説明

断面観察用試料製造装置及び断面観察用試料の製造方法

【課題】清浄な検査断面を簡単かつ迅速に形成することができる、断面観察用試料製造装置及び断面観察用試料の製造方法を提供する。
【解決手段】この製造装置10は、試料1の一部を遮蔽する遮蔽材20と、前記遮蔽材20の端縁部に沿って、前記試料1の表面にイオンビームを照射して、遮蔽材20で覆われた部分と遮蔽材20で覆われていない部分との境界に沿って前記試料1の表面に切欠溝を形成する切欠溝形成手段(イオン銃13)と、前記切欠溝に沿って試料1に圧力を加えて、前記試料1を切欠溝に沿って劈開する劈開手段23と、劈開された試料1の検査すべき断面にイオンビームを照射して検査断面を加工研磨する加工研磨手段(イオン銃13)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体デバイスや電子部品等の所定部分の断面を観察するのに好適な、断面観察用試料製造装置及び断面観察用試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスや電子部品等の構造や欠陥等を調べるため、それらを適当な大きさにカットして試料を作製し、この試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などで観察することが広く行われている。
【0003】
この際、観察に適当な断面を得るための技術として、収束させたイオンビームを試料に照射することにより、試料をカットして所定断面を得るFIB(Focused Ion Beam)法や、試料上に遮蔽材を置いて、イオンビームを収束させないで試料に照射することにより、遮蔽材により遮蔽されない部分をカットして所定断面を得るCP(Cross section Polisher)法が知られている。
【0004】
後者のCP法を用いた試料作製装置として、下記特許文献1には、試料の一部を遮蔽材で覆い、当該遮蔽材の端縁部を含めて前記遮蔽材側から前記試料にイオンビームを照射することにより、前記試料の前記遮蔽材に遮蔽されない部分を前記イオンビームによって切削し、前記試料の断面を作製するための断面試料作製装置であって、真空チャンバに取り付けられ、前記試料に前記イオンビームを照射するためのイオンビーム照射手段と、前記真空チャンバ内に格納され、前記遮蔽材の端縁部と前記試料との相対位置を調整するための位置調整機構と、前記位置調整機構の位置移動を前記真空チャンバ外から制御可能とする移動制御手段とを備えた断面試料作製装置が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、真空チャンバ内に配置され、試料にイオンビームを照射するためのイオンビーム照射手段と、前記真空チャンバ内に配置され、前記試料を保持する試料ホルダとを備えたイオンミーリング試料作製装置であって、前記試料ホルダは、前記イオンビーム照射手段からのイオンビームが進入するイオンビーム進入孔を有しているイオンミーリング試料作製装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−333682号公報
【特許文献2】特開2005−77359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、半導体デバイス等の試料では、その端面を観察するのはなく、試料内部を観察したい場合がある。この場合、上記特許文献1の断面試料作製装置では、試料の端面から順にイオンビームで切削し、試料内部の所定位置まで切削することにより、所望の観察面を形成している。しかし、上記方法では、試料端面からイオンビームで切削していくため、所望の試料内面に至るまで非常に時間がかかり、試料作製の作業性に問題があった。また、試料とは関係ない試料周辺の部材(例えば、試料を保持するホルダ等)にイオンビームが照射され、それによって周辺部材がエッチングされてしまって、このエッチングにより飛散した物質が試料の観察面に付着する虞れがあった。
【0008】
一方、引用文献2のイオンミーリング試料作製装置では、試料ホルダに、イオンビームを通過させるイオンビーム進入孔を有しているため、試料の観察面作成過程で、試料ホルダをエッチングしてしまう虞れはない。しかし、この装置でも、引用文献1の装置と同様に、試料端面からイオンビームを照射して、所望の観察面を形成するようになっているので、時間がかかるというデメリットがある。
【0009】
ところで、試料の観察面近傍に直接イオンビームを当てて、試料を切断して所望の観察面を得ることも考えられるが、これでは試料切断時に試料ホルダ等にイオンビームが直接当たり、上述したようなエッチングによる飛散物質が試料の観察面に大量に付着してしまうので、この方法を採用することはできない。そのため、試料端面からイオンビームを照射しない方法の場合は、試料の観察面近傍に試料を切断しない程度にイオンビームを照射した後、試料を装置から取り出して不要な部分を取り除き、再び、試料を装置にセットするという煩雑な作業が必要であった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、清浄な検査断面を簡単かつ迅速に形成することができる、断面観察用試料製造装置及び断面観察用試料の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の断面観察用資料製造装置は、試料の一部を遮蔽する遮蔽材と、前記遮蔽材の端縁部に沿って、前記試料の表面にイオンビームを照射して、遮蔽材で覆われた部分と遮蔽材で覆われていない部分との境界に沿って前記試料の表面に切欠溝を形成する切欠溝形成手段と、前記切欠溝に沿って試料に圧力を加えて、前記試料を切欠溝に沿って劈開する劈開手段と、劈開された試料の検査すべき断面にイオンビームを照射して検査断面を加工研磨する加工研磨手段とを備えていることを特徴とする。
【0012】
上記発明によれば、遮蔽材で表面が覆われた試料に、切欠溝形成手段によってイオンビームを照射して、遮蔽材で覆われた部分と覆われていない部分との境界に沿って切欠溝を形成した後、劈開手段により切欠溝に沿って試料に圧力を加えることにより、試料が切欠溝に沿って劈開されて、断面観察に必要のない余分な部分を取り除くことができる。その後、加工研磨手段によって劈開された試料の検査断面にイオンビームを照射することにより、検査断面が加工研磨されて清浄な検査断面を得ることができる。
【0013】
このように、切欠溝形成手段によって試料に切欠溝を形成すると共に、劈開手段によって切欠溝に沿って試料を劈開した後、検査断面をイオンビームにより加工研磨するだけの簡単な工程で、清浄な検査断面を形成することができるので、引用文献1,2の装置のように試料端面からイオンビームを照射する必要がないうえ、装置から試料を取り出して余分な部分を取り除いた後、試料を再セットする必要もなく、試料作製の作業性を著しく向上させることができる。
【0014】
また、試料の厚み方向全部をイオンビームで切断するのではなく、試料に所定深さの切欠溝を形成した後、劈開するようにしたので、周辺部材にイオンビームが当たることを最大限抑制して、エッチングによる飛散物の検査断面への付着を少なくして、その加工研磨量を低減することができ、清浄な検査断面を効率的に形成することができる。
【0015】
本発明の断面観察用試料製造装置においては、前記劈開手段は、前記切欠溝に沿って前記試料に当接する押え部材と、該押え部材に圧力を加える圧力調整手段とからなることが好ましい。これによれば、押え部材への圧力を調整可能な圧力調整手段を有しているので、試料を大きな圧力で急激に劈開するのを防止して、押え部材への圧力を調整しながら、試料を切断状況に応じて徐々に劈開することができ、凹凸や塑性変形の少ない平滑な劈開面を得ることができる。
【0016】
一方、本発明の断面観察用試料の製造方法は、試料の一部を遮蔽材で覆い、遮蔽材の端縁部に沿って前記試料の表面にイオンビームを照射して、遮蔽材で覆われた部分と遮蔽材で覆われていない部分との境界に沿って前記試料の表面に切欠溝を形成した後、前記切欠溝に沿って試料に圧力を加えて前記試料を切欠溝に沿って劈開し、その後、劈開された試料の検査すべき断面にイオンビームを照射して検査断面を加工研磨することを特徴とする。
【0017】
上記発明によれば、遮蔽材で表面が覆われた試料にイオンビームを照射し、遮蔽材で覆われた部分と覆われていない部分との境界に沿って切欠溝を形成した後、切欠溝に沿って試料に圧力を加えることにより、試料が切欠溝に沿って劈開されて余分な部分を取り除くことができると共に、劈開された試料の検査断面にイオンビームを照射することにより、検査断面が加工研磨されて清浄な検査断面を得ることができる。
【0018】
このように、試料に切欠溝を形成すると共に切欠溝に沿って試料を劈開した後、検査断面をイオンビームにより加工研磨するだけの簡単な工程で、清浄な検査断面を形成することができ、試料作製の作業性を著しく向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、試料に切欠溝を形成すると共に切欠溝に沿って試料を劈開した後、検査断面をイオンビームにより加工研磨するだけの簡単な工程で、清浄な検査断面を形成することができ、試料作製の作業性を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る断面観察用試料製造装置の一実施形態を示し、(a)は試料にイオンビームを照射するときの説明図、(b)は試料を劈開するときの説明図である。
【図2】同製造装置による本発明に係る断面観察用試料の製造方法を示し、(a)は試料に切欠溝を形成するときの説明図、(b)は(a)の平面図である。
【図3】同製造方法を示し、(a)は試料を劈開するときの説明図、(b)は(a)の平面図である。
【図4】(a)は同製造装置による試料劈開後の説明図、(b)は同製造装置による検査断面を加工研磨するときの説明図である。
【図5】図2乃至図4とは異なる形態の試料の検査断面を形成する際の状態を示し、(a)は試料に切欠溝を形成するときの説明図、(b)は(a)のA1−A1矢視線における断面図である。
【図6】同製造方法を示し、(a)は試料を劈開するときの説明図、(b)は(a)のA2−A2矢視線における断面図である。
【図7】同製造方法を示し、(a)は試料劈開後の説明図、(b)は(a)のA3−A3矢視線における断面図である。
【図8】同製造方法を示し、(a)は試料の検査断面を加工研磨するときの説明図、(b)は(a)のA4−A4矢視線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の断面観察用試料製造装置及び断面観察用試料の製造方法について説明する。
【0022】
図1(a),(b)に示すように、この実施形態における断面観察用資料製造装置(以下、「製造装置10」という)は、排気装置12を有し、内部を真空雰囲気状態に保持可能な加工室11と、同加工室11の内部空間に出し入れ可能にスライド移動する試料保持部15とを有している。
【0023】
前記加工室11の上部には、未収束のイオンビームを広範囲に照射可能なイオン銃13が配置されている。図2(a),(b)に示すように、このイオン銃13は、後述する遮蔽材20により一部が遮蔽された試料1の端縁部に沿って、その表面にイオンビームを照射して、遮蔽材20で覆われた部分と遮蔽材20で覆われていない部分との境界に沿って、試料1の表面に切欠溝3を形成するようになっている。更に、図4(b)に示すように、イオン銃13は、後述する劈開手段23により劈開された試料1の検査すべき断面7(以下、「検査断面7」という)にイオンビームを照射して、同検査断面7に付着したエッチングによる飛散物5を取り除く部分ともなっている。すなわち、このイオン銃13が本発明における切欠溝形成手段及び加工研磨手段をなしている。
【0024】
なお、切欠溝形成手段であるイオン銃13のイオンビームは、図2(a)の部分拡大図に示すように、試料1の厚さTの30から50%の深さDの切欠溝3を形成するように、制御されていることが好ましい。試料1の厚さTが切欠溝3の深さDの30%未満の場合には、試料1の劈開部分の剛性が高すぎて試料1が劈開しにくくなり、試料1の厚さTが切欠溝3の深さDの50%を超える場合には、切欠溝3の形成に時間がかかり作業性が低下する。これに対して上記深さの切欠溝3を試料1に形成することにより、試料1の劈開部分の剛性を十分に低下させて劈開しやすくなると共に、短時間で劈開可能となり作業性を向上させることができる。また、切欠溝3の形状は、U字状やV字状等としてもよく、特に限定されるものではない。
【0025】
前記試料保持部15の所定高さからは、試料支持部16が延設されており、この試料支持部16上には、位置調整部17を介して位置調整可能とされた試料ホルダ18が載置されている。この実施形態では、この試料ホルダ18により試料1が片持ち支持されている(図2(a)参照)。
【0026】
また、前記試料支持部16上であって、前記試料ホルダ18の手前側には、遮蔽材支持部19が配置されており(図1参照)、その上端部に図示しない支軸を介して遮蔽材20が回動可能に取付けられている。この遮蔽材20が、試料ホルダ18に支持された試料1の一部を遮蔽するようになっている。また、図2(b)に示すように、遮蔽材20は、板状をなした試料1よりも幅広に形成されており、試料1の幅方向全部を覆うことが可能となっている。
【0027】
更に、前記位置調整部17上であって、前記遮蔽材支持部19とは反対側には、劈開手段支持部22が立設しており(図1参照)、その上端に、前記切欠溝3に沿って試料1に圧力を加えて同試料1を切欠溝3に沿って劈開する劈開手段23が取付けられている。この劈開手段23は、前記劈開手段支持部22の上端に図示しない支軸を介して回動可能に取付けられたアーム部24を有している。そして、試料1を劈開するときに、アーム部24の先端部が試料1の表面に配置されるように回転すると共に(図1(b)参照)、イオン銃13による切欠溝3の形成時や検査断面7の加工研磨時に、上記とは反対方向にアーム部24が回転して試料1から離れて(図1(a)参照)、イオン銃13のイオンビーム照射に支障がないように構成されている。
【0028】
また、この実施形態における前記アーム部24は、所定長さで伸びる筒状のケース24aと、同ケース24a内にスライド可能に収容されるロッド24bとからなり、このロッド24bの先端下部に、切欠溝3に沿って試料1に当接する押え部材25が取付けられている。図3(b)に示すように、この実施形態における押え部材25は、板状の試料1よりも幅広に伸びており、切欠溝3の周縁部の幅方向全体に確実に当接するようになっている。
【0029】
更に劈開手段23には、前記押え部材25に圧力を加える圧力調整手段26が設けられている。この実施形態における圧力調整手段26は、前記アーム部24の基端側に配置され、モータによる回動するクランクやトーションバネ等を備えた構造を有し、図3(a)の矢印に示すように、試料1の表面に配置された状態のアーム部24の基端部側に回転力を付与して、同アーム部24の先端部を試料1に向けて押し付けることができるようになっている。このように、アーム部24の基端側に設けた圧力調整手段26により、アーム部24に回転力を付与して、その先端側の押え部材25を押圧する構造となっているので、アーム部24の長さに応じてトルクを増やすことができ、試料1を強く押圧することが可能となっている。なお、圧力調整手段としては、エアシリンダや油圧シリンダ等を採用し、これにより前記押え部材25を昇降可能として、試料1に圧力を付与する構造であってもよく、試料1の厚さや材質等に応じて適宜選択することができる。
【0030】
また、この実施形態では、前記アーム部24は、ケース24a及びこれにスライド可能に収容されるロッド24bからなり、図3(a)の想像線で示すように、アーム部24の長さを伸縮可能となっている。そのため、切欠溝3の切欠幅等に応じて、押え部材25の位置を適宜変更して、劈開に必要な圧力を試料1に効果的に付与することができる。
【0031】
なお、アーム部24は、上述したようなケース及びロッドからなる構造でなくともよい。例えば、劈開手段支持部22の上端にガイドレールを取付けて、これにアーム部24をスライド可能に取付けて、アーム部24先端の押え部材25の位置を変動可能としてもよく、特に限定されるものではない。
【0032】
更に、前記試料保持部15の上部には、図示しない支軸を介して顕微鏡28が上下回動可能に配置されている。そして、図1(b)に示すように、加工室11内から試料保持部15が引き出されたときに、顕微鏡28が下方に回動して、前記試料ホルダ18に支持された試料1の表面を観察可能となっており、図1(a)に示すように、イオン銃13による切欠溝3の形成時又は検査断面7の加工研磨時に、顕微鏡28が上方に回動して、加工室11内に試料保持部15が入り込むことが可能となっている。
【0033】
次に、上記構成からなる本発明の製造装置10を用いた、本発明による断面観察用試料の製造方法(以下、「製造方法」という)について説明する。この実施形態において、観察すべき試料1としては、板状をなしたプリント配線基板となっている。
【0034】
まず、顕微鏡28が上方に回動すると共に、劈開手段23が試料ホルダ18から離れる方向に回動し、更に遮蔽材20が上方に回動した状態とされた試料保持部15の試料ホルダ18に、板状の試料1を片持ち支持状態でセットする。その後、前記遮蔽材20を下方に回動させることにより、同遮蔽材20により試料1の一部が遮蔽される(図2(b)参照)。その状態で、図1(a)に示すように、試料保持部15をスライドさせて加工室11内に収容配置させ、排気装置12により加工室11内を真空雰囲気とする。
【0035】
そして、遮蔽材20により遮蔽された試料1の上方から、イオン銃12で未収束のイオンビームを、遮蔽材20の幅方向端縁部に沿って試料1の表面に照射する。その結果、図2(a),(b)に示すように、遮蔽材20で覆われた部分と遮蔽材20で覆われていない部分との境界に沿って、試料1の表面に切欠溝3が形成される。このとき、未収束のイオンビームが加工室11内に広範囲に照射されるため、試料ホルダ18等の試料1以外の周辺部材がエッチングされて、それによる飛散物5が試料1の検査断面7に付着することとなる(図2(a)の部分拡大図参照)。
【0036】
次いで、加工室11内を大気圧に戻して試料保持部15をスライドさせ、加工室11内から試料保持部15を引き出す。そして、図1(b)に示すように、顕微鏡28を下方に回動させると共に、劈開手段23を回動させて、その先端部を試料1の表面側に配置する。更に、アーム部24の長さを適宜調整して、アーム部24先端の押え部材25を、切欠溝3の周縁部に当接させる(図3(a),(b)参照)。
【0037】
その状態で、顕微鏡28で切欠溝3を観察しながら、劈開手段23の圧力調整手段26により押え部材25に押圧力を作用させて、切欠溝3の周縁部に沿って圧力を加えることにより(図3(a)参照)、試料1を切欠溝3に沿って劈開させることができる(図4(a)参照)。
【0038】
このとき、この実施形態においては、押え部材25への圧力を調整可能な圧力調整手段26を有しているので、試料1を大きな圧力で急激に劈開するのを防止して、押え部材25への圧力を調整しながら、試料1を切断状況に応じて徐々に劈開することができ、凹凸や塑性変形の少ない平滑な劈開面を得ることができる。
【0039】
更に、この実施形態では、試料1の表面を観察可能な顕微鏡28を備えているので、上述した試料1の劈開時における切欠溝3の切断状況(ひび,割れ等の大きさや生成速度等)等を把握しやすくなる。また、この実施形態では、前記押え部材25は試料1よりも幅広に伸びていて、切欠溝3の周縁部の幅方向全体に当接させることができるので、切欠溝3の周縁部の幅方向に沿って均等な圧力を付与することができる。
【0040】
上記のように試料1を劈開後、顕微鏡28を上方に回動させると共に、劈開手段23を試料ホルダ18から離れる方向に回動させて、再度、試料保持部15を加工室11内に収容配置させる(図1(a)参照)。そして、加工室11内を真空雰囲気にした後、図4(b)に示すように、遮蔽材20により遮蔽された試料1の上方から、劈開された試料1の検査断面7に向けて、イオン銃13でイオンビームを照射することにより、検査断面7が加工研磨されて、同検査断面7に付着した飛散物5が取り除かされ、飛散物5のない清浄な検査断面7を形成することができる。
【0041】
以上のように本発明によれば、遮蔽材20で表面が覆われた試料1にイオンビームを照射して、遮蔽材20で覆われた部分と覆われていない部分との境界に沿って切欠溝3を形成した後、切欠溝3に沿って試料に圧力を加えることにより、試料1が切欠溝3に沿って劈開されて、断面観察に必要のない余分な部分が取り除くことができる。その後、イオン銃13によって劈開された試料1の検査断面7にイオンビームを照射することにより、検査断面7が加工研磨されて清浄な検査断面7を形成することができる。
【0042】
すなわち、試料1に切欠溝3を形成すると共に切欠溝3に沿って試料1を劈開した後、検査断面7をイオンビームにより加工研磨するだけの簡単な工程で、清浄な検査断面7を形成することができるので、上記引用文献1,2のように、試料端面からイオンビームを照射する必要がないうえ、装置から試料を取り出して余分な部分を取り除いた後、試料を再セットする必要もなく、試料作製の作業性を著しく向上させることができる。
【0043】
また、試料1の厚み方向全部をイオンビームで切断するのではなく、試料1に所定深さの切欠溝3を形成した後、劈開するようにしたので、周辺部材にイオンビームが当たることを最大限抑制して、エッチングによる飛散物5の検査断面への付着を少なくすることができ、その結果、イオンビームによる加工研磨量を低減することができ、清浄な検査断面7を効率的に形成することができる。
【0044】
以上説明した実施形態において、試料1は板状のプリント配線基板とされているが、これ以外の試料であっても構わない。図5乃至図8には、圧力センサを試料とした場合の、検査断面を得るための工程が示されている。この試料1は、ケーシング8と、そのケーシング8の底壁中央に形成された薄膜円板状のダイヤフラム9とからなり、このダイヤフラム9が検査対象となっている。このような構造の試料1Aでも、図2乃至図4に示す試料1と同一の工程で目的の検査断面7を得ることができる。
【0045】
すなわち、図5(a),(b)に示すように、遮蔽材20で試料1Aの底壁の表面を遮蔽して、イオンビームを遮蔽材20の端縁に沿って照射して、ケーシング8の底壁表面と一緒に、ダイヤフラム9の表面に切欠溝3を形成する。このとき、目的の検査断面7は、ダイヤフラム9の中心を横切る中央断面であるので、ダイヤフラム9の表面積の半分以上を覆うように遮蔽材20を配置しておく。
【0046】
次いで、図6(a),(b)に示すように、劈開手段23の押え部材25で、切欠溝3に沿ってケーシング8の底壁及びダイヤフラム9に圧力を加えることにより、図7(a),(b)に示すように、ケーシング8の底壁ごと、ダイヤフラム9を劈開することができる。
【0047】
その後、図8(a),(b)に示すように、ダイヤフラム9の検査断面7にイオンビームを照射することにより、検査断面7が加工研磨されて、付着した飛散物5が取り除かされ、飛散物5のない清浄な検査断面7を形成することができる。
【0048】
このように、薄く壊れやすいダイヤフラム9のような試料について、検査断面を形成するときでも、本願発明では、試料に切欠溝3を形成した後、同切欠溝3に沿って試料を劈開するように構成したので、ダイヤフラム9等の検査断面を何ら損傷することなく、所望の検査断面を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1,1A 試料
3 切欠溝
5 飛散物
7 検査断面
8 ケーシング
9 ダイヤフラム
10 製造装置
11 加工室
12 排気装置
13 イオン銃
15 試料保持部
16 試料支持部
17 位置調整部
18 試料ホルダ
19 遮蔽材支持部
20 遮蔽材
22 劈開手段支持部
23 劈開手段
24 アーム部
24a ケース
24b ロッド
25 押え部材
26 圧力調整手段
28 顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の一部を遮蔽する遮蔽材と、
前記遮蔽材の端縁部に沿って、前記試料の表面にイオンビームを照射して、遮蔽材で覆われた部分と遮蔽材で覆われていない部分との境界に沿って前記試料の表面に切欠溝を形成する切欠溝形成手段と、
前記切欠溝に沿って試料に圧力を加えて、前記試料を切欠溝に沿って劈開する劈開手段と、
劈開された試料の検査すべき断面にイオンビームを照射して検査断面を加工研磨する加工研磨手段とを備えていることを特徴とする断面観察用試料製造装置。
【請求項2】
前記劈開手段は、前記切欠溝に沿って前記試料に当接する押え部材と、該押え部材に圧力を加える圧力調整手段とからなる、請求項1に記載の断面観察用試料製造装置。
【請求項3】
試料の一部を遮蔽材で覆い、遮蔽材の端縁部に沿って前記試料の表面にイオンビームを照射して、遮蔽材で覆われた部分と遮蔽材で覆われていない部分との境界に沿って前記試料の表面に切欠溝を形成した後、前記切欠溝に沿って試料に圧力を加えて前記試料を切欠溝に沿って劈開し、その後、劈開された試料の検査すべき断面にイオンビームを照射して検査断面を加工研磨することを特徴とする断面観察用試料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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