説明

新規な3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン構造を有する化合物及びこれを含有する医薬

【課題】アンジオテンシンII受容体拮抗作用及びPPARγ活性化作用を併せ持ち、高血圧症、心疾患、狭心症、脳血管障害、脳循環障害、虚血性末梢循環障害、腎疾患、動脈硬化症、炎症性疾患、2型糖尿病、糖尿病性合併症、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、メタボリックシンドローム、高インスリン血症の予防及び/又は治療剤として有用な新規な化合物の提供。
【解決手段】3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びそれを含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシンII拮抗作用及びPPARγ活性化作用を有する新規な3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン構造を有する化合物及びこれを含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活水準向上に伴うライフ・スタイルの変化、即ち、高カロリー、高コレステロール食の摂取、肥満、運動不足、高齢化等により、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満等の、動脈硬化性疾患の危険因子となり得る疾患が急増している。これらの疾患は互いに独立した危険因子ではあるが、これらの重複により動脈硬化性疾患の、より高頻度の発症や重症化を引き起こすことが明らかにされてきた。そこで、複数の動脈硬化性疾患の危険因子を合併する病態をメタボリックシンドロームという概念でとらえ、その原因の解明と治療法の開発を目指した努力がなされている。
【0003】
アンジオテンシンII(AII)は、レニン−アンジオテンシン系(RA系)により産生される内因性の昇圧物質として発見されたペプチドである。薬理学的なAIIの作用抑制は、高血圧等の循環器系疾患の治療又は予防につながると考えられ、RA系の抑制薬として、アンジオテンシンI(AI)からAIIへの変換酵素を阻害するアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme(ACE))阻害薬が臨床的に用いられている。また、その後経口投与可能なAII受容体拮抗剤(Angiotensin Receptor Blocker:ARB)が開発され、既にロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン等が降圧剤として臨床的に用いられている。更に、ARBは単に降圧作用のみならず、抗炎症作用、内皮機能改善作用、心血管リモデリング抑制作用、酸化ストレス抑制作用、増殖因子抑制作用、インスリン抵抗性改善作用等の様々な作用により、心血管疾患、腎疾患、動脈硬化等にも有用であることが、臨床もしくは基礎試験において多数報告されている(非特許文献1、2)。特に近年では、降圧作用に依存しないARBの腎保護作用についても報告されている(非特許文献3)。
【0004】
一方、核内受容体スーパーファミリーに属するペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(Peroxisome Proliferator-Activated Receptors:PPARs)は、現在までにα、γ及びδの3種アイソフォームが同定されている。中でもPPARγは、脂肪組織中で最も大量に発現するアイソフォームであり、脂肪細胞の分化や糖脂質代謝に重要な役割を果たしている。現在、ピオグリタゾンやロシグリタゾン等のチアゾリジンジオン誘導体(TZD)がPPARγ活性化作用を有する糖尿病治療薬として臨床的に用いられており、インスリン抵抗性、耐糖能、脂質代謝の改善作用等を示すことが知られている。更に近年、TZDはPPARγの活性化により、降圧作用、抗炎症作用、内皮機能改善作用、増殖因子抑制作用、RA系との干渉作用等の多様な作用を示すことが報告されている。これら多面的な作用により、特に糖尿病性腎症においてTZDは血糖コントロールに依存しない腎保護作用を示すことが報告されている(非特許文献4、5、6、7、8)。しかしながら、その一方でTZDはPPARγ作動で誘発される体液貯留、体重増加、末梢浮腫、肺浮腫等の副作用が危惧されている(非特許文献9、10)。
【0005】
近年、テルミサルタンにPPARγ活性化作用があることが報告された(非特許文献11)。また、イルベサルタンについても同様の作用があることが報告されている(非特許文献12)。これらの化合物は、RA系抑制及びPPARγ活性化作用を併せ持つことにより、TZDで懸念される体液貯留、体重増加、末梢浮腫、肺浮腫又はうっ血性心不全のリスクを高めることなく循環器系疾患(高血圧症、心疾患、狭心症、脳血管障害、脳循環障害、虚血性末梢循環障害、腎疾患等)や糖尿病関連疾患(2型糖尿病、糖尿病性合併症、インスリン抵抗性症候群、メタボリックシンドローム、高インスリン血症等)の統合的な予防及び/又は治療剤として期待されている(特許文献1)。中でも糖尿病性腎症においては、RA系抑制及びPPARγ活性化作用による複合的な腎保護作用により、相乗的な予防及び/又は治療効果が期待できる。
このような作用を有する化合物として、ピリミジン及びトリアジン誘導体(特許文献1)の報告がある。この特許文献1には、下式(A):
【0006】
【化1】

【0007】
のような、ピリミジノン骨格を有する化合物が記載されている(特許文献1の実施例325参照)。しかしながら、特許文献1にはピリミジノン環の3位に2−ピリミジル基が直接結合した具体的な化合物の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/062905号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】AMER. J. Hypertension, 18, 720(2005)
【非特許文献2】Current Hypertension Report, 10, 261(2008)
【非特許文献3】Diabetes Care, 30, 1581(2007)
【非特許文献4】Kidney Int., 70, 1223(2006)
【非特許文献5】Circulation, 108, 2941(2003)
【非特許文献6】Best Pract. Res. Clin. Endocrinol. Metab., 21(4), 687 (2007)
【非特許文献7】Diab. Vasc. Dis. Res., 1(2), 76(2004)
【非特許文献8】Diab. Vasc. Dis. Res., 2(2), 61(2005)
【非特許文献9】J. Clin. Invest., 116(3), 581(2006)
【非特許文献10】FABES J., 20(8), 1203(2006)
【非特許文献11】Hypertension, 43, 993(2004)
【非特許文献12】Circulation, 109, 2054(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、循環器系の疾患である高血圧症及び代謝性疾患である糖尿病等の予防及び/又は治療に供する医薬として有用な新規化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を続けた結果、下記一般式(I)で表される3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体が、優れたAII拮抗作用とPPARγ活性化作用とを併せ持ち、特にAII受容体拮抗作用に優れた化合物であることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に示す発明に関する。
[1]次の一般式(I):
【0013】
【化2】

[式中、Rは、C2−8アルキル基又はC3−8シクロアルキル基を示す]
で表される3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
[2]RにおけるC2−8アルキル基又はC3−8シクロアルキル基が、イソプロピル基又はシクロプロピル基である前記[1]に記載の化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
[3]前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物。
[4]前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、アンジオテンシンII受容体拮抗作用及びPPARγ活性化作用を併せ持つ医薬組成物。
[5]前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする循環器系疾患の予防及び/又は治療剤。
[6]循環器系疾患が、高血圧症、心疾患、狭心症、脳血管障害、脳循環障害、虚血性末梢循環障害、腎疾患又は動脈硬化症である前記[5]に記載の予防及び/又は治療剤。
[7]前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする代謝性疾患の予防及び/又は治療剤。
[8]代謝性疾患が、2型糖尿病、糖尿病性合併症(糖尿病網膜症、糖尿病性神経障害又は糖尿病性腎症)、インスリン抵抗性症候群、メタボリックシンドローム又は高インスリン血症である前記[7]に記載の予防及び/又は治療剤。
[9]治療を必要としている患者に、前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を投与することを特徴とする循環器系疾患の予防及び/又は治療方法。
[10]治療を必要としている患者に、前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を投与することを特徴とする代謝性疾患の予防及び/又は治療方法。
[11]循環器系疾患の予防及び/又は治療のための製剤を製造するための、前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の使用。
[12]代謝性疾患の予防及び/又は治療のための製剤を製造するための、前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の使用。
[13]アンジオテンシンII受容体拮抗作用及びPPARγ活性化作用の両方の作用を併せ持つ医薬に使用するための前記[1]又は[2]に記載の3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一般式(I)で表される3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、アンジオテンシンII受容体に対し強い拮抗作用を示し、アンジオテンシンIIの関与する疾患、例えば、高血圧症、心疾患、狭心症、脳血管障害、脳循環障害、虚血性末梢循環障害、腎疾患、動脈硬化症等の循環器系疾患の予防及び/又は治療剤の有効成分として好適に使用できる。
【0015】
また、本発明の一般式(I)で表される3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、PPARγ活性化作用を示し、PPARγの関与する疾患、例えば、動脈硬化症、2型糖尿病、糖尿病性合併症(糖尿病網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症)、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、メタボリックシンドローム、高インスリン血症等の代謝性疾患の予防及び/又は治療剤の有効成分として好適に使用できる。
【0016】
さらに、本発明の一般式(I)で表される3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、アンジオテンシンII受容体拮抗作用とPPARγ活性化作用とを併せ持ち、アンジオテンシンIIとPPARγの両方が関与する疾患、例えば、動脈硬化症、糖尿病性腎症、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、メタボリックシンドロームの疾患の予防及び/又は治療剤の有効成分として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般式(I)中、RにおけるC2−8アルキル基としては、炭素数2−8、好ましくは炭素数3−5の直鎖状又は分岐状、好ましくは分岐状のアルキル基が挙げられ、例えば、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられるが、イソプロピル基が好ましい。
【0018】
一般式(I)中、RにおけるC3−8シクロアルキル基としては、炭素数3−8の単環式、縮合環式、又は架橋環式のシクロアルキル基が挙げられ、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が挙げられるが、シクロプロピル基が好ましい。
【0019】
一般式(I)で表される化合物の塩としては、薬学上許容される塩であれば特に制限されない。化合物を酸性化合物として扱う場合は、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属塩との塩等が挙げられる。化合物を塩基性化合物として扱う場合には、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩のような鉱酸の酸付加塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等の有機酸の酸付加塩等が挙げられる。
【0020】
一般式(I)で表される化合物、又はその塩の溶媒和物としては、例えば、水和物等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
なお、生体内において代謝されて一般式(I)で表される化合物に変換される化合物、いわゆるプロドラッグもすべて本発明に包含される。本発明化合物のプロドラッグを形成する基としては、「プログレス・イン・メディシン(Progress in Medicine)」、ライフサイエンス・メディカ社、1985年、5巻、2157−2161ページに記載されている基や、廣川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻 分子設計163−198ページに記載されている基が挙げられる。
【0022】
上記一般式(I)で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は本明細書実施例の方法又は種々の公知の方法で製造することができる。例えば、2−アミノ−5−エチルピリミジン誘導体を用いて環化させて3−(5−エチルピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン構造を有する誘導体を製造することができる。さらに、各工程を行う際において、反応部位以外の官能基については必要に応じてあらかじめ保護しておき、適当な段階においてこれを脱保護してもよい。また、各工程において、反応は通常行われる方法で行えばよく、単離精製は結晶化、再結晶化、クロマトグラフィー等の慣用される方法を適宜選択し、又は組み合わせて行えばよい。
【0023】
本発明の化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする医薬の投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は静脈内注射剤、筋肉注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、この有効成分を単独で、又は他の製薬上許容される担体、すなわち、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、矯味剤、香料、被膜剤、希釈剤等を適宜組み合わせて医薬組成物として調製できる。
【0024】
本発明の医薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、通常成人の場合、一般式(I)で表わされる化合物として、1日0.1〜1000mg、特に1〜300mgを、一回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与することができる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例中で用いられている略号は下記の意味を示す。
s:シングレット(singlet)
d:ダブレット(doublet)
t:トリプレット(triplet)
q:クアルテット(quartet)
m:マルチプレット(multiplet)
br:ブロード(broad)
J:カップリング定数(coupling constant)
Hz:ヘルツ(Hertz)
CDCl:重クロロホルム
H-NMR:プロトン核磁気共鳴
【0026】
実施例1:3−{4'−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−イル}−1,2,4−オキサジアゾール−5(4H)−オン(化合物a)の製造:
【0027】
【化3】

【0028】
工程1:(Z)−2−[(2’−シアノビフェニル−4−イル)メチル]−3−(シクロプロパンカルボキサミド)−2−ヘプテン酸メチルの製造
【0029】
【化4】

【0030】
2−[(2’−シアノビフェニル−4−イル)メチル]−3−オキソヘプタン酸メチル(1.05g,3.0mmol)及び酢酸アンモニウム(1.39g,18.0mmol)のトルエン(18mL)及び酢酸(2mL)混合溶液を、1時間加熱還流した。溶媒を留去後の残渣に、水及び2mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出した。溶媒を留去後の残渣の1,2−ジクロロエタン(10mL)溶液にシクロプロパンカルボニルクロリド(941mg,9.0mmol)及びトリエチルアミン(911mg,9.0mmol)を加えて、50℃で16時間攪拌した。反応液に水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を併せ、飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/アセトン=5:1)に付し、(Z)−2−[(2’−シアノビフェニル−4−イル)メチル]−3−(シクロプロパンカルボキサミド)−2−ヘプテン酸メチル(982mg,79%)を黄色油状物として得た。
【0031】
H−NMR(CDCl)δ:
0.89 (3H, t, J = 7 Hz), 1.25 (6H, d, J = 7 Hz), 1.32-1.54 (4H, m), 2.50-2.62 (1H, m), 2.88-2.96 (2H, m), 3.71 (3H, s), 3.76 (2H, s), 7.24-7.29 (2H, m), 7.40-7.52 (4H, m), 7.60-7.67 (1H, m), 7.73-7.79 (1H, m), 11.90 (1H, s).
【0032】
工程2:4'−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−カルボニトリルの製造
【0033】
【化5】

【0034】
アルゴン雰囲気下、2−アミノ−5−エトキシピリミジン(139mg,1.0mmol)の1,2−ジクロロエタン(3mL)溶液に室温でトリメチルアルミニウム(2mol/Lヘキサン溶液、0.5mL,1.0mmol)を加え、同温度で1時間攪拌した。(Z)−2−[(2’−シアノビフェニル−4−イル)メチル]−3−(シクロプロパンカルボキサミド)−2−ヘプテン酸メチル(209mg,0.5mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(2mL)を室温で滴下し、終夜加熱還流した。反応液に塩化アンモニウム水溶液及びクロロホルムを加え、セライトろ過した。ろ液の有機層を分離し、水層をクロロホルムで抽出した。有機層を合せ、水及び飽和食塩水で洗浄後無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1:1)に付し4'−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−カルボニトリル(113mg,45%)を黄色油状物として得た。
【0035】
H−NMR(CDCl)δ:0.79-0.86 (2H, m), 0.90 (3H, t, J=8 Hz), 1.08-1.16 (1H, m), 1.19-1.25 (2H, m), 1.29-1.40 (2H, m), 1.50 (3H, t, J=7 Hz), 1.52-1.62 (2H, m), 2.55-2.63 (2H, m), 3.95 (2H, s), 4.21 (2H, q, J=7 Hz), 7.36-7.48 (6H, m), 7.56-7.63 (1H, m), 7.71-7.76 (1H, m), 8.54 (2H, s).
【0036】
工程3:4’−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}−N’−ヒドロキシビフェニル−2−カルボキシイミダミドの製造
【0037】
【化6】

【0038】
ヒドロキシルアミン塩酸塩(421mg,6.1mmol)のジメチルスルホキシド溶液(3mL)に炭酸水素ナトリウム(611mg,7.3mmol)を加え、40℃で1時間攪拌した。反応溶液に4'−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−カルボニトリル(123mg,0.24mmol)のジメチルスルホキシド溶液(2mL)を加え90℃で終夜時間攪拌した。反応液に水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を合せ、水及び飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥、減圧濃縮し4’−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}−N’−ヒドロキシビフェニル−2−カルボキシイミダミド(136mg,quant)を黄色油状物として得た。得られた生成物は、さらに精製することなく次の工程で使用した。
【0039】
工程4:3−{4'−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−イル}−1,2,4−オキサジアゾール−5(4H)−オンの製造
【0040】
【化7】

【0041】
前記工程3で製造された4’−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}−N’−ヒドロキシビフェニル−2−カルボキシイミダミドのジクロロメタン溶液(1.5mL)に1,1’−カルボニルジイミダゾール(98mg,0.6mmol)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(91mg,0.6mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、水及び飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)にて精製し、3−{4'−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−イル}−1,2,4−オキサジアゾール−5(4H)−オン(51mg,40%,2段階収率)を淡黄色アモルファスとして得た。
【0042】
H−NMR(CDCl)δ:
0.79-0.86 (2H, m), 0.92 (3H, t, J=8 Hz), 1.05-1.14 (1H, m), 1.18-1.26 (2H, m), 1.31-1.41 (2H, m), 1.49 (3H, t, J=7 Hz), 1.54-1.65 (2H, m), 2.56-2.65 (2H, m), 3.86 (2H, s), 4.20 (2H, q, J=7 Hz), 7.16 (2H, d, J = 8 Hz), 7.24 (2H, d, J = 8 Hz), 7.34-7.46 (2H, m), 7.50-7.59 (1H, m), 7.74 (1H, d, J = 8 Hz), 8.49 (2H, s).
【0043】
実施例2:3−{4'−{[6−ブチル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)−2−イソプロピルピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−イル}−1,2,4−オキサジアゾール−5(4H)−オン(化合物b)の製造:
【0044】
【化8】

【0045】
工程1:(Z)−2−[(2'−シアノビフェニル−4−イル)メチル]−3−イソブチラミド−2−ヘプテン酸メチルの製造
【0046】
【化9】

【0047】
シクロプロパンカルボニルクロリドの代わりにイソブチリルクロリドを用いて実施例1の工程1と同様に反応・処理し、表題化合物を得た。
【0048】
H−NMR(CDCl)δ:
0.89 (3H, t, J = 7 Hz), 1.25 (6H, d, J = 7 Hz), 1.32-1.54 (4H, m), 2.50-2.62 (1H, m), 2.88-2.96 (2H, m), 3.71 (3H, s), 3.76 (2H, s), 7.24-7.29 (2H, m), 7.40-7.52 (4H, m), 7.60-7.67 (1H, m), 7.73-7.79 (1H, m), 11.90 (1H, s).
【0049】
工程2:4'−{[6−ブチル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)−2−イソプロピルピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−カルボニトリルの製造
【0050】
【化10】

【0051】
(Z)−2−[(2’−シアノビフェニル−4−イル)メチル]−3−(シクロプロパンカルボキサミド)−2−ヘプテン酸メチルの代わりに(Z)−2−[(2’−シアノビフェニル−4−イル)メチル]−3−イソブチラミド−2−ヘプテン酸メチルを用いて、実施例1の工程2と同様に反応・処理し、表題化合物を得た。
【0052】
H−NMR(CDCl)δ:
0.93 (3H, t, J = 7 Hz), 1.20 (6H, d, J = 7 Hz), 1.34-1.44 (2H, m), 1.50 (3H, t, J = 7 Hz), 1.60-1.69 (2H, m), 2.23-2.35 (1H, m), 2.64-2.72 (2H, m), 3.97 (2H, s), 4.21 (2H, q, J = 7 Hz), 7.37-7.50 (6H, m), 7.56-7.64 (1H, m), 7.70-7.76 (1H, m), 8.51 (2H, s).
【0053】
工程3:4’−{[6−ブチル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)−2−イソプロピルピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}−N’−ヒドロキシビフェニル−2−カルボキシイミダミドの製造
【0054】
【化11】

【0055】
4'−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−カルボニトリルの代わりに4'−{[6−ブチル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)−2−イソプロピルピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−カルボニトリルを用いて、実施例1の工程3と同様に反応・処理し、表題化合物を得た。
【0056】
工程4:3−{4'−{[6−ブチル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)−2−イソプロピルピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}ビフェニル−2−イル}−1,2,4−オキサジアゾール−5(4H)−オンの製造
【0057】
【化12】

【0058】
4’−{[6−ブチル−2−シクロプロピル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}−N’−ヒドロキシビフェニル−2−カルボキシイミダミドの代わりに4’−{[6−ブチル−3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)−2−イソプロピルピリミジン−4(3H)−オン−5−イル]メチル}−N’−ヒドロキシビフェニル−2−カルボキシイミダミドを用いて、実施例1の工程4と同様に反応・処理し、表題化合物を得た。
【0059】
H−NMR(CDCl)δ:
0.94 (3H, t, J = 7 Hz), 1.18 (6H, d, J = 7 Hz), 1.35-1.44 (2H, m), 1.49 (3H, t, J = 7 Hz), 1.62-1.72 (2H, m), 2.21-2.32 (1H, m), 2.65-2.74 (2H, m), 3.87 (2H, s), 4.19 (2H, q, J = 7 Hz), 7.16 (2H, d, J = 8 Hz), 7.26 (2H, d, J = 8 Hz), 7.34-7.44 (2H, m), 7.50-7.59 (1H, m), 7.73 (1H, d, J = 7 Hz), 8.45 (2H, s).
【0060】
試験例1:ウサギ摘出血管におけるアンジオテンシンII拮抗作用
化合物a又はbのアンジオテンシンIIタイプ1受容体に対する拮抗作用を、ウサギ摘出血管標本を用いてアンジオテンシンIIによる血管収縮反応に対する用量−反応曲線により算出した。すなわち、ウサギ(New Zealand White:雄性、2.4〜3.0kg)の胸部大動脈リング標本をKrebs-Henseleite液(組成:118mM NaCl,4.7mM KCl,2.55mM CaCl,1.18mM MgSO,1.18mM KHPO,24.88mM NaHCO,11.1mM D-glucose)で充填したマグヌス槽に懸垂し、化合物a又はb(0.01〜10μmol/L)存在下のアンジオテンシンII(10nM)収縮反応を得た。測定中はマグヌス槽内を37℃に保温し、十分な混合ガス(95% O,5% CO)で連続的に通気した。アンジオテンシンII収縮反応は、化合物a又はb非存在下のアンジオテンシンII(10nM)収縮に対する相対値(%)に換算し、得られた濃度−反応曲線より統計解析プログラム、SAS前臨床パッケージVer5.0(SAS institute Japan Co.,東京)を用いて50%阻害濃度(IC50値)を算出した。
【0061】
以上の試験を行った結果、化合物a又はbのIC50値はそれぞれ0.018μM、0.0017μMであり、本発明化合物に強力なアンジオテンシンII拮抗作用を有することが確認された。なお、本明細書の試験系で化合物a又はbに代えて化合物A(特許文献1の実施例325の化合物)及び化合物B(特許文献1の実施例47の化合物)を同一条件で測定したところ、化合物A及びBのIC50値はそれぞれ0.37μM、0.022μMであった。
【0062】
試験例2:PPARγ活性化作用
化合物a又はbのPPARγに対するアゴニスト活性は、アフリカミドリザルの腎由来細胞株であるCOS7細胞(DSファーマバイオメディカル、大阪)を用いたトランスフェクションアッセイ法により測定した。COS7細胞の培養は5%のCO濃度で行い、培養液には10%のウシ胎児血清、グルタミン酸及び抗生物質を含有するDMEM培地を用いた。
発現ベクターとしては、酵母の転写因子であるGal4のDNA結合領域と、ヒトPPARγ2のリガンド結合領域を融合したキメラ体、すなわち、Gal4転写因子の1から147番目のアミノ酸及びヒトPPARγ2の182から505番目のアミノ酸を融合したものを用いた。また、レポーターベクターとして、プロモーター領域に5個のGal4認識配列が含まれているホタルルシフェラーゼを用いた。細胞へのプラスミドのトランスフェクションはjetPEI(フナコシ、東京)を用いた方法により行った。更にβ−ガラクトシダーゼの発現ベクターを内部標準として用いた。
細胞へのトランスフェクションの後、化合物を添加したDMEM培地(1%血清含有)に交換し、更に16時間の培養を行った。その後、細胞溶解液中のルシフェラーゼ活性及びβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。
なお、本実験では化合物a又はbの溶解・希釈にはジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、細胞への処理の際はDMEM培地(1%血清含有)中のDMSO濃度が0.1%になるように調整した。陽性化合物としてロシグリタゾン(ALEXIS Corporation、Switzerland)を用い、ロシグリタゾン(3−10μmol/L)のルシフェラーゼ活性を100%、化合物a又はb非添加時のルシフェラーゼ活性を0%とした時の化合物a又はb(1−30μmol/L)のルシフェラーゼ活性から百分率(%)を算出した。本発明化合物の50%効果濃度(EC50、50% effect concentration)は統計解析プログラム、SAS前臨床パッケージVer5.0(SAS institute Japan Co., 東京)を用いて算出した。
【0063】
以上の試験を行った結果、化合物a又はbのEC50値はそれぞれ0.48μM、0.30μMであり、ロシグリタゾンのルシフェラーゼ活性を100%、化合物a又はb非添加時のルシフェラーゼ活性を0%とした時の化合物a又はbのルシフェラーゼ活性から算出した百分率は、それぞれ73%、76%であった。よって、本発明化合物は強力なPPARγ活性化作用を有することが確認された。なお、本明細書の試験系で化合物a又はbに代えて化合物A(特許文献1の実施例325の化合物)を同一条件で測定したところ、化合物AのEC50値は0.67μM、ルシフェラーゼ活性から算出した百分率は、52%であった。
この結果、本発明の化合物も十分なPPARγ活性化作用を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の化合物Iは、例えば、高血圧症、心疾患、狭心症、脳血管障害、脳循環障害、虚血性末梢循環障害、腎疾患、動脈硬化症、炎症性疾患、2型糖尿病、糖尿病性合併症、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、メタボリックシンドローム、高インスリン血症、等の疾患の予防及び/又は治療剤の有効成分として利用することが可能であり、産業上利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I):
【化13】

[式中、Rは、C2−8アルキル基又はC3−8シクロアルキル基を示す]
で表される3−(5−エトキシピリミジン−2−イル)ピリミジン−4(3H)−オン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
請求項1に記載の一般式(I)におけるRが、シクロプロピル基又はイソプロピル基である請求項1に記載の化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、アンジオテンシンII受容体拮抗作用及びPPARγ活性化作用を併せ持つ医薬組成物。

【公開番号】特開2012−41309(P2012−41309A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185007(P2010−185007)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】