新規な抗PLGF抗体
【課題】病的血管新生の治療および/または予防に使用されるヒト化抗体およびそれらのフラグメントの提供。
【解決手段】胎盤成長因子(PlGF)に対する新規なモノクローナル抗体およびそれらのフラグメントおよび誘導体。該抗体はヒト化抗体、さらに特にはハイブリッド抗体、最も特にはマウス/ヒトハイブリッド抗体、さらに特にはハイブリッドマウス16D3/ヒトIgG1κまたはIgG4κである。もしくは、ヒト化抗体は、PlGFに結合可能な本発明のマウス16D3抗体のCDR領域を、ヒト抗体の骨格にグラフト化させて含む抗体である。該抗体は血管内皮増殖因子(VEGF)に対する阻害抗体の組み合わせにより、病的血管新生の治療において、血管新生阻害剤の副作用を低減することができる。
【解決手段】胎盤成長因子(PlGF)に対する新規なモノクローナル抗体およびそれらのフラグメントおよび誘導体。該抗体はヒト化抗体、さらに特にはハイブリッド抗体、最も特にはマウス/ヒトハイブリッド抗体、さらに特にはハイブリッドマウス16D3/ヒトIgG1κまたはIgG4κである。もしくは、ヒト化抗体は、PlGFに結合可能な本発明のマウス16D3抗体のCDR領域を、ヒト抗体の骨格にグラフト化させて含む抗体である。該抗体は血管内皮増殖因子(VEGF)に対する阻害抗体の組み合わせにより、病的血管新生の治療において、血管新生阻害剤の副作用を低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、特に病的状態における血管新生の阻害に適する新規な抗体およびそれらのフラグメントならびに誘導体に関する。本発明は、それら特定の抗体を産生する細胞株にも関する。本発明は、本発明の抗体、それらのフラグメントおよび/または誘導体を含む医薬組成物を提供し、腫瘍形成、目の病気、肺性高血圧および炎症性疾患等において望まれない血管新生および/または血液漏出の予防および治療方法、ならびに骨粗鬆症等の骨疾患の予防および治療方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
異常な血管形成は高い罹患率と死亡率を有する多数の病気の発病に寄与する。血管増殖の根底にある機構の解明は、虚血組織における血管増殖を促進するか、または腫瘍におけるそれら形成を抑制する治療方法の開発を可能とするだろう。胚における最近の遺伝子標的法の研究によって、内皮チャンネルの初期形成(血管新生)および平滑筋細胞の被覆によるそれらのその後の成熟(動脈新生)に関わる機構の一部が同定された。異なる分子機構が病的状態における血管成長を仲介するという証拠が明らかになりつつあるが、その分子的プレーヤーは大部分未確定なままにある。
【0003】
血管内皮増殖因子(VEGF)は脈管構造の発達と病理学的成長に結び付いていることが証明されている(Ferrara N.et al,1999,Curr Top Microbiol Immunol 237,1−30)。さらに、VEGFの相同体である胎盤成長因子(PlGF)は、虚血性網膜症、腫瘍形成、炎症性疾患および浮腫等の多様な病的状態におけるVEGFの特定のモジュレータであることも示されている。PlGF−/−マウスは病気において血管新生および動脈新生が損なわれることが示されたが(Carmeliet P.et al.,2000,J.Pathol.190,387−405)、正常に健康である場合、生理学的血管新生は影響を受けずにいる。よって、PlGFの阻害剤は、血管新生と動脈新生が病気の病原性に寄与する病気の治療に莫大な可能性を有する。
【0004】
ヒトPlGFに対するヤギポリクローナル抗体(R&D pharmaceuticals,Abingdon,UK)やニワトリポリクローナル抗体(Gassmann et al.,1990,Faseb J.4,2528)等のPlGF阻害剤は当分野で知られている。これらの抗体はウエスタンブロット、組織化学および免役沈降研究のために用いられている。WO01/85796は、腫瘍形成等の病気の治療または予防のための、モノクローナル抗PlGF抗体等のPlGF阻害剤の使用を記載している。より具体的には、マウスPlGF−2がそのレセプターFlt−1に結合することを完全に阻害するマウスモノクローナル抗体の調製が記載され、抗体Mab−PL5D11が最も効果的な阻害活性を有するものとして選択されている。病的な血管新生の動物モデルにおける抗体の使用が記載されている。
【0005】
動物において生成する抗体は、ヒトでの治療においてそれらの使用を厳しく制限しうる特徴を有する。1986年にJaffers等(Transplantation 1986 41:572)により教示されたように、それらの抗体は外来タンパク質として、それらの治療有効性を減少または破壊し、および/または患者においてアレルギー性または過敏性反応を引き起こす抗免疫グロブリン応答(マウス抗体については、ヒト抗マウス抗体またはHAMAと称される)を誘発することがある。ヒトモノクローナル抗体の使用はこの制限に取り組むものであろうが、従来のハイブリドーマ技術による大量のヒト抗ヒト抗体の産生は困難であることが証明されている。したがって、マウスのモノクローナル抗体等、動物の高い結合親和性を維持するが、ヒトにおいて低減した免疫原性を示す「ヒト化」抗体を構築するために、組換え技術が当分野で用いられている。特に、非ヒト抗体の可変領域(V)をヒト抗体の定常(C)領域に組み合わせたキメラ抗体が提唱されている。そのようなキメラ免疫グロブリンを得る方法は米国特許第5,770,198号に詳細に説明されている。マウス抗体の免疫原性を低減させる他の試みでは、全V領域ではなく、相補性決定領域(CDR)のみ、すなわち、V領域の超可変性領域のみがヒト抗体に移植される。そのようなヒト化抗体はCDRグラフト化抗体として知られている。さらに複雑な抗原を認識するCDRグラフト化抗体の構築は、天然の非ヒト抗体よりも顕著に低い結合活性を有する抗体をもたらした。多くの場合に、非ヒトCDRのヒト抗体骨格への単なる導入は完全な結合活性の維持には不十分であることが示された。ヒト化抗体の設計で考慮すべき重要なアミノ酸を同定するために、関心の対象であるマウス抗体の緻密なコンピュータモデルが必要とされ、一般的な理論的指針がそのような設計のために提案されたが、すべての場合に、その手順は関心の対象である特定の非ヒト抗体に適合させて、最適化させる必要がある。
【0006】
その次には、ヒトPlGFがそのレセプターに結合するのを最適に阻害する(モノクローナル)抗体の必要性が残っている。さらに、そのような抗体は、HAMAを誘発しえない(またはそうする傾向が低い)点で非免疫原性である必要もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要約
本発明は、PlGFがそのレセプターに結合することを阻害できる、PlGFに対する新規なモノクローナル抗体およびその誘導体に関する。本リガンドは、インビボの病的状態においてヒトPlGFの阻害を示す最初のものである。さらに具体的には、本発明による抗体およびその誘導体はインビボで腫瘍サイズおよびヒト腫瘍組織の血管新生を低減させることができる。本発明の抗体は、VEGFを標的とした現在使用されている抗血管新生療法に代わる手段を提供し、これら療法に関連した生理学的血管新生の阻害により引き起こされる副作用が顕著に低減するという重要な利点を有する。
【0008】
本発明は、本明細書において16D3と称される抗体と同じPlGFエピトープに結合する、ヒト化抗体および抗体フラグメント等の抗原結合性分子、特にモノクローナル抗体、そのフラグメントまたは誘導体に関する。
【0009】
本発明の第1の目的は、PlGFに結合でき、PlGFの機能を阻害する能力を有する新規なモノクローナル抗体であって、より具体的には、それらの重鎖可変領域が配列番号2の配列、またはCDR領域内においてそれに対して少なくとも80%、特には少なくとも90%、最も特には95%の配列同一性を有する配列を含み、および/またはそれらの軽鎖可変領域が、配列番号4の配列、またはCDR領域内においてそれに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含むことを特徴とする、抗体16D3またはその誘導体等の抗体を提供することにある。さらに、またはその代わりとして、さらなる実施形態において、本発明の抗原結合性分子は、CDR領域の外側の重鎖および/または軽鎖の可変領域内で、配列番号2および配列番号4の配列のそれぞれに対して少なくとも70%、特には少なくとも80%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%同一である配列同一性を有する。
【0010】
本発明の特定の実施形態にしたがえば、本抗体はヒト化抗体、さらに特にはハイブリッド抗体、最も特にはマウス/ヒトハイブリッド抗体、さらに特にはハイブリッドマウス16D3/ヒトIgG1κまたはIgG4κである。もしくは、ヒト化抗体は、PlGFに結合可能な本発明のマウス16D3抗体のCDR領域を、ヒト抗体の骨格にグラフト化させて含む抗体である。
【0011】
本発明のさらなる実施形態は、マウス16D3抗体またはその誘導体(例えば、そのヒト化抗体)の抗原結合性フラグメント、例えばFab、Fab’またはF(ab’)2、少なくとも2つの相補性決定領域(CDR)の組合せ、可溶性または膜固定の単鎖可変領域または単一の可変ドメイン等の、しかし、これらに限定されない抗原結合性フラグメントに関する。そのような抗原結合性フラグメントの特定の実施形態は、16D3の少なくとも2つのCDRまたはその誘導体、または特に配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)からなる群から選択される少なくとも2つのCDRを含むフラグメントか、またはそれらに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つの配列を含むフラグメントを包含する。本発明の特定の実施形態は、PlGF活性を阻害できるマウス16D3抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)およびヒト化scFvの提供に関する。最も特には、本発明は、配列番号24または配列番号26のアミノ酸配列、またはPlGFに結合できるCDR内においてそれと少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含むscFvを提供する。
【0012】
本発明のさらなる目的は、本発明のモノクローナル抗体を産生する細胞株、特に16D3抗体を産生する細胞株16D3、さらに、例えば組換え技術の結果として16D3またはそのフラグメントに由来する抗原結合性分子を産生できる他の細胞株をも提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、16D3またはフラグメントまたは誘導体であるPlGF抗体、特に16D3のヒト化抗体またはその抗原結合性フラグメントを医薬的に許容される担体に混合して含む、哺乳動物の病的状態または疾患における(望まれない)血管新生の予防または治療用または骨吸収の予防または治療用の医薬組成物を提供することである。本発明の特定の実施形態は、Fab、Fab’またはF(ab’)2、可溶性または膜固定の単鎖可変部分または単一の可変ドメインからなる群から選択される16D3の抗原結合性フラグメントまたはその誘導体を含む医薬組成物である。本発明の最も特定の実施形態は、配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)からなる群から選択される少なくとも2つのCDRを含むか、または配列番号17〜配列番号22からなる群から選択される2つの異なる配列に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つの配列を含む抗原結合性フラグメントを含む医薬組成物に関する。その特定の実施形態は、本発明の16D3抗体のscFvを含む医薬組成物、特に配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)からなる群から選択される少なくとも2つのCDRを含むscFVを含む医薬組成物、または配列番号24を含むscFv等のように配列番号17〜配列番号22からなる群から選択される2つの異なる配列に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つの配列を含むscFvを含む医薬組成物に関する。最も特には、医薬組成物は、配列番号26を含むヒト化scFv等の、しかし、これに限定されない16D3のヒト化scFvを含むか、またはPlGFに結合することのできるCDR内においてそれと少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。
【0014】
本発明による医薬組成物のさらに別の特定の実施形態において、治療有効量の別の血管新生阻害剤が、本発明のPlGFに結合できる抗原結合性分子に加えて含まれる。この点において、最も特には、VEGF阻害剤やbFGF阻害剤等の血管新生阻害剤、最も特には抗VEGF抗体が想定される。
【0015】
本発明の別の目的は、本明細書において開示されたPlGFに結合する抗体の抗原結合性フラグメントをコードする塩基配列、特に細胞系16D3により産生される16D3の重鎖および軽鎖の可変領域をコードする塩基配列を提供することにある。もっとも具体的には、配列番号2と配列番号4の可変領域をコードする塩基配列が想定される。さらに、16D3の少なくとも2つのCDRを含む抗原結合性フラグメントをコードするポリヌクレオチド配列、さらに具体的には、配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)からなる群から選択される少なくとも2つのCDRをコードするポリヌクレオチド、または配列番号17〜配列番号22に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つのCDRを含む配列をコードするポリヌクレオチドである。本発明の塩基配列の特定の実施形態は、配列番号1、配列番号3、配列番号5および配列番号6で提供される。さらなる具体的な実施形態は、16D3のscFvおよびそのヒト化フラグメントをコードする塩基配列、最も特には配列番号23および配列番号25の配列、および最も特にはscFvのCDR領域をコードする領域内で、それらに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を包含する。しかし、遺伝子コードの重複の結果として本発明の範囲に入る多数の塩基配列が存在することが理解されよう。
【0016】
本発明の別の目的は、哺乳動物の病的状態において望まれない(または病的)血管新生を治療および/または予防する方法において、そのような治療または予防を必要とする哺乳動物に本発明の抗体16D3またはその抗原結合性フラグメントまたは誘導体、最も特には本明細書に記載されたscFvである有効成分の治療有効量を投与することからなる方法を提供することにある。特に、ヒト化抗体および抗体フラグメント、例えば16D3のscFvやその誘導体が本発明の方法に特に適する。本発明の方法の特定の実施形態は、癌、炎症、目の病気、肺性高血圧および血液漏出等の、しかし、これらに限定されない病的状態の治療および/または予防に関する。本発明の特定の目的は、哺乳動物、特にヒトにおいて、病的血管新生、特に腫瘍増殖、炎症、目の病気または血液漏出に効果的で安全な(すなわち、副作用のない)療法を提供することにある。最も特には本発明の方法は、固形腫瘍の治療および/または予防、特に結腸癌、乳癌、膵臓癌および黒色腫の治療および/または予防に適する。
【0017】
本発明の抗体および抗原結合性フラグメントのさらなる使用は、診断方法における標識された標的部分としての、および癌治療でのPlGF阻害に対して相加作用を有する化合物のスクリーニングのための、ヒト試料におけるPlGFの免疫学的検出に関する。
【0018】
本発明は、新しいリガンド、すなわち、PlGFを非常に効率的に阻害する新しいマウスおよびヒト化モノクローナル抗体およびそれらのフラグメント、誘導体および相同体の予期しない測定に基づく。最も特には、本発明は、腫瘍増殖を低減でき、最も特には腫瘍の大きさを20%〜50%低減することのできるリガンドを明らかにする。
【0019】
ここに記載の特定の実施形態に本発明を限定することを意図しない以下の説明は、参照することにより本書に組み込まれる添付の図面と合わせて理解される。
【0020】
定義
本明細書において用いられる「16D3」との用語は、LMBP6399CBの番号でBCCM/LMBPに寄託された細胞株により産生されるPlGFに対するモノクローナル抗体をいう。
【0021】
「抗体フラグメント」との用語は、単独または他のフラグメントと組み合わされて、対応する抗体を産生させる抗原に対して結合することのできる抗体分子の副部分をいう。典型的な抗体分子はFab、Fab’、F(ab’)2、FvまたはscFvであり、これらは完全抗体に匹敵する抗原親和性をしばしば保持する。それよりも小さなフラグメントとして、重鎖または軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3等のCDR、すなわち相補性決定領域および/またはそれらの2つ以上の組合せが挙げられる。
【0022】
本明細書において用いられる「誘導体」との用語は、抗原に対する結合に顕著に影響を与えることなく、(例えば、ハイブリドーマ細胞株により作られた)元の抗体またはそのフラグメントの改変体に対応する抗原結合性分子をいう。典型的な改変体として、元の抗体のアミノ酸配列の改変体、または例えばヒト化に関連して、抗体またはそのフラグメントの標識またはビーズ等の他の分子に対する結合またはグリコシル化の改変に関して、アミノ酸配列上に存在する官能基の改変体が挙げられる。したがって、誘導体は、元の抗体の可変領域および/またはCDRの1つ以上を別の抗体の骨格または同一種か異種のフラグメントにグラフトまたは導入することにより得られたヒト化抗体、ハイブリッド抗体、抗体または他の抗原結合性分子を含むが、これらに限定されない。抗体の誘導体として、合成ポリペプチド等の抗原結合性分子をもたらす抗体の1つ以上のCDRの代替構造物が挙げられる。
【0023】
本明細書において用いられる「ヒト化抗体または抗体フラグメント」との用語は、元の抗体に比べて、ヒト抗体にさらに密接に似るためにアミノ酸が置換された抗体分子またはそのフラグメントをいう。これらの置換の大多数は抗体または抗体フラグメントの骨格中、すなわち、非抗原結合領域中にある。しかし、CDR内で、抗原に対する結合に関与しない、またはほとんど関与しないアミノ酸も置換できることが想定される。
【0024】
本明細書において用いられる「再形成」抗体または抗体フラグメントまたは「ハイブリッド抗体」は、任意に同一種または異種であることができる少なくとも2つの異なる抗体のそれぞれの一部を含む抗体をいう。典型的には、ヒトハイブリッド抗体は、ある抗体のヒト定常領域を(関心の対象である抗原に対する)別の抗体のヒト化可変領域に結合させたものか、またはある抗体の抗原結合領域の一部アミノ酸配列を別の抗体、例えば関心の対象であるヒト抗原に対する非ヒト抗体の一部の配列で置換したヒト抗体骨格でありうる。特に、関心の対象である抗原に対する親和性を有する1つ以上のCDRまたはそれらの可変領域または部分等のある(通常、非ヒト)抗体の抗原結合領域を、別の(通常、ヒト)抗体の骨格に導入する(例えば、CDRグラフト化抗体)。
【0025】
本発明の2つ以上の抗原結合性分子に関連して本明細書において用いられる「相同性」または「相同的」との用語は、抗原結合性分子が同じ抗原、特に同じエピトープに結合する能力をいう。2つの抗原結合性分子が同じエピトープに結合する能力は、それら抗原結合性分子が、例えば競合結合測定法で、同じ抗原に対する結合に関して互いに競合しうるのかどうかを決定することにより評価することができる。相同的な抗原結合性分子同士の抗原に対する結合は類似の特異性を有する。
【0026】
本明細書において用いられる2つの配列の「配列同一性」は、それら2つの配列を並べたときに同一のヌクレオチドまたはアミノ酸を有する位置の数をそれら配列の短い配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の数で割った数に関する。好ましくは、配列同一性は、70%〜80%を超え、好ましくは81〜85%、さらに好ましくは86〜90%、特に好ましくは91〜95%、最も好ましくは96〜100%、さらに具体的には100%である。可変領域の骨格が抗原結合に対して一般的に限定的に寄与することを考慮すると、配列同一性は、本明細書において、相補性決定領域(CDR)内の配列に関して、すなわち、CDRをコードする塩基配列とCDRを構成するアミノ酸配列に関して最も一般的に特定される。したがって、ある配列が「CDR内」の特定の配列にわたって80%の配列同一性を有することが特定された場合、それら2つの配列のCDRを構成する配列のみに関する配列同一性を提供することが意図される。
【0027】
「PlGF」との用語は、本明細書において胎盤成長因子を示すために用いられる。PlGFは、2つのスプライス変異体またはイソ型(すなわち、カルボキシ末端領域中の21アミノ酸挿入物を含む149アミノ酸のPlGF−1および170アミノ酸のPlGF−2)に主に存在することがわかっているが、さらに他のイソ型も発見されている。
【0028】
「阻害」との用語は、PlGFに対する抗体またはそのフラグメントまたは誘導体に言及する場合、抗体、そのフラグメントまたは誘導体がPlGFのそのレセプターFlt−1への結合を阻害することができることを示すために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態によるELISA試験による、ヒトPlGF−2(Pichiaにおいて産生)に対する抗体16D3(A)またはヒト化抗体16D3(hu16D3)(B)の結合。
【図2】本発明の一実施形態によるELISA試験による、抗体16D3(四角形)またはヒト化抗体16D3(三角形)によるPlGF−2のヒトFlt−1レセプターへの結合阻害。
【図3】本発明の一実施形態による試験で抗体16D3およびそのFabフラグメントの阻害可能性を調べるための、rhuPlGF−2がCM5チップに固定化されたBiacore実験の結果。
【図4】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を阻害する。本発明の一実施形態による抗tPA(「コントロールIgG」)(1C8;50mg/体重kg;n=10)、抗hPlGF 16D3(「抗hPlGF」)(50mg/体重kg;n=10)、抗mPlGF(PL5D11D4(WO01/85796に記載のように得られたもの;50mg/体重kg;n=10)、抗hPlGF 16D3と抗mPlGF PL5D11D4との組合せ(「抗hPlGF/抗mPlGF」)(それぞれが25mg/体重kg;n=10)および「ビヒクル」(n=10)による約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの処置。腫瘍接種の18日後の(A)腫瘍サイズ(B)腫瘍重量。
【図5】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を用量依存的に阻害する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/kg=「1000μg」/「C」、37,5mg/kg=「750μg」/「D」、25mg/kg=「500μg」/「E」、12.5mg/kg=「250μg」/「F」;各濃度でn=10)、コントロールIgG(「1C8」/「B」;50mg/kg)および「ビヒクル」/「A」(n=10)による約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの処置。A:腫瘍細胞接種後の平均腫瘍サイズの成長;B:20日目での平均腫瘍サイズ。
【図6】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト乳房MDA−MB異種移植片腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を阻害する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/体重kg;n=10)またはビヒクルによる約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの週3回の処置。(接種の32日後に測定した)A:腫瘍重量およびB:腫瘍容積。
【図7】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト結腸LOVO異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/体重kg;n=10)またはビヒクルによる約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの週3回の処置。(接種の30日後に測定した)A:腫瘍重量およびB:腫瘍容積。
【図8】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト黒色腫Mel2a異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/体重kg;n=10)またはビヒクルによる約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの週3回の処置。接種の53日後に測定した腫瘍重量。
【図9】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルの体重減少を抑制する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/体重kg;n=10)、コントロールIgG、抗hPlGFと抗mPlGFとの組合せ(それぞれ25mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの処置。腫瘍重量は体重減少の比率の計算前に体重から差し引いた。白バー:治療の第1日目の体重;黒バー:治療最終日の体重。
【図10】モノクローナル抗体16D3とAvastinは皮下ヒト膵臓DanGの腫瘍増殖の阻害にさらなる効果をおよぼす。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(37.5mg/kg、25mg/kg、12.5mg/体重kg;各濃度でn=10)、コントロールIgG(1C8;50mg/kg)、Avastin(15mg/kgおよび5mg/体重kg、週2回の腹腔内、各濃度でn=10)および抗hPlGF(12.5mg/体重kg)とAvastin(5mg/体重kg;n=10)との組合せによる約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの処置。腫瘍接種の20日後にマウスを屠殺し、腫瘍容積を測定した。
【図11】本発明の一実施形態によるマウス抗体16D3の可変部分の塩基配列およびアミノ酸配列。A.重鎖の可変部分をコードする塩基配列;B.軽鎖の可変部分をコードする塩基配列;C.重鎖の可変部分のアミノ酸配列;D.軽鎖の可変部分のアミノ酸配列。本発明の一実施形態によるヒト化の目的のために修飾することのできるヌクレオチドおよびアミノ酸に下線を付す。
【図12】本発明の一実施形態による16D3のヒト化可変部分の塩基配列およびアミノ酸配列。A.重鎖のヒト化可変部分をコードする塩基配列;B.軽鎖のヒト化可変部分をコードする塩基配列;C.重鎖のヒト化可変部分のアミノ酸配列;D.軽鎖のヒト化可変部分のアミノ酸配列。ヒト化の目的のために修飾されるヌクレオチドおよびアミノ酸に下線を付す。
【図13】293細胞でのヒト化16D3 scFvの発現用ベクターの図。
【図14】A:scFv16D3およびヒト化scFv16D3のPlGFへの結合;B:scFv16D3およびヒト化scFv16D3によるhuPlGF−2のそのレセプターhuFlt−1への結合の阻害(B)。
【図15】A:マウス抗体16D3のscFvのアミノ酸配列;B:抗体16D3のヒト化scFvのアミノ酸配列。重鎖および軽鎖の可変領域以外の領域に下線を付す。
【図16】本発明の一実施形態による293細胞でのヒト化16D3 Fab発現用ベクターの図。
【図17】A:本発明の一実施形態によるELISA試験によるヒト化Fab 16D3のhuPLGFへの結合;B:ヒト化Fab 16D3によるhuPlGF−2のそのレセプターhuFlt−1への結合の阻害。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
以下、本発明を一定の実施形態と一定の図面を参照して説明するが、本発明はそれらに限定されず、請求の範囲のみにより限定される。
【0031】
本発明は、本明細書において抗体16D3と称する抗体と同一のPlGFエピトープに結合する抗原結合性分子、特にモノクローナル抗体、そのフラグメントまたは誘導体に関する。細胞株LMBP 6399CBにより産生される「抗体16D3」はヒト由来のPlGFに対して産生され、ヒトPlGF(イソ型PlGF−1とPlGF−2の両方)に結合する。抗体16D3はヒトPlGFのそのレセプターflt−1への結合を阻害して、PlGF活性を阻害する。よって、16D3抗体それ自体およびそのフラグメントまたは誘導体、ならびに該抗体、フラグメントまたは誘導体をコードする塩基配列は、治療の場面と、試験またはスクリーニングの目的のための動物モデルとの両方でPlGFの阻害に用いることができる。もしくは、抗体はインビボ、エキソビボまたはインビトロでPlGFの検出および/または定量に用いることができる。よって、本発明は、本発明の抗原結合性分子とそれらをコードする塩基配列のさまざまな適用を提供する。本発明は、さらに、本発明の抗原結合性分子を産生する方法、およびこれらの抗原結合性分子を産生することのできる細胞株に関する。
【0032】
本発明の第1の態様は本発明の抗原結合性分子を産生する細胞株、特に16D3またはそのフラグメントまたは誘導体と同じ抗原と結合することのできるモノクローナル抗体を産生する細胞株に関する。本発明のこの態様の特定の実施形態は、モノクローナル抗体16D3を産生し、かつThromb−Xにより、2005年3月29日に寄託番号LMBP 6399CBとしてBCCM/LMBP(Belgian Co−ordinated Collections of Microorganisms/Plasmid Collection Laboratorium voor Moleculaire Biologie,University of Ghent K.L.Ledeganckstraat 35,B−9000 Ghent、ベルギー)に寄託された「細胞株16D3」とも称されるハイブリドーマ細胞株である。さらに、本発明はモノクローナル抗体16D3に由来するモノクローナル抗体を産生する細胞株を提供する。そのような細胞株は、モノクローナル抗体16D3をコードする配列、最も特には16D3の非抗原結合領域をコードするコード配列を修飾することにより得ることができる。行なうべき修飾の性質を決定する方法および適切な修飾の例を本書に記載する。
【0033】
本発明の第2の態様は、抗体16D3と同じ抗原に結合することのできる抗原結合性分子に関する。特に、本発明は上記の細胞株16D3により産生される16D3と名付けられた抗体、およびPlGFに結合し、PlGF活性を阻害することのできるその相同体、フラグメントおよび誘導体に関する。
【0034】
したがって、本発明の特定の実施形態は、細胞株LMBP 6399CBにより産生される抗ヒトPlGF抗体であるモノクローナル抗体16D3およびこの抗体のフラグメントを提供する。モノクローナル抗体16D3は、配列番号2と配列番号4にそれぞれ開示されるその重鎖と軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を特徴とする。
【0035】
特定の実施形態によれば、本発明は、抗体16D3のフラグメント、特に抗原結合性フラグメントに関する。そのようなフラグメントとして、Fab、Fab’、F(ab’)2、CDR、該抗体またはそのCDRの一部の配列を有するペプチド、単一可変ドメインおよびこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。Fab、Fab’およびF(ab’)2フラグメントは、Stanworth等(Handbook of Experimental Immunology(1978年)、Vol.1、第8章(Blackwell Scientific Publications))によって記載されたような当分野で周知の方法を用いたモノクローナル抗体のタンパク質分解により作ることができる。抗原に結合する能力を保持するそのようなフラグメントは、補体活性化またはFcガンマレセプターに結合する能力等の親抗体の多くの性質を失っている。より具体的には、本発明は、配列番号2および配列番号4のそれぞれに対応する16D3の重鎖および軽鎖の可変領域を含むフラグメントを提供する。本発明のさらなる特定の実施形態は、16D3の相補性決定領域(CDR)を含むフラグメントおよびその誘導体に関する。CDRを同定する2つの最も一般的に追随される方法はIMGTとKABATであり、16D3のいずれかのタイプのCDRの2つ以上を含むフラグメントならびにこれらのフラグメントまたはCDRを含む16D3の誘導体が本発明に関して想定される。CDRのIMGT同定によれば、16D3の可変領域内のCDR領域は配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)に対応する。よって、本発明は、配列番号17〜配列番号22に提供される16D3の1つ以上のCDRを含む抗体16D3のフラグメントを提供する。
【0036】
本発明のさらなる具体的な実施形態は、16D3の可溶性または膜固定の単鎖可変部分である16D3のフラグメントを提供する。単鎖可変フラグメント(scFv)は、通常は、免疫グロブリンの可変の重鎖(VH)および軽鎖(VL)またはそれらの一部を柔軟なペプチドリンカーによってつなぎ合わせた遺伝子的に設計された抗体フラグメントである。任意に、scFvは、対象となる抗体のCDR領域と別の抗体のフレームワーク領域とを含む。scFvフレームワークおよび/またはCDR領域のアミノ酸配列は、ヒト用医薬として使用するために任意にヒト化されて抗原性を低減する。本発明は、16D3のscFvおよび配列番号24と配列番号26をそれぞれ含むそのヒト化scFvを提供する。抗体の単鎖可変部分を得る方法は当業者に知られており、本書の実施例6に記載されている。例えば、この方法は、別々の反応におけるヒト重鎖および軽鎖の可変部分のDNA配列の増幅およびクローニングと、その後の15アミノ酸リンカー配列の挿入、例えば2工程ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による(Gly4Ser)3のVHとVLとの間への挿入を含み得る(例えば、Dieffenbach and Dveksler,“PCR Primer,a laboratory manual”(1995),Cold Spring Harbour Press,Plainview,NY,USAを参照)。得られたフラグメントは、次に、単鎖可変フラグメントを可溶性またはファージ提示ポリペプチドとして発現するために適切なベクターに挿入することができる。これは、当業者に周知の方法、例えばGilliland等(Tissue Antigens(1996)47:1−20)に記載された方法により達成することができる。
【0037】
本発明は、抗体16D3の超可変領域を代表とする抗原結合ペプチドまたはそれらの組合せである16D3のフラグメントも提供する。そのようなペプチドは、applied biosystem合成機、例えばMilligen(USA)から入手可能なモデル9050や関連技術からのモデル等のポリペプチド合成機を用いた合成により得ることができる。
【0038】
本発明のさらなる実施形態は、抗体16D3の誘導体またはそれらのフラグメントに関する。特に、本発明は、配列番号2と配列番号4にそれぞれ開示された可変重鎖領域および/または可変軽鎖領域を含むが、そのうち定常領域が16D3とは異なる抗体に関する。さらに、またはその代わりとして、本発明の抗体16D3の誘導体は配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)に示される16D3の少なくとも2つのCDRを含む一方で、CDRおよび/または定常領域間のフレームワーク領域は異なる。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、配列番号2と配列番号4にそれぞれ提供された16D3の重鎖および軽鎖の可変領域に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する抗体16D3の誘導体またはそれらのフラグメントが提供される。最も特には、本発明は、CDR領域内で配列番号2および配列番号4のそれぞれに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域および/または軽鎖領域を含む抗体16D3の誘導体またはそれらのフラグメントを提供する。フレームワーク内の配列同一性は、80%未満でありうるが、これに限定されるものではない。配列番号17〜配列番号22の配列に対してそれぞれ少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つのCDRを含む誘導体も想定される。
【0040】
さらなる実施形態において、本発明は、最も特にはCDR領域内において、配列番号24に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列、および配列番号26に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む16D3のscFvの誘導体を提供する。
【0041】
別の実施形態にしたがえば、本発明は、ヒト化された16D3の誘導体またはそれらのフラグメントを提供する。16D3のそのようなヒト化誘導体は、それらがPlGFに対する結合親和性を保持する点において相同的である。特定の実施形態によれば、16D3のヒト化誘導体もPlGF活性を阻害する能力を保持する。非ヒト抗体のヒト化は、ヒト抗体の骨格にさらによく似るように、抗体の骨格の1つ以上のアミノ酸、すなわち、抗体の抗原への結合に関わらないアミノ酸を置換することにより達成される。さまざまなタイプまたはレベルのヒト化が想定される。本発明の特定の実施形態は、非ヒト抗体またはフラグメントの全領域、特には定常領域が、キメラ(例えばヒト/マウス)抗体またはフラグメントをもたらすようにヒト抗体の定常領域により置換された抗体またはフラグメントに関する。さらに特定の実施形態は、PlGFに対する非ヒト抗体の抗原結合アミノ酸(例えば、2つ以上のCDR)がヒト抗体の骨格に導入された抗体(例えば、CDRグラフト化抗体)である。非ヒトモノクローナル抗体の結合相補性決定領域(「CDR」)をヒトフレームワーク領域(特に、ヒト遺伝子の定常C領域)に結合させる方法は、例えば、Jones等(Nature(1986)321:522)またはRiechmann(Nature(1988)332:323)により開示されているように当業者に公知である。もしくは、本発明の非ヒト抗PlGF抗体のさらに限られた数のアミノ酸の置換も想定される。本発明の特定の実施形態は、図9のヒト化可変重鎖および/または軽鎖領域またはそれらの一部を含む抗体および配列番号17〜配列番号22の少なくとも2つ、さらに特には3〜5つ、最も特には6つすべてのCDRを含む抗体に関する。本発明のさらなる実施形態は、配列番号6および配列番号8のそれぞれに少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する可変の重鎖および/または軽鎖領域を含むヒト化抗体に関する。もしくは、本発明は配列番号17〜22のそれぞれに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つ、さらに特には3〜5つ、最も特には6つすべてのCDRを含むヒト化抗体を提供する。
【0042】
したがって、本発明はマウス抗体16D3に由来するヒト化および/またはキメラまたはハイブリッド抗体に関する。特定の実施形態において、マウス抗体16D3の特定のアミノ酸は、免疫原性アミノ酸を除くために変異させられる。したがって、特定の実施形態において、本発明は、アミノ酸配列:I2V、P9A、K40Aおよび/またはT111Lの1つ以上が変化した配列番号2による重鎖可変部分のアミノ酸配列を含む抗原結合性分子に関する。さらに、または代わりに、抗体16D3に由来するヒト化抗体は、S5T、S9D、A15L、Kl8R、R22Nおよび/またはL89Vアミノ酸の1つ以上が変化した配列番号4による軽鎖可変部分のアミノ酸配列を含む抗原結合性分子である。よって、特定の実施形態によれば、本発明は、アミノ酸配列:I2V、P9A、K40Aおよび/またはT111Lの1つ以上が変化した配列番号2による重鎖可変部分のアミノ酸配列と、アミノ酸配列:S5T、S9D、A15L、K18R、R22Nおよび/またはL89Vの1つ以上が変化した配列番号4の軽鎖可変部分のアミノ酸配列とを含む抗原結合性分子を提供する。
【0043】
別の実施形態において、本抗体はマウス抗体16D3の(ヒト化)可変軽鎖および/または重鎖がヒト免疫グロブリンフレームにグラフトしているか、またはヒト抗体の定常領域、特にヒトIgG定常領域に結合している点でさらにヒト化されている。この点で特に適するのは、体内でナチュラルキラー細胞を活性化することのできるIgG1κ(IgG1−カッパ)である。よって、特定の実施形態において、本発明はハイブリッドHu16D3−IgG1κに関する。本発明の別の実施形態は、ハイブリッドHu16D3−IgG4κハイブリッドである。ヒトIgG抗体(およびヒトIgG骨格および/または定常領域を用いて得られたハイブリッド抗体も)は長期の半減期を示すので、非常に安定的な血漿レベルを提供し、投与頻度の大幅な低減を可能とする。さらに、ヒト化抗体または誘導体の使用は免疫応答を引き起こす危険性が最小である。
【0044】
本発明のさらなる実施形態は、抗体16D3またはそのフラグメントに相同的な抗原結合性分子、すなわち、抗体16D3と同じエピトープに結合する抗原結合性分子に関する。一実施形態において、相同的抗原結合性分子は、動物、特にマウスでの故意の免疫化により、例えば、PlGFをマウスに注射し、次に脾臓リンパ球をマウスミエローマ細胞系に融合した後に、(例えば、PlGFへの結合に関するスクリーニングにより)抗PlGF抗体を産生する細胞培養物を同定し、それらをクローニングすることにより産生される。抗体の任意のさらなる選択は16D3エピトープに対する反応性、または抗体16D3またはそのフラグメントとの競合に基づいて実施される。
【0045】
よって、本発明のさらに別の態様は本発明の抗原結合性分子を作る方法に関する。これらの方法として、本明細書の実施例の部分で提供される抗体16D3に対するヒト化の方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0046】
本発明のさらに別の態様は、本発明の抗原結合性分子、最も特にはその抗原結合領域をコードする塩基配列の提供に関する。本発明の特定の実施形態は、抗体16D3の重鎖および軽鎖領域をコードする細胞株16D3の配列に対応する配列番号1および配列番号3の塩基配列等の、しかし、これらに限定されない配列番号2および配列番号4により規定される可変重鎖領域および軽鎖可変領域をコードする塩基配列に関する。さらに本発明に関して、配列番号17〜22で同定されるモノクローナル抗体16D3の1つ以上のCDR領域をコードする塩基配列が提供される。本発明の特定の実施形態として、配列番号23と配列番号25等の、しかし、これらに限定されない16D3のscFvとヒト化scFvをそれぞれコードする配列が挙げられる。本発明は、本書に記載の16D3の誘導体およびそれらのフラグメントをコードする塩基配列も提供する。さらに、本発明は、実施例の部分に記載されるプライマー等の、しかし、これらに限定されない、上記塩基配列に特異的にハイブリダイズできるプローブおよびプライマーを提供する。
【0047】
また、本発明は、本明細書に記載のモノクローナル抗体、それらのフラグメントまたは誘導体をコードする配列に相補的な塩基配列を含む。
【0048】
本発明のさらなる態様は本発明の抗原結合性分子の治療的応用に関する。したがって、本発明は本発明の抗原結合性分子の医薬としての使用を提供する。この点において、本発明は、血管新生が病気または疾患の病理に寄与する病気または疾患の予防または治療のために、本発明の1つ以上の抗原結合性分子を含む医薬組成物を提供する。したがって、血管新生が病気または疾患の病理に寄与する病気の治療および/または予防の方法において、そのような治療または予防を必要とする哺乳類に、本書に記載の1つ以上の抗原結合性分子を含む治療有効量の組成物を投与することからなる方法である。
【0049】
そのような病気において、血管新生は「病的血管新生」とも称される。そのような病的血管新生の実例として、血管の病態(アテローム動脈硬化、血管腫、血管内皮腫)、骨関節の病態(関節リウマチ、滑膜炎、骨と軟骨の破壊、骨髄炎、パンヌス増殖、骨棘形成、新生物および転移)、皮膚の病態(いぼ、化膿性肉芽腫、発毛、カポジ肉腫、瘢痕ケロイド、アレルギー性浮腫、新生物)、肝臓、腎臓、肺、耳および他の上皮の病態(肝炎、糸球体腎炎、肺炎、喘息、鼻ポリープ、耳炎等の炎症および感染プロセスおよびこれらの器官における移植、再生、新生物および転移)、子宮、卵巣および胎盤の一定の病態(機能不全性子宮出血、例えば、子宮内避妊器具、卵胞嚢胞形成、卵巣過刺激症候群、子宮内膜症、新生物によるもの)、脳または神経の病態(新生物および転移)、一定の心臓と骨格筋の苦痛(例えば、作業過負荷によるもの)、脂肪組織の病的状態(肥満)および内分泌器官(甲状腺炎、甲状腺腫脹、膵臓移植)において観察される血管新生が挙げられる。さらに、病的血管新生は血液生成の病気(エイズ、カポジ)、血液悪性腫瘍(白血病等)にも寄与しうる。
【0050】
多くの目の病気において、病的血管新生は重要な因子であると考えられているので、本発明の抗原結合性分子による治療が想定される。「網膜虚血性疾患」においては、網膜による血液と酸素の供給が減少し、網膜の末梢部がそれらの栄養源を失い、適切に機能することを止める。網膜症の一般的原因は、網膜中心静脈閉塞症、頸動脈の狭窄、糖尿病(糖尿病性網膜症)および貧血(鎌状赤血球網膜症)である。網膜症は早産児にも観察される(未熟児網膜症)。糖尿病性網膜症は糖尿病患者の視力喪失の主要な原因である。虚血性網膜では、新しい血管の増殖が起こる(新血管形成)。これらの血管は、網膜の表面、視神経、または虹彩上の目の前面でしばしば成長する。これらの新しい血管は必要な栄養の流れを交換することができず、その代わりに、硝子体出血、網膜剥離および調節されない緑内障等の多くの問題を引き起こしうる。これらの問題は、新しい血管は壊れやすく、出血する傾向があるために生じる。その初期段階で発見されれば、増殖性糖尿病性網膜症の進行は汎網膜光凝固により時には止めることができる。しかし、硝子体切除術が唯一の選択肢である場合もある。血管新生が重要な役割を果たしていると思われる他の目の病気は、脈絡叢および他の眼球内疾患、白質軟化症および新生物と転移である。脈絡膜血管新生は、脈絡膜から始まる新しい血管のブルッフ膜の破壊を経た網膜下色素上皮(sub−RPE)または網膜下腔への増殖である。CNVの位置、成長パターンおよびタイプ(1または2)は患者の年齢や基礎疾患に依存する。出血と浸出はさらなる増殖とともに起こり、視覚症状の主な原因となる。脈絡膜血管新生(CNV)は、視力喪失の主要な原因である。CNVは近視者の5〜10%に起こると推定され、治癒期中に事実上すべての脈絡膜破裂において起こる。ほとんどが自発的に退行するが、患者の15〜30%で、CNVは再発し、視力喪失を伴う出血性または漿液黄斑性剥離に至る。
【0051】
「肺性高血圧」との用語は、肺動脈の血圧が異常に高い疾患をいう。心臓または肺の他の病気が存在しない場合、それは原発性肺高血圧と呼ばれる。肺動脈の散在性狭小化は、病的動脈新生とその後の血液流に対する抵抗性の高まりの応答としての肺性高血圧の結果として起こる。その発症は100,000人あたり8人で起こる。しかし、肺性高血圧は、さらに、気腫、慢性気管支炎またはびまん性間質性線維症等の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併症として、喘息形COPDを有する患者において起こりうる。COPDの発症は10,000人あたり約5人で起こる。
【0052】
血管新生が病気の病理に寄与する疾患で、本発明の抗原結合性分子による治療が想定される疾患のさらなる実例は炎症疾患群である。本明細書において用いられる「炎症」は、生体組織の傷害に対する局所的な制御されない反応(すなわち、身体的、化学的または感染の結果としての反応)、特に小血管の局所反応、それらの内容物およびそれらの関連構造の局所反応を意味する。血液成分の血管壁を経た組織への通過は炎症の特徴であり、そのように形成された組織収集物は浸出物または浮腫と呼ばれる。細菌感染、過度の熱、寒さ、押し潰し等の機械的傷害、酸、アルカリ、照射またはウイルス感染等の、しかし、これらに限定されない生体組織を損傷するいかなる有害なプロセスも、関与する器官または組織には関係なく炎症を引き起こしうる。そのような「炎症性疾患」として、火傷から肺炎、ハンセン病、肺結核および関節リウマチまでにわたる反応が挙げられる。
【0053】
術後癒着形成(POA)は婦人科手術、骨盤手術および心臓病学的手術でよくある外科合併症である。組織への外科手術による外傷は、損傷した組織を別の器官に結合させる永久的な瘢痕形成をしばしば引き起こす。よって、そのような損傷の部位において、普通は別々であり続ける内部組織がしばしば結合される。癒着形成から生じる合併症は、腸閉塞、小腸閉塞、慢性的な骨盤痛および婦人の不妊である。「癒着形成」との用語はその医学的意味において、2つの表面または部分を癒着または一体化するプロセスである膠着反応をいう。例えば、傷の相対する表面または腹膜の相対する表面の一体化をいう。また複数形の癒着(adhesions)は相対する漿膜面を結合させる炎症性のバンドをいうことができる。本書で用いられる癒着との用語は、血漿またはリンパの浸出物または血液の血管外遊出から生じるフィブリンの細い糸からなる癒着である線維素性癒着も含む。損傷の領域に生じる、または自然に生じることのある線維芽組織の滑らかな過成長であるケロイドも癒着の一形態である。胎盤成長因子(PlGF)の阻害は術後癒着形成の著しい抑制を導くことが示された(WO03063904)。
【0054】
さらに、骨粗鬆症等の、しかし、これに限定されない骨吸収を特徴とする病気はPlGFの阻害から利益を受けうることが示されている(WO2004002524)。
【0055】
したがって、特定の実施形態によれば、本発明の抗原結合性分子は、腫瘍成長と転移、目の病気、炎症、癒着形成および肺性高血圧の治療および/または予防に特に適する。
【0056】
本発明のさらなる特定の実施形態は、胸、肺、前立腺、脳、肝臓、膵臓、結腸、腎臓、子宮または骨髄の癌等の、しかし、これらに限定されない癌の予防および/または治療のための本発明の抗原結合性分子の使用に関する。特に、本発明は、大腸癌、乳癌、膵臓癌および黒色腫等の、しかし、これらに限定されない固形腫瘍の予防および/または治療のための本発明の抗原結合性分子の使用に関する。さらに詳細には、本発明の抗体がヒト膵臓腫瘍の退行を得るために特に適することを示すデータが本書に提供される。本発明の抗体はインビボで腫瘍の大きさを顕著に減少させることが示され、それにより約50%までの大きさの減少が示される。このように、本発明は腫瘍の大きさを少なくとも20%、さらに特には少なくとも30%、最も特には少なくとも50%減少させる方法および医薬組成物を提供する。
【0057】
本発明のさらなる特定の実施形態は、骨疾患の治療または予防において、より具体的には例えば骨粗鬆症または骨軟化症等の増強骨吸収が存在する状態の治療のための本発明の抗原結合性分子の使用に関する。
【0058】
したがって、本発明は上記病気の治療用医薬の製造のための本発明の抗原結合性分子の使用に関する。
【0059】
本発明の重要な態様として、抗体、それらのフラグメントおよび誘導体が、他の抗血管新生治療、より詳細にはVEGF等の血管新生因子を標的とする別の治療に帰せられる副作用またはそれらの治療で予測される副作用なしに上記病気の治療および/または予防を可能とすることが挙げられる。組換えヒト抗VEGF抗体による前臨床の安全性試験は、VEGFの阻害が生理学的血管新生の阻害、より具体的には長期的な骨成長および黄体形成における新血管新生阻害をもたらすことを早くも1999年に示した(Ryan et al.,1999)Toxicologic pathology 27(l):78−86)。最近の研究は、VEGF阻害剤が、健康な気管と甲状腺の血管の退縮を引き起こすし、それによって臓器障害がもたらされることもあることを記載している(Baffert et al,2004,Circ Res 94:984−992;Inai et al.,2004 Am J Pathol 165:35−52)。それにもかかわらず、抗ヒトVEGF抗体であるベバシズマブは、創傷治癒、血圧および血栓症の危険性に対するその観察される効果にもかかわらず、腫瘍縮退に対するこの抗血管新生アプローチの全体的有効性のために、血管新生の抑制因子として現在販売されている。本発明の抗PlGF抗体および誘導体は、血圧、創傷治癒、血栓症の危険性、および健康な器官での血管退縮に対するこれらの観察された副作用なしに、望まれない血管新生の阻害を可能とする。
【0060】
本発明の特定の実施形態は、有効成分として、モノクローナル抗体16D3またはそのフラグメントまたは誘導体を医薬的に許容される担体と混合して含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は治療有効量の1つ以上の抗原結合性分子を含む。同様に、本発明は、本発明の治療有効量の1つ以上の抗原結合性分子を投与することからなる治療および/または予防の方法を提供する。
【0061】
本明細書において用いられる治療有効量は、治療される哺乳動物の体重1キログラムあたり(mg/kg)約0.5mgから約50mg/kg、より好ましくは約1mg/kg〜約10mg/kgの範囲内にある量を意味する。ほとんどのIgGヒト抗体の長い半減時間を鑑みれば、このクラスのモノクローナル抗体である本発明の抗原結合性分子は、患者の快適さに関わる治療の周期性に恵まれていることが理解される。
【0062】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の抗原結合性分子および別の血管新生阻害剤を含む医薬組成物、ならびに本発明の抗原結合性分子および別の血管新生阻害剤の同時または連続投与を提供する治療方法が提供される。実際、本発明は、本発明の抗原結合性分子と、抗VEGF抗体等の別の血管新生阻害剤との腫瘍成長の阻害に対する相加作用を示す。さらに具体的には、本発明の16D3抗体とAvastin(登録商標)の併用は腫瘍の大きさを約70%まで低減することができるが、Avastin(登録商標)のみまたは抗PlGF抗体のいずれかの増加投与量は同じ条件で55%を超える腫瘍の大きさの減少には達しないことが示されている。適切な他の抗血管新生産物、ならびにそれらが属するクラスに依存するそれらの通常の投与量は当業者によく知られている。血管新生阻害剤の例として、Avastin(登録商標)の名前で商品化されたVEGFに対する抗体等、VEGFに直接作用するか、またはVEGFレセプターに作用するVEGF阻害剤が挙げられる。本発明の抗体は、上記のように多くの副作用を引き起こすことが知られている例えばVEGFを阻害する血管新生阻害剤の投与量を減少させることができる。
【0063】
本発明の医薬組成物は、治療される病気に対して有効な他の化合物/医薬、さらに具体的には腫瘍増殖、炎症、目の病気および肺性高血圧の治療に有用な他の化合物/医薬の治療有効量をさらに含んでよい。
【0064】
本発明の医薬組成物に使用される適切な医薬担体は例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences、第16版(1980年)に記載されており、それらの処方は当業者によく知られている。それら担体として、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤(例えば、フェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(例えば、糖または塩化ナトリウム)等が挙げられる。組成物中のモノクローナル抗体有効成分の作用持続時間を制御するために、さらなる成分を含めてもよい。したがって、制御放出組成物は、例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、硫酸プロタミン等の適切なポリマー担体を選択することにより、得ることができる。医薬の放出速度と作用の持続時間はモノクローナル抗体有効成分を、ハイドロゲル、ポリ乳酸、ヒドロキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸メチルおよび他の上記ポリマー等の重合物質の粒子、例えば、マイクロカプセルに導入することで制御してもよい。そのような方法は、リポソーム、微粒子、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、ナノカプセルのようなコロイド薬送達システムを含む。投与経路に依存して、有効成分を含む医薬組成物は保護被膜を必要とすることがある。注射可能な使用に適する医薬形として、滅菌水溶液または分散液およびそれらの即時調製用の滅菌粉末が挙げられる。そのための典型的な担体として、生体適合性水性緩衝液、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0065】
本発明の抗原結合性分子は当分野でよく知られた手段、すなわち、経口、鼻腔内、皮下、筋肉内、皮内、静脈内、動脈内、非経口で、またはカテーテル法により患者に提供することができる。
【0066】
本発明の特定の態様にしたがえば、本発明の抗原結合性分子は遺伝子治療により投与される。抗体に基づいた遺伝子治療によって、大量生産、体内分布、迅速な血中クリアランスおよび一価抗体の乏しい保持等、抗体の投与に関連した多くの潜在的な制限を克服することが可能となる。インビボ生産は抗体の免疫原性を低下させ、抗体の耐容性を良好とし、抗原結合性分子またはそれらのフラグメントの効果的で持続的なレベルをもたらす。さらに、遺伝学的アプローチは抗原結合性分子に対する新しい機能の提供を可能とする。さまざまな細胞/組織によるモノクローナル抗体のインビボ生産と全身送達の実現可能性がウイルスベクターによるインビボ遺伝子移入を用いて示された(Pelegrin et
al.,2004,Gene Ther 4:347−356)。抗血管形成活性を有する抗ラミニン抗体による線維肉腫細胞の遺伝子組み換えにより、インビトロおよびインビボでの腫瘍増殖の減少も示されている(Sanz et al.2001,Cancer Immunol Immunother 50:557−565)。
【0067】
したがって、本実施形態によれば、本発明は、本明細書に記載の病的血管新生を特徴とする病気の治療において、遺伝子治療に使用される本発明の抗原結合性分子をコードするヌクレオチドを提供する。特に、本発明は、遺伝子治療に使用される配列番号2により規定される可変重鎖領域をコードする塩基配列および/または配列番号4により規定される軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含む組成物を提供する。さらに具体的には、本発明は、抗体16D3の重鎖および軽鎖領域をコードする細胞株16D3の配列に対応する配列番号1および/または配列番号3の塩基配列を含む組成物を提供する。本発明に関して、配列番号17〜22に同定されたモノクローナル抗体16D3の1つ以上のCDR領域をコードする塩基配列を含む組成物も提供される。本発明の特定の実施形態は、配列番号23および配列番号25等の、しかし、これらに限定されない16D3のscFvおよびヒト化scFvをそれぞれコードする配列を包含する。
【0068】
本発明による治療および/または予防の方法は、医薬組成物の表題で以上に開示された治療有効量の血管新生阻害剤または抗腫瘍剤を患者に投与することにより、好ましくは連続的に投与することにより、上記の病的血管新生状態の治療または予防をさらに含むことができる。本明細書において用いられる連続的とは、本発明のリガンドと公知の血管新生阻害剤とを患者に同時ではなく、連続的に投与することを意味する。
【0069】
本発明のさらに別の態様は、ヒト試料中のPlGFの免疫学的検出のため、およびそのような検出に適するキットの成分としての本発明の抗原結合性分子の使用に関する。抗原の免疫学的検出法は当分野で公知であり、EIA、ELISAやRIAおよび免疫組織化学法が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のマウス抗体のPlGF抗原への結合は間接的に、例えば、標識抗マウス抗体により検出することができる。もしくは、抗体またはそのフラグメントは直接標識することができる。本発明のこの態様の特定の実施形態は、抗PlGFによる治療に感受性のある患者の同定におけるPlGFに対する抗体およびその抗原結合性フラグメントの使用に関する。これは癌の治療に特に重要である。
【0070】
本発明のさらに別の態様は、本発明の抗原結合性分子の診断ツールとしての使用に関する。多くの病的状態において、PlGF発現はアップレギュレートされることが当分野で示されている。さらに具体的には、多くの腫瘍がPlGFを過剰発現することが示されている。本発明のヒト化抗体または抗体フラグメントは、例えば本発明の抗体または抗原結合性フラグメントが標識され、インビボで可視化されるイメージング技術により、これらの病的状態の診断に用いることができる。本発明の抗原結合性分子の結合をインビボで画像化するための多様な標識が当分野で知られており、それぞれが特定の(照射および)検出装置を必要とする光学的(例えば蛍光)標識、金属標識および磁気標識が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のこの態様の特定の実施形態は、病気の予後を予測し、治療計画を決定する際の本発明の抗体の使用に関する。
【0071】
本発明のさらに別の態様は、抗PlGF治療に併用される化合物のスクリーニングでの動物モデルにおける本発明の抗原結合性分子の使用に関する。そのようなモデルとして、nu/nuマウスでのヒト腫瘍の増殖と発達が研究される腫瘍モデルが挙げられるが、これに限定されない。試験化合物と本発明の抗体またはフラグメントとの併用投与は、その化合物が本発明の抗体もしくはフラグメントのみを投与した際に観察された効果に対して相加効果を有するかどうかを同定することを可能とする。抗PlGF抗体と組み合わされた化合物の対抗有効性または毒素等の他の側面もまたこのようにして決定できる。
【0072】
上記の治療的応用以外に、上記の本発明の塩基配列は、例えば組換え法により抗体および他の抗原結合性フラグメントの生産に有用である。したがって、本発明は、抗体遺伝子のクローニングと操作、scFvや本明細書に記載する塩基配列を用いた他の抗原結合性フラグメントの生産を含む、組換え抗体および抗体フラグメントの生産方法をさらに提供する。これらの方法の手順書は当分野で入手可能である。さらに、本発明の抗体および抗体フラグメントの発現についてスクリーニングするために、本発明の塩基配列に特異的にハイブリダイズするプローブを用いることができる。
【0073】
例示目的のためのみに提供される下記の実施例によって本発明をさらに説明する。
実施例
【実施例1】
【0074】
マウス抗ヒトPlGF抗体(16D3)の産生と特性づけ
1.マウスの免疫付与と融合
ヒトPlGFに対するモノクローナル抗体は基本的にはGalfreおよびMilstein(Galfre F,Milstein C. Preparation of monoclonal antibodies:strategies and procedures. Method Enzymol 1981;73:3−46)に記載されたように作った。手短に説明すれば、PlGFノックアウトマウス(Luttun et al.,2002,Biochem Biophys Res Comm 295(2):428−34,Carmeliet et al.(2001),Nat Med 7:575−593またはWO01/85796)を、フロイント完全アジュバント中の50μgの組換えヒトPlGF−2(Pichiaにおいて産生)の皮下注射と、それから2週間後のフロイント非完全アジュバント中の50μgの組換えヒトPlGFの皮下注射により免疫付与した。血液試料(約100μl)を10日後にマウスの尾から集めた。血清は、ヒトPlGFをキャプチャとして被覆したマイクロタイタープレート、希釈血清の適用(1/500〜1/8000)および標識用に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合化ヤギ抗マウスIgGを用いるELISAにより抗huPlGF抗体について調べた。
【0075】
少なくとも6週間の間隔の後に、(高い陽性反応を有する)マウスに対して細胞融合の4日前と2日前に塩水中の50μgの組換えヒトPlGFを腹腔内に追加免疫を行なった。
【0076】
脾臓細胞を単離し、Sp2/0−Ag14骨髄腫細胞に融合した。ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン培地中での選択後、培養上清を上記のようにELISAに適用することによって陽性クローンを選択した。
2.ProSep vA Ultraによる抗体の精製
ProSep vA Ultra(Millipore)を用いるアフィニティクロマトグラフィによって、製造者の手順書にしたがって抗体を細胞培養物から精製した。手短に説明すれば、150mMのNaClを上清に加え、PBSで前もって平衡化しておいたProSep vA Ultraカラムに上清を加えた。カラムはPBSで洗浄し、結合タンパク質を0.1Mグリシン(pH2.8)で溶出した。溶出タンパク質はPBSに対して透析した。溶出タンパク質の純度は還元および非還元状態下でSDS−PAGEにより確認した。
3.(実施例2に記載したように得た)16D3/hu16D3のPlGFに対する結合(図1を参照)
ELISAプレートを、PBS中の1μg/mlのhuPlGF−2(Pichia)により100μL/ウエルにて4℃で被覆した。1%BSAによる1時間、室温でのブロッキング後、16D3/hu16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、抗体を1時間室温で結合させた。結合した16D3をヤギ抗ヒトまたはヤギ抗マウスIgG−HRP(Sigma)により100μL/ウエルにて、1時間、室温で検出した。アッセイはOPDにより開発された。
4.huFlt−1レセプターに対するPlGF結合の阻害(図2を参照)
ELISAプレートを、1μg/mlのhuFlt−1(R&D Systems)により200μL/ウエルにて4℃で被覆した。1%BSAによる1時間、室温でのブロッキング後、16D3/hu16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、さらに100μL/ウエルのhuPlGF−2を加えた。室温での2時間のインキュベーション後、結合したPlGFをヤギ抗huPlGF(R&D Systems)により180μL/ウエルにて、1時間、室温で検出した後に、RAG−HRP(DAKO)とともに1時間、室温でインキュベートした。アッセイはOPDにより展開された。
5.Biacore実験による16D3およびFab 16D3のさらなる特徴づけ
・阻害:rhuPlGF−2(Pichia,TX)を、EDC/NHS化学(アミンカップリングキット、Biacore)を用いてCM5チップに固定化して、412RUを得た。16D3を注射した後、rhuFlt−1/Fcキメラ(R&D Systems)を注射した。この操作を、マウス抗体の代わりに緩衝液を用いても実施した。これらはネガティブコントロール流路にわたっても注入し、これらの値は既に差し引いた。このアッセイはリン酸緩衝液(pH9.6)で実施した。
【0077】
rhuFlt−1のrhuPlGF−2への最大結合に比較して、rhuFlt−1のシグナルは最初の16D3または16D3Fabが注射されている場合に減少する(図3)。
6.16D3のマウス可変領域のクローニングと配列決定
・mRNAの単離:16D3のハイブリドーマ細胞のmRNAをQuickPrep(登録商標)マイクロmRNA精製キット(Amersham Biosciences)を用いて単離した。このmRNAは、First−Strand cDNA合成キット(Amersham Biosciences)を用い、キットで利用できるpd(N)6プライマーによりcDNAを作るために使用された。
・PCR:重鎖および軽鎖の可変部分の配列は、一群のプライマー(リーダー配列で始まる8プライマーと重鎖の定常領域で始まる2プライマー、リーダー配列で始まる11プライマーと軽鎖の定常領域で始まる1プライマー)を用いるPCRを実施することにより見出した。プライマーの異なる組合せによる8回および11回のPCR反応を実施した。
抗体16D3の重鎖のために用いられるプライマー:
MHVR3 5’−ATG GRA TGG AGC TGK ATC WTT HTC−3’(配列番号9)
MHCR1 5’−CAS AYM CAG GGG CCA GTG GAT AGAC−3’(配列番号10)
抗体16D3の軽鎖のために用いられるプライマー:
MKVR3 5’−ATG RAG TCA CAK ACY CAG GTC TTYRTA−3’(配列番号11)
MKCR1 5’−GCT CAC TGG ATG GTG GGA AGA TGG−3’(配列番号12)
PCRセットアップ:変性、10分間、94℃;変性、30秒間、94℃;アニーリング、30秒間、55℃;伸長、1分間、72℃;伸長、5分間、72℃;サイクル数、30回。
【0078】
配列番号9〜11の配列における重複性は慣用の略号を用いて示す:R=AまたはG、K=GまたはT、W=AまたはT、H=AまたはCまたはT、S=CまたはG、Y=CまたはT、M=AまたはC。
・クローニングおよび配列決定:PCR産物をアガロースゲルに負荷し、右側のバンドを選択し、精製し(QIAquick(登録商標)Gel Extractionキット、Qiagen GmbH社)、配列決定用Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキット(Invitrogen(登録商標) life technologies)に供給されたpCR(登録商標)4Blunt−TOPO(登録商標)ベクターにクローニングした。プラスミドDNAはHigh Pure Plasmid Isolation Kit(Roche Diagnostics社)を用いて調製し、T7およびM13リバースプライマーを用いてABI PRISM(登録商標)310(PE Applied Biosystems)により挿入物の配列を決定した。
・抗体16D3の重鎖と軽鎖の可変領域の塩基配列とアミノ酸配列を配列番号1、配列番号2、配列番号3および配列番号4に示す(図11を参照)。
【実施例2】
【0079】
ヒト化抗ヒトPlGF抗体(16D3)の産生と特徴づけ
1.ヒト化16D3の構築
可変領域のヒト化
・変異:マウス抗体16D3の可変部分をヒト化するために以下の変異を行なった:
重鎖: I2V
P9A
K40A
T111L
軽鎖: S5T
S9D
A15L
K18R
R22N
L89V
・変異はQuickChange(登録商標)Multi Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社(登録商標))を用いて行なった。変異を含む1〜5プライマーを1回のPCRに使用することができた。形質転換後、コロニーを採集し、DNAの配列決定を行なって、ほとんどの点突然変異を有するクローンを決定した。このクローンを取って、すべての変異が配列に存在するまでこの操作を繰り返した。
可変領域のヒトIgG定常領域への連結:
PCRを実施することにより、適切な制限部位が付加された重鎖と軽鎖のヒト化可変部分を得た。
軽鎖の可変部分用プライマー:
プライマー1:5’−CCACCGGT GAC ATT GTG CTG ACC CAG TCT CC−3’(配列番号13)
プライマー2:5’−CACCGTACG TTT TAT TTC CAA CTT TGT CCC CGA G−3’(配列番号14)
重鎖の可変部分用プライマー:
プライマー3:5’−CAG GTC CAG CTG CAG CAG TCT G−3’(配列番号15)
プライマー4:5’−GATGGGCCCTTGGTCGACGC TGA GGA GAC TGT GAG CAG GG−3’(配列番号16)
PCRセットアップ:変性、5分間、94℃;変性、30秒間、94℃;アニーリング、30秒間、60℃;伸長、30秒間、72℃;伸長、5分間、72℃;サイクル数、25回。
【0080】
PCR産物をアガロースゲルにロードし、バンドを選択し、精製した(QIAquick(登録商標)Gel Extractionキット、Qiagen GmbH社)。16D3の重鎖の可変部分のPCR産物をSalIで消化し、ヒト抗体(IgG4)の重鎖の完全定常部分を含むベクターpKANEO−MCS50−Hleu−var#24をEco47IIIとSalIで消化し、連結した。最初に、軽鎖の可変部分のPCR産物を配列決定用Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキット(Invitrogen(登録商標) life technologies)に供給されたpCR(登録商標)4Blunt−TOPO(登録商標)ベクターにクローニングした。軽鎖の可変部分をAgeIとBsiWIにより切り出し、ヒトカッパ軽鎖の定常部分を既に含んでいるベクターpKANEO−CM30−L−var#7にクローニングした。両ベクターは、PmeIとPacIを用いてベクターから軽鎖の発現カセットを取り出して、これを、重鎖を含むベクターに付加することによって、1つのベクターへと組み立てた。
【0081】
ヒト化抗体16D3の重鎖と軽鎖の可変部分の塩基配列とアミノ酸配列を配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8に示す(図12を参照)。
2.hu16D3の一時的発現
FreeStyle 293 Expression System(Invitrogen)を製造者の使用説明書にしたがって使用して、Hu16D3 IgG4κをHEK293細胞に一時的に発現させた。Hu16D3は、proSep vA Ultraによるアフィニティクロマトグラフィを用いて上清から精製した。精製Hu16D3は、還元および非還元条件下でSDS−PAGEにより純度を確認した。Hu16D3は、huPlGFに対する結合に関して、およびHuPlGF/huFLT−1結合の阻害に関して、ELISAによりさらに調べた(図1および図2を参照)。
【実施例3】
【0082】
腫瘍増殖の抗PLGF抗体による阻害のインビボ研究
1.材料と方法の一般的説明
細胞培養
マウス膵臓細胞株Panc02およびヒト膵臓細胞株DanGはS.Rosewicz(Charite−Universitatsmedizin、ベルリン、ドイツ)の親切な寄贈品である。ヒト乳房MDA−MB、結腸LOVOおよび黒色腫Mel2a細胞株はAmerican Type Culture Collection(ATCC;マナッサス、VA、USA)から得た。すべての細胞は推奨されたように培養した。抗体に対する免疫反応を避けるために、マウス16D3抗PlGF抗体をすべてのインビボ実験に用いた。
実験動物
すべての動物手順は、動物実験委員会(the institutional animal care and use committee)により完全に承認された。メスNMRI nu/nuマウスを準滅菌条件下で収容し、8〜10週齢(およその体重、25g)で定期的に使用した。腫瘍源の調製のために、腫瘍細胞をトリプシン処理して単細胞懸濁物を調製し、PBSで洗浄した。その遠心ペレットを200μlのPBSに再懸濁し、マウスの右脇腹に皮下注射した。同所性膵臓腫瘍モデルのために、30μlのPBS中の1×106腫瘍細胞を、9〜10週齢のメスC57B16マウスの腹部開腹術により膵臓頭部に注射した。これらの手順の前に、マウスはケタミン(90mg/体重kg)およびキシラジン(9mg/体重kg)で麻酔した。
医薬(すなわち、抗体、ビヒクル等)の投与
抗体またはビヒクルコントロールによる処置は、腫瘍が約60mm3の大きさに達したときに開始した。抗体P15D11D4(WO01/85796)、16D3、1C8またはビヒクルは、示された用量で腹腔内に1日おきに投与した。Avastinは、示された用量で腹腔内に週2回投与した。
腫瘍の測定
皮下増殖している腫瘍を、キャリバーを用いて1日おきに測定し、腫瘍容積を式:p/6(w1×w2×w2)(式中、w1とw2は最大腫瘍直径と最小腫瘍直径をそれぞれ表す)を用いて計算した。マウスを屠殺したときに、膵臓の同所性増殖腫瘍を同じ方法を用いた腹部開腹術後に測定した。
統計分析
統計分析は、GraphPad統計ソフトウエア(GraphPad Software社、サンジエゴ、CA)を用いるペア観察のために両側スチューデントt検定により実施した。すべてのデータは、別途の指定がない限り、平均±SEMとして示す。別途の指定がない限り、*p<0.5、**p<0.01である。
2.皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルにおける腫瘍増殖のマウス抗hPlGF抗体16D3による阻害
1×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF(16D3、50mg/体重kg;n=10)、抗mPlGF(PL5D11D4(WO01/85796に記載のように得たもの;50mg/体重kg;n=10)、コントロールIgG(1C8;50mg/体重kg;n=10)、抗hPlGFと抗mPlGFの組合せ(それぞれが25mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。抗体を1日おきに腹腔内に注射した。(A)腫瘍を1日おきに測定し、腫瘍容積を式:W1×W2×W2×p/2(式中、W1は最大直径およびW2は最小直径を示す)を用いて計算した。(B)マウスを腫瘍接種の18日後に屠殺し、腫瘍を切除し、重量を測定した。平均腫瘍容積:ビヒクル:915±90mm3、IgG:±89mm3、PL5D11D4:832±118mm3、16D3:521±83mm3、PL5D11D4+16D3:497±86mm3。
【0083】
その結果は、図4に示されるように、抗ヒトPLGF抗体16D3の投与が腫瘍重量と大きさに対して明らかな影響を有することを示している。
3.抗hPlGFは皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を用量依存的に阻害する。
【0084】
1×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF、IgG(1C8;50mg/kg)、16D3(50mg/kg、37.5mg/kg、25mg/kg、12.5mg/体重kg;各濃度でn=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。(B)マウスは腫瘍接種の18日後に屠殺した。
【0085】
結果を図5に示す。平均腫瘍容積±SEM:16D3、50mg/体重kg:450±37mm3;37.5mg/体重kg:469±97mm3;25mg/体重kg:493±107mm3;12.5mg/体重kg:693±107mm3;IC8:865±109mm3;ビヒクル:889±100mm3。
4.抗huPlGFは皮下ヒト乳房MDA−MB異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。
【0086】
1×107腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF、16D3(50mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。
【0087】
結果を図6(および下記の表1)に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
5.抗huPlGFは皮下ヒト結腸LOVO異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。
【0090】
1×107腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF、16D3(50mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。
【0091】
結果を図7および下記の表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
6.抗huPlGFは皮下ヒト黒色腫Mel2a異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。
【0094】
4×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF、16D3(50mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。
【0095】
結果を図8および下記の表3に示す。
【0096】
【表3】
【実施例4】
【0097】
16D3抗体による処置の体重減少に対する効果のインビボ研究
材料と方法は実施例3に記載したとおりであった。
【0098】
1×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF(16D3、50mg/体重kg;n=10)、抗mPlGF(PL5D11D4;50mg/体重kg;n=10)、コントロールIgG(1C8;50mg/体重kg;n=10)、抗hPlGFと抗mPLGFの組合せ(それぞれが25mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。抗体は1日おきに腹腔内注射した。マウスの体重は抗体処置の最初の日と最後の日に測定した。腫瘍重量は、体重減少の比率の計算前に体重から差し引いた。
【0099】
結果を図9に示す。抗hPlGFは、この皮下ヒト膵臓DanG異種移植片の腫瘍モデルにおいて体重減少を妨げることが示されている。
【実施例5】
【0100】
腫瘍増殖の治療のための抗hPlGF抗体と抗VEGF抗体の組合せ
材料と方法は実施例3に記載したとおりであった。
【0101】
1×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF(16D3、50mg/kg、37.5mg/kg、12.5mg/体重kg、1日おきの腹腔内;各濃度でn=10)、Avastin(15mg/kgおよび5mg/体重kg、週2回の腹腔内、各濃度でn=10)および抗hPlGF(12.5mg/体重kg)とAvastin(5mg/体重kg;n=10)の組合せによる処置を開始した。マウスは腫瘍接種の20日後に屠殺した。
【0102】
結果を図10に示す。平均腫瘍容積±SEM:1C8、37;37,5mg/体重kg:954±164mm3;12.5mg/体重kg:1398±236mm3;IgG:1789±231mm3;Avastin:15mg/体重kg:828±186mm3;5mg/体重kg:926±202mm3;Avastin+16D3:569±94mm3。抗hPlGFとAvastinは皮下ヒト膵臓DanGにおいて腫瘍増殖の阻害に対してさらなる効果をおよぼすことが観察される。
【実施例6】
【0103】
16D3のscFvの産生
重鎖と軽鎖の可変部分の配列(それぞれ配列番号2と配列番号4、実施例1に記載されたように得られたもの)を、適切な制限結合部位とリンカーを有するプライマーを用いたPCRにより増幅した。SOE PCR(オーバーラップ伸長による遺伝子スプライシング)後、scFvをpEE14.4(HindIII−EcoRIクローニング部位)にクローニングした(図12)。このscFvhp16D3/pEE14.4は、Fugene 6(Boehringer Mannheim)を用いたBamHIによる直線化の後に、CHO−KI細胞に移入し、希釈により2回サブクローニングした。モノクローナルscFv hp16D3、6C5D4が得られ、作られた。このクローンもまたscFv hp16D3/pKANEO−MCS50−dhfr1(NheI−NotIクローニング部位)と平行してProducellにより293細胞に一時的に移入した(図13)。
【0104】
16D3 scFvの塩基配列とアミノ酸配列を配列番号23と配列番号24にそれぞれ示す。重鎖と軽鎖の可変領域、リンカー配列とHA−tagおよびHis Tagを示すアミノ酸配列も図15に示す。
【実施例7】
【0105】
scFv 16D3のヒト化
scFvの可変領域のヒト化を実施例2に記載のように実施した。16D3のヒト化scFvの塩基配列とアミノ酸配列を配列番号25と配列番号26にそれぞれ示す。ヒト化scFvの重鎖と軽鎖の可変領域、リンカー配列とHA−tagおよびHis Tagを示すアミノ酸配列も図15に示す。
【実施例8】
【0106】
ヒト化Fabl6D3の生産
1.ヒト化scFv16D3からVHフラグメントとVLフラグメントを増幅する。
ヒト化scFv16D3のVHフラグメント増幅用プライマー
_16D3Vhbackblunt 5’−CAGGTCCAGCTGCAGCAGTCTG−3’(配列番号27)
16D3VhforSalI 5’−GATGGGCCCTTGGTCGACGCTGAGGAGACTGTGAGCAGGG−3’(配列番号28)
ヒト化scFv16D3のVLフラグメント増幅用プライマー
_16D3VLBackAgeI 5’−CCACCGGTGACATTGTGCTGACCCAGTCTCC−3’(配列番号29)
16D3VLForBsiWI 5’−CACCGTACGTTTTATTTCCAACTTTGTCCCCGAG−3’(配列番号30)
2.重鎖ベクターと軽鎖ベクターの構築
最初に、軽鎖のPCR産物をpCR4blunt−TOPOベクターにクローニングした。配列決定後、軽鎖をAgeIとBsiWI消化により取り出し、pKANEO−CM30−Lvar#7ベクターにクローニングした。重鎖のPCR産物は消化後にpKANEO−MCS50−Fabvar#3に直接クローニングした。
3.重鎖構築物と軽鎖構築物の連結
軽セグメントを含むカセットを取り出し、これを、酵素PmeIとPacIを用いて重セグメントを含むベクターに付加することにより、軽セグメントと重セグメントを含む(上記の)両ベクターを結合させて、最終構築物hpl6D3mutcmplFab/pKANEO−MCS50−Fabvar#3を得た(図16を参照)。
【実施例9】
【0107】
scFv 16D3およびヒト化scFv16D3による抗原結合とPlGF/flt−1相互作用の阻害の分析(図14)
1.抗原結合ELISA
ELISAプレートを、PBS中の1μg/mlのhuPlGF−1により、200μL/ウエルにて、4℃で被覆した。1%BSAによる1時間室温でのブロッキング後、scFv16D3/ヒト化scFv16D3の希釈系列を200μL/ウエルで加え、抗体フラグメントを1時間室温で結合させた。結合したscFv16D3を、マウス抗HA(180μL/ウエル、1時間、室温)により検出した後、ヤギ抗マウスIgG−HRP(Sigma)とともに170μL/ウエルにて1時間室温でインキュベートした。アッセイはOPDにより展開された。
2.ELISAによるPlGF/Flt−1相互作用の阻害
ELISAプレートを、1μg/mlのhuFlt−1(R&D Systems)により、200μL/ウエルにて、4℃で被覆した。1%BSAによる1時間室温でのブロッキング後、scFv16D3/ヒト化scFv16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、さらに100μL/ウエルのhuPlGF−2を加えた。室温での2時間のインキュベーション後、結合したPlGFを、ヤギ抗huPLGF(R&D Systems)により180μL/ウエル、1時間、室温で検出した後、RAG−HRP(DAKO)とともに、1時間室温でインキュベートした。アッセイはOPDにより展開された。
【実施例10】
【0108】
ヒト化Fab16D3による抗原結合とPlGF/Flt−1相互作用の阻害の分析
1.抗原結合ELISA
ELISAプレートを、PBS中の1μg/mlのhuPlGF−1により、100μL/ウエル、4℃で被覆した。1%BSAによる1時間室温でのブロッキング後、ヒト化Fab16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、抗体フラグメントを1時間室温で結合させた。結合したヒト化Fabl6D3は抗huIgG−HRP(Fab特異的)(100μL/ウエル、1時間、室温)で検出した。アッセイはOPDにより展開された。結果を図17Aに示す。
2.ELISAによるPlGF/Flt−1相互作用の阻害
ELISAプレートを、1μg/mlのhuFlt−1(R&D Systems)により、200μL/ウエルにて、4℃で被覆した。1%BSAによる1時間室温でのブロッキング後、ヒト化scFab16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、さらに100μL/ウエルのhuPlGF−2を加えた。室温での2時間のインキュベーション後、結合したPlGFを、ヤギ抗huPlGF(R&D Systems)により180μL/ウエルにて1時間、室温で検出した後、RAG−HRP(DAKO)とともに、1時間室温でインキュベートした。アッセイはOPDにより展開された。それらの結果を図17Bに示す。
【実施例11】
【0109】
KD値の決定
16D3、ヒト化16D3 IgG4、ヒト化scFv16D3およびヒト化Fab16D3のそれぞれのKD値を、Biacoreを用いて決定した。結果を以下の表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
16D3、ヒト化16D3 IgG4、ヒト化Fab 16D3およびヒト化scFv16D3のKD値。
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、特に病的状態における血管新生の阻害に適する新規な抗体およびそれらのフラグメントならびに誘導体に関する。本発明は、それら特定の抗体を産生する細胞株にも関する。本発明は、本発明の抗体、それらのフラグメントおよび/または誘導体を含む医薬組成物を提供し、腫瘍形成、目の病気、肺性高血圧および炎症性疾患等において望まれない血管新生および/または血液漏出の予防および治療方法、ならびに骨粗鬆症等の骨疾患の予防および治療方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
異常な血管形成は高い罹患率と死亡率を有する多数の病気の発病に寄与する。血管増殖の根底にある機構の解明は、虚血組織における血管増殖を促進するか、または腫瘍におけるそれら形成を抑制する治療方法の開発を可能とするだろう。胚における最近の遺伝子標的法の研究によって、内皮チャンネルの初期形成(血管新生)および平滑筋細胞の被覆によるそれらのその後の成熟(動脈新生)に関わる機構の一部が同定された。異なる分子機構が病的状態における血管成長を仲介するという証拠が明らかになりつつあるが、その分子的プレーヤーは大部分未確定なままにある。
【0003】
血管内皮増殖因子(VEGF)は脈管構造の発達と病理学的成長に結び付いていることが証明されている(Ferrara N.et al,1999,Curr Top Microbiol Immunol 237,1−30)。さらに、VEGFの相同体である胎盤成長因子(PlGF)は、虚血性網膜症、腫瘍形成、炎症性疾患および浮腫等の多様な病的状態におけるVEGFの特定のモジュレータであることも示されている。PlGF−/−マウスは病気において血管新生および動脈新生が損なわれることが示されたが(Carmeliet P.et al.,2000,J.Pathol.190,387−405)、正常に健康である場合、生理学的血管新生は影響を受けずにいる。よって、PlGFの阻害剤は、血管新生と動脈新生が病気の病原性に寄与する病気の治療に莫大な可能性を有する。
【0004】
ヒトPlGFに対するヤギポリクローナル抗体(R&D pharmaceuticals,Abingdon,UK)やニワトリポリクローナル抗体(Gassmann et al.,1990,Faseb J.4,2528)等のPlGF阻害剤は当分野で知られている。これらの抗体はウエスタンブロット、組織化学および免役沈降研究のために用いられている。WO01/85796は、腫瘍形成等の病気の治療または予防のための、モノクローナル抗PlGF抗体等のPlGF阻害剤の使用を記載している。より具体的には、マウスPlGF−2がそのレセプターFlt−1に結合することを完全に阻害するマウスモノクローナル抗体の調製が記載され、抗体Mab−PL5D11が最も効果的な阻害活性を有するものとして選択されている。病的な血管新生の動物モデルにおける抗体の使用が記載されている。
【0005】
動物において生成する抗体は、ヒトでの治療においてそれらの使用を厳しく制限しうる特徴を有する。1986年にJaffers等(Transplantation 1986 41:572)により教示されたように、それらの抗体は外来タンパク質として、それらの治療有効性を減少または破壊し、および/または患者においてアレルギー性または過敏性反応を引き起こす抗免疫グロブリン応答(マウス抗体については、ヒト抗マウス抗体またはHAMAと称される)を誘発することがある。ヒトモノクローナル抗体の使用はこの制限に取り組むものであろうが、従来のハイブリドーマ技術による大量のヒト抗ヒト抗体の産生は困難であることが証明されている。したがって、マウスのモノクローナル抗体等、動物の高い結合親和性を維持するが、ヒトにおいて低減した免疫原性を示す「ヒト化」抗体を構築するために、組換え技術が当分野で用いられている。特に、非ヒト抗体の可変領域(V)をヒト抗体の定常(C)領域に組み合わせたキメラ抗体が提唱されている。そのようなキメラ免疫グロブリンを得る方法は米国特許第5,770,198号に詳細に説明されている。マウス抗体の免疫原性を低減させる他の試みでは、全V領域ではなく、相補性決定領域(CDR)のみ、すなわち、V領域の超可変性領域のみがヒト抗体に移植される。そのようなヒト化抗体はCDRグラフト化抗体として知られている。さらに複雑な抗原を認識するCDRグラフト化抗体の構築は、天然の非ヒト抗体よりも顕著に低い結合活性を有する抗体をもたらした。多くの場合に、非ヒトCDRのヒト抗体骨格への単なる導入は完全な結合活性の維持には不十分であることが示された。ヒト化抗体の設計で考慮すべき重要なアミノ酸を同定するために、関心の対象であるマウス抗体の緻密なコンピュータモデルが必要とされ、一般的な理論的指針がそのような設計のために提案されたが、すべての場合に、その手順は関心の対象である特定の非ヒト抗体に適合させて、最適化させる必要がある。
【0006】
その次には、ヒトPlGFがそのレセプターに結合するのを最適に阻害する(モノクローナル)抗体の必要性が残っている。さらに、そのような抗体は、HAMAを誘発しえない(またはそうする傾向が低い)点で非免疫原性である必要もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要約
本発明は、PlGFがそのレセプターに結合することを阻害できる、PlGFに対する新規なモノクローナル抗体およびその誘導体に関する。本リガンドは、インビボの病的状態においてヒトPlGFの阻害を示す最初のものである。さらに具体的には、本発明による抗体およびその誘導体はインビボで腫瘍サイズおよびヒト腫瘍組織の血管新生を低減させることができる。本発明の抗体は、VEGFを標的とした現在使用されている抗血管新生療法に代わる手段を提供し、これら療法に関連した生理学的血管新生の阻害により引き起こされる副作用が顕著に低減するという重要な利点を有する。
【0008】
本発明は、本明細書において16D3と称される抗体と同じPlGFエピトープに結合する、ヒト化抗体および抗体フラグメント等の抗原結合性分子、特にモノクローナル抗体、そのフラグメントまたは誘導体に関する。
【0009】
本発明の第1の目的は、PlGFに結合でき、PlGFの機能を阻害する能力を有する新規なモノクローナル抗体であって、より具体的には、それらの重鎖可変領域が配列番号2の配列、またはCDR領域内においてそれに対して少なくとも80%、特には少なくとも90%、最も特には95%の配列同一性を有する配列を含み、および/またはそれらの軽鎖可変領域が、配列番号4の配列、またはCDR領域内においてそれに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含むことを特徴とする、抗体16D3またはその誘導体等の抗体を提供することにある。さらに、またはその代わりとして、さらなる実施形態において、本発明の抗原結合性分子は、CDR領域の外側の重鎖および/または軽鎖の可変領域内で、配列番号2および配列番号4の配列のそれぞれに対して少なくとも70%、特には少なくとも80%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%同一である配列同一性を有する。
【0010】
本発明の特定の実施形態にしたがえば、本抗体はヒト化抗体、さらに特にはハイブリッド抗体、最も特にはマウス/ヒトハイブリッド抗体、さらに特にはハイブリッドマウス16D3/ヒトIgG1κまたはIgG4κである。もしくは、ヒト化抗体は、PlGFに結合可能な本発明のマウス16D3抗体のCDR領域を、ヒト抗体の骨格にグラフト化させて含む抗体である。
【0011】
本発明のさらなる実施形態は、マウス16D3抗体またはその誘導体(例えば、そのヒト化抗体)の抗原結合性フラグメント、例えばFab、Fab’またはF(ab’)2、少なくとも2つの相補性決定領域(CDR)の組合せ、可溶性または膜固定の単鎖可変領域または単一の可変ドメイン等の、しかし、これらに限定されない抗原結合性フラグメントに関する。そのような抗原結合性フラグメントの特定の実施形態は、16D3の少なくとも2つのCDRまたはその誘導体、または特に配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)からなる群から選択される少なくとも2つのCDRを含むフラグメントか、またはそれらに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つの配列を含むフラグメントを包含する。本発明の特定の実施形態は、PlGF活性を阻害できるマウス16D3抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)およびヒト化scFvの提供に関する。最も特には、本発明は、配列番号24または配列番号26のアミノ酸配列、またはPlGFに結合できるCDR内においてそれと少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含むscFvを提供する。
【0012】
本発明のさらなる目的は、本発明のモノクローナル抗体を産生する細胞株、特に16D3抗体を産生する細胞株16D3、さらに、例えば組換え技術の結果として16D3またはそのフラグメントに由来する抗原結合性分子を産生できる他の細胞株をも提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、16D3またはフラグメントまたは誘導体であるPlGF抗体、特に16D3のヒト化抗体またはその抗原結合性フラグメントを医薬的に許容される担体に混合して含む、哺乳動物の病的状態または疾患における(望まれない)血管新生の予防または治療用または骨吸収の予防または治療用の医薬組成物を提供することである。本発明の特定の実施形態は、Fab、Fab’またはF(ab’)2、可溶性または膜固定の単鎖可変部分または単一の可変ドメインからなる群から選択される16D3の抗原結合性フラグメントまたはその誘導体を含む医薬組成物である。本発明の最も特定の実施形態は、配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)からなる群から選択される少なくとも2つのCDRを含むか、または配列番号17〜配列番号22からなる群から選択される2つの異なる配列に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つの配列を含む抗原結合性フラグメントを含む医薬組成物に関する。その特定の実施形態は、本発明の16D3抗体のscFvを含む医薬組成物、特に配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)からなる群から選択される少なくとも2つのCDRを含むscFVを含む医薬組成物、または配列番号24を含むscFv等のように配列番号17〜配列番号22からなる群から選択される2つの異なる配列に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つの配列を含むscFvを含む医薬組成物に関する。最も特には、医薬組成物は、配列番号26を含むヒト化scFv等の、しかし、これに限定されない16D3のヒト化scFvを含むか、またはPlGFに結合することのできるCDR内においてそれと少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。
【0014】
本発明による医薬組成物のさらに別の特定の実施形態において、治療有効量の別の血管新生阻害剤が、本発明のPlGFに結合できる抗原結合性分子に加えて含まれる。この点において、最も特には、VEGF阻害剤やbFGF阻害剤等の血管新生阻害剤、最も特には抗VEGF抗体が想定される。
【0015】
本発明の別の目的は、本明細書において開示されたPlGFに結合する抗体の抗原結合性フラグメントをコードする塩基配列、特に細胞系16D3により産生される16D3の重鎖および軽鎖の可変領域をコードする塩基配列を提供することにある。もっとも具体的には、配列番号2と配列番号4の可変領域をコードする塩基配列が想定される。さらに、16D3の少なくとも2つのCDRを含む抗原結合性フラグメントをコードするポリヌクレオチド配列、さらに具体的には、配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)からなる群から選択される少なくとも2つのCDRをコードするポリヌクレオチド、または配列番号17〜配列番号22に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つのCDRを含む配列をコードするポリヌクレオチドである。本発明の塩基配列の特定の実施形態は、配列番号1、配列番号3、配列番号5および配列番号6で提供される。さらなる具体的な実施形態は、16D3のscFvおよびそのヒト化フラグメントをコードする塩基配列、最も特には配列番号23および配列番号25の配列、および最も特にはscFvのCDR領域をコードする領域内で、それらに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を包含する。しかし、遺伝子コードの重複の結果として本発明の範囲に入る多数の塩基配列が存在することが理解されよう。
【0016】
本発明の別の目的は、哺乳動物の病的状態において望まれない(または病的)血管新生を治療および/または予防する方法において、そのような治療または予防を必要とする哺乳動物に本発明の抗体16D3またはその抗原結合性フラグメントまたは誘導体、最も特には本明細書に記載されたscFvである有効成分の治療有効量を投与することからなる方法を提供することにある。特に、ヒト化抗体および抗体フラグメント、例えば16D3のscFvやその誘導体が本発明の方法に特に適する。本発明の方法の特定の実施形態は、癌、炎症、目の病気、肺性高血圧および血液漏出等の、しかし、これらに限定されない病的状態の治療および/または予防に関する。本発明の特定の目的は、哺乳動物、特にヒトにおいて、病的血管新生、特に腫瘍増殖、炎症、目の病気または血液漏出に効果的で安全な(すなわち、副作用のない)療法を提供することにある。最も特には本発明の方法は、固形腫瘍の治療および/または予防、特に結腸癌、乳癌、膵臓癌および黒色腫の治療および/または予防に適する。
【0017】
本発明の抗体および抗原結合性フラグメントのさらなる使用は、診断方法における標識された標的部分としての、および癌治療でのPlGF阻害に対して相加作用を有する化合物のスクリーニングのための、ヒト試料におけるPlGFの免疫学的検出に関する。
【0018】
本発明は、新しいリガンド、すなわち、PlGFを非常に効率的に阻害する新しいマウスおよびヒト化モノクローナル抗体およびそれらのフラグメント、誘導体および相同体の予期しない測定に基づく。最も特には、本発明は、腫瘍増殖を低減でき、最も特には腫瘍の大きさを20%〜50%低減することのできるリガンドを明らかにする。
【0019】
ここに記載の特定の実施形態に本発明を限定することを意図しない以下の説明は、参照することにより本書に組み込まれる添付の図面と合わせて理解される。
【0020】
定義
本明細書において用いられる「16D3」との用語は、LMBP6399CBの番号でBCCM/LMBPに寄託された細胞株により産生されるPlGFに対するモノクローナル抗体をいう。
【0021】
「抗体フラグメント」との用語は、単独または他のフラグメントと組み合わされて、対応する抗体を産生させる抗原に対して結合することのできる抗体分子の副部分をいう。典型的な抗体分子はFab、Fab’、F(ab’)2、FvまたはscFvであり、これらは完全抗体に匹敵する抗原親和性をしばしば保持する。それよりも小さなフラグメントとして、重鎖または軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3等のCDR、すなわち相補性決定領域および/またはそれらの2つ以上の組合せが挙げられる。
【0022】
本明細書において用いられる「誘導体」との用語は、抗原に対する結合に顕著に影響を与えることなく、(例えば、ハイブリドーマ細胞株により作られた)元の抗体またはそのフラグメントの改変体に対応する抗原結合性分子をいう。典型的な改変体として、元の抗体のアミノ酸配列の改変体、または例えばヒト化に関連して、抗体またはそのフラグメントの標識またはビーズ等の他の分子に対する結合またはグリコシル化の改変に関して、アミノ酸配列上に存在する官能基の改変体が挙げられる。したがって、誘導体は、元の抗体の可変領域および/またはCDRの1つ以上を別の抗体の骨格または同一種か異種のフラグメントにグラフトまたは導入することにより得られたヒト化抗体、ハイブリッド抗体、抗体または他の抗原結合性分子を含むが、これらに限定されない。抗体の誘導体として、合成ポリペプチド等の抗原結合性分子をもたらす抗体の1つ以上のCDRの代替構造物が挙げられる。
【0023】
本明細書において用いられる「ヒト化抗体または抗体フラグメント」との用語は、元の抗体に比べて、ヒト抗体にさらに密接に似るためにアミノ酸が置換された抗体分子またはそのフラグメントをいう。これらの置換の大多数は抗体または抗体フラグメントの骨格中、すなわち、非抗原結合領域中にある。しかし、CDR内で、抗原に対する結合に関与しない、またはほとんど関与しないアミノ酸も置換できることが想定される。
【0024】
本明細書において用いられる「再形成」抗体または抗体フラグメントまたは「ハイブリッド抗体」は、任意に同一種または異種であることができる少なくとも2つの異なる抗体のそれぞれの一部を含む抗体をいう。典型的には、ヒトハイブリッド抗体は、ある抗体のヒト定常領域を(関心の対象である抗原に対する)別の抗体のヒト化可変領域に結合させたものか、またはある抗体の抗原結合領域の一部アミノ酸配列を別の抗体、例えば関心の対象であるヒト抗原に対する非ヒト抗体の一部の配列で置換したヒト抗体骨格でありうる。特に、関心の対象である抗原に対する親和性を有する1つ以上のCDRまたはそれらの可変領域または部分等のある(通常、非ヒト)抗体の抗原結合領域を、別の(通常、ヒト)抗体の骨格に導入する(例えば、CDRグラフト化抗体)。
【0025】
本発明の2つ以上の抗原結合性分子に関連して本明細書において用いられる「相同性」または「相同的」との用語は、抗原結合性分子が同じ抗原、特に同じエピトープに結合する能力をいう。2つの抗原結合性分子が同じエピトープに結合する能力は、それら抗原結合性分子が、例えば競合結合測定法で、同じ抗原に対する結合に関して互いに競合しうるのかどうかを決定することにより評価することができる。相同的な抗原結合性分子同士の抗原に対する結合は類似の特異性を有する。
【0026】
本明細書において用いられる2つの配列の「配列同一性」は、それら2つの配列を並べたときに同一のヌクレオチドまたはアミノ酸を有する位置の数をそれら配列の短い配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の数で割った数に関する。好ましくは、配列同一性は、70%〜80%を超え、好ましくは81〜85%、さらに好ましくは86〜90%、特に好ましくは91〜95%、最も好ましくは96〜100%、さらに具体的には100%である。可変領域の骨格が抗原結合に対して一般的に限定的に寄与することを考慮すると、配列同一性は、本明細書において、相補性決定領域(CDR)内の配列に関して、すなわち、CDRをコードする塩基配列とCDRを構成するアミノ酸配列に関して最も一般的に特定される。したがって、ある配列が「CDR内」の特定の配列にわたって80%の配列同一性を有することが特定された場合、それら2つの配列のCDRを構成する配列のみに関する配列同一性を提供することが意図される。
【0027】
「PlGF」との用語は、本明細書において胎盤成長因子を示すために用いられる。PlGFは、2つのスプライス変異体またはイソ型(すなわち、カルボキシ末端領域中の21アミノ酸挿入物を含む149アミノ酸のPlGF−1および170アミノ酸のPlGF−2)に主に存在することがわかっているが、さらに他のイソ型も発見されている。
【0028】
「阻害」との用語は、PlGFに対する抗体またはそのフラグメントまたは誘導体に言及する場合、抗体、そのフラグメントまたは誘導体がPlGFのそのレセプターFlt−1への結合を阻害することができることを示すために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態によるELISA試験による、ヒトPlGF−2(Pichiaにおいて産生)に対する抗体16D3(A)またはヒト化抗体16D3(hu16D3)(B)の結合。
【図2】本発明の一実施形態によるELISA試験による、抗体16D3(四角形)またはヒト化抗体16D3(三角形)によるPlGF−2のヒトFlt−1レセプターへの結合阻害。
【図3】本発明の一実施形態による試験で抗体16D3およびそのFabフラグメントの阻害可能性を調べるための、rhuPlGF−2がCM5チップに固定化されたBiacore実験の結果。
【図4】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を阻害する。本発明の一実施形態による抗tPA(「コントロールIgG」)(1C8;50mg/体重kg;n=10)、抗hPlGF 16D3(「抗hPlGF」)(50mg/体重kg;n=10)、抗mPlGF(PL5D11D4(WO01/85796に記載のように得られたもの;50mg/体重kg;n=10)、抗hPlGF 16D3と抗mPlGF PL5D11D4との組合せ(「抗hPlGF/抗mPlGF」)(それぞれが25mg/体重kg;n=10)および「ビヒクル」(n=10)による約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの処置。腫瘍接種の18日後の(A)腫瘍サイズ(B)腫瘍重量。
【図5】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を用量依存的に阻害する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/kg=「1000μg」/「C」、37,5mg/kg=「750μg」/「D」、25mg/kg=「500μg」/「E」、12.5mg/kg=「250μg」/「F」;各濃度でn=10)、コントロールIgG(「1C8」/「B」;50mg/kg)および「ビヒクル」/「A」(n=10)による約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの処置。A:腫瘍細胞接種後の平均腫瘍サイズの成長;B:20日目での平均腫瘍サイズ。
【図6】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト乳房MDA−MB異種移植片腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を阻害する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/体重kg;n=10)またはビヒクルによる約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの週3回の処置。(接種の32日後に測定した)A:腫瘍重量およびB:腫瘍容積。
【図7】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト結腸LOVO異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/体重kg;n=10)またはビヒクルによる約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの週3回の処置。(接種の30日後に測定した)A:腫瘍重量およびB:腫瘍容積。
【図8】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト黒色腫Mel2a異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/体重kg;n=10)またはビヒクルによる約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの週3回の処置。接種の53日後に測定した腫瘍重量。
【図9】モノクローナル抗体16D3は皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルの体重減少を抑制する。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(50mg/体重kg;n=10)、コントロールIgG、抗hPlGFと抗mPlGFとの組合せ(それぞれ25mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの処置。腫瘍重量は体重減少の比率の計算前に体重から差し引いた。白バー:治療の第1日目の体重;黒バー:治療最終日の体重。
【図10】モノクローナル抗体16D3とAvastinは皮下ヒト膵臓DanGの腫瘍増殖の阻害にさらなる効果をおよぼす。本発明の一実施形態による抗hPlGF 16D3(37.5mg/kg、25mg/kg、12.5mg/体重kg;各濃度でn=10)、コントロールIgG(1C8;50mg/kg)、Avastin(15mg/kgおよび5mg/体重kg、週2回の腹腔内、各濃度でn=10)および抗hPlGF(12.5mg/体重kg)とAvastin(5mg/体重kg;n=10)との組合せによる約60mm3の腫瘍を有するnu/nuマウスの処置。腫瘍接種の20日後にマウスを屠殺し、腫瘍容積を測定した。
【図11】本発明の一実施形態によるマウス抗体16D3の可変部分の塩基配列およびアミノ酸配列。A.重鎖の可変部分をコードする塩基配列;B.軽鎖の可変部分をコードする塩基配列;C.重鎖の可変部分のアミノ酸配列;D.軽鎖の可変部分のアミノ酸配列。本発明の一実施形態によるヒト化の目的のために修飾することのできるヌクレオチドおよびアミノ酸に下線を付す。
【図12】本発明の一実施形態による16D3のヒト化可変部分の塩基配列およびアミノ酸配列。A.重鎖のヒト化可変部分をコードする塩基配列;B.軽鎖のヒト化可変部分をコードする塩基配列;C.重鎖のヒト化可変部分のアミノ酸配列;D.軽鎖のヒト化可変部分のアミノ酸配列。ヒト化の目的のために修飾されるヌクレオチドおよびアミノ酸に下線を付す。
【図13】293細胞でのヒト化16D3 scFvの発現用ベクターの図。
【図14】A:scFv16D3およびヒト化scFv16D3のPlGFへの結合;B:scFv16D3およびヒト化scFv16D3によるhuPlGF−2のそのレセプターhuFlt−1への結合の阻害(B)。
【図15】A:マウス抗体16D3のscFvのアミノ酸配列;B:抗体16D3のヒト化scFvのアミノ酸配列。重鎖および軽鎖の可変領域以外の領域に下線を付す。
【図16】本発明の一実施形態による293細胞でのヒト化16D3 Fab発現用ベクターの図。
【図17】A:本発明の一実施形態によるELISA試験によるヒト化Fab 16D3のhuPLGFへの結合;B:ヒト化Fab 16D3によるhuPlGF−2のそのレセプターhuFlt−1への結合の阻害。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
以下、本発明を一定の実施形態と一定の図面を参照して説明するが、本発明はそれらに限定されず、請求の範囲のみにより限定される。
【0031】
本発明は、本明細書において抗体16D3と称する抗体と同一のPlGFエピトープに結合する抗原結合性分子、特にモノクローナル抗体、そのフラグメントまたは誘導体に関する。細胞株LMBP 6399CBにより産生される「抗体16D3」はヒト由来のPlGFに対して産生され、ヒトPlGF(イソ型PlGF−1とPlGF−2の両方)に結合する。抗体16D3はヒトPlGFのそのレセプターflt−1への結合を阻害して、PlGF活性を阻害する。よって、16D3抗体それ自体およびそのフラグメントまたは誘導体、ならびに該抗体、フラグメントまたは誘導体をコードする塩基配列は、治療の場面と、試験またはスクリーニングの目的のための動物モデルとの両方でPlGFの阻害に用いることができる。もしくは、抗体はインビボ、エキソビボまたはインビトロでPlGFの検出および/または定量に用いることができる。よって、本発明は、本発明の抗原結合性分子とそれらをコードする塩基配列のさまざまな適用を提供する。本発明は、さらに、本発明の抗原結合性分子を産生する方法、およびこれらの抗原結合性分子を産生することのできる細胞株に関する。
【0032】
本発明の第1の態様は本発明の抗原結合性分子を産生する細胞株、特に16D3またはそのフラグメントまたは誘導体と同じ抗原と結合することのできるモノクローナル抗体を産生する細胞株に関する。本発明のこの態様の特定の実施形態は、モノクローナル抗体16D3を産生し、かつThromb−Xにより、2005年3月29日に寄託番号LMBP 6399CBとしてBCCM/LMBP(Belgian Co−ordinated Collections of Microorganisms/Plasmid Collection Laboratorium voor Moleculaire Biologie,University of Ghent K.L.Ledeganckstraat 35,B−9000 Ghent、ベルギー)に寄託された「細胞株16D3」とも称されるハイブリドーマ細胞株である。さらに、本発明はモノクローナル抗体16D3に由来するモノクローナル抗体を産生する細胞株を提供する。そのような細胞株は、モノクローナル抗体16D3をコードする配列、最も特には16D3の非抗原結合領域をコードするコード配列を修飾することにより得ることができる。行なうべき修飾の性質を決定する方法および適切な修飾の例を本書に記載する。
【0033】
本発明の第2の態様は、抗体16D3と同じ抗原に結合することのできる抗原結合性分子に関する。特に、本発明は上記の細胞株16D3により産生される16D3と名付けられた抗体、およびPlGFに結合し、PlGF活性を阻害することのできるその相同体、フラグメントおよび誘導体に関する。
【0034】
したがって、本発明の特定の実施形態は、細胞株LMBP 6399CBにより産生される抗ヒトPlGF抗体であるモノクローナル抗体16D3およびこの抗体のフラグメントを提供する。モノクローナル抗体16D3は、配列番号2と配列番号4にそれぞれ開示されるその重鎖と軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を特徴とする。
【0035】
特定の実施形態によれば、本発明は、抗体16D3のフラグメント、特に抗原結合性フラグメントに関する。そのようなフラグメントとして、Fab、Fab’、F(ab’)2、CDR、該抗体またはそのCDRの一部の配列を有するペプチド、単一可変ドメインおよびこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。Fab、Fab’およびF(ab’)2フラグメントは、Stanworth等(Handbook of Experimental Immunology(1978年)、Vol.1、第8章(Blackwell Scientific Publications))によって記載されたような当分野で周知の方法を用いたモノクローナル抗体のタンパク質分解により作ることができる。抗原に結合する能力を保持するそのようなフラグメントは、補体活性化またはFcガンマレセプターに結合する能力等の親抗体の多くの性質を失っている。より具体的には、本発明は、配列番号2および配列番号4のそれぞれに対応する16D3の重鎖および軽鎖の可変領域を含むフラグメントを提供する。本発明のさらなる特定の実施形態は、16D3の相補性決定領域(CDR)を含むフラグメントおよびその誘導体に関する。CDRを同定する2つの最も一般的に追随される方法はIMGTとKABATであり、16D3のいずれかのタイプのCDRの2つ以上を含むフラグメントならびにこれらのフラグメントまたはCDRを含む16D3の誘導体が本発明に関して想定される。CDRのIMGT同定によれば、16D3の可変領域内のCDR領域は配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)に対応する。よって、本発明は、配列番号17〜配列番号22に提供される16D3の1つ以上のCDRを含む抗体16D3のフラグメントを提供する。
【0036】
本発明のさらなる具体的な実施形態は、16D3の可溶性または膜固定の単鎖可変部分である16D3のフラグメントを提供する。単鎖可変フラグメント(scFv)は、通常は、免疫グロブリンの可変の重鎖(VH)および軽鎖(VL)またはそれらの一部を柔軟なペプチドリンカーによってつなぎ合わせた遺伝子的に設計された抗体フラグメントである。任意に、scFvは、対象となる抗体のCDR領域と別の抗体のフレームワーク領域とを含む。scFvフレームワークおよび/またはCDR領域のアミノ酸配列は、ヒト用医薬として使用するために任意にヒト化されて抗原性を低減する。本発明は、16D3のscFvおよび配列番号24と配列番号26をそれぞれ含むそのヒト化scFvを提供する。抗体の単鎖可変部分を得る方法は当業者に知られており、本書の実施例6に記載されている。例えば、この方法は、別々の反応におけるヒト重鎖および軽鎖の可変部分のDNA配列の増幅およびクローニングと、その後の15アミノ酸リンカー配列の挿入、例えば2工程ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による(Gly4Ser)3のVHとVLとの間への挿入を含み得る(例えば、Dieffenbach and Dveksler,“PCR Primer,a laboratory manual”(1995),Cold Spring Harbour Press,Plainview,NY,USAを参照)。得られたフラグメントは、次に、単鎖可変フラグメントを可溶性またはファージ提示ポリペプチドとして発現するために適切なベクターに挿入することができる。これは、当業者に周知の方法、例えばGilliland等(Tissue Antigens(1996)47:1−20)に記載された方法により達成することができる。
【0037】
本発明は、抗体16D3の超可変領域を代表とする抗原結合ペプチドまたはそれらの組合せである16D3のフラグメントも提供する。そのようなペプチドは、applied biosystem合成機、例えばMilligen(USA)から入手可能なモデル9050や関連技術からのモデル等のポリペプチド合成機を用いた合成により得ることができる。
【0038】
本発明のさらなる実施形態は、抗体16D3の誘導体またはそれらのフラグメントに関する。特に、本発明は、配列番号2と配列番号4にそれぞれ開示された可変重鎖領域および/または可変軽鎖領域を含むが、そのうち定常領域が16D3とは異なる抗体に関する。さらに、またはその代わりとして、本発明の抗体16D3の誘導体は配列番号17(GYTFTDYY)、配列番号18(IYPGSGNT)、配列番号19(VRDSPFFDY)、配列番号20(QSLLNSGMRKSF)、配列番号21(WAS)および配列番号22(KQSYHLFT)に示される16D3の少なくとも2つのCDRを含む一方で、CDRおよび/または定常領域間のフレームワーク領域は異なる。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、配列番号2と配列番号4にそれぞれ提供された16D3の重鎖および軽鎖の可変領域に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する抗体16D3の誘導体またはそれらのフラグメントが提供される。最も特には、本発明は、CDR領域内で配列番号2および配列番号4のそれぞれに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域および/または軽鎖領域を含む抗体16D3の誘導体またはそれらのフラグメントを提供する。フレームワーク内の配列同一性は、80%未満でありうるが、これに限定されるものではない。配列番号17〜配列番号22の配列に対してそれぞれ少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つのCDRを含む誘導体も想定される。
【0040】
さらなる実施形態において、本発明は、最も特にはCDR領域内において、配列番号24に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列、および配列番号26に対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む16D3のscFvの誘導体を提供する。
【0041】
別の実施形態にしたがえば、本発明は、ヒト化された16D3の誘導体またはそれらのフラグメントを提供する。16D3のそのようなヒト化誘導体は、それらがPlGFに対する結合親和性を保持する点において相同的である。特定の実施形態によれば、16D3のヒト化誘導体もPlGF活性を阻害する能力を保持する。非ヒト抗体のヒト化は、ヒト抗体の骨格にさらによく似るように、抗体の骨格の1つ以上のアミノ酸、すなわち、抗体の抗原への結合に関わらないアミノ酸を置換することにより達成される。さまざまなタイプまたはレベルのヒト化が想定される。本発明の特定の実施形態は、非ヒト抗体またはフラグメントの全領域、特には定常領域が、キメラ(例えばヒト/マウス)抗体またはフラグメントをもたらすようにヒト抗体の定常領域により置換された抗体またはフラグメントに関する。さらに特定の実施形態は、PlGFに対する非ヒト抗体の抗原結合アミノ酸(例えば、2つ以上のCDR)がヒト抗体の骨格に導入された抗体(例えば、CDRグラフト化抗体)である。非ヒトモノクローナル抗体の結合相補性決定領域(「CDR」)をヒトフレームワーク領域(特に、ヒト遺伝子の定常C領域)に結合させる方法は、例えば、Jones等(Nature(1986)321:522)またはRiechmann(Nature(1988)332:323)により開示されているように当業者に公知である。もしくは、本発明の非ヒト抗PlGF抗体のさらに限られた数のアミノ酸の置換も想定される。本発明の特定の実施形態は、図9のヒト化可変重鎖および/または軽鎖領域またはそれらの一部を含む抗体および配列番号17〜配列番号22の少なくとも2つ、さらに特には3〜5つ、最も特には6つすべてのCDRを含む抗体に関する。本発明のさらなる実施形態は、配列番号6および配列番号8のそれぞれに少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する可変の重鎖および/または軽鎖領域を含むヒト化抗体に関する。もしくは、本発明は配列番号17〜22のそれぞれに対して少なくとも80%、特には少なくとも85%、さらに特には少なくとも90%、最も特には少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも2つ、さらに特には3〜5つ、最も特には6つすべてのCDRを含むヒト化抗体を提供する。
【0042】
したがって、本発明はマウス抗体16D3に由来するヒト化および/またはキメラまたはハイブリッド抗体に関する。特定の実施形態において、マウス抗体16D3の特定のアミノ酸は、免疫原性アミノ酸を除くために変異させられる。したがって、特定の実施形態において、本発明は、アミノ酸配列:I2V、P9A、K40Aおよび/またはT111Lの1つ以上が変化した配列番号2による重鎖可変部分のアミノ酸配列を含む抗原結合性分子に関する。さらに、または代わりに、抗体16D3に由来するヒト化抗体は、S5T、S9D、A15L、Kl8R、R22Nおよび/またはL89Vアミノ酸の1つ以上が変化した配列番号4による軽鎖可変部分のアミノ酸配列を含む抗原結合性分子である。よって、特定の実施形態によれば、本発明は、アミノ酸配列:I2V、P9A、K40Aおよび/またはT111Lの1つ以上が変化した配列番号2による重鎖可変部分のアミノ酸配列と、アミノ酸配列:S5T、S9D、A15L、K18R、R22Nおよび/またはL89Vの1つ以上が変化した配列番号4の軽鎖可変部分のアミノ酸配列とを含む抗原結合性分子を提供する。
【0043】
別の実施形態において、本抗体はマウス抗体16D3の(ヒト化)可変軽鎖および/または重鎖がヒト免疫グロブリンフレームにグラフトしているか、またはヒト抗体の定常領域、特にヒトIgG定常領域に結合している点でさらにヒト化されている。この点で特に適するのは、体内でナチュラルキラー細胞を活性化することのできるIgG1κ(IgG1−カッパ)である。よって、特定の実施形態において、本発明はハイブリッドHu16D3−IgG1κに関する。本発明の別の実施形態は、ハイブリッドHu16D3−IgG4κハイブリッドである。ヒトIgG抗体(およびヒトIgG骨格および/または定常領域を用いて得られたハイブリッド抗体も)は長期の半減期を示すので、非常に安定的な血漿レベルを提供し、投与頻度の大幅な低減を可能とする。さらに、ヒト化抗体または誘導体の使用は免疫応答を引き起こす危険性が最小である。
【0044】
本発明のさらなる実施形態は、抗体16D3またはそのフラグメントに相同的な抗原結合性分子、すなわち、抗体16D3と同じエピトープに結合する抗原結合性分子に関する。一実施形態において、相同的抗原結合性分子は、動物、特にマウスでの故意の免疫化により、例えば、PlGFをマウスに注射し、次に脾臓リンパ球をマウスミエローマ細胞系に融合した後に、(例えば、PlGFへの結合に関するスクリーニングにより)抗PlGF抗体を産生する細胞培養物を同定し、それらをクローニングすることにより産生される。抗体の任意のさらなる選択は16D3エピトープに対する反応性、または抗体16D3またはそのフラグメントとの競合に基づいて実施される。
【0045】
よって、本発明のさらに別の態様は本発明の抗原結合性分子を作る方法に関する。これらの方法として、本明細書の実施例の部分で提供される抗体16D3に対するヒト化の方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0046】
本発明のさらに別の態様は、本発明の抗原結合性分子、最も特にはその抗原結合領域をコードする塩基配列の提供に関する。本発明の特定の実施形態は、抗体16D3の重鎖および軽鎖領域をコードする細胞株16D3の配列に対応する配列番号1および配列番号3の塩基配列等の、しかし、これらに限定されない配列番号2および配列番号4により規定される可変重鎖領域および軽鎖可変領域をコードする塩基配列に関する。さらに本発明に関して、配列番号17〜22で同定されるモノクローナル抗体16D3の1つ以上のCDR領域をコードする塩基配列が提供される。本発明の特定の実施形態として、配列番号23と配列番号25等の、しかし、これらに限定されない16D3のscFvとヒト化scFvをそれぞれコードする配列が挙げられる。本発明は、本書に記載の16D3の誘導体およびそれらのフラグメントをコードする塩基配列も提供する。さらに、本発明は、実施例の部分に記載されるプライマー等の、しかし、これらに限定されない、上記塩基配列に特異的にハイブリダイズできるプローブおよびプライマーを提供する。
【0047】
また、本発明は、本明細書に記載のモノクローナル抗体、それらのフラグメントまたは誘導体をコードする配列に相補的な塩基配列を含む。
【0048】
本発明のさらなる態様は本発明の抗原結合性分子の治療的応用に関する。したがって、本発明は本発明の抗原結合性分子の医薬としての使用を提供する。この点において、本発明は、血管新生が病気または疾患の病理に寄与する病気または疾患の予防または治療のために、本発明の1つ以上の抗原結合性分子を含む医薬組成物を提供する。したがって、血管新生が病気または疾患の病理に寄与する病気の治療および/または予防の方法において、そのような治療または予防を必要とする哺乳類に、本書に記載の1つ以上の抗原結合性分子を含む治療有効量の組成物を投与することからなる方法である。
【0049】
そのような病気において、血管新生は「病的血管新生」とも称される。そのような病的血管新生の実例として、血管の病態(アテローム動脈硬化、血管腫、血管内皮腫)、骨関節の病態(関節リウマチ、滑膜炎、骨と軟骨の破壊、骨髄炎、パンヌス増殖、骨棘形成、新生物および転移)、皮膚の病態(いぼ、化膿性肉芽腫、発毛、カポジ肉腫、瘢痕ケロイド、アレルギー性浮腫、新生物)、肝臓、腎臓、肺、耳および他の上皮の病態(肝炎、糸球体腎炎、肺炎、喘息、鼻ポリープ、耳炎等の炎症および感染プロセスおよびこれらの器官における移植、再生、新生物および転移)、子宮、卵巣および胎盤の一定の病態(機能不全性子宮出血、例えば、子宮内避妊器具、卵胞嚢胞形成、卵巣過刺激症候群、子宮内膜症、新生物によるもの)、脳または神経の病態(新生物および転移)、一定の心臓と骨格筋の苦痛(例えば、作業過負荷によるもの)、脂肪組織の病的状態(肥満)および内分泌器官(甲状腺炎、甲状腺腫脹、膵臓移植)において観察される血管新生が挙げられる。さらに、病的血管新生は血液生成の病気(エイズ、カポジ)、血液悪性腫瘍(白血病等)にも寄与しうる。
【0050】
多くの目の病気において、病的血管新生は重要な因子であると考えられているので、本発明の抗原結合性分子による治療が想定される。「網膜虚血性疾患」においては、網膜による血液と酸素の供給が減少し、網膜の末梢部がそれらの栄養源を失い、適切に機能することを止める。網膜症の一般的原因は、網膜中心静脈閉塞症、頸動脈の狭窄、糖尿病(糖尿病性網膜症)および貧血(鎌状赤血球網膜症)である。網膜症は早産児にも観察される(未熟児網膜症)。糖尿病性網膜症は糖尿病患者の視力喪失の主要な原因である。虚血性網膜では、新しい血管の増殖が起こる(新血管形成)。これらの血管は、網膜の表面、視神経、または虹彩上の目の前面でしばしば成長する。これらの新しい血管は必要な栄養の流れを交換することができず、その代わりに、硝子体出血、網膜剥離および調節されない緑内障等の多くの問題を引き起こしうる。これらの問題は、新しい血管は壊れやすく、出血する傾向があるために生じる。その初期段階で発見されれば、増殖性糖尿病性網膜症の進行は汎網膜光凝固により時には止めることができる。しかし、硝子体切除術が唯一の選択肢である場合もある。血管新生が重要な役割を果たしていると思われる他の目の病気は、脈絡叢および他の眼球内疾患、白質軟化症および新生物と転移である。脈絡膜血管新生は、脈絡膜から始まる新しい血管のブルッフ膜の破壊を経た網膜下色素上皮(sub−RPE)または網膜下腔への増殖である。CNVの位置、成長パターンおよびタイプ(1または2)は患者の年齢や基礎疾患に依存する。出血と浸出はさらなる増殖とともに起こり、視覚症状の主な原因となる。脈絡膜血管新生(CNV)は、視力喪失の主要な原因である。CNVは近視者の5〜10%に起こると推定され、治癒期中に事実上すべての脈絡膜破裂において起こる。ほとんどが自発的に退行するが、患者の15〜30%で、CNVは再発し、視力喪失を伴う出血性または漿液黄斑性剥離に至る。
【0051】
「肺性高血圧」との用語は、肺動脈の血圧が異常に高い疾患をいう。心臓または肺の他の病気が存在しない場合、それは原発性肺高血圧と呼ばれる。肺動脈の散在性狭小化は、病的動脈新生とその後の血液流に対する抵抗性の高まりの応答としての肺性高血圧の結果として起こる。その発症は100,000人あたり8人で起こる。しかし、肺性高血圧は、さらに、気腫、慢性気管支炎またはびまん性間質性線維症等の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併症として、喘息形COPDを有する患者において起こりうる。COPDの発症は10,000人あたり約5人で起こる。
【0052】
血管新生が病気の病理に寄与する疾患で、本発明の抗原結合性分子による治療が想定される疾患のさらなる実例は炎症疾患群である。本明細書において用いられる「炎症」は、生体組織の傷害に対する局所的な制御されない反応(すなわち、身体的、化学的または感染の結果としての反応)、特に小血管の局所反応、それらの内容物およびそれらの関連構造の局所反応を意味する。血液成分の血管壁を経た組織への通過は炎症の特徴であり、そのように形成された組織収集物は浸出物または浮腫と呼ばれる。細菌感染、過度の熱、寒さ、押し潰し等の機械的傷害、酸、アルカリ、照射またはウイルス感染等の、しかし、これらに限定されない生体組織を損傷するいかなる有害なプロセスも、関与する器官または組織には関係なく炎症を引き起こしうる。そのような「炎症性疾患」として、火傷から肺炎、ハンセン病、肺結核および関節リウマチまでにわたる反応が挙げられる。
【0053】
術後癒着形成(POA)は婦人科手術、骨盤手術および心臓病学的手術でよくある外科合併症である。組織への外科手術による外傷は、損傷した組織を別の器官に結合させる永久的な瘢痕形成をしばしば引き起こす。よって、そのような損傷の部位において、普通は別々であり続ける内部組織がしばしば結合される。癒着形成から生じる合併症は、腸閉塞、小腸閉塞、慢性的な骨盤痛および婦人の不妊である。「癒着形成」との用語はその医学的意味において、2つの表面または部分を癒着または一体化するプロセスである膠着反応をいう。例えば、傷の相対する表面または腹膜の相対する表面の一体化をいう。また複数形の癒着(adhesions)は相対する漿膜面を結合させる炎症性のバンドをいうことができる。本書で用いられる癒着との用語は、血漿またはリンパの浸出物または血液の血管外遊出から生じるフィブリンの細い糸からなる癒着である線維素性癒着も含む。損傷の領域に生じる、または自然に生じることのある線維芽組織の滑らかな過成長であるケロイドも癒着の一形態である。胎盤成長因子(PlGF)の阻害は術後癒着形成の著しい抑制を導くことが示された(WO03063904)。
【0054】
さらに、骨粗鬆症等の、しかし、これに限定されない骨吸収を特徴とする病気はPlGFの阻害から利益を受けうることが示されている(WO2004002524)。
【0055】
したがって、特定の実施形態によれば、本発明の抗原結合性分子は、腫瘍成長と転移、目の病気、炎症、癒着形成および肺性高血圧の治療および/または予防に特に適する。
【0056】
本発明のさらなる特定の実施形態は、胸、肺、前立腺、脳、肝臓、膵臓、結腸、腎臓、子宮または骨髄の癌等の、しかし、これらに限定されない癌の予防および/または治療のための本発明の抗原結合性分子の使用に関する。特に、本発明は、大腸癌、乳癌、膵臓癌および黒色腫等の、しかし、これらに限定されない固形腫瘍の予防および/または治療のための本発明の抗原結合性分子の使用に関する。さらに詳細には、本発明の抗体がヒト膵臓腫瘍の退行を得るために特に適することを示すデータが本書に提供される。本発明の抗体はインビボで腫瘍の大きさを顕著に減少させることが示され、それにより約50%までの大きさの減少が示される。このように、本発明は腫瘍の大きさを少なくとも20%、さらに特には少なくとも30%、最も特には少なくとも50%減少させる方法および医薬組成物を提供する。
【0057】
本発明のさらなる特定の実施形態は、骨疾患の治療または予防において、より具体的には例えば骨粗鬆症または骨軟化症等の増強骨吸収が存在する状態の治療のための本発明の抗原結合性分子の使用に関する。
【0058】
したがって、本発明は上記病気の治療用医薬の製造のための本発明の抗原結合性分子の使用に関する。
【0059】
本発明の重要な態様として、抗体、それらのフラグメントおよび誘導体が、他の抗血管新生治療、より詳細にはVEGF等の血管新生因子を標的とする別の治療に帰せられる副作用またはそれらの治療で予測される副作用なしに上記病気の治療および/または予防を可能とすることが挙げられる。組換えヒト抗VEGF抗体による前臨床の安全性試験は、VEGFの阻害が生理学的血管新生の阻害、より具体的には長期的な骨成長および黄体形成における新血管新生阻害をもたらすことを早くも1999年に示した(Ryan et al.,1999)Toxicologic pathology 27(l):78−86)。最近の研究は、VEGF阻害剤が、健康な気管と甲状腺の血管の退縮を引き起こすし、それによって臓器障害がもたらされることもあることを記載している(Baffert et al,2004,Circ Res 94:984−992;Inai et al.,2004 Am J Pathol 165:35−52)。それにもかかわらず、抗ヒトVEGF抗体であるベバシズマブは、創傷治癒、血圧および血栓症の危険性に対するその観察される効果にもかかわらず、腫瘍縮退に対するこの抗血管新生アプローチの全体的有効性のために、血管新生の抑制因子として現在販売されている。本発明の抗PlGF抗体および誘導体は、血圧、創傷治癒、血栓症の危険性、および健康な器官での血管退縮に対するこれらの観察された副作用なしに、望まれない血管新生の阻害を可能とする。
【0060】
本発明の特定の実施形態は、有効成分として、モノクローナル抗体16D3またはそのフラグメントまたは誘導体を医薬的に許容される担体と混合して含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は治療有効量の1つ以上の抗原結合性分子を含む。同様に、本発明は、本発明の治療有効量の1つ以上の抗原結合性分子を投与することからなる治療および/または予防の方法を提供する。
【0061】
本明細書において用いられる治療有効量は、治療される哺乳動物の体重1キログラムあたり(mg/kg)約0.5mgから約50mg/kg、より好ましくは約1mg/kg〜約10mg/kgの範囲内にある量を意味する。ほとんどのIgGヒト抗体の長い半減時間を鑑みれば、このクラスのモノクローナル抗体である本発明の抗原結合性分子は、患者の快適さに関わる治療の周期性に恵まれていることが理解される。
【0062】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の抗原結合性分子および別の血管新生阻害剤を含む医薬組成物、ならびに本発明の抗原結合性分子および別の血管新生阻害剤の同時または連続投与を提供する治療方法が提供される。実際、本発明は、本発明の抗原結合性分子と、抗VEGF抗体等の別の血管新生阻害剤との腫瘍成長の阻害に対する相加作用を示す。さらに具体的には、本発明の16D3抗体とAvastin(登録商標)の併用は腫瘍の大きさを約70%まで低減することができるが、Avastin(登録商標)のみまたは抗PlGF抗体のいずれかの増加投与量は同じ条件で55%を超える腫瘍の大きさの減少には達しないことが示されている。適切な他の抗血管新生産物、ならびにそれらが属するクラスに依存するそれらの通常の投与量は当業者によく知られている。血管新生阻害剤の例として、Avastin(登録商標)の名前で商品化されたVEGFに対する抗体等、VEGFに直接作用するか、またはVEGFレセプターに作用するVEGF阻害剤が挙げられる。本発明の抗体は、上記のように多くの副作用を引き起こすことが知られている例えばVEGFを阻害する血管新生阻害剤の投与量を減少させることができる。
【0063】
本発明の医薬組成物は、治療される病気に対して有効な他の化合物/医薬、さらに具体的には腫瘍増殖、炎症、目の病気および肺性高血圧の治療に有用な他の化合物/医薬の治療有効量をさらに含んでよい。
【0064】
本発明の医薬組成物に使用される適切な医薬担体は例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences、第16版(1980年)に記載されており、それらの処方は当業者によく知られている。それら担体として、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤(例えば、フェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(例えば、糖または塩化ナトリウム)等が挙げられる。組成物中のモノクローナル抗体有効成分の作用持続時間を制御するために、さらなる成分を含めてもよい。したがって、制御放出組成物は、例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、硫酸プロタミン等の適切なポリマー担体を選択することにより、得ることができる。医薬の放出速度と作用の持続時間はモノクローナル抗体有効成分を、ハイドロゲル、ポリ乳酸、ヒドロキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸メチルおよび他の上記ポリマー等の重合物質の粒子、例えば、マイクロカプセルに導入することで制御してもよい。そのような方法は、リポソーム、微粒子、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、ナノカプセルのようなコロイド薬送達システムを含む。投与経路に依存して、有効成分を含む医薬組成物は保護被膜を必要とすることがある。注射可能な使用に適する医薬形として、滅菌水溶液または分散液およびそれらの即時調製用の滅菌粉末が挙げられる。そのための典型的な担体として、生体適合性水性緩衝液、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0065】
本発明の抗原結合性分子は当分野でよく知られた手段、すなわち、経口、鼻腔内、皮下、筋肉内、皮内、静脈内、動脈内、非経口で、またはカテーテル法により患者に提供することができる。
【0066】
本発明の特定の態様にしたがえば、本発明の抗原結合性分子は遺伝子治療により投与される。抗体に基づいた遺伝子治療によって、大量生産、体内分布、迅速な血中クリアランスおよび一価抗体の乏しい保持等、抗体の投与に関連した多くの潜在的な制限を克服することが可能となる。インビボ生産は抗体の免疫原性を低下させ、抗体の耐容性を良好とし、抗原結合性分子またはそれらのフラグメントの効果的で持続的なレベルをもたらす。さらに、遺伝学的アプローチは抗原結合性分子に対する新しい機能の提供を可能とする。さまざまな細胞/組織によるモノクローナル抗体のインビボ生産と全身送達の実現可能性がウイルスベクターによるインビボ遺伝子移入を用いて示された(Pelegrin et
al.,2004,Gene Ther 4:347−356)。抗血管形成活性を有する抗ラミニン抗体による線維肉腫細胞の遺伝子組み換えにより、インビトロおよびインビボでの腫瘍増殖の減少も示されている(Sanz et al.2001,Cancer Immunol Immunother 50:557−565)。
【0067】
したがって、本実施形態によれば、本発明は、本明細書に記載の病的血管新生を特徴とする病気の治療において、遺伝子治療に使用される本発明の抗原結合性分子をコードするヌクレオチドを提供する。特に、本発明は、遺伝子治療に使用される配列番号2により規定される可変重鎖領域をコードする塩基配列および/または配列番号4により規定される軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含む組成物を提供する。さらに具体的には、本発明は、抗体16D3の重鎖および軽鎖領域をコードする細胞株16D3の配列に対応する配列番号1および/または配列番号3の塩基配列を含む組成物を提供する。本発明に関して、配列番号17〜22に同定されたモノクローナル抗体16D3の1つ以上のCDR領域をコードする塩基配列を含む組成物も提供される。本発明の特定の実施形態は、配列番号23および配列番号25等の、しかし、これらに限定されない16D3のscFvおよびヒト化scFvをそれぞれコードする配列を包含する。
【0068】
本発明による治療および/または予防の方法は、医薬組成物の表題で以上に開示された治療有効量の血管新生阻害剤または抗腫瘍剤を患者に投与することにより、好ましくは連続的に投与することにより、上記の病的血管新生状態の治療または予防をさらに含むことができる。本明細書において用いられる連続的とは、本発明のリガンドと公知の血管新生阻害剤とを患者に同時ではなく、連続的に投与することを意味する。
【0069】
本発明のさらに別の態様は、ヒト試料中のPlGFの免疫学的検出のため、およびそのような検出に適するキットの成分としての本発明の抗原結合性分子の使用に関する。抗原の免疫学的検出法は当分野で公知であり、EIA、ELISAやRIAおよび免疫組織化学法が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のマウス抗体のPlGF抗原への結合は間接的に、例えば、標識抗マウス抗体により検出することができる。もしくは、抗体またはそのフラグメントは直接標識することができる。本発明のこの態様の特定の実施形態は、抗PlGFによる治療に感受性のある患者の同定におけるPlGFに対する抗体およびその抗原結合性フラグメントの使用に関する。これは癌の治療に特に重要である。
【0070】
本発明のさらに別の態様は、本発明の抗原結合性分子の診断ツールとしての使用に関する。多くの病的状態において、PlGF発現はアップレギュレートされることが当分野で示されている。さらに具体的には、多くの腫瘍がPlGFを過剰発現することが示されている。本発明のヒト化抗体または抗体フラグメントは、例えば本発明の抗体または抗原結合性フラグメントが標識され、インビボで可視化されるイメージング技術により、これらの病的状態の診断に用いることができる。本発明の抗原結合性分子の結合をインビボで画像化するための多様な標識が当分野で知られており、それぞれが特定の(照射および)検出装置を必要とする光学的(例えば蛍光)標識、金属標識および磁気標識が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のこの態様の特定の実施形態は、病気の予後を予測し、治療計画を決定する際の本発明の抗体の使用に関する。
【0071】
本発明のさらに別の態様は、抗PlGF治療に併用される化合物のスクリーニングでの動物モデルにおける本発明の抗原結合性分子の使用に関する。そのようなモデルとして、nu/nuマウスでのヒト腫瘍の増殖と発達が研究される腫瘍モデルが挙げられるが、これに限定されない。試験化合物と本発明の抗体またはフラグメントとの併用投与は、その化合物が本発明の抗体もしくはフラグメントのみを投与した際に観察された効果に対して相加効果を有するかどうかを同定することを可能とする。抗PlGF抗体と組み合わされた化合物の対抗有効性または毒素等の他の側面もまたこのようにして決定できる。
【0072】
上記の治療的応用以外に、上記の本発明の塩基配列は、例えば組換え法により抗体および他の抗原結合性フラグメントの生産に有用である。したがって、本発明は、抗体遺伝子のクローニングと操作、scFvや本明細書に記載する塩基配列を用いた他の抗原結合性フラグメントの生産を含む、組換え抗体および抗体フラグメントの生産方法をさらに提供する。これらの方法の手順書は当分野で入手可能である。さらに、本発明の抗体および抗体フラグメントの発現についてスクリーニングするために、本発明の塩基配列に特異的にハイブリダイズするプローブを用いることができる。
【0073】
例示目的のためのみに提供される下記の実施例によって本発明をさらに説明する。
実施例
【実施例1】
【0074】
マウス抗ヒトPlGF抗体(16D3)の産生と特性づけ
1.マウスの免疫付与と融合
ヒトPlGFに対するモノクローナル抗体は基本的にはGalfreおよびMilstein(Galfre F,Milstein C. Preparation of monoclonal antibodies:strategies and procedures. Method Enzymol 1981;73:3−46)に記載されたように作った。手短に説明すれば、PlGFノックアウトマウス(Luttun et al.,2002,Biochem Biophys Res Comm 295(2):428−34,Carmeliet et al.(2001),Nat Med 7:575−593またはWO01/85796)を、フロイント完全アジュバント中の50μgの組換えヒトPlGF−2(Pichiaにおいて産生)の皮下注射と、それから2週間後のフロイント非完全アジュバント中の50μgの組換えヒトPlGFの皮下注射により免疫付与した。血液試料(約100μl)を10日後にマウスの尾から集めた。血清は、ヒトPlGFをキャプチャとして被覆したマイクロタイタープレート、希釈血清の適用(1/500〜1/8000)および標識用に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合化ヤギ抗マウスIgGを用いるELISAにより抗huPlGF抗体について調べた。
【0075】
少なくとも6週間の間隔の後に、(高い陽性反応を有する)マウスに対して細胞融合の4日前と2日前に塩水中の50μgの組換えヒトPlGFを腹腔内に追加免疫を行なった。
【0076】
脾臓細胞を単離し、Sp2/0−Ag14骨髄腫細胞に融合した。ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン培地中での選択後、培養上清を上記のようにELISAに適用することによって陽性クローンを選択した。
2.ProSep vA Ultraによる抗体の精製
ProSep vA Ultra(Millipore)を用いるアフィニティクロマトグラフィによって、製造者の手順書にしたがって抗体を細胞培養物から精製した。手短に説明すれば、150mMのNaClを上清に加え、PBSで前もって平衡化しておいたProSep vA Ultraカラムに上清を加えた。カラムはPBSで洗浄し、結合タンパク質を0.1Mグリシン(pH2.8)で溶出した。溶出タンパク質はPBSに対して透析した。溶出タンパク質の純度は還元および非還元状態下でSDS−PAGEにより確認した。
3.(実施例2に記載したように得た)16D3/hu16D3のPlGFに対する結合(図1を参照)
ELISAプレートを、PBS中の1μg/mlのhuPlGF−2(Pichia)により100μL/ウエルにて4℃で被覆した。1%BSAによる1時間、室温でのブロッキング後、16D3/hu16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、抗体を1時間室温で結合させた。結合した16D3をヤギ抗ヒトまたはヤギ抗マウスIgG−HRP(Sigma)により100μL/ウエルにて、1時間、室温で検出した。アッセイはOPDにより開発された。
4.huFlt−1レセプターに対するPlGF結合の阻害(図2を参照)
ELISAプレートを、1μg/mlのhuFlt−1(R&D Systems)により200μL/ウエルにて4℃で被覆した。1%BSAによる1時間、室温でのブロッキング後、16D3/hu16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、さらに100μL/ウエルのhuPlGF−2を加えた。室温での2時間のインキュベーション後、結合したPlGFをヤギ抗huPlGF(R&D Systems)により180μL/ウエルにて、1時間、室温で検出した後に、RAG−HRP(DAKO)とともに1時間、室温でインキュベートした。アッセイはOPDにより展開された。
5.Biacore実験による16D3およびFab 16D3のさらなる特徴づけ
・阻害:rhuPlGF−2(Pichia,TX)を、EDC/NHS化学(アミンカップリングキット、Biacore)を用いてCM5チップに固定化して、412RUを得た。16D3を注射した後、rhuFlt−1/Fcキメラ(R&D Systems)を注射した。この操作を、マウス抗体の代わりに緩衝液を用いても実施した。これらはネガティブコントロール流路にわたっても注入し、これらの値は既に差し引いた。このアッセイはリン酸緩衝液(pH9.6)で実施した。
【0077】
rhuFlt−1のrhuPlGF−2への最大結合に比較して、rhuFlt−1のシグナルは最初の16D3または16D3Fabが注射されている場合に減少する(図3)。
6.16D3のマウス可変領域のクローニングと配列決定
・mRNAの単離:16D3のハイブリドーマ細胞のmRNAをQuickPrep(登録商標)マイクロmRNA精製キット(Amersham Biosciences)を用いて単離した。このmRNAは、First−Strand cDNA合成キット(Amersham Biosciences)を用い、キットで利用できるpd(N)6プライマーによりcDNAを作るために使用された。
・PCR:重鎖および軽鎖の可変部分の配列は、一群のプライマー(リーダー配列で始まる8プライマーと重鎖の定常領域で始まる2プライマー、リーダー配列で始まる11プライマーと軽鎖の定常領域で始まる1プライマー)を用いるPCRを実施することにより見出した。プライマーの異なる組合せによる8回および11回のPCR反応を実施した。
抗体16D3の重鎖のために用いられるプライマー:
MHVR3 5’−ATG GRA TGG AGC TGK ATC WTT HTC−3’(配列番号9)
MHCR1 5’−CAS AYM CAG GGG CCA GTG GAT AGAC−3’(配列番号10)
抗体16D3の軽鎖のために用いられるプライマー:
MKVR3 5’−ATG RAG TCA CAK ACY CAG GTC TTYRTA−3’(配列番号11)
MKCR1 5’−GCT CAC TGG ATG GTG GGA AGA TGG−3’(配列番号12)
PCRセットアップ:変性、10分間、94℃;変性、30秒間、94℃;アニーリング、30秒間、55℃;伸長、1分間、72℃;伸長、5分間、72℃;サイクル数、30回。
【0078】
配列番号9〜11の配列における重複性は慣用の略号を用いて示す:R=AまたはG、K=GまたはT、W=AまたはT、H=AまたはCまたはT、S=CまたはG、Y=CまたはT、M=AまたはC。
・クローニングおよび配列決定:PCR産物をアガロースゲルに負荷し、右側のバンドを選択し、精製し(QIAquick(登録商標)Gel Extractionキット、Qiagen GmbH社)、配列決定用Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキット(Invitrogen(登録商標) life technologies)に供給されたpCR(登録商標)4Blunt−TOPO(登録商標)ベクターにクローニングした。プラスミドDNAはHigh Pure Plasmid Isolation Kit(Roche Diagnostics社)を用いて調製し、T7およびM13リバースプライマーを用いてABI PRISM(登録商標)310(PE Applied Biosystems)により挿入物の配列を決定した。
・抗体16D3の重鎖と軽鎖の可変領域の塩基配列とアミノ酸配列を配列番号1、配列番号2、配列番号3および配列番号4に示す(図11を参照)。
【実施例2】
【0079】
ヒト化抗ヒトPlGF抗体(16D3)の産生と特徴づけ
1.ヒト化16D3の構築
可変領域のヒト化
・変異:マウス抗体16D3の可変部分をヒト化するために以下の変異を行なった:
重鎖: I2V
P9A
K40A
T111L
軽鎖: S5T
S9D
A15L
K18R
R22N
L89V
・変異はQuickChange(登録商標)Multi Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社(登録商標))を用いて行なった。変異を含む1〜5プライマーを1回のPCRに使用することができた。形質転換後、コロニーを採集し、DNAの配列決定を行なって、ほとんどの点突然変異を有するクローンを決定した。このクローンを取って、すべての変異が配列に存在するまでこの操作を繰り返した。
可変領域のヒトIgG定常領域への連結:
PCRを実施することにより、適切な制限部位が付加された重鎖と軽鎖のヒト化可変部分を得た。
軽鎖の可変部分用プライマー:
プライマー1:5’−CCACCGGT GAC ATT GTG CTG ACC CAG TCT CC−3’(配列番号13)
プライマー2:5’−CACCGTACG TTT TAT TTC CAA CTT TGT CCC CGA G−3’(配列番号14)
重鎖の可変部分用プライマー:
プライマー3:5’−CAG GTC CAG CTG CAG CAG TCT G−3’(配列番号15)
プライマー4:5’−GATGGGCCCTTGGTCGACGC TGA GGA GAC TGT GAG CAG GG−3’(配列番号16)
PCRセットアップ:変性、5分間、94℃;変性、30秒間、94℃;アニーリング、30秒間、60℃;伸長、30秒間、72℃;伸長、5分間、72℃;サイクル数、25回。
【0080】
PCR産物をアガロースゲルにロードし、バンドを選択し、精製した(QIAquick(登録商標)Gel Extractionキット、Qiagen GmbH社)。16D3の重鎖の可変部分のPCR産物をSalIで消化し、ヒト抗体(IgG4)の重鎖の完全定常部分を含むベクターpKANEO−MCS50−Hleu−var#24をEco47IIIとSalIで消化し、連結した。最初に、軽鎖の可変部分のPCR産物を配列決定用Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキット(Invitrogen(登録商標) life technologies)に供給されたpCR(登録商標)4Blunt−TOPO(登録商標)ベクターにクローニングした。軽鎖の可変部分をAgeIとBsiWIにより切り出し、ヒトカッパ軽鎖の定常部分を既に含んでいるベクターpKANEO−CM30−L−var#7にクローニングした。両ベクターは、PmeIとPacIを用いてベクターから軽鎖の発現カセットを取り出して、これを、重鎖を含むベクターに付加することによって、1つのベクターへと組み立てた。
【0081】
ヒト化抗体16D3の重鎖と軽鎖の可変部分の塩基配列とアミノ酸配列を配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8に示す(図12を参照)。
2.hu16D3の一時的発現
FreeStyle 293 Expression System(Invitrogen)を製造者の使用説明書にしたがって使用して、Hu16D3 IgG4κをHEK293細胞に一時的に発現させた。Hu16D3は、proSep vA Ultraによるアフィニティクロマトグラフィを用いて上清から精製した。精製Hu16D3は、還元および非還元条件下でSDS−PAGEにより純度を確認した。Hu16D3は、huPlGFに対する結合に関して、およびHuPlGF/huFLT−1結合の阻害に関して、ELISAによりさらに調べた(図1および図2を参照)。
【実施例3】
【0082】
腫瘍増殖の抗PLGF抗体による阻害のインビボ研究
1.材料と方法の一般的説明
細胞培養
マウス膵臓細胞株Panc02およびヒト膵臓細胞株DanGはS.Rosewicz(Charite−Universitatsmedizin、ベルリン、ドイツ)の親切な寄贈品である。ヒト乳房MDA−MB、結腸LOVOおよび黒色腫Mel2a細胞株はAmerican Type Culture Collection(ATCC;マナッサス、VA、USA)から得た。すべての細胞は推奨されたように培養した。抗体に対する免疫反応を避けるために、マウス16D3抗PlGF抗体をすべてのインビボ実験に用いた。
実験動物
すべての動物手順は、動物実験委員会(the institutional animal care and use committee)により完全に承認された。メスNMRI nu/nuマウスを準滅菌条件下で収容し、8〜10週齢(およその体重、25g)で定期的に使用した。腫瘍源の調製のために、腫瘍細胞をトリプシン処理して単細胞懸濁物を調製し、PBSで洗浄した。その遠心ペレットを200μlのPBSに再懸濁し、マウスの右脇腹に皮下注射した。同所性膵臓腫瘍モデルのために、30μlのPBS中の1×106腫瘍細胞を、9〜10週齢のメスC57B16マウスの腹部開腹術により膵臓頭部に注射した。これらの手順の前に、マウスはケタミン(90mg/体重kg)およびキシラジン(9mg/体重kg)で麻酔した。
医薬(すなわち、抗体、ビヒクル等)の投与
抗体またはビヒクルコントロールによる処置は、腫瘍が約60mm3の大きさに達したときに開始した。抗体P15D11D4(WO01/85796)、16D3、1C8またはビヒクルは、示された用量で腹腔内に1日おきに投与した。Avastinは、示された用量で腹腔内に週2回投与した。
腫瘍の測定
皮下増殖している腫瘍を、キャリバーを用いて1日おきに測定し、腫瘍容積を式:p/6(w1×w2×w2)(式中、w1とw2は最大腫瘍直径と最小腫瘍直径をそれぞれ表す)を用いて計算した。マウスを屠殺したときに、膵臓の同所性増殖腫瘍を同じ方法を用いた腹部開腹術後に測定した。
統計分析
統計分析は、GraphPad統計ソフトウエア(GraphPad Software社、サンジエゴ、CA)を用いるペア観察のために両側スチューデントt検定により実施した。すべてのデータは、別途の指定がない限り、平均±SEMとして示す。別途の指定がない限り、*p<0.5、**p<0.01である。
2.皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルにおける腫瘍増殖のマウス抗hPlGF抗体16D3による阻害
1×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF(16D3、50mg/体重kg;n=10)、抗mPlGF(PL5D11D4(WO01/85796に記載のように得たもの;50mg/体重kg;n=10)、コントロールIgG(1C8;50mg/体重kg;n=10)、抗hPlGFと抗mPlGFの組合せ(それぞれが25mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。抗体を1日おきに腹腔内に注射した。(A)腫瘍を1日おきに測定し、腫瘍容積を式:W1×W2×W2×p/2(式中、W1は最大直径およびW2は最小直径を示す)を用いて計算した。(B)マウスを腫瘍接種の18日後に屠殺し、腫瘍を切除し、重量を測定した。平均腫瘍容積:ビヒクル:915±90mm3、IgG:±89mm3、PL5D11D4:832±118mm3、16D3:521±83mm3、PL5D11D4+16D3:497±86mm3。
【0083】
その結果は、図4に示されるように、抗ヒトPLGF抗体16D3の投与が腫瘍重量と大きさに対して明らかな影響を有することを示している。
3.抗hPlGFは皮下ヒト膵臓DanG異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を用量依存的に阻害する。
【0084】
1×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF、IgG(1C8;50mg/kg)、16D3(50mg/kg、37.5mg/kg、25mg/kg、12.5mg/体重kg;各濃度でn=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。(B)マウスは腫瘍接種の18日後に屠殺した。
【0085】
結果を図5に示す。平均腫瘍容積±SEM:16D3、50mg/体重kg:450±37mm3;37.5mg/体重kg:469±97mm3;25mg/体重kg:493±107mm3;12.5mg/体重kg:693±107mm3;IC8:865±109mm3;ビヒクル:889±100mm3。
4.抗huPlGFは皮下ヒト乳房MDA−MB異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。
【0086】
1×107腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF、16D3(50mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。
【0087】
結果を図6(および下記の表1)に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
5.抗huPlGFは皮下ヒト結腸LOVO異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。
【0090】
1×107腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF、16D3(50mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。
【0091】
結果を図7および下記の表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
6.抗huPlGFは皮下ヒト黒色腫Mel2a異種移植片腫瘍モデルの腫瘍増殖を阻害する。
【0094】
4×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF、16D3(50mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。
【0095】
結果を図8および下記の表3に示す。
【0096】
【表3】
【実施例4】
【0097】
16D3抗体による処置の体重減少に対する効果のインビボ研究
材料と方法は実施例3に記載したとおりであった。
【0098】
1×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF(16D3、50mg/体重kg;n=10)、抗mPlGF(PL5D11D4;50mg/体重kg;n=10)、コントロールIgG(1C8;50mg/体重kg;n=10)、抗hPlGFと抗mPLGFの組合せ(それぞれが25mg/体重kg;n=10)およびビヒクル(n=10)による処置を開始した。抗体は1日おきに腹腔内注射した。マウスの体重は抗体処置の最初の日と最後の日に測定した。腫瘍重量は、体重減少の比率の計算前に体重から差し引いた。
【0099】
結果を図9に示す。抗hPlGFは、この皮下ヒト膵臓DanG異種移植片の腫瘍モデルにおいて体重減少を妨げることが示されている。
【実施例5】
【0100】
腫瘍増殖の治療のための抗hPlGF抗体と抗VEGF抗体の組合せ
材料と方法は実施例3に記載したとおりであった。
【0101】
1×106腫瘍細胞を、11週齢のメスNMRI nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約60mm3の大きさに達した後、抗hPlGF(16D3、50mg/kg、37.5mg/kg、12.5mg/体重kg、1日おきの腹腔内;各濃度でn=10)、Avastin(15mg/kgおよび5mg/体重kg、週2回の腹腔内、各濃度でn=10)および抗hPlGF(12.5mg/体重kg)とAvastin(5mg/体重kg;n=10)の組合せによる処置を開始した。マウスは腫瘍接種の20日後に屠殺した。
【0102】
結果を図10に示す。平均腫瘍容積±SEM:1C8、37;37,5mg/体重kg:954±164mm3;12.5mg/体重kg:1398±236mm3;IgG:1789±231mm3;Avastin:15mg/体重kg:828±186mm3;5mg/体重kg:926±202mm3;Avastin+16D3:569±94mm3。抗hPlGFとAvastinは皮下ヒト膵臓DanGにおいて腫瘍増殖の阻害に対してさらなる効果をおよぼすことが観察される。
【実施例6】
【0103】
16D3のscFvの産生
重鎖と軽鎖の可変部分の配列(それぞれ配列番号2と配列番号4、実施例1に記載されたように得られたもの)を、適切な制限結合部位とリンカーを有するプライマーを用いたPCRにより増幅した。SOE PCR(オーバーラップ伸長による遺伝子スプライシング)後、scFvをpEE14.4(HindIII−EcoRIクローニング部位)にクローニングした(図12)。このscFvhp16D3/pEE14.4は、Fugene 6(Boehringer Mannheim)を用いたBamHIによる直線化の後に、CHO−KI細胞に移入し、希釈により2回サブクローニングした。モノクローナルscFv hp16D3、6C5D4が得られ、作られた。このクローンもまたscFv hp16D3/pKANEO−MCS50−dhfr1(NheI−NotIクローニング部位)と平行してProducellにより293細胞に一時的に移入した(図13)。
【0104】
16D3 scFvの塩基配列とアミノ酸配列を配列番号23と配列番号24にそれぞれ示す。重鎖と軽鎖の可変領域、リンカー配列とHA−tagおよびHis Tagを示すアミノ酸配列も図15に示す。
【実施例7】
【0105】
scFv 16D3のヒト化
scFvの可変領域のヒト化を実施例2に記載のように実施した。16D3のヒト化scFvの塩基配列とアミノ酸配列を配列番号25と配列番号26にそれぞれ示す。ヒト化scFvの重鎖と軽鎖の可変領域、リンカー配列とHA−tagおよびHis Tagを示すアミノ酸配列も図15に示す。
【実施例8】
【0106】
ヒト化Fabl6D3の生産
1.ヒト化scFv16D3からVHフラグメントとVLフラグメントを増幅する。
ヒト化scFv16D3のVHフラグメント増幅用プライマー
_16D3Vhbackblunt 5’−CAGGTCCAGCTGCAGCAGTCTG−3’(配列番号27)
16D3VhforSalI 5’−GATGGGCCCTTGGTCGACGCTGAGGAGACTGTGAGCAGGG−3’(配列番号28)
ヒト化scFv16D3のVLフラグメント増幅用プライマー
_16D3VLBackAgeI 5’−CCACCGGTGACATTGTGCTGACCCAGTCTCC−3’(配列番号29)
16D3VLForBsiWI 5’−CACCGTACGTTTTATTTCCAACTTTGTCCCCGAG−3’(配列番号30)
2.重鎖ベクターと軽鎖ベクターの構築
最初に、軽鎖のPCR産物をpCR4blunt−TOPOベクターにクローニングした。配列決定後、軽鎖をAgeIとBsiWI消化により取り出し、pKANEO−CM30−Lvar#7ベクターにクローニングした。重鎖のPCR産物は消化後にpKANEO−MCS50−Fabvar#3に直接クローニングした。
3.重鎖構築物と軽鎖構築物の連結
軽セグメントを含むカセットを取り出し、これを、酵素PmeIとPacIを用いて重セグメントを含むベクターに付加することにより、軽セグメントと重セグメントを含む(上記の)両ベクターを結合させて、最終構築物hpl6D3mutcmplFab/pKANEO−MCS50−Fabvar#3を得た(図16を参照)。
【実施例9】
【0107】
scFv 16D3およびヒト化scFv16D3による抗原結合とPlGF/flt−1相互作用の阻害の分析(図14)
1.抗原結合ELISA
ELISAプレートを、PBS中の1μg/mlのhuPlGF−1により、200μL/ウエルにて、4℃で被覆した。1%BSAによる1時間室温でのブロッキング後、scFv16D3/ヒト化scFv16D3の希釈系列を200μL/ウエルで加え、抗体フラグメントを1時間室温で結合させた。結合したscFv16D3を、マウス抗HA(180μL/ウエル、1時間、室温)により検出した後、ヤギ抗マウスIgG−HRP(Sigma)とともに170μL/ウエルにて1時間室温でインキュベートした。アッセイはOPDにより展開された。
2.ELISAによるPlGF/Flt−1相互作用の阻害
ELISAプレートを、1μg/mlのhuFlt−1(R&D Systems)により、200μL/ウエルにて、4℃で被覆した。1%BSAによる1時間室温でのブロッキング後、scFv16D3/ヒト化scFv16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、さらに100μL/ウエルのhuPlGF−2を加えた。室温での2時間のインキュベーション後、結合したPlGFを、ヤギ抗huPLGF(R&D Systems)により180μL/ウエル、1時間、室温で検出した後、RAG−HRP(DAKO)とともに、1時間室温でインキュベートした。アッセイはOPDにより展開された。
【実施例10】
【0108】
ヒト化Fab16D3による抗原結合とPlGF/Flt−1相互作用の阻害の分析
1.抗原結合ELISA
ELISAプレートを、PBS中の1μg/mlのhuPlGF−1により、100μL/ウエル、4℃で被覆した。1%BSAによる1時間室温でのブロッキング後、ヒト化Fab16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、抗体フラグメントを1時間室温で結合させた。結合したヒト化Fabl6D3は抗huIgG−HRP(Fab特異的)(100μL/ウエル、1時間、室温)で検出した。アッセイはOPDにより展開された。結果を図17Aに示す。
2.ELISAによるPlGF/Flt−1相互作用の阻害
ELISAプレートを、1μg/mlのhuFlt−1(R&D Systems)により、200μL/ウエルにて、4℃で被覆した。1%BSAによる1時間室温でのブロッキング後、ヒト化scFab16D3の希釈系列を100μL/ウエルで加え、さらに100μL/ウエルのhuPlGF−2を加えた。室温での2時間のインキュベーション後、結合したPlGFを、ヤギ抗huPlGF(R&D Systems)により180μL/ウエルにて1時間、室温で検出した後、RAG−HRP(DAKO)とともに、1時間室温でインキュベートした。アッセイはOPDにより展開された。それらの結果を図17Bに示す。
【実施例11】
【0109】
KD値の決定
16D3、ヒト化16D3 IgG4、ヒト化scFv16D3およびヒト化Fab16D3のそれぞれのKD値を、Biacoreを用いて決定した。結果を以下の表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
16D3、ヒト化16D3 IgG4、ヒト化Fab 16D3およびヒト化scFv16D3のKD値。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
望まれない血管新生を阻害する療法においてVEGFを阻害する血管新生阻害剤の副作用を低減する方法であって、前記療法において、前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤の有効量を減少し、PlGF阻害剤を添加することを含み、このような組み合わされた療法で前記副作用を低減する、方法。
【請求項2】
望まれない血管新生を阻害する方法であって、VEGFを阻害する血管新生阻害剤と共に望まれない血管新生を阻害するためにPlGF阻害剤を添加することを含み、ここにおいて前記療法におけるVEGFを阻害する血管新生阻害剤の有効量がVEGFを阻害する血管新生阻害剤と共に望まれない血管新生を阻害するための療法におけるその有効量と比較して減少されており、このような組み合わされた療法で望まれない血管新生を阻害する、方法。
【請求項3】
前記PlGF阻害剤と前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤とが同時または連続投与によって組み合わせられる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記望まれない血管新生が、癌、炎症、癒着形成、目の病気、肺性高血圧および血液漏出からなる群から選択される病的状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記PlGF阻害剤と前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤とが同時または連続投与によって組み合わせられる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記望まれない血管新生が、癌、炎症、癒着形成、目の病気、肺性高血圧および血液漏出からなる群から選択される病的状態である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤がVEGFに対する阻害抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記PlGFを阻害する血管新生阻害剤がPlGFに対する阻害抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
望まれない血管新生を阻害するための療法におけるPlGF阻害剤の使用であって、前記療法においてVEGFを阻害する血管新生阻害剤の副作用を低減するために、VEGFを阻害する血管新生阻害剤と共に用いられる、使用。
【請求項10】
VEGFを阻害する血管新生阻害剤を共に用いる療法における、望まれない血管新生を阻害するためのPlGFの使用であって、VEGFを阻害する血管新生阻害剤の有効量が、VEGFを阻害する血管新生阻害剤と共に望まれない血管新生を阻害するための療法における有効量よりも減少されている、使用。
【請求項11】
前記PlGF阻害剤と前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤とが同時または連続投与によって組み合わせられる、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記望まれない血管新生が、癌、炎症、癒着形成、目の病気、肺性高血圧および血液漏出からなる群から選択される病的状態である、請求項9に記載の使用。
【請求項13】
前記PlGF阻害剤と前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤とが同時または連続投与によって組み合わせられる、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
前記望まれない血管新生が、癌、炎症、癒着形成、目の病気、肺性高血圧および血液漏出からなる群から選択される病的状態である、請求項10に記載の使用。
【請求項15】
前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤がVEGFに対する阻害抗体である、請求項9または10に記載の使用。
【請求項16】
前記PlGFを阻害する血管新生阻害剤がPlGFに対する阻害抗体である、請求項9または10に記載の使用。
【請求項1】
望まれない血管新生を阻害する療法においてVEGFを阻害する血管新生阻害剤の副作用を低減する方法であって、前記療法において、前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤の有効量を減少し、PlGF阻害剤を添加することを含み、このような組み合わされた療法で前記副作用を低減する、方法。
【請求項2】
望まれない血管新生を阻害する方法であって、VEGFを阻害する血管新生阻害剤と共に望まれない血管新生を阻害するためにPlGF阻害剤を添加することを含み、ここにおいて前記療法におけるVEGFを阻害する血管新生阻害剤の有効量がVEGFを阻害する血管新生阻害剤と共に望まれない血管新生を阻害するための療法におけるその有効量と比較して減少されており、このような組み合わされた療法で望まれない血管新生を阻害する、方法。
【請求項3】
前記PlGF阻害剤と前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤とが同時または連続投与によって組み合わせられる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記望まれない血管新生が、癌、炎症、癒着形成、目の病気、肺性高血圧および血液漏出からなる群から選択される病的状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記PlGF阻害剤と前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤とが同時または連続投与によって組み合わせられる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記望まれない血管新生が、癌、炎症、癒着形成、目の病気、肺性高血圧および血液漏出からなる群から選択される病的状態である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤がVEGFに対する阻害抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記PlGFを阻害する血管新生阻害剤がPlGFに対する阻害抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
望まれない血管新生を阻害するための療法におけるPlGF阻害剤の使用であって、前記療法においてVEGFを阻害する血管新生阻害剤の副作用を低減するために、VEGFを阻害する血管新生阻害剤と共に用いられる、使用。
【請求項10】
VEGFを阻害する血管新生阻害剤を共に用いる療法における、望まれない血管新生を阻害するためのPlGFの使用であって、VEGFを阻害する血管新生阻害剤の有効量が、VEGFを阻害する血管新生阻害剤と共に望まれない血管新生を阻害するための療法における有効量よりも減少されている、使用。
【請求項11】
前記PlGF阻害剤と前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤とが同時または連続投与によって組み合わせられる、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記望まれない血管新生が、癌、炎症、癒着形成、目の病気、肺性高血圧および血液漏出からなる群から選択される病的状態である、請求項9に記載の使用。
【請求項13】
前記PlGF阻害剤と前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤とが同時または連続投与によって組み合わせられる、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
前記望まれない血管新生が、癌、炎症、癒着形成、目の病気、肺性高血圧および血液漏出からなる群から選択される病的状態である、請求項10に記載の使用。
【請求項15】
前記VEGFを阻害する血管新生阻害剤がVEGFに対する阻害抗体である、請求項9または10に記載の使用。
【請求項16】
前記PlGFを阻害する血管新生阻害剤がPlGFに対する阻害抗体である、請求項9または10に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−136522(P2012−136522A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19698(P2012−19698)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【分割の表示】特願2008−502194(P2008−502194)の分割
【原出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(508157820)トロンボジェニクス・ナムローゼ・フエンノートシャップ (2)
【氏名又は名称原語表記】THROMBOGENICS N.V.
【出願人】(502014363)ライフ・サイエンシーズ・リサーチ・パートナーズ・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (12)
【氏名又は名称原語表記】LIFE SCIENCES RESEARCH PARTNERS VZW
【出願人】(507318048)ブラームス・インターユニベルシテール・インスティテュート・ボール・バイオテクノロジー・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (2)
【氏名又は名称原語表記】VLAAMS INTERUNIVERSITAIR INSTITUUT VOOR BIOTECHNOLOGIE VZW
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【分割の表示】特願2008−502194(P2008−502194)の分割
【原出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(508157820)トロンボジェニクス・ナムローゼ・フエンノートシャップ (2)
【氏名又は名称原語表記】THROMBOGENICS N.V.
【出願人】(502014363)ライフ・サイエンシーズ・リサーチ・パートナーズ・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (12)
【氏名又は名称原語表記】LIFE SCIENCES RESEARCH PARTNERS VZW
【出願人】(507318048)ブラームス・インターユニベルシテール・インスティテュート・ボール・バイオテクノロジー・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (2)
【氏名又は名称原語表記】VLAAMS INTERUNIVERSITAIR INSTITUUT VOOR BIOTECHNOLOGIE VZW
【Fターム(参考)】
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