説明

新規な活性化ポリ(エチレングリコール)及び関連ポリマー並びにそれらの適用

ペプチド、オリゴヌクレオチド、タンパク質又は非ペプチド分子などの薬学的又は診断上活性な物質への結合に適する、開示される化学的に活性なポリ(エチレングリコール)及び他の親水性ポリマーが開示される。化合物は、式Poly−(X−NH−CO−A)によって表され、式中、Polyは、約300から100000ダルトンの分子量を有する親水性ポリマーであり、Aは、−NH−CO−と一緒になって反応性基を形成しており、Xは、スペーサー部分又は結合であり、nは、1から50までを含む整数である。開示する化合物に結合させることができる問題の活性な物質は、ヘモグロビン、インスリン、ウロキナーゼ、αインターフェロン、G−CSF、hGH、アスパラギナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ及びカタラーゼから選択することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な活性化ポリ(エチレングリコール)及び他の親水性ポリマーの調製並びに生体材料を改良するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(エチレンオキシド)(PEO)としても知られているポリエチレングリコール(PEG)は、広範囲の分子量のものが入手可能である柔軟な直鎖ポリマーであり、主として多くの医薬製剤、例えば、非経口、局所、眼、経口及び直腸経路により投与される製剤に用いられることが知られている。それらは、一般式HOCH(CHOCHCHOHに対応するか、又はメトキシ化形CHOCH(CHOCHCHOHであり、式中、mはポリオキシエチレン部分の平均数を表す。PEGは、安定であり、組織及び粘膜との良好な適合性を示す。それらは、それらの分子量に応じて、いくつかの形で存在することができる。このように、200ダルトン(Da)から600DaまでのPEGは液体であり、1000ダルトンより高い分子量を有するPEGはワックスタイプの固体であるが、6000Da及びそれ以上を有するものは易流動性粉末である。
【0003】
PEGは、経口、非経口及び局所適用で低い毒性を有する。ヒトにおける静脈内投与後に、1000Daから10000Daまでの分子量を有するPEGは、主として腎経路により速やかに排泄され、より高い分子量を有するものは、分子量が増加するにつれて速度が低下する。
【0004】
PEGは、水溶液に、粘度及びそれらの粘稠度を個々に調整するための物質として用いられている。約30%に及ぶ濃度で、それらは非経口溶液用にも用いられている。固体の医薬剤形中では、高い分子量を有するPEGは、結合剤の効率を増加させ、それにより、粒子に可塑性を付与することができる。高い分子量を有するものは、とりわけ滑沢剤としても用いられている(非特許文献1参照)。
【0005】
ポリ(エチレングリコール)(PEG)及びその誘導体は、両親媒性挙動、水性及び有機溶媒における溶解性、高純度、低多分散性、生物学的適合性などのそれらの有用な特性のため、化学、生物医学及び他の産業適用分野においてますます多くの関心を集めつつある。それらは、他の化合物に結合した場合に活性化することができるので、そのようなポリマーは、例えば、薬物担体、液相ペプチド又はポリヌクレオチド合成用のマトリックス、表面改質剤として、並びにペプチド及びタンパク質との複合体を製造するために用いられている(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【0006】
実際、タンパク質及びペプチドに対するPEGの結合は、それらの溶解度の他に、安定性及びタンパク質分解性不活性化に対する抵抗性、薬物動態特性を改善することができ、さらに免疫原性及び抗原性を減弱させるためのものである(例えば、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7参照)。
【0007】
言及した効果は、遮蔽効果により結合分子を覆い、保護し、それにより、タンパク質分解酵素の接近、免疫系細胞、受容体及び他の組織構成要素の接触を妨げるPEG及びその厳密に結合した水分子に起因することが示唆された。さらに、分子量の増加により、糸球体ろ過が減少し、結果として血漿半減期の延長及び複合体の薬物動態の改善が伴う。PEGに結合したタンパク質は、腎クリアランス及び免疫原性の低下のため、延長されたin vivo半減期を有することが開示されている(例えば、特許文献1(Davisら)参照)。さらに、文献に、遺伝子工学によっても得られる、興味深い生物学的特性を有するタンパク質性化合物のいくつかの例が記載されている。前記化合物のうち、ヘモグロビン、インスリン、ウロキナーゼ、αインターフェロン、G−CSF、hGH、アスパラギナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(過酸化水素及び分子状酸素中のスーパーオキシドラジカルの不均一化反応を触媒する金属酵素、以後SOD)、カタラーゼ等を言及することができる(例えば、非特許文献8参照)。例えば、抗酸化酵素SOD及びカタラーゼは、一般的に慢性関節リウマチ、靭帯変性疾患、虚血及び血管損傷の治療に用いることができた。しかし、未変性のタンパク質の治療効力は、それらの短い半減期及び起こり得るアレルギー副反応によって高度に制限される。これらの問題は、前記タンパク質をPEGと結合させること(PEG化として最もよく知られている方法により)で克服することができ、実際に、いくつかのPEG化タンパク質、特に、PEG−アデノシンデアミナーゼ、PEG−インターフェロン、PEG−アスパラギナーゼ及びPEG−G−CSFがFDAにより承認された。オリゴヌクレオチドもPEG化され、そのような生成物の1つがマキュゲン(Macugen)の商品名のもとに既に市販されている。
【0008】
PEGを分子に結合させるためには、該ポリマーが該受容分子上の基との反応に適する末端の「活性基」を有することが必要である。医学研究における新発見及びナノテクノロジーツールの開発により、使用者の要求を満たすために適応させることができる種々の特性を有する新規かつ改良されたPEG誘導体に対する需要がますます多くなりつつある。
【0009】
いくつかのものは、化学的方法又は酵素による法によりPEG化させることができるタンパク質中のアミノ酸残基であるが、アミンは、タンパク質中に一般的に存在し、溶媒に暴露されるという主な理由のため、さらにアミノアシル化又はアルキル化反応が文献(例えば、非特許文献9参照)により周知であるため、研究者の注意を最も引くものである。
【0010】
例えば、Clark R.は、10から30までのPEG/タンパク質モル比を用いたポリ(エチレングリコール)5000Da(mPEG−CO−NHS)のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルによるヒト成長ホルモンのPEG化を提案し(非特許文献10参照)、マルチPEG化複合体から主として構成される異性体の広範囲にわたる混合物を得、それにより、活性化PEG−脂肪酸(すなわち、mPEG−CO−NHS)のような高反応性PEGを用いる場合、多くのポリマー鎖がタンパク質に結合し、モノPEG化種を得ることが困難になることを証明した。
【0011】
炭酸スクシンイミジルPEG(SC−PEG)の調製並びにタンパク質及びポリペプチドへのその結合が開示されている(例えば、特許文献2(1990年)(Zalipsky S.による)参照)。「活性化PEG誘導体」はポリペプチドのアミノ基と速やかに反応するが、in vivoで加水分解される能力を有し、出発の未変性タンパク質を生じさせる結合である、αインターフェロンのヒツチジンへのPEGの結合(結合した総PEGの少なくとも30%)を優先的に誘導する方法が開示されている(例えば、特許文献3(1999年)参照)。
【0012】
しかし、SC−PEG誘導体は依然タンパク質中の求核基とあまりにも速やかに反応し、それにより、PEG誘導体がタンパク質中の異なる反応性アミノ酸残基を識別する可能性が減少し、したがって、PEG化タンパク質異性体の複雑な混合物がもたらされる(例えば、非特許文献11参照)。モノPEG−インターフェロン複合体混合物中に、ポリマーが不安定な結合によりヒスチジン34に結合している異性体(異性体の総量の約40%)が存在し、十分に活性なタンパク質の復元が望まれるにもかかわらず、それが他方で、安定なポリマー結合により達成された血液中の複合体の延長された半減期の十分な活用を妨げ得る。実際、加水分解後に未変性のタンパク質は速やかな腎クリアランスを受ける。したがって、このアミノ酸に対するより高い程度の結合、ひいては、複合体の延長された半減期と未変性のタンパク質のより高い活性という2つの対照的な因子のより良好な結びつけに加えて、なおも未変性のタンパク質をより遅い速度で放出することができるヒスチジンのレベルでのより安定なPEG−タンパク質結合が望まれる。
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,179,337号明細書
【特許文献2】国際公開第90/13540号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,951,974号明細書
【特許文献4】米国特許第6,214,966号明細書
【非特許文献1】Handbook of excipients 2000, 392-398)
【非特許文献2】Roberts M. J. et al., Adv. Drug Del. Rev., 54: 459-476, 2002
【非特許文献3】Veronese F. M., Biomaterials, 22: 405-417, 2001
【非特許文献4】Delgado C. et al., Critical Rev Ther Drug Carrier Syst 1992, 9, 249-304
【非特許文献5】Adv. Drug reviews 2002, 54, 453-606
【非特許文献6】Harris JM, Chess RB: Effect of PEGylation on Pharmaceuticals. Nature Reviews Drug Discoveries 2003, 2, 214-221
【非特許文献7】Veronese F. M., Pasut G., Drug Disc Today 2005, 10, 1451-1458
【非特許文献8】Pasut G. et al. Expert Op Ther Patents 2004, 14, 859-894
【非特許文献9】Harris JM, Chess RB, Nature Reviews Drug Discoveries 2003, 2, 214
【非特許文献10】Clark R. J Biol Chem 1996, 271(36), 21969-21977
【非特許文献11】Wang Y., et al. Adv Drug Del Rev 2002, 54, 547-570
【非特許文献12】Greenwald RB, et al. Bioconjugate Chem 2003, 14:395-403
【非特許文献13】Greenwald RB, et al. J Med Chem 2000, 43:475-487
【非特許文献14】Tsubery H, et al. J Biol Chem 2004, 279(37):38118-38124
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
最近、複合ポリマーからのタンパク質の放出のためのいくつかのシステムが提案された(例えば、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14参照)が、それらのすべてがタンパク質への結合の後に免疫原性の問題を生じさせる可能性がある芳香族スペーサーを含んでいる。さらに、それらの大部分において、タンパク質の放出は酵素制御切断によって実現されており、酵素濃度は各人で異なっているため、これが異なるタンパク質放出速度、すなわち、異なる治療反応につながる可能性がある。結合した薬物がポリマーの活性基に近い不安定な結合の水加水分解により放出される複合体を形成する、タンパク質又は他の薬剤に対する結合に有用なPEG及び関連ポリマー誘導体が開示されており(例えば、特許文献4(2001年)参照(J.M.Harris))、放出により、薬物に結合したポリマーに属する前の小部分が残り、それにより、特にタンパク質の修飾のための免疫原性の問題が生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、あらかじめ決定され、かつ一般的な加水分解による開裂の制御のもとで未変性の形の複合薬物を放出することができる脂肪族スペーサーが歓迎される。
【0016】
本発明は、水溶性複合体を得るためのタンパク質、酵素、小分子及びその他を含む薬物への結合に適する化学的に活性なポリ(エチレングリコール)(PEG)及び関連ポリマーを提供する。
【0017】
本発明のPEG及び関連ポリマー誘導体は、タンパク質としての薬物中の利用可能な基のすべての識別ができる弱い活性基を含み、例えば、一般的なPEGアシル化誘導体によるアミノ修飾は通常、異性体の広範囲の混合物をもたらす。これらの誘導体は、PEG−薬物複合体に十分な循環時間を与え、PEGがイミダゾール残基(例えば、ヒスチジンの)に結合している場合、結合した薬物はあらかじめ決定された速度での加水分解による分解により周囲環境中に放出される。この新規な活性PEG及び関連ポリマーを製造する方法、及びPEG複合体を製造する方法も本発明に含まれる。
【0018】
これらの活性化PEG及び関連ポリマー誘導体の薬物への結合により、水溶解性、サイズの増加、腎クリアランスの減少、安定性及び複合体に対する免疫原性の低下を付与することが可能である。イミダゾール残基若しくは同様な分子又はアルコールを介してこれらの活性誘導体を結合させることにより、結合の適切な設計による水性環境中への結合薬物の制御可能な加水分解による放出をもたらすことも可能である。本発明の活性化誘導体は、それらの低い反応性により、それらが選択される薬物の反応性が最も高く、及び/又は露出した基と優先的に反応することを可能にするため、例えば、限定的でないが、これらのPEG誘導体はタンパク質の反応性が最も高いアミノ基に主として結合することができるため、薬物におけるすべての反応性基を識別するのに用いることができる。本発明の誘導体は、タンパク質、ペプチド及び非タンパク質薬物の溶解度を増加させ、血中半減期を延長させ、最終的にポリマーからの薬物の放出を制御するのに用いることができる。本発明によれば、ポリマーに永久的に結合させたとき、以前には低い生物活性を有していた薬物は、上記の放出できる方法(例えば、限定的でないが、イミダゾール結合)によりこれらのPEG及びポリマー誘導体に結合させた場合に今や高い活性を有することができる。
【0019】
一般的な形では、本発明の活性化誘導体は、以下の式によって記述することができる。
【0020】
【化1】

【0021】
上式において、
「Poly」は、約300から100000ダルトンの分子量を有する親水性ポリマーであり、
「A」は、−NH−CO−と一緒になって反応性基を形成しており、
「X」は、スペーサー部分又は結合であり、
「n」は、Polyに存在する化学的に活性な末端基の数を表す、1から50まで、好ましくは1から10まで、より好ましくは1から5まで、さらにより好ましくは1を含む整数である。
(B−P)は、Polyへの結合のための分子であり、Pは活性薬物であり、Bは、Aと反応性であり、例えば、Bがヒスチジンのイミダゾール残基又はアミノ基であるタンパク質PなどのP中に本来に含まれるか、又はそれに意図的に結合させることができる同じ薬物の反応性基である。
「W」は、AとBとの反応により形成される新規な結合を表し、Bがアミノ基であるとき、水中で適度に安定であることができるか、或いはBがヒスチジンのイミダゾール残基の第二級アミン又は同様な構造を有する分子又はアルコールであるとき、水中で加水分解性である。
【0022】
Pの例は、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド及び他の薬剤である。Aは、例えば、Bに対して反応性の基であってよく、いくつかの例において、Aは、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール又はp−ニトロフェノールであるが、Bは、アミン又はアルコールによって表される。Wの例としては、活性カルバミン酸エステルとアミンの反応により生成した尿素又は活性カルバミン酸エステルとヒドロキシル基との反応によるウレタンなどがある。Wは、水中で加水分解性であることができ、例えば、活性カルバミン酸エステルとヒスチジンのイミダゾール残基アミンとの反応により生成した尿素である(スキームA)か、又はアミノ基の場合に適度に安定である(スキームB)。いずれの場合にも、これらの新規なPEG及びポリマー誘導体の結合は、本発明のポリマー物の反応性がより低いため、選択される薬物における最も反応性が高い又は露出している基に限定されるか、又は優先的に向けられる。
【0023】
【化2】

【0024】
スキーム1 加水分解性複合体を得る本発明の例で、メトキシ−PEGを、この薬物のイミダゾール残基へのカップリングによる薬物への結合に用いることがこの式によって示されている。
【0025】
【化3】

【0026】
スキーム2 適度に安定な複合体を得る本発明の例で、メトキシ−PEGを、この薬物のアミノ基へのカップリングによる薬物への結合に用いることがこの式によって示されている。
【0027】
タンパク質は、加水分解による分解によりその未変性の形で放出され、それに結合した別の分子はない。
【0028】
本発明は、弱反応性カルバミン酸エステルがタンパク質などの多官能性薬物における利用可能な異なる基のすべてのより十分な識別を可能にし、薬物の結合の部位がイミダゾール(すなわち、ヒスチジン)のアミンである場合、得られる複合体が加水分解の後に未変性の薬物を放出することができる、活性化PEG及び関連ポリマーを提供する。さらに、加水分解の速度は、ポリマーの活性基に近い適切な化学部分により調整することができる。
【0029】
本発明の前述及び他の目的、利点、特徴並びに同一のものを達成する方法を、本発明の以下の詳細な説明においてさらに説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の目的は、式:
Poly−(X−NH−CO−A)
の化合物によって表される。
式中、
Polyは、約300から100000ダルトンの分子量を有する親水性ポリマーであり、
Aは、−NH−CO−と一緒になって反応性基を形成しており、好ましい実施形態において、Aは、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール又はp−ニトロフェノールから選択され、
Xは、スペーサー部分又は結合であり、
nは、Polyに存在する化学的に活性な末端基の数を表す、1から50まで、好ましくは1から10まで、より好ましくは1から5までを含む、さらにより好ましくはnは1に等しい整数である。
【0031】
本発明の実施形態によれば、Xは、
a)−NH−CO−CH(R1)−CH(R2)−
[式中、R1及びR2は、互いに独立に、H、場合によって置換されたアルキル基、場合によって置換されたアリール基、場合によって置換されたアリールアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基及び/又はカルボキシ基から選択される]、
b)ヒドロキシ、アミノ又はカルボキシ基から好ましくは選択される1つ又は複数の基により場合によって置換されたアルキル基、
c)アリール基、
から選択される。
【0032】
他の実施形態によれば、XはC〜C10アルキル基であってもよく、R1及び/又はR2はH又はC〜C10アルキル基であってもよい。Xはまた、ペプチド又はオリゴヌクレオチドとしての分子であることができる。Polyは、直鎖若しくは分枝ポリ(エチレングリコール)又はその誘導体であってもよく、好ましくはメトキシ−ポリ(エチレングリコール)若しくはジオール−ポリ(エチレングリコール)から選択され、特に、ポリ(エチレングリコール)は、約10000から60000ダルトン、好ましくは5000から40000ダルトンの分子量を有していてよい。
【0033】
他の実施形態は、薬学的又は診断上活性な物質と本発明による化合物との複合体の調製の方法によって表され、当該方法は、以下を含む。
・薬学的又は診断上活性な物質と本発明による化合物とを混合すること、
・最終複合体を分離すること。
【0034】
好ましくは、混合は、水又は緩衝溶液中で3〜40℃の温度で1〜3時間行い、次に、分離は、好ましくは沈殿、又はイオン交換、ゲルろ過若しくは逆相クロマトグラフィーなどのクロマトグラフ法により行う。
【0035】
以下の詳細な説明では、概要において示した以下の一般式によって表されるような本発明において開示した誘導体のいくつかの例を述べる。
【0036】
【化4】

【0037】
以下の記述において、Polyは、便宜上しばしばPEGと呼ぶ。しかし、同様な特性の他の親水性ポリマーも本発明の実施における使用に適しており、PEGという用語の使用は、この点で、包含的であって、排他的ではないことを意図する。
【0038】
ポリ(エチレンオキシド)(PEO)としても知られているポリエチレングリコール(PEG)は、本発明の実施において有用である。PEGは、主として多くの医薬製剤、例えば、非経口、局所、眼、経口及び直腸経路により投与される製剤に用いられる。PEGは、安定であり、組織及び粘膜との良好な適合性を示す。PEGは、一般的に透明、無色、無臭、水に可溶で、熱に対して安定、多くの化学物質に対して不活性であり、加水分解又は変質せず、無毒性である。ポリ(エチレングリコール)及びその誘導体は、両親媒性挙動、水性及び有機溶媒における溶解性、高純度、低多分散性、生物学的適合性などのそれらの有用な特性のため、化学、生物医学及び他の産業用途においてますます多くの関心を集めつつあり、それらは他の化合物に結合する場合に活性化することができるので、そのようなポリマーは、例えば、薬物担体、液相ペプチド又はポリヌクレオチド合成用のマトリックス、表面改質剤として、並びにペプチド及びタンパク質との複合体を製造するために用いられている。PEGは、体内である種の望ましい機能を有する部分に結合させた場合、薬物のサイズを増加させて、腎クリアランスを低下させ、薬物表面を遮蔽する傾向があり、生物体が、より低いクリアランスのためその機能をより長く明らかにすることができる薬物の存在に耐えることができるように、免疫反応を低減又は無くすことができる。したがって、本発明の活性化PEGは、実質的に無毒性であるはずであり、免疫反応又は他の望ましくない作用をもたらす傾向はないはずである。
【0039】
PEG以外の他の水溶性ポリマー、例えば、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(オキシエチル化ソルビトール)等、ポリ(オキサゾリン)、ポリ(アクリロイルモルホリン)(PAcM)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)は、同様な用途に適している。ポリマーは、リンカーへの結合に利用可能な単一活性部位を有するmPEG及び他のキャップされた単官能PEGと同様な直鎖若しくは分枝した構造を有する、又は置換若しくは非置換ホモポリマー又はランダム若しくはブロックコポリマーであることができる。
【0040】
「薬物」という用語は、ヒト及び他の動物における疾患の診断、治療、緩和、治癒若しくは予防に有用な、又は他の点では身体的若しくは精神的健康を増進するあらゆる物質を意図する。
【0041】
「基」、「官能基」、「部分」、「活性基」、「反応性基」及び「反応性部位」という用語は、化学技術分野においてすべて類義語であり、当技術分野及び本明細書において分子の別個の定義可能な部分若しくはユニットを指し、ある機能若しくは活性を示し、他の分子若しくは分子の一部と反応するユニットを指すのに用いられる。
【0042】
「結合」という用語は、化学反応の結果として通常形成される「基」を指すのに用いられ、一般的に共有結合である。加水分解で不安定な結合は、水と反応して一般的に分子を2つ又はそれ以上の成分に分離するものである。
【0043】
PolyがPEGである場合、ポリマーは、少なくとも1000Da、好ましくは少なくとも4000、より好ましくは少なくとも10000、さらにより好ましくは少なくとも20000の平均分子量を優先的に有する。好ましい実施形態において、Polyは、1000から40000Daまでの平均分子量を有するポリ(エチレングリコール)(PEG)である。いくつかの好ましいPolyは、直鎖又は分枝構造を有するPEG10000、PEG20000、PEG30000、PEG40000である。
【0044】
本発明は、上で報告したように、in vivoで、又はリビング物質に由来する物質内に送達すべき分子のアミンへの結合に有用な反応性基の反応性をあらかじめ決める部分を含むPEG、すなわちPEG−X−NH−CO−Aを含む。
ここで、「X」はスペーサー部分又は結合であり、
Xは以下の中から選択することもできる。
a)−NH−CO−CH(R1)−CH(R2)−、[式中、R1及びR2は、独立にH又は場合によって置換されたアルキル若しくは場合によって置換されたアリール若しくは場合によって置換されたアリールアルキル基又は好ましくはオキシ、ヒドロキシ、アミノ若しくはカルボキシ基から選択される基であり、R1=R2=Hであるとき、βアミノ酸スペーサーはβアラニンである]、
b)又はXは、好ましくはオキシ、ヒドロキシ、アミノ若しくはカルボキシ基から選択される1つ又は複数の基により場合によって置換された2から10個の炭素を含むことが好ましいアルキル基であり、
c)又はXは、アリール基である。
Xは、ペプチド又はオリゴヌクレオチドとしての薬物であることもでき、PEG誘導体と結合分子との間の結合が水中で加水分解性であるとき、これは、薬物の活性のトリガをあらかじめ決めるために活用することができる。
【0045】
ここで、「A」は、−NH−CO−部分と一緒になって反応性基を形成しており、好ましくはN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール又はp−ニトロフェノールの群から選択される。
【0046】
好ましい実施形態において、PEG誘導体は以下の式を有する。
PEG−NH−CO−CHCH−NH−CO−NHS
PEG−OCHCH−NH−CO−NHS
PEG−NH−CO−CH(R1)−CH(R2)−N(R3)−CO−NHS
ここで、R1、R2及びR3は、独立にH又は場合によって置換されたアルキル若しくは場合によって置換されたアリール若しくは場合によって置換されたアリールアルキル基又は好ましくはオキシ、ヒドロキシ、アミノ若しくはカルボキシ基から選択される基であり、R1=R2=R3=Hであるとき、βアミノ酸スペーサーはβアラニンである。
【実施例】
【0047】
本発明はさらに、PEG誘導体のいくつかの特定の例を用いて、それらの合成及び適用を説明する。
【0048】
(実施例1)
CHO−PEG−(CH−NH−CO−NHS(n=1〜4)の調製
反応
【0049】
【化5】

【0050】
CHO−PEG−(CH−NH20000(5.0g、0.25mモル、n=1〜4)を50mlのアセトニトリルを用いて共沸により乾燥し、次いで、室温まで徐々に冷却した。得られた溶液に炭酸ジスクシンイミジル(265g、1mモル)及びピリジン(0.25ml)を加え、室温で一夜、反応を進行させた。次いで、溶媒を真空中で除去し、40mlの乾燥CHClを残留物に加えた。不溶性固体をろ過により除去し、ろ液をpH4.5の塩化ナトリウム飽和酢酸緩衝液で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、溶液を真空中で15mlまで濃縮した。濃縮溶液を300mlのジエチルエーテル上に激しく撹拌しながら滴下した。沈殿物をろ過により収集し、真空中で乾燥した。収量:4.6g(92%)。1H-NMR、CHO-PEG-(CH)-NH-CO-NHS (CDCl): δ 3.62 (bs, -O-C-PEG), δ 3.54 (t, -CH-C-NH-CO-NHS), δ 2.8(s,−NHS)。
【0051】
(実施例2)
(βアラニン)を経るCHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHSの調製
反応
【0052】
【化6】

【0053】
CHO−PEG−NH20000(5.0g、0.25mモル)を50mlのトルエンを用いて共沸により乾燥し、次いで、室温まで徐々に冷却した。得られた12ml溶液に10mlの乾燥CHCl、N−BOC−βアラニンのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(144.7mg、0.5mモル)及びEtN(70μl、0.5mモル)を加え、室温で一夜、反応を進行させた。次いで、溶液をろ過し、300mlのジエチルエーテル上に激しく撹拌しなから滴下した。ろ過により収集し、真空中で乾燥した沈殿物をCHCl/TFA/HO(54.5:45.4:0.1)の20mlの溶液に溶解し、室温で3時間撹拌した。溶媒を真空中で除去し、得られた油に20mlのCHClを加えた。得られた溶液に炭酸ジスクシンイミジル(265mg、1mモル)及びピリジン(0.25ml)を加え、室温で一夜、反応を進行させた。次いで、溶媒を真空中で除去し、40mlの乾燥CHClを残留物に加えた。不溶性固体をろ過により除去し、ろ液をpH4.5の塩化ナトリウム飽和酢酸緩衝液で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、溶液を真空中で15mlまで濃縮した。濃縮溶液を300mlのジエチルエーテル上に激しく撹拌しながら滴下した。沈殿物をろ過により収集し、真空中で乾燥した。収量:4.2g(84%)。1H-NMR(CDCl): δ 3.62(bs,−O−C−PEG), δ 3.54 (t,−CH−C−NH−CO−NHS), δ 2.5 (t,−NH−CO−C−CH−NH−CO−NHS), δ 2.8(s,−NHS)。
【0054】
(実施例3)
CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHSの調製(DCC/NHSを経る)
反応
【0055】
【化7】

【0056】
ジシクロヘキシルカルボジイミド(232mg、1.125mモル)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(130mg、1.125mモル)を、15mlのCHClに溶解し、室温で1時間撹拌した。次いで、溶液に事前に50mlのトルエンを用いて共沸により乾燥したCHO−PEG−NH20000(5.0g、0.25mモル)及びEtN(70μl、0.5mモル)を加えた。次いで、溶媒を真空中で除去し、40mlの乾燥CHClを残留物に加えた。不溶性固体をろ過により除去し、ろ液をpH4.5の塩化ナトリウム飽和酢酸緩衝液で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、溶液を真空中で15mlまで濃縮した。濃縮溶液を300mlのジエチルエーテル上に激しく撹拌しながら滴下した。沈殿物をろ過により収集し、真空中で乾燥した。収量:4.6g(92%)。1H-NMR(CDCl): δ 3.62(bs,−O−C−PEG), δ 3.54 (t,−CH−C−NH−CO−NHS), δ 2.5 (t,−NH−CO−C−CH−NH−CO−NHS), δ 2.8(s,−NHS)。
【0057】
(実施例4)
CHO−PEG−NH−(4−カルボキシメチル)−ピペリジン−CO−NHS(CHO−PEG−NH−CMP−CO−NHS)の調製
反応
【0058】
【化8】

【0059】
CHO−PEG−NH20000(5.0g、0.25mモル)を50mlのトルエンを用いて共沸により乾燥し、次いで、室温まで徐々に冷却した。得られた12ml溶液に10mlの乾燥CHCl、N−BOC−(4−カルボキシメチル)−ピペリジンのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(CMP;170mg、0.5mモル)及びEtN(70μl、0.5mモル)を加え、室温で一夜、反応を進行させた。次いで、溶液をろ過し、300mlのジエチルエーテル上に激しく撹拌しなから滴下した。ろ過により収集し、真空中で乾燥した沈殿物をCHCl/TFA/HO(54.5:45.4:0.1)の20mlの溶液に溶解し、室温で3時間撹拌した。溶媒を真空中で除去し、得られた油に20mlのCHClを加えた。得られた溶液に炭酸ジスクシンイミジル(265mg、1mモル)及びピリジン(0.25ml)を加え、室温で一夜、反応を進行させた。次いで、溶媒を真空中で除去し、40mlの乾燥CHClを残留物に加えた。不溶性固体をろ過により除去し、ろ液をpH4.5の塩化ナトリウム飽和酢酸緩衝液で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、溶液を真空中で15mlまで濃縮した。濃縮溶液を300mlのジエチルエーテル上に激しく撹拌しながら滴下した。沈殿物をろ過により収集し、真空中で乾燥した。収量:4.1g(82%)。
【0060】
(実施例5)
CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHS5000によるヒト成長ホルモン(hGH)の修飾
反応
【0061】
【化9】

【0062】
リン酸緩衝液10mM pH7中5mg/mlのhGHの溶液1mlに、34.3mgのCHO−PEG−NHOC−(CH−NH−CO−NHS5000(6.85×10−3mモル)を加えた。溶液を撹拌し、5℃に2時間維持した。5.14mg(6.85×10−2mモル)のGlyを加えて反応を停止させた。次いで、溶液を0.22μmフィルターによりろ過し、直接分析した。
【0063】
得られた溶液をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により調べたところ、図1に示すように天然hGHピーク(通常tr=10.2’)の消失により、2時間後にすべてのタンパク質の量がPEGと反応した。主として、2つの複合体が生成し、1つは他のもの(tr=7.480’)より高い流体力学的体積(tr=6.947’)を有しており、差は、MALDI−TOF質量分析検査により確認されたようにPEG化の程度の差に起因する。ゲル浸透によるピークを収集し、脱塩し、次いで、MALDI−TOF質量分析により分析した。分析により、tr=7.480’におけるピークは主としてモノPEG−hGH複合体により構成されており、tr=6.947’におけるピークはジPEG−hGH及びトリPEG−hGH複合体により構成されていると思われた。
【0064】
上で報告したように得られたPEG−hGH複合体の溶液を室温でインキュベートするとき、GPCにおけるクロマトグラムプロファイルは、48時間以内にモノPEG−hGHピークの増加及び遊離hGH(tr=10.2’におけるピーク)の生成に釣り合うジ及びトリPEG−hGH複合体に対応するピーク面積の緩やかな減少を示している(図2)。
【0065】
データは、この結合に当量より大過剰のポリマー(30倍)を用いたが、新規なPEG誘導体の少数の鎖のみ(主として1又は2本)がhGHと反応することを示唆している。これは、10〜30までの範囲のPEG/タンパク質モル比を用いたポリ(エチレングリコール)5000DaのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(mPEG−CO−NHS)によるヒト成長ホルモンのPEG化試験においてClark R.により報告(例えば、非特許文献10参照)されたことと対照的であり、この場合、マルチPEG化複合体(テトラ−、ペンタ−及びエサ−PEG−hGH)から主として構成されている異性体の広範囲な混合物が得られた。このことから、mPEG−CO−NHSの反応性がより高い場合、該ポリマーはタンパク質中の温和な反応性のアミノ基とも反応することができ、それにより、すべての修飾可能アミノ基の識別とモノPEG化種のみを得ることとの両方が困難になるため、マルチPEG化につながることがわかる。さらに、Clark R.により合成された複合体は結合PEG鎖を放出せず、これは、PEG化の後のタンパク質の活性の喪失が永久的であることを意味しており、一方、5日間のインキュベーションの後の、本発明のPEG誘導体物を用いて得られた複合体のGPCのデータは、PEG−hGH複合体の緩やかな加水分解と、それによる十分に活性な天然タンパク質の部分的な回復を示している。
【0066】
(実施例6)
実施例5において報告したように得られたPEG−hGH複合体の薬物動態及び薬力学
実施例5から得られたPEG−hGH複合体の薬物動態プロファイルをラット及びサルにおいて評価し、天然hGHと比較した。用いた用量は、ラットの場合には2.5mg/kg(タンパク質で表した)であり、サルにおいては1.5mg/kgであった。図3及び4にラット及びサルにおける天然hGH及びPEG−hGHの薬物動態プロファイルを示す。天然タンパク質からPEG化形への変化に伴う半減期(t1/2)の延長は、ラット及びサルにおいてそれぞれぞれ約10及び7倍であった。文献(例えば、非特許文献10)に報告されたデータは、ジPEG5000−hGHについては5.8時間、高度PEG化のペンタPEG5000−hGHについては15時間のt1/2を示し、Clark R.及び共同研究者らの試験において分析された複合体は、マルチPEG化hGH異性体の広範囲の混合物の多段階精製によって得られた。両方が活性化PEG誘導体としてmPEG5000−CO−NHSを用いて得られた。
【0067】
薬力学は、hGHの毎日の皮下注射(6×40μg/kg)、又はPEG−hGH(実施例5から得られた)1日×240μg/kgの1回の注射を行った下垂体切除ラットにおいて評価した。動物の体重増加を6日間追跡した。図5に示すように、PEG−hGHの単回投与は、hGHの毎日の注射と等しい効力を有する。
【0068】
(実施例7)
新規なPEG誘導体及びmPEG−CH−CO−NHSの安定性及び反応性
新規なPEG誘導体及びmPEG−CH−CO−NHSの安定性及び反応性は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の水中加水分解に基づいて評価した。NHS加水分解の速度は、ホウ酸緩衝液0.1M pH8中0.1mモルの活性化PEG誘導体の試料の280nmでの吸光度の増加を検出することによって追跡した。図6にある種のPEG誘導体のABS 280nm増加対時間を示す。mPEG−CH−CO−NHSの安定性と比較してmPEG−X−NH−CO−NHS誘導体の安定性が高いことは明らかである。表1に各PEG誘導体のNHS加水分解t1/2を示す。
【0069】
【表1】

【0070】
新規なPEG誘導体の水に対する反応性がより低いことを示している、この実験の結果は、これらの誘導体を用いて得られたタンパク質修飾の程度がより低いこと(実施例5に報告したように)と一致しており、したがって、タンパク質中の反応性が最も高い、及び露出した残基のみを修飾することができる。
【0071】
(実施例8)
単一アミノ酸に対する異なるPEG誘導体の反応性の比較
CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHSの反応性とmPEGのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(mPEG−CH−CO−NHS)の反応性とを比較するために、N−BOC−Tyr、Nα−BOC−His及びヒドロキシ基などの潜在的に反応性の基を有する他の保護されたアミノ酸に対するこれらのPEGポリマーの結合を試験した。
【0072】
7mg/mlの最終濃度でCHCl中アミノ酸の溶液を調製し、EtNでpHを8にした。アミノ酸当量に対して1/5のモル比で、PEG誘導体を加えた。カップリングの程度は、RP−HPLCにより分析した。CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHSは、Nα−BOC−Hisとのみ反応したが、同じ条件で、mPEG−CH−CO−NHSは、ヒドロキシ基と複合体を形成する。これにより、タンパク質中の異なる反応性基を識別することを可能にする、新規なポリマーのより低い反応性が証明される。さらに、両誘導体はNα−BOC−Hisとの複合体(イミダゾール側鎖におけるNδ原子への結合)を形成するが、mPEG−CH−CO−NHSとアミノ酸との複合体は非常に不安定であり、実際、それは、一般的な活性化ポリエチレングリコールであるカルボニルイミダゾールPEGを反映しており、一方、CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHSを用いて得られた複合体はより安定であり、Nα−BOC−Hisの放出の程度は、水中での5日間のインキュベーションにわたって約35%である。これを、PEGの結合をタンパク質のHis残基に優先的に向ける条件を用いて(例えば、非特許文献11に報告されたように)タンパク質のPEG化に活用し、それにより、血中半減期の延長を達成するのにin vivoで十分に安定であるが、同時に天然タンパク質又はそれとより少ない結合PEG鎖との複合体を部分的に放出できる複合体を得ることができる。
【0073】
(実施例9)
CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHS5000によるLHRHペプチドの修飾
反応
【0074】
【化10】

【0075】
LHRHペプチド(P−GlyHisTrpSerTyrDTrpLeuArgProGly)は、PEG結合のための第一級アミノ基を欠いており、他の潜在的に反応性のアミノ酸(ペプチドに存在するTyrのような)は独立した実験において本発明のPEG誘導体に対する反応性を示さなかったことから、結合は、His側鎖のレベルでのみ起り得る。
【0076】
リン酸緩衝液10mM pH7中0.32mg/mlのLHRHペプチド溶液1mlに、36.6mgのCHO−PEG−NHCO−(CH−NH−CO−NHS5000(7.32×10−3mモル)を加えた。溶液を撹拌し、5℃で2時間維持した。5.49mg(7.32×10−2mモル)のGlyを加えて反応を停止させた。溶液を0.22μmフィルターによりろ過し、次のように分析した。複合体をGPCにより評価し、図7に示すように、7.955’におけるLHRH−PEG複合体ピークの出現は、複合体の生成を示すものであった。
【0077】
(実施例10)
PEG2−NH−CO−(CH−NH−CO−NHS20000による顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の修飾
反応
【0078】
【化11】

【0079】
リン酸緩衝液10mM pH7中5mg/mlのG−CSFの溶液1mlに80.34mgのPEG2−NH−CO−(CH−NH−CO−NHS20000(4.02×10−3mモル)を加えた。溶液を撹拌し、5℃で2時間維持した。
【0080】
3.01mg(4.02×10−2mモル)のGlyを加えて反応を停止させた。次いで、溶液を0.22μmフィルターによりろ過し、得られた生成物を図8に示すようにゲル透過クロマトグラフィーにより直接分析した。分析により、すべてのG−CSFが2時間以内にPEG化され(tr=9.927’におけるG−CSFピークの消失)、同時に2つの複合体が生成し、1つは他のもの(tr=6.897’)より高い流体力学的体積(tr=6.422’)を有することが明らかになった。その差はポリマー結合の程度の差に起因しており、明らかに第1のものは第2のものよりタンパク質に結合した多くのPEG鎖を有している。
【0081】
上で得られた複合体の溶液を室温で48時間インキュベートし、GCPにより分析した。分析により、tr=6.897’におけるピーク(低分子量複合体に対応する)の増加及び遊離G−CSF(tr=9.927’におけるピーク)の生成に釣り合うtr=6.422’におけるピーク(高分子量複合体に対応する)の面積の緩やかな減少が示された(図9)。
【0082】
(実施例11)
CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHS5000によるエピルビシンの修飾
反応
【0083】
【化12】

【0084】
小薬物の体内滞在時間を延長させるのに有用であり得る巨大分子プロドラッグを調製するために、CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHSをエピルビシンに結合させた。
【0085】
40mlのDMFに溶解した250mgのエピルビシン・HCl(0.43mモル)に2.15gのPEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHS(0.358mモル)を加えた。PEGの溶解後に、119.9μlのEtN(0.86mモル)を反応混合物に加えた。暗所で撹拌しながら12時間にわたって反応を進行させた。次いで、約30mlのCHClを加え、未反応のエピルビシンをHCl 0.1N(6×80ml)により抽出した。無水NaSO上で乾燥した有機相を小容積に濃縮した。得られた油に、15mlのCHClを加え、濃縮溶液を300mlのジエチルエーテル上に激しく撹拌しながら滴下した。沈殿をろ過により収集し、真空中で乾燥した。収量:1.82g(0.328mモル;91.6%)。
【0086】
本発明を例示した特定の実施形態において説明した。しかし、前記の説明は、本発明を例示した実施形態に限定することを意図するものでなく、当業者は、先の明細書に記述したように本発明の範囲内及び精神を逸脱せずに変形を行うことができることを認識すべきである。
【0087】
一方、本発明は、添付した特許請求の範囲により定義されている本発明の真の精神及び範囲内に含めることができるすべての選択肢、修正及び同等物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】CHO−PEG−NH−CO−(CH−NH−CO−NHS 5000Daを用いたhGHのPEG化により得られたPEG−hGH複合体のゲル透過プロファイルを示す図であり、tr=6.947’におけるピークは高分子量の複合体を示し、tr=7.480’におけるピークは低分子量の複合体を示し、tr=10.543’におけるピークは遊離NHSを示す図である。
【図2】PBS 10mM pH7中で48時間インキュベートしたPEG−hGH複合体のゲル透過プロファイルを示す図であり、点線は反応混合物からのPEG−hGH複合体を示し、実線は48時間のインキュベーション後のPEG−hGH複合体を示す図である。
【図3】ラットにおける天然hGH及びPEG−hGH(実施例5で得られた)の薬物動態プロファイルを示す図である。
【図4】サルにおける天然hGH及びPEG−hGH(実施例5で得られた)の薬物動態プロファイルを示す図である。
【図5】毎日hGH又は1回PEG−hGH(実施例5で得られた)を皮下注射した下垂体切除ラットの体重増加を示す図である。
【図6】ホウ酸緩衝液0.1M pH8中でインキュベートしたPEG誘導体のNHSの加水分解の速度を示す図である。
【図7】天然LHRH(赤線)及びPEG/LHRH複合体反応(黒点線)のゲル透過プロファイルを示す図であり、tr=7.955’におけるピーク(黒三角)はPEG−LHRH複合体を示し、tr=10.457’におけるピーク(●)は天然LHRH及びN−ヒドロキシスクシンイミドを示す図である。
【図8】PEG2−NH−CO−(CH−NH−CO−NHS 20000 Daを用いたG−CSFのPEG化により得られたPEG−C−GSF複合体のゲル透過プロファイルを示す図であり、tr=6.422’におけるピークは高分子量の複合体を示し、tr=6.897’におけるピークは低分子量の複合体を示し、tr=9.927’におけるピークは未反応G−CSFを示し、tr=10.392’におけるピークは遊離NHSを示す図である。
【図9】PBS 10mM pH7中で48時間インキュベートしたPEG−G−CSF複合体のゲル透過プロファイルを示す図であり、点線は、反応混合物からのPEG−G−CSF複合体を示し、実線は、48時間のインキュベーション後のPEG−G−CSF複合体を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
Poly−(X−NH−CO−A)
で表される化合物。
[式中、
Polyは、約300から100000ダルトンの分子量を有する親水性ポリマーであり、
Aは、−NH−CO−と一緒になって反応性基を形成しており、
Xは、スペーサー部分又は結合であり、
nは、1から50までを含む整数である]
【請求項2】
Aは、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール及びp−ニトロフェノールから選択されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Xは、
a)−NH−CO−CH(R1)−CH(R2)−
[式中、R1及びR2は、互いに独立に、H、場合によって置換されたアルキル基、場合によって置換されたアリール基、場合によって置換されたアリールアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基及び/又はカルボキシ基から選択される]、
b)ヒドロキシ、アミノ又はカルボキシ基から好ましくは選択される1つ又は複数の基により場合によって置換されたアルキル基、
c)アリール基
から選択されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
XはC〜C10アルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
R1及び/又はR2はHであることを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
R1及び/又はR2はC〜C10アルキル基であることを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【請求項7】
nは、1から10まで、好ましくは1から5までを含む整数であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
nは、1であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
Polyは直鎖若しくは分枝のポリ(エチレングリコール)又はその誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
前記誘導体はメトキシ−ポリ(エチレングリコール)又はジオール−ポリ(エチレングリコール)から選択されることを特徴とする請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
前記ポリ(エチレングリコール)は、約10000から60000ダルトン、好ましくは5000から40000ダルトンの分子量を有することを特徴とする請求項9に記載の化合物。
【請求項12】
薬学的又は診断上活性な物質との複合体の製造のための請求項1から11のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
前記活性な物質は、ペプチド、オリゴヌクレオチド、タンパク質又は非ペプチド薬から選択されることを特徴とする請求項12に記載の使用。
【請求項14】
薬学的又は診断上活性な物質と請求項1から11のいずれか一項に記載の化合物との複合体を調製する方法であって、
a)薬学的又は診断上活性な物質と請求項1から11のいずれか一項に記載の化合物とを混合するステップと、
b)最終複合体を分離するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記活性な物質は、ペプチド、オリゴヌクレオチド、タンパク質又は非ペプチド薬から選択されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記活性な物質は、ヘモグロビン、インスリン、ウロキナーゼ、αインターフェロン、G−CSF、hGH、アスパラギナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ及びカタラーゼから選択されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
混合は水又は緩衝溶液中で行うことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
混合は3〜40℃の温度で行うことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項19】
混合は1〜3時間行うことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項20】
分離は沈殿又はクロマトグラフ法により行うことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項21】
請求項12から20のいずれか一項に従って得ることができることを特徴とする複合体。
【請求項22】
請求項21に記載の複合体を含むことを特徴とする医薬又は診断用組成物。
【請求項23】
経口、非経口、直腸、局所、膣、眼又は吸入用であることを特徴とする請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
水溶液であることを特徴とする請求項22に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−531478(P2009−531478A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501868(P2009−501868)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/070265
【国際公開番号】WO2007/112794
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508202418)バイオ−ケル ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (4)
【Fターム(参考)】