説明

新規な遷移金属錯体、及び該錯体を用いた光学活性アルコールの製造法

本発明は、各種不斉合成反応に効果的に使用することが出来、就中、種々のケトンの不斉水素化反応において、より効果的に使用し得る新規な遷移金属錯体、好ましくはルテニウムホスフィン錯体又はロジウムホスフィン錯体と、それを用いた光学活性アルコールの新規製造方法を提供する。 本発明はジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ベンズヒドロール等の2,2’位にジアリールホスフィノ基を導入した配位子、更にこれに好ましくは光学活性1,2−ジフェニルエチレンジアミンを配位させてなる新規な遷移金属錯体、好ましくは新規なジホスフィン−ルテニウム−光学活性ジアミン錯体又はジホスフィン−ロジウム−光学活性ジアミン錯体、及びこれを不斉水素化触媒として用いてケトン化合物の不斉水素化反応を行うことにより光学活性アルコールを高い光学純度で、且つ高収率で得る方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な遷移金属錯体、好ましくはルテニウムホスフィン錯体又はロジウムホスフィン錯体に関する。就中、アキラルなジホスフィン化合物を配位子とする金属錯体に光学活性なジアミン誘導体を配位した遷移金属錯体、好ましくはルテニウム錯体又はロジウム錯体、これからなる不斉合成触媒、及びこれを用いた光学活性アルコール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、不斉合成反応触媒として、遷移金属原子と有機配位子とを構成成分とする錯体を利用することは知られており、その有機配位子として、光学活性化合物を選択すること、とくに軸不斉のジホスフィン配位子化合物を選択することも知られている。しかしながら、この軸不斉のジホスフィン配位子化合物は非常に高価な場合が多く、工業的に用いるためには不利である。
そこで、軸不斉のジホスフィン配位子化合物に代えてアキラルな配位子を何らかの方法で活用できれば、安価に光学活性化合物が得られる有利な方法となり得る。
このようなアキラルなジホスフィン配位子を用いた不斉水素化反応の例としては、2,2’−ビス(ジアリールホスフィノ)−1,1’−ビフェニルを用いた報告がある(非特許文献1参照。)。ここには,ジホスフィン−ルテニウム−光学活性ジアミン錯体を用いた不斉水素化反応の例が示されている。しかしながら、ここに記載されているジホスフィン−ルテニウム−光学活性ジアミン錯体は、原料ケトンの種類によっては不斉収率はそれほど高くなく、実用的レベルに達していないものもある。
【0003】
【非特許文献1】K.Mikamiら,Angew.Chem.Int.Ed.,1999年,38巻,495頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した如き現状に鑑みなされたもので、各種不斉合成反応に効果的に使用することが出来、就中、種々のケトンの不斉水素化反応において、より効果的に使用し得る新規なルテニウムホスフィン錯体やロジウムホスフィン錯体などの遷移金属錯体と、それを用いた光学活性アルコールの新規製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究の途上、アキラルなジホスフィン配位子をルテニウム錯体とし、さらに光学活性なジアミン配位子を配位させることによって、立体配座を固定させ、擬似的に不斉環境を作り出すことを考えた。即ち、このように立体配座を固定することができれば、この錯体は不斉錯体触媒として機能し、不斉水素化反応に応用できるものと考え、更に研究を重ねた結果、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ベンズヒドロール等の2,2’位にジアリールホスフィノ基を導入した配位子を合成し、この配位子を用いてルテニウムやロジウム等の金属錯体とし、更に光学活性1,2−ジフェニルエチレンジアミンを配位した錯体を形成させて、ジホスフィン−ルテニウム−光学活性ジアミン錯体又はジホスフィン−ロジウム−光学活性ジアミン錯体とし、これを用いてケトン化合物の水素化反応を行ったところ、ケトン化合物に対して水素化反応が予想通り進行して、光学活性アルコールが高い光学純度で、且つ高収率で得られ、光学的に純粋な触媒を用いた時と同じような高い不斉収率が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、下記(1)〜(13)の構成を含んでなるものである。
(1)次の一般式[1]
[LMX] [1]
(式中、Lは一般式[2]
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはスペーサーを示す。)で表される化合物を示し、Mは遷移金属を示し、Xはハロゲン原子又は陰イオンを示し、Zは一般式[3]
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示す。)で示される化合物を示し、pは1又は2を示し、nは自然数を示す。)で表される遷移金属錯体。
(2)一般式[2]で表される化合物のYが、カルボニル基、スルホニル基、チオカルボニル基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−である前記(1)に記載の遷移金属錯体。
(3)一般式[3]で表される化合物が、光学活性化合物であり、遷移金属錯体が不斉遷移金属錯体である、前記(1)又は(2)に記載の遷移金属錯体。
(4)遷移金属錯体が、元素の周期表の第8〜10族の遷移金属錯体である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の遷移金属錯体。
(5)遷移金属錯体が、ルテニウム又はロジウムの遷移金属錯体である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の遷移金属錯体。
(6)遷移金属錯体が、下記一般式[1−1a]
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはカルボニル基、スルホニル基、チオカルボニル基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−から選ばれるスペーサーを示し、X及びXはそれぞれ独立してハロゲン原子を示し、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、*は不斉炭素であることを示す。)で表される光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体である、前記(5)に記載の遷移金属錯体。
(7)遷移金属錯体が、下記一般式[1−2a]
【0013】
【化4】

【0014】
[式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはカルボニル基、スルホニル基、チオカルボニル基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−から選ばれるスペーサーを示し、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、(X)−は陰イオンを示し、*は不斉炭素であることを示す。]で表されるロジウムホスフィン錯体である、前記(5)に記載の遷移金属錯体。
(8)前記(3)〜(7)のいずれかに記載の遷移金属錯体が、一般式[4]
[LMX [4]
(式中、Lは一般式[2]
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはスペーサーを示す。)で表される化合物を示し、Mは遷移金属を示し、Xはハロゲン原子又は陰イオンを示し、Zは中性配位子を示し、qは1又は2を示し、rは1又は2を示し、mは0又は自然数を示す。)で表される遷移金属化合物と、一般式[3]で表される化合物が光学活性化合物である次の一般式[3a]
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示す。)で表される化合物との反応により、反応系のその場で得られるものである前記(3)〜(7)のいずれかに記載の遷移金属錯体。
(9)前記(3)〜(8)のいずれかに記載の遷移金属錯体の少なくとも1種を含有してなる不斉合成用触媒。
(10)一般式[4]
[LMX [4]
(式中、Lは一般式[2]
【0019】
【化7】

【0020】
(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはスペーサーを示す。)で表される化合物を示し、Mは遷移金属を示し、Xはハロゲン原子又は陰イオンを示し、Zは中性配位子を示し、qは1又は2を示し、rは1又は2を示し、mは0又は自然数を示す。)で表される遷移金属化合物と一般式[3a]
【0021】
【化8】

【0022】
(式中、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、*は不斉炭素であることを示す。)で示される光学活性化合物とを含有してなる不斉合成用触媒、又は不斉合成用触媒組成物。
(11)不斉合成用触媒が、不斉水素化触媒である前記(9)又は(10)に記載の不斉合成用触媒。
(12)次の一般式[2’]
【0023】
【化9】

【0024】
(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはカルボニル基(C=O)、スルホニル基(SO)、チオカルボニル(C=S)基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−を示す。)で表される化合物。
(13)次の一般式[11]
【0025】
【化10】

【0026】
(式中、R、Rは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す(但し、RとRが同一となる場合を除く。)。また、RとRとが結合して、隣接する炭素原子と一緒になって環を形成していてもよく、その環は置換基を有していてもよい。)で表されるケトン化合物を、前記(9)〜(11)のいずれかに記載の不成合成用触媒を用いて不斉水素化反応させることを特徴とする、次の一般式[12]
【0027】
【化11】

【0028】
(式中、*は不斉炭素であることを示し、R及びRは前記と同じ。)で表される光学活性アルコールの製造方法。
【0029】
本発明の遷移金属錯体について説明する。
まず、上記一般式[1]で表される本発明の遷移金属錯体における、Lで示される配位子について説明する。配位子Lは一般式[2]で表されるジホスフィン化合物からなるものであり、アキラルな化合物からなるものであることを特徴としている。一般式[2]における環A及び環Bで示される置換基を有していてもよい芳香環の芳香環としては、4n+2(nは整数)のπ電子系を形成できる芳香環であれば単環式でも、多環式でも、縮合環式であってもよく、特に制限はないが、好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜14の単環、多環、又は縮合環の芳香環が挙げられる。このような芳香環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラヒドロナフタレン環等が挙げられる。
また、これらの芳香環は、少なくとも1個の水素原子が置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、アルキレンジオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。
【0030】
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
アルキル基としては、直鎖状でも分岐状でも環状でもよい低級アルキル基やシクロアルキル基、例えば炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基や炭素数3〜10、好ましくは3〜6のシクロアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の二重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては、例えば、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の三重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基等が挙げられる。
アリール基としては、前記した芳香環からなる基であり、例えば炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14の5〜7員の単環式、多環式又は縮合環式のアリール基が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、前記したアルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された基が挙げられ、例えば炭素数7〜26、好ましくは炭素数7〜12のアラルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、ベンジル基、2−フェネチル基、1−フェニルプロピル基、3−ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0031】
アルコキシ基としては、前記した炭化水素基に酸素原子が結合した基が挙げられ、例えば、前記したアルキル基に酸素原子が結合した直鎖状でも分岐状でも環状でもよい低級アルコキシ基やシクロアルコキシ基、例えば炭素数1〜6のアルコキシ基や炭素数3〜6のシクロアルコキシ基が挙げられ、具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、5−メチルペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基としては、前記したアリール基に酸素原子結合した基が挙げられ、例えば炭素数6〜14のアリールオキシ基が挙げられ、具体的例としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基等が挙げられる。
アラルキルオキシ基としては、前記したアラルキル基に酸素原子が結合した基が挙げられ、例えば炭素数7〜12のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体例としては、例えば、ベンジルオキシ基、2−フェネチルオキシ基、1−フェニルプロポキシ基、2−フェニルプロポキシ基、3−フェニルプロポキシ基、1−フェニルブトキシ基、2−フェニルブトキシ基、3−フェニルブトキシ基、4−フェニルブトキシ基、1−フェニルペンチルオキシ基、2−フェニルペンチルオキシ基、3−フェニルペンチルオキシ基、4−フェニルペンチルオキシ基、5−フェニルペンチルオキシ基、1−フェニルヘキシルオキシ基、2−フェニルヘキシルオキシ基、3−フェニルヘキシルオキシ基、4−フェニルヘキシルオキシ基、5−フェニルヘキシルオキシ基、6−フェニルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
置換アミノ基としては、アミノ基の1個又は2個の水素原子が前記した炭化水素基やアリール基やアラルキル基で置換されたアミノ基が挙げられる。炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。これらアルキル基、アリール基、アラルキル基の定義及び具体例は、上記と同じである。アルキル基で置換されたアミノ基、即ちアルキル置換アミノ基の具体例としては、例えば、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基が挙げられる。アリール基で置換されたアミノ基、即ちアリール置換アミノ基の具体例としては、例えば、N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基が挙げられる。アラルキル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキル置換アミノ基の具体例としては、例えば、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基が挙げられる。
【0033】
置換基がアルキレンジオキシ基である場合は、前記した芳香環の隣接した2個の水素原子がアルキレンジオキシ基で置換される場合等があるが、そのようなアルキレンジオキシ基としては、例えば炭素数1〜3のアルキレンジオキシ基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、トリメチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基等が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、前記したアルキル基の少なくとも1個の、好ましくは1〜3個の水素原子がハロゲン原子によりハロゲン化(例えばフッ素化、塩素化、臭素化、ヨウ素化等)された炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、クロロメチル基、ブロモメチル基、トリフルオロメチル基、2−クロロエチル基、3−ブロモプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0034】
一般式[2]において、Q〜Qで示される置換基を有していてもよいアリール基としては、前記した芳香環からなるアリール基及び置換アリール基が挙げられる。
置換基を有していてもよい脂環式基としては、脂環式基及び置換脂環式基が挙げられる。
アリール基としては、前記したアリール基と同じものが挙げられる。
脂環式基としては単環式、多環式或いは架橋式でもよい、例えば炭素数5〜12の環状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基が挙げられ、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、デカヒドロナフチル基、ノルボルニル基等が挙げられる。
置換アリール基としては、前記したアリール基の少なくとも1個の水素原子が置換基で置換されたアリール基が挙げられる。
置換脂環式基としては、前記した脂環式基の少なくとも1個の水素原子が置換基で置換された脂環式基が挙げられる。
【0035】
置換アリール基及び置換脂環式基における置換基としては、例えば炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、アルキレンジオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。
これら炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、アルキレンジオキシ基、置換アミノ基及びハロゲン化アルキル基としては、前記した各基と同じものが挙げられる。
置換アリール基の具体例としては、例えば、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。
置換脂環式基の具体例としては、例えば、メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0036】
一般式[2]において、Yで示されるスペーサーとしては、環Aと環Bを繋ぐことができる1〜5、好ましくは1〜3個の原子からなる基であり、これらの基は各種の置換基を有することができる。このようなスペーサーとしては、例えば、カルボニル基(C=O)、硫黄原子、スルホニル基(SO)、酸素原子、置換基を有してもよいメチレン基、エチレン基などの置換基を有してもよいアルキレン基、チオカルボニル基(C=S)、−CH(OH)−、−CH(SH)−、イミノ基(−NH−)、置換イミノ基(−NR−:Rはアルキル基を示す)等が挙げられる。
アルキレン基としては、炭素数1〜3のアルキレン基が挙げられ、具体的にはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、これらのアルキレン基は、前記した置換基を有することもできる。
で示されるスペーサーの好ましい例は、カルボニル基(C=O)、スルホニル基(SO)、チオカルボニル基(C=S)、−CH(OH)−、−CH(SH)−等が挙げられ、カルボニル基(C=O)、スルホニル基(SO)、−CH(OH)−等がより好ましい。
【0037】
前記した一般式[2]で表される化合物の好ましい例としては、例えば、次の一般式[2−1]
【0038】
【化12】

【0039】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10は、環A及び環Bにおける前記した置換基を示し、Q、Q、Q、及びQ、並びにYは前記と同じ。)で表される化合物が挙げられる。
また、一般式[2]において、Yで示されるがスペーサーが、カルボニル基(C=O)、スルホニル基(SO)、チオカルボニル(C=S)基、−CH(OH)−、又は−CH(SH)−である化合物が好ましく、このような化合物を次の一般式[2’]で表すことができる。
【0040】
【化13】

【0041】
(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはカルボニル基(C=O)、スルホニル基(SO)、チオカルボニル(C=S)基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−を示す。)
このような一般式[2’]で表される化合物の中のさらに好ましい化合物として、次の一般式[2’−1]
【0042】
【化14】

【0043】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10は、環A及び環Bにおける前記した置換基を示し、Yはカルボニル基(C=O)、スルホニル基(SO)、チオカルボニル(C=S)基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−を示す。Q、Q、Q、及びQは前記と同じ。)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
一般式[2]で表される化合物の好ましい例としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0045】
【化15】

【0046】
【化16】

【0047】
【化17】

【0048】
【化18】

【0049】
また、上記一般式[2’]で表される化合物の更に好ましい例としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0050】
【化19】

【0051】
【化20】

【0052】
【化21】

【0053】
【化22】

【0054】
一般式[1]及び一般式[4]において、Mで示される遷移金属としては、例えば元素の周期表の第8〜10族(アメリカ化学会無機化学部会の提案(1985年)した族の分け方による。以下同じ。)の遷移金属、好ましくは元素の周期表の第8〜9族の遷移金属等が挙げられ、好ましい具体例としては、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等が挙げられ、より好ましい具体例としては、ルテニウム、ロジウム等が挙げられる。
一般式[1]及び一般式[4]において、X及び(X)−で示される陰イオンとしては、ハロゲン原子として、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等からなる陰イオンが挙げられ、好ましくは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等からなる陰イオンが挙げられる。又、ハロゲン原子以外では、例えばBF、ClO、OTf、PF、SbF、BPh、B(3,5−(CF等が挙げられる。
上記一般式[4]において、Zで示される中性配位子としては、水、上記した中性の芳香族化合物、中性のオレフィン化合物、その他の中性の化合物、好ましくはπ−電子を有する中性の有機化合物等の中性配位子等が挙げられる。中性の芳香族化合物としては、ベンゾニトリル、ベンゼン、アルキル置換ベンゼン等が挙げられる。アルキル置換ベンゼンとしては、例えば、p−シメン、ヘキサメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン(メシチレン)等が挙げられる。
中性のオレフィン化合物としては、エチレン、1,5−シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン、ノルボルナジエン等が挙げられる。
その他の中性配位子としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム等が挙げられる。
【0055】
一般式[4]で表される金属化合物の好ましい具体例としては、例えば以下の化合物等が挙げられる。尚、一般式[4]で表される金属化合物は、これらに限定されるものではない。また、下記式中のLは前記と同じである。
ロジウム錯体:
[Rh(L)Cl]、[Rh(L)Br]、[Rh(L)I]、[Rh(cod)(L)]BF、[Rh(cod)(L)]ClO、[Rh(cod)(L)]PF、[Rh(cod)(L)]BPh、[Rh(cod)(L)]OTf、[Rh(nbd)(L)]BF、[Rh(nbd)(L)]ClO、[Rh(nbd)(L)]PF、[Rh(nbd)(L)]BPh、[Rh(nbd)(L)]OTf、[Rh(cod)(L)]SbF
ルテニウム錯体:
Ru(OAc)(L)、RuCl(L)NEt、[RuCl(benzene)(L)]Cl、[RuBr(benzene)(L)]Br、[RuI(benzene)(L)]I、[RuCl(p−cymene)(L)]Cl、[RuBr(p−cymene)(L)]Br、[RuI(p−cymene)(L)]I、[Ru(L)](BF、[Ru(L)](ClO、[Ru(L)](PF、[Ru(L)](BPh、[Ru(L)](OTf)
イリジウム錯体:
イリジウム錯体の具体例としては、例えば以下のものを挙げることができる。
[Ir(L)Cl]、[Ir(L)Br]、[Ir(L)I]、[Ir(cod)(L)]BF、[Ir(cod)(L)]ClO、[Ir(cod)(L)]PF、[Ir(cod)(L)]BPh、[Ir(cod)(L)]OTf、[Ir(nbd)(L)]BF、[Ir(nbd)(L)]ClO、[Ir(nbd)(L)]PF、[Ir(nbd)(L)]BPh、[Ir(nbd)(L)]OTf
【0056】
一般式[1]の式において、Zは一般式[3]で示される化合物を示し、例えば、芳香族ジアミン類、脂肪族ジアミン類等のジアミン類等が挙げられる。
環C及び環Dで示される置換基を有していてもよいフェニル基としては、フェニル基及び置換フェニル基が挙げられる。
置換フェニル基としては、フェニル基の少なくとも1個の、好ましくは1〜3個の水素原子が置換基で置換されたフェニル基が挙げられ、当該置換基としては、前記してきたアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよい脂環式基としては、脂環式基及び置換脂環式基が挙げられる。
脂環式基としては、前記してきたシクロヘキシル基等が挙げられる。
置換脂環式基としては、前記脂環式基の少なくとも1個の水素原子が置換基で置換された脂環式基が挙げられ、置換基としては、前記してきたアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
アルキル基、アリール基、アルコキシ基及びアリールオキシ基としては、前記と同じものが挙げられる。
置換フェニル基の具体例としては、例えば、トリル基、キシリル基、メシチル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基等が挙げられる。
置換脂環式基の具体例としては、メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0057】
一般式[3]で示される化合物が光学活性である化合物は、例えば一般式[3a]で表される光学活性化合物が挙げられる。好ましい[3a]の化合物としては、次式の一般式[3−1a]
【0058】
【化23】

【0059】
(式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20、並びにR21、R22、R23、及びR24は、環C及び環Dの前記した置換基を示し、*は前記と同じである。)で表される光学活性化合物が挙げられる。
一般式[3]で示される化合物において、芳香族ジアミン類としては、ジフェニルエチレンジアミン、1,2−ビス(4−メトキシフェニル)エチレンジアミン等が挙げられる。ここで、芳香族ジアミン類として光学活性芳香族ジアミン類を用いれば、得られる遷移金属錯体、例えばルテニウムホスフィンジアミン錯体は、光学活性遷移金属錯体、例えば光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体となる。
光学活性芳香族ジアミン類としては、前記芳香族ジアミン類の光学活性体、即ち、(1R,2R)−ジフェニルエチレンジアミン、(1S,2S)−ジフェニルエチレンジアミン、(1R,2R)−1,2−ビス(4−メトキシフェニル)エチレンジアミン、(1S,2S)−1,2−ビス(4−メトキシフェニル)エチレンジアミン等が挙げられる。
脂肪族ジアミン類としては、ジシクロヘキシルエチレンジアミン等が挙げられる。
光学活性脂肪族ジアミン類としては、(1R,2R)−ジシクロヘキシルエチレンジアミン、(1S,2S)−ジシクロヘキシルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0060】
一般式[3]及び[3a]で表される化合物において、R21〜R24で示されるアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でも環状でもよい低級アルキル基、例えば炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基等が挙げられる。
【0061】
一般式[1]で表される遷移金属錯体としては、例えばMで示される遷移金属がルテニウムであるルテニウムホスフィンジアミン錯体では、例えば次の一般式[1−1]
【0062】
【化24】

【0063】
(式中、環A、環B、環C、環D、Q、Q、Q、及びQ、R21、R22、R23、及びR24、X及びX、並びにYは前記と同じ。)で表されるルテニウムホスフィンジアミン錯体が挙げられる。
また、Mで示される遷移金属がロジウムであるロジウムホスフィン錯体は、例えば次の一般式[1−2]
【0064】
【化25】

【0065】
(式中、環A、環B、環C、環D、Q、Q、Q、及びQ、R21、R22、R23、R24、及び(X)−、並びにYは前記と同じ。)で表されるロジウムホスフィンジアミン錯体が挙げられる。
【0066】
上記一般式[1−1]で表されるルテニウムホスフィンジアミン錯体の好ましい例としては、例えば、次の一般式[1−3]
【0067】
【化26】

【0068】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10は、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、アルキレンジオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基又はハロゲン化アルキル基を示し、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を示す。また、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、又はRとR10とが結合して、それらが結合している環と一緒になって縮合環を形成していてもよい。Q、Q、Q、及びQ、Y、X、X、並びにR21、R22、R23、及びR24は前記と同じ。)
で表されるルテニウムホスフィンジアミン錯体が挙げられる。
また、上記一般式[1−2]で表されるロジウムホスフィンジアミン錯体の好ましい例としては、例えば、次の一般式[1−4]
【0069】
【化27】

【0070】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20、Q、Q、Q、及びQ、Y、並びにR21、R22、R23、及びR24は前記と同じである。Xは、X、Xと同じである。)で表されるロジウムホスフィンジアミン錯体が挙げられる。
【0071】
前記した一般式[1−3]及び一般式[1−4]において、R、R、R、R、R、R、R、及びR10で示される炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、アルキレンジオキシ基、置換アミノ基及びハロゲン化アルキル基としては、前記した環A及び環Bにおいて置換基として例示した基と同様のものが挙げられる。また、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20で示されるアルキル基、アリール基、アルコキシ基及びアリールオキシ基も、前記した環C及び環Dで置換基として例示した基と同様のものが挙げられる。また、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、又はRとR10とが結合して、それらが結合している環と一緒になって縮合環を形成する場合の縮合環としては、前記した環A及び環Bにおいて芳香環として例示した環、即ち、ナフタレン環、アントラセン環、テトラヒドロナフタレン環等が挙げられる。
【0072】
後述する本発明の遷移金属錯体の製造方法において、ジアミン類として光学活性ジアミン類を用いれば、光学活性の遷移金属錯体を得ることができる。例えば、前記した一般式[1−1]で表されるルテニウムホスフィンジアミン錯体において、当該ルテニウムホスフィンジアミン錯体を製造する際に、ジアミン類として光学活性ジアミン類を用いれば、次の一般式[1−1a]
【0073】
【化28】

【0074】
(式中、*は不斉炭素であることを示し、環A、環B、環C、環D、Q、Q、Q、及びQ、Y、X、X、並びにR21、R22、R23、及びR24は前記と同じ。)
で表される光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体が得られる。
また、前記した一般式[1−2]で表されるロジウムホスフィンジアミン錯体では、当該ロジウムホスフィンジアミン錯体を製造する際に)、ジアミン類として光学活性ジアミン類を用いれば、次の一般式[1−2a]
【0075】
【化29】

【0076】
(式中、環A、環B、環C、環D、Q、Q、Q、及びQ、Y、(X)−、R21、R22、R23、及びR24、並びに*は前記と同じ。)で表される光学活性ロジウムホスフィンジアミン錯体が得られる。
【0077】
前記した一般式[1−1a]で表される光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体のより好ましい例としては、例えば、次の一般式[1−3a]
【0078】
【化30】

【0079】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20、Q、Q、Q、及びQ、Y、X、X、R21、R22、R23、及びR24、並びに*は前記と同じである。)
で表される光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体が挙げられる。
また、前記した一般式[1−2a]で表されるロジウムホスフィンジアミン錯体のより好ましい例としては、例えば次の一般式[1−4a]
【0080】
【化31】

【0081】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、及びR20、Q、Q、Q、及びQ、Y、(X)−、R21、R22、R23、及びR24、並びに*は前記と同じである。)
で表される光学活性ロジウムホスフィンジアミン錯体が得られる。
【0082】
前記した一般式[1−3a]で表される光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体の具体例としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【0083】
【化32】

【0084】
【化33】

【0085】
【化34】

【0086】
【化35】

【0087】
【化36】

【0088】
【化37】

【0089】
【化38】

【0090】
【化39】

【0091】
【化40】

【0092】
【化41】

【0093】
【化42】

【0094】
【化43】

【0095】
【化44】

【0096】
【化45】

【0097】
【化46】

【0098】
【化47】

【0099】
【化48】

【0100】
【化49】

【0101】
【化50】

【0102】
【化51】

【0103】
【化52】

【0104】
【化53】

【0105】
【化54】

【0106】
【化55】

【0107】
【化56】

【0108】
【化57】

【0109】
【化58】

【0110】
【化59】

【0111】
【化60】

【0112】
【化61】

【0113】
前記した一般式[1−4a]で表される光学活性ロジウムジアミン錯体の具体例としては、例えば下記の化合物等が挙げられる。
【0114】
【化62】

【0115】
本発明における、上記一般式[2]で表される化合物と上記一般式[3]で表される化合物とを含有する一般式[1]で表される遷移金属錯体の製造方法を、例えば前記した一般式[1−1]で表されるルテニウムホスフィンジアミン錯体を例にとってより具体的に説明する。
例えば、前記した一般式[1−1]で表されるルテニウムホスフィンジアミン錯体は、例えば、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1208(1989);J.Chem.Soc.,Perkin.Trans.,2309(1994);特開平10−120692号公報等に記載の方法に準じて製造することができる。
【0116】
以下に、一般式[1−1]で表されるルテニウムホスフィンジアミン錯体の製造方法の一例を記す。
(1)上記一般式[2]で表される化合物の製造。
(1−1)先ず、一般式[5]
【0117】
【化63】

【0118】
(式中、環A、環B及びYは前記と同じ。)で表されるジヒドロキシ化合物、好ましくは一般式[5−1]
【0119】
【化64】

【0120】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10、並びにYは前記と同じ。)で表されるジヒドロキシ化合物と、トリフルオロメタンスルホン酸無水物又はトリフルオロメタンスルホン酸クロリドとを塩基の存在下、適当な溶媒中、0〜10℃で8〜12時間反応させてトリフレート化を行い、一般式[6]
【0121】
【化65】

【0122】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を示し、環A、環B及びYは前記と同じ。)で表される化合物、好ましくは一般式[6−1]
【0123】
【化66】

【0124】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10、Tf、並びにYは前記と同じ。)で表される化合物を得る。
【0125】
上記反応に用いられる塩基としては、無機塩基、有機塩基等が挙げられる。
有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、トリ−n−ブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の有機アミン類、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムtert−ブトキシド、リチウムメトキシド、カリウムナフタレニド等のアルカリ・アルカリ土類金属の塩等が挙げられる。
無機塩基としては、例えば、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
塩基の使用量は、ジヒドロキシ化合物1molに対して、通常2.3〜3.5mol、好ましくは2.5〜2.7molの範囲から適宜選択される。
反応に用いられる溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類等が挙げられる。これら溶媒は、それぞれ単独で用いても二種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
溶媒の使用量は、ジヒドロキシ化合物1mmolに対して、通常3〜10ml、好ましくは5〜7mlの範囲から適宜選択される。
【0126】
(1−2)上記(1−1)で得られた上記一般式[6]で表される化合物のホスフィニル化反応を行う。当該ホスフィニル化反応は、例えば実験化学講座、第4版、第25巻、第11章(特に389〜427頁)、日本化学会編、1991年、丸善等に記載の方法により行えばよい。
即ち、得られた上記一般式[6]で表される化合物と一般式[7−1]
P(O)(Q) [7−1]
又は一般式[7−2]
P(O)(Q) [7−2]
(上記式中、Q、Q、Q、及びQは前記と同じ。)で表されるホスフィンオキシドとを遷移金属化合物及び第三級ホスフィンの存在下、適当な溶媒中、通常90〜120℃、好ましくは100〜105℃で、通常12〜36時間、好ましくは15〜18時間反応させて一般式[8]
【0127】
【化67】

【0128】
(式中、環A、環B、Y、並びにQ、Q、Q、及びQは前記と同じ。)で表される化合物、好ましくは一般式[8−1]
【0129】
【化68】

【0130】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、及びR10、Y、並びにQ、Q、Q、及びQは、前記と同じ。)で表される化合物を得る。
ここで、ホスフィンオキシドとして上記一般式[7−1]で表されるホスフィンオキシドを用いれば得られる一般式[8]で表される化合物は、一般式[8]においてQ=Q及びQ=Qである化合物が得られ、上記一般式[7−2]で表されるホスフィンオキシドを用いても同様の化合物が得られる。また、上記一般式[7−1]で表されるホスフィンオキシドを用いて片方のTfO基をホスフィニル化した後、他方のTfO基を上記一般式[7−2]で表されるホスフィンオキシドを用いてホスフィニル化することもできる。
【0131】
上記反応に用いられる遷移金属化合物としては、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、トリフェニルホスフィンパラジウム等が挙げられる。これら遷移金属化合物は、それぞれ単独で用いても二種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
遷移金属化合物の使用量は、トリフラート化合物1mmolに対して、通常0.08〜0.20mmol、好ましくは0.10〜0.12mmolの範囲から適宜選択される。
第三級ホスフィンは、用いる前記遷移金属化合物の種類により必要に応じて用いればよい。第三級ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等が挙げられる。
第三級ホスフィンの使用量は、トリフラート化合物1mmolに対して、通常2.5〜3.5mmol、好ましくは2.8〜3.2mmolの範囲から適宜選択される。
用いられる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−エトキシエタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、アセトニトリル等の含シアノ有機化合物類、N−メチルピロリドン、水等が挙げられる。これら溶媒は、それぞれ単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
溶媒の使用量は、トリフラート化合物1mmolに対して、通常3〜10ml、好ましくは4〜6mlの範囲から適宜選択される。
ホスフィニル化は、通常、塩基の存在下で行うことが好ましい。塩基としては、上述した塩基と同様である。
塩基の使用量は、トリフラート化合物1mmolに対して、通常3.5〜4.5mmol、好ましくは3.8〜4.2mmolの範囲から適宜選択される。
【0132】
(1−3)前記(1−2)で得られた前記一般式[8]、好ましくは一般式[8−1]で表される化合物は、これを還元剤で還元反応させることにより、目的の前記した一般式[2]で表される化合物、好ましくは一般式[2−1]で表される化合物を得ることができる。
このとき用いられる還元剤としては、例えば、トリクロロシラン等が挙げられる。
還元剤の使用量は、一般式[8]又は一般式[8−1]で表される化合物1mmolに対して、通常8〜15mmol、好ましくは10〜12mmolの範囲から適宜選択される。還元反応は、通常、塩基の存在下で行うことが好ましい。塩基としては、上述した塩基と同じものが挙げられる。塩基の使用量は、一般式[8]又は一般式[8−1]で表される化合物1mmolに対して、通常35〜45mmol、好ましくは40〜42mmolの範囲から適宜選択される。
【0133】
還元反応は、必要に応じて溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−エトキシエタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、アセトニトリル等の含シアノ有機化合物類、N−メチルピロリドン等が挙げられる。これら溶媒は、それぞれ単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
溶媒の使用量は、一般式[8]又は一般式[8−1]で表される化合物1mmolに対して、通常8〜15ml、好ましくは10〜12mlの範囲から適宜選択される。
【0134】
このようにして製造される本発明の一般式[2]で表される化合物の中で、好ましい化合物として次の一般式[2’]
【0135】
【化69】

【0136】
(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはカルボニル基(C=O)、スルホニル基(SO)、チオカルボニル(C=S)基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−を示す。)で表される化合物が挙げられる。さらに好ましい化合物としては、前記一般式[2’]における環A及び環Bが置換基を有してもよいフェニル基である前記一般式[2’−1]で表される化合物が挙げられる。当該フェニル基における置換基としては前記してきた置換基が挙げられる。
【0137】
(2)一般式[1]で表される遷移金属錯体、例えば一般式[1−1]で表されるルテニウムジアミンホスフィン錯体の製造。
前記した(1)で得られた一般式[2]又は一般式[2−1]で表される化合物、好ましくは一般式[2’]又は一般式[2’−1]で表される化合物を、次の一般式[9]
[MXaZb]c [9]
(式中、M、X及びZは前記と同じであり、aは2又は3を示し、bは0又は1を示し、cは1又は2を示す。)で表される遷移金属化合物と反応させることにより、一般式[4]で表される化合物を製造することができる。
例えば、前記した一般式[10]においてMの遷移金属がルテニウムである一般式[10]]
[RuXm] [10]
(式中、X及びXハロゲン原子を示す。ハロゲン原子は上記と同じ。Z及びmは前記と同じ。)で表されれるルテニウム錯体とを、必要に応じて適当な溶媒中で反応させることにより、前記した一般式[4]で表される遷移金属化合物の遷移金属Mがルテニウムである遷移金属化合物を得ることができる。
次いで、得られた一般式[4]で表される遷移金属化合物と、前記一般式[3]で表される化合物とを必要に応じて適当な溶媒中で反応させることにより上記一般式[1]で表される本発明の遷移金属錯体を得ることができる。
【0138】
一般式[9]で表される遷移金属Mがルテニウム、ロジウム、又はイリジウムなどである遷移金属化合物の好ましい具体例としては、例えば、
[RuCl(benzene)]、[RuBr(benzene)]、[RuI(benzene)]、[RuCl(p−cymene)]、[RuBr(p−cymene)]、[RuI(p−cymene)]、RuCl(hexamethylbenzene)]、[RuBr(hexamethylbenzene)]、[RuI(hexamethylbenzene)]、[RuCl(mesitylene)]、[RuBr(mesitylene)]、[RuI(mesitylene)]、[RuCl(pentamethylcyclopentadiene)]、[RuBr(pentamethylcyclopentadiene)]、[RuI(pentamethylcyclopentadiene)]、[RuCl(cod)]、[RuBr(cod)]、[RuI(cod)]、[RuCl(nbd)]、[RuBr(nbd)]、[RuI(nbd)]、RuCl水和物、RuBr水和物、RuI水和物、[RhCl(cyclopentadiene)]等のルテニウム錯体、
[RhBr(cyclopentadiene)]、[RhI(cyclopentadiene)]、[RhCl(pentamethylcyclopentadiene)]、[RhBr(pentamethylcyclopentadiene)]、[RhI(pentamethylcyclopentadiene)]、[RhCl(cod)]、[RhBr(cod)]、[RhI(cod)]、[RhCl(nbd)]、[RhBr(nbd)]、[RhI(nbd)]、RhCl水和物、RhBr水和物、RhI水和物等のロジウム錯体、
[IrCl(cyclopentadiene)]、[IrBr(cyclopentadiene)]、[IrI(cyclopentadiene)]、[IrCl(pentamethylcyclopentadiene)]、[IrBr(pentamethylcyclopentadiene)]、[IrI(pentamethylcyclopentadiene)]、[IrCl(cod)]、[IrBr(cod)]、[IrI(cod)]、[IrCl(nbd)]、[IrBr(nbd)]、[IrI(nbd)]、IrCl水和物、IrBr水和物、IrI水和物等のイリジウム錯体等が挙げられる。式中、codは、1,S−シクロオタジエンを示し、nbdはノルボルナジエンを示す。
【0139】
ここで、一般式[1]で表される本発明の遷移金属錯体を製造する際に使用される前記一般式[3]で表される化合物として、芳香族ジアミン類を用いた場合には、前記一般式[1−1]で表されるルテニウムホスフィンジアミン錯体や前記一般式[1−2]で表されるロジウムホスフィンジアミン錯体などが得られる。
また、芳香族ジアミン類として光学活性芳香族ジアミン類を用いれば、前記一般式[1]の遷移金属錯体に対応した光学活性な遷移金属錯体、例えば、前記一般式[1−1a]で表される光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体や前記一般式[1−2a]で表される光学活性ロジウムホスフィンジアミン錯体が得られる。
【0140】
一般式[2]で表される化合物及び一般式[4]で表される金属化合物の使用量は、一般式[2]で表される化合物1mmolに対して一般式[4]で表される金属化合物を、通常1.0〜1.1mmol、好ましくは1.0〜1.05mmolの範囲から適宜選択される。
上記一般式[3]で表される化合物の使用量としては、一般式[4]で表される遷移金属化合物1mmolに対して、通常1.0〜1.1mmol、好ましくは1.0〜1.05mmolの範囲から適宜選択される。
また、配位子が芳香族ジアミン類である場合の芳香族ジアミン類の使用量は、一般式[4]で表される遷移金属化合物1mmolに対して、通常1.0〜1.1mmol、好ましくは1.0〜1.5mmolの範囲から適宜選択される。
本反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−エトキシエタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類等が挙げられる。これら溶媒は、それぞれ単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
溶媒の使用量は、一般式[2]で表される化合物0.1mmolに対して、通常0.8〜1.5ml、好ましくは1.0〜1.1mlの範囲から適宜選択される。
反応温度は用いる一般式[2]で表される化合物や、一般式[4]]で表される遷移金属化合物の種類等により異なるため特に限定されないが、通常90〜105℃、好ましくは95〜100℃の範囲から適宜選択される。
反応時間も用いる一般式[2]で表される化合物や、一般式[4]]で表される遷移金属錯体の種類等により異なるため特に限定されないが、通常15〜60分、好ましくは30〜40分の範囲から適宜選択される。
【0141】
配位子が芳香族ジアミン類である場合、反応は、不活性ガス雰囲気下で行うことも好ましい態様である。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
配位子が芳香族ジアミン類である場合の反応温度は、用いるルテニウム錯体、芳香族ジアミン類等の種類等により異なるため特に限定されないが、通常90〜110℃、好ましくは95〜105℃の範囲から適宜選択される。
反応時間も用いるルテニウム錯体、芳香族ジアミン類等の種類等により異なるため特に限定されないが、通常15〜60分、好ましくは30〜40分の範囲から適宜選択される。
【0142】
このようにして得られた本発明の一般式[1]で表される遷移金属錯体は、水素化反応などの触媒として有用である。本発明の一般式[1]で表される遷移金属錯体のうち光学活性ジアミンを用いて製造される光学活性遷移金属錯体は、不斉合成用、例えば不斉水素化反応用の触媒として有用である。例えば、、前記一般式[1−1a]で表される光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体や、前記一般式[1−2a]で表される光学活性ロジウムホスフィンジアミン錯体は、不斉水素化触媒等の不斉合成触媒として特に有用である。
また、一般式[4]で表される遷移金属化合物、例えば遷移金属Mがルテニウムであるルテニウムホスフィン化合物は、Zで示される配位子が中性配位子であるが、これらの化合物を芳香族ジアミン、好ましくは光学活性芳香族ジアミンと組み合わせて用いることにより、不斉水素化触媒組成物等の不斉合成用触媒組成物として効果的に使用することができる。これは、本発明の一般式[1]で表される遷移金属錯体が、一般式[4]の遷移金属化合物と一般式[3]のジアミン化合物とが、共に存在する反応系において、その場で生成するためと考えられる。
同様に、上記一般式[2]で表される化合物と、前記一般式[9]で表される遷移金属化合物、例えば、遷移金属Mがルテニウムである一般式[10]で表されるルテニウム錯体と、遷移金属例えばルテニウムの配位子になり得る化合物とを反応させて得られる一般式[4]で表される遷移金属化合物、例えばルテニウムホスフィン化合物の場合も、当該化合物を芳香族ジアミン、好ましくは光学活性芳香族ジアミンと組み合わせて用いることにより、水素化触媒、好ましくは不斉水素化触媒組成物等の不斉合成用触媒組成物として効果的に使用することができる。
【0143】
ルテニウム錯体について、本発明の金属錯体の製造法を説明してきたが、ルテニウム以外の金属の金属錯体についても、ルテニウムの場合に準じて製造することができる。
例えば、ロジウム錯体の場合には、前記一般式[4]における遷移金属として、前記してきたルテニウムに代えて、上記したような適当なロジウムやイリジウムを使用することにより、同様に対応するロジウムホスフィンジアミン錯体やイリジウムホスフィンジアミン錯体を製造することができる。
【0144】
次に、本発明に係る光学活性アルコールの製造方法について説明する。
前記してきた一般式[11]において、R及びRで示される置換基を有してもよい炭化水素基の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
アルキル基としては、直鎖状でも分岐状でも環状でもよい、例えば炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基や炭素数3〜15、好ましくは3〜10のシクロアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、tert−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、tert−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2−メチルペンタン−3−イル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の二重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては、例えば、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の三重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基等が挙げられる。
アリール基としては、例えば炭素数6〜14の5〜7員の単環式、多環式又は縮合環式のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された基が挙げられ、例えば炭素数7〜12のアラルキル基が好ましく、具体的にはベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、3−ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0145】
置換基を有してもよい脂肪族複素環基の脂肪族複素環基としては、例えば、炭素数2〜14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、ピロリジル−2−オン基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
置換基を有してもよい芳香族複素環基の芳香族複素環基としては、例えば、炭素数2〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0146】
これら炭化水素基、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基の置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、ハロゲン原子、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、アルキレンジオキシ基等が挙げられる。
アルキル基及びアリール基の定義及び具体例等は上記と同じである。
アルコキシ基としては、直鎖状でも分岐状でも環状でもよい、例えば炭素数1〜6のアルコキシ基や炭素数3〜6のシクロアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基、n−ブトキシ基、1−メチルプロポキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、5−メチルペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基としては、例えば炭素数6〜14のアリールオキシ基が挙げられ、具体的にはフェノキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基等が挙げられる。
アラルキルオキシ基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシ基、2−フェニルエトキシ基、1−フェニルプロポキシ基、2−フェニルプロポキシ基、3−フェニルプロポキシ基、1−フェニルブトキシ基、2−フェニルブトキシ基、3−フェニルブトキシ基、4−フェニルブトキシ基、1−フェニルペンチルオキシ基、2−フェニルペンチルオキシ基、3−フェニルペンチルオキシ基、4−フェニルペンチルオキシ基、5−フェニルペンチルオキシ基、1−フェニルヘキシルオキシ基、2−フェニルヘキシルオキシ基、3−フェニルヘキシルオキシ基、4−フェニルヘキシルオキシ基、5−フェニルヘキシルオキシ基、6−フェニルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0147】
アルコキシカルボニル基としては、直鎖状でも分岐状でも環状でもよい、例えば炭素数2〜19のアルコキシカルボニル基や炭素数3〜19、好ましくは3〜10のシクロアルコキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、2−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、ラウロイルオキシカルボニル基、ステアロイルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニル基としては、例えば炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはフェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニル基としては、例えば炭素数8〜15のアラルキルオキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシカルボニル基、フェニルエトキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル等が挙げられる。
【0148】
アシルオキシ基としては、カルボン酸由来の例えば炭素数2〜18の脂肪族又は芳香族のアシルオキシ基が挙げられ、具体的にはアセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
アルキルチオ基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数1〜6のアルキルチオ基や炭素数3〜6のシクロアルキルチオ基が挙げられ、具体的にはメチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、2−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、1−メチルプロピル基、イソブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。
アリールチオ基としては、例えば炭素数6〜14のアリールチオ基が挙げられ、具体的にはフェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
アラルキルチオ基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキルチオ基が挙げられ、具体的にはベンジルチオ基、2−フェネチルチオ基等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
置換基がアルキレンジオキシ基である場合は、上記アリール基部分の隣接した2個の水素原子がアルキレンジオキシ基で置換されるものであり、当該アルキレンジオキシ基としては、例えば炭素数1〜3の直鎖状又は分枝状のアルキレンジオキシ基が挙げられ、具体的にはメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、トリメチレンジオキシ基等が挙げられる。
【0149】
置換アミノ基としては、アミノ基の1個又は2個の水素原子が保護基等の置換基で置換されたアミノ基が挙げられる。保護基としては、アミノ保護基として用いられるものであれば特に制限はなく、例えば「PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS Second Edition(JOHN WILEY & SONS,INC.)」にアミノ保護基として記載されているものが挙げられる。アミノ保護基の具体例としては、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基及びアラルキルオキシカルボニル基の定義及び具体例等は、上記と同じである。
アシル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等のカルボン酸由来の炭素数1〜18のアシル基が挙げられ、具体的にはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ピバロイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ラウロイル基、ステアロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0150】
アルキル基で置換されたアミノ基、即ちアルキル置換アミノ基の具体例としては、例えば、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基が挙げられる。
アリール基で置換されたアミノ基、即ちアリール置換アミノ基の具体例としては、例えば、N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基が挙げられる。
アラルキル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキル置換アミノ基の具体例としては、例えば、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基が挙げられる。
アシル基で置換されたアミノ基、即ちアシルアミノ基の具体例としては、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアルコキシカルボニルアミノ基の具体例としては、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、n−ブトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ペンチルオキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアリールオキシカルボニルアミノ基の具体例としては、アミノ基の1個の水素原子が前記したアリールオキシカルボニル基で置換されたアミノ基が挙げられ、具体的には、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、ナフチルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0151】
アラルキルオキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキルオキシカルボニルアミノ基の具体例としては、例えば、ベンジルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
ハロゲン原子で置換されたアルキル基、即ちハロゲン化アルキル基としては、上記アルキル基の少なくとも1個の、好ましくは1〜3個の水素原子がハロゲン原子によりハロゲン化(例えばフッ素化、塩素化、臭素化、ヨウ素化等)された炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基が挙げられ、具体的には、例えば、クロロメチル基、ブロモメチル基、トリフルオロメチル基、2−クロロエチル基、3−ブロモプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
置換アリール基としては、上記アリール基の少なくとも1個の水素原子が前記置換基で置換されたアリール基が挙げられる。
アルキル基で置換されたアリール基の具体例としては、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
置換アラルキル基としては、上記アラルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記置換基で置換されたアラルキル基が挙げられる。
【0152】
で示されるα,β−不飽和アルキル基としては、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
アルケニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基が挙げられ、具体的には、例えば、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6のアルキニル基が挙げられ、具体的には、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−ヘキシニル基等が挙げられる。
一般式[11]で表されるケトン類の具体例としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトフェノン、ベンザルアセトン、1−インダノン、3,4−ジヒドロ−(2H)−ナフタレノンフェロセニルメチルケトン等や、例えば下記に示す化合物等が挙げられる。
【0153】
【化70】

【0154】
【化71】

【0155】
本発明の製造方法により得られる前記一般式[12]で表される光学活性アルコール類は、光学活性第2級アルコールであるが、その具体例としては、前記一般式[11]で表されるケトン類の具体例として例示した化合物から誘導される光学活性アルコール類や、2−ブタノール、フェネチルアルコール等が挙げられる。
【0156】
本発明の光学活性アルコールの製造方法は、前述してきたようにして製造した本発明の一般式[1]で表される遷移金属錯体、好ましくは光学活性の一般式[1]で表される遷移金属錯体が触媒として使用されるが、前述してきたように、例えば、前記一般式[4]で表される遷移金属化合物と光学活性な一般式[3]で示される光学活性化合物とを含有してなる不斉合成触媒組成物の存在下で行うことができる。後者の不斉合成触媒組成物を用いた不斉水素化反応は、反応系のその場(in situ)で行う反応ということになる。
【0157】
本発明の光学活性アルコールの製造方法は、必要に応じて溶媒中で行うことができる。溶媒は、上記一般式[11]で表されるケトン化合物や不斉水素化触媒を溶解するものが好ましい。
溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−エトキシエタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、アセトニトリル等の含シアノ有機化合物類、N−メチルピロリドン等が挙げられる。これら溶媒は、それぞれ単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
溶媒の使用量は、用いる反応基質である上記一般式[11]で表されるケトン化合物の溶解度や経済性により判断される。溶媒の使用量としては、通常5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%の範囲から適宜選択される。
【0158】
本発明の光学活性アルコールの製造方法は、塩基の存在下で行うことが好ましい。塩基としては、無機塩基、有機塩基等が挙げられる。有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、トリ−n−ブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の有機アミン類、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムtert−ブトキシド、リチウムメトキシド、カリウムナフタレニド等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩等が挙げられる。無機塩基としては、例えば、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
塩基の使用量は、ルテニウム錯体1mmolに対して、通常2〜5mmol、好ましくは2〜3mmolの範囲から適宜選択される。
【0159】
本発明の光学活性アルコールの製造方法において用いられる水素の圧力は、少なくとも0.1MPaが望ましく、経済性等を考慮すると通常0.5〜10MPa、好ましくは1〜5MPaの範囲から適宜選択される。
反応温度は、経済性等を考慮して、通常15〜100℃、好ましくは20〜80℃の範囲から適宜選択される。また、反応温度は、−30〜0℃の低温でも、或いは100〜250℃の高温でも反応を実施することができる。
反応時間は、用いる不斉水素化触媒の種類や使用量、用いるケトン化合物の種類や濃度、反応温度、水素の圧力等の反応条件等により異なるが、通常、数分〜数十時間の間で反応は完結するが、通常1分〜48時間、好ましくは10分〜24時間の範囲から適宜選択される。
【0160】
また、本発明の光学活性アルコールの製造方法の好ましい例として、水素移動型反応による方法が挙げられる。
水素移動型反応による不斉水素化反応は、水素供与性物質を反応系内に存在させるのが好ましい。水素供与性物質は、有機化合物又は/及び無機化合物あって、反応系内で、例えば熱的作用や触媒作用によって水素を供与できる化合物であれば何れも使用可能である。
水素供与性物質としては、例えば、ギ酸又はその塩類、ギ酸と塩基との組み合わせ、ヒドロキノン、亜リン酸、アルコール類等が挙げられる。これらの中では、ギ酸又はその塩類、ギ酸と塩基との組み合わせからなるもの、アルコール類等が特に好ましい。
ギ酸又はその塩類におけるギ酸の塩類としては、ギ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のギ酸の金属塩、アンモニウム塩、置換アミン塩等が挙げられる。
また、ギ酸と塩基との組み合わせ反応系内でギ酸の塩の形態となるもの或いは実質的にギ酸の塩の形態となるものであればよい。
ギ酸と塩を形成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
これらギ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のギ酸の金属塩や、アンモニウム塩、置換アミン塩等を形成する塩基、並びに、ギ酸と塩基との組み合わせにおける塩基としては、アンモニア、無機塩基、有機塩基等が挙げられる。
無機塩基としては、例えば、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ又はアルカリ土類金属塩、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム等の金属水素化物類等が挙げられる。
有機塩基としては、例えば、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムtert−ブトキシド、カリウムナフタレニド等のアルカリ金属アルコキシド、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ・アルカリ土類金属の酢酸塩類、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、トリ−n−ブチルアミン、N−メチルモルホリン等の有機アミン類、臭化メチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、臭化プロピルマグネシウム、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等の有機金属化合物類、4級アンモニウム塩等が挙げられる。
水素供与性物質としてのアルコール類としては、水素原子をα位に有する低級アルコール類が好ましく、具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等が挙げられ、中でもイソプロパノールが好ましい。
水素供与性物質の使用量は、ケトン化合物に対して通常2〜20当量、好ましくは4〜10当量の範囲から適宜選択される。
【0161】
これらの本発明の光学活性アルコールの製造方法は、反応形式がバッチ式であっても連続式であっても実施することができる。
【発明の効果】
【0162】
本発明は、各種不斉合成反応に効果的に使用することが出来、就中、例えば種々のケトンの不斉水素化反応において、より効果的に使用し得る新規な遷移金属錯体と、それを用いた光学活性アルコールの新規製造方法を提供するものであり、本発明のルテニウムホスフィン錯体、就中、光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体や光学活性ロジウムホスフィンジアミン錯体を用いてケトン化合物の水素化反応を行えば、光学活性アルコールが高い光学純度で、且つ高収率で得られ、光学的に純粋な触媒を用いた時と同様な高い不斉収率が達成される。
しかも、本発明の不斉合成用触媒として有用な遷移金属錯体は、アキラルなホスフィンを用いて製造することができ、産業上極めて有利な方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0163】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び参考例において、物性等の測定に用いた装置は次の通りである。
H核磁気共鳴スペクトル(以下H−NMRと略す):
GEMINI300型(300MHz)(バリアン社製)
13C核磁気共鳴スペクトル(以下13C−NMRと略す):
GEMINI300型(75MHz)(バリアン社製)
赤外吸収スペクトル(以下IRと略す):
FT/IR−5000(日本分光株式会社)
旋光度計:DIP−140型(日本分光株式会社)
高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略す):
LC−6A、SPD−6A(島津製作所)
また、実施例及び参考例で用いる記号及び略号は以下の通りである。
DMF:ジメチルホルムアミド
Ph:フェニル基
Ar:3,5−ジメチルフェニル基
DPEN(小文字も同じ):ジフェニルエチレンジアミン
【0164】
【化72】

【実施例1】
【0165】
RuCl{2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン}{(S,S)−DPEN}の合成
(1)2,2’−ビスフルオロベンズヒドロールの合成
2−ブロモフルオロベンゼン455μl(4.2mmol)及びテトラヒドロフラン15mlの混合溶液を−70℃に冷却した。そこへ、n−ブチルリチウム2.8ml(4.4mmol)を加え、−70℃のまま30分間攪拌した。その後、ギ酸エチル165μL(2.0mmol)を加え、室温で15時間攪拌した。反応混合物に水10mlを加えた後、塩化メチレンで3回抽出した。有機層を集め水洗した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮して溶媒を回収後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:5)で精製することにより黄色溶液の表題化合物375mg(収率85%)が得られた。
H NMR(CDCl)δppm;7.00〜7.48(8H,m)、6.42(1H,s)。
【0166】
(2)2,2’−ビスフルオロベンゾフェノンの合成
2,2’−ビスフルオロベンズヒドロール440.4mg(2.0mmol)及び活性酸化マンガン1.04g(12.0mmol)の混合物にベンゼン10mlを加え、2時間還流した。反応混合物を室温まで冷却し、セライト濾過を行った。その炉液を濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:5)で精製することにより黄色溶液の表題化合物が360mg(収率82%)が得られた。
H NMR(CDCl)δppm;7.07〜7.37(8H,m)。
19F NMR(CDCl)δppm;−112.70(s)。
【0167】
(3)2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノンの合成
2,2’−ビスフルオロベンゾフェノン98.2mg(0.45mmol)及びテトラヒドロフラン5mlの混合溶液を70℃に加熱した。その後、ポタシウムジフェニルホスフィン2.8ml(1.4mmol)を加え、2時間半還流させた。その後反応混合液を0℃に冷却し、1N塩酸を数滴加えて1〜2分攪拌した後、硫酸マグネシウムを加えて、セライト濾過した。その炉液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:6)そしてアルミナカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:6)で精製することにより白色固体の表題化合物が34mg(収率13%)得られた。
H NMR(CDCl)δppm;6.99〜7.30(28H,m)。
31P NMR(CDCl)δppm;−17.31(s)。
【0168】
(4)RuCl{2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン}(DMF)nの合成
2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン6.6mg(0.012mmol)、ベンゼンルテニウムクロリド2量体3.0mg(0.006mmol)及びDMF1mlを100℃で45分間攪拌した後、溶媒を減圧留去して表題化合物を得た。
(5)RuCl{2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン}{(S,S)−DPEN}の合成
(4)で得られた減圧留去後のRuCl{2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン}(DMF)nの中に(S,S)−DPEN2.6mg(0.012mmol)及び塩化メチレン0.8mlを加えて30分間攪拌した。溶媒を減圧留去し、乾燥したところ、茶褐色の表題化合物11.2mg(収率>99%)が得られた。
31P NMR(CDCl)δppm;−48.79(d,0.036Hz)、−49.45(d,0.036Hz)。
【実施例2】
【0169】
RuCl{2−ジフェニルホスフィノベンズヒドロール}{(S,S)−DPEN}の合成
(1)2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ベンゾフェノンの合成
2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノン856.9mg(4.0mmol)及びジメチルアミノピリジン97.7mg(0.8mmol)を塩化メチレン15mlに溶解し、0℃に冷却した。そこへ、2,6−ルチジン1.2ml(10mmol)を加えた後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1.7ml(10mmol)を滴下し、その後室温で18時間攪拌した。反応混合物を水、食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、アルミナカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製することにより表題化合物1.42g(収率75%)が橙色液体として得られた。
H NMR(CDCl)δppm;7.39〜7.70(8H,m)。
19F NMR(CDCl)δppm;−73.75(s)。
【0170】
(2)2,2’−ビス{ジフェニルホスフィニル}ベンゾフェノンの合成
2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ベンゾフェノン191.3mg(0.4mmol)、酢酸パラジウム9.0mg(0.04mmol)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン17.0mg(0.04mmol)及びジフェニルホスフィンオキシド310mg(1.2mmol)をジメチルスルホキシド5mlに溶解し、更にN,N−ジイソプロピルエチルアミン191.3mg(0.4mmol)を加えて100℃で18時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、塩化メチレン10mlを加えた。この溶液を1N塩酸、水、食塩水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル〜塩化メチレン:メタノール=10:1)で精製することにより茶褐色固体の表題化合物252mg(収率90%)が得られた。
H NMR(CDCl)δppm;7.06〜7.70(28H,m)
31P NMR(CDCl)δppm;32.07(s)
【0171】
(3)2−ジフェニルホスフィノベンズヒドロールの合成
2,2’−ビス{ジフェニルホスフィニル}ベンゾフェノン252mg(0.36mmol)をトルエン10mlに溶解し、更にトリエチルアミン2.0ml(14.4mmol)を加えた溶液を0℃に冷却した。そこにトリクロロシラン360μl(3.6mmol)を加えて、0℃のまま30分間攪拌した。その後ゆっくりと還流する温度まで上げていき4時間還流した。反応混合物を冷却し、25%水酸化ナトリウム水溶液10mlをゆっくり滴下した。水層を塩化メチレン10mlで抽出し、有機層をあわせて1N塩酸で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮して溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:6)で精製する事により、黄色固体の表題化合物47.7mg(収率20%)が得られた。
H NMR(CDCl)δppm;6.91〜7.39(28H,m)
31P NMR(CDCl)δppm;−17.41(s)
(4)RuCl{2−ジフェニルホスフィノベンズヒドロール}(DMF)nの合成
2−ジフェニルホスフィノベンズヒドロール6.6mg(0.012mmol)、ベンゼンルテニウムクロリド2量体3.0mg(0.006mmol)及びDMF1mlを100℃で45分間攪拌した後、溶媒を減圧留去して表題化合物を得た。
(5)RuCl{2−ジフェニルホスフィノベンズヒドロール}{(S,S)−DPEN}の合成
(4)で得られた減圧留去後のRuCl{2−ジフェニルホスフィノベンズヒドロール}(DMF)nの中に(S,S)−DPEN2.6mg(0.012mmol)及び塩化メチレン0.8mlを加えて30分間攪拌した。溶媒を減圧留去した後乾燥して、表題化合物11.2mg(収率>99%)を得た。
31P NMR(CDCl)δppm;48.62、49.25(2d、JP−P=32.07Hz)
【実施例3】
【0172】
2,2’−ビス{ジ−3,5−キシリル)ホスフィノ}ベンゾフェノンの合成
(1)2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ベンゾフェノンの合成
2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノン856.9mg(4.0mmol)及びジメチルアミノピリジン97.7mg(0.8mmol)を塩化メチレン15mlに溶解し、0℃に冷却した。そこへ、2,6−ルチジン1.2ml(10mmol)を加えた後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1.7ml(10mmol)を滴下し、その後室温で18時間攪拌した。反応混合物を水、食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、アルミナカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製することにより表題化合物1.42g(収率75%)が橙色液体として得られた。
H NMR(CDCl)δppm;7.39〜7.70(8H,m)。
19F NMR(CDCl)δppm;−73.75(s)。
【0173】
(2)2,2’−ビス{ジ−(3,5−キシリル)ホスフィニル}ベンゾフェノンの合成
2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ベンゾフェノン191.3mg(0.4mmol)、酢酸パラジウム9.0mg(0.04mmol)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン17.0mg(0.04mmol)及びジ−(3,5−キシリル)ホスフィンオキシド310mg(1.2mmol)をジメチルスルホキシド5mlに溶解し、更にN,N−ジイソプロピルエチルアミン191.3mg(0.4mmol)を加えて100℃で18時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、塩化メチレン10mlを加えた。この溶液を1N塩酸、水、食塩水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル〜塩化メチレン:メタノール=10:1)で精製することにより茶褐色固体の表題化合物252mg(収率90%)が得られた。
H NMR(CDCl)δppm;2.22(24H,s),7.03〜7.78(20H,m)。
31P NMR(CDCl)δppm;32.08(s)。
【0174】
(3)2,2’−ビス{ジ−3,5−キシリル)ホスフィノ}ベンゾフェノンの合成
2,2’−ビス{ジ−(3,5−キシリル)ホスフィニル}ベンゾフェノン252mg(0.36mmol)をトルエン10mlに溶解し、更にトリエチルアミン2.0ml(14.4mmol)を加えた溶液を0℃に冷却した。そこにトリクロロシラン360μl(3.6mmol)を加えて、0℃のまま30分間攪拌した。その後ゆっくりと還流する温度まで上げていき4時間還流した。反応混合物を冷却し、25%水酸化ナトリウム水溶液10mlをゆっくり滴下した。水層を塩化メチレン10mlで抽出し、有機層をあわせて1N塩酸で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮して溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:6)で精製する事により、黄色固体の表題化合物47.7mg(収率20%)が得られた。
H NMR(CDCl)δppm;2.15(12H,s),2.23(12H,s),6.73〜7.41(20H,m)。
31P NMR(CDCl)δppm;−18.02(s)。
【実施例4】
【0175】
RuCl{ビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル}{(S,S)−DPEN}の合成
(1)RuCl{ビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル}(DMF)nの合成
ビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル6.4mg(0.012mmol)、ベンゼンルテニウムクロリド2量体3.0mg(0.006mmol)及びDMF1mlを100℃で30分間攪拌した後、溶媒を減圧留去して表題化合物を得た。
(2)RuCl{ビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル}{(S,S)−DPEN}の合成
(1)で得られた減圧留去後のRuCl{ビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル}(DMF)nの中に(S,S)−DPEN2.6mg(0.012mmol)及び塩化メチレン0.8mlを加えて30分間攪拌した。溶媒を減圧留去し、乾燥したところ、茶褐色の表題化合物11.1mg(収率>99%)が得られた。
31P NMR(CDCl)δppm;43.09(s)。
なお、原料のビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテルはSTREM CHEMICALS社より購入したものを使用した。
【実施例5】
【0176】
2’−メチルアセトフェノンの不斉水素化反応
窒素雰囲気下、実施例2の(4)で得られたRuCl(DPBOL)(DMF)n (0.4mol%)、(S,S)−DPEN(0.4mol%)、2’−メチルアセトフェノン402.5g(3.0mmol)、水酸化カリウム1.3mg(0.8mol%)、及び2−プロパノール3.3mLをステンレスオートクレーブに入れ、室温、水素圧0.8MPa(8atm)で4時間撹拌反応させて、(1R)−1−(2−メチルフェニル)−エタノールを得た。GC収率99%以上。光学純度96%ee。
【実施例6】
【0177】
2’−メチルアセトフェノンの不斉水素化反応
実施例5において、RuCl(DPBOL)(DMF)nの代わりにRuCl(DM−BIPHEP)(DMF)nを用い、反応温度を0℃とした以外は実施例5と同様にして反応を行い、(1R)−1−(2−メチルフェニル)−エタノールを得た。GC収率99%以上。光学純度88%ee。
【実施例7】
【0178】
2’−メチルアセトフェノンの不斉水素化反応
実施例5において、RuCl(DPBOL)(DMF)nの代わりにRuCl(DM−BINAP)(DMF)nを用い、反応温度を0℃とした以外は実施例5と同様にして反応を行い、(1R)−1−(2−メチルフェニル)−エタノールを得た。GC収率99%以上。光学純度86%ee。
【実施例8】
【0179】
アセトフェノンの不斉水素化反応
実施例5において、2’−メチルアセトフェノンの代わりにアセトフェノンを用いた以外は実施例5と同様にして反応を行い、(1R)−1−フェニルエタノールを得た。GC収率99%以上。光学純度91%ee。
【実施例9】
【0180】
アセトフェノンの不斉水素化反応
実施例8において、RuCl(DPBOL)(DMF)nの代わりにRuCl((S)−BINAP)(DMF)nを用いた以外は実施例8と同様にして反応を行い、(1R)−1−(フェニルエタノールを得た。GC収率99%以上。光学純度87%ee。
【0181】
【表1】

【実施例10】
【0182】
3’−メチルアセトフェノンの不斉水素化反応
実施例5において、2’−メチルアセトフェノンの代わりに3’−メチルアセトフェノンを用いた以外は実施例5と同様にして反応を行い、(1R)−(3−メチルフェニル)エタノールを得た。GC収率34%。光学純度93%ee。
【実施例11】
【0183】
メチル2’−ナフチルケトンの不斉水素化反応
実施例5において、2’−メチルアセトフェノンの代わりにメチル2’−ナフチルケトンを用いた以外は実施例5と同様にして反応を行い、(R)−1−(2−メチルフェニル)エタノールを得た。GC収率99%以上。光学純度82%ee。
【実施例12】
【0184】
2’−メチルアセトフェノンの不斉水素化反応
実施例5において、RuCl(DPBOL)(DMF)nの代わりにRuCl(DPEphos)(DMF)nを用いた以外は実施例5と同様にして反応を行い、(1R)−1−(2−メチルフェニル)エタノールを得た。GC収率99%以上。光学純度41%ee。
【実施例13】
【0185】
アセトフェノンの不斉水素化反応
実施例4で合成したRuCl(DPEphos){(S,S)−DPEN}11.1mg(0.012mmol)を耐圧管に入れ、0.5M水酸化カリウム2−プロパノール溶液48μl(0.024mmol)及び2−プロパノール3.3mlを加え、アルゴン雰囲気下30分間攪拌した。その後アセトフェノン350μl(3.0mmol)を加え、0.8MPa(8atm)の水素雰囲気下4時間攪拌した。その結果、アセトフェノンのアルコール還元体である、(1R)−1−フェニルエタノールが収率99%以上、不斉収率91%eeで得られた。
【実施例14】
【0186】
不斉水素化反応
実施例8において、RuCl(DPBOL)(DMF)nの代わりにRuCl(DPBP)(DMF)nを用いた以外は実施例6と同様にして反応を行い、(1R)−1−フェニルエタノールを得た。GC収率96%。光学純度90%ee。
【0187】
(実施例15〜19)
不斉水素化反応
実施例14において、アセトフェノンの代わりに下記表2に示すケトン類を用いた以外は実施例11と同様にして反応を行った。結果を表2に示す。
【0188】
【表2】

【0189】
(実施例20〜23)
不斉水素化反応
実施例14において、2’−メチルアセトフェノンの代わりに下記表3に示すケトン類及び水素圧を代えた以外は実施例11と同様にして反応を行い、それぞれ表3のプロダクト欄に記載のアルコールを得た。結果を表3に示す。
【0190】
【表3】

【実施例24】
【0191】
Rh{2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン}{(S,S)−DPEN}(SbF)の合成
(1)[Rh{2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン}(cod)}(SbF)の合成
2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン55.0mg(0.1mmol)、[Rh(cod)2]SbF52.3mg(0.1mmol)を塩化メチレン3mlに溶かし25℃で3間撹拌した後、溶媒を減圧留去して表題化合物を得た。
(2)Rh{2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン}{(S,S)−DPEN}(SbF)の合成
(1)で得られた減圧留去後の[Rh{2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)ベンゾフェノン}(cod)}(SbF)の中に(S,S)−DPEN21.2mg(0.1mmol)及び塩化メチレン2mlを加えて水素雰囲気下1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、乾燥して表題化合物110mg(収率>99%)を得た。
31P NMR(CDCl)δppm;48.28、57.04(2dd、JP−P=40.5Hz。JP−Rh=157.9Hz。)
【実施例25】
【0192】
水素移動型反応による不斉還元反応
窒素雰囲気下、実施例18で得られたRh(DPBP){(S,S)−DPEN}(SbF)(3mol%)、アセトフェノン36.6mg(0.3mmol)、カリウムtert−ブトキシド6.7mg(18mol%)、2−プロパノール3.6mL及び塩化メチレン2〜3滴をステンレスオートクレーブに入れ、60℃で24時間撹拌反応させて、(1R)−フェネチルアルコールを得た。GC収率99%以上。光学純度68%ee。
【0193】
(実施例26〜29)
水素移動型反応による不斉還元反応
実施例25において、アセトフェノンの代わりに下記表4に示すケトン類を用いた以外は実施例25と同様にして反応を行った。結果を表4に示す。
【0194】
【表4】

【実施例30】
【0195】
水素移動型反応による不斉還元反応
窒素雰囲気下、実施例18で得られたRh(DPBP){(S,S)−DPEN}(SbF)(3mol%)、アセトフェノン36.6mg(0.3mmol)、カリウムtert−ブトキシド6.7mg(18mol%)、2−プロパノール3.6mL及びジクロロエタン0.4mLをステンレスオートクレーブに入れ、60℃で24時間撹拌反応させて、(1R)−フェネチルアルコールを得た。GC収率87%以上。光学純度87%ee。
【0196】
(実施例31〜34)
水素移動型反応による不斉還元反応
実施例30において、アセトフェノンの代わりに下記表5に示すケトン類を用いた以外は実施例30と同様にして反応を行った。結果を表5に示す。
【0197】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明は、光学収率の優れた不斉合成用触媒として有用な新規な遷移金属錯体、好ましくは光学活性の遷移金属錯体、より好ましくはルテニウム錯体又はロジウム錯体を提供するものである。そして、これらの錯体を触媒として、産業上有用なアルコール類を立体選択的に高収率で製造することができる。
したがって、本発明の金属錯体、それからなる不斉合成用触媒はいずれも、立体選択的な有機化合物の製造に極めて有用であり、産業上の利用性を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式[1]
[LMX] [1]
(式中、Lは一般式[2]
【化73】

(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはスペーサーを示す。)で表される化合物を示し、Mは遷移金属を示し、Xはハロゲン原子又は陰イオンを示し、Zは一般式[3]
【化74】

(式中、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示す。)で示される化合物を示し、pは1又は2を示し、nは自然数を示す。)で表される遷移金属錯体。
【請求項2】
一般式[2]で表される化合物のYが、カルボニル基、スルホニル基、チオカルボニル基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−である請求の範囲第1項に記載の遷移金属錯体。
【請求項3】
一般式[3]で表される化合物が、光学活性化合物であり、遷移金属錯体が不斉遷移金属錯体である、請求の範囲第1又は2項に記載の遷移金属錯体。
【請求項4】
遷移金属錯体が、元素の周期表の第8〜10族の遷移金属錯体である請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の遷移金属錯体。
【請求項5】
遷移金属錯体が、ルテニウム又はロジウムの遷移金属錯体である請求の範囲第1〜4項のいずれかに記載の遷移金属錯体。
【請求項6】
遷移金属錯体が、次の一般式[1−1a]
【化75】

(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはカルボニル基、スルホニル基、チオカルボニル基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−から選ばれるスペーサーを示し、X及びXはそれぞれ独立してハロゲン原子を示し、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、*は不斉炭素であることを示す。)で表される光学活性ルテニウムホスフィンジアミン錯体である、請求の範囲第5項に記載の遷移金属錯体。
【請求項7】
遷移金属錯体が、次の一般式[1−2a]
【化76】

[式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはカルボニル基、スルホニル基、チオカルボニル基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−から選ばれるスペーサーを示し、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、(X)−は陰イオンを示し、*は不斉炭素であることを示す。]で表されるロジウムホスフィン錯体である、請求の範囲第5項に記載の遷移金属錯体。
【請求項8】
請求の範囲第3〜7項のいずれかに記載の遷移金属錯体が、一般式[4]
[LMX [4]
(式中、Lは一般式[2]
【化77】

(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはスペーサーを示す。)で表される化合物を示し、Mは遷移金属を示し、Xはハロゲン原子又は陰イオンを示し、Zは中性配位子を示し、qは1又は2を示し、rは1又は2を示し、mは0又は自然数を示す。)で表される遷移金属化合物と、一般式[3]で表される化合物が光学活性化合物である次の一般式[3a]
【化78】

(式中、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示す。)で表される化合物との反応により、反応系のその場で得られるものである請求の範囲第3〜7項のいずれかに記載の遷移金属錯体。
【請求項9】
請求の範囲第3〜8項のいずれかに記載の遷移金属錯体の少なくとも1種を含有してなる不斉合成用触媒。
【請求項10】
一般式[4]
[LMX [4]
(式中、Lは、一般式[2]
【化79】

(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはスペーサーを示す。)で表される化合物を示し、Mは遷移金属を示し、Xはハロゲン原子又は陰イオンを示し、Zは中性配位子を示し、qは1又は2を示し、rは1又は2を示し、mは0又は自然数を示す。)で表される遷移金属化合物と、一般式[3a]
【化80】

(式中、環C及び環Dはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、*は不斉炭素であることを示す。)で示される光学活性化合物とを含有してなる不斉合成用触媒。
【請求項11】
不斉合成用触媒が、不斉水素化触媒である請求の範囲第9又は10項に記載の不斉合成用触媒。
【請求項12】
次の一般式[2’]
【化81】

(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を示し、Q、Q、Q、及びQはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい脂環式基を示し、Yはカルボニル基(C=O)、スルホニル基(SO)、チオカルボニル(C=S)基、−CH(OH)−又は−CH(SH)−を示す。)で表される化合物。
【請求項13】
次の一般式[11]
【化82】

(式中、R、Rは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す(但し、RとRが同一となる場合を除く。)。また、RとRとが結合して、隣接する炭素原子と一緒になって環を形成していてもよく、その環は置換基を有していてもよい。)で表されるケトン化合物を請求項9〜11項のいずれかに記載の不成合成用触媒を用いて不斉水素化反応させることを特徴とする、次の一般式[12]
【化83】

(式中、*は不斉炭素であることを示し、R及びRは前記と同じ。)で表される光学活性アルコールの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/016943
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513186(P2005−513186)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011693
【国際出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】