設定されている領域とすることを特徴とする断層像再構成方法。
【請求項2】
上記順投影処理に供する処理領域のうち、CT再構成領域の外側の領域については、当該CT再構成領域から遠ざかるほど、上記順投影処理で用いる上記ピクセルの大きさを大きくすることを特徴とする請求項1に記載の断層像再構成方法。
【請求項3】
放射線源と放射線検出器の間に、対象物を搭載するための試料ステージが設けられ、上記放射線源と放射線検出機器の対と上記試料ステージとを相対的に回転させる回転機構を備え、放射線源からの放射線試料ステージ上の対象物に照射しつつ回転機構を駆動し、所定の角度ごとに採取した放射線検出器の出力を用い、対象物の断層像を構築する再構成演算手段備えたX線CT装置において、
上記再構成演算手段による再構成演算過程に、断層像を構成する各ピクセルを上記放射線検出器の受光面に投影する順投影処理を有し、その順投影処理に供される処理領域が、CT再構成領域を含み、かつ、投影データが上記検出器の受光面に映り込む可能性のある全領域のうちのあらかじめ設定されている領域とされていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項4】
上記順投影処理に供される領域を設定する設定手段を備えていることを特徴とする請求項3に記載のX線CT装置。
【請求項1】
対象物を透過した放射線を検出器で検出して得られる投影データを、複数の投影角度で収集し、その収集した投影データを再構成することによって対象物の断層像を構築するとともに、その再構成過程に、断層像を構成する各ピクセルを上記検出器の受光面に投影する順投影処理を含む断層像再構成方法において、
上記順投影処理に供する領域を、CT再構成領域を含み、かつ、投影データが上記検出器の受光面に映り込む可能性のある全領域のうちのあらかじめ設定されている領域とすることを特徴とする断層像再構成方法。
【請求項2】
上記順投影処理に供する処理領域のうち、CT再構成領域の外側の領域については、当該CT再構成領域から遠ざかるほど、上記順投影処理で用いる上記ピクセルの大きさを大きくすることを特徴とする請求項1に記載の断層像再構成方法。
【請求項3】
放射線源と放射線検出器の間に、対象物を搭載するための試料ステージが設けられ、上記放射線源と放射線検出機器の対と上記試料ステージとを相対的に回転させる回転機構を備え、放射線源からの放射線試料ステージ上の対象物に照射しつつ回転機構を駆動し、所定の角度ごとに採取した放射線検出器の出力を用い、対象物の断層像を構築する再構成演算手段備えたX線CT装置において、
上記再構成演算手段による再構成演算過程に、断層像を構成する各ピクセルを上記放射線検出器の受光面に投影する順投影処理を有し、その順投影処理に供される処理領域が、CT再構成領域を含み、かつ、投影データが上記検出器の受光面に映り込む可能性のある全領域のうちのあらかじめ設定されている領域とされていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項4】
上記順投影処理に供される領域を設定する設定手段を備えていることを特徴とする請求項3に記載のX線CT装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−227028(P2011−227028A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99535(P2010−99535)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】
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