説明

新規な露出結晶面を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子とその製造方法

【課題】高い光触媒活性を有する新規なルチル型二酸化チタンナノ粒子と、このルチル型二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒、及び該光触媒を用いた有機化合物の酸化方法を提供する。
【解決手段】本発明のルチル型二酸化チタンナノ粒子は、露出結晶面(001)を有することを特徴とする。このルチル型酸化チタンナノ粒子は、チタン化合物を親水性ポリマーの存在下、水性媒体中で水熱処理することにより製造することができる。親水性ポリマーとしてポリビニルピロリドンなどが使用される。このルチル型酸化チタンナノ粒子からなる光触媒の存在下、被酸化部位を有する有機化合物を光照射下に分子状酸素又は過酸化物により酸化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒、酸化触媒として有用なルチル型二酸化チタンナノ粒子、その製造法、該ルチル型二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒、及び該光触媒を使用した有機化合物の酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒反応とは、光触媒能を有する固体化合物に紫外線を照射すると励起電子と電子が出たあとの穴(正孔:ホール)が生成し、該励起電子が還元作用を、該ホールが強い酸化作用を有し、これらにより反応物を酸化、あるいは還元する反応である。代表的な光触媒能を有する固体化合物としては二酸化チタンが知られている。二酸化チタンは紫外線を吸収すると、強い酸化作用を発揮することができ、例えば、大気浄化、水質浄化、汚染防止、脱臭、抗菌、院内感染防止、曇り防止など幅広い用途に応用されている。
【0003】
二酸化チタンの主な結晶形としては、ルチル型とアナターゼ型が知られている。これらの結晶性二酸化チタンは非晶性二酸化チタン(アモルファス)に比べて高い化学的安定性を示し屈折率が大きい。そして、結晶性二酸化チタンは結晶の形状、サイズ、そして結晶化度を容易にコントロールすることができる。
【0004】
また、結晶化度が高い二酸化チタン粒子は、結晶化度が低い二酸化チタン粉末に比べて優れた光触媒能を発揮することができ、結晶のサイズが大きいほど、優れた光触媒能を発揮することが知られている。
【0005】
さらに、特許文献1には、二酸化チタンにアルカリ性過酸化水素水処理、硫酸処理、又はフッ化水素酸処理を施して新規露出結晶面が発現した二酸化チタン結晶を作る方法が記載されており、得られた新規露出結晶面が発現した二酸化チタンからなる光触媒は高い酸化触媒性能を有することが記載されている。前記新規露出結晶面が発現した二酸化チタンとしては、(1)ルチル型二酸化チタンから得られる、新規に(121)面を発現させた二酸化チタン結晶、(2)ルチル型二酸化チタンから得られる、新規に(001)(121)(021)(010)面を発現させた二酸化チタン結晶、(3)ルチル型二酸化チタンから得られる、新規に(021)面を発現させた二酸化チタン結晶、(4)アナターゼ型二酸化チタンから得られる、新規に(120)面を発現させた二酸化チタン結晶、(5)アナターゼ型二酸化チタンから得られる、新規に(122)面を発現させた二酸化チタン結晶、(6)アナターゼ型二酸化チタンから得られる、新規に(112)面を発現させた二酸化チタン結晶が開示されている。
【0006】
しかしながら、従来の結晶形を有する二酸化チタン触媒では、用途によっては触媒作用が必ずしも十分とは言えず、より高い触媒活性を有する二酸化チタン光触媒が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−298296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、高い光触媒活性を有する新規なルチル型二酸化チタンナノ粒子と、このルチル型二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒、及び該光触媒を用いた有機化合物の酸化方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、有機物質を効率よく酸化できる新規なルチル型二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒、及び該光触媒を用いた有機化合物の酸化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、光触媒反応を引き起こす電子とホールは近づくと再結合し易いため、それらを分離することが光触媒能を高める上で重要であり、二酸化チタン結晶に新規露出結晶面(001)を露出させることにより、電子とホールとの分離を促進することができること、及びこの露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子は、チタン化合物を親水性ポリマーの存在下、水性媒体中で水熱処理することにより得られ、該露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒は高い酸化触媒性能を有することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子を提供する。
【0011】
本発明は、また、チタン化合物を親水性ポリマーの存在下、水性媒体中で水熱処理して、露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子を得ることを特徴とするルチル型二酸化チタンナノ粒子の製造法を提供する。
【0012】
親水性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0013】
本発明は、さらに、露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒を提供する。
【0014】
本発明はさらにまた、露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒の存在下、被酸化部位を有する有機化合物を光照射下に分子状酸素又は過酸化物により酸化することを特徴とする有機化合物の酸化方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
ルチル型二酸化チタンのロッド状結晶は(110)と(111)面からなり、(110)面が還元サイト、(111)面が酸化サイトとして作用するが、本発明に係るルチル型二酸化チタンナノ粒子は露出結晶面(110)と(111)面に加えて、新たな露出結晶面(001)を有し、(110)面が還元サイト、(001)面が酸化サイトとして作用するため、紫外線を照射することにより生成する励起電子と活性化されたホールを完全に分離することができ、再結合を防止することができる。そのため、強い酸化作用を発揮することができる。本発明に係るルチル型二酸化チタンナノ粒子を光触媒として使用すると、有機物質を効率よく酸化することができるため、大気の浄化、脱臭、浄水、抗菌、防汚などの目的に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】TiCl3をPVPの非存在下、水熱処理して得られる結晶と、TiCl3をPVPの存在下、水熱処理して得られる結晶とを模式的に表した図である。
【図2】Ptを光析出させたルチル型二酸化チタンナノ粒子のTEM写真(a)とSEM写真(b)、及び、PtとPbO2を光析出させたルチル型二酸化チタンナノ粒子のTEM写真(c)とSEM写真(d)である。
【図3】実施例及び比較例においてPVP濃度を0〜0.5mMに変化させて得られたルチル型二酸化チタンナノ粒子のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例及び比較例において異なるPVP濃度で合成されたルチル型二酸化チタンナノ粒子[(a)SH5−0PVP、(b)SH5−0.10PVP、(c)SH5−0.25PVP、(d)SH5−0.5PVP]のTEM写真である。
【図5】実施例及び比較例において異なるPVP濃度で合成されたルチル型二酸化チタンナノ粒子[(a)SH5−0PVP、(b)SH5−0.10PVP、(c)SH5−0.25PVP、(d)SH5−0.5PVP]のSEM写真である。
【図6】二酸化チタン(MT−600B)及び実施例及び比較例において異なるPVP濃度で合成されたルチル型二酸化チタンを光触媒として使用してアセトアルデヒドを酸化した際に生成したCO2濃度と紫外線照射量との関係を示す図である。
【図7】二酸化チタン(MT−600B)及び実施例及び比較例において異なるPVP濃度で合成されたルチル型二酸化チタンを光触媒として使用してトルエンを酸化した際に生成したCO2濃度と紫外線照射量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
本発明に係るルチル型二酸化チタンナノ粒子は、新規な露出結晶面(001)を有することを特徴とする。
【0019】
新規な露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子は、チタン化合物を親水性ポリマーの存在下、水性媒体中で水熱処理することにより製造することができる。チタン化合物を水性媒体中で水熱処理すると、通常、(110)と(111)面からなるルチル型二酸化チタンのロッド状結晶が得られるが、チタン化合物を親水性ポリマー条件下、水性媒体中で水熱処理することにより、新規な露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンのロッド状結晶が生成する(図1参照)。
【0020】
チタン化合物としては、例えば、三塩化チタン、四塩化チタン、四臭化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、チタンアルコキサイド、過酸化チタン等が挙げられる。本発明においては、空気中、開放形での反応システム条件下での反応性、クロライドイオンの存在量の点で、三塩化チタン、四塩化チタンが好ましく使用される。
【0021】
親水性ポリマーは、コロイド状のナノ粒子を合成する際に立体安定剤又はキャッピング剤として作用し、生成物が凝集することを防止することができる。親水性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート(PVA)、ポリハイドロキシアルキルアクリレート、ポリスチレンスルホネート、これらの混合物若しくは共重合体等を挙げることができる。
【0022】
本発明における親水性ポリマーとしては、なかでも、PVP、PVAが好ましく、特に、化学的に安定で、毒性が無く、多くの極性溶媒に対して優れた溶解性を示し、その上、ルチル型二酸化チタンナノ粒子の(111)面に選択的に吸着し、ルチル型二酸化チタンナノ粒子の形状を制御することができる点でPVPが好ましい。
【0023】
PVPの平均分子量としては、例えば、10000〜100000程度、好ましくは30000〜50000程度である。平均分子量が10000を下回ると、ルチル型二酸化チタンナノ粒子の特定の表面に吸着してその形状を制御する働き、及び生成物の凝集を防止する働きが低下する傾向があり、一方、平均分子量が100000を上回ると、粘度が高くなりすぎるため作業性が低下し、ポリマー自身の分散性が低下し、酸化チタン前駆体との良好な相互作用ができないためにルチル型二酸化チタンナノ粒子の形状制御能が低下する傾向がある。
【0024】
本発明においては、PVPとして、商品名「PVP−K30」(平均分子量:40000)、商品名「PVP−K25」(平均分子量:24000)等の市販品を使用することができる。
【0025】
ルチル型二酸化チタンナノ粒子の光触媒能は、該粒子の結晶構造により大きく影響される。それは、粒子の結晶構造により紫外線を照射した際に発生する励起電子とホールとが再結合し易いか否かが異なってくるからである。PVP等の親水性ポリマーはルチル型二酸化チタンナノ粒子の結晶面(111)及び結晶面(110)のうち、結晶面(111)により吸着し易く、該結晶面(111)に吸着し稜又は頂点の部位を浸食して新規露出結晶面(001)を露出させる作用を有し、親水性ポリマー濃度を調整することにより新規露出結晶面(001)の形状をコントロールすることができる。そして、親水性ポリマー濃度依存的に新規露出結晶面(001)を露出させることができ、新規露出面の面積を大きくすることができる。一方、結晶面(111)の面積は親水性ポリマー濃度の上昇に反比例して減少する。
【0026】
本発明において、PVP等の親水性ポリマーの濃度としては、例えば、0.05〜1.0mM、好ましくは0.2〜0.5mM程度、特に好ましくは0.2〜0.4mMである。親水性ポリマー濃度が濃すぎると結晶面(111)が浸食され小さくなり過ぎる。その結果、電子とホールとの分離能が低下するため、再結合しやすくなり光触媒能が低下する傾向がある。一方、親水性ポリマー濃度が薄すぎると、電子とホールとを分離するのに十分な新規露出面(001)を形成することが困難となり、光触媒能を向上させることが困難となる傾向がある。
【0027】
本発明において、水熱処理の際に用いる水性媒体としては、水又は水と水溶性有機溶媒との混合液が用いられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;アセトン等のケトン;アセトニトリル等のニトリル;酢酸等のカルボン酸などが挙げられる。水と水溶性有機溶媒との混合液を用いる場合の水と水溶性有機溶媒の比率は、前者/後者(重量比)=10/90〜99.9/0.01、好ましくは50/50〜99/1程度である。水性媒体の使用量としては、一般には、チタン化合物1重量部に対し、0.0001〜0.1重量部程度、好ましくは0.001〜0.01重量部程度である。
【0028】
また、本発明においては、水性媒体にハロゲン化物を添加することが好ましい。ハロゲン化物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム等のアルカリ金属ハロゲン化物などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属ハロゲン化物が好ましく、特に塩化ナトリウムが好ましい。水性媒体中にハロゲン化物を添加することによりルチル型二酸化チタンナノ粒子の結晶性、粒子サイズ及び表面積を調整することができる。ハロゲン化物の添加量が増えるに従って、粒子サイズ及び結晶性が向上し、表面積が低下する傾向があり、本発明における添加量としては、例えば、0.5〜10M程度、好ましくは1〜6M程度である。
【0029】
水熱処理の処理温度は、反応速度及び反応選択性を考慮して適宜選択できるが、一般には100〜200℃程度、処理時間としては3〜24時間程度である。水熱処理の圧力は、例えば、常圧〜0.3MPa(ゲージ圧)程度であるが、この範囲に限定されるものではない。
【0030】
本発明の新規露出結晶面(001)が発現(露出)したルチル型二酸化チタンナノ粒子は、種々の化学反応(例えば、酸化反応、有害物質の分解反応等)や殺菌などに光触媒として利用することができる。
【0031】
本発明の有機化合物の酸化方法は、上記の露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒の存在下、被酸化部位を有する有機化合物を光照射下に分子状酸素又は過酸化物により酸化することを特徴とする。
【0032】
前記有機化合物としては、少なくとも1つの被酸化部位を有する有機化合物であれば特に限定されない。被酸化部位を有する有機化合物としては、(A1)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物、(A2)炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物、(A3)メチン炭素原子を有する化合物、(A4)不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物、(A5)非芳香族性環状炭化水素、(A6)共役化合物、(A7)アミン類、(A8)芳香族化合物、(A9)直鎖状アルカン、及び(A10)オレフィン類等が挙げられる。
【0033】
ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物(A1)としては、(A1-1)第1級若しくは第2級アルコール又は第1級若しくは第2級チオール、(A1-2)酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するエーテル又は硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するスルフィド、(A1-3)酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するアセタール(ヘミアセタールも含む)又は硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するチオアセタール(チオヘミアセタールも含む)などが例示できる。
【0034】
前記炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物(A2)としては、(A2-1)カルボニル基含有化合物、(A2-2)チオカルボニル基含有化合物、(A2-3)イミン類などが挙げられる。
【0035】
前記メチン炭素原子を有する化合物(A3)には、(A3-1)環の構成単位としてメチン基(すなわち、メチン炭素−水素結合)を含む環状化合物、(A3-2)メチン炭素原子を有する鎖状化合物が含まれる。
【0036】
前記不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物(A4)としては、(A4-1)芳香族性環の隣接位(いわゆるベンジル位)にメチル基又はメチレン基を有する芳香族化合物、(A4-2)不飽和結合(例えば、炭素−炭素不飽和結合、炭素−酸素二重結合など)の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する非芳香族性化合物などが挙げられる。
【0037】
前記非芳香族性環状炭化水素(A5)には、(A5-1)シクロアルカン類及び(A5-2)シクロアルケン類が含まれる。
【0038】
前記共役化合物(A6)には、共役ジエン類(A6-1)、α,β−不飽和ニトリル(A6-2)、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(例えば、エステル、アミド、酸無水物等)(A6-3)などが挙げられる。
【0039】
前記アミン類(A7)としては、第1級または第2級アミンなどが挙げられる。
【0040】
前記芳香族炭化水素(A8)としては、少なくともベンゼン環を1つ有する芳香族化合物、好ましくは少なくともベンゼン環が複数個(例えば、2〜10個)縮合している縮合多環式芳香族化合物などが挙げられる。
【0041】
前記直鎖状アルカン(A9)としては、炭素数1〜30程度(好ましくは炭素数1〜20程度)の直鎖状アルカンが挙げられる。
【0042】
前記オレフィン類(A10)としては、置換基(例えば、ヒドロキシル基、アシルオキシ基等の前記例示の置換基など)を有していてもよいα−オレフィン及び内部オレフィンの何れであってもよく、ジエンなどの炭素−炭素二重結合を複数個有するオレフィン類も含まれる。
【0043】
上記の被酸化部位を有する有機化合物は単独で用いてもよく、同種又は異種のものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明の酸化方法において、前記ルチル型二酸化チタンナノ粒子の使用量は、基質として用いる有機化合物100重量部に対して、例えば1〜10000重量部、好ましくは10〜5000重量部、さらに好ましくは50〜2000重量部程度である。
【0045】
本発明の方法では、基質としての有機化合物を光照射下に分子状酸素及び/又は過酸化物で酸化する。照射する光としては、通常、380nm未満の紫外線が使用されるが、二酸化チタンの種類によっては、例えば380nm以上、650nm程度までの長波長の可視光線を使用することもできる。
【0046】
分子状酸素としては、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を用いてもよい。分子状酸素の使用量は、基質として用いる有機化合物1モルに対して、例えば0.5モル以上、好ましくは1モル以上である。有機化合物に対して過剰モルの分子状酸素を用いることが多い。
【0047】
過酸化物としては、特に限定されず、ペルオキシド、ヒドロペルオキシド等の何れも使用できる。代表的な過酸化物として、過酸化水素、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、トリフェニルメチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどが挙げられる。上記過酸化水素としては、純粋な過酸化水素を用いてもよいが、取扱性の点から、通常、適当な溶媒、例えば水に希釈した形態(例えば、30重量%過酸化水素水)で用いられる。過酸化物の使用量は、基質として用いる有機化合物1モルに対して、例えば0.1〜5モル程度、好ましくは0.3〜1.5モル程度である。
【0048】
本発明では、分子状酸素と過酸化物のうち一方のみを用いてもよいが、分子状酸素と過酸化物とを組み合わせることにより、反応速度が大幅に向上する場合がある。
【0049】
上記反応により、有機化合物から対応する酸化開裂生成物(例えば、アルデヒド化合物)、キノン類、ヒドロペルオキシド、ヒドロキシル基含有化合物、カルボニル化合物、カルボン酸などの酸素原子含有化合物などが生成する。例えば、アルコールからは対応するカルボニル化合物(ケトン、アルデヒド)やカルボン酸等が、アルデヒドからは対応するカルボン酸等が生成する。また、アダマンタンからは1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、2−アダマンタノンなどが生成する。そして、さらに酸化反応が進行すると、最終的には有機化合物を二酸化炭素と水にまで分解することができる。
【0050】
反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。また、二酸化チタンナノ粒子からなる光触媒は濾過により容易に分離でき、分離した触媒は、必要に応じて洗浄等の処理を施した後、リサイクル使用できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0052】
実施例1
テフロン(登録商標)塗装されたオートクレーブに、TiCl3(0.15M)、NaCl(5M)、及びPVP(商品名「PVP−K30」、分子量:40000、0.25mM)を含む50mL水溶液を仕込み、180℃のオーブンで10時間、水熱処理を行った。得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、真空乾燥機(バキュームオーブン)で乾燥した。
その後、表面に残存または吸着した有機化合物を500Wの超高圧水銀ランプ用光源装置(商品名「SX−UI501UO」、ウシオ電機(株)製)を使用して24時間、紫外線照射して取り除いた。続いて、減圧下、60℃で6時間乾燥させてTiO2(SH5−0.25PVP)を得た。
【0053】
実施例2〜4
PVPの濃度を0.25mMから0.1mM(実施例2)、0.4mM(実施例3)、0.5mM(実施例4)に変更した以外は実施例1と同様にしてそれぞれTiO2(SH5−0.1PVP、SH5−0.4PVP、SH5−0.5PVP)を得た。
【0054】
比較例1
PVPを使用しなかった以外は実施例1と同様にしてTiO2(SH5−0PVP)を得た。
【0055】
実施例及び比較例で得られたTiO2について、下記方法により評価した。なお、対照としてTiO2(商品名「MT−600B」、Tayca製、比表面積25〜35m2/g)を使用した。
【0056】
<形態評価1>
実施例1で得られたTiO2(SH5−0.25PVP)水溶液(2g/L)に2−プロパノール(0.52M)とH2PtCl6・6H2O(1mM)を加え懸濁液とした。得られた懸濁液から窒素ガスを完全に除去し、その後、500Wの超高圧水銀ランプ用光源装置(商品名「SX−UI501HQ」、ウシオ電機(株)製)を使用して紫外線を24時間照射した(1mW/cm2)。紫外線照射によりTiO2粉末の色は白から灰色に変化した。このことから、Ptが光析出したことがわかる。その後、懸濁液を遠心分離し、蒸留水で洗浄し、減圧下、70℃で3時間乾燥してPt担持TiO2粉末を得た。
【0057】
得られたPt担持TiO2を含む水溶液(2g/L)にPb(NO32(0.1M)を加え、硝酸を加えてpHを1.0に調整し、500Wの水銀ランプを使用して紫外線を24時間照射(0.1W/cm2)して、PtとPbO2が表面に担持されたTiO2を得た。尚、紫外線照射により粉末の色は灰色から茶色に変化した。このことから、Pb2+イオンがPt担持TiO2により酸化されてPbO2となり析出したことがわかる。
【0058】
PtとPbO2が表面に担持されたTiO2について走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して確認した。その結果、PtはTiO2の(110)面に担持され、PbO2は(001)面に担持されていることが確認できた。このことから、ルチル型TiO2において、酸化反応は新規の露出面(001)、還元反応は(110)面において行われ、酸化反応と還元反応とが完全に分離されていることがわかる(図2)。
【0059】
<形態評価2>
実施例1〜4及び比較例1で得られたTiO2の相同定にはXRD(粉末X線回折装置、商品名「JDX3500」、JEOL製、CuーKα、λ=1.5405Å)を使用した。微細構造は透過型電子顕微鏡(TEM、商品名「H−9000NAR」、日立製)及び電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM、商品名「JSM−6701FONO」、JEOL製)を使用して確認した。図3より、PVP濃度の上昇に従ってピークが強く表れていることから、PVP濃度依存的にルチル型二酸化チタンナノ粒子の結晶化度が上昇していることがわかる。図4及び図5より、PVP濃度の上昇に従って新規露出面(001)の露出面積が大きくなり、それに伴って(111)面が小さくなっていることがわかる。
【0060】
また、TiO2の平均粒径(d)は下記に示すScherrer方程式により求めた。
平均粒径(d)=0.9λ/βcosθ
(式中、λは使用したX線の波長を示し、βは回折プロファイルの半値幅、2θは回折角を示す)
さらに、比表面積は窒素吸着測定装置(商品名「Autosorb−1」、Quantachrome社製)を使用し、Brunauer−Emmett−Teller法(BET法)により測定した。
【0061】
上記結果を下記表1にまとめて示す。
【表1】

【0062】
<光触媒活性評価>
実施例1〜4及び比較例1で得られたTiO2の光触媒能は、気相にてアセトアルデヒドまたはトルエンを酸化し、生成するCO2量を測定することにより評価した。
テドラーバッグ(アズワン(株)社製)を反応容器として使用した。実施例1〜4及び比較例1で得られたTiO2100gをそれぞれガラス製皿に広げ、反応容器の中に入れ、500ppmのアセトアルデヒド飽和ガス(または、100ppmのトルエン飽和ガス)を反応容器に吹き込んだ。ガスとアセトアルデヒド(または、トルエン)が平衡に達した後、室温(25℃)で光照射を行った。光源には500Wのキセノンランプ用光源装置(商品名「SX−UI501XQ」、ウシオ電機(株)製)を使用し、UV−35フィルターを使用して350nmより短い波長の光線を遮断した。さらに、ファインステンレス製のメッシュを光量調節用フィルターとして使用して光量を30mW/cm2に調整した。
光照射開始後、CO2の生成量をメタナイザーが付属した水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ(商品名「GC−8A」、「GC−14A」、島津製作所製)を使用して測定した(図6、7)。
【0063】
以上より、TiO2粒子の新規露出面(001)の露出面積はPVP濃度に依存することがわかる。そして、TiO2光触媒能は比表面積及び結晶サイズ等の表面積の大きさに依らず、結晶の表面構造に依ることがわかる。それは、励起電子とホールとが分離されることにより再結合を遅らせることができ、強い触媒作用が発揮されるからである。本発明にかかる露出結晶面(001)を有するルチル型二酸化チタンナノ粒子は、(001)面にホール、(110)面に励起電子が位置し、ホールと励起電子とが完全に分離されるため、再結合を防止することができる。それにより、優れた光触媒能を発揮することができ、有機化合物の優れた酸化、分解作用を発揮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露出結晶面(001)を有するルチル型酸化チタンナノ粒子。
【請求項2】
チタン化合物を親水性ポリマーの存在下、水性媒体中で水熱処理して、露出結晶面(001)を有するルチル型酸化チタンナノ粒子を得ることを特徴とするルチル型酸化チタンナノ粒子の製造法。
【請求項3】
親水性ポリマーがポリビニルピロリドンである請求項2記載のルチル型酸化チタンナノ粒子の製造法。
【請求項4】
露出結晶面(001)を有するルチル型酸化チタンナノ粒子からなる光触媒。
【請求項5】
露出結晶面(001)を有するルチル型酸化チタンナノ粒子からなる光触媒の存在下、被酸化部位を有する有機化合物を光照射下に分子状酸素又は過酸化物により酸化することを特徴とする有機化合物の酸化方法。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−32146(P2011−32146A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182563(P2009−182563)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】