説明

断層撮影装置及び断層像の補正処理方法

【課題】 低コストでしかも高精度な位置補正処理が短時間で実施可能な断層撮影装置を供給すること。
【解決手段】 B−スキャン像の端から1/4位置におけるA−スキャンのデータのピーク値(P点)を含んだ所定の領域を持つ参照像を作成する参照像作成手段と、この参照像を隣接するB−スキャン像内において平行移動させながら、各々の画素における前記参照像の画素値と前記隣接するB−スキャン像の画素値の差の総和(評価関数)を算出する評価関数算出手段と、この評価関数が最小となる位置を検出し、隣接するB−スキャン像間の相対的位置ずれ量を算出する相対的位置ずれ量算出手段と、この相対的位置ずれ量を用いて、No.1のB−スキャン像を基準として各B−スキャン像の絶対的位置ずれ量を算出する絶対的位置ずれ量算出手段と、この絶対的位置ずれ量を用いて、各B−スキャン像の位置を補正する位置補正手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断層像撮影装置及び断層像の補正処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼科検査のために用いられる検査装置として、光干渉断層法(Optical
Coherence Tomography:OCT)により被検者の被検眼(眼球)の断層画像を撮影する光干渉断層撮影装置が供されてきている。
【0003】
光干渉断層撮影装置においては、タイムドメイン方式と呼ばれる、ミラーを動かして参照光の光路長を機械的に変化させながら断層画像取得を行うタイムドメインOCTと、フーリエドメイン方式と呼ばれる、分光器を用いてスペクトル情報を検出し断層画像取得を行うスペクトルドメインOCT、もしくは、波長走査光源を用いてスペクトル干渉信号を検出し断層画像取得を行う光周波数掃引OCTとがある。
【0004】
一般にOCTでは、被検眼の深さ方向の一次元の信号を取得し(A−スキャン)、そして、測定光を被検眼に対して一次元走査することで二次元断層画像を取得し(B−スキャン)、さらに、二次元断層画像を、被検眼に対して位置をずらしながら繰り返し取得することで三次元画像を得る(C−スキャン)。
【0005】
しかし、眼科検査のための光干渉断層撮影装置においては、被検眼は固視状態に保持していても、無意識のうちに絶えず微小運動(固視微動)を行っている。特に三次元画像を得るための撮影時間は、比較的長いため、撮影中の被検眼の固視微動の影響により、撮影された三次元断層画像はボケ等が生じ、品質のよい画像が得られないことがあった。
【0006】
タイムドメインOCTでは、上述のようにミラーを動かして参照光の光路長を機械的に変化させながら断層画像取得するため、B−スキャンの時間も比較的長くなるのに対し、フーリエドメイン方式のOCTはミラーを動かして参照光の光路長を機械的に変化させることを必要としないため、B−スキャンの時間は非常に短い時間(数ミリ秒)で取得できることから、B−スキャン像では上述の被検眼の固視微動の影響は少なく、撮影された三次元断層画像のボケは、主にC−スキャン時におけるB−スキャン像の位置ずれに起因するものと考えられている。
【0007】
特許文献1にはこのようなB−スキャン像の位置ずれを検出し、得られた各B−スキャン像の補正値で位置補正する方法が開示されている。つまり、B−スキャン像における注目領域(ROI)を決定し、パターンマッチング法を用いて、隣接するB−スキャン像に対して、ROIを平行移動しながら、SSD(sum of squares difference)が最小となる位置における位置ずれ量を隣接するB−スキャン像の位置ずれ補正値とし、補正は断層像選択手段により選択された基準断層像(B−スキャン像)から順繰りに各B−スキャン像の補正値で位置補正する。
【0008】
また、特許文献2には、眼底の断層像を取得するOCTと眼底の正面画像を取得する光走査型検眼装置(眼科用SLO(Scanning Laser Ophthalmoscope))を備え、断層画像(OCT画像)取得時のSLO画像に基づいて被検眼の位置ずれを検出することにより、断層画像(OCT画像)の位置ずれを補正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−019576号公報
【特許文献2】特開2008−029467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2の方法は高精度の位置ずれ補正が可能となるかもしれないが、本来被検眼の断層像を得ることが目的とするOCT光学系にSLO光学系が加わるため装置が複雑となり、結果的に高価なものになってしまう。
【0011】
対して、特許文献1の方法は、OCT単体で実施できる補正方法ではあるが、以下に示す問題点があると考えられる。
【0012】
補正時の基準断層像を選択する断層像選択手段は、具体例として、取得された全てのB−スキャン像から、画像内のコントラスト変化の積算値が最大であるB−スキャン像を基準断層像として選択している。この断層像選択手段を用いた方法は、例えば網膜の同じ場所を複数回測定する際に常に同じB−スキャン像か、又はそれに近いB−スキャン像が選択されるという利点があるように見えるが、補正値を決める際は隣り合ったB−スキャン像間の位置ずれ量から補正値を算出するため、補正を開始する最初のB−スキャン像を決定するだけに過ぎない上、三次元画像を測定する毎に、基準断層像を選択するために全B−スキャン像を解析する必要があるため、解析に非常な手間をかける割にはその効果は少ないと考えられる。
【0013】
また、ROIについて特許文献1にはその詳細な説明がないが、同じ出願人の他の特許文献から黄班や視神経乳頭などを含む領域であると類推される。そのためROIを決定するためには黄班や視神経乳頭などを抽出するため、B−スキャン像毎に解析が必要であることや、各B−スキャン像でROIそのものが異なると考えられるため、これについても複雑な解析をする割には効果があるとは考えられない。
【0014】
さらに、基準断層像から順繰りに補正する特許文献1の補正方法は基準断層像から離れる程、位置ずれ量が大きくなる可能性が高いため、SSDの最小値を求める際、ROIが移動する範囲を予め広くする必要があり、それにより処理時間が長くなる恐れがある。
【0015】
本発明は、OCT単体で実施可能な補正方法であり、特許文献1に記載の注目領域(ROI)や基準断層像を選択する断層像選択手段を用いることなく、各B−スキャン像の位置ずれ補正値を求めることが可能であり、さらに、各B−スキャン像の位置ずれ補正値を求める際の参照像(特許文献1のROIに相当)の移動範囲を広くすることなく実施可能であることから、低コストでしかも高精度な位置補正処理が短時間で実施可能な断層撮影装置を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の断層撮影装置は、複数のB−スキャン像(断層像)を重ね合わせて三次元の断層像を作成する断層像撮影装置において、前記複数のB−スキャン像の中の一つのB−スキャン像の所定位置におけるA−スキャンのデータから一定の条件で得られた位置(P点)を含んだ所定の領域を持つ参照像を作成する参照像作成手段と、この参照像を前記一つのB−スキャン像に隣接するB−スキャン像内において平行移動させながら、各々の画素における前記参照像の画素値と前記隣接するB−スキャン像の画素値の差の総和(評価関数)を算出する評価関数算出手段と、この評価関数が最小となる位置を検出し、隣接するB−スキャン像間の相対的位置ずれ量を算出する相対的位置ずれ量算出手段と、この相対的位置ずれ量算出手段により前記複数のB−スキャン像の各々に対して得られた相対的位置ずれ量を用いて、前記複数のB−スキャン像の内の任意の一つのB−スキャン像を基準として各B−スキャン像の絶対的位置ずれ量を算出する絶対的位置ずれ量算出手段と、この絶対的位置ずれ量算出手段により得られた絶対的位置ずれ量を用いて、各B−スキャン像の位置を補正する位置補正手段とを備えたことを特徴とする(請求項1の発明)。
【0017】
上記構成によれば、参照像(特許文献1のROIに相当)作成手段は、例えばB−スキャン像の端から1/4の位置のA−スキャンデータのピーク値(P点)を含む所定の領域(例えば192×192ピクセル)の画像とするため、特許文献1のように、参照像作成手段時に黄班や視神経乳頭などを含む領域を抽出するための解析が必要ないこと、位置補正時に用いる基準断層像(基準B−スキャン像)は任意の位置(例えばNo.1の画像)を選択するため、特許文献1のように基準断層像を選択する際に全てのB−スキャン像を解析する必要ないこと、選択した一つのB−スキャン像を基準にした絶対的位置ずれ量に基づいて位置補正する本発明の方法は、最小の評価関数を求める際、参照像を平行移動する範囲は隣接するB−スキャン像の位置の差異程度で済むため、先行文献1のように基準断層像から、順繰りに位置補正を行うより、最小評価関数を求めるための参照像の移動範囲を狭くできる。
【発明の効果】
【0018】
上述のように、本発明の断層像撮影装置及び断層像の補正処理方法によれば、各B−スキャン像の位置ずれ補正はOCT単体で実施可能なので、SLOや眼底カメラ等他の光学系を必要としないこと、絶対的位置ずれ量の採用により、参照像の移動範囲を狭く設定できることから、低コストでしかも高精度な位置補正処理が短時間で実施できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】断層像取得部の詳細を示した図である。
【図2】断層像撮影装置の構成を示した図である。
【図3】断層像撮影及び補正の流れを示すフローチャートを示した図である。
【図4】眼底部における断層像取得位置と取得された3D断層像を示す図である。
【図5】参照像作成手段の方法を説明した図である。
【図6】B−スキャン像(断層像)から参照像を取り出した図である。
【図7】作成した参照像の隣接するB−スキャン像上での移動を示した図である。
【図8】(a)各B−スキャン像における相対位置ずれ量の値を示したもの。(b)各B−スキャン像の相対位置ずれ量を用いてNo.1のB−スキャン像を基準として算出した各B−スキャン像における絶対位置ずれ量を示したもの。
【図9】第2の実施例における相対的位置ずれ量の算出を示すフローチャートを示した図である。
【図10】第2の実施例における参照像作成手段の方法を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0020】
以下、本発明に係る断層像撮影装置について図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1には断層像取得部100の詳細構成を示す。
【0021】
図1に示すように、断層像取得部100では被検眼Eの眼底部(眼底網膜)Er上に測定光を照射することにより、眼底部Erの三次元断層像を撮影する。本実施形態では、時間的に波長を変化させて走査する波長走査光源101を用いたフーリエドメイン(光周波数掃引)方式が採用されている。
【0022】
即ち、波長走査光源101から出力された光は、光ファイバを通して偏波コントローラ102及びアイソレータ103に入力しその後光ファイバを通して第1のファイバーカプラ104に入力され、この第1のファイバーカプラ104において、例えば10:90の比率で、参照光と測定光とに分波されて出力される。そのうち参照光は、光ファイバを通ってコリメータレンズ112に入力し、ディレイラインユニット113に入射される。ディレイラインユニット113は眼底の網膜上に参照光路を合わせる光路長調整用のユニット部であり、OCT断層像を測定する前に、測定光路長と参照光路長を合わせる。
【0023】
そして、ディレイラインユニット113から放射された参照光はコリメータレンズ114から光ファイバを通り偏波コントローラ115に入力しその後光ファイバを通して第2のファイバーカプラ116の第1の入力部に入力される。
【0024】
一方、前記第1のファイバーカプラ104から出力された測定光は、光ファイバを通ってコリメータレンズ105に入力し、ガルバノミラーユニット106に入力される。ガルバノミラーユニット106は、測定光を走査させるためのもので、ガルバノドライバ107により、ガルバノミラーユニット106は測定光を被検眼の眼底面において水平方向に及び垂直方向に走査されるようになっている。
【0025】
前記ガルバノミラーユニット106から出力された測定光はレンズ108を通り、対物レンズ109を通して図示しない検査窓から出射され、被検眼Eに入射される。被検眼Eに入射された測定光は、眼底部Erの各組織部分(網膜、脈絡膜等)にて反射し、その反射光が、検査窓から入射され、上記と逆に、対物レンズ109、レンズ108、ガルバノミラーユニット106を通って、コリメータレンズ105に入力される。そして、その反射光は、光ファイバを通って前記第1のファイバーカプラ104を通った後、光ファイバを通して第2のファイバーカプラ116の第2の入力部に入力される。
【0026】
この第2のファイバーカプラ116において、眼底部Erからの反射光と、前記光ファイバを通って入力された参照光とが、例えば50:50の比率で合波され、その信号が光ファイバを介して差動増幅検出器117に入力される。検出器117においては、波長毎の干渉が計測され、計測された干渉信号が、前記制御装置200に設けられたADボード201に入力される。さらに、制御装置200に設けられた演算部202において、干渉信号に対するフーリエ変換などの処理が行われ、もって走査線に沿う眼底網膜Erの断層画像が取得されるのである。(図2)
【0027】
このとき、詳しくは後述するように、前記ガルバノミラーユニット106による測定光のスキャンパターン、言い換えると走査線(B−スキャン)の方向は、制御装置200において設定されるようになっている。そして、制御装置200(演算部202)からの指令信号に基づいてガルバノドライバ107がガルバノミラーユニット106を制御するようになっている。尚、得られた眼底部Erの断層画像のデータは、記憶部203に記憶される。(図2)
【0028】
次に図3(a)、(b)を参照しながら、B−スキャン像の撮像及び位置補正処理方法について説明する。図3はB−スキャン像撮像から、補正処理、さらには、三次元画像の構築といった、本発明の断層像撮影装置の一連の処理フローを示したものである。
【0029】
OCTにて撮影を開始する前に、ディレイラインユニット113内にある参照鏡を移動し、測定光路長と参照光路長を一致させる(ステップ301)。その後、断層像取得部100にて、断層像(B−スキャン像)を取得する(ステップ302)。
【0030】
図4は、断層像取得部100による断層像(B−スキャン像)を取得する様子を示したものである。図4(a)は被検眼Eの眼底網膜の一例を、図4(b)は断層像取得部100から取得して得られた眼底網膜401の複数の2次元断層像(B−スキャン像)の例を示している。尚、図4(a)及び(b)のx軸はB−スキャンのスキャン方向を、y軸はC−スキャンの方向を示す。更に、図4(b)のz軸はA−スキャン信号の奥行き方向を示す。
【0031】
図4(b)の404は取得した2次元断層像であり、ガルバノミラーユニット106をx方向にスキャンさせながら、演算部202がA−スキャン信号403を再構築して作成される。この2次元断層像がB−スキャン像であり、眼底網膜401に対する奥行き方向(z方向)と直交するx方向の2次元の断面、すなわち図4(b)におけるx軸及びz軸で規定される平面における2次元断層像である。図4(a)の402は2次元断層像404の撮影位置を示す。
【0032】
さらに連続的にy軸方向にB−スキャン像の撮影位置402をずらしていくことで、撮影位置402におけるB−スキャン像がそれぞれ取得される。図4(b)は各撮影位置における複数のB−スキャン像から構成される3次元断層像(C−スキャン像)を示す。
【0033】
断層像取得部100において生成された3次元断層像(複数のB−スキャン像)は記憶部203に記憶される。
【0034】
ステップ303では断層像取得部100により、眼底網膜401の各撮影位置で取得した複数のB−スキャン像それぞれの相対位置ずれ量を算出する。算出方法は図3(b)のフローに従い実施する。
【0035】
図3(b)はステップ303の詳細を示したものである。まず、取得した複数のB−スキャン像の任意の一つにおける参照像を作成する(ステップ310)。図5(a)のB−スキャン像501は、取得した複数のB−スキャン像の任意の一つであり、WはB−スキャン像の幅(スキャン幅)、Hは奥行き方向の深さ(A−スキャンの幅)を示す。図5(b)はB−スキャン像の端から1/4(W/4)の位置のA−スキャン信号を示す。
【0036】
A−スキャン信号のピーク値から、B−スキャン像におけるP点を求め、図6に示すようにP点を中心とした所定の領域(例えば192×192ピクセル)の参照像602を作成する。作成された参照像602はこのB−スキャン像における参照像となる。
【0037】
次に図7に示すように、このB−スキャン像に隣接するB−スキャン像上で、ステップ310で作成した参照像602を平行移動させる(ステップ311)。この時、参照像602の画素値と相対する隣接B−スキャン像の画素値との差を、参照画像602の全ての画素に対して求めその絶対値の総和を算出する。この総和の値を評価関数と呼ぶことにする(ステップ312)。図7に示すように、参照像602の移動はP点を中心に、例えば上下左右に±4ピクセル、1ピクセル毎行い、それぞれの位置での評価関数を求める。評価関数が最小となる位置とP点の座標差S=(Δx、Δz)を検出し(ステップ313)、このS値を隣接B−スキャンの相対的位置ずれ量とする(ステップ314)。
【0038】
ステップ310〜314を全てのB−スキャン像で実施し、各B−スキャン像における相対的位置ずれ量を算出する(ステップ303)。
【0039】
図8(a)はNo.1からNo.256までの各B−スキャン像における、相対的位置ずれ量を表したグラフで、本実施例の装置にて実施した一結果を示したものである。横軸はB−スキャン像のNo.であり、縦軸は相対的位置ずれ量である。
【0040】
図8(b)は図8(a)のデータから、No.1のB−スキャン像を基準にした絶対的位置ずれ量に変換した結果を示すグラフである。横軸はB−スキャン像のNo.であり、縦軸は絶対的位置ずれ量である。ステップ304ではこのように各々のB−スキャン像の相対的位置ずれ量からNo.1のB−スキャン像を基準とした絶対的位置ずれ量を各々のB−スキャン像に対して算出する。
【0041】
本実施例の装置で実施した一例では、図8(a)の結果からわかるように隣接するB−スキャン像間の位置ずれ(相対的位置ずれ)量は最大で3ピクセルであるが、図8(b)から、No.1のB−スキャン像を基準にして算出した絶対的位置ずれ量は最大で15ピクセルあることがわかる。
【0042】
つまり、絶対的位置ずれ量算出手段を用いた本発明では参照像の移動は、この例では±4ピクセル程度でよいが、絶対的位置ずれ量算出手段を有しない特許文献1では、ROI(本発明の「参照像」)を±16ピクセル程度移動させる必要となることから、この例の場合本発明と比較して約16倍の範囲を移動させる必要があり、本発明の優位性が理解され得る。
【0043】
この絶対的位置ずれ量を用いて、各B−スキャン像の位置を補正し、補正したB−スキャン像は記憶部203に記憶される(306)。
【0044】
補正されたB−スキャン像は、隣り合った1つ以上のB−スキャン像と加算平均処理を行い(ステップ307)、その後3次元断層像に再構築し、記憶部203に記憶される。
【0045】
記憶部203に記憶された3次元断層像は、モニター等に表示される。
【0046】
本実施例では、参照像を作成する時のA−スキャン信号の位置をB−スキャン像の端から1/4の位置としたが、1/4に限ったものではなく、任意の位置で構わない。また、参照像を作成する際、P点をA−スキャン信号のピーク値としたが、これに限ったものではなく、A−スキャンの最初の位置でも構わないし、また、例えば顕著なピークが複数あればその平均位置としても構わない。
【0047】
第1の実施形態では、各B−スキャン像の相対的位置ずれ量を求める際の参照像を1箇所の1枚としたが、上述の実施例のようにA−スキャンデータのピーク値をP点とすると、P点は網膜色素上皮になる可能性が高い。被検眼Eの網膜色素上皮が眼底面に対し一直線であれば問題ないが、網膜色素上皮はある半径を持った曲線である場合が多い。各B−スキャン像の相対位置ずれ量を求める際、対象となる隣接する2つのB−スキャン像の網膜色素上皮の曲線は多少異なると考えられるので、1箇所1枚の参照像での補正の場合、隣接する2つのB−スキャン像の網膜色素上皮の曲線の半径の差分、補正に誤差を生じる可能性がある。以下の第2の実施例では、その対策として、3箇所の3枚の参照像を用いる方法を説明する。
【0048】
[第2の実施形態]
断層像取得部については、上述の第1の実施形態と同じであるので、省略する。
【0049】
図9は、第2の実施例における相対的位置ずれ量を算出するためのフローチャートである。まず、取得した複数のB−スキャン像の第1の参照像を作成する(ステップ901)。図10(a)のB−スキャン像1001は、取得した複数のB−スキャン像の任意の一つであり、WはB−スキャン像の幅(スキャン幅)、Hは奥行き方向の深さ(A−スキャンの幅)を示す。図10(b)はB−スキャン像の端から1/4(W/4)の位置のA−スキャン信号を示す。
【0050】
A−スキャン信号のピーク値から、B−スキャン像におけるP1点を求め、P1点を中心とした所定の領域(例えば192×192ピクセル)の参照像を作成ずる。作成された参照像はこのB−スキャン像における第1の参照像となる。
【0051】
次にこのB−スキャン像に隣接するB−スキャン像上で、作成した第1の参照像を平行移動させる(ステップ902)。この時、参照像の画素値と相対する隣接B−スキャン像の画素値との差を、全ての参照画像の画素に対して求めその絶対値の総和を算出する。この総和の値を評価関数と呼ぶことにする(ステップ903)。移動はP1点を中心に、第1の参照像を例えば上下左右に±4ピクセル、1ピクセル毎行い、それぞれの位置での評価関数を求める。評価関数が最小となる位置とP1点の座標差S1=(Δx1、Δz1)を求める(ステップ904)。
【0052】
次に、第2の参照像を作成する(ステップ901)。図10(c)はB−スキャン像の端から1/2(W/2)の位置のA−スキャン信号を示す。このA−スキャン信号のピーク値から、B−スキャン像におけるP2点を求め、P2点を中心とした所定の領域(例えば192×192ピクセル)の参照像を作成ずる。作成された参照像はこのB−スキャン像における第2の参照像となる。
【0053】
第1の参照像の場合と同様に隣接するB−スキャン像との間で評価関数を求め(ステップ902〜903)、評価関数が最小となる位置とP2点の座標差S2=(Δx2、Δz2)を求める(ステップ904)。
【0054】
次に、第3の参照像を作成する(ステップ901)。図10(d)はB−スキャン像の端から3/4(W×3/4)の位置のA−スキャン信号を示す。このA−スキャン信号のピーク値から、B−スキャン像におけるP3点を求め、P3点を中心とした所定の領域(例えば192×192ピクセル)の参照像を作成ずる。作成された参照像はこのB−スキャン像における第3の参照像となる。
【0055】
第1の参照像の場合と同様に隣接するB−スキャン像との間で評価関数を求め(ステップ902〜903)、評価関数が最小となる位置とP3点の座標差S3=(Δx3、Δz3)を求める(ステップ904)。
【0056】
これらS1値、S2値及びS3値の平均値Saを隣接B−スキャンの相対的位置ずれ量とする(ステップ905)。
Sa=((Δx1+Δx2+Δx3)/3、(Δz1+Δz2+Δz3)/3)
【0057】
以下の処理は第1の実施例と同様であるので、省略する。参照像を作成する位置をB−スキャン像の端から1/4、1/2及び3/4としたが、これに限ったものではない。各位置の間隔が一定以上離れていれば他の位置でも構わない。また、本実施例では3箇所としたが、2箇所であってもいいし、4箇所以上であっても構わない。
【0058】
また、絶対的位置ずれ量を求める際(ステップ304)上述の例では、No.1のB−スキャン像を基準にして絶対的位置ずれ量を算出したが、取得した全てのB−スキャン像の位置を平均した位置に最も近いB−スキャン像を基準にして各B−スキャン像の絶対的位置ずれ量を算出してもよい。
【0059】
さらに、各B−スキャン像の絶対的位置ずれ量の平均を求め、その値を0として再度、各B−スキャン像の絶対的位置ずれ量を算出してもよい。この場合、補正量を全体的に小さくできるので、補正する際の画像データの移動量が小さくなるため処理時間を短くできる利点がある。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることが、理解されるべきである。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、高精度の位置ずれ補正が、容易にしかも短時間の処理時間で実施可能となるのである。
【符号の説明】
【0062】
100・・断層画像取得部101・・波長走査光源104・・第1のファイバーカプラ106・・ガルバノミラーユニット113・・ディレイラインユニット116・・第2のファイバーカプラ201・・ADボード202・・演算部203・・記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のB−スキャン像(断層像)を重ね合わせて3次元の断層像を作成する断層像撮影装置において、
前記複数のB−スキャン像の中の一つのB−スキャン像の所定位置におけるA−スキャンのデータから一定の条件で得られた位置(P点)を含んだ所定の領域を持つ参照像を作成する参照像作成手段と、
該参照像を前記一つのB−スキャン像に隣接するB−スキャン像内において平行移動させながら、各々の画素における前記参照像の画素値と前記隣接するB−スキャン像の画素値の差の総和(評価関数)を算出する評価関数算出手段と、
該評価関数が最小となる位置を検出し、隣接するB−スキャン像間の相対的位置ずれ量を算出する相対的位置ずれ量算出手段と、
該相対的位置ずれ量算出手段により前記複数のB−スキャン像の各々に対して得られた相対的位置ずれ量を用いて、前記複数のB−スキャン像の内の任意の一つのB−スキャン像を基準として各B−スキャン像の絶対的位置ずれ量を算出する絶対的位置ずれ量算出手段と、
該絶対的位置ずれ量算出手段により得られた絶対的位置ずれ量を用いて、各B−スキャン像の位置を補正する位置補正手段と、
を備えたことを特徴とする断層撮影装置。
【請求項2】
前記参照像作成手段における、前記一つのB−スキャン像の所定位置は、該B−スキャン像の端から1/4、1/2、3/4のいずれかの位置であることを特徴とする、請求項1記載の断層撮影装置。
【請求項3】
前記参照像作成手段は前記一つのB−スキャン像の2箇所以上の所定位置でのA−スキャンデータの一定の条件で得られた各位置(Pn点)を含んだ所定の領域を持つ2つ以上の参照像を作成し、
前記評価関数算出手段は、該2つ以上の参照像を用いて、前記隣接するB−スキャン像の2箇所以上の位置で評価関数を求め、
前記相対的位置ずれ量算出手段は、該評価関数各々が最小となる位置を検出し、算出された2箇所以上の相対的位置ずれ量の平均値を前記隣接するB−スキャン像の相対的位置ずれ量とすることを、
特徴とする請求項1又は2に記載の断層撮影装置。
【請求項4】
請求項3の参照像作成手段における前記一つのB−スキャン像の2箇所以上の所定位置は、該B−スキャン像の端から1/4、1/2、3/4のいずれか一つ以上を含む位置であることを、特徴とする請求項3記載の断層撮影装置。
【請求項5】
前記絶対的位置ずれ量算出手段は、該手段で算出された各B−スキャン像における絶対的位置ずれ量の平均値を0として再度各B−スキャン像の絶対的位置ずれ量を算出することを特徴とする請求項1及至4のいずれか1項に記載の断層撮影装置。
【請求項6】
前記複数のB−スキャン像を前記位置補正手段で補正した後、前記複数のB−スキャン像の各B−スキャン像に対し、隣接する1つ以上のB−スキャン像を用いて加算平均処理し、3次元の断層像を再構成することを、特徴する請求項1及至5のいずれか1項に記載の断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−85758(P2013−85758A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229916(P2011−229916)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(501299406)株式会社トーメーコーポレーション (48)
【Fターム(参考)】